主文 被告人を死刑に処する。 京都地方検察庁で保管中の柳刃包丁6本(令和3年領第205号符号7及び9から13まで)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 京都市伏見区内の株式会社AアニメーションBスタジオに放火してアニメーション制作のために働いている多数の従業員を殺害しようと計画し、令和元年7月18日午前10時30分頃、同社代表取締役Cが看守する上記スタジオ内に正面出入口から侵入した上、1階中央フロアにおいて、バケツに入れたガソリン相当量を従業員らの身体及びその周辺に浴びせ掛け、同ガソリンにガスライターで点火して火を放ち、よって従業員70名が現にいる上記スタジオ(鉄筋コンクリート造陸屋根3階建、床面積合計約691㎡)を全焼させるとともに、別表1記載のとおり、同日から同年10月4日までの間に、上記スタジオほか3か所において、「被害者氏名」欄記載の36名を「死因」欄記載の各死因により死亡させて殺害し、別表2記載のとおり、「被害者氏名」欄記載の34名については、上記スタジオから脱出したため、そのうち32名に「受傷結果」欄記載の各傷害を負わせたにとどまり、殺害するに至らず、第2 業務その他正当な理由による場合でないのに、同年7月18日午前10時30分頃、前記スタジオ前路上において、柳刃包丁6本(刃体の長さそれぞれ約23.9cm、約24.4㎝、約21.5㎝、約21.4㎝、約24.5㎝及び約21.5cm)を携帯した。 (争点に対する判断)第1 本件の争点等関係各証拠によれば、被告人が判示各犯行(以下「本件犯行」という。)に及んだことが認められる。本件の主な争点は、本件犯行当時の被告人の責任能力の有無 及び程度、すなわち、本件犯行当時、被告人が心神喪失又は心神耗弱の状態 判示各犯行(以下「本件犯行」という。)に及んだことが認められる。本件の主な争点は、本件犯行当時の被告人の責任能力の有無 及び程度、すなわち、本件犯行当時、被告人が心神喪失又は心神耗弱の状態ではなかったか否かである。当裁判所は、被告人は、本件犯行当時、心神喪失の状態にも心神耗弱の状態にもなかったと判断したので、以下、その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 前提事実の認定関係各証拠によれば、被告人の生活歴、犯行に至る経緯や犯行状況等について以下の事実が認められる(被告人の妄想の内容も含む。)。 ⑴ 幼少期から少年期被告人は、昭和53年、浦和市(当時)で三人きょうだいの次男として出生した。 昭和62年に両親が離婚した後は、父、兄及び妹と共に生活していた。父からは、お前は将来大物になるかこじきになるかどちらかだなどと何度も言われて育てられる一方、中学2年生の頃まで、ほうきの柄でたたかれるなどの暴力や、柔道大会で準優勝してもらった盾を燃やすように言われるなどの身体的・心理的虐待を受けていた。中学2年生の頃には、経済的な困窮を理由として転居したが、きょうだいのうち被告人のみが、転居に伴い中学校の転校を余儀なくされ、転校後の中学校は不登校となり、フリースクールに通った。 ⑵ 定時制高校、専門学校時代被告人は、平成6年、浦和市内の定時制高校に入学し、埼玉県庁やガソリンスタンド等でアルバイトをしながら、四年制の定時制高校を皆勤で卒業した。平成10年、東京都内の専門学校(コンピューターミュージック科)に入学し、実家を離れて新聞専売所に住み込みで働きながら通学したが、授業の進度が遅いこと等に不満を持ち半年後に退学した。 ⑶ コンビニエンスストア勤務時代被告人は、専門学校退学後、実家に戻ったが半年程で一人暮らしを始め、平成 住み込みで働きながら通学したが、授業の進度が遅いこと等に不満を持ち半年後に退学した。 ⑶ コンビニエンスストア勤務時代被告人は、専門学校退学後、実家に戻ったが半年程で一人暮らしを始め、平成18年頃まで、埼玉県内の複数のコンビニエンスストアでアルバイトをした。その中で、被告人が真面目に働けば働くほど、店長や同僚が仕事をサボり、被告人に仕 事を押し付けるようになったり、被告人が勝手に従業員を辞めさせていると同僚から店長に告げ口をされ、退職を余儀なくされたり、同僚が自分を無視してきたことから、無視を仕返して辞めさせたりしたこと等があった。また、同僚が仕事をしないので、腹を立ててパイプ椅子をステンレス製の引き出しにぶつけたり、その同僚の胸ぐらをつかみ、辞めさせたりしたことや、被告人が、仕事をしない同僚に対して、なぜ仕事をしないのかと尋ねても、無責任に、知らないの一言で済まされてしまうこと等もあった。 こうしたコンビニエンスストアでのアルバイトの経験等から、被告人は、話し合いで解決しようとしても無駄であるという「言っても無駄だ」、悪いことをされたら仕返しで解決するという「やられたらやり返す」、知らないの一言で済ませるのは無責任で悪であるという「知らないのは悪だ」等の考えを持つに至った。 ⑷ 1回目の刑事事件やその後の生活被告人は、コンビニエンスストアのアルバイトを辞めた後、収入がなくなり、食料も盗むような生活をする中で、下着窃盗を繰り返すようになり、平成18年、埼玉県内で窃盗、住居侵入、暴行事件(下着泥棒、就寝中の女性に馬乗りになり口を手で塞ぐ暴行)を起こし、平成19年3月、懲役2年(4年間執行猶予・付保護観察)の判決を受けて釈放された。 被告人は、釈放後、茨城県内の実母方で、実母、実母の再婚相手及び兄と共に生活していたが を手で塞ぐ暴行)を起こし、平成19年3月、懲役2年(4年間執行猶予・付保護観察)の判決を受けて釈放された。 被告人は、釈放後、茨城県内の実母方で、実母、実母の再婚相手及び兄と共に生活していたが、再婚相手との折り合いが悪かったことから、半年程で一人暮らしを始め、その間、派遣社員として複数の工場を転々とした。派遣先二つは人間関係のトラブル等で退職し、三つ目の派遣先はリーマンショックの影響等による派遣切りを予測して自ら退職した。平成21年、兄の紹介により郵便局で働き始めたが、職場関係の女性から、「悪いことしてるわね」と言われ、兄が自分の前科のことを話したと確信して退職した。 被告人は、郵便局を退職した以降は、無職で生活保護を受給し、昼夜逆転した生活を始めた。 被告人は、平成20年頃、D経済担当大臣に対してメールを送ったことがあったが、平成21年頃には、そのメールを見たD大臣が日本の経済破綻を回避する政策を強行したことで、日本が海外から反発を受けるようになったなどと確信するようになった。 ⑸ Eや小説との関わり被告人は、平成21年5月、株式会社Aアニメーション(以下「E」という。)制作のアニメ「F」を見て感銘を受け、作家であれば、人と関わらずに生活していけると考え、同作品を真似た小説(ライトノベル)を書き始めた。インターネット掲示板に自分の作品について書き込んだところ、それに対する書き込みを有名な編集者であるGやEのH監督からのアドバイスだと確信した。また、インターネット掲示板上のやり取りを通じ、H監督に好意を抱き、H監督から結婚を求められているなどとも確信した。 ⑹ 2回目の刑事事件やその後の生活被告人は、平成24年、H監督から自分の前科に関して「レイプ魔」と書き込まれたと確信し、前科が明らかになれば小説家として生 を求められているなどとも確信した。 ⑹ 2回目の刑事事件やその後の生活被告人は、平成24年、H監督から自分の前科に関して「レイプ魔」と書き込まれたと確信し、前科が明らかになれば小説家として生きていくことはできないから刑務所に入ろうと考え、茨城県坂東市内で強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件(コンビニエンスストア従業員に対し、右手に持った包丁を突き付け「金を出せ」と脅迫して現金2万1,000円を強取)を起こし、同年9月、懲役3年6月の判決を受けて服役した。 被告人は、喜連川社会復帰促進センター(刑務所)受刑中、以前にD大臣に送ったメールに関して、自分は世界経済に影響を与える人間として闇の組織のナンバー2から注目されている、同メールを送った頃から、ナンバー2の指示の下、公安警察により日々監視を受けるようになった、同センターにおいても、闇の組織のナンバー2が現れたり、テレビを通じてH監督や結婚を意味する内容を繰り返し流して、ナンバー2が被告人を守りに入らせるためにH監督と結婚させようとしたりしていると確信した。被告人は、そういった圧力にあらがおうとして刑務官に反抗するな どして、平成25年1月から平成27年3月までの間に粗暴な言辞、口論、反抗等で合計13回の懲罰を受けた。 被告人は、平成28年1月に出所後、約半年間、更生保護施設に住み、同施設を退所後の同年7月頃より、埼玉県内のアパートで生活保護を受給しながら、精神科に通院し、訪問看護を週2回、訪問介護を週1回利用し、就労継続支援事業所に週4回通所するなどして生活していた。 ⑺ 小説の応募、落選やアイデアの盗用被告人は、受刑前や受刑中に思いついたアイデアをもとに、再び小説の執筆を開始し、平成28年、Eが設けた小説のコンクールであるAアニメーション大賞(以下「E大賞」と 小説の応募、落選やアイデアの盗用被告人は、受刑前や受刑中に思いついたアイデアをもとに、再び小説の執筆を開始し、平成28年、Eが設けた小説のコンクールであるAアニメーション大賞(以下「E大賞」という。)に、短編小説「I」を、H監督の誕生日には長編小説「J」を、それぞれ応募したが、短編小説は一次審査で落選し、長編小説は応募要件を満たさず落選した。 被告人は、平成29年3月15日、Eから被告人に落選通知メールが送信されたことで、長編小説の落選を知り、同年5月26日、Eから「E大賞受賞者なし」と発表され、短編小説の落選も知った。被告人は、自らが努力して執筆した小説であるにもかかわらず、落選したことにショックを受け、小説の落選を契機に、落選前に視聴していたE制作のアニメ「K」と「L」に関し、Eが自分の小説のアイデアを盗用したと確信し、この落選にはナンバー2も関わっていると確信した。被告人は、同月30日、時間移動に関するH監督のブログを見て、自分の小説のことを言っていると確信し、被告人の小説を落選させておきながら、Eがアイデアを盗用したり、H監督が被告人の小説の内容をブログ上で暗に匂わせていることに怒りを感じ、EやH監督への恨みを抱いた。 被告人は、平成29年6月頃から、インターネット上の小説投稿サイトに、E大賞に応募した長編小説や短編小説を投稿し始めたが、誰も小説を読んでくれなかったので、同年8月、同投稿サイトを退会した。