主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は,「被告人は,株式会社A(以下「A」という。)の代表取締役を務めていた差戻し前の第一審の相被告人Bから,差戻し前の第一審の弁論分離前の相被告人Cと共にAの事業に関する相談を受けていたものであるが,北海道経済構造の転換を図るための企業立地の促進及び中小企業の競争力の強化に関する条例(以下「本件条例」という。)に基づく補助金名下に金銭をだまし取ろうと企て,B及びCと共謀の上,真実は,Aが北海道虻田郡a 町所在の太陽光発電施設(以下「a 町施設」という。)を操業した事実はなく,本件条例の施行規則に定める新エネルギー供給業の工場等の新設のためのAの投資額が10億円以上である事実もないのに,平成27年9月29日,札幌市b 区内の北海道庁別館において,北海道石狩振興局(以下「北海道」の表記を省略する。)の職員に対し,Aがa 町施設を操業し,かつ,Aの投資額が合計11億9155万8000円である旨の内容虚偽の補助金交付申請書を提出して補助金5957万7000円(以下「本件補助金」という。)の交付を請求し(以下「本件補助金申請」という。),さらに,同年10月17日,施設において,検査を担当した前記職員に対し,Aが操業しているように装い,石狩振興局副局長をして,その旨誤信させて本件補助金の交付を決定させ,よって,同月30日,A名義の預金口座に5957万7000円を振込入金させた。」というのである。 第2 本件の経過 1 差戻し前の第一審判決差戻し前の第一審は,被告人において,本件補助金申請が後記第4の1 ⑵の要件(本件交付要件)を満たしていないことを少なくとも未必的に認識し,B及びCと共謀して本件補助金を交付さ 第一審判決差戻し前の第一審は,被告人において,本件補助金申請が後記第4の1 ⑵の要件(本件交付要件)を満たしていないことを少なくとも未必的に認識し,B及びCと共謀して本件補助金を交付させたとして,ほぼ本件公訴事実どおりの事実を認定し,被告人に対して懲役2年・4年間執行猶予の判決を言い渡した。これに対し,被告人が控訴した。 2 控訴審判決⑴ 控訴審判決の概要控訴審は,差戻し前の第一審においては,本件補助金申請が本件交付要件を満たしていないことの認識及び正犯性とは別に,詐欺の意思連絡の有無及びそれを前提とした詐欺の故意を判断するのに必要な審理が尽くされていたとはいい難く,差戻し前の第一審判決には審理不尽に基づく事実誤認があり,この事実誤認は,本件公訴事実を直接左右する判断に関わるものであるから,判決に影響を及ぼすことが明らかであると判断し,差戻し前の第一審判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を当庁に差し戻した。 ⑵ 控訴審判決の指摘控訴審は,差戻し前の第一審判決について次のように指摘する。 すなわち,被告人が本件交付要件を満たしていないことを少なくとも未必的に認識していたという判断は不合理とはいえない。一方で,被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をしたことが認められ,Bが,被告人及びC(以下,両名を「被告人ら」という。)には詳細を隠しつつ,補助金を受け取る方法を画策していたことをうかがわせる事情がある。しかし,差戻し前の第一審判決においては,被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をした後,本件補助金申請までの間に,本件交付要件を満たす可能性のない本件補助金申請が継続されていることをどのようにして,どの程度知っていたのか,それを前提として本件補助金申請に関与していたことの意味合いが明らかではな 請までの間に,本件交付要件を満たす可能性のない本件補助金申請が継続されていることをどのようにして,どの程度知っていたのか,それを前提として本件補助金申請に関与していたことの意味合いが明らかではない。被告人とBの間で本件補助金を折半する 合意(以下「折半の合意」という。)が存在し,実際に本件補助金の半額が送金された事実(以下「半額の送金」という。)が詐欺の意思連絡との関係でどのような意味合いを有するかも明らかではない。 本件において共謀を認定するためには,被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をしていながら,Bとの間で詐欺の意思連絡がされたことを認定するための重要な事実を明らかにする必要があったが,差戻し前の第一審においては,Cの証人尋問や被告人質問においてそれらの事実に焦点を当てた質問がされておらず,審理不尽である。 