令和5(う)255 殺人

裁判年月日・裁判所
令和6年3月6日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文5,276 文字)

令和6年3月6日宣告令和5年(う)第255号殺人被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中60日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 弁護人の控訴理由 1 事実誤認本件は、原判決において共犯者とされている医師(以下、単に「共犯者」という。)が、被告人の意に反して被告人の父親(以下「被害者」という。)の殺害を独断で実行したものであるのに、被告人、被告人の母親(以下「母親」という。)及び共犯者の3名が共謀の上、被害者を殺害したと認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 2 量刑不当被告人を懲役13年に処した原判決の量刑は、重すぎて不当である。 第2 事実誤認の主張に対する判断 1 原審記録によれば、原判決が事実認定の補足説明の項で述べるところは相当であり、被告人、母親及び共犯者の3名が共謀の上、被害者を殺害したと認定した原判決に事実の誤認はない。 2 すなわち、被告人と母親は、長年、精神障害により入退院を繰り返すなどしていた被害者を疎ましく思い、被害者の死を望むようになっていたところ、その事情を知る共犯者の提案により、自然死を装って被害者を殺害する計画を立て、遅くとも犯行当日(平成23年3月5日)までには3人の間で具体的な殺害計画を共有し、その計画のとおり、同日までに、母親が被害者の入院先病院に被害者を退院させる意向を伝え、被告人が被害者の退院後の移動手段とする車椅子を借り受け、殺害場所として東京都内のマンスリーマンションの1室を て東京都内のマンスリーマンションの1室を 賃借した上、犯行当日、被告人と母親は、被害者を退院させ、上記車椅子に被害者を乗せて新幹線で大宮駅まで移動し、被告人は、同駅付近で待機していた共犯者と共に被害者を自動車に乗せて上記マンションの1室まで連れて行ったものである。そして、被害者は、同日午後0時頃から午後4時頃までの間に、上記自動車での移動途中又は同室内で何らかの手段で殺害されたが、被告人と母親は、その後も上記殺害計画のとおり、被告人が共犯者とは別の医師の名義で死因を急性循環不全とする被害者の死亡診断書を偽造し、母親が被害者の死亡届を作成して上記診断書及び死亡届を区役所に提出して死体火葬許可証を受領し、同月10日、被害者の遺体を火葬している。さらに、その後、被告人と母親は、被害者がいなくなったことを喜ぶ内容のメールをやり取りし、被告人は、共犯者に対して喜びの気持ちを記したメールを、母親に対して共犯者への感謝の気持ちを記したメールをそれぞれ送信している。以上の事実によれば、被告人ら3名は、遅くとも犯行当日までに順次、被害者殺害の共謀を遂げ、被害者を殺害したものと認められる。 被告人は、原審公判において、上記新幹線での移動途中、母親から殺害計画を中止するよう訴えられて被告人自身も計画の中止を決意し、大宮駅で合流した共犯者に計画の中止を申し出た上、マンション到着後、室外に出て共犯者に計画の中止を説得してその了承を得たが、その後、先に室内に戻った共犯者に遅れて、5分から10分程度後に室内に戻ると、共犯者が何らかの方法で被害者を殺害していたと供述する。しかし、共犯者が被告人からの 計画の中止を説得してその了承を得たが、その後、先に室内に戻った共犯者に遅れて、5分から10分程度後に室内に戻ると、共犯者が何らかの方法で被害者を殺害していたと供述する。しかし、共犯者が被告人からの突然の計画中止の申し出を容易に了承するとは考え難いし、仮にこれを了承したのであれば、その直後に考えを翻し、被告人に対して何ら説得等をすることなく、被告人がいつ室内に戻ってくるかも分からない状況下で、被害者を殺害するということは考え難い。また、殺害計画によれば他殺の痕跡を残さずに被害者を殺害する予定であり、被告人の供述によっても被害者の遺体に他殺の痕跡があったことはうかがわれないが、上記のような短時間でそのような殺害が可能なのかは極 めて疑問である。