平成25(行ウ)561 税理士懲戒処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月30日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文32,257 文字)

-1-平成26年9月30日判決言渡平成25年(行ウ)第561号税理士懲戒処分取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求処分行政庁が平成25年6月5日付けで原告に対してした税理士業務の禁止の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,税理士であった原告が,平成25年6月5日付けで,①関与先の平成18年分及び平成19年分の所得税の期限後申告並びに平成20年分の所得税の確定申告に当たり,所得金額を不正に計算した申告書を作成した行為又は事実が税理士法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)45条1項の規定に該当すると認められること,②同法41条に規定されている帳簿を作成していなかった行為又は事実が同法46条の規定に該当すると認められることを理由として,税理士業務の禁止の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,本件処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め(1) 税理士法ア 4条(欠格条項)次の各号のいずれかに該当する者は,前条の規定にかかわらず,税理士となる資格を有しない。 一~六 (略)七懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で,当該処分を-2-受けた日から3年を経過しないもの八~十 (略)イ 26条(登録のまっ消)(ア) 1項日本税理士会連合会は,税理士が次の各号の一に該当することとなったときは,遅滞なくその登録をまっ消しなければならない。 一~三 (略)四前号に規定するもののほか,第4条第2号から第9号までの一に該当するに至っ の一に該当することとなったときは,遅滞なくその登録をまっ消しなければならない。 一~三 (略)四前号に規定するもののほか,第4条第2号から第9号までの一に該当するに至ったことその他の事由により税理士たる資格を有しないこととなったとき。 (イ) 2項(略)ウ 41条(帳簿作成の義務)(ア) 1項税理士は,税理士業務に関して帳簿を作成し,委嘱者別に,かつ,1件ごとに,税務代理,税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。 (イ) 2項前項の帳簿は,閉鎖後5年間保存しなければならない。 (ウ) 3項税理士は,財務省令で定めるところにより,第1項の帳簿を磁気ディスクをもって調製することができる。 エ 44条(懲戒の種類)税理士に対する懲戒処分は,左の3種とする。 一戒告二 1年以内の税理士業務の停止-3-三税理士業務の禁止オ 45条(脱税相談等をした場合の懲戒)(ア) 1項財務大臣は,税理士が,故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき,又は第36条の規定に違反する行為をしたときは,1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。 (イ) 2項財務大臣は,税理士が,相当の注意を怠り,前項に規定する行為をしたときは,戒告又は1年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。 カ 46条(一般の懲戒)財務大臣は,前条の規定に該当する場合を除くほか,税理士が,第33条の2第1項若しくは第2項の規定に 年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。 カ 46条(一般の懲戒)財務大臣は,前条の規定に該当する場合を除くほか,税理士が,第33条の2第1項若しくは第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき,又はこの法律若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは,第44条に規定する懲戒処分をすることができる。 (2) 平成20年財務省告示第104号(乙7。以下「本件告示」という。)Ⅰ 総則第1 量定の判断要素及び範囲税理士に対する懲戒処分及び税理士法人に対する処分(以下「懲戒処分等」という。)の量定の判断に当たっては,Ⅱに定める違反行為ごとの量定の考え方を基本としつつ,以下の点を総合的に勘案し,決定するものとする。 ① 行為の性質,態様,効果等② 税理士の行為の前後の態度③ 懲戒処分等の処分歴-4-④ 選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響⑤ その他個別事情(略)なお,Ⅱに定める量定の考え方によることが適切でないと認められた場合には,税理士法(昭和26年法律第237号。以下「法」という。)に規定する懲戒処分等の範囲を限度として,量定を決定することができるものとする。 第2 違反行為の異なるものが2以上ある場合Ⅱに定める違反行為の類型の異なるものが2以上ある場合の量定は,それぞれの違反行為について算定した量定を合計したものを基本とする。 第3 税理士業務の停止期間(略)Ⅱ 量定の考え方第1 税理士に対する量定税理士に対する懲戒処分の量定 を合計したものを基本とする。 第3 税理士業務の停止期間(略)Ⅱ 量定の考え方第1 税理士に対する量定税理士に対する懲戒処分の量定は,次に定めるところによるものとする。 一税理士が法第45条第1項及び第2項(脱税相談等をした場合の懲戒)の規定に該当する行為をしたときの量定の判断要素及び量定の範囲は,次の区分に応じ,それぞれ次に掲げるところによる。 (1) 故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき,又は法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたとき。 税理士の責任を問い得る不正所得金額等(国税通則法第68条に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる-5-べき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装したところの事実に基づく所得金額,課税価格その他これらに類するものをいう。以下同じ。)に応じて,6月以上1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止(2) (略)二税理士が法第46条(一般の懲戒)の規定に該当する行為をしたときの量定の判断要素及び量定の範囲は,次の区分に応じ,それぞれ次に掲げるところによる。 (1)~(3) (略)(4) 法第41条(帳簿作成の義務)の規定に違反したとき。 戒告(5)~(7) (略)第2 税理士法人に対する量定(略) 2 前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和48年 に対する量定(略) 2 前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和48年▲月▲日に税理士名簿に登録を受けた税理士であった。 イ Aは,平成18年春頃から平成21年2月頃まで,インターネット上に販売サイトを開設して情報販売等をする事業(以下「本件事業」という。)を行っていたが,平成18年分及び平成19年分の所得税の確定申告をしていなかった(甲8の1,3,4)。 (2) 確定申告等ア Aは,平成20年分の所得税についても確定申告をしないつもりであったが,その当否につき,平成21年2月10日頃,面識のあった原告と面-6-談して相談したところ,原告から,3年分の確定申告をすべきである旨の指導を受けたので,原告に対して,確定申告書の作成を依頼することとした(甲8の2,4,甲10)。 イ原告は,平成21年3月11日,Aから,本件事業の売上金額などが記載された手書きのメモ(甲4の1から3まで。以下「本件メモ」という。)の提出を受け,同人の平成18年分から平成20年分までの所得税の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)を作成し,その内容について同人から承諾を得た上,平成21年3月16日,本件各確定申告書を福井税務署長に提出した。その概要は,別紙2の各「当初申告」欄のとおりである(以下「本件各確定申告」という。)。そして,Aは,本件各確定申告書に記載した納税額を納付した(弁論の全趣旨)。 ウ Aは,平成21年8月頃以降,金沢国税局により,所得税に関する調査を受けた(乙2)。そして,Aは,平成22年7月30日,同人の平成18年分から平成20年分までの所得税の修正申告書(以下「本件各修正申告書」とい 1年8月頃以降,金沢国税局により,所得税に関する調査を受けた(乙2)。そして,Aは,平成22年7月30日,同人の平成18年分から平成20年分までの所得税の修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)(乙3の1から3まで)を福井税務署長に提出し,別紙2の各「修正申告」欄のとおり修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした(国税通則法19条1項)。また,本件各修正申告に基づく増加税額について,平成22年8月30日,重加算税の賦課決定がされた。 