- 1 -平成24年6月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成23年(ワ)第9600号意匠権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成24年4月20日判決原告タイガー魔法瓶株式会社同訴訟代理人弁護士村林 隆 一同井上裕史同原 仁志同訴訟副代理人弁護士加藤明俊被告株式会社たつみや同訴訟代理人弁護士吉武賢次同宮嶋学同髙田泰彦同柏延之同補佐人弁理士朝倉悟 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の携帯用魔法瓶を製造し,販売し,販売のための展示をしてはならない。 2 被告は,原告に対し,5250万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,後記本件意匠権を有する原告が,被告に対し,被告の別紙物件目 - 2 -録記載の携帯用魔法瓶(以下「被告製品」という。)の製造・販売等は,本件意匠権を侵害すると主張して,本件意匠権に基づき,被告製品の製造・販売等の差止めを求めると共に,本件意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償として5250万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実以下の事 く損害賠償として5250万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実以下の事実は,当事者間に争いがない。 (1) 本件意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。 登録番号第1363566号出願日平成19年4月25日登録日平成21年5月29日意匠に係る物品携帯用魔法瓶登録意匠別紙本件意匠公報記載のとおり(2) 関連意匠原告は,本件意匠について,次の関連意匠(以下,登録番号順に「関連意匠1」などという。)についても,意匠権を有している。 ア関連意匠1登録番号第1396057号出願日平成21年6月15日登録日平成22年7月30日意匠に係る物品携帯用魔法瓶登録意匠別紙関連意匠1公報記載のとおりイ関連意匠2 - 3 -登録番号第1396058号出願日平成21年6月15日登録日平成22年7月30日意匠に係る物品携帯用魔法瓶登録意匠別紙関連意匠2公報記載のとおりウ関連意匠3登録番号第1396059号出願日平成21年6月16日登録日平成22年7月30日意匠に係る物品携帯用魔法瓶登録意匠別紙関連意匠3公報記載のとおり(3) 被告の行為被告は,被告製品を製造し,販売し,販売のための展示をしている。 (4) 被告製品の構成被告製品は携帯用魔法瓶であり,その構成は 関連意匠3公報記載のとおり(3) 被告の行為被告は,被告製品を製造し,販売し,販売のための展示をしている。 (4) 被告製品の構成被告製品は携帯用魔法瓶であり,その構成は,別紙被告製品図面記載のとおりである(以下,被告製品に係る意匠を「被告意匠」という。)。 2 争点(1) 被告意匠は本件意匠に類似するか(争点1)(2) 本件意匠は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)(3) 原告の損害額(争点3)第3 争点に係る当事者の主張 1 争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について【原告の主張】以下に述べるとおり,被告意匠は,本件意匠と類似する。 (1) 本件意匠の構成 - 4 -本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。 ア基本的構成態様本件意匠に係る物品は携帯用魔法瓶であって,A キャップと本体とから構成されている。 B このキャップは本体の上部にあって,本体の1割から2割の長さで上乗せされている。 イ具体的構成様態C キャップと本体との間には若干の切り込み部分がある。 D キャップの下部には若干の線状部分(周側面より突出した細帯環状の部分)がある。 E 本体の下部には若干の線状部分がある。 (2) 被告意匠の構成被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。 ア基本的構成態様被告製品も携帯用魔法瓶であって,a キャップと本体から構成されている。 