平成16(ワ)753 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成18年9月14日 名古屋地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-33810.txt

判決文本文23,617 文字)

平成18年9月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第753号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年6月14日判決主文 被告Cは,原告Aに対し,3850万9405円及びこれに対する平成12年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告Cは,原告Bに対し,3850万9405円及びこれに対する平成12年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らの被告Cに対するその余の請求及び被告Dに対する請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らに生じた費用の3分の1と被告Cに生じた費用の3分の2を被告Cの負担とし,原告ら及び被告Cに生じたその余の費用並びに被告Dに生じた費用を原告らの負担とする。 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告らは,連帯して,各原告に対し,それぞれ6385万0856円及びこれに対する平成12年8月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告Dが開設するE産婦人科・眼科において,Fが,原告Aを出産した後,出血性ショックに陥り,死亡したことにつき,主治医であった被告C及び被告Dに過失があったなどと主張して,Fの子及びその夫である原告らが,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償及びFが死亡した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,当該箇所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ( )当事者 ア原告B(以下「原告B」という)は,亡F(以下「F」という)の。 。 夫である。同人は,平成12年8月31日の出産 該箇所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 主文 当事者 ア原告B(以下「原告B」という)は、亡F(以下「F」という)の夫である。同人は、平成12年8月31日の出産の際、E産婦人科・眼科に赴き、Fが死亡するまで同診療所に滞在した。原告A(以下「原告A」という)は、原告Bを父、Fを母として、平成12年8月31日に出生した子である。 イ被告D(以下「被告D」という)は、E産婦人科・眼科(以下「被告診療所」という)を開設、運営している。被告C(以下「被告C」という)は、被告診療所に勤務する産婦人科医である。 ウFは、平成11年12月10日に被告診療所を受診し、妊娠が判明して以降、同診療所に定期的に通院していた。 平成12年8月31日の診療経過(以下、同日の出来事については、原則として、時刻のみを表記する)。Fの状態及びこれに対する処置等については、別紙診療経過一覧表のとおりである。なお、血液の量について、1と1は概ね同量と解してよい(甲B9mlg号証2頁)ので、以下においては両単位を用いる。 本件の争点 子宮頚管裂傷を見落とした過失の有無 高次医療機関への搬送義務違反の有無 ア搬送を決断すべき時期 イ因果関係(救命可能性)の存否 輸血手配義務違反の有無 ア輸血手配を決断すべき時期 イ因果関係(救命可能性)の存否 患者管理義務違反の有無 被告Dの過失の有無 損害 消滅時効の成否 争点に関する当事者の主張 争点(子宮頚管裂傷を見落とした過失)について (原告らの主張)アFの出血の原因は、子宮頚管裂傷であった。イ分娩に至る経過として、(ア)Fが初産婦であ に関する当事者の主張( )争点( )(子宮頚管裂傷を見落とした過失)について (原告らの主張)アFの出血の原因は,子宮頚管裂傷であった。 イ分娩に至る経過として,(ア)Fが初産婦であったこと,(イ)プロスタルモンEとプロスタルモンFという陣痛促進剤が同時併用されていたこと,(ウ)クリステレル法と吸引分娩により急速分娩が施行されたこと,からすれば,主治医である被告Cとしては,分娩時の損傷及び異常出血の有無に注意を払うことが不可欠であった。 ウ分娩後の経過としても,(ア)(a)分娩時に580(ホスピタルマットgに含まれる血液280を含む,(b)16時30分に40,(c)17gg)時20分に200,(d)17時45分に300,という持続的出血がgg見られたこと,(イ)血圧及び脈拍の推移や脈圧の低下等,大量出血を示唆する所見が見られたこと,(ウ)子宮の収縮は良好であり,弛緩出血の可能性は否定されることなどの事情から,被告Cは,分娩時の損傷の中でも重大な結果を招く頚管裂傷を疑い,注意を払うべきであった。 ,,,エそして(ア)司法解剖時に頚管裂傷が発見できた以上Fに意識があり診察に対する協力が得られる臨床現場では,裂傷の有無はより観察しやす,,いと考えられること(イ)Fの頚管裂傷は直視可能な部位に存在すること からすれば,被告Cが頚管裂傷を発見することは可能であった。 オ以上から,被告Cには,Fの子宮頚管裂傷を早急に発見すべき注意義務があった。 しかるに,上記注意義務に違反し,弛緩出血ばかり疑い,子宮頚管裂傷を見落とした。 (被告らの主張)アFには,出血性ショックの原因となるような子宮頚管裂傷は存在しなかった。 イ被告Cは,13時ころ,子宮収縮剤をプロスタルモンEからプロスタルモンFに切り 裂傷を見落とした。 (被告らの主張)アFには,出血性ショックの原因となるような子宮頚管裂傷は存在しなかった。 イ被告Cは,13時ころ,子宮収縮剤をプロスタルモンEからプロスタルモンFに切り替え,以降は後者のみを使用するつもりであったところ,助産師あるいは看護師が,当初指示された前者の処方が1回分残っていたことから,そのまま投与してしまったものであり,プロスタルモンEとプロスタルモンFの同時併用は,意図的になされたものではなく,被告Cは同時併用の事実を知らなかった。なお,両剤の同時併用が禁止されているのは,これにより過強陣痛が引き起こされる結果,子宮破裂や子宮頚管裂傷を生ずるという理由によるところ,本件において過強陣痛は生じていないから,両剤の同時併用によって頚管裂傷が発生する可能性が通常より高くなったとはいえない。 また,クリステレル法及び吸引分娩を行う場合に頚管裂傷を起こすことがあることは,一般論としては認めるが,自然分娩の場合と比して,そのおそれが高いとは必ずしもいえない。