【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人竹田章治の上告理由第一点について 原審の適法に確定した事実関係によ
主文原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由上告代理人竹田章治の上告理由第一点について原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 被上告人は、昭和五五年三月三日、建築請負業者である訴外D建設株式会社(以下「D建設」という。)との間で、工事代金を一億六三五〇万円とする被上告人の本社ビル建築請負契約を締結した、(2)D建設は、昭和五五年一〇月二〇日上告人から四〇〇〇万円を弁済期同年一一月二九日の約定で借り受けるにあたり、同年一〇月一八日、右借受金債務の担保として、右請負代金のうち四〇〇〇万円(以下「本件請負代金」という。)を被上告人から取り立てて受領する権限を上告人に授与するとともに、自らは被上告人から取り立てないこと及び右授権を一方的に解除しないことを約した、(3) 被上告人は、右同日、上告人に対し、D建設と上告人との間の右代理受領契約(以下「本件代理受領」という。)の内容を了承し、本件請負代金を上告人に直接支払うことを約した、(4) しかるに、被上告人は、同年一〇月三〇日以降、四〇〇〇万円以上の請負残代金をD建設に支払い、これにより本件請負代金は全額支払ずみとなつた、(5) 前記ビル建築工事は完成し、同年一二月七日D建設から被上告人に引き渡されたが、D建設は同月頃倒産するに至つた、というのであり、右事実関係のもとにおいて、D建設は上告人に対して負担する債務の担保として本件請負代金の取立を上告人に委任し、上告人はその取立権能を取得したにすぎず、被上告人が、本件代理受領を承諾したことにより、本件請負代金を直接上告人に支払うべき債務を負担したものと解することはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用するこ 領を承諾したことにより、本件請負代金を直接上告人に支払うべき債務を負担したものと解することはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 - 1 -同第二点について記録によれば、所論の主張を記載した上告人の昭和五七年一〇月六日付準備書面は原審口頭弁論期日において陳述されていないことが明らかであるから、原審が右主張について判断しなかつたことに所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 同第三点について原審は、単に事実認定としてだけではなく、所論の法律上の主張についても判断していることが、その説示に照らして明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。 同第四点について原審は、(1) 前示の認定事実に基づき、被上告人が同年一〇月三〇日以降四〇〇〇万円以上の請負残代金をD建設に支払つた結果、上告人は、D建設に対する四〇〇〇万円の貸金債権の担保たる代理受領権を喪失する一方、D建設が昭和五五年一二月頃倒産したことにより、同会社から右貸金の弁済を受け得ないこととなつたものとしつつ、(2)上告人のD建設に対する貸金については、訴外株式会社Eビル及び同Fが連帯保証しており、右両名は右貸金を弁済するに足る十分な資力を有しているとの事実を認定し、このように一個の債権が複数の担保提供者が提供した数種の担保によつて担保されている場合には、担保全体を一個の担保と考え、一種の担保が失われても残存する他種の担保によつて十分に担保されているときには、担保の喪失による損害はないものと解すべきであるとしたうえ、本件においては、上告人のD建設に対する貸金債権は、本件代理受領権が失われても、資力の十分な連 種の担保によつて十分に担保されているときには、担保の喪失による損害はないものと解すべきであるとしたうえ、本件においては、上告人のD建設に対する貸金債権は、本件代理受領権が失われても、資力の十分な連帯保証人によつて十分に担保されているのであるから、上告人には代理受領権の喪失による損害はないというべきである、として、この理由により、上告人の被上告- 2 -人に対する不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものと判示している。 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。担保権の目的物が債務者又は第三者の行為により全部滅失し又はその効用を失うに至つた場合には、他に保証人等の人的担保があつて、これを実行することにより債権の満足を得ることが可能であるとしても、かかる場合、債権者としては、特段の事情のない限り、どの担保権から債権の満足を得ることも自由であるから、そのうちの一個の担保が失われたことによりその担保権から債権の満足を受けられなくなつたこと自体を損害として把握することができ、他に保証人等の人的担保が設定され、債権者がその履行請求権を有することは、右損害発生の障害となるものではないと解するのが相当である(最高裁昭和四四年(オ)四〇五号同四五年二月二六日第一小法廷判決・民集二四巻二号一〇九頁参照)。これを本件についてみると、被上告人は、本件代理受領を承諾しながら、その目的である本件請負代金四〇〇〇万円をD建設に弁済したのであるから、これにより、被上告人がD建設に支払うべき本件請負代金を代理受領することによつてD建設に対する四〇〇〇万円の貸金債権の満足が得られるという上告人の財産上の利益が侵害されたというべきであつて、それ自体を上告人に生じた損害と認めるのが相当であり、訴外株式会社Eビル及び同FがD建設 建設に対する四〇〇〇万円の貸金債権の満足が得られるという上告人の財産上の利益が侵害されたというべきであつて、それ自体を上告人に生じた損害と認めるのが相当であり、訴外株式会社Eビル及び同FがD建設の上告人に対する右貸金債務について連帯保証していることは、右損害発生の障害となるものではなく、そのことは右両名の弁済資力の有無とはかかわりかないというべきである。そうとすれば、被上告人が本件請負代金をD建設に弁済した結果、上告人がD建設に対する四〇〇〇万円の貸金債権の担保たる代理受領権を喪失したことを肯定しながら、連帯保証人である訴外株式会社Eビル及び同Fが右貸金債務を弁済するに足る十分な資力を有していることを理由に、上告人には代理受領権の喪失による損害はないとした原審の前示判断には、不法行為の成立要件に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであり、右違- 3 -法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。したがつて、原判決を破棄し、本件について更に審理を尽くさせる必要があるので、原裁判所に差し戻すこととする。 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官大内恒夫裁判官谷口正孝裁判官高島益郎裁判官佐藤哲郎- 4 -
▼ クリックして全文を表示