令和7年6月16日判決言渡令和7年(ネ)第10008号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70512号)口頭弁論終結日令和7年5月7日判決 控訴人株式会社リスクベネフィット 同訴訟代理人弁護士末 啓一郎同那須健人 被控訴人ラスティック東日本ことY同訴訟代理人弁護士中辻慎一 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙方法目録記載の方法を使用してはならない。 3 被控訴人は、控訴人に対し、4800万円及びこれに対する令和5年9月18日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替え る。) 1 本件は、発明の名称を「故人及び/又は動物の放置された部屋の消臭方法」とする特許(特許第6889954号、本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控訴人は原判決別紙方法目録記載の方法(本件方法)を使用しており、本件方法は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものであって、被控訴人による本件方法の 使用は本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、特許法100条1項に基づき、本件方法 範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものであって、被控訴人による本件方法の 使用は本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、特許法100条1項に基づき、本件方法の使用の差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、4800万円及びこれに対する不法行為の後である令和5年9月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、被控訴人が実施したと認められる清掃作業(本件清掃作業)は、本件発明の構成要件の一部(構成要件C及びE)を充足していないから、本件発明の技術的範囲に属するとは認められず、その他被控訴人が本件方法を実施していることを認めるに足りる証拠はないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人が原判決を不服として控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に係る当事者の主張は、後記3のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」(以下、「事実及び理由」の記載を省略する。)第2の2ないし4(2頁2行目から9頁8行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人の補充主張 汚物を構成するもののうち、体液や尿は液体であるし、糞も水分を含んでいる点において液体と同視できる。そのような液体状の汚物は、木部など液体を吸収する部材に付着すると、そのまま浸透してしまい、表面を拭いただけでは除去することができない。本件物件のような特殊清掃作業を要する現場では、故人の遺体が腐乱した状態で長期にわたり放置されるケースが大半であること、 また、遺体搬出に際し、遺体からこぼれた体液が敷居滑りに付着することから、 本件物件における汚物の付着、浸透具 、故人の遺体が腐乱した状態で長期にわたり放置されるケースが大半であること、 また、遺体搬出に際し、遺体からこぼれた体液が敷居滑りに付着することから、 本件物件における汚物の付着、浸透具合は、より顕著であったと捉えるのが自然である。 そこで、これに対処するために、汚物の付着した箇所を解体する解体作業(構成要件C)によって汚物の付着した箇所を物理的に除去するほか、オキシライトPRO(甲24)を用いた洗浄作業を行う。しかし、オキシライトPROは、 表面に付着した汚物を洗浄するものであるため、解体作業により表層に露出した汚物を除去しきれない場合があり、木部に浸透してしまった汚物は洗浄後も残存する場合があるが、汚物が染み込んだ根太や下地などの解体をするとその後のリフォーム費用がかさんでしまうので、汚物が残存する箇所を専用塗料で塗布することで臭気の素を塞ぎ込むことにより、消臭の費用対効果を上げる。 被控訴人は、Aへの作業報告(甲13)において、「巾木は撤去」、「オキシライトpro による洗浄」に続けて「コーティング処理二回」、「洋間の間仕切り建具の敷居滑り撤去」、「オキシライトpro による体液洗浄」に続けて「コーティング処理二回」としている。このコーティング処理は、「オゾン燻蒸作業後に、前記解体作業で露出した汚物の残存する箇所を塗料で覆う被膜作業」に該当す る行為であり、その対象箇所は汚物清掃作業(構成要件B)や解体作業(構成要件C)を経てもなお、汚物が残存する箇所である。換言すると、被控訴人の作業実施前に拭き掃除程度の清掃が既に行われていた(甲23)ものの、汚物が付着し染み込んでいた状況に変わりなかったからこそ、被控訴人は、トイレ巾木や洋間の間仕切り建具の敷居滑りを「撤去」して「オキシライトpro によ 清掃が既に行われていた(甲23)ものの、汚物が付着し染み込んでいた状況に変わりなかったからこそ、被控訴人は、トイレ巾木や洋間の間仕切り建具の敷居滑りを「撤去」して「オキシライトpro によ る洗浄」を行ったのに加え、なお汚物の残存を確認し「コーティング処理二回」に及んだのである。 また、被控訴人が、見積段階からコーティング処理を作業項目に計上し(甲3)、実際にコーティング処理に及んだのは、洋間の敷居滑り及びトイレといった汚物の付着した箇所を撤去したとしても、「前記解体作業で露出した汚物の 残存する箇所」(構成要件E)が存在するであろうと見積段階で予見し、実際に 撤去してみたところ当初予見したとおり汚物が存在していたため、オキシライトPROによる洗浄作業を実施するも、汚物を完全に除去することができなかったからにほかならない。 このように、「洋間の敷居滑り及びトイレにおいて『部屋の柱、梁、土台、骨組み等』の表層に露出している箇所に汚物が残存していたこと」は、被控訴人 の作業見積り(甲3)及び作業報告書(甲13)からも認定できる事実であるにもかかわらず、原判決はこれを看過し、上記事実を認めるに足りる証拠はないと、誤った認定をしたものである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判 断する。