令和6(ネ)10084 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年6月16日 知的財産高等裁判所 3部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和5(ワ)70607
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令和7年6月16日判決言渡 令和6年(ネ)第10084号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70607号)口頭弁論終結日令和7年3月12日判決 控訴人コデン株式会社 同訴訟代理人弁護士三縄隆 同青木悠夏 被控訴人株式会社ハイドロシステム開発 同訴訟代理人弁護士森直也 同知花鷹一朗 同井崎康孝 同菱田優 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和5年6月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要(略語は原判決のそれに従う。なお、「原告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。) 1 本件は、発明の名称を「遠隔操縦無人ボート」とする発明に関する特許(特許第3939710号。本件特許。本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の発明は「本件発明」。)に係る特許権(本件特許権)を有していた控訴人が、原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品(被控訴人製品)は本件発明の技術的範囲に属することから 特許に係る特許請求の範囲請求項1の発明は「本件発明」。)に係る特許権(本件特許権)を有していた控訴人が、原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品(被控訴人製品)は本件発明の技術的範囲に属することから、被控訴人による被控訴人製品の製造、販売等は本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づき、総額55 00万円の損害の一部請求として1000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為後の日である令和5年6月28日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審が、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がその取消しを求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に係る当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の1ないし3(原判決2頁8行目ないし22頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決2頁20行目の末尾の次に「なお、控訴人は、平成19年11月1 3日受付で、特定承継を原因として本件特許権の持分の100分の30を国際航業株式会社に移転した(甲1)。」を加える。 ⑵ 原判決4頁25行目の「乙5発明」を「特許第2898050号公報(発効日平成11年5月31日、乙5。以下『乙5文献』という。)に記載された発明(以下『乙5発明』という。)」と改める。 ⑶ 原判決8頁8行目の「2つ」を「二つ」と改める。 ⑷ 原判決14頁9行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「本件発明の『操舵装置』(構成要件F)に関し、被控訴人製品のスラスターにつき均等侵害が成立するとする控訴人の主張は否認し争う ⑷ 原判決14頁9行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「本件発明の『操舵装置』(構成要件F)に関し、被控訴人製品のスラスターにつき均等侵害が成立するとする控訴人の主張は否認し争う。」⑸ 原判決14頁10行目の冒頭に「また、」を加える。 ⑹ 原判決15頁25行目の「特許」から同頁26行目の「(以下『乙5発明』 という。)」までを「乙5発明」と改める。 ⑺ 原判決18頁9行目の「乙5発明’」を「控訴人の主張する乙5文献記載の発明の内容(以下、控訴人の主張する乙5文献記載の発明を『乙5発明’』という。)」と、同頁10行目の「乙5」から「という。)」までを「乙5発明’」とそれぞれ改める。 ⑻ 原判決22頁16行目の末尾の次に「控訴人はその一部として、1000万円及びこれに対する遅延損害金を被控訴人に請求する。」を加える。 3 当審における控訴人の主な補充主張⑴ 文言侵害(構成要件Jの解釈)についてア構成要件Jについての原判決の解釈及び当てはめの誤り 構成要件Jにつき、原判決は、「前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」を、自動回帰発動条件①と定義し、「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合のうち、少なくともいずれか一方の判断が行なわれた場合」を、自動回帰発動条件②と定義したうえで、「本件発明における『第1制御 装置』(構成要件J)は、自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」ものと解釈した(原判決36頁)。 しかしながら、このような解釈は、審査実務に反して不当であり、特許 て、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」ものと解釈した(原判決36頁)。 