平成13(わ)449 住居侵入,強盗殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月4日 神戸地方裁判所 姫路支部
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判決文本文12,953 文字)

主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中540日をその刑に算入する。 押収してある手錠2個(平成13年押第67号の1及び3)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,小学5年生のころに両親が離婚した後,実母のAのもとで兄や姉とともに暮らしていたが,中学校卒業後は,Aの実親で被告人の祖父母にあたるV男及びW子(以下,それぞれ「V男」,「W子」ともいい,両名を指して「V男ら」ともいう。)方で暮らすようになり,溶接工や鉄筋工などとして働いていた。 被告人は,小学校時代から容姿のことでいじめを受けていたところ,就職後は特にまぶたが一重で腫れぼったいことに劣等感を抱き,それを気にする余り,他人に顔を見られるのを極端に避けるような生活が続いた。そのため,被告人は,19歳であった平成11年ころに二重まぶたにする等の美容整形手術を受け,その後は,頻繁に通うようになったスナックでホステスらからちやほやされたり,目当てのホステスと気軽に話ができることが楽しく,それまでの暗く自信のない生活とは正反対の世界にのめり込み,給料の大半をスナック代に費やすようになった。 被告人は,平成12年5月ころ,当時勤めていた人材派遣会社の仕事もなく,遊興するための費用が不足していたのに,スナック通いをやめることがどうしてもできず,その費用を得るためV男らの金を密かに持ち出そうと考え,同年6月下旬ころ,同人ら方を物色して預金残高が700万円ほどあるV男名義の農協の預金通帳とキャッシュカードを見付けだし,その預金口座からほぼ全額を引き出した上,仕事をせずに毎日のようにスナック通いを続けたほか,バイクを購入したり,旅行に出かけるなどした。さらに,被告人は,その金が少 とキャッシュカードを見付けだし,その預金口座からほぼ全額を引き出した上,仕事をせずに毎日のようにスナック通いを続けたほか,バイクを購入したり,旅行に出かけるなどした。さらに,被告人は,その金が少なくなってきた平成13年1月ころ,上記口座に新たな入金がされていることを知り,3月初めころまでに数回にわたってこの口座から合計280万円近くを引き出し,また,これらの金で遊興にふけり,車も購入するなどして,間もない時期にほぼ全額を使い果たした。 被告人は,同年3月下旬又は4月初めころ,ようやく上記口座の残高が少なくなっていることに気付いたV男から,心当たりがないかなどと尋ねられるなどし,自分が疑われていると分かったが,楽して大金を手に入れ自由に遊び暮らす生活を続けたいとの思いから,性懲りもなく何とかしてさらにV男らの金を引き出そうと考え続けた。そこで,被告人は,同年4月ころの深夜,再度,V男ら方を物色し,約800万円の残高記載がある別の銀行預金通帳を見付けだし,別途見付けだした印鑑を使ってその翌日ころ預金を引き出そうとしたが,この印鑑が通帳の届出印と符合せず,これがかなわなかった。被告人は,行員に嘘を告げてその届出印影を教えてもらったものの,これまで何回かV男ら方に忍び込んで引き出し等を探し回ったが,そのような印鑑を見付けることができなかったことから,今後も同じように探してもこれを見付けだすことは困難であろうと考えた。被告人は,大金を目の前にしながら手にすることができず,何としてでもこれを引き出したいと思案しているうちに,V男らを脅して印鑑を出させるという考えが思い浮かび,その方法として,目出し帽を被って同人ら方に侵入し,同人らに手錠を掛けて身動きできない状態にして脅迫し,印鑑や現金を奪うことを考えるようになった。そして,そのような思案を重 という考えが思い浮かび,その方法として,目出し帽を被って同人ら方に侵入し,同人らに手錠を掛けて身動きできない状態にして脅迫し,印鑑や現金を奪うことを考えるようになった。そして,そのような思案を重ねているうちに,仮に同人らから抵抗されれば殺害して印鑑等を奪うことなども漠然と思い浮かべるようになった。 