エ Aは,同人の平成19年分及び平成20年分の所得税の脱税について公訴を提起され(所得税法違反被告事件),平成23年6月3日,福井地方裁判所において,①平成19年分の実際総所得金額が5360万9421円であったにもかかわらず,不正の行為により,同年分の所得税1828万4000円を免れ,また,②平成20年分の実際総所得金額が1億1841万7799円であったにもかかわらず,総所得金額が2075万6247円,所得税額が535万4400円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を福井税務署長に提出し,不正の行為により,同年分の正規の所得税-7-額4431万8000円と申告納税額との差額3896万3600円を免れたとして,懲役1年2月及び罰金1400万円に処し,3年間その懲役刑の執行を猶予する旨の判決の宣告を受けた(甲8の1)。 (3) 税理士法55条1項の規定に基づく調査等ア原告が本件各確定申告書を作成した行為(以下「本件書類作成行為」という。)について,平成24年11月7日,税理士法55条1項の規定に基づく調査(以下「本件調査」という。)が行われた。 イ原告は,本件調査において,①原告は,Aから,平成21年2月24日頃,所得税の確定申告書の作成に必要な資料を警察に押収 5条1項の規定に基づく調査(以下「本件調査」という。)が行われた。 イ原告は,本件調査において,①原告は,Aから,平成21年2月24日頃,所得税の確定申告書の作成に必要な資料を警察に押収されたことを伝えられ,このことを,B弁護士( 以下省略 )に相談したが,同弁護士からは,手元に資料がない状態であっても,税金のことで罪が重くなっても困るので,所得税の確定申告をした方が良いとアドバイスされたので,これを受けて,依頼人であるAに申告するかどうか尋ねたところ,同人から確定申告する旨の回答があり,同人の指示に従い,3年分合計の納税額が1000万円以内となるように計算し,所得税の確定申告書を作成し,福井税務署長に提出したこと,②原告がAの所得税の確定申告書を作成した平成21年3月当時,原告はAの正しい売上金額も所得金額も知らず,真に申告すべき金額を把握していなかったので,故意に所得金額及び税額を圧縮した確定申告書を作成したという認識はない旨述べた(乙2・13枚目)。 (4) 聴聞等ア処分行政庁は,平成25年4月17日に行政手続法13条1項の規定に基づき聴聞を行うに当たり,同年3月14日付けで,原告に対し,同法15条1項の規定により,不利益処分の原因となる事実を通知した。その内容は,①関与先であったAの平成18年分及び平成19年分の所得税の期限後申告並びに平成20年分の所得税の確定申告に当たり,同人から売上-8-金額などが記載されたメモ(本件メモ)を受領したが,同人から3年分の納税額が1千万円以内になるように依頼され,本件メモに記載された売上金額を半分に圧縮して計上するなどにより所得金額を不正に計算した(なお,平成20年分の所得税の申告を捉えてみても,8429万8737円の所得金額を不正に圧 るように依頼され,本件メモに記載された売上金額を半分に圧縮して計上するなどにより所得金額を不正に計算した(なお,平成20年分の所得税の申告を捉えてみても,8429万8737円の所得金額を不正に圧縮した。)申告書を作成した行為又は事実が税理士法45条1項の懲戒処分事由に該当すると認められ,②同法41条に規定されている帳簿を作成していなかった行為又は事実が同法46条の懲戒処分事由に該当するというものであった(甲1)。 イ原告は,平成25年4月17日に行われた聴聞(以下「本件聴聞」という。)の期日において,上記アの①及び②の不利益処分の原因となる事実について,Aは警察に資料を押収され,正しい申告ができない状況であり,期限後申告もやむを得ないと判断し,資料が返還されたら正しい申告をするつもりであったが,弁護士から脱税で罪を加重されても困るので,何とか申告してくれと依頼され,Aから「3年で1千万円ぐらいにしておいてくれ」といわれ,不本意ながら申告書を作成したものであり,Aから送られた本件メモが正しいか正しくないかも判断できない状況であったため,「不正に所得金額を圧縮した」と指摘されることについては承服しかねる旨述べた(乙4・3枚目)。 (5) 本件処分等ア処分行政庁は,平成25年6月5日付けで,税理士法45条1項及び46条の規定に基づき,上記(4)アの①及び②の不利益処分の原因となる事実を理由として,本件処分をして通知した(同法47条5項。甲2)。 イ本件処分は,平成25年6月7日に効力を生じ,同月18日に公告された(甲9・7頁。税理士法48条)。そして,日本税理士会連合会は,原告が税理士法4条7号の欠格条項に該当したとして税理士の登録を抹消した(甲3)。 -9- 3 争点(1) 原告が税理士 た(甲9・7頁。税理士法48条)。そして,日本税理士会連合会は,原告が税理士法4条7号の欠格条項に該当したとして税理士の登録を抹消した(甲3)。 -9- 3 争点(1) 原告が税理士法45条1項の規定に該当するか否か,具体的には,「故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」と認められるか否か。 (2) 本件処分が考慮すべき事情を考慮せず,過度に重い処分を課すものとして,比例原則に反し,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱するものか否か。なお,原告は,上記前提事実(4)アの②の事実が量定の基礎となることについては争っていない。 4 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(原告が「故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」と認められるか否か。)についてア被告の主張の要旨本件各確定申告書は,原告が,Aの平成18年分から平成20年分までの納付税額が合計1000万円以下になるように,同人が原告に対してファックスで送信した3枚の手書きのメモ(本件メモ)に記載されている売上金額を圧縮するなどして作成したものであり,Aが福井税務署に提出した本件各修正申告書の内容が,本件各確定申告書の内容とは大きく異なるものであることからしても,本件各確定申告書の内容が真正の事実に反するものであることは明らかである。 原告は,本件調査において,「売上げ集計メモに記載された金額よりは,売上金額もあったと思います。納税額も3年分で合計1000万円以下になることはないと思いました。」などと述べ,本件聴聞の期日においても,「もちろん,事実に反するとの認識はありました。資料も何も見ていないので,どんな方法でも正しい申告書は作れません。」などと述べており,原告が,本件書 ました。」などと述べ,本件聴聞の期日においても,「もちろん,事実に反するとの認識はありました。資料も何も見ていないので,どんな方法でも正しい申告書は作れません。」などと述べており,原告が,本件書類作成行為の当時,自ら作成した本件各確定申告書の内容が真正の事実に反しているおそれがあることを認識していたことは明ら-10-かである。 イ原告の主張の要旨(ア) 税理士法45条1項の「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」とは,税理士が委嘱者である納税者から提示を受けた帳簿,書類等に基づき自己の職業専門家としての知識と経験による判断をもって真正の事実に反すると認識しながら,あえてその不真正な事実について税理士法2条1項1号又は2号に規定する税務代理又は書類の作成をしたことをいう。 しかるに,税理士が委嘱者である納税者から帳簿,書類等の提示を受けられないために,当該税理士の職業専門家としての知識と経験による判断をもってしても真正の事実を把握することが困難な場合には,仮に,当該税務代理又は税務書類の作成が,結果として,真正の事実に反していた場合であっても,「税理士が委嘱者である納税者から提示を受けた帳簿,書類等に基づき自己の職業専門家としての知識と経験による判断をもって真正の事実に反すると認識」するための前提を欠くというべきであり,この場合には,当該税理士は,当該申告書作成時において入手可能な一定の資料及び当該資料を前提とした職業的専門家としての知識と経験に基づく合理的判断によって一応の税務書類の作成等をすれば,その行為は,「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」とはいえないと解すべきである。 このように解しないと,本件のように,特に,委嘱者が故意に税理士を 成等をすれば,その行為は,「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」とはいえないと解すべきである。 このように解しないと,本件のように,特に,委嘱者が故意に税理士をだまそうとして帳簿,書類等の証ひょうが委嘱者の手元に存在しないなどと当該税理士に伝え,実際にも当該証ひょう類が捜査機関に押収された等の事情が存在することによって委嘱者の上記言辞を信ずべき相当の理由が認められるために,当該税理士において「真正の事実」を把握するすべがない場合に,当該税理士がやむなく当該委嘱者から提示を-11-受けた真正の事実に合致すると認めるにはおよそ不十分な資料を基に一応行った税務書類の作成が,結果として,後日真正の事実に反していることが判明したときに,常に「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」と認められてしまうことになり,極めて不合理で不当な結果となってしまうからである。また,このように解することが,本来客観的要件として置かれた「真正の事実に反して」の解釈の中に,主観的要件である「故意」とは別に,殊更に,「真正の事実に反すると認識しながら,あえて」という主観的要素が加味されていることに合致する。