令和4年9月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(行ウ)第89号遺族補償給付等不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日令和4年7月4日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求渋谷労働基準監督署長が原告に対して平成30年1月16日付けでした 労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は、訪問介護事業及び家政婦紹介あっせん事業等を営む株式会社に家政婦兼訪問介護ヘルパーとして登録されていたB(以下「亡B」という。) が平成▲年▲月▲日に死亡したことにつき、亡Bの夫である原告が、亡Bは、7日間にわたり要介護者宅に住み込み、訪問介護ヘルパーとして訪問介護サービス業務に従事したほか、家政婦として家事及び介護業務に従事するなど24時間対応を要する過重な業務に就いたことに起因して勤務終了日後ほどなく急性心筋梗塞又は心停止を発症し、死亡したとして、渋谷労働基準監 督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ、同労働基準監督署長が亡Bについては労働基準法116条2項所定の「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労働者災害補償保険法は適用されないという理由で上記の保険給付をいずれも不支給とする処分をしたことから、被告に対し、上記の各処分には違法があると主張して、 その取消しを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠(証拠番号に枝番を含む場合、特に枝番を掲記しないときは、全ての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から容易に認定することができる事実 。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠(証拠番号に枝番を含む場合、特に枝番を掲記しないときは、全ての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から容易に認定することができる事実。なお、証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)⑴ 当事者等 ア原告は、亡B(昭和▲年▲月▲日生・女性)の配偶者である。 イ亡Bは、かねて介護福祉士の資格を有していたところ、平成25年8月18日、株式会社山本サービス(以下「本件会社」という。)に対し、就職希望条件を通勤による家庭での家事及び介護業務等と記載した求職票を提出して家政婦(求職者)としての登録を行い(以下、本件会社 に家政婦の求職者として登録された者を「登録家政婦」という。)、同月20日には本件会社との間で業務内容を非常勤の訪問介護ヘルパー(ホームヘルパー)とする労働契約を締結した(甲9、乙3、12、14、弁論の全趣旨)。 なお、亡Bは、本件会社に家政婦として登録した後、家事業務のほか 介護作業にも従事していたが、特別加入団体の構成員として政府の承認を受けておらず(甲9)、特別加入による労災保険の適用を受けていなかった(令和2年法律第14号による改正前の労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)33条5号、35条、平成30年厚生労働省令第13号による改正前の労働者災害補償保険法施行規則5条、 介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律2条1項、同法施行規則1条参照)。 ウ本件会社は、東京都世田谷区に本社事務所を置いていた株式会社であり、昭和54年10月1日の設立以降、有料職業紹介事業の大臣許可を受けて家政婦等の紹介あっせん業等を営んでいたが、平成12年4月に 介護保険法に基づく介護保険制度が開始されたことに 式会社であり、昭和54年10月1日の設立以降、有料職業紹介事業の大臣許可を受けて家政婦等の紹介あっせん業等を営んでいたが、平成12年4月に 介護保険法に基づく介護保険制度が開始されたことに伴い、それ以降は、 介護保険事業者として、居宅介護支援、要介護者等の日常生活における訪問介護サービス、介護用品及び福祉用品等の販売並びにレンタル等の事業も併せて行うようになった。 なお、本件会社は、平成28年4月1日、事業譲渡により株式会社ココカラファインの子会社となった後、平成30年1月1日、同社の親会 社である株式会社ファインケアに吸収合併されたことにより解散した。 (甲9、乙9ないし11、弁論の全趣旨)⑵ 亡Bの就労状況等ア亡Bは、本件会社に家政婦として登録した後、本件会社から紹介あるいはあっせんを受けて個人宅や障害者施設等において家政婦として勤 務していた(甲9、乙20の3ないし7)。 イ C(大正▲年生・女性。以下「C」という。)は、かねてから重度の認知症を発症して自宅(以下「C宅」という。)で寝たきりの状態にあり、介護認定においても要介護状態区分5(最重度)の認定を受けていた。そのため、Cの息子は、平成27年以前から、本件会社に住込み勤 務が可能な介護資格を有する登録家政婦を家政婦兼訪問介護ヘルパーとして紹介してもらい、当該登録家政婦から訪問介護サービスを受けるとともに、家政婦としてCの介護やC宅の家事を行ってもらっていた。 ウ亡Bは、本件会社から、C宅において家政婦兼訪問介護ヘルパーとして勤務していた登録家政婦が平成▲年▲月▲日から同月▲日まで休暇 を取得することとなったため、上記の期間、上記の業務を代わってもらいたい旨を打診されてこれに応じ、同月▲日から同月▲日朝までの間 て勤務していた登録家政婦が平成▲年▲月▲日から同月▲日まで休暇 を取得することとなったため、上記の期間、上記の業務を代わってもらいたい旨を打診されてこれに応じ、同月▲日から同月▲日朝までの間、C宅に住み込んで、家政婦として家事及び介護を行う業務(以下「本件家事業務」という。)に従事するとともに、訪問介護ヘルパーとしてCに対して訪問介護サービスを提供する業務(以下「本件介護業務」とい う。)に従事した。 ⑶ 亡Bの本件疾病の発症及び死亡状況等亡Bは、C宅における前記⑵ウの業務を終えた当日の平成▲年▲月▲日午後3時半頃、東京都府中市内の入浴施設に入店したが、同日午後11時30分頃、同施設のサウナ室内で倒れているところを施設従業員に発見され、多摩総合医療センターに救急搬送されたものの既に心肺停止の状態で あり、同月▲日午前零時43分、搬送先病院において、急性心筋梗塞又は心停止(心臓性突然死を含む。以下「本件疾病」という。)による死亡が確認された(乙1)。 ⑷ 本件訴訟に至る経緯等ア原告は、平成29年5月25日、渋谷労働基準監督署長(以下「処分 行政庁」という。)に対し、亡Bの死亡は本件会社の業務に起因するものであるとして、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求した(以下「本件各申請」という。)。これに対し、処分行政庁は、平成30年1月16日、亡Bは家事使用人として介護及び家事の仕事に従事していたが、家事使用人は労働基準法(以下「労基法」という。)11 6条により同法の適用が除外されており、労災保険法も適用されないとして、上記の保険給付をいずれも不支給とする旨の処分(以下「本件各処分」という。)をし、その頃、その旨を原告に通知した(甲5、弁論の全趣旨)。 イ原告は、同年 ており、労災保険法も適用されないとして、上記の保険給付をいずれも不支給とする旨の処分(以下「本件各処分」という。)をし、その頃、その旨を原告に通知した(甲5、弁論の全趣旨)。 イ原告は、同年4月2日、本件各処分を不服として審査請求を行ったが、 東京労働者災害補償保険審査官は、同年9月4日、原告の審査請求を棄却する旨の決定をし、その頃、その旨を原告に通知した(乙4、弁論の全趣旨)。 ウ原告は、同年10月16日、上記イの決定を不服として再審査請求を行ったが、労働保険審査会は、令和元年9月11日、原告の再審査請求 を棄却する旨の裁決をし、同月12日、その旨を原告に通知した(甲6、 弁論の全趣旨)。 エ原告は、令和2年3月5日、本件各処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 オ被告は、本件訴訟において、本件各処分の処分理由として、前記アの理由に加え、亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果は業務上の事由による ものとはいえないという理由を追加して主張した(以下「被告による処分理由の追加」ということがある。)。(当裁判所に顕著な事実) 3 関係法令及び行政通達の定め等⑴ 関係法令等ア労災保険法に基づく保険給付は、労働者の負傷又は疾病が業務上のも のと認められること(以下「業務起因性」という。)が支給要件の一つとされており(同法7条1項1号、12条の8第1項1号及び2号並びに2項、労基法75条1項、76条1項)、保険給付の対象となる業務上の疾病(以下「対象疾病」という。)の内容及び範囲は、労働基準法施行規則(以下「労基法施行規則」という。)別表第1の2(以下単に 「別表」という。)に定められているところ(労基法75条2項、労基法施行規則35条)、別表8号は、対象 及び範囲は、労働基準法施行規則(以下「労基法施行規則」という。)別表第1の2(以下単に 「別表」という。)に定められているところ(労基法75条2項、労基法施行規則35条)、別表8号は、対象疾病の一つとして、「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病 に付随する疾病」を掲げている。 