主文 被告人を懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成18年2月11日午後7時過ぎころ,甲駅構内で見かけたA女(当時16歳)に声をかけ,同女とともに乙駅方面に向かう甲線の電車に乗り込み,発車後の同車内で同女の素足などを目にしながら同女と会話を続けるうちに,性的欲望を次第に募らせ,同女を利用して射精したいなどと考えるようになり,自己と話をすればアルバイト代を払うともちかけるなどしたが,同女に断られ,同女に付いて丙駅で降車した後も,並んで歩きながら,繰り返し同女に話しかけていたが,同女から全く相手にされなかったため,同女に強いてわいせつな行為をしようと企て,同日午後8時50分ころ,和歌山県a郡b町大字cd番地付近路上(以下,「第1現場」という。)において,同女に対し,その左肘付近を掴んで同女の身体をガードレールに押し付け,その背後から強く抱きつき,両手で同女の着衣の上からその両乳房を弄んだところ,同女が身体を左右に激しく振るなどして抵抗したことから,「おまえ,ほんま犯すぞ。」などと語気鋭く申し向け,次いで,被告人を畏怖する余り抵抗を諦めた同女の手を引いて同町大字ce番地付近路上(以下,「第2現場」という。)に連れ出し,同女に対し,「黙ってこっち来い。大きな声出すな。」などと再度語気鋭く申し向け,同女のスカートをまくり上げてパンツを覗きながら自慰行為をするなどしていたが,さらに,同女を人気がなく暗い同町大字cf番地のgの梅畑内の倉庫付近(以下,「第3現場」という。)に連れ込み,同女に「脱げ。」などと申し向けながら,そのパンツを脱がせ,同女の臀部を手で撫で回し,その陰部に手指を挿入するなど,強いてわいせつな行為をしているうちに,著しく性的欲望を募らせ,この上は,同女を強 同女に「脱げ。」などと申し向けながら,そのパンツを脱がせ,同女の臀部を手で撫で回し,その陰部に手指を挿入するなど,強いてわいせつな行為をしているうちに,著しく性的欲望を募らせ,この上は,同女を強姦しようと決意し,上記倉庫に向かって立たせた同女に対し,その身体を背後から両手で強く押さえ付け,あるい は地面に仰向けに押し倒した同女に対し,「俺が一方的にやったら犯罪になるので,おまえが入れろ。」と申し向けるなどして,強いて同女を姦淫しようとしたが,自己の陰茎を同女の陰部に容易に挿入することができないでいるうち,同女から口淫することで許してほしい旨を告げられるなどしたため,その目的を遂げなかったものである。 (事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断) 強姦の犯意の発生時期について(1)本件公訴事実の記載と論告等を併せると,検察官は,被告人がA女(以下,「被害者」という。)の背後から抱きついた時点で,既に強姦の犯意を有していた旨主張しているとみられるから,以下,この点について,当裁判所の判断を補足して説明する。 (2)関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 被告人は,本件当夜,被害者に話しかけつつ,自己の帰る方向とは異なる行き先の甲線の電車に被害者とともに乗り込んだ後,同車内で同女と会話していたが,アルバイトと称して「俺と10分話してくれたら,1000円やる。」などともちかけてはみたものの,同女に断られ,話しかけても半ば無視される状況となった。被告人は,被害者に付いて丙駅で降車してからも,薄暗くて人通りの少ない線路沿いの道を,同女と並んで歩きながら,繰り返し同女に自己と話をするよう働きかけたが,同女に断られると,先刻電車内で教えた自己の携帯電話のメールアドレスと電話番号を,同女の携帯電話の登録から消去するよう求め,これに と並んで歩きながら,繰り返し同女に自己と話をするよう働きかけたが,同女に断られると,先刻電車内で教えた自己の携帯電話のメールアドレスと電話番号を,同女の携帯電話の登録から消去するよう求め,これに応じた同女の携帯電話を見て消去の事実を確認した。被告人は,その後も被害者に「1分だけでも話して。」