【判事事項の要旨】市長選挙と同時選挙として行われた市議会議員選挙において,選挙事務従事者の過誤により,選挙人43名につき,同一投票所内の市長選挙の投票場所で市議会議員選挙の投票用紙が交付され,市議会議員選挙の投票場所で市長選挙の投票用紙が交付されたことが,公職選挙法205条所定の「選挙の規定に違反する」に該当するとされた事例 主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨平成17年4月29日に行われた石巻市議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)について,審査申立人Cの審査の申立てに対して被告が同年8月 12日付けでした裁決(以下「本件裁決」という。)は,これを取り消す。 第2 事案の概要本件は,石巻市の住民らである原告ら(うち33名は,本件選挙の当選人(繰上補充による当選人を含む。)でもある。)が,本件選挙を無効とした本件裁決の取消しを求めた事案である。 1 前提事実(証拠を付記した部分を除き全当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告らは,本件選挙の選挙権を有する石巻市の住民であり,うち,別紙当事者目録記載の原告Dから同Eまでの原告ら33名は,本件選挙に立候補し当選人(繰上補充による当選人を含む。)となった者である。 (2) 本件選挙の実施状況等(甲B5,乙3,4,8~10,12の1ないし3,15~19,弁論の全趣旨)平成17年4月29日,本件選挙と石巻市長選挙(以下単に「市長選挙」という。)とが公職選挙法(以下単に「法」という。)119条1項に基づく同時選挙として行われた(開票区は1個)が,石巻市選挙管理委員会(以下「市委員会」という。)の決定に基づき,その投票等の順序は,①受付,②名簿対照,③市長選挙投票用紙(白 う。)119条1項に基づく同時選挙として行われた(開票区は1個)が,石巻市選挙管理委員会(以下「市委員会」という。)の決定に基づき,その投票等の順序は,①受付,②名簿対照,③市長選挙投票用紙(白色)交付,④記載,⑤投票,⑥本件選挙投票用紙(薄黄色)交付,⑦記載,⑧投票,⑨出口の順とされ,第9投票所においても,これにより,建物内において,別紙図面記載のとおり,このような順で選挙人が投票等をする動線となる形で市長選挙と本件選挙の投票をすべき場所(以下「投票場所」という。)を区別して設け,各選挙に関する投票記載台の正面に対応する候補者名を掲示し,投票箱正面にも各選挙の別を表示して(ただし,それ以外に,投票用紙交付場所,投票記載台等に市長選挙と本件選挙とを区別する案内表示は掲示されず,また,投票箱の裏面には小さく他の選挙名が表示されていた。),投票が行われた。ところで,市委員会は,本件選挙前の平成17年4月27日,各投票所の選挙事務従事者を集めて各投票所に送致する投票用紙の枚数確認及び梱包の作業をしたが,第9投票所の選挙事務従事者が,その際,本件選挙の投票用紙と市長選挙の投票用紙の各包装面に貼付する識別シールを貼り間違えた。そのため,第9投票所の選挙事務従事者は,本件選挙当日の午前7時から約20分間,選挙人43名に対し,誤って,市長選挙の投票場所において,本件選挙の投票用紙(薄黄色)計43枚を交付し,逆に,本件選挙の投票場所において,市長選挙の投票用紙(白色)計43枚を交付した。 (3) 本件選挙の結果(甲B3,乙4,11の1及び2)本件選挙の結果,上記(1)の原告ら33名のうち原告Fを除く32名を含む34名が当選したが,平成17年6月8日ころ,13位で当選したGが死亡したため,法112条5項に基づき,次点者であった原告Fが繰上補充 の結果,上記(1)の原告ら33名のうち原告Fを除く32名を含む34名が当選したが,平成17年6月8日ころ,13位で当選したGが死亡したため,法112条5項に基づき,次点者であった原告Fが繰上補充により当選人となった。本件選挙における得票は,33位当選人である原告Hが1561票,34位当選人である原告Iが1544票,次点者であり繰上補充により当選人となった原告Fが1533票,次々点者であるCが1531票,次々々点者であるJが1509.824票であった。 (4) 異議の申出と本件決定(本件決定の理由につき乙3)Cは,平成17年5月6日,本件選挙の効力(予備的に当選の効力)について,市委員会に対し,異議の申出をしたところ,市委員会は,同月30日,所定の用紙によらない投票39票が無効とされた旨認定した上,投票用紙の誤交付は選挙に関する明文の規定に違反するものではないなどとして,異議申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。 (5) 審査の申立てと本件裁決(本件裁決の理由につき乙4)Cは,平成17年6月16日,被告に対し,本件決定の取消し,本件選挙の無効等を求めて審査の申立てをしたところ,被告は,同年8月12日付けで,投票用紙の誤交付は選挙の規定である法45条に違反し,かつ,誤交付に係る投票用紙43枚のうち42票が所定の用紙を用いないものとして無効とされており,原告FとCとの得票差が2票であるから,選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとして,本件決定を取り消し,本件選挙を無効とする旨の裁決(本件裁決)をし,同月15日,その要旨を告示した。 2 争点本件の争点は,本件選挙の有効性,取り分け,選挙事務従事者が本件選挙の投票場所において誤って市長選挙の投票用紙を交付したことが,「選挙の規定に違反する」(法205条)か否かの 示した。 2 争点本件の争点は,本件選挙の有効性,取り分け,選挙事務従事者が本件選挙の投票場所において誤って市長選挙の投票用紙を交付したことが,「選挙の規定に違反する」(法205条)か否かのほか,本件裁決の手続的違法の有無であるが,当事者双方の主張は,以下のとおりである。 (1) 本件選挙の有効性についてア原告らの主張(ア) 法205条所定の「選挙の規定に違反することがあるとき」とは,主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指す(最高裁昭和51年9月30日第1小法廷判決民集30巻8号838頁)ところ,本件選挙における投票用紙の誤交付は,選挙の規定に違反するということはできない。 