しかしながら、このような解釈は、審査実務に反して不当であり、特許 請求の範囲の文言からして不当であり、本件明細書を参酌しても不当であ り、かつ、審査経過を参酌しても不当である。 また、仮に原判決のとおり解釈したとしても、被控訴人製品は構成要件Jを充足するので、原判決は誤っている。 イ審査実務構成要件Jは、「前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操 縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合、または、前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合のうち、少なくともいずれか一方の判断が行なわれた場合に、前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する第1制御装置と、」となっており、選択肢を有した記 載となっている。 ここで、特許・実用新案審査基準においては、選択肢を有する請求項に係る新規性及び進歩性の判断については、以下のとおり基準を示している。 「5.1.1 発明特定事項が選択肢を有する請求項に係る発明について一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したときの請 求項に係る発明と、引用発明との対比の結果、両者に相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する。」上記審査基準からすれば、「前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」に自動回帰する文献、又は、「前記電源の残量が半分以下になったと判断され た場合」に自動回帰する文献があれば、新規性がないとして拒絶理由が通知されるこ の信号を受信しなかったと判断された場合」に自動回帰する文献、又は、「前記電源の残量が半分以下になったと判断され た場合」に自動回帰する文献があれば、新規性がないとして拒絶理由が通知されることとなる。 このような審査実務に鑑みると、技術的範囲を検討するにあたっても、「前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」に自動回帰するもの、又は、「前 記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」に自動回帰するもの は、構成要件Jを充足すると判断すべきである。 ウ特許請求の範囲の文言上記のとおり、構成要件Jは、「Aと判断された場合、または、Bと判断された場合のうち、少なくともいずれか一方の判断が行なわれた場合に、Cする」との構文となっている。 素直に日本語を読めば、Aと判断された場合にCするものは、(Bと判断する機構を備えるか否かを問わず、)構成要件Jを充足する。 ここで、原判決は、構成要件Jが「自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前提」としていると判断した。上記の説明に合わせると、Aと判断する機構とBと判断す る機構の両方を備えることを必須としていると判断した。 しかしながら、両判断機構を備えることを必須と解釈するのであれば、「Aと判断された場合、及び、Bと判断された場合に、Cする」との表現になるはずである。「及び」との接続詞ではなく、敢えて「又は」との接続詞を用いていることからして、Aと判断された場合にCするものは、B と判断する機構を備えるか否かを問わず、構成要件Jを充足すると判断すべきである。 なお、原判決は、本件発明が電源の残量を検出する残量検出装置を備えることを必須としているの Cするものは、B と判断する機構を備えるか否かを問わず、構成要件Jを充足すると判断すべきである。 なお、原判決は、本件発明が電源の残量を検出する残量検出装置を備えることを必須としているので、仮に、自動回帰発動条件②を判断する機構を備えることを必須としなければ、このような残量検出装置を備える技術 的意義が理解できなくなる旨指摘している(原判決37頁)。 どうやら原判決は、残量検出装置は、構成要件Jと関連付けなければ技術的意義を理解できないと判断しているようである。 しかしながら、残量検出装置は、それ自体で技術的意義を理解できる構成である。たとえば、利用者に電源の残量を知らせる等の技術的意義を理 解できる。 したがって、残量検出装置を、敢えて構成要件Jと関連付けて解釈させる必要はなく、原判決の上記指摘は誤っている。 エ本件明細書の記載本件発明の課題及び作用効果に関して、本件明細書には、以下の内容が記載されている。 「ボートが波に乗って、リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてしまった場合、波により船体が激しく揺れて、遠隔操縦装置からの電波を受信するアンテナが岩等に当たり破壊されてしまった場合、ボートに搭載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難くなった場合である。」(【0005】) 「このような場合、人がボートを捜索しなくてはならない。捜索の結果、結局見つけられずに回収できないという事態が起こりうる。」(【0006】)この記載からも明らかなように、本件明細書には、①遠隔操縦装置との通信途絶と、②電源残量不足という相互に原因の異なる危機的状況が課題 として挙げられている。 ここで、原判決は、本件発明は、いずれの危機的状況にも対処できる 本件明細書には、①遠隔操縦装置との通信途絶と、②電源残量不足という相互に原因の異なる危機的状況が課題 として挙げられている。 