- 1 -主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中840日をその刑に算入する。 京都地方検察庁で保管中の診断書(メディカルレポート)2通(令和3年領第206号符号1-1、1-2)の各偽造部分を没収す る。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 【罪となるべき事実】第1 被告人は、甲及び乙と共謀の上、甲の父であり、乙の夫であるA(当時77 歳。)を殺害しようと計画し、平成23年3月5日午後0時頃から同日午後4時頃までの間に、東京都江戸川区内のa マンションb 号室等において、手段不詳によりAを殺害した。 第2 被告人は、甲と共謀の上、令和元年9月28日午後7時20分頃から同日午後8時45分頃までの間に、福岡市c 区d 所在のe 空港内において、行使の目 的で、Bの病歴、病状及び予後等が記載され、f 大学病院の記名及び医師・医学博士「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」との記名のある英文の診断書(メディカルレポート)2通の各署名欄に、甲において「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」と署名し、もって公文書である国立大学法人f 大学f 大学病院医師・医学博士「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」作 成名義の診断書(メディカルレポート)2通(主文掲記のもの。以下「本件各文書」という。)を偽造した。 第3 被告人は、甲と共謀の上、令和元年11月30日午後5時21分頃から同日午後5時37分頃までの間に、京都市g 区内のhマンションi 号室D方において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患していたD(当時51歳)の嘱託を 受け、殺意をもって、ペントバルビタール相当量をDの身体に造設されていた - 2 -胃ろうから胃内に注入し、よ いて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患していたD(当時51歳)の嘱託を 受け、殺意をもって、ペントバルビタール相当量をDの身体に造設されていた - 2 -胃ろうから胃内に注入し、よって、同日午後8時10分頃、同市j区内のk病院において、Dを急性ペントバルビタール中毒により死亡させて殺害した。 【証拠の標目】省略【争点に対する判断】 第1 第1の事実(殺人)について 1 争点弁護人は、甲と乙の殺害計画の下でAは殺害されたのであり、被告人は殺害計画を知らずに甲らに手伝わされてしまったにすぎないのであって、被告人は、Aを殺害していないし、甲らと共謀もしていない旨主張し、被告人もこれに沿 う供述をする。 本件の争点は、被告人が、甲及び乙と共謀してAを殺害したと認められるか否かである。 2 証拠によって認定した事実関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1) 前提となる当事者等の事実関係ア被告人は、平成9年4月にl大学医学部医学科に入学し、平成14年頃、m大学医学部医学科に在籍していた甲と知り合った。また、被告人は、平成15年に医師免許を取得すると共に厚生労働省に入省し、平成21年当時は医系技官として医師国家試験の受験資格認定審査業務に携わってい たところ、前記大学を中途退学していた甲が厚生労働省に対して外国の医学校を卒業したとの内容虚偽の同受験資格認定書類を提出したことを認識しながら、何ら不正をただすことをしなかった。その後、甲は、平成21年に同受験資格認定を受け、平成22年に医師国家試験に合格して同年5月に医師免許を取得し、その頃、福島県内の医療機関で臨床研修を開始 した。他方、被告人は、平成22年3月31日に厚生労働省を辞職し、同 - 3 -年 22年に医師国家試験に合格して同年5月に医師免許を取得し、その頃、福島県内の医療機関で臨床研修を開始 した。他方、被告人は、平成22年3月31日に厚生労働省を辞職し、同 - 3 -年4月1日からf大学法医学教室助教として勤務していた。 イ A(昭和8年11月19日生)は、甲の実父であり、乙の夫であるが、長年にわたって精神障害を理由に入退院を繰り返しており、平成22年1月23日以降は、双極I 型感情障害(主に躁症状が強く現れる躁鬱病)の治療のため長野県所在のn病院に入院していた。 なお、被告人は、遅くとも平成22年1月24日には、甲からAがn病院に入院したことなどを聞いていた。 ウ甲及び乙は、長年にわたってAの介助等の苦労を余儀なくされてきたことから、Aを疎ましく感じており、遅くとも平成22年頃にはAの死を望むようになった。 なお、被告人は、その頃から、甲からAを疎ましく感じていることなどを聞いていた。 (2) 平成23年3月5日(以下、特に断りのない限り、平成23年のこととする。)に至るまでの経緯。 ア死亡届等に関するやり取り (ア) 被告人は、2月1日、甲に対し、「棺桶通販」「火葬場」と記載し、当時甲がいた福島県須賀川市内の火葬場に関するウェブページのURLが記載されたメールを送信した。甲は、同日、同メールを乙に転送すると共に、被告人に対し、「本人の住民票は東京都中央区だ。診断書の提出は東京となれば火埋葬許可証は東京都になる????」「実務面、 ロジ周りはわからんこといっぱい。」などと記載したメールを送信した。 (イ) 被告人は、同日、同メールに対し、「いや、死亡届(兼死亡診断書)は死亡地の役所に出せば良い。本籍地以外で死亡した場合は、二通必要になるから注意な。そんで死亡届 と記載したメールを送信した。 (イ) 被告人は、同日、同メールに対し、「いや、死亡届(兼死亡診断書)は死亡地の役所に出せば良い。本籍地以外で死亡した場合は、二通必要になるから注意な。そんで死亡届が受理されたら、死体火葬許可証が発行される。火葬許可証は焼いた後で火葬場管理者の裏書によって埋葬許 可証になる。遺体を葬るときに必要となるんで、保管を忘れずに。」「そ - 4 -うか。おれが須賀川で開業していたことにすれば話が早いのか。