(原審・横浜地方裁判所平成10年(行ウ)第15号,第54号建築確認処分取消等請求事件(原審言渡日平成13年6月13日)) 主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決主文第2項中控訴人らに関する部分を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ60万円を支払え。 第2 本件事案の概要 1 原判決の記載の引用控訴人らの請求の趣旨は,上記第1の控訴の趣旨の2項のとおりであり,また,本件の概要,前提となる事実,本件に関連する建築関係法規及び準則等並びに主な争点と争点に対する当事者の主張は,次項以下に当事者双方の当審における主張を補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の内容」の項の記載のとおりであるから,この記載を引用する。ただし,1審被告横浜市建築主事Aに関する部分を除く。 すなわち,本件建築主ら(藤和不動産株式会社及びエフ・ティー都市開発株式会社)は,第一種低層住居専用地域にある本件土地(横浜市B区CD丁目E番地F)上に本件建築物を建築することを計画し,平成9年8月8日,横浜市建築主事に対し,本件建築物の建築確認申請(本件確認申請)をした。申請に係る本件建築物は,傾斜地の地盤を掘削し,敷地の3方面にからぼりを設けた4層の建物であり,下から1層目(最下層)に5戸,2層目に5戸,3層目に5戸,4層目に3戸の住戸を配置した共同住宅であった。横浜市建築主事A(以下「本件建築主事」という。)は,本件確認申請に対し,本件建築物本体及び本件建築物に設置されたからぼりの周壁の外側の部分を基準として本件建築物の地盤面を設定した上で,本件建築物の最下層は地階となり,平成10年法律第100号による改正前の建築基準法(以下「法」という。)52条 築物に設置されたからぼりの周壁の外側の部分を基準として本件建築物の地盤面を設定した上で,本件建築物の最下層は地階となり,平成10年法律第100号による改正前の建築基準法(以下「法」という。)52条2項が定める住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が適用されるとして,最下層の住戸部分の床面積を住宅の延べ面積に算入せず,また,本件建築物の高さを上記地盤面から測定し,その結果,本件建築物は,上限80%の容積率の制限(法52条1項及びこれに基づく都市計画)及び上限10mの高さ制限(法55条1項及びこれに基づく都市計画)に違反しないとして,平成9年8月15日付けで上記申請に対する建築確認処分(本件確認処分)をし,これを受けて,本件建築主らは,平成10年6月ころ,本件土地上に本件建築物を建築した。 本件は,本件建築主事がした本件確認処分には,本件建築物本体が地面に接する位置を基準として本件建築物の地盤面を設定すべきであるにもかかわらずからぼりの周壁の外側の部分をも基準に地盤面を設定し,また,地階とされる層に住戸を配置する共同住宅(いわゆる「地下室マンション」)には住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は適用されないにもかかわらずこれを適用した結果,法の定める容積率制限及び高さ制限に違反する本件建築物の建築を確認した違法があり,この違法な本件確認処分に基づき建築された本件建築物により,近隣に居住する控訴人らが重大な圧迫感,プライバシー侵害,日照被害等を受けたとして,控訴人らが,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求めた事件である。 これに対し,被控訴人は,本件建築物の地盤設定及び本件建築物に住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置を適用したことに誤りはなく,したがって,本件建築物には法の定める容積率制限及び高さ制限に違反するところはな し,被控訴人は,本件建築物の地盤設定及び本件建築物に住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置を適用したことに誤りはなく,したがって,本件建築物には法の定める容積率制限及び高さ制限に違反するところはないとして,控訴人らの請求を争っている。 2 控訴人らの当審における補足主張(1) 本件建築物の地盤面建築基準法施行令2条2項は,地盤面について,「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が三メートルをこえる場合においては,その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。」と定めている。建築物本体と連続し構造的及び機能的にも建築物本体と一体的な関係にある周壁を有するからぼりがある場合は,建築物本体及び周壁の外側の部分が上記の「周囲の地面と接する位置」となるが,建築物本体と連続していても,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりの場合は,建築物本体が実際に接する地表面の位置が「周囲の地面と接する位置」となり,被控訴人及び日本建築主事会議も同様の解釈をしている。 