平成30年1月頃、小説やEとの関わりを断って離れようと思い、小説のネタ帳を焼却した。 被告人は、平成30年11月19日、E制作のアニメ「M」を視聴して、再びEが自分の小説のアイデアを盗用したと確信し、自分はEとの関係を断とうとしているのに、Eはアイデアの盗用をやめないことから、放火殺人までしないとEから離れら 日、E制作のアニメ「M」を視聴して、再びEが自分の小説のアイデアを盗用したと確信し、自分はEとの関係を断とうとしているのに、Eはアイデアの盗用をやめないことから、放火殺人までしないとEから離れられないと感じてE等への恨みを増幅させ、Eに対する放火殺人を考えるようになり、インターネット掲示板に秋葉原無差別殺傷事件やEへの自爆テロを示唆するような書き込みを行った。 被告人は、平成31年2月頃、映画コンクールでH監督が映画「N」で受賞したことを知り、自分ではなく、アイデアを盗用したH監督が評価されることにうんざりし、E等への恨みを更に募らせた。 ⑻ 生活困窮、孤立被告人は、平成29年11月頃から平成31年頃まで、自宅アパートの住人らの騒音に悩まされ、自らもその騒音に対して対抗的に騒音を出し、度々騒音トラブルを起こしていた。また、被告人は、かねてナンバー2から指示を受けた公安警察に監視されていると確信していたところ、平成30年5月18日、訪問看護師を公安警察と確信し、訪問看護師の胸ぐらをつかみ、包丁を振りかざすことがあった。同年6月、就労継続支援事業所の通所を終了し、平成31年2月、精神科への通院をやめ、同年3月には、訪問看護及び訪問介護にも対応しなくなった。同月11日、ナンバー2に携帯電話を操られていると確信し、携帯電話を解約した。また、被告人は、平成30年11月頃から、精神科で処方された薬を定められたとおりに服用していなかったが、遅くとも令和元年5月頃からは全く服用しなくなった。 ⑼ 大宮事件被告人は、その後もE等への恨みを抱き続け、かねて共感していた秋葉原無差別殺傷事件を模倣し、無差別大量殺人事件を起こせば、小説のアイデアを盗用したことが大量殺人を引き起こす結果となることをE等に伝えるとともに、ナンバー2による監視をやめさせ ねて共感していた秋葉原無差別殺傷事件を模倣し、無差別大量殺人事件を起こせば、小説のアイデアを盗用したことが大量殺人を引き起こす結果となることをE等に伝えるとともに、ナンバー2による監視をやめさせることができるなどと考え、令和元年6月18日、柳刃包丁6本を購入し、これを用いて無差別に多数の通行人等を殺害しようとして、さいた ま市の大宮駅前に赴いたものの、通行人が少なかったことから大量殺人はできないと考え、断念した(以下「大宮事件」という。)。 ⑽ 本件犯行被告人は、自分は孤立して生活が困窮していく状況の中で、自分の小説を落選させた上にアイデアの盗用を続けて利益を得ているE等への恨みを強め、放火殺人までしないと盗用が終わらないと考えるとともに、Eの被告人への対応に関わっているナンバー2に被告人をつけ狙うこと等をやめるようメッセージを発しようと考え、本件犯行を決意し、京都に行くことを決めた。 被告人は、令和元年7月15日、大宮事件の際に購入した包丁6本を持って埼玉県内の自宅アパートを出発し、ATMでほぼ全財産である現金5万7,000円を出金し、新幹線で京都に向かった。京都への移動後は、捜査機関に発覚して本件犯行の計画が破綻しないよう、人との接触は最小限にとどめるよう心掛けた。同日、電車で京阪木幡駅まで移動し、EショップのあるOスタジオ建物に出入りした。被告人は、E関係者以外を巻き込むことを避けようと考え、Oスタジオではなく、多数のE従業員が働いているBスタジオを犯行場所として定め、付近を歩いてBスタジオを探したが、見当たらなかったため、同日夜、京都駅前のホテルに宿泊した。ホテルでは、隣の部屋から壁をたたく音がすると思うなどしたため、眠れなかった。 被告人は、令和元年7月16日、京都駅前のインターネットカフェでBスタジオや宇治 、同日夜、京都駅前のホテルに宿泊した。ホテルでは、隣の部屋から壁をたたく音がすると思うなどしたため、眠れなかった。 被告人は、令和元年7月16日、京都駅前のインターネットカフェでBスタジオや宇治市内のホームセンターの所在地を検索し、電車でJR六地蔵駅まで移動し、Bスタジオの下見をするなどし、同日夜、上記ホテルに宿泊した。前日同様、隣の部屋から壁をたたく音がすると思うなどしたため、眠れなかった。 被告人は、令和元年7月17日、電車で近鉄小倉駅まで移動し、ホームセンターでガソリン携行缶やガスライター、バケツ、台車、ハンマー等を購入した。被告人は、これらを電車内に持ち込むと周囲に怪しまれると考え、購入した物を台車に乗せて徒歩でBスタジオ付近の公園に移動した。被告人は、同日午後4時か5時頃に上記公園に到着したが、既にEの従業員の帰宅時刻になっていたことや、Eのドキ ュメンタリー動画「P」を以前に閲覧して従業員が午後3時頃にラジオ体操をすることを知っていたことなどから、従業員が着席しており最も犯行を妨害されにくいと考えた午前10時半頃に犯行に及ぼうと考え、同日夜、上記公園で野宿をした。 被告人は、令和元年7月18日午前10時頃、ガソリンスタンドで使用目的につき発電機と偽ってガソリン40ℓを購入した。被告人は、同日午前10時16分、Bスタジオ南側にある近くの路地に入り、同路地で、十数分間、それまでの10年間のことを考え、犯行を実行するか否か何度も逡巡したが、最終的に、被告人は、郵便局を退職し、H監督との関係もうまくいかず、刑務所に服役し、その後も努力して執筆した小説を落選させられ、アイデアを盗用されるなど、努力しても結局実を結ばず、自分の半生は余りにも暗いのに対し、E等は、小説のアイデアの盗用を続けて利益を得て成功するなど、光の階段を上 努力して執筆した小説を落選させられ、アイデアを盗用されるなど、努力しても結局実を結ばず、自分の半生は余りにも暗いのに対し、E等は、小説のアイデアの盗用を続けて利益を得て成功するなど、光の階段を上っているように見え、やはりE等をどうしても許すことはできないなどと考え、ガソリン約10ℓを携行缶からバケツに移し替えるなど、犯行の準備をした。 被告人は、同日午前10時30分頃、正面出入口が開いているかを確認するため、上記包丁6本が入ったかばんを肩にかけたままBスタジオ内に一旦入ってすぐに退出した。その後、上記かばんを正面出入口前の路上に置き、ガソリン約10ℓが入ったバケツを持ってBスタジオ正面出入口から侵入し、1階フロアのらせん階段付近において、バケツ内のガソリンをかなりの勢いで従業員らの身体やその周辺に浴びせ掛け、「死ね」と怒号しながら、従業員らに向けてガスライターで火をつけ、Bスタジオを全焼させるとともに、その中にいた従業員らのうち36名を殺害し、34名を殺害するに至らなかった。 2 被告人の精神障害について本件では、責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び内容や精神障害が本件犯行に与えた影響の有無及び影響の仕方(機序)について、精神科医の専門的知見として、捜査段階で検察官が鑑定を嘱託したQ医師の鑑定(証人Qの公判供述)と当裁判所が選任した鑑定人であるR医師の鑑定(鑑定人Rの公判供述)がある (以下それぞれ「Q鑑定」、「R鑑定」という。)。 Q医師及びR医師は、いずれも豊富な鑑定経験を有する精神科の専門医であって、その公正さや能力に疑いはない。そこで、専ら、各鑑定に鑑定の前提条件に問題があるなど、これらを採用できない合理的な事情がそれぞれ認められるかについて検討する。 ⑴ 各鑑定の骨子Q鑑定及びR鑑定の骨子は、次の 力に疑いはない。そこで、専ら、各鑑定に鑑定の前提条件に問題があるなど、これらを採用できない合理的な事情がそれぞれ認められるかについて検討する。 ⑴ 各鑑定の骨子Q鑑定及びR鑑定の骨子は、次のとおりである。 ア Q鑑定被告人の精神障害等a 精神障害被告人は、本件犯行当時、妄想性パーソナリティ障害に罹患していた。 b 性格傾向被告人は、①極端な他責的傾向、②誇大な自尊心を持つ、③不本意を押し殺して対人関係を維持しようとするが、それができなくなると攻撃的態度に転換する、という性格傾向を有している。 機序被告人が本件犯行の対象にEを選んだ点(動機の形成)には、被告人のEに対する被害妄想が影響を及ぼしたが、それ以外の部分には、妄想性パーソナリティ障害の影響はほとんど認められない。具体的には、小説の落選等の現実の出来事や被告人の前記性格傾向が、本件犯行の動機形成の主要な要素である。被告人の妄想的な事情は、上記現実の出来事に基づくもので、被告人の置かれていた状況や被告人の性格傾向から正常心理として了解可能であり、被告人の現実的行動に大きな影響を及ぼしていないことから、妄想の本件犯行への影響は限定的である。闇の組織に関する妄想については、鑑定面接で被告人が話さなかったため、以上の鑑定結果には含まれていないが、R鑑定や被告人の公判供述を踏まえ、闇の組織に関する妄想を考慮しても、小説の落選という現実の出来事をきっかけに、誇大な自尊心を充足 する形で現れていた上記妄想が被害的な妄想へと変化したのであって、闇の組織に関する妄想が被告人の行動に影響した形跡はほぼ認められないことから、やはり妄想の本件犯行への影響は限定的である。 イ R鑑定被告人の精神障害等a 精神障害被告人は、本件犯行当時、混合型・持続性 想が被告人の行動に影響した形跡はほぼ認められないことから、やはり妄想の本件犯行への影響は限定的である。 イ R鑑定被告人の精神障害等a 精神障害被告人は、本件犯行当時、混合型・持続性・重度の妄想性障害に罹患していた。 なお、重症度を重度と評価したが、これは、診断基準において、妄想的信念に基づいて行動するよう強い圧力がある、又は妄想的信念にとても悩まされている場合には重度と評価することとなっているからであり、重度であるからといって直ちに責任能力の有無等が決まるわけではない。 b 性格傾向被告人は、独善性、猜疑心が強い、怒りやすい、攻撃行動をしやすいという性格傾向を有している。 機序被告人の妄想性障害の妄想は、本件犯行の動機を形成している。具体的には、被告人は、10年以上にわたり、妄想性障害に基づく闇の組織やE・H監督に関する妄想世界の中で生きていたところ、小説の落選が本件犯行の現実的な契機となっているが、優れた小説であるにもかかわらず、闇の組織やH監督の関与の下、Eが故意に小説を落選させた上、そのアイデアを盗用して経済的な利益を搾取して会社を成長させているという妄想がその落選に被害的な意味を付け加えている。