平成31(ワ)626 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年3月17日 札幌地方裁判所
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判決文本文11,909 文字)

- 1 -令和2年3月17日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成31年(ワ)第626号地位確認等請求事件口頭弁論終結日令和2年1月28日判決主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 原告が,被告との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は,原告に対し,平成31年2月から本判決確定の日まで毎月25日限り月額15万5700円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,原告が,「AB」に従業員として採用されたが,①Aは被告の一部門にすぎず,その個人事業につき法人格否認の法理と同様の法理が適用される結果,被告に対して雇用契約上の権利を主張し得る,②被告との間で黙示に雇用契約が成立している,③Aの従業員を被告が承継する旨の合意がAと被告との間でされたと主張して,被告に対し,次のことを求める事案である。 ⑴ 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認⑵ 雇用契約上の賃金請求権に基づき,平成31年1月分から本判決確定の前月までの未払賃金として平成31年2月から本判決確定の日まで毎月25日限り月額15万5700円の金員及び上記各金員に対する上記各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払 2 前提事実(根拠(掲げた証拠の直後の〔〕内の記載は当該証拠における関係- 2 -ページ番号である。以下同じ。)を括弧内に示す。)⑴ 被告の立場被告は,札幌市内で美容院やエステティックサロンを経営する会社で(争いのない事実),Bが平成30年1月31日から被告の取 -ページ番号である。以下同じ。)を括弧内に示す。)⑴ 被告の立場被告は,札幌市内で美容院やエステティックサロンを経営する会社で(争いのない事実),Bが平成30年1月31日から被告の取締役を務めていた(甲1)。 ⑵ 雇用契約書の作成原告は,平成30年8月1日から,期間の定めのないパートタイム従業員としてBに採用され,同日,「AB」と原告との間で労働契約を締結した旨の労働契約書兼労働条件通知書(甲2。以下「本件契約書」という。)を作成し,札幌市中央区内の「C」という店舗(以下「本件店舗」という。) で勤務し始めた(争いのない事実,甲2)。 本件契約書には,時給が900円で毎月末日締め翌月25日払,1日8時間,週5日程度の勤務である旨が記載されている(甲2。なお,時給につき月平均所定労働時間173時間を乗じた額は15万5700円である。)。 ⑶ 所属変更に対する説明及び解雇 ア原告は,平成30年12月21日頃,被告とAの従業員を兼務するDから,本件店舗のスタッフがアールズ・ビューティー株式会社(以下「アールズ社」という。)の所属となり,その場合はアールズ社と雇用契約の締結が必要となる旨の説明を受けたが,翌22日,これを拒絶する旨の意向を表明し,Dとの協議を行ったが,平成31年1月6日,Dからの提案に 納得できないことから,解雇通知書の発付を求めた(争いのない事実,乙5〔32,33〕)。 イ Bは,原告に対し,平成31年1月9日付けで,「AB」が事業所の閉鎖を理由に原告を同年2月10日付けで解雇する旨の通知(以下「本件解雇通知」という。)を送付した(甲3)。 3 争点- 3 -⑴ Aと被告との間で法人格否認類似の法理を適用することの適否⑵ 原告と被告との間の黙示の 解雇する旨の通知(以下「本件解雇通知」という。)