b このキャップは本体の上部にあって,本体から1割の長さにおいて上乗せされている。 イ具体的構成態様c 被告製品のキャップと本体との間には若干の切り込み部分がある。 d 被告製品のキャップの下部には ャップは本体の上部にあって,本体から1割の長さにおいて上乗せされている。 イ具体的構成態様c 被告製品のキャップと本体との間には若干の切り込み部分がある。 d 被告製品のキャップの下部には若干の線状部分(突出した線状部分)がある。 e 本体の下部には若干の線状部分がある。 (3) 類否についてア本件意匠と被告意匠とは,その物品を同じくし,その全体的構成は,需要者の立場からみて全く同じである。特に,関連意匠と合体した本件 - 5 -意匠をみるとき,その具体的態様の差異は全体的に消化され,全体としての審美感に差異を生じていない。 したがって,被告意匠は,本件意匠と類似する。 被告の主張する被告意匠の側面に凹凸部分がほとんどないことは,全体的にみたときに本件意匠と被告意匠とを全く異なるものと把握させるものではない。また,被告意匠のスリム性は,関連意匠3からも看取することができる。 イ本件意匠の出願前には甲6ないし12号証の公知刊行物があり,キャップと本体との組合せに様々な形状のものが存在するが,本件意匠の類似する範囲を限定するようなものは存在しない。 また,本件意匠は甲16ないし25号証の後願意匠が存在するが,これらは本件意匠とは全く異なるものであり,本件意匠の類似する範囲に影響を及ぼすものではない。 【被告の主張】(1) 本件意匠の構成本件意匠の審査段階での拒絶理由通知に対する意見書(乙3)の内容を踏まえ,本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は以下のとおり特定すべきである。 A キャップと本体とから構成されている。 B′このキャップ部は本体の上部にあって,全体の略6分の1の高さで上乗せされている。 C′キャップと本体との間には溝部が形成されていて,その幅はキャ A キャップと本体とから構成されている。 B′このキャップ部は本体の上部にあって,全体の略6分の1の高さで上乗せされている。 C′キャップと本体との間には溝部が形成されていて,その幅はキャップの高さの略5分の1である。 D′キャップの下端には周側面より突出した細帯環状の部分がある。 E′本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けてある。 - 6 -F′平面の直径と全体の高さとの比率は略1:2.3である。 (2) 被告意匠の構成被告意匠の構成は以下のとおり特定すべきである。 a キャップと本体から構成されている。 b′このキャップは本体の上部にあって,全体の略8分の1の高さで上乗せされている。 c′被告製品のキャップと本体との間には隙間がない(乙4)。 d 被告製品のキャップの下部には若干の線状部分がある。 e 本体の下部には若干の線状部分がある。 f′平面の直径と全体の高さとの比率は略1:3.6である。 g′本体の飲み口の外周面を覆う別部材のキャップが付されている。 (3) 類否についてア共通点について両意匠は,共に略円筒形であり,キャップと本体とから構成されているという基本的な構成態様において共通していることに異論はない(構成態様A及び構成態様a)。 しかしながら,このような構成はステンレス製魔法瓶の原型(乙1の6)と何ら異なることはなく,この点において共通することは両意匠の類否判断において何ら影響を及ぼすものではない。 イ相違点について上記アに指摘した構成態様以外の各構成態様において,両意匠はことごとく異なっている。 両意匠の相違について検討するに,本件意匠は構 て何ら影響を及ぼすものではない。 イ相違点について上記アに指摘した構成態様以外の各構成態様において,両意匠はことごとく異なっている。 両意匠の相違について検討するに,本件意匠は構成態様C′,D′,E′を採用することにより,意図的に側面に凹凸を形成することを基本的な造形思想とし,かつ美感における特徴とするものである。これに対し,被告意匠は構成態様c′,d,eからも明らかなとおり,側面にほ - 7 -とんど凹凸のない平坦な構成を採用しており,この点において明らかに本件意匠の特徴的な構成と異なる。