判決平成14年12月27日神戸地方裁判所平成13年(わ)第834号,同第887号,同第947号傷害致死,恐喝,傷害被告事件 主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 当時交際中であったXと以前情交関係にあったY(当時53歳)から金員を脅し取ろうと企て,平成13年6月1日午前1時過ぎころ,Xをして,兵庫県神崎郡香寺町Aa番地b所在のX方にYを呼び出させ,そのころから同日午前2時半ころまでの間,同人に対し,自己の上半身に彫った入れ墨を見せながら,「おまえ,この女と関係あったんか。」などと詰問した上,包丁(刃体の長さ約16.7センチメートル。平成13年押第192号の1)を畳に突き刺して,「わしは今までに人を2人殺してるんや。2人殺すんも3人殺すんも一緒や。」「わしの弟が神戸でやくざやっとるんや。おまえとこの家なんかつぶそうと思ったらわけないんや。今からでも兵隊呼んできておまえの家つぶしてしもたろか。」「おまえなんぼ出せるんや。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,右手拳でYの左側頭部を2回殴打する暴行を加えて金員を要求し,その要求に応じなければYらの生命,身体等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示してYを畏怖させ,よって,同日午前11時30分ころ,X方において,Yから現金50万円の交付を受けてこれを脅し取った。 (平成13年8月31日付け起訴状記載の公訴事実)第2 同月26日午後10時50分ころ,Xと以前情交関係にあったZ(当時56歳)をX方に呼び出した上,同所において,バット様のものでZの後頭部を1回殴打するなどの暴行を加 付け起訴状記載の公訴事実)第2 同月26日午後10時50分ころ,Xと以前情交関係にあったZ(当時56歳)をX方に呼び出した上,同所において,バット様のものでZの後頭部を1回殴打するなどの暴行を加え,よって,Zに対し,約22日間の加療を必要とする頭部外傷,後頭部挫創の傷害を負わせた。(平成13年9月14日付け起訴状記載の公訴事実)第3 同年7月2日ころから同月8日までの間,神戸市中央区B通c丁目d番神戸市営C住宅e号棟f号室の被告人方等において,前記X(当時43歳)に対し,その頭部,顔面,胸腹部等を手拳等で殴打,足蹴にするなどの暴行を加え,よって,Xに対し,頭皮挫滅傷,硬膜下血腫及び肝臓実質内破裂等の多発外傷並びに高度貧血の傷害を負わせ,同月8日午前6時29分ころ,被告人方において,上記傷害によりXを衰弱死させた。(平成13年8月15日付け起訴状記載の公訴事実)(証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 判示第1の恐喝の事実について被告人は,Yに喝を入れてやるためにYを呼んだことはあるが,Yに対し,兵隊を呼ぶなどと言ったこともないし,殴ったこともないなどとYに対する暴行,脅迫を否認し,Yから金を受け取ったこともないなどと弁解するので,この点について検討する。 Yは,期日外における証人尋問(以下「Y証言」という。)において,被告人から判示第1の恐喝の被害にあった状況について述べているところ,この内容は,具体的かつ詳細で,迫真性に富んでいる上,この犯行を目撃したDの公判廷における証言やEの検察官に対する供述調書(検察官請求証拠番号102)によっても裏付けられており,かつ,Yが虚偽の証言までして被告人を罪に陥れなければならない理由もないことからして十分信用することができるのであって,このY証言を含む関係証拠を総合すると,判示 02)によっても裏付けられており,かつ,Yが虚偽の証言までして被告人を罪に陥れなければならない理由もないことからして十分信用することができるのであって,このY証言を含む関係証拠を総合すると,判示第1の事実はこれを優に認定することができる。被告人の前記弁解は,Y証言を含む関係証拠と対比して信用することができない。 2 判示第2の傷害の事実について弁護人は,被告人がバット様の物でZを殴ったという証拠はないから,被告人は無罪であると主張し,被告人も,それに沿う弁解をするので,この点について検討する。 Zは,検察官に対する供述調書(同番号126。以下「Z供述」という。)において,被告人から判示第2の傷害の被害にあった状況について述べているところ,この内容は,具体的かつ詳細で,内容に不自然な点は見られない上,診断書(同番号128)や創傷診断書(同番号129)によっても裏付けられており,かつ,被告人と本件まで全く面識がなかったZが虚偽の供述までして被告人を罪に陥れなければならない理由もないことからして十分信用することができるのであって,このZ供述を含む関係証拠を総合すると,判示第2の事実はこれを優に認定することができる。 