判決平成14年7月12日神戸地方裁判所平成13年(わ)第1113号,第1443号暴力行為等処罰に関する法律違反,暴行,傷害被告事件 主文 被告人を懲役1年に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成13年7月19日午後8時ころ,兵庫県三木市ab番地のc所在の当時の自宅において,かねてから情交関係にあったA(当時32歳)に対し,同女のせいで自己の事業と家庭が壊されたと思っていたことに加え,同女が他の男性と情交関係を持っていたのを知ったことから,立腹のあまり,「どないしてけじめつけるんや。」などと申し向けた上,同女の左大腿部にたばこの火を押しつける暴行を加え,よって,同女に加療約1か月間を要する左大腿部熱傷Ⅱ度の傷害を負わせた第2 同年10月9日午後3時前ころ,上記Aが居住する神戸市d区ef丁目g番h号神戸市営i住宅に押しかけた上,同女が自己の要求する損害賠償等の支払いをなさず,またそのための話し合いにも応じようとしないことに立腹して, 1 同住宅8階北側通路付近において,対面する同女に対し,「殺すぞ。」などと怒声を発しながら,所携の金属バット(平成14年押第38号の1)を振りかざして,同女の生命・身体に危害を加えかねない気勢を示し,もって,凶器を示して脅迫した 2 上記1の犯行に引き続き,同住宅9階北側通路付近等において,同女の首を両手で絞めつける暴行を加えたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,判示第2の各事実について,被告人が,Aに対し,怒声を発しながらバットを振りかざして脅迫したことや, めつける暴行を加えたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,判示第2の各事実について,被告人が,Aに対し,怒声を発しながらバットを振りかざして脅迫したことや,その首を両手で絞めつけたことが合理的な疑いを容れないまでに証明されていないから,被告人は無罪である旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,補足して説明をする。 2(1) まず,証人Aの当公判廷における供述(以下「A証言」という。)は,判示第2の各被害に遭ったときの状況について,「私が,母親と娘と一緒に階段を使いi住宅の9階から8階に降りていったところ,8階通路で被告人と出会った。被告人は,両手で金属バットを持ち,先の方を上にして,手が右肩の位置くらいになるまで振り上げ,『殺すぞ。俺の人生をむちゃくちゃにしやがって,ただで済むと思うな。』というようなことを普通より大きな声で言ってきた。私の後方にいた母親が,『うちの娘に何をするんですか。』と言い,携帯電話で警察に通報しようとしたところ,被告人は,金属バットを8階通路の植え込みに置いた上,母親の携帯電話を取り上げようとしたが,母親が9階に逃げたため,取り上げることはできなかった。被告人は,今度は,私の方に来て,8階通路踊り場付近で,向かい合っている私の首を両手で絞めてきた。被告人が2,3秒で手を放したので,私は,その隙に9階に逃げようとしたが,階段の途中で転んでしまった。私が娘をかばおうと覆い被さっていると,被告人は後ろから私の首を両手で絞めてきた。また,被告人が2,3秒で手を放したので,私は9階に逃げたが,被告人は,追いかけてきて,9階通路で,向かい合っている私の首を両手で絞めてきた。」などというのである。 また,証人Bの当公判廷における供述(以下「B証言」という。)は ,私は9階に逃げたが,被告人は,追いかけてきて,9階通路で,向かい合っている私の首を両手で絞めてきた。」などというのである。 また,証人Bの当公判廷における供述(以下「B証言」という。)は,娘Aが判示第2の各被害に遭ったときの状況について,「私が,娘と孫と一緒に階段を使いi住宅の9階から8階に向けて降りていこうとしたところ,8階通路にいた被告人と出会った。被告人は,娘と向かい合って立ち,金属バットを先の方を上にして持って,手が目の高さくらいになるまで振り上げ,『こら。』とかなんとか言っていたが,なんと言っていたのか,気が動転していたためはっきりとは覚えていない。私が『何すんの。暴力はやめなさい。』と言うと,被告人は,金属バットを放って,娘の襟元辺を両手で掴んで押しながら前後に揺すったので,私が携帯電話を取り出して110番通報しようとしたところ,被告人が携帯電話を取り上げようとしにきた。そこで,私は,9階に逃げて,110番通報をし,また,9階から8階に降りる階段の踊り場まで行くと,娘がうつ伏せになって倒れていたので,娘の腕を持って9階にまで上がらせた。すると,被告人も,9階通路に上がってきて,向かい合っている娘の首を両手で押さえつけた。」などというのである。 (2) A証言とB証言は,いずれもその内容が具体的かつ詳細であって,細かい点でいくつかの相違はあるものの,よく合致しているだけでなく,被告人と被害者のそれまでの経緯や関係,特に,被告人は,Aのせいで自己の事業と家庭が壊されたと思い,同女に対し,判示第1の犯行の後に約束させた損害賠償や慰謝料等の支払いを執拗に求めて,繰り返し電話をかけたり,同女方周辺に張り込んだりなどしたものの,同女が支払いをなさず,またそのための話し合いにも応じようとしないことに腹立ちを募らせていたこと 償や慰謝料等の支払いを執拗に求めて,繰り返し電話をかけたり,同女方周辺に張り込んだりなどしたものの,同女が支払いをなさず,またそのための話し合いにも応じようとしないことに腹立ちを募らせていたことを併せ考えれば,A証言とB証言のいうところは,合理的で納得できるものであるから,これを信用に値するものと認められる。 3(1) これに対し,被告人の当公判廷における供述(以下「被告人の公判供述」という。)は,判示第2の各事実について,「金属バットを持っていったが,肩に担いでいただけであって,振りかざしてはいない。多少大きな声を出したが,Aを脅すつもりはなかった。『殺してやる。』などと言ったのは警察官が来てからである。Aに3回くらい手を触れたことがあるが,最初8階では多分両手で首の下辺りを掴み,次に8階から9階に上がる階段では9階に上がらせるよう右手で首の後ろから押し,最後に9階では右手で首を押したことはあるが,首を絞めてはいない。」などというのである。 (2) この被告人の公判供述は,前記のA証言やB証言と対比すると,外形的にはよく似ていることが明らかである。