被告人は,同年5月末ころ,V男らの手足を緊縛するためのベルトや粘着テープ等を購入し,緊縛しやすいようこのベルトの長さや穴の位置を調節するとともに,毛糸の帽子に穴を開けて目出し帽を作り,また,同人らを殺害する場合の方法を考えているうちに水に浸したタオルを顔面に掛けて窒息死させることを思い付き,自分の顔に濡れタオルを掛けて試してみた。そして,被告人は,このころ,目出し帽やベルトを携えてV男ら方に忍び込み,W子が夜中にトイレに行くときか,V男が明け方に新聞を取りに起きるときなど,どちらかが一人になるタイミングを狙って実行の機会を窺ったが,おだやかな表情で眠っているV男らの姿を見て,ためらいと怖さを覚えて実行できず,その後も2回ほど同人ら方に忍び込んだが,いずれも強盗行為を実行するには至らなかった。 被告人は,同年6月10日ころ,やはりベルトよりも手錠の方が使い易いと考え,手錠2個を購入準備した上,改めて印鑑の奪取方法などを思い浮かべるうち,目出し帽で顔を隠しても,V男らに声を聞かれれば自分が犯人であることが直ぐに分かり,また,印鑑を奪ったところで,V男らが直ちに銀行に連絡して出金停止の措置を講じれば現金を引き出せず,結局,確実に現金を手に入れるためには,同人らを殺害するしかないのではないかと考えるようになった。 被告人は,同月中旬ころ,手錠と粘着テープを持って,再びV男ら方に忍び込み,同人らを襲う機会を窺ったが,いざ実行することを考えるとまた ,同人らを殺害するしかないのではないかと考えるようになった。 被告人は,同月中旬ころ,手錠と粘着テープを持って,再びV男ら方に忍び込み,同人らを襲う機会を窺ったが,いざ実行することを考えるとまた怖くなり,室内を物色して見付けだした現金を手にして,そのまま帰宅した。それから数日後,被告人は,Aから「おじいちゃん達が大事にしていたお金がなくなっている。盗ったのなら返してください。」などという内容の手紙を受け取り,V男の預金口座から大金を引き出したことがAにまで知られたことが分かり,V男やAが銀行に連絡して出金停止の処置を講じるかもしれないと考えて焦りを感じた。被告人は,その数日後にもV男ら方に忍び込んで現金を盗んだが,同人らを殺害することを思い浮かべるとやはり怖くなり,結局,それ以上に計画を実行に移すことができなかった。被告人は,怖じ気づいてなかなか計画を実行することができない自分を追い込もうと,北海道に行くなどと友人に公言するなどし,また,万が一警察などにV男らの死体が発見された場合に備えて,犯行の時刻ころにスナックで酒を飲んでいたことにするアリバイ工作として,犯行の直前直後に同人ら方の近くにある行きつけのスナックに顔を出すことも思い付いた。 被告人は,同月18日夕方,無理を言って開店してもらった上記スナックに赴き,同店のママと会話しながら焼酎のジュース割りなどを飲んでいたが,同日午後9時ころ,同女が突然店を閉めると言い出したことから,このままではアリバイ工作がうまくいかなくなると思い,同女に対し,「財布を忘れた。家に戻って財布を取ってくるので,それまで店を開けておいてほしい。」などと告げて同店を出た。 被告人は,まだ,V男らがまだ起きている時間であり,多少とまどいはしたが,同人らが起きていても家に忍び込んで,身を潜めて,どちらかが一 ので,それまで店を開けておいてほしい。」などと告げて同店を出た。 被告人は,まだ,V男らがまだ起きている時間であり,多少とまどいはしたが,同人らが起きていても家に忍び込んで,身を潜めて,どちらかが一人になる機会を待って,上記計画を実行に移すことを決意し,手錠2個(平成13年押第67号の1及び3)や粘着テープ等を携帯して同人ら方に向かった。 (罪となるべき事実)被告人は,祖父母のV男(当時83歳)及びW子(当時81歳)の両名を殺害して金品を強取しようと企て,平成13年6月18日午後9時ころ,兵庫県加古川市a町b番地c所在のV男ら方に侵入し,そのころ,同人ら方北板間において,被告人がいることに気付いたW子に対し,矢庭に同女の左手首に所携の手錠(平成13年押第67号の1)を掛けて片手錠にし,その口を押さえるなどしたが,同女が抵抗するなどしたため,いよいよ同女を殺すしかないと考え,殺意をもって,その頚部を両手で強く絞め,次いで,倒れ込んだ同女の右手首にも同手錠を掛けて後ろ両手錠にし,その顔面,両足首に所携の粘着テープを巻きつけ,同所浴室の湯の残った浴槽内に同女の上半身をその頭部から突っ込ませるなどし,そのころ,同女を頚部圧迫等による窒息により死亡させて殺害し,引き続き,寝室で就寝中のV男に対し,同人から抵抗されないように寝ている隙に殺害しようと考え,同所において,同人の頭部等を狙って,両手に持ったコンクリートブロック(重量約10キログラム)を数回投げつけ,その頭部等に命中させ,そのころ,同人を外傷性蜘蛛膜下出血及び脳挫傷により死亡させて殺害した上,翌19日午前7時ころまでの間に,V男ら管理にかかる現金約13万5000円を強取したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用) 