本件建築物は,傾斜地である敷地の東側,北側,西側の3方面を南側の低い地盤の水平面まで掘削し,この3方面に周壁を設置した上でこの周壁と本件建築物との間に5か所のからぼり(本件からぼり)を設けており,この5か所の周壁の長さの合計は66.9mにも及び,また,この敷地の面積(1396.70㎡)が広いこと及び本件建築物が共同住宅であることをも考慮すれば,本件からぼりは,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりに該当する。 また,横浜市建築基準法取扱基準(市取扱基準)によっても,本件からぼりは,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりに該当する。すなわち,市取扱基準では,奥行きが2mを超えるからぼりは,からぼりの高さにかかわりなく傾斜地 取扱基準(市取扱基準)によっても,本件からぼりは,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりに該当する。すなわち,市取扱基準では,奥行きが2mを超えるからぼりは,からぼりの高さにかかわりなく傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりに当たると定めているが,本件からぼりは,最下層の居室の壁面からからぼりの周壁までの距離(奥行き)が最長3.2mある。なお,最下層の上に奥行き1.2mのバルコニーがあるが,からぼりの奥行きは居室の壁面から測るものであるから,バルコニーの存在は上記の判断に影響を及ぼさない。 したがって,本件建築物の地盤面は,本件建築物本体が地面と接する位置を基準として設定されることとなる。 (2) 地下室マンションと住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置法52条1項が容積率を制限しているのは,建築物の床面積の上限を制限することにより,一定地域の戸数,世帯数,居住者数を制限し,もって建築物と道路,下水道等の公共施設との均衡を保ち,建築物の周辺の採光,通風等の市街地環境の悪化を防止することを目的とするものであり,また,同条2項が住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置を設けたのは,容積率の制限により維持される良好な市街地環境を確保しつつ,ゆとりのある住宅の供給を図り,もって居住水準の向上を図ることを目的としたものである。ところが,地下室マンションを容認すると,地階に多数の住戸が存在するにもかかわらず,これを容積率制限の対象から外すことになるので,同条1項及び2項の目的に反することとなる。したがって,地下室マンションには,上記の住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は適用されないものである。現に,同条2項の立法作業に当たった政府委員や国会議員も,地階に多数の住戸が存在する共同住宅の建築を想定せず,このような共同住宅についてまで住宅の地 る容積率制限の不算入措置は適用されないものである。現に,同条2項の立法作業に当たった政府委員や国会議員も,地階に多数の住戸が存在する共同住宅の建築を想定せず,このような共同住宅についてまで住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が適用されるとは考えていなかったのである。 (3) 本件建築物及び本件確認処分の違法性本件建築物の地盤面は,上記(1)のとおり本件建築物本体が地面と接する位置を基準として設定されるが,そうすると,本件建築物の高さは上限10mの建築物の高さ制限に違反し,また,本件建築物の最下層は地階とならないため,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は適用されない。また,地階に当たるとしても,本件建築物の最下層は地下室マンションであるから,上記(2)のとおり住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は適用されない。そうすると,本件建築物は,法及びこれに基づく都市計画の定める上限80%の容積率制限及び上限10mの建築物の高さ制限に違反するものであり,この違法な本件建築物の建築を確認した本件確認処分も違法である。 3 被控訴人の当審における補足主張(1) 本件建築物の地盤面本件からぼりの周壁は本件建築物本体と連続しており,また,本件からぼりの高さも5m以下,奥行きも2m以下であって,地下居室への採光,換気以外の目的には利用されていない。そうすると,本件からぼりは,本件建築物本体と連続していて構造的及び機能的にも建築物本体と一体的な関係にある周壁を有するからぼりであり,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりには該当しないから,本件建築物の地盤面は,本件建築物本体及び本件からぼりの周壁の外側の部分を基準として設定される。 (2) 地下室マンションと住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置法52条2項が定める住宅の地階に係る容積率制限 地盤面は,本件建築物本体及び本件からぼりの周壁の外側の部分を基準として設定される。 (2) 地下室マンションと住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置法52条2項が定める住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の要件は,建築物の地階であること,天井が地盤面からの高さ1m以下にあること,住宅の用途に供する部分であることに限られ,その適用について,1戸の住宅の一部のみを居室等の地下室として活用する場合に限定したり,共同住宅の1戸の住宅全部を地階に配置する場合を除外したりする規定はない。したがって,地下室マンションにも住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の適用がある。 (3) 本件建築物及び本件確認処分の適法性本件建築物の地盤面は,上記(1)のとおり本件建築物本体及び本件からぼりの周壁の外側の部分を基準として設定され,また,上記(2)のとおり地下室マンションにも住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の適用がある。そうすると,本件建築物の最下層については,法52条2項の要件を満たし,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が適用される結果,本件建築物は,上限80%の容積率制限及び上限10mの建築物の高さ制限に違反せず,したがって,本件確認処分にも違法はない。 第3 当裁判所の判断 1 原判決の理由説示の引用当裁判所も,本件確認処分に違法はなく,控訴人らの請求には理由がないものと判断するが,その理由は,次項に当裁判所の判断を補足するほかは,原判決がその「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2項ないし4項(原判決20頁17行目から31頁6行目まで)で説示するとおりであるから,この理由説示を引用する。 2 当裁判所の判断の補足(1) 本件建築物の地盤面ア本件建築物は,南下がりの傾斜地となっていた敷地(1396.70㎡)のうち,東側, )で説示するとおりであるから,この理由説示を引用する。 2 当裁判所の判断の補足(1) 本件建築物の地盤面ア本件建築物は,南下がりの傾斜地となっていた敷地(1396.70㎡)のうち,東側,北側,西側の3方面を南側の低い地盤の水平面まで掘削して周壁を設け,この周壁と本件建築物との間に原判決別紙図面2のとおり5か所のからぼり(本件からぼり)を設けて建築された共同住宅であり,最下層に5戸,2層目に5戸,3層目に5戸,4層目に3戸の住宅が配置されている。また,本件からぼりは,最下層の居室が東側,北側,西側の地面より下に存することとなるため,これに必要な採光,換気などを確保し,その衛生を維持するために設置されたものである。なお,からぼりとは,住宅の地階に設ける居室に必要な採光,換気などを確保するため,当該居室が面する土地の部分を掘り下げて設ける空間のことである。 イ地盤面について,建築基準法施行令2条2項は,「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が三メートルをこえる場合においては,その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。」と定め,また,「建築物」について,法2条1号は,「土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。),これに附属する門若しくは塀,観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所,店舗,興行場,倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋,プラットホームの上家,貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい,建築設備を含むものとする。」と定めている。 したがって,からぼりが設けられている本件建築物の地盤面は,上記の法令に従って設定されることとなる。そ ,貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい,建築設備を含むものとする。」と定めている。 したがって,からぼりが設けられている本件建築物の地盤面は,上記の法令に従って設定されることとなる。そうすると,上記の「建築物」には建築物本体のみならずこれに附属する門,塀などの附属的な土地の定着物をも含むものとされていることから,建築物本体と構造的,機能的に一体的な関係にある周壁を有するからぼりは,上記の「塀」又は「その他これに類する施設」として建築物本体の一部を構成するものと解される。したがって,このような建築物本体と一体となるからぼりを有する建築物の地盤面は,建築物本体及び建築物に設置されたからぼりの周壁の外側の部分が周囲の地面と接する位置を基準として設定されることとなる。 反対に,建築物本体と周壁とが連続していない場合や,連続していても建築物本体と周壁との間に大きな距離があったり,地下の居室の衛生確保というからぼり本来の目的とは異なる駐車場等に使用されるような場合は,構造的あるいは機能的に見て建築物本体と一体となるからぼりとはいえず,これは建築物本体とは別個の工作物となるものと解される。したがって,からぼりが存しても,これが建築物本体と一体とならない場合は,その地盤面は建築物本体が地面に接する位置を基準として設定されることとなる。 