で、ENT即あぼーんにして、須賀川で焼くと。他で焼くと高いからな」などと記載したメールを送信しており、甲は、同日、同メールを乙に転送した。なお、「ENT」とは退院を、「あぼーん」とは死亡することを意味する。 (ウ) 甲は、同日、被告人に対し、「なるほど。あと気になるのは一点。死亡に伴う除籍について、須賀川市からの除籍通知みたいな記録が残るのはまっぴらごめんなのだ」「本籍地大阪府」「住民票東京都」「死亡地福島県」「この場合、本籍の除籍謄本に福島県うんたらかんたらが記載されないかどうかが気になる。もし記載されるとなるとやはり避 けたい。」などと記載したメールを送信した。 (エ) 被告人は、同メールを受け、同月2日、甲に対し、Aのことを念頭に置いて、除籍謄本の例として東京都北区役所のウェブページのURLを記載すると共に、「どこで消せばいいんだ?福島がバレなきゃいいのなら、埼玉あたりか。」などと記載したメールを送信しており、甲は、同 日、乙に対し、「やはり死亡地載ってしまうようだ」と記載した上で同メールを転送した。 (オ) 被告人は、同日、甲に対し、Aのことを念頭に置いて、「めんどくせえからCの名前で葬るか。千葉なら戸籍も問題ないだろうよ。」と記載したメールを送信しており、 載した上で同メールを転送した。 (オ) 被告人は、同日、甲に対し、Aのことを念頭に置いて、「めんどくせえからCの名前で葬るか。千葉なら戸籍も問題ないだろうよ。」と記載したメールを送信しており、甲は、同メールに対し、「この際なんでも ありだろ。」「詳しくは追って。」などと記載したメールを返信した。 (カ) 甲は、同月26日、乙に対し、死亡診断書・死亡届についての説明文を記載したメールを送信すると共に、被告人から聞いた話として、「死体は江戸川区に転がしておきつつ、中央区に死亡届を出しに行けばその場で火葬許可証ゲット。」などと記載したメールを送信した。 (キ) 甲は、3月2日、乙に対し、o 葬儀所のウェブページのURLを記載 - 5 -した上で、「o とpは目と鼻の先。」、「あしたとりあえず o に電話して、おたくって土日もやってるんですか?って問い合わせてくれや。 日曜日お世話になることが可能かどうかが事前に知りたい。でなければ、最初から月曜日以降狙いとなる。」などと記載したメールを送信した。これを受けて、乙は、同日、甲に対し、「起きたらo に電話して尋 ねます。。」と記載したメールを送信した。 イ Aの転院に関するやり取り(ア) 甲は、2月18日、被告人に対し、Aをn 病院から退院させる準備として、同病院の担当医師に紹介状を書いてもらい、週明けには乙に同病院に赴いてもらおうと考えていることや、同病院に対する説明としては、 胃ろうを作りたいがそれは都内の病院で行う予定であり、その目途が立ったことから3月の第1週に転院させてくださいなどと述べる予定である旨記載したメールを送信した。 (イ) 被告人は、同日、甲に対し、病院に対する説明の際に留意する事項や「紹介状がキモだな。」などと記載したメールを送 第1週に転院させてくださいなどと述べる予定である旨記載したメールを送信した。 (イ) 被告人は、同日、甲に対し、病院に対する説明の際に留意する事項や「紹介状がキモだな。」などと記載したメールを送信しており、これを 受けた甲は、同日、乙に対して同メールを転送した。 (ウ) 甲は、3月1日、乙に対し、Aを退院させるためにn 病院に対して告げるべき台詞や口ぶりを記載したメールを送信した。同台詞の内容は、要旨、Aの転院先が既に横浜市内の病院に決まっており、同月5日に家族が迎えに行くので転院手続の準備をお願いしたいというものである。 (エ) 甲は、同月3日、乙に対し、q 病院のウェブページのURLを記載したメールを送信し、これを受けた乙は、同日、甲に対し、「基地・出世!」「最高の名門で寝起きか」などと記載したメールを送信した。なお、「基地」とはAのことである。 (オ) 甲は、遅くとも同月5日までに、n 病院に対し、同日にq 病院がAを 受け入れてくれることになったことから、その日にAを迎えに行く旨伝 - 6 -えた。 ウ Aの搬送手段や搬送先に関するやり取り(ア) 被告人は、2月18日、甲に対し、自身が運転する車両で退院後のAを搬送することを前提に、r レンタカーでレンタルする福祉車両に関するウェブページのURLを送信するとともに、「これでいいよね。」「こ れで監禁でもいいけど。」などと記載したメールを送信しており、これを受けた甲は、同日、同メールを乙に転送した。 (イ) 甲は、同日、被告人に対し、「よいよい。ベリーグッド」「これにゴミを積み込むときは見える所だけに 〇〇大学付属病院とかそれっぽい張り紙をしよう。当然走行中は外す」「マンションへの入室は簡易式 担架とか用意しといたほうがよ 。ベリーグッド」「これにゴミを積み込むときは見える所だけに 〇〇大学付属病院とかそれっぽい張り紙をしよう。当然走行中は外す」「マンションへの入室は簡易式 担架とか用意しといたほうがよいかなあ?」などと記載したメールを送信した。 (ウ) 被告人は、同日、甲に対し、「大宮ピックアップあたりにしておくか?」と記載するとともに、簡易式担架について「いらんだろ。エレベータが付いていれば車椅子でいけちゃうし。」などと記載したメールを送信し た。 (エ) 甲は、同日、被告人に対し、「マンション、というか木造かもしれんが、1階の物件から決めることを考えている。エレベータはないが担架は必要なさそうか。」などと記載したメールを送信した。 (オ) 被告人は、同日、甲に対し、「ならば話は早い。車の横っ腹には『s 大学』あたりが良いか。担架はいらんな。川か山にそのまま捨ててやりたいぐらいだが。」と記載したメールを送信した。 (カ) 被告人は、2月25日、3月5日午前11時にrレンタカーt店で借り受けて同日午後8時に同u 店に返却する予定で福祉車両のレンタルを申し込んだ上、その内容を甲にメール送信しており、同メールを受けた 甲は、2月25日、乙に同メールを転送した。 - 7 -(キ) 甲は、同日、乙に対し、a マンションの物件情報についてのウェブページやその所在地が記載された地図のURLを記載したメールを送信した。 (ク) 甲は、同月27日頃、車椅子のレンタル会社に対し、3月4日にvホテルで受け取り、同月7日に都内から返却発送するとの条件で車椅子の レンタルを申し込んだ。 (ケ) 甲は、2月28日、a マンションb号室を3月4日から4月2日までの約1か月間賃借する内容の賃貸借契約を締結した。 (3) 3月 却発送するとの条件で車椅子の レンタルを申し込んだ。 (ケ) 甲は、2月28日、a マンションb号室を3月4日から4月2日までの約1か月間賃借する内容の賃貸借契約を締結した。 (3) 3月5日当日の経過等ア被告人は、午前8時30分頃に仙台市内の病院での当直勤務を終え、そ の後、仙台駅から新幹線に乗車して大宮駅に向かった。 イ甲及び乙は、午前9時30分頃、n病院を訪れてAを退院させるとともに、事前にレンタルしていた車椅子にAを乗せ、介護タクシーで佐久平駅に移動した後、新幹線で同駅から大宮駅に移動した。 なお、Aには過去に起こした脳梗塞等の後遺障害として嚥下障害や歩行 障害が生じていたが、当時、生命に危険を及ぼすような疾患はなく、退院時点におけるAの健康状態は良好であった。 ウ被告人は、午前11時30分頃、rレンタカーt店で福祉車両を借りた。 エ甲、乙及びAが午前11時46分頃に大宮駅に到着した後、被告人は、大宮駅前において、甲らと合流した。 オ被告人及び甲は、午後0時過ぎ頃、被告人が運転する福祉車両にAを車椅子ごと乗車させた上で、発進した。 カ前記福祉車両は、午後1時39分頃に一之江ICを通過した後、a マンションに到着した。その後、Aはそのb号室に搬送され、午後4時頃までに死亡した。 キ甲は、死亡日時を3月5日午後1時53分、死亡した場所をa マンショ - 8 -ンb号室の所在地、直接死因を「急性循環不全」、診断者名をC(注:Cの名を片仮名で表記)ベイシティー診療所の医師Cとする死亡診断書を偽造した。なお、上記C(注:Cの名を片仮名で表記)ベイシティー診療所は実在しない。また、甲と合流した乙は、同死亡診断書と一体となった死亡届を作成し、午後5時20分頃、東京都中央区役所 死亡診断書を偽造した。なお、上記C(注:Cの名を片仮名で表記)ベイシティー診療所は実在しない。また、甲と合流した乙は、同死亡診断書と一体となった死亡届を作成し、午後5時20分頃、東京都中央区役所に同死亡届を提出し、 死体火葬許可証を受領した。さらに、甲又は乙は、この日のうちに葬儀業者を通じてo 葬儀場での火葬を予約した。 ク被告人は、午後5時40分頃に神田橋ICを通過した後、午後6時38分頃にr レンタカーu 店に福祉車両を返却した。 ケなお、Aの遺体は、3月10日、o 葬儀場において火葬され、その後、甲 によってアフリカに埋められた。 (4) 本件後の経過ア被告人は、甲から聞いた話を基に、3月6日、「知人の父親が亡くなり死亡届をだしたら『火葬場の予約がないと受理できない』と突っ返され,都営の焼き場では業者を挟めといわれ,業者に保管料を吹っかけられ。行 政も葬儀屋もグル・・・過疎地に巨大火葬場つくって遺体輸送→遺骨返送ってどうだろう。」とSNSに投稿した。 イ乙は、同月25日、甲に対し、Aについて「生き様がそのままに出てしまった。化け物よ。。サラバ!」「甲(注:甲の名を平仮名で表記)が幸せな人生を送れるように邪魔をしにくるなよ!!」「もちろん、乙(注: 乙の名を平仮名で表記)もや!」などと記載したメールを送信した。 ウ甲は、被告人から入籍した旨の報告を受け、4月18日、それに対し、入籍を祝い、被告人の幸せを願う内容と共に「あさっての深夜羽田発、日曜日の深夜羽田帰還予定。 バンコクで暇つぶしして、ヨハネスではヒルトンのスイートに泊まってワイン飲んで打ち上げてくる」などと記載した メールを送信した。 - 9 -エ被告人は、同月26日、甲から5月4日のアルバイトの紹介を依頼 ヨハネスではヒルトンのスイートに泊まってワイン飲んで打ち上げてくる」などと記載した メールを送信した。 - 9 -エ被告人は、同月26日、甲から5月4日のアルバイトの紹介を依頼された返事として、同日には目ぼしい紹介先がなく、自身が引き受けようと思っている旨記載した上で「というわけで、4日に福島で打ち上げでよいか?」などと記載したメールを送信した。これに対し、甲は、4月26日、被告人に対し、「4日の夕方以降福島で打ち上げでもぜんぜんオッケイだが。」 「とりあえず3日夜に福島っていうことで。 土産話ならぬ記念写真でも持参するわ。」などと記載したメールを送信し、後日、被告人と会って飲食を供にした際、被告人に対し、Aをアフリカに埋めに行った際に撮影した写真を見せた。 オ甲は、5月29日、乙に対し、「先生、お世話になりますた from スワ ジランド」と記載して被告人の写真を添付したメールを送信した。 カ甲は、11月2日、乙に対し、「悪人でも逃げ出したくなる南アフリカ。 あそこは逃げ回るって行くところやないで。ドキチガイざまぁみろ連れて帰ってほしいか? そらできんで。 胸がすっとするワ」と記載したメールを送信した。 キ被告人は、平成27年4月23日、甲に対し、「すまんが最終章の、クズみたいな老人を抱えた家族の憤り、とか早く死ねやという切実さみたいなところにリアリティがほしいのね。」「適当に書き足してもらえんだろうか」「合法的な殺し方については鋭意加筆する。」などと記載したメールを送信した。 ク被告人は、平成30年5月23日、甲に対し、「これに老人の枯らし方を下巻で売れば言うことなしだよな。」と記載しつつ、Aを念頭に置いて、「在宅でふんわり死ぬ、みたいなのは要らねえよ。月々7万 ク被告人は、平成30年5月23日、甲に対し、「これに老人の枯らし方を下巻で売れば言うことなしだよな。」と記載しつつ、Aを念頭に置いて、「在宅でふんわり死ぬ、みたいなのは要らねえよ。月々7万足らずの国民年金を食いつぶすような老人、家族にとってと早く死んで欲しいだろ?アフリカに捨ててきたいよなあw」などと記載したメールを送信した。 ケ乙は、令和元年7月20日、甲に対し、「よかったなあ、オバケさんよ - 10 -ぉ」「オマイさんは恵まれていたぜ、平安な心になれて官僚に感謝しろよ?」などと記載したメールを送信した。なお、官僚とは被告人のことを意味する。 