1 罰条・住居侵入の点刑法130条前段 19日午前7時ころまでの間に,V男ら管理にかかる現金約13万5000円を強取したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用) 1 罰条・住居侵入の点刑法130条前段・強盗殺人の点被殺害者ごとに刑法240条後段 2 科刑上一罪刑法54条1項後段(住居侵入と各強盗殺人),10条(結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重いV男に対する強盗殺人罪の刑で処断) 3 刑種の選択無期懲役刑 4 未決勾留日数の本刑算入刑法21条 5 没収(犯行供用物件)いずれも刑法19条1項2号,2項本文 6 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,判示のとおりの経緯で祖父母を殺害し印鑑等を奪おうと企て,夜間に祖父母方に侵入し,被告人の存在に気付いた祖母の頚部を両手で絞め,顔面等に粘着テープを巻きつけるなどして同女を窒息死させ,次いで,寝ている祖父の頭部等にコンクリートブロックを数回投げつけて同人を殺害するとともに,現金約13万5000円を強取した住居侵入及び強盗殺人の事案である。 被告人は,仕事がなくなり収入が途絶えてからもスナック通いをやめることができず,V男名義の預金口座から引き出した多額の現金を湯水の如く使って,連日のようにスナック通いを続けたり,高価なバイクや車を購入するなどし,約1000万円もの現金を使い果たしたが,もはや額に汗して働こうとする気持ちになれず,再び物色してV男名義の預金通帳を見付けだし,そこから預金を引き出すためには届出印が必要であると考えるや,享楽的な生活を続けるため,V男らを殺害してでもこの印鑑等を強奪することを計画し,敢行したものである。小学生のころから自らの容姿に劣等感を持ち続け,対人恐怖傾向にあった被告人 が必要であると考えるや,享楽的な生活を続けるため,V男らを殺害してでもこの印鑑等を強奪することを計画し,敢行したものである。小学生のころから自らの容姿に劣等感を持ち続け,対人恐怖傾向にあった被告人が,人生を変えていけるとの思いを持つことのできる場所としてスナック等を数少ない拠り所としていたため,昔の自信のない自分に戻ることに強い不安感を抱き,遊興生活に固執したという当審における鑑定人による分析は被告人の心情を理解するものとして首肯し得るものであるが,かかる被告人の心情を前提にしても,自己と正面から向き合おうとせず,享楽的で堕落した生活の中で劣等感等をごまかし続けた挙げ句,多額の預金残高に目がくらんで,かかる遊興生活を続けるために祖父母を殺害することを決意した態度は,人の生命を軽視する余りに短絡的かつ自己中心的なものであり,金銭を得ることを直接の目的としたその利欲的な動機に酌量すべき余地は全くない。 被告人は,判示のとおり,本件犯行を決意した後,V男らを緊縛するための手錠や粘着テープなどを準備し,自ら濡れタオルを顔に当てて試してみるなどして殺害方法を思案した上,幾度かV男ら方に侵入して,V男らが別々に行動するタイミングを狙って実行の機会を窺い,なかなか実行に踏み切れない中でも,なお執ように自らを励まし,犯行当日には前後にアリバイ工作まで行い,ついに実現させたものであり,時間をかけて計画した上での犯行である。 また,本件犯行態様は,無防備な老人2名を相次いで殺害した残虐なものであり,その凄惨さは目を覆うばかりである。