主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中220日をその刑に算入する。 奈良地方検察庁で保管中のなた1本(令和2年領第364号符号209-1)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,遅くとも令和元年11月22日までに,誰でもよいから人を殺害しよう,同月24日に実行しようと考え,遅くとも同日以前には,その方法として,なたを首にたたき付けようと考えた。被告人は,同日午前,犯行の準備及び犯行後の逃走のための資金を口座から出金し,同日夕刻以降,なた,給油ポンプ,刺身包丁,手袋,マスク及びリュックサックを購入したが,その過程で,殺害する相手は自分と身長の似た通行人の男性とすること,殺害した後はその死体を奈良県橿原市(以下略)所在の集合住宅「B」C号室の当時の被告人方(以下単に「被告人方」という。)に運び込んだ上で被告人方に放火し,その死体が被告人のものと誤解され,被告人が死亡したと扱われることを期待するという犯行の計画を固めた。被告人は,一旦被告人方に戻り,準備を整えた上で,同日午後9時30分頃,被告人所有の自動車で被告人方を出発し,小学生の頃まで住んでおり土地鑑のあった奈良県桜井市内の公園に向かい,同日午後9時48分頃,同公園付近に自動車を止め,マスクを着用し,なたを抜き身で上着の袖の中に隠し持ち,手袋を持って自動車を降り,周辺で殺害する相手を探していたところ,A(以下「被害者」という。)が歩いているのを発見し,その背格好が自身とさほど変わらなかったことから,被害者を殺害しようと決意した。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 令和元年11月24日午後10時27分頃から同日午後10時37分頃まで の間に,奈良県桜井市(以下略)路上において,同所を徒歩で通行中の被害者(当時28歳)に対し, )被告人は,第1 令和元年11月24日午後10時27分頃から同日午後10時37分頃まで の間に,奈良県桜井市(以下略)路上において,同所を徒歩で通行中の被害者(当時28歳)に対し,殺意をもって,被害者の背後からその首付近を手に持ったなた(刃体の長さ約18.7cm。奈良地方検察庁令和2年領第364号符号209-1)で数回にわたりたたき付け,後頸部に損傷を負わせた上,同日午後10時41分頃から同日午後10時46分頃までの間に,被害者を自動車の荷台に乗せ,その頃から同日午後11時8分頃までの間に,被害者を同自動車で前記集合住宅北側駐車場に連行し,その頃から同月25日午前4時21分頃までの間に,被害者を同自動車の荷台から被告人方南側和室に運び込み,その頃,被害者が身動きしない状態であったことなどから,被害者が既に死亡したと誤信し,被害者の死体もろともDら16名が現に住居として使用し,かつ,同人ら15名が現にいる前記集合住宅を焼損しようと考え,いまだ生存していた被害者の身体上にトイレットペーパーを置くなどした上,同トイレットペーパーに火を放ち,その火を前記被告人方及び前記集合住宅(軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建,床面積合計約585㎡)E号室の柱,壁及び天井等に燃え移らせてこれらを焼損するとともに(焼損面積合計約104.62㎡),その頃,同所において,被害者を火焔暴露による空気遮断・熱性ショックに基づく窒息により死亡させて殺害し,第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,同月24日午後10時27分頃から同日午後10時37分頃までの間に,前記路上において,前記なた1本を携帯し,第3 判示第1の犯行において,被害者になたをたたき付けた後,被害者を被告人方に運び込む過程で,被害者所有の携帯電話機1台を発見したことから,逃 での間に,前記路上において,前記なた1本を携帯し,第3 判示第1の犯行において,被害者になたをたたき付けた後,被害者を被告人方に運び込む過程で,被害者所有の携帯電話機1台を発見したことから,逃走後これを使用したいと考え,また,同電話機がロックされていたところ,被害者管理の運転免許証がロックの解除の手掛かりになると考えたことから,同電話機及び同免許証を持ち去ろうと考え,同月25日午前4時21分頃,被告人方において,同電話機1台及び同免許証1通を同所から持ち去り盗み取った。 (事実認定に関する補足説明)第1 争点等本件において,被害者が,令和元年(以下特に断らない限り,年は令和元年である。)11月24日午後10時27分以降,判示第1の路上(以下「第1現場」という。)において,後頸部の肉片が脱落し,多量の出血を伴う加害行為を受けたこと(以下,この加害行為を「第1行為」という。),その後,被害者が何らかの手段により被告人方(以下「第2現場」という。)に移動し,同月25日午前4時21分までに起きた第2現場の火災によって死亡したことは,当事者間に争いがなく,関係各証拠から明らかである。また,同火災において,火元が被害者の死体が発見された南側和室と考えられ,同所には失火等による出火の原因が考えられないことからすれば,同火災が放火によること(以下,この放火行為を「第2行為」という。)もまた証拠上明らかである。 もっとも,弁護人は,①被告人が本件各犯行の犯人であることには合理的な疑いがあるとして無罪を主張し,②仮に被告人が本件各犯行の犯人であるとしても,判示第1のうち殺人の事実については,第1行為と被害者の死亡との間に因果関係がなく,殺人未遂罪が成立するにとどまると主張する。当裁判所は,被告人が本件各犯行の犯人であり,また, 犯人であるとしても,判示第1のうち殺人の事実については,第1行為と被害者の死亡との間に因果関係がなく,殺人未遂罪が成立するにとどまると主張する。当裁判所は,被告人が本件各犯行の犯人であり,また,第1行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められるので,判示第1につき被告人には殺人既遂罪が成立すると判断し,判示各事実を認定したので,以下,その理由を補足して説明する。 第2 被告人が本件各犯行の犯人であることについて 1 判示第1の事実(殺人,現住建造物等放火)について⑴ まず,被告人の捜査段階における自白調書以外の関係証拠やそれらから認定される間接事実から,被告人が判示第1の事件の犯人であると認められるかを検討すると,関係証拠により以下の事実が認められる。 ア被告人は第1行為前に凶器のなたを購入し,また,本件事件後もこれを所持しており,従って第1行為の際にもこれを所持していたと強く推認されること 被告人は,事件後の12月15日午前6時40分頃,奈良県橿原警察署になた(以下「本件なた」という。)を持って出頭したが(甲98),その刃体部分には被害者の血痕が付着していたことに加え(甲11,65),F医師(以下単に「F医師」という。)の証言によれば,第1現場に遺留されていた被害者のうなじの部分の肉片(甲91)は,その創縁が表皮剥奪を伴わないきれいなものであることやその断面が精鋭であることから,鋭利な刃物によって切り取られたと考えられ,その刃物が本件なたと考えても矛盾しないと認められることからすれば,本件なたは第1行為の凶器の少なくとも一つと認められる。 他方,被告人は,11月24日午後6時50分頃,奈良県橿原市内において,なたを1本購入しているが(甲94),このなたと本件なたとは,形状が同一であるほか,共に柄の部分に「 とも一つと認められる。 他方,被告人は,11月24日午後6時50分頃,奈良県橿原市内において,なたを1本購入しているが(甲94),このなたと本件なたとは,形状が同一であるほか,共に柄の部分に「竜王斉」の文字が表示されている点で特徴が一致していること,同一人物が同一形状で特徴が類似したなたを複数所持することは通常考え難いことからすれば,同一の物であることが強く推認される。 このように,被告人は,第1行為の前と事件後の双方において凶器である本件なたを所持していたと強く推認されるのであるから,第1行為の際も本件なたを所持していたこと,すなわち第1行為の犯人であることが強く推認される。 イ被害者は,被告人が所有し使用する自動車(以下「G」という。)で第1現場から第2現場に移動したと認められ,また,第1行為を行った犯人はGで第1現場付近に来た者であると強く推認されること。