平成22(行ウ)56等 原爆症認定義務付等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年5月9日 大阪地方裁判所 その他
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判決文本文72,358 文字)

主文 1 本件訴えのうち,厚生労働大臣が承継前第2事件原告亡Aaに対して原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をすることの義務付けを求める部分(申請疾病腎臓がんに係る部分に限る。)を却下する。 2 厚生労働大臣が平成22年8月26日付けで承継前第1事件原告亡Bbに対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 3 厚生労働大臣は,承継前第1事件原告亡Bbに対し,同人が平成20年3月6日付けでした申請に係る原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 4 厚生労働大臣が平成22年11月26日付けで承継前第2事件原告亡Aaに対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分(申請疾病慢性腎不全に係る部分に限る。)を取り消す。 5 厚生労働大臣は,承継前第2事件原告亡Aaに対し,同人が平成20年9月9日付けでした申請(申請疾病慢性腎不全に係る部分に限る。)に係る原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は,第1事件原告らに生じた費用(承継前第1事件原告亡Bbに生じた費用を含む。)の2分の1と被告に生じた費用の4分の1を第1事件原告らの負担とし,第2事件原告に生じた費用(承継前第2事件原告亡Aaに生じた費用を含む。)の4分の3と被告に生じた費用の8分の3を第2事件原告の負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求第1 第1事件 1 主文2項及び3項と同旨 2 被告は,第1事件原告らに対し,300万円及びこれに対する平成22年9 用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求第1 第1事件 1 主文2項及び3項と同旨 2 被告は,第1事件原告らに対し,300万円及びこれに対する平成22年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 第2事件 1 厚生労働大臣が平成22年11月26日付けで承継前第2事件原告亡Aaに対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 2 厚生労働大臣は,承継前第2事件原告亡Aaに対し,同人が平成20年9月9日付けでした申請に係る原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をせよ。 3 被告は,第2事件原告に対し,300万円及びこれに対する平成23年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条の被爆者である承継前原告らが,それぞれ被爆者援護法11条1項の規定による認定(以下「原爆症認定」という。)の申請(以下,併せて「本件各申請」という。)をしたところ,厚生労働大臣が本件各申請を却下する旨の処分(以下,併せて「本件各却下処分」という。)をしたことから,原告らが,被告に対し,本件各却下処分の取消し及び原爆症認定の義務付けを求めるとともに,国家賠償法1条1項の規定により,慰謝料各200万円及び弁護士費用各100万円並びにこれらに対する不法行為後である請求の趣旨変更申立書送達の日の各翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第1 法令の定め 1 被爆者援護法の目的被爆者援護法の前文は,同法の目的について,次のとおり規定する。 「 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第1 法令の定め 1 被爆者援護法の目的被爆者援護法の前文は,同法の目的について,次のとおり規定する。 「昭和二十年八月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後五十年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」 2 被爆者被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の(1)~(4)のいずれかに該当する者であって被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条)。 (1)原子爆弾が投下された際に当時の広島市若しく 爆者援護法において,「被爆者」とは,次の(1)~(4)のいずれかに該当する者であって被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条)。 (1)原子爆弾が投下された際に当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号。なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項,別表第一は,上記の「政令で定めるこれらに隣接する区域」とし て,広島県Y等の一部及び長崎県Zの一部を規定している。)(2)原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に上記(1)の区域のうち政令で定める区域内に在った者(被爆者援護法1条2号。なお,被爆者援護法施行令1条2項は,上記の「政令で定める期間」を,広島市に投下された原子爆弾(以下「広島原爆」という。)については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾(以下「長崎原爆」という。)については同月23日までとしており,同条3項,別表第二は,上記の「政令で定める区域」として,おおむね爆心地から2㎞以内の区域を規定している。)(3)上記(1)及び(2)に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(被爆者援護法1条3号)(4)上記(1)~(3)に掲げる者がそれぞれに記載された事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号) 3 被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地)の都道府県知事(広島市又は長崎市にあっては,当該市の長(被爆者援護法49条)。以下同じ。)に申請しなければならず(被爆者援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し ときは,その現在地)の都道府県知事(広島市又は長崎市にあっては,当該市の長(被爆者援護法49条)。以下同じ。)に申請しなければならず(被爆者援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が前記2(1)~(4)のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同条3項)。 4 被爆者に対する援護(1)健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行う(被爆者 援護法9条)。 (2)医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者(ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。)に対し,必要な医療の給付を行う(被爆者援護法10条1項)。 上記の医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が指定する医療機関に委託して行う(同条3項)。 上記の医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)。 (3)一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(前記(2)の医療の給付を受け 因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)。 (3)一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(前記(2)の医療の給付を受けることができる負傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が指定する医療機関から前記(2)①~⑥に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(被爆者援護法18条1項本文)。 (4)医療特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(被爆者援護法2 4条1項)。 上記の者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき13万5400円とする(同条3項。なお,上記の額は,後記(9)の規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。医療特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 (5)特別手当の支給都道府県知事は,原爆症認定を受けた者に対し,その者が医療特別手当の支給を受けている場合を除き,特別手当を支給する(被爆者援護法25条1項)。 上記の者は,特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならな を受けている場合を除き,特別手当を支給する(被爆者援護法25条1項)。 上記の者は,特別手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。 特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円とする(同条3項。なお,上記の額は,後記(9)の規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。特別手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 (6)健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合を除き,健康管理手当を支給する(被爆者援護法27条1項。なお,原子 爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(以下「被爆者援護法施行規則」という。)51条は,上記の「厚生労働省令で定める障害」として,造血機能障害,肝臓機能障害,細胞増殖機能障害,内分泌腺機能障害等を規定している。)。 (7)保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際に爆心地から2㎞の区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,これらの者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合を除き,保健手当を支給する(被爆者援護法28条1項)。 (8)その他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者等に対し,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26 の支給を受けている場合を除き,保健手当を支給する(被爆者援護法28条1項)。 (8)その他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者等に対し,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(被爆者援護法31条)等を支給する。 (9)手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成5年(上記各手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定するものとし,その改定の措置は,政令(被爆者援護法施行令17条)で定める(被爆者援護法29条)。 5 原爆症認定の手続等(1)原爆症認定の申請原爆症認定を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。 上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者 健康手帳の番号,②負傷又は疾病の名称,③被爆時の状況(入市の状況を含む。),④被爆直後の症状及びその後の健康状態の概要,⑤医療の給付を受けようとする指定医療機関の名称及び所在地等を記載した所定の様式の認定申請書によらなければならない(被爆者援護法施行規則12条1項。なお,平成20年厚生労働省令第41号による改正前の同項においては,上記③及び④は記載事項とされておらず,「被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷若しくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状が においては,上記③及び④は記載事項とされておらず,「被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷若しくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状があったときは,その医療又は自覚症状の概要」を記載するものとされていた。)。また,上記申請書には,所定の様式の医師の意見書及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えなければならない(同条2項)。 (2)審議会等の意見聴取厚生労働大臣は,原爆症認定を行うに当たっては,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときを除き,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)であって政令で定めるものの意見を聴かなければならない(被爆者援護法11条2項)。 そして,被爆者援護法施行令9条は,上記の審議会等であって政令で定めるものを,疾病・障害認定審査会としている。 疾病・障害認定審査会は,厚生労働省に置かれ(厚生労働省組織令132条),委員30人以内で組織される(疾病・障害認定審査会令1条1項)。 同審査会には,必要に応じて臨時委員及び専門委員を置くことができ,委員,臨時委員及び専門委員は,学識経験のある者等のうちから厚生労働大臣が任命する(同令1条2項,3項,2条)。同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)が置かれ(同令5条1項),医療分科会に属すべき委員,臨時委員及び専門委員は, 厚生労働大臣が指名する(同条2項)。 (3)認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症認定をしたときは,その者の居住地等の都道府県知事を経由し , 厚生労働大臣が指名する(同条2項)。 (3)認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき原爆症認定をしたときは,その者の居住地等の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被爆者援護法施行令8条4項)。 第2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 1 原子爆弾の投下アメリカ合衆国軍は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市に広島原爆を投下し,同月9日午前11時2分,長崎市に長崎原爆を投下した(公知の事実)。 2 「原爆症認定に関する審査の方針」の策定医療分科会は,平成13年5月25日,以下のような内容の「原爆症認定に関する審査の方針」(以下「旧審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A2)。 (1)原爆放射線起因性の判断ア判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率)及びしきい値(一定の被曝線量以上の放射線を浴びなければ疾病等が発生しない値)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,①おおむね50%以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,②おおむね 10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定した上で,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断を行う。また の健康影響の可能性があることを推定し,②おおむね 10%未満である場合には,当該可能性が低いものと推定した上で,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断を行う。また,原因確率又はしきい値が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等については原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別に判断する。 イ原因確率原因確率は,白血病,胃がん,大腸がん,甲状腺がん,乳がん,肺がん,肝臓がん,皮膚がん(悪性黒色腫を除く。),卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む。),食道がん,その他の悪性新生物及び副甲状腺機能亢進症について,それぞれ,申請者の性別,被曝時年齢及び被曝線量に応じた所定の率とする。 ウしきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 エ原爆放射線の被曝線量申請者の被曝線量は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とする。そして,①初期放射線の被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離(2.5㎞まで)の区分に応じた所定の値とし,②残留放射線の被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700mまで,長崎原爆については600mまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値とし,③放射性降下物による放射線の被曝線量は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該所定の地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値とする。 (2)要医療性の判断 要医療性 放射線の被曝線量は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該所定の地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値とする。 (2)要医療性の判断 要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 3 「原爆症認定に関する審査の方針」の見直し(1)「新しい審査の方針」の策定医療分科会は,平成20年3月17日,以下のような内容の「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を策定し,原爆症認定に係る審査は,「被爆者援護法の精神に則り,より被爆者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため」,これに定める方針を目安として行うものとした(乙A1の1)。 ア放射線起因性の判断(ア)積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5㎞以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2㎞以内に入市した者又は③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2㎞以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定する(以下,この認定方法を「積極認定」という。)。 