すなわち,被告人は,V男ら方に侵入し,実行の機会を窺って潜んでいたところをW子に気付かれたため,直ちに同女の左手首に手錠を掛け,さらにV男に助けを求めようとした同女の口を手で押さえつけたものの,同女が抵抗するなどしたこ ら方に侵入し,実行の機会を窺って潜んでいたところをW子に気付かれたため,直ちに同女の左手首に手錠を掛け,さらにV男に助けを求めようとした同女の口を手で押さえつけたものの,同女が抵抗するなどしたことから本当に殺すしかないと考え,同女の頚部を両手で力一杯絞めつけたり,大人しくさせるためにその腹部を数回殴打し,さらに,無抵抗になって床に崩れ落ちた同女を後ろ両手錠にした上で,粘着テープを顔面全体及び足首付近に巻きつけてその上から手で押さえるなどして呼吸ができないようにし,やがて全く動かなくなった同女の身体を風呂場まで引きずって行き,同女の上半身を湯の入った浴槽に突っ込んだ。その後,被告人は,W子から予想以上の抵抗を受けたことから,V男からはさらに激しい抵抗を受けるだろうと考え,同人が寝ている隙を狙ってコンクリートブロックを頭部にぶつけて即死させた後にじっくり物色しようと決意し,庭からコンクリートブロックを拾ってきて,どのようにぶつけるかを何度もシュミレーションした上でこれを両手に持って頭の上に振り上げ,同人の頭辺りを狙って力一杯投げ下ろし,その後「いだぃー,いだぃー」などと悲鳴を発して身体をくねらせている同人の頭や心臓などを狙ってさらに何度もコンクリートブロックを投げ下ろして殺害したというものである。これまで被告人に愛情を注いでくれた祖父母に対する余りに非道で執ようかつ残虐極まりない犯行といえる。 その生じた結果についても,2名もの尊い命を奪ったという余りにも重大なものである。V男らは,これまで長い間,質素で堅実な生活をともにしてきており,被告人のことを気に掛け,被告人がV男ら方で暮らすようになってからも,夕食を若者向きの食事に変えたり,一所懸命に話を聞こうとしたり,立派な人間になるよう諭すなどし,また,被告人がV男の預金を引き出してい 人のことを気に掛け,被告人がV男ら方で暮らすようになってからも,夕食を若者向きの食事に変えたり,一所懸命に話を聞こうとしたり,立派な人間になるよう諭すなどし,また,被告人がV男の預金を引き出していることに気付いたときには,周りの者から警察に届け出るべきだとの意見が出されたにもかかわらず,被告人の将来を案じて,実母のAを通じて被告人をたしなめることにするなど,被告人を慈しみ,同人が立派に成長することを楽しみにしていたものと思われる。このような中でV男らは,これまでかわいがってきた孫の手によって,一瞬にしてその命を奪われ,間もなく生まれてくるひ孫の姿を見ることなく,夫婦仲良く平穏無事な余生を送るというささやかな幸せさえも無惨に奪われ,その生涯を終えなければならなかったのであって,その悲しみ,無念さは察するに余りある。W子においては,頚部を絞めてくる被告人の手の中で,目を見開き,恐怖と怒りに満ちた目で被告人をにらみつつ,苦しみにもだえながら息絶え,V男においても,重いコンクリートブロックを何度も顔面や胸部に投げつけられて頭蓋骨が何か所も骨折する中で断末魔の悲鳴を上げていたというのである。二人の肉体的苦痛と恐怖の思いは筆舌に尽くし難い。そして,後ろ手にして手錠を掛けられ,顔面及び両足首を粘着テープで緊縛されて,上半身を浴室内に突っ込まれて放置されていた同女の姿並びに多量の血痕が飛び散っている中で顔かたちが変形するほど頭部や顔面に無数の傷跡を残して放置されていたV男の姿は,余りにも無惨で正視に耐えず,哀れというほかない。 本件は孫が祖父母を強盗目的で殺害した事件であり,被告人の親族でもあるV男らの遺族としては,V男らが無惨な最期を遂げたことで大きな悲しみに打ちひしがれるとともに,その犯人が自らの親族であったことに大きな衝撃を受けたのであって 殺害した事件であり,被告人の親族でもあるV男らの遺族としては,V男らが無惨な最期を遂げたことで大きな悲しみに打ちひしがれるとともに,その犯人が自らの親族であったことに大きな衝撃を受けたのであって,その精神的苦痛は計り知れない。特に,V男らの一人娘であり,被告人の実母でもあるAは,捜査段階において,他人の仕業であれば当然極刑にしてほしいが,犯人が息子であることから複雑な心境にある旨,法律に従った結果極刑になってもやむを得ない旨述べ,本件犯行後1年半程経った当公判廷においても,極刑になってもやむを得ないという気持ちもあることはある旨述べている。その一方で,被告人の処罰についてどう考えているかとの質問に,「分からない」と答えたり,被告人が帰ってきたら住めるように広いところに引っ越したとも述べており,V男ら及び被告人に対する様々な感情が心の中で葛藤していることが窺えるが,自分の息子に対してさえも極刑やむなしと考えるに至っていることからは,V男らを失ったことに対する悲しみの大きさが容易に推察できる。 