すなわち,選挙が無効となると,一度当選人となった者が議員の地位を失い,再選挙を余儀なくされるため,議会が空白になり地方公共団体の通常の意思決定ができなくなるのみならず,地方公共団体は再選挙に莫大な費用と労力を投入することとなる。具体的には,本件選挙と市長選挙との同時選挙として2億0373万3253円の支出があったが,改めて市議会議員選挙のみを行うとすれば,その半額を大きく上回る支出を必要とすることが容易に推測し得る。ちなみに,石巻市の平成17年度の選挙関連予算は2億3926万3000円であるから,再選挙に伴う支出については,予備費又は補正予算により対応せざるを得ないが,必要とされる予算は,社会的弱者,経済的弱者等に対する行政サービスに要する予算に匹敵する規模である。また,石巻市の職員は1300人程度であるところ,選挙当日だけでも,200人から せざるを得ないが,必要とされる予算は,社会的弱者,経済的弱者等に対する行政サービスに要する予算に匹敵する規模である。また,石巻市の職員は1300人程度であるところ,選挙当日だけでも,200人から300人の職員がこれに関する業務に従事する必要が生じるが,これも市民の負担と観念し得る。また,再選挙を行う場合,選挙無効に責めを負わない当選人も再び多大な労力をかけて選挙運動等をしなければならない(ちなみに,法に基づく収支報告によると,本件選挙における61名の候補者の支出は合計1億0400万円であった。)上,再度当選する保証はなく,しかも,候補者が経済的弱者であれば,立候補を断念せざるを得ない事態も考えられ,立候補の自由を奪うことにもなりかねない。さらに,最高裁判例の立場によると,選挙の規定に違反することがあり,当選人中1人でもその影響を被る可能性があれば,当選人全員の当選の効果を失わせることとなり,当該選挙規定違反にまったく影響されなかった当選人に対する投票意思は,わずかな選挙規定違反の影響のある投票のため,投票者,得票者いずれにも責任がないにもかかわらず,無に帰してしまう。すなわち,被告の主張を前提にすれば,本件では,わずか42票の無効票のため9万6969票余の投票の効力が失われるという不合理が生じるのである。このような不合理を最小限のものとするには,「選挙の規定に違反することがあるとき」の解釈を厳格にするほかない。このほか,選挙の有効性の判断には政治的介入や司法介入を招くおそれがあることから,選挙という民主主義の根幹にかかわる制度においては,法は,第1次的には選挙人の意思が最大限反映されるよう解釈され,司法判断は謙抑的にされるべきである。したがって,上記最高裁昭和51年判決のいう「明文の規定に違反する」は,二義的解釈の余地のない ,法は,第1次的には選挙人の意思が最大限反映されるよう解釈され,司法判断は謙抑的にされるべきである。したがって,上記最高裁昭和51年判決のいう「明文の規定に違反する」は,二義的解釈の余地のない明文の規定に違反することを指すと解すべきである。 これを本件についてみるに,まず,本件裁決が援用する法45条は,投票用紙の公製公給主義を明らかにしたものであり,1人1票の原則に反した不正の投票を防止し,投票の秘密を保持し,もって,選挙の公正を確保しようとする趣旨であって,投票用紙の誤交付を禁じた規定ではないから,選挙事務従事者による誤交付による他の選挙のための投票用紙であっても,当該投票用紙による投票の効力に問題が生じることは格別,このことが法45条に違反するものでないことは明らかである。ちなみに,法は,法119条以下で同時選挙につき規定しているにもかかわらず,同時選挙の際に生じるおそれがある投票用紙の誤交付に関する規定をおいていないのであって,そこへ,投票用紙の公製公給主義という別の趣旨を有する法45条を借用して投票用紙の誤交付をもって同条違反とすることは許されない。 また,そもそも,同時選挙は,投票用紙を各選挙ごとに1枚ずつ交付することを除けば,一連の投票手続と開票手続が合一して行われるものであり,このことは,選挙管理委員会が投票の順序を定めた場合(この場合でも,投票用紙の交付順序は各投票所の投票管理者に委ねられている。)でも同じである。したがって,同時選挙では,投票用紙を同時に交付してもよいし,投票箱が1つであってもよく,投票用紙交付の先後を決めたり,投票箱を別にしたりするのは,あくまでも投票と開票の便宜のためであり,選挙人が投票箱を入れ間違えたとしてもその投票を無効とすることはできないと解されている(なお,本件においても,各選 後を決めたり,投票箱を別にしたりするのは,あくまでも投票と開票の便宜のためであり,選挙人が投票箱を入れ間違えたとしてもその投票を無効とすることはできないと解されている(なお,本件においても,各選挙の投票場所に置かれた投票箱の裏面に他の選挙名が表示されていた。)。したがって,仮に誤って交付されたものであっても,市長選挙の投票用紙に市長選挙の候補者名が記載されていれば,有効な投票であるし,本件選挙の投票用紙に本件選挙の候補者名が記載されていれば,やはり,有効な投票である。本件裁決は,所定の用紙を用いない投票はすべて無効になるとするが,そうであれば,誤って交付された市長選挙の投票用紙に市長選挙の候補者名が記載されていれば有効と解すべきことと矛盾があるし,また,そのような投票をした選挙人は,投票をした途端に市長選挙の選挙人から本件選挙の選挙人に変わるという不可思議な事態が生じることとなる。さらに,被告は,このような投票について,誤交付の違法が治癒されるにすぎないと説明するが,選挙の規定に違反するか否かは客観的に決めるべきであり,個々の選挙人の行動によって違反の有無が決まることは不合理であるし,有効な投票とする以上,誤交付時にさかのぼって所定の投票用紙が交付されていたとせざるを得ないが,このようなことを説明することは不可能である。このほか,例えば,市長選挙の投票場所で本件選挙の投票用紙の交付を受けた選挙人が,これに市長選挙の候補者名を記載して本件選挙の投票箱に入れた事例を考えると,被告主張の論理に従えば,本来,所定の用紙を用いないものとして無効になるはずであるが,被告は候補者でない者の氏名を記載したものとして無効であると主張しており,どうして,このような場合に所定の用紙を用いない無効が治癒されるのか説明がつかない。