主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(控訴の趣旨)(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人主文同旨第2 事案の概要本件は,原判決別紙土地目録記載の土地(以下「本件土地」ともいう。)を競売によって取得した被控訴人(原審原告)が,同土地上にある原判決別紙建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している控訴人(原審被告)に対し,本件土地の所有権に基づいて本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めた事案である。 原審は,被控訴人の請求を認容した。そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴に及んだ。なお,控訴人は,原審においては,本件土地につき使用借権を有する旨主張していたが,当審においては,この主張を改めて,後記第3の3のとおり本件土地について法定地上権が成立すると主張した。 第3 当事者双方の主張 1 請求原因(被控訴人)(1) 本件土地は,もとAの所有であったが,その後,相続,相続分の譲渡,遺産分割(審判)などを経て,控訴人,B,C,D,E及びFの6名の共有となった。 (2) Bは,本件土地につき,共有物分割の訴えを金沢地方裁判所に提起し,同裁判所は,平成6年2月14日,本件土地を競売に付し,その売得金を分割することを命じる判決を言い渡した。 (3) Bは,上記判決に基づき本件土地の競売を同裁判所に申し立て,この競売事件は,同裁判所平成6年(ケ)第36号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)として係属したが,被控訴人は,同事件において,本件土地を競落し,平成12年10月16日代金を 申し立て,この競売事件は,同裁判所平成6年(ケ)第36号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)として係属したが,被控訴人は,同事件において,本件土地を競落し,平成12年10月16日代金を納付して,本件土地の所有権を取得した。 (4) 控訴人は,本件土地上に本件建物を所有して,本件土地を占有している。 (5) よって,被控訴人は,控訴人に対し,本件土地の所有権に基づいて,本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める。 2 請求原因に対する認否(控訴人)請求原因(1)ないし(4)の事実は認める。 3 抗弁(控訴人)(1) Aは,昭和44年6月9日,Gのために,その所有に係る本件土地につき根抵当権(1番抵当権)を設定した(以下,このGの根抵当権を「本件抵当権」という。)。 (2) 本件抵当権が設定された昭和44年6月9日当時,本件土地上には,既に本件建物(2階建ての建物)が存在していた。 (3) 昭和44年6月9日当時,本件建物は,Aと控訴人の共有であった。 (4) 本件建物は,昭和50年2月,1階をA,2階を控訴人の各所有とする旨の区分所有建物として登記されたが,昭和52年6月,Aは,本件建物の1階部分を控訴人に贈与し,これにより,控訴人は,本件建物全体を単独所有するに至った。 (5) ところで,建物が共有で,その敷地の土地が建物共有者の一人の単独所有である場合において,土地に抵当権が設定されて競売されたときには,当該建物のために法定地上権が成立するというのが判例である。また,抵当権設定当時に土地建物が同一所有であれば,設定後に土地又は建物が第三者に譲渡されて所有者が異なっても法定地上権が成立するというのも,判例の認めるところである。さらに,判例は古くから,民法388条の要件を備えていれば,抵当権に基づく競売に限らず,一般 又は建物が第三者に譲渡されて所有者が異なっても法定地上権が成立するというのも,判例の認めるところである。さらに,判例は古くから,民法388条の要件を備えていれば,抵当権に基づく競売に限らず,一般債権者による強制競売や旧国税徴収法による競売であっても,法定地上権が成立するとしているのであるから,これらの判例の趣旨からすると,民法388条の要件を具備し,かつ,本件土地が競売されたという,本件の事実関係の下においても,本件建物のために民法388条の法定地上権が成立するというべきである。 4 抗弁に対する認否及び反論(被控訴人)(1) 抗弁(1)及び(2)の事実は認める。 抗弁(3)及び(4)の事実は否認し,(5)の主張は争う。 (2) Aは,昭和35年8月に本件建物(当時平屋建て)を建築したが,その後,控訴人は,昭和40年に本件建物の2階部分を増築した。