平成24(行ケ)10227 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月28日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文19,756 文字)

- 1 -平成25年3月28日判決言渡平成24年(行ケ)第10227号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年3月12日判決 原告ジンテーズゲゼルシャフトミトベシュレンクテルハフツング 訴訟代理人弁護士・弁理士浜田治雄弁理士西口克赤津悌二田辺稜 被告特許庁長官指定代理人高田元樹 関谷一夫村田尚英石川好文田村正明 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 - 2 - 事実及び理由 第1 原告の求めた判決特許庁が不服2010-24604号事件について平成24年2月14日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年7月6日,名称を「外科的インプラントおよび用器のための干渉を生成する有色コーティング」とする発明について国際特許出願をし(PCT/CH2004/000422。日本における出願番号は特願2007-519588号),平成18年12月6日,日本国特許庁に翻訳文を提出したが(国内公表公報は特表2008-504913号,甲23),平成22年6月 4/000422。日本における出願番号は特願2007-519588号),平成18年12月6日,日本国特許庁に翻訳文を提出したが(国内公表公報は特表2008-504913号,甲23),平成22年6月24日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月1日,不服の審判請求をした(不服2010-24604号)。 原告は,その中で,平成22年11月1日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正をしたが(本件補正),特許庁は,平成24年2月14日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成24年2月24日原告に送達された。 2 本願発明の要旨(1) 本件補正後の請求項1(補正発明)「コーティング,特に外科的インプラントおよび用器の標識と特徴付けのため,ならびに外科的インプラントおよび用器のための拡散バリヤーとしてのものであって,前記コーティングが以下の物質:a)Si,Ta,Ti,Y,Zr,Al,Cr,Nb,VおよびHfの各元素の酸 - 3 -化物または亜酸化物,b)珪素の亜硝酸,またはc)マグネシウムのフッ化物,あるいはこれらの混合物のいずれかを含み,前記コーティングが,インプラントまたは用器の表面に結合した,生体適合性があり,透明にして無色の干渉層を含み,それがA)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)前記干渉層が,耐食性であり,F)PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法により前記のインプラントまたは用器の表面にコーティン 渉色を生成するために好適であり,E)前記干渉層が,耐食性であり,F)PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法により前記のインプラントまたは用器の表面にコーティングを施すことを特徴とする有色コーティング。」(下線は補正箇所)(2) 本件補正前の請求項1(補正前発明)「コーティング,特に外科的インプラントおよび用器の標識と特徴付けのため,ならびに外科的インプラントおよび用器のための拡散バリヤーとしてのものであって,前記コーティングが以下の物質:a)Si,Ta,Ti,Y,Zr,Al,Cr,Nb,VおよびHfの各元素の酸化物または亜酸化物,b)珪素の亜硝酸,またはc)マグネシウムのフッ化物,あるいはこれらの混合物のいずれかを含み,前記コーティングが,インプラントまたは用器の表面に結合した,生体適合性があり,透明にして無色の干渉層を含み,それが - 4 -A)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)前記干渉層が,耐食性であり,F)PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法により前記のインプラントまたは用器の表面にコーティングを施すことを特徴とするコーティング。」 3 審決の理由の要点(1) 刊行物1(特開昭60-253439号公報,甲5)には,実質的に次の発明(引用発明)が記載されていることが認められる。 「インプラント基体の表面に被着させるコート層,特にインプラント基体に天然歯肉色に近似した色調をもたせるためのものであって,コート層の形成によりインプラン が記載されていることが認められる。 「インプラント基体の表面に被着させるコート層,特にインプラント基体に天然歯肉色に近似した色調をもたせるためのものであって,コート層の形成によりインプラント基体からの金属イオンの溶出が少なく,コート層が酸化チタンを主成分とし,コート層が,生体適合性があり,透明にして無色の干渉色を呈する層であり,それがA)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)干渉層が,耐食性であり,F)陽極酸化処理によりインプラント基体の表面にコート層を被着させるコート層。」(2) 補正発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。 