令和3(う)527 過失運転致死、道路交通法違反

裁判年月日・裁判所
令和4年12月14日 東京高等裁判所 棄却 東京地方裁判所 平成31特(わ)625
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判決文本文26,711 文字)

- 1 - 令和4年12月14日宣告 東京高等裁判所第3刑事部判決令和3年第527号 過失運転致死、道路交通法違反被告事件主 文本件控訴を棄却する。 理 由5本件控訴の趣意は、弁護人小林正樹(主任)、同松井巖、同白井真及び同石塚幸子連名作成(ただし、控訴趣意書(補充2)については弁護人石塚幸子を除く。)の控訴趣意書、控訴趣意書(補充)及び控訴趣意書(補充2)並びに被告人作成の控訴趣意書、控訴趣意書補正申立書、控訴趣意補充書及び控訴趣意再補充書各記載のとおり、事実誤認及び訴訟手続の法10令違反の主張であり、これに対する答弁は、検察官藤川浩司作成の答弁書及び答弁書(補充)各記載のとおりである。 論旨に鑑み、事実誤認の主張から検討する。 第1 事実誤認の主張について1 原判決の概要15原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は次のとおりである。 被告人は、平成30年2月18日午前7時18分頃、普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を運転し、東京都渋谷区ab丁目c番先道路をab丁目方面からd駅方面に向かい進行してきて同所先道路の左側端部(以下「本件停車位置」という。)にオートマチック車である本件車両20を駐車して同車を離れようとするに当たり、エンジンを止めてパーキングブレーキをかけた上、ギアのセレクトレバーをパーキングに設定して、確実に自車の停止状態を保持すべきはもとより、誤って自車を発進させた場合にはアクセル・ブレーキを的確に操作して速やかに停止措置を講ずべき自動車運転上かつ業務上の注意義務があるのにこれを怠り、パーキングブ25レーキをかけたものの、エンジンを止めず、セレクトレバーをドライブに- 2 - 設定した状態のまま降車しようとした際、誤って左足でアクセルペ の注意義務があるのにこれを怠り、パーキングブ25レーキをかけたものの、エンジンを止めず、セレクトレバーをドライブに- 2 - 設定した状態のまま降車しようとした際、誤って左足でアクセルペダルを踏み込んで本件車両を発進させ、その後も誤って左足でアクセルペダルを踏み続けた過失により、本件車両を急発進させて同所から約320m前方の東京都港区内のAほか1名所有の店舗兼居宅(以下「本件建物」という。)先道路まで時速100kmを上回る高速度で暴走させ、同日午前7時519分頃、同所において、本件車両を進路右方である本件建物前の歩道へ突入させて、同歩道上に立っていたB(当時37歳)に本件車両前部を衝突させた上、本件建物に本件車両を突入させ、よって、同人に頸髄損傷等の傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を同傷害により死亡させるとともに、本件建物の支柱及びシャッター等を損壊(損害額合計398210万9725円相当)した。 ⑵ 原審においては、本件車両が発進・加速した原因が、被告人が左足で誤ってアクセルペダルを踏んだことか、本件車両の不具合かが争点とされ、被告人は、本件時にアクセルペダルを踏んではいない旨陳述し、原審弁護人は、被告人は本件時に左足でアクセルペダルを踏み込んではおらず、15本件事故は、本件車両が、①パーキングブレーキに関するブレーキ制御コンピュータ等の何らかの不具合によりパーキングブレーキが解除され又はその制動力が弱まったことから、いわゆるクリープ現象等により発進を開始し、その後、②エンジン制御用コンピュータにおける制御プログラム等の何らかの不具合により加速・暴走したために起こったものであるなどと20して、被告人には過失がなく無罪であると主張した。 ⑶ 原判決は、上記争点について、要旨以下のとおり説示して上 プログラム等の何らかの不具合により加速・暴走したために起こったものであるなどと20して、被告人には過失がなく無罪であると主張した。 ⑶ 原判決は、上記争点について、要旨以下のとおり説示して上記の罪となるべき事実を認定し、過失運転致死、道路交通法違反の罪の成立を認め、被告人を禁錮3年(5年間執行猶予)に処した。 ア 前提事実等25(ア)本件事故前の状況及び本件事故の状況等について- 3 - 被告人は、平成30年2月18日午前7時11分頃、共にゴルフ場に行く知人を待つため、本件停車位置にフットブレーキを踏んで本件車両を停車させた。被告人は、停車中もエンジンを停止させず、セレクトレバーをドライブに設定したままにしていたが、本件車両は、ブレーキホールド機能(一定条件下でブレーキペダルの踏み込みを止めてもブレーキがかかっ5た状態を維持する機能)によって停車状態が保たれ、その後、被告人の操作又はパーキングブレーキが自動的にかかる機能により、パーキングブレーキがかかった状態となった。被告人は、運転席シートを通常の運転時よりも後ろの位置に移動させ、ペダル類から足を離して知人を待った。 同日午前7時18分頃、被告人は、知人が近づいてきたことから荷物の10積み込みのためスイッチでトランクを開けた後、降車しようと考え、エンジンを停止させず、セレクトレバーをドライブに設定したままで、シートベルトを外して運転席ドアを開けた。この際、同ドアポケットに入っていた被告人のセカンドバッグが路上に落ちたため、被告人は運転席シートに座ったまま右手を伸ばして拾おうとしたが、右手が届かなかった。 15その直後である午前7時18分47秒頃、本件車両は前方に発進し、速度を上げながら片側一車線の直線道路に沿って約320m進行した後、急に右前方 を伸ばして拾おうとしたが、右手が届かなかった。 15その直後である午前7時18分47秒頃、本件車両は前方に発進し、速度を上げながら片側一車線の直線道路に沿って約320m進行した後、急に右前方に進路を変え(以下、この進路変更を「本件急転把」という。)、歩道上で電柱及び原判示Bに順次衝突した後、午前7時19分4秒頃、道路右側の本件建物に突入した。 20(イ)本件車両について本件車両は、C株式会社製のハイブリッド車であるレクサスLS500hであり、被告人は、平成29年11月27日(本件の3か月弱前)に本件車両を新車で購入した。本件車両については、平成30年1月6日の1か月点検の際に被告人がカップホルダーのしまりが悪いと訴えた点を除き、25本件事故前に故障や不具合が生じたことはなかった。 - 4 - 本件事故後の平成30年3月14日、警察官らは、被告人及び主任弁護人の立会いの下、本件車両の機能検査及び本件車両の同型車を使用して本件事故時の本件車両の挙動等を再現する走行再現実験を行った。 イ 検討(ア)本件圧痕について(原判決7、9~12頁)5機能検査において、本件車両のアクセルペダル(合成樹脂製)の裏側には、アクセルペダルを最大に踏み込んだ時にアクセルアームのロッドと最も接近する位置に圧痕(以下「本件圧痕」という。)が認められたところ、交通事故の鑑識活動等に警察官として従事するD証人及びC社で技術系の業務を経た後事故対応等を担当するE証人は、本件圧痕は、アクセルペダ10ルを最大に踏み込んだ状態で、更に車両の前方から衝突などの大きな力がかからない限り形成されず、本件事故により生じたものと考えられる旨をそれぞれ証言している。上記各証言は互いに整合する上、本件車両の構造上、アクセルペダルを最大に踏み込んだと から衝突などの大きな力がかからない限り形成されず、本件事故により生じたものと考えられる旨をそれぞれ証言している。