平成22(行ケ)10402 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年12月26日 知的財産高等裁判所 1部 判決 請求棄却
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判決文本文30,744 文字)

平成23年12月26日判決言渡 平成22年(行ケ)第10402号審決取消請求事件(特許) 口頭弁論終結日平成23年12月19日判決 原告 國際威林生化科技股份有限公司 訴訟代理人 弁理士 山口朔生 同 大島信之 被告 特許庁長官 指定代理人 木村敏康 同 柳和子 同 須藤康洋 同 田村正明 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が不服2007-24198号事件について平成22年8月23日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が名称を「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物,及びその製造方法」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,その中で原告は,平成19年10月3日付けでも特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(以下「本件補正」 法」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,その中で原告は,平成19年10月3日付けでも特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(以下「本件補正」という。)- 2 -をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 2 争点は,上記補正の適否(新規事項の追加に当たるか,目的要件に違反するか,独立特許要件〔サポート要件〕を有するか),である。 第3 当事者の主張 1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年12月8日,前記名称の発明について特許出願(特願2003-408761号,公開特許公報は特開2005-170797号,請求項の数14)をし,平成19年5月1日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(第1次補正,請求項の数3。甲3)をしたが,平成19年5月25日付けで拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は上記請求を不服2007-24198号事件として審理し,その中で原告は,平成19年10月3日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする本件補正(第2次補正,請求項の数2。甲8)をしたが,特許庁は,平成22年8月23日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は同年9月7日原告に送達された。 (2) 発明の内容ア平成15年12月8日付けでなされた本件出願時の請求項の数は,前記のとおり14であるが,その請求項1に記載された発明(原発明)の内容は,次のとおりである。 ・【請求項1】以下の成分からなる抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物であって,一般式が,M + aX - b で,Mは,ニッケル,コバルト れた発明(原発明)の内容は,次のとおりである。 ・【請求項1】以下の成分からなる抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物であって,一般式が,M + aX - b で,Mは,ニッケル,コバルト,マグネシ- 3 -ウム,マンガン,クロム,カルシウム,鉄,銅,チタン,アルミニウム,アンチモン,スズ,鉛,亜鉛,白金,バラジウム,オスミウム,ルテニウム,カドミウム,ロジウム,及びイリジウム,からなる群から選択された金属元素,或いは,NH4 で,Xは,フッ化物,塩化物,臭化物,ヨウ化物,硝酸,硫酸,亜硫酸塩剤,アセテート,シュウ酸塩,カルボン酸塩,琥珀酸塩,リン酸塩,ピロリン酸塩,過塩素酸塩,グルコン酸,アスコルビン酸塩,エチレンジアミン酢酸鉛,フマル酸塩,乳酸塩,からなる群から選択された陰性基であり,a=1~6,b=1~6である,触媒機能を有する金属イオン化合物(A)と,イオン化合物,イオウ化合物,還元能力を有する補酵素,或いは,酸化能力を有する試薬である(B)と,一般式が,RYZで,Rは,リチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,及び亜鉛からなる群から選択される元素で,Yは,塩化物,硝酸,硫酸,カルボン酸塩,炭酸塩,重炭酸塩,リン酸塩,二水素リン酸塩,リン酸水素,及び,シュウ酸塩であり,z=1 ,或いは2である,添加剤(C)と,からなり,前記(A):(B):(C)の重量比は,1:10~50:1500~3000であることを特徴とする組成物。 イ平成19年5月1日付けでなされた第1次補正後の請求項の数は前記のとおり3であるが,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである(点線部分は第1次補正箇所)。 ・【請求項1】以下の成分からなる抗菌,抗ウィルス,及び のとおり3であるが,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである(点線部分は第1次補正箇所)。 ・【請求項1】以下の成分からなる抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物であって,一般式が,M+aX-bで,Mは,ニッケル,コバルト,マグネシウム,マンガン,クロム,カルシウム,鉄,銅,チタン,アルミニウム,アン- 4 -チモン,スズ,鉛,亜鉛,白金,バラジウム,オスミウム,ルテニウム,カドミウム,ロジウム,及びイリジウム,からなる群から選択された金属元素,或いは,NH4で,Xは,フッ化物,塩化物,臭化物,ヨウ化物,硝酸塩,硫酸塩,亜硫酸塩剤,アセテート,シュウ酸塩,カルボン酸塩,琥珀酸塩,リン酸塩,ピロリン酸塩,過塩素酸塩,グルコン酸塩,アスコルビン酸塩,エチレンジアミン酢酸塩鉛,フマル酸塩,乳酸塩,からなる群から選択された陰性基であり,a=1~6,b=1~6である,触媒機能を有する金属イオン化合物(A)と,還元フラビンモノヌクレオチド,還元フラビンアデニンジヌクレオチド,還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド,及び還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸からなる群から選択される還元能力を有する補酵素および過酸化水素,キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬の混合物である(B)と,一般式が,RYZで,Rは,リチウム,ナトリウム,及びカリウムからなる群から選択される元素で,Yは,塩化物,硝酸塩,硫酸塩,カルボン酸塩,炭酸塩,重炭酸塩,リン酸塩,二水素リン酸塩,リン酸水素塩,及び,シュウ酸塩であり,z=1,或いは2である,添加剤(C)と,からなり,前記(A):(B):(C)の重量比は,1:10~50:1500~3000であることを特徴とする組成物。 塩,及び,シュウ酸塩であり,z=1,或いは2である,添加剤(C)と,からなり,前記(A):(B):(C)の重量比は,1:10~50:1500~3000であることを特徴とする組成物。 ウ平成19年10月3日付けでなされた本件補正(第2次補正)後の請求項の数は,前記のとおり2であるが,その請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)の内容は,以下のとおりである(下線部分は本件補正箇所)。 ・【請求項1】- 5 -以下の成分からなる抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物であって,一般公式が,M+aX-bで,Mは,ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びバラジウムからなる群から選択された金属素子で,Xは,塩化物,臭化物,ヨウ化物,硝酸,硫酸,亜硫酸塩,アセテート,シュウ酸塩,カルボン酸塩,琥珀酸塩,リン酸塩,ピロリン酸塩,過塩素酸塩,グルコン酸塩,アスコルビン酸塩,エチレンジアミン酢酸塩,テトラアセテート,フマル酸塩,乳酸塩からなる群から選択された陰性基で,a=1~6,b=1~6である,触媒機能を有する金属イオン化合物(A)と,還元能力を有する補酵素,H2O2,および酸化能力を有する試剤との混合物(B)と,前記(b)について,前記還元能力を有する補酵素は,還元フラビンモノヌクレオチド(FMNH2),還元フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH2),還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH),及び還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)からなる群から選択され,酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され,塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二 択され,酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され,塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二水素カリウム,硫酸カルシウム,および塩化マグネシウムよりなる添加剤(C)と,からなり,前記(A)(B)(C)の重量比は,1:10~50:1500~3000であることを特徴とする組成物。 (3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,①本件補正は当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえな- 6 -い(新規事項の追加である)から特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない,②本件補正は目的要件違反(請求の減縮,明りょうでない記載の釈明等でない)の補正を含んでいるから平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第4項に規定する要件を満たしていない,③本願補正発明は,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しないから特許出願の際独立して特許を受けることができない,④本件補正前の本願発明も特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない,というものである。 (4) 審決の取消事由しかしながら,上記①~③を理由に本件補正を却下した審決には次のような誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)(ア) 審決は,「本願の願書に最初に添付した明細書(以下,『当初明細書』という。)の段落0006には,『酸化能力を有する試剤の例は,これに限定するものではないが,過酸化水素,アズレンキノン(azulenequinone)等のキノン,及び派生物である。』との記載があり,同段落0010には,実施例1として,『過酸化 る試剤の例は,これに限定するものではないが,過酸化水素,アズレンキノン(azulenequinone)等のキノン,及び派生物である。』との記載があり,同段落0010には,実施例1として,『過酸化水素水』及び『アズレンキノン派生物』を使用した具体例が記載されている。しかしながら,当該『1,2-ジヒドロキノン』及び『1,4-ジヒドロキノン』という事項については,本願の当初明細書又は図面に示唆を含めて記載がない。そして,本願の当初明細書の『アズレンキノン…等のキノン』との記載に接した当業者にとって,これが当該『1,2-ジヒドロキノン』及び『1,4-ジヒドロキノン』という事項を直ちに意味しているものとは解せず,また,これらのキノン類が,当業者にとって本願の当初明細書の発明の詳細な説明等に実質的に記載されているのと同然であると理解できる程度の常識的な事項に相当するものとも認められず,さらに,『審判請求人は特段の意見はありません』との回答がなされている- 7 -ことは前記のとおりである。してみると,本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」(審決4頁7行~25行)と説示する。 しかし,「キノン」という用語は,一般的にはベンゼン環から誘導され,2つのケトン構造を持つ環状の有機化合物の総称であって,ある特定の有機化合物を指す言葉として用いられるものではない(甲14参照)。 また,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」の用語も,ベンゼン環に結合するヒドロキシル基の位置によってその名称が変わるだけであり,「キノン」の用語の意味を超えて他の化合物をも包含するものではない。すなわち,ヒドロキシル基がp位に位置する場合が 語も,ベンゼン環に結合するヒドロキシル基の位置によってその名称が変わるだけであり,「キノン」の用語の意味を超えて他の化合物をも包含するものではない。すなわち,ヒドロキシル基がp位に位置する場合が「1,4-ジヒドロキノン」であり,ヒドロキシル基がo位に位置する場合が「1,2-ジヒドロキノン」である。 さらに,ヒドロキノンとベンゾキノンとの対は酸化還元系を形成するため(甲14参照),「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」などの「ヒドロキノン」は,容易に酸化されて「1,2-ベンゾキノン(オルソベンゾキノン)」や「1,4-ベンゾキノン(パラベンゾキノン)」などの「ベンゾキノン」に変化し,「ベンゾキノン」が還元されると「ヒドロキノン」に変化する。このような「ヒドロキノン」と「ベンゾキノン」との関係に鑑みれば,「ヒドロキノン」,すなわち「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかである。 してみれば,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」は,ベンゼン環に結合するヒドロキシル基の位置を限定したにすぎず,特許請求の範囲の限定的減縮に相当するものであるから,審決の- 8 -上記認定は誤りである。 (イ) 被告は,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」という化合物は存在し得ず,また,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」が酸化能力を有する試剤としての作用を奏することが技術常識であると認めるに足りる証拠はないと主張する。 しかし,甲17(特開2003-12762号公報。以下「甲17文献」という。)の段落【0041】及び甲18(特開平10-7665号公報。以下「甲18文献」という。)の段落【0021】に記載されているように,少 7(特開2003-12762号公報。以下「甲17文献」という。)の段落【0041】及び甲18(特開平10-7665号公報。以下「甲18文献」という。)の段落【0021】に記載されているように,少なくとも,ヒドロキシル基がベンゼン環のp位に位置する化合物が「1,4-ジヒドロキノン」と呼ばれ,かつ,酸化剤として酸の代替物となりうることが本願の出願前から知られている。そうであれば,ヒドロキシル基がベンゼン環のo位に位置する化合物は「1,2-ジヒドロキノン」と呼ばれ,かつ,酸化剤としての機能を有する蓋然性が極めて高いというべきである。 また,本願の当初明細書の段落【0006】は酸化能力を有する試剤の例を示したものであり,そのような試剤として,酸化能力を有していない化合物を列記することは当業者の技術常識から考えてあり得ないことである。 さらに,本願の当初明細書の段落【0010】及び【0012】に記載されているように,本願発明に係る組成物の調製は撹拌により酸素雰囲気下で実施されるので,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」を添加して撹拌された溶液中でこれらは酸化され,「1,2-ベンゾキノン」又は「1,4-ベンゾキノンなどのベンゾキノン」に変化する。ここで,「ベンゾキノン」は酸化剤として周知であるから(甲22参照),酸素雰囲気下における自動酸化によって「1,2-ベンゾキノン」又は「1,4-ベンゾキノン」にそれぞれ達し得る- 9 -「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」は,当該酸素雰囲気下にある限り,「ベンゾキノン」への変化を通じて酸化力を発揮し得ることが明らかである。 したがって,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」を,それぞれ「1,2-ヒドロキシベンゼン(別名:ピロカ ンゾキノン」への変化を通じて酸化力を発揮し得ることが明らかである。 したがって,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」を,それぞれ「1,2-ヒドロキシベンゼン(別名:ピロカテコール)」及び「1,4-ジヒドロキシベンゼン(別名:ヒドロキノン」と解釈し,それらの化合物が酸化抑制剤として知られていることに基づき,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」の酸化能力を否定することは,明細書の記載を無視した議論である。 以上のとおり,被告の上記主張は失当である。 イ取消事由2(目的要件の判断の誤り-「金属元素」を「金属素子」とする補正は誤記の訂正である)(ア) 審決は,「・・・『金属元素』との記載を含む記載部分を,『金属素子』との記載を含む記載に改める補正は,補正後の『金属素子』という発明特定事項が,補正前の『金属元素』という発明特定事項の下位概念化に相当するものではないという点において,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものに該当しない。また,補正後の『金属素子』という発明特定事項は,補正後の請求項1の記載における文脈関係において,その内容が著しく意味不明であることから,同3号の『誤記の訂正』ないし同4号の『明りょうでない記載の釈明』を目的とするものにも該当せず,同1号の『請求項の削除』にも該当しない。」