判決平成13年10月24日神戸地方裁判所尼崎支部平成13年(わ)第84号,第252号,第306号,第478号建造物侵入,現住建造物等放火,住居侵入被告事件 主文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 神戸地方検察庁尼崎支部で保管中のライター1個(平成13年領第97号の1)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,運送会社に勤務していた平成8年12月ころから,大阪市内で知人女性と同棲していたが,平成9年5月ころ,理由も告げずに同女が出て行ったため精神的に落ち込み,就労意欲を喪失して無為徒食の生活を続ける中,借金を重ね,同年12月,転職して再び稼働し始めたものの,平成11年4月ころから,勤務先が倒産するとの不安を感じ,気持ちの晴れない日々を送っていたところ,酒に酔った勢いで判示第1の放火を敢行した際,共同住宅が激しく燃え周囲が騒然とするのを見て,心の憂さが晴れるのを感じ,以後その快感が忘れられず連続して放火するようになり,判示第2ないし第4の放火に及んだ。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成11年12月15日午前1時45分ころ,兵庫県尼崎市a町b丁目c番地所在の木造・軽量鉄骨造セメント瓦スレート葺2階建共同住宅(床面積合計約900.94平方メートル)に放火しようと企て,Aほか26名が現に住居に使用し,現に同人ら21名がいる同共同住宅の南側無施錠の玄関から同共同住宅内に侵入し,同共同住宅北側部分の通称「B荘」内1階階段下に積み重ねられていたダンボール箱等に被されていたビニールシートに,所携のライター(神戸地方検察庁尼崎支部平成13年領第97号の1)で点火して火を放ち,その火を 住宅北側部分の通称「B荘」内1階階段下に積み重ねられていたダンボール箱等に被されていたビニールシートに,所携のライター(神戸地方検察庁尼崎支部平成13年領第97号の1)で点火して火を放ち,その火を同階段等を経て,Aらの居住部分等に燃え移らせ,よって,同共同住宅のうち約398.04平方メートルを焼損し,第2 平成12年7月9日午前3時ころ,同市a町d丁目e番地所在の木造瓦葺2階建9戸1棟の店舗兼住宅(床面積合計約482.34平方メートル)に放火しようと企て,Cほか3名が現に住居に使用し,現に同人ら4名がいる同店舗兼住宅のD方1階部分に保管中の可燃物に,所携の同ライターで点火して火を放ち,その火をD方を経て,Cらの居住部分等に燃え移らせ,よって,同店舗兼住宅を全焼させ,これを焼損し,第3 平成13年1月12日午後11時47分ころ,同市f町g丁目h番地所在の木造スレート葺2階建1棟5軒長屋(床面積合計約384.36平方メートル)に放火しようと企て,Eほか2名が現に住居に使用し,現に同人ら3名がいる同長屋のFが看守する東端から2軒目倉庫内に,腰高窓の木製格子を外し,無施錠のその窓から侵入し,板間に積み上げられていたダンボール箱に,所携の同ライターで点火して火を放ち,その火を同室の柱,天井板等を経て,Eらの居住部分等に燃え移らせ,よって,同長屋のうち約198.74平方メートルを焼損し,第4 同月13日午前3時20分ころ,同市i町j丁目k番地所在の木造瓦葺2階建事務所併用住宅(床面積合計約233.39平方メートル)及び木造瓦葺平家建住宅(床面積合計約51.95平方メートル)に放火しようと企て,Gが現に住居に使用し,現にいる同平家建住宅の敷地内に,南側フェンスを外して侵入し,Hほか1名が現に住居に使用し,現に同人ら2名がいる同事務所併用住宅の南 51.95平方メートル)に放火しようと企て,Gが現に住居に使用し,現にいる同平家建住宅の敷地内に,南側フェンスを外して侵入し,Hほか1名が現に住居に使用し,現に同人ら2名がいる同事務所併用住宅の南側壁面と同壁面に立て掛けてあった板の間に,所携の新聞紙をねじ込み,所携の同ライターで同新聞紙に点火して火を放ち,その火を同壁面等を経て,Hら及びGの居住部分等に燃え移らせ,よって,同事務所併用住宅のうち約161.22平方メートル及び同平家建住宅全部を焼損したものである。