3 前記認定事実に基づく判断(1) 本件では、①甲及び乙が、n 病院に対してAを転院させる旨の虚偽の説明 を行った上で、3月5日、Aを退院させ、甲がレンタルした車椅子を利用してAを大宮駅まで連れて行き、②被告人がレンタルして運転する福祉車両にAを乗車させた上で、甲が賃借したa マンションへ搬送し、③Aの死亡後、甲が千葉県内を所在地とする実在しない診療所のC医師名義で偽造した死亡診断書と一体になった死亡届を乙が区役所に提出して火葬許可証を取得し、 ④3月10日、a マンションから程近い火葬場においてAの火葬が行われたという経過をたどったと認められる。 Aは、n病院を退院してから長くても7時間以内には死亡するに至っているところ、Aの退院時点における健康状態は良好であり(前記2(3)イ、カ)、そのような短時間で病死・自然死に至った可能性を具体的にうかがわせるよ うな事情は何ら見出せない。その上で、Aの死亡後に区役所に提出された死亡診断書が偽造されたものである(同キ)ところ、仮にAの死因が自然死、病死又は事故死なのであればあえて死亡診断書を偽造する必要 うな事情は何ら見出せない。その上で、Aの死亡後に区役所に提出された死亡診断書が偽造されたものである(同キ)ところ、仮にAの死因が自然死、病死又は事故死なのであればあえて死亡診断書を偽造する必要がないことを併せて考えれば、Aは殺害されたと推認できる。 (2) そして、甲は、3月5日より前に、乙との間で、n病院に対して転院させ るとの虚偽の説明を行って同日にAを退院させることや、a マンションを賃借し、区役所に死亡診断書・死亡届を提出して火葬許可証の発行を受け、a マンションの所在地から程近いo 葬儀所でAを火葬することをメールで話し合っている(前記2(2)ア(イ)、(カ)、(キ)、イ、ウ(キ))ところ、これらのメールの内容は、その文面どおり、甲及び乙においてAを退院させた上で間もない時期に Aを殺害して上記葬儀所で火葬しようと計画していたことを強く推認させる - 11 -ものである。その上で、前記(1)のとおり、甲らが上記メールの内容どおりに行動しているだけでなく、甲が死亡診断書を偽造しており、乙がそれを前提にした死亡届を区役所に提出しているところ、Aの死亡に何ら後ろ暗いことがなければ死亡診断書を偽造する必要がないこと、さらに、甲及び乙の本件後のメールのやり取り等(前記2(4))をみても3月5日に予想外の事態が生 じたことは何らうかがえないことからすれば、甲と乙の当初の計画どおりにAが殺害されたものと推認することができる。 (3) 以上を前提に、Aの殺害について、被告人が甲及び乙と共謀したと認められるかについて検討する。 アまず、前記(1)及び(2)のとおり、Aを殺害する事前の計画としては、入 院先に対して虚偽の説明を行って転院を装いAを退院させることを前提とするものであったと認められる。 この点 る。 アまず、前記(1)及び(2)のとおり、Aを殺害する事前の計画としては、入 院先に対して虚偽の説明を行って転院を装いAを退院させることを前提とするものであったと認められる。 この点について、前記2(2)ウのとおり、被告人は、甲との間で、3月5日に甲がAを退院させた上で車椅子に乗せて大宮駅まで搬送する一方で、自身が大宮駅近くで福祉車両を借り受けて甲らと合流し、自身が運転する 同車両にAを乗せてマンション等に搬送することや、福祉車両の側面にs大学との虚偽の張り紙を貼ることを話し合っていること、さらには甲からの質問に対し、搬送先からすれば担架はいらないだろうと回答していることが認められる。マンション等への搬送や福祉車両の側面に虚偽の張り紙を貼ることを話し合うなどしていることからすれば、被告人は当初からA を転院させず、病院とは異なる場所にAを搬送することを理解した上で甲と搬送方法等について話し合っていたと考えるほかない。 イまた、前記(1)及び(2)のとおり、本件では、退院当日にAが殺害された後、千葉県内を所在地とする診療所のC医師の名前で死亡診断書を偽造し、その死亡診断書と一体となった死亡届を区役所に提出して火葬許可証の発 行を受け、Aの遺体を火葬していることが認められるところ、前記2(2)ア - 12 -のとおり、被告人は、3月5日より前に、甲に対し、退院直後にAを火葬することを前提とし、Aの除籍謄本の記載内容や火葬のための手続を教示しながら、「どこで消せばいいんだ」「めんどくせえからCの名前で葬るか。千葉なら戸籍も問題ないだろう」と返答している。 このように、被告人のメールの記載内容どおりにAの殺害後に死亡診断 書の偽造や火葬が行われていることからすれば、被告人のメールと無関係に本件犯 。千葉なら戸籍も問題ないだろう」と返答している。 このように、被告人のメールの記載内容どおりにAの殺害後に死亡診断 書の偽造や火葬が行われていることからすれば、被告人のメールと無関係に本件犯行が行われているとは到底考え難い。加えて、被告人が、Aを念頭に置いて、消す・葬るなど殺害を連想させる表現を用いていることや、殺害以外の死亡であれば死亡診断書を偽造する必要がないことを踏まえれば、被告人が、退院させたAを殺害することを前提に、甲に対し、上記 メールによって殺害後の死亡診断書の偽造や火葬手続を教示又は提案していたと理解しない限り、上記メールの記載内容や一連の経過を説明し得ないというべきである。 ウ以上によれば、転院を装ってAを退院させ、いずれかの犯行現場まで搬送した上でAを殺害し、死亡診断書を偽造するなどして火葬許可証を取得 して遺体を火葬するというAの殺害計画について、被告人は、その内容を理解していたにとどまらず、甲との間で、相談を受けて回答したり、話し合う中で具体化し、練り上げていったものと認められる。 また、本件の計画が被告人が提供した情報等を基に具体化されていき、その情報が甲から乙に伝達されて三者間で共有された結果として、最終的 には計画の実現に至っていること、本件当日も、被告人が福祉車両にAを乗せて殺害現場と考えられるa マンションまで搬送していることからすれば、被告人が本件の殺害計画において果たした役割は重要で不可欠なものであったというほかない。 そうすると、被告人がAと直接の関係性を有しておらず、被告人にはA を殺害する固有の動機が見出し難いことや、実際の殺害行為に及んだ者が - 13 -判然としないことを考慮したとしても、被告人が甲及び乙との間でAの殺害を共謀したと認められる。 