- 1 -主文 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判等(以下,略称は,原則として原判決の表記に従う。) 控訴人主文同旨 被控訴人A( )本件控訴を棄却する。 ( )控訴費用は控訴人の負担とする。 その余の被控訴人ら被控訴人Aを除くその余の被控訴人らは,適式な呼出にもかかわらず,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準備書面も提出しない。 第2事案の概要 本件は,被控訴人らの被承継人B(以下「B」という。)が,自己所有の本件土地建物(原判決2頁)に対して,W(以下「申立債権者」という。)から申し立てられた担保不動産競売事件(名古屋地方裁判所平成●●年(ケ)第●●●●号)に関し,執行裁判所が公示送達の方法によって行なった本件競売開始決定及び本件引渡命令(いずれも同3頁)の各正本の送達手続(以下,一括して「本件送達」という。)に違法があると主張して,控訴人に対し,執行手続によって本件建物及び同内部の動産を喪失したことに基づく損害賠償を請求した事案である。 これに対し,控訴人は,本件送達に違法はなく,かつ,同送達手続を担当した裁判所書記官に過失はないと主張して,損害賠償責任を争うとともに,損害の発生・金額及びこれと本件送達手続との因果関係を争った。 - 2 - 原審は,①本件競売手続(原判決3頁)当時,Bは,府中刑務所に収容されていたから,同刑務所長宛になされていない本件送達は無効であるところ,②一般に裁判所書記官は,公示送達の方法で送達を行なうに当たり,受送達者の最後の住所,転居先その他就業場所等の送達すべき場所が見当たらないことの客観的事情を証明す いない本件送達は無効であるところ,②一般に裁判所書記官は,公示送達の方法で送達を行なうに当たり,受送達者の最後の住所,転居先その他就業場所等の送達すべき場所が見当たらないことの客観的事情を証明するに足りる資料を収集するよう努めるべきで,それによって得られた情報を総合的に考慮してもなお送達すべき場所が不明であるか否かを合理的に判断しなければならないが,③本件競売開始決定の送達手続の疎明資料として申立債権者から提出された,X作成の申立債権者宛の本件報告書(原判決11頁)には,近隣住民から提供された「Bは静岡方面の刑務所に服役中と聴く」旨の情報が記載されていたから,この情報が根拠のあるものかを確認するための補充調査をせずに,直ちに公示送達の方法により本件送達を実施した担当書記官の判断は,合理性を欠き,過失があると判示して,Bの請求を一部認容したため,控訴人が控訴した。 なお,Bは,原審の口頭弁論終結後,判決言渡前に死亡し,Bを名宛人とする原判決が言い渡されたことから,控訴人は,Bの法定相続人(実子及び養子合計7名)を相手方として,控訴の手続をしたが,そのうちCは,後に控訴人に対する自己の訴を取り下げたため,現在,同人を除くその余の相続人6名が本件訴訟を承継している。 争いのない事実等及び争点(これに関する当事者の主張を含む。)は,次項のとおり,当審における控訴人の主張(原審における主張の敷衍を含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。 当審における控訴人の主張( )民訴法上の送達につき,最高裁平成10年9月10日判決(判例時報1 661号81頁)は,付郵便送達の事案において,受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集については,裁判所書記官の裁量に ( )民訴法上の送達につき,最高裁平成10年9月10日判決(判例時報1 661号81頁)は,付郵便送達の事案において,受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集については,裁判所書記官の裁量に委ねられており,- 3 -裁判所書記官としては,相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて,就業場所の存否を認定すれば足り,担当裁判所書記官が,受送達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合には,受送達者の就業場所が事後に判明したときであっても,その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し,あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り,当該付郵便送達は適法と解するのが相当であるとの趣旨を判示しており,これは,裁判所書記官の固有の職務権限に委ねられた送達事務について一般的基準を明らかにしたものと解されている。 ( )しかるに,原判決は,本件送達は,民訴法102条3項に違反して無効 であると判示しており,このことをもって,直ちに国家賠償法上,本件送達が違法になると判断したと解されるが(原判決に,本件送達が国家賠償法上,違法であると明示した部分はない。),これは,明らかに裁判所書記官による送達手続の違法性の存否の判断に関する上記最高裁判決の枠組み等に抵触するものである。 ( )すなわち,民訴法110条1項1号の公示送達の制度は,送達すべき場 所(受送達者が刑事施設に収容されている場合は,当該刑事施設の長)が知れないと認定した裁判所書記官の判断を前提として,所定の公示方法による送達を実施して,送達の効力を生じさせる制度であるから,その民訴法上の効力を論ずるに当たり,送達場所が知れている場合に適用される民訴法102条3項を論拠とすることは背理である。 ( )そればかりでなく,原判決は,要旨「受送達者 じさせる制度であるから,その民訴法上の効力を論ずるに当たり,送達場所が知れている場合に適用される民訴法102条3項を論拠とすることは背理である。 ( )そればかりでなく,原判決は,要旨「受送達者が刑事施設に収容されて いるとの情報があり,それが相応に具体性があり,信憑性があり得ると考える余地がある情報であって、風評の類に止まるものとはにわかに断じ難い場合」には,「それが信憑性のある情報であるか,補充調査を行ない,確認をする」ことのみが裁判所書記官として採るべき合理的な判断であるとの基準を示し,担当裁判所書記官の判断がこの基準と異なることを理由として,当該- 4 -判断が不合理である旨を判示している。 