誤った交付であっても になるはずであるが,被告は候補者でない者の氏名を記載したものとして無効であると主張しており,どうして,このような場合に所定の用紙を用いない無効が治癒されるのか説明がつかない。誤った交付であっても,本件選挙の投票用紙の交付を受けたものが本件選挙の選挙人であり,市長選挙の投票用紙の交付を受けたものが市長選挙の選挙人であると解すべきであって,被告の主張は,同時選挙の本質に反し,本件選挙を市長選挙から独立したものとして,時間的(投票順序)にも場所的(投票場所)にも区別して選挙が実施されたとするもので不当である。以上のとおり,本件においては,誤った投票用紙の交付を受けた43名の選挙人についても,交付順序が誤っているだけで,本件選挙の正規の投票用紙が交付されているというべきである。したがって,投票用紙の誤交付は,選挙の執行管理上の過誤ではあるが,選挙の規定に違反するものではない。 なお,本件では,①投票用紙の誤交付の原因が投票時間前に選挙人が投票所へ乱入したという混乱にあり,選挙事務従事者の一方的過誤ではないこと,②本件選挙においては,市長選挙といずれを先に投票すべきかにつき選挙人に対し広報書面,投票所入場券等において事前告知がされておらず,第9投票所内では,投票記載所に「投票記載所」と記載された案内表示が1枚掲示されたのみで,投票用紙交付係,投票記載所及び投票記載台にはいずれの選挙のものか案内表示が掲示されず,さらに,両選挙の投票記載台も投票用紙交付場所から極めて近接して並んで配置されるなど,市長選挙と本件選挙の投票場所が整然と区分されておらず,他方,投票用紙は市長選挙のものと本件選挙のものとで区別があり,現に投票用紙の記載を確認して正確な投票をした者もいたことからすると,他の同種の投票用紙の誤交付の事例よりも過誤の程度が少ないという ,他方,投票用紙は市長選挙のものと本件選挙のものとで区別があり,現に投票用紙の記載を確認して正確な投票をした者もいたことからすると,他の同種の投票用紙の誤交付の事例よりも過誤の程度が少ないというべきである。また,一般的に,同時選挙における投票用紙の誤交付はしばしば発生していると推測されるが,これを選挙無効原因と解することは,全国的に回復し難い深刻な影響が生じることとなる。 さらに,上記最高裁昭和51年判決のいう「選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」とは,候補者が他からの干渉によってその政見その他の主張を自由に選挙人に訴えることを妨げられ,その結果,選挙人がこれを正しく理解することができず,自由な意思に基づく投票による選択が妨げられたような場合であり,かつ,その程度が著しいものをいうが,投票用紙の誤交付はこれに当たらないばかりでなく,本件選挙には自由公正な選挙を阻害する事情も存在しない。 なお,福岡高裁昭和27年12月18日判決(行裁集3巻12号2476頁)は,投票順序の誤りを選挙無効の原因とするが,それは,選挙管理委員会が投票順序を決定した上,これを選挙人に周知させ,特に選挙人に配布した投票所入場券の裏面にもその旨記載されていた事案であり,単純に投票順序を間違えた事案ではない。また,最高裁昭和44年7月15日第3小法廷判決(民集23巻8号1537頁)は,投票記載所の一部に一定の時間,前回の選挙の候補者名等が掲示され,その間に1180名の選挙人が投票をした事案につき選挙無効の原因があるとするが,二義的解釈の余地のない法175条の明文に反し,自由な意思に基づく投票の選択を妨げられた可能性のある選挙人が多数である点において,本件と事案を異にする。 (イ) 本件裁決は,法205条所定の「選挙の結果に異動を 余地のない法175条の明文に反し,自由な意思に基づく投票の選択を妨げられた可能性のある選挙人が多数である点において,本件と事案を異にする。 (イ) 本件裁決は,法205条所定の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」につき,次点者であり繰上補充による当選人である原告Fと次々点者であるCとの得票差2票を判断の基礎としているが,選挙の有効性は選挙結果が確定した時点で判断すべきであり,その後の当選人の死亡による繰上補充といった事情を考慮して判断するのは選挙の安定を著しく害することとなる。 また,被告は,第9投票所において誤って交付された市長選挙の投票用紙43枚のうち42枚に本件選挙の候補者名が記載され無効となった旨主張するが,投票の秘密を確保するため,投票の点検は各投票所の投票を開票区ごとに混同して行わなければならない(法66条2項)から,開票区が1個である本件選挙において,上記42枚が上記誤交付に係る43枚の一部か否かは不明である。したがって,このことを前提に本件選挙を無効とする本件裁決及び被告の主張は誤っている。 イ被告の主張(ア) 法45条1項は,「投票用紙は,選挙の当日,投票所において選挙人に交付しなければならない。」とのみ規定するが,法68条1項1号が所定の投票用紙を用いない投票を無効としていることを踏まえれば,ここで交付しなければならない投票用紙は,法45条2項及び法施行令97条に基づき当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が調製した正規の投票用紙であることは当然である。したがって,本件選挙の投票用紙として,本件選挙の正規の投票用紙を交付しなかったことは,選挙の規定に違反する。この点,原告らは同時選挙の特質を根拠とする主 ことは当然である。したがって,本件選挙の投票用紙として,本件選挙の正規の投票用紙を交付しなかったことは,選挙の規定に違反する。この点,原告らは同時選挙の特質を根拠とする主張をするが,同時選挙は,手続を一にするが,あくまでも異なる公職の選挙であるから,別の選挙であり,投票所の狭隘等の事情でやむを得ず投票用紙の同時交付,同一投票箱の使用等がされることはあるものの,選挙の種類ごとに投票用紙を交付し,選挙の種類ごとに投票箱を置くのが基本であり,また,法122条により投票の順序が定められた場合には,法45条の投票用紙の交付はその順序に従ってされなければならないことは明らかである。さらに,誤って交付された投票用紙であっても,それにその種類に従った候補者名が記載されていれば,有効票として取り扱うべきことは,原告らの主張のとおりである(なお,投票箱の裏面の他の選挙名の表示は,この点の疑義を避けるためのものであり,選挙人が選挙の種類と投票箱の関係を誤認するようなものではない。)