被告人は,V男らを殺害後,同人らが普段と変わらず生活しているかのように装うため,配達された新聞等を家の中に取り込んだり,洗濯物や乳母車等を出し入れし,また,同人らを温泉旅行に連れて行っている旨の虚偽の手紙をAに送るなど,犯行の発覚を遅らせるためのいくつかの罪証隠滅工作をしている。また,本件犯行後自ら出頭するまでの間,強取した金で相も変わらず遊興してそのほとんどを費消したのである。犯行後の情状もよくない。 また,本件は,のどかな農村における老夫婦惨殺事件として,地元住民に対して大きな衝撃を与えたもので,社会に与えた影響も考慮されなければならない。 以上のような本件犯行の罪質,動機,本件犯行遂行に当たっての計画性,犯行態様の執よう性・残虐性,何より して,地元住民に対して大きな衝撃を与えたもので,社会に与えた影響も考慮されなければならない。 以上のような本件犯行の罪質,動機,本件犯行遂行に当たっての計画性,犯行態様の執よう性・残虐性,何よりも二人の命を奪った結果の重大性,遺族の処罰感情,犯行後の情状,社会的影響等を考慮すると,被告人の責任は重大であり,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも被告人に対し極刑をもって臨むことを念頭に置いてその量刑に検討を加えるべき事案であるといわざるを得ない。 しかしながら,他方で以下の事情も認められる。 被告人は,V男らを緊縛するための道具等を用意した上,同人らが別行動するタイミングを狙い,何度かその機会を窺うなどした挙げ句に実行に及んだもので,本件犯行について計画性が認められることは前記のとおりである。ただ,こと同人らの殺害に関しては,濡れタオルを顔に被せて殺害することを一応考えたとはいうものの,それ以上に,この濡れタオルをいつ,どのようなタイミングで使用するのか,抵抗されたらどうするのか,濡れタオルを被せるだけで確実に殺害できるのか,それが功を奏しなかった場合には他にどうやって殺害するかなど,殺害方法を具体的,現実的に検討した様子は窺えない。加えて,被告人は,何度も被害者ら方に忍び込んで実行の機会を窺いながら,その度に逡巡し,怖じ気づき,結局はあきらめることを繰り返しており,本件犯行直前の場面でも,W子が被告人の隠れていた台所の方へ来たときなど実行する好機があったにもかかわらず,あわてて同女に気付かれないようその場を離れようとさえし,その行動を同女に気付かれて切羽詰まるまでは強盗行為に着手することすらできなかった。そして,実際の殺害場面をみても,被告人は,V男に助けを求めようと抵抗するW子の表情を見るなどして,「あかん,もう最悪や。ほん 女に気付かれて切羽詰まるまでは強盗行為に着手することすらできなかった。そして,実際の殺害場面をみても,被告人は,V男に助けを求めようと抵抗するW子の表情を見るなどして,「あかん,もう最悪や。ほんまに殺さなあかん。」などと考え,いよいよ同女を殺害するしかないと思い,その首を手で絞めるなどして殺害し,これに引き続き,V男に攻撃の矛先を向け,その抵抗を恐れて,同人から印鑑等の場所を聞き出すことをあきらめ,眠っている同人を殺害しようと考え,寝ている同人の頭部等にコンクリートブロックをぶつけて殺害しているところ,これらの方法は,いずれもその場の咄嗟の判断で考えついたもので,前記計画とは全く異なるものであった。このように,犯行前の時点における殺害意思については,殺害計画自体に緻密さ,周到さに足りないところがあり,殺害の具体性や現実性に欠けた面もあったものが,予期しなかった状況に直面したのをきっかけに現実化され,一旦行動が開始されるや,歯止めが効かなくなり,本件のような残忍な方法をとるに至ったものとみられなくもない。もちろん,被告人は,目的のために手段を選ばぬ計画を頭の中で考え,V男らを殺害する考えを捨てることなく,これを次第に強めていって犯行に及んだことは前記のとおりであり,全く殺意を有していなかった者が咄嗟に殺害を決意し,実行に移したような事案とは異なることはいうまでもないが,最終の殺害に関しても確固たる決意を持ち,冷静,周到に計画した上で,これに従って,ためらいもなく,冷酷に実行していった事案とは様相を異にするというほかない。 