ウからぼりが建築物本体と一体となるからぼりであるかどうかについては,具体的な判定基準を定めた法令は存しない。 被控訴人は,この点について,横浜市建築基準法取扱基準集(平成8年版。甲4)において,「建築物本体と一体的な周壁を有するからぼり等がある場合には,建築物本体及び周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とします。ただし,傾斜地等において建築物本体と一体的で大規模な周壁を有するからぼり等の場合には,建築 周壁を有するからぼり等がある場合には,建築物本体及び周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とします。ただし,傾斜地等において建築物本体と一体的で大規模な周壁を有するからぼり等の場合には,建築物本体が実際に接する地表面の位置を「周囲の地面と接する位置」とします。」とし,その解説において,からぼりの高さが5m以下で,かつ,奥行きが2m以下の場合にあっては,「大規模な周壁を有するからぼり等」に該当しないとし,結局,からぼりが建築物本体と連続していて,かつ,からぼりの高さが5m以下,奥行きが2m以下の場合のみが建築物と一体となるからぼりに該当するとの取扱基準(市取扱基準)を設けている。これは,地下の居室の衛生確保というからぼり本来の目的及び機能からすれば,通常その高さが5mを超えることはなく,高さ5mのからぼりに衛生上必要とされる奥行きは通常2mと考えられることから,上記のように定めたものである(弁論の全趣旨)。 また,日本建築主事会議は,建築物がからぼりを有する場合の地盤面の解釈について混乱を防止する観点から,解釈基準についての統一見解をまとめ,これを日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(乙18)で発表しているが,これによると,「建築物本体と一体的な周壁を有するからぼり等がある場合には,当該建築物及び周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とする。ただし,斜面地等において大規模な擁壁と共に設けるからぼり等の場合には,建築物が実際に接する地表面の位置を「周囲の地面と接する位置」とする。」とし,その解説において,確認申請時の現況地盤面よりも掘り込んだからぼりを建築物と一体的に設けた場合には,建築物及びからぼりの周壁の外側の地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」とし,斜面地や高低差がある敷地に大規模な擁壁を設 時の現況地盤面よりも掘り込んだからぼりを建築物と一体的に設けた場合には,建築物及びからぼりの周壁の外側の地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」とし,斜面地や高低差がある敷地に大規模な擁壁を設けて土地を造成し,からぼりを設けた場合,建築物が実際に接する地表面の位置を「周囲の地面と接する位置」としている。 上記の市取扱基準及び統一見解は,被控訴人や日本建築主事会議が上記イの法令について自己の解釈を示したもので,これが法令としての拘束力を有するものではないことはいうまでもないが,上記イの説示と同様の解釈をしており,また,これらが他の自治体の解釈と大きく異なるとも考えられないから,建築物本体と一体となるからぼりであるかどうかの具体的判定基準を考えるについて,一つの資料になるものと考えられる。 エ上記イ及びウによれば,からぼりが建築物本体と一体となるかどうかの判定のためには,周壁の構造,形状,周壁と建築物本体との連続性のほか,当該からぼり(周壁)の高さ,その奥行き,その利用目的等を総合的に考察し,当該からぼりの構造及び機能から見てこれが建築物本体と一体となるかどうかを判断すべきこととなる。そして,傾斜地等に設置されたからぼりについては,その周壁が構造上建築物本体と連続し,地下の居室に必要な採光,換気などを確保するために設置されたものであっても,建築物本体と周壁までの距離が長かったり,からぼり(周壁)の高さが高かったりすれば,もはや当該からぼり自体が建築物本体の附属物とは見られなくなるばかりでなく,からぼり本来の機能を超える利用も可能となるため,このような大規模な周壁を有するからぼりについては,その構造及び機能から見てこれが建築物本体と一体であると考えることは困難であり,むしろ,造成工事によって設けられた擁壁と建築物との間に結果的に生じたから うな大規模な周壁を有するからぼりについては,その構造及び機能から見てこれが建築物本体と一体であると考えることは困難であり,むしろ,造成工事によって設けられた擁壁と建築物との間に結果的に生じたからぼりなどのように別個の工作物と見られるものである。そして,この大規模な周壁を有するからぼりかどうかの目安は,地下の居室に必要な採光,換気などを確保するというからぼり本来の機能に照らせば,通常の場合,からぼり(周壁)の高さが5mを超えるかどうか,からぼりの奥行きが2mを超えるかどうかの点にあるものというべきである。 そこで,本件からぼりが本件建築物本体と一体となるからぼりであるか,あるいは大規模な周壁を有するからぼりであるかを検討すると,本件からぼりは,傾斜地に設けられたものであるが,その位置は,原判決別紙図面2記載のとおりであり,本件からぼりの周壁部分は本件建築物本体と形状的にも構造的にも連続しており,また,本件からぼり(周壁)の高さは5m以下であり,本件からぼりの奥行き,すなわち,周壁の内側壁面から本件建築物1階(2層目)北側のバルコニーまでの距離も2m以下となっており,さらに,本件からぼりは,地下居室に必要な採光,換気などを確保し,その衛生を維持するために利用されるものであって,それ以外の用途は考えられない。 