吸引分娩については,頚管が全開大となる前に強行した場合に,頚管裂傷が起こり得るところ,本件では,子宮口が全開大となってから吸引分娩を施行していることからしても,頚管裂傷の成因になったとはいえない。そもそも,本件では,14時31分から34分ころ,及び同42分から45分ころ,胎児に徐脈が認められ,胎児仮死のおそれがあったから,急速遂娩の適応があると判断して上記の措 置を講じたものであり,何らの問題もない。 gウFの分娩時にホスピタルマットに染み込んだ羊水等の合計量は780。 ,,であった妊娠末期の羊水量は 未満までは正常であるところmlFも出産時には妊娠末期であった。前期破水でも少量のみ流出する例も多く,その場合,羊水量は保たれている 計量は780。 ,,であった妊娠末期の羊水量は 未満までは正常であるところmlFも出産時には妊娠末期であった。前期破水でも少量のみ流出する例も多く,その場合,羊水量は保たれている。とすれば,780のうち,50g を羊水とし,残りの280は血液であるとする原告の主張は誤ってggいる。Fの分娩時出血量は,臨床的には通常の範囲内であった。 また,臨床医療の現場で,ホスピタルマットに染み込んだ血液量を考慮することは,分娩後の出血量が明らかに異常視されるほど多いなどの例外的な場合を除き,ほとんどない。さらに,分娩時の出血量が500以ml上であった場合でも,決して稀な事態ではなく,直ちに異常出血として対応しなければならないものではない。 エ頚管裂傷と弛緩出血の鑑別については,(ア)頚管裂傷であれば,(a)胎児娩出直後から出血し,持続的で鮮血,(b)子宮収縮は良好で,子宮は硬い,(c)内診・膣鏡診で頚管に裂傷を認めるのに対し,(イ)弛緩出血の場合は,(a)出血は胎盤娩出後から持続的あるいは間欠的に見られ,その開始は突如として起きるときもあるが,徐々に始まることもある。血液の色は,静脈血を含むことがあるので,暗赤色ときに鮮紅色,(b)子宮は柔軟で,ときに触知困難,という特徴による。 本件では,(a)分娩時の出血は暗赤色であり,鮮紅色の持続的出血の流出はなく,(b)子宮収縮については,分娩後1時間の時点では良好であったが,2時間を経過するころから,柔らかく,輪状マッサージを行ってようやく硬くなる状態であり,(c)胎盤娩出直後の視診及び内診並びに子宮内容清掃術の際の内診及び膣鏡による視診において,頚管裂傷を疑わせる損傷は認められなかった。 オ以上より,被告Cが,Fの出血を頚管裂傷によるものではなく弛緩出血 と疑った 視診及び内診並びに子宮内容清掃術の際の内診及び膣鏡による視診において,頚管裂傷を疑わせる損傷は認められなかった。 オ以上より,被告Cが,Fの出血を頚管裂傷によるものではなく弛緩出血 と疑った,あるいは診断したことは,臨床的には相当であったと評価される。仮に頚管裂傷があったとしても,これを見落としたことは過失とはいえない。 ( )争点( )ア(高次医療機関への搬送義務違反の有無-搬送を決断すべき時 期)について(原告らの主張)ア17時45分の時点で,Fは重大な出血性ショックに陥っており,争点( )の原告ら主張のとおり,出血量は1000を超えていた。個人診療 ml所である被告診療所では,このようなショック状態にある患者に対し十分な治療を施すことは困難であったのであるから,被告Cには,直ちにFを高次医療機関に搬送すべき注意義務があった。 上記のように重大なショックに陥ったFに対しては,出血原因の診断などよりも,とにかく状態を良くするために治療をすることが最優先であるから,状態確認をしていないことは上記注意義務を否定する理由とはならない。 被告Cは,上記注意義務に違反し,上記時点において,Fを高次医療機関に搬送しなかった。 イ18時16分の時点では,710もの更なる出血が認められ,その量gは合計2000に及んでおり,生命に危険を及ぼすほど重篤な出血性mlショックに陥っていた。個人診療所である被告診療所では,このような重篤なショック状態にある患者に対し十分な治療を施すことは困難であったのであるから,被告Cには,直ちにFを高次医療機関に搬送すべき注意義務があった。 被告Cは,上記注意義務に違反し,上記時点において,Fを高次医療機関に搬送しなかった。 (被告らの主張) ,,,ア被告Cは18時ころ17時4 を高次医療機関に搬送すべき注意義務があった。 被告Cは,上記注意義務に違反し,上記時点において,Fを高次医療機関に搬送しなかった。 (被告らの主張) ,,,ア被告Cは18時ころ17時45分時点での出血量につき報告を受け直ちに診察して必要な処置を採ることを決断し,実際に18時ころから診察を開始した。医師が診察による状態確認を行わずに搬送を決断することは通常考え難い。また,18時ころの時点で被告Cが認識していた出血量は約800であるところ,この出血量自体は搬送を必要としない量であgる。したがって,この時点での搬送義務は認められない。 イ18時16分から開始した子宮内容清掃術の時点においては,同術によりFの出血が収まってきていたこと,輸液措置を講じていたことから,高次医療機関へ搬送する必要はないと考えられた。 ( )争点( )イ(高次医療機関への搬送義務違反の有無-因果関係の存否)に ついて(原告らの主張)アFは,19時53分に心停止を起こしているところ,その前に適切な措置を講じていれば,Fの救命可能性は極めて大きいといえる。 ところで,被告診療所から高次医療機関への搬送に要する時間は,救急車の到着まで5分以内,搬送先決定まで5分以内,搬送先への到着まで5分程度であり,輸血開始まで5分程度である。 イそうすると,18時16分の時点で搬送を決断しても,救命は可能であり,死亡との因果関係は認められる。まして,それより30分以上も前である17時45分の時点で搬送を決断していれば,救命は可能であり,死亡との因果関係が認められることは当然である。 (被告らの主張)ア本件における搬送先の高次医療機関としては,G県総合周産期母子医療センターであるH病院を選択するのが当然の判断であるところ,搬送の決断から同病院に到着するま ことは当然である。 (被告らの主張)ア本件における搬送先の高次医療機関としては,G県総合周産期母子医療センターであるH病院を選択するのが当然の判断であるところ,搬送の決断から同病院に到着するまでには少なくとも20ないし30分かかる。また,同病院到着後,実際に輸血が開始されるまでに最低でも更に20ない し30分程度を要する。 ,,,ところで18時47分時点におけるFの血圧は収縮期圧68mmHg弛緩期圧不明であり,昇圧剤を投与しなければ血圧のコントロールが困難な状況にあった。仮に子宮内容清掃術で大量出血を認めた時点で搬送を決断したとしても,上記病院に到着する時点でのFの状態は,上記同様に悪い状態であったと考えられる。 このようにFの全身状態の悪化が急激な状況では,18時16分からの子宮内容清掃術で大量出血が認められた時点で搬送を決断したとしても,救命できた高度の蓋然性があったとはいえない。 ,。 ,イまたFはいつDICを起こしてもおかしくない状況にあったさらに出血性ショックの合併症として,多臓器不全,低酸素性虚血性脳症及びARDSを発症する可能性があり,これらが発症した場合の予後は極めて悪い。 仮に高次医療機関に搬送されたとしても,出血部位が的確に診断できなければ開腹子宮全摘術を実施することになるが,これに伴う出血等により救命可能性は更に低くなる。 ウ以上より,18時16分からの子宮内容清掃術で大量出血を認めた時点でFを高次医療機関へ搬送しなかったことと死亡との間に因果関係は認められない。 ( )争点( )ア(輸血手配義務違反の有無-輸血手配を決断すべき時期)につ いて(原告らの主張)ア上記のとおり,17時45分の時点で,Fは出血性ショックに陥っており,出血量は1000を超えていた。出血性ショックへの 違反の有無-輸血手配を決断すべき時期)につ いて(原告らの主張)ア上記のとおり,17時45分の時点で,Fは出血性ショックに陥っており,出血量は1000を超えていた。出血性ショックへの対処法としmlては,直ちに輸血用血液を準備し,出血量に見合った輸血を施行して血圧を上げることが何よりも重要とされており,出血量が1000を超えml る場合には輸血を開始すべきとされている。したがって,17時45分の時点で,直ちに輸血用血液を手配して,輸血用血液が到着次第直ちに輸血を開始するとともに,その後も出血が継続する場合に備えて,輸血用血液を準備すべき注意義務があった。 ところが,被告Cは,上記注意義務に違反し,上記時点において,輸血用血液の手配を行わなかった。 イ18時16分の子宮内容清掃術の際には,さらなる出血が認められ,その量は合計2000に及んでおり,生命に危険を及ぼすほど重篤な出ml血性ショックに陥っていた。したがって,18時16分の時点で,直ちに輸血用血液を手配して,輸血用血液が到着次第直ちに輸血を開始すべき注意義務があった。 しかるに,被告Cは,上記注意義務に違反し,上記時点において,輸血用血液の手配を行わなかった。 (被告らの主張)ア17時45分の時点で300の出血があったことについて,被告Cはg18時ころに報告を受けたものであるが,この時点では,まず自ら診察,診断の上必要な処置を採ろうと考えたのであり,医師として当然の選択である。したがって,この時点で輸血用血液を手配しなかったことに過失はない。 イ被告Cは,Fの状態から弛緩出血を疑い,これに対する治療を実施したものである。すなわち,弛緩出血に対する治療においては,子宮収縮の促進を図ることが基本であり,そのために,被告Cは,助産師に輪状マッサージ は,Fの状態から弛緩出血を疑い,これに対する治療を実施したものである。すなわち,弛緩出血に対する治療においては,子宮収縮の促進を図ることが基本であり,そのために,被告Cは,助産師に輪状マッサージの実施を指示するとともに,子宮収縮剤のパルタンやプロスタルモンを注射した。 ウなお,(ア)子宮からの出血が続く場合あるいは出血により全身状態が不,,良である場合には乳酸化リンゲル液などの細胞外液用剤の輸液を開始し (イ)出血量が1000を超え,弛緩出血に対する諸々の処置を実施しmlても小康状態とならず,出血が持続する場合には,輸血を考慮する。本件においては,(ア)輸液について,18時15分ころから出血した血液量を補う措置として,乳酸化リンゲル液であるラクテックの点滴を開始し,さらにラクテック500にパルタン2の点滴ルートを追加した。そして,そmlA,,,のままラクテックの輸液を継続し同55分ころラクテック500mlブルタール(鉄剤)2,アドナ(血管強化・止血剤)1A,トランサAミン(止血剤)1を静脈注射しており,適切かつ十分な輸液を行っAた。 (イ)輸血について,子宮内容清掃術が終了した18時40分ころの時点で被告Cが把握していた出血量は,分娩時200ないし300,17g時20分ころ200,17時45分ころ300の合計約800でggggあった。なお,子宮内容清掃術で排出された血塊・血液の重量710については,同術終了後に助産師が測定し,被告Cに報告した。 子宮内容清掃術の際の測定で出血量は1000を超えたが,そのml終了時点では,弛緩出血に対する処置により出血は収まってきており,出血持続状態ではなく,輸液措置を採って全身状態の回復に努めていたこと,同時点においてFは会話のできる状 を超えたが,そのml終了時点では,弛緩出血に対する処置により出血は収まってきており,出血持続状態ではなく,輸液措置を採って全身状態の回復に努めていたこと,同時点においてFは会話のできる状態にあったこと,から被告Cは直ちに輸血を要することはないであろうと判断したのであり,この時点で輸血用血液を手配しなかったことに過失はない。 もっとも,弛緩出血は軽快と増悪を繰り返すことがあるため,今後輸血が必要となる可能性を考え,被告Cは,19時前後に輸血用血液の取り寄せを指示している。 なお,この時点においては,輸血用血液の取寄せよりも,むしろ高次医療機関への搬送を決断すべきとする意見があることからしても,輸血 用血液の取寄せについて注意義務違反として論じる余地があるのか疑問である。 ( )争点( )イ(輸血手配義務違反の有無-因果関係の存否)について (原告らの主張)ア18時16分の時点で輸血用血液の手配を決断し,これが届き次第直ちに輸血を開始すれば,Fがまだ若いことから,循環血液量を十分確保することにより,救命は可能であり,死亡との因果関係は認められる。 イまして,それより30分以上も前の17時45分の時点で輸血用血液の手配を決断していれば,救命は可能であり,死亡との因果関係は優に認められる。 (被告らの主張)18時16分の時点で輸血用血液を取り寄せたとしても,Fの救命にはつながらなかったと考えられるため,因果関係は否定される。 ( )争点( )(患者管理義務違反の有無)について (原告らの主張)ア被告Cには,Fの主治医として,分娩後の状況及び出血量等の症状を迅速かつ正確に把握すべき注意義務があった。 ,,,また被告らにはFの看護や経過観察に当たる看護師や助産師に対しFの症状及び状態を迅速かつ的確に報告 治医として,分娩後の状況及び出血量等の症状を迅速かつ正確に把握すべき注意義務があった。 ,,,また被告らにはFの看護や経過観察に当たる看護師や助産師に対しFの症状及び状態を迅速かつ的確に報告するよう指示ないし指導すべき注意義務があった。 イFの16時30分ころの出血量40につき,被告Cに何ら報告がされgていないのであれば,上記注意義務に違反している。 本件は,分娩直後から異常が認められ,16時30分の時点でも脈拍88と頻脈が認められたことからすれば,上記出血は正常な経過であるから報告が不要であるとする被告らの主張は妥当でない。 ウ17時45分の時点でFに300の出血があり,出血性ショックに陥g っていたことにつき,被告Cが18時にI助産師から報告を受けて初めて知ったとすれば,遅きに失しており,上記注意義務に違反している。 