a 悪性腫瘍(固形がんなど)b 白血病c 副甲状腺機能亢進症d 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)e 放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考 梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料がない場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ)それ以外の申請について前記(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断する(以下,この認定方法を「総合認定」という。)。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断する。 (2)新審査の方針の改定医療分科会は,平成21年6月22日,新審査の方針を改定し,積極認定の対象疾病(前記(1)ア(ア)a~e)に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加した(乙A1の2)。 4 本件各却下処分の経緯等(1)亡Bに関する経緯等ア承継前第1事件原告亡Bb(以下「亡B」という。)は,大正12年○月○日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙D10)。 イ亡Bは,平成20年3月6日,「心筋梗塞」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件B申請」という。)をした(乙D1)。 ウ亡Bは,同年12月9日,厚生労働大臣に対し,本件B申請に係る不作為についての異議申立てをし,厚生労働大臣は,同月22日付けで,亡Bに対し,不作為の理由を通知した(乙D12の1・2)。 エ亡Bは,平成22年3月15日,厚生労働大臣の本件B申請に係る不作為の違法確認及び原爆症認定の義務付け並びに上記不作為に係る国家賠償を求めて第1事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 オ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会 厚生労働大臣の本件B申請に係る不作為の違法確認及び原爆症認定の義務付け並びに上記不作為に係る国家賠償を求めて第1事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 オ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,同年8月26日付けで,亡Bに対し,本件B申請を却下する旨の処分(以下「本件B却下処分」という。)をした(乙D2,3)。 カ亡Bは,同年9月15日付け請求の趣旨変更申立書により,第1事件に係る請求を,本件B却下処分の取消し,本件B申請に係る原爆症認定の義務付け及び本件B却下処分に係る国家賠償を求めるものに変更し,上記申立書は,同日,被告に送達された(顕著な事実)。 キ亡Bは,平成23年7月15日に死亡し,亡B承継人第1事件原告ら(以下,併せて「原告Bら」という。)が亡Bを相続するとともに第1事件に係る訴えを承継した。 (2)亡Aに関する経緯等ア承継前第2事件原告亡Aa(以下「亡A」という。)は,大正12年○○月○日生まれの男性であり,被爆者援護法1条の被爆者である(乙F6)。 イ亡Aは,平成20年9月9日,「腎臓癌」を申請疾病とする原爆症認定の申請(以下「本件A申請」という。)をした(乙F1)。 ウ亡Aは,平成21年3月16日,厚生労働大臣に対し,本件A申請に係る不作為についての異議申立てをし,厚生労働大臣は,同月27日付けで,亡Aに対し,不作為の理由を通知した(乙F8の1・2)。 エ亡Aは,平成22年8月4日,厚生労働大臣の本件A申請に係る不作為の違法確認及び原爆症認定の義務付け並びに上記不作為に係る国家賠償を求めて第2事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 オ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,同年11月26日付けで,亡Aに対し,本件 に上記不作為に係る国家賠償を求めて第2事件に係る訴えを提起した(顕著な事実)。 オ厚生労働大臣は,疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上,その意見に従い,同年11月26日付けで,亡Aに対し,本件A申請を却下する旨の処分(以下「本件A却下処分」という。)をした(乙F15,16)。 カ亡Aは,平成23年1月24日付け請求の趣旨変更申立書により,第2事件に係る請求を,本件A却下処分の取消し,本件A申請に係る原爆症認定の義務付け及び本件A却下処分に係る国家賠償を求めるものに変更し,上記申立書は,同月25日,被告に送達された(顕著な事実)。 キ亡Aは,同年4月2日に死亡し,その後,亡A承継人第2事件原告(以 下「原告A」という。)が亡Aを相続するとともに第2事件に係る訴えを承継した。 5 放射線の種類等(1)放射線の種類(乙A159,160)アアルファ線は,2個の陽子と2個の中性子から成る粒子線であって,その電離作用は大きいが,物質との相互作用が強く物質通過中に急速にエネルギーを失っていくため,透過力は極めて小さく,空気中では数㎝程度しか飛ばず,薄い紙1枚で完全に止めることができる。 イベータ線は,高速度の電子から成る粒子線であって,その電離作用及び透過力は中程度であり,空気中では数十㎝~数mの距離まで届く。 ウガンマ線は,電磁波であって,質量や電気を持たず物質との相互作用が弱いため,その透過力は大きいが,電離作用は小さい。 エ中性子線は,電気を持たない中性子から成る粒子線であって,それ自体は電荷を帯びていないが,陽子にぶつかると体内で電離を引き起こすとされ,その透過力は大きい。 (2)放射線に関する単位等(乙A160,弁論の全趣旨)ア照射線量とは,放射線がある場所における空気を電離する びていないが,陽子にぶつかると体内で電離を引き起こすとされ,その透過力は大きい。 (2)放射線に関する単位等(乙A160,弁論の全趣旨)ア照射線量とは,放射線がある場所における空気を電離する能力であり,その単位としては,クローン毎キログラム(C/㎏)やレントゲン(R)が用いられる。1レントゲンは,放射線の照射によって標準状態の空気1㎤当たり1静電単位(esu)のイオン電荷が発生したときの放射線の総量である(1レントゲンは,おおむね0.87ラドに相当する。)。 イ吸収線量とは,物質に吸収された放射線のエネルギーの量であり,その単位としては,グレイ(Gy)が用いられる。物質1㎏当たり1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量が1グレイである。なお,吸収線量の単位としては,かつてはラド(Rad)が用いられており,1グレイ(100センチグレイ)は100ラドと等しい。 ウ等価線量とは,人体が吸収した放射線の影響度を表すものであり,吸収線量の単位をグレイとしたときの等価線量の単位はシーベルト(Sv)である。等価線量は,放射線の種類によって人体に対するリスクが異なることから,吸収線量値に放射線の種類ごとに定められた係数(放射線荷重係数)を乗じて算出する(放射線荷重係数は,ベータ線及びガンマ線については1,アルファ線については20,中性子線についてはエネルギーに応じて5~20とされている。)。 エ実効線量とは,人体の組織・臓器への影響の評価を表すものであり,その単位としては,シーベルト(Sv)が用いられる。実効線量は,等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることから,等価線量に個別の人体組織の放射線感受性を表す係数(組織荷重係数)を乗じて算出する。 第3 争点及び当事者の主張本 等価線量が同じでもその影響の現れ方が人体の組織・臓器によって異なることから,等価線量に個別の人体組織の放射線感受性を表す係数(組織荷重係数)を乗じて算出する。 第3 争点及び当事者の主張本件における争点は,①原爆症認定における放射線起因性の判断基準,②亡B及び亡Aの原爆症認定要件該当性(放射線起因性及び要医療性),③原爆症認定の義務付けの訴えの適法性等及び④本件各却下処分についての国家賠償責任であり,これらの争点に関する当事者の主張は,争点②~④について要旨を以下に記載するほか,別紙2(原告らの主張)及び別紙3(被告の主張)に記載のとおりである。 1 争点②(原爆症認定要件該当性)について(1)亡Bについて(原告Bらの主張)ア被爆状況等昭和20年8月6日の広島原爆投下時,亡B(当時22歳)は,陸軍船舶整備隊教育隊(暁19809部隊)に所属しており,広島県CD(爆心地から約7㎞)の簡易兵舎内で被爆した。 亡Bは,同日午前,広島市内に派遣されていた分隊の捜索のため,船で広島市E(同約4㎞)に行き,同日昼にはDに戻った。その後,亡Bは,同月9日まで,Dの兵舎に運び込まれた100名程度の負傷者の救護・看護や遺体の運搬等に従事したが,その際には手袋やマスクもなく,素手で作業を行った。 また,亡Bは,同月10日朝,部隊と共に広島市内の救護活動に出発し,EからF付近まで北上して,同日午前中にはG付近(爆心地付近)を通過した。その後,亡Bは,部隊と共にH(爆心地から約1.5㎞)に入り,同月12日までの3日間,同町付近の倒壊家屋の下から遺体を掘り出して運搬し,荼毘に付す作業に従事したが,その際には手袋やマスクもなく,素手で作業を行った。 亡Bは,被爆直後から,軽い傷や虫刺されが治癒するのが遅く 3日間,同町付近の倒壊家屋の下から遺体を掘り出して運搬し,荼毘に付す作業に従事したが,その際には手袋やマスクもなく,素手で作業を行った。 亡Bは,被爆直後から,軽い傷や虫刺されが治癒するのが遅くなり,30代の頃には蜂に刺されたことによる腫れが1年以上治らなかったこともある。また,被爆後は下痢が多くなった。 以上のような被爆状況等に照らすと,亡Bが誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性亡Bは,前記アのとおり相当量の放射線に被曝していること,原爆放射線への被曝と心筋梗塞の発症との間に有意な関係が認められることは既に医学的・疫学的知見から明らかになっていること,新審査の方針においては,原爆投下から約100時間以内に爆心地から約2㎞以内に入市した者から心筋梗塞を申請疾病として原爆症認定の申請をした場合には放射線起因性について積極的に認定するとされていること等に照らせば,亡Bの心筋梗塞が原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 (被告の主張)ア被爆状況等 亡Bは,昭和20年8月6日の原爆投下当時,爆心地から約7㎞の地点に位置する広島県CDの兵舎内に居たのであるから,初期放射線には被曝していない。また,亡Bが,同月10日午前10時頃に広島市Hに入市し,その際,亡Bが爆心地付近を通過していたとしても,原爆投下から約100時間後に爆心地付近に入市し,その後無限時間同じ所に滞在し続けたというあり得ない仮定に基づいて算出した誘導放射線量は0.03グレイとなるから,一時的に爆心地付近を通過したにすぎない亡Bが被曝した誘導放射線量はこれをはるかに下回る。また,亡Bが同月12日までHに駐屯していたとしても,その誘導放射線の積算放射 量は0.03グレイとなるから,一時的に爆心地付近を通過したにすぎない亡Bが被曝した誘導放射線量はこれをはるかに下回る。また,亡Bが同月12日までHに駐屯していたとしても,その誘導放射線の積算放射線量は,0.000002グレイを下回る。さらに,亡Bが,原爆投下後,Dの兵舎内で被爆者の救護や看護をし,Hで遺体を掘り起こす作業等に従事したとしても,放射線により誘導放射化された人体に接したことによる被曝の影響については,健康被害の観点からみて有意な線量の被曝とはいえない。そして,内部被曝による健康被害への影響は重視する必要はないというのが確立した科学的知見であることから,仮に,亡Bが内部被曝をしていたとしても,その被曝線量は小さく,これによって,健康被害の観点から,有意な線量の被曝をしたということはできない。そうすると,亡Bの推定被曝線量は,亡Bの入市経路に係る原告Bらの主張を前提としても,その推定被曝線量は,0.03グレイをはるかに下回ることになる。 また,被爆直後の時期に亡Bに下痢が生じた事実を認めることはできない上,仮に,下痢が生じていたとしても,放射線被曝による急性症状としての特徴を備えるものとは認められないし,外傷の治癒に時間を要する症状についても,長期間持続したとする点等において,放射線被曝による免疫作用(主症状としての骨髄障害)の特徴に関する一般的な医学的知見と合致していないことは明らかである。よって,亡Bに,放射線被曝を原因とする急性症状が生じていたとはいえない。 イ放射線起因性心筋梗塞は,虚血性心疾患の一つであり,動脈硬化を主因とする生活習慣病である。心筋梗塞の放射線起因性に関する確立した知見はないところ,疫学調査も心筋梗塞と低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得るものではなく,最新の科学的知 一つであり,動脈硬化を主因とする生活習慣病である。心筋梗塞の放射線起因性に関する確立した知見はないところ,疫学調査も心筋梗塞と低線量の放射線被曝との関連性を肯定し得るものではなく,最新の科学的知見においても,しきい値の存在は否定されていない。そうであるところ,亡Bの推定被曝線量は上記しきい値(放射線防護の観点を加味してより低く見積もっても0.5グレイ程度)に到底及ばず,亡Bに放射線被曝による急性症状があったとも認められない上,亡Bは,加齢,喫煙,脂質異常症といった動脈硬化の危険因子を複数有しているのであるから,亡Bの心筋梗塞が原爆放射線により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その発症は,加齢,喫煙,脂質異常症等の原爆放射線以外の要因によるとみるのが自然かつ合理的である。 よって,亡Bの申請疾病(心筋梗塞)については,放射線起因性の要件を満たすということはできない。 (2)亡Aについて(原告Aの主張)ア被爆状況等昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,亡A(当時21歳)は,学徒動員により長崎市IのJ造船所に派遣されており,同造船所(爆心地から約3.2㎞)のビル内で作業中に被爆した。 亡Aは,同日午後,KのJ製鋼所の工場に派遣されていた友人を捜索するため,船でLまで行き,Kの方向へ向かったが,火災のため途中で引き返した。その後,亡Aは,Iで防空壕を掘る作業に従事し,約2週間後,大阪の実家に戻った。 亡Aは,被爆した日から二,三日間下痢に苦しみ,その後も,栄養不良や虫歯,神経症,脳梗塞,前立腺肥大,副甲状腺腫瘍等に罹患している。 以上のような被爆状況等によると,亡Aが初期放射線のみならず誘 ,被爆した日から二,三日間下痢に苦しみ,その後も,栄養不良や虫歯,神経症,脳梗塞,前立腺肥大,副甲状腺腫瘍等に罹患している。 以上のような被爆状況等によると,亡Aが初期放射線のみならず誘導放射線等による外部被曝及び内部被曝により相当量の放射線に被曝したことは明らかである。 イ放射線起因性亡Aの申請疾病は,認定申請書には「腎臓癌」と記載されているが,医師の意見書の記載等に照らすと,腎臓がんのみならず慢性腎不全も含まれるというべきである。 そして,亡Aは,前記アのとおり相当量の放射線に被曝していること,原爆放射線と悪性腫瘍の発症との間には一般に有意な関係が認められていること,新審査の方針においても,被爆地点が爆心地から約3.5㎞以内である者が悪性腫瘍を申請疾病として原爆症認定の申請をした場合には放射線起因性について積極的に認定するとされていること等に照らせば,悪性腫瘍である亡Aの腎臓がんが原爆放射線に起因するものであることは明らかである。 また,亡Aは,腎臓がんの治療として右腎臓摘出手術を受けた後,腎機能が低下して慢性腎不全が悪化しているのであるから,亡Aの腎臓がんと慢性腎不全との間には相当因果関係があるといえる上,最近の疫学調査の結果として被爆者の慢性腎臓病の発症と被曝線量との間に相関関係があるとの報告がされており,亡Aの慢性腎不全はもともと原爆放射線の影響で生じた可能性があるから,亡Aの慢性腎不全についても,放射線起因性が認められる。 ウ要医療性亡Aの腎臓がんは,非再発生存率が90%程度とされる病期のものではあるが,高齢者の場合,腎臓がんの再発率は比較的高くなるという報告が ある上,予後も相当悪いといえるから,腫瘍を取り除いた後も定期的な経過観察が重要であったと %程度とされる病期のものではあるが,高齢者の場合,腎臓がんの再発率は比較的高くなるという報告が ある上,予後も相当悪いといえるから,腫瘍を取り除いた後も定期的な経過観察が重要であったところ,亡Aは,少なくとも半年に1回程度は腎臓がんについての定期検査を受けていた。このように,要医療状態になる可能性があり,治療の一環として経過観察が行われていた以上,亡Aの腎臓がんについては要医療性が認められるというべきである。 また,亡Aの慢性腎不全については,現に程度が悪化して要医療状態であったところ,その進行を予防するため,食事療法や血圧管理といった治療を受けていた上,本件A申請後,本件A却下処分までには漢方薬であるM八味地黄丸エキス顆粒の処方も受けていたのであるから,要医療性が認められる。 (被告の主張)ア放射線起因性亡AのeGFR値に照らすと,亡Aは,右腎臓の摘出後も腎不全の状態にあったとはいえない上,摘出以前から腎機能が低下しており,加齢,高血圧,高尿酸血症,高脂血症,肥満,高血糖等の腎機能低下の危険因子を多数有していたから,上記の腎機能低下が腎臓がんの治療としての右腎臓摘出手術により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえず,むしろ,その腎機能の低下は,加齢等の右腎臓の摘出以外の要因によるものと考えるのが自然かつ合理的である。よって,亡Aの慢性腎不全については,放射線起因性が認められない(なお,亡Aの腎臓がんの放射線起因性については,積極的に争うものではない。)。 イ要医療性亡Aの腎臓がんは,最も病期が低く(TNM分類でpT1a期),予後の悪くないものであり,術後約10年が経過しても再発・転移してい 性については,積極的に争うものではない。)。 イ要医療性亡Aの腎臓がんは,最も病期が低く(TNM分類でpT1a期),予後の悪くないものであり,術後約10年が経過しても再発・転移していなかったのであって,本件A申請までには,1年に1度,問診,血液検査等の 一般検査といった被爆者援護法上の健康診断における検査項目に含まれる程度の経過観察を行えば足りる状態となっていた。そして,亡Aは,実際に,腎臓がんに対する積極的な治療を受けていなかったのであるから,亡Aの腎臓がんについては,要医療性が認められない。 また,亡Aは,腎機能低下に着目した積極的な治療を受けていたとは認められず,定期的な血液検査等の経過観察を受けていたにすぎない(なお,要医療性の要件は,原爆症認定の申請時において満たされることを要すると解すべきところ,亡AがM八味地黄丸エキス顆粒を処方されたのは本件A申請後である上,M八味地黄丸エキス顆粒については,慢性腎不全に対する効能又は効果は認められていない。)。よって,亡Aの慢性腎不全については,要医療性が認められない。 2 争点③(義務付けの訴えの適法性等)について(原告らの主張)前記1(1)(原告Bらの主張)及び同(2)(原告Aの主張)のとおり,本件各申請に係る各申請疾病については,放射線起因性及び要医療性が認められ,本件各却下処分の取消しの訴えに係る請求はいずれも認容されるべきであるから,原爆症認定の義務付けを求める訴えは適法である。そして,本件各申請については原爆症認定がされるべきであるから,厚生労働大臣に本件各申請に係る原爆症認定をするよう義務付けるべきである。 (被告の主張)原爆症認定の義務付けを求める原告らの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えに 厚生労働大臣に本件各申請に係る原爆症認定をするよう義務付けるべきである。 (被告の主張)原爆症認定の義務付けを求める原告らの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えに該当するところ,これに併合提起された本件各却下処分の取消しの訴えに係る請求は,前記1(1)及び(2)の各(被告の主張)のとおり,いずれも認容されるべきではないから,上記義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさず,不適法である。 3 争点④(国家賠償責任)について (1)違法性について(原告らの主張)ア厚生労働大臣は,原爆症認定行政を行うに当たり,最高裁平成12年判決等に従い,①DS86等による初期放射線量の数値計算にのみ基づく原爆症認定の在り方を否定し,②放射線による急性症状等や被爆後に生じた体調不良といった被爆者(申請者)に生じた具体的事実を重視し,③これらの被爆前後の被爆者に生じた客観的な間接事実を前提として,その積み上げに基づき,経験則により事実上の推定を働かせて判断する義務を負っていたにもかかわらず,その義務に違反した。すなわち,亡B及び亡Aは,最高裁平成12年判決等から導かれる総合判断の認定手法や,その後に策定された新審査の方針に従えば,当然に原爆症認定を受けるべき者であるところ,厚生労働大臣は,医療分科会の明白な過誤に対して注意喚起を行うこともなければ,その結論に何らの疑義も挟まず,本件各却下処分を行ったものである。 また,厚生労働大臣は,審査にあたって行政手続法5条1項に要求される審査基準を示さず,本件各却下処分を行うに当たり,同法8条に要求される処分の理由を示さなかった。 