【一致点】 - 5 -「コーティング,ならびに外科的インプラントのための拡散バリヤーとしてのものであって,コーティングが以下の物質:a)Si,Ta,Ti,Y,Zr,Al,Cr,Nb,VおよびHfの各元素の酸化物または亜酸化物,b)珪素の亜硝酸,またはc)マグネシウムのフッ化物,あるいはこれらの混合物のいずれかを含み,コーティングが,インプラントの表面に結合した,生体適合性があり,透明にして無色の干渉層を含み,それがA)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)干渉層が,耐食性である有色コーティング。」【相違点1】「コーティング」が,補正発明では「特に外科的インプラントおよび用器の標識と特 域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)干渉層が,耐食性である有色コーティング。」【相違点1】「コーティング」が,補正発明では「特に外科的インプラントおよび用器の標識と特徴付けのため」に「インプラントおよび用器」の表面に結合するものであるのに対して,引用発明では「特にインプラント基体に天然歯肉色に近似した色調をもたせるため」に「インプラント」の表面に結合するものである点。 【相違点2】「インプラントまたは用器の表面にコーティングを施す」方法が,補正発明では,「PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法」であるのに対し,引用発明では,「陽極酸化処理」である点。 (3) 相違点に関する判断は以下のとおりである。 ① 相違点1について - 6 -外科インプラント及び用器をカラーコード化(色標識および特徴付け)することは周知の事項であり(例えば,米国特許5597384号明細書,特開昭62-66850号公報の7頁左上欄14行~16行,特開平8-66404号公報の段落【0025】,特表2002-540884号公報の【請求項8】,国際公開第03/026514号の30頁8行~11行,特表2003-527923号公報の段落【0077】参照),引用発明において,コーティングを,上記周知のカラーコード化の用途に転用し,インプラント及び用器の表面に結合させ,相違点1に係る補正発明の発明特定事項のようにすることに格別の困難性は認められない。 ② 相違点2について干渉色を生成するために好適なTiの酸化物からなる干渉層を対象物の表面にコーティングするに際し,PVD法,スパッタ法等のコーティング法を用いることは,周知技術(例えば,特公平5-16862号の4欄6行~8行,特開2002-2 なTiの酸化物からなる干渉層を対象物の表面にコーティングするに際し,PVD法,スパッタ法等のコーティング法を用いることは,周知技術(例えば,特公平5-16862号の4欄6行~8行,特開2002-274101号公報の段落【0005】~【0009】参照)である。したがって,引用発明において,陽極酸化処理に代えて上記周知技術を採用し,相違点2に係る補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 ③ そして,補正発明による効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない。 したがって,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (4) 補正前発明は,補正発明から,「有色コーティング」の限定事項である「有色」との構成を省いたものである。そうすると,補正前発明の発明特定事項をすべて含み,さらに,他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も,同様に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 - 7 - 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(引用発明認定の誤り)(1) コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点についてア刊行物1には酸化チタンからなる干渉層が無色透明であることの記載も示唆もない。 酸化チタンからなる干渉層が無色透明であることが技術常識であるという審決の認定の根拠は,特公平5-16862号,特開2002-274101号公報,登録実用新案 透明であることの記載も示唆もない。 酸化チタンからなる干渉層が無色透明であることが技術常識であるという審決の認定の根拠は,特公平5-16862号,特開2002-274101号公報,登録実用新案第3019943号公報であるところ,特公平5-16862号公報には,「酸化チタンもしくはそれを主成分とする金属酸化物から成るコート層1a,10aが被着されるが,このコート層1a,10aは,それ自体透明であるけども・・・」と記載されており(第3欄12行~26行において),確かに酸化チタンから成るコート層が透明である点は明示されてはいるが,無色である点まで示されていない。 また,特開2002-274101号公報に記載された発明の名称は「アルミニウム合金ホイールの表面処理方法」であって,当該発明は,金属加工の分野である一方,補正発明の「外科的インプラントおよび用器のための干渉を生成する有色コーティング」は,医療用インプラントの分野であり,補正発明と特開2002-274101号公報に記載された発明とは技術分野が異なる。同様に,登録実用新案第3019943号公報に記載された考案の名称は「チタン合金製眼鏡フレーム部品」であって,医療分野に用いるものではなく,補正発明とは明らかに技術分野が異なる。 したがって,コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点は刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」との認定は誤りである。 イ補正発明のコーティングは透明にして無色であるのに対し,特開平5-16862号公報(甲14)には酸化チタンからなるコート層自体が透明である旨の記載はあるが,無色であるか否かについては開示していない。