平成17(行コ)112 退去強制令書発付処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成18年8月31日 大阪高等裁判所 その他 大阪地方裁判所 平成15(行ウ)100
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判決文本文14,067 文字)

- 1 -平成18年8月31日判決言渡平成17年(行コ)第112号退去強制令書発付処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成15年(行ウ)第100号)判決主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人が平成15年10月30日付けで控訴人らに対してした各退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。 第2事案の概要(略語については原判決を踏襲する) 控訴人aは同b及び同cの母親であり,控訴人らはいずれもタイの国籍を有する者であるが,本件は,控訴人a及び同bが,在留期間が満了したのに,在留期間の更新又は変更を受けないで本邦に残留し,また,控訴人cが,本邦で出生したものの,在留資格を取得することなく,60日を経過した後も本邦に在留したため,被控訴人が,法務大臣の委任を受けた大阪入管局長の本件各裁決を受けて,控訴人らに対し,本件各退令処分をしたことから,控訴人らが,その取消しを求めたものである。 原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人らが控訴に及んだものである。 前提事実及び争点は,以下のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄第2「事案の概要」の1及び2(原判決2頁9行目から13頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 - 2 - 当審における控訴人らの主張( ) 法務大臣等の裁量に関して ア原判決は,最高裁判所のマクリーン判決に従い,在留特別許可を付与しないとする法務大臣等の裁決における裁量権行使が,裁量権の範囲の逸脱又は濫用として違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠く場合,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠 従い,在留特別許可を付与しないとする法務大臣等の裁決における裁量権行使が,裁量権の範囲の逸脱又は濫用として違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠く場合,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られる旨説示し,マクリーン判決の判断基準を本件に適用した。 しかし,本件にはマクリーン判決の基準は適用されず,あるいは,同判決は判例変更がされるべきであり,仮に,同判決を前提とするにしても,本件各裁決は,法務大臣等の判断の基礎における事実誤認及び事実に対する評価が,明白に合理性を欠く点が認められるので,原判決は取り消されるべきである。 イマクリーン判決は,国際慣習法を根拠として,外国人が「憲法上,わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではない」と結論づけた。 しかしながら,国際慣習法は,同判決の後,既に相当程度変遷しているものと考えられ,国家の裁量権は,特に一旦入国した外国人を退去強制する場合には,外国人が入国する時点における裁量権とは異なって,一定の制限及び基準に服するとする国際慣習法が既に確立しているというべきである。 実質的にいっても,一旦日本国内において生活した者が,引き続き在留を継続することができるかどうかは,その者及び周囲の者の人格的生存に係る重大な利益に直結するところ,そのような利益が大きければ大きいほど,在留を拒否されることにより被る不利益を正当化する事情が国家側に必要となるのは,比例原則等に照らしても当然のことである。 