平成22年3月31日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成21年(ワ)第909号共有物分割請求事件口頭弁論終結日平成22年1月21日判決要旨不動産の共有物分割請求において,全面的価格賠償の方法の適否を検討するに当たり,賠償すべき価格の基準となる不動産価格について,これに設定されている担保権の被担保債権の額を控除すべきでないとした事例判決主文 別紙物件目録1の土地について競売を命じ,その売得金から競売手続費用を控除した金額を,原告Aに10万分の9721,原告Bに10万分の5308,被告Cに10万分の68971,被告Dに100分の16の割合で分割する。 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,原告らと被告らが共有する別紙物件目録1の土地(以下「本件土地」という。)について,原告らが競売を命ずる方法による共有物分割を求めた事案である。 被告らは,本訴請求が訴権の濫用であり,あるいは訴えの利益を欠いて,不適法であるとの本案前の答弁をするほか,全面的価格賠償により被告らの所有とする方法を主張するが,競売を命ずる方法によることも受け容れている。 争いのない事実等(証拠等により認定した事実については,その末尾に当該証拠等を挙示する。) 被告C,原告A,原告Bは,兄弟であり,その長幼は前記の順のとおりで( )ある。また,被告Dは,被告Cの妻である。 (甲2) 本件土地は,もと原告ら及び被告Cの父である亡Eが所有していたが,同( )人は平成6年5月23日死亡し,被告Cが遺贈により取得した。その後,原告らはそれぞれ被告Cへの遺贈に対し遺留分減殺の意思表示をし,本件土地の所有権一部移転登記等を求める訴 所有していたが,同( )人は平成6年5月23日死亡し,被告Cが遺贈により取得した。その後,原告らはそれぞれ被告Cへの遺贈に対し遺留分減殺の意思表示をし,本件土地の所有権一部移転登記等を求める訴訟を提起し(当庁平成8年(ワ)第1114号遺留分減殺等請求事件,同年(ワ)第1464号土地所有権移転登記手続等請求事件),同事件の判決が確定したことにより,原告Aが持分10万分の9721,原告Bが持分10万分の5308を取得した。そして,被告Cは,平成13年8月8日,被告Dに対し,自己の持分のうち持分100分の16を贈与した。 (甲2,甲11,乙9) 本件土地上には,別紙物件目録2の建物(以下「本件地上建物」とい()う。)が存在し,本件地上建物は被告Cが代表取締役であり,その余の役員も被告Dほか被告ら家族に限られるF株式会社(以下「F」という。)が所有している。 (顕著な事実) 本件土地及び本件地上建物には,債務者をF,債権者をG信用金庫とする( )極度額3億6000万円の共同根抵当権が設定されている(以下この根抵当権を「本件根抵当権」という。)。本件根抵当権の被担保債権の残高は,平成20年12月31日の時点で9774万6177円であり,現在でも9000万円以上残存する。 (甲10,乙9,弁論の全趣旨) 本件土地の平成21年1月時点での更地としての評価は,1億4841万( )8000円である。そして,本件土地上に被告らの同族会社といえるFが所 有する本件地上建物が存在し,Fと被告らとの間の本件地上建物に係る賃料が当初の月額10万円から段階的に減額され平成20年1月以降は月額2万5000円とされる一方,Fと原告Bとの間の本件地上建物に係る賃料が当初の月額5308円から賃料増額請求訴訟を経て月額2万4523円とされているとい から段階的に減額され平成20年1月以降は月額2万5000円とされる一方,Fと原告Bとの間の本件地上建物に係る賃料が当初の月額5308円から賃料増額請求訴訟を経て月額2万4523円とされているといった事情を踏まえると,借地権割合は50%とするのが相当であり,これに時点修正を加えると,平成21年12月時点での本件土地の本件地上建物の底地としての価格は,6678万8000円となる(100円以下切り捨て)。 (甲5の1,甲11,乙2から5まで,乙6の1,2,乙8) 争点 本訴請求が権利の濫用に当たるか,あるいは訴えの利益を欠くか。 ( )(被告らの主張)本件土地は,これを競売しても,上記14 5 記載のとおりの根抵当権の被( )( )担保債権残額,更に現在の経済情勢を考慮すれば,剰余金が出ることが見込まれず,無剰余取消しとなることが予想される。また,剰余金が出たとしても,原告らが得られる金額は少額にとどまるのに対し,被告らの生活はFの本件地上建物からの収益に依存しており,本件土地を競売されることによる不利益が極めて大きい。 このような状況において,本件土地について競売を命ずる方法による共有物分割を請求することは,訴権の濫用であり,あるいは訴えの利益を欠く。 (原告らの主張)争う。 全面的価格賠償の方法による共有物分割の適否( )(被告らの主張)被告らは,原告Aに対し291万0600円,原告Bに対し158万9400円の合計450万円を価格賠償して,本件土地を被告らの共有とする方 法による共有物分割を求める。 全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格については,本件土地の時価から,本件根抵当権の被担保債権を控除すべきであり,オーバーローンであるためこのような控除をすると価格が0となるとすれば,本件土地の価格は原告らの 基準とする本件土地の価格については,本件土地の時価から,本件根抵当権の被担保債権を控除すべきであり,オーバーローンであるためこのような控除をすると価格が0となるとすれば,本件土地の価格は原告らの本件土地についての潜在的利益を総合的に考慮した金額とするほかないと考えられる(東京地裁平成18年6月15日判決・判例タイムズ1214号222頁参照)ところ,前記の被告らの請求は,全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格を約3000万円とすることを意味し,原告らの潜在的利益を考慮しても本件土地の価格がこれを上回ることはないと考えられる。 (原告らの主張)被告らが主張する金額を全面的価格賠償として,本件土地を共有物分割することは争う。 第3争点に対する判断 争点1 (本訴請求が権利の濫用に当たるか,あるいは訴えの利益を欠くか。 ( )について上記第2,14 5 の事実によれば,本件土地のみについて共有物分割のため( )( )の競売を申し立てたとしても,現時点の価格からすれば,競売手続が無剰余取消しとなる可能性がある(民事執行法195条,188条,63条1項2号,2項本文)。しかし,優先債権者である本件根抵当権者が同意をすれば手続は取り消されない(同法63条2項ただし書)し,原告らは本訴において本件土地について競売を命ずる判決を得たとしても,直ちにこれに基づく競売の申立てをすべき義務を負うものではなく,将来的には,被担保債権がFの弁済により減少し,あるいは不動産市況の変化により,剰余金を受け取る可能性が残されているのであるから,近時の状況からすれば前記の取消しの可能性があるからといって,本訴請求が権利の濫用に当たる,あるいは訴えの利益を欠くとい うことはできない。 また,被告らは,上記第2,21 被告らの主張のとおり,本件土地を からすれば前記の取消しの可能性があるからといって,本訴請求が権利の濫用に当たる,あるいは訴えの利益を欠くとい うことはできない。 また,被告らは,上記第2,21 被告らの主張のとおり,本件土地を競売し( )た場合の原告らと被告らの利益状況を基に,権利の濫用又は訴えの利益を欠くことを主張するが,前記の状況は本訴請求を不適法とするような事由とはいえない。 よって,この争点についての被告らの主張は採用できず,本訴請求は適法である。 争点2 (全面的価格賠償の方法による共有物分割の適否)について( ) 当裁判所は,全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格につい( )て,本件根抵当権の被担保債権の額を控除すべきでないと考える。その理由は,次のとおりである。 すなわち,一般に,抵当権等の担保権が設定された不動産の取引において,その売買金額を決するに当たって,時価からその担保権の被担保債権額を控除した金額とすることが多いが,それは,当該被担保債権の債務者である売主が,その売買の後に被担保債権に係る債務を履行することを期待することができない状況にある,あるいは履行されないリスクが大きいからであって,担保権の存在自体によって当該不動産の時価そのものが減少するからではない。また,共有物分割を命ずる判決に基づく競売において,共有者に対し優先債権への配当後の剰余金を配当するのは,執行裁判所が換価条件を決定するに当たって,いわゆる消除主義によっているからであるが,消除主義によるのは,いわゆる引受主義によったのでは換価が円滑に進まないという手続運営上の要請によるところが大きいのに加え,優先債権の債務者が当該不動産の共有者でなければ,競売において優先債権への配当後の剰余金を配当された共有者は,その持分に応じて,前記債務者に対し,物上保証人に 営上の要請によるところが大きいのに加え,優先債権の債務者が当該不動産の共有者でなければ,競売において優先債権への配当後の剰余金を配当された共有者は,その持分に応じて,前記債務者に対し,物上保証人に類似する立場に立つ者として,その債務を免れた限度で求償権を行使することができ,その債務者に資力があれば,この求償権を行使することにより,優先債 権への配当前の当該不動産の持分の価格相当額を回収することができることから考えても,当該不動産を競売した場合の剰余金のみが当該不動産の価値を反映していることを意味するものではない。 このように考えると,共有物分割の対象となる不動産の価格を検討するに当たって,その不動産に設定されている被担保債権額をどのように考慮するかについては,第一に,その被担保債権に係る債務者の無資力のリスクの程度を検討すべきであり,考慮すべきリスクがあるとすれば,それを共有者の間でどのように負担させるのが公平であるかという点からの検討も必要であるというべきである。 これを本件についてみると,本件根抵当権の債務者はFであり,証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,Fは,順調とはいえないまでも,本件根抵当権の被担保債権に係る債務の弁済を継続しており,直ちに無資力に陥る状況にあるとは認められない。また,Fが無資力になるリスクがあるとしても,Fは被告らの同族会社というべきものであって,そのリスクは被告らが負うのが公平であり,原告らに負わせるべきではない。 以上の検討により,全面的価格賠償に当たって基準とする本件土地の価格については,本件根抵当権の被担保債権の額を控除せず,上記第2,1(5)のとおり,6678万8000円とすべきである。 上記価格を前提とすると,被告らが本件土地を取得するための原告らに対( )する賠償金は,原告Aに対し 被担保債権の額を控除せず,上記第2,1(5)のとおり,6678万8000円とすべきである。 上記価格を前提とすると,被告らが本件土地を取得するための原告らに対( )する賠償金は,原告Aに対し649万2000円,原告Bに対し354万5000円の合計1003万7000円(いずれも100円以下切り捨て)となるところ,弁論の全趣旨によれば,被告らにこの賠償金を支払う資力がないので,被告らに全面的価格賠償をさせて本件土地を取得させることはできない。 第4結語上記第2,13 の本件土地の利用状況によれば,本件土地を現物分割するこ( ) とは不可能であり,上記検討のとおり全面的価格賠償の方法等による代償分割の方法も見出せない上,被告らも予備的には競売によることを許容していることから,当裁判所は,民法258条2項に基づき,本件土地について,競売を命ずることにする。訴訟費用の負担については,双方当事者の共有物分割の方法に係る態度を考慮して,民事訴訟法65条1項本文,62条,61条を適用する。 京都地方裁判所第1民事部裁判官小堀悟 (別紙)物件目録(省略)
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