そして、現実の生活困窮から追い詰められていたことが本件犯行の背景要因となっているが、その生活困窮には、周囲の人間の中に闇の組織の人間も紛れ込んでいて信用できないという妄想によって周囲からの孤立を招いたことが影響している。さらに、被告人の前記性格傾向が本件犯行に関係しているが、その性格には、被告人が日々妄想の世界に生きていることによる苛立ち等も影響している。 以上の妄想と、妄想以外の部分は相互に関係し合っている。 ⑵ 各鑑定の検討ア精神障害について精神障害の診断の根拠に関して、Q鑑定と きていることによる苛立ち等も影響している。 以上の妄想と、妄想以外の部分は相互に関係し合っている。 ⑵ 各鑑定の検討ア精神障害について精神障害の診断の根拠に関して、Q鑑定とR鑑定は、①妄想が相互に関連しているか否か、②妄想が現実の行動に影響しているか否かの2点で判断が異なっている。 妄想相互の関連(①)Q鑑定は、ICD10の妄想性パーソナリティ障害の診断基準では、妄想性障害の除外が求められているところ、妄想性障害は、単一の妄想あるいは相互に関連した一連の妄想が、通常は持続的に、ときには生涯にわたって発展することを特徴とするが、被告人の妄想の内容は、被告人が自らの判断で行った行動の結果と被告人の性格傾向によって決定されており、妄想全体としては、一貫性を指摘することができず、妄想が単一であるとか、複数の妄想が相互に関連しているとはいえないと評価している。 これに対し、R鑑定は、妄想が単一であるとはいえないが、例として、H監督に関する被愛妄想と自分は闇の組織と関係がある特別な人物であるとの誇大妄想という二つの妄想の主題について、闇の組織は被告人に影響力を持たせたくないので、H監督と結婚させようとしているとの妄想を被告人が抱いていること等を挙げ、妄想の主題が関係しているといえるため、複数の妄想は相互に関連していると評価している。 この点、被告人は、闇の組織や公安警察に関する事実について、捜査段階やQ医師の鑑定面接においては取調官やQ医師から尋ねられても供述をしていない(その理由として、被告人は、R医師の鑑定面接において、「裏の世界のことであって、墓場まで持って行くつもりだった。」「裁判でナンバー2と闇の組織や公安警察のことを証言したとしても、組織の力でもみ消されるので、話しても無駄であると考えている。」など て、「裏の世界のことであって、墓場まで持って行くつもりだった。」「裁判でナンバー2と闇の組織や公安警察のことを証言したとしても、組織の力でもみ消されるので、話しても無駄であると考えている。」などと説明している。)。しかし、弁護人やR医師の説得等により、抵抗感を持ちながらも、R医師の鑑定面接時に初めてこれらを供述し、公判廷において も供述を維持している。 以上のとおり、Q鑑定には、当初、闇の組織に関する前記前提事実が欠けており、重要な前提条件が欠けていたものといわざるを得ない。そして、Q鑑定は、被告人の公判供述等を資料として、闇の組織に関する妄想の成り立ちや行動への影響等を検討しているものの、鑑定面接で直接被告人からの聴取ができていないことが影響しているものと思われるが、R鑑定のように複数の妄想相互の関連についての検討が十分になされているとはいい難い。Q鑑定は、被告人の公判供述を前提とした判断部分も含め、鑑定の前提条件に問題があるか、その判断過程に重大な遺脱があるといわざるを得ない。 他方、R鑑定は、闇の組織に関する事実を含む前記前提事実とおおむね一致する事実関係を基に、被告人の長期にわたる複数の妄想相互の関連を十分に検討しており、鑑定の前提条件やその判断過程に問題はないと認められる。 現実の行動への影響(②)Q鑑定は、DSM-5には、妄想性障害の診断を支持する関連特徴として、妄想性障害における妄想的確信の結果、社会上、結婚生活上、又は仕事上の問題が起こり得るということが挙げられているが、被告人の妄想は、被告人がとった行動の結果としての社会上の問題から後付けに生じているのであって、妄想的確信の結果、社会上の問題が生じているとはいえないと評価している。例として、被告人は、郵便局に勤務していた際、兄に前科をばらされ退職を 結果としての社会上の問題から後付けに生じているのであって、妄想的確信の結果、社会上の問題が生じているとはいえないと評価している。例として、被告人は、郵便局に勤務していた際、兄に前科をばらされ退職を余儀なくされたというが、兄への確認や抗議等をしていないこと、EやH監督に小説のアイデアを盗用されたというが、E等に抗議していないことを挙げている。また、妄想の対象となっている者に接触しようとするのが妄想性障害の特徴の一つであるところ、被告人は、H監督とやり取りし、好意を持たれていると思ったというのに、H監督と実際に連絡を取ることもしていないことを指摘している。 これに対し、R鑑定は、被告人の妄想は、現実の行動に影響していると評価し、妄想が慢性的に生活に影響していることを妄想性障害の診断根拠としている。例と して、被告人は、兄に前科をばらされたと確信し、実際に郵便局を退職していること、小説の盗用に関する妄想的確信の結果、実際に本件犯行を起こしていること、インターネット上のやり取りを現実として認識しており、被告人にとっては、H監督と実際に連絡を取っていたといえること、ほかにも、刑務所受刑中にナンバー2からのテレビを通じた干渉を受けて反抗し懲罰を受けたこと、訪問看護師を公安警察と確信して包丁を振りかざしたことや、ナンバー2から携帯電話を操られていると確信して携帯電話を解約したこと等を挙げている。 この点、Q鑑定は、前記同様、闇の組織に関する前記前提事実が欠けているか、これに対する検討が不十分であることから、闇の組織に関する妄想による行動への影響を評価できていないという問題がある。また、Q鑑定は、被告人が兄やE等に抗議していないことを指摘するが、これらは被告人自身の「言っても無駄だ」との考え方から抗議を行っていないにすぎず、確信度が低いこ を評価できていないという問題がある。また、Q鑑定は、被告人が兄やE等に抗議していないことを指摘するが、これらは被告人自身の「言っても無駄だ」との考え方から抗議を行っていないにすぎず、確信度が低いことから抗議に至っていないわけではなく、社会上の問題が生じるような妄想的確信がないとはいえない。H監督と実際に連絡を取っていない点についても、一般人においてもインターネット上のやり取りを現実のものと捉え、それ以外の手段で連絡を取らずとも交際していると考えることが十分あり得る上、被告人は正にインターネット上のやり取りをH監督との現実の交際と認識していたことが看過されており、やはり社会上の問題が生じるような妄想的確信がないとはいえない。Q鑑定は、被告人の考え方や認識等を踏まえた検討が不十分であり、鑑定の前提条件やその判断過程に問題があるといわざるを得ない。 他方、R鑑定が前提とした事実関係に問題はなく、前科をばらされたことについて兄に抗議していないのは「言っても無駄だ」との被告人自身の考え方によるものとしている。小説の盗用についてEに抗議していない点も同様の理解に立つものと考えられる。そのほか、H監督とインターネット上でやり取りしていたことも含め、被告人の考え方や認識等を踏まえた上で、妄想が行動に影響したと評価しており、説得的である。さらに、被告人の闇の組織に関する妄想も含めて妄想が現実の 行動に影響を及ぼした様々なエピソードを踏まえて評価した上で妄想性障害との結論を導いており、その判断過程に重大な破綻、遺脱や欠落等は見当たらない。 検察官は、妄想は兄に前科をばらされた部分のみであり、前科をばらされて退職した点について妄想が行動に影響したとはいえない、H監督とインターネット上だけのやり取りで終わるのは不自然である、小説のアイデアの盗用を 妄想は兄に前科をばらされた部分のみであり、前科をばらされて退職した点について妄想が行動に影響したとはいえない、H監督とインターネット上だけのやり取りで終わるのは不自然である、小説のアイデアの盗用をされ、本件犯行を起こしていることについて、犯行自体を持ち出しての説明は結論を言っているだけで理由になっていないなどと主張する。 しかし、前科をばらされて退職することやH監督とのやり取りについて被告人の妄想が行動に影響したと評価することが不合理ではないことは前述のとおりである。むしろ、前科の点については、被告人は、単に兄が自らの前科をばらしたからではなく、職場等でこれが知られるところとなったと確信したがために、郵便局を退職したのであって、妄想的確信の結果、仕事上の問題が生じているとみることができる。また、行動への影響を考える上で犯行自体もその一つとして考慮の対象となるのであって、検察官の主張はいずれも採用できない。 小括以上のとおり、Q鑑定のうち、被告人が妄想性パーソナリティ障害であったとする点及びそれを前提とする機序については、Q鑑定の前提とした事実関係あるいはそこから結論を導く判断過程に問題があり、採用できない合理的な事情があると認められる。他方、R鑑定のうち、被告人が妄想性障害であったとする点及びそれを前提とする機序については、前提とした事実関係や結論を導く判断過程に問題はなく、採用できない合理的事情はないと認められる。 イ性格傾向について性格傾向について、Q鑑定とR鑑定は、おおむね同様の判断である。 Q鑑定は、幼少期から20代後半までの被告人の生活歴から精神医学上有意なエピソードを抽出した上で、心理検査の結果との整合性等も考慮し、前記性格傾向を認定しているところ、前提とした事実関係は前記前提事実とおおむね同様であり、 後半までの被告人の生活歴から精神医学上有意なエピソードを抽出した上で、心理検査の結果との整合性等も考慮し、前記性格傾向を認定しているところ、前提とした事実関係は前記前提事実とおおむね同様であり、 その判断過程にも問題はない。R医師は独自には心理検査等を実施しておらず、Q医師が十分な心理検査等を行っているとして、これを前提に前記性格傾向を分析し、Q医師の心理検査等の評価は正当であると指摘している。 弁護人は、病気発症後の心理検査等は病気の影響を受けることから、Q鑑定の指摘する攻撃的な性格傾向等は、病気発症前の被告人本来の性格傾向ではなく、妹や母による幼少期や定時制高校時代のエピソードから、被告人は本来明るく社交的な性格ではないかと主張する。 しかしながら、R鑑定によれば、妄想性障害においては、統合失調症の場合と異なり、通常、屈曲点、すなわち、人柄、物の見方や行動パターン等が病気発症後に急に変化することはないというのであって、被告人の場合も、妄想性障害の影響のみによって攻撃的な性格傾向等を有するに至ったとはいえない。