このような本件各却下処分は,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務に反してされたものというべきであり, を示さず,本件各却下処分を行うに当たり,同法8条に要求される処分の理由を示さなかった。 このような本件各却下処分は,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務に反してされたものというべきであり,国家賠償法1条1項の違法があることは明らかである。 イ被爆者援護法が被爆者の高齢化に着目しつつ,国家補償的措置として原爆症認定制度を定めていること,多くの被爆者が認定を待ちながら亡くなっていく現実があること等からすれば,原爆症認定において迅速に認定を受けることは非常に重要である。ところで,原爆症認定の申請後処分までに通常必要な期間は,①申請後必要な添付書類の追完まで1か月,②実質的審理に1か月,③事務的手続に1か月の合計3か月であるから,上記の 相当の期間は3か月である。そうすると,厚生労働大臣が,本件各申請を,原爆症認定の要件を満たすことが明らかであるにもかかわらず,3か月を超えて長期間放置したことは,国家賠償法上違法である。 厚生労働大臣は,原爆症認定申請者の増加に対応して,更に人員の増員や認定方法の見直し等を行うなど必要な審査体制を整備することが求められるのであって,申請者の増加は申請の放置を正当化するものではない。 (被告の主張)ア本件各却下処分については,科学的経験則というに足りる十分な科学的知見に基づく吟味が尽くされた上で放射線起因性があるということはできないなどとされたものであって,これを国家賠償法上違法とする余地はない。 なお,行政手続法5条1項の審査基準設定義務は,例外が認められないものではなく,審査基準を設定しないことに合理的な理由等がある場合には,行政庁は,審査基準を設定することを要しないと解すべきところ,原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性の判断の個別具体性に鑑みれば,行政庁である 設定しないことに合理的な理由等がある場合には,行政庁は,審査基準を設定することを要しないと解すべきところ,原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性の判断の個別具体性に鑑みれば,行政庁である厚生労働大臣が,被爆者援護法11条1項の定め以上に具体的な基準を定めることは極めて困難であるし,同条2項は,厚生労働大臣は,原爆症認定に当たり,原則として審議会の意見を聴かなければならないとしており,処分の客観的な適正妥当と公正を担保し,処分を適正ならしめているから,原爆症認定について審査基準を設定する必要はないというべきであり,厚生労働大臣が審査基準を定めることなく本件各却下処分をしたことは,行政手続法5条1項に違反するものではない。 また,同法8条の規定による理由の提示の程度は,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきところ,例えば,原爆症認定において放射線起因性がないという理由で却下処分がされる場合には,申請者の放射線起因性があるとして申請をした疾患について, 申請者が提出した添付書類に基づき,医学的・科学的知見を踏まえて,その疾患が原爆放射線の影響によるものか否かが判断され,その結果,放射線起因性が認められなかったことが明らかであるし,その却下処分の基となった事実関係は申請者において明らかである。したがって,根拠条文のほか,単に「申請疾患については,通常の医学的知見に照らして放射線起因性が認められない」旨の理由付記をすれば,十分に処分庁の恣意が抑制され,申請者に対しても不服申立ての便宜が図られているというべきところ,本件各却下処分に係る通知書には上記のような記載があるから,本件各却下処分は,同条に違反するものではない。 イ厚生労働大臣は,申請数が急増する中で,原爆症認定の審査の迅速化を というべきところ,本件各却下処分に係る通知書には上記のような記載があるから,本件各却下処分は,同条に違反するものではない。 イ厚生労働大臣は,申請数が急増する中で,原爆症認定の審査の迅速化を図るための様々な施策を講じつつ,限られた人員を最大限に活用しながら審査を行ってきた。 そして,亡Bの申請疾病である心筋梗塞については,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」に該当するか否かの判断が必要となるところ,本件B申請については,この点を含む原爆症認定の判断に当たって必要な書類が十分にそろっていなかったため,資料等の追加提出を求めたにもかかわらず,回答期限の約11か月後になってようやく提出され,本件A申請についても,要医療性の要件の判断に関わる書類等の必要書類の一部が申請書に添付されていなかったため,資料等の追加提出を求めたにもかかわらず,回答期限の約1年5か月後になってようやく提出されている。 このような審査の状況等に鑑みれば,厚生労働大臣が,本件各申請を漫然と長期間放置していたとはいえず,審査促進のために職務上尽くすべき注意義務を尽くしていないとはいえない。したがって,本件各却下処分までにそれぞれ約2年2~5か月を要したことをもって,国家賠償法上の違法があるとする余地はない。 (2)損害について (原告らの主張)ア慰謝料厚生労働大臣による違法な本件各却下処分及び長期間に及ぶ申請の放置により亡B及び亡Aが被った精神的損害に対する慰謝料は,各200万円が相当である。 イ弁護士費用亡B及び亡Aは,厚生労働大臣の上記違法行為により,本来不要な裁判を余儀なくされたのであって,本件訴訟を提起するために同人らがそれぞれ訴訟代理人らに支払うことを約した着手金・報酬のうち各100万円に 亡B及び亡Aは,厚生労働大臣の上記違法行為により,本来不要な裁判を余儀なくされたのであって,本件訴訟を提起するために同人らがそれぞれ訴訟代理人らに支払うことを約した着手金・報酬のうち各100万円については,被告が負担すべきである。 (被告の主張)争う。 第3章当裁判所の判断第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①) 1 放射線起因性の立証の程度等被爆者援護法10条1項,11条1項の規定によれば,原爆症認定をするためには,①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,②現に医療を要する負傷若しくは疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は上記負傷若しくは疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため上記の状態にあること(放射線起因性)が必要であると解される。 そして,被爆者援護法は,給付ごとにそれぞれ支給要件を規定しているところ,健康管理手当や介護手当の支給要件についてはいずれも弱い因果の関係で足りることが規定上明らかにされていること(被爆者援護法27条1 項,31条)と対比すると,上記の放射線起因性については,放射線と負傷若しくは疾病の発生又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることが要件とされ ていると解するのが相当である。 ところで,行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において原告がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を における場合と異なるものではない。そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである。 そうであるところ,原爆症認定の要件としての放射線起因性については,上記の特別の定めはないから,原告において,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷若しくは疾病又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解すべきである(最高裁平成12年7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198号529頁参照)。 2 具体的な判断方法放射線起因性について前記1のとおり解するとしても,人間の身体に疾病等が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連しているのが通常であり,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することには困難が伴う。殊に,放射線に起因する疾病等は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に起因しない場合と同様であり,また,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されているものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存する。 そこで,放射線起因性の判断に当たっては,当該疾病の発症等に至った医学的・病理学的機序を直 る有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存する。 そこで,放射線起因性の判断に当たっては,当該疾病の発症等に至った医学的・病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。 3 被曝線量の評価方法(1)検討対象放射線起因性の判断に当たっては,前記2のとおり,当該被爆者の放射線への被曝の程度が中心的な考慮要素の一つとなる。ところで,前記法令の定め,前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,原則として医療分科会の意見を聴かなければならないところ,医療分科会は,旧審査の方針の下において,被爆者の被曝線量を,①初期放射線による被曝線量の値に②残留放射線(誘導放射線)による外部被曝線量の値及び③放射性降下物による外部被曝線量の値を加えて得た値とし,④内部被曝による被曝線量については特に考慮していなかったのであり,新審査の方針の下においても,大枠としては同様の評価方法を踏襲しているものと認められる。 そこで,以下,新審査の方針の下における医療分科会の具体的な被曝線量の評価方法を踏まえて,上記①~④の評価方法の合理性を検討し,さらに,これらに関連する⑤いわゆる遠距離被 いるものと認められる。 そこで,以下,新審査の方針の下における医療分科会の具体的な被曝線量の評価方法を踏まえて,上記①~④の評価方法の合理性を検討し,さらに,これらに関連する⑤いわゆる遠距離被爆者及び入市被爆者に被爆後に生じた症状の評価等について検討する。 (2)初期放射線の被曝線量の評価について ア初期放射線とは,原子爆弾のウランやプルトニウムが臨界状態に達し,爆弾が炸裂する際に放出される放射線(炸裂直前の爆弾内部で生じた核分裂反応の際に放出される即発放射線と,炸裂後に生じた火球内の核分裂生成物から放出される遅発放射線とに分かれる。)であり,主にガンマ線及び中性子線からなる(乙A106,弁論の全趣旨)。 初期放射線による被曝線量について,旧審査の方針は,被曝線量評価体系(DS86)により爆心地からの距離(2.5㎞まで)に応じて算定した値によって推定するものとしていた(前提となる事実,乙A2,100,101)。DS86は,日米合同の研究者グループが1986年(昭和61年)に取りまとめた線量評価方式であって,原子爆弾の物理学的特徴と,放出された放射線の量及びその放射線が空中をどのように移動し,建築物や人体の組織を通過した際にどのような影響を与えたかについての核物理学上の理論的モデルとに基づいて,コンピュータにより初期放射線による被曝線量を算出したものであり,その客観性は広島及び長崎で被曝した試料を用いたガンマ線及び中性子線の測定結果による検証によっておおむね裏付けられていたが,一部の計算値と測定値の不一致の問題も指摘されていた(乙A102,103,105の1,107,112,弁論の全趣旨)。 DS86については,その後,日米合同の研究者グループが再評価を行い,同グループは,2002年(平成14年),DS86の基 ていた(乙A102,103,105の1,107,112,弁論の全趣旨)。 DS86については,その後,日米合同の研究者グループが再評価を行い,同グループは,2002年(平成14年),DS86の基本的な評価方法を踏襲しつつ,これを改良した新たな被曝線量評価体系(DS02)を取りまとめた(乙A103,105の1,106,107)。そして,新審査の方針の下においては,DS02の線量評価方式により初期放射線による被曝線量の推定が行われている(弁論の全趣旨)。 イ被告は,DS86の線量評価方式は再評価の過程でその信頼性が確認されたものであり,これに改良を加えたDS02の評価方式はDS86よりも更に信頼性に勝るものであると主張し,他方,原告は,DS86の線量 評価方式は爆心地から遠距離において過小評価となっており,DS02においても問題は解消されていないなどと主張するので,以下検討する。 (ア)証拠(乙A100~103,105の1,106,107,112)及び弁論の全趣旨によれば,①DS86の被曝線量評価方式は,当時の最新の核物理学の理論に基づき,高度なシミュレーション計算法と演算能力の高い高性能のコンピュータを用い,爆弾の構造,爆発の状況,爆発が起きた環境(大気の状態,密度等),被爆者の状態等に関する諸条件を可能な限り厳密かつ正確に再現し,データ化して被曝線量を推定したものであること,②DS86は,国際放射線防護委員会(ICRP)から承認され,世界の放射線防護の基本的資料とされるなど,国際的に通用する体系的線量評価方式として取り扱われてきたこと,③DS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,最新のデータやDS86の策定後に可能となった最新の計算法を用いるなどして,DS86 てきたこと,③DS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,最新のデータやDS86の策定後に可能となった最新の計算法を用いるなどして,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであること等が認められ,他方,DS02の線量評価方式の計算過程に疑問を抱かせる事情や,より高次の合理性を備えた線量評価方式が他に存在することを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,DS02の被曝線量評価方式は,被爆者の初期放射による被曝線量を高い精度で算定することが可能な相当の科学的合理性を有するものであるということができる。 (イ)もっとも,DS02は,コンピュータによるシミュレーション計算の結果を基礎として策定されたものである以上,それに基づく被曝線量の計算値(推定値)は,飽くまでも近似的なものにとどまらざるを得ない(この点,DS02に係る報告書(乙105の1)も,代表的なDS02被爆者線量の合計誤差は広島・長崎両市とも30%程度であり,誤差の範囲は合計線量の27~45%であるとする。)。また,特に広島原 爆については,同じ型の爆弾による実験・測定結果がないこと等もあり,線量評価の前提となる爆弾の出力推定が比較的困難であるとされている(乙A103,104の1)。 ところで,初期放射線のうちガンマ線については,DS86による線量計算値が広島原爆については爆心地から約1000m以遠において測定値より小さくなり,長崎原爆についてはこれと逆の関係が認められることが指摘されていた(乙A107)。この点については,再検討の結果,DS02による計算値は,測定値と全体的に良く一致しているとされたが,広島原爆については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ,広島 この点については,再検討の結果,DS02による計算値は,測定値と全体的に良く一致しているとされたが,広島原爆については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ,広島原爆及び長崎原爆の爆心地から約1500m以遠の距離におけるガンマ線量の測定値については,推定バックグラウンド線量の誤差に大きく影響されるので,正確に決定することができないとされているのであって(乙A105の1),これらに照らすと,遠距離における過小評価の可能性は,特に広島原爆においては,DS02による検証を経てもなお完全には否定することができないというべきである。 また,初期放射線の熱中性子線(運動エネルギーの低い中性子線)については,DS86において,計算値と測定値との系統的な不一致がある(例えば,コバルト60については,計算値が,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になると測定値を下回り,爆心地から1180mの地点においては,測定値の3分の1になる。)ことが指摘されていた(乙A107)。DS02においては,ユーロピウム152についてバックグラウンドの影響を極めて低く抑えた環境で精度の高い測定を行い,加速器質量分析法(AMS)によって熱中性子により誘導放射化した塩素36の放射化測定実験を行うなどしたところ,測定値は計算値とよく一致し,上記の不一致の問題は解決したものとされる(乙A 105の2,107)が,上記のバックグラウンドの影響を極めて低く抑えた環境における測定においても,広島原爆については爆心地から地上距離1400m付近でコバルト60及びユーロピウム152の測定値がいずれも計算値を上回っており,塩素36についても,爆心地からの地上距離が1100~1500m以遠では測定が困難であること等(乙A105の2)から 付近でコバルト60及びユーロピウム152の測定値がいずれも計算値を上回っており,塩素36についても,爆心地からの地上距離が1100~1500m以遠では測定が困難であること等(乙A105の2)からすれば,爆心地から約1500m以遠の距離における熱中性子線量の計算値が過小評価である可能性は,DS02においても,なお完全には否定することができないというべきである。 さらに,初期放射線の速中性子線(運動エネルギーの高い中性子線)については,DS86において,広島原爆のリン32の測定値と計算値とが比較され,爆心地から数百m以遠の距離で一致しているかどうかをいうには測定値の誤差が大きすぎるとされていた(乙A112)。その後,銅試料中のニッケル63を測定することによって速中性子線を測定する方法が開発され,広島原爆の爆心地から900~1500mの距離における速中性子の測定値が初めて得られた結果,ニッケル63の測定値とDS86及びDS02の計算値が良く一致するとされたが,広島原爆の速中性子線の測定値は,爆心地から1470mの地点ではDS02に基づく推定線量の1.88±1.72倍となっていること(乙A105の2)等に照らすと,遠距離における測定値と計算値のずれは完全には解消されていないものといえる。 (ウ)以上によれば,DS02においても,爆心地から約1500m以遠において初期放射線の被曝線量を過小評価している可能性を完全には否定することができない。もっとも,爆心地から遠距離における初期放射線の被曝線量の測定値と計算値との相違については,線量が小さくバックグラウンドとの区別が困難であることなどの測定値の不確実性等によるものと考えられ(乙A107),過小評価の可能性があるとしても,そ の絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難いから,こ グラウンドとの区別が困難であることなどの測定値の不確実性等によるものと考えられ(乙A107),過小評価の可能性があるとしても,そ の絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難いから,これを過大視することはできないというべきである。 ウ以上を総合すれば,DS02は相当の科学的合理性を有し,これによって初期放射線の被曝線量を推定することは合理的ということができるが,その適用については,上記の観点から一定の限界が存することにも留意する必要があるというべきである。 (3)誘導放射線の被曝線量の評価についてア誘導放射線とは,原子爆弾の初期放射線の中性子が建物や土壌等を構成する物質の特定の元素の原子核と反応を起こすこと(誘導放射化)によって生じた放射性物質(誘導放射化物質)が放出する放射線である(乙A102,弁論の全趣旨)。 誘導放射線による外部被曝線量について,旧審査の方針は,前記前提となる事実のとおり,申請者の被爆地,爆心地からの距離(広島原爆については700mまで,長崎原爆については600mまで)及び爆発後の経過時間(72時間まで)の区分に応じた所定の値としていた。これに対し,新審査の方針には,誘導放射線による外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,その後に現れたDS02に基づくNの論文(乙A106。以下「N論文」という。)等をも踏まえて線量を算定しているものと認められる(乙A1の1・2,弁論の全趣旨)。 