さらに,国税通則法19条が修正申告を許容していることからすれば,諸般のやむを得ない事情から当該税理士が真正の事実を把握することが困難な場合には,暫定的な措置として仮の数字による申告をしておいた上で,後日真正の事実を把握でき次第修正申告をすることも許されていると解されるべきであるとの実務上の要請にも合致する。 (イ) 本件においては,委嘱者であるAにおいて,その帳簿,証ひょう等の押収を受けていたために,税理士である原告が委嘱者から交付を受けた資料は,その記載が実体的な金額を反映したものとはおよそ考え難い (イ) 本件においては,委嘱者であるAにおいて,その帳簿,証ひょう等の押収を受けていたために,税理士である原告が委嘱者から交付を受けた資料は,その記載が実体的な金額を反映したものとはおよそ考え難いA作成の本件メモだけであった。また,本件において,Aは,原告に対し,本件事業に関連する資料は全て押収されて何も残っていない旨説明し,客観的にも,Aの自宅に家宅捜索が入っており,同人が説明する資料が存在しないとの事情が認められると信じるに足りる状況にあった。加えて,後日発覚した事実によれば,当時,Aは,原告が上記資料なしには正確な申告ができないと認識しているのに乗じて,殊更に真実を説明せず,当該資料を見せないようにしていたというのである。よって,客観的にも主観的にも,原告が「納税者から帳簿,書類等の提示を受けられない」状態にあったことは明らかであり,これによって,本件各確定申告書の内容は,「結果として,真正の事実に反していた」ものである。 -12-そのために,原告は,職業専門家としての知識と経験による判断をもってしてもAの総収入金額と必要経費に関する真正の事実を把握することができず,同人の事業所得の金額に関する真正の事実を把握することもできなかった。なお,このことは,その後,Aが原告に対して納付税額が合計1000万円以下になるように依頼した事実によって影響を受けない。 (ウ) 以上の次第で,上記前提事実(4)アの①の不利益処分の原因となる事実は「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」とはいえず,原告は税理士法45条1項に該当しない。 (2) 争点(2)(本件処分が比例原則に反し,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱するものか否か。)についてア原告の主張の要旨(ア) 税理士等に対する懲戒処分等 該当しない。 (2) 争点(2)(本件処分が比例原則に反し,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱するものか否か。)についてア原告の主張の要旨(ア) 税理士等に対する懲戒処分等の考え方について税理士業務の禁止の処分が税理士に対する懲戒処分(税理士法44条各号)の中でも最も重い処分であって税理士の営業の自由に対するいわば極刑であることからすれば,その処分をするに際して量刑を判断するに当たっては,①行為の性質,態様,効果等,②税理士の行為の前後の態度,③懲戒処分等の処分歴,④選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響,⑤その他個別事情を総合的に勘案して決定すべきであって,当該行為者に対する処分として著しく過酷な結果をもたらすことのないようにされなければならない。 (イ) 本件処分が懲戒処分として不相当であること。 a 本件においては,まず,上記前提事実(4)アの①の不利益処分の原因となる事実は「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」とはいえず,原告は税理士法45条1項に該当しないから,本件処分の理由となる原告の行為は同②の不利益処分の原因となる-13-事実である帳簿の不作成のみと考えるべきであり,この事実の違法性の程度に比して,税理士業務の禁止の処分という本件処分が重きに失し,原告に対して著しく過酷な結果をもたらすことは明らかである。 b 次に,仮に,原告が税理士法45条1項に該当し,本件処分の理由となる原告の行為が上記前提事実(4)アの①及び②の不利益処分の原因となる事実であったとしても,本件においては,次のような事情が認められる。 (a) 行為の性質,態様,効果等原告は,過去に所得税を申告,納税していなかったAから 原因となる事実であったとしても,本件においては,次のような事情が認められる。 (a) 行為の性質,態様,効果等原告は,過去に所得税を申告,納税していなかったAから依頼を受け,期限内に適正な納税をさせようとしたものであり,この行為は,税理士法1条の「独立した公正な立場において」,「納税義務の適正な実現を図る」との税理士の使命にかなうものである。 客観的に見ても,原告による本件各確定申告書の作成の結果として,従前,所得税を無申告,無納税であったAについて,平成18年度分として4万2200円,平成19年度分として156万0300円,平成20年度分として535万4400円の合計約700万円の所得税の納付が実現した。 これに対して,被告は,本件各確定申告における納税金額は,本来納税すべき金額に照らして著しく過小であり,およそ「納税義務の適正な実現」が図られるようなものでないと主張する。しかしながら,被告のいう「本来納税すべき金額」とは,結局のところ,本件各修正申告に基づく納税額のことであり,原告にとって本件各確定申告時においては知り得なかった金額である。被告の主張は,そもそも原告が本件各確定申告時においては「本来納税すべき金額」を把握できなかったことを看過し,結果論に基づき,本件各確定申告時の原告に不可能を強いるものといわざるを得ない。このように-14-原告が本件各確定申告時においては「本来納税すべき金額」を把握できなかったことを考慮するならば,無申告による無納税の放置と暫定的な申告による約700万円の納税とを比べて,相対的に見ていずれがより「納税義務の適正な実現を図る」ことに資しているかは自明というべきである。 (b) 税理士の行為の前後の態度 な申告による約700万円の納税とを比べて,相対的に見ていずれがより「納税義務の適正な実現を図る」ことに資しているかは自明というべきである。 (b) 税理士の行為の前後の態度原告は,本件各確定申告後,Aとの後日の修正申告の約束に基づき,修正申告にいつでも取り掛かる準備でいたが,同人の巧妙な裏切り行為によって,遺憾ながらこれが実現しなかった。なお,原告は,平成22年春頃,A及び同人の刑事弁護人である弁護士2人と面談した際に,同人らに対し,本件各確定申告が暫定的な申告であったことを確認し,Aとの間で修正申告の約束をしていたことを前提に,修正申告については後任の税理士に依頼してほしい旨明確に告げて引継ぎを行い,同人らから承認を得ており,修正申告実現のための積極的な行動はとったというべきである。 また,原告は,平成23年当時のAの所得税法違反被告事件においても,その後の本件聴聞の期日においても,一貫して真実を述べ,修正申告に至らなかった事実を認めつつ,その経緯を説明しており,その態度に不誠実な点は見られない。 (c) 懲戒処分等の処分歴原告は,これまでに税理士として懲戒処分を受けたことはない。 (d) 選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響後日の修正申告をする約束の下に,やむを得ず真実には合致しない金額での仮申告をして納税させる行為が,その動機や経緯にかかわらず最も重い懲戒処分を受けるとなれば,これに触れる一般の税理士に対して,特殊な状況下において客観的な資料を有していない-15-と考えられる依頼者からの申告依頼は受任せず,客観的な資料がない限りは申告をしないという方向に萎縮させるおそれがあり,結果として,上記のような依 な状況下において客観的な資料を有していない-15-と考えられる依頼者からの申告依頼は受任せず,客観的な資料がない限りは申告をしないという方向に萎縮させるおそれがあり,結果として,上記のような依頼者を適正な申告,納税に導くことが不可能となり,「納税義務の適正な実現」という使命を果たすことができないばかりか,社会において違法な無申告を増長させかねない。 (e) その他個別事情原告は,Aの刑事弁護人に就任したB弁護士から無申告を放置すれば所得税法違反の立件によってAの罪が更に重くなる可能性があり,期限内に所得税の申告をすることが望ましい旨の弁護人としての意見を聞き,原告においてもAの罪が更に重くなることを心配したことは事実であるが,原告の主たる動機は,従前,納税の申告をしてこなかったAに対して適正な納税を促し,再び,違法な無申告を繰り返すことのないようにすることにあり,苦肉の策として修正申告を要するような暫定的な仮申告をしたのもまた無申告を回避し,せめて当該時点において納税できる金額を納税させ,「納税義務の適正な実現を図る」との税理士の使命を可能な限りで全うしようとしたものである。このことは,本件各確定申告までに,原告とAとの間に,原告が自身の税理士としての経歴を犠牲にしてまでAの利益を図ろうとするだけの関係が存在せず,また,本件各確定申告によって,原告がAから本件各確定申告書作成に係る適正な報酬額を超える経済的な利益を得ている事実も存在しないことからしても明らかであって,そこにAに税務上の便宜を図り,自身の利益を得ようとしたというような内心は存在しない。 c 結論以上のとおり,上記(ア)の①から⑤までの判断要素について,本件の事案に即して具体的に検討し,これらを総合的に 利益を得ようとしたというような内心は存在しない。 c 結論以上のとおり,上記(ア)の①から⑤までの判断要素について,本件の事案に即して具体的に検討し,これらを総合的に勘案するのであれ-16-ば,本件書類作成行為には,原告について,上記b(a)から(e)までのとおり,①行為の性質,態様,効果等に係る正当事由,②行為の前後の態度に係る正当事由,③過去に1度も懲戒処分を受けたことがないという経歴,④本件において税理士業務の禁止の処分という重い懲戒処分を課すことになれば,かえって税理士を萎縮させ,その「納税義務の適正な実現」の使命を果たすことができず,結果として,社会において違法な無申告を増長させかねないこと,⑤本件の動機においても正当事由が認められることが明らかである。