平成25(ワ)822 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年3月24日 仙台地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-85832.txt

判決文本文49,649 文字)

主文 1 被告は,原告Aに対し,2659万8449円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告B及び原告Cの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告Aと被告との間に生じた費用については被告の負担とし,その余の原告らと被告との間に生じた費用についてはその余の原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 被告は,原告Bに対し,1385万6543円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,1314万0992円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,平成23年3月11日午後2時46分に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(以下,この地震を「本件地震」といい,本件地震及びその余震による震災(東日本大震災)を「本件震災」という。)に伴う津波(以下「本件津波」という。)に襲われて死亡した原告Bの母D,原告Cの母E及び原告Aの子Fの各相続人である原告らが,東松島市立野蒜小学校(以下「本件小学校」という。)を設置し運営するとともに災害時の避難場所に指定していた地方公共団体である被告に対し,本件小学校の校長G(以下「本件校長」という。)が,本件津波に関する情報収集を懈怠し,本件小学校に避難したD及びEを本件小学校の校舎(以下「本件校舎」という。)の2階以上に避難誘導しなかったという過失によって,D及びEが本件小学校の体育館(以下「本件体育館」という。)において本件津波に襲われて死亡し,また,本件小学校に避難し た同校在 舎」という。)の2階以上に避難誘導しなかったという過失によって,D及びEが本件小学校の体育館(以下「本件体育館」という。)において本件津波に襲われて死亡し,また,本件小学校に避難し た同校在籍の児童であるFを災害時に児童(F)の引渡しを受ける責任者として登録されていた者以外の者に引渡後の安全を確認せずに引き渡したという過失によって,Fが本件小学校よりも海側の場所で本件津波に襲われて死亡したとして,それぞれ,国家賠償法1条1項に基づき,上記3名から相続した各損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠等により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等ア原告Bは,本件津波により死亡したD(大正13年10月3日生まれの女性)の長女であり,Dを2分の1の割合で法定相続した(争いのない事実)。 イ原告Cは,本件津波により死亡したE(昭和14年5月5日生まれの女性)の長女であり,Eを4分の1の割合で法定相続し,Eを同割合で相続した妹のHからEの被告に対する損害賠償請求権の4分の1につき,債権額不詳の債権として譲渡を受けた(原告CがEを4分の1の割合で法定相続したことについては争いがない。Hから原告Cへの上記債権譲渡につき,甲9の9)。 ウ原告Aは,本件津波により死亡したF(平成13年12月13日生まれの女児)の母であり,Fを2分の1の割合で法定相続した(争いのない事実)。 エ被告は,宮城県内の地方公共団体であり,本件地震当時,本件小学校を設置し運営していた(争いのない事実)。 (2) 東松島市,本件小学校,Fの自宅の位置関係等ア宮城県東松島市(以下,単に「東松島市」という。)は,牡鹿半島先端の黒崎から福島県相馬市の茶屋ヶ岬 設置し運営していた(争いのない事実)。 (2) 東松島市,本件小学校,Fの自宅の位置関係等ア宮城県東松島市(以下,単に「東松島市」という。)は,牡鹿半島先端の黒崎から福島県相馬市の茶屋ヶ岬に至る太平洋に面した海岸である仙台湾沿岸(総延長約435キロメートル)の北部に位置し,東松島市野蒜地区 (以下,単に「野蒜地区」という。)の野蒜海岸は緩やかな弧を描く砂浜海岸となっている(乙27)。 イ本件小学校は,本件地震当時,野蒜海岸の最も近い所から北西約1.3キロメートル,海抜約1.5メートルから約2.0メートルの場所(東松島市野蒜字亀岡80)に所在する,野蒜地区における防災上重要な施設(災害対策基本法(平成24年法律第41号による改正前のもの。以下同じ。)7条1項)であり,被告が作成した東松島市地域防災計画(災害対策基本法2条10号ロ,以下「本件防災計画」という。)において,火災,地震その他の災害時の避難場所に指定されていた。そして,本件防災計画には,注書きとして,「教育施設(小・中学校)の避難所は,各講堂(屋体)を指定している。なお,被害が拡大,あるいは拡大が予想される場合においては,校舎も含め利用するものとする。ただし,津波,高潮災害については,校舎(2階以上)を利用するものとする。」との記載(以下「本件記載」という。)がある。 本件地震当時,本件校舎は耐震化工事を経た鉄骨・鉄筋コンクリート造3階建ての建物であり,本件体育館は2階建てで2階の大部分が吹き抜けとなっている建物であった。本件校舎と本件体育館は渡り廊下でつながっており,その間の距離は約55メートルであった。(本件小学校が災害対策基本法にいう防災上重要な施設であり,被告が作成した本件防災計画において避難場所に指定されていたこと,本件防災計画に本件記載があるこ り,その間の距離は約55メートルであった。(本件小学校が災害対策基本法にいう防災上重要な施設であり,被告が作成した本件防災計画において避難場所に指定されていたこと,本件防災計画に本件記載があること及び本件校舎が耐震化工事を経た鉄骨・鉄筋コンクリート造3階建ての建物であることについては,争いがない。その余につき,乙2,5,37,41,弁論の全趣旨)ウ Fの自宅は,本件地震当時,本件小学校よりも海側に位置し,野蒜海岸の最も近い所から北西約700メートル,海抜約1.9メートルの場所にあった(甲55,乙2,3,8,41,弁論の全趣旨)。 (3) 本件地震の発生等ア平成23年3月11日午後2時46分(以下,時刻のみを示す場合は,同日を指す。),三陸沖を震源とする地震の規模がマグニチュード9.0,震源の深さが約24キロメートルの本件地震が発生した(甲17)。 イ気象庁は,午後2時49分,本件地震の規模をマグニチュード7.9とする速報値を発表するとともに宮城県において予想される津波の高さを6メートルとする津波警報(大津波)(以下「大津波警報(6メートル)」という。)を発表し,午後3時14分,宮城県において予想される津波の高さを10メートル以上とする追加の津波警報(大津波)(以下「大津波警報(10メートル以上)」という。)を発表した(気象庁が発表した津波警報の時刻及び内容については,争いがない。その余につき,乙24)。 ウ東松島市においても本件地震により震度6強から6弱の揺れを観測したため,野蒜地区の住民らは,本件防災計画により避難場所として指定されていた本件小学校へ避難するために向かい,D及びEも本件体育館に避難した(甲17,73,84,弁論の全趣旨)。 本件小学校の3年生に在籍していたF(本件地震 計画により避難場所として指定されていた本件小学校へ避難するために向かい,D及びEも本件体育館に避難した(甲17,73,84,弁論の全趣旨)。 本件小学校の3年生に在籍していたF(本件地震当時9歳)は,本件地震発生時,下校してそろばん教室にいたが,同教室にいた他の児童らとともに本件体育館に避難した(争いのない事実)。 (4) 本件地震発生後の本件小学校の状況等ア本件校長は,本件地震後にも大きな余震が続いており,本件校舎の柱や壁にはひび割れが発生し,教室内は机や学習用具が散乱したことなどから,本件小学校の教頭I(以下「本件教頭」という。)と相談し,本件体育館に避難することを決め,本件小学校の教諭らにそれぞれ指示を出した(乙9,10の1,45,49ないし51,証人G,証人I,証人J)。 イ本件教頭は,職員室の電話で東松島市教育委員会(以下「本件教育委員会」という。)と連絡を取ろうと試みたが,停電のため電話は通じなかっ た。また,本件教頭は,災害時の情報収集に関する責任者であったため本件地震に関する情報を集めようとしたが,職員室内のテレビやラジオはいずれも停電のため使用できず,インターネットにも接続できなかった。結局,本件教頭が入手した情報は,震度6強の揺れを観測したという情報にとどまった。(乙10の1,50,証人I)ウ本件校長は,本件体育館において児童の安全管理や見守り等に当たっていたが,本件体育館に避難していた児童の家族らから児童の引渡しを求められたため,午後3時20分頃,本件体育館内にいた教諭らに指示を出し,児童の引渡しを開始した(乙10の1,49,51,証人G,証人J)。 Fが在籍していたクラスの担任教諭J(以下「J教諭」という。)は,Fの同級生の父であるKから,Fを同人の自宅に送 出し,児童の引渡しを開始した(乙10の1,49,51,証人G,証人J)。 Fが在籍していたクラスの担任教諭J(以下「J教諭」という。)は,Fの同級生の父であるKから,Fを同人の自宅に送り届ける旨の申出を受けたため,FをKに引き渡した。本件小学校では,在籍児童の保護者に対し,大規模地震等が発生して児童が安全に登下校できない状況になった場合,児童を安全かつ確実に保護者に引き渡すため,本件小学校で児童の引渡しを受ける責任者(以下「災害時児童引取責任者」という。)を事前に登録させていたが,KはFの災害時児童引取責任者ではなかった。(争いのない事実)エその後,本件体育館が避難者で一杯になってきたため,本件校長は,避難者の一部を本件校舎に誘導することを決め,教諭らに本件校舎内に避難者を受け入れるための準備を行うよう指示し,本件校舎への避難者の移動を開始しようとした時に,本件津波が本件小学校に到達した(乙9,10の1,45,49,50,証人G)。 (5) 本件津波の到達等ア本件体育館には,地盤から高さ約3.5メートル(体育館の床から約2. 9メートル)の津波が到達し,その水位は,本件体育館の2階の通路(ギャラリー)直下まで到達した。本件体育館に避難していた者の多くは,ギ ャラリーに上って助かったり,教諭らに救助されたりしたが,救助できず,溺死した者もいた。本件体育館に避難していたD及びEも本件津波に巻き込まれ,本件津波の到達直後に溺死した(甲3,4,73,84,乙8,9,30,45)。 イ Fは,J教諭からKに引き渡された後,同人によりFの自宅まで送り届けられ,従兄弟であるL(当時高校3年生。)に引き渡されたが,野蒜地区を襲った本件津波に巻き込まれ,その直後に溺死した。なお,Lも本件津波に巻き込まれて死亡した。 た後,同人によりFの自宅まで送り届けられ,従兄弟であるL(当時高校3年生。)に引き渡されたが,野蒜地区を襲った本件津波に巻き込まれ,その直後に溺死した。なお,Lも本件津波に巻き込まれて死亡した。 Fの死亡について,独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「日本スポーツ振興センター」という。)から原告Aに対し東日本大震災特別弔慰金(以下「特別弔慰金」という。)500万円が支給された。(Fが自宅でLに引き渡された後に本件津波に巻き込まれて溺死したこと,及びFの死亡について特別弔慰金500万円が支給されたことについては,争いがない。その余につき,甲7,116,弁論の全趣旨) 2 争点本件の争点は,(1)本件校長が本件小学校に避難したD及びEを本件校舎の2階以上に避難誘導しなかったという過失の有無,(2)本件校長がFを災害時児童引取責任者として登録されていた者以外の者に引渡後の安全を確認せずに引き渡したという過失の有無,(3)(2)の過失とFの死亡との因果関係,(4)東松島市長及び本件教育委員会の教育長の責任の有無,(5)損害額であり,これらの点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 本件校長が本件小学校に避難したD及びEを本件校舎の2階以上に避難誘導しなかったという過失の有無ア原告らの主張(ア) 本件校長の責務本件小学校は,災害対策基本法7条1項にいう防災上重要な施設であ り,本件校長は,その管理者に当たるから,災害時に防災業務を行い,円滑な避難対策を実施する責務を負っていた。したがって,本件校長は,本件地震により避難してきた者の安全を守るため,情報収集をして津波の危険を予見し,津波災害が予想される場合は,本件防災計画に従い,避難者を本件体育館ではなく本件校舎の2階以上に避難 て,本件校長は,本件地震により避難してきた者の安全を守るため,情報収集をして津波の危険を予見し,津波災害が予想される場合は,本件防災計画に従い,避難者を本件体育館ではなく本件校舎の2階以上に避難誘導すべき注意義務を負っていた。 本件津波が本件体育館に到達したのは午後3時52分頃であり,本件校長は,午後2時50分頃から午後3時50分頃までに収集し得た情報に基づき,事前の想定を大きく超えて,本件津波が本件体育館に到達することを予見できたから,避難者を本件校舎の2階以上に誘導すべき義務があった。 (イ) 本件校長が入手すべきであった本件津波に関する情報日本放送協会(以下「NHK」という。)などの放送局は,午後3時15分頃から,ラジオやテレビ放送により,大津波警報(10メートル以上)が発表されていることなどを常時放送していた。 そして,本件校長は,本件地震発生後,ラジオやカーラジオ,ワンセグ端末等で上記の津波情報を容易に収集することができたのであるから,本件津波に関する情報を収集すべきであった。 (ウ) 予見可能性本件校長が,上記(イ)のとおり,本件津波に関する情報を容易に収集することができたことに加え,以下の事情等を踏まえると,本件校長は,本件津波が本件体育館に到達することを予見することができた。 a 第三次宮城県地震被害想定調査(以下「第三次調査」という。)に基づき作成された津波浸水予測図(乙2)や東松島市防災マップ(乙3。以下「本件防災マップ」という。)の津波浸水予測図(以下,両方の津波浸水予測図を併せて「本件津波浸水予測図」という。)