したがって,マクリーン判決がいう国際慣習法は,少なくとも,一旦適- 3 -法に入国在留した外国人に対して国家が退去強制を行う場面においては,もはや妥当しないものというべきである。 ウまた,マクリーン判決を前提としても,同判決後に批准さ は,少なくとも,一旦適- 3 -法に入国在留した外国人に対して国家が退去強制を行う場面においては,もはや妥当しないものというべきである。 ウまた,マクリーン判決を前提としても,同判決後に批准された「特別の条約」であるB規約や,児童の権利に関する条約は,外国人を自国内に受け入れるかどうかなどを決定する国家の裁量に対する制約根拠になるから,退去強制しようとする国家の裁量に対しても制約根拠となる。 そして,本件において,控訴人らを退去強制することは,控訴人ら及び控訴人の母であるd,同控訴人の異母妹であるeから構成される家族に対する不当な干渉として,B規約17条1項,23条1項上の権利・利益を侵害し,また児童の権利に関する条約3条や,憲法13条,26条等に規定される控訴人らの権利・利益を侵害するものである。このような利益侵害は,控訴人らが国外退去強制されるに当たって行使される法務大臣等の裁量権に対する制約根拠と解すべきである。 エマクリーン判決は,上記のような解釈を当然に認めるものと考えるが,仮に然らざるとすれば,同判決は,時代的要請に対応しなくなったもの,あるいは,慎重な再検討に基づき先例と違った解釈の妥当性を確信するに至ったときに当たるとして,判例変更されるべきである。 オなお,原判決は,退去強制令書発付処分についての主任審査官の裁量権を否定するが,法24条においては,退去を強制することが「できる」と規定されているほか,行政便宜主義及び警察比例の原則からして,公共の秩序維持の観点等から権限行使をする必要のない場合には,たとえ法所定の要件が存在する場合でも,権限行使を抑制すべきであること等から,はじめて退去強制の執行方法や送還先が具体的に指定され,かつ日本国から退去すべき義務が具体的に確定される手続である退去強制令書の発付において 存在する場合でも,権限行使を抑制すべきであること等から,はじめて退去強制の執行方法や送還先が具体的に指定され,かつ日本国から退去すべき義務が具体的に確定される手続である退去強制令書の発付において,退去強制令書を発付するか否か,及び発付するとしていつ発付するかについて,主任審査官に裁量が認められているというべきである。 - 4 -本件では,主任審査官において,上記裁量に逸脱があったので,この点においても本件各退令処分は違法である。 ( ) 本件各裁決の違法性に関して 仮に,マクリーン判決の基準を前提にしたところで,本件各裁決は,以下のとおり「その判断が全く事実の基礎を欠く場合,又は社会通念に照らし,著しく妥当性を欠くことが明らかである場合」に当たり,違法である。そして,退去強制令書発付処分は,在留特別許可に係る法務大臣等の裁決の後行処分として,その違法性を承継するから,本件各退令処分は,本件各裁決の違法性を承継した。また,本件各退令処分は,被控訴人の裁量権濫用又は逸脱でもあり,違法である。 ア控訴人aの入国目的(ア) 原判決の事実誤認原判決は,控訴人aが「日本で子供を出産し,養育したいと考え,妊娠5か月の状態で,内縁の夫f及び原告bと共に長期間滞在する予定で本邦に入国した」と認定し,その理由として「原告aは,dがその娘,gを父親から引き取りたいと希望していることについて相談するために来日したと供述しているが(原告a本人,妊娠5か月の身で,内縁の)夫及び娘と一緒に来日した理由として不自然である上,入国の際に外国人入国記録カードに記載した入国目的(fの妹への訪問)とも異なっていること(乙41)や,その後,大阪入管等に相談することなく,fと共に長期間にわたる不法滞在に至っていることなどに照らしても不合理であり」と説示している 載した入国目的(fの妹への訪問)とも異なっていること(乙41)や,その後,大阪入管等に相談することなく,fと共に長期間にわたる不法滞在に至っていることなどに照らしても不合理であり」と説示しているが,その理由付けには全く説得力がない。 