第3 当審における審理内容及びその結論の要旨当裁判所は,控訴審の指摘を踏まえた上,差戻し前の第一審において取り調べた証拠に加え,新たに取り調べた証拠(当審において,Cの証人尋問及び被告人質問を実施するとともに,書証を取り調べた。)をも併せ検討した結果,以下に述べる理由から,詐欺の意思連絡及びそれを前提とした詐欺の故意があると認めるにはなお合理的な疑いが残るとの判断に至った。 第4 前提となる事実関係 1 差戻し前の第一審において取り調べた証拠及び当審において新たに取り調べた証拠によれば,まず,Bと被告人らとの間の意思連絡に関する外形的な事実関係としては,次のとおりの事実が認められる。 Aは,北海道内のa 町及びc 町において太陽光発電施設の設置とその事業化を計画し,平成25年9月,株式会社D(以下「D」という。)との間で,両町の太陽光発電施設(以下「本件両太陽光発電施設」という。)に係る請負工事 町及びc 町において太陽光発電施設の設置とその事業化を計画し,平成25年9月,株式会社D(以下「D」という。)との間で,両町の太陽光発電施設(以下「本件両太陽光発電施設」という。)に係る請負工事を発注する旨の基本合意をした。また,Bは,同年10月頃,被告人に対して同工事の代金(以下「本件請負工事代金」という。)に係る資金調達等の相談及びその依頼をした。そして,被告人は,平成26年1月ないし2月頃から,その長男であるCと共に,Aのため,E公庫に対して,融資を申し込み,交渉をした。その結果,いったんは約7億20 00万円の融資が受けられることが見込まれるに至った。 北海道においては,本件条例及びその施行規則により,10億円以上を投資して太陽光発電事業の施設を新設し,その施設の操業を開始・継続する場合(本判決において「本件交付要件」という。)には補助金が交付されることとされていた。 被告人らは,この制度を知り,Aも補助金の交付を受けることができるのではないかと考え, 平成26年4月頃以降,石狩振興局の担当者との間で,補助金の申請手続や本件交付要件等の詳細な情報の提供を受けるとともに,事務的な打合せを進め,Bに報告するなどしていた。 平成26年9月頃,Aにおいて工事費用の増額が必要になり,被告人がE公庫に融資の前倒しの申入れをして,同年10月28日,E公庫からAに対して3億6000万円の融資が行われ,AからDに対し,本件請負工事代金の一部として同額が支払われた。もっとも,この融資額は前記の見込額の半額にとどまっており,Aにおいては,以後も資金調達の見込みが十分には立っておらず,本件請負工事代金の支払が危ぶまれる状況にあった。そこで,この頃以降,Dの担当者は,後記のとおり,Bとの間で,a 町施設の売却について話し合うようにな 以後も資金調達の見込みが十分には立っておらず,本件請負工事代金の支払が危ぶまれる状況にあった。そこで,この頃以降,Dの担当者は,後記のとおり,Bとの間で,a 町施設の売却について話し合うようになった(この点に関する事実経過は被告人には知らされなかった 。)。 このような流れを受けて,E公庫は,Aがa 町施設を売却するのであれば更なる融資はできないと判断し,このことをBに伝えた。そのため,Aにおいては,資金調達の目途が一層立たなくなった。 ⑷ そこで,B及び被告人らは,平成26年11月頃に話し合った。この中で,Bは,a 町施設をDに取られてしまう旨述べた。これを受けて,被告人は,そうなると本件交付要件を満たさなくなるため,本件補助金申請を取り下げなくてはならない旨述べた。すると,Bは,まだ時間があるの でもう少しいろいろと検討しようと述べた。 B及び被告人らは,平成27年1月20日頃にも話し合った。この中で,Bは,被告人らに対し,DがAを支援しており,弁護士等と相談したところ,a 町施設についてDのために譲渡担保権を設定して8億円の融資を受けることを前提に,Aがa 町施設の運営等に関わるとの体裁を整え,補助金の交付を申請することとするので,運営に問題ない旨述べた。もっとも,Bは,その具体的な内容について話をしなかった。被告人らは,Bが相談しているという弁護士等の氏名を尋ねたが,Bは,これを明らかにせず,はぐらかすような受け答えをした。そこで,被告人は,Bに対し,何か不備があったり,うそ等を申請したりした場合には捕まる旨述べるとともに,a 町施設の売却が決まれば連絡するように依頼した。 ⑸ Bは,平成27年5月頃,AとDとの間における「金銭消費貸借、及び動産担保権設定契約書」と題する書面(以下「本件譲渡担保契約書」 るとともに,a 町施設の売却が決まれば連絡するように依頼した。 ⑸ Bは,平成27年5月頃,AとDとの間における「金銭消費貸借、及び動産担保権設定契約書」と題する書面(以下「本件譲渡担保契約書」という。)を作成した。