イ N論文は,誘導放射線(ガンマ線)による地上1mでの外部被曝線量(空気中組織カーマ)を求めた結果,爆発直後から無限時間同じところに居続けたと仮定したときの放射線量(積算線量)は,爆心地においては広島で120センチグレイ,長崎で57センチグレイ,爆心から 曝線量(空気中組織カーマ)を求めた結果,爆発直後から無限時間同じところに居続けたと仮定したときの放射線量(積算線量)は,爆心地においては広島で120センチグレイ,長崎で57センチグレイ,爆心から1000mでは広島で0.39センチグレイ,長崎で0.14センチグレイ,爆心から1500mでは広島で0.01センチグレイ,長崎で0.005センチグレ イとなったとし,これ以上の距離での誘導放射線被曝は無視して構わないと結論付けている(乙A106)ところ,その計算過程の合理性を疑わせる事情は特に見当たらないこと等に照らすと,医療分科会が新審査の方針において用いている誘導放射線による外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線については,誘導放射化物質となり得る元素の含有量・濃度に測定者や測定場所によってかなりのばらつきがあることが認められ(乙A112,129),計算の前提に一定の制約があるということができる。また,N論文では,地表面(土壌)から生ずる誘導放射線(ガンマ線)を地表1mの高さで積算しているところ,原子爆弾の中性子によって誘導放射化するものとしては,土壌のみならず,建物等の建築資材,空気中の塵埃,人体や遺体等も想定される上(弁論の全趣旨),被曝の形態も,誘導放射化した塵埃等が身体に付着した場合や,口や傷から体内に取り入れられた場合,誘導放射化した瓦礫や人体に接触した場合など様々なものが考えられるのであって,上記の方法によってこれらすべての場合を的確に算定できるかについては疑問もあり得る。さらに,N論文は,爆心地から600~700m以遠においては,原子爆弾の中性子線がほとんど届かないため,誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが に算定できるかについては疑問もあり得る。さらに,N論文は,爆心地から600~700m以遠においては,原子爆弾の中性子線がほとんど届かないため,誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが,原子爆弾の爆発時に生じた強烈な衝撃波や爆風によって,誘導放射化した土壌等が粉塵となって舞い上がり,遠距離に飛散した可能性も十分にあるというべきである(なお,広島原爆については,粉塵の水平スケールが4500mと見積もられている(乙A122)。)。また,N論文は,爆心地から1000m地点の誘導放射線による外部被曝線量は1センチグレイにも満たないとするが,後記のとおり,初期放射線にほとんど被曝していないいわゆる入市被爆者や遠距離被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じてい る旨の調査結果が複数報告されており,これらの調査結果については,上記の外部被曝線量評価だけでは合理的に説明することが困難である。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における誘導放射線による被曝線量の評価については,過小評価となっている疑いがあるというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,爆心地から600~700m以遠の地域(広島原爆についていえば,上記粉塵の水平スケールに照らし,少なくとも爆心地から2250m以内の地域)にも誘導放射化物質が相当量存在していた可能性を考慮に入れ,かつ,その被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化された放射性物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に検討する必要があるというべきである。 (4)放射性降下物による放射線の被曝線量の評価についてア放射性降下物による放射線とは,原子爆弾の核分裂によって生成された放射性物質(核分裂生 性を十分に検討する必要があるというべきである。 (4)放射性降下物による放射線の被曝線量の評価についてア放射性降下物による放射線とは,原子爆弾の核分裂によって生成された放射性物質(核分裂生成物)等で地上に降下したもの(放射性降下物)が放出する放射線である(乙A102,弁論の全趣旨)。 放射性降下物による放射線の外部被曝線量について,旧審査の方針は,原爆投下の直後に所定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該地域に居住していた場合についてそれぞれ所定の値としており,具体的には,広島市のO及びP(以下,併せて「O・P地区」という。)につき0.6~2センチグレイ,長崎市のQ○,○丁目及びR(以下,併せて「Q地区」という。)につき12~24センチグレイとしていた(乙A2)。 これに対し,新審査の方針には,放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定基準は明示されていないが,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,DS86に係る報告書(乙A112)の分析結果等によって線量を算定・評価しているものと認められる(乙A1の1・2,弁論の全趣旨)。 イ放射性降下物については,原子爆弾投下の数日後から複数の測定者が放射線量の測定を行い,これらの調査の結果,O・P地区及びQ地区において,それぞれ放射線の影響が比較的顕著に見られることが判明し,これは,原子爆弾の爆発後,両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したことによるものであることが確認されている(乙A102,108~112,弁論の全趣旨)。そして,DS86に係る報告書は,これらの調査結果を総括して,地表1mの高さにおける放射性降下物の累積的被曝への寄与は,Q地区では,おそらく20~40レントゲンの範囲であり,O・P地区では,おそ 。そして,DS86に係る報告書は,これらの調査結果を総括して,地表1mの高さにおける放射性降下物の累積的被曝への寄与は,Q地区では,おそらく20~40レントゲンの範囲であり,O・P地区では,おそらく1~3レントゲンの範囲であるとし,これを組織吸収線量に換算すると,長崎については12~24ラド(12~24センチグレイ),広島については0.6~2ラド(0.6~2センチグレイ)になると結論付けている(乙A112)。同分析は,上記のとおり原子爆弾投下直後の調査に基づく複数の調査報告等を総括したものであり,その後の調査結果による推定値もこれと特に矛盾するものではないこと(甲A27の1・2,乙A108)等をも考慮すると,医療分科会が新審査の方針において用いている放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定方法は,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 しかしながら,放射性降下物の測定結果については,上記分析自体が測定等の精度の非常に低いことを強調しており(乙A112),しかも,放射性降下物は必ずしも一様に存在していたわけではなく,降下形態やその後の集積により局地的に強い放射線を出す場合があり得る(原子爆弾投下後数か月以内の複数の測定結果からは,放射性降下物が相当不均一に存在していたことが推認される(甲A73,乙A109~111)。)こと等をも考慮すると,上記算定方法による放射性降下物による放射線の外部被曝線量の算定については,上記のような測定精度や測定資料等の制約から一定の限界が存するというべきである。 また,旧審査の方針においては,特定の地域についてのみ放射性降下物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広いものであり(甲A27の1・2,68~70,乙A108),O・P いては,特定の地域についてのみ放射性降下物による放射線の外部被曝線量を算定することとされていたが,広島原爆投下後の降雨域は相当に広いものであり(甲A27の1・2,68~70,乙A108),O・P地区以外の地域でも相当量の放射性降下物を含む降雨があったことが推認されるし,長崎原爆についても,Q地区以外の地域における降下物の目撃供述があるとされている(甲A65)。そして,上記算定方法は,放射性降下物による放射線(ガンマ線)を地表1mの高さで積算するものであるが,放射性降下物についても,誘導放射線についてと同様,放射性物質である放射性降下物に直接接触したり,これを体内に摂取したりすることによる,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があることは否定できない。さらに,放射性降下物は土壌に均一に存在しているとは限らず,放射性降下物が集積し局地的に強い放射線を放出している場合もあり得,これに接触し又は接近することにより相当量の被曝をする可能性も考えられる。また,旧審査の方針によれば,広島原爆の放射性降下物による放射線の外部被曝線量は,最大でもわずか2ラド(0. 02グレイ)とされているが,広島原爆投下直後の調査結果においては,黒い雨が降った地域の池や川の魚類が斃死浮上する現象等が報告されており(甲A69),これらを上記の線量によって合理的に説明することは困難というべきである。 ウこれらの点を考慮すると,新審査の方針の下における放射性降下物による被曝線量の評価は,過小評価となっている疑いがあるというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,O・P地区又はQ地区以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物によ たっては,O・P地区又はQ地区以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,放射性降下物による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 (5)内部被曝の影響の評価についてア内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷,皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいう(弁論の全趣旨)。 旧審査の方針においては,前記のとおり,内部被曝による被曝線量は特に考慮されておらず,新審査の方針の下においても,医療分科会は,旧審査の方針の考え方を基本的に踏襲し,内部被曝による被曝線量を重視していないものと認められる(乙A1の1・2,弁論の全趣旨)。 イ内部被曝については,昭和44年及び昭和56年にQ地区の住民を対象とするセシウム137の測定結果を用いて,昭和20~60年の40年間に及ぶ内部被曝線量を積算したところ,男性で10ミリレム(0.0001グレイ),女性で8ミリレム(0.00008グレイ)と推定されたとの報告(乙A112)や,広島原爆投下当日に爆心地から1㎞以内の地点において8時間の片付け作業に従事した場合の内部被曝線量の推定は0. 06マイクロシーベルトであるとして,外部被曝に比べ無視できるレベルであるとする研究(N論文)があり,医療分科会が内部被曝による被曝線量を重視していないのは上記のような科学的知見に基づくものと認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,内部被曝による被曝線量を重視しない医療分科会の方針は,相当の科学的根拠に基づくものというべきである。 しかしながら,上記の報告等からは,短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある半減期の短 ,内部被曝による被曝線量を重視しない医療分科会の方針は,相当の科学的根拠に基づくものというべきである。 しかしながら,上記の報告等からは,短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある半減期の短い放射性物質等による内部被曝線量については不明である上,前記のとおり,爆心地付近に限らず局地的に放射性降下物や誘導放射化物質が集積するなどしている場合があり得ることも考慮すると,内部被曝線量は無視し得る程度のものであると評価することには,なお疑問が残るといわざるを得ない。 また,被告は,内部被曝による健康影響は被曝線量が同じであれば外部被曝による健康影響と同等であるかより低いと主張し,これに沿う証拠(乙 A10,172,197)もあるが,他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝であっても,外部被曝より被曝量は格段に大きくなる,②外部被曝ではほとんど問題とならないアルファ線やベータ線を考慮する必要があり,しかもこれらは飛程距離が短いため,そのエネルギーのほとんど全てが体内に吸収され,核種周辺の体内組織に大きな影響を与える,③人口放射線核種は,放射性ヨウ素なら甲状腺というように,特定の体内部位に濃縮され,集中的な被曝が生ずる,④放射性核種が体内に沈着すると,被曝が長期間継続することになるといった外部被曝と異なる特徴があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があるなどと指摘する見解もある(甲A45,60,129,194,196の1,196の2の1・2,235)。この点,現状においては,これらの見解が科学的知見として確立しているとはいい難い上,体内に取り込まれた放射性微粒子による不均等かつ継続的な被曝によってリスクが飛躍的に高まるとするいわゆるホットパー この点,現状においては,これらの見解が科学的知見として確立しているとはいい難い上,体内に取り込まれた放射性微粒子による不均等かつ継続的な被曝によってリスクが飛躍的に高まるとするいわゆるホットパーティクル理論については,ICRP等により相当の科学的根拠をもって否定されているものの(乙A142の1・2,143,144の1・2,145),内部被曝の機序については必ずしも科学的に解明・実証されていないところ,低線量放射線による継続的被曝が高線量放射線の短時間被曝よりも深刻な障害を引き起こす可能性について指摘する見解(甲A36,37,129,143の1・2,144,149,198)があり(例えば,原子力安全委員会の放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会は,核分裂中性子線等については同じ被曝線量であれば長期にわたって被曝した場合(低線量率の場合)の方がリスクも上昇するという逆線量率効果,被曝した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わるバイスタンダー効果,放射線被曝を受けた細胞に生じた遺伝的変化が間接的な突然変異を誘発するゲノム不安定性誘導等の可能性を指摘する (甲A198)。),これらの見解を一概に無視することまではできない。 加えて,後記のとおり,いわゆる入市被爆者等に放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じているとの調査結果があり,推定される外部被曝線量だけでは必ずしもこれを十分に説明し得ないこと,広島原爆投下の際に高放射能を持つ有害物質を含む黒塵と思われる「ガス」を吸った者は「原子症」がひどいといわれるとの報告があること(甲A69)等にも照らすと,被曝線量の評価に当たって,内部被曝線量は無視し得る程度のものであるとしてこれを考慮しないことについても,なお疑問が残るといわざるを得ない。 ウこれに対し あること(甲A69)等にも照らすと,被曝線量の評価に当たって,内部被曝線量は無視し得る程度のものであるとしてこれを考慮しないことについても,なお疑問が残るといわざるを得ない。 ウこれに対し,被告は,①体内に取り込まれた放射性核種は,人体に備わった代謝機能により体外に排出される,②チェルノブイリ原発事故では,事故後10年後辺りから甲状腺がんの有意な増加がみられるが,遠距離・入市被爆者に見られるがんにそのような傾向は見られず,内部被曝の影響があったとは考え難い,③医療の現場等においても放射性物質の投与が行われており,それによる人体影響がないというのが医療の常識であるなどとして,原子爆弾の被爆者について内部被曝の影響を重視することは誤りであると主張する。 しかしながら,上記①の点については,体内に取り込まれた放射性核種が体外に排出されるまでには相応の日数を要する上,短命の放射性核種による内部被曝の場合には,体外に排出されるまでに相当の内部被曝が生じているのであるから,この点をもって原子爆弾の被爆者の内部被曝を無視し得るということはできない。また,上記②の点については,原子爆弾の被爆者に甲状腺がんの有意な増加がみられないとする根拠が明らかではない上,チェルノブイリ原発事故により小児甲状腺がんが増加したということは,かえって,内部被曝により特定の臓器に影響を与えることを明確に裏付けるものであって,この点をもって原子爆弾の被爆者の内部被曝を無 視し得るということはできない。さらに,上記③の点については,医療上の必要により放射性物質が投与された場合に内部被曝の影響が生じていないとする根拠が明らかではない上,医療上の必要により放射性物質が投与される場合には,現在の医療水準に基づき,放射性物質による影響をできる限り少なくするため 投与された場合に内部被曝の影響が生じていないとする根拠が明らかではない上,医療上の必要により放射性物質が投与される場合には,現在の医療水準に基づき,放射性物質による影響をできる限り少なくするための努力がされるはずであって,全く無防備で特段の事後対応もされない被爆者の場合と同視することにはそもそも疑問がある。 したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ以上によれば,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らして,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる特徴があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 (6)遠距離被爆者及び入市被爆者に生じた症状の評価等についてア遠距離被爆者に生じた症状について放射線被曝による急性症状については,皮下出血(歯茎からの出血,紫斑を含む。)については2グレイ程度,脱毛については3グレイ程度,下痢については4グレイ程度のしきい線量(1~5%の人に症状が出現する線量)があるとされるところ(乙A149,弁論の全趣旨),DS86及びN論文により算出される誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝線量は,現実的には最大でもせいぜい数十センチグレイ程度であるから,上記のしきい線量(DS02によれば,広島原爆については爆心地から1000~1200m付近で,長崎原爆については爆心地から1200~1400m付近でそれぞれ被爆した場合の初期放射線による被曝線量に相当する(乙105の1)。)を前提とすれば,広島原爆及び長崎原爆のいずれについても,爆心地から 崎原爆については爆心地から1200~1400m付近でそれぞれ被爆した場合の初期放射線による被曝線量に相当する(乙105の1)。)を前提とすれば,広島原爆及び長崎原爆のいずれについても,爆心地から1500m以遠において皮下出血,脱毛,下痢と いった放射線被曝による急性症状が生じることはほとんどないことになるはずである。 しかしながら,原子爆弾投下後比較的早期に行われた調査として,①広島・長崎における被爆20日後の生存者を調査した結果に基づく日米合同調査団報告書(甲A6,124の10),②昭和20年10月から同年11月にかけて広島原爆の被爆者約5000名を調査した結果に基づく東京帝国大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(甲A86,124の9),③同年10月から同年12月にかけて長崎原爆の被爆者約6000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献4,90),④昭和32年1月から同年7月にかけて広島原爆の被爆者約4000名を調査した結果に基づく報告(甲A67文献6)等があるが,これらの調査結果からは,脱毛や皮下出血(紫斑)が生じたとする者が,爆心地から1500~2000mの地点で被爆した者については10%前後以上,2000m以遠で被爆した者についても数%以上存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,爆心地からの距離や遮蔽の存在に応じて減少する傾向があると認められる(この傾向は,その他の調査結果(甲A87~89,124の12等)ともおおむね合致している。)。 このような傾向に照らすと,爆心地からの距離が1500m以遠において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状は,全てとはいえないまでも,その相当部分について放射線による急性症状であると見るのが自然である。ところで,初期放射線による被曝線量は, 以遠において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状は,全てとはいえないまでも,その相当部分について放射線による急性症状であると見るのが自然である。ところで,初期放射線による被曝線量は,爆心地から2000m以遠においては1グレイにも達しないと認められ(乙A105の1),他方,外部被曝による脱毛や下痢のしきい線量は,前記のとおり3~4グレイ程度とされていること等も考慮すると,爆心地から1500m以遠にみられる脱毛等の症状につき,初期放射線による外部被曝が主たる原因であると理解することもまた困難であって,むしろ,主として,誘導放射化 した大量の粉塵等や放射性降下物から発せられる放射線による外部被曝及び内部被曝をしたことによるものと見るのが,自然かつ合理的というべきである(なお,遮蔽の有無により急性症状の発症率に有意な差があることについては,原子爆弾の爆発直後に発生した短命の誘導放射化物質や放射性降下物への接触の程度に差があったためと考えることも可能である。)