を送付した(甲3)。 3 争点- 3 -⑴ Aと被告との間で法人格否認類似の法理を適用することの適否⑵ 原告と被告との間の黙示の雇用契約の成否⑶ Aの従業員を被告が承継する旨の合意の有無⑷ 解雇の成否及び相当性 4 争点についての当事者の主張 ⑴ 争点⑴(Aと被告との間で法人格否認類似の法理を適用することの適否)について(原告の主張)ア子会社が,親会社に支配され,両者間で業務や財産が混同され,その事業が実質的に同一であると評価されることにより,法人として形骸化して いるときは,子会社の解散は親会社の一部門の閉鎖にすぎないから,子会社の従業員は,親会社に対し,直接に雇用契約上の権利を主張し得ると解され,自然人が事業を閉鎖した場合であって上記と同様の事情があるときにも,同様に解すべきである。 イ原告は,被告の求人広告を見て,被告の本社で,被告本社の主任とAの 従業員を兼務するDから面接を受け,研修期間中は研修を担当する被告の部署で雇用されると説明を受けたのみならず,研修期間後は被告で雇用され得る仕組みとなっていた。所属が変わる旨の連絡やその後の協議も,Dとの間で行っている。 Bは,原告と本件契約書作成時に初めて対面したにすぎないし,被告の 取締役であるだけでなく,ベルフルールのBであると名乗ってもいて,本件店舗にはほとんど臨場せず,臨場の際は被告の社長を伴っていた。 原告は,本件店舗のみならず被告の系列店で勤務させられたこともあったし,最後の給与明細は被告から被告名義のものが送付された。 ウこうした事情を始めとする諸事情に加え,被告の本件における主張から してAが被告の一部門であることを自認していると評価し得るこ たし,最後の給与明細は被告から被告名義のものが送付された。 ウこうした事情を始めとする諸事情に加え,被告の本件における主張から してAが被告の一部門であることを自認していると評価し得ることからし- 4 -て,Aの個人事業は,社会的にも経済的にも被告の事業と実質的に同一で,人格が形骸化しているといえるのであり,その廃業は,被告の一部門の閉鎖と評価すべきである。 (被告の主張)ア Aは,被告が運営する複数の店舗を総括的に運営管理する業務を担う事 業体で,被告の本社事務所と同一の場所を事業所とし,以前はBの前夫が事業主体となっていたが,平成29年11月頃から,Bが事業主体となった。AことBは,労働保険の適用者で,自己名義で税の確定申告等を行い,収入及び経費を自己の計算で管理しているのであり,被告との間で業務や財産が混同していない。 被告の店舗のスタッフには,Aから時給勤務のアルバイトとして雇用されて被告の店舗に派遣される者,正社員として被告に勤務している者,被告と業務委託契約を締結して被告の店舗において個人事業主として活動する者などがいるにすぎない。 イこのように,Aの事業は被告の事業と実質的に同一とはいえないから, AことBの人格が形骸化しているとは到底いえない。 ⑵ 争点⑵(原告と被告との間の黙示の雇用契約の成否)について(原告の主張)上記⑴(原告の主張)に主張する諸点から,Aは社会的にも経済的にも被告の一部門にすぎないといえるのみならず,実際の使用従属関係は被告と原 告の間にあるといえるし,給与支払者も被告であるから,本件契約書を作成した時点で,原告と被告の間に黙示に雇用契約が成立した。本件契約書は,Aと原告とのものであるが,上記のとおりAと被告は実質的に同一で,被告とAが えるし,給与支払者も被告であるから,本件契約書を作成した時点で,原告と被告の間に黙示に雇用契約が成立した。本件契約書は,Aと原告とのものであるが,上記のとおりAと被告は実質的に同一で,被告とAが重畳的に雇用契約上の責任を負うのであるから,契約書の存在が黙示の雇用契約の成立の障害となるとみるべきでない。 (被告の主張)- 5 -原告は,時給勤務のアルバイトとしてAことBとの間で雇用契約書を交わして同契約を締結しているのであり,被告とは雇用契約関係にない。