人にはA を殺害する固有の動機が見出し難いことや、実際の殺害行為に及んだ者が - 13 -判然としないことを考慮したとしても、被告人が甲及び乙との間でAの殺害を共謀したと認められる。 (4) 以上に対し、弁護人は、甲と乙とがAの殺害を計画していたとしても、メール等の証拠からは、被告人が甲・乙間の計画を把握していたとは認められない旨主張する。 しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本件の殺害計画は、甲と乙が立案して被告人がそれに加わったというものではなく、むしろ、被告人と甲とで相談しながら練り上げていったものと認められるのであるから、被告人が甲・乙間のやり取りを具体的に把握していなかったとしても、何ら前記認定を左右するものではない。 したがって、弁護人の上記主張は採用できない。 (5) また、被告人は、①甲から、Aをq病院に転院させるために車を運転してほしいなどと依頼を受けて本件当日を迎えたのであって、事前にAを殺害する計画は何ら知らなかった、②Aと甲を乗せて福祉車両を運転している途中で、甲からa マンションに行くよう指示されてそこに向かった、③aマンシ ョンに到着後、甲がAを連れてb号室に入って行ったが、自身はそのまま車内で待機していたところ、15分程経ってから甲が自分を呼びに来たので、甲と共にb号室に入室すると、Aが死亡しており、Aに対して蘇生措置を講じようとしたが、甲にとめられた、④甲がAを殺害したと思ったが、甲に対して「ちゃんとしておけ。」と告げてその場から立ち去り、都内のマンショ ンに自身のパスポートを取りに行くなどした後、仙台に帰ったが、警察への通報等はしなかった、⑤甲とのメールについて、火葬場や死亡届等の話は甲から安く埋葬したいなどと尋ねられたから回答しただけであるし、 ンに自身のパスポートを取りに行くなどした後、仙台に帰ったが、警察への通報等はしなかった、⑤甲とのメールについて、火葬場や死亡届等の話は甲から安く埋葬したいなどと尋ねられたから回答しただけであるし、マンション等の話は特に気に留めておらず、Cの名前で葬るかと記載したのは悪乗りの延長である旨供述する。 そして、弁護人は、被告人の上記供述のほか、k 病院精神科神経科のE医 - 14 -師が、被告人を自閉スペクトラム症(ASD)と診断していることを前提に、被告人の供述内容に不自然な点があるとしても、被告人のASDの特性から理解可能なのであって、甲とのメールの内容についても、Cの名前で葬るかという記載については、被告人が甲からの要望に応えて思いつくまま回答したにすぎず、そのアイディアを甲が利用したとみるべきであるし、ENT即 あぼーんとの記載についても、第三者に見られることが予定されていないメール上で甲の話に合わせただけであり、被告人のメールの記載どおりに計画が実行されたとはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人は、甲との間で、搬送先がマンション等であるかのような話を受け入れて回答し、さらには搬送用の福祉車両の側面にs 大学と 記載された張り紙を貼ることを話し合い、Aの死亡地や除籍謄本の話題の中で被告人から「Cの名前で葬るか。」などと記載しているところ、これらのメールの内容は、q 病院への転院とは明らかに矛盾するものであり、ASDの特性を踏まえたとしても、被告人がAの殺害を念頭に置いていたと考えなければ到底説明がつくものではない(これらのメール内容についてE医師は 何ら説明を行っていない。)。このように、甲とのメールのやり取りについての被告人の供述内容自体が不合理というほかないが、さらに、被告人の供述 ものではない(これらのメール内容についてE医師は 何ら説明を行っていない。)。このように、甲とのメールのやり取りについての被告人の供述内容自体が不合理というほかないが、さらに、被告人の供述を前提とすれば、介護タクシーを利用してAを搬送できているにもかかわらず、甲が仙台在住の被告人を呼び寄せた上で犯行現場まで福祉車両を運転させ、わざわざAの遺体まで見せた挙げ句に制止や口止めをすることなく被 告人を立ち去らせたことになるが、このような甲の行動は殺害計画を実行する者の行動として明らかに不自然である。また、被告人の供述を前提にすれば、被告人は、遺体を見せられた後、何ら通報等していないばかりか、甲を問いただすなどすることなくその場から立ち去った上で、その翌日には、甲から聞いた話を基に、知人の父親が亡くなり死亡届を提出したが、火葬場の 予約がないと受理できないと突き返されたことなどの内容をSNSに投稿し - 15 -ている(前記2(4)ア)ところ、このような言動は、突如として殺人事件に巻き込まれた者の言動としては考え難い。むしろ、前記2(4)のとおり、被告人は、それから2か月も経たないうちに甲と親しげにメールのやり取りをしたり、打ち上げとして飲食の約束を取り付け、その後も良好な関係を継続しているし、殺害行為の発覚を恐れていることをうかがわせるような甲と乙とのやり 取りも存在していないことからすれば、本件当日に予想外の出来事は生じなかったとみるのが自然である。以上によれば、被告人の供述は信用できない。 4 まとめ以上の次第であるから、被告人が、甲及び乙と共謀してAを殺害したと認められる。 第2 第2の事実(有印公文書偽造)について 1 争点本件の争点は、①本件各文書等の証拠が違法収集証拠として証拠排除 であるから、被告人が、甲及び乙と共謀してAを殺害したと認められる。 第2 第2の事実(有印公文書偽造)について 1 争点本件の争点は、①本件各文書等の証拠が違法収集証拠として証拠排除されるべきか、②本件各文書が公文書に該当するかである。 2 争点①(違法収集証拠に当たるか)について (1) 弁護人の主張弁護人は、警察官が、Bが所持する本件各文書を押収するに当たり、Bと同居する父のFに対し、Bに無断でBの自室から本件各文書を違法に持ち出すよう強制し、Fを通じて本件各文書を入手したのであって、このような捜索差押手続には令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、同手続 によって収集された本件各文書及びその翻訳等をした統合捜査報告書の証拠能力は否定されるから、証拠排除されるべきである旨主張する。 (2) 検討関係証拠によれば、G警察官は、捜索すべき場所をF方居宅等とし、差し押さえるべき物を「MedicalReport」(患者名が「B(注:Bの名をアルフ ァベットで表記)」、署名欄に「C(注:Cの名を片仮名で表記)」等と記 - 16 -載されたもの)とした捜索差押許可状の発付を受けた上で、Bがパニック障害等を有していることなどから、強制的な処分をすることによってBの症状等が悪化することなどを慮り、Fに対し、その旨説明して上記許可状を提示すると共に、Bに気付かれないように本件各文書を持ち出すよう依頼し、同依頼を受けてBに無断でBの自室から本件各文書を入手したFを通じて本件 各文書を取得して差し押さえたことが認められる。 このような事実関係を前提にすれば、警察官らとしては、当時、Bの病状等を気遣い、同居家族の協力を得たにすぎないし、そもそも、捜索差押許可状が発付されており、Bの意思に反 押さえたことが認められる。 このような事実関係を前提にすれば、警察官らとしては、当時、Bの病状等を気遣い、同居家族の協力を得たにすぎないし、そもそも、捜索差押許可状が発付されており、Bの意思に反してでも強制的に本件各文書を捜索して差し押さえることが可能な状況下にあったことは明らかであるから、本件の 捜索差押手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法はない。 したがって、弁護人の前記主張は採用できず、証拠排除の申立ては理由がない。 3 争点②(公文書該当性)について(1) 関係証拠によれば、本件各文書はいずれも①「MedicalReport」の標題で、 英語で表記された3頁からなる書面であり、各頁のヘッダー部分にはf大学病院の記名と同病院の所在地が記載され、同大学医学部のロゴマークが印字されており、②患者であるBの氏名や生年月日等の個人情報のほか、「私の検診に基づき、下記の情報を提供します。」との文章に続いて現在の病状等について記載され、③末尾の記名欄には、「C(注:Cの名をアルファベッ トで表記)」との記名に続いて医師・医学博士を意味する「M.D、Ph.D」との記載があり、その下の署名欄には、「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」との署名があることが認められる。 以上の記載内容を含む本件各文書の体裁からすれば、本件各文書は、一般人から見て、国立大学であるf大学の附属病院(f大学病院)の医師が患者 の病状等について職務上作成したものと信ずるに十分な形式、外観を備えた - 17 -ものであることは明らかである。そして、f大学病院は、国立大学法人f大学の附属病院であり、同病院の職員は公務員とみなされる(国立大学法人法19条)から、本件各文書は、公務員の作成すべき文書、すなわち公文書に該当する らかである。そして、f大学病院は、国立大学法人f大学の附属病院であり、同病院の職員は公務員とみなされる(国立大学法人法19条)から、本件各文書は、公務員の作成すべき文書、すなわち公文書に該当すると認められる。 (2) 以上に対し、弁護人は、国立大学病院の医師が自身の所属を示して作成し たとしても、所属する大学病院の職務として作成された文書とは限らない旨主張する。 しかしながら、本件各文書は、前記(1)のとおり、大学病院の医師が患者を診察した上でその患者の病状等について記載した体裁なのであるから、その外観上、大学病院における職務と離れて作成されたものとは考え難いのであ って、弁護人の上記主張は採用できない。 (3) 以上のとおり、本件各文書は公文書に該当すると認められる。 4 まとめ以上の次第で、第2の事実のとおり認定でき、被告人に有印公文書偽造罪が成立すると判断した。 第3 第3の事実(嘱託殺人)について 1 争点等(1) 前提事実関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア Dは、平成24年にALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けた。 なお、ALSとは、神経が急に変性して止まらなくなる神経変性疾患の一種であり、発症原因は未解明、根治療法も未確立であり、五感、脳機能及び内臓機能が維持される一方で、徐々に全身の筋肉を動かすことができなくなっていき、最終的には呼吸筋が麻痺して呼吸不全による死亡に至る進行性の難病である。嚥下機能も障害され、胃ろうによって栄養補給がさ れる。発語機能も障害されるが、眼の動きは障害されないことが多く、眼 - 18 -球運動によってコミュニケーションをとることが可能であるものの、眼球も動かせなくなった場合には、自立的に対外的な意思表示をすることがで るが、眼の動きは障害されないことが多く、眼 - 18 -球運動によってコミュニケーションをとることが可能であるものの、眼球も動かせなくなった場合には、自立的に対外的な意思表示をすることができなくなる。この状態をTLS(閉じ込め症候群)という。 Dは、平成25年に胃ろう造設手術を受け、介助者が栄養補助剤を胃ろうに注入することで栄養摂取をしており、また、同年以降、寝たきりの状 態にあり、令和元年11月当時、自己の意思で動かすことのできる部位は、眼球、瞼及び顔面の一部に限られ、D方において、訪問介護士等による24時間体制の介護等を受けていた。 イ被告人は、SNSを通じて知り合ったDからSNS上で殺害の嘱託を受け、甲と共にD方マンションに赴いた上で、令和元年11月30日午後5 時21分頃から同日午後5時37分頃までの間に、被告人、甲及びDの3名のみが在室するD方の居室内において、Dの胃ろうから胃内にペントバルビタール相当量を注入し、その結果、Dは同日午後8時10分頃、搬送先の病院において急性ペントバルビタール中毒による死亡と診断された。 