そして,この増築をした時点で,控訴人は,本件建物の1階部分をAから贈与を受け,本件建物全体の所有権を取得した。 したがって,昭和44年6月9日当時,本件建物は,控訴人の所有建物であったものであり,本件土地と本件建物は所有者を異にしていたから,民法388条の法定地上権の成立要件は具備されていない。 仮にそうでないとしても,本件建物が1階と2階に区分された区分所有建物として登記されたのは昭和50年2月であるが,本件抵当権が設定された昭和44年6月9日当時,本件建物は実体上も区分所有建物であった。そして,Aが本件建物の1階を所有していたとしても,区分所有建物については,法定地上権の成立を認めるのは法技術的に困難であるというべきである。何故なら,法定地上権が成立する専有部分と成立しない専有部分があることになった場合,法定地上権が成立しない専有部分のみを収去しなければならないが,そ 認めるのは法技術的に困難であるというべきである。何故なら,法定地上権が成立する専有部分と成立しない専有部分があることになった場合,法定地上権が成立しない専有部分のみを収去しなければならないが,そのようなことは物理的に不可能だからである。 5 再抗弁(被控訴人)(1) 控訴人は,本件競売事件の当事者であり,平成6年4月16日,不動産競売開始決定正本の送達を受け,不動産競売手続が開始されたことを知った。 ところで,競売裁判所は,本件競売事件において,本件土地の最低競売価額を決定する際,法定地上権を一切考慮しなかった。 これに対し,控訴人は,この最低競売価額の決定については勿論,法定地上権が成立しないとした物件明細書に対しても,執行異議の申立てをしていない。 (2) 被控訴人が納付した本件土地等の売却代金は,控訴人その他の関係者に配当されたが,同売却代金は,本件土地に法定地上権が成立しないことを前提とした価格であって,控訴人は,この売却代金から配当を受けている。 (3) 控訴人は,平成13年3月以降は,本件建物で生活した形跡がなく,電気,ガス,水道も停止している。 (4) 以上の事実によれば,控訴人が本件建物のために,本件土地について法定地上権を主張することは,信義則に違反するものであり,また,権利の濫用にあたるから許されないというべきである。 6 再抗弁に対する認否(控訴人)再抗弁は争う。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因について請求原因(1)ないし(4)の事実は当事者間に争いがない。 2 抗弁について抗弁(1)及び(2)の事実は当事者間に争いがないところ,控訴人は,本件建物(本件土地上にある控訴人所有の建物)のために,本件土地に民法388条の法定地上権が成立する旨主張する。 (1) ところで, (1)及び(2)の事実は当事者間に争いがないところ,控訴人は,本件建物(本件土地上にある控訴人所有の建物)のために,本件土地に民法388条の法定地上権が成立する旨主張する。 (1) ところで,証拠(甲1ないし10,19ないし47,当審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,① Bが共有物分割を金沢地方裁判所に求めたのは,本件土地の外に,本件土地と一団の土地を構成する同所a番bの宅地及び同土地と原判決別紙土地目録1記載の土地上に存在する家屋番号c番dの店舗兼居宅(以下「本件店舗」という。)もその対象物件としており,同裁判所は,以上の不動産全部について競売を命じたこと② Bが申し立てた上記判決に基づく本件競売事件も,上記不動産全部を対象としたものであり,被控訴人は,その全部を落札して所有権を取得したこと③ 本件建物は,控訴人の単独所有であったから,本件競売事件の対象物件ではなかったが,その所在は,本件店舗の後方に位置し,本件建物から公道に出るには,本件店舗の中を通らなければならないこと④ 本件競売事件においては,本件建物のために本件土地上に法定地上権が成立しないことを前提に,最低売却価格が定められ,被控訴人も,本件土地に法定地上権が成立しないことを前提に,本件土地を含む上記不動産を落札したこと⑤ 本件土地に設定されていた本件抵当権を含む一切の担保権の被担保債権並びに差押及び仮差押債権は,競落代金から弁済(配当)されて,その登記はすべて抹消されたことが認められる。 (2) 次に,証拠(甲11,12及び当審控訴人本人)によれば,本件建物は,その1階が昭和35年ころ控訴人の父Aによって建築されたが,その後,昭和40年ころ,控訴人が自己の資金で2階部分を増築したことが認められる。被控訴人は,2階部分の増築の際 人)によれば,本件建物は,その1階が昭和35年ころ控訴人の父Aによって建築されたが,その後,昭和40年ころ,控訴人が自己の資金で2階部分を増築したことが認められる。