(審決5頁7行~15行)と説示する。 しかし,「金属元素」の記載を「金属素子」とする補正は,明らかに誤記に相当するものである。 また,「元素」と「素子」はいずれもその英語訳が「エレメント」- 10 -(element)であり,本質的に同じ意味を有する用語(甲19及び甲20)なので,「元素」と「素子」という表記の違いのみをも た,「元素」と「素子」はいずれもその英語訳が「エレメント」- 10 -(element)であり,本質的に同じ意味を有する用語(甲19及び甲20)なので,「元素」と「素子」という表記の違いのみをもって補正の適否を判断すべきではなく,明細書及び図面の記載を総合的に勘案して用語の意義を解釈すべきである。本願の当初明細書の段落【0005】には,金属元素の具体例が示されているが,これらは金属を構成するエレメント(element)=素子となり得るものであるから,いわば「金属素子」と同義である。したがって,上記補正は,目的要件違反には該当せず,看過しても問題ない程度の軽微な誤記である。 (イ) 上記のように補正による誤記によって発明の内容が著しく意味不明となったのであれば,請求項に係る発明について「特許を受けようとする発明が明確であること」を規定した特許法36条6項2号に規定する要件を満たさないことになる。そして,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合,審判官は拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項本文)ところ,本件においては,特許法36条6項2号は原査定の拒絶理由には含まれていないため,審判請求後の補正によって新たに発生した拒絶理由ということになる。また,原告は審判請求後に提出した平成19年11月28日付け手続補正書(甲9)において,「ただし,もし審判官がこの請求の範囲を評価しないと判断するならば,出願人は審判官の指示通りの補正の用意があり,出願当初の明細書に記載されている実施例だけに請求の範囲を限定する用意があることを申し添える。」と記載している。 このように,審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見しておきながら意見書を提出する機会を に記載されている実施例だけに請求の範囲を限定する用意があることを申し添える。」と記載している。 このように,審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見しておきながら意見書を提出する機会を与えず,かつ,出願人に補正の意思があるにもかかわらず補正の機会を与えなかったことは,法律に違反するものである。 - 11 -ウ取消事由3(目的要件の判断の誤り-「エチレンジアミン酢酸塩,テトラアセテート」への補正は誤記の訂正である)審決は,「・・・『エチレンジアミン酢酸塩鉛』との記載部分に相当する記載を,『エチレンジアミン酢酸塩,テトラアセテート』との記載に改める補正は,補正前に記載されていた『鉛』という事項を削除して,その範囲を実質的に拡大するとともに,新たに『テトラアセテート』という選択肢を追加しているものであるから,同1号の『請求項の削除』,同2号の『特許請求の範囲の減縮』,同3号の『誤記の訂正』ないし同4号の『明りょうでない記載の釈明』を目的とするものに該当しない。」(5頁16行から22行)と説示する。 しかし,「エチレンジアミン酢酸塩鉛」との記載部分に相当する記載を「エチレンジアミン酢酸塩,テトラアセテート」との記載に改める補正は本願の当初明細書における「エチレンジアミン酢酸鉛(ethylenediaminetetraacetate)」(段落【0006】参照)の記載に基づいて「エチレンジアミン四酢酸塩」と補正すべきところを,誤って「エチレンジアミン酢酸塩,テトラアセテート」と補正してしまったものである。かかる補正が誤記であることは,「テトラアセテート」なる化合物が単独で存在しないことに鑑みても明らかである。 したがって,上記補正は目的要件違反として認定されるべきものではなく,審判官はこれを誤記として認定 記であることは,「テトラアセテート」なる化合物が単独で存在しないことに鑑みても明らかである。 したがって,上記補正は目的要件違反として認定されるべきものではなく,審判官はこれを誤記として認定し,審判請求人に拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったのであり,それにもかかわらず,補正の機会を与えなかったことは法律に違反するものである。 エ取消事由4(目的要件の判断の誤り-「添加剤(C)」の内容を6種類に限定することは「減縮」に当たる)(ア) 審決は,「・・・補正は,補正前の『添加剤(C)』の定義範囲に含- 12 -まれていなかった,『硫酸カルシウム』のようなカルシウム化合物や『塩化マグネシウム』のようなマグネシウム化合物を,補正後の『添加剤(C)』の定義範囲に含めるようにするものであるから,特許を受けようとする発明の範囲を拡張するものであって,同1号の『請求項の削除』,同2号の『特許請求の範囲の減縮』,同3号の『誤記の訂正』ないし同4号の『明りょうでない記載の釈明』を目的とするものに該当しない。」(審決5頁23行~29行)と説示する。 しかし,上記補正は「添加剤(C)」を減縮する補正であることが明らかであり,特許を受けようとする発明の範囲を拡張するものではない。 すなわち,補正前の上記「添加剤(C)」は,RとYとの組み合わせからなり,元素の数(z)が1又は2である化合物を想定しているから,これらの組み合わせから得られる化合物は全部で60種類にも上る(3×10×2=60)。これに対し,補正後の「添加剤(C)」として限定されたのは,塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二水素カリウム,硫酸カルシウム及び塩化マグネシウムからなるわずか6種類である。 れに対し,補正後の「添加剤(C)」として限定されたのは,塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二水素カリウム,硫酸カルシウム及び塩化マグネシウムからなるわずか6種類である。補正前の化合物の種類が60種類であったものを,補正後は6種類に限定するものであるから,かかる補正は「添加剤(C)」を減縮する補正である。したがって,本件補正は化合物の種類を増加するものではないから,特許を受けようとする発明の範囲を拡張するものではない。 (イ) この点に関し被告は,前記改正前特許法17条の2第4項2号(判決注・特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であ- 13 -るものに限る。)とする)を目的とする補正は,特許請求の範囲を減縮するだけでなく,発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解されるとし,化合物の種類の数を60種類から6種類に減じたとしても,補正前の「添加剤(C)」の定義範囲にカルシウム化合物やマグネシウム化合物が含まれていない以上,「硫酸カルシウム」や「塩化マグネシウム」を「添加剤(C)」に追加する補正は,発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえないと主張する。 しかし,改正前特許法17条の2第4項2号の括弧書きは,補正前後の発明の利用分野及び課題が同一でなければならないことを規定するものであり,本願補正発明における発明の利用分野及び課題に鑑みれば,本件補正に至るまでには数多くの組み合わせが存在した「添加剤(C)」が,最終的に6種類の化合物にまで限定されたことによ とを規定するものであり,本願補正発明における発明の利用分野及び課題に鑑みれば,本件補正に至るまでには数多くの組み合わせが存在した「添加剤(C)」が,最終的に6種類の化合物にまで限定されたことによって発明の利用分野及び課題が異なるものになった事実は存在せず,むしろ「添加剤(C)」が限定されたことによって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題がより明確になったものであり,また,既に行った先行技術文献調査の結果を有効に活用して迅速に審査を行うことが可能となったものであるから,上記補正は特許法17条の2第4項2号の趣旨に反するものではない。したがって,被告の上記主張は失当である。 オ取消事由5(独立特許要件〔サポート要件〕の判断の誤り)(ア) 審決は,「本願明細書の発明の詳細な説明において『銅』が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものと示されていたとしても,補正後の請求項1の『M』についての『ニッケル,コバルト,クロム,鉄,チタン,白金及びバラジウム』の7つの選択肢の各々が,『銅』と同様に作用すると認識できる範囲のものであるといえることが,本願の出願時の技術常識となっていたとは解せないので,当該『ニッケル,コ- 14 -バルト,クロム,鉄,チタン,白金及びバラジウム』の7つの選択肢については,本願明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載や示唆がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。」(審決8頁23行~32行)と説示する。 しかし,本願補正発明において使用される金属イオン化合物(A)は,触媒機能を発揮し得るか否かが本質的に問われるべきであるところ,審決ではこの点に全く触れられていない。