原告が主張する諸点は,求人広告の主体が被告であることは雇用契約の主体を当然には規定しないこと,面接場所となった被告本社及びA事業所には双方の屋号が掲示されていること,原告に対応したDのほか,Bは,被告とAの双方 に所属していること,Aが被告の店舗を総括的に運営管理する事業を営んでいる以上,原告を他の被告店舗で業務することも通常であることなどから,被告と原告との黙示の雇用契約の成立をうかがわせる根拠となり得ない。 ⑶ 争点⑶(Aの従業員を被告が承継する旨の合意の有無)について(原告の主張) 被告は,原告以外のAの全従業員を雇用し,原告に対しても,勤務内容は変わるものの,被告と雇用契約の締結を求めていた上,Aの廃業理由も,被告の組織の変更に伴うものにすぎないことからして,AことBと被告は,Aの雇用契約を被告に承継させる合意をしていた。 (被告の主張) 営業譲渡等に伴って譲渡人との間で雇用契約を締結していた従業員の雇用関係が当然に譲受人に引き継がれることはなく,営業の譲渡人と譲受人との間で特別の合意を要する。ところが,Dは,原告に対し,引き続き本件店舗で稼働するにはアールズ社と雇用契約の締結が必要であると説明し,原告からの拒絶を受けて,被告と とはなく,営業の譲渡人と譲受人との間で特別の合意を要する。ところが,Dは,原告に対し,引き続き本件店舗で稼働するにはアールズ社と雇用契約の締結が必要であると説明し,原告からの拒絶を受けて,被告との間の雇用契約の締結という他の選択肢を提案し たことのほか,Aにおける他の2名の従業員も,被告と雇用契約を締結せず,アールズ社などと雇用契約を締結したことなどからして,Aと雇用契約を締結した者と個別に協議の上で被告との契約の可否を決していたのであり,AことBと被告の間で上記の特別の合意はない。 ⑷ 争点⑷(解雇の成否及び相当性)について (被告の主張)- 6 -本件解雇通知は,AことBからの解雇の形式をとっているが,原告は,Aの廃業,本件店舗の運営者の変更に伴って行われた,被告で雇用して他の店舗で勤務,アールズ社で雇用して本件店舗で勤務の各提案に対し,就労意欲を喪失し,解雇を求めた結果発出されたものにすぎず,実質的には自主退職と異ならないのであるから,仮にこれを被告からの解雇と解するとしても, 相当なものである。 (原告の主張)被告は,本件店舗の運営者が被告からアールズ社に変更されるに伴い,原告に対してアールズ社の従業員となるよう提案し,原告は,これに強く抵抗して交渉を重ねていたが,Dが,交渉中であったにもかかわらず,交渉を打 ち切る趣旨の発言をし,すぐに本件解雇通知がされた。こうした経緯からして,被告からの解雇は整理解雇というべきところ,被告には多数の店舗があって原告を勤務させることが可能で,解雇回避努力を果たさず,金銭的補償や解雇予告手当を支払っていないことからして,解雇は不相当である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 果たさず,金銭的補償や解雇予告手当を支払っていないことからして,解雇は不相当である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ⑴ BによるAの開業,Dの立場ア Bは,被告の従業員で,総括店長の役職にあった(証人D〔15,16〕)ところ,平成29年11月11日,被告との間で,被告の総務に関 するコンサルティング及びこれに付随する業務を「AB」が行う旨の業務委託契約を締結してスタッフの研修等を行うこととし(乙2,証人D〔2〕),同年12月5日に使用人を20人として人材派遣業を個人事業として開業した旨を所轄税務署長に,同月21日に労働保険関係が成立した旨の届け出を所轄の労働基準監督署長にそれぞれ届け出て保険料を納付し ていて,平成30年1月9日には上記労働基準監督署により,事業主の実- 7 -在が確認された(乙1,10)。また,Bは,税理士をして,同年2月18日には「AB」を屋号として,平成31年2月8日には自己名義で所得税等の確定申告を行った(乙11,12)。