このような各事情の存在に鑑みれば,処分行政庁は,本件書類作成行為について原告に一応の責任を問い得る不正所得金額の多額さを考慮してもなお対象行為の性質に比して不当に過大な税理士業務の禁止の処分という懲戒処分を課したものである。 以上の次第で,処分行政庁は,原告に対して本件処分を課すに当たり,判断の過程において,考慮すべき上記①から⑤までの事情を十分かつ適切に考慮せず,その結果として,本件書類作成行為に対して,過度に重い処分を課したものであるから,本件処分は,比例原則に反し,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱するものとして違法である。 イ被告の主張の要旨(ア) 税理士等に対する懲戒処分等の考え方について税理士法45条1項は,税理士業務が納税義務者に対してのみならず,税務行政に対しても重大な影響を与えるものであることに鑑み,税理士が税理士業務を執行するに当たっての秩序を保持するため,財務大臣に監督上 士法45条1項は,税理士業務が納税義務者に対してのみならず,税務行政に対しても重大な影響を与えるものであることに鑑み,税理士が税理士業務を執行するに当たっての秩序を保持するため,財務大臣に監督上の行政処分として,税理士に対する懲戒処分を規定したものであり,同項に基づく懲戒処分については,税理士に対する監督権限を有する財務大臣に合理的な裁量権が付与されている。したがって,税理士法45条1項に基づく懲戒処分については,処分権者である財務大臣の第-17-1次的判断権が尊重されるべきであり,財務大臣に付与されている裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したと認められる場合に限り,違法とされると解すべきである(行政事件訴訟法30条参照)。 この点,税理士等に対する懲戒処分等の考え方については,平成20年3月31日付け「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」(財務省告示第104号。本件告示)が公表されている。本件告示によれば,税理士法45条1項の規定に該当する行為に対する懲戒処分の量定の判断要素及び量定の範囲については,「税理士の責任を問い得る不正所得金額等(国税通則法第68条に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装したところの事実に基づく所得金額,課税価格その他これらに類するものをいう。以下同じ。)に応じて,6月以上1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止」とされており(Ⅱ第1の一(1)),基本的には,税理士の責任を問い得る不正所得金額等が高くなればなるほど処分が重くなると考えられている。そして,量定の判断に当たっては,上記違反行為ごとの量定の考え方を基本としつつ,①行為の性質,態様,効果等,②税理士の行為の前後の態度,③懲戒処分等の処分歴,④選択する処分が他 ると考えられている。そして,量定の判断に当たっては,上記違反行為ごとの量定の考え方を基本としつつ,①行為の性質,態様,効果等,②税理士の行為の前後の態度,③懲戒処分等の処分歴,④選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響,⑤その他個別事情を総合的に勘案し,決定することとされている。 (イ) 本件処分が懲戒処分として相当であること。 a 原告の責任を問い得る不正所得金額原告は,Aの平成20年分の所得税の確定申告書について見ても,本件メモに記載されている返金を差し引いた売上金額が1億4505万4984円,経費の合計が4000万円であり,所得金額が1億0505万4984円であったのに対し,所得金額を2075万6247円として申告しているのであるから,原告の責任を問い得る不正-18-所得金額(原告が故意に圧縮した所得金額)は,その差額の8429万8737円である。 b 行為の性質,態様,効果等申告納税制度は,納税義務者の適正な申告を前提として成り立っており,税理士が,納税義務者の依頼に沿って,故意に真正の事実に反して納税書類を作成し,申告をすることは許されない(税理士法1条参照)。仮に,適正な申告をした場合における納税金額がAの資力に照らして高額であったとしても,同人が適正な申告をした上で適正な税金を納める義務を免れることはなく,同人から依頼を受けた原告もまた税理士の職務として適正な申告をする義務を免れるものではない。したがって,適切な申告をした場合における納税金額がAの資力に照らして高額であったことは,原告がAの依頼に沿って所得金額を不正に圧縮するなどして同人において支払可能な額に納税金額を調整すべく故意に真正の事実に反して本件各確定申告書を作成したことを何ら正当化 照らして高額であったことは,原告がAの依頼に沿って所得金額を不正に圧縮するなどして同人において支払可能な額に納税金額を調整すべく故意に真正の事実に反して本件各確定申告書を作成したことを何ら正当化するものではない。 原告は,無申告による無納税と仮の申告による約700万円の納税を比較し,「納税義務の適正な実現」の効果が認められると主張する。 しかしながら,税理士法1条にいう「納税義務の適正な実現」とは,「過大でも過小でもなく納税する」ことをいうところ,本件各確定申告における納税金額は,本来納税すべき金額に照らして著しく過小であり,およそ「納税義務の適正な実現」が図られるようなものでなかった。他方で,無申告による無納税とは,本来納付すべき税金を納付していないという状態であり,このような状態と,本件各確定申告における納税金額が納められた場合とを比較して,いずれが「納税義務の適正な実現」が図られているかなどということを論じることには意味がない。 -19-以上のとおり,本件書類作成行為の性質,態様及び効果について,原告に酌量すべき特段の事情は見当たらない。 c 税理士の行為の前後の態度原告は,本件各確定申告後,Aとの後日の修正申告の約束に基づき,修正申告にいつでも取り掛かる準備でいたが,同人の巧妙な裏切り行為によって,これが実現せず,また,同人の所得税法違反被告事件においても,本件聴聞の期日においても,一貫して真実を述べるなど,その態度に不誠実な点は見られない旨主張する。しかしながら,そもそも原告が,Aとの上記約束に基づく後日の修正申告がされるか否かについて責任を負うことができないにもかかわらず,同人の依頼に沿って所得金額を不正に圧縮するなどして真正の事実に反して本件各確定申告書を も原告が,Aとの上記約束に基づく後日の修正申告がされるか否かについて責任を負うことができないにもかかわらず,同人の依頼に沿って所得金額を不正に圧縮するなどして真正の事実に反して本件各確定申告書を作成したこと自体が許されない行為である。上記約束に基づく後日の修正申告がされなかったことについてAの巧妙な裏切り行為があったなどとして同人に責任を転嫁する原告の主張は,上記の点についての理解を誤ったものであり,失当である。 また,原告は,修正申告にいつでも取り掛かる準備でいた旨主張する。しかしながら,原告は,本件各確定申告後,Aに連絡すらしておらず,本件各確定申告について修正申告を実現するための積極的な行動をとった事実はうかがわれない。 なお,所得税法違反被告事件及び本件聴聞の期日において真実を述べることは,当然のことであり,量定判断において格別しんしゃくすべき事情とはいえない。 したがって,本件書類作成行為後の原告の態度についても,しんしゃくすべき特段の事情は見当たらない。 d 懲戒処分等の処分歴確かに,原告は,過去に懲戒処分を受けたことがなく,このことは,-20-量定判断においてしんしゃくすべき事情の1つにはなり得る。しかしながら,税理士法45条1項の故意による不真正税務書類の作成行為は,「税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図る」(税理士法1条)ことを使命とする税理士の非行行為の中でも,最も悪質な非行行為である。また,原告の責任を問い得る不正所得金額は,平成20年分について見ても極めて高額であり,過去の処分例と比較しても,本件書類作成行為 とを使命とする税理士の非行行為の中でも,最も悪質な非行行為である。また,原告の責任を問い得る不正所得金額は,平成20年分について見ても極めて高額であり,過去の処分例と比較しても,本件書類作成行為に対しては,特に重い懲戒処分を課されてしかるべきである。これらのことから,処分行政庁は,本件書類作成行為に対する懲戒処分として,原告が過去に懲戒処分を受けたことがないことを考慮してもなお税理士業務の禁止の処分が相当であると判断したものである。 e 選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響原告は,後日の修正申告をする約束の下に,やむを得ず真実には合致しない金額での仮申告をして納税させる行為が,その動機や経緯にかかわらず懲戒処分の対象となるのであれば,税理士は客観的な資料を有していない依頼者からの申告依頼は受任せず,客観的な資料がない限りは申告をしないという方向に萎縮するおそれがあり,結果として,「納税義務の適正な実現」(税理士法1条)という使命を果たすことができないばかりか,違法な無申告を増長させかねない旨主張する。しかしながら,「納税義務の適正な実現」が適正な申告によって図られるべきものであることは,当然のことである。税理士が納税義務者の依頼に沿って不正に所得金額を圧縮するなどして納税金額を納税義務者の支払可能な金額に調整すべく故意に真正の事実に反して納税書類を作成して申告をすることにより,結果として無申告が回-21-避されたとしても,このような申告により「納税義務の適正な実現」が図られるなどということはあり得ない。