なお、本件疾病は別表8号所定の疾病類型に該当する(ただし、本件疾病が「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による」ものとして業務起因性を有するか否かは、当事者間に争いがある。)。 イ労基法116条2項は、「この法律は、同居の親族のみを使用する事 業及び家事使用人については、適用しない。」と定めており、「家事使用人」に該当する場合には、労働者の災害補償に関する同法第8章が適用されず、労災保険法も適用されない(同法12条の8第2項)。 なお、上記の「家事使用人」の意義については、「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事 を行う者は家事使用人に該当しない」という行政解釈が示されている(昭和63年3月14日付け基発第150号等。以下「150号基準」という。)。 ウ令和2年法律第14号による改正後の労災保険法では、第二節の二として複数業務要因災害に関する保険給付の項が新設され、要旨、事業主 が同一でない二以上の事業(特別加入により同法3条1項の適用事業とみなされる場合を含む。)に使用される労働者がそれらの事業に係る業務を要因として負傷、疾病、傷害又は死亡した場合に保険給付を行うものとされた ない二以上の事業(特別加入により同法3条1項の適用事業とみなされる場合を含む。)に使用される労働者がそれらの事業に係る業務を要因として負傷、疾病、傷害又は死亡した場合に保険給付を行うものとされた(同法20条の2ないし10、34条1項1号、35条1項1号等)。なお、上記の改正部分に係る改正法の施行日は、令和2年9 月1日である(令和2年法律第14号附則1条3号、令和2年6月政令210号)。 ⑵ 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(ただし、負傷に起因するものを除く。)の業務起因性の有無に関する行政庁の判断基準について被災労働者が業務に関して別表8号所定の脳血管疾患及び虚血性心疾 患等を発病した場合の業務起因性の有無の判断基準として、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛ての「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号。甲6、弁論の全趣旨)と題する行政通達(以下「認定基準」という。)が発出されているところ、その内容は、別 紙のとおりである。 4 争点及び争点に関する当事者の主張本件の主な争点は、⑴亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当することを理由にされた本件各処分の適法性の有無(亡Bが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務といえるか)(争点⑴)、⑵被告による処分理由の追加は許されるか(争点⑵)、⑶争点 ⑵が肯定された場合、亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果の発生につき業務起因性が認められるか(争点⑶)であり、これらに関する当事者の主張は、以下のとおりである。 ⑴ 争点⑴(亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当することを理由にされた本件各処分の 務起因性が認められるか(争点⑶)であり、これらに関する当事者の主張は、以下のとおりである。 ⑴ 争点⑴(亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当することを理由にされた本件各処分の適法性の有無(亡Bが従事していた本件家 事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務といえるか))について(被告の主張)亡Bは、平成▲年▲月▲日から同月▲日の朝までの間、本件会社に雇用される訪問介護ヘルパーとしてCに対し介護保険法の適用を受ける訪問 介護サービスを提供する業務(本件介護業務)及び家政婦としてC宅における家事及び介護を行う業務(本件家事業務)に従事していた。しかして、上記の各業務のうち本件家事業務は、亡BとCの息子との間で締結された雇用契約に基づく業務であって、本件会社の業務として行われていたものではない。 すなわち、本件会社は、求職者たる登録家政婦を求人者に紹介し、求人者たる雇用主と登録家政婦との間の家政婦を業務とする雇用契約の成立をあっせんすることを業としており、具体的な家政婦としての家事労働は登録家政婦と就業先の雇用者との雇用契約に基づいて行われていた。この点、本件会社は、家政婦を紹介あるいはあっせんするに際して、求人者に 上記の雇用契約に係る基準となる賃金額を示すことはあったが、具体的な 賃金額は雇用主と登録家政婦との間の雇用契約によって決定されており、また、本件会社が雇用先における家政婦の業務遂行に関して登録家政婦に直接指示をしたり、報告を求めるといったことはしていなかった。また、家政婦が訪問介護ヘルパーを兼務した場合、その訪問介護サービスの提供業務は本件会社の業務として行われることとなるので、当該業務に係る部 分の賃金については本件会社が支払っ していなかった。また、家政婦が訪問介護ヘルパーを兼務した場合、その訪問介護サービスの提供業務は本件会社の業務として行われることとなるので、当該業務に係る部 分の賃金については本件会社が支払っていたが、その余の家政婦としての家事労務の提供に係る部分の賃金は基本的には雇用主から家政婦に直接支払われるか、雇用主から本件会社に一旦交付され、本件会社を通じて家政婦に支払われていた。 以上のとおり、C宅における亡Bの業務のうち本件介護業務については 本件会社の指揮命令下で遂行されていたといえるが、本件家事業務については、亡BとCの息子との間で締結された雇用契約に基づいて行われていたものであり、業務内容は家事に関するものであるから、亡Bは、150号基準にいう「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者」には当たらず、労基法116条2 項の「家事使用人」に該当する。そうすると、亡Bについては、労基法75条ないし77条、79条及び80条の適用はなく、労災保険法も適用されないこととなるから(労災保険法12条の8第2項)、亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果の発生に関し、同法に基づく保険給付を支給することはできない。 なお、原告は、労基法116条2項が憲法に違反する旨を主張するが、いずれも争う。 (原告の主張)ア亡Bは「家事使用人」(労基法116条2項)に該当しないこと本件会社の家政婦兼訪問介護ヘルパーは、勤務先において、家政婦と しての家事業務と訪問介護ヘルパーとしての訪問介護サービスを提供 しており、求人者側も訪問介護サービスと家政婦としての家事業務が一体となったサービスの提供を受け、その対価として介護分と家政婦分を合わせた料金 問介護ヘルパーとしての訪問介護サービスを提供 しており、求人者側も訪問介護サービスと家政婦としての家事業務が一体となったサービスの提供を受け、その対価として介護分と家政婦分を合わせた料金を支払っていた。この点、厚生労働省老健局は、各都道府県介護保険担当課宛の平成17年9月14日付け事務連絡において、いわゆる「住み込み」により同一介護者が、訪問介護を1日数時間行い、 24時間のうち残りの時間を「家政婦」として家事や介護のサービスを行う場合、サービス内容が明確に区分できない以上、介護報酬を算定することはできないが、所定の要件を満たすことで訪問介護とそれ以外の部分を明確に区別できるときは介護報酬を算定できるものと通知していたところ、本件会社の家政婦兼訪問介護ヘルパーについては、上記の 事務連絡が規定する所定の要件を満たしていなかった。このように見れば、本件会社は、家政婦派遣事業又は家政婦請負業を営む者であるといえるから、150号基準所定の「個人家庭における家事を事業として請け負う者」に該当する。さらに、本件会社の登録家政婦は、本件会社による紹介に関して諾否の自由はなく、労働条件や訪問介護サービス業務 はもとより、同業務と一体をなす家政婦業務についても本件会社から具体的な業務内容が指示され、登録家政婦からも本件会社に業務の実施報告がされていた。そうすると、本件会社の家政婦兼訪問介護ヘルパーは本件会社との間で業務遂行上の指揮監督を受けていたといえるから、亡Bは、前記のとおり「個人家庭における家事を事業として請け負う者」 である本件会社に雇用され、本件会社の指揮命令の下に上記の各業務を行っていたといえ、150号基準所定の「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者」 である本件会社に雇用され、本件会社の指揮命令の下に上記の各業務を行っていたといえ、150号基準所定の「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者」に該当する。 以上のとおり、本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社 の業務といえ、そうすると、亡Bは本件会社の業務に従事する者であっ て「家事使用人」(労基法116条2項)には該当しないから、これを理由としてされた本件各処分には労基法116条2項の適用を誤った違法がある。 イ労基法116条2項は憲法違反であるため亡Bには適用されないこと 仮に亡BがCの息子に雇用されているとした場合、Cの息子は「個人家庭における家事を事業として請け負う者」ではないから、亡Bは家事使用人に該当することになる。