などと頼んでみたが,同女から迷惑そうな態度で「ほんまに無理。」と言われると,「それやったら,俺が降りた意味がないやん。」などと怒ったように言い,第1現場において,同女の左肘の辺りを掴んで強く引き,そのまま同女の体をガードレールに押し付けた上,その背後から,両腕を同女の両脇の下を通してその体の前に回すように して抱きつき,両手で着衣の上から同女の両乳房を弄んだ。被告人は,被害者がとっさに体を激しく左右に振るなどし,同女の体に回した手を振り払われそうになったことから,同女をきつく抱いて,「ほんまに1分だけやから。」と言ったが,同女から「ほんまに無理。」と言われると,同女に対し,きつい口調で「おまえ,ほんま犯すぞ。」と申し向けた。被告人は,畏怖の余り抵抗しなくなった被害者の手を引いて第2現場に移動し,両膝を地面について,同女を前に立たせ,その場で自慰行為を始め,離れようとする同女に「黙ってこっち来い。大きな声出すな。」と語気鋭く申し向け,同女のスカートをめくり上げてその下着を覗きながら,さらに自慰行為を続けた。その後,被告人は,自慰行為では射精できないと考え被害者に手淫を要求したが,同女から断られると,それ以上は何も言わず,しばらく自慰行為を続けた。被告人は,被害者に命じて腕を組ませ,同女を人気がなく暗い第3現場に連れ込んだ後も,しばらくの間は,下着を脱がせた同女の臀部を手で撫で回したり,その太股に頬ずりしたりしながら,自慰行為を続けた。 (3) ,被害者に命じて腕を組ませ,同女を人気がなく暗い第3現場に連れ込んだ後も,しばらくの間は,下着を脱がせた同女の臀部を手で撫で回したり,その太股に頬ずりしたりしながら,自慰行為を続けた。 (3)このように,被告人は,被害者に夜道で突然抱きつくわいせつ行為に及んでいるとはいえ,それまでは同女に繰り返し声をかけていた上,同所が駅近くの線路沿いの路上であって,わずかながら通行車両もあったこと,第1現場における被告人のわいせつ行為の内容をみても,着衣の上から乳房を弄ぶというもので,被害者の陰部に触れるとか,その着衣をはぎ取るといった姦淫に直接結びつく態様ではなかったことなどに照らすと,客観的にみて強姦の実行の着手があったと十分に窺わせるに足るほどの事情があるとはいえない。また,被害者が被告人を畏怖する余り抵抗できなくなった後も,より人気が乏しい第2現場において,被告人は,同女の陰部を弄ぶなどの行為に及ぶことは容易であったはずであるのに,同女の下着を覗きながら自慰行為をするに止まり,そのような方法では射精が困難であると認識してからも,同女に手淫行為を要求しただけで,同女にこれを断られてあっさりとその要求を断念しているし,さらに 犯行が容易なはずの第3現場に至ってもなお,被告人は,即座に同女を姦淫しようとはせず,自慰行為を再開しているのであるから,なおさら被告人が当初被害者にわいせつ行為に及んだ時点で,強姦することまで意図していたかは疑わしい。 なるほど,被告人は,既に第1現場において,被害者に抱きついた状態で,「おまえ,ほんま犯すぞ。」と申し向けてはいるが,上記一連の経過等に照らすと,被害者を畏怖させて抵抗の意欲を失わせ,わいせつ行為によって自己の性的欲望を充足させようとした発言とみる余地が十分にあるから,被告人による強姦の意図の発露と即 はいるが,上記一連の経過等に照らすと,被害者を畏怖させて抵抗の意欲を失わせ,わいせつ行為によって自己の性的欲望を充足させようとした発言とみる余地が十分にあるから,被告人による強姦の意図の発露と即断することはできない。また,被告人は,事前に被害者に対して携帯電話に登録した被告人のメールアドレス等を消去するよう求めているが,この行為は被告人の意図が当初は強制わいせつであったとしても何ら矛盾しない。 以上にみられる本件の経過や行為態様の観点からみて,被告人が被害者の背後から抱きついた時点で,既に強姦の犯意を有していたとまで推認することは困難である。 (4)これに加え,被告人は,被害者の背後から抱きついた時点における強姦の犯意については,捜査段階から一貫して否定しており(乙5,9,10,被告人の当公判廷における供述),これを虚偽であると断じる材料にも乏しいことを併せ考えると,結局,被告人が被害者の背後から抱きついた時点で,被告人が強姦の犯意を抱いていたと認定するには,合理的な疑いが残る。 したがって,検察官の上記主張は採用できない。 中止未遂の成否について(1)弁護人の主張弁護人は,被告人が本件強姦行為を自己の意思により中止したから,被告人には中止未遂が成立する旨主張する。そこで,以下,この点についての当裁判所の判断を示すこととする。 (2)争点に関する事実経過ア被告人が,被害者を姦淫するに至らなかった状況等について,被害者供述及び被告人の捜査段階供述と被告人の公判供述との間に食い違う点がみられることから,まずこの点に関する事実関係を検討する。 イ被害者供述の信用性について・被害者の供述要旨(甲6)「私は,被告人に手を掴んで引っ張られ,畑の奥にある,倉庫と倉庫の間の,周囲からは見えにくい場所へ連れ込まれた。被告人は,そ を検討する。 イ被害者供述の信用性について・被害者の供述要旨(甲6)「私は,被告人に手を掴んで引っ張られ,畑の奥にある,倉庫と倉庫の間の,周囲からは見えにくい場所へ連れ込まれた。被告人は,その場で,私を倉庫の壁の方に向かって立たせ,背中を手で押さえ付けるようにし,『バックでいくぞ。』と言った。私は,『無理。』と言って拒絶したが,被告人のことが怖かった上,強い力で押さえられていたので,動けなかった。すると,被告人は,『正常位でもいいわ。』などと言った。被告人は,私に地面に座るように命じ,私が言われたとおりにすると,キスをしてきた。『舌を出せ。』とも命令してきたので,これも言われたとおりにした。 その後,被告人は,両手で私の両肩の辺りを押して,私を地面に仰向けに押し倒した。被告人は,仰向けに寝ている私の両足の間に,両膝を地面に付けた姿勢で,私と向き合うようにして体を入れ,両手で私の両足を持ち上げて膝を立てたような形にし,私の性器を手で触ったり,指を入れたりしてきた。私は,嫌でたまらなかったが,被告人のことが怖くて抵抗できずにいた。さらに,被告人は,このような状態で,私に『俺が一方的にやったら犯罪になるので,おまえが入れろ。』と命令してきた。私は,被告人とセックスをするのは嫌だったが,すぐに逃げられない状態になっていたし,助けを呼ぶこともできず,言うことをきかないと,怒った被告人からどんな乱暴を加えられるかも分からず,無事に家に帰れないと思った。 そこで,私は,被告人に言われたとおり,被告人の固く大きくなった性器を手で持って,自己の性器に挿入させようとしたが,セックスの経験に乏 しく,挿入したくない気持ちもあったことから,挿入させることができなかった。私は,被告人に『早く入れろよ。』と怒られたが,できなかったので,『分からん。入ら させようとしたが,セックスの経験に乏 しく,挿入したくない気持ちもあったことから,挿入させることができなかった。私は,被告人に『早く入れろよ。』と怒られたが,できなかったので,『分からん。入らん。』と言った。被告人からイライラした様子で『早くしろ。』と言われたので,私は,このままでは被告人に無理やりに挿入されるかもしれないと思い,それくらいなら,口淫をする方がいいと考えた。そこで,私が被告人に『フェラでもいい。』と言うと,『ええよ。』と答えたので,私は,立ち上がった状態の被告人に対し,しゃがんだ体勢でいやいや口淫した。しかし,吐き気がするほど気持ち悪くてたまらず,なぜ私がこんな目に遭わないといけないのかと思うと,本当に悲しくなって泣き出し,被告人から『ごめんな。』などと言われたが,泣きじゃくった。」・供述の信用性に関する検討被害者の上記供述は,自己の被害状況及びその前後の状況,同女と被告人とのやりとりなどについて,非常に具体的かつ詳細に供述するもので,今にも被告人から姦淫されそうになったことから,それだけは避けようとして,同女の方から口淫を申し出たところ,被告人がこれに応じたので,やむなく口淫したとする話の流れもごく自然であるし,被害当時における自己の赤裸々な心情等も交えつつ語られており,とりわけ,被告人の陰茎を自己の陰部に挿入するよう被告人から命じられたが,挿入できなかったとする点など,その内容が極めて特異で記憶に残りやすい出来事であって,実際に体験した者でなければ容易に語り得ないような臨場感に富んだ内容である。 