にお いて前提とされていた高さの津波(東松島市沿岸で2.5メートルから3.3メートル)でも,本件小学校から約200mの地点まで到達する の津波浸水予測図を併せて「本件津波浸水予測図」という。)にお いて前提とされていた高さの津波(東松島市沿岸で2.5メートルから3.3メートル)でも,本件小学校から約200mの地点まで到達すると予測されていた。 本件小学校は,本件津波浸水予測図において津波浸水域外にあるが,事前に想定されていた規模の津波でさえも本件小学校の直近の地点まで到達すると予想され,同地点から本件小学校までの地形は平坦であるから,事前の想定を大きく超える規模の津波が東松島市沿岸に到達する場合においては,津波浸水域に含まれていない地域であるからといって,津波が来ないとはいえない。 b 気象庁は,本件地震の発生後,宮城県沿岸について,午後2時49分に大津波警報(6メートル)を,午後3時14分に大津波警報(10メートル以上)を発表した。 そして,各放送局は,その直後から,ラジオやテレビ放送により,大津波警報(10メートル以上)が発表されていること,津波の高さが実際には更に高くなる可能性があることなどを常時放送し,午後3時21分から午後3時24分頃,宮城県牡鹿郡女川町(以下,単に「女川町」という。)において建物の屋根のひさしあたりまで津波が来ている様子なども放送していたのであるから,本件校長は,事前に想定されていた津波の3倍から4倍以上の高さの津波が東松島市沿岸に到達することを予見し得た。 また,気象庁が発表する津波警報における「予想される津波の高さ」とは,津波予報区における平均値であり,その予想精度は2分の1から2倍程度の幅があるから,予想される津波の高さが6メートルのときは,12メートルの高さの津波が押し寄せることもあり得る。 被告は,本件津波が本件体育館に到達することを予見することができないことの根拠として,本件津波浸水予測図の 津波の高さが6メートルのときは,12メートルの高さの津波が押し寄せることもあり得る。 被告は,本件津波が本件体育館に到達することを予見することができないことの根拠として,本件津波浸水予測図の津波浸水域に本件小 学校が含まれていないことを主張するが,本件津波浸水予測図が前提とする津波の高さは,東松島市の海岸において3.3メートルにすぎず,本件地震後に予想された津波の高さは10メートル以上なのであるから,本件津波浸水予測図の津波浸水域に本件小学校が含まれていないからといって,本件津波が本件体育館に到達することを予見できなかったとはいえない。また,本件防災マップには,「あくまで想定の津波による予想浸水区域ですので,到達しない場合もあれば,想定を超えて津波が押寄せることも考えられます。」との記載がある。 c 東松島市の海岸部に所在する,本件小学校以外の小学校及び中学校においては,校長等が,収集した津波情報に基づいて各校に津波が押し寄せる危険があることを予見し,各校舎の2階以上に避難者を誘導した結果,避難者の中から本件津波による犠牲者を一人も出さなかった。 (エ) 注意義務違反a 本件防災計画には,津波が予想される場合には校舎の2階以上を利用すると明記されていたのであるから,本件小学校の管理者である本件校長は,本件津波が本件体育館に到達することを予見し,避難者を本件校舎の2階以上に誘導すべきであった。 すなわち,本件小学校は,本件防災計画において災害時の避難場所に指定されているが,本件防災計画には,「教育施設(小・中学校)の避難所は,各講堂(屋体)を指定している。(中略)ただし,津波災害については,校舎(2階以上)を利用するものとする。」との本件記載がある。本件記載は,災害により住居を喪失した住民を一定期間収容す の避難所は,各講堂(屋体)を指定している。(中略)ただし,津波災害については,校舎(2階以上)を利用するものとする。」との本件記載がある。本件記載は,災害により住居を喪失した住民を一定期間収容する施設としての避難所についての記載ではなく,現に津波災害が予想されるときに避難者が目指すべき場所としての避難場所についての記載であると理解すべきであるから,本件校長は,避難者を本 件体育館ではなく本件校舎の2階以上に誘導すべきであった。 b ところが,本件校長は,本件津波が本件体育館に到達することを予見せず,D,E等の避難者を本件校舎の2階以上に誘導しなかったばかりか,本件校舎の各出入口に設置された防音装置(引寄せハンドルを回転させることにより,ドアとドアを密着させて防音状態とする装置)をかけることで,防音装置の操作法を知らない者にとっては各出入口のドアを開けることができない状態にして,避難者を本件体育館に強制的に誘導した。 イ被告の主張(ア) 本件校長の責務本件小学校の管理者は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(平成26年法律第76号による改正前のもの。以下「地方教育行政法」という。)によれば,本件教育委員会である(地方教育行政法23条等)。したがって,本件校長は,原告らが主張する内容の注意義務を負うものではない。 なお,本件津波が本件体育館に到達したのは,午後3時40分過ぎである。 (イ) 本件校長が入手すべきであった本件津波に関する情報本件地震の発生直後に停電したため,職員室の電話やインターネット,テレビ,ラジオ等を使用することができなかった上,教職員らは緊迫した状況の中で様々な対応に追われており,津波に関する情報を収集することは困難であった。 また,本件教頭は,自身の やインターネット,テレビ,ラジオ等を使用することができなかった上,教職員らは緊迫した状況の中で様々な対応に追われており,津波に関する情報を収集することは困難であった。 また,本件教頭は,自身の携帯電話のテレビのワンセグ機能によっても情報収集を行ったが,画面が小さく,震度6強の揺れを観測したという以上に詳細な情報は得られず,防災行政無線の外部拡声器からの放送も聞こえなかった。 (ウ) 予見可能性結果回避義務の前提として,行為当時,結果発生の予見可能性があることが必要であり,その予見の程度は,抽象的な危険や不安感では足りず,結果発生の具体的予見が必要である。 以下の事情を総合考慮すると,本件地震が発生してから本件津波が本件体育館に到達するまでの間に,本件校長において,本件地震が,想定されていた宮城県沖地震(連動型)を超える規模のものであることを認識することはできず,本件津波浸水予測図の津波浸水域を超えて,本件体育館に本件津波が到達することを予見することは不可能であった。 a 本件小学校は,本件津波浸水予測図において,津波浸水域や要避難区域の外側に位置し,津波災害時の避難場所として指定されていた。 第三次調査や本件防災マップにおいて前提とされている地震は,宮城県沖の最大級の地震として想定された宮城県沖地震(連動型)(地震の規模はマグニチュード8.0,東松島市における震度は6強から6弱)であり,上記地震により旧本吉町(現宮城県気仙沼市)では10.0メートル,東松島市では旧鳴瀬町で3.3メートルの高さの津波が沿岸に到達するとの想定の下,本件津波浸水予測図が作成されていた。 b 本件地震について,発生直後に発表されていた地震の規模はマグニチュード7.9であり,宮城県沖地震(連動型)の地震の規模であ に到達するとの想定の下,本件津波浸水予測図が作成されていた。 b 本件地震について,発生直後に発表されていた地震の規模はマグニチュード7.9であり,宮城県沖地震(連動型)の地震の規模であるマグニチュード8.0を下回るものであったことからすると,本件地震の発生直後において,本件地震が宮城県沖地震(連動型)を上回る規模のものであることを認識することは困難であった。 また,気象庁が発表する津波警報は,全国を66区域に分けた予報区単位で発表され,東松島市を含む津波予報区は「宮城県」である。 そして,津波警報における「予想される津波の高さ」は,津波予測値 の誤差を考慮し,安全性に配慮して予報区内で予想される最大の高さが発表される。したがって,第三次調査において宮城県沖地震(連動型)で旧本吉町に到達する津波の最高水位が10メートルと予想されていたのであるから,宮城県沖地震(連動型)と同規模の地震が発生した場合においても,宮城県沿岸に高さ10メートル以上の津波警報(大津波)が発表されていたと考えられる。 仮に,津波警報における「予想される津波の高さ」として,津波予報区における平均値が発表されるとしても,本件地震当時,一般人においては,最大値が発表されると認識していたというべきである。また,津波の高さの予想精度については,本件地震当時,2分の1から2倍までの幅があることが十分に周知されていなかったことからすると,一般人において,「予想される津波の高さ」の2倍程度の高さの津波が到達することが予見可能であったとはいえない。 また,女川町の海岸は,津波が最も高くなるとされるV字型湾であり,女川町で建物が海に浸かっている映像が放送されたからといって,V字型湾やU字型湾よりも津波の高さが低くなるとされる直線海岸 また,女川町の海岸は,津波が最も高くなるとされるV字型湾であり,女川町で建物が海に浸かっている映像が放送されたからといって,V字型湾やU字型湾よりも津波の高さが低くなるとされる直線海岸を有する野蒜地区において,本件津波浸水予測図の津波浸水域を超えて津波が到達することを予見できたとはいえない。 c 本件小学校と他の小学校等とでは,河川からの距離や校舎から海岸までの間の集落の存否等立地の状況が異なるから,単純に比較することはできない。 (エ) 注意義務違反a 本件記載は,津波発生から終息までの一時的な「避難場所」に関する記載ではなく,住居を喪失した住民をある程度の期間にわたって収容するための「避難所」に関する記載であるから,本件校長には,本件防災計画に基づく避難誘導義務は認められない。 原告らは,津波被害が予想される場合は,本件記載に基づいて避難者を本件校舎の2階以上に誘導すべきであった旨主張するが,避難場所は,そもそも津波被害が想定されない場所が指定されるのであるから,津波被害が予想される場合が念頭に置かれることはなく,校舎の2階以上が避難場所に指定されていたものではない。 b 本件校舎の各出入口は,本件地震発生後,防音装置がかけられた状態ではなく,教職員以外の住民等であっても校舎に立ち入ることができる状態であった。 (2) 本件校長がFを災害時児童引取責任者として登録されていた者以外の者に引渡後の安全を確認せずに引き渡したという過失の有無ア原告らの主張本件校長は,本件小学校に在校し,本件小学校の保護下にある児童に対して安全配慮義務を負っており,災害時に児童を保護者等に引き渡すに際し,津波情報を入手した上で児童の安全を確認し,危険を回避する最善の措置を採るべき注意義務があった。 件小学校の保護下にある児童に対して安全配慮義務を負っており,災害時に児童を保護者等に引き渡すに際し,津波情報を入手した上で児童の安全を確認し,危険を回避する最善の措置を採るべき注意義務があった。以下のとおり,Fを自宅に帰宅させると本件津波により死亡する結果を予見できたこと,Kが災害時児童引取責任者ではなかったことなどからすると,FをKに引き渡してはならなかった。 (ア) 予見可能性本件校長は,FをKに引き渡した午後3時40分頃の時点で,上記(1)ア(ウ)のとおり,本件津波が事前の想定を大きく超えて東松島市に到達することを予見できたのであるから,本件小学校より海側の低地に自宅があるFを帰宅させると,同人が本件津波により死亡することを予見できた。 また,被告は,本件津波浸水予測図における津波浸水域にFの自宅が含まれていないと主張するが,同予測図の正確性には疑問がある上,同 予測図ではFの自宅が津波浸水域に含まれているかどうかが明確であったとはいい難く,Fの自宅が同予測図における津波浸水域に含まれていないことは,本件訴訟において初めて明らかになったのだから,Fの自宅が同予測図における津波浸水域に含まれていないという事実が本件校長の予見可能性に影響を与えるものではない。 (イ) 注意義務違反本件校長は,災害時に児童を災害時児童引取責任者に引き渡す際,引渡後の児童の安全が確保されるか確認し,その確認ができた場合でなければ,児童の引渡許可を出してはならない注意義務を有しており,また,担任教諭に児童引渡しを行わせる場合は,相手方が災害時児童引取責任者であるかどうかを確認させる注意義務を有していたにもかかわらず,それらの義務の履行を怠った。 そして,Fの担任であり,本件校長の履行補助者であるJ教諭は,災害時に児童を保護者 災害時児童引取責任者であるかどうかを確認させる注意義務を有していたにもかかわらず,それらの義務の履行を怠った。 そして,Fの担任であり,本件校長の履行補助者であるJ教諭は,災害時に児童を保護者に引き渡す際,引渡しの相手方が事前に登録されていた災害時児童引取責任者でなければ引き渡してはならなかったにもかかわらず,同責任者に登録されていなかったKにFを引き渡した。 イ被告の主張(ア) 予見可能性上記(1)イ(ウ)のとおり(なお,FをKに引き渡した正確な時刻は不明であり,午後3時20分頃には既に引き渡されていた可能性もあることからすると,上記(1)イ(ウ)で考慮し得た事情が,必ずしもFについての予見可能性の有無の判断において考慮できるとはいえない。),本件津波が本件津波浸水予測図における津波浸水域を超えてFの自宅まで到達することは予見できず,また,Fの自宅は,海抜20mを超える小さな山のすぐ北側に位置し,本件津波浸水予測図において津波浸水域に含まれていなかったことなどに照らすと,FをKに引き渡した時点において,Fを 帰宅させた場合に同人が本件津波により死亡することを予見できたとはいえない。 (イ) 注意義務違反原告らは,災害時児童引取責任者でない者に児童を引き渡してはならない注意義務があったと主張するが,同義務の違反と津波による死亡という結果との関係が明らかではない。 また,災害時児童引取責任者の制度は,在校時又は登下校時の児童を念頭においており,下校後の児童を想定したものではない。 (3) (2)の過失とFの死亡との因果関係ア原告らの主張本件校長が,Fの引渡しより前の時点で,避難者を本件校舎の2階以上に誘導していればFを救命し得たことは明らかであるが,仮に避難者を本件校舎の 2)の過失とFの死亡との因果関係ア原告らの主張本件校長が,Fの引渡しより前の時点で,避難者を本件校舎の2階以上に誘導していればFを救命し得たことは明らかであるが,仮に避難者を本件校舎の2階以上に誘導しなかったことが注意義務に違反しないとしても,本件体育館に避難していた多数の児童から本件津波による犠牲者が一人も出なかったこと,Fは幼稚園児の頃から水泳を練習していたこと,Fの従兄弟であり当時高校1年生であったMが本件体育館にFを捜しに行っており,Fを帰宅させていなければMが本件体育館で本件津波に巻き込まれたFを救助したであろうと推測されることなどに照らすと,Fを引き渡さずに本件体育館に留めていれば,Fが死亡することはなかった。 