。 イ入市被爆者に生じた症状について原子爆弾投下時には広島市内又は長崎市内におらず,その後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)についても,例えば,①原子爆弾投下時には広島市内に居なかった者で,投下直後に広島市内に入ったものの中心地(爆心地から1㎞以内)には出入りしなかった104名には,発熱,下痢,脱毛等の症状はみられなかったが,同様の者で投下直後に中心地に入った525名のうち230名(43.8%)にこれらの症状(急性症状の特徴を備えるもの)がみられ,そのうち投下から20日以内に中心地に出入りした人に有症率が高く,投下から1か月後に中心地に入った人の有症率は極めて低く,中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症率が低く,10時間以上の人に有症率が高いなど 投下から20日以内に中心地に出入りした人に有症率が高く,投下から1か月後に中心地に入った人の有症率は極めて低く,中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症率が低く,10時間以上の人に有症率が高いなどとする報告(甲A67文献6),②広島原爆の爆心地から約12㎞又は約50㎞の地点にいた陸軍船舶司令部隷下の将兵のうち原子爆弾投下後に入市して負傷者の救援活動等に従事した233名について,下痢患者が多数続出したほか,ほとんど全員が白血球3000以下と診断され,発熱,点状出血,脱毛の症状も少数ながらあったとする報告(甲A112の17),③S部隊T中隊に所属し原子爆弾投下後に入市して作業に従事した99名に対するアンケート等調査の結果,その約3分の1が放射線による急性障害に似た諸症状を訴えており,そのうちほぼ確実な急性症状として,脱毛6名,歯茎等からの出血5名,白血球減少2名があったなどとする報告(乙A151資料38)等がある。 これらの調査結果等によれば,入市被爆者についても,放射線被曝によ る急性症状とみられる脱毛,下痢,発熱等の症状が少なからず生じており,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向があると認められるのであって,このような傾向に照らすと,上記のような症状の多くは,誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝及び内部被曝の影響によるものとみるのが自然であり,放射線被曝以外の原因によるものと理解することは困難というべきである。 ウ被告の主張について被告は,放射線被曝による急性症状には発症時期,程度,回復時期等に明確な特徴があり,他方,自然災害や東京大空襲等の被災者にも,嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状の発症が確認されており,これらの症状は衛生状況等の悪化や精神的影響によるものと考えるのが 程度,回復時期等に明確な特徴があり,他方,自然災害や東京大空襲等の被災者にも,嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状の発症が確認されており,これらの症状は衛生状況等の悪化や精神的影響によるものと考えるのが合理的であるから,遠距離・入市被爆者にこれらの症状が見られたからといって,そのことから,当該被爆者が放射線被曝による急性症状を発症し,ひいては,有意な被曝をしたものと推論することは不当であると主張する。しかしながら,遠距離被爆者については爆心地からの距離や遮蔽の存在等に応じて脱毛等の症状が減少し,入市被爆者については爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いという傾向が見られ,このような傾向に照らすと当該症状の多くが放射線被曝以外の原因によるものと理解することが困難というべきことは前記のとおりであり,仮に,自然災害や東京大空襲等において嘔吐,下痢,脱毛等の症状が一定割合で生じていたとしても,直ちに上記の評価を左右するものということはできない。 また,被告は,原爆投下時に市内に居なかった者(市内不在者)と遠距離被爆者の安定型染色体異常頻度を比較したところ,有意な差が認められなかったとする研究結果(乙A202)等を根拠に,遠距離被爆者や入市被爆者の多くは健康に影響を及ぼすような被曝をしていないことが裏付けられていると主張する。しかしながら,上記研究にいう「市内不在者」に は原爆投下後早期に入市した者も含まれており(乙A202),他方,個々の「遠距離被爆者」の被爆後の具体的な行動等全く不明であって(被爆後速やかに市外に出た者等も含まれていると考えられる。),不安定型よりももともとの頻度が高い安定型染色体異常(乙A198)のみを比較していること等をも併せ考慮すると,上記の研究結果から直ちに遠距離被爆者や入市被爆者 た者等も含まれていると考えられる。),不安定型よりももともとの頻度が高い安定型染色体異常(乙A198)のみを比較していること等をも併せ考慮すると,上記の研究結果から直ちに遠距離被爆者や入市被爆者が健康に影響を及ぼすような線量の放射線に被曝していないとまではいうことができない。 よって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ小括以上によれば,個別の遠距離・入市被爆者に生じた上記のような症状が放射線被曝による急性症状であるか否かについては,これらの症状が放射線被曝以外の原因によっても生じ得るものであること等を踏まえて慎重に検討する必要があるとしても,遠距離・入市被爆者に生じた症状が,およそ放射線の影響によるものではないとすることは不合理であり,遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝をし得ることを否定することはできない(他方,急性症状のしきい線量が,前記のとおり,1~5%の人に症状が出現する線量を意味することに照らすと,明確な急性症状がないからといって,直ちに有意な放射線被曝をしていないということにはならない。)というべきである。 (7)まとめ以上のとおり,新審査の方針の下での被曝線量の算定方法は,科学的合理性を肯定することができるものの,シミュレーションに基づく推定値であることや測定精度の問題等から一定の限界が存することに十分留意する必要がある上,特に誘導放射線及び放射性降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いがあるといわざるを得ない。そうすると,DS 02等により算定される被曝線量は,飽くまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆 ざるを得ない。そうすると,DS 02等により算定される被曝線量は,飽くまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。 第2 原爆症認定要件該当性(争点②) 1 亡Bについて(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア)昭和20年8月6日の広島原爆投下時,亡B(当時22歳)は,陸軍船舶整備隊教育隊(暁19809部隊)に所属しており,広島県CD(爆心地から約7㎞)の兵舎内の将校室に居た(甲D1,2,5,乙D1,11)。 (イ)亡Bは,同日午前,広島市内に派遣されていた分隊の捜索のため,船で広島市E(爆心地から約4㎞)に行き,同日昼頃,Dに戻った(甲D1,2,乙D11)。 (ウ)亡Bは,同日から同月9日まで,Dの兵舎に運び込まれた負傷者の救護・看護や遺体の運搬等に従事したが,その際には,手袋やマスクを着用していなかった(甲D1,2,5,乙D1,11)。 (エ)亡Bは,同月10日朝,広島市内で救護活動を行うため,部隊と共にDから船でEに向かい,そこから徒歩でF付近まで北上して,同日午前中には,G付近(爆心地付近)を通過し,その後,H(爆心地から約1. 5㎞)に入った(甲D1,2,5,乙D1,11)。 (オ)亡Bは,その後,同月12日まで,H付近の倒壊家屋の下から遺体を 掘り出して運搬し,火葬する作業に従事したが,その際には,手袋やマスクを着用していなかった(甲D1,5, )。 (オ)亡Bは,その後,同月12日まで,H付近の倒壊家屋の下から遺体を 掘り出して運搬し,火葬する作業に従事したが,その際には,手袋やマスクを着用していなかった(甲D1,5,乙D1,11)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)亡Bは,広島原爆に被爆した直後から,外傷の治癒に時間がかかるようになり,その後も,そのような状態が続いた(甲D1,2,5,6,乙D1,原告Bc本人)。 (イ)亡Bは,昭和61年9月頃,不安定狭心症と診断され,同年10月,左冠動脈の狭窄について経皮的冠動脈血管形成術(PCI)を受けたが,同月頃(当時63歳),急性心筋梗塞を発症し,再度,PCIを受け,さらに,昭和62年1月,冠状動脈バイパス術(CABG)を受けたが,平成6年(当時71歳)にも,急性心筋梗塞を発症した(乙D5,7の1~3,8,17)。 (ウ)亡Bは,その後,心室性期外収縮,C型肝炎,両眼白内障の診断を受けた(甲D8,11)。 (エ)亡Bは,平成16年12月,右冠動脈に狭窄病変を認められ,平成19年10月及び平成22年3月には,PCIを受けた(甲D11,乙D5,6)。 (オ)亡Bは,平成23年6月,心不全により入院し,同年7月15日,消化管出血により,前記前提となる事実のとおり死亡した(甲D8,原告Bc本人)。 (カ)亡Bは,昭和61年9月頃まで約40年間にわたり,1日当たり20本程度のたばこを吸っていたが,同月頃,禁煙するようになった(乙D17,原告Bc本人)。 (キ)亡Bは,昭和62年1月頃に高脂血症と指摘されているところ,その総コレステロール値(単位㎎/dl,基準値150~219)は,昭和61年9月17日が216,同月30日が242,昭和62年1 (キ)亡Bは,昭和62年1月頃に高脂血症と指摘されているところ,その総コレステロール値(単位㎎/dl,基準値150~219)は,昭和61年9月17日が216,同月30日が242,昭和62年1月12日が 326,同月19日が291であったほか,平成8年4月から平成22年11月までの間は144~233(おおむね基準値の範囲内)で推移し,中性脂肪値(単位㎎/dl,基準値50~149)は,昭和61年9月17日が115,同月30日が197,昭和62年1月12日が300,同月19日が241であったほか,平成8年4月から平成22年11月までの間は142~265(ほぼ一貫して基準値の上限超)で推移しており,HDLコレステロール値(単位㎎/dl,基準値40~80)は,平成8年4月から平成22年11月までの間,23~40(ほぼ一貫して基準値の下限未満)で推移していた(乙D6,7の2,14の2,17,19,21~23)。 (ク)亡Bは,昭和61年に心筋梗塞を発症した後,死亡するまで,再発を防ぐための抗凝固剤,冠血管拡張剤等を服用していた(乙D4,弁論の全趣旨)。 (2)事実認定の補足説明原告Bらは,亡Bが被爆後は下痢が多くなったと主張し,これに沿う証拠(甲D1)もある。しかしながら,亡Bが平成13年11月に作成した被爆者健康手帳交付申請書(乙D11)には,「6カ月以内にあらわれた症状の有無」を記載する欄があり,「下痢」も選択肢として明示されているにもかかわらず,「何もなかった」に丸印が付されていること,亡Bが平成13年6月に作成した「原爆体験記録」と題する書面(甲D2)や本件B申請に係る認定申請書(乙D1)にも,外傷の治癒の遅れについての記載はあるのに対して下痢については何ら記載がないこと等に照らすと,上記証拠によって, た「原爆体験記録」と題する書面(甲D2)や本件B申請に係る認定申請書(乙D1)にも,外傷の治癒の遅れについての記載はあるのに対して下痢については何ら記載がないこと等に照らすと,上記証拠によって,被爆から間もない時期に亡Bに下痢が生じていたと認めることはできない。 (3)放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア)亡Bは,前記認定のとおり,広島原爆の爆心地から約7㎞離れた地点 の屋内において被爆したのであるから,初期放射線による有意な被曝はないものというべきである。 しかしながら,亡Bは,前記認定のとおり,広島原爆投下の当日である昭和20年8月6日から同月9日までの間,Dの兵舎に運び込まれた負傷者の救護・看護や遺体の運搬等に手袋やマスクをせずに従事しているのであって,その間,誘導放射化した人体及び遺体に接触したほか,その衣服,髪,皮膚等に付着した粉塵等(誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子を含むと考えられる。)に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどしたものと推認される。また,亡Bは,原爆投下から100時間以内である同月10日午前中には,徒歩で爆心地付近を経由して爆心地から約1.5㎞のHに入り,その後,同月12日まで,同町において,倒壊家屋の下から遺体を掘り出して運搬し,火葬する作業に手袋やマスクをせずに従事していたというのであって,その間,誘導放射化した遺体に接触したほか,作業中に舞い上がるなどした周囲の粉塵等に接触することにより,相当量の誘導放射化物質や放射性降下物が,衣服,髪,皮膚等に付着し,又は呼吸を通じて体内に取り込まれるなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,亡Bが,被爆後,C型肝炎や両眼白内障といった放射線の影響が指摘される複数の疾病(前記前提となる事 又は呼吸を通じて体内に取り込まれるなどした可能性が高いというべきである。そして,前記認定のとおり,亡Bが,被爆後,C型肝炎や両眼白内障といった放射線の影響が指摘される複数の疾病(前記前提となる事実のとおり,新審査の方針は,「放射線白内障(加齢性白内障を除く。)」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を積極認定の対象疾病としている。)に罹患していること等をも併せ考慮すれば,亡Bは,誘導放射化物質や放射性降下物からの放射線により,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認めるのが相当である。 (イ)この点,被告は,亡Bの推定被曝線量は,亡Bの入市経路に係る原告 Bらの主張を前提としても,その推定被曝線量は,0.03グレイをはるかに下回ると主張するが,上記推定被曝線量は,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点等において不当というべきである。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性について(ア)亡Bの申請疾病は,前記前提となる事実のとおり,「心筋梗塞」であるところ,心筋梗塞は,冠動脈が何らかの原因で閉塞して心筋への血液供給が阻害されて心筋細胞が酸素不足(虚血)に陥る虚血性心疾患であって心筋壊死を伴うものであり,その主因は冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)であるとされる(乙A502,503,509)。 粥状動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症)とは,動脈の内側に粥腫(アテローム)が沈着してプラーク(動脈硬化巣)を形成する疾患であり,形成されたプラークにより血管の内腔が閉塞して血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に形成さ 症)とは,動脈の内側に粥腫(アテローム)が沈着してプラーク(動脈硬化巣)を形成する疾患であり,形成されたプラークにより血管の内腔が閉塞して血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に形成された血栓が重要臓器の血管を詰まらせたりすることによって,心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすものである(乙A503~507)。 (イ)心筋梗塞及び動脈硬化と放射線被曝との関連性については,①一定の原爆被爆者集団の昭和25年から昭和60年までの循環器疾患による死亡率は線量との有意な関連を示したなどとする寿命調査(LSS)第11報(乙A161),②同集団の昭和25年から平成2年までの死亡者について解析した結果,心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスク(当該要因によって増加したリスクの割合)は0.14(90%信頼区間(同一の調査を同一の計算方法を用いて100回行った場合に90回は母平均値が入る区間)は0.05~0.22,P値(当該要因がある群とない群とで発症率が等しいとする仮説が正しいと仮定した場合に当 該結果が起こる確率であり,0.05を下回る場合に上記仮説が誤りであり両群に有意な差があると判定することが多い。)は0.003)であり,そのうち冠状動脈性心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.06(90%信頼区間は-0.06~0.20)であるとした上,「影響はもはや最も高い線量域に限らない」,「心筋梗塞および脳梗塞,ならびにアテローム性動脈硬化症と高血圧症の様々な指標について有意な線量反応が観察されている」とし,その機序に関しても,「免疫能不全が考えられる。…T細胞とB細胞の機能的・量的異常において原爆放射線の後影響がみられる。最近の研究では,クラミジア・ニューモニエ,…サイトメガロウイルスに感染するとアテローム性動脈硬化症 免疫能不全が考えられる。…T細胞とB細胞の機能的・量的異常において原爆放射線の後影響がみられる。最近の研究では,クラミジア・ニューモニエ,…サイトメガロウイルスに感染するとアテローム性動脈硬化症が発症しやすいことが示唆されている。」などと考察するLSS第12報(乙A162),③同集団の昭和43年から平成9年までの期間における心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.17(90%信頼区間は0.08~0.26,P値は0.001)であるとするLSS第13報(乙A163),④40歳未満で被爆した人の心筋梗塞(ただし,喫煙及び飲酒の因子を調整する前のもの。)について,1シーベルト当たりの相対リスク(当該要因がある場合にリスクが何倍になるかを示す値であり,相対リスクから1を控除した値が過剰相対リスクとなる。)は1.25(95%信頼区間は1.00~1.69,P値は0. 05)となり,有意な二次線量反応関係を認めたとする成人健康調査(AHS)第8報(乙A176の1・2),⑤被爆者について,心疾患による死亡及び心筋梗塞が増加しており,大動脈弓の石灰化及び網膜細動脈硬化を認めることから,被曝の影響として動脈硬化による心血管疾患が増加していると考えられるとし,高血圧,高脂血症及び炎症にも放射線被曝が関与しており,これらを介して動脈硬化が促進され,心血管疾患の増加につながったと考えられるとするU報告(甲D14),⑥昭和6 2年から平成15年までに原爆検診を受診した40~79歳の被爆者1万6335例につき,大動脈脈波速度(PWV)を測定したところ,被曝と大動脈硬化の関連が認められ,特に被爆時年齢が20歳未満の男性の若年直接被爆者では大血管の動脈硬化が強く,特に10歳未満の近距離被爆者に強いとの結果を得たとするV報告(甲D15),⑦一定の原 被曝と大動脈硬化の関連が認められ,特に被爆時年齢が20歳未満の男性の若年直接被爆者では大血管の動脈硬化が強く,特に10歳未満の近距離被爆者に強いとの結果を得たとするV報告(甲D15),⑦一定の原爆被爆者集団のうち,昭和25年から平成15年までの間に心臓病で死亡した8463人について分析したところ,心疾患については1グレイ当たりの過剰相対リスクは0.14(95%信頼区間は0.06~0. 23,P値は0.001未満)であったとし,低線量被曝でも過剰リスクがあることが示唆されたが,結論として,0.5グレイを上回る被曝線量は心疾患のリスク上昇に関連していたものの,それより少ない線量では明確ではなかったとするW論文(甲D13の1・2,乙A517)等の知見があることが認められる。 また,原爆症認定の在り方に関する検討会が取りまとめた「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」(後記第4の2(2)ア(イ)参照)は,心筋梗塞について,被爆者を対象とした疫学調査のみならず,動物実験を含む多くの研究結果により,一定以上の放射線量との関連があるとの知見が集積してきており,認定疾病に追加する方向でしきい値の設定等の検討を行う必要があるとし(乙A10),これを受けて,新審査の方針は,積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」を掲げている(乙A1の1・2)。 (ウ)以上のとおり,心筋梗塞については,原子爆弾の放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が集積しているのであって,新審査の方針においても,積極認定の対象疾病として「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が掲げられていること等をも考慮すれば,心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,一般的に肯定することができるというべきである (なお,近時,放射線被曝が,免疫機能低下を引き起こし 梗塞」が掲げられていること等をも考慮すれば,心筋梗塞と放射線被曝との関連性については,一般的に肯定することができるというべきである (なお,近時,放射線被曝が,免疫機能低下を引き起こしてウイルス等による慢性的な炎症反応を誘発し,動脈硬化・心筋梗塞の発症の促進に寄与していることを示唆する複数の研究報告(LSS第12報,U報告等)が示されるなど,放射線被曝が粥状動脈硬化及び心筋梗塞の発症を促進する機序についても科学的な知見が集積しつつあり,このことは,心筋梗塞と放射線被曝との関連性を更に強固に裏付けるものということができる。)。 (エ)これに対し,被告は,①放影研の大規模な疫学調査(LSS,AHS)においては,高線量被曝に関して心血管疾患リスクの示唆がされているものの,低線量被曝に関しては,いまだ心筋梗塞の発症との関連性を肯定し得るものではない(LSS第13報は,心疾患等のがん以外の疾患の死亡率について,低線量域における線量反応関係は不確実であるとしており,これをもって心疾患における低線量の放射線被曝との関連性が一般的知見として積極的に肯定されているということはできない。また,AHS第8報では,全心筋梗塞については有意な線形線量反応がなかったことを明らかにしている上,40歳未満で被爆した人の心筋梗塞についても,統計上喫煙と飲酒による影響が出ないようにこれらの因子を調整した場合のP値は0.14であって,放射線被曝との間に有意な関係が示されているとはいえない。さらに,LSS第12報によると,冠状動脈性心疾患の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.06であるが,90%信頼区間の下限値が負(-0.06)となっており,統計学的に有意な結果とはいえない。),②W論文においては,放射線との関連性が指摘されているのは「心筋梗塞」では 相対リスクは0.06であるが,90%信頼区間の下限値が負(-0.06)となっており,統計学的に有意な結果とはいえない。),②W論文においては,放射線との関連性が指摘されているのは「心筋梗塞」ではなくより広いカテゴリである「心疾患」である(W論文に添付されたウェブ表B(甲D13の2,乙A524)によれば,「心筋梗塞」のカテゴリにおけるP値は0.5超で,1グレイ当たりの過剰相対リスクも0であるし,心筋梗塞だけで なく狭心症等も含んだ「虚血性心疾患」のカテゴリを見ても,P値は0. 5超であり,1グレイ当たりの過剰相対リスクの95%信頼区間も-10~15%と下限値が負となっているから,その死亡率と放射線被曝との関連性は統計学的に有意とはいえない。)上,0.5グレイ以下の低線量被曝については,「心疾患」の死亡率との間に統計学的に有意な関係を示す結果は得られなかったとされている,③原子放射線の影響に関するUNSCEARの2006年(平成18年)度のレポート(乙A515の1・2)では,低線量被曝者における電離放射線と心血管疾患の因果関係は立証できないと結論付けており,2011年(平成23年)4月に発表された最新のICRPのステートメント(乙A516の1・2)においても,W論文などの最近の研究結果等も踏まえた上で,不確実性を伴うとしながら,循環器疾患のしきい吸収線量が0.5グレイ程度まで低い可能性があるとの指摘がされているにすぎないのであって,最新の科学的知見においても,循環器疾患のしきい値は否定されていないと主張する。 しかしながら,上記①の点については,LSS第13報は,がん以外の疾患のリスクについて,「1Sv 以下の線量においても増加していることを示す強力な統計的証拠がある。低線量における線量反応の形状については著しい不確実性 の点については,LSS第13報は,がん以外の疾患のリスクについて,「1Sv 以下の線量においても増加していることを示す強力な統計的証拠がある。低線量における線量反応の形状については著しい不確実性が認められ,特に約0.5Sv 以下ではリスクの存在を示す直接的証拠はほとんどないが,LSSデータはこの線量範囲で線形性に矛盾しない。」「リスク増加の全般的特徴から,また機序に関する知識が欠如していることから,因果関係については当然懸念が生ずるが,この点のみからLSSに基づく所見を不適当と見なすことはできない。」などとしており(乙A163),低線量被曝の場合でも関連性があることを示唆する内容であるということができるし,LSS第12報についても,冠状動脈性心疾患の過剰相対リスク自体は正の値を示し ている上,心疾患の「その他」(過剰相対リスク0.17,90%信頼区間0.05~0.31)の中には,「心不全」と記載されているものが1787例(55%)含まれている(乙A162)ところ,その中には心筋梗塞も相当数含まれているとみるのが自然であることも考慮すると,統計学的な有意性が直ちに否定されるものではないというべきである。そうすると,AHS第8報において心筋梗塞と放射線被曝との間の関係に有意性が認められていないとしても,なお心筋梗塞の発症と低線量被曝との関連性を示唆する十分な疫学的調査が存在するということができる。 また,上記②の点については,W論文は,0.5グレイ未満の結果は統計的に有意でなかったとするものの,心疾患に関しては,線形モデルがよく適合し,推定しきい値線量の最良の予想は0グレイ(95%信頼上限は約0.5グレイ)であったなどとしていること(乙A517)からしても,心疾患と放射線被曝との関連性につき,しきい値が存在しないことを 適合し,推定しきい値線量の最良の予想は0グレイ(95%信頼上限は約0.5グレイ)であったなどとしていること(乙A517)からしても,心疾患と放射線被曝との関連性につき,しきい値が存在しないことを想定しているとみるのが合理的であり,これによって,0.5グレイ未満の低線量の被曝と心疾患の主要な類型の一つである虚血性心疾患との関連性を直ちに否定することはできないというべきである。なお,少なくとも高線量域において心筋梗塞と放射線被曝との関連性が認められることにはほぼ異論がなく,新審査の方針も「放射線起因性の認められる心筋梗塞」を積極認定の対象疾病としていること等に照らすと,W論文に添付されたウェブ表Bの心筋梗塞及び虚血性心疾患の分類に係るデータについては,その信頼性を慎重に検討する必要があるところ,W論文は,死亡診断書上の分析の正確さについて,広いカテゴリ(脳卒中及び心疾患)については「かなりよかった」としているのに対し,より細かな疾患の下位分類については「精度は貧弱と言わざるをえない」(死亡診断書と剖検報告書との一致率は,虚血性心疾患では69%であ り,高血圧性心疾患では22%にとどまる)とされていること(甲D13の1・2)からすれば,高血圧性心疾患に分類されているもののうち相当数が虚血性心疾患又は心筋梗塞である可能性がある上,心不全とは心臓の機能不全を意味する概念であることから,心不全のカテゴリには相当数の虚血性心疾患又は心筋梗塞が含まれていると考えるのが自然であり,同表の心筋梗塞及び虚血性心疾患に係るデータを数値どおりに捉えて,心疾患のうち虚血性心疾患及び心筋梗塞については放射線との間に関連性がないと結論付けることは相当ではないというべきである(なお,被告は,死亡診断書に「心不全」との記載をしないよう厚生労働省が指示を 心疾患のうち虚血性心疾患及び心筋梗塞については放射線との間に関連性がないと結論付けることは相当ではないというべきである(なお,被告は,死亡診断書に「心不全」との記載をしないよう厚生労働省が指示をした後,心臓病の死亡率が下がり「がん」等の死亡率が上がっているから,「心不全」と診断された症例の中には心疾患以外の症例が多分に含まれていたと主張するが,仮に死亡率の変動が上記のとおりであるとしても,直ちに「心不全」と診断された症例の大多数が心疾患以外の症例で虚血性心疾患又は心筋梗塞はほとんど含まれていないとまではいうことができない。)。 さらに,上記③の点については,UNSCEARの前記レポートは,「今日まで,致死的な心臓血管疾患と1-2Gy 以下の範囲の線量の関連性を示した証拠は日本における原爆被爆の生存者の解析のみであり」としており(乙A515の1・2),ICRPの前記ステートメントも,医療上の必要により放射性物質が投与される場合を念頭に置いていると認められること(乙A516の1・2)等に照らすと,これらが原子爆弾による低線量被曝のリスクを否定する趣旨であると断ずることはできないというべきである。 以上によれば,心筋梗塞などの虚血性心疾患については,放射線防護の観点を加味してより低く見積もっても0.5グレイ程度のしきい値があり,低線量被曝との関連性はない旨の被告の主張は,採用することが できない。 ウ他の原因(危険因子)について(ア)被告は,亡Bについて,加齢,喫煙,脂質異常症といった因子を指摘し,亡Bの心筋梗塞は,これらを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,証拠(乙A503~509)によれば,上記各因子は,いずれも,動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認めら らを原因として発症したものとみるのが自然かつ合理的であると主張するところ,証拠(乙A503~509)によれば,上記各因子は,いずれも,動脈硬化及びこれを原因とする心筋梗塞の危険因子であると認められる。 この点,原告Bらは,LSSやAHS等の調査結果は喫煙等の危険因子についても織り込み済みの判断であると主張する。しかしながら,例えば,W論文は,心疾患の放射線リスクを認めた上で,喫煙,飲酒,教育,職業,肥満,糖尿病等の交絡因子を調整しても心疾患の放射線リスクの評価にほとんど影響を及ぼさなかったとするものの(甲D13の1・2),このような交絡因子の調整は,一般的な疫学的因果関係の判断のために行われるものであるから(乙A191),これによっても,個々の具体的事例において当該疾患が他の危険因子によって発症したものとみることが否定されるものではなく,放射線起因性の証明の有無を判断するに当たっては,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度の検討が必要である(他方,これらの危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。)というべきである。 (イ)そうであるところ,亡Bは,前記認定のとおり,約40年間にわたり1日20本程度のたばこを吸っており,喫煙習慣を有する男性が虚血性心疾患を発症する率は1日当たりの喫煙本数が15~34本の場合において非喫煙者の3倍であるとする厚生労働省研究班の調査結果(乙A513)や,男性の冠動脈疾患死亡のリスクは,1 日20本以内の喫煙者では非喫煙者の1.56倍となり,1日21本以上の喫煙者では非喫煙 者の4.25倍となるとの日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)の指摘(乙A522)等に照らすと,上記の 煙者の1.56倍となり,1日21本以上の喫煙者では非喫煙 者の4.25倍となるとの日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)の指摘(乙A522)等に照らすと,上記の喫煙が亡Bの心筋梗塞の発症に寄与した可能性は高いといわざるを得ない。 しかしながら,喫煙による心血管疾患発症リスクについては,高齢者群では禁煙後1年程度で低下が見られ,2~3年程度で非喫煙者と変わらなくなるとの指摘(甲D21)のほか,禁煙期間によってばらつきはあるが,喫煙者が禁煙をすると喫煙を続けている者に比べ危険性が半分から10分の1まで下がったとする上記厚生労働省研究班の調査結果(乙A513)や,禁煙が冠動脈疾患の二次予防に有用であることは証明されており,心筋梗塞後の禁煙は死亡率を30~60%まで減少させることができるとする上記ガイドラインの指摘(乙A522)等があることからすれば,心筋梗塞の上記発症リスクは,禁煙をすれば顕著に低下すると認められる。そして,亡Bについては,前記認定のとおり,狭心症を発症した昭和61年9月頃から禁煙をしているにもかかわらず,約8年経過後に再び急性心筋梗塞を発症し,更にその約10年後にも右冠動脈に有意な狭窄病変が発見されていること等からすれば,上記の喫煙を過大視することはできないというべきである。 (ウ)また,上記ガイドラインは,高LDLコレステロール血症は冠動脈疾患の重要な危険因子であり,低HDLコレステロール血症も主要危険因子であるとしており(乙A522),同ガイドラインの2012年版は,中性脂肪値の管理目標を150㎎/dl 未満とし,HDLコレステロール値の管理目標を40㎎/dl 以上としている(乙A529)ところ,亡Bは,前記認定のとおり,昭和62年1月頃,高脂血症と指摘されており,そ の管理目標を150㎎/dl 未満とし,HDLコレステロール値の管理目標を40㎎/dl 以上としている(乙A529)ところ,亡Bは,前記認定のとおり,昭和62年1月頃,高脂血症と指摘されており,その中性脂肪値は,同年頃及び平成8年以降,ほぼ一貫して上記目標数値を超え,HDLコレステロール値は,同年以降,ほぼ一貫して上記目 標数値未満で推移している。 しかしながら,亡Bの総コレステロール値は,前記認定のとおり,昭和61年9月及び昭和62年1月を除き,おおむね基準値の範囲内で推移しており,2回目の心筋梗塞発症後である平成8年より前のHDLコレステロール値については,そもそも不明である。そして,脂質異常症については,高脂血症それ自体に放射線被曝が関与しているとするU報告(甲D14)や,被曝放射線量が低HDLコレステロール血症及び高中性脂肪血症と正の相関を示したとするU論文(甲D9の1・2)等の知見があること等をも考慮すれば,上記の脂質異常症(高脂血症及び低HDLコレステロール血症)があることをもって,亡Bの心筋梗塞の発症への放射線被曝の影響を直ちに否定することはできないというべきである(なお,被告は,U論文の上記指摘は,被曝線量1グレイ当たりのオッズ比として算出された値に基づいて導かれたものであり,被曝線量が1グレイ未満の場合においても同旨の結論を導くことにはならないし,疫学的因果関係の判定基準とされる「関連の強固性」に関してはオッズ比の値は2以上であることが要求されており,また,疫学的因果関係が認定できたとしても,その特質から,具体的個人の罹患した疾病の原因を直ちに導き出すことはできないところ,U論文の上記オッズ比の値は,低HDLコレステロール血症で1.24,高中性脂肪血症で1.19程度にすぎないから,U論文によっても,推 的個人の罹患した疾病の原因を直ちに導き出すことはできないところ,U論文の上記オッズ比の値は,低HDLコレステロール血症で1.24,高中性脂肪血症で1.19程度にすぎないから,U論文によっても,推定被曝線量が約0.03グレイ以下である亡Bの脂質異常症が放射線被曝の影響によるとはいえないと主張するが,亡Bが,新審査の方針の下における線量評価方法による推定値を超えて,健康に影響を及ぼすような相当程度の線量の外部被曝及び内部被曝をしたものと認められることは前記のとおりであるから,これと前提を異にする被告の上記主張は,採用することができない。)。 (エ)以上によれば,上記の喫煙及び脂質異常症のほか,亡Bが最初の心筋 梗塞の発症時において63歳であったこと(加齢)等を考慮しても,亡Bの心筋梗塞の発症について,原子爆弾の放射線の影響自体を否定することはできない。 エまとめ以上のとおり,心筋梗塞と放射線被曝との間には低線量域も含めて関連性が認められるところ,亡Bは健康に影響を及ぼす程度の放射線に被曝したものと認められるのであり,亡Bの加齢,喫煙,脂質異常症といった因子は,心筋梗塞の発症に対する原子爆弾の放射線の影響自体を否定するものではないこと等をも考慮すれば,亡Bの心筋梗塞は,原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 よって,本件B申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性が認められる。 (4)要医療性亡Bは,心筋梗塞を最初に発症した後,死亡するまで,再発を防ぐための抗凝固剤,冠血管拡張剤等を服用しており,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件B申請に係る心筋梗塞については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,本件B申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性及び要 ,当該治療が必要な状態が続いていたといえるから,本件B申請に係る心筋梗塞については,要医療性が認められる。 (5)小括以上によれば,本件B申請に係る心筋梗塞については,放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められる。そうすると,本件B却下処分は違法というべきであり,取消しを免れない。 2 亡Aについて(1)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等 (ア)昭和20年8月9日の長崎原爆投下時,亡A(当時21歳)は,学徒動員により派遣されていた長崎市IのJ造船所(爆心地から約3.2㎞)のビル内に居た(甲F1,乙F1,7)。 (イ)亡Aは,その後,長崎市KのJ製鋼所に派遣されていた友人の捜索のためにK方面に行ったり,Iで防空壕を掘る作業に従事したりしていたが,長崎原爆投下から約2週間後,大阪の実家に戻った(甲F1,乙F1,7)。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア)亡Aは,被爆した日から二,三日間,下痢に苦しみ,その後,虫歯が増え,神経症,中心線網膜炎に罹患し,高血圧により入院するなどした(甲F1,乙F1)。 (イ)亡Aは,平成13年2月頃,腎臓がん(病期の指標であるTNM分類によれば,pT1a期(最大経が4㎝以下で腎に限局する腫瘍)のもの)が発見されたため,同月26日,右腎臓摘出手術を受けた(甲F1,乙A659,F3)。 (ウ)亡Aは,その後,定期的に血液検査等を受けていたが,平成22年9月の段階で,腎臓がんの再発や転移はなかった(甲F1,22~30,乙F10の2)。 (エ)亡Aは,同年12月,脳梗塞により入院し,平成23年4月2日,脳梗塞を防止するた いたが,平成22年9月の段階で,腎臓がんの再発や転移はなかった(甲F1,22~30,乙F10の2)。 (エ)亡Aは,同年12月,脳梗塞により入院し,平成23年4月2日,脳梗塞を防止するために服用していた薬の影響により,前記前提となる事実のとおり死亡した(甲F2)。 (オ)亡Aのクレアチニン値(単位㎎/dl,男性の基準値0.8~1.3)は,昭和60年8月頃が1.4程度,平成9~12年頃が1.4~1.7程度,平成13年7~11月頃が2.4~2.5程度,平成15年7月~平成20年7月頃が1.6~1.8程度,同年11月~平成21年7月頃が1.8~2.4程度であり,eGFR値(クレアチニン値と年齢を 用いた算式によって計算する推算糸球体濾過量,単位ml/min/1.73 ㎡)は,平成10~12年頃が36~39程度,平成13年7~11月頃が20~21程度,平成15年7月~平成20年7月頃が29~32程度,同年11月~平成21年7月頃が21~29程度であった(甲F14,19,28~30,乙F4,5,19,弁論の全趣旨)。 (カ)亡Aは,昭和41年頃,高血圧との指摘を受けたほか,昭和61年に「肥満ぎみ」,平成16年に「肥満」と指摘され,平成11年には糖尿病も指摘されていた(乙F17)。 (キ)亡Aは,昭和41年頃から,降圧薬を処方されるようになり,平成21年9月頃からは,漢方薬であるM八味地黄丸エキス顆粒を処方されていた(甲F35,36,乙F17)。 (2)申請疾病の特定証拠(後掲)によれば,本件A申請に係る認定申請書(乙F1)の「負傷又は疾病名」欄には「腎臓癌」と記載されているところ,同申請書に添付された医師の意見書(乙F2)の「現症所見」欄には,「右腎摘出術を受け,以後,慢性腎不全となり」等と記載 定申請書(乙F1)の「負傷又は疾病名」欄には「腎臓癌」と記載されているところ,同申請書に添付された医師の意見書(乙F2)の「現症所見」欄には,「右腎摘出術を受け,以後,慢性腎不全となり」等と記載され,「必要な医療の内容及び期間」欄には「慢性腎不全の定期検査」「食事・運動療法の指導」等と記載されていることが認められるのであって,これらの記載内容等に照らすと,本件A申請においては,腎臓がんのみならず,慢性腎不全についても申請疾病とされているものというべきである。 (3)放射線起因性ア腎臓がんについて亡Aは,前記認定のとおり,長崎原爆投下時に爆心地から3.2㎞の地点に居たのであり,相当量の初期放射線等に被曝していると認められるところ,固形がんの発症については,一般的に放射線被曝との関連性が認められる(LSS第13報等)。そして,前記のとおり新審査の方針が「被 爆地点が爆心地より約3.5㎞以内である者」の「悪性腫瘍(固形がんなど)」を積極認定の対象としており,亡Aの腎臓がんはこれに当たること等をも考慮すれば,同腎臓がんは原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である(なお,被告も,亡Aの腎臓がんの放射線起因性については,積極的に争っていない。)。 