しかし、労基法116条2項は、次のとおり憲法に違反する規定であるから、亡Bが同規定に該当したとしても労基法の適用除外となるとはいえない。 憲法27条2項違反憲法27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定しているところ、労基法116条2項は、「家事使用人」について労基法の適用を除外し、上記の勤労条件について法律で定まっていない状態とするものである から、憲法27条2項に違反する。 憲法14条違反「家事使用人」について労基法が適用されないことになれば、女性がほとんどを占める家事使用人につき通常の労働時間を超える労働をしても割増賃金が発生しない等の経済的に不合理な格差が生じる のであって、これは「家事使用人」という社会的身分や性別を理由とした経済的差別であるとともに平成23年6 常の労働時間を超える労働をしても割増賃金が発生しない等の経済的に不合理な格差が生じる のであって、これは「家事使用人」という社会的身分や性別を理由とした経済的差別であるとともに平成23年6月16日に採択されたILO第100回総会における「家事労働者の適切な仕事に関する条約(第189号条約)」にも反する。 ⑵ 争点⑵(被告による処分理由の追加は許されるか)について (原告の主張) 本件各処分は、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当するため労災保険法が適用されないという手続的要件を理由に労災保険給付を支給しないとした処分であるのに対し、被告が処分理由として追加した業務起因性の不存在は労災保険給付の実体的支給要件の不存在をいうものであるから、労災保険法に基づく労災補償給付不支給決定の取り消し訴訟に おいて処分理由の差し替えを認めなかった最高裁判決(最高裁平成2年(行ツ)第45号同5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻2号473頁。 以下「平成5年最判」という。)の場合と同様に、処分の同一性の範囲を超え、行政庁の第一次判断権を侵害するものとして許されないというべきである。 (被告の主張)ア行政処分の取消訴訟において、当事者である被告は、当該処分をするに際して処分理由として考えていたものに限られず、処分の同一性を失わない限り、原則として、当該処分の効力を維持するために一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきである (最高裁昭和51年(行ツ)第113号同53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)。そして、処分の同一性の有無は、当該処分の根拠たる個別の実定行政法規の解釈、すなわち処分要件の内容、趣旨、性質、処分の効果などを具 3号同53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)。そして、処分の同一性の有無は、当該処分の根拠たる個別の実定行政法規の解釈、すなわち処分要件の内容、趣旨、性質、処分の効果などを具体的に考慮して判断する必要があるところ、労災保険給付の不支給決定の取消訴訟においては、給付の種 類が同一で、「傷病」及び「災害原因」が同じであれば、処分の同一性は認められるというべきである。 イまた、本件各処分には前記2⑷アのとおりの処分理由が提示されており、亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当し、これにより労基法が適用除外となるから労災保険法も適用されないという理 由で本件各処分がされたことは容易に読み取ることができ、処分庁の判 断の慎重と合理性を担保しその恣意を抑制するという行政手続法14条1項の趣旨は実現されている。したがって、処分に理由付記が求められていることとの関係からみても、被告が本件訴訟において業務起因性の不存在を追加的に主張することが制限されるとはいえない。 ウ以上によれば、家事使用人に該当することを理由としてされた本件各 処分の取消訴訟において、業務起因性の不存在を処分理由として追加することは許されるというべきである。 ⑶ 争点⑶(亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果の発生につき業務起因性が認められるか)について(原告の主張) ア亡BはC宅における業務により本件疾病を発症したこと本件家事業務の休憩時間は午前零時から午前5時とされ、それ以外は休むことは想定されていなかった。さらに、亡Bは、C宅においてCと同室で就寝することとされていたが、Cの息子が寝かしつけに時間をかけるため、なかなか寝付けず、さらに、夜間も2時間おきにおむつ換え は休むことは想定されていなかった。さらに、亡Bは、C宅においてCと同室で就寝することとされていたが、Cの息子が寝かしつけに時間をかけるため、なかなか寝付けず、さらに、夜間も2時間おきにおむつ換え を行うようCの息子から指示されていたことから、亡BのC宅における勤務は事実上24時間労働であった。しかも、亡Bは、Cの息子から始終介護の内容、方法等について細かく指示されたことで極めて不規則な勤務を強いられ、Cも認知症のため介護忌避が強かった。以上の事情からすると、亡Bの業務は、認定基準所定の「精神的緊張を伴う業務」の うち「顧客との大きなトラブルや複雑な労使紛争の処理等を担当する業務」及び「周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務」に該当し、そうすると、亡Bが死亡前おおむね1週間である平成▲年▲月▲日から同月▲日朝までの間に従事した本件家事業務及び本件介護業務は、認定基準所定の「短期間の過重業務」に該当するから、本件会社の業務と本 件疾病の発症及び亡Bの死亡結果との間には業務起因性がある。 イ亡Bがサウナ浴をしたことにより本件疾病を発症したものではないこと被告は、亡Bの死亡結果は、サウナ浴をしたことに起因する旨を主張する。この点、亡Bが発見されたのはサウナ室内であったが、亡Bには循環器系の既往症はなく、また、上記のサウナ室は低温サウナ(44℃ 程度)であったから、亡Bがサウナ浴をしたことにより本件疾病を発症したとはいえない。 (被告の主張)ア亡Bは、平成▲年▲月▲日から同月▲日朝まで、C宅において本件介護業務及び本件家事業務に従事していたところ、本件介護業務は本件会 社の業務であったが、本件家事業務はCの息子との雇用契約に基づく業務であって本件会社の業務ではな 日朝まで、C宅において本件介護業務及び本件家事業務に従事していたところ、本件介護業務は本件会 社の業務であったが、本件家事業務はCの息子との雇用契約に基づく業務であって本件会社の業務ではなかった。しかして、訪問介護計画書等において設定された本件介護業務の所要時間は1日当たり4時間30分で、上記の就労期間中の労働時間を合計しても31時間30分であって、実際の稼働時間もこれを大きく上回るようなものではなかったから、 本件介護業務は、認定基準所定の「発症前おおむね1週間の特に過重な業務」には該当しない。また、亡Bが発症前おおむね6か月間に本件会社の業務として1か月当たり45時間を超える時間外労働を行ったとはいえず、認定基準所定の「発症前おおむね1週間以内に異常な出来事に遭遇した」という事実もない。 したがって、本件会社の業務である本件介護業務と本件疾病の発症及び亡Bの死亡結果との間に業務起因性は認められない。 イ亡Bの死亡は、専らサウナ利用という業務外の危険に起因している可能性が高く、この点からも本件会社の業務と亡Bの死亡との間に相当因果関係は認められない。これに対し、原告は、亡Bが利用していたのは 低温サウナであるから、亡Bがサウナ浴をしたことにより本件疾病を発 症したとはいえない旨を主張するが、41度から42度の入浴でも虚血性心疾患に陥るリスクがあることが指摘されていることから、低温サウナであっても虚血性心疾患に陥るリスクはあるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記第2の2の前提事実並びに後掲の各証拠(証拠番号に枝番を含む場合、特に枝番を掲記しないときは、全ての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 家 実 前記第2の2の前提事実並びに後掲の各証拠(証拠番号に枝番を含む場合、特に枝番を掲記しないときは、全ての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 家政婦の紹介・あっせん及び介護保険法の定める訪問介護サービスの概要等 ア介護保険法の定めるいわゆる訪問介護サービスについて訪問介護サービスの内容及び一般的な運用等について訪問介護サービスは、介護保険法が定める保険給付である介護給付に含まれる居宅サービスの一類型であり、概要、都道府県や市町村から指定を受けた訪問介護事業者に所属する介護福祉士や所要の研修 を修了した有資格者である訪問介護員(いわゆるホームヘルパーあるいは訪問介護ヘルパー。以下「訪問介護ヘルパー」という。)が、要介護認定を受けた利用者(要介護者)の居宅を訪問し、身体介護(入浴・排泄・食事等の介護)、生活援助(調理・洗濯・掃除等の家事の提供)、通院等乗降介助を行うというサービスであり、利用できるサ ービスの内容や要介護者の要介護状態区分に応じて介護保険法の給付を受けることができるサービスの上限等が定められている。 