これに対して,被告人は,Zを殴ったのは,本件当時X方にいた「F」なる強姦魔である旨弁解するところ,この弁解内容は,これに沿う証拠が一切見当たらないのみならず,被告人は,勾留質問の際には,裁判官に対し,バットでZを殴ったのはXであると供述していたにもかかわらず,その後,「F」なる男が犯人であると供述するなど,その供述が変遷していることに照らしても信用性に欠けるものであって,前記のZ供述を含む関係証拠と対比して信用することができない。 3 判示第3の傷害致死の事実について被告人は,Xの胸,腹,背中を殴っ が変遷していることに照らしても信用性に欠けるものであって,前記のZ供述を含む関係証拠と対比して信用することができない。 3 判示第3の傷害致死の事実について被告人は,Xの胸,腹,背中を殴ったことはないし,平成13年7月5日夜,兵庫県神崎郡香寺町内のX方に二人組の強姦魔が侵入し,4分間ほどXと被告人に踏んだり蹴ったりの暴行を加えたことやXが自慰行為により過労気味であったことがXの死亡の原因であるなどと弁解するので,この点について検討する。 G及びHは,公判廷の証人尋問(以下それぞれ「G証言」,「H証言」という。)において,被告人がXに対し,執拗かつ強度な暴行を加え続けていた状況等について証言しているところ,この証言内容は,いずれも具体的かつ詳細で,内容に不自然な点はみられない上,相互に符合するとともにXの受傷状況や死亡原因に関する関係証拠とも整合していることからして十分信用することができるものであって,G証言及びH証言を含む関係証拠を総合すると,被告人が,平成13年7月2日ころから被告人方等で,Xに対し,太股,下腹部,陰部,顔面,頭部等を,手拳やベルト,ぬれタオル等で殴打,足蹴にするなどの暴行を断続的に加えており,これらの暴行によりXが死亡したことは,これを優に認めることができる。 これに対し,被告人の前記弁解は,それ自体不自然である上,被告人やXから強姦魔による暴行云々といった事実を聞いた関係者も皆無であることに照らしてもおよそ信用しがたいものであって,前記のG証言及びH証言を含む関係証拠と対比して信用することができない。 (累犯前科)被告人は,(1)平成9年12月16日神戸地方裁判所明石支部で傷害罪により懲役6月に処せられ,平成10年4月15日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した詐欺罪により平成11 (累犯前科)被告人は,(1)平成9年12月16日神戸地方裁判所明石支部で傷害罪により懲役6月に処せられ,平成10年4月15日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した詐欺罪により平成11年2月2日岡山地方裁判所で懲役1年2月に処せられ,平成12年3月12日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(検察官請求証拠番号85)及び(2)の前科にかかる判決書謄本(同番号97)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法249条1項に,判示第2の所為は同法204条に,判示第3の所為は同法205条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,被告人には前記の各前科があるので同法59条,56条1項,57条により判示第1ないし第3の各罪の刑についてそれぞれ3犯の加重(判示第3の罪の刑については同法14条の制限に従う。)をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役10年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中390日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件の概要本件は,被告人が,本件各犯行当時交際していたXと情交関係のあったYをXの自宅に呼び出し,Yに対して暴行,脅迫を加えて畏怖させ,同人から50万円を脅し取ったという恐喝の事実(判示第1),同様にXと情交関係のあったZをXの自宅に呼び出した上,バット様の物で殴打し,Zに約22日間の加療を必要とする頭部外傷等の傷害を負わせたという傷害の事実(判示第2),そして,ついには,Xに対して,被告人の自宅 交関係のあったZをXの自宅に呼び出した上,バット様の物で殴打し,Zに約22日間の加療を必要とする頭部外傷等の傷害を負わせたという傷害の事実(判示第2),そして,ついには,Xに対して,被告人の自宅等で約1週間にわたって暴行を加えて,Xに対し,重篤な傷害を負わせ,その結果,衰弱死させたという傷害致死の事実(判示第3)からなる事案である。 