また,被害者は,第3現場における被害につき,「私がここで男にされたことはたくさんあり,順番については,少し記憶が混乱しているかもしれません」(甲6)と述べ,自己の記憶の曖昧な点は素直にそのように供述している上 ,第3現場における被害につき,「私がここで男にされたことはたくさんあり,順番については,少し記憶が混乱しているかもしれません」(甲6)と述べ,自己の記憶の曖昧な点は素直にそのように供述している上,供述当時もいまだ16歳であって,被告人に姦淫されそう になり,口淫行為を余儀なくされるなどの被害に遭った事実を捜査機関に対し供述することは,年若い同女にとって多大な羞恥心と精神的苦痛を伴う性質の事柄であると容易に推察されるにもかかわらず,同女は被告人から性的被害に遭った状況を明確に訴えているのであるから,これらの事情に照らすと,同女があえて自己の被害を誇張して虚偽の供述をしている可能性は非常に低いというべきである。 さらに,被害者は,平成18年2月12日,警察官を被害現場に案内して各地点における出来事等を指示説明し(甲2),同月18日付け実況見分調書中においても,警察署で同月11日に受けた被害の状況を指示説明して再現している(甲6第11丁及び同添付資料参照)ところ,それらの指示説明状況等を同年3月1日付けの検察官に対する供述調書(甲6)中で再確認されていることから,同女の供述は基本的に一貫しているものとみられる。 したがって,被害者の上記供述は,その内容,供述経過等にかんがみて高い信用性が認められる。 ウ被告人の捜査段階における供述の信用性について次に,被告人は,捜査段階において,被害者に姦淫を要求した際の状況等について,正常位の体勢をとり,自己の陰茎を被害者の陰部に挿入するよう命令すると,同女は完全に勃起している自己の陰茎を手で掴んで同女の陰部へ挿入しようと何度か試みたが,「わからん。入らん。」と言うので,いらいらして「早く入れてよ。」と怒鳴ったところ,同女は命令に従わず,挿入するのを止め,自ら口淫を申し出たことから,とにかく早く射 部へ挿入しようと何度か試みたが,「わからん。入らん。」と言うので,いらいらして「早く入れてよ。」と怒鳴ったところ,同女は命令に従わず,挿入するのを止め,自ら口淫を申し出たことから,とにかく早く射精したいとの思いで「おおええよ。」と言い,その場に立ち上がって,両膝を付いてしゃがみ込んだ被害者に口淫させた旨の供述をしている(乙6,10等)ことから,その信用性を検討する。 被告人の捜査段階における供述は,本件犯行に至る経緯,犯行動機,犯行 状況等について,被害者の言動や自己のその時々における心情の推移も織り交ぜられた具体的かつ詳細な内容のもので,話の流れも自然であり,臨場感も非常に豊かで,第1現場から第2現場を経て第3現場に移動した理由や姦淫を決意したものの結局これを取りやめた理由についても十分了解可能であるし,犯行時に被害者の陰部に自己の中指を差し入れた点など同女の供述に表れていない事実を含んでいることに加え,被害者に口淫させた際,痛くてたまらなかったことや,同女が泣きやんだ直後の表情を見て一時収まっていた性欲が再び昂進したことなど,被告人が自ら進んで語ったのでなければ容易に調書に記載し得ない事柄も含んでおり,その内容は被害者供述と整合性が高く,本件各現場の状況等の客観的な状況にも合致しており,供述が不自然に変遷している箇所も特段見当たらない。 また,被告人の取調べに際し,捜査官から不当な働きかけがなされたことを窺わせる事情は何ら見当たらず,かえって,被告人の供述調書には,被告人が第3現場において被害者を無理やり寝かせたことはないとして,被害者供述とは異なる説明がそのまま録取されていることや,被告人の被害者に対する発言の動機やその際の口調などにつき被告人にとって有利な内容も含まれていて,要所では問答形式も用いられていることから,捜査 者供述とは異なる説明がそのまま録取されていることや,被告人の被害者に対する発言の動機やその際の口調などにつき被告人にとって有利な内容も含まれていて,要所では問答形式も用いられていることから,捜査官は,被告人の言い分をよく聞いて調書を作成したものとみられ,被告人の意に反するような供述を強いたとは到底考えられない。 