エ18時16分の子宮内容清掃術の際,Fに新たに710の出血があっgた事実につき,被告Cに報告されたのが子宮内容清掃術が終了してから数分経った後のことだとすれば,遅きに失しており,上記注意義務に違反している。 (被告らの主張)ア分娩後の管理において特に異常を認めない経過をたどっている場合に,主治医が,患者の状態及び症状を常に迅速かつ正確に把握すべき必要はなく,かかる注意義務は認められない。 もっとも,分娩後の経過に異常が認められる場合には,主治医は患者の状態及び症状を,その内容に応じて,できる限り迅速かつ正確に把握する必要がある。ただし,実際の臨床現場においては,準備・検査・計測・確認など必要な作業を経た上で行うことになるから,これらに要する時間を考慮する必要がある。 イ本件において,16時30分の出血量40は,分娩1時間後のものとgしては,正常であるから,被告Cにこの出血量が報告され を経た上で行うことになるから,これらに要する時間を考慮する必要がある。 イ本件において,16時30分の出血量40は,分娩1時間後のものとgしては,正常であるから,被告Cにこの出血量が報告されなかったことについて,注意義務違反はない。 ウ17時45分の出血量について,I助産師は,病室での輪状マッサージによる出血が止まった後にパッドを交換し,これを分娩室脇の測定場所に運んで測定したため,出血量が判明したのは18時直前であった。出血量が判明した後,速やかに被告Cに出血量及びFの症状について報告がなされており,注意義務違反はない。 エ18時16分開始の子宮内容清掃術については,膿盆の内容物及びガーゼに付着した血液量を測定することになるが,この測定は同術の終了後にならざるを得ない。また,この測定には数分程度を要する。 I助産師は,子宮内容清掃術が終了した18時40分過ぎころから,急いで膿盆の内容物を測定し,被告Cに報告したのであり,注意義務違反はない。 オ子宮内容清掃術が終了した後,710の出血があったことを把握したg時点で,被告Cの把握していた合計出血量は約1510であった。 g前記のとおり,分娩時のホスピタルマットに染み込んだ血液量を280と判断する根拠はないこと,上記のとおり,16時40分時点での出血g量40の報告がなかったことに過失はないこと,からすれば,18時4g0分ころに被告Cが出血量を約1510と認識していたことに過失はなgい。 ( )争点( )(被告Dの過失の有無)について (原告らの主張)被告Dは,被告診療所の所長として,勤務医である被告Cが産婦人科医として最善の知識と技術をもって分娩に当たるよう指導・監督する立場にありながらこれを怠り,前記のような被告Cの過失を生じさせた。 あるい 告Dは,被告診療所の所長として,勤務医である被告Cが産婦人科医として最善の知識と技術をもって分娩に当たるよう指導・監督する立場にありながらこれを怠り,前記のような被告Cの過失を生じさせた。 あるいは,被告CのFに対する医療行為は,被告Dの事業の執行のためになされたものといえるから,被告Dは使用者責任を負う。 (被告Dの主張)被告Dに,被告診療所の所長として,被告Cに対する指導・監督を怠った過失はない。 前述のとおり,被告Cにも不法行為は認められないから,その使用者であるDにも不法行為責任は成立しない。 ( )争点( )(損害)について (原告らの主張)ア逸失利益4459万2467円Fは死亡当時31歳であり,平成12年度の女子年齢別賃金センサスを 基礎収入としてライプニッツ係数により中間利息を控除し,生活費を30パーセント控除して計算すると,逸失利益は上記金額になる。 イ慰謝料3000万円出産後に適切な管理を受けることができず,苦痛の中で死を迎えたFの無念さ,及び,初めての子である原告Aの顔を見ることも,母親という新しい役割を果たすこともなく,生活を断絶されたFの精神的苦痛は,少なくとも上記金額をもって慰謝されるべきものである。 ウ葬儀費用150万円Fの死亡に伴い執り行われた葬儀の費用として上記金額は,本件と相当因果関係のある損害である。 エ原告ら固有の慰謝料各2000万円オ弁護士費用各580万4623円カ合計原告らは,上記アイウを2分の1ずつ相続し,これにエ及びオを合計すると,原告各々の損害は,6385万0856円となる。 (被告らの主張)否認ないし不知ないし争う。 ( )争点( )(消滅時効)について (被告Dの主張)Fが死亡した日は平成12年8月31日であるところ,原告らが本件訴 万0856円となる。 (被告らの主張)否認ないし不知ないし争う。 ( )争点( )(消滅時効)について (被告Dの主張)Fが死亡した日は平成12年8月31日であるところ,原告らが本件訴訟を提起したのは平成16年2月26日であり,3年以上が経過していることから,被告Dとの関係では消滅時効が成立している。被告Dは,上記消滅時効を援用するとの意思表示をしたから,被告Dとの関係では原告らの損害賠償請求権は消滅している。 (原告らの主張)被告Dの主張は争う。 第3当裁判所の判断 争点( )(子宮頚管裂傷を見落とした過失)について ( )子宮頚管裂傷に関する一般的知見 子宮頚管裂傷とは,分娩時に外子宮口から子宮下部の下端に及ぶ裂傷をいう。その原因としては,子宮収縮剤の使用などによる過強陣痛などによってもたらされた急速な頚管の拡大,巨大児,反屈位などによる頚管の過度の伸展,子宮発育不全や高年初産婦などに見られる頚管の伸展不良などが考えられる(乙B2号証597頁。 )裂傷の有無を確認するには,膣内に手を入れ,頚管を示指と中指で挟み,全周を輪状に巡らせて断裂がないかどうか触診するという方法による(乙B3号証245頁。 )子宮頚管裂傷の場合,以下の特徴が現れる(乙B2号証597頁。 )ア胎児娩出直後からの鮮紅色の持続性出血イ出血量は裂傷の程度及びその部位によるが,大きな動脈枝が断裂されると急速に大出血を来す。 ウ子宮収縮は良好( )弛緩出血に関する一般的知見 弛緩出血とは,分娩終了後に子宮筋の収縮状態が不良になる子宮弛緩症が起きた場合に,胎盤剥離面に開口している血管が子宮筋層内で子宮筋の()。 収縮によって絞扼されないために来す大出血をいう乙B2号証603頁弛緩出血の場合,以下の特徴が現れる(同号証同頁。 弛緩症が起きた場合に,胎盤剥離面に開口している血管が子宮筋層内で子宮筋の()。 収縮によって絞扼されないために来す大出血をいう乙B2号証603頁弛緩出血の場合,以下の特徴が現れる(同号証同頁。 )ア胎盤娩出後に持続的あるいは間欠的に流出する出血。出血の開始は突如として起こることもあるが,徐々に始まることもある。 イ血液は,静脈血成分を含むため,暗赤色を呈する。 ウ子宮はきわめて柔軟で,子宮底の確認が困難な場合がある。子宮腔内に血液が貯留すると子宮底は徐々に上昇してくる。 エ出血量が多くなればショック症状を呈する。 ( )本件における子宮頚管裂傷の有無及び過失の有無の検討 (「」。),アFの司法解剖を担当した法医学のJ教授以下J教授というはFには子宮頚管裂傷が認められる旨の意見を述べている(甲A13号証及び甲B31号証)ところ,別紙診療経過一覧表のとおり,Fに対しては,被告Cの指示を超える陣痛促進剤(頚管熟化剤)が投与されていて,頚管の開大がもたらされたと推認されること,子宮底輪状マッサージの実施や子宮収縮剤の投与にもかかわらず,分娩後,子宮からの出血が継続したことなど,この意見に沿う事情も認められる。 しかし,J教授から依頼されてアルコール保存されていたFの子宮を見た産婦人科のK教授は,頚管裂傷は認められないと述べており(乙B14号証,被告らの協力医である産婦人科医L医師(以下「L医師」とい)う)も,解剖時に撮影された子宮の写真を見た上で同様の意見を述べて。 いる(乙B6及び7号証。さらに,被告診療所に応援に赴き,その後司)法解剖に立ち会った際に,J教授から子宮頚管裂傷であるといって子宮を見せられた麻酔科のM医師(以下「M医師」という)も,頚管裂傷の存。 在は確認できなかった旨述べている(甲 応援に赴き,その後司)法解剖に立ち会った際に,J教授から子宮頚管裂傷であるといって子宮を見せられた麻酔科のM医師(以下「M医師」という)も,頚管裂傷の存。 在は確認できなかった旨述べている(甲A17号証。上記四者の意見を)比較検討しても,J教授の上記意見が,他の三者の意見に比して信用性が顕著に高いとまではいい難く,J教授の上記意見をもってFに頚管裂傷があったと断定することはできない。 イかえって,被告Cは,胎盤娩出後及び子宮内容清掃術の際の二度にわたり,視診のほか,左手の指先を使って子宮の頚管部位を全周触るという方法により頚管裂傷の有無を調べ,その結果,同裂傷は認められないと判断しているが(甲A14号証15ないし18頁,この検索方法は,上記( )) に照らし,適当であったと認められる(甲B29号証。 )ウ加えて,症状としても,別紙診療経過一覧表のとおり,(ア)分娩後約1 時間が経過した16時30分での出血量は40と少なく,(イ)同時刻にgおける出血は黒っぽい色をしていたこと,(ウ)子宮収縮は17時20分までは良好であったが,その後はやや柔らかくなっていたこと(甲A11号証の3,17ないし19頁)などの事実が認められるところ,上記( )及 び( )によれば,これらの状況は頚管裂傷にはそぐわず,むしろ弛緩出血 を疑わせるものといえる。 エ以上のとおりであり,Fに子宮頚管裂傷があったと認めるに足りる証拠はない。したがって,被告CがFを頚管裂傷と診断しなかったことについても,注意義務違反は認められない。 () 争点( )ア高次医療機関への搬送義務違反の有無-搬送を決断すべき時期 についてア出血性ショックに関する一般的知見として,以下の事実が認められる。 (ア)出血性ショックの定義出血に起因して,貧血 )ア高次医療機関への搬送義務違反の有無-搬送を決断すべき時期 についてア出血性ショックに関する一般的知見として,以下の事実が認められる。 (ア)出血性ショックの定義出血に起因して,貧血,血圧低下,脈拍増加,尿量減少などのショック,()。 症状を呈するものを出血性ショックという甲B19号証1706頁一般に,出血量が800以上になると,ショック症状が出現することmlが多い(甲B18号証615頁。 )(イ)ショックの診断基準ショックについては,おおむね以下の項目により診断される(甲B18号証613及び614頁。 )a血圧収縮期圧70以下。又は平常より25パーセント以上の血圧mmHgmmHg下降脈圧収縮期圧と弛緩期圧の差は減少する収縮期圧60。 ()。 以下は重症のショックである。 b脈拍100/分以上。 c呼吸。 ,。 呼吸数が増加浅く呼吸困難を訴えときにチアノーゼが見られるd尿量 /時以下。30ないし50/時以下は危険である。そのほmlml,,,,,。 か尿比重尿沈さクレアチニンBUN血清カリウムを測定するe中心静脈圧(CVP)。 。 正常は5ないし10である 以下は循環血液量低下cmHOcmHO 以上は心不全又は過剰輸液。 cmHO f血液像,凝固能Hb(ヘモグロビン)10以下,Ht(ヘマトクリット)30パg/dlーセント以下は輸液・輸血を考慮する。赤沈15㎜/時以下,血小板数10ないし15×10/㎜以下,FDP(フィブリン分解産物)40 μ以上の場合はDICを疑う。 g/mlg動脈ガス分析過剰塩基が-4以下及び+4以上,そのほかPO70mEq/lmEq/l 以下もO投与 下,FDP(フィブリン分解産物)40 μ以上の場合はDICを疑う。 g/mlg動脈ガス分析過剰塩基が-4以下及び+4以上,そのほかPO70mEq/lmEq/l 以下もO投与の治療が必要となる。 mmHg (ウ)ショック症状ショックの際に現れる症状としては,以下のものが挙げられる(甲B18号証613頁。 )a妊婦の訴え気分不快,嘔気・嘔吐,精神不安,全身虚脱b臨床症状口唇蒼白,発汗・冷たい皮膚,反応の遅延・筋力低下,低血圧,頻脈・脈拍微弱,呼吸は浅く促進,意識障害(エ)出血性ショックに対する処置a早期治療が産科ショックの場合の基本原則であり,治療時期を失する と重篤になる危険性が高い(甲B18号証615頁。プレショック状)態(ショックに至る前段階。甲B8号証5頁)での診断,早期治療が最良の方法である(甲B18号証613頁。 )b産後出血に対する措置としては,呼吸及び循環の確保等による全身管理と,出血源の検索及び治療(止血操作)を,並行して迅速かつ的確に行う必要がある(甲B26号証276頁,乙B12号証319頁。 )c分娩後出血量が1000以上では輸血が必要になる(甲B18号ml証615頁,甲B19号証1708頁。800以上であれば輸血)mlの準備を行うことが望ましい(乙B12号証319頁。 )イ上記知見に照らし,本件における分娩後の経過につき検討する。 (ア)分娩時出血量については,まず,胎盤受けに溜まったものとして30 があった。この重量について,被告Cは報告を受けていなかったが2g00ないし300程度と目測していた(甲A14号証31頁。 g)上記のほかに,分娩台に敷いたホスピタルマットにも一定量の血液が染み込んでいたものと認められる。 すなわち,分娩時に かったが2g00ないし300程度と目測していた(甲A14号証31頁。 g)上記のほかに,分娩台に敷いたホスピタルマットにも一定量の血液が染み込んでいたものと認められる。 すなわち,分娩時に出血があった場合,ホスピタルマットに羊水のみが染み込み,血液が全く染み込まないということはあり得ない。本件にお,(,いてもホスピタルマットは赤く染まっていたところ甲A10号証の330頁被告Cはホスピタルマット自体を目視しているのであるから甲),(A14号証37頁,その重量の報告を受けなかったとしても,その外観)から相当量の血液が染み込んでいることは明らかであった。ホスピタルマットに染み込んだ血液量を正確に算定することは困難というほかないが,この点につき,J医師は280(甲A13号証15頁,N医師は約4g) と推定しており(甲B8号証2頁,少なくとも0として計算すgml)ることが妥当でないことは明らかである。 