本件譲渡担保契約書には,本件両太陽光発電施設に必要な建設資金12億円余りのうち上記の既払分を差し引いた未払分である9億円余りをDが立て替えることとし,その返済について,10年間,120回の分割払いとして,Aの売電収入から充当することとした上,利息・損害金についてはこれを定めない一方,その支払を担保するため,a 町施設の名義をD又はその指定する者に変更することが記載されていた。もっとも,実際にはAとDとの間でこのような合意はなかった。 ⑹ 被告人らは,平成27年5月頃,Bから,本件補助金申請に当たって石狩振興局に提出する書類の案として,本件譲渡担保契約書と同旨のものを見せられた。被告人は,その内容を見て,金額,返済期間や利息の有無に関する点がAにかなり都合のよいものと感じ,Bに対し,問題があったりうその申請をしたりしたら捕まると述べたり,これほど一方に都合のよい契約書に判を押してもらえるのか,と述べたりした。これに対して, Bは,D側とのやり取りも踏まえているので大丈夫である旨答えた。 ⑺ Bは,平成27年9月29日,北海道知事宛てに補助金交付申請書を提出した。そして,同年10月16日から同月17日にかけて,a 町施設において石狩振興局の担当者による実地検査が行われ,BらAの従業員がこれに立ち会った。 ⑻ そして,平成27年10月22日,本件補助金の支給が決定され,同月30日,Aに対してこれが支給された。 2 Cの供述の信用性差戻し前の第一審及び当審においては,Cの証人尋問が実施されたところであり,上 平成27年10月22日,本件補助金の支給が決定され,同月30日,Aに対してこれが支給された。 2 Cの供述の信用性差戻し前の第一審及び当審においては,Cの証人尋問が実施されたところであり,上記1の認定も,Cの供述によるところがある。そこで,Cの供述の信用性について検討しておく。 Cの供述のうち,C自身の本件交付要件を満たさないことの認識等に関する部分について疑問が残るものの,差戻し前の第一審における基本的な事実関係に関する供述については,その余の証拠関係とも整合しており,概ね信用できるところである。 また,当審におけるCの供述についても,これと矛盾しない範囲で信用できる。なお,当審におけるCの供述の中には,差戻し前の第一審における供述が自己の記憶のとおり正確に供述したものではないと述べるものがある。しかしながら,当審におけるCの供述のうちこのような部分については,記憶が減退した中でのものであるとも考えられる。そこで,Cの供述のうち,差戻し前の第一審における基本的な事実関係に関する供述は信用できるものとして,以下の検討を進める(なお付言すると,仮に,当審におけるCの供述が信用でき,差戻し前の第一審における供述がこれに反する限度で信用できないとしても,本判決における最終的な結論に影響を及ぼすものではない。)。 第5 事実関係を前提にした評価 そこで上記第4の1で認定した事実関係を基に,控訴審判決が指摘する点について検討する。 1 被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をした後,平成27年9月29日にその申請がされるまでの間に,本件交付要件を満たす可能性のない本件補助金申請が継続されていることをどのようにして,どの程度知っていたのかについてa 町施設の売買の経過まず,本件交付要件を欠く原因となったa 町 の間に,本件交付要件を満たす可能性のない本件補助金申請が継続されていることをどのようにして,どの程度知っていたのかについてa 町施設の売買の経過まず,本件交付要件を欠く原因となったa 町施設のAからDへの売買の経過について見ておく。この売買は,Dによる提案・主導の下,次のとおり進められていたものであると認められる。 ア DのFは,Aの資金調達の見込みに疑念を抱き,本件請負工事代金の支払が受けられなくなるおそれがあると考え,平成26年7月頃から11月頃にかけて,Bに対し,資金調達ができなければ本件両太陽光発電施設のうち1か所を他の者に売却してもらいたいなどと告げ,FとBとの間で,平成27年1月までには,本件両太陽光発電施設が完成した後に,a 町施設をD又はその他の者に売却する方針が固まり,その売却交渉についてDに委任された。 イその後,BとDの担当者らとの間では,本件請負工事代金についての交渉が続けられ,同年7月24日,本件請負工事代金が11億4000万円であることを前提にし,AからDに既に支払われた合計4億100万円について,すべてc 町施設の工事代金に充当するとともに,Dがa 町施設を他の者に売却することにより得る利益をa 町施設の工事代金に充当すること等を合意した。 ウ同年8月15日,Dを売主,Hを買主とするa 町施設に関する売買契約が締結され,同年9月17日までに8億円余りの代金支払がされた。 翌18日,a 町施設がHに引き渡され,Hの担当者の指示により連系,操業 が開始され,以後HからIに対する供給が継続した。 