上記各証言は互いに整合する上、本件車両の構造上、アクセルペダルを最大に踏み込んだとしてもアクセルアームのロッドとの間に約2mmの間隔が空くようになっている一方で、本件圧痕の一部15は素材が削れて縁からはみ出すほど変形していること、事故後に警察官らが本件車両の同型車を用いて行ったアクセルペダル踏み込み実験では、男性警察官が最大111.2kg重でアクセルペダルを踏んだ際にも素材が削れるような圧痕は生じなかったことにも沿うものである。 弁護人は、D証人らの分析は被告人の左足にけががなかったことと整合20しないし、本件圧痕は別の機会に生じた可能性が考えられるなどと主張するが、D証人は、被告人の左足にけががなくても不自然でない旨、その捜査経験も踏まえて合理的で説得力のある説明をしているし、弁護人の主張を踏まえても、別の機会に本件圧痕が生じた現実的可能性は想定できない。 以上より、本件圧痕は、本件事故の際、アクセルペダルが100%踏み25込まれた状態で、本件車両の前方から強い衝撃があったことによって形成- 5 - されたと認められる。 (イ)EDRデータについて(原判決8、12~18頁)EDR(イベントデータレコーダー)とは、車両に一定の衝撃が加わる出来事があったことを「トリガー」として、その直前約5秒間の車両の各部分の挙動等に関するデータが0.5秒間隔で自動的に記録されるもので5ある。本件車両から抽出されたEDRデータ(以下「本件EDRデータ」という。)には、本件事故に関する7つのトリガーに関するデータが記録されており、D証人がドライブレコーダーの映像等と照らし合わせた結果、トリガー1が本件車両の縁石へ データ(以下「本件EDRデータ」という。)には、本件事故に関する7つのトリガーに関するデータが記録されており、D証人がドライブレコーダーの映像等と照らし合わせた結果、トリガー1が本件車両の縁石への乗り上げ、トリガー2が電柱への衝突(その際にエアバッグが展開)、トリガー3が本件建物外壁への衝突、ト10リガー4が本件建物本体への衝突、トリガー5ないし7が順次店舗内部のいずれかの物体への衝突を示すものと認められた。 トリガー4に係るアクセル開度をみると、衝突の約4.6秒前から0. 1秒前までの0.5秒間隔の記録の全てにおいて100%、衝突の瞬間において81.5%となっている。また、トリガー2に係るアクセル開度も、15衝突の瞬間及びその約5秒前から0.5秒間隔の記録の全てにおいて、100%であった。D証人は、これらのデータを他の証拠とも突き合わせて検討した上で、最も強い衝突である電柱への衝突の際、本件車両に前方からの力が加わり、この際アクセルペダルが100%踏み込まれていたこととあいまって本件圧痕が形成され、足が離れていく中で本件建物本体への20衝突の瞬間にアクセル開度81.5%が記録されたものと分析している。 EDRが、精妙な作動が求められるエアバッグが正確に制御されているか判断する目的で開発され、データの正確性の高さから交通事故解析の資料としても使われていること、システム上データの改変はできない仕様になっており、本件EDRデータの読み出し等の手順にも問題は見当たらな25いこと、D証人は本件EDRデータをドライブレコーダーの映像や速度表- 6 - 示と突き合わせて詳細な検討を加えており、その分析は自然な推論に基づく合理的なものであることなどからして、本件EDRデータの正確性に問題は認められず、これに基づくD証人の上 速度表- 6 - 示と突き合わせて詳細な検討を加えており、その分析は自然な推論に基づく合理的なものであることなどからして、本件EDRデータの正確性に問題は認められず、これに基づくD証人の上記分析に沿った事実が認められる。弁護人は本件EDRデータに矛盾があると種々の指摘をするが、いずれも本件EDRデータ全体の正確性を疑わせるものではない。 5なお、弁護人は、F医師の意見書によれば、本件急転把時、被告人は失神していたとみられるから、アクセル開度が100%であったとする本件EDRデータの正確性には疑問があると主張する。しかし、同意見書は、被告人が当時失神していたと考えて矛盾はないとしているものの、被告人が失神していなかった可能性を排斥するものではない上、本件EDRデー10タによれば、本件急転把の際のハンドル操作は相当速く、意識的な動作と考えられる旨のG証言に不合理な点はないこと、当時の被告人が相当狼狽していたと認められ、意識のある状態で急転把を行ったとしても不合理とはいえないことからすれば、上記弁護人の主張は採用できない。 本件EDRデータの分析結果等に本件圧痕に関する分析結果も考え合わ15せると、少なくとも電柱への衝突の約5秒前から本件建物への衝突直前まで、本件車両のアクセルペダルは100%踏み込まれていたと推認できる。 (ウ)パーキングブレーキについて(原判決8、18頁)本件車両の停車時に作動していたパーキングブレーキが発進後に解除等された可能性については、本件車両のパーキングブレーキの構造上、物理20的な要因によってパーキングブレーキが解除されたり制動力が弱まったりする可能性が低いこと、機能検査の際、同パーキングブレーキが正常にかかることが確認されている上、故障コードも検出されていないこと、機能検査の際 ってパーキングブレーキが解除されたり制動力が弱まったりする可能性が低いこと、機能検査の際、同パーキングブレーキが正常にかかることが確認されている上、故障コードも検出されていないこと、機能検査の際に確認された同パーキングブレーキに係るブレーキドラムの焼付けや同ブレーキシューの焼け焦げ、摩耗等は、本件車両がパーキングブレ25ーキがかかった状態で相応の距離を走行したことを示していることが指摘- 7 - できる。なお、本件車両の発進時に運転席のシートベルトが外され、運転席ドアも開いていたことから、本件車両のパーキングブレーキの自動解除機能が働いた余地もない。 以上によれば、本件車両のパーキングブレーキは、発進時はもちろん、走行中も継続してかかっていたと推認される。 5(エ)発進時の本件車両の挙動及び加速度について(原判決6、19、20頁)ドライブレコーダー及び防犯カメラの各映像によれば、本件車両が発進する直前に、本件車両前部が一瞬浮き上がるノーズアップ現象がみられる。 また、ドライブレコーダー上、本件車両が発進する直前に最大の0.2110Gの加速度が記録されており、自動車の通常の発進時の加速度が0.1Gから0.15Gといわれていることに照らすと、これは相応に強い加速度といえる。D証人及びG証人は、ノーズアップ現象は、急発進時に強い加速度がかかることによって生じるものであり、クリープ現象によって発進する場合には生じない、ノーズアップ現象は、急激な車体の動作を抑制す15る機構(AVS)の調整力を超えて推進力があったことを示している、発進前に最大の加速度が検出されている点についても、発進前に後方のサスペンションが沈み込んで力を吸収している間に最大の加速度が検出されたものと説明できる旨証言しており、これらの説明は、専門的 いる、発進前に最大の加速度が検出されている点についても、発進前に後方のサスペンションが沈み込んで力を吸収している間に最大の加速度が検出されたものと説明できる旨証言しており、これらの説明は、専門的知識に基づいた合理的なもので信用できる。 20上記のような発進時の本件車両の挙動や、本件車両に相応に強い加速度が加わっていたといえることは、本件車両の発進時にアクセルペダルが踏まれたことと整合的な事情といえる。 (オ)被告人の体勢等について(原判決20~23頁)弁護人は、本件当時の被告人の着座位置・体勢では被告人が左足でアク25セルペダルを踏み込むことは物理的に不可能であったと主張するが、防犯- 8 - カメラ画像の解析によれば、本件事故時の本件車両の運転席シートの位置は、可動域の最後端から前方に2cm移動させた位置(以下「本件シートポジション」という。)