まず,控訴人aがgと会って説得を試みることは,妊娠5か月であっても十分に可能であり,むしろ,同控訴人がgに対する大きな影響力があることを期待して,同人に対する説得を行うことは極めて自然なことである。fの入国目的は判然としないが,それが不法残留目的であった- 5 -としても,それは同人個人の動機にすぎず,同人と共に同控訴人が来日したからといって,同控訴人の上記目的を否定する理由とはならない。 さらに,控訴人bについては,当時の年齢が1歳にも満たなかったことを考えると,母親である控訴人aと共に来日することの方が常識的であり,やはり同控訴人の来日目的を疑わせる理由にはならない。 次に,入国記録カードの「渡航目的」への記載については,通常最も分かりやすく記入しやすい入国目的を記入するのであって,必ずしも入国の主な目的を記載するとは限らない。本件において,控訴人aは,現に入国直後にfの妹の家を訪問したのであるから,単純にそのことを入国記録カードに(日本入国前に)記載したにすぎず,この記載でもって前述した同控訴人の入国目的を否定する根拠とするのは,論理の飛躍も甚だしい。 ,,,第3に外国人が一旦入国した後在留期間を徒過する段階になってその在留期間が延長される見通しがあまりない状態で,入管に相談しても,単に帰国を迫られるだけであり,通常,そのような外国人が入管に相談することは極めてまれである。よって,控訴人aが,大阪入管に相談することなく不法滞在に至った事実から,同控訴人の上記入国目的が不合理だと推認する点も るだけであり,通常,そのような外国人が入管に相談することは極めてまれである。よって,控訴人aが,大阪入管に相談することなく不法滞在に至った事実から,同控訴人の上記入国目的が不合理だと推認する点も,非論理的である。また,同控訴人が,事後,長期間にわたり不法滞在したのは事実であるが,それは「fと共に」行ったものでは全くない。 (イ) 入国目的に関する評価原判決は,控訴人aの入国目的を上記のように認定した上で,それを大阪入管局長の裁量逸脱がなかったことの理由付けとしているが,そもそも外国人が日本に入国する目的は単純明瞭とは限らず,その事実認定にも曖昧な点が残るものである。また,入国時点では在留期間内滞在の目的であったが,入国後に不法残留滞在となったケースと,入国時から- 6 -不法残留目的であったケースとで,在留特別許可の判断において差を設ける実質的根拠はない。 よって,入国目的自体を在留特別許可の判断において重視するのは,社会通念上,著しく妥当性を欠くものといえる。 イ控訴人aの不法就労等について(ア) 不法就労の事実に対する評価原判決は,控訴人aが不法就労をしていたことも,裁量逸脱を否定する一つの根拠としている。しかし,不法残留中の者が就労していることは通常であり,刑事裁判においても,通常,不法残留者に対して,不法,。 残留の事実のみならず不法就労の事実まで併せて起訴することはないそれは,裁判実務上,不法残留という評価の中に,不法就労の評価も事実上組み込まれているからであろう。つまり,不法残留したこと以外に不法就労したことをことさらに強調するのは,到底妥当な立論とはいえない。 理論的にみても,在留特別許可とは,一定の退去強制事由があるにもかかわらず,在留を許可するかどうかの判断であって,仮に在留特別許可の判断に当たって,当 に強調するのは,到底妥当な立論とはいえない。 理論的にみても,在留特別許可とは,一定の退去強制事由があるにもかかわらず,在留を許可するかどうかの判断であって,仮に在留特別許可の判断に当たって,当該退去強制手続を受ける原因となった退去強制事由の存在(本件では不法残留していたこと)自体を不利に考慮するの,。 ,であればそれは論理矛盾である原判決が指摘する不法就労についてその就労が不法性を帯びる所以は,まさに当該就労者(控訴人a)に不法残留状態という身分があったからにほかならない。そうすると,本件において控訴人が不法就労を行っていたことを在留特別許可の判断に当たって不利に考慮するとすれば,それは在留特別許可の判断に当たって不法残留していたこと自体を不利に考慮するのと変わりなく,論理的に間違っている。 