そうすると,本件からぼりは,大規模な周壁を有するからぼりには該当せず,本件建築物本体と一体となるからぼりというべきである。したがって,本件建築物の地盤面は,本件建築物本体及び本件からぼりの周壁の外側の部分を基準として設定すべきこととなる。 オこれに対し,控訴人らは,本件からぼりの周壁の長さの合計が66.9mと長く,本件建築物の敷地の面積も1396.70㎡と広く,また,本件建築物が共同住宅であることを考慮すれば,本件からぼりは,傾斜地 これに対し,控訴人らは,本件からぼりの周壁の長さの合計が66.9mと長く,本件建築物の敷地の面積も1396.70㎡と広く,また,本件建築物が共同住宅であることを考慮すれば,本件からぼりは,傾斜地において大規模な周壁を有するからぼりに該当し,本件建築物本体と一体となったからぼりではないと主張する。 しかし,からぼりが建築物本体と一体となるかどうか,すなわち,大規模な周壁を有するからぼりに当たらないかどうかは,からぼりと建築物本体との間の密着度,すなわち,からぼり(周壁)の高さや奥行きに関係することではあるが,建築物の大きさや周壁の長さとは直接関連するものではなく,また,本件建築物の敷地が広いことや本件建築物が共同住宅であることとは何ら関連性を有しないものというべきである。したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。 また,控訴人らは,本件からぼりの奥行きは,最下層の居室のからぼりに面する壁面から周壁までの距離をいうのであるところ,この最長が3.2mあるから,市取扱基準によっても,本件からぼりは大規模な周壁を有するからぼりに当たると主張する。 しかし,からぼりは地階居室の衛生のため,採光,換気等を確保する目的で設置されるものであるから,地階居室の上部にバルコニーが設置され,採光,換気等が妨げられている場合には,からぼりの奥行きはバルコニーの外側から測ることが合理的である。また,ひさしがある場合のからぼりの奥行きの計算については,建設省住宅局建築指導課,同局市街地建築課から指導指針(甲67)が示されているが,本件バルコニーは,からぼりの上部を大きく覆う形で設置され,その奥行きも通常のひさしより格段に長いから(甲6,7の2),これをひさしと同様に考えることもできない。したがって,本件からぼりは,市取扱基準によっても,大規模な周 りの上部を大きく覆う形で設置され,その奥行きも通常のひさしより格段に長いから(甲6,7の2),これをひさしと同様に考えることもできない。したがって,本件からぼりは,市取扱基準によっても,大規模な周壁を有するからぼりには該当しないのであって,控訴人らの上記主張は採用することができない。 (2) 住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の地下室マンションへの適用ア上記(1)のとおり,本件建築物の地盤面は本件建築物本体及び本件からぼりの周壁の外側の部分を基準として設定すべきこととなり,これにより本件建築物の地盤面を設定すると,本件建築物の最下層は建築基準法施行令1条2号が規定する地階(床が地盤面下にある階で,床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの3分の1以上のもの)に該当し,法52条2項が定める住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の要件(建築物の地階であって,その天井が地盤面からの高さ1m以下にあり,住宅の用途に供する部分であること)を具備する。 イこれに対し,控訴人らは,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は,容積率の制限により維持される良好な市街地環境を確保しつつ,ゆとりのある住宅の供給を図り,もって居住水準の向上を図ることを目的とするものであるが,地下室マンションにこれを適用すると,容積率の制限により維持されるべき良好な市街地環境の確保ができなくなるから,地下室マンションには住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は適用されないと主張する。 確かに,容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合)制限の目的は,建築物の延べ面積の上限を制限することによってその地域の戸数,世帯数,人口などの増加を防ぎ,その結果,建築物と道路,下水道等の公共施設の整備状況との均衡を図り,また,建築物の周辺の採光,通風等の市街地環境の悪化を防止するこ 制限することによってその地域の戸数,世帯数,人口などの増加を防ぎ,その結果,建築物と道路,下水道等の公共施設の整備状況との均衡を図り,また,建築物の周辺の採光,通風等の市街地環境の悪化を防止することにあると解され,また,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は,良好な市街地環境を確保しつつ,ゆとりある住宅の供給を図ることを目的として制定されたものである。 