であり、被告人は、座席の中央に座り、右手でハンドル上側中央部を把持し、その背はほぼまっすぐに伸び、運転席シートの背もたれと被告人の背中は20cm程度離れていたことが認められる。 5また、別の防犯カメラ画像の解析結果及び本件車両の運転席ドアパネルの内側ほぼ中央下部に被告人の靴底の痕が残されていたことなどに照らすと、本件車両の走行中、被告人の右足の靴部分は運転席ドア枠付近にあり、靴底が運転席ドアパネルに付くような形で運転席ドアパネルとドア枠に挟まれていた時間帯もあったと認められ、このため、本件事故の際、被告人が10右足でアクセルペダルを踏んだ可能性はないと考えられる。 警察官及び弁護人はそれぞれ、本件車両の同型車を用い、本件シートポジションに設定された運転席に座った被告人が左足でアクセルペダルが踏み込めるか否か等を確認する実験を行っているところ、警察官実施の踏み込み 及び弁護人はそれぞれ、本件車両の同型車を用い、本件シートポジションに設定された運転席に座った被告人が左足でアクセルペダルが踏み込めるか否か等を確認する実験を行っているところ、警察官実施の踏み込み再現実験の際、被告人は、左足がアクセルペダルに触れない旨繰り返15し述べるなどしながらも、警察官から臀部や右足の位置を変えた上で左足を伸ばすよう促された際には、左足がアクセルペダルに触れ得ること自体は認める発言もしており、弁護人実施の踏み込み再現実験においても、①右足を車外に出した状態では、左足がアクセルペダル下部に触れ得ることが確認されるとともに、②右足が挟まれた状態では、被告人が左足がアク20セルペダルに届かないという発言をしている。 これらの事実を前提として検討すると、発進後の本件車両の挙動等や防犯カメラ映像の解析結果等に照らし、遅くとも発進直後の時点から継続して被告人が本件車両のハンドルを把持しており、それが可能な姿勢であったことは明らかである。加えて、警察官・弁護人の双方の実施した踏み込25み再現実験において、少なくとも被告人が本件シートポジションに設定さ- 9 - れた運転席シートに座って右足を車外に出した状態では左足がアクセルペダルに届き得ると確認されていることも考え合わせれば、被告人の右足が運転席ドアパネルとドア枠に挟まれた状態であっても、運転席シート上における臀部の位置等によっては、被告人の左足がアクセルペダルを踏み込むことは可能であったと推認される。 5(カ)本件車両の不具合の有無について(原判決7、8、24、25頁)機能検査において、本件車両の制動系、駆動系、電気系について、各種センサーを含めて事故前の異常の存在は認められず、抽出された故障コードも本件事故の影響と考えられるもののみであり、パー 4、25頁)機能検査において、本件車両の制動系、駆動系、電気系について、各種センサーを含めて事故前の異常の存在は認められず、抽出された故障コードも本件事故の影響と考えられるもののみであり、パーキングブレーキに関するものや車の暴走につながる可能性があるものは認められなかった。 10また、本件事故以前に本件車両について走行・停止等に影響するような不具合が生じたことはなく、機能検査時に行われた走行再現実験においても、予想外の時期にパーキングブレーキが解除されたり暴走したりするといった現象は起きていない。これら多数の場面において本件車両にパーキングブレーキやエンジンの制御に関係する不具合が生じていないことは、本件15事故時にそれらに関する不具合が存在した可能性を低減させる。 そもそも、本件車両自体、①アクセルペダル操作等に関する信号系統を独立した2系統とした上で、コンピュータが各信号の相対性を監視し、異常を感知した場合はエンジンへの吸気が止まるようになっており、②不具合をコンピュータが感知した場合は故障コードが記録され、③エンジン制20御コンピュータ及びその監視コンピュータが互いの動作を監視する機構を備え、④アクセル、フットブレーキ及びパーキングブレーキの各機構系統がそれぞれ独立するように設計されており、⑤ガソリンエンジンの原理からも、吸気を増やせばエンジンの回転数が上がるというものではないことなどの事情等に照らし、本件車両の構造上、その一部に不具合が生じたと25しても不具合の連鎖が生じて暴走状態に陥る可能性を低減させる工夫が施- 10 - されているといえ、本件事故時の発進・走行の原因となる不具合が本件車両に存在した現実的な可能性は考え難い。 (キ)本件車両の発進・走行の原因についての結論(原判決25頁)以上 - 10 - されているといえ、本件事故時の発進・走行の原因となる不具合が本件車両に存在した現実的な可能性は考え難い。 (キ)本件車両の発進・走行の原因についての結論(原判決25頁)以上の事実を踏まえ、本件時に本件車両が発進したのは被告人が左足でアクセルペダルを踏み込んだためであり、その後走行を続けたのも被告人5が左足でアクセルペダルを踏み続けたためであると分析したD証人の判断過程は合理的なものであり、G証人及びE証人の各分析とも整合しているから、信用できる。本件車両の発進・走行の原因はいずれも被告人が左足でアクセルペダルを踏んだことにあると推認できる。 (ク)弁護人の主張の検討(原判決26頁以下)10弁護人は、①発進直後の本件車両の速度の上昇が緩やかであったことから、被告人が左足でアクセルペダルを踏んだことによる発進とは認められない、②本件車両の発進時のドライブレコーダー上の音声から、ドラムブレーキ擦過音(パーキングブレーキをかけたまま走行した際に発生する金属音)が確認できないことは、本件車両の発進時にパーキングブレーキが15解除されていたことをうかがわせる、③C社の別の車種の車についてのリコールの存在によれば、ブレーキ制御コンピュータやエンジン制御コンピュータに不具合があった、などとも主張する。 しかし、①については、D証人及びG証人が一致して証言するように、アクセルペダルの踏み込みが常時100%だったのではなく、強まったり20弱まったりしていたとすれば、速度上昇の緩やかな時間帯があったとしても不自然ではない。②については、D証人が、ドラムブレーキ擦過音の発生の有無は諸条件によっても異なる上、ドライブレコーダーの集音マイクの位置などから同擦過音が発生したとしても必ず記録できるとも限らないと合理的な い。②については、D証人が、ドラムブレーキ擦過音の発生の有無は諸条件によっても異なる上、ドライブレコーダーの集音マイクの位置などから同擦過音が発生したとしても必ず記録できるとも限らないと合理的な説明をしている。③の各リコール事例はいずれも、本件車両に25設置されたものとは別種のコンピュータに係るものである上、暴走につな- 11 - がるものではないことなどから、本件車両のブレーキ制御コンピュータ及びエンジン制御コンピュータに不具合が存在した現実的可能性はない。 なお、被告人は、捜査及び公判において、本件時に左足でアクセルペダルを踏んだことはない旨供述しているが、被告人が当時相当狼狽していたであろうことなどを踏まえると、この被告人の供述は信用できない。 5弁護人の主張全体をみても、前記のように暴走状態に陥り難いような構造上の工夫が施され、従前走行・停止等に関する不具合がみられなかった本件車両について、複数の不具合が本件事故時に併発したという点で不自然さがある上、個々の不具合に関してもそれが存在した合理的疑いはないから、弁護人の各主張は前記推認の結論を左右するものではない。 102 当裁判所の判断原判決の上記判断に、論理則、経験則等に照らして不合理なところはなく、本件車両の発進・加速の原因は、被告人が誤って左足でアクセルペダルを踏んだことにあるとした原判決に事実誤認はない。 