この点につき,被告らは,妊娠末期の羊水量の平均が800とされml ていること(乙B5号証65頁)を理由に,ホスピタルマットに含まれる血液量を考慮する必要はない旨主張する。しかし,Fは8月30日午後8時50分ころから破水があったのであり(争いのない事実,8月31日)10時前の時点でも羊水の流出が認められ,前期破水と診断されたのであるから(別紙診療経過一覧表,分娩時に流出する羊水量はその分減少し)ていたと考えられる。とすれば,分娩時に流出した羊水量は,ホスピタルマットに染み込んだ液体の総重量780(おおよそ780)よりはかgmlなり少なく,残りは血液であった蓋然性が高いというべきである。したがって,上記被告らの主張は,上記認定,判断を覆すものとはいえない。 また,被告らは,通常ホスピタルマ よそ780)よりはかgmlなり少なく,残りは血液であった蓋然性が高いというべきである。したがって,上記被告らの主張は,上記認定,判断を覆すものとはいえない。 また,被告らは,通常ホスピタルマットの重量は計測されないとも主張するが,仮にそうであるとしても,後記のとおり,本件においては,例外的に同マットに血液が染み込んでいる蓋然性を考慮する必要があることに変わりはない。 (イ)16時30分には,40の出血が認められたが,この出血につき,gI助産師は,被告Cに報告していない。もっとも,40の出血のみではg異常とは判断し難いから,I助産師が,16時30分の時点で,Fの状態を問題ないと判断し,出血量について被告Cに報告しなかったことをもって直ちに非難することは相当でないと考えられる。 しかし,上記に認定した医学的知見によれば,出血性ショックの診断や,,その後の治療において合計出血量は大きな判断要素となるのであるからFに多量の出血及び容態の悪化が認められた17時20分又は17時45分の時点においては,I助産師は,併せてこの40の出血についても報g告すべきであった。 上記報告の欠如を過失と評価すべきか否かはともかくとして,被告診療,(。 )所では従前からオロ胎盤の剥離面から出る出血甲A14号証43頁が多いなどの異常な所見がなければ,被告Cに出血量等の報告がされない ことになっており,そのことは被告Cも了解していたところ(甲A14号証59頁,そうであれば,被告Cは,報告されていない出血があり得る),。 ことを前提にFの合計出血量を把握する必要があったというべきである(ウ)上記(ア)及び(イ)に加え,別紙診療経過一覧表のとおり,17時20分に200,17時45分の時点で300の各出血が認められた。さg Fの合計出血量を把握する必要があったというべきである(ウ)上記(ア)及び(イ)に加え,別紙診療経過一覧表のとおり,17時20分に200,17時45分の時点で300の各出血が認められた。さggらに,18時16分に開始された子宮内容清掃術により確認された710の血液についても,確認された時点より以前に出血し,子宮内に貯留しgていた可能性も十分考えられる。 ,,,そうすると18時の時点において確実な出血として840がありgその他ホスピタルマットに含まれる分及び子宮内に貯留していると考えられる血液を考慮すると,合計出血量は1000前後であった可能性がml高く,このことは被告Cも認識可能であったということができる。 そして,Fの出血は,被告Cの診断した弛緩出血に対する措置(子宮収,),縮剤の投与子宮底輪状マッサージの実施が講じられたにもかかわらず止む気配がなく,その後も止血の成功を期待できる徴候は認められないまま推移したものである。 mmHg(エ)加えて,17時45分の時点では,血圧につき収縮期圧60という症状が見られたところ(別紙診療経過一覧表,上記診断基準によ)れば,これはショックの中でも重症を示すものであり,脈拍も98/分であって(別紙診療経過一覧表,ショックの診断基準に迫っていたことが)明らかである。 ウ以上によれば,17時45分にI助産師がFの状態を観察した結果を聞いた18時の時点において,被告Cは,Fの出血量が1000前後であるmlと認識することが十分可能であり,その他の症状からも,Fが出血性ショック状態にあったことを把握できたと認められる。これらの事情に,出血性ショックに対しては,早期の治療が重要であることを考え併せると,たとえ, 出血量が確実に1000を超えたと断定できずとも, ック状態にあったことを把握できたと認められる。これらの事情に,出血性ショックに対しては,早期の治療が重要であることを考え併せると,たとえ, 出血量が確実に1000を超えたと断定できずとも,同時点において,mlFに対し,輸血を行う必要が生じたことは,被告Cも認識し得たと認められる。 上記輸血の必要性に対し,被告診療所には輸血用血液が準備されていなかった(争いのない事実。さらに,上記認定のとおり,本件では,Fの全身)状態の改善(循環管理)と出血原因の特定及び止血とを並行して行う必要があったが,これを医師一人で行うのは困難であるところ(甲A17号証7頁,午後7時以前の時点では,被告診療所にはすぐに対応できる医師が被)告C一人しかいなかった(甲A10号証の3,21及び22頁。これらの)事実に加え,上記に認定した出血性ショックの診断項目である各種検査も一部しか行われていないという状況も併せ考えると,個人診療所である被告診療所には,Fに対し,必要な処置を実施するための人的及び物的体制が整っていなかったといわざるを得ない。 そうであれば,被告Cには,遅くとも18時の時点で,上記体制を有する高次医療機関への搬送を決断すべき注意義務があったものと判断するのが相当である。 文献上も,産科の出血性ショックの治療には多くのスタッフを要し,緊急時の対応が可能な大病院で対処すべきであり,中でも,分娩後輸血を必要とする症例は,今後も出血が増加する可能性があるから,大病院への搬送が望ましい旨の知見が存在するほか(甲B19号証1708頁,M医師も,1)8時に助産師から出血量と血圧の報告を受けた時点で,搬送を決断すべきであったと述べており(甲A17号証,上記判断を裏付けている。 )ウこの点につき,被告らは,医師が診察することなく搬送を決断することは に助産師から出血量と血圧の報告を受けた時点で,搬送を決断すべきであったと述べており(甲A17号証,上記判断を裏付けている。 )ウこの点につき,被告らは,医師が診察することなく搬送を決断することは相当でないと主張する。 しかし,上記認定・判断のとおり,出血性ショックに対しては,速やかな処置が何よりも重要となるところ,搬送を決断してから実際に患者が高次医 療機関に搬送され,処置が開始されるまでに一定の時間を要することは,当然予見されることであるから,医師には,それらの時間も見越した上で手遅れにならないよう早期に搬送を決断することが求められているというべきである。そして,医師による診断ないし処置は,搬送を決断し,その旨の指示を看護師等に出してから救急車が到着するまでの間,あるいは搬送先に到着するまでの間に救急車に同乗して行うことも可能である。