本願補正発明で限定された「ニッケル,コバルト,クロム, いて使用される金属イオン化合物(A)は,触媒機能を発揮し得るか否かが本質的に問われるべきであるところ,審決ではこの点に全く触れられていない。本願補正発明で限定された「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」は,いずれも触媒機能を有する物質として当業者において周知であることは疑いの余地がなく,これらは特殊な条件でのみその機能を発揮するような触媒でもない。 したがって,本願の当初明細書の実施例1において「銅」(酸化第一銅)が示されている以上,当業者は他の7つの化合物においても,本願の出願時の技術常識において当然に触媒機能を発揮すると推定することができるというべきであって,そうであれば,7つの選択肢については,本願の当初明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載や示唆がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,審決の上記判断は誤りである。 (イ) この点に関し,被告は,触媒の種類が異なればその触媒機能も異なると主張する。 しかし,本願補正発明のサポート要件を判断する上で重要なのは,「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,チタン,白金及びパラジウム」が本願補正発明の構成要素の一つとなったときに,抗菌,抗ウイルス,抗真菌活性を示すか否かであるところ,上記のいずれか1種類が触媒機能を発揮すると,細菌,ウイルス,真菌に対して99%の核酸を破壊する- 15 -(当初明細書の段落【0017】,図4参照)のであるから,「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」は細菌,ウイルス,真菌の細胞膜に対して化学吸着し,水素添加,脱水素,酸化,還元等の化学的挙動に寄与するものと考えられる。そして,この場合に,例えば「OH*を形成する」という触媒機能に パラジウム」は細菌,ウイルス,真菌の細胞膜に対して化学吸着し,水素添加,脱水素,酸化,還元等の化学的挙動に寄与するものと考えられる。そして,この場合に,例えば「OH*を形成する」という触媒機能に関して,「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」における強弱の相違は問題にはならない。触媒機能を有する化合物であれば,程度の差はあれ細菌,ウイルス,真菌の細胞膜に対して化学吸着し,水素添加,脱水素,酸化,還元等の化学的挙動が極めて高い蓋然性をもって推定できるからである。 また,甲11の1及び甲23(いずれもBarryHalliwell ほか,「FreeRadicalsinBiologyandMedicine」,OxfordSciencePublications,1999年,(以下「甲11の1文献」という。)には,本願補正発明で使用される金属(Ni,Cr,Ti等)はH2O2及びO2をそれぞれOH・(ヒドロキシルラジカル)及びO2・-(スーパーオキシドアニオンラジカル)に変換でき,また,これらOH・及びO2・-が,抗ウィルス,抗菌効果を有する旨が記載されているから,金属イオン化合物による抗菌,抗ウィルス及び抗真菌の効果が説明できる。 さらに,原告において,銅以外の各種金属イオン,すなわち,ニッケル,コバルト,クロム,鉄,チタン,白金及びパラジウムなどの金属イオン化合物が触媒機能を発揮することを立証するため,銅以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本件明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,ニッケル,コバルト,クロム,鉄,チタン,白金及びパラジウムなどの金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物 じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,ニッケル,コバルト,クロム,鉄,チタン,白金及びパラジウムなどの金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の- 16 -抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌作用を奏することが示されている。 したがって,本願補正発明に列記した金属イオン化合物が何らかの触媒機能を有していれば,これら全ての金属イオン化合物について実施例を示すまでもなく,本願補正発明において抗菌,抗ウイルス,抗真菌活性を示すことが認識できるというべきであるから,被告の上記主張は失当である。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3) の各事実は認めるが,(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1に対しア本願の当初明細書(公開特許公報,甲1)には,「1,2-ジヒドロキノン」,「1,4-ジヒドロキノン」ないし「ジヒドロキノン」という用語ないし化合物を表す字句についての記載がないところ,一般に「ジヒドロキノン」という用語ないし化合物は「ヒドロキノン」の二量体を意味するから(化学大辞典,乙1),一般的な命名法に従う限り,補正後の請求項1に記載された「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」という化合物は存在し得ない。 このため,本願の当初明細書及び図面の全ての記載を総合しても,当該「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」という事項を技術的に導き出すことは不可能である。 このように,技術的に導き出し得ない事項については「技術的事項」であるという前提をそもそも欠くと解されるから,補正後の請求項1に記載された「1, う事項を技術的に導き出すことは不可能である。 このように,技術的に導き出し得ない事項については「技術的事項」であるという前提をそもそも欠くと解されるから,補正後の請求項1に記載された「1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノン」という事項については,「当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項」ということはできず,「明細書又- 17 -は図面に記載した事項」に該当しない。 イ仮に補正後の請求項1に記載された「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」のそれぞれが,実質的に「1,2-ジヒドロキシベンゼン(別名:ピロカテコール)」及び「1,4-ジヒドロキシベンゼン(別名:ヒドロキノン)」というジヒドロキシベンゼン類を意味しているものとしても,当該ジヒドロキシベンゼン類はケトン(CO原子団)をその化学構造中に有していないから,「キノン」(甲14)の定義に当てはまらない。 また,「ヒドロキノン」や「ピロカテコール」などのジヒドロキシベンゼン類は,「酸化剤」とは全く逆の「還元剤」や「酸化抑制剤」のような「還元能力を有する試剤」ないし「酸化を抑制する能力を有する試剤」としての作用を奏する物質として知られているから,ジヒドロキシベンゼン類が「酸化能力を有する試剤」に該当する蓋然性は極めて低い。 その一方で,補正後の請求項1に記載された「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」という化合物が「酸化能力を有する試剤」としての作用を奏することが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。 ウ以上のとおり,「酸化能力を有する試剤」について,補正前の「キノンからなる群から選択される」というものから,「アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒ に足りる証拠はない。 ウ以上のとおり,「酸化能力を有する試剤」について,補正前の「キノンからなる群から選択される」というものから,「アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され」というものに改める補正を含む本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということはできないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2に対しア原告の主張(ア)「『金属元素』の記載を『金属素子』とする補正は,明- 18 -らかに誤記に相当する」との主張につき平成19年10月3日付け手続補正書(甲8)において,「金属素子」には,その補正箇所である「素子」に下線が引かれているので,原告は補正前の「金属元素」について,これを「金属素子」と補正しようとした意図があったことは明らかである。してみると,「金属元素」を「金属素子」とする補正が明らかに誤記に相当するとの原告の主張は失当である。 