しかし,法52条2項は,建築物の地階で住宅の用に供する部分の床面積について,一定の限度で延べ面積に算入しない措置をとることにより容積率の制限を緩和し,ゆとりのある住宅の供給を図って居住水準の向上を図ろうとするものであるから,居住水準の向上のため,容積率制限により守られていた市街地環境がある程度制約されることを容認するものであり,居住水準の向上と市街地環境の制約との調和は,容積率制限の緩和の対象を住宅に限定したり,対象となる地下室の床面積の比率を一定の範囲に限定したりすること(「住宅の用途に供する部分の床面積」の意義に関する同項の括弧書を参照)によって守ろうとしているものと解される。また,法52条2項が定める住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の要件は,建築物の地階であること,その天井が地盤面からの高さ1m以下にあること,住宅の用途に供する部分であることに限られ,その適用を,戸建ての住宅の一部のみを居室等の地下室として活用する場合に限定したり,共同住宅の1戸の住宅全部を地階に配置する場合を除外したりする規定は存しない。そうすると,地下室マンションに法52条2項が適用されてその地域の戸数や人口が増加することとなっても,そのことはそもそも法が想定し,かつ容認するところであるというべきであるから,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が地下室マンションには適用されないという解釈をする余地はな 加することとなっても,そのことはそもそも法が想定し,かつ容認するところであるというべきであるから,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が地下室マンションには適用されないという解釈をする余地はなく,控訴人らの上記主張は,地下室マンションに対する容積率緩和について立法論を述べるものというほかない。 なお,法52条2項の立法過程などにおいても,上記説示を裏付ける次のような事実関係が認められる。すなわち,法改正の立法作業をするに当たって作成された衆議院建設委員会調査室作成の「「建築基準法の一部を改正する法律案」について」と題する資料(平成6年6月建設参考資料第312号。甲13)には,地下室の利用形態として共同住宅が存することが記載されており(21頁),また,同法律が制定された際にその細目を定めた平成6年6月29日付け建設省住街発第74号各都道府県知事あて建設省住宅局長通達「建築基準法の一部を改正する法律等の施行について」(甲3の2)でも,住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置は共同住宅にも適用されるとした上でその場合の取扱細目を定め,共同住宅の1戸の住宅のすべてを地階とする場合を適用除外とすることは定めていない。さらに,平成11年3月10日の衆議院建設委員会においても,政府委員(建設省住宅局長)から,法52条2項は斜面地マンションなどの共同住宅を除外するものではないと考えているとの答弁がされている(乙13)。したがって,法52条2項の立法の際も,共同住宅の1戸の住宅のすべてが地階にある場合をも想定し,その上で法改正がされたものとうかがわれ,さらに,平成9年の建築基準法の改正では,建築物の延べ面積には共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は算入しないとの規定(法52条4項)が設けられ,第一種低層住居専用地域内に建築される共同住宅の 成9年の建築基準法の改正では,建築物の延べ面積には共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は算入しないとの規定(法52条4項)が設けられ,第一種低層住居専用地域内に建築される共同住宅の容積率は一層緩和され,むしろ,地下室マンションの建築が促進されているのである。 (3) 本件建築物及び本件確認処分の適法性上記(1)のとおり,本件建築物の地盤面は本件建築物本体及び本件建築物に設置されたからぼりの周壁の外側の部分を基準として設定すべきこととなるから,本件建築物は,地盤面からの高さが最高地点で9.49mとなり(甲7の1ないし4,乙6),法55条1項及びこれに基づく都市計画による建築物の高さ制限(上限10m)には違反しない。また,上記(2)のとおり,本件建築物の最下層階は地階となり,法52条2項の住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置が適用されるから,本件建築物は,法52条1項及びこれに基づく都市計画による容積率制限(上限80%)には違反しない(甲7の1ないし4,乙6)。したがって,このような本件建築物を適法なものと確認した本件確認処分にも違法は存しない。 (4) まとめ以上によれば,本件確認処分が違法であることを理由とする控訴人らの本件損害賠償請求には,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第4 結論よって,控訴人らの各請求を棄却した原判決は相当であり,その取消しを求める控訴人らの本件各控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部裁判長裁判官近藤崇晴 裁判官宇田川基裁判官加藤正男 藤崇晴 裁判官 宇田川基 裁判官 加藤正男
▼ クリックして全文を表示