すなわち、本件車両のアクセルペダル裏面に残された本件圧痕は、アク15セルペダルが踏み込まれた状態で本件車両の前方から大きな力が働いたことを示すものといえ、本件EDRデータには、本件車両の電柱への衝突時前後のアクセル開度が100%であったと記録されていることなども考慮すると、原判決が説示するとおり、電柱への衝突の前後において、本件車両のア のといえ、本件EDRデータには、本件車両の電柱への衝突時前後のアクセル開度が100%であったと記録されていることなども考慮すると、原判決が説示するとおり、電柱への衝突の前後において、本件車両のアクセルペダルは100%踏み込まれていたものと推認される。加え20て、機能検査時の本件車両のパーキングブレーキに係るブレーキシューの焼け焦げ、摩耗やブレーキドラムの損傷状況等からすれば、本件時の本件車両は、パーキングブレーキがかかった状態でアクセルペダルを踏まれて相応の距離を走行したものと推認できる。さらに、本件車両の発進直前の時点において、車両前部が浮き上がるノーズアップ現象が確認され、かつ、250.21Gと相応に強い加速度がドライブレコーダーに記録されているこ- 12 - となどは、本件車両の発進の原因が、パーキングブレーキが作動した状態でアクセルペダルが踏み込まれたことにあると推認させる。以上によれば、本件車両のアクセルペダルは、約320mの間の本件走行中においても、発進時においても、継続して踏まれていたものと強く推認される。なお、原審弁護人は、本件車両の発進・走行の原因はその不具合にあるなどと主5張するが、不具合の具体的な内容は示されていない上、ブレーキ制御系統とエンジン制御系統など、独立した複数の系統において不具合が併発しない限り本件車両の本件時の挙動を合理的に説明できないことなどからして、発進・走行の原因が本件車両の不具合であったとは考え難い。 そして、被告人の供述等を踏まえても、本件時に被告人が左足で本件車10両のアクセルペダルを踏み込むことは可能であったと認められるから、本件車両の発進・加速の原因は、被告人が左足でアクセルペダルを誤って踏み込み、その後も踏み続けたことにあるとした原判決の判断に不合理な点 アクセルペダルを踏み込むことは可能であったと認められるから、本件車両の発進・加速の原因は、被告人が左足でアクセルペダルを誤って踏み込み、その後も踏み続けたことにあるとした原判決の判断に不合理な点はなく、事実の誤認はない。 以下、弁護人及び被告人の各所論を踏まえて補足して説明する。 15⑴ 弁護人の所論についてア 本件圧痕に関する所論(弁護人控訴趣意書9~11頁)所論は、原判決が認定するように、本件圧痕が衝突による前方からの強い衝撃による力と被告人がアクセルペダルを左足で踏み込む力とが合成された結果として生じたのであれば、自動車前部が変形するような強い衝撃20の力と同じ力が被告人の左足にもかかったことになるから、被告人が本件事故により左足に傷害を負っていないことと整合しないと主張する。 しかし、原判決(11頁)は、衝突による衝撃は非常に短時間であり、人間の足は体重の何倍もの荷重があっても必ずけがをするわけではない旨のD証言に依拠して原審弁護人の同旨の主張を排斥しており、その説示に25不合理な点はない。所論は、医学的知見を有しないD証人の説明に説得力- 13 - はないとも主張するが、同証人は、片足でジャンプして着地したときには体重の何倍もの重量が一瞬で加わるが、そうしたときに皆が毎回けがをするわけではないとの例示や、アクセルペダルの裏側に圧痕が生じていた事故において、アクセルペダルを踏んでいた運転手の足にけがはなかったとの自らが捜査に関与した実例の紹介もしながら証言しており、同証人の説5明内容が不合理であるとか説得力がないなどとはいえない。本件圧痕の原因に関する原判決の認定が被告人の左足にけががなかったことと整合しないとはいえず、所論は採用できない。 イ EDRデータに関する所論(弁護人控訴趣意書11~ 得力がないなどとはいえない。本件圧痕の原因に関する原判決の認定が被告人の左足にけががなかったことと整合しないとはいえず、所論は採用できない。 イ EDRデータに関する所論(弁護人控訴趣意書11~18頁)所論は、本件EDRデータには、アクセル開度100%というデータと10は矛盾する他のデータが記録されているとして、本件EDRデータの正確性を認めた原判決は誤っていると主張し、具体的には、①トリガー7に関するデータでは、衝突の0.45秒前の時点において、アクセル開度が100%と記録されるとともに、アンチロックブレーキシステム(ABS)が作動していることが記録されているところ、ABSはブレーキペダルが15強く踏み込まれた場合にブレーキ油圧を調節してタイヤロックを防止するための装置であるから、上記データによれば、右足が運転席ドアと車体に挟まれるなどして、左足でしかペダル操作できなかった被告人が、ブレーキペダルとアクセルペダルを同時に強く踏み込んでいたというあり得ない事態となってしまう、②トリガー4に関するデータでは、衝突0秒前にお20いて、アクセル開度が81.5%と記録されるとともに、ブレーキペダルが踏まれ、ABSが作動していることが記録されているが、これも①と同様、被告人が、左足でブレーキペダルとアクセルペダルを同時に強く踏み込んでいたことになってしまう、などと主張する。 しかし、①について、原判決(15頁)は、D証人が、意見書(原審甲2566)において、当該時点において横滑り防止機能(VSC)が作動し、- 14 - ブレーキ油圧も上昇していることから、この際、アクセルペダル開度は100%でブレーキペダルは踏まれていない状態であったものの、本件車両が横滑りを検知して横滑り防止機能が作動し、ブレーキ油圧が上昇した後 レーキ油圧も上昇していることから、この際、アクセルペダル開度は100%でブレーキペダルは踏まれていない状態であったものの、本件車両が横滑りを検知して横滑り防止機能が作動し、ブレーキ油圧が上昇した後、ABSが作動したと考えられるのであって、かつて行われた衝突実験において同様の結果となることが確認済みである旨を説明していること、この5説明は、本件EDRデータの内容やE証人の意見書(同甲67)におけるABSの説明と整合しており、合理的であることを説示して、原審弁護人の同旨の主張を排斥しており、関連のD証言(原審第2回公判99、100頁)等に照らしても、その説示に不合理な点は見当たらない。 ②のうち、トリガー4の衝突時点でアクセル開度が81.5%と記録さ10れている点について、原判決(16頁)は、トリガー4の衝突前にトリガー1、2及び3の各衝突があるから、これらの衝突により足がアクセルペダルから離れていく中でトリガー4で上記アクセル開度が記録されたと分析される旨のD証言(原審第2回公判54頁)に基づき、アクセルペダルから足が離れつつある状態だったといえると説示しており、その説示に不15合理なところはない。また、D証人の鑑定書(原審甲31の9、10頁。 この記述がトリガー4に関するものであることについて原審第2回公判D証言50頁参照)は、上記衝突時にブレーキペダルが踏まれたとの記録がある点について、若干足がブレーキペダルに触れた程度と認められるとしており、上記のとおり、先立つ複数回の衝突によって被告人の足がアクセ20ルペダルから離れつつあったとみられることも踏まえると、この説明は不合理ではないし、ABS作動の点についても、VSCが作動したことによりブレーキ油圧が発生したものと考えられる旨①と同様の説明をしており(同甲31の1 つあったとみられることも踏まえると、この説明は不合理ではないし、ABS作動の点についても、VSCが作動したことによりブレーキ油圧が発生したものと考えられる旨①と同様の説明をしており(同甲31の10頁)、①(トリガー7の衝突の0.45秒前)と②(トリガー4の衝突時)の各時点が極めて近接していること(同甲31添付資25料4枚目等の関係証拠によれば、トリガー4はトリガー7の約0.341- 15 - 秒前と認められるから、①②の時間差は約0.11秒となる。)からすると、②は①と一連の現象とみることも可能と考えられる。 