が,それは,違法が治癒されたにすぎない。原告らの主張のように,投票用紙の交付が投票の順序と異なっていたとしても選挙の規定に違反しない,すなわち,選挙の管理執行に誤りはなかったと解するとすれば,それは,例えば,選挙事務従事者から本件選挙の投票であることを告げられて市長選挙の投票用紙を交付され,かつ,投票記載台の正面に本件選挙の候補者名が掲示されているにもかかわらず,交付された投票用紙に本件選挙の候補者名を記載して投票した過失を選挙人に認めることとなるが,それは,あまりに過大な負担と責任を選挙人に負わせる一 掲示されているにもかかわらず,交付された投票用紙に本件選挙の候補者名を記載して投票した過失を選挙人に認めることとなるが,それは,あまりに過大な負担と責任を選挙人に負わせる一方で,選挙の管理機関があまりにも無責任であるとの非難を免れず,ひいては,選挙全体に対する選挙人の信頼を揺るがしかねない解釈である。ちなみに,村議会議員選挙において選挙事務従事者が交付した県議会議員選挙の投票用紙による投票を有効とすることは許されないとする最高裁昭和29年6月15日第3小法廷判決(民集8巻6号1089頁)は,候補者でない者の氏名を記載したものとしてではなく,所定の用紙を用いないものとして投票が無効になるとし,また,最高裁昭和34年2月20日第2小法廷判決(民集13巻2号263頁)は,参議院議員選挙において地方区選挙の投票用紙に全国区選挙の候補者名を記載した投票につき,やはり所定の用紙を用いないものとして無効としている。 また,投票は選挙の根幹をなすものであり,選挙人の自由な意思に基づく投票による選択が確保されなければならないところ,選挙人が誤って交付された投票用紙により投票をした結果,それが無効とされることは選挙人の自由な意思に基づく投票による選択が妨げられたことにほかならず,これにより選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあれば,前記最高裁昭和51年判決のいう「選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」に当たるというべきである。 なお,原告らは,選挙規定違反があるとして選挙が無効とされると,当該選挙規定違反にまったく影響されなかった当選人に対する投票意思が無に帰してしまうという不合理が生じるなどとして,法205条所定の「選挙の規定に違反することがあるとき」を厳格に解釈すべき旨主張する。しかし 定違反にまったく影響されなかった当選人に対する投票意思が無に帰してしまうという不合理が生じるなどとして,法205条所定の「選挙の規定に違反することがあるとき」を厳格に解釈すべき旨主張する。しかし,たとえ一部であっても当選人が入れ替わる可能性があれば,選挙全体を無効としなければならないことは,法が選挙の人的一部無効を認めていない以上やむを得ない結論であるし,そもそも,法205条所定の選挙無効争訟制度は,民主主義の根幹である選挙の自由公正を確保するために規定されているのであって,原告らが不合理と主張する事柄は,選挙の自由公正確保の重大性からすれば,無効な選挙を維持する理由とはなり得ない。このほか,再選挙に伴い,候補者及び石巻市に費用面等で多大な負担が発生することは否定しないが,再選挙に要する経費の一部は地方交付税(特別交付税)として,国から交付されることになる。 (イ) 本件選挙における繰上補充は,法112条5項により,本件選挙によって確定された得票順に基づきされたものであるから,選挙の結果に異動を及ぼすおそれについては,これを一の選挙の結果と解して,次点者であり繰上補充による当選人である原告Fと次々点者であるCとの得票差2票を判断の基礎とすべきである。 原告らは,選挙の安定性を理由に繰上補充を考慮すべきでない旨主張するが,繰上補充が認められる期間は選挙の期日から3か月以内であり,異議の申出ができる期間も選挙の日から14日以内と限られていることからすると,選挙の安定を著しく害することはない。かえって,原告らの解釈によれば,例えば,仮に,本件選挙において,原告FとCとの得票差が44票以上であっても,選挙を無効としなければならない不合理が生じることにもなる。 もっとも,本件選挙についていえば,投票用紙4 解釈によれば,例えば,仮に,本件選挙において,原告FとCとの得票差が44票以上であっても,選挙を無効としなければならない不合理が生じることにもなる。 もっとも,本件選挙についていえば,投票用紙43枚の誤交付により42票が無効とされているところ,34位当選人である原告Iと次点者であり繰上補充により当選人となった原告Fの得票差が11票であり,原告Iと次々点者であるCとの得票差が13票であるので,原告らの解釈を前提としても,選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある。 (2) 本件裁決の手続的違法についてア原告らの主張(ア) 被告は,本件裁決に当たり,市長選挙及び本件選挙の投票済みの投票用紙の開披再点検(以下「本件再点検」という。)を実施したが,本件再点検は,憲法15条4項で保証された投票の秘密を侵害するもので,違法である。特に,投票用紙の誤交付を受けた選挙人43名の住所及び氏名が判明していることからすると,その危険は顕著である。憲法15条4項が投票の秘密を保障する趣旨は,事前及び事後に投票内容を第三者に知られることによって,選挙人が自由な投票をすることが妨げられることを防止するところにあり,本件再点検により自分の投票を含む数十票の内容が知られてしまう可能性があるとすれば,選挙人に対する心理的拘束が生じるおそれは極めて大きい。このことは,選挙人個々人の投票内容が明らかにされるか否かを問わない問題であり,法が定める開票手続等を超えて,投票行動が明らかになる行為は投票の秘密を侵害するというべきである(最高裁平成13年12月18日第3小法廷判決民集55巻7号1823頁参照)。 (イ) さらに,本件再点検は,本来,法216条が準用する行政不服審 行為は投票の秘密を侵害するというべきである(最高裁平成13年12月18日第3小法廷判決民集55巻7号1823頁参照)。 (イ) さらに,本件再点検は,本来,法216条が準用する行政不服審査法28条(物件の提出要求)に基づくべきものなのに,審査申立人の申立てにより同法29条(検証)に基づき審査申立人を立ち会わせて実施した点において手続的な違法がある。また,被告が主張するとおり,本件再点検が職権による検証として実施されたとすれば,法律上の根拠もないのに審査申立人を立ち会わせた点において手続的な違法がある。特に,上記(ア)のとおり,本件再点検は,投票の秘密を侵害する危険が極めて高いものなので,これに私人である審査申立人を立ち会わせるのは違法である。 イ被告の主張(ア) 投票の秘密は,誰が誰に投票したかが客体となるところ,本件再点検は,誰に何票投じられたかを調べる目的ではなく,審査申立人と市委員会との間で主張の相違があった無効投票の数(審査申立人43枚,市委員会39枚)を明らかにする目的で実施されたものであり,現に,被告は,誤交付に起因して無効とされた42枚の投票用紙にどのような記載がされていたか公にしていないし,ましてや,誰が誰に投票したかはまったく不明である。また,投票用紙の誤交付を受けた選挙人の氏名も公にされていない。このように,本件再点検は,投票の秘密を侵害するものではない。 なお,前記最高裁平成13年判決は,無効票と確定された不在者投票の内容について,いずれの候補者に対する投票であるかを取り調べ,その結果を選挙人が表明した意思として取り扱って選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断しよう 年判決は,無効票と確定された不在者投票の内容について,いずれの候補者に対する投票であるかを取り調べ,その結果を選挙人が表明した意思として取り扱って選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断しようとしたものであり,本件とは事案を異にする。 (イ) 本件再点検は,法216条が準用する行政不服審査法28条に基づき投票済みの投票用紙の提出を求めた上で,同法29条に基づく職権による検証として実施したものである。被告は,これに審査申立人を立ち会わせて実施したが,行政不服審査法29条は,職権による検証に審査申立人を立ち会わせることを排除する趣旨ではなく,かえって,投票用紙の開披再点検という特別な作業が公正に行われたか否かを確認する機会を付与したものとして適切な措置というべきである。 (ウ) さらに,本訴は,本件選挙の効力に関するものとして,法205条1項に照らし判断されるべきものであり,本件選挙の管理執行と別の作業であり,投票の内容及び選挙の結果に異動を及ぼすものではない本件再点検を本件裁決の取消事由とすることは当を得ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件選挙の有効性について(1) 「選挙の規定に違反することがあるとき」について法205条所定の「選挙の規定に違反することがあるとき」とは,主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときをいうと解される(最高裁昭和27年12月4日第1小法廷判決民集6巻11号1103頁,前記最高裁昭和44年判決,最高裁昭和46年4月15日第1小法廷判決民集25巻3号275頁,前記最高裁昭和51年判 いうと解される(最高裁昭和27年12月4日第1小法廷判決民集6巻11号1103頁,前記最高裁昭和44年判決,最高裁昭和46年4月15日第1小法廷判決民集25巻3号275頁,前記最高裁昭和51年判決等参照)。 ところで,法45条は,投票用紙は,選挙の当日,投票所において選挙人に交付しなければならず(1項),投票用紙の様式は,地方公共団体の議会の議員又は長の選挙については当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が定める(2項)旨規定するところ,法68条1項1号は,衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票について,所定の用紙を用いないものは無効とする旨規定している。 確かに,原告らが主張するとおり,法45条1項は,選挙の自由公正を図るため,選挙当日以外の日又は投票所以外の場所での投票用紙の交付を禁じる公製公給主義を規定するものと解されるが,同項に引き続き同条2項が投票用紙の様式につき規定し(なお,これを受けた石巻市公職選挙執行規程29条(乙14)がその具体的様式を規定している。),さらに,法68条1項1号が所定の用紙によらない投票を無効と規定していることからすると,法45条1項は,公製公給主義の当然の前提として,選挙の管理機関に対し,選挙人に有効な投票が可能な正規の投票用紙を交付すべき旨を義務付けているといわなければならず,このことは,選挙の管理機関が非正規の投票用紙を交付することが民主主義の根幹である選挙人の投票による選択の機会を奪う結果になることからしても,明らかである(なお,選挙管理委員会の定めに反して選挙管理委員長の印章の押捺されていない投票用紙の交付に関する最高裁昭和23年6月26日第2小法廷判決民集2巻7号159頁参照)。そして,誤って交付された投票用紙が他の選挙における正規 定めに反して選挙管理委員長の印章の押捺されていない投票用紙の交付に関する最高裁昭和23年6月26日第2小法廷判決民集2巻7号159頁参照)。そして,誤って交付された投票用紙が他の選挙における正規の投票用紙であったとしても,当該選挙の正規の投票用紙でないことには変わりがなく,かつ,殊に本件の場合のような同時選挙(なお,法施行令97条は,同時選挙の場合には,投票用紙は,各選挙ごとに別個に当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が調製しなければならない旨規定する。)に係る他の選挙の投票用紙による投票を有効と解するならば,1人2票の投票を許容するおそれがある(なお,同時選挙において,一方の選挙の投票用紙が他方の選挙の投票箱に入れられていても,そのこと自体は投票の無効を来さないとの解釈については,当事者双方に特に異論がない。)ことからすると,このように誤って交付された他の選挙の投票用紙による投票はやはり無効と解されるのである(村議会議員選挙における県議会議員選挙の投票用紙に関する前記最高裁昭和29年判決,参議院議員選挙全国区選挙における地方区選挙の投票用紙に関する前記最高裁昭和34年判決参照)。 