特開2002-2 - 8 -74101号公報(甲16)には,常温大気中では無色透明の厚さ2~5nmの二酸化チタン超薄 体が透明である旨の記載はあるが,無色であるか否かについては開示していない。特開2002-2 - 8 -74101号公報(甲16)には,常温大気中では無色透明の厚さ2~5nmの二酸化チタン超薄膜が生成されると記載されている(段落【0006】)から,自然酸化の過程によって無色透明の二酸化チタン超被膜が生成される旨の記載しかなく,人為的に酸化させた場合については記載されていない。実用新案登録第3019943号公報(甲17)には,「陽極酸化処理を施すことによって部品表面に無色透明の酸化チタン被膜を形成し」とあり,補正発明の請求項1F)ではPVD法,CVD法,スパッタ法でコーティングしており,コーティングの方法が異なるものである。甲14,16,17は,酸化チタンの本来の特質が無色透明であることを示したものであり,補正発明の干渉層の色彩が無色透明であることを立証する証拠とはなりえない。 (2) 干渉色についてア本願明細書の段落【0005】(a)に記載されているとおり,補正発明においては可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成させることができるが,刊行物1に記載されている生成可能な干渉色は黄色から,黄金色,ピンク色,赤紫色,濃紫色,青緑色,緑色までにすぎず,例えばオレンジ色や赤色を生成することについては刊行物1には記載されていないから,刊行物1の記載から,オレンジ色や赤色を生成することは当業者であっても困難である。 したがって,コート層が「『干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である』点は,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」との審決の認定は誤りである。 イ刊行物1の歯床は,曲がった表面をしており,補正発明のように干渉層が一定の層厚ではないため,補正発明とは光の入射角が変 1に記載されているに等しい事項といえる」との審決の認定は誤りである。 イ刊行物1の歯床は,曲がった表面をしており,補正発明のように干渉層が一定の層厚ではないため,補正発明とは光の入射角が変わるものである。刊行物1が曲がった表面で可視スペクトル全域にわたって干渉色を生成し得るからといって,可視スペクトル全域にわたって干渉色を生成し得ることが明らかであるとはいえない。干渉色の生成にあっては,材質,歪み,入射角などといった様々な要素が揃った上で成り立つものであり,それらの要素の全てが刊行物1に十分に記載され - 9 -ているとはいえない。 (3) コート層が「一定の層厚を有する」点についてアコート層の干渉色が均一というのは,コート層が満遍なく干渉色であることを意味するため,コート層の厚みの有無は関係ないから,インプラント基体に陽極酸化処理を施すことにより形成されたコート層が均一な干渉色を呈するためにはコート層が「一定の層厚を有する」ことは必要ではない。 したがって,コート層が「『一定の層厚を有する』点も,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」との審決の認定は誤りである。 イ前記のとおり,刊行物1の歯床と補正発明では表面の条件が異なるのだから,刊行物1の条件から導かれた「厚さを一定にすれば一様な干渉色が得られることは,当業者にとって自明な事項である」との結論は誤りである。干渉色の生成にあっては,物質,歪み,入射角などといって要素が揃った上でできるものでありそれらの要素が刊行物1に十分に記載されているとはいえない。 2 取消事由2(一致点認定の誤り)前記のとおり,コート層が,①透明にして無色の干渉色を呈する層である点,②干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成す えない。 2 取消事由2(一致点認定の誤り)前記のとおり,コート層が,①透明にして無色の干渉色を呈する層である点,②干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である点,③一定の層厚を有する点は,刊行物1に記載されているに等しい事項といえるとの審決の認定は誤りである。 したがって,補正発明と引用発明が,①コーティングが,透明にして無色の干渉層を含む点,②一定の層厚を有する点,③可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である点で一致するとの審決の認定は誤りである。 3 取消事由3(相違点1 の判断の誤り)(1) 補正発明が外科インプラント及び用器をカラーコード化するのを目的にするのに対し,引用発明はインプラント基体に天然歯肉色に近似した色調を持たせ - 10 -ることで義歯床(人工歯を植立したり,咬合力を粘膜へ負担させたり,義歯を吸着させたりするもの)を口内に装着した場合の違和感の解消を目的としている。また,カラーコード化することが周知の事実だったとしても,補正発明が用いられる外科用インプラントは,骨折した骨を固定する等の用途のものである一方,引用発明で用いられるインプラントは,医療目的で広く行われ,失われた歯根に代えて顎骨に埋め込む人工歯根(デンタルインプラント)のことを指している(刊行物1の3欄7行~9行に「デンタルインプラント」と記載がある。)。このように,補正発明と引用発明の目的及び用途は明らかに異なっており,技術分野も全く異なるのである。 したがって,引用発明において,コーティングをカラーコード化の用途に転用することは当業者にとっても容易であるとはいないから,審決が,引用発明において,コーティングをカラーコード化の用途に転用することに格別の困難性は認めら おいて,コーティングをカラーコード化の用途に転用することは当業者にとっても容易であるとはいないから,審決が,引用発明において,コーティングをカラーコード化の用途に転用することに格別の困難性は認められないとの判断したのは誤りである。 (2) A)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)前記干渉層が,耐食性であり,F)PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法により前記のインプラントまたは用器の表面にコーティングを施すことを特徴とするコーティングを意識しながら調整するという技術的思想をもつ発明であり,それらの全てを調整することが記載及び示唆している文献が存在していない。それにも関わらず,個別に引用文献に記載されている又は当業者であれば容易に想到すると認定している審決は誤りである。 4 取消事由4(補正前発明の進歩性判断の誤り)前記のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,補正前発明も,同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると審決が判 - 11 -断したことは誤りである。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し(1) コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点について特公平5-16862号公報(甲14)の3欄12行~26行,3欄第34行~4欄8行,特開2002-274101号公報(甲16)の【請求項2】,段落【0006】,登録実用新案第3019943号公報(甲17)の(段落【0004】),特開2001-337212号公報( 行~4欄8行,特開2002-274101号公報(甲16)の【請求項2】,段落【0006】,登録実用新案第3019943号公報(甲17)の(段落【0004】),特開2001-337212号公報(乙1)の段落【0010】,段落【0023】の記載によれば,酸化チタンからなる干渉色を呈する膜が本来的に透明にして無色であることは,該膜の適用分野及び形成方法を問わない,技術分野を超えた技術常識といえる。したがって,酸化チタンを主成分とする「コート層が『透明にして無色の干渉色を呈する層』である点は,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる。」(4頁24行~25行)とした審決の認定に誤りはない。 なお,原告は,特公平5-16862号公報(甲14)には,確かに酸化チタンから成るコート層が透明である点は明示されてはいるが無色である点まで示されていないと主張するが,干渉色を呈する酸化チタン皮膜が本来的に無色透明であることは上記のとおり技術常識であるところ,上記公報には,酸化チタンから成るコート層が無色ではない点について何ら明示されておらず,また酸化チタンから成るコート層は,厚みを変えることにより干渉色を「任意に調製することができる」ものであることからして,そのようなコート層が無色でないと解すべき積極的根拠も見出せない。 (2) コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点について反射によって干渉が生じる原理について解説した乙2(浜島清利「物理のエッセンス力学・波動改訂版」株式会社河合出版,2010年〔平成22年〕9月10日発行,132頁~142頁)によれば,「光が反射するときの位相変化」について, - 12 -「出合った媒質の屈折率が,通ってきた媒質の屈折率より小さい場合には,反射のさい位相は変わらない(自由端反射)が 2頁~142頁)によれば,「光が反射するときの位相変化」について, - 12 -「出合った媒質の屈折率が,通ってきた媒質の屈折率より小さい場合には,反射のさい位相は変わらない(自由端反射)が,より大きい場合には反射のさい位相はπ変わる(固定端反射)」(139頁9行~16行,同頁中央の図参照)ことが理解され,そして,「薄膜による干渉」について,屈折率n’の物体に被着された屈折率n,厚さdの薄膜干渉層に,空気中で垂直に光を当てたときに生じる反射干渉光の波長λが,次式により求められる(139頁18行~140頁最終行,141頁6行~20行)ことが理解される。 n<n’のとき(140頁の図参照)2nd=mλ (m=0,1,2,・・・)n>n’のとき(第139頁の下の図参照)2nd=(m+1/2)λ (m=0,1,2,・・・)上式が示すとおり,光の干渉は,干渉層の厚さや屈折率を適宜選択することにより,すべての波長λにおいて生じ得るものであるから,干渉層の厚さを調整すれば,可視スペクトル全域にわたって干渉色を生成し得ることは明らかである。 ところで,刊行物1には,「酸化チタンを主成分とするコート層を被着させることにより,黄色から,黄金色,ピンク色,赤紫色,濃紫色,青緑色,緑色までの「干渉色」が得られる旨が記載されている」のであるから,そのようなコート層が,その厚さを調整することにより,オレンジ色や赤色も含む可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成し得ることは明らかである。 したがって,「コート層が『干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である』点は,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」(5頁2行~4行)とした審決の認定に誤りはない。 (3) コート層が「 適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である』点は,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」(5頁2行~4行)とした審決の認定に誤りはない。 (3) コート層が「一定の層厚を有する」点について刊行物1には,インプラント基体に陽極酸化処理を施して,酸化チタンを主成分とするコート層を被着せしめることにより,均一な黄金色から歯肉色に近いピンク色~濃赤紫色の干渉色を呈する表面をした金属材を得ることができる旨が記載され - 13 -ているところ(2頁左下欄1行~17行,2頁右下欄7行~15行),通常,「均一」とは,「すべてに通じて一様なこと。等しいこと。」(広辞苑第六版,乙3)を意味することからすれば,上記「均一な黄金色から歯肉色に近いピンク色~濃赤紫色の干渉色を呈する表面」とは「一様な干渉色を呈する表面」を意味すると解される。また,このことは,刊行物1の「このような範囲でコート層の厚さを調整することにより最適の歯肉色をもつた美麗な義歯床用金属部材を得ることができた」との記載(2頁左下欄8行~11行)とも整合する。 そして,上記(2)に記載した式が示すとおり,干渉色は,干渉層の厚さや屈折率等によって変化するものであるところ,陽極酸化処理により被着される酸化チタンを主成分とするコート層において,一様な干渉色を呈する表面を実現するためには,厚さ及び屈折率が一様となるようにコート層が形成されていることが必要であり,干渉層が同一の材料で構成されているものであれば,厚さを一定にすれば一様な干渉色が得られることは,当業者にとって自明な事項である。 したがって,「コート層が『一定の層厚を有する』点も,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」(5頁6行~7行)とした審決の認定に誤りはない。 2 取消事 にとって自明な事項である。 したがって,「コート層が『一定の層厚を有する』点も,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」(5頁6行~7行)とした審決の認定に誤りはない。 2 取消事由2に対し前記のとおり,①コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点,②コート層が「干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である」点,③コート層が「一定の層厚を有する」点は,いずれも刊行物1に記載されているに等しい事項であるから,これら①ないし③の点において補正発明と引用発明とが一致するとした審決の認定判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し補正発明と引用発明は,適用される部位として骨と歯根という相違があるとしても,いずれも人体を構成する組織を代替するもの,すなわち「インプラント」であ - 14 -る点で,共通若しくは類似する技術分野に属するものである。 そして,米国特許第5597384号明細書(乙4の1)の1欄第4行~7行,特開昭62-66850号公報(甲18)の7頁左上欄14行~16行,特開平8-66404号公報(甲19)の段落【0025】,特表2002-540884号公報(甲20)の【請求項8】,国際公開第03/026514号(乙5の1)の30頁第8行~11行,特表2003-527923号公報(甲21)の段落【0077】の記載によれば,外科インプラントおよび用器においてカラーコード化(色標識および特徴付け)することは,本件出願日前周知の技術事項である。 ところで,刊行物1に「叙上の如く,本発明によれば,・・・美麗でかつ人体の歯肉色や粘膜色に近似した色調を有する・・・外観的に異和感のないチタン系義歯床用金属部材を安価に提供することができる。」(2頁右下欄7行~15行 に「叙上の如く,本発明によれば,・・・美麗でかつ人体の歯肉色や粘膜色に近似した色調を有する・・・外観的に異和感のないチタン系義歯床用金属部材を安価に提供することができる。」(2頁右下欄7行~15行)と記載されているとおり,引用発明におけるコート層は「人体の歯肉色や粘膜色に近似した色調を有する」,すなわち人体の歯肉色や粘膜色に応じて特徴付けされているといえるところ,インプラントという技術分野に属する引用発明を,共通または類似する技術分野に属する外科インプラントおよび用器に適用して,上記周知の外科インプラントおよび用器のカラーコード化(色標識および特徴付け)の用途に用いることが当業者にとって格別に困難であるということはできない。 したがって,「引用発明において,コーティングを,上記周知のカラーコード化の用途に転用し,インプラントおよび用器の表面に結合させ,上記相違点1に係る補正発明の発明特定事項のようにすることに格別の困難性は認められない」(7頁16行~19行)とした審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4に対し前記のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,「補正前発明も,同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(9頁3 - 15 -行~4行)とした審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 補正発明について本願明細書(甲1,9)によれば,補正発明につき以下のことを認めることができる。 補正発明は,コーティング,特に外科インプラント及び用器の標識として特徴付けられるコーティングに関するものである(段落【0001】)。このようなコーティングは,特にカラーコード化(色標識および特徴付け)と 明は,コーティング,特に外科インプラント及び用器の標識として特徴付けられるコーティングに関するものである(段落【0001】)。このようなコーティングは,特にカラーコード化(色標識および特徴付け)として,外科インプラント又は用器(例えば骨板,骨ねじ又はねじ回し)の様々な型式及び大きさを簡単で確実な様式で区別することができるが(段落【0002】),周知のカラーコード化コーティングは,多くが電気的伝導性であるため,ポテンシャル差が生じると腐食が起こること,さらに,部分的に多孔質であって,物体に付着し難く,色が材料に依存することで,彩色法に選択肢が少ないことが欠点であった(段落【0003】)。 