したがって,被告人の捜査段階における供述は信用性が高い。 エ被告人の当公判での弁解の信用性について被告人が,被害者を姦淫しようとした際の状況等について当公判で弁解するところは,要するに,被告人は,被害者を無理やり押し倒してはおらず,同女の肩に手を添えると,同女が被告人の手から離れて自ら地面に横になったもので,同女が余り抵抗しないので,このまま姦淫まで可能ではないかと考えた際も,犯罪者にはなりたくなかったので,被告人の陰茎を同女自らそ の陰部に挿入するよう求めたところ,同女が陰茎を持ったまま動かなかったことから,もうこれ以上したらむごい,駄目だと思い,かわいそうになって,同女から離れて立ち上がり,「こんなんだったらいかない。もういいよ。」などと言ったところ,中腰になって座った同女から,無表情で「フェラでいい。」と尋ねられたので,口淫をしてもらったというのである。 被告人の上記弁解は,信用性の高い被害者の前記供述と大きく食い違っている上,同女が被告人から姦淫行為の中止を告げられたにもかかわらず,自ら口淫を申し出たとするなど,内容が極めて不自然であるし,自己の捜査段階における供述からも著しく変遷しているばかりか,被告人が後に写真をすべて確認して自己の記憶どおり任意に再現したことを自認している(乙10)実況見分調書(甲8)中において,被告人が右手で被害者の右肩を掴み,左手で同女の腰辺りを持って,同女を反転させ,仰向けに地面に寝か て確認して自己の記憶どおり任意に再現したことを自認している(乙10)実況見分調書(甲8)中において,被告人が右手で被害者の右肩を掴み,左手で同女の腰辺りを持って,同女を反転させ,仰向けに地面に寝かせたことを認める説明をしていた(甲8写真番号第56ないし58号)こととも齟齬している。 ところで,被告人は,自己の捜査段階における供述が当公判での弁解と食い違っている理由について,警察官に上記弁解と同じ趣旨の説明を何度もしたが,取り合ってもらえなかったし,調書の読み聞けの際も,自己の立ち上がりと被害者からの口淫の申出の前後関係が逆転していたことに気付かなかった旨弁解している。 しかし,被告人が被害者の口淫の申出を受けて立ち上がった旨の供述が録取された警察官調書(乙6)には,警察官が読み聞けを受けた被告人から訂正を要求されてこれに応じたことが窺われる部分(その多くにおいて,被告人の被害者に対する命令口調の発言がより穏やかな表現に修正されており,この点は被告人の当公判での説明と同趣旨である。)が随所にみられるところ,このように自己の記憶と調書の内容を細部まで合致させることに熱心であったはずの被告人において,被害者のことをかわいそうに思って立ち上が った後に同女から申出があって口淫させたという重要な事実につき,前後関係の逆転に気付なかったというのは誠に不自然というほかなく,また,上記警察官調書が作成された後の検察官調べにおいても被告人が当公判で弁解しているような内容が調書化されていない(乙10)理由も合理的に説明されていない。 以上に照らせば,被告人の当公判での弁解は信用性が著しく低く,前記のように高い信用性の認められる被害者供述及び被告人の捜査段階における供述と対比して到底これを信用することはできない。 オ小括これまで認定説示してきたと の当公判での弁解は信用性が著しく低く,前記のように高い信用性の認められる被害者供述及び被告人の捜査段階における供述と対比して到底これを信用することはできない。 オ小括これまで認定説示してきたところを総合すると,被告人は,地面に仰向けに押し倒した被害者の両足の間に体を入れ,両手で同女の両足を持ち上げて膝を立てたような形にした状態で,同女に「俺が一方的にやったら犯罪になるので,おまえが入れろ。」