イ慢性腎不全について(ア)慢性腎不全は,何らかの腎疾患を原因に,数か月から数十年の単位で徐々に腎機能が低下し,末期腎不全(尿毒症)に至る不可逆的な疾患であり,クレアチニン値2㎎/dl 以上又はGFR(糸球体濾過値)50%(平均値に対する割合)以下となった状態をいう(乙A650)。また,日本腎臓学会は,3か月以上の尿,血液生化学,腎画像,腎組織検査の異常の持続又は3か月以上のGFR(単位ml/min/1.73 ㎡,日本人成人男性の平均値7 となった状態をいう(乙A650)。また,日本腎臓学会は,3か月以上の尿,血液生化学,腎画像,腎組織検査の異常の持続又は3か月以上のGFR(単位ml/min/1.73 ㎡,日本人成人男性の平均値78.1~133.3)60未満の持続のいずれかを満たす場合を慢性腎臓病(CKD)と定義した上で,腎障害の進行度を,eGFR値(推算糸球体濾過値)に応じて,①「腎障害は見られるが機能は正常以上」(eGFR値90以上),②「軽度の腎機能低下」(同89~60),③「中等度の腎機能低下」(同59~30),④「高度の腎機能低下」(同29~15)及び⑤「腎不全」(同14以下)に分類し,上記④の段階では腎臓専門医による治療の必要性が生じ,上記⑤の段階では透析又は腎臓移植の導入が必要となるとしている(乙A650,653,661,664,弁論の全趣旨)。なお,腎障害進行の危険因子としては,高血圧,糖尿病,肥満,脂質異常症,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用等があるとされる(乙A653)。 ところで,前記認定事実によれば,亡Aは,平成13年2月に腎臓がんの治療として右腎臓摘出手術を受けているところ,それ以前は36~39程度であったeGFR値が,同手術後,20~21程度に低下し, いったんは29~32程度まで上昇したものの,その後は21~29程度で推移していたことが認められる。そうすると,亡Aは,上記手術によって,腎臓専門医による治療が必要とされる「高度の腎機能低下」の程度の慢性腎不全の状態に至ったものというべきである。 (イ)この点,被告は,亡AのeGFR値やクレアチニン値に照らすと,亡Aは,①慢性腎不全(eGFR値14以下)の状態にはなかったし,②右腎臓を摘出する以前の昭和60年の時点で既に「中等度の腎機能低下」の状態にあり,かつ 亡AのeGFR値やクレアチニン値に照らすと,亡Aは,①慢性腎不全(eGFR値14以下)の状態にはなかったし,②右腎臓を摘出する以前の昭和60年の時点で既に「中等度の腎機能低下」の状態にあり,かつ,高齢,高血圧,肥満等の危険因子を有していた上,右腎臓摘出後は左腎臓が代償的に肥大して従前と同様の腎機能になっているといえる(eGFR値は,クレアチニン値と年齢の変化によって増減するところ,クレアチニン値は平成9年時点と平成20年9月時点とでほぼ同等であるから,eGFR値の低下は加齢等の影響による自然な経過というべきである。)から,右腎臓の摘出によって腎機能が低下したともいえないと主張する。 しかしながら,上記①の点については,亡Aが,右腎臓摘出手術後,「高度の腎機能低下」の程度の慢性腎不全の状態にあったことは前記のとおりであり,日本腎臓学会の上記分類にいう「腎不全」(これは,透析や腎臓移植が必要となる末期腎不全であると認められる。)に該当しないからといって,慢性腎不全でないということはできない。 また,上記②の点については,亡AのeGFR値は,上記のとおり,右腎臓の摘出前には日本人の成人男性のGFR平均値下限の50%程度であったところ,手術後に急激に低下し,いったんは上昇したものの,手術前の水準には回復せず,その後,更に低下して,上記平均値下限の50%を大きく下回るようになったものであり,クレアチニン値を見ても,前記認定のとおり,昭和60年頃から平成12年頃までは1.4~1.7程度で安定していたにもかかわらず,手術後,2.4~2.5程 度にまで上昇し,いったんは1.6~1.8程度にまで低下したが,その後,1.8~2.4程度で推移していることが明らかである。そして,根治的腎摘除を行った場合,腎機能は,い .4~2.5程 度にまで上昇し,いったんは1.6~1.8程度にまで低下したが,その後,1.8~2.4程度で推移していることが明らかである。そして,根治的腎摘除を行った場合,腎機能は,いったん低下するが,ほとんどの場合は健側の腎臓が代償的に肥大してほぼ正常に回復するとされているものの(乙A652,660),根治的腎摘除後の慢性腎臓病の発生率は腎部分切除に比べて有意に高いとの指摘(乙A652)や,根治的腎摘除術を受けた患者のGFR値が手術後3年の間に新たに60以下にならない確率及び新たに45以下にならない確率は,いずれも腎部分切除術を受けた患者のそれよりも低いとし,根治的腎摘除術は慢性腎不全の進行について重要な危険因子となるとする研究結果(甲F34の1・2,証人X)があり,日本腎臓学会も「片腎」をCKD発症又は腎障害進行の危険因子の一つとしていること(乙A653)等をも併せ考慮すれば,亡Aについては,右腎臓の摘出によって腎機能が低下し,左腎臓の代償的な肥大化によっても正常な状態に回復せず,「高度の腎機能低下」の程度の慢性腎不全となったと見るのが自然かつ合理的ということができる(上記のようなクレアチニン値の変動に照らすと,eGFR値の低下を専ら加齢の影響によるものということはできず,他の危険因子の存在も,上記認定を覆すに足りないというべきである。)。 よって,被告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 ウまとめ以上のとおり,亡Aの腎臓がんについては原子爆弾の放射線に起因するものと認められるところ,亡Aは,その治療として行われた右腎臓摘出手術によって「高度の腎機能低下」の程度の慢性腎不全になったものといえるから,当該慢性腎不全と上記腎臓がんとの間には相当因果関係があるというべきであり,当該慢性腎不 その治療として行われた右腎臓摘出手術によって「高度の腎機能低下」の程度の慢性腎不全になったものといえるから,当該慢性腎不全と上記腎臓がんとの間には相当因果関係があるというべきであり,当該慢性腎不全も,原子爆弾の放射線に起因すると認めるのが相当である。 よって,本件A申請に係る腎臓がん及び慢性腎不全については,いずれも放射線起因性が認められる。 (4)要医療性ア腎臓がんについて(ア)亡Aは,前記認定のとおり,平成13年2月に右腎臓摘出手術を受けた後は,定期的に血液検査等の経過観察を受けていたものの,腎臓がん自体について,それ以外に治療を受けていたと認めるに足りる証拠はなく,積極的な治療行為が必要な状況にあったということもできない。 (イ)ところで,被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対して必要な医療の給付を行うと規定し,同条2項は,上記医療の給付の範囲を,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護並びに⑥移送としている。これらの規定に照らすと,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し,同条2項の規定する医療の給付を要する状態にあることをいうものと解するのが相当である。 そして,積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察については,広い意味での「診察」に含まれ得るとしても,「負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある」という文言の自然な意味内容のほか,被爆者援護法が「健康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第 ,広い意味での「診察」に含まれ得るとしても,「負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある」という文言の自然な意味内容のほか,被爆者援護法が「健康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,都道府県知事が,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとし(被爆者援護法7条),一般検査の結果必要があれば精密検査を行うものとし,その検査の方法は特に制限されていないこと(被爆者援護法施行規則9 条)等に照らすと,当該疾病につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り,上記の「医療」には当たらないと解するのが相当である。 (ウ)これを本件について見ると,亡Aの腎臓がんは,前記認定のとおり,最も病期(進展度)の低いpT1a期のものであるところ,pT1a期の腎臓がんの5年非再発生存率(5年経過した時点で再発・死亡がない症例の割合)は,90%以上であると認められる(乙A660)。そして,前記認定のとおり,本件A申請の時点では右腎臓摘出手術から7年半以上が経過しており,平成22年9月の段階でも再発・転移がなかったことからすれば,亡Aが高齢であったこと等を考慮しても,亡Aの腎臓がんについて,再発・悪化の可能性が高い等の特段の事情があったということはできない。 そうすると,上記のような経過観察を受けていただけの亡Aの腎臓がんについては,要医療性が認められないというべきである。 イ慢性腎不全について(ア)慢性腎不全の治療は,腎臓への過剰な負担を軽減する治療(降圧薬投与等の降圧療法,食塩制限等の食事療法など)と,対症療法(体液貯留に対する利尿薬の投与,アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムの使用など)とに大別され,これらの治療によっても腎不全症状に改善が見られない 降圧療法,食塩制限等の食事療法など)と,対症療法(体液貯留に対する利尿薬の投与,アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムの使用など)とに大別され,これらの治療によっても腎不全症状に改善が見られない場合には,透析又は腎臓移植の導入を選択するものとされる(乙A650)。 ところで,亡Aは,前記認定のとおり,昭和41年頃から高血圧を指摘され,降圧薬を処方されていた上,本件A申請後の平成21年9月頃からは,漢方薬であるM八味地黄丸エキス顆粒(その効能又は効果には高血圧が含まれている上,一定のラットにこれを投与したところ,糸球体濾過量の低下が抑制されるとともに,糸球体及び腎血管の組織障害が 改善されたとされる(乙A662)。)を処方されていたのであって,亡Aの慢性腎不全が前記のとおり「高度の腎機能低下」の程度にまで至っており,末期腎不全への進行を抑制するためには,腎臓への過剰な負担を軽減する必要があったといえることをも考慮すれば,亡Aの慢性腎不全については,客観的に,右腎臓を摘出した後,死亡するまで,降圧療法等の治療が必要な状態が続いていたというべきである。そうすると,亡Aの慢性腎不全については,要医療性が認められる。 (イ)この点,被告は,亡Aについては,平成19年以降,診療録の傷病名に「慢性腎不全」は含まれておらず,腎機能が低下していると判断される患者には投与されるべきでないNSAIDsが投与されるなど,腎機能の低下に着目した専門的な治療がされていなかったなどと主張する。 しかしながら,亡Aについて,右腎臓を摘出した後,死亡するまで,腎機能が相当程度低下しており,それ以上の機能低下を抑制するために高血圧等に対処する必要性が客観的に存在していた(現に,降圧薬等も処方されていた)ことは前記のとおりであるから,仮に,本件A申請前 腎機能が相当程度低下しており,それ以上の機能低下を抑制するために高血圧等に対処する必要性が客観的に存在していた(現に,降圧薬等も処方されていた)ことは前記のとおりであるから,仮に,本件A申請前の段階で,腎機能の低下が明確に認識されておらず,投与が相当でない薬剤が投与されていたとしても,降圧療法等の治療の必要がなかったということはできない。よって,被告の上記主張は,採用することができない(なお,被告は,原爆症認定の申請と共に医療特別手当の申請を行った場合において,原爆症認定がされたときは,被爆者援護法24条4項の規定により,当該申請をした日の属する月の翌月から医療特別手当が支給され得ることに照らすと,要医療性の要件は原爆症認定の申請時において満たされる必要があるところ,M八味地黄丸エキス顆粒が処方されたのは本件A申請後であるから,これを要医療性の根拠とすることはできないと主張するが,上記の規定によれば,要医療性の要件は,原爆症認定の申請から当該申請に係る処分時までのいずれかの時点におい て満たされていれば足りると解するのが相当であり(同要件が満たされる期間について医療特別手当が支給されることになる。),被告の上記主張は,前提を誤るものというほかない。)。 ウまとめ以上によれば,本件A申請に係る腎臓がんについては要医療性が認められないが,慢性腎不全については要医療性が認められる。 (5)小括以上のとおり,本件A申請に係る慢性腎不全については,放射線起因性及び要医療性のいずれの要件も満たしていたものと認められるから,本件A却下処分のうち慢性腎不全に係る部分は違法というべきであり,取消しを免れない。他方,本件A申請に係る腎臓がんについては,要医療性の要件を満たしていたものとは認められないから,本件A却下処分のうち A却下処分のうち慢性腎不全に係る部分は違法というべきであり,取消しを免れない。他方,本件A申請に係る腎臓がんについては,要医療性の要件を満たしていたものとは認められないから,本件A却下処分のうち腎臓がんに係る部分は違法であるということはできず,当該部分の取消請求は理由がない。 第3 義務付けの訴えの適法性等(争点③)本件各申請に係る原爆症認定の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前記第2のとおり,本件A却下処分のうち申請疾病腎臓がんに係る部分の取消しを求める請求は認容されるべきものではないから,本件訴えのうち当該疾病に係る原爆症認定の義務付けを求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を満たさない不適法なものであり,却下を免れない。 他方,前記第2のとおり,本件B却下処分及び本件A却下処分のうち慢性腎不全に係る部分は取り消されるべきものであるから,本件訴えのうち,本件B申請及び本件A申請(申請疾病慢性腎不全に係る部分に限る。)に係る原爆症認定の義務付けを求める部分は,同号の要件を満たし,適法であると認められる。そして,前記第2において判示したところに照らせば,上記各申請については,放射線起因性及び要医療性のいずれの要件も満たされていたと認められ, 他にこれを却下すべき事情も見当たらないから,同法37条の3第5項の規定により,厚生労働大臣に対し,原爆症認定をすべき旨を命ずるのが相当である。 第4 国家賠償責任(争点④) 1 却下の判断の違法性について(1)判断枠組み国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定す 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,原爆症認定の申請に対する却下処分が放射線起因性又は要医療性の要件の充足に関する判断を誤ったため違法であるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,原爆症認定に関する権限を有する厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 ところで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないものとされている(被爆者援護法11条2項,被爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分をするにあたっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関の意見を聴くこととし,その処分の内容を適正ならしめる趣旨によるものであり,厚生労働大臣は,特段の合理的理由がない限り,その意見を尊重することが要請されていると解される。そして,同審査会には,被爆者援護法の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科 会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療 処理する分科 会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員は,放射線科学者,被爆者医療に従事する医学関係者,内科や外科等の専門的医師等の放射線起因性及び要医療性の判断について高い識見と豊かな専門的知見を備えた者により構成されていることが認められる(弁論の全趣旨)。 以上によれば,厚生労働大臣が原爆症認定申請につき疾病・障害認定審査会の意見を聴き,その意見に従って却下処分を行った場合においては,その意見が関係資料に照らして明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在し,厚生労働大臣がこれを知りながら漫然とその意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。 (2)検討アこれを本件について見ると,本件各却下処分は,前記前提となる事実のとおり,厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものであるところ,その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したと認めるに足りる証拠はない。 イこの点,原告らは,最高裁平成12年判決等から導かれる総合判断の認定手法や,その後に策定された新審査の方針に従えば,亡B及び亡Aは当然に原爆症認定を受けるべき者であるにもかかわらず,厚生労働大臣は,医療分科会の意見に何らの疑義も挟まず,漫然と本件各却下処分を行ったものであり,本件各却下処分は国家賠償法上違法であると主張する。 しかしながら を受けるべき者であるにもかかわらず,厚生労働大臣は,医療分科会の意見に何らの疑義も挟まず,漫然と本件各却下処分を行ったものであり,本件各却下処分は国家賠償法上違法であると主張する。 しかしながら,亡Bの申請疾病である心筋梗塞については,前記第2で判示したところによれば,積極認定の対象となる「放射線起因性が認めら れる心筋梗塞」に当たるか否かについて,相当程度の放射線に被曝したかどうかを含めて慎重に検討する必要があり,総合認定の場合との違いが明らかではない上記文言の当否はともかくとして,これが積極認定の対象となることが明らかであったとまではいえないし,亡Bについて,総合認定により原爆症認定をすべきことが明らかであったということもできない。 また,亡Aの申請疾病のうち慢性腎不全については,腎臓がん自体が積極認定の対象となるとしても,これと慢性腎不全との関係について,前記のとおり慎重な検討が必要というべきであり,慢性腎不全が積極認定の対象に該当することが明らかであったとはいえないし,要医療性についても前記のとおり慎重に検討する必要があったというべきであるから,亡Aについて,総合認定により原爆症認定をすべきことが明らかであったということもできない。よって,原告らの上記主張は採用することができない。 ウまた,原告らは,厚生労働大臣は行政手続法5条1項の審査基準を定めることなく本件各却下処分を行っているから,本件各却下処分については同項違反の違法があり,国家賠償法上も違法であると主張する。 しかしながら,同条が行政庁に審査基準の設定,具体化及び公表を義務付けている趣旨は,行政庁による法令の解釈適用に際しての裁量行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ることにある。そして,このような趣旨に照らすと,同条は,審査基準の設定が不 及び公表を義務付けている趣旨は,行政庁による法令の解釈適用に際しての裁量行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ることにある。そして,このような趣旨に照らすと,同条は,審査基準の設定が不要又は不可能であるような場合にまで審査基準の設定を行政庁に義務付けるものではなく,許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難である場合には,行政庁は,審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。そして,原爆症認定の申請がされた場合には,被爆者援護法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性の有無について判断がされるところ,その判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に科学的・専門的なものであ るから,その性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,同項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難というほかない。 そうすると,原爆症認定については,審査基準を定めることを要しないというべきである。 よって,本件各却下処分は,行政手続法5条1項に違反するものとはいえず,国家賠償法1条1項にいう違法性があったということもできないから,原告らの上記主張は採用することができない。 