Aの事務所は,被告の本社事務所と同一の場所に構えられ,その場所には被告とAの双方の看板が掲げられている(乙4)。 イ Bは,「AB」名義の銀行口座を平成20年12月6日に開設していて,被告から毎月300万円程度の入金があったほか,Dその他の者に対して毎月25日前後に金銭が振込送金されていて,平成30年9月25日から平成31年1月25日までの振込送金先には原告が含まれていた(乙13~16)。 ウ DはBによるAの開業後,被告とAの従業員を兼務するようになり,Aにおいては,基本給及び役職手当の支給を受けていた(乙7の1~5,証人D〔19,20〕)。 ⑵ 面接,契約書の作 )。 ウ DはBによるAの開業後,被告とAの従業員を兼務するようになり,Aにおいては,基本給及び役職手当の支給を受けていた(乙7の1~5,証人D〔19,20〕)。 ⑵ 面接,契約書の作成等ア平成30年7月7日に被告の本社事務所とAの事務所を兼ねる場所で原 告を面接したDは,被告の社長と相談し,原告に対し,かなりの技術研修を要することを前提として,日曜日に勤務可能な正社員としての採用を打診した。原告は,この申し出を断ったが,最終的に,技術研修を受けることを前提とし,日曜日に休めるアルバイトスタッフとして採用する旨の申し出を承諾し,同年8月1日から研修に赴くことに同意した。(甲23 〔2〕,乙4,5〔1~3〕,17〔4~6〕)イ原告は,平成30年8月1日に本件店舗に初めて赴いた際,Dから,研修期間があること,研修期間中は被告との契約でないことを少なくとも説明され,被告ではないが被告みたいなところから給与が出ることを理解した上,Dから提示された労働契約書の労働条件に目を通した上で署名押印 し,その際,同契約書を写真撮影して保管したが,労働条件を見て特段の- 8 -違和感を覚えなかった(甲20,21〔2〕,23〔4〕,乙5〔14〕,証人D〔7,9〕,原告本人〔32〕。原告は,契約書の写真撮影を否定し,Dに対するメッセージ(乙5〔14〕)は他人が自分の契約書の写真を保有していることを指摘したものと供述する(原告本人〔19〕)が,当該メッセージは,文言上,原告の契約書の撮影及び保管をいうものとみるの が自然であり,他人の契約書の写真の存在を指摘する必要があったともいえないから,上記供述部分は不合理で,たやすく信用できない。)。 上記契約書は,冒頭部分に,原告と「AB」が労働契約を締結したので 然であり,他人の契約書の写真の存在を指摘する必要があったともいえないから,上記供述部分は不合理で,たやすく信用できない。)。 上記契約書は,冒頭部分に,原告と「AB」が労働契約を締結したので,契約書を作成する旨の記載のほか,上記署名押印欄の右横に「事業主AB」との記載のあるものであった(甲2,乙6)。 ウ原告は,本件店舗における勤務後,「AB」名義で発行された給与明細書を交付されていた(甲4,乙8の1~4)。 ⑶ 勤務形態,指示等ア原告は,面接以降,Dとの間で,携帯電話のメッセージアプリケーション(LINE)を使って連絡を取り合っていて,勤務開始後,Dから,研 修期間中は担当した客に接して得た課題等を電子メールで報告すべきこと,当該報告は社長,本社,店長に送られること,入社1か月後の面談を行うこと,会議やミーティングに参加すべきことなどが指示,伝達されていた。 原告は,こうした指示,伝達に従っていて,労働契約書の写しの交付を求めたほかは,平成30年12月になるまで,意見や要望を述べることはな かった。(乙5〔6~19〕)イ原告は,本件店舗における稼働中は,本件店舗のEや,被告から委託を受けて勤務するFなどから指導を受けていて,Bは,接客の点を除き,原告に対して直接指導をしていなかった(乙5〔23〕,証人D〔17,18〕,原告本人〔5,10〕)。 ⑷ 本件店舗の運営者変更に伴う原告とDの交渉等- 9 -ア Dは,原告に対し,平成30年12月21日の夕方に面談した際,本件店舗の運営主体が被告からアールズ社に変わること,これに伴い,本件店舗のスタッフはアールズ社と雇用契約を締結する必要があることを説明し,退職届の要否を尋ねる面談後の原告からの質問を受けて,電話で,退職届は不要であ 被告からアールズ社に変わること,これに伴い,本件店舗のスタッフはアールズ社と雇用契約を締結する必要があることを説明し,退職届の要否を尋ねる面談後の原告からの質問を受けて,電話で,退職届は不要であること,本件店舗の運営主体がアールズ社に戻ることになった こと,Aがなくなること,正社員になりたいという原告の希望をアールズ社に確実に引き継ぐことなどを説明した(甲20,21,乙5〔20,21〕,17〔7〕)。 イ原告は,上記の説明を受けた後,被告が運営主体になる前に「G」のオーナーであったEから,アールズ社に来るのか被告に残るのか決めるのは 原告次第で,給与や業務形態が変わるが,アールズ社に来てもらって構わないと提案された(原告本人〔12〕)。 ウ原告は,平成30年12月22日には,Dに対し,運営主体が被告でなくなるなら本件店舗で働く意向はないと伝え,また,いずれ被告で社員として働くために,面談の度に社員になる気はあるかという質問にも答えて 一生懸命に働いてきた,会社都合にもかかわらず,本件店舗で働かず,かつ,被告店舗で働こうにもしばらく入客が難しいのであれば,解雇同然であるとの考え方を示し,同月31日には,従前どおり働けないのであれば退職するとの意向を示した(乙5〔22,23,26〕)。 これに対し,Dは,同日,社長と協議の上,被告が直接雇用した上で, 平成31年1月は本件店舗で稼働すること,同年2月からは,被告がこれまで運営していた本件店舗を含む6店舗のほかに新規開店する店舗「H」で,まずはネイル除去その他のアシスタント業務,フットネイルの施術,次いで技術指導の状況を見てハンドネイルの施術,雑務をしてもらうこと,同年4月以降は同店舗「I」の客に対するネイル施術をすること,更にデ ザインなどをするこ スタント業務,フットネイルの施術,次いで技術指導の状況を見てハンドネイルの施術,雑務をしてもらうこと,同年4月以降は同店舗「I」の客に対するネイル施術をすること,更にデ ザインなどをすることの6点を予定する案を提示した(乙5〔26,2- 10 -7〕,証人D〔31〕)。 エ原告は,被告の店舗に移ってもジュニアと呼ばれる研修を要する身であることは承知しているが,被告の店舗におけるネイリストとしての稼働が確約されていないことを理由に上記提案を拒絶し,最終的に,従前と同様の稼働形態が保たれない以上はアールズ社,被告のいずれと雇用契約を締 結するにも納得できないことを理由に,解雇通知書の発行を求めた(乙5〔27~33〕,被告本人〔35〕)。 2 争点⑴(Aと被告との間で法人格否認類似の法理を適用することの適否)について⑴ 原告は,被告との関係においてAことBは実質的に同一であると評価され, 形骸化していると主張する。 ⑵ そこで検討すると,前記前提事実⑴及び前記認定事実⑴によれば,Bは,被告の従業員であり,その後に取締役を務めるに至っていること,取締役就任前に「A」を屋号として被告の総務に関するコンサルティング等の業務委託を受け,被告の店舗におけるスタッフの研修業務を行っていること,当該 業務に従事する者が被告と兼務していること,事業に関する金銭を被告のみから得ていることが明らかで,こうした事実関係によれば,被告における役職を有するBが被告から事業資金や従事者の供給を得て被告に関連する業務を行っているということができ,Aの事業が被告と密接な関係を有していると評価し得る。 その一方で,Bは,個人事業の開業,労働保険に必要な行政手続を済ませ,行政官庁により実在が確認されたほか,自己の名義,計算によ でき,Aの事業が被告と密接な関係を有していると評価し得る。 その一方で,Bは,個人事業の開業,労働保険に必要な行政手続を済ませ,行政官庁により実在が確認されたほか,自己の名義,計算により,被告のみから得た事業に関する金銭を区分けして管理し,税務申告を行っていたことが明らかで,Aの事業は,行政機関からの認識,財産管理の点において業務や財産の独立性を見出すことができる。 