また,本件意匠は,構成態様F′の構成を採用することにより,ステンレス魔法瓶としては通常若しくは通常よりもやや幅広の構成になっているのに対し,被告意匠は,構成態様f′から明らかなとおり,通常と比べて細い円筒状の構成となっているのであって,この点を強調した宣伝がされている(乙5)。 さらに,被告意匠は,本件意匠と異なり,本体の飲み口にシリコン製のキャップが付されている点を特徴としており,この点を強調した宣伝がされている(乙5)。 このように,両意匠の構成態様をそれぞれ対比すれば,両意匠が非類似であることは極めて明白といえる。 ウ公知意匠について本件意匠の類似の範囲は,乙11ないし17号証の公知意匠により,限定的に解釈すべきである。 また,被告意匠は,本件意匠よりも,むしろ本件意匠の出願日前に公知であった大阪地方裁判所平成21年6月4日判決(平成20年(ワ)第15970号損害賠償請求事件)の判決書別紙物件目録1記載のステンレス製魔法瓶に係る意匠(乙6。甲26・7頁に掲載された型番GZD-C021の意匠も同じ。以下「引用意匠1」という。)に近似している。このことは,被告意匠は,少なくと 決書別紙物件目録1記載のステンレス製魔法瓶に係る意匠(乙6。甲26・7頁に掲載された型番GZD-C021の意匠も同じ。以下「引用意匠1」という。)に近似している。このことは,被告意匠は,少なくとも本件意匠との対比において,公知意匠(引用意匠1)の域を出るものではなく,それゆえ,本件意匠の権利範囲に属しないことの裏付けとなる重要な事実である。さらに,本件意匠との対比でいうと,引用意匠1や本件意匠の出願日前に公知であった,象印マホービン株式会社が販売するタフマグ(SM-AB型,0.36リットル入り,黒色)の魔法瓶に係る意匠(乙1の7,8の右端。以下「引用意匠2」という)の方が被告意匠よりも本件意匠に近似 - 8 -しているといえるのであって,このことは,仮に本件意匠に係る意匠権が有効であるとした場合,公知意匠である引用意匠1をその類似の範囲に含まない以上,必然的に被告意匠もその類似の範囲に含まれないことを示す重要な事実である。 2 争点2(本件意匠は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について【被告の主張】仮に,被告意匠が本件意匠の類似する範囲に含まれるとしても,本件意匠は,引用意匠1又は2に基づき,意匠法3条1項3号ないしは同条2項の適用により無効にされるべきであるから,同法41条で準用する特許法104条の3の規定により,権利行使は認められない。 (1) 引用意匠1を主引例とする無効理由についてア引用意匠1の構成を本件意匠の構成態様に対応させて記述すると,以下のとおりである。 1a キャップと本体とから構成されている。 1b このキャップは本体の上部にあって,全体の略8分の1の高さで上乗せされている。 1c キャップと本体との間には若干の切り込み部分がある 1a キャップと本体とから構成されている。 1b このキャップは本体の上部にあって,全体の略8分の1の高さで上乗せされている。 1c キャップと本体との間には若干の切り込み部分がある。 1d キャップの下部には若干の線状部分がある。 1e 本体の下端を含めた側面に凹凸がない。 1f 平面の直径と全体の高さとの比率は略1:3である。 イ引用意匠1と被告意匠ではどちらが本件意匠に近似しているかを検討する。 まず,引用意匠1の構成態様1a,1b,1dは,被告意匠の構成態様a,b′,d′とほぼ共通しており,本件意匠との対比において特段の差はないが,引用意匠1の構成態様1c,1fと被告意匠の構成態様 - 9 -c′,fとを比較すると,引用意匠1の方がより本件意匠に近い構成である。 また,引用意匠1の構成態様1eと被告意匠の構成態様eとを比較すると,両者とも本件意匠のような膨らみ部分はないものの,引用意匠1の本体下部には継ぎ目がないのに対し,被告意匠においては線状部分を有しているという違いがある。しかしながら,本件意匠(構成要件E′)は,あくまで,本体の下端寄りに横帯状の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けることに特徴があるのであり,若干の線状部分(構成態様1e)自体は,技術的理由によって生じるもので特徴的ではないことから,この点は実質的な相違とはいえない。 ウ以上の点及び被告意匠と本件意匠ではほとんど構成態様が共通せず,美感も大きく異なること(上記1【被告の主張】)を考慮すれば,引用意匠1の方が被告意匠よりも本件意匠に近似しているといえる。 