イ被告の主張本件体育館にいた児童から犠牲者は出なかったものの,Fが本件体育館に残っていれば生存できたとは必ずしもいえない。 また,Fが自宅に送り届けられてから本件津波に巻き込まれるまでに10分程度の時間があったと考えられ,その間に自宅のすぐ南側にある小さな山に避難することが可能であったこと,Fを災害時児童引取責任者に引き渡していたとしても,Fは同責任者と一緒に自宅に戻っていたと思われ ることなどに照らすと,Fの死亡という結果について被告に責任を負わせることは相当性を欠くというべきであるから,FをKに引き渡した行為とFの死亡という結果との間に相当因果関係は認められない。 (4) 東松島市長及び本件教育委員会の教育長の責任の有無ア原告らの主張東松島市長及び本件教育委員会の教育長(以下「本件教育長」という。)は,本件校長に対し,強い地震があった場合に津波情報を直ちに入手すべきことや,本件防災計画において,津波災害が予想されるときは校舎の2階以上を利用するように定 の教育長(以下「本件教育長」という。)は,本件校長に対し,強い地震があった場合に津波情報を直ちに入手すべきことや,本件防災計画において,津波災害が予想されるときは校舎の2階以上を利用するように定められていることなどについて,指導,監督する義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,D,E及びFを死亡させた。 イ被告の主張原告らが主張する東松島市長及び本件教育長の指導,監督義務違反は,本件体育館に本件津波が到達することについて,平均人が予見することが可能であったことを前提とするところ,上記(1)イ(ウ)のとおり,本件体育館に本件津波が到達することを予見することは不可能であったから,原告らの主張は前提を欠く。 (5) 損害額ア原告らの主張(ア) Dの損害(合計2519万3716円)a 逸失利益 360万5581円184万4287円(厚生年金,国民年金,学校共済遺族年金及び厚生遺族年金受給額を合計した金額)×(1-0.5(生活費控除割合))×3.91(平均余命7.83年の2分の1)=360万5581円b 葬儀関係費用 112万3135円 c 仏壇・仏具購入費用 46万5000円d 慰謝料 2000万円(イ) Eの損害(合計2389万2715円)a 逸失利益 389万2715円84万3492円(厚生年金受給額)×(1-0.5(生活費控除割合))×9.23(平均余命18.46年の2分の1)=389万2715円b 慰謝料 2000万円(ウ) Fの損害(合計4836万0818円)a 逸失利益 2836万0818円345万9400円(平成22年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均賃金)×11.7 料 2000万円(ウ) Fの損害(合計4836万0818円)a 逸失利益 2836万0818円345万9400円(平成22年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均賃金)×11.7117(18.8195(F死亡時の9歳から67歳までの58年に対応するライプニッツ係数)-7.1078(9歳から18歳までの9年に対応するライプニッツ係数))×(1-0.3(生活費控除割合))=2836万0818円b 慰謝料 2000万円c 損益相殺被告は,日本スポーツ振興センターから原告Aに対し特別弔慰金として支給された500万円につき損害額と損益相殺されるべきであると主張するが,特別弔慰金は損害填補の性質を有しないから,被告の上記主張は理由がない。 被告が主張する独立行政法人日本スポーツ振興センター法(以下「日本スポーツ振興センター法」という。)の規定は,災害共済給付を行った場合に適用されるのであって,特別弔慰金に対しては適用されないのであるから,特別弔慰金は損益相殺の対象にはならない。 イ被告の主張 (ア) D,E及びFの損害についてはいずれも争う。 (イ) Fの損害について,日本スポーツ振興センターから原告Aに対し特別弔慰金として500万円が支給されており,同額について損害額と損益相殺されるべきである。 災害共済給付契約に基づく災害共済給付については,日本スポーツ振興センター法により,災害共済給付を行った場合の請求権代位が定められていることなどからすると,災害共済給付について損益相殺がされることは明らかである。特別弔慰金は,本件震災の発生を受けて新たに設けられた制度であり,日本スポーツ振興センター法上,災害共済給付に明確には含まれていないものの,その請求手続,支払手続及 相殺がされることは明らかである。特別弔慰金は,本件震災の発生を受けて新たに設けられた制度であり,日本スポーツ振興センター法上,災害共済給付に明確には含まれていないものの,その請求手続,支払手続及び時効について災害共済給付と同様に取り扱うものとされていることからすれば,特別弔慰金についても災害共済給付と同様に損益相殺がされるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 津波に関する一般的な知見等ア津波は,地震による海底面の変動により発生し,地震の大きさ,震源の深さ,断層の型によって発生の可能性や大きさが左右される。すなわち,①地震の規模を示すマグニチュードが大きいほど津波は大きくなり,②震源の深さが浅いほど津波は発生しやすくなり,③正断層や逆断層の縦ずれ断層は,海底面を上下に変動させやすいため,横ずれ断層よりも津波を起こしやすい性質がある。(甲44の1・2,59,乙25)イ津波は,水深の深いところほど伝わる速さが速く,水深が浅くなるにつれて伝わる速さが徐々に遅くなるため,水深が浅くなるにつれて後ろの津 波が前の津波に合流し,高さが増大する。水深によって津波の伝わる速度に差があるため,深いところを進む波が浅い方に曲がる屈折現象が起こり,半島の先端や岬のような地形では屈折した波が集まって津波の高さが増大する。さらに,津波の高さは,湾の幅が狭くなっても大きくなるため,袋型湾(間口が狭く奥が広い湾),直線海岸,U字型湾(間口が広いU字形の湾),V字型湾(間口が広く奥が狭いV字形の湾)に分けると,この順で次第に高さが増大する。(甲44の1ないし3,乙12,25)ウ津波による被害については,木造家屋で 湾(間口が広いU字形の湾),V字型湾(間口が広く奥が狭いV字形の湾)に分けると,この順で次第に高さが増大する。(甲44の1ないし3,乙12,25)ウ津波による被害については,木造家屋では津波浸水深が1メートル程度から部分破壊を起こし始め,2メートルでは全面破壊に至るが,0.5メートル程度であっても,船舶や木材などの漂流物の直撃によって被害が出る場合がある(甲59)。 (2) 東松島市の位置関係及び宮城県の海岸線の形状東松島市は,牡鹿半島先端の黒崎から福島県相馬市の茶屋ヶ岬に至る太平洋に面した海岸である仙台湾沿岸(総延長約435キロメートル)の北部に位置し,鳴瀬川河口の南西側に帯状に延びている野蒜海岸は緩やかな弧を描く砂浜海岸となっている。 宮城県の海岸線は,牡鹿半島以北及び松島湾は主にリアス式海岸,鳴瀬川河口周辺から石巻漁港周辺の海岸及び仙台港区以南は緩やかな弧を描く砂浜海岸によって構成されている。上記(1)イの分類でいうと,牡鹿半島以北のリアス式海岸はV字型湾に含まれ,緩やかな弧を描く砂浜海岸は直線海岸に近い性質を有する。(前提事実(2)ア,乙27,弁論の全趣旨)(3) 本件小学校及びFの自宅の立地等ア本件小学校は,本件地震当時,野蒜海岸の最も近い所から北西約1.3キロメートル,海抜約1.5メートルから約2.0メートルの場所(東松島市野蒜字亀岡80)に所在し,野蒜地区における防災上重要な施設(災害対策基本法7条1項)であり,本件防災計画において,火災,地震その 他の災害時の避難場所に指定されていた。野蒜海岸は,本件小学校の南東から南にかけて緩やかな弧を描いて広がり,本件地震当時,高さ5メートルの堤防が設置されていた。本件地震当時,本件小学校の南側には,JR仙石線や県道,東名運河が東西に た。野蒜海岸は,本件小学校の南東から南にかけて緩やかな弧を描いて広がり,本件地震当時,高さ5メートルの堤防が設置されていた。本件地震当時,本件小学校の南側には,JR仙石線や県道,東名運河が東西に走り,本件小学校の東側にはJR野蒜駅(本件震災後に移転されたため現在は使用されていない。以下,JR野蒜駅とは移転前の同駅を指す。)があった。本件小学校の北側には,低い山が広がり,その先には鳴瀬川が北西から南東方向に流れ,本件小学校の東方で鳴瀬川河口から仙台湾に注いでいる本件校舎は,耐震化工事を経た鉄骨・鉄筋コンクリート造3階建ての建物である。 本件体育館は,2階建てで床面積は846平方メートルであり,1階にはアリーナやステージ,倉庫などがあり,2階には,四方の壁に沿って,幅1.2メートルから約2メートルの通路(ギャラリー)及び予備室があるが,それら以外の2階の大部分は吹き抜けとなっていた。本件体育館は,本件校舎と渡り廊下でつながっており,本件体育館と本件校舎の距離は約55メートルであった 。(前提事実(2)イ,甲50,乙4,5,14,28,弁論の全趣旨)イ Fの自宅は,本件地震当時,本件小学校よりも海側に位置し,野蒜海岸の最も近い所から北西約700メートル,海抜約1.9メートルの場所にあった。Fの自宅があった場所のすぐ南側には,海抜約20メートルの小さな山がある。(前提事実(2)ウ,乙2,8,弁論の全趣旨)(4) 本件地震当時における気象庁の津波警報等の性質ア気象庁は,地震発生から約3分を目標に,予想される津波の高さを,全国を66区域に分けた津波予報区単位で発表する。 予想される津波の高さは,本件地震当時,0.5メートル,1メートル,2メートル,3メートル,4メートル,6メートル,8メートル及び10 メート 国を66区域に分けた津波予報区単位で発表する。 予想される津波の高さは,本件地震当時,0.5メートル,1メートル,2メートル,3メートル,4メートル,6メートル,8メートル及び10 メートル以上の8段階で発表され,3メートル以上の場合は津波警報(大津波)として,1メートル又は2メートルの場合は津波警報(津波)として,0.5メートルの場合は津波注意報として発表されていた。 宮城県沿岸は,その全てが「宮城県」という単一の津波予報区であるため,東松島市沿岸も同予報区に含まれる。(乙29の1・2,38)イ気象庁では,単一の津波予報区内の複数の地点における津波の高さの予測値のうち最も高い値に基づき津波警報を判定し,その最大の高さを併せて発表するものとされ,津波警報(大津波)を発令した際に発表する情報文については,例えば,3メートルの津波警報(大津波)の場合,「高いところで3メートル程度以上の津波が予想されますので,厳重に警戒してください。」などと解説するものとされていた(乙29の1・2,38)。 (5) 本件震災前に作成されていた指針等ア国の報告書消防庁津波対策推進マニュアル検討委員会は,平成14年3月,県や市町村等による津波避難計画の策定を促進するため,同計画の策定等に当たって留意すべき事項についてまとめた津波対策推進マニュアル検討報告書(以下「国の報告書」という。)を発表した。国の報告書の主な内容は,以下のとおりである。(乙11,弁論の全趣旨)(ア) ①「津波浸水予想地域」を,「対象とする津波が陸上に遡上した場合に浸水する陸域の範囲をいう。過去に被害を生じた津波の浸水域及び津波発生の可能性がある地震のシミュレーションに基づき想定される浸水域を比較し,最も広い浸水域を設定する。」と,②「避難対象地域」を に浸水する陸域の範囲をいう。過去に被害を生じた津波の浸水域及び津波発生の可能性がある地震のシミュレーションに基づき想定される浸水域を比較し,最も広い浸水域を設定する。」と,②「避難対象地域」を「対象とする津波が発生した場合に被害が予想されるため避難が必要な地域で,津波浸水予想地域に基づき市町村が指定する地域をいう。市町村長が避難勧告や避難指示を発令する際の対象となる地域を指す。」と,③「避難場所」を「避難者が避難対象地域の外へ避難する際の場所で, 市町村が指定する。原則としてオープンスペースとするが,耐震性が確保された建物を指定することもできる。津波発生から終息までの数時間~十数時間の避難を必要とすることから,情報機器,非常食糧,毛布等が整備されていることが望ましい。」として定義するなどした。 (イ) 津波避難計画の策定にあたっては,津波の発生が予想される地震を選定し,この地震発生に伴う津波により予想される津波浸水域を設定し,この地域を地図上に示した津波浸水予測図を作成する必要がある。この津波浸水予測図における津波浸水予想地域は,①過去最大の津波による津波浸水域と,②想定しうる最大規模の津波が発生する地震を検討し,津波シミュレーションを実施して設定した津波浸水域を比較検討し,予想される最大の津波浸水域を設定する。津波浸水予測図は,原則として海岸線等を有する全ての都道府県が作成する。 (ウ) 避難対象地域は,津波浸水予測図の作成において示した最大の津波浸水予想地域に基づき,自主防災組織あるいは町内会等の単位により指定するが,津波浸水予想地域の推定や予測には限界があるため,安全性の確保や円滑な避難等を考慮して,同地域より広めに指定する必要がある。 (エ) 津波避難計画において避難経路を定めるにあたっては,津波 ,津波浸水予想地域の推定や予測には限界があるため,安全性の確保や円滑な避難等を考慮して,同地域より広めに指定する必要がある。 (エ) 津波避難計画において避難経路を定めるにあたっては,津波が発生した場合に避難対象地域の外に避難が可能であれば,津波の進行方向と同方向へ避難する道路を指定ないし設定し,海岸方向に高台等がある場合であっても,できる限り海岸方向への避難は避ける。 イ宮城県における指針等(ア) 宮城県津波対策ガイドライン宮城県は,過去に大津波の被害を経験し,2023年までに88%という高い確率で宮城県沖を震源とする大地震が発生すると予想されていたことから,平成15年12月,同県の津波対策の現状と課題を検討した宮城県津波対策ガイドラインを策定した。