また,遺族の受けた衝撃は大きく,その中で最も着目すべき遺族である被告人の実母でさえ,被告人が極刑になってもやむを得ないとの気持ちを有しているものの,そこには複雑な心境が窺えることは前記のとおりであり,遺族の被害感情 衝撃は大きく,その中で最も着目すべき遺族である被告人の実母でさえ,被告人が極刑になってもやむを得ないとの気持ちを有しているものの,そこには複雑な心境が窺えることは前記のとおりであり,遺族の被害感情が峻烈で積極的に犯人の極刑を求めている事件と同列に論じることはできない。 被告人は,幼いころから親の金を持ち出すなどの問題行動があったことなどからすると,人の金品を盗ることについての規範意識の低さは窺え,また,前記のような殺害態様等からは粗暴で他者への共感性に欠ける面が存することは否めない。しかし,金品の持ち出しは基本的には身内からのものにとどまっており,これが肉親以外の第三者に対して向かうことはなかった上,粗暴傾向についても,これまでの日常生活の中で他人への粗暴的言動が特に目立つというわけではなく,本件犯行に至る経緯の中で何度も逡巡態度を示していることからしても,他人の生命,身体に対して危害を加えるような犯罪性向が顕著であるとはいえない。結局,本件のような残虐な犯行に及んだ背景を考えてみると,被告人のその種の粗暴性向が発現したものとみるよりは,当審における鑑定人も指摘するように,肉親に対する甘えともいえる感情から祖父母に攻撃が向けられ,自己への自信のなさや他者への共感性の欠如などもあって実際にとった行為が過剰なものとなったとの見方は十分考えられるものといえる。 そして,被告人は犯行時21歳の若年青年で前科がなく,また,少年時代の家庭裁判所への係属歴もない。被告人の反社会性や犯罪性が深化,固定化しているとまではいえず,その矯正可能性は未だ残されていると思われる。 被告人は,捜査段階において,当初,殺害に関して計画性がなかったかのような供述をしていたが,その後比較的間もない時期に計画性を含めて本件犯行を認めるに至った。そして,公判段階におい ると思われる。 被告人は,捜査段階において,当初,殺害に関して計画性がなかったかのような供述をしていたが,その後比較的間もない時期に計画性を含めて本件犯行を認めるに至った。そして,公判段階においては,第2回公判において,殺害の計画性を否認するとともに,動機及び犯意の内容について否定的ともいえる曖昧な供述を始めたものの,第4回ないし第5回公判において,最終的には,計画性を含めて本件犯行を素直に認めるに至っている。検察官は,このような被告人の供述経過のうち,否認的供述部分をとらえ,計画性の希薄さや精神の異常さを強調する狙いで,あえて作り話等の虚偽供述を繰り返し,自己の刑責を軽減しようと努めているなどと主張する。確かに,公判当時まだ22から23歳の若年の被告人が,短絡的な動機で本件凶行に及んだ後,次第にその責任の重大性等を実感するようになり,しかもそれが自分に愛情を注いでくれていた祖父母を殺害したものであるときに,そのような冷酷,非情な自分を認めたくなく,現実逃避を図りたいなどの気持ちがあったことは十分考えられる。しかし,他方で,すでに明らかなように,被告人は,何度も祖父母方に侵入しながら,実行に着手しきれず躊躇してきており,本件当日においてさえ,必ずしも一気に犯行に着手しきれなかった踏ん切りの悪さが窺えるところ,そこでは胸中に複雑な思いが去来していたであろうことを容易に推認することができる。被告人が公判段階で「気持ちがばらばらであった」旨を供述する点もあながちためにする虚偽供述とも思えない。捜査段階の供述においては,犯行に向けての気持ちを整理しようとする余り,そのような複雑な心境が必ずしも全面的に述べられていない場合も十分にあり得るところであり,被告人において,捜査段階におけるそのような整然とした供述に対して,当時の心境を改めて思い起 ようとする余り,そのような複雑な心境が必ずしも全面的に述べられていない場合も十分にあり得るところであり,被告人において,捜査段階におけるそのような整然とした供述に対して,当時の心境を改めて思い起こしたときの違和感から,これを否定的に述べることがあっても無理はない面もあると思われる。また,検察官が指摘する被告人の公判における供述に関しても,捜査供述と異なるという部分が果たしていずれも自己に有利になると意識してなされたような内容のものか疑問を禁じ得ないものもある。