Bの意図次に,上記の経過におけるBの意図を検討しておく。Bは,上記のとおりa 町施設の売却についてDの担当者と共に手続を進めていた一方,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及 た。 Bの意図次に,上記の経過におけるBの意図を検討しておく。Bは,上記のとおりa 町施設の売却についてDの担当者と共に手続を進めていた一方,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことを強く企図していたところであったと認定することができる。 すなわち,Bは,前記のとおり,平成26年11月頃に被告人らに対してa 町施設の売却の可能性についていったん持ち出してはいるものの,被告人らから本件交付要件を満たさなくなる旨指摘を受け,さらに,平成27年1月20日頃及び同年5月頃にも類似の指摘を受けていた。また,Bは,同年3月10日,DのF,J,Kらとの間で話し合った際,Fらから,a 町施設については売却が決定されているので,補助金交付を申請すべきではない旨言われていた。さらに,Bは,同月13日,Jに対して,被告人からa 町施設の売却が決まれば連絡するように指示されていることを伝えるとともに,補助金の交付が内定している旨伝えた上,「誰にも迷惑が掛からない解決策がないかを相談したところ,取りあえずはこのまま進めましょうとのことです」との電子メールを送信した(なお,この電子メールが実際に被告人と相談して被告人の意向を反映したものでないことは後述する。)。その後も,Bは,Fらに対し,Dの関係者の指摘に反してでも本件補助金申請に及ぶ意向を伝えていた。また,Bは,Kに対し,その意向があることを前提として,文書で,本件補助金申請のため「ダミーの契約書」の作成が必要であること,本件補助金について返還することになると思われるが,いずれにしてもDには迷惑をかけないこと等を伝えていた。その後,a 町施設の所有権がHに移転し,Hが操業しているにもかかわらず,Bは,補助金交付申請書を提出した上,石狩振興局職員による実地検査にも立ち会ってい 迷惑をかけないこと等を伝えていた。その後,a 町施設の所有権がHに移転し,Hが操業しているにもかかわらず,Bは,補助金交付申請書を提出した上,石狩振興局職員による実地検査にも立ち会ってい た。 このように,Bは,平成27年1月以降,被告人のみならずDの関係者からも,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことについて度重なり反対されているにもかかわらず,本件補助金申請に及ぶ意図を強固に有していたものと認められる。 Bと被告人らとの間の意思連絡等の状況以上を踏まえ,Bと被告人らとの間の意思連絡等の状況について検討する。 ア Bとしては,被告人らに対して,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶ意図があることを伝える動機や契機もなかったといえる。なぜなら,本件における被告人らの役割は,前記第4の1のとおりであって,Dとの交渉には全く関わりがなく,a 町施設の所有権の帰属を知らなくても,これらの役割を果たすことができるからである。 そうすると,前記のBの強固な意図に加え,被告人が要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことに反対する趣旨の発言を複数回していたことも考慮すれば,Bが,被告人が詳細を知ってなお反対し,本件補助金申請が妨げられたり取り下げられたりする可能性を憂慮し,あえて被告人らに対してa 町施設の所有権の帰属について伝えずに本件補助金申請に及ぶ意図を有していた可能性がある。このことは,Bが,a 町施設に関して消費税の還付を受けることを急いでいたこととも整合するものである。 なお,この点につき,Bは,前記のとおり,Jに対し,平成27年3月13日に送信した電子メールで,a 町施設の売却が決まれば連絡するように被告人から指示されたことを伝えているのみならず,とりあえずこのまま進めることに Bは,前記のとおり,Jに対し,平成27年3月13日に送信した電子メールで,a 町施設の売却が決まれば連絡するように被告人から指示されたことを伝えているのみならず,とりあえずこのまま進めることになった旨を伝えている。一見すると,この電子メールからは,Bが被告人らとの間で,a 町施設を売却してもなお本件補助金申請に及ぶ方針を共有したのではないかとみる余地もないではない。しかしながら, 前記第4のとおり,これに先立ち,被告人は本件交付要件を満たさない補助金申請について取り下げる必要性に言及しており,それに対し,Bははぐらかすような応答をしていたところであり,実際にも,Bから被告人らに対してa 町施設の売却があったことが報告された証跡はない。