ウなお、①被告人が犯行前にD方のヘルパーの存在に懸念を抱いていたこ と、②被告人が甲に対して、130万円を振り込んできたALS患者の自宅に同行するよう依頼していることなどの被告人・甲間のメールの内容、③本件に至るまでの被告人と甲との関係、④甲がわざわざ日程をやりくりしてまで京都を訪れていること、⑤甲がDから振り込まれた130万円を本件当日以前に自己の用途に費消していること、⑥本件当日のD方におけ る被告人の挙動等からすれば、同じ居室内にいる甲には被告人がしようとしていることは容易に認識できること、などからすれば、甲は、ヘルパーにDの殺害を妨害されるのを防ぐために見張りをし 方におけ る被告人の挙動等からすれば、同じ居室内にいる甲には被告人がしようとしていることは容易に認識できること、などからすれば、甲は、ヘルパーにDの殺害を妨害されるのを防ぐために見張りをしてほしいとの被告人の意図を認識した上で、ヘルパーの対応をしていたと認められ、そうだとすれば、被告人と甲との間の共謀も認められる(なお、弁護人は甲との共謀 の成否について特段の主張はしない。)。 - 19 -(2) 争点弁護人は、ALS患者であったDが尊厳ある人生の終わりを迎えるために自らの意思で選択したことについて、医師として苦痛のない形で実現した被告人の行為について嘱託殺人罪を適用して処罰することは、Dに対して恐怖に耐える生・苦痛に耐える死を強要することを意味し、個人の尊厳と自己決 定の最大の尊重を定める憲法13条に違反するから、本件に嘱託殺人罪を適用せず、無罪とすべきである旨主張する。 2 争点に対する判断(1) 弁護人の前記主張は、詰まるところ、本件の被害者のようなALS患者が尊厳ある人生の終わりを迎えるために、他者の援助を得て自らの命を絶つと いう選択をすることは、憲法13条により保障されるべきであるというにほかならない。 しかしながら、生命の高貴さに加え、自己決定権・幸福追求権・個人の尊厳はいずれも個人が生存していることが前提であると解されることなどからすれば、たとえ恐怖や苦痛に直面している状況であったとしても、憲法13 条から直ちに、「自らの命を絶つために他者の援助を求める権利」や「自らの死を援助してくれる医療従事者がいる場合に、その医療従事者が刑事罰から免れるように求める権利」などが導き出されるものではない。 したがって、憲法13条違反を直接的な理由・根拠として本件に嘱託殺人罪を を援助してくれる医療従事者がいる場合に、その医療従事者が刑事罰から免れるように求める権利」などが導き出されるものではない。 したがって、憲法13条違反を直接的な理由・根拠として本件に嘱託殺人罪を適用しないとの結論を採用することはできない。 (2) しかしながら、死期が間近に迫り、耐え難い激しい肉体的苦痛に苦しんでいる患者や、本件の被害者のように、現在の医学では病状の進行をとめることができず、迫り来る死や、自立的な意思伝達手段の喪失のおそれに直面して日々恐怖に怯えたり、絶望したりしつつも、身体的自由がきかないことで自殺することもままならないような患者からの嘱託であっても例外なく嘱託 殺人罪の罪責を負うとすれば、上記患者らの嘱託に応えようとする医療従事 - 20 -者が現れず、結果的に、上記患者らに耐え難い苦痛や恐怖・絶望を強いることになり、余りにも酷といわなければならないような場合もあり得るといえるのであって、一面では弁護人の指摘にも頷けるところがある。他方で、生命の尊さ、大切さはいうまでもなく、いったん殺害してしまえば、取り返しがつかず、患者の意思の確認すら二度とできなくなることからすれば、患者 の症状の把握や患者の意思の確認には極めて慎重な判断が求められるというべきであるし、また、苦痛等の除去・緩和を求める患者に苦痛を与える方法で殺害することは、患者の意思に反するものといえる。 とすれば、上記のような状況下にある患者らからの嘱託を受けて殺害に及んだ場合に、社会的相当性が認められて可罰的違法性がないとして嘱託殺人 罪に問うことが相当ではないと評価される事案の存在があり得るとしても、そのためには、少なくとも、(1)上記のような状況下にある患者らに対し、その病状による苦痛等の除去・緩和のために他に 殺人 罪に問うことが相当ではないと評価される事案の存在があり得るとしても、そのためには、少なくとも、(1)上記のような状況下にある患者らに対し、その病状による苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がなく、かつ、患者が自らの置かれた状況を正しく認識した上で、自らの命を絶つことを真摯に希望するような場合に、(2)医療従事者が①医学的に行うべき治療や検 査等を尽くし、他の医師等の意見等も徴して、患者の症状をそれまでの経過等も踏まえて診察し、死期が迫るなど現在の医学では改善不可能な症状があること、それによる苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がないことなどを慎重に判断し、②その診察・判断を基に、患者に対して、患者の現在の症状や予後を含めた今後の見込み、取り得る選択肢の有無等について可 能な限り説明を尽くし、それらについての正しい認識に基づいた患者の意思を確認するほか、患者の意思をよく知る近親者や関係者等の意見も参考に、患者の意思の真摯性及びその変更の可能性の有無を慎重に見極めた上で、③患者自身の依頼を受けて、苦痛の少ない医学的に相当な方法を用い、④事後検証可能なように、それら一連の過程を記録化することなどが最低限必要で あるというべきである。 - 21 -(3) これを本件についてみるに、被告人は、それまでDの主治医であったわけでもなく、まして、ALSの専門医でもないし、Dとは単にSNS上でのやりとりがあったにすぎず、主治医にDの症状等を確認したり、カルテ等を確認したりしていないし、診察はもとより面会すらしたこともないなど、これまでの経過等も踏まえたDの現在の症状や予後の見込みなどを正確に把握し 得ないまま、主治医や近親者等にも知らせることなく秘密裏に、その日初めて会ったばかりのDを、十 すらしたこともないなど、これまでの経過等も踏まえたDの現在の症状や予後の見込みなどを正確に把握し 得ないまま、主治医や近親者等にも知らせることなく秘密裏に、その日初めて会ったばかりのDを、十分な診察や意思確認ができるとは到底思われないわずか15分程度の短時間のうちに殺害するに至っただけでなく、本件の経過について事後検証可能なように記録化していないことはもとより、居合わせたヘルパーに対して偽名を用い、DにSNS上のやりとり等の削除を依頼 するなどしていることだけからしても、本件における被告人らの行為に社会的相当性は到底認められず、嘱託殺人罪の成立を妨げるものではない。 