令和5年7月12日東京地方裁判所刑事第3部宣告令和4年刑(わ)第2733号贈賄被告事件 主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、株式会社A社の代表取締役等であったものであるが、同社の専務執行役員等であったB及び同社の東京2020オリンピック・パラリンピックプロジェクト本部本部長等であったCと共謀の上、平成26年4月頃から平成30年3月頃までの間、多数回にわたり、東京都港区(住所省略)所在の株式会社D社事務所等において、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の理事として、組織委員会の理事会を構成しその業務執行の決定等について議決権を行使するとともに、組織委員会のマーケティング業務に関し、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下、両大会を合わせて「東京2020大会」という。)への協賛企業を募るなどの職務に従事していたEに対し、A社が、組織委員会のマーケティング専任代理店である株式会社F社の販売協力代理店として選任されるとともに、東京2020大会におけるスポンサー契約の提案・契約交渉及び契約締結に関する支援業務等を行わせてもらえるよう後押ししてもらいたいなど、A社が有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託をし、同取り計らいを受けたことの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に、別表記載のとおり(別表省略)、令和元年11月29日から令和4年1月31日までの間、26回にわたり、同区(住所省略)所在の株式会社G銀行H支店に開設されたA社名義の らいを受けたいとの趣旨の下に、別表記載のとおり(別表省略)、令和元年11月29日から令和4年1月31日までの間、26回にわたり、同区(住所省略)所在の株式会社G銀行H支店に開設されたA社名義の 当座預金口座から、同区(住所省略)所在の株式会社I銀行J支店に開設された、Eが経営し代表取締役を務める前記D社名義の普通預金口座に現金合計1485万円を振込入金し、もってEの職務に関し賄賂を供与した。 【事実認定の補足説明】 1 本件贈賄は、A社において、組織委員会のマーケティング担当理事であったEに対し、同人が代表取締役を務める会社との間のコンサルティング契約(以下「本件契約」という。)に基づき毎月のコンサルティングフィーを支払う形で行われたものであるところ、弁護人は、被告人の公判供述に依拠して、公訴事実を認めつつも、同支払につき違法性の認識がなかったと主張するので、以下、被告人が同認識を有していたと優に認められることを補足して説明する。 2 まず、前提として、東京2020大会の開催が国家的に特に重要と位置付けられて、その準備及び運営を担う組織委員会が公益財団と認定され、多くの公的な資金や人員(公務員)が投入されていたことは周知の事実であり、被告人において、同大会に係る特別措置法のみなし公務員規定を知っていたか否かにかかわらず、組織委員会の理事が公的立場にあり、その職務に関して金銭の支払をすれば違法の評価を受けることは当然に認識し得たといえる。 3 そして、A社で東京2020大会関連業務を中心的に担っていたB及びCは、本件契約に基づくコンサルティングフィーの支払が贈賄に当たり得ると認識しており、その認識を被告人と共有し、被告人が東京2020大会関連事業を会社の総力を挙げて取り組むものとして積極的に推進していく中で、慎重にEとの コンサルティングフィーの支払が贈賄に当たり得ると認識しており、その認識を被告人と共有し、被告人が東京2020大会関連事業を会社の総力を挙げて取り組むものとして積極的に推進していく中で、慎重にEとの対応に当たることを含め、被告人の指示・了解を得ながら同事業に関わり、本件犯行に及んだ旨供述する。両名の供述は、いずれも本件犯行に至る経緯や犯行状況を長期間に及ぶ東京2020大会関連業務の流れの中で具体的かつ自然に説明するもので、相互に符合しているのみならず、多くのA社の役職員ら及びその他の関係者らの供述と符合し、社内の各種資料・会議録・電子メール等の多数の客観的証拠の内容(Eのことを頻回に「E氏」「E会長」などと仮名で記載していることを含む。)ともよ く整合していることに照らすと、高い信用性が認められる。