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用) 1 該当法条(1) 判示第1,第4の各所為のうちア住居侵入の点につき刑法130条前段イ現住建造物等放火の点につき刑法108条(2) 判示第2の所為につき刑法108条(3) 判示第3の所為のうちア建造物侵入の点につき刑法130条前段イ現住建造物等放火の点につき刑法108条 2 科刑上一罪の処理(1) 判示第1,第4の各所為につき刑法54条1項後段,10条(住居侵入と現住建造物等放火との間には手段結果の関係があるので,1罪として重い現住建造物等放火の罪の刑で処断する)(2) 判示第3の所為につき刑法54条1項後段,10条(建造物侵入と現住建造物等放火との間には手段結果の関係があるので,1罪として重い現住建造物等放火の罪の刑で処断する) 3 刑種の選択(判示第1ないし第4の各現住建造物等放火の罪について)有期懲役刑 4 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示 ) 3 刑種の選択(判示第1ないし第4の各現住建造物等放火の罪について)有期懲役刑 4 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1の現住建造物等放火の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をする) 5 未決勾留日数の算入刑法21条 6 没収刑法19条1項2号,2項本文(ライター1個[神戸地方検察庁尼崎支部平成13年領第97号の1]は判示第1の現住建造物等放火の用に供した物で,被告人以外の者に属しないから,これを没収する) 7 訴訟費用の処理刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,共同住宅等に侵入するなどして連続して火を放った事案である。 自ら放った火で,現に人の住む建物が大火を出して燃え上がり,逃げまどう住人や消火活動に奔走する消防隊員等で周囲が騒然とするのに快感を覚え,借金や勤務先の業績悪化等の日ごろの憂さを晴らすため連続放火した動機は,自己中心的かつ短絡的であり,全く酌量の余地がない。大規模な火災を発生させるために燃焼しやすい建材で出来た共同住宅等を物色して回り,夜陰に乗じて侵入し,室内灯や日常の様子等から住人がいることを知しつしながら,ためらうことなくダンボール箱等の可燃物にライターで火を点けて建物に燃え移らせ,素早く逃走した後,通行人を装って燃焼状況を見るため現場に戻り愉悦に浸っており,犯行態様は悪質である。 本件各犯行により,2棟の建物を全焼,3棟を半焼させるなど,合計1000平方メートルを超す焼損面積の大きな火災を発生させたばかりか,第1の犯行にあっては,逃げ遅れた住人1名が激しい火災で焼死するという痛ましい結果を生じさせており,何らの落ち度もなく50歳に満たない壮年の身で命を奪われた本人の無念さはもとより,そ せたばかりか,第1の犯行にあっては,逃げ遅れた住人1名が激しい火災で焼死するという痛ましい結果を生じさせており,何らの落ち度もなく50歳に満たない壮年の身で命を奪われた本人の無念さはもとより,その実母の悲嘆にも深いものがある。幸にして命までは奪われなかったものの,住居を焼かれた被災者の数は36人にも及び,その中には高齢者や病を患っていた者もいたのであり,その被った恐怖や喪失感は大きく,一様に処罰感情は厳しい。経済的な損害を見ても,建物及び家財道具等の動産につき多額の損害が発生しており,火災保険が付されていな物件も少なくなく,被害回復は十分になされていない。このような甚大な結果にもかかわらず,被告人からは被害弁償がなく,無資力のため将来なされる見通しもない。本件各犯行はいずれも住宅密集地において敢行された危険極まりないものであり,各所在地は比較的近隣にあり,周辺住民に与えた不安も大きいものがある。被告人は,本件各犯行を含めわずか1年余りの間に19件の放火を行ったと自認しており,その常習性は顕著であって,放火事犯に対する規範意識は著しく低下している。 以上のとおり,被告人の刑事責任は重大であって,第3の犯行以外につき余罪を含め自主的に供述していること,社会奉仕活動により罪を償うと誓うなど反省の情が認められること,前科がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情を考慮しても,主文の刑に処するのが相当である。 (求刑懲役18年)平成13年10月24日神戸地方裁判所尼崎支部裁判長裁判官鈴木正義裁判官三上孝浩裁判官西村修 裁判官 三上孝浩 裁判官 西村修
▼ クリックして全文を表示