日本経団連等は,既に外国人は多数就労し,経済の一部を支えている- 7 -,,として単純労働者を含む外国人労働者の肯定的側面を積極的に評価しその受入れの方向に進んでいるとみるのが正しく(当審提出の甲42,43,この点からも,不法残留の法秩序違反ばかりを強調することは)全く妥当ではない。 また,そもそも在留特別許可の判断において,不法残留中に真面目に勤労していることに比して,不法残留中に就労せずに無為徒食の生活をしていることの方が「素行善良」として,当該外国人にとって有利に働,,くとすればそれは明らかに社会通念から著しくかけ離れた評価であり著しく妥当性を欠くことが明らかである。つまり,控訴人aが,不法残留中に真面目に勤労していた事実は,在留特別許可の判断においては,むしろ同控訴人にとって有利な事実とされるべきである。 (イ) 不法就労あっせんについてまた,原判決は,控訴人aが,dの不法就労あっせん行為に協力していた旨認定すると 在留特別許可の判断においては,むしろ同控訴人にとって有利な事実とされるべきである。 (イ) 不法就労あっせんについてまた,原判決は,控訴人aが,dの不法就労あっせん行為に協力していた旨認定するところ,この事実認定も不当である。同控訴人がタイ人への給料の受渡しに協力していたと疑われることをしたのは,ただの1度だけであるし,その行為も,不法就労あっせん行為を幇助したといえるかどうか極めて疑わしく,起訴猶予という曖昧な決着で終わったものである。しかも,同控訴人の上記行為は,本件各退令処分が行われた後のことであって,同行為を根拠に,大阪入管局長の裁量逸脱の有無を論じる原判決は,論理的にも間違っている。 ウfとの関係について原判決は,控訴人らが,来日後,fが住み込みで働いていた一時期を除き,同人と同居して生活を続けていたと認定したが,不合理な事実誤認である。控訴人らの住居は,あくまで,来日後,ほぼ継続して,控訴人らの現住居(d住居)であった。 fは,平成10年10月に来日してから平成15年夏ころまで,住み込- 8 -みで働き社宅において居住していたのであり,退去強制手続が開始されたのは同年10月であるから,来日してからのほとんどの期間は社宅に居住していたのである。また,社宅に居住していない期間(住み込み期間以外の期間)も,控訴人らは同人と同居していたわけではない。 原判決は,控訴人らとfとの同居の事実に関する控訴人aの入国警備官に対する供述調書(乙14)について,取調官が大声で同控訴人を脅迫したことを否定して,その信用性を肯定しているが,大いに不当である。 エ控訴人aが日本に滞在してdをサポートする絶対的必要性(ア) dの重病及び近時の病状変化dは,平成13年4月ころから,がんの一種であり,5年生存率も5,,0パーセント程度という 当である。 エ控訴人aが日本に滞在してdをサポートする絶対的必要性(ア) dの重病及び近時の病状変化dは,平成13年4月ころから,がんの一種であり,5年生存率も5,,0パーセント程度という重病である悪性リンパ腫を患っていたが近時その症状が悪化し始め現時点において腫瘍の増大のみならず頚,「」,「部にも病変(悪性リンパ腫の転移)が認められるまでになり,ついに」は,平成17年9月29日に腫瘍の摘出手術を行った後,化学療法(いわゆる抗がん剤治療)のため,同年11月から,入院を繰り返しながら治療を施さざるを得ない状態が生じた(甲44,45。同人のこのよ)うな病状の悪化及び入院治療が,本件各裁決及び本件各退令処分時に,既に予測されていた事態であったことはいうまでもない。 同人は,同年12月24日に一旦退院し,その後,病院に短期入院しては,抗がん剤治療を受けることを頻回に繰り返しているところ,平成18年3月末にその治療が一旦は終了した。しかしながら,それで同人の病気が完治したわけではもちろんなく,今後,5年間程度は経過観察及び緩やかな治療を施しながら,がんが再発すれば再び治療を施すこととなる。具体的には,同年4月以降,月に1回程度,血液検査を行いながら,半年に1度は入院して抗がん剤治療を行う予定である。 ところで,抗がん剤治療が患者に極めて大きい肉体的負担を強いるこ- 9 -とは衆知の事実である。そして,同人が上記入院中に家事育児等を一切することができなかったのは当然として,平成17年12月24日の退院後も,極度の肉体的疲労感からほとんどの時間を自宅で寝て過ごしており,家事育児等はすべて控訴人aが行っていた。