そうすると,このような電子メールの存在から,被告人がBと同じ認識を共有していたと直ちに認めることはできず,むしろ,あくまで本件補助金申請を目指しているのはBであり,被告人からは売却があればこれを報告するよう求められていたにもかかわらず,被告人らに対しては売却について知らせなかった可能性がある。 イこの点に関する検察官の主張について検討しておく。 検察官は,Bが,前記のとおり,平成27年1月20日頃,被告人らに対して,体裁を整えて補助金を申請する旨述べるなどしており,被告人らが,本件交付要件を満たさないことについて未必的認識を有していながら,何らBの本件補助金申請に向けた行動を制止するような言動に出ていなかったことを指摘する。 しかしながら,被告人が本件交付要件を満たしていないことを未必的に認識するに至ったとしても,そのことをもって被告人がBにおいて本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶ(すなわち詐欺行為に及ぶ)意思を有していると認識し,両名間で詐欺の意思連絡が成立した に認識するに至ったとしても,そのことをもって被告人がBにおいて本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶ(すなわち詐欺行為に及ぶ)意思を有していると認識し,両名間で詐欺の意思連絡が成立したということはできない。また,その後何らBの行動を制止するような言動に出ていなかったことは,意思連絡の成立を推認させるものではない。以下,詳述する。 まず,本件交付要件は必ずしも単純なものではない上,現代社会においてはファイナンスの実務が深化し,資金調達に関して様々な法的スキームが構築されているのであるから,本件のようにAの資金繰りの要請をかなえつつ,Aがa 町施設の所有権を有し,その操業を行うなどのスキームを 構築しようとすることも全く考えられないものではない。 現に,被告人は,Bに対し,本件交付要件を満たさないまま本件補助金の交付申請に及ぶことに反対する発言をしており,Aにおいては資金繰りが急務であったのであるから,まずはBが本件補助金申請に及ぶに当たり本件交付要件を満たして支給を受けることができるよう模索すると考えていたとみるのが自然である。 このような観点から,「体裁を整える」との発言の意味を分析しても,非常に多義的なものであるといわざるを得ない。すなわち,「体裁を整える」とは,本件交付要件を満たさないにもかかわらずこれが満たされているように装うとの意味も考えられるが,本件交付要件を満たし,正当な理由に基づくものになるよう権利関係を正当に整理するとの意味も十分にあり得るところである。そして,少なくとも被告人において,そのように権利関係を整理した上で本件補助金申請に及ぶ趣旨でBがこのような発言をしたと理解したとも十分に考えられる。そうすると,被告人が,この発言について,本件交付要件等を満たさないまま本件補助金申請に及ぶこ 利関係を整理した上で本件補助金申請に及ぶ趣旨でBがこのような発言をしたと理解したとも十分に考えられる。そうすると,被告人が,この発言について,本件交付要件等を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことを意味するものと理解したと認めるには,なお合理的な疑いが残る。 このように,被告人がBの行動を制止するような言動に出ていなかったのは,上記のとおり,Bが権利関係を正当に整理し,本件交付要件を満たすようになったものと考えていたからであるとも理解できるところであり,このことをもってBの行動を認容していたとみることはできないし,被告人とBとの間で本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶ旨意思を通じていた上でのものであるとみることもできない。 検察官は,前記第4の1,被告人が,Bから本件譲渡担保契約書と同旨のものを見せられた際,これほど一方に都合のよい契約書に判を押してもらえるのか,と述べたことも指摘する。すなわち,この被告人の発言は,本件譲渡担保契約書が本件交付要件を仮装するための内容 虚偽のものであることを前提としており,Aにのみ有利な内容であるから,Dがそのような外形を作出することに躊躇するのではないかとの趣旨であって,本件譲渡担保契約書の内容が虚偽であることを知っていたはずであるというのである。 しかしながら,この点に関する検察官の主張は,本件交付要件を満たさないことについての認識には関係するが,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことについての意思連絡に直接関連するものではない。