また、弁護人の指摘する定時制高校時代のエピソードについて、Q鑑定によれば、物事が順調に進むときには人の欠点や短所等は出てこないというのであり、被告人についても、定時制高校時代は順調な生活であったため、攻撃的な性格傾向等が現れていなかったにすぎず、妹が述べる、専門学校を辞めて実家に帰ってきた頃から猜疑的、怒りっぽくなったというのも、専門学校時代に学業等がうまくいかず、欠点や短所が浮き彫りになったものと考えられる。定時制高校時代等の被告人は明るく社交的であったなどのエピソードがあるからといって、攻撃的な性格傾向等が被告人の本来の性格傾向でないとはいえない。 なお、弁護人は、R医師が判断を留保していることを根拠に、 時代等の被告人は明るく社交的であったなどのエピソードがあるからといって、攻撃的な性格傾向等が被告人の本来の性格傾向でないとはいえない。 なお、弁護人は、R医師が判断を留保していることを根拠に、被告人には、コンビニエンスストア勤務時代から既に被害妄想が生じていた可能性があると主張する。 しかしながら、R医師は、コンビニエンスストア勤務時代の被告人の供述については客観的な資料がないため、妄想が生じていたか否かの判断を留保していると述べているにすぎない。また、被告人は、前記前提事実のとおり、真面目に働けば働くほど周囲の人間が仕事をサボり、被告人に仕事を押し付けてきたことや、同僚 に腹を立てて辞めさせたこと等を供述しているところ、被告人が働いていた店舗のうちの一つではあるが、当時の上司の供述から、被告人が黙々と仕事をしていたことや、同僚を怒鳴り付けて二、三人が辞めたこと等が認められ、被告人の上記供述には一定の裏付けがある。被告人なりに努力する一方で周囲がサボっていると感じ、同僚を怒鳴り付けて辞めさせるなどのことは一般的にもあり得ることでもあり、被告人の上記供述はおおむね実際の出来事を述べたものであると認められ、これが妄想である可能性があるとはいえない。 小括性格傾向に関するQ鑑定及びR鑑定に採用できない合理的な事情はないと認められる。 ⑶ 以上のとおり、R鑑定によれば、被告人は、本件犯行当時、妄想性障害に罹患していたと認められる。また、Q鑑定及びR鑑定によれば、被告人は、独善性、猜疑心が強い、怒りやすい、攻撃行動をしやすいという性格傾向を有していると認められる。 3 被告人の精神障害が本件犯行に与えた影響等⑴ 動機の形成への影響R鑑定によれば、被告人は、ナンバー2や公安警察から監視される生活が続いている、自 いう性格傾向を有していると認められる。 3 被告人の精神障害が本件犯行に与えた影響等⑴ 動機の形成への影響R鑑定によれば、被告人は、ナンバー2や公安警察から監視される生活が続いている、自宅アパートの住人らの騒音にも我慢の限界がきて自宅にも帰りたくない、精神科への通院、訪問看護等もなくなり、携帯電話も解約して、世間とつなぎとめるものもなくなったなど、周囲への不信感を募らせ、孤立する状況になっていた中で、自分の小説のアイデアの盗用ばかりする業界、特に自分の応募した小説を落選させた上に利益を上げ続けてショップ兼事務所を建てる勢いのEも、自分と結婚したいと言いながら結局は自分を叩き落とし、その度にスターダムの階段を登っていくH監督も許すことができず、「それが続くことと終わらせること」のどちらかを選ぶしかないという考えに至り、本件犯行を決意したものと認められる。 R鑑定の前記機序のとおり、被告人は、10年以上にわたり、妄想性障害に基づ く妄想世界の中で生きていたところ、小説の落選が本件犯行の現実的な契機となっているが、優れた小説であるにもかかわらず、闇の組織やH監督の関与の下、Eが故意に小説を落選させた上、アイデアを盗用して経済的な利益を搾取して会社を成長させているという妄想がその落選に被害的な意味を付け加えていること、現実の生活困窮から追い詰められていたことが本件犯行の背景要因となっているが、その生活困窮には、周囲の人間の中に闇の組織の人間も紛れ込んでいて信用できないという妄想によって周囲からの孤立を招いたことが影響していること、被告人の性格傾向が本件犯行に関係しているが、その性格には、被告人が日々妄想の世界の中に生きていることによる苛立ち等も影響していることが認められる。 そして、R鑑定によれば、被告人の妄想は、被告人が 告人の性格傾向が本件犯行に関係しているが、その性格には、被告人が日々妄想の世界の中に生きていることによる苛立ち等も影響していることが認められる。 そして、R鑑定によれば、被告人の妄想は、被告人が、現実の生活困窮から追い詰められ、周囲から孤立していた状況の中、自分の応募した小説を落選させた上、アイデアを盗用して経済的な利益を搾取して会社を成長させているEやH監督を許すことはできないという、E等への恨みを抱き、Eを攻撃しなければならないという考えに至ったという動機の形成に影響しているが、攻撃の範囲や方法としてE全体に対する放火殺人という手段を選択するかという点には影響していないと認められる(なお、この点について、R医師は、被告人が自分の困っている状況をどのような手段で解決するかについては、病気と関係なく被告人が選んだものと考えられると説明している。)。 ⑵ 放火殺人(大量殺人)の選択への影響被告人供述によれば、被告人は、E等への恨みを抱き、Eを攻撃しなければならないという動機に基づき、以下のとおり、被告人自身の考え方や知識等によりE全体に対する大量殺人ないし放火殺人を選択したと認められる。 すなわち、被告人は、「やられたらやり返す」との考えから、Eに小説のアイデアを盗用された仕返しとしてEへの報復を決意し、「言っても無駄だ」との考えから、Eに盗用をやめるよう抗議するなどの合法的な手段を検討せず、「知らないのは悪だ」との考えから、盗用を知らない従業員も全員いわば連帯責任を負うものと してE従業員全体を狙うこととした。被告人のこうした考え方は、被告人自身の経験に基づく、被告人の攻撃的な性格傾向と一致する考え方である。R鑑定によれば、被告人の攻撃的な性格傾向に妄想の影響があることは否定できないものの、上記の各考え方は、被告人の 考え方は、被告人自身の経験に基づく、被告人の攻撃的な性格傾向と一致する考え方である。R鑑定によれば、被告人の攻撃的な性格傾向に妄想の影響があることは否定できないものの、上記の各考え方は、被告人のコンビニエンスストアでのアルバイト経験等から培われたものであり、妄想の影響はほとんど認められない。 また、被告人は、幼少期の虐待や派遣切り等の境遇が似ている秋葉原無差別殺傷事件の犯人にかねて共感していたものであるが、その共感もあって、大宮事件や本件犯行のような大量殺人を選択したと考えられる。被告人は、大宮事件の際、無差別大量殺人のようなメッセージ性のある大きな事件を起こさないと、小説のアイデアの盗用や公安警察からの監視が終わらないと考え、さらに、小説のアイデアの盗用が重大な事件を引き起こす結果となることをE等に伝えられるのではないかと考えて大量殺人を選択したものであるが、本件犯行も、大量殺人までしないと、Eによるアイデアの盗用や公安警察からの監視が終わらないとの考えから、大宮事件後、最後に狙いたいのはEであると考え、E全体に対する大量殺人を選択したものである。大量殺人としては大宮事件と共通しており、秋葉原無差別殺傷事件への共感やメッセージ性のある犯罪を起こすという被告人自身の考え方は、被告人の攻撃的な性格傾向等から理解できるものであり、このような被告人自身の考え方により大量殺人を選択したもので、上記同様、妄想の影響はほとんど認められない。 さらに、被告人は、消費者金融やマージャン店において、犯人がガソリンを使用して火をつけて爆発を起こし、8人程度が死亡した事件等の過去に起きたガソリンを使用した放火殺人事件を参考にして、ガソリンを使用した放火殺人を選択したものであり、具体的な攻撃手段の選択は被告人自身の知識によるもので、妄想の影響は全く認めら 亡した事件等の過去に起きたガソリンを使用した放火殺人事件を参考にして、ガソリンを使用した放火殺人を選択したものであり、具体的な攻撃手段の選択は被告人自身の知識によるもので、妄想の影響は全く認められない。 以上のように、被告人は、被告人自身の考え方や知識等から、E全体への大量殺人ないし放火殺人という攻撃手段を選択したものであり、その手段選択には、妄想の影響はほとんど認められない。 4 良いことと悪いこととを区別する能力についてR鑑定によれば、被告人の妄想は、犯罪であることの認識を損なわせるようなものではないというのであり、善悪を区別する能力に影響を及ぼすようなものではないと認められる。被告人は、本件犯行当時、放火殺人を「よからぬこと」と考えていた、「良心の呵責」があり、犯行直前に逡巡したと供述しており、悪いことであることは認識していたといえる上、被告人は、京都で犯行の準備を行う際、人との接触は最小限にとどめるよう心掛け、周囲に怪しまれないように行動するなど、自己の行為が犯罪に当たることの認識を前提とした合理的な行動を取っている。 以上によれば、被告人は、本件犯行当時、良いことと悪いこととを区別する能力を有していたと認められる。 5 良いことと悪いこととの区別に従って犯行を思いとどまる能力について前記3のとおり、E等への恨みを抱き、Eを攻撃しなければならないという動機の形成過程には被告人の妄想性障害による妄想が影響しているものの、被告人が作家として努力して執筆した小説であるにもかかわらず落選したこと等の現実の出来事も動機の形成に影響していることや、放火殺人の手段選択には妄想の影響がほとんどみられないことからすれば、上記妄想が本件犯行に影響した程度は大きくはない。 そして、被告人供述及びR鑑定によれば、被告人は、現実 成に影響していることや、放火殺人の手段選択には妄想の影響がほとんどみられないことからすれば、上記妄想が本件犯行に影響した程度は大きくはない。 そして、被告人供述及びR鑑定によれば、被告人は、現実の生活困窮から追い詰められ、周囲から孤立していた状況の中、自分は努力して執筆した渾身の小説をEに落選させられてそのアイデアを盗用された一方、Eはこれによって経済的な利益を搾取して会社を成長させており、H監督も自分と結婚したいと言いながら自分を裏切り、受賞するなどしてスターダムの階段を登っているとして、このようなE等を許すことができないと考え、本件犯行に及んだものと認められる。 