と命じたが,被告人の陰茎を手にした同女がこれをその陰部に容易に挿入することができなかったため,いら立って「早くしろ。」などと言って挿入をせかしたところ,無理やり姦淫されることは避けたいと考えた同女に「フェラでもいい。」と言われたことから,とにかく早く射精したいとの思いで「ええよ。」と応じ,その場で立ち上がって同女に口淫させたことが優に認められる。 (3)中止未遂の成否に関する検討以上を前提として,被告人に中止未遂が成立するか否かを判断する。 まず,被告人が,被害者を姦淫することを決意し,被害者の身体を背後から両手で強く押さえ付け,自己の陰茎を同女の陰部に挿入しようとした後,同女に「俺が一方的にやったら犯罪になるので,おまえが入れろ。」と命じて自己の陰茎を同女の陰部に挿入させようとした際,被害者の口淫の申出に応じて,それ以上同女に姦淫を求めることなく立ち上がり,その後も,同女に対して姦淫行為には及んでおらず,強制わいせつ行為をしたに止まっているという本件 事実経過に照らすと,強姦の実行の着手後,その既遂に至らないうちにこれが中止されたことは明らかである。 そこで,次に,被告人が「自己の意思により」(刑法43条ただし書)上記実行行為を中止したか否かにつき検討する。 被告人は,上記認定のとおり,被害者に命じて自己の陰茎を同女の陰部に挿入させよう ある。 そこで,次に,被告人が「自己の意思により」(刑法43条ただし書)上記実行行為を中止したか否かにつき検討する。 被告人は,上記認定のとおり,被害者に命じて自己の陰茎を同女の陰部に挿入させようとしたが,容易に挿入することができなかったため,強い射精欲求が満たされずいら立っていたところへ,第2現場においては被告人に対する手淫行為さえ拒否していた同女から,予期せぬ口淫の申出を受け,一刻も早く射精したいとの思いで,同女に口淫させることにしたものである。また,被告人は,その後,泣き出した被害者に対し,謝罪しつつも警察に通報しないよう懇願し,泣きやんだ同女が立ち去ろうとした際には,再び性欲を募らせたことから,自己が射精するまで帰らせない旨告げて,同女に自己の陰茎を手淫させ,あるいは同女の乳房を舐めるなどのわいせつ行為を繰り返し,結局射精し,自己の性的欲望を充足させるに至っている(甲6)。その一方で,被害者が上記申出をしたのは,夜間人気がなく暗い梅畑内の,倉庫の陰に隠れた人目につきにくい場所で被告人の命令により今まさに姦淫されそうになった同女において,被告人を畏怖する余り,その要求を拒絶することが極めて困難な状況に陥っていたことから,被告人から無理やり姦淫されるという女性として最悪の事態を回避すべく,被告人の性欲を口淫により減退させることを意図したためであることは明らかである。 そうすると,被告人は,被害者を利用して早急に射精の目的を遂げることによって自己の性欲を満たすことができさえすれば,その手段としては姦淫行為に必ずしもこだわるものではないという心理状態のもとで,自己の陰茎を被害者の陰部に挿入できないという犯罪遂行の物理的な障害に遭遇した際,同女から予期していなかった口淫の申出を受けて,今すぐにも可能な口淫により一刻も早く射精の目的を遂 心理状態のもとで,自己の陰茎を被害者の陰部に挿入できないという犯罪遂行の物理的な障害に遭遇した際,同女から予期していなかった口淫の申出を受けて,今すぐにも可能な口淫により一刻も早く射精の目的を遂げようと考えてその方針を転換したにすぎないのである。 このような事情にかんがみれば,被害者の上記申出は,性欲が著しく昂進していたという被告人の当時の心理状態のもとで,十分犯罪遂行の外部的障害となり得るものであったと評価できるし,その後,被告人が,被害者に対して執拗に口淫や手淫をさせ,実際に射精していることに照らしても,上記申出に基づく被告人の中止行為が何ら反省,悔悟,憐憫等の心情に基づくものでないことも明らかである。 したがって,本件において,被告人が自己の意思によって強姦行為を中止したとはいえないから,被告人に中止未遂は成立しない。 (4) 結論 以上のとおりであって,本件強姦未遂につき被告人に中止未遂が成立する余地はないから,弁護人の上記主張は採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法179条,177条前段に該当する(なお,本件のように,強制わいせつ行為中に強姦の犯意を生じ,これと接着した時点において強姦の実行に着手した場合は,これらを包括して強姦未遂罪一罪が成立すると解する。)ところ,判示の罪は未遂であるから同法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入することとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,夜間人通りの少ない路上で当時16歳の女性に襲いかかり,暴行脅迫を加えて強いてわいせつな行為をし,同女を人気がなく暗い畑内に連れ込んだ後も,同様にわいせつな行為を続けるうちに,強姦を決意し,その場で強いて姦淫しよう 路上で当時16歳の女性に襲いかかり,暴行脅迫を加えて強いてわいせつな行為をし,同女を人気がなく暗い畑内に連れ込んだ後も,同様にわいせつな行為を続けるうちに,強姦を決意し,その場で強いて姦淫しようとしたが,同女から口淫の申出を受けるなどしたため,姦淫するに至らなかったという強姦未遂の事案である。 犯行に至る経緯についてみると,被告人は,高校を卒業して以来就職せず,父親から全面的な生活費の援助を受けながら,京都市内のアパートに居住し,ほとんど 毎週ごとに実家のある和歌山に一時帰省する生活を送っていたが,本件当日,昼ころに起き出して,宿泊先である和歌山市内のホテルから甲駅に繰り出し,飲酒しながら同駅前を無目的に徘徊し,同駅ビル上層の店舗で店員と2度にわたりトラブルを起こして交番で警察官に注意されるなどした後,ホテルに戻るべく警察官に付き添われて同駅構内に至った際,偶然見かけた被害者に声をかけ,同女に一緒に帰ろうと言いつつ,自己の帰る方向とは異なる路線の電車に乗り込み,発車後の車内で同女と会話を続けるうちに,性的欲望を次第に募らせ,同女を利用して射精しようなどと考えるようになり,同女に自己と話をすればアルバイト代を支払う旨もちかけるなどしたが,同女に断られ,降車後も同女につきまとって執拗に話しかけていたが,同女からすげなく誘いを断られたことから,同女に対し強いてわいせつな行為をして射精しようと企て,本件強制わいせつ行為に及び,その後,同女を連れ込んだ梅畑内でわいせつ行為を続けたものの射精するには至らなかったことから,今度は,同女を強姦しようと決意し,さらに本件犯行に及んだものである。以上の経緯に照らせば,本件動機は専ら自己の性的欲望の充足を目的としており,女性を性欲のはけ口としかみない極めて自己中心的なものといえ,酌量の余地は全く認めら し,さらに本件犯行に及んだものである。以上の経緯に照らせば,本件動機は専ら自己の性的欲望の充足を目的としており,女性を性欲のはけ口としかみない極めて自己中心的なものといえ,酌量の余地は全く認められない。 その犯行態様についてみても,被告人は,薄暗く人気のない路上でいきなり被害者の体をガードレールに押し付け,その背後から強く抱きついて,両手で同女の着衣の上からその両乳房を弄び,身をよじりながら抵抗する同女に「おまえ,ほんま犯すぞ。」などと語気鋭く申し向け,被告人を畏怖する余り抵抗を諦めた同女を民家の塀の前まで連れ出し,強い口調で声を出さぬよう命じるなどした上,そのスカートをまくり上げて下着を覗きながら自慰行為をしたり,同女に手淫を要求したりし,嫌がる同女の手を引いて,より暗くて人目に付きにくい梅畑内に連れ込んだ後も,同女の下着を脱がせ,その臀部を手で撫で回すなどしながら自慰行為に耽り,倉庫の陰に移動してからは,同女の陰部に手指を挿入するなどし,さらに,倉庫に向かって立たせた同女の体を背後から両手で強く押さえ付け,あるいは仰向けに押 し倒した同女に命じて,同女の陰部に自己の陰茎を挿入させようとし,姦淫だけは免れようとした同女が口淫を申し出たことにより,姦淫までには及ばなかったもので,被害者の心情を全く省みない大胆かつ粗暴で執拗な犯行というほかなく,非常に悪質である。 