このように,Aと被告とは,事業につき密接な関係を有するというにとど- 11 -まり,一方で業務や財産の独立性を見出せるのであるから,被告の事業とAの事業とが実質的に同一で,Aの事業の実体が形骸化しているとみることはできない。 ⑶ この点に関し,原告は,①Aの事業に採算性がないこと,②管理する銀行口座も被告から入金された資金を従業員に送金しているにすぎないものであ ること,③従業員の求人広告にAの記載は見られず,Aと被告が別個独立の事業体であると原告は説明されていなかったことから,Aが被告の一部にすぎないと主張する。 しかし,上記①につき,採算性の有無は人格の形骸化と直ちに関連するものでなく,②につき,被告と異なる名義で,当該名義人が管理する銀行口座 を経由する以上は,独立性をうかがわせる事情とみるべきで,③につき,前記認定事実⑵イによれば,研修中の所属及び給与支給者が被告と異なる旨をDが原告に説明したものであって,原告の主張する諸点からAが被告の一部と評価すべきとはいえない。原告の主張は採用することができない。 ⑷ したがって,これらを同一のものとみて,原告の雇用契約上の権利を被告 に対して主張することはできない。 3 争点⑵(原告と被告との間の黙示の雇用契約の成否)について⑴ 原告は,原告とAことBとの雇用契約にかか 同一のものとみて,原告の雇用契約上の権利を被告 に対して主張することはできない。 3 争点⑵(原告と被告との間の黙示の雇用契約の成否)について⑴ 原告は,原告とAことBとの雇用契約にかかわらず,被告との間で黙示に雇用契約が成立していると主張する。 ⑵アそこで検討すると,前記認定事実によれば,まず,原告の採用過程にお いて,被告とAの立場を兼ねたDにおいて被告の社長に相談をしていて(認定事実⑴ウ,⑵ア),被告が原告の採否に関与していたということができ,また,原告の本件店舗等における稼働中は,本件店舗の被告関係者から指導を受けていた(同⑶イ)のであり,その限度では,被告からの指揮命令があったと評価し得るが,Aは被告から業務委託を受けて新人の研 修を担当していたもの(同⑴ア)で,上記の指揮命令は被告店舗において- 12 -研修を受ける以上は当然のこととみる余地があり,また,研修中の連絡はAの立場があるDが終始担当していたこと(同⑶ア)からして,Aにおいて研修状況の管理がされていたとみることができる。そうすると,採否についての関与,指揮命令の外形的事情から,被告において原告を使用して給与を支払う意思が表明されているとは直ちに評価し得ない上,その後も 給与はAことBが自己管理資金からその名義で原告に支給していること(同⑴ウ,⑵ウ)からも,被告に上記の意思が現れているとはいえない。 イ原告についてみても,前記認定事実によれば,採用当初は研修が必要であると説明を受けて採用の申し出に応じた上,研修期間中は被告との契約でない趣旨の説明を受け,少なくとも給与の出所が被告でないことを理解 してAことBを相手方とする労働契約書に署名押印した(認定事実⑵ア,イ)のであり,自らが研修中の身で,その期間中の契約の相手方及 い趣旨の説明を受け,少なくとも給与の出所が被告でないことを理解 してAことBを相手方とする労働契約書に署名押印した(認定事実⑵ア,イ)のであり,自らが研修中の身で,その期間中の契約の相手方及び給与支給者がAことBであることを理解して,雇用契約ないし労働契約を締結する旨の意思表示をしたとみるべきである。 しかも,原告は,研修が続き,給与がAことB名義で支給され続けてい ても,契約書の控えの交付を求めたほかは特段の意見や要望を述べた形跡がなく(同⑶ア),平成30年12月に移籍の提案がされた後も,研修期間は続き,正社員になった場合には被告が雇用することになるとの認識でいた(同⑷ウ,エ)のであって,当初の意思表示に対して相手方を違えた被告との契約を締結したとの認識に至っていたとも,客観的に見てそうし た認識を表明していたともいえない。 