訪問介護サービスの実施内容は、居宅介護支援事業所等に所属する介護支援専門員(いわゆるケアマネジャー)が居宅サービス計画(いわゆるケアプラン)を作成し、訪問介護事業者に所属するサービス提 供者がケアプランに沿って利用者の同意を得た上で具体的な訪問介護 計画を作成することにより定まり、訪問介護ヘルパーは、居宅サービス計画及び訪問介護計画に基づき、実際の訪問介護サービスを提供することになっていた。 訪問介護サービスに対して支払われる介護報酬額は、介護保険法においてサービス内容や時間等に応じて定め ス計画及び訪問介護計画に基づき、実際の訪問介護サービスを提供することになっていた。 訪問介護サービスに対して支払われる介護報酬額は、介護保険法においてサービス内容や時間等に応じて定められており、利用者は前年 所得に応じてその1割又は2割(平成30年以降は一部3割負担)を自己負担分として訪問介護事業者に支払い、残額は訪問介護事業者が保険請求をして介護保険から訪問介護事業者に支給されるという仕組みとなっている。 訪問介護ヘルパーについて 訪問介護事業者に所属して利用者宅において訪問介護サービスを提供する訪問介護ヘルパーの勤務形態には、正社員などの常勤者、常勤者より所定労働時間が短時間であるが勤務日や労働時間が固定的な非常勤のほか、一定期間ごとに作成される勤務表により非定型的に勤務日を特定されたり、急な需要により臨時に雇い入れられる非定型 のパートタイム等の様々な形態があるが、訪問介護事業者と訪問介護ヘルパーとの間では、雇用契約が締結されるのが一般的であった。 イ家政婦の有料職業紹介・あっせんについて本件会社による家政婦の紹介・あっせんは、職業安定法4条1項所定の「職業紹介」(求人及び求職の申込みを受けた紹介・あっせん業 者において、求人者と求職者との間の雇用関係等の成立をあっせんすること)に該当し、本件会社は、同法4条3項、9項所定の要件を満たす有料職業紹介事業者であった。 有料職業紹介の場合、求職者は、有料職業紹介事業者に登録すること等により求職の申込みをし、同事業者から紹介ないしあっせんされ た求人者と面談等を行うことにより従事する業務の内容や労働条件等 について合意した上で業務に就き、同事業者は求人者から手数料等の支払を受けることになっていた 紹介ないしあっせんされ た求人者と面談等を行うことにより従事する業務の内容や労働条件等 について合意した上で業務に就き、同事業者は求人者から手数料等の支払を受けることになっていたが、求人者と求職者との間では、法形式上、求人者を使用者、求職者を労働者とする雇用契約が締結されることになっていた(乙5)。 ウ家政婦業務と訪問介護サービスの併用に関する行政の取扱いについて 平成12年4月以降、住込み家政婦として雇用契約を締結している者が、業務中の一部の時間に訪問介護ヘルパーとして訪問介護サービスを提供するといった事象が現れるようになったが、介護保険法を所管していた厚生労働省老健局老人保健課は、平成15年5月30日付けの事務連絡「介護報酬に係るQ&A」において、同一介護者が、訪 問介護を1日数時間行い、24時間のうち残りの時間を「家政婦」として介護のサービスを行う場合は、サービス内容が明確に区分できないため訪問介護費を算定できないという見解を示していた。 しかし、重度の要介護者で、かつ、独居の場合等は「住み込み」の形態により要介護者の在宅生活が支えられている実態があったこと や前示のようなケースにおいてもケアプラン上で明確にサービス内容が区分できるものとして介護報酬の算定を行っている自治体が散見されていたことから、同局老人保健課は、平成17年9月14日付けで「いわゆる『住み込み』により同一介護者が『訪問看護』と『家政婦』サービスを行う場合の介護報酬上の取扱いについて」と題する 事務連絡(以下「平成17年事務連絡」という。)を発出し、要旨、要介護度4若しくは5の者又は認知症により徘徊、異食、不潔行為、火の不始末などが見られるなど常時見守り等が必要である者又は独居若しくは独居に準ずる状態(同居 7年事務連絡」という。)を発出し、要旨、要介護度4若しくは5の者又は認知症により徘徊、異食、不潔行為、火の不始末などが見られるなど常時見守り等が必要である者又は独居若しくは独居に準ずる状態(同居者が要介護者である場合等介護ができない状態)である者について、適正なケアマネジメント及びそれ に基づく適正な訪問介護を確保するための条件が満たされる場合に は、いわゆる「住み込み」により同一介護者が訪問介護を1日に数時間行い、24時間のうち残りの時間を「家政婦」として家事や介護のサービスを行う場合であっても、「訪問介護」に係る部分についての介護報酬を算定できるものとして、前記の従前の取扱いを改めた(乙8)。 ⑵ 本件会社における家政婦の紹介・あっせん及び訪問介護事業の概要ア本件会社における家政婦の紹介・あっせん事業の概要 本件会社は、家政婦として就労を希望する求職者から就労場所(家庭・病院・施設)、職務内容(家事・介護)、就労形態(通勤・パート・住み込み)、就労希望曜日、就業時間、賃金等の就職希望条件や 資格等を記載した求職票の提出を受けて(求職申込み)、当該求職者を家政婦として登録し(登録家政婦。甲9、乙12)、家政婦の雇入れを希望する者(求人者)から、業務内容、勤務形態、賃金等を記載した求人票兼労働条件通知書の提出等により求人の申込みを受けると、登録家政婦の中から適切な者を選考し、当該登録家政婦に求人者 の要望や注意事項等を説明した上、当該登録家政婦が求人者との面接を希望すれば、求人票兼労働条件通知書を基に作成した紹介状を交付していた(甲7、9、乙13、弁論の全趣旨)。その際、本件会社では、求人者に対し、家政婦の基準額として1時間2000円、住込み一泊1万6000円を提 求人票兼労働条件通知書を基に作成した紹介状を交付していた(甲7、9、乙13、弁論の全趣旨)。その際、本件会社では、求人者に対し、家政婦の基準額として1時間2000円、住込み一泊1万6000円を提示していたが、当該登録家政婦は、求人者と の面接を経て賃金等の具体的な労働条件を決定し、家政婦業務に係る雇用契約を締結した上で就労することになっていた。(甲9、弁論の全趣旨) 登録家政婦は、家政婦業務に係る雇用契約に基づき、雇用主(求人者)から賃金の支払を受けることになっていたが、その際、雇用主(求 人者)が本件会社に支払うべき紹介手数料(登録家政婦に支払われた 賃金額の14%)も当該家政婦に交付され、当該家政婦を介して本件会社に支払われていたが、その際、本件会社は、紹介手数料額の確認のため、稼働日数と賃金額を聴取し、「求職者様賃金記録明細」に記録していた。もっとも、本件会社が雇用主から紹介手数料の支払に合わせて、家政婦業務に対する賃金を預かり、本件会社から登録家政 婦にこれを交付する場合もあった。(甲9、10、弁論の全趣旨) 家政婦業務について、本件会社が指示を出したり、報告を求めたりしたことはなく、雇用主である求人者から業務上の指示がされていた。 もっとも、家政婦が休暇を取得する場合は、雇用主と相談の上、本件会社において代替者を手配していた。(甲9) イ本件会社における訪問介護サービス事業の概要 本件会社は、介護保険法が適用される訪問介護サービスの提供業務のみを事業対象としていた。本件会社の上記業務に従事する訪問介護ヘルパーは、ほぼ非常勤のホームヘルパーとして本件会社と雇用契約を締結した者であり、本件会社は、非常勤のホームヘルパーとして就 労を希望 業対象としていた。本件会社の上記業務に従事する訪問介護ヘルパーは、ほぼ非常勤のホームヘルパーとして本件会社と雇用契約を締結した者であり、本件会社は、非常勤のホームヘルパーとして就 労を希望する者から登録申込みを受けて雇入れ希望登録者名簿に登録し、本件会社が訪問介護サービスの利用申込みを受けたときに、同社に所属するサービス提供責任者が作成した訪問介護計画書及びホームヘルパー業務指示書等の内容に照らし、登録されていたホームヘルパーの中から適当な者を選択して就労を要請し、当該ホームヘルパ ーが当該要請に応じた場合には、月契約又は1年以内の期間を定めて、利用者宅に派遣していた(甲9、乙14、16、17)。 本件会社から派遣された訪問介護ヘルパーは、訪問介護サービスを提供した後、サービス提供票に基づきサービス実施記録を作成して本件会社に提出しており、本件会社はサービス実施記録を基に給与明細 書を作成し、訪問介護ヘルパーに対して訪問介護サービス提供業務に 係る賃金を支払っており、常態的に超過勤務が生じる場合等はサービス提供責任者が実際の介護状況を確認し、ケアマネジャーがプラン変更の判断を行っていた。なお、訪問介護ヘルパーの賃金の基準額は、家政婦と同様に、1時間2000円、住込み1泊1万6000円とされていた。(甲9) ⑶ 亡BがC宅で勤務をするまでの経過等ア亡Bは、平成25年8月18日、本件会社に対し、通勤による家庭での家事及び介護業務であること等を就職希望条件として記載した求職票を提出して登録家政婦となり、同月▲日には非常勤の訪問介護ヘルパーとして雇用契約を締結した後、個人家庭又は障害者施設に勤務するよ うになったが、そのほとんどが本件会社からの紹介あるいはあっせんを受 して登録家政婦となり、同月▲日には非常勤の訪問介護ヘルパーとして雇用契約を締結した後、個人家庭又は障害者施設に勤務するよ うになったが、そのほとんどが本件会社からの紹介あるいはあっせんを受けた住込みの家政婦業務のみであり、C宅に勤務するまでの間に訪問介護ヘルパーとしての勤務歴はなかった(甲9、乙3、12、14)。 イ本件会社は、C宅において住込みの家政婦兼訪問介護ヘルパーとして勤務していた登録家政婦が平成▲年▲月▲日から同月▲日までの間、休 暇を取得することになったとして、Cの息子から交替可能な登録家政婦の求人申入れを受けた。本件会社は、亡Bに対し、上記の期間、C宅での家政婦兼訪問介護サービス業務に従事することを打診したところ了解が得られたことから、その頃、Cの息子に対し、従前の登録家政婦の代替者として亡BをC宅に訪問介護ヘルパーとして派遣し、また、家政 婦として紹介・あっせんする旨を伝え、Cの息子の了承を得た(甲7、乙13、弁論の全趣旨)。 