2 本件に関する諸事情(1) 判示第3の傷害致死の事実について被告人は,造園会社の社長をかたって,X方に入り込み,被告人を信じた同女を利用して,サラ金等で借金させるなどしたばかりか,同女の関係した男性を聞き出し,それに対して,一方的に嫉妬心や劣等感を募らせて,本件暴行に及んだものであって,その犯行動機に酌量の余地は全くない。 そして,被告人は,約1週間もの長期間にわたり,Xの全身に,極めて陰湿かつ執拗で,強い暴行を断続的に加え続け,多数回に及ぶ殴打行為により自分の手に痛みを感じてもなお革ベルトなどを使用して殴打を継続するなどし,さらにはXを全裸にした上で,同女に対して凌辱の限りを尽くし,同女の尊厳を著しく損ねたものであって,被害者の遺体が目を覆うばかりの凄惨な状況であることからしても,その犯行態様は極めて悪質である。 その結果,Xは,死別した前夫との間にもうけた本件当時高校3年生の長男及び本件当時中学1年の長女の二人の子供を遺して,全身の打撲傷や高度の貧血等による想像を絶する苦痛に耐えながら,日々,衰弱の度を深め,ついに43歳という年齢で非業の死を迎えなければならなかったものであり,このときのXの無念の心中は察するに余りあり,本件の結果は極めて重大である。 また,被告人は,Xの遺族に対して一切被害弁償をしておらず,Xの実父の処罰感情も峻烈である一方,被告 のであり,このときのXの無念の心中は察するに余りあり,本件の結果は極めて重大である。 また,被告人は,Xの遺族に対して一切被害弁償をしておらず,Xの実父の処罰感情も峻烈である一方,被告人は,Xの尊厳を何ら顧慮しない極めて不合理な弁解に終始するなど,被告人に反省の情は全く見られない。 (2) 判示第1の恐喝及び判示第2の傷害の各事実について被告人は,当時交際していたXが以前に被害者Y及び同Zと関係を持ったことに異常な嫉妬心を抱き,それを口実に被害者両名を呼び出しては,判示第1及び第2の各犯行に及んだもので,各犯行動機に酌むべきものは全くない。 そして,被告人は,Yに対しては,自己が暴力団関係者であって,家族に対しても危害を加えんばかりの言動をとったのみならず,YにXとの性行為を再現するよう強要したり,包丁を突きつけた上で畳に突き刺し(判示第1),Zに対しては,背後からバット様の物で後頭部を強打するなどしたものであって(判示第2),それぞれの暴行,脅迫の態様は悪質である。 また,判示第1の犯行によりYから喝取した現金は50万円と多額であり,本件を契機に,Yの家族は転居を余儀なくされ,Y自身も対人恐怖症に陥り,判示第2の犯行によって,Zは相当期間の入院加療まで必要としたのであって,各犯行の結果はいずれも重大である。 さらに,被告人は,Y及びZのいずれの被害者に対しても一切被害弁償をしていないばかりか,いずれの犯行についても,他人に責任を転嫁するような極めて不合理な弁解に終始している。 (3) その他の事情について加えて,被告人は前記累犯前科2犯を含む前科12犯を有するところ,これらの前科は,被告人が成人間もない昭和30年ころから今回まで断続的に重ねられてきたものであ 3) その他の事情について加えて,被告人は前記累犯前科2犯を含む前科12犯を有するところ,これらの前科は,被告人が成人間もない昭和30年ころから今回まで断続的に重ねられてきたものである上,その罪種は性犯罪,財産犯,粗暴犯など極めて多岐にわたっていること,被告人は,これらの前科によって合わせて16年余にわたって服役し,幾度も矯正教育を受けてきたにもかかわらず,前刑の執行終了後1年余りで又もや本件の恐喝や傷害に及び,遂には凶悪な傷害致死の犯行にまで及んだものであることからすると,被告人の犯罪性向は顕著である。また,被告人は,本件の捜査及び公判を通じて,前記のとおり極めて不合理な弁解に終始し,更には,公判廷においても,感情の赴くままに独りよがりの振る舞いを重ね,自己の犯罪に対し,真剣に向き合おうとする姿勢を全く示さないことに照らすと,被告人の更生の可能性は乏しいといわざるを得ない。 (4) まとめ以上のような事情に照らすと,被告人の刑事責任は非常に重いというべきである。 3 結論以上の諸事情にかんがみると,被告人が比較的高齢であること,被告人は拘置所内でXの冥福を祈っていることなど,弁護人の主張する諸事情を種々検討しても,被告人のために量刑上特段にしん酌すべき程の情状は見出しがたく,被告人の刑責を全うさせるためには,主文の刑をもって臨むほかはない。 (求刑・懲役10年)平成14年12月27日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸 裁判官 浦島高広 裁判官 谷口吉伸
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