以上に関連して,原告らは,同時選挙の特質からすると,本件において誤交付とされているのは投票用紙の交付順序の誤りにすぎず,投票用紙の誤交付を受けた43名の選挙人にも本件選挙の正規の投票用紙が交付されている旨主張する。しかしながら,前記第2の1(2)に認定の事実によれば,第9投票所では,市長選挙及び本件選挙の広報書面及び投票所入場券に投票順序に関する記載はなく(甲B1,2),市長選挙と本件選挙の投票記載所等の区別に関する案内表示は掲示されていなかったものの,市委員会が決定した投票等の順序で投票等をする動線となる形で市長選挙と本件選挙の投票場所が はなく(甲B1,2),市長選挙と本件選挙の投票記載所等の区別に関する案内表示は掲示されていなかったものの,市委員会が決定した投票等の順序で投票等をする動線となる形で市長選挙と本件選挙の投票場所が別とされ,各選挙の投票記載台の正面に対応する候補者名が掲示され,投票箱正面にも各選挙の別が表示されていた(なお,証拠(甲B7,乙21)及び弁論の全趣旨によれば,投票箱裏面の他の選挙名の表示は,誤って他の選挙の投票用紙が入れられた場合の解釈の疑義を避けるための措置と認められるところ,その位置及び大きさに照らし,選挙人をして投票場所の別を誤認させるものとはいい難い。そして,このようなことからすると,別紙図面記載の投票場所の状況を整然と区分されていないとはいい難い。)ところ,そのような本件選挙の投票場所において市長選挙の投票用紙が交付されたのであって(特に,まさに投票用紙に候補者名を記載する場所である本件選挙の投票記載台の正面に,市長選挙の候補者名が掲示されていることは,そこが市長選挙の投票場所であると誤信させる大きな契機となるものであるから,この点は決して軽視することができない。なお,仮に原告らの解釈を前提とすると,このことは,誤交付を受けた選挙人にとっては,法175条1項所定の「適当な箇所」に候補者名が掲示されていなかった違法があることになる。),さらに,本件選挙の投票用紙と市長選挙の投票用紙とでは,用紙の色のほかは,表面にある表題が「石巻市議会議員選挙投票」と「石巻市長選挙投票」と相違するのみであり,候補者氏名記載欄のある裏面は同一の様式であること(乙14)にもかんがみれば,通常の選挙人にとっては,誤って交付された市長選挙の投票用紙を本件選挙の投票用紙と誤信して投票する蓋然性は高いとみるべきであるから,このような誤交付を単なる交付順序の誤 (乙14)にもかんがみれば,通常の選挙人にとっては,誤って交付された市長選挙の投票用紙を本件選挙の投票用紙と誤信して投票する蓋然性は高いとみるべきであるから,このような誤交付を単なる交付順序の誤りにすぎないということはできず,本件選挙の投票用紙として市長選挙の投票用紙を交付したものというべきである。本件選挙と市長選挙とが同時選挙であるとしても,このように現実に時間的,場所的に投票順序が区分され,それに沿う掲示等がされているのであれば,結果的に全体としてみて両方の投票用紙が交付されていれば足りると解するのはあまりにも観念的な議論といわざるを得ないのである。そして,注意深い選挙人が,投票用紙自体の記載に基づき,誤って交付された市長選挙の投票用紙に市長選挙の候補者名を記載し,あるいは,誤って交付された本件選挙の投票用紙に本件選挙の候補者名を記載して投票した場合,そのような投票が結果として有効なものと解される(このような解釈については,当事者双方に特に異論がない。)としても,それは,そのような注意深い選挙人による投票については,結果として正規の投票用紙を交付しなかった瑕疵が治癒されるにすぎないのであって,その余の投票について,正規の投票用紙を交付しなかったことには変わりはないというべきである(原告らが瑕疵の治癒の法理につき論難するところは,その本来的意義を正当に理解しない独自の主張といわざるを得ない。なお,原告らと被告との間に見解の相違がある投票の無効事由の分類は便宜上のものであり,その当否が選挙の規定に違反するか否かに直結するものとは解されない。)。 このほか,法205条は,選挙の管理機関が選挙の規定に違反するに至った事情を問うことなく,選挙の規定に違反する事実自体を選挙の無効事由とするものなので,原告らが主張するような投票用紙誤交 い。)。 このほか,法205条は,選挙の管理機関が選挙の規定に違反するに至った事情を問うことなく,選挙の規定に違反する事実自体を選挙の無効事由とするものなので,原告らが主張するような投票用紙誤交付の原因となった事情は法205条該当性を左右するものではなく,今後,全国的に本件と同種の誤交付が多発するおそれがあるか否かについても,同様である。 したがって,選挙事務従事者,すなわち,選挙の管理機関が,第9投票所の本件選挙の投票場所において,選挙人に対し市長選挙の投票用紙43枚を誤って交付したことは,法45条の明文の規定に違反するものであり,選挙の無効事由になり得るものである。 (2) 「選挙の結果に異動を及ぼす虞」について前記第2の1(2)のとおり,本件選挙において誤って交付された投票用紙は43枚であるところ,被告が本件裁決に際し本件再点検を実施したことは全当事者間に争いがなく,証拠(乙4,13)及び弁論の全趣旨によれば,本件再点検の結果,本件選挙の投票用紙を収納した箱の中には,市長選挙の投票用紙は存在しなかったが,市長選挙の候補者名を記載した本件選挙の投票用紙39枚が発見され,市長選挙の投票用紙を収納した箱の中には,本件選挙の投票用紙は存在しなかったが,本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙42枚が発見された事実が認められる。 以上の事実に関して,被告は,この42枚が誤交付に係る投票用紙43枚の一部である旨主張する(本件裁決の認定も同旨)ところ,第9投票所以外の投票所で投票用紙の誤交付があった事実を認めるに足りる証拠はなく,本件選挙の投票は,前記第2の1(2)で認定したとおりの順序及び場所で行われ,前記1(1)のとおり,通常の選挙人にとっては,誤って交付された市長選挙の投票用紙を本件選挙の投票用紙と誤信して投票する蓋然 件選挙の投票は,前記第2の1(2)で認定したとおりの順序及び場所で行われ,前記1(1)のとおり,通常の選挙人にとっては,誤って交付された市長選挙の投票用紙を本件選挙の投票用紙と誤信して投票する蓋然性は高いとみられるので,被告の主張もまったく根拠のないものではない。