ウ亡Bは、Cの息子との間で、期間を平成▲年▲月▲日から同月▲日朝まで、賃金を日給1万6000円とする労働条件で住込み家政婦として稼働する旨の雇用契約を締結し、同月▲日からC宅に住み込んで本件家 事業務に従事し始めた。同時に、亡Bは、上記の期間、本件会社の訪問 介護ヘルパーとしてC宅に派遣されて本件介護業務に従事した。(甲9)⑷ C宅における亡Bの就労状況等ア亡Bは、C宅において、午前零時から午前5時までの休憩時間を除く19時間のうち、午前8時から午前9時40分まで、午後零時から午後1時10分まで、午後3時30分から午後4時40分まで、午後8時か ら午後8時30分までの合計4時間30分間が本件介護業務の実施時間とされ、そ 、午前8時から午前9時40分まで、午後零時から午後1時10分まで、午後3時30分から午後4時40分まで、午後8時か ら午後8時30分までの合計4時間30分間が本件介護業務の実施時間とされ、その他の時間は本件家事業務に従事するものとされた(甲13、乙15ないし17、20)。本件家事業務には、2時間おきのおむつ交換(昼間8回、夜2回)、Cの息子の食事の支度、買い物、家の掃除等があった(甲11、乙17)。 イ Cは、認知症の影響で介護忌避が強く、従前から世話をしてもらう訪問介護ヘルパーに対しても大声で悪口等を述べることがあった。また、Cの息子は、介護の方法や実施時間等に関して訪問介護計画とは別に指示を出していたため、亡Bは、訪問介護計画通りに介護を実施することができないことが多かった。(甲9、11、12) ⑸ 亡Bの死亡前の健康状態及び本件疾病の発症に至る経緯等ア亡Bは、身長146.2㎝、体重50.8㎏で、特段の既往症はなく、平成24年11月及び平成26年5月に受けた一般定期健康診断の結果でも異常は指摘されていなかった。また、亡Bには、飲酒習慣はなく、喫煙歴もなかった。(乙1・9頁) イ亡Bは、平成▲年▲月▲日朝までのC宅での介護業務等を終えた後、同日午後3時31分頃、京王帝都電鉄府中駅前の入浴施設を一人で訪れた。 亡Bは、同日午後11時30分頃、上記の入浴施設内のサウナ室内で倒れているのを同施設の従業員に発見されて、直ちに多摩総合医療 センターに救急搬送されたが、救急隊が上記の施設に到着した時点で 既に心肺停止の状態であった。 亡Bは、蘇生措置を受けながら多摩総合医療センターの救命救急センターに搬送されたが、心肺停止の状態のままであり、血液検査の結果、代謝性アシドーシ 時点で 既に心肺停止の状態であった。 亡Bは、蘇生措置を受けながら多摩総合医療センターの救命救急センターに搬送されたが、心肺停止の状態のままであり、血液検査の結果、代謝性アシドーシス及び高カリウム血症が認められた。その後、同病院でも蘇生措置が施されたが奏功せず、同月▲日午前0時43分 に死亡が確認された。 亡Bについては、同日、共立診療所において監察医であるD医師(以下「D医師」という。)による検案が行われたが、D医師は、亡Bの直接死因について急性心筋梗塞と、発病年月日は平成▲年▲月▲日午後11時30分以降とそれぞれ判定した(乙29)。 ⑹ 亡Bの死亡原因等に関する医学的知見についてア多摩総合医療センター救命救急センターのE医師作成の平成29年6月29日付け意見書の要旨(乙28)受診に至るまでの端緒についてサウナ内で倒れているところを従業員に発見され、救命救急センタ ーに蘇生処置を受けながら搬送された。 初診時の主訴及び他覚的所見について来院時に心肺停止状態。他覚的外傷所見は診療録に記載なく不明。 検査結果について来院時に動脈血液ガス検査のみ測定。代謝性アシドーシス及び高カ リウム血症を認める。 傷病名の診断根拠検視に立ち会った医師が記載した死体検案書からの病名であろうと推定されるが、当院では診断していない。 当傷病の発病時期について 不詳 治療内容及び経過について来院後、心肺蘇生処置を行うも反応なし。同日永眠。 基礎疾患・素因の有無、当傷病発病の要因と考えられる事柄不詳イ D医師作成の平成29年7月25日付け意見書(乙27)及び死体検 案書(乙29)直接死因急性心筋梗塞発病年月日平成▲年▲月▲日午後 、当傷病発病の要因と考えられる事柄不詳イ D医師作成の平成29年7月25日付け意見書(乙27)及び死体検 案書(乙29)直接死因急性心筋梗塞発病年月日平成▲年▲月▲日午後11時30分以降実施した検査内容、検査成績なし傷病名、発病年月日の診断根拠 既往症:幼いころから腎不全、高血圧(現在、通院や加療は受けていない)あり。高血圧発症時期は不明。血圧値不明(長女出産の際、母子ともに危ない状態にあったというが、詳細については不明)。 サウナ室内での出来事であり、高温から発汗、脱水状態をおこしやすく、心臓血管の血液循環が悪化する可能性あり。救急隊到着時に心 肺停止。その後、救命行為に反応なく、短時間の後に死亡確認がされている(急性急死の状態と考える。)。その他、外傷もなく、病死(急性心筋梗塞)と判断した。 解剖を行わなかった理由上記の状況から直接死因は急性心筋梗塞と考え、矛盾のないことか ら。 ウ東京労働局地方労災医員のF医師作成の平成29年12月28日付け意見書(乙30)検視担当医師は、サウナ室なので高温から発汗し脱水状態を起こしやすく、その結果、心臓血管の血液循環の悪化の可能性を示唆しており、 この見解は妥当と思われる。外傷もなく短時間の間に死亡していること から「急性心筋梗塞」と診断されていることは十分に理解できる。しかし、急性心筋梗塞を発症した証拠は得られていないので、傷病名は心停止(心臓性突然死を含む。)とするのが妥当である。発病時期は、平成▲年▲月▲日午後11時30分、発症原因は不詳である。 2 争点⑴(亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当すること を理由にされた本件各処分の適法性の有無(亡Bが従事していた本件家事業務及 日午後11時30分、発症原因は不詳である。 2 争点⑴(亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当すること を理由にされた本件各処分の適法性の有無(亡Bが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務といえるか))について⑴ 亡Bが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務といえるかについて原告は、本件疾病の発症前おおむね1週間である平成▲年▲月▲日から 同月▲日朝までの間に亡Bが従事した本件介護業務及び本件家事業務はいずれも本件会社の業務である旨を主張するので、以下検討する。 ア前記第2の2の前提事実及び前記1の認定事実(以下、これらを併せて「前提事実等」という。)によれば、①本件会社は、昭和54年の設立当初から、有料職業紹介事業の大臣許可を受けた上で、求人者から求 人申込みを受けると、登録家政婦(求職者)の中から適切な者を選考して求人情報を紹介するなどして家政婦を求める求人者(雇用主)と雇用先を求める登録家政婦(求職者)との雇用契約の成立のあっせんを行い、その紹介手数料を受領するという家政婦紹介あっせん業を営んでいたが、平成12年4月の介護保険制度の開始以降は、介護保険法の適用を 受ける訪問介護事業にも参入し、上記の家政婦紹介あっせん業に加え、要介護者あるいはその家族等からの訪問介護サービスの利用申込みに応じて、同社に所属するサービス提供責任者が作成する訪問介護計画等を踏まえ、雇用している非常勤の訪問介護ヘルパーの中から適切な者を選択して要介護者宅に派遣し、サービス提供終了後、要介護者あるいは その家族等から自己負担分の介護報酬を受領するとともに、残額につい ては保険請求をして介護保険から支給を受け、訪問介護ヘルパーに 護者宅に派遣し、サービス提供終了後、要介護者あるいは その家族等から自己負担分の介護報酬を受領するとともに、残額につい ては保険請求をして介護保険から支給を受け、訪問介護ヘルパーに賃金を支払っていたこと、②本件会社においては、平成28年4月の事業譲渡前までは、重度の要介護状態区分の認定を受けた要介護者の介護を行う者から、訪問介護サービスに加えて、要介護者宅に住み込んで家事業務を行う家政婦の紹介を依頼され、登録家政婦を職業紹介すると同時に、 当該登録家政婦を訪問介護ヘルパーとして派遣するケースが少なからず存在したが、少なくとも平成▲年▲月当時は、上記のような場合、訪問介護サービス業務に係る部分については非常勤のホームヘルパーとして雇用していた登録家政婦を本件会社の従業員として要介護者宅に派遣し、家政婦としての家事業務に係る部分に関しては、登録家政婦と 求人者との間の雇用契約のあっせんをするのみで、具体的な家政婦としての家事業務に係る労働条件等については求人者と登録家政婦との間で別個に締結される雇用契約により決定されていたこと、③本件会社は、Cの息子から平成▲年▲月▲日から同月▲日朝までの期間について住込み家政婦兼訪問介護ヘルパーの求人及び派遣を申し込まれてこれに 応じ、派遣する訪問介護ヘルパーとして亡Bを選定するとともに、登録家政婦として亡Bを紹介して家政婦としての家事業務に係る雇用契約のあっせんをし、同日、亡BはCの息子との間で、雇用予定期間を平成▲年▲月▲日朝から同月▲日朝まで、基本給を日給1万6000円、業務内容を介護、勤務形態を泊まり込み(住み込み)とする雇用契約を締 結したこと、④亡Bは、上記③の過程を踏まえ、同月▲日からC宅で住込み家政婦兼訪問介護ヘルパーとして本件家事業務及び本件 、業務内容を介護、勤務形態を泊まり込み(住み込み)とする雇用契約を締 結したこと、④亡Bは、上記③の過程を踏まえ、同月▲日からC宅で住込み家政婦兼訪問介護ヘルパーとして本件家事業務及び本件介護業務に就くようになったことが認められる。 