ここで、原判決は、本件発明は、いずれの危機的状況にも対処できるようにすることを要すると認定している(原判決36頁)。 しかしながら、「いずれの」危機的状況にも対処できるようにすることは、本件明細書には、記載も示唆もなされておらず、原判決の認定は不当 である。 本件明細書には、(A)遠隔操縦装置との通信途絶という危機的状況に対処するための構成として、第1送受信アンテナにより一定時間以上遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合に、初期位置に自動回帰させるため、現在位置および初期位置に基づいて、推進動力源と操 舵装置との動作を制御する、との構成(構成要件Jの前半も併せて参照) が開示されている。 一方で、(B)電源残量不足という危機的状況に対処するための構成として、電源の残量が半分以下になったと判断された場合に、初期位置に自動回帰させるため、現在位置および初期位置に基づいて、推進動力源と操舵装置との動作を制御する、との構成(構成要件Jの後半も併せて参照) が開示されている。 すなわち、本件明細書には、相互に関連しない二つの危機的状況それぞれについて、対処すべき構成が別々に開示されている。言い換えれば、本件明細書には、二つの課題が記載されており、各課題に対応した解決手段(構成)がそれぞれ開示されていて、要するに、本件明細書には二つの発 明が記載されていると認定される。 また、本件明細書の実施形態においても、【0054】に自動回帰発動条件①による自動回帰が、【0058】に自動回帰発動条件②による自動回帰が記載されている。そして、【0054】と【0058】の記載 また、本件明細書の実施形態においても、【0054】に自動回帰発動条件①による自動回帰が、【0058】に自動回帰発動条件②による自動回帰が記載されている。そして、【0054】と【0058】の記載から明らかなように、自動回帰発動条件①の場合の自動回帰と、自動回帰発動 条件②の場合の自動回帰は、別個独立に記載されており、両者が合わさって備えられることが必須であるかのような記載はない。 実施形態の記載からしても、本件明細書には二つの発明が記載されていると認定される。 そして、特許請求の範囲においては、この二つの発明を特定するにあた って、構成要件A~I及びKが共通することから、敢えて複数の請求項とせずに、一つの請求項のうち、片方を構成要件Jの前段に記載し、もう片方を構成要件Jの後段に記載したにすぎない。そして、だからこそ「または」という接続詞を用いて、選択的に記載したのである。 よって、本件明細書の記載を参酌しても、原判決のように解釈するのは 妥当ではない。 なお、原判決は、前記のとおり、構成要件Jについて、「本件発明における『第1制御装置』(構成要件J)は、自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」と認定しているところ、原判決の解釈に従えば、自 動回帰発動条件①に係る判断をすることが可能であり、かつ、自動回帰発動条件②に係る判断をすることが可能であり、更に、自動回帰発動条件①に係る判断がなされると自動回帰の動作制御をするが、自動回帰発動条件②に係る判断をしても自動回帰の動作制御をしないものも構成要件Jを充足することとなる。 したがって、構成要件Jの原判決 ①に係る判断がなされると自動回帰の動作制御をするが、自動回帰発動条件②に係る判断をしても自動回帰の動作制御をしないものも構成要件Jを充足することとなる。 したがって、構成要件Jの原判決の解釈にしたがったとしても、上記(A)遠隔操縦装置との通信途絶及び(B)電源残量不足という両方の危機的状況に対応できるものとはならない。 原判決の課題の認定は明らかに誤っている。 オ審査経過 本件特許は出願当初は、自動回帰の条件について、「所定の条件」という表現を用いていた(乙2)。すなわち、本件明細書には二つの発明が記載されているが、それを上位概念化した発明で権利化を目指した。 これに対し、「所定の条件」では不明確である旨の拒絶理由が通知された(乙3)。 そこで、出願人である控訴人は、このような上位概念化した発明での権利化を断念し、本件明細書に記載された二つの発明の内容で権利化を目指すこととした。具体的には、所定の条件に代えて、自動回帰発動条件①又は自動回帰発動条件②であることを明確にする補正を行った。 このような補正の経緯に鑑みれば、自動回帰発動条件①「及び」自動回 帰発動条件②という表現ではなく、「又は」という接続詞が使われている 以上、所定の条件として、二つの条件が選択的に挙げられていると理解される。 よって、審査経過に鑑みても、原判決の判断は誤っている。 カ構成要件Jを充足すること原判決は、「『第1制御装置』(構成要件J)は、自動回帰発動条件①に係 る判断と同②に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」と判断した。 ここで、原判決は、特許請求の範囲に「または」との表現が用いられた る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」と判断した。 ここで、原判決は、特許請求の範囲に「または」との表現が用いられたことに配慮して、自動回帰のための動作制御自体は、片方の条件を満たし た際に行われれば足りると解釈しつつ、判断自体は、自動回帰発動条件①に係る、及び、自動回帰発動条件②に係る判断の両方ができることを必須と解釈した。 このような解釈は技巧的であって不当ではあるが、仮に、このように解釈した場合、自動回帰発動条件①に係る判断が可能であり、自動回帰発動 条件②に係る判断も可能であり、自動回帰発動条件①に係る判断がなされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置は、構成要件Jを充足することとなる。 