確かに、このような本件犯行動機と実際の行動の大きさとの間に飛躍があると考えられるものの、自らが努力して執筆した小説を落選させられアイデアが盗用され、E等が成功していることは、被告人にとっては、自分の暗い半生と対比すると E等への強い恨みを抱くに十分なものと考えられ、そのようなE等への強い恨みを募らせた被告人がE全体に対する攻撃としてガソリンを使用した放火殺人を選択することは、妄想性障害による妄想に支配された思考などではなく、妄想性障害の影響を受ける前から培われてきた被告人の性格傾向や考え方、妄想性障害とは全く関係のない他の放火殺人事件に関する知識等から導き出された被告人自身の判断であり、その意味において、被告人は、妄想ではなく被告人自身の意思で、最終的に放火殺人という手段を選択したものといえる。 そして、被告人は、Eへの放火殺人を考え始めた平成30年11月から約8か月間、本件犯行を実行することを思いとどまっている上に、本件犯行直前も、十数分間、本件犯行を実行するか否か逡巡している。このことは、被告人が実際に犯行を思いとどまることが期待できる状態にあったことを 間、本件犯行を実行することを思いとどまっている上に、本件犯行直前も、十数分間、本件犯行を実行するか否か逡巡している。このことは、被告人が実際に犯行を思いとどまることが期待できる状態にあったことを示している。 加えて、被告人は、京都への移動後、E関係者以外を巻き込むことを避けようと考え、客等が出入りするEショップのあるOスタジオではなく、多数のE従業員が働いていると考えたBスタジオを犯行場所として選択し、Eのドキュメンタリー動画を以前に閲覧して得ていた情報等から犯行時間を選択するなどしているが、これらの考えは合理的で妄想の影響はみられない。犯行現場の下見や犯行に用いるガソリンや携行缶等の入手等の犯行の準備に向けた行動も合理的で一貫しており、やはり妄想の影響はみられない。 このように、被告人の妄想性障害による妄想は、E等への恨みを抱き、Eを攻撃しなければならないという本件犯行の動機の形成には影響しているものの、E全体に対する大量殺人ないしガソリンを使用した放火殺人という手段選択にはその影響がほとんど認められず、被告人自身の性格傾向や考え方、知識等に基づいて被告人が自らの意思で選択したものである。これに加え、E等への恨みを募らせて本件犯行を考え始めてから実際に実行に移す直前まで本件犯行を実行するか否か逡巡していることや、犯行場所や犯行時間の選択、犯行の準備等にも妄想の影響はなく、犯行まで合理的に行動していることからすれば、被告人の犯行を思いとどまる能力 は、妄想性障害が動機形成に影響していた点等において多少低下していた疑いは残るものの、著しく低下していなかったと認められる。 6 弁護人の主張弁護人は、以上に検討した事項のほか、被告人は、10年以上の長期にわたり妄想の世界で生き、妄想を前提に考え、物事を認識し、感情を抱いてき 、著しく低下していなかったと認められる。 6 弁護人の主張弁護人は、以上に検討した事項のほか、被告人は、10年以上の長期にわたり妄想の世界で生き、妄想を前提に考え、物事を認識し、感情を抱いてきたため、妄想の圧倒的な現実世界・行動への影響にあらがうことはできず、良いことと悪いこととを区別することやその区別に従って犯行を思いとどまることはできなかったのであり、重度の妄想性障害の影響のない、本来の被告人の人格に対し、間違いなく責任を問えるとはいえないと主張する。 しかしながら、被告人の妄想は、動機の形成には影響しているが、犯行手段の選択にはほとんど影響しておらず、本件犯行への影響が大きくないのは前述のとおりであり、妄想の圧倒的な影響があったことを前提とする弁護人の主張は採用できない(なお、妄想性障害が重度である点も、重症度を診断基準に従って評価したものにすぎず、直ちに責任能力の判断に影響を与えるものでないことは、R鑑定の指摘のとおりである。)。 7 結論以上のとおり、本件犯行当時、被告人の犯行を思いとどまる能力が多少低下していた疑いは残るものの、被告人の良いことと悪いこととを区別する能力やその区別に従って犯行を思いとどまる能力は、いずれも著しく低下していなかったと認められ、被告人は、本件犯行当時、心神喪失の状態にも心神耗弱の状態にもなかったものと認められる。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示第1の所為のうち、建造物侵入の点は刑法130条前段に、現住建造物等放火の点は刑法108条に、各殺人の点は別表1の被害者ごとにいずれも刑法199条に、各殺人未遂の点は別表2の被害者ごとにいずれも刑法203条、199条に、 判示第2の所為は令和3年法律第69号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条 害者ごとにいずれも刑法199条に、各殺人未遂の点は別表2の被害者ごとにいずれも刑法203条、199条に、 判示第2の所為は令和3年法律第69号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号、銃砲刀剣類所持等取締法22条にそれぞれ該当する。 2 科刑上一罪の処理判示第1の現住建造物等放火、各殺人及び各殺人未遂は1個の行為が71個の罪名に触れる場合であり、建造物侵入とこれらとの間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法54条1項前段、後段、10条により結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い殺人罪(ただし、各殺人の犯情が被害者ごとに異ならないのでそのうちの一つを選ぶことをしない。)の刑で処断する。 3 刑種の選択判示第1の罪については死刑を、判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択する。 4 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるが、判示第1の罪につき被告人を死刑に処するので、刑法46条1項本文により他の刑を科さない。 5 宣告刑の決定被告人を死刑に処する。 6 没収京都地方検察庁で保管中の柳刃包丁6本(令和3年領第205号符号7及び9から13まで)は、いずれも判示第2の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないから、刑法19条1項1号、2項本文を適用してこれらを没収する。 7 訴訟費用の不負担訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由) 1 本件は、妄想性障害による妄想の影響もあってE等への恨みを抱いた被告人が、その報復として多数の従業員に対する放火殺人を計画し、Bスタジオに侵入の上、ガソリン相当量を従業員らの身体及びその周辺に浴びせ掛けて火を放ち、従業 員70名が現にいるBスタジオを全焼させるとともに、そ て多数の従業員に対する放火殺人を計画し、Bスタジオに侵入の上、ガソリン相当量を従業員らの身体及びその周辺に浴びせ掛けて火を放ち、従業 員70名が現にいるBスタジオを全焼させるとともに、そのうち36名を殺害し、34名を殺害するに至らなかったなどの事案である。 2 検察官は、被告人に対して死刑を求刑したのに対し、弁護人は、被告人の健康状態、取り分け本件犯行による負傷状況を理由に、被告人に絞首刑を執行するのは残虐な刑罰に当たり、憲法36条に違反すると主張する。 まず前提として、死刑の執行方法として絞首刑自体が残虐な刑罰に当たらず、憲法36条に違反するものでないことは最高裁判所の判例(最高裁昭和30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁)とするところである。そして、弁護人が主張するような負傷状況にある被告人に絞首刑を執行することが憲法36条に違反するかについては、実際に刑を執行する時点において、執行機関が、その時点での被告人の身体の状態等も考慮した上で判断すべきものである。弁護人の主張は、当裁判所が法令の適用や量刑を決める上で考慮することができない事情を指摘するものであり、失当である。 その上で、死刑は、人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る究極の冷厳な刑罰であることから、その選択、適用については、取り分け慎重でなければならず、犯行の罪質、動機、態様殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性殊に殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に初めて許容されるものであることはいうまでもない(最高裁昭和58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻 誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に初めて許容されるものであることはいうまでもない(最高裁昭和58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁参照)。 そこで、以下、これらの観点から、量刑考慮の中心となる判示第1の事実について検討する。 3 犯行結果⑴ 36名もの尊い命が奪われたという結果は余りにも重大で悲惨である。 被害者らは、被告人がBスタジオ1階中央フロアでガソリンをまいて火をつけ たことにより、一瞬にして炎、黒煙や熱風に巻き込まれ、そのうち33名もの被害者が事件当日にBスタジオで亡くなった。これらの方々は、1階で逃げる間もなく、又は黒煙等から逃げて2階ベランダ付近や屋上へ向かうも身体を焼かれることにより、あるいは、2階ベランダや屋上階段付近で他の方が体の上に乗りかかり呼吸困難に陥り窒息によって、さらには、屋上階段付近で頭から首にかけて火炎や高熱にさらされたことで呼吸困難に陥り窒息により、そのほか、一酸化炭素中毒によって、それぞれ亡くなった。そして、被告人から直接身体にガソリンを掛けられて火をつけられ、炎に包まれながらもBスタジオから脱出し、病院で治療を受けた3名の被害者についても、事件翌日に全身火傷により、あるいは、その約1週間後に全身火傷に合併した敗血症(推定)によって、さらには、事件後約2か月半にわたり、何度も手術を受け、意識を取り戻すも体を自由に動かせず生きているかも分からないような状態で苦しみ続け、広範囲熱傷による敗血症性ショックにより、それぞれ亡くなった。