近い将来において,同控訴人が在留してdへの援助や,小学生のeの世話をする必要性が格段に高まることも,本件各裁決 からほとんどの時間を自宅で寝て過ごしており,家事育児等はすべて控訴人aが行っていた。近い将来において,同控訴人が在留してdへの援助や,小学生のeの世話をする必要性が格段に高まることも,本件各裁決及び本件各退令処分時において明らかであった。 したがって,同控訴人がdをサポートする必要性を一切考慮せず,本件各裁決及び本件各退令処分を行った判断は,事実の基礎を全く欠き,また,人道及び社会通念に大いに反する不当なものであったことが,dの症状悪化によりはからずも立証されたことになる。 (イ) 今後予測される状況dについて,治療が必要な期間中,eが一人で暮らすことは不可能であり,dをサポートし,かつ,eの面倒をみる者がいなければ,dの家庭は崩壊する。控訴人aは,平成15年10月21日から同年12月24日まで入管に収容されていたところ,その当時,dが在宅していたにもかかわらず,eには家事等の負担が極度にのしかかってきたことからして,現時点で,今後,控訴人らが退去強制されると,eにとって大変な事態となることは火を見るよりも明らかである。そして,何より,dをサポートする者がいなければ,同人の入院治療さえできないと医師は述べており(甲44,入院治療ができなければ,がんが進行し,同人)の生命に対する重大な危機が直ちに及ぶことは間違いない。 以上により,控訴人aの在留を否定することは,eら子供の福祉のみ,。 ならずdの生きる権利を真っ向から否定することに等しいことになる(ウ) 今後の苦境を救うことができるのは控訴人a以外にいないこと,,()dはタイにおいては現在の病状を治療することができず前夫h- 10 -と離婚しているから,日本でdをサポートできるのは,控訴人a以外には考えられない。 原判決は,控訴人aによる介護の必要性を認めない理 においては現在の病状を治療することができず前夫h- 10 -と離婚しているから,日本でdをサポートできるのは,控訴人a以外には考えられない。 原判決は,控訴人aによる介護の必要性を認めない理由として,eの同居を挙げるが,本件各裁決当時,10歳(現在12歳)である同人に介護を強いるかのような判断が不当であることは,火を見るよりも明らかである。 また,原判決は,dと元の夫(i)との間のgが,dの介護をしうるかのような信じ難い事実誤認をしているが,dは,iとは,gとの面接交渉を巡って家庭裁判所で争ったほどの仲であり,現在gは対立するi側の庇護のもとにあること,gは,長年dと同居しておらず,同人を嫌っていることを原判決は無視しているのであり,gがdを適切にサポートできるなどということがあるわけがない。 オその他の点原判決は,以下の点についても,事実を誤認し,またその評価を誤っている。 (ア) 子らの福祉等の観点控訴人らが退去強制処分を受けてタイに送還されるとなると,eにとっては,面倒見のよい控訴人aを失い,妹のようにかわいがっていた控訴人bと同cも失うことになる。その上,病弱なdによる扶養も満足には期待できないのであるから,今後のeの生活に大きな不安が襲いかかることになる。それどころか,dの介護や家事等にかかるeの負担は極度に大きくなる。 また,控訴人bと同cにしても,既に日本の小学校に通っており,同控訴人らは日本で育ち,日本語しか話せないため,タイに帰国しても全く適応することができないであろうし,既にできた多くの日本の友人を失うこととなる。 - 11 -つまり,子供らの福祉の観点からしても,控訴人らの退去強制は人道上許されないものである。 (イ) タイでの生活が不可能なこと控訴人らは,現在タイにおいて,自宅を差し押さえられ失 なる。 - 11 -つまり,子供らの福祉の観点からしても,控訴人らの退去強制は人道上許されないものである。 (イ) タイでの生活が不可能なこと控訴人らは,現在タイにおいて,自宅を差し押さえられ失っており,帰る家もなければ,資産もない。また,fは,既にタイに強制送還されているが,同人には甲斐性がない上に,控訴人aとも折り合いが悪く,同控訴人としては時折,子供らを会わせる程度の相手でしかない。