上記ガイドラインの主な内 容は,以下のとおりである。(乙12)a 今後の津波対策として,国の報告書を基本として津波避難計画の策定を重点的に進める。 b 市町は,市町全体の津波避難計画を策定し,同計画において避難対象地域並びに避難場所,避難所,避難路及び避難経路を指定,設定する。 避難対象地域は,津波浸水予測図に基づき,安全性の確保や円滑な避難等を考慮して,広めに指定する。 避難場所等については,市町長が,避難対象地域から外れている場所等を避難場所等として指定する。 (イ) 第三次宮城県地震被害想定調査(第三次調査)に関する報告書宮城県は,昭和59年度から昭和61年度にかけて,及び平成7年度から平成8年度にかけてそれぞれ行った地震被害想定調査に次いで,平成14年度から平成15年度にかけて3回目の地震被害想定調査(第三次調査)を実施し,平成16年3月に「宮城県地震被害想定調査に関す 度から平成8年度にかけてそれぞれ行った地震被害想定調査に次いで,平成14年度から平成15年度にかけて3回目の地震被害想定調査(第三次調査)を実施し,平成16年3月に「宮城県地震被害想定調査に関する報告書」を発表した。 上記報告書の主な内容は,以下のとおりである。(乙26)a 第三次調査における津波予測で想定された地震は,宮城県沖地震(単独型),宮城県沖地震(連動型)(国の地震調査研究推進本部が宮城県沖の最大級の地震として想定した地震)及び昭和三陸地震(昭和8年3月3日に三陸沖で発生して大きな津波被害をもたらした地震)である。 このうち,東松島市において最も高い津波が想定された地震は,宮城県沖地震(連動型)であり,旧矢本町(平成17年の合併により東松島市となった。)では2.5メートルの津波が,旧鳴瀬町(平成17年の合併により東松島市となった。)では3.3メートルの津波が 到達するものと想定された。また,宮城県沖地震(連動型)においては,旧本吉町(現気仙沼市)に到達する津波の最高水位は10.0メートルと予想されていた。 宮城県沖地震(連動型)の地震の規模は,マグニチュード8.0であり,東松島市において震度6強から震度6弱の揺れをもたらすと想定されていた。 b また,昭和三陸地震を前提とする想定では,東松島市においては宮城県沖地震(連動型)ほどの高さの津波の到達は想定されていないものの,宮城県沿岸のうち東松島市より北に位置する旧唐桑町(現気仙沼市),旧北上町(現石巻市),旧雄勝町(現石巻市)や女川町等においては,宮城県沖地震(連動型)よりも高い津波が到達することが想定されていた。 c そして,地域ごとの詳細な津波ハザードマップの作成のための基礎資料 ,旧雄勝町(現石巻市)や女川町等においては,宮城県沖地震(連動型)よりも高い津波が到達することが想定されていた。 c そして,地域ごとの詳細な津波ハザードマップの作成のための基礎資料として,宮城県沖地震(単独型),宮城県沖地震(連動型)及び昭和三陸地震を前提とした宮城県全域の津波浸水予測図が作成された。 ウ東松島市における防災計画等(ア) 東松島市地域防災計画(本件防災計画)被告は,災害対策基本法の規定(5条1項,16条1項)に基づき東松島市防災会議を置き,国の報告書及び宮城県津波対策ガイドラインを受けて平成18年3月に本件防災計画を策定した。本件防災計画の主な内容は,以下のとおりである。(甲51,乙2,13,弁論の全趣旨)a 被告は,津波浸水予測図等を基に,避難場所,避難経路等を明示した津波ハザードマップを作成し,それを基にした市の津波避難計画の策定を行う。 b 大規模な地震による火災,津波等の災害から住民が一時避難するための場所として,避難場所をあらかじめ定め,避難所については,地 震,津波による家屋の倒壊,焼失等による住居を喪失した住民を収容するため,原則として公共建築物をあらかじめ選定,確保しておく。 c 避難場所及び避難所として,本件小学校を指定する。 d 津波予報発表時における避難勧告・指示の基準を定めており,津波警報(大津波)が発表されたときには,海浜にいる者に対して避難指示を発表し,津波浸水域内の住民等に対して避難勧告を発表するとされている。 e 仙台管区気象台が発表する津波警報(大津波)の内容について,例えば,3メートルの津波警報(大津波)の場合,「高いところで3メートル程度以上の津波が予想されますので,厳重に警戒してください。」という意味であ 気象台が発表する津波警報(大津波)の内容について,例えば,3メートルの津波警報(大津波)の場合,「高いところで3メートル程度以上の津波が予想されますので,厳重に警戒してください。」という意味であり,発表される津波の高さは,「3メートル」,「4メートル」,「6メートル」,「8メートル」又は「10メートル以上」であると解説されている。 f 第三次調査の結果が紹介され,①同調査結果は,想定であり,より高い津波高となることもあること,②宮城県北部の旧唐桑町(現気仙沼市)から女川町にかけて津波高が5メートルを超え,旧本吉町(現気仙沼市)では10メートル強の高さとなった一方で,石巻市以南では津波高は4メートル以下であった旨言及されている。また,宮城県が平成16年2月に発表した,宮城県沖地震(連動)の発生を前提とした津波浸水予測図が添付されている。 (イ) 東松島市津波防災マップ(本件防災マップ)被告は,平成20年3月,第三次調査における津波浸水予測図等を基に,東北大学大学院工学研究科教授の監修のもと,本件防災マップを作成した。本件防災マップにおいて想定されている地震は,第三次調査において東松島市に最も高い津波が到達すると想定された宮城県沖地震(連動型)であり,同市において震度6強から6弱の地震が発生したこ とを想定して津波浸水域が作成されている。本件防災マップでは,浸水した場合に想定される水深が色分けで表示されているほか,場合によっては浸水のおそれのある区域として,津波浸水域よりも広い範囲で要避難区域を設定し,避難方向や広域避難所等が表示されている。その他の内容については,以下のとおりである。(甲55,乙3,41,48,52,弁論の全趣旨)a 本件防災マップでは,東名運河及びJR仙石線の線路の一部 や広域避難所等が表示されている。その他の内容については,以下のとおりである。(甲55,乙3,41,48,52,弁論の全趣旨)a 本件防災マップでは,東名運河及びJR仙石線の線路の一部を北側に越えたあたりまで津波が到達すると予測されている。 b 本件小学校は,津波浸水域に含まれておらず,要避難区域の外側かつ北側(海から離れる側)に位置している。 cFの自宅は,本件小学校の南側に広がる津波浸水域には含まれていないが,同津波浸水域に四方を囲まれており,同津波浸水域の内縁のさらに内側に引かれた要避難区域を画するライン付近にある(Fの自宅がその要避難区域に含まれているか否かは,本件防災マップからは判然としない。)。 また,本件小学校からFの自宅に移動するためには,必ず東名運河を渡らなければならず,本件小学校から東方向に進み,JR野蒜駅の南にある橋(不老橋)を渡って東名運河を超えていくルート(以下「本件東ルート」という。)と,本件小学校から南方向に進み,東名運河に架けられた橋(亀岡橋)を渡っていくルートの2つのルートがあり,両ルートの移動距離に大差はない。Fの自宅は,津波浸水域から100メートルも離れておらず,その周辺全てが津波浸水域に含まれているため,本件小学校からFの自宅に移動するためには,いずれのルートで移動しても津波浸水域を通過しなければならず,本件東ルートで移動する場合には,本件防災マップ上の津波浸水深が0.5メートルから1.0メートル未満の区域を通過することになる。 d 本件防災マップには,「あくまで想定の津波による予想浸水区域ですので,到達しない場合もあれば,想定を超えて津波が押し寄せることも考えられます。」との記載がある。 (6) 本件小学校における災害時児童 災マップには,「あくまで想定の津波による予想浸水区域ですので,到達しない場合もあれば,想定を超えて津波が押し寄せることも考えられます。」との記載がある。 (6) 本件小学校における災害時児童引取責任者の登録等ア宮城県教育委員会が平成21年2月に発表した「みやぎ防災教育基本指針」では,学校における防災管理や災害時の体制整備について言及され,災害時における児童等の安全確保方策について,学校においては,登下校中の児童等のうち自宅へ戻らず学校に避難登校してくる児童等や学校に居残っていた児童等を保護するものとされている。また,災害発生後に児童等を保護者に引き渡すことが適切であると判断される場合には,児童等の安全を確認した後,あらかじめ定めた方法で速やかに保護者と連絡を取るものとされ,保護者との連絡が取れないなどの理由で引渡しができない児童等については,学校において保護するものとされている。(甲39)イ本件小学校では,在籍児童の保護者に対し,大規模地震等が発生して児童が通学路を安全に登下校できない状況になった場合,本件小学校で児童の引渡しを受ける責任者(災害時児童引取責任者)を事前に登録させており,保護者や災害時児童引取責任者は,災害時等において,学校からの連絡の有無にかかわらず児童の引き取りに来るものとされていた。原告Aは,Fの災害時児童引取責任者として,原告A,原告Aの母,原告Aの弟及びその妻を登録していた。(前提事実(4)ウ,甲36,116,弁論の全趣旨)(7) 本件地震直後に発表されていた津波情報等ア気象庁の発表気象庁は,午後2時49分,本件地震の規模につきマグニチュード7. 9との速報値を発表するとともに宮城県に対して大津波警報(6メートル)を発表し,午後3時14分,宮城県に対して大津波警報(10メート 気象庁は,午後2時49分,本件地震の規模につきマグニチュード7. 9との速報値を発表するとともに宮城県に対して大津波警報(6メートル)を発表し,午後3時14分,宮城県に対して大津波警報(10メートル以上)を発表した(前提事実(3)イ)。 また,午後3時10分,宮城県石巻市鮎川(以下,単に「鮎川」という。)で午後2時52分に0.5メートルの津波が観測されたことを発表し,午後3時25分,同所で午後3時20分に3.3メートルの津波が観測されたことを発表した(甲29,63)。 さらに,午後4時00分,本件地震の規模につきマグニチュード8.4の暫定値を発表した(乙24)。 イ被告の防災行政無線被告は,本件地震発生直後から午後4時までの間,野蒜地区住民らに対し,防災行政無線により,「こちらは防災東松島広報です。東松島市災害対策本部から連絡いたします。仙台管区気象台○時○分発表,宮城県沿岸部に大津波警報が発表されました。沿岸部の住民及び海浜にいる方々は直ちに高台へ避難してください。」というひな形に基づき,得られていた情報を約2分から10分間隔で,数分間ずつ放送した。 本件小学校の校門付近に上記防災行政無線の子局が設置されていた。(乙31,32,42,43)。 ウ NHKの放送NHKでは,午後3時14分以降,気象庁の発表に基づき,以下のとおり,ラジオ放送やテレビ放送を行った(甲27ないし29,68)。 (ア) ラジオ放送では,午後3時14分頃から数分おきに宮城県に大津波警報が発表されたことを,午後3時16分頃から数分おきに高台への避難の呼びかけをそれぞれ放送した。そのうち,予想される津波の高さが10メートル以上であることは,午後3時32分から放送した。 また,ラジオ放送で,午後3時14 後3時16分頃から数分おきに高台への避難の呼びかけをそれぞれ放送した。そのうち,予想される津波の高さが10メートル以上であることは,午後3時32分から放送した。 また,ラジオ放送で,午後3時14分頃及び午後3時18分頃,鮎川で午後2時52分に0.5メートルの津波が観測されたことを放送し,午後3時25分頃,午後3時26分頃及び午後3時31分頃,同所で午後3時20分に3.3メートルの津波が観測されたことを放送した。 (イ) テレビ放送(総合テレビ,Eテレ,BS1,BS2,BSハイビジョン)では,午後3時14分頃から数分おきに,宮城県に大津波警報が発表されたことを音声で放送し,テロップ等の画面表示では常時放送した。 高台への避難の呼びかけは,午後3時16分頃から数分おきに音声で放送した。そのうち,予想される津波の高さが10メートル以上であることは,音声では午後3時32分から,テロップでは午後3時15分頃から数分おきに繰り返し放送した。 また,テレビ放送で,午後3時14分及び午後3時18分頃,鮎川で午後2時52分に0.5メートルの津波が観測されたことを放送し,午後3時25分頃,午後3時26分頃及び午後3時44分頃,同所で午後3時20分に3.3メートルの津波が観測されたことを音声で放送した。 テロップ等の画面では,午後3時18分以降,同所等に到達した津波の高さをほぼ常時放送していた。 エ東北放送株式会社(以下「東北放送」という。)の放送東北放送では,午後3時14分以降,気象庁の発表に基づき,以下のとおり,ラジオ放送やテレビ放送を行った(甲30,69,70)。 (ア) ラジオ放送では,午後3時14分から数分おきに宮城県に大津波警報が発表されたことを,午後3時16分,午後3時20分及び午後3時2 放送やテレビ放送を行った(甲30,69,70)。 (ア) ラジオ放送では,午後3時14分から数分おきに宮城県に大津波警報が発表されたことを,午後3時16分,午後3時20分及び午後3時22分に高台への避難の呼びかけを放送した。そのうち,予想される津波の高さが6メートルであることは午後3時14分に放送した。 また,ラジオ放送で,午後3時21分から数分おきに,女川町において,津波の高さが屋根のひさしあたりまでの約4メートルから5メートルに達し,さらに波が高まっている様子を放送した。午後3時36分には,鮎川で3.3メートルの津波が観測されたことを放送した。 (イ) テレビ放送では,午後3時14分から数分おきに宮城県に大津波警報が発表されたこと及び高台や安全な場所への避難の呼びかけを放送した。 午後3時32分には,予想される津波の高さが10メートル以上であることを画面上の文字情報で放送した。 また,テレビ放送で,午後3時17分,宮城県で10メートル以上の津波の到達が観測されていることを,午後3時21分から数分おきに,女川町では建物が完全に海に浸かって車も流され,10メートルの津波が県内の沿岸部を襲ったことを,午後3時30分には,気仙沼市の広田湾沖で午後2時54分に6メートルの高さの津波が観測されたことを放送した。 オ株式会社東日本放送(以下「東日本放送」という。)