イ原告の主張(イ) の「補正の機会を与えなかったことは法律に違反する」との主張につき改正前特許法159条2項により読み替えて適用される同法50条ただし書きによれば,拒絶査定に対する審判の請求の日から30日以内になされた補正について17条の2第4項の規定に違反するとして却下する場合には,拒絶理由を通知する必要がないし,159条1項により読み替えて適用される53条によれば,拒絶査定に対する審判の請求の日から30日以内になされた補正について17条の2第4項の規定に違反しているものと認められたときは「その補正を却下しなければならない」と規定されており,違法な補正を却下しない不作為は許容されない。よって,審決に誤りはなく,原告の主 いて17条の2第4項の規定に違反しているものと認められたときは「その補正を却下しなければならない」と規定されており,違法な補正を却下しない不作為は許容されない。よって,審決に誤りはなく,原告の主張は失当である。 (3) 取消事由3に対し上記(2) イと同様の理由により,審決に誤りはない。 (4) 取消事由4に対し改正前特許法17条の2第4項2号を目的とする補正は,特許請求の範囲を減縮するだけでなく,発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解される。 してみると,化合物の種類の数を60種類から6種類に減じたとしても,補正前の「添加剤(C)」の定義範囲にカルシウム化合物やマグネシウム化合物が含まれていない以上,「硫酸カルシウム」や「塩化マグネシウム」を- 19 -「添加剤(C)」に追加する補正は,発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえない。 したがって,上記補正は改正前特許法17条の2第4項2号を目的とする補正に該当しないから,審決に誤りはない。 (5) 取消事由5に対し原告は,本願補正発明で限定された「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」は,いずれも触媒機能を有する物質として当業者において周知であることは疑いの余地がないと主張するが,「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」のいずれもが本願所定の触媒機能を有する物質として周知である事実を裏付ける具体的な証拠は何ら示されていないし,上記事実を認めるに足りる証拠もない。しかも,一般に,使用する触媒の種類が異なれば,その触媒機能も異なるのが普通であることが知られているし(化学大百科,乙4),少なくとも「OH*を形成する」という触媒機能に関して,ニッケル,コバルト,クロ も,一般に,使用する触媒の種類が異なれば,その触媒機能も異なるのが普通であることが知られているし(化学大百科,乙4),少なくとも「OH*を形成する」という触媒機能に関して,ニッケル,コバルト,クロム,チタンなどの遷移金属イオンと,鉄などの遷移金属イオンとの間には相違があるから(甲11の1文献),「実施例1において『銅』(酸化第一銅)が示されている以上,当業者は他の7つの化合物においても,本願の出願時の技術常識において当然に触媒機能を発揮すると推定することができる。」との原告の主張は失当である。 第4 当裁判所の判断 1 請求原因(1) (特許庁における手続の経緯),(2) (発明の内容),(3) (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 本件補正の適否について審決は,本件補正には,前記第3,1(3)①~③記載の違法事由があるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。 (1) 本願補正発明の意義- 20 -ア本願の当初明細書(公開特許公報,甲1。)には,次の記載がある。 (ア) 特許請求の範囲【請求項1】 前記第3,1(2) アのとおり(イ) 発明の詳細な説明・「【技術分野】本発明は,抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物,及びその製造方法に関し,該組成物は,(A)触媒機能を有する金属イオン化合物(metalioniccompound),(B)イオン化合物(ioniccompound),イオウ化合物(sulfurcompound ),還元能力を有する補酵素(coenzyme),或いは,酸化能力を有する試薬(agent),及び(C)添加剤(additive),からなる。本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,バクテリア,ウィルスに接触した際に,バクテリア,ウィルス及び菌類を破壊 力を有する試薬(agent),及び(C)添加剤(additive),からなる。本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,バクテリア,ウィルスに接触した際に,バクテリア,ウィルス及び菌類を破壊,殺菌する効果を達成する。」(段落【0001】)・「【背景技術】重症急性呼吸器症候群(ServeAcuteRespiratorySyndrome,SARS)ウィルスは,驚異的な速度で,中国大陸からアジア,ヨーロッパ,北米に拡散した。保菌者の唾液の飛沫粒子,粘膜により感染すると考えられており,死亡率と感染者数が短期間で増加するにつれて,人々はマスクを争って買い求め,医療人員はマスクに加え,防護衣を必要とした。しかし,現在汎用される各種マスク及び防護用具は,ウィルスが呼吸器系に侵入するのを阻止することが出来るだけで,バクテリアやウィルスの殺菌の功能は備えていない。エアコンのフィルターに至っては,現在,空気洗浄と殺菌の功能だけを有している。ウィルスがマスクや防護衣等の保護装置を透過した場合,少量のウィルスでも,人体へ侵入し,死亡を招く恐れがある。現在,防疫効果を有す- 21 -るマスクは,アメリカ国家基準を通過した工業用呼吸マスクN95,欧州共同体基準を通過した工業用呼吸マスクFFP1及びFFP2,活性炭を含んだ医療用呼吸マスク,及び一般の医療用マスク,がある。 これらの中で,最も広く使用されているのがN95マスクであり,95%以上の非油性微粒子を除去出来るが,ウィルス及びバクテリアを破壊する殺菌の機能はない。」(段落【0002】)・「【発明が解決しようとする課題】本発明は,抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を提供することを目的とし,組成物は(A)触媒機能を有する金属イオン化合物,(B)イオン化合物,イオウ化合物,還元能 「【発明が解決しようとする課題】本発明は,抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を提供することを目的とし,組成物は(A)触媒機能を有する金属イオン化合物,(B)イオン化合物,イオウ化合物,還元能力を有する補酵素,或いは,酸化能力を有する試薬,(C)添加剤,を混合してなる。 本発明は,更に抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物の製造方法を提供することを目的とする。 ここでいう“バクテリア”とは,様々なバクテリアを含み,SARSウィルス,AIDSウィルス,オルソポックスウィルス属(orthopoxviruses)(痘疹,牛痘,サル痘),生物兵器防衛(biodefense)(西ナイル脳炎),B型肝炎ウィルス,C型肝炎ウィルス,呼吸器系ウィルス(インフルエンザA及びB,コロナ),ヘルペスウィルス(HSV-1,HSV-2,VZV)等である。ここでいう“菌類”及び“真菌”とは,様々な菌類のことである。 本発明による抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,様々な濃度で,スプレイ,エアゾール,及びフィルム等の各種剤形で編成される。 これらの間で,組成物のフィルム形態が実用されて,生化学保護呼吸装置,生化学保護マスク,生化学防護衣,生化学フィルターなどが製造されている。唾液に含まれるバクテリアやSARS等のウィルスが,本発明の抗菌や抗真菌組成物から製造されたフィルムを透過した- 22 -時,菌は,本発明に含まれる成分により破壊され,伝染性効力を消失させる。」(段落【0003】)・「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX-bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),クロム(Cr),カルシウム(Ca),鉄(Fe),銅(Cu), 有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX-bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),クロム(Cr),カルシウム(Ca),鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),アルミニウム(Al),アンチモン(Sb),スズ(Sn),鉛(Pb),亜鉛(Zn),白金(Pt),バラジウム(Pd),オスミウム(Os),ルテニウム(Ru),カドミウム(Cd),ロジウム(Rh),及びイリジウム(Ir),からなる群から選択された金属元素,或いは,MはNH4である;Xは,フッ化物(fluoride),塩化物(chloride),臭化物(bromide),ヨウ化物(iodide),硝酸(nitrate),硫酸(sulfate),亜硫酸塩剤(sulfite),アセテート(acetate),シュウ酸塩(oxalate),カルボン酸塩(carboxylate),琥珀酸塩(succinate),リン酸塩(phosphate),ピロリン酸塩(pyrophosphate),過塩素酸塩(perchlorate),グルコン酸(gluconate),アスコルビン酸塩(ascorbate),エチレンジアミン酢酸鉛(ethylenediaminetetraacetate),フマル酸塩(furmate),乳酸塩(lactate),からなる群から選択された陰性基である;a=1~6,b=1~6である。」