本件圧痕やドライブレコーダーの各種データなど別系統の事実とも整合していることなどを指摘して、本件EDRデータ全体の正確性を肯定した原判決の判断に誤りはなく、所論は採用できない。 5所論は更に、被告人は本件急転把時点には一時的に失神しており、同時点のアクセル開度が100%という本件EDRデータの正確性には疑問がある旨の原審弁護人の主張を排斥するに際し、原判決が依拠したG証言は客観的・科学的根拠に基づいたものではない上、被告人が急転把しなければならないような障害物もなかったのであるから、本件急転把時の被告人10の失神を否定した原判決の判断は不合理であるとも主張する。 しかし、所論指摘のG証言は、事故回避等に関する研究や実験の結果によれば、人は、危険を察知してから約0.5秒で、ハンドルを120度しか切れないとされており、約0.5秒でハンドルが118.5度切られている本件時のハンドル操作は相当に速いものであるから、意識的な動作と15しか考えられないなどというものであり、同証人がタイヤ工学や交通事故解析科学を専門とし、700件以上の交通事故鑑定経験を有していることなども踏まえ、上記証言の推論過程は合理的であると 動作と15しか考えられないなどというものであり、同証人がタイヤ工学や交通事故解析科学を専門とし、700件以上の交通事故鑑定経験を有していることなども踏まえ、上記証言の推論過程は合理的であるとした原判決(9、17頁)の説示に不合理な点は見当たらない。また、原審弁護人が依拠したF医師の意見書(原審弁12)は、「それまで本件車両の進路をコントロ20ールしていた被告人が衝突直前に右斜めに急激に進路変更していることからすれば、被告人が一過性の失神を発症し、全身が脱力して姿勢を保持できなくなった結果、ハンドルが右に118.5度回転したと考えて矛盾はなく、そのような被告人がアクセル開度100%を意識的に保つことは不可能である。」などというものであって、同意見書は、当時被告人が失神25していなかった可能性を排除するものではないから、これに基づいて本件- 16 - EDRデータの正確性に疑問を呈するのは論理に飛躍があるとの原判決の説示(16、17頁)はもっともといえる。さらに、意識を失ったと思うとする被告人の供述は、前後の状況から推測を述べているにすぎず、当時被告人が相当狼狽していたことなどからすると、被告人が意識のある状態で本件急転把をしても不合理とはいえないことをも指摘して、原審弁護人5の上記主張を排斥した原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 ウ パーキングブレーキ並びに本件車両の発進時及び走行時の挙動等に関する所論(弁護人控訴趣意書19~24頁、31~34頁)原判決が、本件車両の発進時及び走行中にパーキングブレーキが継続してかかっていたとの前提に立って、本件車両の発進直前に本件ノーズアッ10プ現象がみられるとともに0.21Gという相応に強い加速度が加わっていたことは、本件車両の発進時にアクセルペダルが踏まれたこ てかかっていたとの前提に立って、本件車両の発進直前に本件ノーズアッ10プ現象がみられるとともに0.21Gという相応に強い加速度が加わっていたことは、本件車両の発進時にアクセルペダルが踏まれたことと整合的な事情であると説示するのに対し、所論は、①本件車両の発進時までに、ブレーキ制御コンピュータ等の不具合により不適正な指示が出されるなどして、パーキングブレーキが解除等された可能性がある、②発進時にノー15ズアップ現象は認められない、③0.21Gは強い加速度とはいえない、④本件車両は、アクセルの操作によってではなく、パーキングブレーキが解除等されてクリープ現象により発進したなどと主張する。 しかし、①(パーキングブレーキ)について、本件車両が本件停車位置に停車していた時点でパーキングブレーキがかかっていたことには争いが20ないところ、原判決(18、19頁)は、㋐電気モーターを動かさない限りブレーキシューにつながるワイヤーの状態が維持されるという本件車両のパーキングブレーキの構造上、物理的な要因によって解除されたり制動力が弱まったりした可能性は低いこと、㋑機能検査の際に同パーキングブレーキが正常にかかる状態であったことが確認されている上、ワイヤーの25張力が低下した場合に記録される故障コードも検出されていないこと、㋒- 17 - 機能検査の際に、同パーキングブレーキに係るブレーキドラム内側の焼付け、焦げ臭さやブレーキシューの焼け焦げ、大きな摩耗等が確認されており、これらは、本件車両がパーキングブレーキのかかった状態で相応の距離を走行したことを示していることなどを指摘して、パーキングブレーキが発進時はもちろん走行中も継続してかかっていたと推認されるとしてお5り、この原判決の推認は合理的なものといえる。リコール事例を 離を走行したことを示していることなどを指摘して、パーキングブレーキが発進時はもちろん走行中も継続してかかっていたと推認されるとしてお5り、この原判決の推認は合理的なものといえる。リコール事例を引用して故障コードに記録されない不具合もあり得るなどとする所論が採用できないことは後述するとおりであって、原判決の上記判断に誤りはない。 なお、所論(弁護人控訴趣意書32~34頁)は、本件ドライブレコーダーにパーキングブレーキをかけたままで発進・走行した場合に発生する10ドラムブレーキ擦過音が確認できないことを、本件車両の走行中にパーキングブレーキがかかっていなかったことの根拠として主張するが、原判決(28、29頁)は、D証人が、パーキングブレーキをかけたまま走行した際にドラムブレーキ擦過音が発生するか否かは、ブレーキドラムにブレーキシューが押し当てられた状態やタイミング、気温、湿度等の条件によ15っても異なり、ケースバイケースであり、また、本件車両のドライブレコーダーの集音マイクが助手席グローブボックス内にあることなどに照らし、ドラムブレーキ擦過音が発生したとしても必ず記録できるとは限らない旨合理的な説明をしていることを根拠に原審弁護人の同旨の主張を排斥しており、所論の指摘を踏まえても、その判断に不合理な点はない。 20②(ノーズアップ現象)について、所論(弁護人控訴趣意書21、22頁)は、原判決がノーズアップ現象認定の根拠とするドライブレコーダー映像及び防犯カメラ映像については、防犯カメラ映像の解像度が低く、撮影コマ数が少ないなど、当時の本件車両の挙動を正確に録取しているか疑問があるなどと主張する。 25しかし、防犯カメラ映像の解像度等に関する所論の指摘を踏まえても、- 18 - 本件車両のドライブレコーダー映 、当時の本件車両の挙動を正確に録取しているか疑問があるなどと主張する。 25しかし、防犯カメラ映像の解像度等に関する所論の指摘を踏まえても、- 18 - 本件車両のドライブレコーダー映像(原審甲61)や同車両の発進地点の防犯カメラ画像(同甲57)によれば、本件車両が発進する直前に同車両前部が浮き上がる現象(ノーズアップ現象)が認められるとした原判決の認定に誤りはなく、所論は採用できない。 ③(加速度)について、所論(弁護人控訴趣意書22~24頁)は、本5件前に信号待ちの状態から発進する際の本件車両の加速度が0.3Gを超えていることに鑑みても、本件車両の加速性能からして0.21Gは強い加速度といえず、これを「相応に強い加速度」とした原判決は不合理であるなどと主張する。しかし、原判決(19頁)は、車両の通常の発進時の加速度は0.1ないし0.15Gであって、0.21Gは強い加速といえ10る旨のD及びGの各証言等(原審第2回公判D証言24頁、原審第3回公判G証言7頁)を踏まえたものであって、その評価が不合理とはいえないし、これを本件車両の発進時にアクセルペダルが踏み込まれたことの推認根拠としたことにも誤りはない。 ④(クリープ現象)についてみると、パーキングブレーキが作動してい15れば、その制動力はクリープ現象の推進力を上回り、同現象で車が動くことはないから(原審第1回公判E証言4頁等)、本件車両の発進時にパーキングブレーキが作動していたと認められることはクリープ現象を否定する事情といえる。また、D及びGの各証言に基づいて原判決(19、20、28頁)が説示するとおり、ノーズアップ現象は、急発進時に強い加速度20がかかることによって、後方のサスペンションが縮み、前方のサスペンションが上がって生じるものであり、そ 原判決(19、20、28頁)が説示するとおり、ノーズアップ現象は、急発進時に強い加速度20がかかることによって、後方のサスペンションが縮み、前方のサスペンションが上がって生じるものであり、その際に0.21Gという相応に強い加速度が記録されたことも、(パーキングブレーキが作動した状態で)アクセルペダルが踏まれたことを示すものといえるから、アクセル操作がない場合に起きるクリープ現象とは整合しない。所論は採用できない。 25また所論(弁護人控訴趣意書31、32頁)は、原判決(27頁)が、- 19 - 本件車両の発進後数秒間程度の速度上昇が緩やかであった可能性は否定できないとしつつ、D及びGの各証言に依拠して、アクセルペダルの踏み込みが強まったり弱まったりしていたとすれば、速度上昇が緩やかであっても被告人がアクセルペダルを踏み込んだことにより発進を開始したと考えて不自然とはいえない旨説示したのに対し、被告人が誤って左足でアクセ5ルペダルを踏み込んだとすれば、D証人も「通常はゼロか百かである」と証言しているように、その後に戻したりさらに踏み込んだりすることは不合理であると主張する。しかし、D証人は、所論指摘の証言部分に続き、「踏み間違え事故等においては、最初に誤認識をして車が思わぬ挙動をしたときに、思った動きでないことからどうしたんだと思い、アクセルを踏10み抜くなど、次の動作が致命的になることが多い」、「アクセルを踏み込んで、車が思っていたのと違う動きをする、そこでアクセルを1回放したところで弱い加速度に変化し、どうしたんだろう、どうしたんだろうとやっているうちに、アクセルを踏み込んでしまったという経過が推測される」などとの証言をしているから(原審第2回公判D証言68、78頁)、発15進後ほどない時点で、いった ろう、どうしたんだろうとやっているうちに、アクセルを踏み込んでしまったという経過が推測される」などとの証言をしているから(原審第2回公判D証言68、78頁)、発15進後ほどない時点で、いったん踏んだアクセルペダルの踏み込みを強めたり弱めたりすることは、被告人が誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだことと矛盾するとはいえず、原判決の上記説示が不合理とはいえない。 さらに所論は、慣れない左足で初めてアクセルペダルを操作する被告人が、時速4km以下という低速度で数秒間発進・走行させることは不可能20又は極めて困難であるとの原審弁護人の主張を原判決が排斥した点も論難するが、原判決(23、27頁)は、本件時に被告人がアクセルペダルを踏んだのは過失によるものとの認定を踏まえ、意図して低速度で発進・走行させることは困難であるとの上記主張は前提が異なると判断したものと解されるから、上記主張を排斥した原判決の判断に誤りがあるともいえな25い。 - 20 - エ 被告人の体勢等に関する所論(弁護人控訴趣意書24~27頁)所論は、被告人は、本件時、その体勢等から、左足でアクセルペダルを踏み込むことが可能であったとはいえないと主張する。 しかし、原判決(20~23頁)は、被告人が発進直後から継続して右手で本件車両のハンドルを把持しており、それが可能な姿勢であったこと5に加え、警察官・弁護人がそれぞれ実施した踏み込み再現実験において、少なくとも被告人が本件シートポジションに設定された運転席シートに座って右足を車外に出した状態では左足がアクセルペダルに届き得ると確認されていることも踏まえ、被告人の右足が運転席ドアパネルとドア枠に挟まれた状態であったとしても、運転席シート上における臀部の位置等によ10っては、被告人の左足がアクセ セルペダルに届き得ると確認されていることも踏まえ、被告人の右足が運転席ドアパネルとドア枠に挟まれた状態であったとしても、運転席シート上における臀部の位置等によ10っては、被告人の左足がアクセルペダルを踏み込むことは可能であったとしており、その判断に不合理な点はない。 所論は、原判決の上記説示に対し、本件車両のアクセルペダルは、ペダル上部を踏み込むことで作動する形状のオルガン式アクセルペダルであるから、被告人の左足がアクセルペダルに届き得るからといって踏み込むこ15とが可能とはいえないとも主張する。しかし、原審記録によれば、被告人とほぼ同体格のH警察官が被告人役となり、本件車両と同型の車両を用いて行ったアクセルペダルの踏み込み実験(原審甲49~51)において、運転席を本件シートポジションに設定し、同警察官が背中を背もたれにつける座り方をしても、アクセルペダル下部、中部及び上部をいずれも10200%の力を入れて踏み込むことができたこと(同甲49写真19、23及び27の各指示説明)、その座り方で右手でハンドルを握るためには、運転席シートを可動域の最後端から少なくとも10.5cm前方(本件シートポジションから8.5cm前方)に移動させる必要があったこと(同甲50写真74の指示説明等)などが明らかになっており、同警察官が右手25でハンドルを握ることが可能な位置に座った場合には、相当の余裕をもっ- 21 - てアクセルペダルを100%の力を入れて踏み込むことができたと認められるから、原判決の上記判断は、この実験結果によっても裏付けられている。なお、所論は、右足が内側にひねられた状態のまま左足でアクセルペダルを踏むのは不可能であるなどとも主張するが、証拠上、左足の動きに支障が生じるほどに右足がひねられた状態にあったといえ けられている。なお、所論は、右足が内側にひねられた状態のまま左足でアクセルペダルを踏むのは不可能であるなどとも主張するが、証拠上、左足の動きに支障が生じるほどに右足がひねられた状態にあったといえるか定かでない5上、被告人が発進直後から継続して右手でハンドルを把持することが可能な姿勢であったことなどに照らしても、所論は採用し難い。 オ 本件車両の不具合の有無に関する所論(弁護人控訴趣意書27~31頁、34~36頁)所論は、本件車両の加速・暴走の原因はブレーキ制御コンピュータやエ10ンジン制御コンピュータの不具合である旨の原審弁護人の主張を排斥した原判決を論難し、①コンピュータにおける制御プログラム自体に不具合がある場合には故障コードは残らないから、故障コードに記録がないことは、制御プログラムに不具合がないことの根拠にはならない、②本件車両の走行積算距離は2357kmにすぎず、機能検査ではわずか15m程度走行15させただけであるから、これらの走行の際にパーキングブレーキが解除されたり暴走したりする現象が起きなかったとしても不具合の可能性は否定されない、③原判決が説示するように「本件車両の構造上、その一部に不具合が生じたとしても不具合の連鎖が生じて暴走させる可能性を低減させ、また生じた不具合が記録されやすくする構造上の工夫が施されている」と20しても、コンピュータが異常と検知しない不具合の場合には事故を防ぐことができない、④原審弁護人が主張したとおり、本件車両と同じC社製のレクサスNXシリーズについて、本件車両と同じメーカーが製造するブレーキ制御コンピュータの制御ソフトの不具合に係るリコール(NXリコール事例)が平成28年末に届け出られているから、本件車両についても、25同様の不具合によりパーキングブレーキが解 が製造するブレーキ制御コンピュータの制御ソフトの不具合に係るリコール(NXリコール事例)が平成28年末に届け出られているから、本件車両についても、25同様の不具合によりパーキングブレーキが解除された可能性がある、⑤ブ- 22 - レーキ制御コンピュータの不具合により一度解除されたパーキングブレーキが本件車両の走行中に再度作動した可能性がある旨の原審弁護人の主張を原判決が排斥した点も不合理である、などと主張する。 