したがって,本件意匠の類似する範囲に被告意匠が含まれる場合には,公知意匠である引用意匠1も必然的に含まれることとなる。よって, ば,引用意匠1の方が被告意匠よりも本件意匠に近似しているといえる。 したがって,本件意匠の類似する範囲に被告意匠が含まれる場合には,公知意匠である引用意匠1も必然的に含まれることとなる。よって,意匠法3条1項3号の無効理由を有することとなるから,同法41条で準用する特許法第104条の3の規定により,権利行使は認められない。 (2) 引用意匠2を主引例とする無効理由についてア引用意匠2を本件意匠の構成態様に対応させて記載すると以下のとおりである。 2a キャップと本体とから構成されている。 2b このキャップは本体の上部にあって,全体の略6分の1の高さで上乗せされている。 2c キャップと本体との間には若干の切り込み部分がある。 2d キャップの側面の上部付近には若干の線状部分がある。 2e 本体の下端に横帯上の膨らみを持たせ,その上部付近に横方向に - 10 -周回する細溝を設けてある。 2f 平面の直径と全体の高さとの比率は略1:2.5である。 イ引用意匠2と被告意匠ではどちらが本件意匠に近似しているかを検討する。 まず,引用意匠2の構成態様2a,2bは,本件意匠の構成態様A,B′とほぼ完全に一致する。そして,引用意匠2の構成態様2c,2e,2fは,本件意匠の構成態様C′,E′,Fと相違するものの,被告意匠の構成態様c′,e,fと本件意匠の構成態様C′,E′,Fとの相違と比較すれば,引用意匠2と本件意匠の相違の方が明らかに小さい。 これらの構成態様の比較によれば,造形思想も視覚的な美感も,引用意匠2の方が被告意匠よりも本件意匠に近似しているといえることは明らかである。なお,引用意匠2の構成態様2dは,本件意匠の構成態様D′とは異なるものの,引用意匠2は, 造形思想も視覚的な美感も,引用意匠2の方が被告意匠よりも本件意匠に近似しているといえることは明らかである。なお,引用意匠2の構成態様2dは,本件意匠の構成態様D′とは異なるものの,引用意匠2は,構成態様D′の特徴である「周側面より突出した細帯環状の部分がある」という構成を備えていない点において被告意匠と異なるところはないため,引用意匠2と被告意匠のどちらが本件意匠に近似しているかを考える際に,この点は大きな考慮要素となるものではない。実際,引用意匠2は,被告意匠のようにスリムですっきりとした印象というよりは,本件意匠のようにずんぐりとした印象を与えるものであり,本件意匠の特徴の一つである本体下部の竹の節のような造形的形状と共通する構成を備えるものであるから,美感としても本件意匠により近いといえる。 ウ以上の点及び被告意匠と本件意匠ではほとんど構成態様が共通しないこと(上記1【被告の主張】)を考慮すれば,引用意匠2の方が被告意匠よりも本件意匠に近似しているといえることは明らかである。 したがって,本件意匠の類似する範囲に被告意匠が含まれる場合には,公知意匠である引用意匠1も必然的に含まれることとなる。よって,意 - 11 -匠法3条1項3号の無効理由を有することとなるから,同法41条で準用する特許法104条の3の規定により,権利行使は認められない。 エなお,本件意匠と引用意匠2とではキャップ形状において異なるものの,本件意匠と同様のキャップ形状は,乙11号証や甲26号証に記載された多くの携帯用魔法瓶において採用されている形状であるから,引用意匠2のキャップに代えて本件意匠と同様の形状のキャップを用いることは容易である。 したがって,仮に引用意匠2を主引例とした場合に意匠法3条1項3号に該当しないとし ている形状であるから,引用意匠2のキャップに代えて本件意匠と同様の形状のキャップを用いることは容易である。 したがって,仮に引用意匠2を主引例とした場合に意匠法3条1項3号に該当しないとしても,本件意匠は引用意匠2に基づいて容易に創作できたものであるから,同条2項の適用により無効を免れないことは明らかである。 【原告の主張】引用意匠1,2は,本件意匠の有効性に影響を及ぼすものではない。 3 争点3(原告の損害額)について【原告の主張】被告は,平成22年4月1日から平成23年6月30日までの間,被告製品を合計10万個,製造販売している。原告がこれを製造販売した場合,1個につき500円,合計5000万円の利益を得るはずである。 また,本件訴訟の弁護士費用のうち,相当因果関係のある損害は250万円である。 