弁護人は、B及びCがコンサルティングフィーの減額交渉につき被告人に虚偽の報告をしたとして、両名の供述の信用性を論難するが、両名とも同報告が虚偽であったこと自体を率直に認めた上でその理由を具体的に説明しており、この点を踏まえても、両名の供述の信用性に疑問は生じない。 4 加えて、関係証拠によれば、被告人の違法性の認識に関連して、更に以下の事実が容易に認められる。 B及びCは、平成27年6月22日頃、A社の子会社の従業員が、F社の取引先企業に対し、本件契約に言及しながら東京2020大会のスポンサー契約の営業を行うメールを送信した事実(以下「本件営業行為」という。)を把握して、㋐F社との協力関係に悪影響が及ぶことを懸念するとともに、㋑贈賄等の違法行為に当たり得る本件契約の存在を証拠に残る形で外部に明らかにしたものとして深刻な問題と捉えた(以下、それぞれ「㋐の問題点」「㋑の問題点」という。)。そこで、Bは、この問題をA社のコーポレー の違法行為に当たり得る本件契約の存在を証拠に残る形で外部に明らかにしたものとして深刻な問題と捉えた(以下、それぞれ「㋐の問題点」「㋑の問題点」という。)。そこで、Bは、この問題をA社のコーポレート部門担当の取締役兼執行役員であったKに報告(㋐及び㋑の問題点を報告)するとともに、被告人に報告し(㋐の問題点を報告。 ㋑の問題点を報告したかにつき争いがある。)、同子会社社長であるLにメールで厳重に抗議することにつき被告人の了承を得た上、同月24日、L宛てに、件名が「重要!」から始まり、本文では「官」に近いと考えられる組織委員会の理事の名前を明記して利益誘導することの問題点等を指摘して厳重に抗議するメールを送信し、被告人及びKは同メール及びLの謝罪の返信メールをCCで受信した(甲44、57、77)。その後、Lは、Kから受信したメールを見て、被告人への直接の謝罪を促されたと感じ、別件で被告人と会った際、本件営業行為につき口頭で被告人に直接謝罪した(甲44、102、103)。 A社においては、平成28年5月に組織委員会のマーケティング専任代理店であるF社の販売協力代理店に選任されて以降、スポンサー企業の獲得に向け営業活動に注力したものの難航し、Eに対しスポンサーセールスが可能な企業の紹介を 繰り返し依頼するなどした。Eは、平成30年7月下旬頃から8月上旬頃、Cに対し、F社の取引先企業が東京2020大会のスポンサーになるに当たり、A社を販売協力代理店としてF社が得る手数料収入の半分を得させる旨伝えるとともに、その一部をEが指定する会社に支払うよう求めた。Cは、被告人に対し、同企業のスポンサー契約が「とてもナーバスな案件」であるとして、当面は社内を含め秘密としたまま、C、B及びその直属の部下らで担当すること等をメールで打診し、その了承 よう求めた。Cは、被告人に対し、同企業のスポンサー契約が「とてもナーバスな案件」であるとして、当面は社内を含め秘密としたまま、C、B及びその直属の部下らで担当すること等をメールで打診し、その了承を得た(甲82資料1ないし3)。その後、A社においては、F社から3750万円(税別)の支払を受けた上、Eの指定した会社に1875万円(税別)を支払った(以下「本件支払案件」という。)が、Cは、部下にその事務処理を指示するに当たり、「非常にナーバスな案件ですので」「絶対に口外しないでください。」「被告人とも相談し、この案件を成立させました。」などとメールに記載した(甲84資料1)。 Bは、平成31年2月から3月にかけて、本件契約に関するリスクをA社の顧問弁護士に相談することとし、本件契約を始めとするA社が外部と締結するコンサルティング契約の内容や懸案点の一覧を作成し、これを被告人と共有し打合せを行ったほか、法務担当者に対し本件支払案件の概要を説明し、本件支払案件等を簡潔に記載した資料や同一覧を事前に顧問弁護士に送付した上で、法務担当者と共に相談に臨んだ。顧問弁護士からは、本件支払案件は贈収賄に当たり、本件契約に基づくコンサルティングフィーの支払も違法と評価され得るとの指摘を受けた(以下「本件指摘」という。)(甲64、65、112ないし114)。 5 前記4ないしの容易に認められる事実だけからでも、本件当時、被告人が㋑の問題点、本件支払案件及び本件指摘を把握し、違法性の認識を有していたことを相当程度まで推認できるとともに、かかる推認は、B及びCの供述の信用性を一層高めるものといえる。 これに対し、被告人は、これらの事実に関し、①自身は東京2020大会に対して積極的な姿勢をとっておらず、同大会関連業務は担当者に一任していたことを強 供述の信用性を一層高めるものといえる。 