普段どおりアニメーション制作のために働いていたところ、突然一瞬にしてさながら地獄と化したBスタジオにおいて炎や黒煙、熱風等に苦しみ、その中で非業の死を遂げ、あるいは辛くも脱出したものの くなった。普段どおりアニメーション制作のために働いていたところ、突然一瞬にしてさながら地獄と化したBスタジオにおいて炎や黒煙、熱風等に苦しみ、その中で非業の死を遂げ、あるいは辛くも脱出したものの生死の境をさまよって落命した被害者らの恐怖、苦痛等は計り知れず、筆舌に尽くし難いというほかない。 亡くなった36名の従業員は、E設立当初から、当時のアニメ業界の過酷な労働条件の中で勤務し続け、後輩らを丁寧に指導してその高い技術力を伝承したり、社員の勤務環境を良くしてEを始めとするアニメ業界の将来を少しでも良くしていこうと努力したりしていたベテラン従業員、Eに憧れて努力して入社し、入社後も努力を重ねて後輩らの手本となるような仕事をし、自らが上の世代から受け継いだ技術力を更に後輩らに伝承していた中堅従業員、Eに憧れ、アニメーターになるための努力を続け、難関のEに入社したばかりでやっと好きな仕事に就いて充実した日々を過ごしていた方、入社後仕事が思うようにいかず苦労したり、体調を崩したりしながらも努力を続けていた方、自らが制作に関わった作品を家族に報告したり、作品のエンドロールに名前が載ったりすることを楽しみにしていた方等の将来の希 望に満ちあふれた若手従業員等であって、在籍期間の長短や職務内容等の相違はあっても、全国各地からEに集まり、アニメーション制作のために全員一丸となって一生懸命に働き、丁寧に愛情を持って一つ一つの作品を制作していた将来への希望を持つ方々であった。そして、被害者らはEの従業員として忙しく働きながらも、それぞれに家族を持ち、平穏な日々を過ごすなどしていた中で、全く落ち度もないのに、突如として本件犯行に遭い、家族を遺すなどし、将来を奪われたのであって、その無念さは察するに余りある。 ⑵ 生命の危機に瀕した34名の被害者 穏な日々を過ごすなどしていた中で、全く落ち度もないのに、突如として本件犯行に遭い、家族を遺すなどし、将来を奪われたのであって、その無念さは察するに余りある。 ⑵ 生命の危機に瀕した34名の被害者らが受けた肉体的、精神的苦痛もまた重大である。 殺人未遂の被害者も、亡くなった被害者らと同様、アニメーション制作のために懸命に働いていた中、何らの落ち度もないのに、突然本件犯行に遭った。これらの被害者の中には、体や服に火がついたまま必死に1階の窓から脱出した方、逃げた先の窓がなかなか開かず、体を焼かれ、息もできない状況に追い込まれた方、被告人からガソリンをかけられながらも、間一髪で1階トイレに逃げ込み脱出した方、被告人による凶行を目の当たりにしながらも、すぐさま2階に駆け上がり2階窓から脱出した方、窓が開かず、黒煙や熱が迫る中、煙を吸い込みながらも、幸いにも窓が割れてベランダに出ることができた方等がいる。また、脱出に当たっても、多くの被害者が2階ベランダからの飛び降りを余儀なくされたほか、3階外壁の出っ張りを足場にして壁に張り付きながら移動し、雨樋を伝って脱出した方もいる。被害者らは、目の前で同僚らが炎に包まれていくという凄惨な状況を目の当たりにしたり、何が起こったかも分からないまま炎や黒煙等に巻き込まれたりしながら、このように正に九死に一生を得て脱出したもので、その恐怖感や苦痛は非常に大きかったと考えられる。直前まで一緒に仕事をしていた先輩、同僚、後輩らが亡くなったことによる精神的衝撃も大きく、今もなお、亡くなった方々を助けることができず、自分だけが逃げて生き残ってしまったなどと、罪悪感や後悔の念にさいなまれている方もいる。 そして、これらの被害者の中には、命に関わるほどの重大な傷害を負い、何度も皮膚の移植手術や指の切断を余 けが逃げて生き残ってしまったなどと、罪悪感や後悔の念にさいなまれている方もいる。 そして、これらの被害者の中には、命に関わるほどの重大な傷害を負い、何度も皮膚の移植手術や指の切断を余儀なくされ、現在も会社への復帰の目途が立たずリハビリに励んでいる方、両手を含む上半身の熱傷等の重大な傷害を負い、激痛を伴うリハビリを経て現在は会社に復帰しているものの、火傷痕が広範囲に残存している方、脳挫傷等の完治不能の重傷を負った方のほか、加療期間は様々であるが、外傷性くも膜下出血や骨折、頭部等の熱傷等を伴う重傷を負った方も相当数いる。 ⑶ 本件が会社に与えた損害も重大である。Eは、会社にとって「宝」であるという従業員を36名も一挙に失うこととなり、アニメーション制作の拠点であるBスタジオが全焼した。当時の全従業員の4割の方が被害に遭い、2割の方が亡くなるという未曽有の被害に遭ったのであり、事件発生の年以降、売上げや作品の制作ペースは半分以下となった。 ⑷ なお、被害者らやEに一切の落ち度がないことは明白である。被告人は、自らが応募した小説をEが故意に落選させた上、アイデアを盗用して経済的な利益を搾取して会社を成長させているなどと確信して本件犯行に及んだものであるが、被告人の上記確信は妄想性障害による妄想であって、Eが意図的に被告人の小説を落選させたわけではなく、E関係者はそもそも被告人の小説の内容を読んでいないため小説のアイデアの盗用などができるはずもない。 4 犯行態様⑴ 本件は、強固な殺意に基づく計画的な犯行である上、極めて危険で残虐な犯行態様である。 被告人は、大量殺人を思い立ち、過去に起きたガソリンを使用した放火殺人事件に関する知識から、ガソリンを使用して放火することとし、本件犯行3日前に、放火殺人を阻止されたときに使うた 犯行態様である。 被告人は、大量殺人を思い立ち、過去に起きたガソリンを使用した放火殺人事件に関する知識から、ガソリンを使用して放火することとし、本件犯行3日前に、放火殺人を阻止されたときに使うための包丁6本を持って京都に赴いた。多数の従業員が働いているBスタジオを標的として、その場所を調べて下見をするなどし、犯行に使用するガソリン携行缶やガスライター、バケツ、入口が開いていないときにガラス等を割って侵入するためのハンマー等の犯行用具を購入するなど犯行の準 備を進めた。被告人は、本件犯行の計画が露見しないよう、人との接触は最小限にとどめるよう心掛け、Eのドキュメンタリー動画を以前に閲覧して得ていた情報等から従業員が着席しており最も犯行を妨害されにくいと考えられる時間帯を狙うこととした。犯行直前も十数分間逡巡するなど、犯行を思いとどまることができる機会は何度もあったにもかかわらず、本件犯行を実行した。 このように、被告人は、本件犯行を確実に遂行するための十分な準備を行っており、本件は、その犯行態様等からみて70名の被害者全員に対する確定的殺意によるものとまではいえないものの、確実に大量殺人を行うという強固な殺意に基づく計画的な犯行である。 被告人は、ガソリン約10ℓが入ったバケツを持って正面出入口からBスタジオ内に侵入し、1階中央フロアで、バケツ内のガソリンをかなりの勢いで従業員らの身体やその周辺に浴びせ掛け、「死ね」と怒号しながら、従業員らに向けてガスライターで火をつけた。それにより、同従業員らは炎で包まれ、一瞬にして爆発的に燃え上がった炎、黒煙や熱風が2階・3階を含む建物内の人々を巻き込み、Bスタジオは文字どおり火の海となった。 本件犯行態様は、燃焼の速度が速く延焼拡大の危険性が高いガソリンを大量にまいて火をつけると え上がった炎、黒煙や熱風が2階・3階を含む建物内の人々を巻き込み、Bスタジオは文字どおり火の海となった。 本件犯行態様は、燃焼の速度が速く延焼拡大の危険性が高いガソリンを大量にまいて火をつけるという、被害者らの生命侵害の危険性が極めて高い行為であるとともに、生身の人間にガソリンをかけて火だるまにするという誠に残虐非道なものでもある。 ⑵ 弁護人は、建築基準法上火災の危険を防除するために定められる防火地域や準防火地域であれば許容されないBスタジオのらせん階段や西側階段等の建物の構造に加え、西側階段の3階から屋上に向かう階段には段ボールが積んであり、人が一人通ることができる程度の幅しかなかったことや、屋上の出入口ドアの鍵の開け方が複雑であったことにより被害結果が拡大した側面があり、被告人は、建物の構造等や建物内にいる人数を知らず、過去のガソリンを使用した放火殺人事件に関する知識から、1階に火が回り8人程度が亡くなることは想定していたが、2階・ 3階にいる人にまで被害が及ぶことを想定していなかったのであり、被害結果を十分分かった上で放火した場合と同じ程度の非難はできないなどと主張する。 まず、建物の構造等の影響についてみると、建物の構造、取り分けらせん階段の存在が炎や煙、高温ガス等の広がりに影響し、特に3階の従業員らは段ボールの置き方や複雑な鍵の開け方もあいまって屋上への避難が困難となり、被害結果の拡大に影響した可能性は否定できない。しかし、Bスタジオでは、建築基準法を始めとする法令に従った防火対策がされており、その防火対策には何らの問題もなかった上、らせん階段や西側階段等の建物の構造は一般的なものであり、通常期待される防火機能を有しておらず火災の拡大が殊更に危惧されるような特異な構造ではない。また、3階の従業員らが本来の避 問題もなかった上、らせん階段や西側階段等の建物の構造は一般的なものであり、通常期待される防火機能を有しておらず火災の拡大が殊更に危惧されるような特異な構造ではない。また、3階の従業員らが本来の避難経路である1階出入口への避難ではなく、屋上への避難を試みたのは、被告人が、出入口のある1階フロアで、燃焼速度が速く延焼拡大の危険性が高いガソリンを約10ℓも使用して火をつけるという、通常の火災では想定されない、建物内の多数の者が死亡する危険性の高い行為をし、このような被告人の行為により、Bスタジオ内に煙等が充満し、1階への避難ができず、屋上への避難を余儀なくされたからである。さらに、屋上のドアが開けられなかった要因には、火災の際、多数の従業員らが、煙等が迫る中、屋上へ殺到し、混乱していたといった事情も大きく作用しているものと考えられ、鍵の構造等のみが避難が困難となった要因とはいえないと考えられる。以上のとおり、本件で36名もの多数の死者が生じた主たる原因は、被告人が出入口のある1階フロアで多量のガソリンをまいて火をつけたことにあるのであって、Bスタジオの建物の構造等の影響は限定的である。