しかし、①及び②については、被告人及び原審弁護人も立ち会って実施された本件車両の機能検査において、本件車両の制動系、駆動系、電気系5に事故前の異常の存在は認められず、同型車による走行再現実験においてもパーキングブレーキの解除や暴走といった現象は生じなかったこと、本件車両においては、不具合を防止するため独立の機構系統による相互監視システムが取られ、不具合をコンピュータが感知した場合には故障コードが記録される仕様となっているところ、パーキングブレーキに関するもの10や車の暴走につながる可能性のある故障コードが検出されていないことなど、原判決(24頁)が指摘する事情は、所論の指摘を踏まえても、本件時に本件車両の発進・走行の原因となるような不具合がなかったことを相当程度推認させるといえる。③の所論の趣旨は必ずしも明らかではないが、仮に、あるコンピュータが特定の不具合を検知しない場合であっても、複15数のコンピュータによる相互監視によってこれが検知されることはあり得ると考えられるし、後述のとおり、所論を前提としても本件事故は複数の不具合が併発しなければ説明がつかないところ、本件車両内の全コンピュータが検知しない不具合が一つあったと仮定しても、本件事故の原因となる他の不具合をコンピュータが検知すれば、不具合の連 事故は複数の不具合が併発しなければ説明がつかないところ、本件車両内の全コンピュータが検知しない不具合が一つあったと仮定しても、本件事故の原因となる他の不具合をコンピュータが検知すれば、不具合の連鎖のおそれを低減20させる等の本件車両の構造上の工夫が機能することになると考えられるから、原判決(24、25頁)が、本件が不具合によって発生した現実的な可能性を否定する一事情として、こうした本件車両の構造を挙げたことが不合理とはいえない。 ④について、原判決(29、30頁)は、前記のとおり、客観的な証拠25に基づいて本件車両のパーキングブレーキが発進・走行時もかかった状態- 23 - であったと認められること、NXリコール事例で問題となったブレーキ制御コンピュータは本件車両に搭載されているものとは品番が異なる別のものであって(原審第3回公判E証言9頁、同第2回公判D証言82頁)、不具合の内容もパーキングブレーキが誤って解除されたなどというものではないこと(上記E証言)などを指摘し、NXリコール事例と本件車両の5ブレーキ制御コンピュータが同じ会社の設計・製造に係るものであることから同種の不具合が内在しても不自然ではないとの主張には無理があると説示しており、所論を踏まえても、この判断が不合理とはいえない。 ⑤に関する原審弁護人の主張は、本件車両のドライブレコーダーの音声から、発進の約4秒後にドラムブレーキ擦過音と同じ周波数成分の音が検10出されていること(原審甲47)を指摘し、この時点でパーキングブレーキが再度作動したというものであるが、ドラムブレーキ擦過音が発進時(走行中であればパーキングブレーキ作動開始時)にのみ発生すると断定することはできないし、他に上記主張を裏付ける事実も見当たらないから、原審弁護人の主張は採用 であるが、ドラムブレーキ擦過音が発進時(走行中であればパーキングブレーキ作動開始時)にのみ発生すると断定することはできないし、他に上記主張を裏付ける事実も見当たらないから、原審弁護人の主張は採用できないとした原判決(30頁)の説示が不合理15とはいえない。 以上のとおり、本件車両に本件事故につながる不具合があったとする所論はいずれも抽象的な可能性を指摘するものにすぎないばかりか、原判決(31、32頁)も説示するとおり、上記所論を前提とすると、パーキングブレーキに関するブレーキ制御コンピュータの不具合によりパーキング20ブレーキが解除されクリープ現象によって発進した後、走行中に何らかの理由で再度パーキングブレーキがかかり、さらにエンジン制御用コンピュータの不具合により本件車両が暴走するなど、複数の不具合が併発しなければ本件車両の挙動は説明できないところ、これまでパーキングブレーキや発進、加速等に関する不具合が見られず、機能検査においてもその痕跡25等が確認されなかった本件車両について、故障コードに記録されない複数- 24 - の不具合が本件時に相次いで併発するという可能性は低く、そのような現実的な可能性があるとはにわかに考え難い。仮に被告人が本件時にアクセルペダルを踏み込んだことはなく、車両の不具合のみによって本件事故が起きたとすると、本件圧痕が生じた理由の説明が困難であることなどに照らしても、本件事故の原因が本件車両の不具合にあったという合理的な疑5いはないとした原判決の判断に誤りはない。 ⑵ 被告人の所論についてア 被告人の行動や体勢等に関する所論(被告人控訴趣意書2~8頁)所論は、原判決は被告人が降車しようとした際に誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだ旨認定するが、アクセルペダルを踏み込んで車を ア 被告人の行動や体勢等に関する所論(被告人控訴趣意書2~8頁)所論は、原判決は被告人が降車しようとした際に誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだ旨認定するが、アクセルペダルを踏み込んで車を発進10させる行為と降車しようとする行為とは二律背反であり、アクセルペダルを踏み込んで車を暴走させることと衝突回避のためにハンドル操作をすることも二律背反である、アクセルペダルを100%の開度で踏み込み続けることは明確な意識がなくてはできないが、意識的に行動できる状態であれば、速度が速くなれば本能的に踏んでいる足をペダルから外すか、ブレ15ーキペダルを踏むはずである、などと主張する。しかし、原判決(27頁)は、被告人が本件時にアクセルペダルを踏み込んだ行為は過失によるものとしか考えられないと説示しており、被告人がアクセルペダルと認識して同ペダルを踏み込んだことを前提に、降車行為や衝突回避のためのハンドル操作と二律背反であるなどと主張する所論は採用できない。 20所論は、本件急転把について、それまで道路状況に合わせてハンドルを操作していた被告人が急に危険な対向車線に突入しているのは、意識状態に重大な変化があり失神したためとみるのが自然であると主張するが、本件急転把の際に被告人が失神していた旨の原審弁護人の主張を排斥した原判決の判断が不合理といえないことは、前記⑴イのとおりである。 25所論は、本件時の被告人には左足でアクセルペダルを踏み込むことは不- 25 - 可能であった旨主張し、その根拠として、警察官実施の踏み込み再現実験に関する報告書(原審甲39)添付の写真には、アクセルペダルに靴が接触しているものがないことなどを指摘する。しかし、上記実験時の動画(原審甲40、41)によれば、被告人の足がアクセルペダルに触れ、被 に関する報告書(原審甲39)添付の写真には、アクセルペダルに靴が接触しているものがないことなどを指摘する。しかし、上記実験時の動画(原審甲40、41)によれば、被告人の足がアクセルペダルに触れ、被告人自身も足が触れ得ると述べている場面が認められ、この点は、上記報5告書3、4頁の「左足がアクセルペダルに届くことを確認した」等の記述にも裏付けられている。