仮に,搬送指示後あるいは搬送先で,結果的に搬送を要しない程度の症状であることが分かったとしても,その措置の妥当性が問題となることはない(甲A17号証9及び10頁。 )さらに,分娩時出血量としては,500を超えると異常とされているmlところ(甲B11号証1733頁,甲B13号証361頁,本件に関して)いえば,上記認定のとおり,遅くとも17時20分に200gの出血の報告がI助産師から被告Cになされた時点で,合計出血量は既に500を確ml実に超えていたのであるから,上記時点で被告Cが診察を行うべきであったとも考えられる。 以上によれば,被告Cの診察が未了であったことは,搬送の決断を遅らせる合理的な理由にはならないというべきである。したがって,上記被告らの主張は採用できない。 エなお,18時の時点では搬送義務は認められないとする被告らの主張に沿うものとして,L医師の意見(乙B6及び7号証) 理由にはならないというべきである。したがって,上記被告らの主張は採用できない。 エなお,18時の時点では搬送義務は認められないとする被告らの主張に沿うものとして,L医師の意見(乙B6及び7号証)が存在するので,念のため,これについて検討する。 L医師は,上記意見の前提として,ホスピタルマットに含まれる血液量は無視してよい旨述べているが,前記認定のとおり,本件において,ホスピタルマットに染みこんだ血液量を0と推定するのは適切ではない。 mlすなわち,同医師は,主として,18時16分から始まった子宮内容清掃術で出血を確認した時点で,出血量が1000を超えたこと,及び,シml ョック症状を呈していることを理由に,搬送を決断すべきであったと述べているところ,前記認定のとおり,18時の時点で,出血量が1000前ml後である可能性が高いこと,及びFが出血性ショック症状を示していることを被告Cは認識し得たのであるから,同医師の意見は,前提とする事実に誤認があるといわざるを得ない。 ,。 以上のとおりであり上記L医師の意見は直ちに採用することはできないオ上記に認定した注意義務にもかかわらず,被告Cは,高次医療機関への搬送をせず,19時00分及び20時40分に至ってようやく輸血用血液の手配を指示し,19時35分に医師の応援要請を指示したのみであるから(別紙診療経過一覧表,被告Cには,上記注意義務に違反して,高次医療機関)への搬送を怠った過失が認められる。 争点( )イ(高次医療機関への搬送義務違反の有無-因果関係の存否)につ いて( )そこで,上記過失行為(以下「本件不法行為」という)と損害との間 。 に因果関係があるか否か,すなわち18時の時点で搬送を決断した場合に死亡という結果を回避することができたか否かについて判 ( )そこで,上記過失行為(以下「本件不法行為」という)と損害との間 。 に因果関係があるか否か,すなわち18時の時点で搬送を決断した場合に死亡という結果を回避することができたか否かについて判断する。 ア名古屋市内においては,搬送依頼があってから救急車が依頼元の病院に到着するまで約5分,救急車が依頼元の病院に到着してから搬送先が決まるまでに約5分,依頼元の病院を出発してから搬送先の病院に到着するまでに約10分,搬送先の病院に到着してから輸血が開始されるまでに約5分を要する(甲A17号証12ないし14頁。 )これによれば,被告Cが,18時にFの搬送を決断した場合,おおよそ18時05分ころに救急車が被告診療所に到着し,18時10分ころに搬送先が決定し,18時20分ころに救急車が搬送先に到着し,18時25分ころには輸血を開始することが可能であったと認められる。 なお,I助産師は,労災病院であれば,被告診療所を出発してから5分 で到着する旨述べており(甲A10号証の3,19頁,これによれば,)18時25分より更に以前の時点で輸血を開始することができたことになる。 イ実際の経過としては,19時05分にFから息苦しさの訴え,19時32分に嘔気の訴えがあり,19時35分に意識不明となり,心停止になったのが19時53分であった。なお,18時25分に近接した18時26分に血圧につき収縮期圧66弛緩期圧不明という所見がある以,,(mmHg上,別紙診療経過一覧表。 )ウ心臓がある程度拍動している状態であれば,救命の可能性は大きいが,心停止が起こった後では,救命は非常に難しい(甲A17号証11頁。 )( )上記( )ア及びイによれば,18時に被告Cが搬送を決断していれば,実 際に心停止を起こした時より80分以上早い時点 心停止が起こった後では,救命は非常に難しい(甲A17号証11頁。 )( )上記( )ア及びイによれば,18時に被告Cが搬送を決断していれば,実 際に心停止を起こした時より80分以上早い時点から輸血等の処置を開始できたところ,上記( )ウに従えば,Fの死亡という結果を回避できた蓋然性 が高いと認められる。 この点,M医師は,18時16分に搬送を決断したとしても救命可能である旨,上記認定を裏付ける意見を述べているところ(甲A17号証,同医)師の上記意見は,Fの具体的な状態や名古屋市の救急救命体制等を踏まえた上で詳細な理由付けがなされており,信用することができる。 また,その回復の程度についても,障害が残らずに社会復帰できる程度に回復したものと認められる(甲A17号証30頁。 )( )なお,上記時点において救命可能性はなかったとする被告らの主張に沿 うものとして,L医師の意見(乙B6及び7号証)及びO医師の意見(乙B10及び13号証)があるが,以下の理由により,いずれも上記認定を覆すまでのものと評価することはできない。 アまず,両医師の意見は,基本的に18時16分の時点に搬送を決断した場合の救命可能性に関するものであり,18時の時点で搬送を決断した場 合の救命可能性については,十分な検討がなされていない。 イさらに,両医師は,救命が困難と考えられる理由として,DIC(汎発性血管内血液凝固症候群)発症の可能性を挙げている。確かに,出血性ショックは産科DICの基礎疾患となり得るが(乙B2号証606頁,本)件では高次医療機関への搬送がなされなかった結果,産科DICか否かを判断するのに必要な各種検査(乙B2号証606及び607頁)が行われていないという状況にあり,Fが産科DICを発症していたと認定するに足りる的確な証拠はな 送がなされなかった結果,産科DICか否かを判断するのに必要な各種検査(乙B2号証606及び607頁)が行われていないという状況にあり,Fが産科DICを発症していたと認定するに足りる的確な証拠はない。 加えて,産科におけるDICの治療は,その病変が早期のうちに診断され,治療されることにより,多くの場合救命可能とされているところ(乙B2号証608頁,FにDIC様の出血傾向が最初に見られたのは21)()時ころであったこと乙A1号証9頁並びに甲A17号証17及び18頁を考えると,18時25分ころに必要な処置を開始していれば,Fを救命できた蓋然性は高いといえる。 