原告の主張は,無申告という本来されるべきことがされていない状態と比較して,不真正な税務書類の作成を正当化している点において,前提を誤っている。原告の上記主張は,税理士による不真正な税務書類の い。原告の主張は,無申告という本来されるべきことがされていない状態と比較して,不真正な税務書類の作成を正当化している点において,前提を誤っている。原告の上記主張は,税理士による不真正な税務書類の作成を助長するばかりでなく,税理士全体の信用を失墜させることにもつながるものであり,このような観点からしても,本件書類作成行為を軽く見ることはできない。したがって,処分が他の税理士及び社会に与える影響という点について見ても,本件処分が不当に過大であるということはできない。 f その他個別事情原告は,原告が本件各確定申告をした主たる動機は,Aに対して適正な納税を促し,再び,違法な無申告を繰り返すことのないようにすることにあったなどとして,このような動機を懲戒処分の量定判断において考慮すべきであると主張するようである。しかしながら,原告がAに所得税の確定申告をさせたのは,B弁護士から所得税の無申告を放置すれば,Aの刑事手続において刑が重くなる可能性がある旨の指摘を受けたためであり,本件各確定申告は,同人の刑が重くならないようにすることを目的としてされたものである。加えて,原告が税理士の職務としてAの資力にかかわらず,収集可能な資料に基づいてできる限り適正な申告をするように同人を説得すべき立場にありながら,このような説得を十分に行わないまま同人の依頼に沿って安易に不真正な税務書類を作成したことや,自ら故意に真正の事実に反して税務書類を作成し,これに基づいて本件各確定申告をしておきながら,その後,これを是正するために同人に連絡を取ることすらしなかったことなどからして,本件書類作成行為の動機が同人に適正な納-22-税を促すことにあったということは考え難い。したがって,このような動機を本件書類作成行為に対する懲戒処分 絡を取ることすらしなかったことなどからして,本件書類作成行為の動機が同人に適正な納-22-税を促すことにあったということは考え難い。したがって,このような動機を本件書類作成行為に対する懲戒処分の量定判断において考慮すべきであるとする原告の上記主張は,前提において失当といわざるを得ない。 g 結論以上のとおり,原告の責任を問い得る不正所得金額は,平成20年分について見ても極めて高額であり,過去の処分例と比較しても,税理士業務の禁止の処分が相当であると考えられたこと,本件告示において考慮すべき事情として挙げられている不正所得金額以外の事情を見ても,懲戒処分の量定判断に影響し得るような特段の事情は存しないと認められたことから,処分行政庁は,本件書類作成行為に対する懲戒処分として税理士業務の禁止の処分が相当であると判断し,原告に対し,本件処分をしたものであり,本件処分は,懲戒処分として重きに失するということはなく,相当であって,財務大臣に付与されている裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものでないことは明らかである。したがって,本件処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実,争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) 原告は,昭和44年に公認会計士名簿に登録を受け,昭和48年に兵庫県神戸市において税理士としても開業した後,平成12年に東京都C区に事務所を移転し,以降,同区において税理士として開業していた(甲10・1頁,乙2・2枚目)。 (2) 原告は,Aの親族が経営している会社の顧問税理士であった関係で,Aと顔見知りであったところ,平成21年2月上旬,同人から,税金のことで相-23-談に乗ってほしいと ,乙2・2枚目)。 (2) 原告は,Aの親族が経営している会社の顧問税理士であった関係で,Aと顔見知りであったところ,平成21年2月上旬,同人から,税金のことで相-23-談に乗ってほしいという電話を受け,同月10日,東京都港区αにおいて,同人と面談した。 原告は,その際,Aから,平成18年頃からインターネットを利用して株式投資に関する情報を販売するなどの事業(本件事業)を行っており,平成20年には1億円以上の売上げがあるものの,一切申告していないが,申告した方が良いかとの相談を受けたので,同人に対し,当然,申告しなければならない旨を説明した。原告は,当時多忙であったことから,本件事業の内容や書類の保管状況についての詳しい話は聞かず,Aに対し,同人の平成18年分から平成20年分までの所得税の確定申告に必要な売上げや経費が分かる書類を整理し,書類の整理ができたら原告に連絡するように依頼し,Aが整理した書類に基づき原告が所得税の確定申告をすると説明した。 なお,原告は,Aから,株式投資の情報を得るのに経費が相当掛かっているとも聞いたことから,平成20年には1億円以上の売上げがあるといっても,利益が莫大に上がっているわけではないであろうと思っていた。(以上につき,甲8の2・1頁から4頁まで,甲8の4・2頁,3頁,甲10・2頁,3頁,乙2・3枚目,4枚目)(3) Aは,平成21年2月24日,警察から捜索差押えを受け,本件事業に関する資料を押収された。もっとも,本件事業の主要な売上げや経費については,銀行口座を通じて管理されており,現金で支払った経費は経費全体の数パーセントであったので,上記資料がなくても,本件事業に関する収支は概ね正確に把握することが可能な状態であった。 原告は,平成21年2月24日, されており,現金で支払った経費は経費全体の数パーセントであったので,上記資料がなくても,本件事業に関する収支は概ね正確に把握することが可能な状態であった。 原告は,平成21年2月24日,Aから,警察の捜査を受け,本件事業の関係資料を全て警察に押収されてしまい,今後のことを含めて弁護士に相談したいので,弁護士を紹介してもらえないかという電話を受けたため,20年来の付き合いがあったB弁護士をAに紹介した。 そして,原告は,B弁護士に対し,Aは,個人で事業をしており,所得-24-があるものの,所得税の確定申告をしておらず,今回,本件事業の関係資料を警察に押収されてしまい,手元に資料がない状態であるが,どうしたら良いかと相談したところ,同弁護士から,税金のことで罪が重くなってもまずいので,Aの平成18年分から平成20年分までの所得税の確定申告をしておいた方が良いといわれ,所得税の確定申告を同人にさせることとした。 (以上につき,甲8の2・4頁,5頁,甲8の4・3頁,4頁,甲10・3頁,4頁,乙2・4枚目,乙4・3枚目)(4) 原告は,平成21年3月11日,Aと面談し,同人に対し,本件事業の売上金額や経費について確認したところ,同人から,本件事業の関係資料を全て警察に押収されてしまい,正確には分からないといわれたことから,正しい所得税の確定申告をすることはできないと認識したが,同人に対し,平成20年分の所得税の申告期限である平成21年3月16日までに同人の平成18年分から平成20年分までの所得税の確定申告をする必要があり,同日までにする所得税の確定申告は,あくまで仮の申告であって,警察に押収された資料が返還されたら,正しく所得税の修正申告をしなければならないと説明した上,確定申告をするため,記憶の範囲で構わないから売 日までにする所得税の確定申告は,あくまで仮の申告であって,警察に押収された資料が返還されたら,正しく所得税の修正申告をしなければならないと説明した上,確定申告をするため,記憶の範囲で構わないから売上げと経費について3年分の数字を出すように依頼した。他方,原告は,所得税の確定申告をしても,納税することができなければ意味がないと考え,Aに対し,用意することができる金額を確認したところ,同人から,3年分の納税額が合計1000万円以下になるように依頼された。(以上につき,甲8の2・6頁,7頁,甲8の4・3頁から5頁まで,甲10・4頁,5頁,乙2・5枚目,6枚目,乙4・3枚目)Aは,原告が警察に押収された資料が返還されなければ正しい所得税の確定申告をすることができないと誤解しつつ,修正申告を前提とした確定申告をすることを提案してきたことに乗じ,後日の修正申告をする意思がなかったにもかかわらず,所得の一部のみを申告することとし,3年分の納税額が-25-合計1000万円以下になるように原告に依頼したものであった(甲8の4・5頁から7頁まで)。 (5) 原告は,平成21年3月11日,Aから,売上金額等が記載された本件メモ(甲4の1から3まで)をファックスで受信した。 本件メモのうち平成18年分のもの(甲4の1)には,同年6月から12月までの売上げが合計548万2078円である旨記載されるとともに,「投資の損 3000万」と記載されていた。 本件メモのうち平成19年分のもの(甲4の2)には,同年1月から12月までの売上げが合計6575万7359円である旨記載されるとともに,「投資の損 500万」と記載されていた。 本件メモのうち平成20年分のもの(甲4の3)には,同年1月から12月までの売上げが合計1億5 合計6575万7359円である旨記載されるとともに,「投資の損 500万」と記載されていた。 本件メモのうち平成20年分のもの(甲4の3)には,同年1月から12月までの売上げが合計1億5259万6470円であり,返金が合計754万1486円である旨記載されるとともに,「投資の損 1000万支払いコンサル料 2500万広告料 1200~1500万」と記載されていた。 原告は,Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように試算してみたところ,本件メモの売上金額(平成20年分については売上金額から返金額を引いた金額)の5割を申告上の売上金額とし,その3割を所得金額とすると,3年分の所得税額が約770万円となり,地方税額を含め,3年分の納税額が合計1000万円となった(甲4の1から3まで)。 