また、所論は、H警察官を運転手役として行われたアクセルペダル踏み込み実験につき、H警察官は、被告人と身長、体重は同じでも脚が4cm長いなどの差異があるから、この実験に証拠価値はないなどと主張するが、前記⑴エのとおり、同実験によれば、H警察官は、10右手でハンドルを握れる位置より8.5cm後方の座席位置でも100%の力を入れてアクセルペダルを踏み込むことが可能であったことが認められるから、仮に被告人が述べるように、その脚の長さがHのそれより4cm短かったとしても、右手でハンドル上部を握っていたと認められる本件時の被告人が左足でアクセルペダルを踏み込むことができたことを裏付け15る一根拠になるというべきである。所論は採用できない。 イ 本件車両の不具合の有無に関する所論(被告人控訴趣意書9~11頁)所論は、①本件EDRデータにつき、エンジンスロットル及び燃料噴射量が「無効」と表示されていて、数値が記録されていないことは不可解で20ある、②機能検査時に顕出された故障コード中、「電スロ系異常」と記載されているものがどのような異常であるのか解明されていない、③平成30年12月、レクサスLS500のエンジン制御コンピュータについて届け出られたリコール(LSリコール事例)は、エンジン吸入空気量を正確に計算できないためエンジンの回転が不安定になり最悪の場合エンストす25るとい スLS500のエンジン制御コンピュータについて届け出られたリコール(LSリコール事例)は、エンジン吸入空気量を正確に計算できないためエンジンの回転が不安定になり最悪の場合エンストす25るというものであったが、吸入空気量を正確に計算できないという不具合- 26 - が本件車両にもあったとすれば、吸入空気量が過大になり加速の原因となった可能性があるなどと主張する。 しかし、①については、D証人、E証人がいずれもハイブリッド車であるため記録されていないと一致した説明をしている上、①②のいずれについても、本件車両の発進・加速につながるような不具合があることを具体5的に疑わせる事情とはいえない。③について、原判決(24、31頁)は、そもそもガソリンエンジンの原理からして吸気を増やせばエンジンの回転数が上がるというものではないこと、LS500はガソリンエンジンのみで駆動する車種で、ハイブリッド車である本件車両とは車種が異なり、問題となった部品は本件車両に搭載されていないこと、上記不具合の内容か10らして直ちに車両の暴走につながるとまではいい難い上、LS500の当該不具合は故障コードに記録されていたことなどに照らし、LSリコール事例の存在は、本件車両のエンジンに何らかの不具合があった現実的可能性を示すものではないと説示しており、その判断に誤りはない。 ウ 本件圧痕に関する所論(被告人控訴趣意書12頁)15所論は、本件圧痕につき、①アクセルペダルは合成樹脂製で、3mm程度の微細な痕跡である上、ペダル裏の左上部についているが、仮に左足でペダルを踏んでいたとすれば、前方からの衝撃を強く受け止める力が強い親指付近で受け止めるはずであるから、親指側である右上部につくのが自然である、②本件車両は、数次にわたり、複数の物体にそれぞれ 足でペダルを踏んでいたとすれば、前方からの衝撃を強く受け止める力が強い親指付近で受け止めるはずであるから、親指側である右上部につくのが自然である、②本件車両は、数次にわたり、複数の物体にそれぞれ異なる角20度で高速度に衝突しているから、車両内部の機器同士が複雑に接触し、アクセルアームとロッドがいずれかの衝突で接触した可能性も否定できない、と主張する。 しかし、①については、確かに本件圧痕は小さなものであるが、D及びEの各証言内容のほか、男性警察官が最大111.2kg重でアクセルペ25ダルを踏んだ際にも素材が削れるような圧痕は生じなかったこと(原審甲- 27 - 52)などを踏まえて、本件事故によって生じたものであるとした原判決(10~12頁)の判断に不合理な点はなく、また、衝突時点で被告人の左足がアクセルペダルの真上から踏み込んでいたとは限らないから、圧痕の位置が不自然であるともいえない。②については、機能検査時の本件車両のアクセルペダル付近の写真(原審甲24写真36)や同型車の同様の5写真(原審甲52写真53等)をみても、アクセルアームとロッドの近辺に、他に接触するような機器があるとはうかがわれないから、被告人の主張は現実的な可能性を示すものとはいえない。 エ その他の所論(被告人控訴趣意書11、12頁)所論は、本件車両がゆっくりと発進した旨の知人の目撃供述を原判決は10一蹴しているなどと論難するが、原判決(27、28頁)は、同知人の検察官調書(原審甲18)の一部を引用しつつ、本件車両の外にいた知人が、車両の挙動から主観的感覚に基づいてクリープ現象であると感じたことを直ちに本件車両の発進原因特定の根拠とすることはできないと説示しており、同供述を無視しているわけではないし、同供述に対する原判決の評価1 挙動から主観的感覚に基づいてクリープ現象であると感じたことを直ちに本件車両の発進原因特定の根拠とすることはできないと説示しており、同供述を無視しているわけではないし、同供述に対する原判決の評価15に誤りがあるともいえない。 また、所論は、本件車両の発進直後の速度推移は、アクセルペダルの踏み込みが強まったり弱まったりしていたとすれば不自然ではない旨のD証言及びこれに依拠する原判決の説示についても論難するが、この点が不合理とはいえないことは前記⑴ウのとおりである。 20⑶ 結論その他種々主張する点も含め、弁護人及び被告人の所論は採用できない。 事実誤認をいう論旨には理由がない。 第2 訴訟手続の法令違反の主張について1 所論(弁護人控訴趣意書3~7頁、被告人控訴趣意書8頁)は、本25件では、被告人がアクセルペダルを左足で踏み込んでいる間の具体的な姿- 28 - 勢が立証されなければ、被告人によるアクセルペダルの踏み込み事実について合理的な疑いが残るというべきであり、その点の認定に不可欠な検証(本件車両と同型車両を用いて、本件車両の発進開始時及び走行時における被告人の運転席着座位置及び体勢を前提としたときに、被告人が本件車両のアクセルペダルを踏み込むことが可能であったか否かを検証するとい5うもの。原審弁17)の請求を却下するなどした原審の訴訟手続には、審理不尽の違法があるというのである。 2 そこで検討すると、上記検証は、原審弁護人が公判前整理手続において請求し、検察官が不必要との意見を述べていたものであるところ、第4回公判期日までに、本件車両と同型車両を用いたアクセルペダルの踏み10込み実験に関する証拠として、被告人とほぼ同体格の警察官を運転手役として警察が実施した実験に関する実況見分調書等(原審甲4 4回公判期日までに、本件車両と同型車両を用いたアクセルペダルの踏み10込み実験に関する証拠として、被告人とほぼ同体格の警察官を運転手役として警察が実施した実験に関する実況見分調書等(原審甲49~51)、被告人を運転手役として警察官らが実施した実験に関する報告書等(原審甲39~41)及び被告人を運転手役として原審弁護人が実施した実験に関する報告書(原審弁3)が取り調べられていたことを踏まえると、第515回公判期日において、被告人質問の終了後に上記検証を却下した原裁判所の訴訟手続に違法、不当な点があるとはいえない。また、前記第1の2⑴エのとおり、上記各証拠等に基づき、本件時に被告人が左足でアクセルペダルを踏み込むことは可能であったとした原判決の事実認定に誤りはないことにも照らすと、原審の訴訟手続に所論がいうような審理不尽等の違法20があるともいえない。 訴訟手続の法令違反の論旨も理由がない。 第3 結論よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却する。 令和4年12月15日25東京高等裁判所第3刑事部- 29 - 裁判長裁判官 安 東 章 裁判官 楡 井 英 夫5 裁判官 渡 辺 美 紀 子

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