令和6年5月28日宣告令和5年(わ)第155号 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 鹿児島地方検察庁で保管中の刃物1丁(令和5年領第692号符号1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、鹿児島市(住所省略)A方において両親と同居していたものであるが、仕事をせず引きこもっていることで、かねて父親である前記Aとの折り合いが悪かったところ、令和5年7月7日午後10時55分頃、同所において、酒に酔った同人から、「ばかが」、「出ていけ」などと罵声を浴びせられたことに憤激し、同人が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、あえて、同人(当時77歳)に対し、その腹部を手に持った刃物(刃体の長さ約11.7㎝。鹿児島地方検察庁令和5年領第692号符号1)で複数回突き刺したが、同人に加療約1か月間を要する前上膵十二指腸動脈損傷、腹部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害に至らなかった。 (事実認定の補足説明)本件の争点は被告人の殺意の有無であるところ、当裁判所が、被告人には被害者に対する殺意があったと判断した理由は次のとおりである。 関係証拠によれば、①判示刃物(以下「本件刃物」という。)は、鋼質製の食卓用ナイフを研いで加工したもので、鋭利な先端を備え、人を殺傷する能力があること、②被告人は、至近距離(被告人自身の言によれば15㎝)で被害者と正対し、本件 刃物を被害者の腹部付近に向けて複数回突き出したこと、③その結果、被害者は、左胸部(2箇所)と腹部(3箇所)に刺創を負い、腹部の2つの刺創が腹腔内に達し、うち1つの深さは約9.5㎝で 本件 刃物を被害者の腹部付近に向けて複数回突き出したこと、③その結果、被害者は、左胸部(2箇所)と腹部(3箇所)に刺創を負い、腹部の2つの刺創が腹腔内に達し、うち1つの深さは約9.5㎝で前上膵十二指腸動脈に達していること、④救急搬送された被害者に対する輸血量は約4600ml であり、被害者の体格に照らすとおおむね体内の血液の総量に等しく、救命措置がなければ被害者が死亡する危険があったことが認められる。これらの事実から、客観的に見て、被告人の行為が、人が死亡する危険のある行為であったことは明らかといえる。 その上で、本件刃物を研いだのは被告人自身であり、これを日常的に使用もしていたことからすると、被告人は、本件刃物の危険性を十分に分かっていたといえる上、上記のとおり、これを正対した被害者の腹部付近に向け至近距離から突き出していることからすれば、被告人は、自身の行為で被害者が死亡する危険があることも分かっていたといえる。 これに対し、弁護人は、本件刃物の切れ味は野菜を切るのにも力を要する程度のものであったし、本件刃物が被害者の身体に刺さった感覚も全くなかったから、被告人は、自身の行為が被害者が死ぬ危険性が高い行為であるとは認識していなかった、などと主張する。しかし、本件における刃物の用法は切る動作ではなかったから、仮に先端部分以外の刃の切れ味がよくなかったとしても、行為の危険性が直ちに下がるわけではない。先端の鋭利な形状からして、本件刃物を刺突すれば人体に刺さる危険があることは、一見して容易に認識できる。また、上記の被告人と被害者の位置関係や、創傷の数、部位及び程度からすると、握力が弱いなどの被告人の手の状態を踏まえても、刃物が被害者の身体に当たった感覚が全くなかったとの被告人の弁解は不合理で信用し難い。弁護人の主張は採用でき 置関係や、創傷の数、部位及び程度からすると、握力が弱いなどの被告人の手の状態を踏まえても、刃物が被害者の身体に当たった感覚が全くなかったとの被告人の弁解は不合理で信用し難い。弁護人の主張は採用できない。 以上によれば、被告人は、被害者に対し、人が死ぬ危険性が高い行為をそれと分かって行ったといえ、殺意があったと認められる。 (量刑の理由)人体の枢要部である腹部に向けて、鋭利な刃物を複数回突き刺した危険な犯行で ある。救命措置がなければ被害者が死亡していた可能性も十分に考えられ、1か月間と比較的長期の加療を要する傷害を負わせた点も含め、結果は重い。強い殺意があったわけではなく、酒に酔った被害者の心ない罵声が犯行を誘発した点で、動機及び経緯には同情の余地はあるが、ここまでの危害を被害者が加えられる謂れはない。 他方で、見るべき前科がなく、被告人が反省し、親元を出て更生する意思を示していること、被害者が被告人を許し、妻と共に被告人の社会内更生を強く願っていることは、被告人のために有利に考慮すべきである。 以上を前提に、同種事案(親に対する殺人未遂/単独犯/宥恕あり)の量刑傾向も踏まえて検討した結果、被告人に対しては、主文の刑に処し、その刑事責任の重さを明らかにしつつ社会内更生の機会を与え、併せて更生の実を上げるため、保護観察に付するのが相当であると判断した。 (求刑-懲役5年、弁護人の科刑意見-付執行猶予)令和6年5月29日鹿児島地方裁判所刑事部 裁判長裁判官小泉満理子 裁判官川口洋平 裁判官髙橋涼香 平 裁判官髙橋涼香
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