の放送東日本放送では,テレビ放送で,午後2時53分頃,宮城県などに大津波警報が発表されていることを放送するとともに波の高さが10メートルを超える場合もあるため厳重に警戒するよう呼びかけ,午後2時57分頃から宮城県で予想されている津波の高さが6メートルであることを繰り返し放送し,午後3時17分頃から宮城県で出されている 10メートルを超える場合もあるため厳重に警戒するよう呼びかけ,午後2時57分頃から宮城県で予想されている津波の高さが6メートルであることを繰り返し放送し,午後3時17分頃から宮城県で出されている大津波警報が10メートル以上となったことなどを繰り返し放送した。 また,テレビ放送で,午後3時02分頃及び午後3時05分頃,鮎川で午後2時52分に0.5メートルの高さの津波が観測されたことを,午後3時16分頃,宮城県で10メートル以上の津波が到達したことが確認された旨を,午後3時28分頃から,鮎川で3時20分に3.3メートルの高さの津波が観測されたことを放送した。(甲31)カ株式会社仙台放送(以下「仙台放送」という。)の放送仙台放送では,テレビ放送で,午後2時46分頃から終日,本件地震発生直後を除いてコマーシャルを放送することなく本件地震と本件津波に関する情報を常時放送し続け,気象庁が午後2時49分に発表した大津波警報(6メートル)及び午後3時14分に発表した大津波警報(10メートル以上について,それぞれの発表とほぼ同時に放送した。その際には,音 声とテロップで,気象庁から発表される津波の高さ等の情報を放送した。 また,実際の津波の高さは,予想よりも高くなる場合があることを繰り返し放送した。(甲32)(8) 本件地震の発生とその後の本件小学校における避難状況等ア午後2時46分,本件地震が発生し,東松島市においても震度6強から6弱の揺れを観測した(前提事実(3)ア,ウ)。 イ本件小学校では,本件地震が発生した時点で放課後であったが,約70名の児童が下校せずに残っており,教職員はそのほとんどが在校していた。 教職員らは,本件地震の発生後,直ちに在校していた児童の安否確認を行うとともに,外部と連絡 発生した時点で放課後であったが,約70名の児童が下校せずに残っており,教職員はそのほとんどが在校していた。 教職員らは,本件地震の発生後,直ちに在校していた児童の安否確認を行うとともに,外部と連絡を取ろうとしたが,すぐに停電となった。在校していた児童らは,教職員らとともに教室や校庭で待機した。(甲47,乙9,10の1,45,49ないし51,証人G,証人I,証人J)ウ本件校長は,本件地震後にも大きな余震が続いており,本件校舎の柱や壁にはひび割れが発生し,教室内は机や学習用具が散乱したことなどから,本件教頭と相談し,本件防災計画上避難場所として表記された本件体育館に避難することを決め,本件小学校の教諭らにそれぞれ指示を出した(前提事実(4)ア,乙2,14)。 エ本件教頭は,災害時の情報収集に関する責任者であったため,本件地震に関する情報を得ようと試みたが,職員室内のテレビやラジオはいずれも停電のため使用できず,インターネットにも接続できなかった。本件教頭は,震度6強の揺れを観測したという情報を入手したにとどまり,津波に関する情報を得ず,また,そのような状況である旨を本件校長に報告することもしなかった。 本件校長は,情報収集を本件教頭に委ねていたため,結局,本件津波が本件小学校に到達するまでに本件津波に関する情報を得ることはなかった。 (前提事実(4)イ,乙49,50,証人G,証人I) オ野蒜地区の住民らは,避難場所に指定されていた本件小学校へ避難するために向かい,D及びEも本件体育館に避難した。 本件小学校の3年生に在籍し,本件地震当時9歳であったFは,本件地震発生時,下校してそろばん教室にいたが,同教室にいた他の児童らとともに本件体育館に避難した。(前提事実(3)ウ)カ本件校長は,本件体 3年生に在籍し,本件地震当時9歳であったFは,本件地震発生時,下校してそろばん教室にいたが,同教室にいた他の児童らとともに本件体育館に避難した。(前提事実(3)ウ)カ本件校長は,本件体育館において児童の安全管理や見守り等に当たっていたが,本件体育館に避難していた児童の家族らから児童の引渡しを求められたため,午後3時20分頃,本件体育館内にいた教諭らに対し,災害時児童引取責任者を記載した災害時児童引渡し用の名簿をその保管場所である職員室から取り寄せて使用させることなく,児童らの引渡しを受ける者の名前と関係が確認できれば児童らを引き渡してよい旨の指示を出し,この指示を受けた各教諭らが児童らの引渡しを開始した。児童らの引渡しを受けた者は保護者が多かったが,保護者が迎えに来ることができないという理由で近隣の住民等に引き渡されたこともあった。また,保護者に引き渡された後も保護者らとともに本件体育館に避難し続ける児童も多かった。 Fの担任であったJ教諭は,午後3時30分頃(Fを引き渡した時刻の認定根拠については,後記2(2)で詳述する。),Fの同級生の父であるKから,Fを同人の自宅に送り届ける旨の申出を受けた。KはFの災害時児童引取責任者ではなかったが,J教諭は,本件体育館に留め置くよりも自宅に送ってもらうほうがよいと考え,FをKに引き渡した。その際,J教諭は,Fの自宅が東名運河よりも海側に位置するということを知っていたが,大津波警報等の本件津波に関する情報を得ていなかったため,Fの自宅及びその周辺に本件津波が到達するとは考えなかった。(前提事実(4)ウ,甲20の6,乙10の1,49,51,証人G,証人J,弁論の全趣旨)キその後,本件体育館が避難者で一杯になってきたため,本件校長は,避 難者の一部を本件 かった。(前提事実(4)ウ,甲20の6,乙10の1,49,51,証人G,証人J,弁論の全趣旨)キその後,本件体育館が避難者で一杯になってきたため,本件校長は,避 難者の一部を本件校舎に誘導することを決め,教諭らに本件校舎内に避難者を受け入れるための準備を行うよう指示し,本件校舎への避難者の移動を開始しようとした時に,本件津波が本件小学校に到達した(前提事実(4)エ)。 (9) 本件津波による被害等ア東松島市では,午後3時40分頃,野蒜海岸に高さ約10メートルの津波が押し寄せ,東松島市の全体面積のうち約36%が,住宅用地では約65%が浸水し,1000人以上の市民が死亡するなど,本件津波により甚大な被害が発生した(乙7)。 イ本件体育館には,午後3時52分頃(本件津波が本件体育館に到達した時刻の認定根拠については,後記2(1)で詳述する。),地盤から高さ約3. 5メートル(体育館の床から約2.9メートル)の津波が到達し,その水位は,本件体育館の2階のギャラリー直下まで到達した。本件体育館に避難していた者の多くは,ギャラリーに上って助かったり,教諭らに救助されたりしたが,救助できず,溺死した者もいた。本件体育館に避難していたD及びEも本件津波に巻き込まれ,本件津波の到達直後に溺死した。 このとき,本件体育館には約340人がおり,本件津波に襲われたが,そのうち本件津波により本件体育館内で亡くなったのは,低体温症で死亡した8人を含めて13人であった。(前提事実(5)ア,乙9,22,45,49,証人G)ウ Fは,J教諭からKに引き渡された後,Kの運転する自動車で,本件東ルートを通って,本件小学校よりも海側の土地にあり,かつ本件津波浸水予測図上の津波浸水域及び要避難区域に四方を囲まれているFの自宅まで送り届けら からKに引き渡された後,Kの運転する自動車で,本件東ルートを通って,本件小学校よりも海側の土地にあり,かつ本件津波浸水予測図上の津波浸水域及び要避難区域に四方を囲まれているFの自宅まで送り届けられ,従兄弟であるL(Fの災害時児童引取責任者ではない。)に引き渡されたが,10分程度後に本件津波に巻き込まれ,その直後に溺死した(前提事実(5)イ,甲65,乙2,3,8)。 本件津波は,Fの自宅及びその周辺の平地一帯を飲み込み,同平地一帯は深さ約3メートルから6メートルまで浸水した(乙8,33)。 Fは,本件津波が去った後の平成23年3月22日,Fの自宅からみて野蒜海岸とは反対側のJR野蒜駅の北方(東松島市野蒜字北余景20付近)で,遺体となって発見された(甲7,116,乙8)。 2 事実認定の補足説明(1) 本件津波が本件体育館に到達した時刻について本件津波が本件体育館に到達した時刻については争いがあり,原告らは,野蒜水位観測所の記録等を根拠に午後3時52分頃と主張し,被告は,鮎川及び福島県相馬の津波観測施設の記録や本件小学校の教職員らに対する聞き取り調査の結果等を根拠に午後3時40分過ぎと主張している。 証拠(甲20の3から11,甲43,94,乙7,35ないし37)及び弁論の全趣旨によれば,本件小学校の北東を流れる鳴瀬川の河口から500メートルに位置する野蒜水位観測所において,午後3時55分に本件津波の第一波にして最大水位7.87メートルを観測したこと,鮎川の津波観測施設で最大波が観測されたのは午後3時26分であり,福島県相馬の津波観測施設で最大波が観測されたのは午後3時51分であること,東松島市の公式記録では,野蒜海岸で午後3時40分頃に10.35メートルの高さの津波が観測されたとされていること 分であり,福島県相馬の津波観測施設で最大波が観測されたのは午後3時51分であること,東松島市の公式記録では,野蒜海岸で午後3時40分頃に10.35メートルの高さの津波が観測されたとされていること,消防庁の記録では,本件津波が本件小学校に到達した時刻が午後3時52分頃とされていること,本件震災後に本件小学校の教職員らに対して行った聞き取り調査において,本件津波が本件体育館に到達した時刻について記載がない者,午後3時50分と記載しながらも個人的には午後3時30分くらいに来た感じがしたと疑問を呈している者,午後3時40分頃と記載している者,午後3時35分と記載している者,午後3時30分過ぎと記載している者がいること,本件小学校の南東に位置し,野蒜海岸から約500メートルの場所にある鳴瀬第二中学校の記録では,野蒜海岸から迫ってきた本件津波 に校舎を直撃された時刻が午後3時40分頃とされており,本件津波到達直後に水位の上昇を受けて止まった同校南校舎の壁掛け時計が午後3時47分頃を指していることなどが認められる。 まず,野蒜水位観測所における観測結果は,野蒜地区に近接した地点において本件津波を観測した客観的な観測データとして基本的に信用性が認められる。 それによると,野蒜地区に沿って流れる鳴瀬川の河口から約500メートル付近に到達した本件津波は,午後3時55分に第一波にして最大水位7.87メートルを記録しているが,その直前の約10分間で急速に水位が上昇したことが認められる(甲43)。この事実と上記第一波の高さが野蒜海岸に設置されていた堤防の高さ5メートル(上記認定事実(3)ア)を上回るものであったこと,東松島市の公式記録では,野蒜海岸で午後3時40分頃に10.35メートルの高さの津波が観測されたとされていることを併せると,野蒜海岸 の高さ5メートル(上記認定事実(3)ア)を上回るものであったこと,東松島市の公式記録では,野蒜海岸で午後3時40分頃に10.35メートルの高さの津波が観測されたとされていることを併せると,野蒜海岸に到達した本件津波の第一波は午後3時40分頃に上記堤防を超え野蒜地区を浸水させたことが推認される。このことは,本件小学校の南東に位置し,野蒜海岸から約500メートルの場所にある鳴瀬第二中学校において,本件津波が野蒜海岸から迫り到達した直後に水位の上昇を受けて停止した同校南校舎の壁掛け時計が午後3時47分頃を指しているという客観的事実からも裏付けられる。もっとも,本件津波が野蒜海岸から本件体育館に向かって陸地を遡上した際の速度や角度等を正確に認定することは困難であるが,本件津波が陸地を進行する際に一定の時間を要することは明らかであって,本件体育館に本件津波が到達した時刻は野蒜海岸や鳴瀬第二中学校に到達した時刻よりも後の時刻になるはずであること,消防庁の記録では本件津波の本件小学校への到達時刻が午後3時52分頃とされていることその他上記認定の事実を総合考慮すると,上記1(9)イのとおり,本件津波が本件体育館に到達した時刻は,午後3時52分頃と認められる。 なお,本件小学校の教職員らに行った聞き取り調査の結果については,そこ に記載されている本件津波の到達時刻の客観的な根拠が明らかではない上,教職員によって様々に異なる時刻を述べていることからすると,同結果を採用することはできない。 (2) J教諭がFをKに引き渡した時刻についてJ教諭がFをKに引き渡した時刻については争いがあり,原告らは,Kの行動の再現結果等を根拠に午後3時40分頃と主張し,被告は,Fの引渡しの正確な時刻は不明だが午後3時20分頃には既に引き渡されていた可能性も FをKに引き渡した時刻については争いがあり,原告らは,Kの行動の再現結果等を根拠に午後3時40分頃と主張し,被告は,Fの引渡しの正確な時刻は不明だが午後3時20分頃には既に引き渡されていた可能性もあると主張している。 上記認定事実(8)カ,(9)ウ,証拠(甲43,65ないし67,乙10の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件体育館において,午後3時20分頃から児童の引渡しが開始されたこと,Kは,Fの引渡しを受けた後,自動車で,本件東ルートを通ってFの自宅まで行き,FをLに引き渡し,その後,本件小学校の東にあり東名運河と鳴瀬川が交わる場所付近に所在する新町地区コミュニティセンターに避難したこと,この間の道路はすいていたこと,Kは同センターに到達した後,鳴瀬川の水位が下がり,間もなく本件津波が押し寄せてきたことを目撃していること,同センター付近にあった野蒜水位観測所では,午後3時45分頃に鳴瀬川の水位が下降から上昇に転じ,午後3時55分に最大水位を観測したこと,Kが本件地震の日と同じルートで車を運転し,同センターの100メートル手前まで走行したところ,本件体育館からFの自宅を経由して同場所まで9分19秒かかったこと,Kが同様に同センターに入ってから鳴瀬川の水位が引くのを目撃するまでにかかった時間を再現したところ,5分18秒かかったことが認められる。 これらの事実によれば,Fは,野蒜水位観測所で鳴瀬川の水位が下降から上昇に転じた午後3時45分頃の約15分前にKに引き渡されていたことになるから,FがKに引き渡された時刻は午後3時30分頃であることが認められる。 3 争点(1)(本件校長が本件小学校に避難したD及びEを本件校舎の2階以上に避 難誘導しなかったという過失の有無)について(1) 本件校長の責務ア原告らは, められる。 