ウこのように,被告においても,原告においても,原告が被告に使用されて労働ないし労働に従事し,被告がこれに対して賃金ないし報酬を支払うことについての意思を有し,これを表明したと評価すべき状況にない。 ⑶ 原告は,①Aが社会的にも経済的にも被告の一部門にすぎないことや②実 際の使用従属関係が被告と原告の間にあるといえること,③給与支払者が被- 13 -告であることを主張する。しかし,上記①につきそうした評価が相当でないことは前記2において判断したとおりであり,②につき,仮にそうであっても,上記⑵アの説示に照らし,同ウの判断を左右しないもので,③につき,同アの認定に反する。原告の主張は採用し難い。 ⑷ したがって,原告と被告との間で黙示の雇用契約が成立しているとみるこ とはできない。 4 争点⑶(Aの従業員を被告が承継する旨の合意の有無)について⑴ 原告は,AことBと被告 し難い。 ⑷ したがって,原告と被告との間で黙示の雇用契約が成立しているとみるこ とはできない。 4 争点⑶(Aの従業員を被告が承継する旨の合意の有無)について⑴ 原告は,AことBと被告の間で,Aの従業員を被告が承継する旨の合意がされたと主張する。 そこで検討すると,前記認定事実によれば,Aは個人事業であって,廃業 に伴って被告が事業を承継するにすぎない(認定事実⑴,⑷ア)から,従業員の雇用関係が当然に被告に承継されると直ちにみることはできない。 加えて,Aの廃業のほか,本件店舗の運営主体の変更に伴い,原告は,本件店舗で勤務を続けるにはアールズ社と雇用契約を締結する必要がある旨のDからの説明やその後のEからの説明により,アールズ社への移籍の判断は 原告の任意によるものであることを説明されていたのであり,Dは,この説明を受けた原告からの反対の意向を受けて,被告と雇用契約を締結しながら本件店舗で勤務し,次いで被告が運営する店舗に異動して勤務を続けることを提案している(認定事実⑷)。 そうすると,被告は,当初は原告に本件店舗に残留させてアールズ社に移 籍させることを提案していたが,原告の要望に応じて被告が雇用する旨提案を改めていて,原告の所属を原告自身に決めさせる意向を有していたことがうかがわれるのであるから,少なくとも本件店舗に所属していた者を全て被告に移籍させる合意がされていたとは認められず,他に上記の合意がされていたことをうかがわせる証拠はない。 ⑵ この点に関し,原告は,①Aの廃業理由は被告の組織の変更に伴うものに- 14 -すぎないこと,②被告が原告以外のAの全従業員を雇用したこと,③原告に対しても被告と雇用契約の締結を求めていたことから,Aとの雇用契約の承継の合意がされていたと 織の変更に伴うものに- 14 -すぎないこと,②被告が原告以外のAの全従業員を雇用したこと,③原告に対しても被告と雇用契約の締結を求めていたことから,Aとの雇用契約の承継の合意がされていたと主張する。 しかし,上記①は,被告が雇用契約を承継する動機となり得るが,前記認定事実⑷アのとおり運営主体の変更が予定されている本件店舗においては, スタッフが本件店舗に残留する選択肢が考え得るから,被告がそのスタッフを雇用して本件店舗から異動させるのが通常とは直ちにいえない。上記②については,これを認めるに足りる証拠はない。上記③については,上記⑴に説示したとおり,被告との雇用契約の締結は,当初の提案に対する原告の反対の意向を受けて提案されたもので,原告の要望に応じたものとみるのが自 然であって,Bと被告との間の方針に基づくものとは直ちにみるべきでない。 そうすると,これらの事情から原告の主張する合意があったとみることは相当でない。 ⑶ したがって,AことBと被告の間で,Aの従業員を被告が承継する旨の合意がされたとは認められない。 5 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判官萩原孝基

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