(段落【0005】)・「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(B)は,イオン化合物,イオウ化合物,還元能力を有する補酵素,或いは,酸化能力を有する試薬である。これらの中で,イオン化合物は・・・である。 イオウ化合物は・・・である。還元能力を有する補酵素の例は,これに限定するものではないが,還元フラビンモノヌクレオチド(reduced 力を有する試薬である。これらの中で,イオン化合物は・・・である。 イオウ化合物は・・・である。還元能力を有する補酵素の例は,これに限定するものではないが,還元フラビンモノヌクレオチド(reduced- 23 -flavinmononucleotide,FMNH2),還元フラビンアデニンジヌクレオチド(reducedflavinadenineinucleotide, FADH2),還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(reducedicotinamideadeninedinucleotide,NADH),及び還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(reducednicotinamideadeninedinucleotidephosphate,NADPH)である。更に,酸化能力を有する試剤の例は,これに限定するものではないが,過酸化水素,アズレンキノン(azulenequinone)等のキノン,及び派生物である。」(段落【0006】)・「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(C)添加剤は,一般式が,RYZで,Rは,リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される元素である;Yは,塩化物(chloride),硝酸(nitrate),硫酸(sulfate),カルボン酸塩(carboxylate),炭酸塩(carbonate),重炭酸塩(bicarbonate),リン酸塩(phosphate),二水素リン酸塩(dihydrogenphosphate),リン酸水素(hydrogenphosphate),及び,シュウ酸塩(oxalate),からなる群から選択される;z=1,或いは2である。 (A):(B) ydrogenphosphate),リン酸水素(hydrogenphosphate),及び,シュウ酸塩(oxalate),からなる群から選択される;z=1,或いは2である。 (A):(B):(C)の重量比は,1:10~50:1500~3000で,好ましくは,1:15~25:2000~2500である。 ・・・」(段落【0007】)・「本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,バクテリア,ウィルスのたんぱく質,RNA,DNA及び外膜を分解することが出来る。組成物が,マスク,面マスク,フィルター,コンドーム,その他の保護装置に適用された場合,ウィルスの侵入時に,バクテリア,ウィルスのたんぱく質,RNA,DNA及び外膜を破壊して,バクテリ- 24 -ア,ウィルスは,その伝染性を消失する。これにより,本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,バクテリア,ウィルスが呼吸器系に侵入するのを阻害すると共に,人体及び環境を保護する目的を達成する。本組成物がスプレイ,或いはエアゾールの剤形で用いられる場合,標的表面に噴射して,保護の目的を達成する。」(段落【0008】)・「【発明を実施するための最良の形態】実施例1:本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は以下のように生成される。 A成分を調合する:0.10グラムの塩化第一銅(cuprouschloride)を,10リットルの逆浸透R.O水に加え,室温下で,水溶液が透明,且つ,沈殿がなくなるまで,30分攪拌し,Aとして示される。 B成分を調合する:5.0ミリリットル,3%の過酸化水素水を,10リットルの逆浸透R.O水に加え,更に,5.0グラムの補酵素NADPHを加える。室温下で,水溶液が均一に混ざるまで,20~30分攪拌する。8.0グラムのアズレンキノン派 ,3%の過酸化水素水を,10リットルの逆浸透R.O水に加え,更に,5.0グラムの補酵素NADPHを加える。室温下で,水溶液が均一に混ざるまで,20~30分攪拌する。8.0グラムのアズレンキノン派生物を加え,不透明から透明になるまで,約2時間攪拌し,Bとして示される。」(段落【0010】)・「C成分を調合する。80グラムの塩化ナトリウムと,60グラムの重炭酸を,順に,980リットルの逆浸透R.O水に加え,完全に溶解するまで攪拌する。その後,10グラムのリン酸水素カリウム(potassiumhydrogenphosphate),10グラムのリン酸二水素カリウム(potassiumdihydrogenphosphate),15グラムの硫酸カルシウム(calciumsulfate),及び,10グラムの塩化マグネシウム(magnesiumchloride)を順に加え,逆浸透R.O水中に懸浮物がなくなるまで,室温下で4時間快速攪拌する。その結果得られた溶液は- 25 -Cとして示される。」(段落【0011】)・「AがCに加えられ,室温下で,20~30分攪拌される。更に,Bを混合し,10~20分攪拌する。その結果得られた組成物は,密閉容器内に入れられる。容器には,ノズルを備えており,使用時に得られた混合液を,マスク,面マスク,グローブ,フィルター,コンドーム,及び,その他の保護装置に噴射する。この場合,組成物の濃度は,重量の10-7~10-8wt%である。人体に適用する場合,10-9~10-10wt%である。」(段落【0012】)・「実験例1:本実験例は,ウィルスを破壊する本発明の組成物の効果を立証するもので,シミュレーションにより実験を進行する。本例は,化1で示される構造を有する脂肪酸により,ウィルスの脂肪膜をシミュ ・「実験例1:本実験例は,ウィルスを破壊する本発明の組成物の効果を立証するもので,シミュレーションにより実験を進行する。本例は,化1で示される構造を有する脂肪酸により,ウィルスの脂肪膜をシミュレーションする・・・。脂肪酸は,100μLの例1で得られる本発明の組成物と30分間作用させ,その抗ウィルス作用は,図1に示すような,高性能液体クロマトグラフィ(・・・)により分析される。」(段落【0013】)・【化1】 ・「その結果は,1%の漂白液,光触媒TiO2を太陽光,紫外線(UV),電灯とを組み合わせたもの,及び,光触媒の暗闇で得られるそれらと比較したものが,図2で示される。 図2から分かるように,本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物は,脂肪酸の97%を,30分以内で破壊させることが出来,公知の抗菌,抗ウィルス方法と比較して優れている。」(段落【0015】)・【図2】(脂肪酸構造を破壊する本発明と公知の殺菌方法の能力を比較した棒グラフ)- 26 - ・「実験例2:本実験例は,核酸を破壊する本発明の組成物の効果を立証するものである。本実験例において,DNA(50μM/塩基対,1.0μL)と,100μLの例1で得られる本組成物とを作用させる。電気泳動により,・・・Ⅱ型とⅢ型のDNA含量を測定し,核酸が本発明の組成物により破壊された比率が99%であることを計算する。その結果は,1%の漂白液,光触媒TiO2を太陽光,紫外線(UV),電灯とを組み合わせたもの,及び,光触媒の暗闇で得られるそれらと比較したものが,図4で示される。」(段落【0016】)・【図4】(核酸構造を破壊する本発明と公知の殺菌方法の能力を比較した棒グラフ) ・「図4から分かるように, と比較したものが,図4で示される。」(段落【0016】)・【図4】(核酸構造を破壊する本発明と公知の殺菌方法の能力を比較した棒グラフ) ・「図4から分かるように,本発明の抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組- 27 -成物は,99%の核酸を破壊し,公知の抗菌,抗ウィルス方法と比較して優れている。本発明では好ましい実施例を前述の通り開示したが,これらは決して本発明に限定するものではなく,当該技術を熟知する者なら誰でも,本発明の精神と領域を脱しない範囲内で各種の変動や潤色を加えることができ,従って本発明明の保護範囲は,特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。」(段落【0017】)イ上記記載によると,本願の第1次補正前の発明は,抗菌,抗ウィルス及び抗真菌組成物に関し,従来汎用されるマスクはウィルスやバクテリアを殺菌することができないという課題に対し,(A)触媒機能を有する金属イオン化合物,(B)還元能力を有する補酵素又は酸化能力を有する試薬,及び(C)添加剤からなる組成物が,抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を有することを見出したことに基づきされた発明であり,これにより,上記組成物をマスク等に適用した場合にウィルスやバクテリアを殺菌できるという効果を奏する,という発明であると認めることができる。 (2) 出願時の技術常識ア甲14(「化学辞典」〔株式会社東京化学同人,1998年3月2日第4刷発行〕。以下「甲14文献」という。)には,次の記載がある。 ・「キノン[quinone] 【1】芳香族化合物のCH原子団二つをCO原子団に変え,さらに二重結合をキノイド構造にするのに必要なだけ動かしてできる化合物の総称。o位またはp位に二つのヒドロキシル基をもつ芳香族化合物は容易に酸化されてキノンというケトンに似た つをCO原子団に変え,さらに二重結合をキノイド構造にするのに必要なだけ動かしてできる化合物の総称。o位またはp位に二つのヒドロキシル基をもつ芳香族化合物は容易に酸化されてキノンというケトンに似た化合物になる。・・・キノンは弱い還元剤によってキンヒドロンを経て無色のヒドロキノンになる。キノンとヒドロキノンとの対は酸化還元系を形成する。キノンの誘導体は酸化剤や合成染料として広く利用されている。 - 28 - 【2】ベンゾキノンに同じ。特にp-ベンゾキノンを指す。」(334頁)イ甲17文献(特開2003-12762号公報)には,次の記載がある。 ・「・・・即ち,1,4-ジヒドロキノンとこれに対し2.0当量の4-ヒドロキシ安息香酸を酸触媒下,脱水エステル化反応させることにより化合物(22)を合成する。」(段落【0041】)ウ甲18文献(特開平10-7665号公報)には,次の記載がある。 ・「また,酸の重要性は,周知水素移動試薬,例えば,酸の代わりに1,4-ジヒドロキノンを用いるが,・・・」(段落【0021】)エ乙1(「化学大辞典4」〔共立出版株式会社,1989年(平成元年)8月〕。以下「乙1文献」という。)には,次の記載がある。 ・「ジヒドロキノン,2,5,2’,5’-テトラオキシビフェニル…C12H10O4=218. 」(415頁)オ乙2(「有機化合物辞典」〔株式会社講談社,1991年8月1日第2刷発行〕。以下「乙2文献」という。)には,次の記載がある。 ・「ヒドロキノンHydroquinone;1,4-Benzenediol;1,4-Dihydroxybenzene。 - 29 - ・・ )には,次の記載がある。 ・「ヒドロキノンHydroquinone;1,4-Benzenediol;1,4-Dihydroxybenzene。 - 29 - ・・・空気酸化により徐々に着色。・・・[用途]・・・抗酸化剤・・・」(761頁)・「ピロカテコール Pyrocatechol ;1,2-Benzenediol ;Catechol ;1,2-Dihydroxybenzene;Pyrocatechin。 」(785頁)・「p-ベンゾキノン p-Benzoquinone;2,5-Cyclohexadiene-1,4-dione;Quinone。 ・・・[用途]酸化剤・・・ 」(947頁)・「1,2-ジヒドロキシベンゼン=ピロカテコール1,3-ジヒドロキシベンゼン=レソルシノール1,4-ジヒドロキシベンゼン=ヒドロキノン」(422頁)(3) 取消事由の主張に対する判断事案に鑑み,取消事由1,4,5について判断する。 ア取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について(ア) 本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2-ジヒドロ- 30 -キノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。 しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によ 容を含んでいる。 しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によれば,「ジヒドロキノン」とは「ヒドロキノン」の2量体を意味するから,原告が本件補正において追加しようとした「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」なる名称の化学物質が何を指すのか不明といわざるを得ないし,少なくともそのような名称を正しい名称とする化学物質が実在することを認めるに足りる的確な証拠はなく,このことは,原告が指摘する甲17文献及び甲18文献の前記記載によっても左右されない。そうすると,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない。 したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。 (イ) この点に関し原告は,本願の当初明細書(甲1)の段落【0006】には,「・・・酸化能力を有する試剤の例は,これに限定するものではないが・・・アズレンキノン(azulenequinone)等のキノン,及び派生物である。」との記載があるところ,「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであって,ヒドロキシル基がp位に位置する場合が「1,4-ジヒドロキノン」であり,- 31 - 載があるところ,「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであって,ヒドロキシル基がp位に位置する場合が「1,4-ジヒドロキノン」であり,- 31 -ヒドロキシル基がo位に位置する場合が「1,2-ジヒドロキノン」であるから,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」は「キノン」のうちベンゼン環に結合するヒドロキシル基の位置を限定したにすぎず,特許請求の範囲の限定的減縮に相当するものである旨主張する。 しかし,原告の上記主張を前提とすると,乙2文献によれば,原告が主張する「1,2-ジヒドロキノン」は「ピロカテコール」であり,「1,4-ジヒドロキノン」は「ヒドロキノン」であると理解されるが,甲14文献によると,「キノン」とは芳香族化合物のCH原子団二つをCO原子団に変え,さらに二重結合をキノイド構造にするのに必要なだけ動かしてできる化合物の総称であって,CO原子団をその化学構造中に有することを要件とするものであると認められるところ,「ピロカテコール」や「ヒドロキノン」はその構造中にCO原子団を含まないから,それらが「キノン」に属しないことは明らかである。 (ウ) また,原告は,「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」などの「ヒドロキノン」は容易に酸化されて「1,2-ベンゾキノン(オルソベンゾキノン)」や「1,4-ベンゾキノン(パラベンゾキノン)」などの「ベンゾキノン」に変化し,「ベンゾキノン」が還元されると「ヒドロキノン」に変化するという関係に鑑みれば,「ヒドロキノン」,すなわち「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであるとも主張する。 しかし,特許法17条の2第3項の「明細書,特許請求の範囲又は図面・・ ノン」,すなわち「1,2-ジヒドロキノン」や「1,4-ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであるとも主張する。 しかし,特許法17条の2第3項の「明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書,特許請求の範- 32 -囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができるというべきところ,当初明細書等の全ての記載を総合しても,本願補正発明の抗菌,抗ウイルス及び抗真菌組成物において,酸化能力を有する試剤である過酸化水素やアズレンキノン等のキノンが,さらに酸化を受けた後に組成物中でその作用を発揮するということはできないので,当初明細書等に,酸化を受けて酸化能力を有する試剤に変換される物質を酸化能力を有する試剤に含めることが記載されているということはできない。 したがって,「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」が,酸化されて「1,2-ベンゾキノン」及び「1,4-ベンゾキノン」に変化することを根拠とする原告の上記主張を採用することはできない。 イ取消事由4(目的要件の判断の誤り-「添加剤(C)」の内容を6種類に限定することは「減縮」に当たる)について(ア) 本件補正前の請求項1(本願発明)「添加剤(C)」は「一般式が,RYZで,Rは,リチウム,ナトリウム,及びカリウムからなる群から選択される元素で,Yは,塩化物,硝酸塩,硫酸塩,カルボン酸塩,炭酸塩,重炭酸塩,リン酸塩,二水素リン酸塩,リン酸水素塩,及び,シュウ酸塩であり,z=1,或いは2」と特定して記載され からなる群から選択される元素で,Yは,塩化物,硝酸塩,硫酸塩,カルボン酸塩,炭酸塩,重炭酸塩,リン酸塩,二水素リン酸塩,リン酸水素塩,及び,シュウ酸塩であり,z=1,或いは2」と特定して記載されているから,「添加剤(C)」には,一般式RYZにおけるRとしてカルシウム及びマグネシウムは含まれていない。そうすると,本件補正後の請求項1(本願補正発明)「添加剤(C)」として列記されている「塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二水素カリウム,硫酸カルシウム,および塩化マグネシウム」のうち,「硫酸カルシウム」及び「塩化マグネシウム」は,本件補正前の「添加剤(C)」には含まれない。 - 33 -したがって,本件補正後の「添加剤(C)」が「硫酸カルシウム」及び「塩化マグネシウム」を含む点において,本件補正は特許請求の範囲の減縮ということはできないから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものではなく,審決の判断に誤りはない。 (イ) この点に関し原告は,本件補正は補正前の「添加剤(C)」の組合せの数が60であったものを補正後は6種類の物質に限定する補正なので,特許請求の範囲を減縮する補正である旨主張する。 しかし,たとえ特許請求の範囲が包含する物質の数が補正により減ったとしても,補正後の特許請求の範囲が補正前の特許請求の範囲に含まれない物質を含んでいる場合に,これを特許請求の範囲の「減縮」ということはできない。 (ウ) また,原告は,「添加剤(C)」を6種類の物質に限定することによって発明の利用分野及び課題が異なるものになった事実は存在せず,むしろ数が限定されたことによって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題がより明確になったとも主張する。 しかし,原告の上記主張は,補正が「限定的」減縮であ なるものになった事実は存在せず,むしろ数が限定されたことによって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題がより明確になったとも主張する。 しかし,原告の上記主張は,補正が「限定的」減縮であることを判断する際の要件である「解決しようとする課題」及び「産業上の利用分野」についての主張と解されるところ,そもそも前記(ア) のとおり,本件補正は特許請求の範囲を「減縮」する補正であるとはいえないので,「限定的」の要件について判断するまでもなく,原告の上記主張は採用することができない。 ウ取消事由5(独立特許要件〔サポート要件〕の判断の誤り)について(ア) 前記2(1) イで述べたとおり,本願補正発明は,前記第3,1(2) ウに示した請求項1の記載によって特定される組成物が,バクテリア,ウイルス及び真菌類を破壊,殺菌するという課題を解決し得たとされるものである。 - 34 -そして,本願補正発明に適用される本願当初明細書及び図面(甲1)には,成分(A)として塩化第一銅を,成分(B)として過酸化水素,補酵素NADPH及びアズレンキノン派生物を,(C)として塩化ナトリウム,重炭酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸二水素カリウム,硫酸カルシウム及び塩化マグネシウムを含有する水溶液が記載されており(実施例1,段落【0011】),また,上記水溶液と脂肪酸を混合した場合に,上記脂肪酸の97%が30分以内に破壊され(実験例1,図2,段落【0015】),上記水溶液とDNAを混合した場合にDNAの99%が破壊される(実験例2,図4,段落【0016】)ことが記載されている。 しかし,本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX-bで,Mは,ニ 6】)ことが記載されている。 しかし,本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX-bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX-bで表される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。 他方,本件補正後の請求項1の記載によって特定される3つの成分を組み合わせることにより,脂肪酸やDNAが分解でき,その結果,バクテリア,ウイルス及び真菌類を破壊,殺菌できることについて,具体例をもって示さなくとも当業者が理解できると認めるに足りる技術常識はない。 - 35 -そうすると,本願の組成物の成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用するものが,脂肪酸やDNAを分解でき,バクテリア等を破壊,殺菌するという課題を解決できるということはできないので,本願における発明の詳細な説明は,本件補正の請求項1の記載によって特定される成分(A)のMの全ての範囲において所期の効果が得られると当業者において認識できる程度に記載されているということができない。 したがって,本件補正後の請求項1(本願補正発明)の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」(サポート要件充足)ということはできな いるということができない。 したがって,本件補正後の請求項1(本願補正発明)の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」(サポート要件充足)ということはできない。 (イ) この点に関し原告は,「ニッケル,コバルト,クロム,鉄,銅,チタン,白金及びパラジウム」はいずれも,何らかの触媒機能を有する物質として周知であり,これらの触媒機能を有する金属イオン化合物であれば,程度の差はあれ,細菌,ウイルス,真菌の細胞膜に対して化学吸着し,水素添加,脱水素,酸化,還元等の化学的挙動が極めて高い蓋然性をもって推定できる旨主張する。 しかし,本願の当初明細書等を検討しても,一般式M+aX-bで示される物質中の金属Mが,細菌,ウイルス,真菌の細胞膜に対して化学吸着し,その結果,細菌,ウイルス,真菌を死滅させると理解できる記載はないし,一般式M+aX-bで示される物質中の金属Mが,細菌等の細胞膜に対して化学吸着すること,その結果,細菌等を死滅させることが,当業者における技術常識であったということもできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) また,原告は,甲11の1文献には本願補正発明で使用される金属(Ni,Cr,Ti等)はH2O2及びO2をそれぞれOH・(ヒドロキシルラジカル)及びO2・-(スーパーオキシドアニオンラジカル)に変換でき,また,これらOH・及びO2・-が,抗ウィルス,抗菌効果を有する旨が記- 36 -載されているので,金属イオン化合物による抗菌,抗ウィルス及び抗真菌の効果が説明できると主張する。 しかし,甲11の1文献には,「鉄および銅を除く幾つかの遷移金属イオンはH2O2と反応して,OH・を形成する(・・・)。これらの金属イオンには,Cr(Ⅴ),C 菌の効果が説明できると主張する。 しかし,甲11の1文献には,「鉄および銅を除く幾つかの遷移金属イオンはH2O2と反応して,OH・を形成する(・・・)。これらの金属イオンには,Cr(Ⅴ),Cr2+,チタン(Ⅲ),ある種のNi2+キレート,及び,恐らくはCo2+があるが,Mn2+は除かれる。」(591頁26~30行。訳文は甲11の8による。)と記載されており,本願の当初明細書において,実施例に使用された金属である「銅」と,「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「チタン」とでは,過酸化水素との反応性が異なると理解できる。そうすると,明細書に記載された金属として「銅」を使用し,これと過酸化水素水を混合して組成物を製造する実施例を,金属として「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「チタン」を使用する場合にも適用できるとする理由はないから,原告の上記主張は採用することができない。 (エ) さらに,原告は,「銅」以外の各種金属イオン,すなわち,「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「鉄」,「チタン」,「白金」及び「パラジウム」などの金属イオン化合物が触媒機能を発揮することを立証するため,「銅」以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本願明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を奏することが示されたと主張する。 しかし,明細書等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書- 37 -に記 等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書- 37 -に記載されておらず,それがいつ,どこで行われた実験であるか明らかでないばかりか,同主張が平成23年8月26日付け「技術説明書」と題する書面により初めて主張されていることからすれば,上記実験は本件訴訟提起後に行われたと推認されるし,本願の当初明細書又は出願時の技術常識から上記実験の結果が示唆ないし推認されるような特段の事情も認められないから,そもそも上記実験結果を参酌することはできないというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 3 結論以上のとおりであるから,本件補正には新規事項追加禁止違反(改正前特許法17条の2第3項),目的要件違反(17条の2第4項)及び独立特許要件違反(36条6項1号等)があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件補正を却下すべきものとした審決の結論に誤りはない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官中野哲弘 裁判官東海林保 裁判官矢口俊哉

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