補正発明は,上記欠点を解決するためになされたものであり,請求項1に記載の構成とすることによって,腐食することなく,良好な生体適合性を有し,すべての色スペクトルの自由な標識彩色が可能で,ニッケル又はモリブデンの様なアレルギー誘発的な物質(基質材料)の拡散を抑制するという効果を奏するものである(段落【0004】,【0005】)。 2 引用発明について刊行物1(甲5)によれば,引用発明につき次のことを認めることができる。 引用発明は,義歯床用を構成する金属部材に関するものである。従来,義歯床用金属部材としてチタン合金は高い評価を得てきたが,チタン特有の銀白色の金属光沢を有しているため,清涼感はあるものの,歯肉の色調やレジンの色調との差異が大きく,口腔内へ装着した場合,外観的に著しい違和感があるという欠点があった。 - 16 -そこで,かかる欠点を解決すべく,チタン系義歯床用金属部材に陽極酸化処理を施すことにより人体の歯肉色や粘膜色に近似した色調を有する酸化チタンを主成分とする被覆層の形成することとしたものであり,これにより,強度が大きく耐久性に富 ,チタン系義歯床用金属部材に陽極酸化処理を施すことにより人体の歯肉色や粘膜色に近似した色調を有する酸化チタンを主成分とする被覆層の形成することとしたものであり,これにより,強度が大きく耐久性に富み,レジンとの接着力も高く,かつインプラント基体からの金属イオンの溶出が少ない上,外観的に違和感のないチタン系義歯床用金属部材を提供できるという効果を有するものである。 3 取消事由1(引用発明認定の誤り)について(1) コート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」である点についてア文献(甲14,16,17,乙1)には以下の記載がある。 ① 特公平5-16862号公報(甲14)「このようにして作られたインプラント1, 10の表面には酸化チタンもしくはそれを主成分とする金属酸化物から成るコート層1a, 10aが被着されるが,このコート層1a, 10aは,それ自体透明であるけれども屈折率が2.4~2.9と大であるため,インプラント1, 10を目視した場合,該インプラント1,が呈する色彩は第2図に示したようにコート層1aの表面にて反射する光線1にて反射する光線Aとコート層1a内を通つてインプラント1を成している金属体表面で反射して出ていく光線Bとの干渉による色相(干渉色)を示し,コート層1aの厚みが5000Åの場合は空色,800~900Åの黄金色,2000Åの場合はピンク色,2500Åでは赤紫色,3500Åでは緑色と任意に調製することができる。」(3欄12行~26行)② 特開2002-274101号公報(甲16)「ここで図14は,二酸化チタンの酸化被膜と干渉の関係を示す原理図である。 即ち,チタンは酸化され易く,常温大気中では無色透明の厚さ2~5nmの二酸化チタン超薄膜が生成する。一方,大気焼成時には厚さが10倍~ 図14は,二酸化チタンの酸化被膜と干渉の関係を示す原理図である。 即ち,チタンは酸化され易く,常温大気中では無色透明の厚さ2~5nmの二酸化チタン超薄膜が生成する。一方,大気焼成時には厚さが10倍~100倍となり,20~500nmの高温二酸化チタン被膜が生成される。この高温二酸化チタン被 - 17 -膜が干渉色を呈することとなる。」(段落【0006】)③ 登録実用新案第3019943号公報(甲17)「このような技術動向のなかで,本件出願人は以前に,軽量性,耐食性に優れた純チタン製眼鏡部品に対する画期的な装飾技術を開発している。これは,純チタン製眼鏡部品に陽極酸化処理を施すことによって部品表面に無色透明の酸化チタン被膜を形成し,この透明酸化チタン層の光干渉による発色現象を利用することにより部品表面に他の装飾技術には期待することのできない虹色様の色彩を表出せしめるという装飾技術である。この技術によって,軽量性,耐食性を有すると共に優れた装飾性を示す純チタン製眼鏡部品を市場に提供できるようになった。」(段落【0004】)④ 特開2001-337212号公報(乙1)「このようにすることで,前記チタンTi+O2の反応ガスはTiO2(二酸化チタン)となって反射膜3上に成膜が行われ,透明な装飾膜4(図2参照)が形成されるものと成る。このときに,前記装飾膜4が透明であることで,この装飾膜4の膜厚による干渉色により反射膜3には着色を生じるものと成る。」(段落【0010】)「図4は,本発明に係る製造方法により得られた装飾色反射面1を具備する車両用灯具10であり,上記のようにして形成された装飾色反射面1は,従来例のものが着色された装飾膜により反射膜に色彩を与えていたのに対し,本来が無色透明な装飾膜4の膜厚による干渉で色彩を生じさ する車両用灯具10であり,上記のようにして形成された装飾色反射面1は,従来例のものが着色された装飾膜により反射膜に色彩を与えていたのに対し,本来が無色透明な装飾膜4の膜厚による干渉で色彩を生じさせるものであるので,反射膜3からの反射光と,装飾膜4からの反射光との総合である車両用灯具10としての照射光は光源11からの色光に極めて近く,演色性を損う度合も少ないものと成る。また,従来例のものと,この車両用灯具10としての組立工程に何らの付加工程も発生せず,工程変更などの必要を一切に生じることはない。」(段落【0023】)イ上記の記載によれば,酸化チタンからなる膜は,膜自体は無色透明であるものの干渉色を呈することは,一般によく知られている事項であると認めること - 18 -ができる。したがって,審決が認定したとおり,「酸化チタンからなり干渉色を呈する膜は透明にして無色である」ことは,技術常識である。 