また,被告人は,その後も,同女が泣くのも意に介さず,その両胸を揉んだり舐めたりしたばかりか,同女に命じて自己の顔の上にまたがらせるなどしつつ,自己が射精するまで同女に口淫及び手淫をさせ続け,その目的を達するや今度は同女に土下座して謝罪する態度を示して,警察に通報されないよう画策するなど,身勝手きわまりない態度を見せており,犯行後の情状も非常に悪い。 被害者は,当夜知り合っ をさせ続け,その目的を達するや今度は同女に土下座して謝罪する態度を示して,警察に通報されないよう画策するなど,身勝手きわまりない態度を見せており,犯行後の情状も非常に悪い。 被害者は,当夜知り合った被告人から夜道で何度も話しかけられてもこれに応じようとはしていなかったにもかかわらず,不意に襲われ,前記のような著しく人格を踏みにじられる屈辱的な被害に遭遇し,救助も求められない状況下で,体格においてはるかに上回り腕力もある被告人にいかなる酷い目に遭わされるかもしれないとの深刻な恐怖を味わわされており,本件直後は母親に添い寝を求め,眠りについてからもしばしばうなされたことがあり,それ以降も夜一人でいるととても怖い気持ちになることがあると述べるなど,その精神的打撃にも大きなものが認められ,被害当時16歳という年齢を考慮すると,将来にわたって心に傷が残ることも懸念され,今なお外出する際は最寄りの駅まで母親に送り迎えをしてもらうなど,その生活にも実際に影響が出ていることに照らせば,本件の結果は到底軽視できない。 現時点では,被告人側から被害者の両親に対し謝罪金として金300万円が支払われて示談が成立しているとはいえ,被害者において被告人を宥恕する心情に至っていないのは無理からぬところであり,被害者の処罰感情にはなお厳しいものがある。 さらに,被告人は,当公判廷で,被害者のことがかわいそうになって強姦行為を中止したところ,同女から口淫の申出を受けてこれに応じたにすぎず,被害者の心や体を傷つけたくなかったなどという相当に不自然不合理な弁解をしており,本件の刑責に正面から向き合っているかは疑わしいし,平成16年12月には,当時1 5歳の女子高校生を当時の自宅に連れ込んだ後,自己の性欲を満たす目的でいん行をする青少年健全育成条例違反事件を起こし,平成17 正面から向き合っているかは疑わしいし,平成16年12月には,当時1 5歳の女子高校生を当時の自宅に連れ込んだ後,自己の性欲を満たす目的でいん行をする青少年健全育成条例違反事件を起こし,平成17年1月,罰金50万円に処せられていたにもかかわらず,そのわずか一年余り後に何ら自重することなく,再び本件のような性犯罪に及んでいるのであって,被告人の犯罪傾向は深刻化しているとみざるを得ず,被告人の日ごろの生活態度にも相当の問題がみられることから,被告人には再犯のおそれも懸念される。 以上に照らせば,犯情は誠に芳しくなく被告人の刑責は重いというべきである。 そうすると,被害者が幸いにして姦淫されるまでには至っていないこと,上記のとおり被告人の実父の協力によって相当額の謝罪金が支払われて示談が成立していること,被告人が捜査段階から事実関係を大筋で認め,当公判廷においても二度と性犯罪を起こさない旨述べていること,証人となった被告人の実父が今後被告人を一層監督し,その更生に協力する旨述べていること,被告人が公判請求をされるのは今回が初めてであることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮するとともに,近時における性犯罪に対する法定刑の引上げを伴う立法動向も踏まえて本件の量刑を総合的に検討すると,被告人に対しては主文掲記の刑をもって臨むのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑)懲役5年平成18年6月28日和歌山地方裁判所刑事部裁判長裁判官樋口裕晃裁判官田中伸一裁判官下和弘
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