さらに、殺害計画の完遂には被告人の協力が不可欠であるところ、共犯者が、被告人の意に反して被害者を殺害した場合でもこれまで同様に被告人の協力を得られるだろうという不確かな見込みに基づくリスクを負うとは考え難い。加えて、前記のとおり殺害後の手続が計画どおり行われていて途中で想定外の事態が生じたことはうかがわれず、その後のメールからもそのようなことはうかがわれない。以上のとおり、被告人の公判供述は極めて不自然なものであって、信用できない。 3 弁護人は、被害者の死は被告人にとって望ましいことであった上、被告人と共犯者との間には被告人が不正な手段で医師免許を取得したことに関する秘密を共にする特殊な関係があったから、被告人に無断で被害者を殺害しても被告人がこれを受け入れて協力するはずであると共犯者が考えてもおかしくはないし、事前に殺害計画を 医師免許を取得したことに関する秘密を共にする特殊な関係があったから、被告人に無断で被害者を殺害しても被告人がこれを受け入れて協力するはずであると共犯者が考えてもおかしくはないし、事前に殺害計画を立てていたのであるから、殺害後の手続が当初の計画どおり進行したからといって途中で想定外の事態が起きていないとはいえず、その後のメールのやり取りについても同様であり、また、上記のメールは3人のやり取りを網羅しているわけではないことからすると、事後的に被告人の協力を得られないリスクを共犯者が負うとは考え難いというのは当たらず、殺害後の手続が計画どおりに行われていること及びその後のメールのやり取りも、被告人の公判供述の信用性を否定する理由にはならないと主張する。 しかし、弁護人が指摘している上記の点だけを取り上げれば、弁護人が主張するような見方も可能であるが、被告人の公判供述は、上記の点を除いても極めて不自然なものである。 すなわち、共犯者は、被告人らと綿密に被害者の殺害計画を立ててその準備を進め、忙しい医師業務の合間に被害者を殺害するために東北地方の勤務先から現場を訪れており、その計画は、被害者殺害の実行に着手する直前まで進行し、計画を中止せざるを得ないような事情変更が生じたわけでもなかったのであるから、計画を中止したいという被告人の突然の提案に、共犯者が容易に納 得するとは考え難い。弁護人は、共犯者が病気の高齢者の生命を軽視・敵視し、高齢者殺人を実現したいという特異な考えを持つ人物であると主張しており、記録からもそのような共犯者の特異な考え方は十分うかがわれるところ、そのような 人は、共犯者が病気の高齢者の生命を軽視・敵視し、高齢者殺人を実現したいという特異な考えを持つ人物であると主張しており、記録からもそのような共犯者の特異な考え方は十分うかがわれるところ、そのような共犯者の属性を考慮すれば、なおさら上記のようにいえる。他方で、仮に共犯者が計画中止を了承したとすれば、それは中止を求める被告人の意向を尊重してのことであると考えられるのに、その直後に、何の事情変更もないのに翻意したということも不自然である。また、仮に翻意したのであれば、通常は被告人にも翻意を求めるはずである。被告人がいつ戻ってくるか分からない状況なのに独断で被害者を殺害しようとすれば、戻ってきた被告人にこれを妨害される可能性があるし、その一方、弁護人が主張するような共犯者と被告人との特殊な関係を踏まえれば、説得等により被告人を翻意させることは容易なはずであり、これを試みるのが困難な事情もなかった。それなのに、そのようなことをせずに被害者を殺害したというのも不自然である。 また、5分から10分程度という短時間のうちに他殺の痕跡を残さずに被害者を殺害することが可能であるのかも極めて疑問である。被告人の供述によれば、共犯者は犯行前日に被害者の殺害には点滴を利用するという趣旨の話をしていたが、上記のとおり室内に戻った時に点滴はなかったし、共犯者が手に何か持っていたという記憶もないというのである。わずか5分から10分程度の時間で点滴を用意して被害者を殺害し、これを片付けることが可能とは考えられない。