【被告の主張】争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について(1) 本件意匠の構成ア証拠(甲2,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠は,別紙本 - 12 -件意匠公報に記載のとおりであり,意匠に係る物品を「携帯用魔法瓶」とするもので,その構成態様は,次のとおりと認められる(なお,各項目のアルファベットは,上記当事者の主張に対応している。)。 (ア) 基本的構成態様A キャップと本体とから構成されている。 B このキャップは本体の上部にあって,全体の略6分の1の高さで上乗せされている。 F 平面の直径と全体の高さとの比率は略1:2.3である。 (イ) 具体的構成態様C キャップの下端と本体との間には,本体の上端がなだらかに縮径することによって形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高 の比率は略1:2.3である。 (イ) 具体的構成態様C キャップの下端と本体との間には,本体の上端がなだらかに縮径することによって形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高さの略5分の1である。 D キャップの下端には周側面より突出した細帯環状の部分がある。 E 本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に底面と平行に周回する細溝を設けてある。 イ原告は,構成態様Eについて,関連意匠2,3には,同構成(本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けてある)をみることができないため,本件意匠の具体的構成態様に含めるのは相当でないと主張する。 しかしながら,関連意匠の構成は,本意匠の要部ないし類似する範囲を検討するに当たってしん酌し得るものではあるものの,本意匠の構成態様自体を画するものではないため,当該主張には明らかに理由がない。 (2) 被告意匠の構成証拠(乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠は,携帯用魔法瓶であって,その構成態様は次のとおりと認められる(なお,各項目のアルファベットは上記当事者の主張に対応している。)。 - 13 -ア基本的構成態様a キャップと本体から構成されている。 b このキャップは本体の上部にあって,全体の略8分の1の高さで上乗せされている。 f 平面の直径と全体の高さとの比率は略1:3.6である。 イ具体的構成態様c 被告製品のキャップの下端と本体との間には,両者の接合面が形成される。 d 被告製品のキャップの下端には周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。 e 本体の下部に底面と平行に周回する線状部分がある。 との間には,両者の接合面が形成される。 d 被告製品のキャップの下端には周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。 e 本体の下部に底面と平行に周回する線状部分がある。 g 本体の飲み口の外周面を覆う別部材のキャップが付されている。 (3) 本件意匠の要部についてア要部について登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。 したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。 イ需要者,使用態様について本件意匠及び被告意匠は,いずれも携帯用魔法瓶に関するものであり,その需要者は一般消費者である。 同物品は,日常的に持ち運んで使用されることからすれば,需要者は, - 14 -持ち運びの利便性に影響するその全体的な外観に着目するといえる(なお,これに含まれない本体の飲み口部についても,需要者は,携帯用魔法瓶を使用する際に一応着目するともいえるが,キャップをした際には人目に触れない部分であることからすれば,需要者が,全体的な外観以上に,特に当該部分に着目するとまでは認め難い。)。 ウ公知意匠について(ア) 証拠(乙1,6,11~16)によれば,携帯用魔法瓶において,全体的に円筒形で,本体とキャップによって構成される意匠は,本件意匠の出願以前に公然と知られていたことが認められる(もっとも,円筒形における底面の直径及び高さの比率,高さのう 携帯用魔法瓶において,全体的に円筒形で,本体とキャップによって構成される意匠は,本件意匠の出願以前に公然と知られていたことが認められる(もっとも,円筒形における底面の直径及び高さの比率,高さのうち本体とキャップの長さの比率は,公知意匠においても一様とはいえない。)