3 争点(1)(本件校長が本件小学校に避難したD及びEを本件校舎の2階以上に避 難誘導しなかったという過失の有無)について(1) 本件校長の責務ア原告らは,本件校長が,災害対策基本法7条1項にいう防災上重要な施設の管理者に当たることを前提に,災害時に防災業務を行い,円滑な避難対策を実施する責務を負っていた旨主張する。 そこで,まず本件校長が本件地震当時に負っていた責務について検討する。 イ災害対策基本法7条1項にいう「管理者」とは,施設の所有者,占有者その他管理につき権限を有する者を指すと解されるところ,市立小学校を所管し,管理,運営するのは市の教育委員会であるから(学校教育法5条,2条,地方教育行政法30条,32条本文,23条1号),防災上重要な施設である本件小学校の管理者は,本件教育委員会であるというべきである。したがって,その限りで原告の上記主張は採用できない。 しかしながら,市立小学校の校長は,市町村に置かれる教育委員会の指揮監督に服するとともに,校務をつかさどり,所属職員を監督すること(地方教育行政法43条,37条1項,市町村立学校職員給与負担法1条,学校教育法37条4項),本件防災計画において,学校等教育施設を避難場所として指定する場合には,あらかじめ当該施設の管理者及び施設を所管する教育委員会等と災害時に的確な対応がとられるよう十分に協議するとされ(甲51,乙13),当該施設を所管する教育委員会とは別に,施設を現実に管理する者を予定し,その現実の管理者に対し,災害時における的確な対応を求めていることなどからすると,本件地震当時,指定避難場所である本件小学校を現実に管理していた本件校長は,本件教育委員会の補助機関として,災害時には本件小学校に関する防災対策業務を ける的確な対応を求めていることなどからすると,本件地震当時,指定避難場所である本件小学校を現実に管理していた本件校長は,本件教育委員会の補助機関として,災害時には本件小学校に関する防災対策業務を行う責務があったものと認められる。 そして,防災上重要な施設の管理者は,法令又は地域防災計画の定めるところにより,誠実にその責務を果たさなければならず,災害に関する情 報の収集及び伝達に努めなければならない上(災害対策基本法7条1項,51条),本件防災計画において,防災上重要な施設の管理者等は,災害時に防災対策業務を行うとされていること(甲71),本件小学校の危機管理マニュアルにおいて,大地震が発生した際に津波などに関して情報収集を行うとされていること(乙4)からすると,本件地震当時,指定避難場所である本件小学校を現実に管理していた本件校長は,本件小学校の管理者である本件教育委員会の補助機関として,本件小学校について,防災対策業務を行い,災害に関する情報を迅速かつ適切に収集及び伝達し,当時の一般的な知見等に照らして避難者らの生命又は身体に対する有害な結果を予見し,その結果を回避するための適切な措置を採るべき法的義務を有していたというべきである。 ウしたがって,本件校長が,本件地震の発生後,本件地震や本件津波に関する情報を迅速かつ適切に収集することを怠り,収集することができた情報及び当時の一般的な知見等によれば本件津波が本件体育館に到達するという結果を予見し得たにもかかわらずこれを予見せず,そのため,本件津波によって避難者が被害を被るという結果を回避するための適切な措置を採り得たにもかかわらずこれを採らなかったと認められる場合には,本件校長に国家賠償法1条1項にいう過失が認められ,違法なものとして,被告は,これに が被害を被るという結果を回避するための適切な措置を採り得たにもかかわらずこれを採らなかったと認められる場合には,本件校長に国家賠償法1条1項にいう過失が認められ,違法なものとして,被告は,これによって本件小学校の避難者に生じた損害を賠償する義務を負うものと解される。 以下,このような観点から検討する。 (2) 本件校長が入手すべきであった本件津波に関する情報ア上記認定事実(8)エのとおり,災害時の情報収集に関する責任者であった本件教頭が本件津波に関する情報を得ておらず,本件校長も自ら情報収集に当たることをしなかったため,本件校長や教職員らは,本件津波に関する情報をほとんど得ていなかった。災害に関する情報を収集することは,防災対策 業務を的確かつ迅速に実施し,避難者の生命や身体の安全を確保する前提として欠かせないものであることに照らすと,本件校長や本件教頭が行った情報収集は明らかに不十分なものであったというべきである。 イこの点につき,被告は,本件地震の発生直後に停電したため,職員室の電話やインターネット,テレビ,ラジオ等を使用することができなかった上,本件教頭は,自身の携帯電話や防災行政無線から情報収集を行ったが本件津波に関する情報は得られず,また,教職員らは緊迫した状況の中で様々な対応に追われており,津波に関する情報を収集することは困難であったと主張する。 しかしながら,上記認定事実(9)イ,証拠(証人I)及び弁論の全趣旨によれば,本件地震当時,本件教頭はテレビを視聴することができるカーナビゲーションシステムを搭載した自動車で本件小学校に通勤していたこと,他の教職員らの多くも自動車で通勤していたこと,本件体育館には多数の避難者が避難していたことが認められ,一方で本件小学校の校門 ナビゲーションシステムを搭載した自動車で本件小学校に通勤していたこと,他の教職員らの多くも自動車で通勤していたこと,本件体育館には多数の避難者が避難していたことが認められ,一方で本件小学校の校門付近に設置されていた防災行政無線が本件地震当時に故障していたなどの事情は認められないことからすると,仮に本件小学校に備えられていたラジオ等が停電で使えず,本件教頭自身の携帯電話による情報収集が困難であったとしても,教職員らの自動車に搭載されていたテレビを視聴することができるカーナビゲーションシステムやラジオ,他の教職員らや避難者の携帯電話のインターネットやワンセグ機能,防災行政無線等を利用して,公表されていた気象庁の発表や各報道機関の報道から本件津波に関する情報を入手することが可能であったものと認められる。また,本件地震により緊迫した状況下にあっても,本件校長は,教職員らに役割を適切に分担して情報収集に当たることが可能であったというべきであり,実際にも,本件教頭が情報収集の責任者として対応していたことからすると,教職員らが様々な対応に追われていたために情報を入手することができなかったとはい えない。 ウしたがって,本件校長が本件体育館に本件津波が到達することを予見できたか否かを検討するに当たっては,本件津波が本件体育館に到達するまでの間に,本件校長らが実際に入手していた情報だけでなく,防災行政無線やインターネット,ラジオ,テレビ等で公表されていた情報についても前提とするのが相当である。 (3) 予見可能性の有無ア上記(1)ウのとおり,本件校長に国家賠償法1条1項にいう過失があるというためには,本件校長が,本件津波が本件体育館に到達することを予見し得たことが前提となる。すなわち,結果発生についての予見の程度は, (1)ウのとおり,本件校長に国家賠償法1条1項にいう過失があるというためには,本件校長が,本件津波が本件体育館に到達することを予見し得たことが前提となる。すなわち,結果発生についての予見の程度は,予見される結果に基づいてその発生を回避するための措置を講じることを法的義務として負わせるに足りる程度に具体的なものでなければならないから,津波に関する漠然とした不安や危惧では足りず,本件津波が本件体育館に到達するという結果が発生することを具体的に予見し得ることが必要である。 イそこで検討するに,上記認定事実(5)ウ(イ)によれば,本件小学校は,第三次調査における津波浸水予測図等を基に作成された本件防災マップにおいて,津波浸水域に含まれておらず,安全確保の観点から津波浸水域よりも広く設定された要避難区域の外側に位置していたことが認められる。そして,本件防災マップで想定されている地震は,第三次調査において東松島市に最も高い津波が到達すると想定された宮城県沖地震(連動型)であるから,本件校長に本件津波が本件体育館に到達するという結果発生の予見可能性が認められるためには,少なくとも,本件校長が情報収集を尽くしていれば午後3時52分までに入手できたはずの情報に基づき,本件津波が宮城県沖地震(連動型)が発生した場合に野蒜海岸に到達すると想定されていた津波を上回る規模になることを予見し得ることが必要である。 ウところが,上記認定事実(5)イ(イ),(7)ア,(8)アによれば,本件地震直後に発表されていた本件地震の規模の速報値はマグニチュード7.9であり,その値は午後4時00分まで変更されなかったこと,東松島市で観測した震度は6強から6弱であったことが認められるところ,宮城県沖地震(連動型)で想定されていた地震の規模はマグニチュ ード7.9であり,その値は午後4時00分まで変更されなかったこと,東松島市で観測した震度は6強から6弱であったことが認められるところ,宮城県沖地震(連動型)で想定されていた地震の規模はマグニチュード8.0,東松島市での震度は6強から6弱であったのであるから,本件校長において,午後3時52分までの時点で発表されていた本件地震の規模に関する情報や体感できた震度からでは,本件地震が宮城県沖地震(連動型)を上回る規模ものであることを認識することができたとは認められない。 エまた,上記認定事実(7)によれば,防災行政無線やラジオ,テレビ等により,遅くとも午後3時20分頃までには,気象庁が宮城県に大津波警報(10メートル以上)を発表していたこと,宮城県に10メートル以上の津波が到達したことが確認されたことをそれぞれ知ることができたものと認められる。 しかしながら,本件地震当時,気象庁が発表する津波警報は,全国を66区域に分けた津波予報区ごとに発表され,予想される津波の高さを8段階に区分し,当該津波予報区の複数の地点において予想される津波のうち最も高い地点の津波の高さの予測値に基づいて発表されていたところ(上記認定事実(4)),東松島市を含む津波予報区は「宮城県」ただ一つであり,宮城県沖地震(連動型)において,旧本吉町(現気仙沼市)に到達する津波の最高水位が10メートルと予想されていたこと(上記認定事実(4),(5)イ(イ))からすると,本件地震当時,仮に想定されていた宮城県沖地震(連動型)が発生した場合にも,大津波警報(10メートル以上)が発令されたことが推測されるから,本件地震発生後に大津波警報(10メートル以上)が発令されたことや宮城県で10メートル以上の津波が到達したことが確認されたことをもってしても,本件津波浸水予測図の事 発令されたことが推測されるから,本件地震発生後に大津波警報(10メートル以上)が発令されたことや宮城県で10メートル以上の津波が到達したことが確認されたことをもってしても,本件津波浸水予測図の事前の想定を上回る規模の津波が 発生することを予見できたとはいえない。 オさらに,上記認定事実(7)によれば,気象庁や各報道機関は,午後3時30分までに,鮎川で午後3時20分に3.3メートルの津波が観測されたこと,女川町を襲った津波が約4メートルから5メートルの高さに達し,さらに波が高まっている様子であること,気仙沼市の広田湾沖で6メートルの高さの津波が観測されたことなどを報道していたことが認められる。 しかしながら,証拠(乙26)によれば,宮城県沖地震(連動型)においても,石巻市では3.2メートルの津波が,女川町では5.3メートルの津波が,気仙沼市では7.6メートルの津波が予想されていたことが認められるから,上記の報道は,これらの事前予想とほぼ同程度の規模の津波の情報であったといえる。 カこれに対し,原告らは,本件防災マップの基となった第三次調査における津波浸水予測図が前提とする津波の高さは,東松島市の海岸において3. 3メートルであるところ,本件地震後に予想された津波の高さは10メートル以上であること,気象庁が発表する津波警報における「予想される津波の高さ」とは,津波予報区における平均値であり,その予想精度は2分の1から2倍程度の幅があること,本件防災マップや各報道機関の放送等において,実際の津波の高さは予想よりも高くなる場合があることが指摘されていたことなどからすると,本件津波浸水予測図における津波浸水域に本件小学校が含まれていないからといって,本件体育館に本件津波が到達することを予見できなかったとはいえないと主張する ることが指摘されていたことなどからすると,本件津波浸水予測図における津波浸水域に本件小学校が含まれていないからといって,本件体育館に本件津波が到達することを予見できなかったとはいえないと主張する。 しかしながら,津波の高さは海岸線の形状によっても左右され,リアス式海岸は津波の高さが最も高くなるとされている(上記認定事実(1)イ,(2))ところ,宮城県沿岸は,牡鹿半島以北のリアス式海岸と,牡鹿半島及び松島湾を除く仙台湾沿岸の緩やかな弧を描く砂浜海岸とでは形状を大きく異にしている(上記認定事実(2))のであるから,宮城県に大津波警報(10 メートル以上)が発表されたからといって,緩やかな弧を描く砂浜海岸を含む宮城県の全沿岸にあまねく10メートル以上の津波が到達することを予想して上記警報が発令されたものではない。 また,気象庁のウェブサイト上の津波についての質問集において,津波情報で発表する予想される津波の高さは津波予報区における平均的な値であるとの記述がある(甲59)が,上記認定事実(4)イ,(5)ウ(ア)e及び証拠(乙39,40)によれば,現在の津波予測技術では,想定した断層モデルと実際に発生した地震の断層が必ずしも一致せず,また,海岸付近の詳細な地形を単純化,平均化しているために誤差が生ずることは避けられず,そのため,気象庁が発表する津波の高さは,上記誤差を考慮してより安全となるような数値であること,気象庁では,単一の津波予報区内の複数の地点における津波の高さの予測値のうち最も高い値に基づき津波警報を判定し,その最大の高さを併せて発表するものとされ,津波警報(大津波)を発令した際に発表する情報文については,例えば,3メートルの津波警報(大津波)の場合,「高いところで3メートル程度以上の津波が予想されま の最大の高さを併せて発表するものとされ,津波警報(大津波)を発令した際に発表する情報文については,例えば,3メートルの津波警報(大津波)の場合,「高いところで3メートル程度以上の津波が予想されますので,厳重に警戒してください。」