ウその他にL医師が挙げる理由も,結局は不確定要素が多すぎるということに尽き,漠然としているとの印象を否めないから,上記認定・判断を覆すことはできない。 エO医師の指摘するARDS(急性呼吸窮迫症候群)についても,DIC同様,Fがこれに罹患していたと認定するに足りる的確な証拠はない。 ( )以上のとおりであり,本件不法行為とFの死亡との間に因果関係を認め るのが相当である。 したがって,その余につき判断するまでもなく,被告Cは,Fの死亡につき不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判断できる。 争点( )(損害)について ( )逸失利益 Fは,死亡した平成12年当時,いまだ31歳であり,仕事を辞め,出 産・育児に専念する予定でいたことから(弁論の全趣旨,同人の死亡に伴)う逸失利益は,平成12年の女子労働者全年齢平均賃金349万8200円を基礎として,以下の計算式により,4051万8811円と認められる。 ×(就労可能年数36年のライプニッツ係数)×(生3,498,20016.54680.740,518,811活費控除30パーセント)=( )F本人 4051万8811円と認められる。 ×(就労可能年数36年のライプニッツ係数)×(生3,498,20016.54680.740,518,811活費控除30パーセント)=( )F本人の慰謝料 Fが原告Bの配偶者であると同時に,本件当時生まれたばかりであった原告Aの母親であることなどの事情を考慮し,Fの慰謝料は,2400万円をもって相当と判断する。 ( )葬儀費用 本件不法行為によりFが死亡したことにより生じた葬儀費用のうち,本件不法行為と相当因果関係のある損害として,150万円を認める。 ( )原告ら固有の慰謝料 本件不法行為により原告Bは突然配偶者を失い,原告Aは出生と同時に母を失ったものであり,いずれもF本人の慰謝料によっては慰謝されない精神的苦痛を被ったと認められるところ,本件に現れた一切の事情を勘案して,近親者慰謝料として,原告らそれぞれにつき,200万円の慰謝料を損害として認める。 ( )弁護士費用 原告らが本件訴訟の提起・遂行を原告ら代理人に委任したことは,本件記録上明らかであるところ,本件事案の内容,審理の経過,認容額その他,,本件に現れた一切の事情を斟酌すれば本件訴訟に係る弁護士費用のうち原告らそれぞれにつき350万円を本件不法行為と相当因果関係のある損害として認める。 ( )小括 上記( )ないし( )の合計は6601万8811円であるところ,その2 分の1に( )及び( )も合わせると,原告B及び原告Aに支払われるべき損 害額は,それぞれ3850万9405円となる。 争点( )(消滅時効)について ( )不法行為の消滅時効については,民法724条が「不法行為による損害 賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時か,。」 。 争点( )(消滅時効)について ( )不法行為の消滅時効については,民法724条が「不法行為による損害 賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時か,。」,ら三年間行使しないときは時効によって消滅すると定めているところ「損害及び加害者を知った時」とは,被害者又はその法定代理人において,加害者に対する賠償請求が可能な状況の下に,その可能な程度においてこれらを知った時を意味すると解される(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻11号16頁参照。 )さらに,使用者責任における「加害者を知った時」とは,被害者又はその法定代理人において,使用者並びに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて,一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足る事実をも認識した時であると解される(最高裁昭和44年11月27日第一小法廷判決・民集23巻11号2265頁参照。 )( )上記( )に照らし本件を検討する。前記前提となる事実のとおり,Fは平 成12年8月31日に死亡したものであるが,死亡したFはもちろん,原告B(原告Aの法定代理人親権者でもある)もFの出産に立ち会っており,同日の時点で,主治医が被告Cであることのほか,同日における経緯の概要を知っていたものと認められる。また,原告BがFの遺体を冷凍保存していたことからすれば(甲B1号証,同人が,Fの死亡が被告診療所の処置によ)るものであるとの疑いを抱いていたものと認められる。さらに,F及び原告Bは,被告診療所の所長が被告Dであることも知っていたと認められる(弁論の全趣旨。 ) とすれば,Fが死亡した平成12年8月31日の時点で,原告Bは,Fの死亡という損害が生じたこと,加害者が被告C ,被告診療所の所長が被告Dであることも知っていたと認められる(弁論の全趣旨。 ) とすれば,Fが死亡した平成12年8月31日の時点で,原告Bは,Fの死亡という損害が生じたこと,加害者が被告Cであること,及び,被告Cは被告Dの被用者であり,使用者の事業である医療業務の執行につきFを死亡させたことなどの事情につき,賠償請求が可能な程度にこれらを知ったと認められる。 そうすると,本件不法行為に基づく損害賠償請求権については同日から消滅時効が進行し,本件訴訟が提訴された平成16年2月26日より以前の時点である平成15年8月31日経過時に,消滅時効が完成したことになる。 もっとも,被告Cとの関係では,平成15年8月28日到達の内容証明郵便により消滅時効は中断されていると認められるが(民法153条参照。甲C3号証の1及び2,被告Dとの関係ではそのような時効中断事由の存在は)認められない。 そして,被告Dは平成18年6月9日付け第6準備書面により上記消滅時効を援用するとの意思表示をしている(当裁判所に顕著な事実。 )したがって,被告Dについては,少なくとも,被告Cの本件不法行為につき使用者責任を負うと考えられるが,消滅時効の援用により,その損害賠償債務が消滅したことが明らかであるから,その余について判断するまでもなく,原告らの被告Dに対する請求は理由がない。 結論 以上の次第で,原告らの本件各請求は主文第1,2項の限度で理由があるから,これらを認容し,その余は棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官加藤幸雄裁判官寺本明広裁判官大野千尋 主文 行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。 理由 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官加藤幸雄 裁判官寺本明広 裁判官大野千尋

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る