主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用(ただし,参加によって生じた費用を除く。)は控訴人らの負担とし,参加によって生じた費用は控訴人ら参加人の負担とする。 3 原判決主文2項中被告Bに関する部分を次のとおり更正する。 「北九州市に対し,控訴人Cは2万0804円,控訴人D及び控訴人Eは各1万0402円並びに上記各金員に対する平成10年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」 4 原判決別紙「主文2項関係一覧表」,同「原告ら主張額一覧表」及び同「別表 3 出席者別費用額」中の各「F」を各「F’」と更正する。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。 2 (本案前の申立て)本件訴えをいずれも却下する。 3 (本案の申立て)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の概要は,当審において控訴人ら及び控訴人ら参加人(以下「参加人」という。)が以下のとおり主張したほかは,原判決の「第2 事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決40頁最後の2行を「別表B枝番号3整理番号4については,費用総額は91,500円となっているが,別表1-3の表では全額の183,000円とした。」と改める。)。 2 当審における控訴人ら及び参加人の主張(1) 監査請求の期間徒過について被控訴人らによる監査請求は,最初の食糧費の支出日(平成7年4月28日)から約2年8か月,最後のそれ(平成8年5月31日)から約1年7か月を経てされており,地方自治法242条2項に定められた1年の監査請求期間を徒過しているから,同項ただし書に定める「正当な理由」がない限り不適法であるところ,本件各支出は,いずれも法令及び北九州市の財務規程に則して行われたものであって 条2項に定められた1年の監査請求期間を徒過しているから,同項ただし書に定める「正当な理由」がない限り不適法であるところ,本件各支出は,いずれも法令及び北九州市の財務規程に則して行われたものであって,住民に隠れて秘密裡にされたものではないから,上記正当な理由があるというためには,単に住民が当該行為の存在及び内容を知り得なかったということのみでは足りず,天災地変等による交通途絶など監査請求期間徒過後においても監査請求を認めるのを相当とする特別の事情が存することを要するものと解するのが相当であるところ,そのような事情は存しない。仮に,百歩譲って,本件各支出が住民に隠れて秘密裡にされ,被控訴人らが平成9年8月19日(訴外団体が本件各支出に係る一般支出決議書,支出命令書及び請求書兼領収書の部分公開の文書の交付を受けた日)に本件各支出の事実を知り得たとしても,被控訴人らの監査請求は,それから更に約4か月を経てされているから,最高裁判所昭和63年4月22日判決のいう,普通地方公共団体の住民が当該行為を知ることができたと解される時から「相当な期間内に」監査請求をしたものとはいえない。 原判決は,対象を限定することなく膨大な文書の公開を請求したのがほかならぬ被控訴人ら自身であり,かつ,このような包括的な請求をせざるを得なかったことについて被控訴人らが何ら合理的な理由を述べていないのに,約4か月の期間を上記相当な期間内と認めたものであって,不当である。 (2) 本件各支出の違法性の有無について原判決は,平成11年に制定された国家公務員倫理法及び同12年に制定された国家公務員倫理規程(以下,併せて「倫理法等」という。)を基に,原則として1人当たり5000円を超える部分について支出が違法であると判断したが,不当である。 ア一律5000円という基準には, れた国家公務員倫理規程(以下,併せて「倫理法等」という。)を基に,原則として1人当たり5000円を超える部分について支出が違法であると判断したが,不当である。 ア一律5000円という基準には,何ら合理性がない。 イ倫理法等は,5000円を超える贈与や飲食について,報告義務を課しているだけであって,同金額を超えた場合にそれを違法として返還することを命じているわけではないから,同基準額を本件に当てはめるのは,筋違いというべきである。 ウ本件各支出が問題とされている平成7,8年当時と倫理法等が制定された平成11,12年とでは社会状況が異なることは公知の事実といっても過言でないところ,この点が理解されていない。 (3) 訴訟法上の問題点について本来,本件各支出を違法と主張する被控訴人らにおいて各支出ごとに市長及び専決権者に裁量権の濫用があったことを証明すべきであるところ,原判決は,控訴人らに対し,1人当たり5000円を超える飲食を要する特段の事情の主張,立証責任を課すという立証責任の転換を図っているが,この点については合理的な理由付けを欠いている。のみならず,本件においては,控訴人らは,訴訟の迅速化のため,裁判所の提案に従って,代表的事案についてのみ控訴人本人尋問を行い(いわゆるチャンピオン方式),あとは陳述書の提出のみで済ませるという立証をしてきたのであるが,この方法では,網羅的な立証は困難であるし,また,控訴人らには,情報公開条例(いわゆる個人情報は公開の対象とされていない。)や地方公務員法(守秘義務)による制約があるので,飲食の相手方の氏名,身分及び地位を明らかにすることはできないのであるから,原判決は,控訴人らに対し,難きを強いるものというべきである。 (4) 市長及び専決権者らの責任についてア平成7,8年当時,食糧費の支出 名,身分及び地位を明らかにすることはできないのであるから,原判決は,控訴人らに対し,難きを強いるものというべきである。 (4) 市長及び専決権者らの責任についてア平成7,8年当時,食糧費の支出が1人当たり5000円を超えた場合は違法になるなどと考えた者は,控訴人らを含め日本中に1人もいなかったことは明らかであるし,その認識可能性もなかったから,控訴人A及び専決権者たる控訴人らに重大な過失があると判断した原判決は不当である。 イ上記不当性は,控訴人Aに関して特に顕著である。 すなわち,普通地方公共団体の長がその財務会計上の権限を特定の補助職員に専決させている場合においては,専決すべき者と定められた補助職員が財務会計上の違法行為を行ったときは,長は,その補助職員が違法な財務会計上の行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により補助職員の前記違法行為を阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,地方公共団体に対して損害賠償の責任を負うものと解されている(最高裁判所平成3年12月20日判決,同平成5年2月16日判決)ところ,上記義務は,補助職員に対する一般的な指導監督上の義務ではなく,当該違法支出行為を阻止すべき指導監督上の義務であると解すべきであるから,少なくとも本件各支出に関する専決権者に違法行為があること又はあり得ることについての具体的な予見又は具体的な予見可能性が必要である。 ところで,食糧費の支出については,社会通念上の儀礼の範囲を超えたものだけが許されないと解されるところ,食糧費の支出は日常的に起こり得るため,控訴人Aは,専決規程に基づいてその補助職員に専決権限を与えていて,個別具体的な支出に関与していない(したがって,個々の接遇の趣旨,目的,相手方及び1人当たりの費用の 支出は日常的に起こり得るため,控訴人Aは,専決規程に基づいてその補助職員に専決権限を与えていて,個別具体的な支出に関与していない(したがって,個々の接遇の趣旨,目的,相手方及び1人当たりの費用の額等も承知しておらず,その接遇が社会通念上の儀礼の範囲内のものかどうかを判断する術もない。)から,同控訴人には,各専決権者に違法支出があること又はあり得ることについての具体的な予見又は具体的な予見可能性がなく,当該違法支出を阻止すべき指揮監督上の義務はなかったというべきである。 その上に,控訴人Aは,全国の普通地方公共団体に先駆けて食糧費の執行の自粛についての財政局長通知(丙8)を出させるなど,食糧費の適正な執行に鋭意努力していたのであって,同控訴人の違法支出の防止のための具体的な措置としては,これをもって足りるというべきである。 しかるに,原判決は,上記努力の事実を逆手にとって同控訴人に重大な過失があったものと認定,判断しており,極めて不当である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所の判断は,以下のとおり付加するほかは,原判決の「第3 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決15頁25行目の次に「(以上につき,乙1及び控訴人G)」を加え,同17頁21行目の「平成12年」を「平成11,12年」と改める。)。 2 当審における控訴人ら及び参加人の主張について判断する。 (1) 同(1)について本件各支出が殊更住民の目に触れないような形で秘密裡にされたものでないことは,控訴人ら及び参加人主張のとおりである。 しかしながら,住民による監査請求は,違法若しくは不当な公金の支出等があると認めるときに,これらを証する書面を添えてすべきものである(地方自治法242条1項)から,同条2項本文が住民の知,不知という主観的事情に ,住民による監査請求は,違法若しくは不当な公金の支出等があると認めるときに,これらを証する書面を添えてすべきものである(地方自治法242条1項)から,同条2項本文が住民の知,不知という主観的事情にかかわるものではないといっても,少なくとも住民が知り得ることを前提としているものというべく,最高裁判所昭和63年4月22日判決(集民154号57頁,判例時報1280号63頁)が,法的安定性の見地から短期の監査請求期間が定められたことを認めながら,「当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してからはじめて明らかになった場合等」に上記の趣旨を貫くことは相当でないとし,「当該行為が秘密裡にされた場合,同項但書にいう『正当な理由』の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものといわなければならない」と判示しているのも,このことを示すものと解される。 そこで,本件についてみるに,前記のとおり,訴外団体は,平成7年度終了後間もない(したがって,この時点では,1年以内に支出されたものが相当部分を占めていた。)平成8年7月3日,情報公開条例に基づき,実施機関に対し,平成7年度における局長(局長級を含む。)が含まれている食糧費支出に関する一般支出決議書,支出命令書(請求書兼領収書を含む。)及び食糧費支出に関する予算管理簿の公開請求をしたが,実施機関は,同年8月30日,予算管理簿を部分公開したのみで,その余の文書は公開せず,結局,その余の文書を部分公開し,部分公開された食糧費関係の文書を訴外団体に交付したのは,平成9年8月19日になってから は,同年8月30日,予算管理簿を部分公開したのみで,その余の文書は公開せず,結局,その余の文書を部分公開し,部分公開された食糧費関係の文書を訴外団体に交付したのは,平成9年8月19日になってからであった。ここに至って初めて,訴外団体,そしてまた被控訴人らは,本件各支出の概要を知ることができたということができ,これまでの間は,予算管理簿(部分)以外の文書の非公開によってこれを知ることができなかったのであるから,知ることができなかった事情につき,「当該行為が秘密裡にされた場合」と区別する合理的な理由はないものと解される。 次に,同日から被控訴人らが本件監査請求をした同年12月15日までの期間が上記「相当な期間」に当たるかどうかであるが,前記監査請求の要件に鑑みれば,本件のように,法令上一義的明確に違法性,不当性が認められるわけではない事案の場合には,できるだけ多くの事例を収集,分析する必要があり,それに相当の時間がかかることも否定できないところであるから,上記4か月弱の期間は,前記「相当な期間内」に当たると解するのが相当である。 (2) 同(2)について食糧費の支出の違法性を判断するに当たり,その基準をどこに求めるかについては,相当数の裁判例があるものの,その基準は帰一するところを知らない上,いずれも客観性に乏しいものであり,倫理法等を基準にするのが合理的であると解される。 確かに,倫理法等における5000円超という金額は,報告義務を課す基準であるが,倫理法等は,公務員が5000円を超える贈与等を受けた場合には,公正な公務に対する国民の信頼が揺らぎかねないとの認識を示したものにほかならず,この基準は,食糧費の支出が裁量権を濫用した違法があるかの判断をするに当たっても,有用なものというべきである。 また,控訴人ら及び参加人は,本件各 が揺らぎかねないとの認識を示したものにほかならず,この基準は,食糧費の支出が裁量権を濫用した違法があるかの判断をするに当たっても,有用なものというべきである。 また,控訴人ら及び参加人は,本件各支出が問題とされている平成7,8年当時と倫理法等が制定された平成11,12年とでは社会状況が異なる旨主張するが,公費を用いての飲食は自粛すべきものとする一般国民の風潮自体は異なるものではない(甲9の1ないし5,10,11の1ないし3,34,37ないし40,乙14ないし20,24,25,丙8,23)から,平成7,8年当時の本件各支出の違法性を判断するに当たって上記基準を用いても,背理という批判は当たらない。 