などと解説するものとされ,本件防災計画においても同旨の説明文を掲載していたこと,本件防災計画には気象庁が発表する津波の高さに2分の1から2倍程度の誤差がある旨の記載はなく,本件震災を踏まえた気象庁の検討によれば,本件地震当時,気象庁が発表する津波の高さに2分の1から2倍程度の誤差があることにつき必ずしも十分な周知が行われていなかったことが認められ,以上の事実に照らすと,上記の言及は,気象庁の予測には,科学技術上限界があり,発表された津波の高さの予測値と実際の津波の間に2分の1から2倍程度の誤差が生じるため結果的に平均的な値となることもあることを注意的に解説したとも解し得る上,上記認定の本件防災計画における解説や,本件地震当時における気象庁の津波警報の意味内容についての周知状況に照ら すと,少なくとも,本件地震当時,一般人において,気象庁が発表する津波の高さの予測値に上記した程の誤差があり,予測値の2倍程度の高さの津波が到達することを予見可能であったということはできない。 さらに,本件防災マップや報道機関の放送において,実際の津波の高さは予想よりも高くなる場合があることが指摘されていたが(上記認定事実(5)ウ(イ)d,(7)カ),いずれの指摘も,過去の事例を前提とする津波の想定や気象庁の予測には限界があり,これらを超える規模の津波が発生する場合もあることを一般的抽象的に示すものにすぎない。結果予見義務の前提となる予見可能性は,あくまでも過失責任を問われている主体が置かれている具体的な状況に基 あり,これらを超える規模の津波が発生する場合もあることを一般的抽象的に示すものにすぎない。結果予見義務の前提となる予見可能性は,あくまでも過失責任を問われている主体が置かれている具体的な状況に基づいて判断されるべきであって,事前の想定を超える津波が到達することを予見できてはじめて,津波によって避難者に被害が発生することを回避するための避難行動の内容も定まるのであるから,本件津波が,事前の想定を上回り,本件体育館まで到達することを具体的に予見できたどうかが問われなければならず,一般的な注意喚起だけではそのような具体的な結果を予見するに足りないというべきである。 キまた,原告らは,東松島市における他の小学校又は中学校においては,校長等が避難者を各校舎の2階以上に誘導したため,本件津波による犠牲者が一人も出なかったことを本件校長の過失の根拠として挙げている。 しかしながら,本件小学校と他の小学校や中学校とでは,建物の状況,海岸や河川からの位置関係,海抜,周囲の状況等が区々であるから(甲21の4・5,56,87,102,108の1ないし3,乙2,3,8,33,37),同市の他の小学校や中学校において校長等が各校舎の2階以上に誘導し,避難者の中から本件津波による犠牲者を出さなかったという事実が,本件校長が置かれた具体的状況の下で判断されるべき予見可能性を基礎付ける直接の根拠となるものではなく,本件校長が置かれた上記認定に係る状況等に照らして予見可能性を判断するのが相当である。 ク以上の検討によると,本件校長が午後3時52分までに入手し得た本件津波に関して発表されていた報道等の情報を前提としても,その情報の内容は,事前に想定されていた宮城県沖地震(連動型)の地震の規模や津波の高さ,それに伴って発令されることが予想され でに入手し得た本件津波に関して発表されていた報道等の情報を前提としても,その情報の内容は,事前に想定されていた宮城県沖地震(連動型)の地震の規模や津波の高さ,それに伴って発令されることが予想された津波警報を超える内容ではなかったのであるから,本件校長において,本件津波が本件津波浸水予測図上の津波浸水域を超えて本件体育館に到達するという結果を具体的に予見し得たと認めることはできない。 したがって,本件校長が,本件津波が本件体育館に到達するという結果を予見し得たにもかかわらずこれを予見せず,そのため,本件津波によって避難者が被害を被るという結果を回避するための適切な措置を採り得たにもかかわらずこれを採らなかったとは認められない。 ケなお,原告らは,本件防災計画における本件記載は災害により住居を喪失した住民を一定期間収容する施設としての避難所についての記載ではなく,現に津波災害が予想されるときに避難者が目指すべき場所としての避難場所についての記載であると理解すべきであるから,本件校長は,本件記載に基づき,避難者を本件体育館ではなく本件校舎の2階以上に誘導すべき義務を負っていた旨主張する。 しかしながら,仮に本件記載が避難所だけではなく避難場所についても念頭に置いた記載だとしても,津波が当該避難場所まで到達することを具体的に予見できない場合においてまで,津波災害を前提に校舎の2階以上を利用しなければならない状況は想定し難く,また,本件記載中に,被害が拡大,又は拡大が予想される場合においては校舎も含めて利用するものとする旨の言及があることに照らすと,その直後のただし書きも,被害を予見できたことを前提にしてその場合の対応策を示したものと解されることなどからすると,本件記載は,本件校長において本件津波が本件体育館に到達することを具体的に らすと,その直後のただし書きも,被害を予見できたことを前提にしてその場合の対応策を示したものと解されることなどからすると,本件記載は,本件校長において本件津波が本件体育館に到達することを具体的に予見できない場合にまで,本件校長に校舎の2 階以上への避難誘導を義務付けるものではないと解される。 また,原告らは,本件校長が,本件校舎の各出入口に設置された防音装置を操作して避難者が本件校舎に入れないようにしたことについて過失がある旨主張する。 しかしながら,仮に本件校舎の出入口が,本件地震の発生後,防音装置の操作法を知らない避難者にとって本件校舎に入れないような状態であったとしても,本件校長において,本件津波が本件体育館に到達することの予見可能性がない場合には,本件校舎の2階以上に避難誘導すべき義務は発生せず,そうすると,現に避難者の避難場所として受け入れている本件体育館の外に避難者が本件校舎に入れるような状態にしておくべき義務も発生しないということになるから,本件校長が本件校舎をそのような状態にしておかなかったことをもって,本件校長に過失があるということはできないというべきである。 そして,本件校長において,本件津波が本件体育館に到達することを具体的に予見し得たと認めることはできないことは上記説示のとおりであるから,原告らの上記各主張はいずれも理由がない。 4 争点(4)(東松島市長及び本件教育長の責任の有無)について原告らは,東松島市長及び本件教育長は,本件校長に対し,強い地震があった場合に津波情報を直ちに入手すべきことや,本件防災計画において,津波災害が予想されるときは校舎の2階以上を利用するように定められていること等について,指導,監督する義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,D及びEを死 すべきことや,本件防災計画において,津波災害が予想されるときは校舎の2階以上を利用するように定められていること等について,指導,監督する義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,D及びEを死亡させた旨主張する。 しかしながら,仮に本件校長が本件津波に関する情報を入手したとしても,本件校長において,本件津波が本件体育館に到達するという結果を予見し得たとは認められないこと,また,本件防災計画における本件記載は,本件校長が上記結果を予見し得ない場合にまで本件校長に校舎の2階以上への避難誘導を 義務づけるものではないことは上記3で認定説示したとおりであるから,東松島市長及び本件教育長に本件校長に対する指導監督義務違反があったとの原告らの上記主張を採用することはできない。 5 争点(2)(本件校長がFを災害時児童引取責任者として登録されていた者以外の者に引渡後の安全を確認せずに引き渡したという過失の有無)について(1) 本件校長の責務本件校長は,上記3(1)イのとおり,指定避難場所である本件小学校を現実に管理しているのであるから,本件小学校の管理者である本件教育委員会の補助機関として,本件小学校の防災対策業務を行い,災害に関する情報を迅速かつ適切に収集及び伝達し,当時の一般的な知見及び具体的な情報等に照らして避難者らの生命又は身体に対する有害な結果を予見し,その結果を回避するための適切な措置を採るべき法的義務を有していたほか,本件小学校の校長として,同校に在籍する児童に対して安全配慮義務を負っていたこと,避難場所は,津波被害想定における避難対象地域から外れている場所であり,大規模な地震や津波等の災害から住民が一時避難するための場所として指定されるものであること(上記認定事実(5)イ(ア)b,(5)ウ(ア) は,津波被害想定における避難対象地域から外れている場所であり,大規模な地震や津波等の災害から住民が一時避難するための場所として指定されるものであること(上記認定事実(5)イ(ア)b,(5)ウ(ア)b)からすると,本件地震発生後に指定避難場所である本件小学校に避難した同校の児童を本件小学校から移動させる際には,安全とされている避難場所から移動させても当該児童に危険がないかを確認し,危険を回避する適切な措置を採るべき注意義務を負っていたというべきである。 また,宮城県教育委員会が作成したみやぎ防災教育基本指針において,災害発生後に学校に避難登校してくる児童等と学校に居残っていた児童等を区別することなく保護対象とされている上,児童等を保護者に引き渡すことが適切であると判断される場合,あらかじめ定めた方法で速やかに保護者と連絡を取るとされていること(上記認定事実(6)ア),本件小学校においては,児童の引渡しを受ける責任者を災害時児童引取責任者として事前に登録させ ており,災害時児童引取責任者は,災害時において,学校からの連絡の有無にかかわらず本件小学校まで児童を引き取りに来るとされていること(上記認定事実(6)イ)からすると,本件小学校における災害時児童引取責任者の制度は,災害時の児童の安全確保を第一の目的とし,児童の安全確保に責任を持てる者への確実な引渡しを実現するための制度であると解される。そうすると,災害発生後に児童が本件小学校に避難してきた場合には,たとえ一旦下校した児童であったとしても保護者の保護下にない状況であれば,児童の安全を確認できない限り,災害時児童引取責任者以外の者に引き渡してはならない義務を負っていたというべきである。 したがって,本件校長が,本件地震の発生後,本件地震や本件津波に関する情報を 安全を確認できない限り,災害時児童引取責任者以外の者に引き渡してはならない義務を負っていたというべきである。 したがって,本件校長が,本件地震の発生後,本件地震や本件津波に関する情報を迅速かつ適切に収集することを怠ったため,収集することができた情報等からFを災害時児童引取責任者ではないKに引き渡すと本件津波に巻き込まれるという結果を予見し得たにもかかわらずこれを予見せず,そのため,Fの安全を確認しないままKにFを引き渡した結果,Fが本件津波に巻き込まれ,その生命又は身体に危険が及んだ場合には,本件校長に国家賠償法1条1項にいう過失が認められ,違法なものとして,被告は,これによってFに生じた損害を賠償する義務を負うものと解される。 (2) 本件校長が入手すべきであった本件津波に関する情報本件校長がFをKに引き渡すと本件津波に巻き込まれることを予見できたか否かを検討するに当たっては,上記3(2)で説示したとおり,本件校長が実際に入手していた情報だけでなく,防災行政無線やインターネット,ラジオ,テレビ等で公表されていた情報についても前提とするのが相当である。 そして,上記2(2)によれば,午後3時30分頃にJ教諭がFをKに引き渡したものと認められるから,午後3時30分頃までに防災行政無線やインターネット,ラジオ,テレビ等で公表されていた情報に基づき,予見可能性について検討することにする。 (3) 予見可能性の有無ア上記3(3)アで説示したとおり,結果発生についての予見の程度は,予見される結果に基づいてその発生を回避するための措置を講じることを法的義務として負わせるに足りる程度に具体的なものでなければならないから,津波に関する漠然とした不安や危惧では足りず,FをKに引き渡すとFが本件 に基づいてその発生を回避するための措置を講じることを法的義務として負わせるに足りる程度に具体的なものでなければならないから,津波に関する漠然とした不安や危惧では足りず,FをKに引き渡すとFが本件津波に巻き込まれて同人の生命又は身体に危険が及ぶという結果を具体的に予見し得ることが必要である。 イそこで検討するに,上記認定事実(7),(8)アによれば,午後3時30分頃までに,気象庁が,本件地震の規模につきマグニチュード7.9の速報値を発表し,宮城県に大津波警報(10メートル以上)を発表したこと,東松島市で震度6強から6弱の揺れが観測されたこと,NHK,東日本放送及び仙台放送が,気象庁が宮城県について大津波警報(10メートル以上)を発表したことを放送したこと,東北放送や東日本放送が宮城県で10メートル以上の津波の到達が確認されたことを放送したことなどの事実が認められる。 これらの情報と本件防災マップで想定されていた宮城県沖地震(連動型)を比較すると,本件地震と宮城県沖地震(連動型)の地震の規模と震度はほぼ同じである上, 宮城県沖地震(連動型)で想定されていた最大の津波は,旧本吉町(現気仙沼市)における高さ10メートルのものであるから,本件地震により,宮城県において,大津波警報(10メートル以上)が発表され,10メートル以上の津波が到達したという事実が報道されていたことに照らすと,本件校長は,午後3時30分頃までに,上記認定に係る情報等に基づき,事前に想定されていた宮城県沖地震(連動型)と同程度の地震が発生したことを認識し,宮城県沖地震(連動型)による津波と同程度の規模の津波が短時間のうちに東松島市にも到達し,少なくとも,本件津波浸水予測図上の津波浸水域に,そこで想定されている水深の津波が 到達するという結果の 城県沖地震(連動型)による津波と同程度の規模の津波が短時間のうちに東松島市にも到達し,少なくとも,本件津波浸水予測図上の津波浸水域に,そこで想定されている水深の津波が 到達するという結果の発生を予見することができたというべきである。 