なお,原告は,甲14には,酸化チタンから成るコート層が透明である点は明示されてはいるが無色である点まで示されていないと主張するが,甲16の段落【0006】に二酸化チタン超薄膜が無色透明であって干渉色を呈すること,甲17の段落【0004】には酸化チタン被膜が無色透明であって光干渉によって発色することが記載されていることに加え,甲14の3欄12行~16行には,インプラントの表面に被着される酸化チタンからなるコート層が透明であって干渉による色相(干渉色)を示すことが記載されていることからすれば,甲14のコート層は通常は無色であると解される。 ウ刊行物1の記載(1頁左下欄4~9行,2頁左上欄11行~20行,2頁右上欄14行~左下欄下から2行,2頁右下欄7行~15行)によれば,刊行物1に記載されたコート層は酸化チタンを主成分とし ウ刊行物1の記載(1頁左下欄4~9行,2頁左上欄11行~20行,2頁右上欄14行~左下欄下から2行,2頁右下欄7行~15行)によれば,刊行物1に記載されたコート層は酸化チタンを主成分とし干渉色を呈するものであると認められるところ,前記のとおり「酸化チタンからなり干渉色を呈する膜は透明にして無色である」ことは技術常識であるから,刊行物1におけるコート層が「透明にして無色の干渉色を呈する層」であることは,実質的に記載されているに等しい事項であるということができる。よって,これと同旨の審決の認定に誤りはない。 なお,原告は,甲16に記載された発明は金属加工の分野であり,甲17に記載された考案は医療分野に用いるものではなく,医療用インプラントの分野の発明である補正発明とは技術分野が異なると主張する。しかし,酸化チタンからなるコート層が透明にして無色であることは一般的な技術常識であり,このことは技術分野に左右されるものではないから,原告の主張する技術分野の違いは引用発明の認定に影響を及ぼすものではない。 (2) 干渉色について乙2(浜島清利「物理のエッセンス力学・波動改訂版」,株式会社河合出版,2010年〔平成22年〕9月10日発行)の記載(139頁9行~140頁最終 - 19 -行)によれば,屈折率n’の層に付着させた屈折率n,厚さdの干渉層に,空気中で垂直に光を当てたときに生じる反射光の波長λは,n<n’のときは2nd=mλ,n>n’のときは2nd=(m+1/2)λ (m=0,1,2,…)との関係式となり,この2式から,干渉層の厚さdや屈折率nを変えれば,任意の波長λの反射干渉光が得られることが理解できる。そうすると,干渉層の厚さを調整すれば,可視光の波長全域にわたって反射干渉光を生成できること,すなわち,可 ら,干渉層の厚さdや屈折率nを変えれば,任意の波長λの反射干渉光が得られることが理解できる。そうすると,干渉層の厚さを調整すれば,可視光の波長全域にわたって反射干渉光を生成できること,すなわち,可視スペクトル全域にわたって干渉色を生成できるものと認めることができる。(なお,甲14の3欄12行~26行,第2図,甲16の段落【0007】,図15にも,干渉層の膜厚によって干渉色を任意に変えられることが記載されている。)また,刊行物1の2頁左上欄11行~20行,2頁右上欄14行~左下欄下から2行,2頁右下欄7行~15行には,酸化チタンを主成分とするコート層を被着させる際に,膜厚を1000~3500Åとすることにより,黄色から,黄金色,ピンク色,赤紫色,濃紫色,青緑色,緑色までの干渉色が得られることが記載されている。 そうすると,刊行物1における酸化チタンを主成分とするコート層が,その厚さを調整することによって,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成し得ることは,当業者にとって明らかな事項であるといえる。したがって,コート層が「干渉を生成するために好適で,可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である」点は,刊行物1に記載されているに等しい事項ということができ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 (3) コート層が「一定の層厚を有する」点について上記のとおり,干渉層の厚さを調整すれば,可視スペクトル全域にわたって干渉色を生成できることからすると,刊行物1におけるインプラント基体に陽極酸化処理を施すことにより形成されたコート層の干渉色は,コート層の層厚によって変化するものであるから,コート層が均一な干渉色を呈するためには,その層厚が一定となるように形成されていることが必要であることは当業者にとって明らかである。 ト層の干渉色は,コート層の層厚によって変化するものであるから,コート層が均一な干渉色を呈するためには,その層厚が一定となるように形成されていることが必要であることは当業者にとって明らかである。 - 20 -したがって,コート層が一定の層厚を有する点も,刊行物1に記載されているに等しい事項ということができる。 なお,原告は,コート層の干渉色が均一というのは,コート層が満遍なく干渉色であることを意味するため,コート層の厚みの有無は関係ないから,インプラント基体に陽極酸化処理を施すことにより形成されたコート層が均一な干渉色を呈するためにはコート層が「一定の層厚を有する」ことは必要ではないと主張する。 しかし,刊行物1の記載(2頁右上欄14行~左下欄下から2行,2頁右下欄7行~15行)の記載から,刊行物1には,インプラント基体に陽極酸化処理を施して,酸化チタンを主成分とするコート層を被着せしめることにより,均一な黄金色から歯肉色に近いピンク色~濃赤紫色の干渉色を呈する表面をした金属材を得ることができる旨が記載されているところ,通常,「均一」とは,「すべてに通じて一様なこと。等しいこと。」(広辞苑第六版,乙3)を意味することからすれば,「均一な黄金色から歯肉色に近いピンク色~濃赤紫色の干渉色を呈する表面」とは「一様な干渉色を呈する表面」を意味すると解される。そして,干渉色は,コート層の層厚によって変化するものであるから,一様な干渉色を呈するためには,コート層の層厚が一様となるようにコート層が形成されていることが必要であると認められる。 