上記の①ないし④の諸事情によれば、亡Bは平成▲年▲月▲日から同月▲日朝までの間、C宅に住み込んで家政婦としての家事業務(本件家 事業務)及び訪問介護ヘルパーとしての訪問介護サービスに係る業務 (本件介護業務)を提供していたところ、上記の業務のうち本件介護業務については本件会社の業務として提供されていたものといえるが、本件家事業務については亡BとCの息子との間の雇用契約に基づいて提供されていたものといえるから、これを本件会社の業務であると認めることはできないといわざるを得ない。 イこれに対し、原告は、平成▲年▲月当時、本件会社から派遣されていた家政婦兼訪問介護ヘルパーが要介護者宅に住込みで勤務する場合、家政婦としての業務と訪問介護ヘルパーとしての訪問介護サービスに係る業務は明確に区別されておらず、平成17年事務連絡の定める要件も満たしていなかったことなどを指摘し、訪問介護サービスに係る業務と 家政婦としての業務は一体として提供されていたから、亡Bが従事していた前示の各業務はいずれも本件会社の業務に当たる旨を主張する。 そこで検討するに、本件会社がCの息子に代わって作成した平成▲年▲月▲日付け求人票兼労働条件通知書の基本給欄には、本件家事業務に係る賃金だけでなく、本件介護業務の利用料金も合算された金額が記載 されており(甲9)、その他にも雇用主(求人者)から本件会社に対し紹介手数料及び家政婦業務の賃金分が振り込まれ、本件会社が紹介手数料 だけでなく、本件介護業務の利用料金も合算された金額が記載 されており(甲9)、その他にも雇用主(求人者)から本件会社に対し紹介手数料及び家政婦業務の賃金分が振り込まれ、本件会社が紹介手数料を控除した残額を登録家政婦に支払った例があったことが認められる(弁論の全趣旨)。 しかし、前記アにおいて認定し説示したとおり、本件会社が登録家政 婦を家政婦兼訪問介護ヘルパーとして求人者に職業紹介する場合、家政婦としての業務に関しては、求人者と登録家政婦との間で雇用契約の締結が予定され、現に、亡Bは、家政婦としての業務についてはCの息子と雇用契約を締結していたのであって、訪問介護サービスの提供業務とその他の家事及び介護業務の使用者がそれぞれ異なることは明確であ ったものと認められる。また、前提事実等によれば、本件会社の登録家 政婦には、本件会社の職業紹介に応じるか否かについて諾否の自由があり、本件会社が賃金の基準額を求人者に提示していたという事情はあるにせよ、賃金額等の労働条件は求人者との交渉によって設定する機会は与えられていたことが認められ、他方、介護保険業務(訪問介護サービス)に関する指示や監督、要介護者宅の要望や注意事項の伝達、要介護 者と登録家政婦とのトラブルの仲介等の域を超えて、本件会社が、登録家政婦と要介護者宅との家政婦業務に関し、登録家政婦に対して指揮命令をしていたと認めるに足りる的確な証拠はない。この点、平成17年事務連絡は、介護保険法の適用により公的負担の対象となる訪問介護サービスの提供と要介護者の全額負担とされるべき家政婦の役務提供が 明確に区分できない場合には介護報酬を算定することができない旨を通知したものであるところ、これは飽くまで介護保険の適用に関して介護報酬の算定が困難 者の全額負担とされるべき家政婦の役務提供が 明確に区分できない場合には介護報酬を算定することができない旨を通知したものであるところ、これは飽くまで介護保険の適用に関して介護報酬の算定が困難となる場合の行政対応の指針を示した事務連絡であり、また、訪問介護サービスに係る事業と家政婦としての事業の内容に共通性や連続性があるために実際の業務遂行の際に両業務を明確に 区別することが困難な場合が生ずるとしても、本来、両業務は異なる事業主体による業務であって、それにより介護保険法の適用の有無が措定されることになる以上は、両業務は原則として峻別されることになる旨を行政解釈として示したものと認められるのであって、平成17年事務連絡が、家政婦としての家事業務と訪問介護ヘルパーとしての訪問介護 サービスに係る業務が峻別困難な場合に両業務の提供に係る法律関係を求人者とサービス提供者との間の単体の契約とみなしたり解釈することが相当である旨を指摘したものとまでは認められない。その他、本件全証拠を子細に検討しても、本件会社と亡Bとの間で本件介護業務に加えて本件家事業務も含んだ雇用契約が締結されたことを認めるに足 りる的確な証拠はない。したがって、原告の上記主張は採用することが できない。 ⑵ 亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当することを理由にされた本件各処分の適法性の有無について原告は、処分行政庁が本件各申請に対し、亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するとして本件各処分をしたことは同規定の解 釈適用を誤った違法がある旨を主張するので、以下検討する。 ア前記⑴において認定し説示したとおり、亡BがC宅において提供していた業務のうち本件家事業務に係る部分については、Cの息子との間の雇用契 釈適用を誤った違法がある旨を主張するので、以下検討する。 ア前記⑴において認定し説示したとおり、亡BがC宅において提供していた業務のうち本件家事業務に係る部分については、Cの息子との間の雇用契約に基づいて提供されていたものと認められる。 しかして、原告の本件各申請は、亡Bが本件会社に雇用された労働者 であることを前提に、本件会社の業務に起因して亡Bが本件疾病を発症して死亡したとして遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めるものであるところ、亡BのC宅における業務のうち本件家事業務に係る部分については、前示のとおり本件会社の業務とはいえず、Cの息子との間で締結された雇用契約に基づく業務であり、当該業務の種類、性質も家事一般 を内容とするものであるから、当該業務との関係では、亡Bは労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するものといわざるを得ない(150号基準に照らしても「家事使用人」に該当しないとはいえない。)。 イ他方で、亡BのC宅における業務のうち訪問介護サービスに係る部分(本件介護業務)については、本件会社の業務と認められ、当該業務の 種類、性質も家事一般を内容とするものであったとはいえないから、当該業務との関係では、亡Bが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するとはいえない。しかして、前示のとおり、本件各申請は、亡Bが本件会社に雇用された労働者であることを前提に、本件会社の業務に起因して亡Bが本件疾病を発症して死亡したとして遺族補償給付及び 葬祭料の支給を求めるものであるところ、上記のとおり、本件介護業務 との関係では亡Bは本件会社と雇用契約を締結した労働者であり、労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するものとは認められないのであるから、処分行政庁が、本件各申請について、 護業務 との関係では亡Bは本件会社と雇用契約を締結した労働者であり、労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するものとは認められないのであるから、処分行政庁が、本件各申請について、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当することのみを理由に本件各処分を行ったことについては、同規定の適用を誤った違法があるものといわざる を得ない。したがって、原告の上記主張は、その限度において理由があるというべきである(ただし、被告は本件訴訟において処分理由を追加しているので、本件各処分が取り消されるべきものであるか否かは後記3及び4において更に検討する。なお、原告は、労基法116条2項は憲法27条2項及び憲法14条に違反するので亡Bには労災保険法が適 用されることになる旨を主張するが、前記のとおり、亡Bについて労基法116条2項の適用を理由として本件各申請に係る労災保険給付を不支給とした本件各処分には違法があり、本件各申請に関して亡Bに同規定は適用されないと解され、このことは、同規定の憲法適合性の有無のいかんによって左右されないから、原告の上記の主張については判断を 要しないというべきである。)。 3 争点⑵(被告による処分理由の追加は許されるか)について前記2のとおり、処分行政庁が亡Bにおいて労基法116条2項の「家事使用人」に該当することを理由に本件各処分を行ったことについては、同規定の適用を誤るものと認められるところ、被告は、本件訴訟において、本件 各処分が適法であることの理由として本件疾病に業務起因性がないという理由を追加した(被告による処分理由の追加)。これに対し、原告は、平成5年最判に照らせば、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当するため労災保険法の適用を受けないという手続的要 がないという理由を追加した(被告による処分理由の追加)。これに対し、原告は、平成5年最判に照らせば、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当するため労災保険法の適用を受けないという手続的要件を理由に不支給とした本件各処分の取消訴訟において、被告が実体的要件である業務起因性の不存在 を処分理由として追加することは許されないと主張するので、以下検討する。 ⑴ 処分理由の差替えの当否に関する判断枠組みについて取消訴訟の訴訟物は処分の違法一般であるところ、行政事件訴訟法は取消訴訟における行政庁の主張の制限について特段の規定を置いていない。 