そして、放火は、その性質上、一旦火を放てば、その火力を制御できず、不特定多数の者の生命・身体・財産に不測の損害を与える危険があるのであるから、被告人自身がそのような危険な行為を行っている以上、被害結果の大きさは正に被告人の行為の危険性が現れたものであり、上記のような事情があるからといって被告人の刑事責任が減じられるものではない。 次に、被害結果についての被告人の認識についてみると、被告人が大量殺人の ため多数の従業員が働いているBスタジオを標的とし、従業員の就業時間中を狙ったことや、以前に閲覧したEのドキュメンタリー動画にはBスタジオ内でアニメー についてみると、被告人が大量殺人の ため多数の従業員が働いているBスタジオを標的とし、従業員の就業時間中を狙ったことや、以前に閲覧したEのドキュメンタリー動画にはBスタジオ内でアニメーション制作を行う相当数の従業員らの様子が映っていることからも、被告人は、Bスタジオ内に多数の人がいることを認識していたといえる。また、被告人は、ガソリンスタンドでの勤務経験がある上、過去のガソリンを使用した放火殺人事件に関する知識を有しており、本件犯行に使用するガソリンを購入する際にわざわざ使途を偽っていることからみても、ガソリンの危険性を十分に認識していたといえる。 なお、弁護人は、被告人がガソリンの揮発性の高さを意識していないからこそ火傷を負ったなどと指摘するが、被告人は、いわば旧日本軍の特攻隊のような気持ちで、火をつけた後自分がどうなるかを考えていなかったと供述しており、自らの負傷等を意に介していなかったために火傷を負ったものと考えられ、被告人がガソリンの危険性を認識していなかったとはいえない。 被告人は、過去のガソリンを使用した放火殺人事件に関する知識をもとに、1階が燃え広がることは考えていたが、2階・3階に燃え広がることは考えていなかったと供述するが、被告人が被害を建物の1階のみにとどめようと考えたり行動したりした形跡はなく、むしろ、Bスタジオは全て燃えてなくなればいい、中にいる人は全て死んでも構わないと思っていたと供述しており、大量殺人を行うという被告人の計画からしても、2階・3階の従業員を確実に殺害できるとまで認識していたかはともかく、多数の従業員の殺害を意欲していたものと認められる。 このように、被告人は、Bスタジオ内に従業員が多数いることや自らの行為の危険性の高さを認識していた以上、2階・3階の従業員らにも被害が及ぶことは十 数の従業員の殺害を意欲していたものと認められる。 このように、被告人は、Bスタジオ内に従業員が多数いることや自らの行為の危険性の高さを認識していた以上、2階・3階の従業員らにも被害が及ぶことは十分認識できたはずであり、かつ、そのような結果発生を意欲していたのであるから、全ての結果について責任非難を免れない。弁護人の主張は、結局、建物の構造やその中の人数等を熟知し、Bスタジオ全体に効果的に炎や煙等を充満させることを狙って、意図的に1階らせん階段付近で火をつけ、建物内にいる全員を確実に殺害することを企図したような、非常に計画性の高い犯行に比べれば責任非難が低いと主 張しているにすぎないものというべきである。確かに、被告人が被害結果を確実に認識していたとまでは認められないが、上記のような被告人の認識及び意欲に照らし、そのことは特段責任非難を低下させる事情にはならず、弁護人の主張は採用できない。 5 犯行動機被告人は、自分は努力して執筆した渾身の小説をEに落選させられてそのアイデアを盗用された一方、Eはこれによって経済的な利益を搾取して会社を成長させており、H監督も自分と結婚したいと言いながら自分を裏切り、受賞するなどしてスターダムの階段を登っているとして、このようなE等を許すことができないと考え、本件犯行に及んだものである。 こうした本件犯行動機の形成、取り分けE等への強い恨みを抱いた点については、被告人の妄想性障害による妄想が影響しているが、そのような妄想的確信を前提としても、その恨みを晴らす手段としてE従業員を大量に殺害することを考えたというのは、人命を数としてしか評価しない、非人間的な思考といわざるを得ず、その意思決定は、人命の尊さを軽視する理不尽かつ身勝手なもので、極めて強い非難に値する。 なお、先に検討したと とを考えたというのは、人命を数としてしか評価しない、非人間的な思考といわざるを得ず、その意思決定は、人命の尊さを軽視する理不尽かつ身勝手なもので、極めて強い非難に値する。 なお、先に検討したとおり、被告人の犯行を思いとどまる能力は多少低下していた疑いが残るが、上記の恨みを晴らすため、大量放火殺人という手段を選択したのは、被告人自身の判断であって、被告人の犯行を思いとどまる能力がそれ以上に大きく低下していたとはいえない。精神障害の影響により被告人の責任能力は多少低下していたとしても、大きな減退まではなかったと認められる。心神喪失、心神耗弱が認められない場合でも、責任能力は大きく減退していたとする弁護人の主張は採用できない。 6 犯行に至る経緯・背景被告人は、本件犯行前、自宅アパートの住人と度々騒音トラブルを起こし、精神科への通院をやめ、訪問看護及び訪問介護にも対応しなくなり、携帯電話も解約す るなどして、現実の生活困窮から追い詰められていた。こうした状況が本件犯行の背景要因となり、その生活困窮には、闇の組織に関する妄想により周囲からの孤立を招いたことが影響していることも否定できない。 しかしながら、被告人の周囲には、訪問看護や訪問介護等の手厚く支援してくれる人々がいたにもかかわらず(なお、訪問看護師等が被告人と接触できなくなってから、関係機関では、被告人に他害行為の危険性があると危機感を募らせ、情報を共有して会議を開き、被告人と接触する方法を模索するなどしており、関係機関は漫然と対応していたわけではなく、被告人のために尽力していたことがうかがえる。)、妄想の影響はあるにしても、最終的には、人間関係で嫌なことがあれば関係を切るという被告人自身の考え方から自らその支援を断ち切ったものと考えられ、生活が困窮し、周囲から孤 ていたことがうかがえる。)、妄想の影響はあるにしても、最終的には、人間関係で嫌なことがあれば関係を切るという被告人自身の考え方から自らその支援を断ち切ったものと考えられ、生活が困窮し、周囲から孤立していたことは、責任非難を特に減じる事情とはならない。 なお、被告人は、幼少期に父から身体的・心理的虐待を受けており、その影響もあって、独善性、猜疑心が強く攻撃行動をしやすいなどの被告人の性格傾向が形成され、これが本件犯行に影響した可能性は否定できない。しかし、被告人は、定時制高校卒業後はほとんど親と離れて自立した生活を送っており、コンビニエンスストアでのアルバイトや派遣等で様々な社会経験をし、本件犯行当時41歳であったことからすれば、幼少期の虐待が本件犯行に与えた影響の程度は限定的であり、この点も責任非難を特に減じる事情ではない。 7 被害感情亡くなった被害者らの遺族らは、普段どおり平穏に過ごしていたところ、突如事件の一報を受け、事件現場や病院等に急行した方も含め、その多くは、被害者らに生きて再び会うことはできず、DNA型鑑定の結果が出て遺体の身元が判明するまで、絶望的な気持ちや生存を信じたい気持ち等が交錯する中、不安な日々を過ごした。その中には、警察から遺体の損傷が激しく遺体を見るのは勧めないと言われながらも、やっとの思いで変わり果てた姿と対面することとなった方や、顔を見るこ とができず心残りに思っている方もいる。また、事件から約2か月半にわたり、助かってほしい一心で被害者を看病するも、何度も手術をする苦しみを味わわせたくないとの葛藤を抱えながら、つらい日々を過ごした方もいる。遺族らは、事件前には全く想像することもできず、何の理由もないのに、理不尽にも、かけがえのない大切な家族である、子やきょうだい、配偶者、あるいは親 との葛藤を抱えながら、つらい日々を過ごした方もいる。遺族らは、事件前には全く想像することもできず、何の理由もないのに、理不尽にも、かけがえのない大切な家族である、子やきょうだい、配偶者、あるいは親をそれぞれ奪われたものであり、その悲しみ、苦しみ、喪失感、怒り等は例えようのないほど深く大きい。 遺族らの多くが被告人に対する厳重な処罰を訴え、極刑を望むことも至極当然のことである。 また、殺人未遂の被害者らの肉体的、精神的苦痛が甚だ大きいことは前記のとおりであり、極刑を望むなど、多くの方の被害感情が厳しいのも当然である。 8 社会的影響本件は、技術力が高く数々の著名なアニメーション作品を生み出し、作品を見る人々に感銘を与えていたEの社屋が放火されて全焼し、多くの従業員が犠牲となった重大事件で、稀に見る被害の大きさもあって、発生直後から大きく報道され、社会に衝撃を与えた。また、容易に入手できるガソリンを使用してこれほど大きな被害結果を生じさせ得ることを社会に示したものであって、実際、被告人自身も過去の放火殺人事件を参考にして本件犯行に及んでおり、模倣犯が生じるおそれも見過ごすことはできない。 9 犯行後の情状被告人は、今後の教訓とするために、なぜこのような犯罪を起こしたのかをでき得る限り答えるという思いで裁判に臨み、公判廷において、本件の動機や被告人自身の考え方等について相当詳細に供述し、審理が進むにつれ、被害者や遺族らに対して申し訳ないと謝罪の言葉を述べ、被告人なりに一応の反省の態度を示している。被告人は、本件犯行により自らも全身に火傷を負い、現在も妄想性障害に罹患しているところ、大阪拘置所で職員による献身的な介助を受けて生活し、処方された抗精神病薬を定められたとおりに服用して精神状態も安定し、周囲の人々に対す る感謝の い、現在も妄想性障害に罹患しているところ、大阪拘置所で職員による献身的な介助を受けて生活し、処方された抗精神病薬を定められたとおりに服用して精神状態も安定し、周囲の人々に対す る感謝の気持ちを持つに至っており、もっと早く大阪拘置所に行っていれば、すなわち、人に親切にされていれば、事件を起こさなかったとも述べている。 被告人は、本件公判手続を経てもなお、Eが自らの小説のアイデアを盗用したとの供述を一貫して続けているところ、これは妄想性障害による妄想であり、同妄想については一般的に治療を施しても消失が困難とされていることにも照らし、被告人がEに対する上記の思いを解消できずにいることは無理からぬところがある。 しかし、被告人は、公判廷で、初めて、遺族や被害者らの供述調書や意見陳述によってその悲痛な思い等を聞き、自らの行った行為を振り返る大きな契機となり得たにもかかわらず、その後も、自分がしたことの大きさから目を背けることが多いと述べたり、遺族や被害者らの感情を逆なでするような表現で発言をしたりするなどしており、本件被害の実態や被害者等の実情に十分向き合えていないといわざるを得ない。