しかし,被告人が金属バットを持っていった理由については,被告人自身Aに対する脅しのためであったことは認めており,それ以外には考え難いのであるから,被告人の公判供述が単に肩に担いでいただけである旨いうところは,A証言やB証言がこれを振り上げて「殺すぞ。」とか「こら。」とか怒声を発していた旨いういうところに比べて,不自然かつ不合理的であると考えられる上,被告人は,金属バットを持っていた態様について,捜査段階では,Aらと出会ったときには,すでに金属バットは通路のところに置いていたと言ったり,金属バットは持っていたが,先を下にして持っていたのか,肩に担ぐような格好でいたのかはっきりしないと言っ 捜査段階では,Aらと出会ったときには,すでに金属バットは通路のところに置いていたと言ったり,金属バットは持っていたが,先を下にして持っていたのか,肩に担ぐような格好でいたのかはっきりしないと言ったりなどしていたのであり,一貫性に欠けていることが明らかであるから,被告人の公判供述が金属バットを単に肩に担いでいただけである旨いうところはそのままには信用し難い。また,被告人がAの首に手を触れたことについても,それがAに9階に上がるよう促すためのものでなかったことは,そのような意図であれば首ではなく腕を掴むなどするのが通常であることからして明らかである上,被告人が前記のようにAに対する腹立ちを募らせていたことや前記の怒声の内容をも考え併せると,被告人がAを脅すつもりでその首に手をかけたとみるべきであって,そうだとすると,その態様は被告人の公判供述のいうところに止まらず,A証言のいうように首を絞められたと感じさせるような態様のものであったとみるのが自然かつ合理的であるから,被告人の公判供述がこの点についていうところもそのままには信用することができない。 そして,被告人の捜査段階における供述もまた,これまでみてきたところ等からして,A証言やB証言に比して,その信用性は乏しいというべきである。 4 以上のとおりであるから,判示第2の各事実については優にこれを認めることができる。 (確定裁判)被告人は,平成13年3月26日神戸地方裁判所で道路交通法違反罪により懲役3月に処せられ,その裁判は同年11月15日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙24)によって認められる。 (法令の適用)罰条判示第1の行為刑法204条判示第2の1の行為暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条1項)判示第2の2の行 作成の前科調書(乙24)によって認められる。 (法令の適用)罰条判示第1の行為刑法204条判示第2の1の行為暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条1項)判示第2の2の行為刑法208条刑種の選択いずれも懲役刑併合罪の処理刑法45条後段,50条(まだ裁判を経ていない判示各罪について更に処断)刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)宣告刑懲役1年訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の事情)被告人は,かねて情交関係にあった被害者のせいで自己の事業と家庭が壊されたと思っていたことに加え,被害者が他の男性と情交関係を持っていたのを知ったことから,これに立腹して判示第1の犯行に及び,また,被害者が自己の要求する損害賠償等の支払いをなさず,またそのための話し合いにも応じようとしないことに立腹して,判示第2の各犯行に及んだものであるが,被告人の事業や家庭が壊れたことには被害者にも責任があったとはいいうるものの,被告人自身に主たる責任があったというべきであるから,自分勝手な思いから犯行に及んだその動機にあまり酌むべき点はないこと,判示第1の犯行は,たばこの火を被害者の左大腿部に押し付けるというものであり,判示第2の各犯行は,被害者方のある共同住宅に押しかけ,小さな子供のいる前で,金属バットを振り上げて被害者を脅迫した上,被害者の首を絞める暴行を加えたというものであって,その犯行態様は陰湿あるいは悪質なものであること,被害者は,判示第1の犯行の結果,加療約1か月間を要する左大腿部熱傷Ⅱ度の傷害を負っており,その結果は軽いものではなく,被害感情には厳しいものがあること,被告人は,判示第2の各犯 なものであること,被害者は,判示第1の犯行の結果,加療約1か月間を要する左大腿部熱傷Ⅱ度の傷害を負っており,その結果は軽いものではなく,被害感情には厳しいものがあること,被告人は,判示第2の各犯行については否認を続けて自己の刑事責任を免れあるいは軽減しようとするなど,真摯な反省悔悟の態度が認められないことなどを考え併せると,犯情はよくなく,被告人の刑事責任は軽くはないといわざるを得ない。 また,被告人は,平成12年6月に道路交通法違反(無免許運転6回)の罪により懲役8月,5年間執行猶予,保護観察付の判決を受けながら,その後も無免許運転を重ねて,平成13年3月に道路交通法違反(無免許運転1回)の罪により懲役3月の判決を受け,この判決に対する控訴や上告中に判示の各犯行に及んだものであることも,量刑上看過するわけにはいかない。 してみると,被害者と被告人の本件に至るまでの経緯や関係には,被害者にも責められるべき点がなかったわけではないこと,被告人も判示第1の犯行については,公判段階ではやや自己弁護的な傾向が窺われるものの,事実を認めて,一応は反省の態度を示していること,本件は前示確定裁判のあった道路交通法違反の罪の余罪であること,被告人には道路交通法違反の罪以外の前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は,到底罰金刑をもって処断すべき情状の事案ではなく,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役1年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成14年7月12日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣 刑事係 主文 理由 事実 争点 判断 刑事係甲裁判官森岡安廣
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