その理由は、後記2のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決第3(9頁9行目から15頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 原判決の補正⑴ 原判決13頁10行目の「洋間の敷居滑り」の後に「(『敷居滑り』とは、 敷居の滑りを良くするために敷居に貼るテープをいう。被控訴人の主張〔前記第2の4 れを引用する。 2 原判決の補正⑴ 原判決13頁10行目の「洋間の敷居滑り」の後に「(『敷居滑り』とは、 敷居の滑りを良くするために敷居に貼るテープをいう。被控訴人の主張〔前記第2の4⑶(被控訴人の主張)イ〕参照。)」を加える。 ⑵ 原判決13頁18行目の「(敷居滑りを含む。)」を「(敷居を含む。)」に改める。 ⑶ 原判決14頁11行目冒頭から同頁17行目末尾までを次のとおり改める。 「しかし、仮に、被控訴人が洋間の敷居滑りの箇所及びトイレにおいて構成要件Cの『解体作業』に該当する作業を行ったとしても、本件清掃作業の際に、この作業により洋間の敷居滑り及びトイレにおいて露出した箇所(これは、解体作業により表層に露出させられた、『部屋の柱、梁、土台、骨組み等』の表層に露出した箇所に該当すると認められる。)に汚物が残存していたこ とを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人が、本件清掃作業の 中で、洋間の敷居滑りを撤去した箇所やトイレにおいて、当該箇所を塗料で覆う被覆作業をしたとしても、この作業が『前記解体作業で露出した汚物の残存する箇所を塗料で覆う被覆作業』(構成要件E)に該当するとは認められない。」⑷ 原判決14頁21行目から22行目にかけての「本件清掃作業は、少なく とも本件発明の構成要件C及びEを充足しない」を「本件清掃作業は、少なくとも本件発明の構成要件Eを充足しない」に改める。 3 当審における控訴人の補充主張に対する判断控訴人は、前記第2の3のとおり、被控訴人が見積段階からコーティング処理を作業項目に計上していたことは、被控訴人が、洋間の敷居滑り及びトイレ といった汚物の付着した箇所を撤去したとしても、「前記解体作業で露出した汚物の残存する箇所」(構成要件E)が存在するで 理を作業項目に計上していたことは、被控訴人が、洋間の敷居滑り及びトイレ といった汚物の付着した箇所を撤去したとしても、「前記解体作業で露出した汚物の残存する箇所」(構成要件E)が存在するであろうと見積段階で予見していたことを示しており、本件清掃作業においてオキシライトPROによる洗浄作業及びコーティング処理が実施されたことは、実際に上記箇所を撤去したところ汚物が残存していたことを示すものであって、「洋間の敷居滑り及びトイ レにおいて『部屋の柱、梁、土台、骨組み等』の表層に露出した箇所に汚物が残存していたこと」を認定しなかった原判決は誤りであると主張する。 しかし、見積り段階からコーティング処理が作業項目に計上されていたとしても、清掃作業においてコーティング作業が必要となると被控訴人が予測していたことを示すものにすぎず、本件物件内の洋間の敷居滑りやトイレにおいて、 解体作業によって露出した箇所に汚物が残存していることを、被控訴人が作業前に予測していたと推認することはできず、上記箇所において解体作業によって露出した箇所に汚物が残存していたと認定することもできない。 また、被控訴人が、本件清掃作業において、オキシライトPROという商品名の過酸化水素水を清掃作業において使用したことは認められるが(甲13、 24)、故人の放置された部屋の特殊清掃作業にオキシライトPROを用いる としても、解体作業によって露出した箇所に汚物が残存していた場合にのみこれが用いられるとは認められず、かつ、被控訴人が、本件清掃作業において、表層部分の解体作業によって露出した箇所に汚物が残存していた箇所を選択してこれらの作業を実施したとも認められないから、被控訴人が本件清掃作業においてオキシライトPROを用いた作業を実施したことをもって、 部分の解体作業によって露出した箇所に汚物が残存していた箇所を選択してこれらの作業を実施したとも認められないから、被控訴人が本件清掃作業においてオキシライトPROを用いた作業を実施したことをもって、解体作業に よって露出した箇所に汚物が残存していたと推認することはできない。 控訴人は、敷居滑りのテープの上に、魚と肉を置いてしばらく放置したところ、テープの下に魚や肉の体液が浸透したとする実験結果の報告書を提出している(甲25)。しかし、本件物件において、居住者の遺体は洋間の中央部付近に存在していたものであり(原判決第2の2⑷ア)、洋間の敷居滑りの箇所に遺 体が存在していた事実はない。控訴人は、遺体搬出に際し、遺体からこぼれた体液が敷居滑りに付着すると主張するが、遺体搬出に際して遺体から体液がこぼれて敷居滑りに付着する蓋然性が高いと認めるに足りる証拠はなく、本件物件の居住者の遺体搬出に際して、その体液がこぼれて洋間の敷居滑りに付着したとも認められない。 本件清掃作業に先立って控訴人が本件物件の清掃を行った際、トイレの表層部分に汚れが付着していたが(甲18、19)、被控訴人がトイレの表層部分の解体作業をしたと認められるとしても、この解体作業により露出した箇所に、表層部分より中に浸透するなどした汚物が残存していたと認めるに足りる証拠はない。 したがって、「洋間の敷居滑り及びトイレにおいて『部屋の柱、梁、土台、骨組み等』の表層に露出した箇所に汚物が残存していたこと」を認めるに足りる証拠はなく、これと同旨の原判決の判断は相当であり、控訴人の上記主張は採用することができない。 4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判 断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 5 結論 主文 あり、控訴人の上記主張は採用することができない。 理由 4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 5 結論以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官中平健 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則
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