そうすると,①Fが本件体育館から自宅に戻るためには,本件津波浸水予測図における津波浸水域を必ず通過しなければならず,場所によっては,本件津波浸水予測図における想定浸水深が0.5メートルから1メートル未満の津波浸水域を通過しなければならないこと(上記認定事実(5)ウ(イ)c),②津波浸水深が0.5メートル程度の津波であっても,船舶や木材などの漂流物の直撃によって木造家屋でさえも被害が出る場合があること(上記認定事実(1)ウ),③県や市町村等による津波避難計画の策定等に当たって留意すべき事項についてまとめた国の報告書によれば,避難経路を定めるにあたっては,津波が発生した場合に避難対象地域の外に避難が可能であれば,津波の進行方向と同方向へ避難する道路を指定ないし設定し,海岸方向に高台等がある場合であっても,できる限り海岸方向への避難は避けるものとされていたこと(上記認定事実(5)ア(エ)),④Fの引渡時において,Fの自宅に保護者がいるかどうか客観的に確認されておらず,Fが,当時判断能力が十分とはいい難いわずか9歳の子供であったことからすると,自宅に送り届けられたとしても,津波の危険を察知できず,本件津波浸水予測図における津波浸水域に移動するなどの行動を取る可能性も十分に考えられることなどの諸点に鑑みれば,本件校長において,午後3時30分頃の時点で,FをKに引き渡して本件体育館から自宅に帰宅させると,帰宅途中ないし帰宅後に本件津波に巻き込まれ,Fの生命又は身体に危険が及ぶという結果を具体的に れば,本件校長において,午後3時30分頃の時点で,FをKに引き渡して本件体育館から自宅に帰宅させると,帰宅途中ないし帰宅後に本件津波に巻き込まれ,Fの生命又は身体に危険が及ぶという結果を具体的に予見することができたというべきである。 ウこれに対し,被告は,本件津波が本件津波浸水予測図における津波浸水域を超えてFの自宅まで到達することは予見できず,また,Fの自宅が,海抜20mを超える小さな山のすぐ北側に位置し,本件津波浸水予測図における津波浸水域に含まれていなかったことに照らすと,FをKに引き渡した時点において,Fを帰宅させると同人が津波により死亡することを予 見できたとはいえないと主張する。 しかしながら,本件津波が本件津波浸水予測図における津波浸水域を超えて到達することが予見できなくとも,本件津波が同津波浸水域と同程度の範囲に到達することが予見できたことは上記説示のとおりであり,また,FをKに引き渡すに当たって予見すべき結果は,本件津波がFの自宅まで到達することではなく,Fが災害時児童引取責任者に確実に引き渡されてその安全が確保されるまでに本件津波に巻き込まれてその生命又は身体に危険が及ぶことで足りるというべきところ,本件小学校からFの自宅に移動するためには本件津波浸水予測図の津波浸水域を必ず通過しなくてはならない上,Fが自宅に辿り着いたとしても確実に災害時児童引取責任者により保護される保証はなく,未だ判断能力が十分とはいい難いわずか9歳の子供であったFが津波から身を守るために最善の行動を取ることを期待することはできないことその他上記イで説示したところによれば,FをKに引き渡して本件体育館から自宅に帰宅させると,帰宅途中ないし帰宅後に本件津波に巻き込まれ,Fの生命又は身体に危険が及ぶことを具体的に予見 はできないことその他上記イで説示したところによれば,FをKに引き渡して本件体育館から自宅に帰宅させると,帰宅途中ないし帰宅後に本件津波に巻き込まれ,Fの生命又は身体に危険が及ぶことを具体的に予見することができたというべきであるから,被告の上記主張は理由がない。 (4) 注意義務違反の有無上記認定事実(8)カ,(9)ウに上記(3)で説示したところを総合すると,本件校長は,FをKに引き渡すまでの間に入手可能な情報等に基づき,FをKに引き渡して本件体育館から自宅に帰宅させると,帰宅途中ないし帰宅後に本件津波に巻き込まれ,Fの生命又は身体に危険が及ぶことを具体的に予見することができたにもかかわらず,Fが本件津波に巻き込まれるおそれがあることを全く考慮しないまま,J教諭等の教諭らに対し災害時児童引渡し用の名簿を使用しないままで児童らの引渡しを受ける者の名前と関係が確認できれば児童らを引き渡してよい旨の児童引渡しについての一般的指示を出し,同指示を受けたJ教諭を通じて,Fを災害時児童引取責任者ではないKに引き 渡したことが認められる。 したがって,本件校長には,本件小学校に避難してきた児童であるFを災害時児童引取責任者以外の者に引き渡すに当たり,本件津波によって,引渡後に当該児童の生命又は身体に危険が及ぶかどうかの安全を確認し,その安全が確認できない限り引き渡してはならないという注意義務に違反した過失が認められるというべきである。 6 争点(3)((2)の過失とFの死亡との因果関係)についてFは,本件校長の上記過失によってKに引き渡されたことにより,本件体育館よりも海側の土地にあり,かつ本件津波浸水予測図上の津波浸水域及び要避難区域に四方を囲まれているFの自宅まで移動し,その直後に自宅及びその周辺を襲った本件 ってKに引き渡されたことにより,本件体育館よりも海側の土地にあり,かつ本件津波浸水予測図上の津波浸水域及び要避難区域に四方を囲まれているFの自宅まで移動し,その直後に自宅及びその周辺を襲った本件津波に巻き込まれて溺死したのであるから(上記認定事実(9)ウ),本件校長の上記過失とFの死亡との間に因果関係が認められることは明らかである。 これに対し,被告は,Fが本件体育館に留まっていれば生存できたとは必ずしもいえず,また,Fの死亡という結果について被告に責任を負わせることは相当性を欠くと主張する。 しかしながら,訴訟上の因果関係の立証は,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和48年(オ)第517号昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。 すなわち,本件校長が本件小学校に避難してきた児童であるFを災害時児童引取責任者以外の者に引き渡すに当たり,本件津波によって,引渡後に当該児童の生命又は身体に危険が及ぶかどうかの安全確認を怠り,Kに引き渡したという過失によって,Fの実際の死亡時点における死亡を招来したことを是認し 得る高度の蓋然性が証明されれば,本件校長の上記過失とFの死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。Fが本件体育館に留まっていたとしても生存し得たか否かは,主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり,因果関係の存否に関する上記判断を直ちに左右するものではない(最高裁平成8年(オ)第2043号平成11年2月25日第一小法廷判決・ りし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり,因果関係の存否に関する上記判断を直ちに左右するものではない(最高裁平成8年(オ)第2043号平成11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)。 したがって,被告のいう,Fが本件体育館に留まっていれば生存できたとは必ずしもいえないから本件校長の上記過失とFの死亡との因果関係が認められないという主張は,因果関係の存否に関する主張としては失当であり,Fを本件体育館に留め置いた場合の生存可能性については,損害論(後記7(1))で検討するのが相当である。 また,被告は,Fを自宅に送った後に本件津波に襲われずに生存できる可能性があったことを指摘して,Fの死亡という結果について被告に責任を負わせることは相当性を欠くから因果関係がないと主張するところ,その趣旨は必ずしも明らかではないが,上記最高裁判決(最高裁昭和48年(オ)第517号昭和50年10月24日第二小法廷判決)に照らし,本件校長がFをKに引き渡したという過失とFの実際の死亡との間に因果関係が認められることは上記説示のとおりであって,被告の上記主張を採用することはできない。 7 争点(5)(損害額)について(1) Fを本件体育館に留め置いた場合の救命可能性についてア上記認定事実(9)イ,証拠(甲52,53)及び弁論の全趣旨によれば,本件体育館で本件津波に襲われた者は約340人いたが,そのうち本件津波により亡くなったのは13人であり,うち溺死ではなく低体温症で死亡したのは8人であること,本件体育館にいた児童の中で本件津波により死亡した者はいなかったこと(なお,本件体育館で本件津波に巻き込まれた児童の正確な人数は明らかではないが,本件地震発生時点で本件小学校に いた児童は約70名であったこと(上 中で本件津波により死亡した者はいなかったこと(なお,本件体育館で本件津波に巻き込まれた児童の正確な人数は明らかではないが,本件地震発生時点で本件小学校に いた児童は約70名であったこと(上記認定事実(8)イ),保護者が迎えにきても本件体育館に留まる者が多かったこと(上記認定事実(8)カ),本件校長が,引渡しの人数は約半分であった旨証言していること(証人G)などからすると,本件津波が本件体育館に到達した時点で,少なくとも20から30名程度の児童が残っていたものと推認できる。),Fの運動能力や健康状態に特段の問題はなかったことが認められる。 そうすると,本件体育館で本件津波に襲われた者のうち,約96%(低体温症で死亡した8人を除くと約98%)が生存し,特に児童の犠牲者がいなかった中でFの運動能力や健康状態に特段の問題がなかったことからすると,仮にFが本件体育館に残っていたとしても生存し得たものと認められる。 イしたがって,Fを本件体育館に留め置いたとしても同人は死亡していたとして,当該事由を損害額の算定に当たって考慮することは相当ではないというべきである。 (2) 逸失利益 2836万0818円345万9400円(平成22年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均賃金)×11.7117(18.8195(F死亡時の9歳から67歳までの58年に対応するライプニッツ係数)-7.1078(9歳から18歳までの9年に対応するライプニッツ係数))×(1-0.3(生活費控除割合))=2836万0818円(3) 慰謝料 2000万円本件に顕れた一切の事情を考慮し,2000万円を相当と認める。 (4) 損益相殺なしFの死亡について,日本スポーツ振興センターから原告Aに対し特別弔慰金5 2000万円本件に顕れた一切の事情を考慮し,2000万円を相当と認める。 (4) 損益相殺なしFの死亡について,日本スポーツ振興センターから原告Aに対し特別弔慰金500万円が支給されたところ(前提事実(5)イ),被告は,同額について損害額と損益相殺すべきであると主張するため,以下検討する。 被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があり,また,被害者が不法行為によって死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合にも,上記の損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得る(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)。 ところで,証拠(甲110の1)によれば,日本スポーツ振興センターが行う災害共済給付制度では,本件震災のような非常災害による児童生徒等についての災害には,法令に死亡見舞金を含む災害共済給付を行わない旨の免責規定が設けられているため,本件震災に遭った児童生徒等に対し特別に弔慰金を支給することとしたことが認められ,そうすると,特別弔慰金の給付については,日本スポーツ振興センター法に根拠規定はなく,日本スポーツ振興センターが災害共済給付を行った場合における損害賠償請求権の代位の規定(日本スポーツ振興センター法31条2項)の適用もないものと解される。 したがって,当該災害に係る児童生徒等が有する損害賠償請求権は,特別弔慰金が支給された後も当該児童生徒等が有していると解すべきで ーツ振興センター法31条2項)の適用もないものと解される。 したがって,当該災害に係る児童生徒等が有する損害賠償請求権は,特別弔慰金が支給された後も当該児童生徒等が有していると解すべきであり,特別弔慰金が損害の填補の性質を有するとは認められず,損害と利益との間に同質性があるとはいえない。 これに対し,被告は,特別弔慰金は,本件震災の発生を受けて新たに設けられた制度であり,日本スポーツ振興センター法上,災害共済給付に明確には含まれていないものの,その請求手続,支払手続及び時効について災害共済給付と同様に取り扱うものとされていることからすれば,特別弔慰金についても災害共済給付と同様に損益相殺がされるべきである旨主張する。 しかしながら,請求手続や支払手続及び時効について災害共済給付と同様の取扱いがされているからといって損害の填補の性質を有するとはいえない上,法令上は,日本スポーツ振興センターは震災のような非常災害については災害共済給付を行わない旨の免責規定が設けられているのであって(日本スポーツ振興センター法施行令3条5項),特別弔慰金は,本件震災による未曾有の被害に鑑みた恩恵的な見舞金であると解するのが相当であり,Fの損害から控除すべき性質のものとはいえない。 したがって,特別弔慰金につき損害額と損益相殺することは相当ではない。 (5) 上記(2)から(4)までの合計 4836万0818円(6) 原告Aの法定相続分2分の1 2418万0409円(7) 弁護士費用 241万8040円本件事案の内容や本件訴訟の経過等を総合考慮すると,上記(6)の1割である241万8040円が相当である。 (8) 上記(6)及び(7)の合計 2659万8449円(9) よっ 本件事案の内容や本件訴訟の経過等を総合考慮すると,上記(6)の1割である241万8040円が相当である。 (8) 上記(6)及び(7)の合計 2659万8449円(9) よって,被告は,国家賠償法1条1項に基づき,Fを2分の1の割合で相続した原告Aに対し,2659万8449円及びこれに対するFが死亡した日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 8 結論以上によれば,原告Aの請求は,理由があるからこれを認容し,原告B及び原告Cの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却する。 よって,主文のとおり判決する。 仙台地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官大嶋洋志 裁判官北嶋典子 裁判官志田智之

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る