さらに,このときGを利用していた者は被告人であると推認されること被害者は第1現場で第1行為の被害を受けた後,第2現場に移動しているところ,事件後に第2現場北側駐車場に駐車されていたGの後部荷台のブルーシート及び助手席足元に落ちていたマスクに被害者の血液が付着していたこと(甲11,15,18,93),Gは11月24日午後9時46分頃から同日午後10時40分頃までの間,第1現場付近にあり,その後移動して同日午後11時8分頃に第2現場付近に到着していることからすれば(甲95),被害者は,第1行為の被害を受けた後G により第2現場に移動したと認められ,また,第1行為の犯人は,Gを利用して第1現場付近に来た者であることが推認される。 また,Gは被告人が所有し日頃使用する車両であること,Gは11月24日午後9時30分頃に被告人方である第2現場付近を出発し,同日午後11 ,Gを利用して第1現場付近に来た者であることが推認される。 また,Gは被告人が所有し日頃使用する車両であること,Gは11月24日午後9時30分頃に被告人方である第2現場付近を出発し,同日午後11時8分頃に再び第2現場付近に戻り,その後移動した記録のないまま事件後に第2現場北側駐車場で発見されていること(甲93,94)からすると,このときGを利用していた者は被告人であることが強く推認される。 このことは,第1現場で第1行為に及び,その後被害者を第1現場から第2現場へ移動させた者が被告人であることを強く推認させる。 ウ第2現場は当時被告人が単身居住していた場所であることこの事実は証拠上明らかであるところ,第1行為の被害を受けた被害者がその犯人と無関係な場所に連れて行かれることは考え難いから,第1行為を行い,その後被害者を第2現場に連れて行き,第2行為を行った犯人が被告人であることを強く推認させる。 エ被告人が本件事件後遠方に逃亡し,また,第1行為前には長期の旅行を可能とするような準備をしていたこと被告人は,11月25日午前6時15分頃,第2現場から数km 離れた駅から電車に乗り,その約3週間後に警察署に出頭するまで,福岡県等に逃亡している(甲98)。また,被告人は,第1行為前の同月24日午前に口座から現金25万円を引き出し,同日夕刻以降にはリュックサックを購入しており(甲94),これは,被告人があらかじめ長期の旅行を可能とするような準備をしたものといえ,逃走の準備と考えても矛盾しないが,被告人がこのような逃走とその準備とみられる行為をしたことは,被告人が判示第1の犯行の犯人であることを推認させる。 オ被告人は判示第1の事件の5日後に被害者管理の運転免許証(以下「本件免許証」という。)を所持していたこと被告人は,11 為をしたことは,被告人が判示第1の犯行の犯人であることを推認させる。 オ被告人は判示第1の事件の5日後に被害者管理の運転免許証(以下「本件免許証」という。)を所持していたこと被告人は,11月30日に福岡県内のインターネットカフェにおいて,本件免許 証を使用しているが(甲98),運転免許証は通常売買等により流通するものではないことに照らすと,被告人がこれを盗んだことが推認される。そして,運転免許証は通常常時携帯するものであることに照らせば,被害者が判示第1の事件とは別の機会にこれを盗まれたとも考えにくく,判示第1の犯行の犯人が被告人であることも推認される。 カ被告人が本件なたや本件免許証を所持して警察署に出頭し,判示第1の犯行の自供書を作成したことこの事実は証拠上明らかであるところ(甲98),被告人が判示第1の犯行の犯人であることを強く推認させる。 キこのほか,第1現場付近の防犯カメラ映像に写っている,11月24日午後10時21分から27分にかけて被害者を追従し,徐々に被害者との距離を詰めている人物は(甲95),第1行為の犯人であると認められるところ,この人物の靴が同日夕刻に被告人が履いていた靴の特徴と類似していること(甲96)からすれば,この人物すなわち第1行為の犯人が被告人であるとしても矛盾はない。 ⑵ 以上認定の各事実を総合すれば,被告人が判示第1の犯行の犯人であると認定することができるというべきである。 すなわち,これらの事実がありながら,仮に被告人が犯人ではないとすると,犯人は,被告人が同日夕刻に履いていた靴と類似した靴を履いた人物であって,被告人が購入した本件なたを,その購入後数時間以内に入手した上で,被告人が所有し日頃使用するGを何らかの理由で使用することができたことから,被告人方である第2 た靴と類似した靴を履いた人物であって,被告人が購入した本件なたを,その購入後数時間以内に入手した上で,被告人が所有し日頃使用するGを何らかの理由で使用することができたことから,被告人方である第2現場付近の駐車場からこれに乗って第1現場に行って第1行為に及び,被害者をGに乗せて戻り,第2現場を何らかの理由で使用することができたことから,被害者を第2現場に運び込み,第2行為に及んだことになる。