被控訴人は,2階部分の増築の際,1階部分はAから控訴人に贈与された旨主張するが,そのような事実を認めるに足る証拠はない。そうすると,本件建物は,登記簿上の名義はAの単独所有となっていたが,実質的には,Aと控訴人の共有であったと認められる。被控訴人は,その当時,実体的には本件建物が区分所有建物であったと主張するが,そのように解する根拠はない。 (3) 以上の事実及び当事者間に争いのない抗弁(1),(2)の事実によれば,本件土地に本件抵当権が設定された昭和44年6月9日当時,本件土地上には,Aと控訴人が実質的に共有する本件建物が存在していたと認められるから,仮に本件抵当権が実行されれば,本件建物のために本件土地上に法定地上権が成立する要件が備わっていたということができる。 (4) しかし,本件においては,法定地上権の成立を認めることはできない。その理由は,次のとおりである。 本件土地に対して実施された競売は,民法258条の規定に基づく換価のための競売(いわゆる形式競売)であるから,民事執行法81条の規定の法定地上権が成立する余地はない(同法195条,188条)。そこで,民法388条の定める法定地上権の成立の有無について検討するのに,本件の競売は,抵当権の実行によって開始されたものではなく,本件土地の共有者の間でその分割について合意の形成が得られなかったために,裁判所が民法258条により競売を命じ,その命じる判決に基づいてなされたものである。要するに,担保権者や一般債権者の債権の強制的な満足の実現のためではなく,もっぱら共有関係の解消と共有者の利害の調整の手段として行われ により競売を命じ,その命じる判決に基づいてなされたものである。要するに,担保権者や一般債権者の債権の強制的な満足の実現のためではなく,もっぱら共有関係の解消と共有者の利害の調整の手段として行われたものである。この点からすると,本件土地の競売は,たとえ共有者の意思に反する面があったとしても,その本質において,任意の売却処分と何ら異なるものではない。したがって,本件のようないわゆる形式競売において,当該物件に設定されている抵当権などの担保権が必然的に抹消される訳ではない。競売裁判所は,担保権が付着したまま売却することもできるし,被担保債権を弁済して担保権を抹消する方法によって売却することも可能である。これは,所有者が不動産を任意に売却する際,そのいずれの方法を選択するか自由であるのと同じである。本件においては,本件抵当権は競売によって消滅しているが,それは,競売裁判所が競売を機会にその被担保債務を弁済するという方法を採用したに過ぎず,決して本件抵当権がその権利者の意思によって強制的に実現された結果ではない。そうすると,本件土地の競売によって本件抵当権が消滅したからといっても,それは,競売に際し被担保債権が任意に弁済されたことによるものであるから,たとえ本件抵当権設定当時,本件土地につき法定地上権成立の要件が具備されていたとしても,法定地上権発生の根拠は失われたものというべきである。控訴人の立場からすると,本件抵当権が実行されれば法定地上権の成立が保障されていたにもかかわらず,形式競売が実施されたことにより,その期待権が失われることは不当であるというかもしれないが,そもそも債務者が抵当債務を完済すれば,法定地上権の成立する余地はなくなるのであるから,上記のような法定地上権の期待権は,当然に保護しなければならないものではない。 (5) し というかもしれないが,そもそも債務者が抵当債務を完済すれば,法定地上権の成立する余地はなくなるのであるから,上記のような法定地上権の期待権は,当然に保護しなければならないものではない。 (5) したがって,本件建物につき法定地上権が成立するという控訴人の抗弁は採用することができない。 なお,控訴人が本件建物のためにAから本件土地に使用借権の設定を受けていたことは当事者間に争いがなく,控訴人は,この権利を被控訴人に対して主張することができ,原審において,その主張がなされたが,原判決が説示するとおり,使用借権は,本件土地の第三取得者である被控訴人に対抗することができないから,被控訴人の本訴請求を妨げる占有権原と認めることはできない。 3 以上のとおりであって,本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める被控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容すべきである。 よって,これと結論を同じくする原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部裁判長裁判官川崎和夫裁判官源孝治裁判官榊原信次
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