しかし,裁量権の行使については,権限を与えられた裁量権者の自由に任されているのであり,裁判所が事後的に,裁量権者と同一の立場に立って,当該具体的事案について裁量権の行為がどうあるべきかを判断し,その判断の結果を裁量権者の判断に置き換えて結論を出す,いわゆる判断代置は許されない。裁判所は,あくまでも,当該判断が裁量権の行使としてされたことを前提として,その判断要素の選択や判断過程に著しく合理性を欠く点がないかを判断すべきものであるが,原審の判示する内容は,担当裁判所書記官の裁量権を前提としない判断代置であって不当である。 ( )のみならず,原判決は,担当裁判所書記官が申立債権者に対し,補充調 査を指示すべきであったと判断しながら,申立債権者において可能であった調査がどのようなものであるか,なんら判示せず,また職権調査の内容についても,関係官公署への問合せという漠然とした内容を判示するのみであって,実質的に,調査義務の内容を特定していない点でも不当である。 第3当裁判所の判断当裁判所は,原判決と異なり,Bの請求はいずれも理由がない 官公署への問合せという漠然とした内容を判示するのみであって,実質的に,調査義務の内容を特定していない点でも不当である。 第3当裁判所の判断当裁判所は,原判決と異なり,Bの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 本件競売手続の経過原判決11頁11行目の「住民票上,」を,「本件報告書の内容としては,住民票上,」と改めるほかは,原判決10頁26行目から13頁14行目までのとおりであるから,これを引用する。 本件送達手続の違法性の有無( )民事執行法が準用する民訴法上の裁判関係書類の送達事務は,裁判所書 記官の固有の職務権限に属し,裁判所書記官は,原則として担当事件における送達事務を民訴法の規定に従い,独立して行なう権限を有する。 そして,公示送達の方法による書類送達手続に関しても,裁判所書記官は,- 5 -公示送達の要件である,当事者の住所,居所その他送達をすべき場所(以下「住居所等」という。)が知れない場合に該当するか否かの判断及び,同要件の調査の要否・方法等について,自己の裁量に基づき判断をなす権限を有していると解されるのであって,裁判所書記官が,相当と認められる方法により収集した認定資料に基づき,住居所等が知れない等と判断した場合には,その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し,あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り,当該公示送達の方法による送達手続は適法,有効であると解するのが相当である。 ( )これを本件についてみるに,上記1の引用に係る原判決認定の事実によ れば,①本件競売手続を担当した裁判所書記官は,通常の方法で本件競売開始決定正本の送達を試みたが,奏功しないため,申立債権者にBの住民票と報告書の提出を求め,申立債権者の関連会社の調査に基づく本件報告書が執 本件競売手続を担当した裁判所書記官は,通常の方法で本件競売開始決定正本の送達を試みたが,奏功しないため,申立債権者にBの住民票と報告書の提出を求め,申立債権者の関連会社の調査に基づく本件報告書が執行裁判所に提出されたが,これには,Bは住民票を残したまま,本件建物から退去し,電気,ガスも使用停止となっており,近隣住民からの聴き取りでも,本件建物には家族もおらず,転居先に関する格別の情報は得られず,同様に,Bの就業場所を特定するだけの情報がなかった等の趣旨が記載されていたことから,Bについては,住居所等が知れない場合に該当すると判断して,申立債権者の申立に基づき,本件競売開始決定正本について,民訴法110条1項1号により公示送達の方法による送達の手続を執り,②その後実施された執行官の現況調査の報告書によっても,上記状況に格別変化がなかったため,担当の裁判所書記官は,同様に,Bについては,住居所等が知れない状況が継続していると判断して,本件土地建物の競落人の申立に基づき,本件引渡命令正本について,民訴法110条1項1号により公示送達の方法による送達の手続を執った,以上の経過が認められるのであって,担当裁判所書記官の上記各判断過程に,裁量権の逸脱・濫用の違法は認められない。 したがって,本件送達は,いずれも適法,有効というべきであって,その- 6 -余の点について検討するまでもなく,違法,無効な送達手続に基づき自己所有の本件土地建物を売却され,損害を被った旨のBの主張は採用することができない。 ( )なお,本件報告書の上記( )の記載中には,近隣住民からの聴き取りとし て,「Bは静岡方面の刑務所に服役中と聴く」との情報が記載されているが,Bが静岡の拘置所に収容されていたのは,本件競売手続が申し立てられるより,かなり以前の平成15年 住民からの聴き取りとし て,「Bは静岡方面の刑務所に服役中と聴く」との情報が記載されているが,Bが静岡の拘置所に収容されていたのは,本件競売手続が申し立てられるより,かなり以前の平成15年1月31日までのことであって,本件競売手続の申立当時,静岡方面の刑事施設を調査しても,Bの住居所等が判明した可能性は,極めて低かったと評価するのが相当であるから,当該記載から,担当裁判所書記官の裁量判断に関する上記認定を左右することはできない。 また,平成15年に提起された建物明渡等の請求訴訟では,府中刑務所に収容されていたB宛に,訴状等が送達されている事実が認められるが,上記( )の当時,担当裁判所書記官にこれらの事情が判明していたとは認められ ず,この点も上記認定を覆すものではない。 第4 結論 以上によれば,Bの本件請求はすべて理由がないから,原判決のうち,これと異なる部分を取り消して,上記請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部裁判長裁判官岡光民雄- 7 -裁判官夏目明徳裁判官山下美和子
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