他方,被告人は,その後,何らかの方法で犯人から本件なたを取得し,また,本件免許証を,犯人から取得したか判示第1の犯行とは別の機会に入手したことになる上,判示第1の犯行の犯人ではなく,むしろ自宅に放火された被害者であるのに,第1行為の前から長期 の旅行を可能とするような準備をし,第2行為の後間もなく逃走して,約3週間後に本件なた及び本件免許証を持って警察署に出頭し,自供書を作成したことになる。 しかし,このようなことが起こった可能性があるとは到底考えられない。特に,このようなことがあったとすれば,被告人と犯人の間には何らかの接触や連絡が必要であるが,その形跡はないし,また,犯人は被告人の行動を強く支配していたことになるが,そのような人物の存在をうかがわせる事情は見当たらない。 そうすると,前記⑴認定の各事実だけでも,被告人が判示第1の犯行の犯人であると認定することができる。 なお,弁護人は,被告人には犯行の動機がないことや,被告人には暴力的傾向が全くないことを,被告人が犯人でないことをうかがわせる事情として主張する。 確かに,被告人に人の殺害に及ぶ具体的で明確な動機は見当たらないし,近年の被告人には暴力的傾向をうかがわせるエピソードもない。しかし,被告人の当時の職場の上司や同僚の証言によれば,被告人が職場でストレスを感じていたことは認 及ぶ具体的で明確な動機は見当たらないし,近年の被告人には暴力的傾向をうかがわせるエピソードもない。しかし,被告人の当時の職場の上司や同僚の証言によれば,被告人が職場でストレスを感じていたことは認められるし,捜査段階で被告人の精神鑑定を行ったH医師の証言によれば,被告人には特定不能のパーソナリティ障害の可能性があり,ストレス下にあるときに,他者への興味,共感性の乏しさ,こだわりの強さ等の特徴・気質が顕著となること,また,判示第1の事件当時は,仕事上のストレスに加えて一人暮らしの寂しさも抱えており,前記の特徴・気質が顕著になる状況があったことが認められるのであって,被告人に動機となるものが全く考えられないわけではない。また,暴力的傾向の点についてみても,H医師は,被告人の少年時のエピソードをもとに,被告人は対人暴力と無縁の人物ではない旨証言しており(なお,この証言は伝聞を含むものであるが,異議の申立てがないまま同医師に対する尋問が終了しているから,証拠とすることが許される。),その証言は同医師の資質・能力に照らして尊重できる。そうすると,具体的で明確な動機が見当たらないことや近年の暴力的エピソードがないことは,被告人が犯人でないことをうかがわせるような事情とはいえないというべきである。 ⑶ 以上を踏まえ,進んで被告人の自白調書の信用性について検討すると,これらは,判示第1の犯行の計画・準備,犯行の具体的状況,犯行後の状況等について,当時の心境も織り交ぜながら,具体的に,かつ相当程度詳細に供述したものであり,その供述内容は,実際に体験したのでなければ語ることが困難な内容である上,前記⑴で認定した事実ともよく符合するものであるから,少なくとも被告人がした行動に関する部分については,十分信用することができる。 これに対し,弁護 したのでなければ語ることが困難な内容である上,前記⑴で認定した事実ともよく符合するものであるから,少なくとも被告人がした行動に関する部分については,十分信用することができる。 これに対し,弁護人は,被告人の自白調書について,事実関係と整合しないところや不自然なところがあり,その信用性に疑義があると主張する。すなわち,①被害者の頸部の刺し傷について触れていない,②その供述する第1行為の態様では被害者のうなじからの三角形の肉片の脱落は生じない,③第1現場付近の防犯カメラに映った人物はなたを持っているようには見えない,④Gの助手席側に血痕が付いていることに整合しない,⑤被害者を被告人1人で運ぶのは困難であると主張する。 