なお,同基準は,被控訴人ら主張のそれとは異なるところ,被控訴人ら主張の酒量による上限値を排し,客観的な数値(金額)を用いて,本来裁判所の定立すべき裁量権の濫用の有無の判断基準を示したものにすぎず,訴訟法上の当事者主義ないしその精神に違反するものとはいえない。 (3) 同(3)について上記のとおり,食糧費を使っての飲食は,1人当たり5000円までは裁量の範囲内として違法性を認めないとするものであるから,それを超える部分についても違法性を欠くと主張する者がその旨の立証責任を負うのは当然のことであって,何ら異とするに足りない。この理は,控訴人ら及び参加人のいういわゆるチャンピオン方式の審理方式が採用されたからといって異なるものではない。 控訴人ら及び参加人は,情報公開条例及び地方公務員法の制約があるから,控訴人らに対し本件各支出の適法性を個別的に主張立証させるのは,難きを強いるものである旨主張するが,同法34条の守秘義務の対象となる「秘密」とは,非公知の事実であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと解される( 証させるのは,難きを強いるものである旨主張するが,同法34条の守秘義務の対象となる「秘密」とは,非公知の事実であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと解される(最高裁判所昭和52年12月19日決定・刑集31巻7号1053頁,同昭和53年5月31日決定・刑集32巻3号457頁参照)ところ,本件飲食の相手方は,いずれも,公務としての協議,懇談の会合に出席しているのであるから,その氏名,身分及び地位は実質的に秘密として保護に値するとはいえず,これらを明らかにしても,同法違反にはならないし,情報公開条例に違反することにもならないものと解すべく(甲32,36),上記主張は,その前提を欠くというべきである。 (4) 同(4)について確かに,平成7,8年当時,控訴人らに,飲食費が1人当たり5000円を超えれば違法になるという具体的な認識がなかったことは否定しがたいが,食糧費の支出を伴う接遇が社会通念上儀礼の範囲を超えた場合違法となることは,控訴人らもこれを認めているのであるから,控訴人A及び専決権者たる控訴人らとしては,少なくとも一定の基準を設定して,食糧費の執行をし,させることを要したものというべきところ,同控訴人らは本件訴訟においてこの基準につき何ら主張,立証しないのであって,結局,許容される範囲すら認識することなく,漫然と食糧費の執行をし,させていたものというほかない(この点は,乙31及び丙25からも明らかである。)。したがって,控訴人Aに関しても,その補助職員の違法な財務会計上の行為を阻止すべき指揮監督上の義務を尽くしたとはいえないし,各専決権者に違法支出があること又はあり得ることについての具体的な予見又は具体的な予見可能性を論じる実益はないことになる。 そうだとすれば,裁判所において基準をどのように を尽くしたとはいえないし,各専決権者に違法支出があること又はあり得ることについての具体的な予見又は具体的な予見可能性を論じる実益はないことになる。 そうだとすれば,裁判所において基準をどのように定めるかにかかわりなく,同控訴人らには,食糧費の違法執行について,故意とまではいえないとしても,これに極めて近い過失があったというべきである。 なお,控訴人Aが,平成6年3月30日付けで,財政局長名義の,食糧費等の適正な執行を求める旨の通知(丙8)を発出させたことは,一つの見識であるが,そのような通知を出すべき時期が到来していたという事実も,当時の公費支出に対する住民の関心状況を示すものといえるのである。 (5) 以上によれば,当審における控訴人ら及び参加人の主張は,いずれも理由がない。 3 (1) 以上によれば,本件控訴はいずれも理由がない。 (2) 記録によれば,原審被告Bは,本件訴訟が原審に係属中の平成12年1月29日死亡し,その妻子が訴訟手続を受け継ぎ,妻Cが2分の1,子D及び同Eが各4分の1の割合で債務を相続したことが認められるところ,原判決ではこの点が明らかになっていないので,その旨原判決を更正し,また,原判決中「F」とあるのは「F’」の明白な誤りであるから,これを更正する。 (3) よって,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官宮良允通裁判官石井宏治裁判官野島秀夫
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