被控訴人製品は、原判決も正しく認定しているように、第1送受信アンテナにより一定時間以上遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判 断することができる。すなわち、自動回帰発動条件①に係る判断をすることができる。 また、被控訴人製品は、電源の残量を検出する装置を備えており、電源の残量が半分以下になったか否か判断することができる。すなわち、自動回帰発動条件②に係る判断をすることができる。 そして、被控訴人製品は、原判決も正しく認定しているように、自動回 帰発動条件①に係る判断がなされた場合に自動回帰のための動作制御を行う。 したがって、被控訴人製品は、自動回帰発動条件①に係る判断が可能であり、自動回帰発動条件②に係る判断も可能であり、自動回帰発動条件①に係る判断がなされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置であ る。 よって、被控訴人製品は、原判決の解釈に従ったとしても、構成要件Jを充足する。 原判決は、「被 り、自動回帰発動条件①に係る判断がなされた場合に自動回帰のための動作制御を行う装置であ る。 よって、被控訴人製品は、原判決の解釈に従ったとしても、構成要件Jを充足する。 原判決は、「被控訴人製品は、『前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合』(自動回帰発動条件②)に、ボートを初期位置に自動回 帰させるための動作制御を行うという構成を備えるものではな」い、として構成要件Jの充足を否定している(原判決38頁)。 しかしながら、この原判決の判断は、「『第1制御装置』(構成要件J)は、自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場 合に自動回帰のための動作制御を行う装置を意味する」との解釈と矛盾している。 原判決は、あてはめにおいて、自動回帰発動条件②に係る判断をした場合、必ず自動回帰しなければならないと解釈しており、「そのいずれの条件も足された場合に自動回帰のための動作制御を行う」と解釈している。 すなわち、原判決は、構成要件Jの解釈をする際には、クレームの文言にあった「または」及び「少なくともいずれか一方の」という用語を意識して、「いずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制御を行う」と解釈しているにも拘わらず、あてはめにおいては、「いずれの条件が満たされた場合も」という趣旨に解釈しており、およそ「又は」及び 「少なくともいずれか一方の」との用語からは導き出されない解釈をして 判断している。 このように、原判決のあてはめに関する解釈は明らかに不当である。 ⑵ 均等侵害について原判決は、「控訴人は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件につき、ボ 。 このように、原判決のあてはめに関する解釈は明らかに不当である。 ⑵ 均等侵害について原判決は、「控訴人は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件につき、ボート10が通ってきた経路を戻るケースに も対応し得るものとする趣旨で、『前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合』(自動回帰発動条件②)とする数値限定を行ったものとみるのが想定であり『半分以下』とするもの以外は特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべきである」と判断した。しかしながら、原判決の判断は誤っている。 均等の第5要件については、最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁(以下「最高裁平成29年判決」という。)が以下のように判断をしている。 「出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することがで きたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事 情が存するというべきである。」ここで、本件において特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分とは、本件発明は「電源の残量が半分以下」になった際に自動回帰するのに対し、被控訴人製品は「電源の残量が20%~30%程度以下」になった際に自動回帰する、という部分である。 もっとも、控訴人としては、本件 源の残量が半分以下」になった際に自動回帰するのに対し、被控訴人製品は「電源の残量が20%~30%程度以下」になった際に自動回帰する、という部分である。 もっとも、控訴人としては、本件特許の出願当時、「電源の残量が20~ 30%程度以下」になった際に自動回帰するとの構成を相当することは、容易にできたものではない。 本件特許の出願当時は、リチウムイオン電池の性能が現在よりも悪く、電源の残量を半分程度残さないと、確実に自動回帰できるか不安があった。 したがって、本件特許の出願当時、「電源の残量が20~30%程度以下」 との構成を想到することはできなかった。(正確には、想到しても、本件発明の課題を解決できるとは認識しなかった。)また、本件特許の出願当時は、リチウムイオン電池の性能に鑑み、客観的,外形的にみて,「電源の残量が20~30%程度以下」との構成は、「電源の残量が半分以下」との構成を代替するものとは考えられなかった。 以上から、本件においては、均等の第5要件を充たすような事情はなく、原判決の判断は誤っている。