平成12(わ)1168 道路交通法違反,業務上過失傷害

裁判年月日・裁判所
平成13年12月10日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7306.txt

判決文本文7,356 文字)

判決平成13年12月10日神戸地方裁判所平成12年(わ)第1168号道路交通法違反,業務上過失傷害被告事件 主文 被告人を懲役5月に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 酒気を帯び,呼気1リットルにつき約0.35ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,平成11年9月7日午後10時45分ころ,神戸市A区Ba丁目b番c号付近道路において,普通乗用自動車(軽四)を運転し,第2 自動車運転の業務に従事する者であるが,第1記載の日時ころ,前記普通乗用自動車を運転し,第1記載の場所の南北に通じる道路を北進するに当たり,このような場合,自動車運転者としては,進路前方を注視し,進路の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,進路前方を注視せず,漫然と時速約20キロメートルくらいから減速しつつ進行した過失により,折から自車進路前方交差点の二輪車停止線の手前で対面赤信号に従い停止していたV(当時27歳)運転の普通自動二輪車の発見が遅れ,同車後部に自車左前照灯付近を追突させて,同車を押し飛ばす一方でVを自車ボンネット上に乗せ,その後頭部を自車のフロントガラス左下部分に衝突させ,自車の停止に伴い同人をそのボンネット上から滑り落とし路上に転倒させ,よって,同人に加療約50日間を要する頭部外傷等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号省略(事実認定の補足説明)弁護人は,判示第2の事実について,被告人車両が被害者単車に追突した事実は争わないものの,被害者の発見が遅れたのは被害者の無理な割り込みに起因する不可抗力であるから,被告人には過失はない旨主張し,被告人も,これに沿う供述を について,被告人車両が被害者単車に追突した事実は争わないものの,被害者の発見が遅れたのは被害者の無理な割り込みに起因する不可抗力であるから,被告人には過失はない旨主張し,被告人も,これに沿う供述をしているので,この点につき検討する。 1 関係各証拠によれば,(1) 本件は,平成11年9月7日午後10時45分ころ,神戸市A区Ba丁目b番c号付近,すなわち,南北に通じる国道d号線と東西に通じる神戸市道C線の交差する「De丁目」交差点の南詰付近において発生した。被告人が,普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転して,片側3車線の国道d号線北行車線の第2通行帯を同交差点に向かって北進し,対面信号機が赤色を表示していたので,減速しつつ進行していたところ,同交差点南詰に設置された横断歩道の手前付近において,V(以下「被害者」という。)が運転する普通自動二輪車(以下「被害者車両」という。)に追突する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 (2) 本件事故の直前から雨が相当激しくなっていたこと,夜間であったこと,国道d号線は被害者及び被告人の進行方向である北に向かって4パーセント弱の上り勾配があったことなどが相俟って,視界は悪かったが,信号機等進路前方の道路状況は視認できる状態であった。 (3) 本件事故直後である平成11年9月7日午後10時58分ころ,本件事故現場に臨場した警察官が,被告人の指示説明によって特定した被告人車両の停止地点,被害者車両の転倒地点などに基づいて実況見分調書(検察官請求証拠番号13。以下「検13」のように表記する。)が作成され,その作成状況等からみて,その信用性は非常に高いと考えられるところ,同実況見分調書に添付された交通事故現場見取図(以下「検13の図面」という。)によると,追突地点は,「De丁目」交 。)が作成され,その作成状況等からみて,その信用性は非常に高いと考えられるところ,同実況見分調書に添付された交通事故現場見取図(以下「検13の図面」という。)によると,追突地点は,「De丁目」交差点南詰に設置された横断歩道の南側にある二輪停止線の南約2.2メートル,国道d号線西側の歩道東端から約5メートルの地点(検13の図面のA地点)であり,両車両の破損位置などから,被告人車両の前部左側バンパー付近と被害者車両の後部とが衝突したものと認められる。 