したがって、取消訴訟においては、別異に解すべき特別の理由のない限り、原則として、被告(行政庁)は、取消しを訴求されている処分の適法性を 維持ないし基礎付けるため、処分時の認定事実や根拠法規の解釈適用にとらわれることなく、訴訟物の範囲で客観的に存在した一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきである(最高裁昭和51年(行ツ)第113号同53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁参照)。しかして、上記のように処分理由の差替え(処 分理由の追加を含む。以下同じ。)は、訴訟物である当該処分の範囲内で許されるのであって、処分理由の差替えにより処分の同一性が失われることとなる場合は、当該訴訟物とは無関係の処分理由により当該処分の適法性を基礎付けようとするものにほかならないから、そのような処分理由の差替えは許されないと解すべきであるところ、処分は、公権力の行使とし て実定行政法規が定める処分要件が充足されて初めて処分としての適法性が基礎付けられることになるのであるから、取消訴訟における審判対象となる処分の違法一般がどのような事項を含むかも の行使とし て実定行政法規が定める処分要件が充足されて初めて処分としての適法性が基礎付けられることになるのであるから、取消訴訟における審判対象となる処分の違法一般がどのような事項を含むかも個別の実定行政法規の規定及びその解釈により定まるものと解され、処分理由の差替えが処分の同一性を害することになるか否かも、当該処分に係る個別の実定行政法規の 解釈、すなわち当該実定行政法規が処分時の理由に基づいてされた処分と差替え後の処分理由に基づく処分とをそれぞれ別個の処分として措定するという立法政策を採用しているか否かという観点から検討するのが相当というべきである。 ⑵ 被告による処分理由の追加の当否について アこれを本件について見るに、本件各処分は、労災保険法が予定する保 険給付を支給しない旨の処分であるところ、労災保険法は、対象疾病に起因する被災労働者の療養、休業、後遺障害及び死亡結果等の被災事由ごとに保険給付の支給を予定しているところ、概要、いずれも申請者から被災労働者の「傷病」及びその「災害原因」等を特定した請求書の提出を受けた上で、申請された傷病が対象疾病に該当し、これに業務起因 性が認められ、他の支給制限事由が存在しない限り、申請された保険給付の種別に応じた個別の要件(具体的な療養費用や給付基礎日額の計算、後遺障害等級の認定等)の充足をもってこれを支給するものと規定している(労災保険法7条1項、12条の8第2項、労災保険法施行規則第3章)。そうすると、労災保険法は、保険給付の種別に応じて処分要件 を措定し、申請者が申告した具体的な「傷病」及びその「災害原因」の存否に関する判断を踏まえて申請に係る保険給付の支給の可否を決定するという仕組みを採用しているといえるから、同一の種別の保険給付の を措定し、申請者が申告した具体的な「傷病」及びその「災害原因」の存否に関する判断を踏まえて申請に係る保険給付の支給の可否を決定するという仕組みを採用しているといえるから、同一の種別の保険給付の範囲内であり、対象疾病の内容及びその原因について同一性があるといえる限りは同一の処分として取り扱うという立法政策を採用しているも のと解するのが相当である。 イ以上を踏まえ、被告による処分理由の追加により本件各処分の同一性が害されることになるか否かについて見ると、本件各処分は、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当することを理由に不支給としたものであるが、同規定は「家事使用人」について労基法の適用を除外 し、労災保険法の適用も排除するという法律効果を定めた規定であると解されるから、「家事使用人」の該当性の有無は、業務起因性と同様に労災保険給付の支給要件と位置付けているものと解される。また、本件各処分が処分時において前提とした亡Bの傷病と災害原因は被告による処分理由の追加によっても変わるところはない。この点、本件各処分に 際しては、不支給決定の理由として亡Bが労基法116条所定の「家事 使用人」に該当し同法の適用除外となり、労災保険法も適用されないという処分理由が提示されているところ、これは本件各申請に係る労災保険給付の給付要件を欠くものであることを示したものといえ、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるために処分理由の提示を 義務付けている行政手続法8条の趣旨も全うされているといえるから、本件各処分の理由付記に取消事由を構成する違法があるともいえない。 ウ以上によれば、本件において、被告が本件各処分の処分理由として業務 付けている行政手続法8条の趣旨も全うされているといえるから、本件各処分の理由付記に取消事由を構成する違法があるともいえない。 ウ以上によれば、本件において、被告が本件各処分の処分理由として業務起因性の不存在を追加的に主張したとしても本件各処分の同一性は害されないといえるから、被告による処分理由の追加は許されるも のと解するのが相当である。 ⑶ 原告の主張に対する判断原告は、平成5年最判を引用して被告による処分理由の追加は許されない旨を主張する。しかしながら、平成5年最判は、労災保険法の施行前に従事していた業務に起因して同法施行後に疾病を発症したとして労災保険 給付を請求した事案について、労災保険法の施行前に生じた事故に対する保険給付はなお旧法によるとの経過規定が置かれていることを前提として、業務起因性について判断することなく不支給とした原処分を取り消した原審の判断を維持したものであって、本件とは事案が異なるものと解される。 したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであり、採用するこ とができない。 4 争点⑶(亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果の発生につき業務起因性が認められるか)について⑴ 脳血管疾患及び虚血性心疾患等に関する業務起因性の判断枠組み労災保険法に基づく保険給付のうち,業務災害に関するものは,労働者 の死傷病等に業務起因性が認められる場合に給付されるところ(同法7条 1項1号)、労働者の死傷病等に業務起因性が認められるためには,業務と当該死傷病等との間に条件関係があることを前提として,両者の間に法的にみて労働者災害補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められることが必要と解すべきである。そして,労働者災害補償保険制度が,業務に内在又は通常随伴する各 とを前提として,両者の間に法的にみて労働者災害補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められることが必要と解すべきである。そして,労働者災害補償保険制度が,業務に内在又は通常随伴する各種の危険が現実化して労働者に死傷 病等の結果がもたらされた場合には,使用者に過失がなくとも,その危険を負担して損失の補償をさせるべきであるとする危険責任の法理に基づき,使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,業務と被災労働者に発生した死傷病等との間に相当因果関係があると認めるためには,医学経験則に照らし、当該死傷病等の結果が被災労働者の従事し ていた業務に内在又は通常随伴する危険の現実化として顕れたものであると認められることを要すると解すべきである。 この点、前記第2の3⑵において認定したとおり、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(ただし、負傷に起因するものを除く。)の業務起因性の有無については認定基準が措定されているところ、証拠(甲6)及び弁論の全 趣旨によれば,認定基準は,業務と脳血管疾患及び虚血性心疾患等との相関関係について、策定当時における最新の医学的知見を踏まえて策定されたものであることが認められ、医学経験則に照らして相応の合理性を有するとともに、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発生機序ないし業務との関連性に関する標準的な医学的知見が反映されているものと解されるから、 裁判所の判断を直接拘束する性質のものではないとしても,裁判所において被災労働者の脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症の有無及びその原因となった労働災害との間の相当因果関係(業務起因性)の有無を判断するに当たっても,一定程度参考とするのが相当である。 ⑵ 労災保険給付不支給処分の取消訴訟における業務起因性の主張立証責任 について 労働災害との間の相当因果関係(業務起因性)の有無を判断するに当たっても,一定程度参考とするのが相当である。 ⑵ 労災保険給付不支給処分の取消訴訟における業務起因性の主張立証責任 について 労災保険法7条1項1号、12条の8第1項4号及び5号が定める業務災害に関する遺族補償給付及び葬祭料は、当該保険給付に係る労災保険請求権を発生させる要件が満たされていただけでは現実に給付を受けることはできず、所轄労働基準監督署長の支給処分が必要であるところ、この支給処分は、遺族補償給付及び葬祭料の支給を受けようとする被災労働者 の遺族等から所定の事項を記載した請求書の提出を受けた上で行われることとされており(労働者災害補償保険法施行規則15条の2第1項、17条の2第1項)、その際、当該請求書には、負傷又は発病及び死亡の年月日、災害の原因及び発生状況等について事業主の証明を、労働者の死亡については死亡診断書等を(同法施行規則15条の2第2項等、17条の 2第2項)、それぞれ提出しなければならないとされている。