これに対し、被告人は、これらの事実に関し、①自身は東京2020大会に対して積極的な姿勢をとっておらず、同大会関連業務は担当者に一任していたことを強 調しつつ、②本件営業行為に関するメールは開封しただけで読んでおらず、㋑の問題点を把握していない、③本件支払案件については、C及びBから報告・相談を受けたことはなく、知らなかった、④B及び法務部門から本件指摘の報告を受けていないなどと弁解する。 しかしながら、被告人の弁解は、本件支払案件は被告人の了承を得て行い、本件指摘を被告人に報告したことなどを内容とする信用性の高いB及びCの供述に反する。①については、A社の社外取締役を含む役職員らの供述にも反しており、採用できない。②については、前記4の一連の流れに照らし、子会社社長(Bの供述によれば被告人の先輩に当たる人物でもある。)に対する厳重抗議及びその返信(件名からしても要件は明らかである。)につき、メールを開封しながら内容を確認しないとは考え難い。そして、㋑の問題点は、贈賄等の違法行為に該当し得る本件契約の存在を外部に漏洩したという重大な問題であるところ、Bがこれを取締役のKに報告し、かつ、被告人の了承を得た上でした上記抗議の中でも指摘しながら、被告人と全く問題を共有しなかったとは考え難い。③についても、被告人が厳重秘密扱いにするとのCの申出を了承した上、Cが被告人の了承を明示して部下に指示をしたという前記4の一連の流れと整合しない。本件支払案件について、C及びBが被告人の了解なく勝手に実行したとすれば、背任等の犯罪行為に該当することは明白であるところ、前記4のとおり、Bは、法務担当者とも打合せの上本件支払案件を顧問弁護士に相談しており、しかも、本件指摘を前提にすると、社長であ 行したとすれば、背任等の犯罪行為に該当することは明白であるところ、前記4のとおり、Bは、法務担当者とも打合せの上本件支払案件を顧問弁護士に相談しており、しかも、本件指摘を前提にすると、社長である被告人に無断で贈収賄に当たる犯罪行為を行ったことになるにもかかわらず、その後もB及びCは社内で何らの処分も受けていないのであり、これらの事実は、本件支払案件につき被告人の事前の了承があったことを相当程度推認させるものといえる。④についても、本件支払案件が贈収賄に当たるなどという企業のコンプライアンス上の重大な指摘を、被告人が事前打合せをしたBからも、法務部門からも報告を受けなかったとは到底考えられない。①ないし④の弁解を含め、違法性の認識がなかったとする被告人の弁解は採用の余地がない。 6 以上によれば、本件当時、被告人が本件契約に基づくコンサルティングフィーの支払につき違法性の認識を有していたと優に認定できる。 【量刑の理由】 1 本件は、大手広告代理店であるA社の代表取締役社長であった被告人が、東京2020大会関連部門の専務執行役員又は本部長等として、その関連業務を担っていたB及びC(以下、被告人と合わせて「被告人ら」という。)と共謀の上、組織委員会のマーケティング担当理事(以下「本件理事」という。)に対し、同大会のスポンサーセールスに関して有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託をし、その取り計らいを受けたことの謝礼等の趣旨の下に賄賂を供与したという贈賄の事案である。 2 被告人の行為責任について検討する。 本件犯行の経緯は次のとおりである。すなわち、A社においては、スポーツビジネスの強化を図るとともに、東京2020大会の招致成功時には同大会のマーケティングに参画してスポンサーセールスを積極的に行い、大きな利益 経緯は次のとおりである。すなわち、A社においては、スポーツビジネスの強化を図るとともに、東京2020大会の招致成功時には同大会のマーケティングに参画してスポンサーセールスを積極的に行い、大きな利益と実績を上げるべく、スポーツマーケティングの第一人者であり同大会のマーケティング活動のキーマンになると目された本件理事の助力を得たいと考え、同大会の招致決定に先立ち、本件理事が代表取締役を務める会社との間で本件契約を締結し、毎月のコンサルティングフィーの支払を開始した。被告人らは、同大会の招致決定後、本件理事が理事に就任する直前から約4年間という長期にわたり、組織委員会のマーケティング担当理事として実質的に大きな影響力を有していた本件理事に対し、判示のとおり、同大会のスポンサーセールスに関して有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を多数回にわたって重ねた。