そこで,原告は,平成18年分収支内訳書については,①「売上(収入)金額」欄に,本件メモのうち平成18年分のもの(甲4の1)に記載されている売上金額合計548万2078円の5割相当額である274万1040円と記載し,②「所得金額」欄が売上金額の3割相当額となるように「経費」欄を記載し,「経費計」欄に193万8729円と記載し,③「所得金-26-額」欄に80万2311円と記載した。 また,原告は,平成19年分収支内訳書については,①「売上(収入)金額」欄に,本件メモのうち平成19年分のもの(甲4の2)に記載されている売上金額合計6575万7359円の5割相当額である3287万8680円と記載し,②「所得金額」欄が売上金額の3割相当額となるように「経費」欄を記載し,「経費計」欄に2311万5077円と記載し,③「所得金額」欄に976万3603円と記載した。 さらに,原告は,平成20年分収 金額」欄が売上金額の3割相当額となるように「経費」欄を記載し,「経費計」欄に2311万5077円と記載し,③「所得金額」欄に976万3603円と記載した。 さらに,原告は,平成20年分収支内訳書については,①「売上(収入)金額」欄に,本件メモのうち平成20年分のもの(甲4の3)に記載されている売上金額合計1億5259万6470円から返金額合計754万1486円を引いた合計1億4505万4984円の5割相当額である7252万7492円と記載し,②「所得金額」欄が売上金額の3割相当額となるように「経費」欄を記載し(なお,「広告宣伝費」欄の1327万6400円については,本件メモのうち平成20年分のものに記載されている「広告料 1200~1500万」を参考として記載し,「支払手数料」欄の2465万円については,同様に「支払いコンサル料 2500万」を参考として記載した。),「経費計」欄に5177万1245円と記載し,③「所得金額」欄に2075万6247円と記載した。 そして,原告は,平成21年3月13日,Aに対し,上記の平成18年分から平成20年分までの収支内訳書(以下「本件各収支内訳書」という。)をファックスで送信し,同人から,本件各収支内訳書の内容で確定申告することを了解した旨の連絡を受けた後,本件各確定申告書を作成し,平成21年3月16日,福井税務署長に提出した。また,原告は,Aから,本件各確定申告書の作成等に関する税理士報酬として,55万円の支払を受けた。 (以上につき,甲5から7まで,甲8の2・8頁から10頁まで,甲8の4・6頁,7頁,甲10・5頁,6頁,乙2・6枚目から9枚目まで,資料3)-27-(6) なお,原告は,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成するに当たり,本件メモ(甲4の1から3まで 4・6頁,7頁,甲10・5頁,6頁,乙2・6枚目から9枚目まで,資料3)-27-(6) なお,原告は,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成するに当たり,本件メモ(甲4の1から3まで)に記載された売上金額は,1円単位まで記載されていたため,何の根拠もない金額だとは思わなかったが,実際の売上金額がより多額である可能性があると思っており,また,「支払コンサル料」などと記載された経費と思われる金額は大雑把に過ぎ,何らかの資料に基づいて記載された金額であるとは思えず,納税額も3年分で合計1000万円以下になることはないと思っていた。しかしながら,原告は,警察に押収された資料が返還されたら正しく所得税の修正申告をすることを前提とした取りあえずの確定申告であるから,本件メモの信ぴょう性について考える必要はないと判断し,Aに対し,本件メモの内容を確認することはしなかった。(甲8の2・9頁,甲10・5頁,6頁,乙2・9枚目,10枚目)(7) 原告は,Aから修正申告をしたいとの申出があればそれに対応するつもりであった。しかし,原告は,本件各確定申告書を福井税務署長に提出した後,Aに対して連絡をしたことはなく,また,同人からも警察に押収された資料が返還されたという連絡や同資料に基づき修正申告をしてほしいという連絡を受けたことはなかった。 警察に押収された資料は平成21年6月にAに返還されていたところ,原告は,そのことを,金沢国税局によるAの所得税に関する調査があった同年8月以降に知った。原告は,平成22年春頃にA及びB弁護士の後任の刑事弁護人である弁護士2人と面談したが,その際に,その後にAの所得税の申告に関与することを断った(甲8の2・10頁,11頁,甲8の4・7頁,8頁,甲10・6頁から8頁まで,乙2・10枚目)。 刑事弁護人である弁護士2人と面談したが,その際に,その後にAの所得税の申告に関与することを断った(甲8の2・10頁,11頁,甲8の4・7頁,8頁,甲10・6頁から8頁まで,乙2・10枚目)。 2 争点(1)(原告が「故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」と認められるか否か。)について(1) 原告は,税理士法45条1項の「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」という要件(以下「本件作成行為要件」という。)は,-28-「税理士が委嘱者である納税者から提示を受けた帳簿,書類等に基づき自己の職業専門家としての知識と経験による判断をもって真正の事実に反すると認識しながら,あえてその不真正な事実について税理士法2条1項1号又は2号に規定する税務代理又は書類の作成をした」ことをいうとの解釈を前提として,税理士が委嘱者である納税者から帳簿,書類等の提示を受けられないために,当該税理士の職業専門家としての知識と経験による判断をもってしても真正の事実を把握することが困難な場合には,結果として,作成した書類が真正の事実に反していたとしても,「税理士が委嘱者である納税者から提示を受けた帳簿,書類等に基づき自己の職業専門家としての知識と経験による判断をもって真正の事実に反すると認識」するための前提を欠くものであり,この場合には,当該申告書作成時において入手可能な一定の資料及び当該資料を前提とした職業的専門家としての知識と経験に基づく合理的判断によって一応の税務書類の作成等をすれば,本件作成行為要件には該当しないと解すべきである旨主張する。 しかしながら,本件作成行為要件の文言は,単に,「真正の事実に反して…税務書類の作成をした」というものであり,この文言からすると,原告が主張するような場合(税理士が いと解すべきである旨主張する。 しかしながら,本件作成行為要件の文言は,単に,「真正の事実に反して…税務書類の作成をした」というものであり,この文言からすると,原告が主張するような場合(税理士が委嘱者である納税者から帳簿,書類等の提示を受けられないために,当該税理士の職業専門家としての知識と経験による判断をもってしても真正の事実を把握することが困難な場合)が除外されていると解釈することは,不可能であるといわざるを得ない。また,本件作成行為要件に係る行為の故意については,単に真正の事実に反して税務書類の作成をしたことの認識及び認容で足りると解するのが自然である。もっとも,税理士が,入手可能な帳簿,書類等の資料を検討し,職業専門家としての知識と経験による合理的な判断に基づき,それが真正の事実であるとの認識に立った上で,税務書類の作成等をしたのであれば,結果的にそれが真正の事実に反するものであっても,故意を欠くとの評価を受ける場合があり得-29-るといえるが,原告が主張するように,税理士が,入手可能な帳簿,書類等を前提とした合理的な判断に基づいて税務書類を作成するのであれば,作成された税務書類が真実に反するとの認識があるとしても故意の要件を欠くという解釈を採用することは困難であるといわざるを得ない。 この点に関連して,原告は,国税通則法19条が修正申告を許容していることからすれば,諸般のやむをえない事情から税理士が真正の事実を把握することが困難な場合には,暫定的な措置として仮の数字による申告をしておいた上で,後日真正の事実を把握でき次第修正申告をすることも許されていると解されるべきである旨主張する。 しかしながら,国税通則法19条に規定する修正申告の制度は,申告納税制度の本旨に照らしてなるべく納税者が自らその納付すべ 第修正申告をすることも許されていると解されるべきである旨主張する。 しかしながら,国税通則法19条に規定する修正申告の制度は,申告納税制度の本旨に照らしてなるべく納税者が自らその納付すべき税額等を確定する仕組みとすることが妥当であり,また,自発的に申告又は更正決定に係る税額等を増額変更する意思のある者に対しては,その変更をするための納税申告書の提出を認めて,これを提出することなく税務官庁の更正の処分を受ける者よりも加算税などの面で有利な取扱いをすることが合理的であるという趣旨で設けられたものであって,真正の事実に反する確定申告を積極的に容認する制度であると解することはできない。また,税理士制度における懲戒処分は,税理士業務の執行が納税者に対してのみならず,税務行政に対しても重大な影響を与えるものであることから,税理士が税理士業務を執行するに当たっての秩序を保持するための監督上の行政処分であって,修正申告制度とはその趣旨を異にしており,修正申告の可否と税理士法45条1項に規定する懲戒事由の成否とを結び付けて解釈すべき根拠も乏しいといわざるを得ない。 以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用し難い。 (2) 以上を前提として本件について検討するに,①原告は,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成するに当たり,本件メモ(甲4の1から3まで)-30-に記載された売上金額は,何の根拠もない金額ではないが,同売上金額よりも実際の売上金額がより多額である可能性があると思っており,また,3年分の納税額が合計1000万円以下になることはないと思っていたにもかかわらず(認定事実(6)),Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように試算し,本件メモの売上金額(平成20年分については売上金額から返金 下になることはないと思っていたにもかかわらず(認定事実(6)),Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように試算し,本件メモの売上金額(平成20年分については売上金額から返金額を引いた金額)の5割相当額を申告上の売上金額とし,その3割相当額を所得金額として記載したこと(認定事実(5)),②原告自身,本件聴聞の期日において,本件各確定申告書の内容が事実に反するという認識があったと述べていること(乙4・4枚目)からすれば,原告が,本件各確定申告書等の内容が真正の事実に反し又は反するおそれがあることを認識及び認容していたことは明らかである。 これに対し,原告は,本件のように,特に,委嘱者が故意に税理士をだまそうとして帳簿,書類等の証ひょうが委嘱者の手元に存在しないなどと当該税理士に伝え,実際にも当該証ひょう類が捜査機関に押収された等の事情が存在することによって委嘱者の上記言辞を信ずべき相当の理由が認められるために,当該税理士において「真正の事実」を把握するすべがない場合に,当該税理士がやむなく当該委嘱者から提示を受けた真正の事実に合致すると認めるにはおよそ不十分な資料を基に一応行った税務書類の作成が,結果として,後日真正の事実に反していることが判明したときに,常に「真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」と認められてしまうことは,極めて不合理である旨主張する。しかしながら,原告は,その主張するように,本件において,委嘱者から提示を受けた真正の事実に合致すると認めるにはおよそ不十分な資料を基に税務書類の作成を一応行い,結果として,後日真正の事実に反していることが判明したにとどまるということはできず,上記のとおり,本件メモの売上金額に基づいて税務書類を作成することすらしないで,同売上金額の5割相 作成を一応行い,結果として,後日真正の事実に反していることが判明したにとどまるということはできず,上記のとおり,本件メモの売上金額に基づいて税務書類を作成することすらしないで,同売上金額の5割相当額を申告上の売上金額とし,その-31-3割相当額を所得金額として,結果としても真正の事実に反する内容となることが明らかな本件各確定申告書等を作成したというべきであるから,原告の上記主張は,その前提において失当であり,採用することができない。 (3) 以上によれば,本件書類作成行為は本件作成行為要件を満たしており,原告は税理士法45条1項の規定に該当するというべきである。 3 争点(2)(本件処分が比例原則に反し,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱するものか否か。)について(1) 税理士等に対する懲戒処分等における効果裁量についてア税理士法は,税理士に対する懲戒処分として,戒告,1年以内の税理士業務の停止及び税理士業務の禁止の3種類を定めた(同法44条)上,脱税相談等をした場合の懲戒と一般の懲戒とに区分し,税理士が,①故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき,又は脱税相談等をしたときは,1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができ(同法45条1項),②相当の注意を怠り,これらの行為をしたときは,戒告又は1年以内の税理士業務の停止の処分をすることができ(同条2項),③これらを除く租税に関する法令に違反したときは,上記の3種類の懲戒処分をすることができる(同法46条)旨定めている。なお,懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で,当該処分を受けた日から3年を経過しないものは,欠格条項に該当し(税理士法4条7号),税理士の登録がまっ消されることとなる(同法26条1項 なお,懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で,当該処分を受けた日から3年を経過しないものは,欠格条項に該当し(税理士法4条7号),税理士の登録がまっ消されることとなる(同法26条1項)。 イこのように,税理士法は,税理士に対する懲戒処分として戒告から税理士業務の禁止まで軽重の幅がある処分を定めているところ,同法には,税理士について懲戒事由がある場合において,懲戒処分をすべきかどうか,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかの判断の基準についての具体的な定めが置かれていない。このことを踏まえると,上記の点に-32-関する判断は,懲戒事由に該当すると認められる行為の性質,態様,結果,影響等のほか,当該税理士の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮してされるべきものと解されるのであり,この判断は,平素から税理士の指導監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に委ねられていると解することが相当である。したがって,懲戒権者が上記の裁量権を行使してした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に限り,違法となるものというべきである。 ウところで,税理士に対する懲戒処分の量定の判断要素及び量定の範囲については,財務省により本件告示が定められており(関係法令の定め(2)),本件告示は,税理士が故意に真正の事実に反して税務書類の作成をしたときに関して,税理士の責任を問い得る不正所得金額に応じて,6月以上1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止を基本としつつ,①行為の性質,態様,効果等,②税理士の行為の前後の態度,③懲戒処分等の処分歴,④選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響,⑤ 以上1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止を基本としつつ,①行為の性質,態様,効果等,②税理士の行為の前後の態度,③懲戒処分等の処分歴,④選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響,⑤その他個別事情を総合的に勘案し,決定するものとする旨定めている。税理士に対する懲戒処分に関して考慮すべき要素が上記イのとおりであることに照らせば,本件告示の上記の定めは,財務大臣による上記の判断に係る裁量基準として合理性を有するというべきである。 これに対し,原告は,本件告示は,税理士の責任を問い得る不正所得金額と,上記①から⑤までの事情との間でその重要性に差異を設けるものではないと主張する。しかしながら,本件告示のⅠ第一の柱書きの文言からすれば,本件告示は,同Ⅱに定める違反行為ごとの量定の考え方を基本とすると定めていることが明らかであるし,同Ⅱにおいて,税理士法45条1項に定める本件作成行為要件に該当する違反行為をしたときの量定の-33-基本的な判断要素が,税理士の責任を問い得る不正所得金額とする旨定めていることについては,税理士の使命が租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることとされていること(同法1条)に照らしても,合理性があるということができる。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 エなお,本件告示の下において,税理士業務の禁止の処分がされた例としては,関与先の法人税の確定申告に当たり,同社の会長から依頼を受け,未成工事支出金の圧縮及び架空の雑損失を計上することにより所得金額を不正に約6000万円圧縮した申告書を作成したという事案がある。また,税理士業務の1年の停止の懲戒処分がされた例として,関与先の所得税の確定申告に当たり,架空経費を計上することにより所得金額を不正に約4800万円圧縮し 縮した申告書を作成したという事案がある。また,税理士業務の1年の停止の懲戒処分がされた例として,関与先の所得税の確定申告に当たり,架空経費を計上することにより所得金額を不正に約4800万円圧縮した申告書を作成したという事案がある。(乙8)(2) 本件処分の懲戒処分としての当否等本件について,上記の事情を見ると,以下のとおり認められる。 ア原告の責任を問い得る不正所得金額原告が作成したAの平成20年分の所得税の確定申告書について見ると,本件メモのうち平成20年分のもの(甲4の3)によれば,返金額を差し引いた売上金額が1億4505万4984円,経費が4000万円であり,所得金額が1億0505万4984円であったのに対し,所得金額を2075万6247円として申告しているのであるから,原告の責任を問い得る不正所得金額は,その差額8429万8737円である(なお,同修正申告書(乙3の3)によれば,実際の所得金額は1億1842万0022円であり,この金額との差額は9766万3775円である。)。 これに対し,原告が作成したAの平成18年分及び平成19年分の所得税の確定申告書について見ると,各年分に対応する本件メモには本件事業に係る経費に関する明確な記載がないため,原告の責任を問い得る不正所-34-得金額を算定することには困難があるが,本件メモの売上金額(平成18年分につき548万2078円,平成19年分につき6575万7359円)の5割に限って申告上の売上金額としたことについては,原告の責任を問い得る不正所得金額に関連する事実として考慮に入れることができると解される。 