また、本件は、処分行政庁がなした労災保険給付を支給しないという決定に違法があるとして、業務起因性を有する死傷病に係る遺族補償給付等の支給という受益を求める請求を拒否する行政処分の取消しを求める抗告訴訟であるから、原告が本件各処分の効力を争う場合には、原告において、亡Bの死 亡が業務上の事由によるものであること、すなわち業務起因性を有することを基礎づける事情について主張、立証責任を負担すると解するのが合理的であり、そのように解したとしても、主張立証の対象は原告の配偶者の身体状況に関するものである以上、原告に過度の負担を強いることにはならないというべきである。 したがって、本件において、原告は、亡Bの死亡 うに解したとしても、主張立証の対象は原告の配偶者の身体状況に関するものである以上、原告に過度の負担を強いることにはならないというべきである。 したがって、本件において、原告は、亡Bの死亡に業務起因性があることについて主張立証する責任を負うと解すべきである。 ⑶ 亡Bの本件疾病の発症及び死亡結果の発生に関する業務起因性の有無についてア原告は、亡Bが死亡前おおむね1週間である平成▲年▲月▲日から同 月▲日朝までC宅において従事していた本件家事業務及び本件介護業 務は認定基準所定の「短期間の過重業務」に該当し、これにより亡Bは本件疾病を発症して死亡したものであるから、本件会社の業務と本件疾病の発病との間には相当因果関係(業務起因性)が認められる旨を主張する。 イそこで検討するに、前提事実等によれば、亡Bは、平成▲年▲月▲日 から同月▲日朝まで、C宅に住み込んで家政婦兼務訪問介護ヘルパーとして本件家事業務及び本件介護業務に従事していたこと、勤務終了日であった同日午後に入浴施設を利用し、同日午後11時30分頃に同施設のサウナ室内で倒れているところを施設従業員に発見されたが既に心肺停止の状態にあったこと、亡Bは入浴施設の従業員に発見された同日 午後11時30分に急性心筋梗塞又は心停止(本件疾病)を発症して死亡したことが認められる。しかして、前記2において認定し説示したとおり、亡Bは、上記の期間、C宅において、本件介護業務に係る部分については本件会社の従業員として稼働していたといえるが、本件家事業務に係る部分についてはCの息子との間の雇用契約に基づいて業務を 行っていたものと認められ、本件家事業務の部分については本件会社の業務であったとは認められない。 しかして、労働者災害補償保険に係る る部分についてはCの息子との間の雇用契約に基づいて業務を 行っていたものと認められ、本件家事業務の部分については本件会社の業務であったとは認められない。 しかして、労働者災害補償保険に係る保険関係は、事業主の行う事業ないし事業場を単位として成立するものとされており(労災保険法6条、労災保険の保険料の徴収等に関する法律3条、5条)、本件各申請がさ れた当時において、労災保険法上の保険給付の業務起因性の有無を判定するに際し、複数の事業場の業務を競合させ又は一括して考慮することを予定されておらず、むしろ、労災保険制度は、あくまで使用者の災害補償責任を担保する保険制度であって、前記3において認定し説示したとおり、労災保険給付の支給要件である業務起因性の有無も当該使用者 に係る事業ないし事業場を単位として判定することが予定されていた と解される。そうすると、本件各申請は、亡Bにつき本件会社の業務に起因する労働災害について遺族補償給付及び葬祭料の支給を求める請求であるところ、亡BがC宅において従事していた業務のうち本件家事業務に関する部分は本件会社の業務ではないと認められるから、当該業務と本件疾病の発病との間の業務起因性については検討の対象にはな らないといわざるを得ない。 ウそこで、亡Bの業務のうち本件会社の業務であった本件介護業務と本件疾病の発症等との間の業務起因性の有無について検討するに、前提事実等によれば、亡Bは、C宅に住み込んで午前零時から午前5時までの休憩時間を除く19時間を本件家事業務及び本件介護業務の時間とし て指定されていたが、このうち、本件介護業務に係る労働時間は、午前8時から午前9時40分まで、午後零時から午後1時10分まで、午後3時30分から午後4時40分まで、午後8時から午 の時間とし て指定されていたが、このうち、本件介護業務に係る労働時間は、午前8時から午前9時40分まで、午後零時から午後1時10分まで、午後3時30分から午後4時40分まで、午後8時から午後8時30分までの合計4時間30分/日とされ、それ以外が本件家事業務の実施時間(ただし、休憩時間を含む。)とされていたことが認められる。また、 本件全証拠を検討しても、C宅での業務以前に亡Bが恒常的に長時間の勤務を行っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。以上の事情によれば、本件疾病の発症前おおむね1週間である平成▲年▲月▲日から同月▲日までの間の亡Bの本件介護業務に係る総勤務時間は、168時間(24時間×▲日)の拘束時間のうちの31時間30分(4時間3 0分×▲日)にとどまることになり、その業務時間、業務量が特に過剰であったとか、著しい疲労の蓄積をもたらすものであったとは認め難く、認定基準に即してみても、亡Bが短期間の過重業務や長期間の過重業務に就労していたとは認められない。 以上のとおりであるから、亡Bが本件業務の終了後に入浴施設内のサ ウナを利用し、その際に発汗による脱水状態に陥って心臓血管の循環不 全を起こして本件疾病を発症したといえるか否かについては措くとしても、亡Bが本件会社の業務に内在又は通常随伴する危険の現実化として本件疾病を発症して死亡したと認めることは困難といわざるを得ない。 エしたがって、原告の前記アの主張はいずれも採用することができない。 ⑷ 原告の主張に対する判断ア原告は、Cの息子から介護の内容、方法等について細かく指示されるなど極めて不規則な勤務を強いられていたこと、Cも認知症のため介護忌避が強かったことを挙げて、亡Bの業務は、認定基準所定の「精神的緊張を伴う 、Cの息子から介護の内容、方法等について細かく指示されるなど極めて不規則な勤務を強いられていたこと、Cも認知症のため介護忌避が強かったことを挙げて、亡Bの業務は、認定基準所定の「精神的緊張を伴う業務」のうち「顧客との大きなトラブルや複雑な労使紛争の 処理等を担当する業務」及び「周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務」に該当する旨を主張する。しかしながら、証拠(乙15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件介護業務は訪問介護計画書に基づいて行われる業務であって一定程度定型的な業務が主体となっていること、亡Bは介護福祉士の資格を保有しており、訪問介護についても 一定の知識経験を有していたことが認められるから、原告が主張する事情を考慮したとしても、亡Bと同種の労働者であって特段の勤務軽減を要することなく通常業務を遂行することができるという意味での平均的な労働者を基準としてみたときに、上記の事情に起因する心理的負荷が、客観的にみて、また、医学経験則に照らして過重な精神的負荷であ ったとまでは認め難いものといわざるを得ない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、亡BはC宅において事実上24時間労働に従事していたといえるから、本件家事業務及び本件介護業務は「短期間の過重業務」に該当すると主張する。しかし、本件全証拠を検討しても、亡Bが休息もな いまま24時間の勤務を連日続けることを余儀なくされていたことを 認めるに足りる的確な証拠はない。また、原告の主張する業務は、主として本件家事業務に係る過重性をいうものと解されるが、当該業務に係る過重性が本件疾病の業務起因性の判断において考慮される事情とならないことは、前記⑶イにおいて認定し説示したとおりである。したがって、原告の上記 業務に係る過重性をいうものと解されるが、当該業務に係る過重性が本件疾病の業務起因性の判断において考慮される事情とならないことは、前記⑶イにおいて認定し説示したとおりである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑸ 小括以上のとおり、亡Bの本件会社における本件介護業務に関しては、客観的にみて、また、医学経験則に照らし、当該業務に内在し又は通常随伴する危険の現実化として亡Bが本件疾病を発病したという相当因果関係を肯定することは困難といわざるを得ず、認定基準に依拠して検討しても、 その認定要件を満たすとはいえない。この点に関する原告のその余の主張も、本件疾病の業務起因性に関する前記⑶及び⑷の認定判断を左右するに足りるものとは認められない。 したがって,本件疾病は、別表8号所定の「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務」により発症したものとは認 め難く、「業務上の疾病」(労基法施行規則35条及び労災保険法7条1項)に該当せず,遺族補償給付及び葬祭料の支給要件を満たさないから,本件各処分はこれを理由とする限度で適法である。 第4 結論以上によれば、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することと して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部 裁判長裁判官片野正樹 裁判官小野瀬昭 裁判官中井裕美
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