しかし,①については,頸部の刺し傷は被害者の死の直前あるいは死後に生じたもので,死因と関係しないことからすると,被害者の頸部に刺し傷があったことは本件において重要な事実ではなく,この点について述べていないからといって,被告人が犯人であることや犯行状況についての自白の信用性に疑いが生ずるものではないし,②については,被告人は,被害者が立っているときと倒れた後の双方で,合計4,5回本件なたを首にたたき付けたと述べているし,本件なたの刃が常に同一方向で被害者に当たったとも述べていないのであるから,三角形の肉片の脱落が生じ得ないとはいえない。③については,被告人は本件なたを袖の内側に隠し持っていたと述べているのであるから,防犯ビデオの映像とは矛盾しないし,④については,被告人は,第1行為の後,被害者を載せる際や降ろす際,ガソリンを抜こうとした際等,何度もGに触れる機会があったのであるから,助手席に血痕が付く可能性はあるし,被告人もその旨述べているのであるから,不自然ではない。⑤については,被告人が供述する態様は,実行困難である とした際等,何度もGに触れる機会があったのであるから,助手席に血痕が付く可能性はあるし,被告人もその旨述べているのであるから,不自然ではない。⑤については,被告人が供述する態様は,実行困難であるとも不自然であるともいえない。 弁護人の主張を検討しても,自白調書の全体的な信用性に疑いは生じない。 ⑷ このように,前記⑴認定の各事実に前記⑶のとおり信用できる自白調書を併せれば,被告人が判示第1の犯行の犯人であることが揺るぎなく認められる。 2 判示第2(銃砲刀剣類所持等取締法違反)及び第3(窃盗)の各事実について前記1で認定のとおり,被告人は,本件なたを凶器として第1行為に及んでいるから,被告人が判示第2の犯行の犯人であることは明らかである。 また,前記1⑴オのとおり,被告人が事件後に本件免許証を所持していた事実からは被告人が本件免許証を盗んだと推認されるところ,これに被告人の自白調書を併せれば,被告人が本件免許証を持ち去り,また,これと同時に被害者所有の携帯電話機を持ち去り盗んだ判示第3の犯行の犯人であると認定できる。弁護人は,同電話機については補強証拠を欠く旨主張するが,補強証拠は,犯罪事実の全部にわたってもれなくこれを裏付けるものでなければならないわけではなく,自白の真実性を保障し得るものであれば足りるところ,被告人が同電話機と同時に持ち去った本件免許証の窃盗について補強証拠があることが明らかである以上,同電話機の持ち去りそれ自体についての補強がないからといって補強証拠を欠くことにはならないし,被害者が第1行為の直前(午後10時20分頃,甲95写真14)に同電話機を所持していたという証拠もあることからすれば,被告人が同電話機を盗んだと認定しても補強法則には反しないというべきである。 第3 被告人に殺人既遂罪が成 後10時20分頃,甲95写真14)に同電話機を所持していたという証拠もあることからすれば,被告人が同電話機を盗んだと認定しても補強法則には反しないというべきである。 第3 被告人に殺人既遂罪が成立することについて判示第1の行為について,被告人は第1行為時には殺意があったと認められるが,第2行為時には被害者が既に死亡していると誤信しており,殺意があったとは認められず,また,被害者の死因は判示のとおりいわゆる焼死であり,直接的には第2行為によって生じている。しかしながら,F医師は,第1行為によって傷害を負った被害者がそのまま放置されれば8,9割の確率で失血死する旨証言しており,被害者は,第1行為によって,死亡する危険性が相当高い状態に至っていたと認められる。また,第2行為は,被害者の死体が被告人のものと誤解され,被告人が死亡 したと扱われることを期待しての行為であり,第1行為の前から被告人の犯行計画に組み込まれていた上,第1行為によって被害者が重篤な傷害を負って抵抗等ができなかったからこそ,被害者を第2現場に運ぶことや第2行為を行うことが可能となったことからすると,第1行為と第2行為との結び付きは密接であり,第2行為が介在したことが異常であるとはいえない。そうすると,被害者の死亡の結果を第1行為に帰責することが,偶然生じた結果を被告人に帰責することになるとは到底いえず,死亡の結果は,第1行為により生じた生命への危険が現実化したものと評価することができる。したがって,第1行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められ,被告人には殺人既遂罪が成立する。 (法令の適用)罰条判示第1の所為のうち殺人の点刑法199条現住建造物等放火の点刑法108条判示第2の所 既遂罪が成立する。 (法令の適用)罰条判示第1の所為のうち殺人の点刑法199条現住建造物等放火の点刑法108条判示第2の所為につき銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条判示第3の所為につき刑法235条科刑上一罪の処理判示第1につき刑法54条1項前段,10条(被告人が第2現場に放火した行為は,殺人罪における因果の流れであると共に,現住建造物等放火罪にも当たるので,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,一罪として犯情の重い殺人罪の刑で処断)刑種の選択判示第1の罪につき無期懲役刑 判示第2及び第3の罪につきいずれも懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文(判示第1の罪について無期懲役刑を選択したので他の刑を科さない)未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(主文記載のなた1本は判示第1の犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しない)訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)本件において量刑の中心となるのは判示第1の犯行であるが,判示第2の犯行は判示第1の犯行の際に凶器を携帯したものであり,判示第3の犯行は,判示第1の犯行の際に被害者の所持品を持ち去ったものであるから,本件各犯行は全体としてこれを評価するのが相当である。 まず,本件各犯行について何よりも重視すべきことは,殺人が無差別殺人であることである。無差別殺人は,特別な感情を抱いていない相手の生命を奪うもので,誰でも被害者となり得るものであって,生命軽視の程度が甚だしい 各犯行について何よりも重視すべきことは,殺人が無差別殺人であることである。無差別殺人は,特別な感情を抱いていない相手の生命を奪うもので,誰でも被害者となり得るものであって,生命軽視の程度が甚だしい上,被害者には何らの落ち度もないばかりか,被害を回避する有効な手段も想定し難いのであるから,殺人の類型の中でも悪質性が際立つものというべきである。 次に,被告人は,判示のとおり,本件各犯行を,窃盗を除いて計画的に実行しているが,これも量刑上重視すべきである。すなわち,被告人は,人を殺害することを決意した後,判示第1の犯行の実行に向けて的確な準備を遂げた上,土地鑑がある場所で殺害する相手を探している。犯行後の行動については十分な計画や想定がなかったと考えられるものの,犯行実行までの計画性は高く,このことからも,被告人の生命軽視の程度の高さがうかがわれる。 そして,犯行態様をみても,被告人は,歩いていた被害者の背後から近付くと, いきなりその首を目掛けて重量のあるなたを力を込めてたたき付け,被害者が倒れた後もその体をつかんで向きを変え,被害者が死んだと思うまで何度も首になたをたたき付けており,殺人の態様は,強固な殺意に基づく,冷酷で残虐なものである。 そして,被告人は,被害者を被告人方に運び込むと,そこが住宅密集地にあり,16名もの居住者が暮らす集合住宅の一室であるのに,また,いまだ未明であって居住者や周辺住民は寝静まっていると考えられるのに,油を撒き,被害者の体の上に大量の燃えやすいトイレットペーパーを広げると,これに着火して火を放っており,その放火行為は,強固な犯意に基づくことはもちろん,客観的にはいまだ存命していた被害者を焼死させた残忍なものであるし,居住者や周辺住民の生命・身体・財産にも多大な被害を生じさせ得る,危険極まりないも その放火行為は,強固な犯意に基づくことはもちろん,客観的にはいまだ存命していた被害者を焼死させた残忍なものであるし,居住者や周辺住民の生命・身体・財産にも多大な被害を生じさせ得る,危険極まりないものである。 被害結果は判示のとおりであるが,被害者は,歩いていただけで何ら落ち度がないのに,突然の凶行により耐え難い苦痛や恐怖や絶望の中で絶命し,今後長く続いたはずの人生を突如絶たれたのであり,その無念な心情は察するに余りある。また,遺族は,公判廷での意見陳述において,突如被害者を失ったことによる深い悲しみや喪失感を切々と述べており,事件から1年余りが経過した現在もその心の傷は全く癒やされていない。