。 (イ) 本件意匠の出願以前に公開されていた意匠公報(意匠登録651753号。乙11。以下「乙11公報」という。)には,上記(ア)の構成態様を備える携帯用魔法瓶について,キャップの下端と本体との間に環状に切り込み部分のある形状(ただし,その形状は,本件意匠の構成態様Cのように「溝部」を構成するものではない。)が開示されている。また,キャップの下端について,内側部材が周側面よりやや突出して細帯環状に現れる形状(その形状は,本件意匠の構成態様Dとほぼ同様である。)が開示されている。 また,本件意匠の出願以前に公開されていた乙1号証の6ないし9の写真,乙11公報,意匠公報(意匠登録708969号。乙13。 以下「乙13公報」という。)には,上記(ア)の構成態様を備える携帯用魔法瓶について,本体の下端寄りに,底面と平行になるように環状の線が入った形状が開示されている。さらに,乙1号証の7ないし9の写真には,当該環状の線の入った部分が横帯状の丸い膨らみになっている形状(その形状は,本件意匠の構成態様Eとほぼ同様である。) - 15 -も開示されている。 エ関連意匠について本件意匠は構成態様C「キャップの下端と本体との間には,本体の上端がなだらかに縮径することによって形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高さの略5分の1である」を備えるところ,関連意匠1ないし3のこれに対応する部分には,若干の切り込み部分(ただし,その幅は,被告意匠の接合面よりは大き って形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高さの略5分の1である」を備えるところ,関連意匠1ないし3のこれに対応する部分には,若干の切り込み部分(ただし,その幅は,被告意匠の接合面よりは大きいと認められる。)があるにすぎないことが認められる(甲3~5)。 また,本件意匠は構成態様E「本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に底面と平行に周回する細溝を設けてある」を備えるところ,関連意匠3のこれに対応する部分には,特段の膨らみや細溝の形状は認められない(甲5)。 オ本件意匠の要部上記認定したところを総合して,本件意匠の要部について検討する。 携帯用魔法瓶において,需要者は,その全体的な外観に着目するといえるものの,①全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状は,本件意匠の出願前に公然と知られていたものと認められる。 そして,上記①の形状を備える携帯用魔法瓶において,②キャップの下端と本体との間に環状に切り込み部分がある形状,③キャップの下端について,内側部材が周側面よりやや突出して細帯環状に現れる形状,④本体の下端寄りに,底面と平行になるように環状の線が入り,当該部分が横帯状の丸い膨らみになっている構造についても,本件意匠の出願前に公然と知られていたと認められる。 そうすると,本件意匠における上記①ないし④の形状の特徴自体は,本件意匠の要部を構成するものとはいえないというべきである(なお, - 16 -上記①ないし④の形状は,独立して観察されることからすれば,これらの組み合わせ自体が要部を構成するということもいえない。)。 したがって,本件意匠の要部は,上記各形状に係るより具体的な形状,すなわち,①円筒形の底面の直径及び高さの割合,高さのうち本体とキャップの比率,②キャップの下端の 成するということもいえない。)。 したがって,本件意匠の要部は,上記各形状に係るより具体的な形状,すなわち,①円筒形の底面の直径及び高さの割合,高さのうち本体とキャップの比率,②キャップの下端の細帯環状の具体的形状,③キャップの下端と本体との間における環状の切り込み部分(溝部)の具体的形状,④本体の下端寄りの環状の線,横帯状の丸い膨らみの具体的形状にあるというべきである。そして,上記エのとおり本件意匠と関連意匠との対比を考慮すると,これらのうち,関連意匠とも共通する上記①,②を,類否判断に当たってより重視すべきであるといえる。 (4) 類否についてア本件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点(ア) 共通点本件意匠と被告意匠が,全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状であることは共通する。 (イ) 差異点a 全体の高さに占めるキャップの高さの割合本件意匠は略6分の1であるのに対し,被告意匠は略8分の1である。 b 底面の直径と高さとの比率本件意匠は1:2.3であるのに対し,被告意匠は1:3.6である。 c キャップと本体との間の形状本件意匠は,キャップの高さの略5分の1の幅の溝部があるのに対し,被告意匠に溝部といえるものはなく,キャップと本体の - 17 -接合面が存在するのみである。 d キャップの下端の形状本件意匠は,周側面より突出した細帯環状の部分があるのに対し,被告意匠は周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。 e 本体のやや底面よりの形状本件意匠は,横帯上の丸い膨らみを持たせ, した細帯環状の部分があるのに対し,被告意匠は周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。 e 本体のやや底面よりの形状本件意匠は,横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けてあるのに対し,被告意匠は,底面と平行に周回する線状部分がある。 f 本体の飲み口部の形状被告意匠は,外周面を覆う別部材のキャップが付されているのに対し,本件意匠にそのような形状はない。 イ類否の判断について(ア) 本件意匠と被告意匠には,上記ア(ア)の共通点があるが,この点が本件意匠の要部とならないことは,上記(3)のとおりである。 本件意匠と被告意匠には,上記ア(イ)aないしfの各差異点があるところ,このうち,aないしeの差異点は,上記(3)で認定した本件意匠の要部に関する差異点といえる。 そして,特に,全体の高さに占めるキャップの高さの割合(上記a),底面の直径と高さとの比率(上記b)及び本体のやや底面よりの形状(上記e)の差異によって,本件意匠は,全体的に底面積がより広く,立てて置いたときにより安定感のある印象を与えるのに対し,被告意匠は,全体的に底面積がより狭く,スリムな印象を与えるデザインとなっている。また,キャップと本体との間の形状(上記c),キャップの下端の形状(上記d),本体のやや底面よりの形状(上記e)の差異によって,本件意匠は,高さ方向に沿って, - 18 -比較的凹凸がある印象を受けるのに対し,被告意匠は,比較的直線的な印象を与えるデザインとなっている。 したがって,上記差異点は,被告意匠につき,全体として本件意匠とは異なる美感を生じさせるものということができる。 (イ) 原告は,被告意匠 象を与えるデザインとなっている。 したがって,上記差異点は,被告意匠につき,全体として本件意匠とは異なる美感を生じさせるものということができる。 (イ) 原告は,被告意匠のスリム性は関連意匠3からも看取することができると主張するところ,関連意匠3についても,全体の高さに占めるキャップの高さの割合,底面の直径と高さとの比率は,むしろ本件意匠に近いものと認められるのであって(甲5),関連意匠3の存在により,本件意匠の類似範囲が被告意匠にまで及ぶということはできない。 また,原告は,被告意匠の側面に凹凸部分がほとんどないことは,全体的にみたときに本件意匠と被告意匠とを全く異なるものと把握させるものではないと主張するが,携帯用魔法瓶の全体の外観のうち,全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状が公知であることからすれば,それ以外の側面の凹凸部分も,需要者の注意を惹くというべきである。 (5) 小括したがって,本件意匠と被告意匠とは,その美感を異にするものであって,類似しない。 2 結論以上によれば,本件では,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 - 19 -裁判長裁判官谷有恒 裁判官松川充康 裁判官網田圭亮 - 20 -(別紙) 物件目録 別紙被告製品図面記載のステンレス真空マグボトル 判官 網田圭亮 物件目録 別紙被告製品図面記載のステンレス真空マグボトル 以上
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