したがって、弁護人の前記主張は採用の限りではない。 【法令の適用】省略 【量刑の理由】 1 本件は、被告人が、(1)医師仲間である知人及びその母と共謀して、同知人の父を殺害した殺人(第1の事実)のほか、(2)同知人と共謀して、①海外での安楽死を望む難病患者の依頼を受けてそれに必要な国立大学病院医師・医学博士名義の診断書(メディカルレポート)2通を偽造した有印公文書偽造(第2の事実)、 ②ALS患者の嘱託を受けて同患者を殺害した嘱託殺人(第3の事実)からなる事案である。 2 まず、量刑判断の中心となる知人の父を殺害した殺人(第1の事実)の犯罪行為そのものに関する事情について検討する。 (1) 被告人らは、他殺を疑われずに殺人を完遂するために、入院中の被害者を転 院を装って退院させ、犯行場所として賃貸マンションを用意し、殺害後は死亡 - 22 -診断書を偽造した上で死亡届を提出し、速やかに火葬することを事前に計画した上で、その計画どおりに犯行に及んでいるところ、その計画性は高く、また、死亡診断書を偽造して提出するなどといった 22 -診断書を偽造した上で死亡届を提出し、速やかに火葬することを事前に計画した上で、その計画どおりに犯行に及んでいるところ、その計画性は高く、また、死亡診断書を偽造して提出するなどといった発想は、医師としての知識・経験や立場を前提としなければ思いつかない内容といえる。具体的な殺害方法は不詳ではあるものの、計画性の高さ等からすれば、その犯行態様は悪質な部類と いえる。 (2) 被告人個別の事情をみても、本件の殺害計画の骨格は、専ら被告人が主体的・積極的に提案した内容を軸に組み立てられたものといえるし、犯行当日も、福祉車両を準備して被害者を犯行現場に搬送するなどしているのであって、被告人は、本件犯行の実現に重要かつ不可欠な役割を果たしている上、共犯者の中 でも主要な役割を担っていたと認められる。また、被告人が本件犯行に関与した動機は判然としないものの、酌むべき事情が見当たらないことはもとより、知人の家族間の問題に介入して被害者を厄介者扱いし、自身とは直接的な利害関係のない他人の殺害に及んでいることからすれば、その意思決定は強い非難に値する。 (3) 以上の犯情を前提に、量刑上考慮すべき前科のない被告人が共同正犯として被害者1名を殺害し、他に主要な罪のない事案等の量刑傾向を踏まえて検討すると、本件は、財産目当ての事案や、苛烈な暴行等を加えた挙げ句に殺害した事案のような特に重い部類に属するとはいえないが、他方で、犯行の動機・経緯に酌むべき事情がある事案のような軽い部類に属するともいえない。その上 で、本件の計画性の高さや被告人が本件犯行において果たした役割の程度、意思決定に対する非難の程度等を踏まえれば、殺人(第1の事実)だけでも懲役15年は下らないと評価した。 3 以上を前提に、有印公文書偽造(第2の事 高さや被告人が本件犯行において果たした役割の程度、意思決定に対する非難の程度等を踏まえれば、殺人(第1の事実)だけでも懲役15年は下らないと評価した。 3 以上を前提に、有印公文書偽造(第2の事実)と嘱託殺人(第3の事実)も併せて検討する。 (1) 有印公文書偽造については、本件で偽造された診断書は、その文書の性質上、 - 23 -国立大学病院以外の診断書より高度の信頼が付与されているというものではなく、運転免許証等のように公的な書類として社会的に重要な役割を有するものでもない。もっとも、本件診断書が海外での安楽死のために必要とされるものであったことや、医師である被告人がそれを知りながら、患者をまともに診察等することもなく安易に診断書を作成した上で、自殺幇助などの責任を追及さ れないよう作成名義を偽っていることなどからすれば、その刑事責任を軽視することはできない。 (2) 嘱託殺人については、被害者であるALS患者の心情を鑑みれば、被告人に対して殺人の嘱託をすることも理解できるところではある。もっとも、被告人は、医師でありながら、被害者とのSNS上での短いやり取りのみでその嘱託 に応じ、診察や意思確認もろくにできないわずか15分程度の短時間の面会で軽々しく殺害に及んでいる。130万円の報酬の受領を待って行動に移していることも併せて考慮すれば、被告人が、真に被害者のためを思って犯行に及んだものとは考え難く、利益を求めた犯行であったといわざるを得ない。被害者の父の処罰感情が厳しいのも理解することができる。このような経緯からすれ ば、本件は、家族間の事情等でやむなく嘱託殺人を犯してしまったような事案とは一線を画しており、被害者が苦痛なく死亡するに至ったと考えられることを踏まえても、本件嘱託殺人のみを捉え 緯からすれ ば、本件は、家族間の事情等でやむなく嘱託殺人を犯してしまったような事案とは一線を画しており、被害者が苦痛なく死亡するに至ったと考えられることを踏まえても、本件嘱託殺人のみを捉えても実刑は免れない程度の重みをもつというべきである。 (3) 以上のほか、本件各犯行に共通する事情として、共犯者とのメールのやり取 りの内容や、いずれも被告人にとっては無関係であった他人の生命を失わせ、また、失わせることに繋がる犯行であることからすれば、被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する。 4 以上の犯情に加えて、殺人については被告人が不合理な弁解に終始して反省の態度がみられないこと、有印公文書偽造及び嘱託殺人については事実関係をおお むね認めているものの、自身が犯した罪や責任に対して真摯に向き合っていると - 24 -はうかがわれないことなど本件に顕れた一切の事情を考慮して、主文のとおり量刑した。 (求刑・懲役23年、主文同旨の没収)令和6年3月5日京都地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官川上 宏裁判官檀上信介裁判官中谷 洸
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