そして、これを受け、本件理事は、組織委員会のマーケティング専任代理店によるA社の販売協力代理店への選任やスポンサーセールスに関して、各方面への口利きや働き掛けをするなどしたほか、内部情報を踏まえ、専任代理店と競合しないスポンサーセールス可能な企業を助言するなどして、A社を後押しし、とりわけ、A社において、スポンサー企業の獲得が難航 して危機的な状況に陥っていた中で、専任代理店の取引先のスポンサー候補企業を融通し、販売協力代理店としてA社に手数料収入を得させ、大手広告代理店として何の実績もないという不名誉な状況を回避させるなど、様々な便宜を供与した。被告人らは、このような便宜供与に対する謝礼等の趣旨で、東京2020大会が終了するまで本件契約の更新を続け、本件賄賂の供与行為に及んだ(起訴の対象は令和元年11月以降の行為)。 以上のとおり、被告人らは、本件理事に対し、長期間多数 る謝礼等の趣旨で、東京2020大会が終了するまで本件契約の更新を続け、本件賄賂の供与行為に及んだ(起訴の対象は令和元年11月以降の行為)。 以上のとおり、被告人らは、本件理事に対し、長期間多数回の請託を重ねた上、起訴分だけでも、約2年2か月にわたって月額55万円の支払を続けたのであり、贈賄額は合計1485万円と高額である。東京2020大会は、世界最大規模のスポーツの祭典として世界的に注目され、その開催が国家的にも特に重要と位置付けられていたところ、本件は、その準備や運営を担う組織委員会役員等の職務の公正さ及び同大会の公正かつ適正な運営を大きく損ね、これらに対する信頼を失墜させ、同大会に汚点を残した。本件の結果は重大である。もとより、本件理事の影響力を利用して自社の利益や実績を上げることに執心し、自らも利益を上げようとする本件理事との癒着を続け、本件犯行に至ったという動機や経緯に酌むべき点はない(なお、信用性の高いB及びCの供述に照らし、本件理事に対する支払につき、東京2020大会の対応への謝礼等の趣旨はごく一部であるとの弁護人の主張は採用の限りではないし、本件理事からは同大会以外のスポーツビジネスに関する紹介も受けていたとか、結果的にA社が経済的な利益を得ていないなどとの弁護人が指摘する点は、非難を減ずる事情には当たらない。)。 被告人は、本件契約締結時から本件当時を通じて、A社の代表取締役社長として経営方針や事業の重要事項に関して最終判断をする立場にあり、会社の総力を挙げて東京2020大会関連事業を積極的に推進する考えを繰り返し役職員らに伝えつつ、同事業の実務を担当し、本件理事との対応に当たって請託を重ねていたB及びCに対し、各種の報告・相談に了承を与えながら必要な指示をしていたほか、スポンサー企業の獲得が難航すると自身でも らに伝えつつ、同事業の実務を担当し、本件理事との対応に当たって請託を重ねていたB及びCに対し、各種の報告・相談に了承を与えながら必要な指示をしていたほか、スポンサー企業の獲得が難航すると自身でも直接本件理事に請託を行うなどし、東 京2020大会の終了後まで本件契約を継続するとの最終判断をした。被告人は、A社の経営トップとして、積極的に本件に関わって主導的な役割を果たしたとの評価を免れず、その責任はB及びCのそれより重い。 なお、弁護人は、①被告人が令和2年3月以降も本件契約を継続させたのはBが虚偽報告をしていたからであり、②本件理事に対する支払に東京2020大会の対応への謝礼の趣旨が含まれるとの認識も未必的であったなどと主張する。しかし、①につき、報告内容に虚偽があったのはコンサルティングフィーの減額交渉の内容の部分にすぎず、本件契約の継続自体は同交渉に先立ち被告人が了承して決定していた事項であって失当であり、②については、同支払の違法性の認識に関する被告人の供述が前述のとおり信用できない以上、採用の余地はない。 3 一般情状についてみると、被告人は、公訴事実は認めると述べながら違法性の認識に関して不合理な弁解を重ね、被告人が最終判断をして決めた会社の方針に従い職務の一環として犯行に加担したB及びCに不当な非難を浴びせて責任をなすりつける態度に終始しており、真摯な反省の態度は見いだせない。他方で、前科前歴がないこと等の被告人のために酌むべき事情も認められる。 4 そこで、以上の諸事情を総合考慮して、主文のとおり判決する。 (求刑懲役2年)令和5年7月12日東京地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官友重雅裕 裁判官諸徳寺聡子 裁判官 刑懲役2年) 令和5年7月12日 東京地方裁判所刑事第3部 裁判長 裁判官友重雅裕 裁判官諸徳寺聡子 裁判官平墳優佳 (別表省略)
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