しかし,市委員会の事務局長が,誤交付に気付いて投票用紙の種別に応じた候補者名を記載して投票をした選挙人もおり,前記(1)の解釈のとおり,誤って交付された市長選挙の投票用紙による投票でも市長選挙の候補者名が記載されていれば有効として取り扱った旨供述し(乙12の1),結果的に,本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙の数が市長選挙の候補者名を記載した本件選挙の投票用紙の数より3枚多かったことにもあらわれているとおり,論理的には,誤って交付された本件選挙の投票用紙に本件選挙の候補者名を記載し,誤って交付された市長選挙の投票用紙に市長選挙の候補者名を記載した注意深い選挙人が複数いた一方で,正しく交付された本件選挙の投票用紙及び市長選挙の投票用紙に誤って又は意図的にいずれも本件選挙の候補者名を記載して投票をした選挙人がいた可能性もないとはいえない。例えば,投票用紙の誤交付に係る選挙人43名のうちに,誤って交付された本件選挙の投票用紙に本件選挙の候補者を記載して投票し,誤って交付された市長選挙の投票用紙に市長選挙の候補者名を記載した者が4名おり,正しく投票用紙の交付を受けたその余の選挙人のうちに,いずれの投票用紙にも本件選挙の候補者の名を記載して投票した者が3名いれば,結果的に,市長選挙の候補者名を記載した本件選挙の投票用紙が39枚,本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙が42枚となる。したがって,本件再点検の結果によっては,誤交付に係る投票用紙43枚による投票のうち 挙の候補者名を記載した本件選挙の投票用紙が39枚,本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙が42枚となる。したがって,本件再点検の結果によっては,誤交付に係る投票用紙43枚による投票のうち何票が無効とされたかを確定することはできないといわなければならない。結局,誤って交付された市長選挙の投票用紙43枚のうち多くが本件選挙の候補者名を記載して投票したものと推測することはできるものの,選挙人が本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙42枚すべてが誤って交付された投票用紙によるものであると断定することはできない。 しかしながら,選挙の結果に異動を及ぼすおそれの判断に際しては,投票用紙の誤交付に起因して論理的に想定し得る最大限の得票の異動を基礎とすべきであるから,結局は,本件選挙の候補者名を記載した市長選挙の投票用紙数に相当する42票を判断の基礎とするのが合理的である。 なお,原告Kが主張するように第9投票所で投票する選挙人の具体的な投票行動を分析ないし予測して,選挙の結果に異動を及ぼすおそれを判断することは,実質的に法の定める手続によらずに投票を開票して候補者別の得票数を確定し直すに等しいものとして,許されない。 ところで,繰上補充による当選人が生じた場合の選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無に関する判断の基準時につき,原告らと被告は主張を異にするところ,いずれの解釈も相応の根拠を有するものではある(敢えていえば,選挙の効力に関する争訟は,当該選挙の日から異議の申出が可能であって,論理的には,繰上補充による当選が可能な選挙の期日から3か月以内に異議の申出に対する決定,審査の申立てに対する裁決又は判決が確定する可能性もあることからすると,繰上補充制度は選挙の結果が利用可能な限りにおいて新たな選挙に代わる便宜の措置を定めたも ら3か月以内に異議の申出に対する決定,審査の申立てに対する裁決又は判決が確定する可能性もあることからすると,繰上補充制度は選挙の結果が利用可能な限りにおいて新たな選挙に代わる便宜の措置を定めたものとみて,上記判断基準時は原告ら主張のように当初の当選人が告示された時と解すべきであり,被告主張のようなその後の事情は瑕疵の治癒の法理により対処するのが相当である。)。 しかしながら,本件においては,前記第2の1(3)のとおり,34位当選人である原告Iの得票は1544票,次点者であり繰上補充により当選人となった原告Fの得票は1533票,次々点者であるCの得票は1531票であるから,いずれの解釈を採用するとしても,仮に投票用紙の誤交付がなかったとすれば,最下位当選人と最高位落選人が入れ替わる可能性があることが計数上明らかであって,選挙の結果に異動を及ぼすおそれが認められる。 (3) 原告らのその余の主張について繰上補充による当選人が生じた場合の選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無に関する判断の基準時につき,いずれを採用するとしても,前記第2の1(3)の得票結果に照らせば,仮に投票用紙の誤交付がなかった場合でも,最下位当選人を除く当選人については選挙の結果に異動を及ぼさないことは計数上明らかであり,原告らのうちこれら当選人に該当する者が少なくとも自らの当選に係る部分は選挙を有効とすべきと考える心情自体は理解できないものではない。しかしながら,選挙は,選挙区を単位として行われるものであって,一般に選挙区の選挙の無効は全部無効であり,ただ,選挙区内における選挙が2以上の開票区に分かれて行われた場合において,ある開票区限りの選挙の管理執行の違法があったときは,その開票区に関する選挙部分のみが無効とされることがあるにすぎない(上記最高裁昭和44 おける選挙が2以上の開票区に分かれて行われた場合において,ある開票区限りの選挙の管理執行の違法があったときは,その開票区に関する選挙部分のみが無効とされることがあるにすぎない(上記最高裁昭和44年判決参照)から,実定法上の根拠を欠く人的一部無効を認めることは困難である。このことは,本件選挙のような1選挙区に複数の定数のある選挙において,仮に,最下位当選人に関する部分のみ選挙を無効とすれば,再選挙においては,その余の当選人に投票した選挙人も改めて別の候補者に投票することになるため,当初の選挙とは選挙人の意思の反映の在り方が異なってしまうことからも,やむを得ないといわざるを得ない。 