当初なぜ祖父母を殺害したのか分からないと述べていたのも,たかが金銭を得る目的でかわいがってくれた祖父母の殺害行為にまで及んでしまった理由が自分でも納得できないままの心境を,金銭目的のみでは説明できないとの趣旨で説明したものが,検察官が金銭を得るための殺害であったことを全面的に否認する趣旨と理解してそれを前提に質問をしたため,前記のような現実逃避的な心情の中でこれが前面に出て供述していったようにも見受けられ,現にその後の期日において検察官が丁寧に経過を聞いていくと結局は強盗目的での殺害を認めるに至っているのである。さらに,客観的状況と齟齬していると指摘されている包丁で祖母の死体を刺したとの点も,被告人が当審の鑑定人に対して,「祖母の指を切り,背中にとんとんと突き刺して確かめた。気持ちが悪くてぶすっとは刺せなかった。祖母から血は出なかった。」と述べているところ,これは死体の背中については一見して明らかな刺し傷が生じる程度のものとはいい難いものであり,指についてはW子の死体の写真(検察官請求証拠番号18の司法解剖立会報告書添付の番号24の写真)ではその右手示指に切創が見られるところであり,一概に虚偽供述とはいえないものと考えられる。こうした点等に照らすと,被告人の供述については,その 拠番号18の司法解剖立会報告書添付の番号24の写真)ではその右手示指に切創が見られるところであり,一概に虚偽供述とはいえないものと考えられる。こうした点等に照らすと,被告人の供述については,その供述態度全体を評価するならば,供述経過に幾度かぶれはあるものの,本件犯行の2日後に友人に説得されて自ら警察に出頭した後は,本件犯行そのものは基本的に一貫して認めてきたとみてよく,検察官がいうように真摯な反省の念が全くみられないとは到底いえない。自分の命をもって罪を償うしかないと再度供述するに至ったことからしても,未だ若年で人格的にも未成熟なため,その深まりの点で足りない面はあるものの,それなりに自己の行為の重大さを理解し,自らの罪を償わなければならないとの思いを有しての反省の態度を示しているものとみるべきである。 前記のとおり本件の社会的影響を考慮せざるを得ず,また,一般予防の見地からも犯情の重い事案といわざるを得ないが,一方で,身内以外の第三者に対する殺害事件のように社会一般に対していつ何時自らが同様の被害に遭うかもしれないとの思いを抱かせるような事案,身の代金目的の誘拐殺人事件や保険金目当ての殺人事件のように模倣性が高い事案等とは異なるものであって,社会的影響や一般予防の観点からの非難には一定の限界があるものといえる。 こうした諸事情を念頭に置いて検討するに,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重に行われなければならない。そして,各般の情状を併せ考察したとき,その判断に際してまずもって重視すべき事情といえる犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性等については,本件の犯情は極めて悪いといわざるを得ないものの,前述のとおり,殺害に関す の情状を併せ考察したとき,その判断に際してまずもって重視すべき事情といえる犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性等については,本件の犯情は極めて悪いといわざるを得ないものの,前述のとおり,殺害に関する犯意や計画の内容,犯行の経緯,被告人の犯罪性向,その他の被告人のために酌むべき事情が種々みられるところである。そのような事情の中には,死刑を科するか否かという重大な判断をする上で公平公正で適正な科刑を行うためには過度に重視すべきではない主観的な事情も含まれてはいるが,かかる事情であってもそれなりに意味を持った量刑判断の要素として考慮すべきであることはいうまでもない。そして,本件事案の悪質重大性を考慮に入れたとしても,被告人のために酌むべき事情全てを視野に入れ,近時の死刑を科すか否かが問題となり確定した最高裁や下級審の幾多の事案とも比較検討した上で本件の量刑につき考えたときに,極刑が誠にやむを得ないものと認めるには未だ躊躇を覚えざるを得ない。 したがって,この際,被告人を無期懲役刑に処し,生きて祖父母の冥福を祈らせ,生涯をかけて贖罪に当たらせることが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)平成15年6月4日神戸地方裁判所姫路支部刑事部 裁判長裁判官伊東武是 裁判官小倉哲浩 裁判官小倉哲浩 裁判官平城文啓

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