エさらに,原告らは,本件各却下処分は,具体的な理由が示されることなくされたものであるから,行政手続法8条に違反した違法なものであり,国家賠償法上も違法であると主張する。 しかしながら,同条1項本文が,許認可等の申請に対して行政庁が拒否処分をする場合は申請者に対し同時に当該処分の理由を示さなければならないとする趣旨は,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服申立てのための便宜を図ることにあると解される。そして 処分の理由を示さなければならないとする趣旨は,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服申立てのための便宜を図ることにあると解される。そして,同項本文の規定によりどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決すべきである(同法14条1項についての最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。そして,原爆症認定の申請に当たっては,申請者は,認定申請書に被爆時の状況(入市の状況を含む。)を記載するとともに,自ら申請疾患を特定し,その病状・病歴等を認定申請書に記載した上,医師の意見書及び当該疾病等に係る検査成績を記載した書類を添付してこれを厚生労働大臣に提出することが求められているのであるから(被爆者援護法施行規則12条),原爆症認定の申請を却下する旨の処分がされた場合には,当該申請者にお いて,その却下処分の基礎となった事実関係は明らかというべきである(なお,平成20年厚生労働省令第41号による改正前の同条においては,被爆時の状況(入市の状況を含む。)は認定申請書の記載事項とされていなかったが,申請者は,被爆者健康手帳交付申請の際に,被爆者援護法1条各号のいずれかに該当する事実(被爆状況)を認めることができる書類等を添付しているから(被爆者援護法施行規則1条),いずれにしても当該事実関係は明らかということができる。)。また,これを審査する医療分科会においては,本件各却下処分の当時,新審査の方針を判断の目安として用いていたところ,この新審査の方針は厚生労働省のホームペ 当該事実関係は明らかということができる。)。また,これを審査する医療分科会においては,本件各却下処分の当時,新審査の方針を判断の目安として用いていたところ,この新審査の方針は厚生労働省のホームページを通じ一般に公開されていたのであるから(弁論の全趣旨),申請者は,判断の目安を容易に知ることができるというべきである。しかも,原爆症認定における主たる判断対象は,被爆者援護法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性であるところ,これらの判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に専門的なものである上,放射線起因性については,申請疾病等に関する科学的疫学的知見に加え,被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等の総合的な判断を要求されるものであり,その性質上,判断の過程を詳細に説明することには困難が伴うということができる。そして,原爆症認定はその要件効果について裁量の余地はなく,また,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならないとされており,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するための制度的手当がされていることも考慮すれば,原爆症認定の申請を却下する処分については,当該却下処分に至る判断の過程やその根拠となる科学的疫学的知見まで詳細に摘示しなければならないものではなく,医療分科会に諮問された場合にはその審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性の いずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であり,そのように解しても,行政手続法8条1項本文の趣旨には反しないというべきである。 これを本件について見ると,本件各却下処分の通知書には,い のとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であり,そのように解しても,行政手続法8条1項本文の趣旨には反しないというべきである。 これを本件について見ると,本件各却下処分の通知書には,いずれも,①原爆症認定を受けるために必要とされる被爆者援護法10条1項の要件の具体的内容,②疾病・障害認定審査会において,申請書類から得られた被爆時の状況,申請時に至るまでの健康状況及び疾病の治療状況等に関する情報をもとに,これまでに得られている医学的知見や経験則等に照らし総合的に検討されたが,当該疾病については放射線起因性があるとすることは困難であると判断され,又は疾病の状況について検討された結果,当該疾病については現に医療を要する状態にないと判断された旨及び③このような疾病・障害認定審査会の意見を受けて却下処分を行った旨が記載されていることが認められる(乙D3,F16)。そして,このような通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,医療分科会における審議の概要と結果のほか,放射線起因性又は要医療性を欠くものとされたことが明らかということができる。そうすると,本件各却下処分の通知書の理由の記載は,行政手続法8条1項本文に違反するものではないというべきである。 よって,本件各却下処分は,行政手続法8条に違反したものとはいえず,国家賠償法1条1項にいう違法があったということもできないから,原告らの上記主張は採用することができない。 オ以上によれば,厚生労働大臣が本件各却下処分を行ったことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 2 不作為の違法性について(1)判断枠組み前記1(1)のとおり,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力 の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務 。 2 不作為の違法性について(1)判断枠組み前記1(1)のとおり,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力 の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,厚生労働大臣が原爆症認定の申請に対する処分のために客観的に手続上必要と考えられる期間内に応答処分をしなかったとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。 (2)認定事実前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア新審査の方針の策定の経緯等(ア)平成19年8月5日,内閣総理大臣が,原爆症認定の在り方について,「専門家の判断をもとに改めて見直すことを検討させたい」と発言した(乙A8)。 (イ)厚生労働省は,上記(ア)の発言を受けて,同省健康局長の下に,医学・放射線学の専門家や法律家を構成員とする原爆症認定の在り方に関する検討会を発足させ,同検討会は,同年12月17日,旧審査の方針の考え方をおおむね是認する内容の「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」を取りまとめた(乙A9,10)。 (ウ)当時の政権与党の原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームは,同月19日,がん等の一定の疾病について,「一定区域内(約3.5㎞前後を目安とする)の被爆者及び一定の入市した被爆者(爆心地付近(約2㎞以内)に約100時間以内に入市した被爆者および約 トチームは,同月19日,がん等の一定の疾病について,「一定区域内(約3.5㎞前後を目安とする)の被爆者及び一定の入市した被爆者(爆心地付近(約2㎞以内)に約100時間以内に入市した被爆者および約100時間程度経過後,比較的直ちに約1週間程度滞留したもの)については,格段 の反対すべき事由がなければ合理的推定により積極的かつ迅速に認定を行うものとする」といった内容の提言を取りまとめた(乙A11)。 (エ)厚生労働省は,上記(ウ)の提言を受けて,「新しい審査のイメージ」を作成し,平成20年1月21日,これを医療分科会に示し,医療分科会は,これを受けて,同年3月17日,新審査の方針を策定し,同年4月から,新審査の方針による審査を開始した(乙A1の1,12,13の1~3,弁論の全趣旨)。 イ原爆症認定の申請に係る事務等(ア)原爆症認定の申請に係る事務は,厚生労働省健康局総務課の所掌事務であり,同課には,原爆症認定の申請に係る事務をつかさどる職員ら(以下「事務局」という。)が置かれている(弁論の全趣旨)。 (イ)事務局が行う原爆症認定の審査に関する業務の概要は,以下のとおりである(弁論の全趣旨)。 a 都道府県知事から認定申請書等が進達されると,事務官において,基本情報(申請者氏名,被爆状況,申請疾病等)の受付入力作業,被爆者健康手帳交付申請書,原子爆弾投下当時の地図,戦災誌等の資料との照合等を行う。また,医師免許を有する医系技官において,医学的知見を踏まえた申請疾病の罹患状況等の把握等を行う。 b 事務局において資料が不足すると考える場合には,適宜,事務官又は医系技官が,都道府県知事を経由して,申請者等に対し照会を行うなどして追加資料の徴求・収集を行う。 c 資料が一応そろったと思料された案件については,医療分科会へ と考える場合には,適宜,事務官又は医系技官が,都道府県知事を経由して,申請者等に対し照会を行うなどして追加資料の徴求・収集を行う。 c 資料が一応そろったと思料された案件については,医療分科会への諮問を行う。なお,事務官は,医療分科会の委員の日程調整,会場の確保・設営準備,開催通知起案,会議資料の作成・準備等を行う。 d 医療分科会の答申がされると,事務官は,医療分科会の議事要旨の作成,ホームページの更新等の作業を行いつつ,各申請に係る認定書 又は却下通知書を作成し,決裁を経て,都道府県知事への発出作業を行う。 (ウ)事務局は,上記(イ)の業務のほか,全国の裁判所に係属する原爆症認定集団訴訟の訴訟対応事務も担当している(弁論の全趣旨)。 ウ旧審査の方針下における審査体制等(ア)医療分科会の委員等医療分科会の委員は,平成20年3月現在で19名であり,医療分科会はおおむね1か月に1回の割合で開催されていた(弁論の全趣旨)。 (イ)事務局の人員体制等事務局には,平成19年度には5名の係員(事務官2名,医系技官3名)が配置されていた(弁論の全趣旨)。 (ウ)申請件数・処分件数・平均審査期間原爆症認定の年間申請件数は,平成10~17年度はおおむね500件前後で推移していたが,平成18年度は1325件,平成19年度は1601件となった。他方,年間処分件数は,平成18年度が538件であり,平成19年度が262件であった(弁論の全趣旨)。 エ新審査の方針の下における審査迅速化のための取組(ア)審査部会の設置等医療分科会には,新審査の方針の策定に伴い,一定の疾病に係る審査を行う四つの審査部会が置かれ,各部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととされ(これにより,1か月合計5回開催される医療分 医療分科会には,新審査の方針の策定に伴い,一定の疾病に係る審査を行う四つの審査部会が置かれ,各部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととされ(これにより,1か月合計5回開催される医療分科会又は審査部会による審査が行われることになった。),さらに,平成22年5月,二つの審査部会が増設された(乙A7,22)。 (イ)いわゆる事務局認定の開始事務局は,新審査の方針の策定に伴い,いわゆる確率的影響の範ちゅうに属する悪性腫瘍のうち,旧審査の方針に基づき審査をしても認定相 当と考えられる案件等については,当該負傷又は疾病が「原子爆弾の傷害作用に起因すること」が「明らか」(被爆者援護法11条2項ただし書)であるとして,医療分科会や審査部会による答申を経るまでもなく,原爆症認定を行うこととした(弁論の全趣旨)。 (ウ)医療分科会委員の増員医療分科会の委員は,新審査の方針の策定後,新たに審査部会が増設されたことを踏まえ,平成21年4月までに臨時委員を含めて31名にまで増員され,さらに,同年6月までに33名に増員された(弁論の全趣旨)。 (エ)事務局係員の増員事務局の係員は,平成20年度には10名に増員された(弁論の全趣旨)。 オ新審査の方針の下における処分件数等(ア)原爆症認定の申請件数は,新審査の方針による審査開始後に激増し,平成20年6~9月の4か月間の申請件数(新規進達件数)は毎月1000件を超え,平成20年度の年間申請件数(新規進達件数)は8580件に上った。年間申請件数(新規進達件数)は,平成21年度も3964件に上り,平成19年度以前よりも大幅に多い状態が続いていた(乙A17,弁論の全趣旨)。 (イ)原爆症認定の申請に対する処分を待つ状態にある件数(以下「待機件数」という。)は 成21年度も3964件に上り,平成19年度以前よりも大幅に多い状態が続いていた(乙A17,弁論の全趣旨)。 (イ)原爆症認定の申請に対する処分を待つ状態にある件数(以下「待機件数」という。)は平成20年4月末には約2600件に上っていたところ,上記(ア)のような申請件数の増加等に伴って更に増加し,同年12月時点では約8400件となっていた(乙A17)。 (ウ)これに対し,原爆症認定の申請に対する年間処分件数(取消訴訟係属中の原告らに対する処分件数及び異議申立て分を含む。)は,平成20年度が3031件,平成21年度が5003件であり,平成22年度は 5か月間で2766件であった(乙A17)。 (エ)事務局は,新審査の方針による審査が始まった平成20年4月以降,申請の時期が古い案件(旧審査の方針の見直しを行っている間は処分を留保していた約300件を含む。)に対する審査(特に集団訴訟における原告らに対する審査の見直し)を速やかに行うとともに,審査期間が長期に及ぶ案件の中でも,新審査の方針の下で,形式的要件を満たせば原則として放射線起因性が認められることとなったがん疾患など,被爆状況やその申請疾病等に照らし,原爆症認定がなされる可能性が特に高いと思われる案件をまず洗い出し,これらを優先的に処理することとした(弁論の全趣旨)。 (3)検討ア被爆者援護法は,その前文において,「ここに,被爆後五十年のときを迎えるに当たり,…国の責任において,…高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講」ずるとしていることからすれば,その制定時点において,被爆者が既に相当高齢化しており,これに対する援護が急がれることを自覚して制定されたものと理解することができる。そして,現在においては,被爆者援護法の制 ていることからすれば,その制定時点において,被爆者が既に相当高齢化しており,これに対する援護が急がれることを自覚して制定されたものと理解することができる。そして,現在においては,被爆者援護法の制定(平成6年)から約20年が経過しており,被爆者は例外なく高齢者である上,原爆症認定の申請に係る疾病は,悪性腫瘍(がん)などの重篤なものが多く,厚生労働大臣の応答処分が長期間遅延すると,処分の時点では既に当該申請者が死亡しているという事態も起こり得る。このような被爆者援護法の趣旨や被爆者の現状等に照らすと,原爆症認定の申請に対しては,できる限り早期の応答処分が求められているということができる。 もっとも,他方で,厚生労働大臣は,原爆症認定の申請に対して適正に判断すべき義務を負っているところ,厚生労働大臣の行う原爆症認定処分は,個々の申請者の被爆状況等を個別的に確定した上で,既往歴,生活環 境等の個別事情も考慮し,申請疾病等と放射線との関連性についての高度な科学的・医学的知見に基づく判断を経て行われるものである。しかも,被爆者援護法上,原爆症認定をするに当たっては,原則として,合議制の機関である疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならず(同法11条2項),合議体による実質的な議論を行うためには相当の事前準備が必要となるのであって,このような原爆症認定制度の性格上,厚生労働大臣が原爆症認定の申請に対して適正な判断を行うためには,その審査に相当程度の期間を要することもやむを得ない面がある。そして,前記認定のような原爆症認定の申請に係る事務の内容等に照らすと,原爆症認定の申請からこれに対する応答処分までの通常要すべき期間は,その審査の難易度等において平均的な事案を想定すれば,1年程度を一応の目安とするのが相当というべ 申請に係る事務の内容等に照らすと,原爆症認定の申請からこれに対する応答処分までの通常要すべき期間は,その審査の難易度等において平均的な事案を想定すれば,1年程度を一応の目安とするのが相当というべきである。 イところで,前記前提となる事実によれば,本件B却下処分は本件B申請の約2年5か月後にされ,本件A却下処分は本件A申請の約2年2か月後にされているのであって,本件各申請から本件各却下処分までの期間は,いずれも1年を超えていることが明らかである。 しかしながら,前記認定のとおり,原爆症認定の年間申請件数は,平成10~17年度の原爆症認定の年間申請件数は,おおむね500件程度で推移していたが,平成18年度以降急増し,これに伴い,待機件数も,平成20年4月末には約2600件に上っていたところ,同月に新審査の方針による審査が開始されて以降,申請件数は更に激増し,平成20年度の年間申請件数は8580件に上り,待機件数も同年12月時点で約8400件にまで増加していた上,事務局は,これらの処理と並行して,全国の裁判所に係属していた多数の原爆症認定集団訴訟の訴訟等にも対応していたというのであるから,事務局における原爆症認定に係る事務が滞留し,通常よりも申請書類の確認作業等に時間を要したことも,やむを得ないも のといえる。そして,事務局及び医療分科会は,前記認定のとおり,新審査の方針による審査が開始された後,旧審査の方針の見直しを行っている間は処分を保留していた古い案件の処理等を優先して行っていたところ,このような処理には合理性があるといえるから,新審査の方針の策定前後,直ちに本件各却下処分に係る原爆症認定の申請につき諮問・答申がされなかったことについては,やむを得ない事情があったというべきである。 また,前記認定のとおり,新審査の から,新審査の方針の策定前後,直ちに本件各却下処分に係る原爆症認定の申請につき諮問・答申がされなかったことについては,やむを得ない事情があったというべきである。 また,前記認定のとおり,新審査の方針の策定に伴い,医療分科会に四つの審査部会が設置されて開催回数が増加し,医療分科会の委員や事務局の係員についても,相当の増員が図られた結果,新審査の方針の策定後の処分件数は,平成20年度は3031件,平成21年度は5003件となり,従前の10倍近い件数が処理されている。そして,医療分科会の委員には,原爆症認定の申請の審査をするにふさわしい学識経験を有する者を任命しなければならない(国家行政組織法8条参照)から,医療分科会の委員や開催回数を増やすにも一定の限度があることは明らかであり,また,事務局の係員についても,予算・定員の制約から,その増員等には相当の困難が伴うこと等をも考慮すると,新審査の方針の策定後,応答処分の遅延を回避するための努力が十分に尽くされていると評価することができるのであって,厚生労働大臣が従前の処理体制を漫然と放置していたということはできない。 以上によれば,本件各申請から本件各却下処分まで約2年2~5か月を要したことについては,殊更これらの申請を放置していたといった特段の事情がない限り,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延させたものということはできない。 ウそうであるところ,前記1のとおり,亡B及び亡Aについて原爆症認定をすべきことが明らかであったということはできず,本件各申請について 上記特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件各申請から本件各却下処分まで約2年2~5か月を要したことが国家賠償法上違法であるとは認 ことはできず,本件各申請について 上記特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件各申請から本件各却下処分まで約2年2~5か月を要したことが国家賠償法上違法であるとは認められない。 3 小括以上によれば,原告らの被告に対する国家賠償法1条1項の規定による損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 第5 結論以上のとおりであって,本件訴えのうち本件A申請に係る原爆症認定の義務付けを求める部分(申請疾病腎臓がんに係る部分に限る。)は不適法であるから却下し,原告らの本件B却下処分及び本件A却下処分(申請疾病慢性腎不全に係る部分に限る。)の取消し並びに本件B申請及び本件A申請(申請疾病慢性腎不全に係る部分に限る。)に係る原爆症認定の義務付けを求める各請求はいずれも理由があるから認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官山本 拓 裁判官佐 藤 しほり

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