被告人の中で、Eが自らの小説のアイデアを盗用したとの確信が解消できないとしても、自らの行為がもたらした凄惨な被害状況や悲惨な立場に置かれた被害者ないし遺族の実情を理解しようとしたり、それらと向き合ったりすることは十分にできるはずである。現に被告人は、Eが自らの小説のアイデアを盗用したことを前提としながらも、自らの行為を、やり過ぎだった、小説一つでそこまでしなきゃならないのかという思いがあるとも供述している。そうであるにもかかわらず、被告人の内省の深まりは上記の程度であって、被告人に真摯な反省があるとみることは到底できない。また、大阪拘置所での生活における ならないのかという思いがあるとも供述している。そうであるにもかかわらず、被告人の内省の深まりは上記の程度であって、被告人に真摯な反省があるとみることは到底できない。また、大阪拘置所での生活における被告人の考えの変化についても、職員に献身的にサポートされて初めて感謝の念が生まれたにすぎず、前記のとおり被告人には本件犯行前にも周囲に手厚く支援してくれる人々がいたにもかかわらず、今なおそのことには目を向けずに周囲の環境等に責任を転嫁しており、結局被告人の他責的で自己中心的な考え方は変わっていない。改善可能性が全くないとはいえないものの、それほど期待できるものではない。 前科被告人には前記のとおり服役前科を含む前科2犯があるが、本件犯行はこれら の前科とは比較にならない重大なものであり、量刑を左右する事情とはいえない。 11 死刑回避の事情以上のとおり、本件は、被告人が、Bスタジオでガソリンを従業員らに浴びせ掛けて火をつけ、Bスタジオを丸ごと焼き払い、36名の尊い生命を奪ったほか、34名に死の危険を生じさせた、多数人に対する放火殺人事件であり、被告人の刑事責任が極めて重大であることは明らかであって、この点からすれば、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも法が定める最も重い刑である極刑をもって臨むほかない。しかしながら、死刑の選択、適用については、慎重の上にも慎重を期するべきであって、死刑を回避し得る事情の存否について、弁護人の主張も踏まえて改めて検討する。 先に検討したとおり、弁護人の主張する建物の構造等や被害結果についての被告人の認識については責任非難等を低下させる事情ではない以上、死刑回避の事情とはなり得ない。本件犯行の動機形成に被告人の妄想性障害による妄想が影響していることは責任非難を低下させる事情ではあ ての被告人の認識については責任非難等を低下させる事情ではない以上、死刑回避の事情とはなり得ない。本件犯行の動機形成に被告人の妄想性障害による妄想が影響していることは責任非難を低下させる事情ではあるものの、その低下の程度は大きくない上、本件犯行の結果の重大性や行為態様の危険性・残虐性からすれば、本件において死刑を回避し得るほど責任非難を低下させるものとは到底いえない。幼少期の虐待、本件犯行の背景要因である生活の困窮や周囲からの孤立については被告人に帰責できない面がないではないが、いずれも特に責任非難を低下させる事情ではなく、やはり死刑回避の事情とはなり得ない。反省や改善可能性についてみても、真摯な反省はなく、余り改善が期待できないなど、それほど有利な事情といえない上に量刑を大きく左右する事情でもなく、この点も死刑回避の事情とはなり得ない。 なお、以上の事情を総合して考えても、本件において死刑を回避する余地はないというほかない。 12 結論以上のとおり、本件犯行の罪質、経緯・背景、動機、態様、結果、被害感情、社会的影響、前科、犯行後の情状等各般の情状を総合考慮し、特に、被告人が、人 命の尊さを全く省みずに、ガソリンをまいて火を放ち、36名の被害者の生命を奪い、34名の被害者を死の危険にさらしたことを考えると、被告人の罪責は極めて重く、動機の形成に妄想性障害が影響していること、犯行に至る経緯・背景に被告人に帰責できない面がないとはいえないこと、一応の反省の情を示し、改善可能性が全くないとはいえないこと等の被告人にとって有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても、死刑を回避し得る事情を見いだすことはできず、被告人に対して、死刑をもって臨むほかない。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑・死刑、主文同旨の没収)令和6年1 き事情を最大限考慮しても、死刑を回避し得る事情を見いだすことはできず、被告人に対して、死刑をもって臨むほかない。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑・死刑、主文同旨の没収) 令和6年1月25日 京都地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官 増田啓祐 裁判官 棚村治邦 裁判官 尾崎晴菜 別表1 被害者氏名 当時年齢 死亡年月日(令和元年) 死亡場所 死因 氏名省略 7月18日 Aアニメーション Bスタジオ 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 窒息死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 窒息死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 窒息死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 窒息死 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 一酸化炭素中毒 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 一酸化炭素中毒 氏名省略 同上 同上 焼死 氏名省略 同上 同上 一酸化炭素中毒 氏名省略 同上 同上 窒息死(推定) 別表1 被害者氏名 当時年齢 死亡年月日(令和元年) 死亡場所 死因 氏名省略 7月18日 Aアニメーション B 同上一酸化炭素中毒 氏名省略 同上同上窒息死(推定)別表1被害者氏名当時年齢死亡年月日(令和元年)死亡場所死因 氏名省略 7月18日AアニメーションBスタジオ窒息死 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 同上同上一酸化炭素中毒 氏名省略 同上同上一酸化炭素中毒 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 同上同上焼死 氏名省略 7月19日大阪府吹田市内の医療機関全身火傷 氏名省略 7月27日大阪府枚方市内の医療機関全身火傷に合併した敗血症(推定) 氏名省略 10月4日名古屋市南区内の医療機関広範囲熱傷による敗血症性ショック加療等に要する期間 氏名省略 加療約4年間以上 氏名省略 加療約2年3か月間以上 氏名省略 広範囲脳挫傷、びまん性軸索損傷につき完治不能 氏名省略 加療約198日間 氏名省略 加療約8日間 氏名省略 加療約1年1か月間 氏名省略 加療約86日間 氏名省略 加療約1か月間 氏名省略 加療約1年4か月間以上 氏名省略 加療約1年5か月間 氏名省略 加療約1年2か月間 氏名省略 加療約5日間 氏名省略 加療約157日間 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 加療約73日間 氏名省略 全治約5日間 氏名省略 全治約2週間 氏名省略 全治約2週間 氏名省略 全治約1週間 全治約1週間 氏名省略 加療約73日間 氏名省略 全治約5日間 氏名省略 全治約2週間 氏名省略 全治約2週間 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 加療約44日間別表2被害者氏名当時年齢受傷結果受傷内容(後遺症)右手、右大腿打撲重度広範囲熱傷、気道熱傷、全身第3度熱傷後全身関節瘢痕拘縮、心的外傷後ストレス障害顔面・頸部・前胸部・両肩・左上腕~前腕・左手背・右前腕・右手背・背部熱傷(顔面等瘢痕)、気道熱傷、心的外傷後ストレス障害後頭部打撲挫創、後頭骨骨折、気脳症、外傷性くも膜下出血、広範囲脳挫傷、びまん性軸索損傷(味覚障害等)、髄膜炎、続発性正常圧水頭症気道熱傷、声門下狭窄、外傷性くも膜下出血、腰椎横突起骨折、左第9ないし第12肋骨骨折等頭頂部挫創、四肢擦過傷第1、第2腰椎骨折(椎体変形、創痕)頭部第2度熱傷、一酸化炭素中毒、気道熱傷、四肢熱傷右下腿打撲、擦過傷、左上腕皮下出血、頸椎捻挫、胸部打撲第2腰椎椎体骨折(椎体変形)、仙骨骨折、外傷性くも膜下出血右膝関節内骨折、右後十字靱帯断裂、右足関節内骨折、右半月板損傷、前頭洞骨折(肥厚性瘢痕)、鼻骨骨折右足関節三果骨折、右上腕骨大結節剥離骨折、右肩打撲右足関節内骨折、右距骨骨折、右踵骨骨折右足第一趾擦過傷右母趾末節骨骨折両膝打撲、両下腿打撲、右肘打撲両手擦過傷、両足部捻挫左肘・前腕熱傷Ⅱ度、左手擦過傷、右下腿・両膝擦過傷両膝打撲、右上腕打撲左下肢2度熱傷、両前腕・腰部・右下肢擦過傷、後頭部挫創加療等に要する期間別表2被害者氏名当時年齢受傷結果受傷内容(後遺症) 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 加療約34日間 頭部挫創加療等に要する期間別表2 被害者氏名 当時年齢 受傷結果 受傷内容(後遺症) 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 加療約34日間 氏名省略 加療約121日間 氏名省略 全治約1週間 氏名省略 加療約2か月間 氏名省略 加療約1年1か月間 氏名省略 全治約10日間 氏名省略 加療約2週間 氏名省略 氏名省略 全治約5日間 氏名省略 全治約2週間 氏名省略 加療約19日間 氏名省略 左距骨骨折 両肘打撲 両膝打撲、気道熱傷 腰部打撲、骨盤部打撲 気道熱傷 左肘打撲 臀部打撲、右上腕痛 負傷なし 左前腕熱傷Ⅰ度、同擦過傷 右下腿打撲、両外傷性顎関節症 顔面打撲・擦過傷 背部打撲 右足関節外果骨折 左踵部打撲・擦過傷、左臀部打撲 両上肢第2度熱傷 負傷なし
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