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3の1ないし4(原判決22頁20行目から40頁19行目まで)のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決35頁8行目の「本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、」の次に「構成要件Jは、『前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠 隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合、または、前記 目の「本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、」の次に「構成要件Jは、『前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠 隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合、または、前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合のうち、少なくともいずれか一方の判断が行なわれた場合に、前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する第1制御装置と、』であり、これによれば、」を加える。 ⑵ 原判決35頁16行目から同36頁3行目までを次のとおり改める。 「この記載によれば、構成要件Jは、その全体が、本件発明に係る遠隔操縦無人ボートが有する『第1制御装置』を説明するものであり、一艘の遠隔操縦無人ボートが備える『第1制御装置』につき、第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合(自動回帰発動条件①に係る判断)、及び電源の残量が半分以下になったと 判断された場合(同②に係る判断)があることを前提として、それらの各判断の関係がどのようになった場合に初期位置に自動回帰させるための動作が制御されるのかについて、『少なくともいずれか一方の判断が行われた場合』に初期位置に自動回帰させるための動作が制御されることを述べたものと解されるものであって、本件発明の構成要件Jの『第1制御装置』は、自動回 帰発動条件①及び②のいずれに係る判断をも行うことができる機構を備えるものであることが明らかである。」⑶ 原判決36頁4行目の「そこで」を「なお、念のため」と改める。 ⑷ 原判決36頁13行目の「操縦装置地」を「操縦装置と」と改め、同頁22行目の「解される。」の次に「このことは、前記1⑴カのとおり ⑶ 原判決36頁4行目の「そこで」を「なお、念のため」と改める。 ⑷ 原判決36頁13行目の「操縦装置地」を「操縦装置と」と改め、同頁22行目の「解される。」の次に「このことは、前記1⑴カのとおりの本件明細 書図8(【0049】)の『ボート10の動作の流れを示すフローチャート』において、所定時間内に受領信号を受信しなかった場合には自動回帰となるが、その受信を確かめた場合には、さらに電源残量が所定値以下であるか否かを確かめるステップに進むこととされ、自動回帰に至らない場合にはそのいずれの条件をも確かめるとされていることからも明らかである。」を加え る。 ⑸ 原判決39頁11行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下『対象製品等』という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等における ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果 を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の 特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。 そして、上記①の要件(第1要件)における特許発明における もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。 そして、上記①の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分 とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ とによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成29年判決参照)。 これを本件についてみると、前記2⑷アないしウのとおり、本件発明は、『ボートを遠隔操縦によって自在に動作させることができる遠隔操縦無人ボ ートに関』(【0001】)し、『ボートを操縦する場合、常に操縦者がボートを制御できるとは限らない。たとえば、次のような場合には、ボートを制御することができなくなってしまう』(【0004】)として、『リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてしまった場合・・・ボートに搭載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難く なった場合』などがあり(【0005】)、『ボートを・・・捜索の結果・・・ 回収できないという事態が起こりうる』(【0006】)ことから、『ボートを紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供すること』(【0007】)を発明が解決しようとする課題とし、当該課題を解決する手段として、本件発明の構成を備えることにより(【00 ートを紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供すること』(【0007】)を発明が解決しようとする課題とし、当該課題を解決する手段として、本件発明の構成を備えることにより(【0008】)、『一定時間以上遠隔操縦装置との間の通信が途絶えた場合、または、電源の残量が半分以下にな った場合に、自動的にボートを初期位置に回帰させることができる。