被告人車両はその後約1.9メートル前進して停止し(検13の図面の②地点),被害者車両は左斜前方に約4.5メートル押し飛ばされて転倒した(同"地点)。被告人車両には,本件事故後,何かがフロントガラスの左下部分に打ち付けられたと見られる損傷(ひび割れ。検13添付の写真番号5参照)があり,被告人の公判供述等にも照らすと,本件事故により,被害者が,被告人車両の方(後方)へ倒れていき,同車のボンネット上に乗せられてそのフロントガラスの左下部分に身体の一部を打ち付けられ,その後同車から滑り落ちたものと認められる。 以上を前提に,本件事故の状況についての関係者の供述の信用性を検討する。 2 被害者の供述の信用性まず,被害者は,当公判廷において,大要,「被害者車両を運転してE通からF街道(注:国道d号線のこと)に続く南北道路に入った後,当初2車線になっている同道路の第2通行帯を北進し,「De丁目」交差点の対面信号機が赤色を表示するのを認めて徐々に減速し,同交差点入口の二輪停止線の手前で対面赤信号に従って停止していたところ,突然,被告人車両に追突された。被告人車両に追突される前,第1通行帯から第2通行帯に車線変更したことはない。追突されたとき,両手を離してぼうっとしていたので,被告人車両のフロン て停止していたところ,突然,被告人車両に追突された。被告人車両に追突される前,第1通行帯から第2通行帯に車線変更したことはない。追突されたとき,両手を離してぼうっとしていたので,被告人車両のフロントガラスの方に倒れていったようだ」と供述している。 被害者の供述は,本件に至る経緯,事故直前の状況につき,G方面からF街道へ青矢印信号に従って右折すると自然にF街道の第2通行帯に入り,そのまま「De丁目」交差点へ北進すると,本件事故に遭った場所に自然と行き着く,この道は今まで何度も走行しているが,F街道には,「De丁目」交差点を越えた辺りから路肩に路上駐車車両がよくあるので,道が空いているときは,極力最初から第2通行帯を走行していた旨,非常に具体的に供述をしており,不自然,不合理な点も全くなく,説得的である上,自己の記憶が曖昧な点については素直にその旨供述しているし,反対尋問に対しても動揺を来さず終始一貫している。 しかも,被害者は,「本件当時はハンドルから手を離していた」旨述べており,このことは,前示の実際の事故態様と合致しているだけではなく,物理法則上も何ら矛盾はないと考えられる。すなわち,本件については,一件記録中の被害者,被告人等の述べる事故状況が,物理法則上あり得るかという観点から検討した技術吏員による鑑定書が作成されており,その信用性は非常に高いと考えられるところ,同鑑定書においても,「一般に自動車前面が単車後面に真後又はこれに近い角度で追突した場合,単車は車体と運転手に別れ,車体は前方又はそれに近い方向に押され,転倒しながら路上を移動して停止する。速度にもよるが,運転手は乗用車のボンネット上に乗せられ,自動車が減速すればボンネット上を前方に滑り落ち,路上を滑走移動して停止する。自動車は追突地点よりも前方に移動する。」旨述 移動して停止する。速度にもよるが,運転手は乗用車のボンネット上に乗せられ,自動車が減速すればボンネット上を前方に滑り落ち,路上を滑走移動して停止する。自動車は追突地点よりも前方に移動する。」旨述べられているからである。 よって,被害者の証言等は高い信用性を有していると認められる。 3 被告人の供述(1) これに対し,被告人は,公判廷において,要旨「F街道の第2通行帯を本件交差点に向かって北進し,赤信号に従って停止しようとしていたところ,追突地点の手前約4.8メートルの地点(検14の②地点)で,第1通行帯を進行していた被害者車両が急に右に進路を変え,追突地点の手前約1.5メートルの地点(検14の!地点)で被告人車両の直前に割り込んできた。そのときの被告人車両の速度は時速15ないし20キロメートルであり,被害者車両は被告人車両よりも大分速かった。その時初めて被害者車両を認め,危険を感じて急ブレーキを掛けたが間に合わず,いまだ停止していない被害者車両に追突してしまった。」旨述べる。 (2) しかしながら,被告人供述については,停止しようと減速していた被告人車両を追い抜いて直前に割り込んできた被害者車両を見て危険を感じ急制動の措置を講じたのに被害者車両に追突したという点など,全体に不可解,不合理であると思われ,前記鑑定書においても,被害者車両の方が被告人車両よりも速かったという以上衝突することはあり得ない,物理法則上無理があるとの見解が示されている。 (3) しかも,被告人は,対面信号機を確認した地点,被害者車両が止まっていたか否かなど,当然一貫しているべき事故状況の重要な部分に関する供述が頻繁に変遷し,それに合理的な理由も見い出し難い上,対面信号機の表示方法をはじめ被告人の供述内容自体からして,極めて不自然なものが少なくなく,被告人 一貫しているべき事故状況の重要な部分に関する供述が頻繁に変遷し,それに合理的な理由も見い出し難い上,対面信号機の表示方法をはじめ被告人の供述内容自体からして,極めて不自然なものが少なくなく,被告人が,本件直前に対面信号機を確認していたのか否か,四輪停止線を認識していたのかなどについてさえ,疑問を差し挟む余地がある(この点,弁護人は,被害者の供述に従うと,被告人車両が被害者車両の後方を走行しながら,10秒間,距離にして約150メートルもの間前方を走行する被害者車両に気付かないことなどあり得ないとも主張するが,これは被告人が対面信号機の表示を含む進路前方の状況を確認していたことが当然の前提となっているはずで,その前提自体が確かなものであるとは言い難い以上,直ちに首肯するわけにはいかない。)。 以上より,被告人の供述には信用性が認められない。 4 なお,本件を目撃したという証人Dの証言について検討しておく。 D証人は,公判廷において,要旨「被告人車両が時速15ないし20キロメートルで進行中,四輪停止線を越えた辺りで信号が赤になった。止まった地点である二輪停止線辺りの五,六メートル手前から減速し,停止線で止まりかけているときに被害者車両が被告人車両の左横から信号の手前に割り込んできて前に止まった。 被害者車両と被告人車両の距離は1メートルくらいで,被害者車両は倍くらいの速度で被告人車両を一瞬で抜いていった。被害者車両が右斜前方を向いて停止すると同時に被害者車両の後部に被告人車両が追突した。」と,事故状況に関する被告人供述と概ね一致する証言をしている。 しかしながら,D証人が運転免許を取得していないことや同人の述べる距離感覚が到底正確とは思われない点を措くとしても,この証言経過のような事故が起こることは,3(2)で述べたのと同様に,前記 る。 しかしながら,D証人が運転免許を取得していないことや同人の述べる距離感覚が到底正確とは思われない点を措くとしても,この証言経過のような事故が起こることは,3(2)で述べたのと同様に,前記鑑定書で述べられているのと同様にあり得ないと考えられる。加えて,前記鑑定書及び証人Eの証言によると,被害者車両が被告人車両の直前に割り込んで停止したとすれば,被害者車両は被告人車両に並んだ時には急制動を開始していなければならず,しかも同時に割り込みのために進路を急激に変更しなければならないから,そうした場合には被害者車両が横転する危険性が非常に高く,実際上困難であるとされている。また,衝突角度についても,自動車前面が単車後面に斜めに追突した場合,衝突後,単車には車体を回転させる力(回転モーメント)が作用して,右回転しながら右斜め前方に移動を開始することが考えられるが,本件では衝突地点から単車の横転地点がほぼ北方向,前方に移動しているから,実際には被害者単車はもっと北方向を向いていた可能性が強く,これも物理法則上少し無理があるという結果が出ている。 以上のように,Dの供述も物理法則上,合理性を欠き,信用するに足りるものではないと考える。 5 以上を総合すると,被害者の証言は相当に信用性が高いのに比べて,被告人の供述及び証人Dの証言は信用するに足りるものではないから,結局,被告人は,被害者のいうとおり,進路前方を注視せず,漫然と時速約20キロメートルで進行した過失により,進路前方で赤信号に従って停止していた被害者車両の発見が遅れ,これに追突したのは明らかといわねばならず,弁護人の主張は採用できない。 (累犯前科)被告人は,平成7年8月8日神戸地方裁判所で恐喝未遂罪により懲役1年に処せられ,平成8年6月14日その刑の執行を受け終わったものであ らかといわねばならず,弁護人の主張は採用できない。 (累犯前科)被告人は,平成7年8月8日神戸地方裁判所で恐喝未遂罪により懲役1年に処せられ,平成8年6月14日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(18)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は道路交通法119条1項7号の2,65条1項,同法施行令44条の3に,判示第2の所為は刑法211条前段に該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,被告人には前記の前科があるので同法56条1項,57条により判示各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5月に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,普通乗用自動車を酒気帯び運転した被告人が,進路前方を注視せず漫然と時速約20キロメートルで進行した過失により,折から自車進路前方交差点の二輪車停止線の手前で対面赤信号に従い停止していた被害者運転の普通自動二輪車の後部に自車左前照灯付近を衝突させて同人を路上に転倒させ,同人に加療約50日間を要する頭部外傷等の傷害を負わせた道路交通法違反,業務上過失傷害の事案である。 まず,道路交通法違反(酒気帯び運転)の点については,被告人には,平成10年2月19日及び同月24日に道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪による罰金前科2犯があるのに,そのわずか1年半後に判示第1の犯行に及んだものである上,被告人によると自分が酔っていないと思ったときには飲酒の上自動車を運転したことが相当回数に上るというのであるから,この種の行為につい あるのに,そのわずか1年半後に判示第1の犯行に及んだものである上,被告人によると自分が酔っていないと思ったときには飲酒の上自動車を運転したことが相当回数に上るというのであるから,この種の行為について常習性も窺え,飲酒の上運転することが,危険性の高い反社会的行為であるとの認識に全く欠けているといわざるを得ない。 次に,業務上過失傷害の点については,被告人は,飲酒によるアルコールの影響とも相俟って,自動車運転者にとって最も基本的な前方注視義務を怠っているのに対し,対面赤信号に従い交差点入口の所定の停止線の手前で停止していた被害者には何らの落ち度もなく,本件事故を避ける余地もなかったことからすると,被告人の過失は一方的で重大であるばかりか,被害者は本件により加療約50日間を要する傷害を負わされたものであって,生じた結果も重大である。それにもかかわらず,被告人は本件事故直後から公判に至るまで自己の責任を認めず,不自然不合理な弁解に汲々とし,捜査,公判廷を通じて本件は被害者が被告人車両の直前に割り込んできたことによって生じたように述べており,真摯な反省の態度が全く認められないばかりか,被害者と示談や被害弁償をすることもなく,被害者の苦痛を今日に至るまで放置しているのであって,被害者の被告人に対する処罰感情が厳しいのも当然である。 加えて,被告人には,前記のとおり累犯となる前科1犯のほか,それ以前には本件とは罪質を異にする主に粗暴犯による懲役前科2犯及び罰金前科6犯があり,前刑執行終了後は,日常的に飲酒運転を繰り返し,前記のとおり平成10年2月に2度道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪による罰金刑に処せられ,平成11年11月にも呼気検査拒否による同法違反の罪による罰金刑に処せられ,本件犯行に及び,本件事故後,運転免許停止処分を受けた4日後の平成 道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪による罰金刑に処せられ,平成11年11月にも呼気検査拒否による同法違反の罪による罰金刑に処せられ,本件犯行に及び,本件事故後,運転免許停止処分を受けた4日後の平成12年6月6日に無免許運転に及んでいる。このように,被告人にはおよそ道路交通法規をはじめ法規範を遵守しようという姿勢を見出せず,その反規範的人格態度は顕著である。被告人は,今後とも自動車を運転する意思を持っていることを明言しているところ,再犯のおそれは非常に高いと言わざるを得ない。 以上からすると,被告人は,現在では従業員10人を抱える鉄筋業者として責任のある立場にあること,養うべき家族もあること,今後は交通法規を守る旨述べていることなどを考慮しても,主文刑期の実刑は免れない。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・懲役6月)平成13年12月10日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官溝國禎久

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る