さらに,同控訴人の父親である人物は,現在,行方不明である。すなわち,控訴人らがタイに帰国しても,路頭に迷うだけである。 カ条約及び憲法違反の点前記( )において述べた法務大臣等の裁量に対する制約根拠である条約 及び憲法上の権利・利益に対する侵害につき,以上の事実関係を踏まえ,整理すると,以下のとおりである。 (ア) eに対する権利侵害・不利益eは,日本人であって,憲法上の人権享有主体であり,日本が批准した各種条約上の権利を享有する主体であるところ,同人を実質的に監護する控訴人a及びその子らを国外退去させることは,eから監護者及び家族・親族との幸福な暮らしを奪うことになるし,eに対しdへの介護等といった過度の負担をかけることになり,その結果,eの学習も不十分なものとならざるを得ないのであるから,本件各裁決及び本件各退令処分は,同人の有する個人の尊厳及び幸福追求権(憲法13条)並びに教育を受ける権利(憲法26条)を侵害し,B規約17条1項及び23条1項の権利をも侵害することになるほか,児童の権利に関する条約3条にも反することになる。 (イ) dに対する権利侵害・不利益dは,日本国内において合法的に居住する者であり,憲法及び各種条- 12 -約上の諸々の権利を有する者であるところ,控訴人らが国外に退去強制されることにより,悪性リンパ腫を患うd 権利侵害・不利益dは,日本国内において合法的に居住する者であり,憲法及び各種条- 12 -約上の諸々の権利を有する者であるところ,控訴人らが国外に退去強制されることにより,悪性リンパ腫を患うdは,自己を介護・援助する者を失うことになるし,また,わが子及びわが孫らと共に送ってきた幸せな生活も奪われることになるから,本件各裁決及び本件各退令処分は,個人の尊厳や幸福追求権(憲法13条)を侵害するものであり,さらにはB規約17条及び23条にも反する。 (ウ) 控訴人らに対する権利侵害・不利益基本的人権が日本に在留する外国人に対しても保障されることは,マクリーン判決の前提でもあるところ,控訴人らは,日本国内においてdやeらと共に幸せな生活を送ってきた。そして,控訴人aは,母親であるdをサポートしたり,その子eの面倒を見たりしてきており,控訴人b及び同cは順調に教育を受けてきたが,控訴人らが退去強制されるこ,,とにより控訴人らが日本で築いてきた生活は一瞬にして破壊されるし特に控訴人aは重病を患う母の面倒をみることができなくなるのであるから,本件各裁決及び本件各退令処分は,憲法13条,並びにB規約17条及び23条に反することは,dやeの場合と同じであり,さらに,控訴人b及び同cにとって,慣れ親しんだ日本での生活・日本語での学習・友人や教師等の同人を取り巻く環境を激変させるものであり「最,善の利益(児童の権利に関する条約3条)を考慮するものでないこと」は,火を見るよりも明らかである。 その上,上記のようなe及びdが受ける権利侵害及び不利益は,同人らにとってのみならず,控訴人らにとっても重大な不利益となる。 ( ) 以上のとおり,原判決は,第1に,法務大臣等の裁量権濫用又は逸脱に関 (),して適用されるべき基準マクリーン判決の基準 人らにとってのみならず,控訴人らにとっても重大な不利益となる。 ( ) 以上のとおり,原判決は,第1に,法務大臣等の裁量権濫用又は逸脱に関 (),して適用されるべき基準マクリーン判決の基準を誤って解釈しているし第2に,仮に,同判決の基準を前提にしても,本件各裁決等における裁量権行使は「その判断が全く事実の基礎を欠く場合,又は社会通念に照らし著,- 13 -しく妥当性を欠くことが明らかである場合」に当たり,裁量権濫用又は逸脱となって違法である。 第3当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人らの被控訴人に対する請求は,いずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり当審における判断を付加するほかは,原判決が「事実及び理由」欄第3「争点に対する判断」の1ないし3(13頁22行目から18頁7行目まで)に認定・説示するとおりであるから,これを引用する。 ,,,, 控訴人らは原判決がマクリーン判決に従い原判決認定の事実からみて本件各裁決に裁量権の濫用又は逸脱があったものと認めることはできないと判断したことを非難し,国家の裁量権は,一旦入国した外国人を退去強制する場合には,一定の制限及び基準に服するとする国際慣習法が既に確立しているというべきであり,あるいは,同判決そのものが判例変更されるべきである旨主張する。 しかしながら,外国人の地位や権利及び在留期間更新の許否についての裁量権の範囲に関してマクリーン判決が述べた判示が,在留特別許可についての裁量権についても妥当すること,同判決の言渡し後に発効したB規約や児童の権利に関する条約が,法務大臣等の裁量権に対する独自の制約根拠になるものではないことは,いずれも原判決の説示するとおりであり,それらの条約が,同判決にいう「特別の条約」に当たるというこ 規約や児童の権利に関する条約が,法務大臣等の裁量権に対する独自の制約根拠になるものではないことは,いずれも原判決の説示するとおりであり,それらの条約が,同判決にいう「特別の条約」に当たるということはできないし,同判決を変更するべき時勢の変遷があったものということもできない。 なお,主任審査官が退去強制令書を発付するについて裁量権を有するものでないことも,原判決(18頁2行目の「原告らは」から同頁7行目まで)の,説示するとおりである。 控訴人らは,本件各裁決及び本件各退令処分について,その判断が全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであ- 14 -るとして,縷々主張するが,これがいずれも採用できないことは,以下のとおり当審の判断を付加するほか,原判決の前記説示(14頁20行目から18頁7行目まで)のとおりである。 ( ) 控訴人らは,控訴人aが入国当初から長期滞在を目的としたものではない 旨主張するが,原判決の上記認定事実に加え,控訴人aが,平成15年10月21日,大阪入管入国警備官に対し,来日目的について「子供たちに日,本の学校教育を受けさせたい「日本では,たとえお金を払えなくても,中」学校までは誰もが教育を受けることができるという公的な支援のシステムがあるので,一家で日本に移り住もうと考えて日本に来た」と供述しているこ(),。 とに照らしても乙14控訴人らの上記主張は採用することができない( ) 控訴人らは,控訴人aが不法就労していたことを,在留特別許可を付与し ないことの理由とするのは論理矛盾である旨主張する。しかして,同控訴人が,入国後,不法に就労していたことは,同控訴人が自認するところ,就労していること自体が無為徒食の生活者よりも悪く評価されることはないとしても,わ るのは論理矛盾である旨主張する。しかして,同控訴人が,入国後,不法に就労していたことは,同控訴人が自認するところ,就労していること自体が無為徒食の生活者よりも悪く評価されることはないとしても,わが国の入国管理行政や労働行政の観点から,不法就労は,合法的な職業に真面目に従事していたとしても,独自に犯罪として処罰の対象となるのであり(法73条,不法残留と不法就労とが,社会的事象として,表裏)一体の関係に立つことが多いからといって,在留特別許可を付与するか否かを判断するについて,不法就労の事実を斟酌することが,裁量権の濫用や逸脱となって違法となるものではない。 また,控訴人らは,控訴人aが,dの不法就労あっせん行為に協力したのは,本件各退令処分の後であったにもかかわらず,同行為を根拠に,大阪入管局長の裁量逸脱の有無を論じる原判決は論理的にも間違っていると主張するが,処分後の事情であっても,判決において処分の適否を判断する上での事実と密接に関連する事情であれば,それを斟酌することは,必ずしも違法ということはできないから,控訴人らの上記主張は採用しない。 - 15 -( ) 控訴人らは,来日後,ほぼ全期間,d住居に居住しており,fと同居して いたことはないのに,同人が住み込みで働いていた一時期を除き,同人と同,,,居していたと認定した原判決には事実誤認がある旨主張するが原判決は控訴人aの入国警備官に対する上記供述(乙14)に基づいて,上記のとおり認定したものであるところ,仮に,控訴人らとfとの同居期間が短いものであったとしても,同控訴人の供述によると,控訴人らとfとが,在留中においても内縁の夫婦及び実父子としての緊密な生活関係を維持していたことが優に認められるのであるから,控訴人らのいう事実誤認が本件各退令処分の違法性の判断に影響 述によると,控訴人らとfとが,在留中においても内縁の夫婦及び実父子としての緊密な生活関係を維持していたことが優に認められるのであるから,控訴人らのいう事実誤認が本件各退令処分の違法性の判断に影響するものとはいえない。 ( ) 控訴人らは,dが,かねてから悪性リンパ腫に罹患していたところ,その 症状が悪化して,平成17年9月29日に腫瘍の摘出手術を行うところとなり,同年11月からは,化学療法(いわゆる抗がん剤治療)のため,入院を繰り返しながら治療を施さざるを得ない状態となったため,今後は,dのサポートと,eの負担の軽減のために,控訴人aにおいて,dの介護を必要とすることになったが,同人のこのような病状の悪化及び入院治療は,本件各裁決及び本件各退令処分時には予測されたものであったから,このような事情を考慮しなかった各処分は違法であると主張する。 しかしながら,原判決の前記認定事実に加え,証拠(当審提出の甲50,51の1,2,乙58,59)によると,dは,平成14年4月に発見された悪性リンパ腫につき,平成18年3月末日までに,短期入院を伴う化学療法を一旦終了しており,その後は平成19年秋ころまで,半年に1回程度,2日ほどの短期入院による化学療法(あと3回)を行う予定であること,同人は,上記化学療法が非常によく効いており,平成18年4月ころは寛解状態にあるとされていること,悪性リンパ腫そのものは,ほとんど痛みや体調不良を感じない病気であっても,化学療法を行うと,その副作用により,個人差があるものの,ほとんどの患者は体調が悪くなり,副作用のひどい場合- 16 -は寝込むことがあるが,寝たきりとなって介護を必要とするケースはまれであること,悪性リンパ腫は,非常にゆっくり進行する病気であり,今後10年間は定期的な通院が必要で,血液検査等を行う - 16 -は寝込むことがあるが,寝たきりとなって介護を必要とするケースはまれであること,悪性リンパ腫は,非常にゆっくり進行する病気であり,今後10年間は定期的な通院が必要で,血液検査等を行う必要があるが,検査によって化学療法のような副作用を引き起こすことはないことが認められる。そして,同人については,C型慢性肝炎,高血圧症,変形性頚椎症・腰椎症等の持病が悪化したと認める事情にもない。 上記事実によると,dについては,今後,控訴人aが必ず在留を継続して介護を行わなければならない事情があるとは認められないというべきである。dの主治医作成の診断書(甲8ないし10,当審提出の甲44)も上記の判断を左右しない。 そして,dは,緊急の際には,姪であるjや,既に成人した実の娘であるgの援助を受けることも不可能ではないと考えられること(甲49,乙43,被控訴人の主張によると,控訴人らが退去強制されれば,原則として)5年間は本邦に入国することはできないが,仮に,dの状態が悪化して,真実,同人の生活を支援するために,控訴人aが本邦に入国しなければならない状況にあることが認められれば,同控訴人が退去強制されて5年を経過することなく,本邦に入国することができる可能性があることが窺えることに照らすと,dの上記病状を理由に本件各裁決が違法となるということはできない。 ( ) その他,控訴人らが退去強制されることによるタイでの生活上の不便,控 訴人b及び同cが,eや友人と離別することによる精神的苦痛等,その余の控訴人らの主張する事情を考慮しても,本件各退令処分が違法となるものではないことも,原判決の前記説示のとおりである。 よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判 違法となるものではないことも,原判決の前記説示のとおりである。 よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第5民事部- 17 -裁判長裁判官大和陽一郎裁判官菊池徹裁判官市村弘

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