したがって、ボートを紛失してしまうことがない』(【0009】)という効果を奏するものである。 そうすると、本件発明において従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、本件発明の構成要件Jに関連しては、遠隔操縦装置 との通信途絶、電源残量の不足という相互に原因の異なる危機的状況への対処(【0005】)のため、自動回帰発動条件①の場合に初期位置に自動回帰させること及び同②の場合に初期位置に自動回帰させることをそれぞれ想定して、ボートを紛失することなく必ず回収できる(【0007】)との作用効果を奏するため、いずれの危機的状況にも対処できるよう、第1制御装置が 自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれをも行える機構を備えたことにあると考えられる。 そして、本件発明と被控訴人製品とは、前記2⑸アのとおり、被控訴人製品は自動回帰発動条件②の場合にボートを初期位置に自動回帰させるための動作制御を行うという構成を備えない点において相違するものと認められる ところ、この相違に係る本件発明の上記構成は、これまでの検討によれば、本件発明の本質的部分に当たるものということができる。 そうすると、上記相違点に係る本件発明の構成については、本件発明の本質的部分ではないということはできず、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しない。」 ⑹ 原判決3 いうことができる。 そうすると、上記相違点に係る本件発明の構成については、本件発明の本質的部分ではないということはできず、被控訴人製品は均等侵害の第1要件を充足しない。」 ⑹ 原判決39頁12行目の「しかし」を「加えて」と、同頁19行目の「1 つ」を「一つ」とそれぞれ改める。 ⑺ 原判決40頁2行目の「見当たらない。」の次に「帰還経路の設定方法についても、上記のほか、『初期位置に戻る際には、ボート10は、記憶装置17を参照し、ここまで通って来た経路を戻る。これまでの経路を戻ることによって、自動回帰の途中にボート10が障害物に衝突することがない。』(【00 54】)とあるのみであり、他に帰還経路の設定方法についての記載もないことから、自動回帰発動条件②における電源残量を半分よりも下げると、本件発明の上記作用効果を達成し得なくなるものと認められる。」を加える。 ⑻ 原判決40頁9行目の「である」を「であるから、被控訴人製品は均等侵害の第5要件を充足しない。」と、同頁11行目の「少なくとも均等の第5要 件を欠き」を「均等の第1要件及び第5要件を充足せず」とそれぞれ改める。 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、本件発明の構成要件Jは、自動回帰発動条件①または②を行えるものであればこれを充足するから、被控訴人製品は、本件発明の構成要件Jを充足する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の2のとおり、被控訴人製品は上記構成要件を充足するものとはいえない。なお、本件特許出願に関し、自動回帰発動条件①又は②を別々に備える二つの発明が記載されたものでないことは、本件明細書の図8の記載(すなわち、フローチャートにおいて、所定時間内に受領信号を受信し い。なお、本件特許出願に関し、自動回帰発動条件①又は②を別々に備える二つの発明が記載されたものでないことは、本件明細書の図8の記載(すなわち、フローチャートにおいて、所定時間内に受領信号を受信しなかった場合には自動回帰となるが、その受信を 確かめた場合には、さらに電源残量が所定値以下であるか否かを確かめるステップに進むこととされ、自動回帰に至らない場合にはいずれの条件をも確かめるとされていること)からも明らかである。 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。 ⑵ 控訴人は、前記第2の3⑵のとおり、仮に被控訴人製品が、本件発明に文 言上はその技術的範囲に属しないものとしても、これと均等なものとして、 特許権侵害に当たる旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の3のとおり、本件発明の第1制御装置を自動回帰発動条件①に係る判断と同②に係る判断のいずれをも行える機構を備えたものとしたことは、本件発明の本質的部分に含まれる発明特定事項であるといえるし、本件補正の経過に鑑みても、自動回帰発動条件② に係る電源残量を「半分以下」とするもの以外は、特許請求の範囲から意識的に除外されたものとみられるから、被控訴人製品は、均等の第1要件及び第5要件のいずれも充足しない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 控訴人はその他縷々主張するが、いずれも前記認定及び判断を左右しない。 4 結論よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官中平 健 主文 として、主文のとおり判決する。 理由 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官中平健 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則

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