弁護人は、共犯者が作った「殺人マニュアル」には首を絞めると数秒で意識が落ちて何の痕跡もなく息を引き取ると記載されているとも主張するが、仮にそのような方法で数秒のうちに意識を失わせることが可能であるとしても、5分から10分程度で死亡させることまでできるとは常 で意識が落ちて何の痕跡もなく息を引き取ると記載されているとも主張するが、仮にそのような方法で数秒のうちに意識を失わせることが可能であるとしても、5分から10分程度で死亡させることまでできるとは常識に照らして考え難い。 そうすると、被告人の前記公判供述は、弁護人の前記主張を踏まえても極めて不自然なものであることに変わりはない。これが信用できないとした原判決の判断は不合理なものではなく、弁護人の主張は理由がない。 第3 量刑不当の主張に対する判断 1 原判決が量刑の理由の項において述べるところは相当であり、被告人を懲役13年に処した原判決の刑が重すぎて不当であるとはいえない。 2 弁護人は、本件被害者殺害計画はそれほど緻密なものではないし、長年にわたって殺人が発覚しなかったからといって直ちに計画が巧妙で悪質であるとはいえないから、殺害計画の巧妙さや悪質さは他に類を見ないという原判決の犯情評価は誤りであると主張する。しかし、被告人は、共犯者と共に医師としての知識・経験・立場を基に検討と準備を重ね、他殺を疑われることなく被害者を殺害する計画を練り上げ、かつ、その計画に基づき母親も加えて役割を分担して殺害を実行している。被害者の遺体は計画どおり解剖等されることなく火葬に付されており、長年にわたって発覚しなかったことは正に計画が極めて巧妙なものであったことの表れであって、原判決の上記評価は間違っていない。 弁護人は、原判決は被告人が殺害計画の完遂に不可欠な役割を主体的・主導的に果たしたと評価するが、共犯者との役割の差異を十分に検討していないと主張する。しかし、被告人 記評価は間違っていない。 弁護人は、原判決は被告人が殺害計画の完遂に不可欠な役割を主体的・主導的に果たしたと評価するが、共犯者との役割の差異を十分に検討していないと主張する。しかし、被告人は、被害者に対する強い殺意に基づき、事前の準備や犯行当日の退院手続、犯行場所への被害者の搬送、殺害後の死亡診断書の偽造等、殺害計画の完遂に不可欠な役割を積極的に担い、これを母親への指示等もしながら完遂している。共犯者もまた独自の考えから強い殺意をもって本件に関与し、殺害計画を立てたのが主として共犯者であり、殺害を実行したのも共犯者である可能性が高いことを踏まえても、被告人は主体的・主導的に本件犯行を実行したものというべきであり、原判決の上記評価に誤りはない。 弁護人は、被告人と母親は被害者に長年翻弄されてきたのであり、何の必要もないのに殺人に及んだ事案とは異なり、追い詰められて殺害を決意したのであるから、安易に人の生命を奪うことを決意したと断ずる原判決の評価は正当なものとは言い難いと主張する。しかし、被告人と母親は、少なくとも殺害計画を立てた頃には、被害者の介護を直接担っていたわけではなく、入院先から 在宅介護を求められていたわけでもない。本件は、動機・経緯に同情の余地があるとはいえ、典型的な介護殺人の事案のように肉体的・精神的に追い詰められて殺害を決意したものではない。安易に人の生命を奪うことを決めたとの原判決の評価に誤りはない。 弁護人は、本件は、典型的な介護殺人とは異なるとしても、一定の酌むべき事情がある事案であるから、懲役13年という通常の殺人事件と異ならない量 生命を奪うことを決めたとの原判決の評価に誤りはない。 弁護人は、本件は、典型的な介護殺人とは異なるとしても、一定の酌むべき事情がある事案であるから、懲役13年という通常の殺人事件と異ならない量刑は重すぎると主張する。しかし、本件は、動機・経緯には同情の余地があるものの、他方で、計画の巧妙さ等が顕著な事案である。原判決は、これらの犯情評価を踏まえて、本件は、殺人の中では重い部類に位置付けるべきであるものの、有期懲役刑の上限付近に位置付けるべき特別に重い部類には属さないとした上で、その他の事情も考慮して被告人を懲役13年に処したものであるところ、その評価・判断に何ら不合理な点はない。 第4 適用した法令刑事訴訟法396条、刑法21条令和6年3月6日大阪高等裁判所第2刑事部 裁判長裁判官長井秀典 裁判官辛島明 裁判官秋田志保

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