したがって,原告の上記主張は採用することができず,「コート層が『一定の層厚を有する』点も,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」とした審決の判断に誤りはない。 (4) 以上より,審決の引 がって,原告の上記主張は採用することができず,「コート層が『一定の層厚を有する』点も,刊行物1に記載されているに等しい事項といえる」とした審決の判断に誤りはない。 (4) 以上より,審決の引用発明の認定に誤りはない。 4 取消事由2(一致点認定の誤り)について前記のとおり,審決の引用発明の認定に誤りはない。よって,補正発明と引用発明が(1)コーティングが,透明にして無色の干渉層を含む点,(2)一定の層厚を有する点,(3)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適である点,を含めて一致するとした審決の認定に誤りはない。 - 21 - 5 取消事由3(相違点1 の判断の誤り)について(1) 特開昭62-66850号公報(甲18)の7欄左上欄14行~16行,特開平8-66404号公報(甲19)の段落【0025】,特表2002-540884号公報(甲20)の【請求項8】,特表2003-527923号公報(甲21)の段落【0077】,米国特許第5597384号明細書(乙4の1)の1欄4行~7行,国際公開第03/026514号公報(乙5の1) の30頁8行~11行(特表2005-503860号公報〔乙5の2〕の段落【0083】)によれば,外科インプラント及び用器をカラーコード化(色標識および特徴付け)することは,本件出願時において周知の技術事項である。 (2) 補正発明は,前記のとおり,外科インプラントや用器(例えば骨板,骨ねじ,ねじ回し)に用いられるものであるが,本件補正後の【請求項1】において「コーティング,特に外科的インプラントおよび用器の標識と特徴付けのため,ならびに外科的インプラントおよび用器のための拡散バリヤーとしてのものであって」,「前記コーティングが,インプラントまたは用器の表面に結合し ,特に外科的インプラントおよび用器の標識と特徴付けのため,ならびに外科的インプラントおよび用器のための拡散バリヤーとしてのものであって」,「前記コーティングが,インプラントまたは用器の表面に結合した,生体適合性があり」とされていることからしても,インプラントの具体的な適用部位については何ら特定されておらず,デンタルインプラントを排除するものではない。一方,引用発明は,前記のとおり,義歯床用金属部材に関する発明であり,刊行物1に「このような処理を施したチタン系金属を用いたデンタルインプラントは公知の陽極酸化法を用いて化成処理を行うことによって各種の色調を呈するデンタルインプラントとなる」(2頁左上欄6行~9行)と記載されていることからすると,デンタルインプラント(人工歯根)に用いられるものである。そうすると,補正発明と引用発明とは,いずれも体内に埋め込まれる器具であるインプラントに用いられるという点で技術分野が共通しているといえる。そして,上記のとおり,本件出願時において,外科インプラント及び用器をカラーコード化(色標識および特徴付け)することは周知の技術事項であり,引用発明も周知の技術事項もインプラントに着色する - 22 -ための技術という点では共通しているのであるから,インプラントの技術分野に属する引用発明におけるコーティングを,周知の外科インプラント及び用器におけるカラーコード化(色標識および特徴付け)として用いることにより,相違点1に係る補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得るというべきである。 よって,相違点1 に関する審決の判断に誤りはない。 (3) 原告は,補正発明は,A)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクト 関する審決の判断に誤りはない。 (3) 原告は,補正発明は,A)一定の層厚を有し,B)電気的に非伝導性または弱伝導性,すなわち誘電性であって,C)干渉を生成するために好適で,D)可視スペクトル全域にわたる干渉色を生成するために好適であり,E)前記干渉層が,耐食性であり,F)PVD法(物理気相成長法),CVD法(化学気相堆積法),スパッタ法により前記のインプラントまたは用器の表面にコーティングを施すことを特徴とするコーティングを意識しながら調整するという技術的思想をもつ発明であり,それらの全てを調整することを記載及び示唆している文献が存在していないにも関わらず,補正発明を容易想到であるとした審決は誤りであると主張する。 しかし,補正発明の技術的思想は前記1のとおりであって,本願明細書に,補正発明が上記A)からF)を意識しながら調整することについての記載はなく,補正発明に関し,原告主張の技術的思想を認めることはできない。よって,原告の上記主張は採用することができない。 6 取消事由4(補正前発明の進歩性の判断の誤り)について補正発明は,補正前発明の「コーティング」を「有色コーティング」と「有色」という特定事項を追加することにより特許請求の範囲を減縮したものであるところ,上記のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も,補正発明と同様に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,審決における補正前発明の容易想到性の判断に誤りはない。 - 23 -第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等 判断 に誤りはない。 第6 結論 以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉

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