以上によれば,原告の責任を問い得る不正所得金額は極めて多額であるといわざるを得ない。 イ行為の性質,態様 不正所得金額に関連する事実として考慮に入れることができると解される。 以上によれば,原告の責任を問い得る不正所得金額は極めて多額であるといわざるを得ない。 イ行為の性質,態様,効果等所得税は,その成立した納税義務について納税者自らの確定申告により課税標準であるその年分の所得金額及び税額を確定し納税することを原則とする申告納税方式(所得税法120条,国税通則法16条)を採用しているところ,申告納税制度は,納税者が適正な申告をすることを前提として成立している。そして,税理士は,税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)。したがって,税理士が,申告納税方式を採用している所得税について,納税者の依頼により,故意に真正の事実に反して税務書類の作成をすることは,それ自体,申告納税制度の理念に反し,税理士の使命に反する悪質な行為であるといえる。 また,行為の態様を見ても,原告は,Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように,本件メモの売上金額(平成20年分については売上金額から返金額を引いた金額)の5割相当額を申告上の売上金額とし,その3割相当額を所得金額とすることとし,これに沿う売上(収入)金額,経費,所得金額を記載して,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成したものであり(認定事実(5)),悪質である。 さらに,行為の効果を見ても,Aは,原告の行為により,上記アのとお-35-り極めて多額の所得金額を圧縮し,結果としては数千万円もの納税を免れることになるものであって(別紙2の各「納税額」欄参照),重大である。 を見ても,Aは,原告の行為により,上記アのとお-35-り極めて多額の所得金額を圧縮し,結果としては数千万円もの納税を免れることになるものであって(別紙2の各「納税額」欄参照),重大である。 これらに対し,原告は,客観的に見ても,原告による確定申告書の作成の結果として,従前,所得税を無申告,無納税であったAについて,平成18年度分として4万2200円,平成19年度分として156万0300円,平成20年度分として535万4400円の合計約700万円の所得税の納付が実現した旨主張するが,このような事情は,上記のとおりの行為の性質及び態様の悪質さ,その効果の重大さという消極的な事情を上回るような積極的な事情とは認められない。 なお,原告は,本件各確定申告時においては,被告のいう「本来納税すべき金額」,すなわち本件各修正申告に基づく納税額を把握できなかった旨主張してもいる。しかしながら,原告は,本件メモ(甲4の1から3まで)に記載された売上金額は何の根拠もない金額だとは思っておらず,納税額も3年分で合計1000万円以下になることはないと思っていた(認定事実(6))にもかかわらず,本件メモの売上金額の5割相当額を申告上の売上金額とし,その3割相当額を所得金額とすることとし,これに沿う本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成したものである(認定事実(5))から,原告が主張する上記のような事情があったとしても,原告の行為の悪質性及び重大性を何ら左右するものとは認められない。 ウ税理士の行為の前後の態度原告は,本件各確定申告後,Aとの後日の修正申告の約束に基づき,修正申告にいつでも取り掛かる準備でいたが,同人の巧妙な裏切り行為によって,これが実現せず,また,同人の所得税法違反被告事件においても,本件聴 本件各確定申告後,Aとの後日の修正申告の約束に基づき,修正申告にいつでも取り掛かる準備でいたが,同人の巧妙な裏切り行為によって,これが実現せず,また,同人の所得税法違反被告事件においても,本件聴聞の期日においても,一貫して真実を述べるなど,その態度に不誠実な点は見られない旨主張する。 確かに,原告は,警察に押収された資料が返還されなければ正しい所得-36-税の確定申告をすることができないと誤解していたことをAに利用されていた面が見られるものの,平成22年春頃に同人の所得税の申告に関与することを正式に断るまでの間,修正申告することを積極的に同人に促していた様子はうかがわれない(認定事実(7))。また,Aの所得税法違反被告事件及び本件聴聞の期日において,虚偽の事実を述べていた様子はうかがわれないが,これらの機会に真実を述べるべきことは当然である。そうすると,これらのことは処分の量定の判断に当たって格別に積極的な事情として考慮しなければならないものとまでは認められないというべきである。 エ選択する処分が他の税理士及び社会に与える影響原告は,後日の修正申告をする約束の下に,やむを得ず真実には合致しない金額での仮申告をして納税させる行為が,その動機や経緯にかかわらず最も重い懲戒処分を受けるとなれば,税理士は客観的な資料を有していない依頼者からの申告依頼は受任せず,客観的な資料がない限りは申告をしないという方向に萎縮するおそれがあり,結果として,「納税義務の適正な実現」(税理士法1条)という使命を果たすことができないばかりか,違法な無申告が増長しかねない旨主張する。 しかしながら,原告は,上記のとおり,①本件メモ(甲4の1から3まで)に記載された売上金額よりも,実際の売上金額が多額である可能性が ばかりか,違法な無申告が増長しかねない旨主張する。 しかしながら,原告は,上記のとおり,①本件メモ(甲4の1から3まで)に記載された売上金額よりも,実際の売上金額が多額である可能性があると認識していた(認定事実(6))にとどまらず,②納税額が3年分で合計1000万円以下になることはないと思っていた(認定事実(6))にもかかわらず,Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように,本件メモの売上金額の5割相当額を申告上の売上金額とし,その3割相当額を所得金額とすることとし,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成したものである(認定事実(5))。このような原告の行為は,そもそも原告が主張するような「やむを得ず真実には合致しな-37-い金額での仮申告をして納税させる行為」と認められないから,原告の上記主張は,少なくとも本件については妥当せず,失当である。かえって,原告の行為については,上記のとおり申告納税制度の理念に反し,税理士の使命に反する行為であるというべきことからすれば,他の税理士及び社会に与える影響を勘案し,厳格な処分が選択されるべきであるといえる。 オその他個別事情原告は,原告が本件のような暫定的な申告をした主たる動機は,従前,納税の申告をしてこなかったAに対して適正な納税を促し,再び,違法な無申告を繰り返すことのないようにすることにあり,無申告を回避し,せめて当該時点において納税できる金額を納税させ,「納税義務の適正な実現を図る」との税理士の使命を可能な限りで全うしようとしたものである旨主張する。 しかしながら,原告は,上記のとおり,Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように,本件メモ(甲4の1から3まで)の売上金額の5割相当額を申告上 である旨主張する。 しかしながら,原告は,上記のとおり,Aの依頼により,3年分の納税額が合計1000万円以下となるように,本件メモ(甲4の1から3まで)の売上金額の5割相当額を申告上の売上金額とし,その3割相当額を所得金額とすることとし,本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成したものである(認定事実(5))。そうすると,原告が主張するように,原告には自身の特別の利益を得ようとしたというような内心が存在することはうかがわれなかったとしても,このような原告の行為は,「適正な納税を促した」,あるいは「『納税義務の適正な実現を図る』との税理士の使命を可能な限りで全うしようとした」と評価することはできないものといわざるを得ない。 (3) 小括以上のとおり,原告の責任を問い得る不正所得金額は極めて多額に上り,原告の行為の性質及び態様は悪質で,その効果も重大であることが認められる。そして,原告の行為の前後の態度並びに選択する処分が他の税理士及び-38-社会に与える影響の各要素に関しては,処分の量定の判断に当たって格別に原告に有利に考慮すべき積極的な事情は認められない。 そうすると,原告には懲戒処分歴がなく,本件各確定申告に際して自身の特別の利益を得ようとしたというような内心が存在することはうかがわれないという事情を考慮したとしても,処分行政庁が,上記前提事実(4)アの①及び②の不利益処分の原因となる事実を理由として,原告に対して税理士業務の禁止の処分(本件処分)を選択したという判断は社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとは認められず,本件処分は適法であるというべきである。 4 結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につい て裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとは認められず,本件処分は適法であるというべきである。 4 結論 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 谷口豊 裁判官 坂田大吾 裁判官 竹林俊憲

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