遺族の処罰感情が峻烈であるのも十分理解できる。そして,本件のような無差別殺人は,誰もが日常生活の中で被害を受けかねないという不安感や恐怖感を社会に与えるものであり,このような社会的影響も結果の一側面として考慮すべきである。加えて,放火により居住者や近隣住民が受けた被害も甚大であって,前記集合住宅は,被告人方及びその隣室が全焼したほか,他の部屋も消火活動による水損により全て使用不能となり,16名の住民全員が退去を余儀なくされてその生活の本拠を奪われ,結局,同住宅は解体され,事件現場になったがゆえに再建も困難となり,その所有者は多額の経済的損失を被っている。ところが,被告人は,このような重大な被害結果に対して何ら慰謝の措置等を講じていないし,その今後の見込みもない。このように,被害結果は総じて重大で悲惨なものである。 次に,犯行に至る動機や経緯についてみる。被告人は,まず人を殺そうと思い立 ち,その後,放火を計画し,それらの実行の過程で判示第3の窃盗の犯行を決意しているのであるから,被告人が殺人に及んだ動機こそが本件各犯行の本来的な動機とな 告人は,まず人を殺そうと思い立 ち,その後,放火を計画し,それらの実行の過程で判示第3の窃盗の犯行を決意しているのであるから,被告人が殺人に及んだ動機こそが本件各犯行の本来的な動機となる。ところで,判示のとおり,被告人が放火に及んだ動機は,被告人方に運び入れた死体を燃やし,それが被告人のものと誤解され,被告人が死亡したと扱われることを期待したことにあると認められるから,ここから,H医師が推測するように,別人に成り代わって新たな人生を送ることが殺人ひいては本件各犯行の動機であったとも考えられる。しかし,被告人は,人を殺そうと思い立った時点ではいまだ放火は考えていなかったし,本件各犯行時やその前後の行動をみても,被害者に成り代わって生きていくために必要な情報収集や調査をしておらず,犯行後の行動は相当に場当たり的であって,その興味や関心は,専ら人を殺してその死体を被告人方に運び込んで放火すること自体に向いていて,犯行後の生活には余り向けられていないように見受けられることからすると,前記のような動機を認定することは困難であって,結局,被告人が殺人に及んだ具体的で明確な動機を認定することはできない。しかし,動機が解明できないとしても,無差別殺人を中心とする本件各犯行の内容に照らせば,そこに酌むべきところのないことは明らかである。また,被告人が本件各犯行に及んだ背景には,パーソナリティー障害の可能性の指摘される偏りのある人格に,仕事上のストレスや一人暮らしの寂しさが影響を与えたという事情がうかがえるものの,前者は飽くまで人格の偏りにすぎないし,後者は多くの人々が日頃感じているものを大きく超えるようなものではなかったと認められることからすると,やはり酌むべき事情にはならない。 このようにみると,被告人の刑事責任は極めて重大であり,凶器を 後者は多くの人々が日頃感じているものを大きく超えるようなものではなかったと認められることからすると,やはり酌むべき事情にはならない。 このようにみると,被告人の刑事責任は極めて重大であり,凶器を用いた無差別殺人の事案の中でみたとき,罪刑の均衡等の観点から死刑を選択することはできないものの,基本的に無期懲役刑が選択されるべき事案であるといえる。 そこで,その他の事情についてみると,被告人には,事件を真摯に受け止めて謝罪や反省をする態度は見受けられない。他方で,被告人に前科がないこと,被告人は,反省の気持ちからとは認められないものの,事件の約3週間後に本件なた等の 証拠品を持って自ら警察署に出頭して自供書を提出し,客観的には捜査の進展に一定の寄与をしたこと,その生い立ちには不幸な面があり,被告人の偏った人格の形成に影響を与えた可能性があることは,被告人に有利な事情ではあるが,これらは重大極まりない本件各犯行をいささかも正当化するものではないから,量刑上大きく酌むことはできず,これらを最大限考慮しても,有期懲役刑の選択が相当になるとはいえない。被告人に対しては,無期懲役刑を科すのが相当である。 (求刑-無期懲役及び主文同旨の没収)令和3年3月3日奈良地方裁判所刑事部裁判長裁判官岩 﨑 邦生 裁判官田中良武 裁判官白石大樹
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