また,原告らは,本件選挙が無効とされた後に行われる再選挙に伴い様々な無用の負担が生じる旨主張するところ,本件選挙が無効とされれば,石巻市においては改めて市議会議員選挙を行なわなければならず,それに伴い,選挙の管理機関はもちろん,改めて選挙運動をしなければならない本件選挙における当選人としても,本件選挙におけるのと同程度の費用,労力等の負担(なお,石巻市の負担については,本件選挙が市長選挙と同時選挙として行われ,全体として負担の効率化が図られているので,その点を考慮する必要がある。)を要することは推認するに難くない。しかしながら,それは,1選挙区に複数の定数のある選挙が無効とされた場合において少なからず生じ得る事態であって,法がそのような事態を想定していないとは到底考えられないから,法は,法205条所定の要件を充たす場合には,原告らが主張するような点よりも,民主主義の根幹である選挙の自由公正の要請を重くみて,選挙を無効にするとの趣旨と解されるのであり,原告らが主張する事由をもって本件選挙を有効と解することはできない。 2 本件裁決の手続的違法について( 義の根幹である選挙の自由公正の要請を重くみて,選挙を無効にするとの趣旨と解されるのであり,原告らが主張する事由をもって本件選挙を有効と解することはできない。 2 本件裁決の手続的違法について(1) 原告らは,被告が本件裁決に当たり実施した本件再点検に違法がある旨主張するところ,被告が本件裁決に当たり審査申立人を立ち会わせて本件再点検を実施したこと自体は全当事者間に争いがなく,これに証拠(乙4~7,13)及び弁論の全趣旨を併せると,被告は,審査申立人と市委員会との投票用紙の誤交付に起因する無効票の数に関する主張に差異があったため,これを確定するため,市委員会に対し,法216条が準用する行政不服審査法28条に基づき投票済みの投票用紙の提出を求めた上で,同法29条に基づく職権による検証として本件再点検を実施したが,その際,審査申立人を立ち会わせた事実が認められる。 (2) ところで,法は,所定の開票手続等により選挙人が表明した意思が確定されることとして,選挙の公正を期しているものというべきであるから,選挙の効力に関する争訟を審理する選挙管理委員会が,無効票と確定された投票の内容について,いずれの候補者に対する投票であるかを取り調べ,又は,個々の投票内容について,いずれの候補者に対する投票であるかまでは取り調べないが,当選者に投票したか否か,若しくは落選者に投票しなかったか否かの限度で取り調べ,それらの結果を選挙人が表明した意思として取り扱って法205条1項所定の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の有無を判断することは,実質的に法の定める手続によらずに投票を開票して候補者別の得票数を確定し直すに等しいものとして,許されない(前記最高裁平成 の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の有無を判断することは,実質的に法の定める手続によらずに投票を開票して候補者別の得票数を確定し直すに等しいものとして,許されない(前記最高裁平成13年判決参照)。 しかしながら,本件再点検は,再点検時の得票状況を選挙人が表明した意思として取り扱って,選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断しようとするものではなく,単に,市長選挙の投票用紙に本件選挙の候補者名を記載したものが何枚あったか確定しようとするものにすぎず,しかも,前記1(2)のとおり,(被告の目的には反するが,)そのような投票用紙を特定しても,それが投票用紙の誤交付を受けた選挙人43名が投票したものかについてすら,これを確定することができないのであるから,本件再点検が,実質的に,法の定める手続によらずに開票して候補者別の得票数を確定し直すものであるとか,投票の秘密を侵害するものであるということはできない。 (3) また,一般に,審査庁が裁決に至る過程においていかなる手続を選択するかについては,その合目的的裁量に委ねられているところ,検証は投票用紙の開披再点検に適合的な手続であって,その選択自体を違法ということができない。しかも,審査庁が,検証に際し,審査申立人を立ち会わせることは,申立てによる検証の場合はもちろん,職権による検証の場合であっても,審査申立人に手続的機会を与えるものであって,行政不服審査法がこれを禁じていないことは明らかであるし,被告がなんらかの違法な目的をもって本件再点検に臨んだことをうかがわせる証拠はなんら存しない。 (4) さらに,以上の点をさておき,仮に,本件再点検になんらかの違法があるとしても,前記1(2)のとおり,本件再点検により得られた資料 に臨んだことをうかがわせる証拠はなんら存しない。 (4) さらに,以上の点をさておき,仮に,本件再点検になんらかの違法があるとしても,前記1(2)のとおり,本件再点検により得られた資料は,投票用紙の誤交付に起因して論理的に想定し得る最大限の得票の異動が42票であることにとどまるものであり,本件再点検が実施されなければ,これを43票(市委員会の主張を信頼するならば39票)として,選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断することになったにすぎず,これが本件裁決(さらには,本判決)の結論に影響を及ぼさないことは計数上明らかであり,加えて,原告らが主張するところによっても,これが本件裁決の過程における関係人のなんらかの手続的利益を侵害するものでないことにもかんがみると,本件再点検の違法が本件裁決の違法を来すと解すことはできない。 (5) 結局,原告らの本件裁決の手続的違法の主張は採用できない。 3 結論よって,本件裁決が法205条を適用して本件選挙を無効としたのは正当であり,かつ,本件裁決に手続的違法はなく,本件裁決の取消しを求める原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官佐藤康裁判官浦木厚利裁判官畑一郎 一郎
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