この点を措くとしても,「判を押してもらえるのか」という表現は,外形を作出することに応じてもらえるのかという意味よりも,「契約を締結してもらえるのか」という意味で用いられることがむしろ通常であるし,一方に都合がよいという理由 押してもらえるのか」という表現は,外形を作出することに応じてもらえるのかという意味よりも,「契約を締結してもらえるのか」という意味で用いられることがむしろ通常であるし,一方に都合がよいという理由で判を押してもらえるのか心配するのは,その契約書どおりの契約が実際に締結されることを念頭に置いているからこそのものであったとみる方が自然である。 また,本件譲渡担保契約書は,Aにおいて資金調達の見込みがあるという外形を作出することを目的に作成されたものであり,Bが被告人に本件譲渡担保契約書と同旨のものを示したのも,Aの資金調達の見込みを示すためでもあったと考えられる。そして,本件譲渡担保契約書における立替金の支払については理解が比較的容易であるとしても,これによりa 町施設の所有権の帰属がいかなるものになるのか,また,本件交付要件を満たすことになるのか否かは,譲渡担保における所有権の帰属について民法学上も様々な議論があることを踏まえると,その文言のみから一義的に理解することは容易ではない。 そうすると,上記の被告人の発言は,本件譲渡担保契約書によってAがa 町施設の所有権を手放すことなく資金調達することが可能になることを前提に,それが本当に実現するかという点について疑問を表明したものであるとみる余地が多分にある。加えて,この際 も,被告人は,Bに対し,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことに反対する趣旨の発言をしている。 よって,上記被告人の発言は,Bが本件交付要件を満たすことを前提に本件補助金の交付申請に及ぶことを模索していると認識しつつされたものである可能性があるから,この発言から,被告人とBとの意思連絡を認めることはできない。 さらに,検察官は,平成29年9月に本件に関する捜索を受けた際のこととし 模索していると認識しつつされたものである可能性があるから,この発言から,被告人とBとの意思連絡を認めることはできない。 さらに,検察官は,平成29年9月に本件に関する捜索を受けた際のこととして,被告人らとBの間でa 町施設はAのものだという前提で話をしていく旨の話合いをしたことを指摘し,これも,本件詐欺の意思連絡があったことを推認させる事情であると主張する。 しかしながら,上記捜索以後のやり取りとしては,被告人がBに対し何をしたのかを問い質し,これに対し,Bが弁護士等に相談して問題なく申請が通っているなどと答えたこともうかがわれる。これらを一体的にみると,この捜索を機に,被告人はBによる本件補助金申請が不正を疑われるものであった可能性を認識するに至り,その後の対応について,被告人もBに話を合わせることにしたとみることができ,本件補助金申請がなされた当時被告人とBとの間に詐欺の意思連絡があったことを推認させるものとはいえない。 ウ以上のとおり,控訴審が指摘するとおり,被告人は,Bの発言を聞くなどしたそれぞれの時期において本件交付要件を満たしていないことの未必的認識は有していたと認められる。しかしながら,被告人はBが本件交付要件を満たさないまま申請に及ぶことには反対する意思を表明し続けていたのであり,被告人とBとの間で本件補助金申請に及ぶ意思連絡があったと認めることはできず,加えて,その後被告人がBの本件補助金申請を制止することがなかった点も,被告人としてはBが本件交付要件を満たすよう模索した上での行動と考えていたとみる余地があるから,詐欺の意 思連絡や詐欺の故意を疑いなく推認させるものとはいえない。そして,これ以外に,Bが,被告人に対し,直接的か間接的かにかかわらず,また,明示か黙示かにかかわらず,本件交付要件を ,詐欺の意 思連絡や詐欺の故意を疑いなく推認させるものとはいえない。そして,これ以外に,Bが,被告人に対し,直接的か間接的かにかかわらず,また,明示か黙示かにかかわらず,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶ意向であることを前提とした言動に及んでいたことを認めるに足りる証拠はない。 以上により,被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をした後,平成27年9月29日に申請がされるまでの間に,本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請ないしその準備が継続されていることを知っていたと認定することはできない。 2 被告人が本件補助金申請に関与していたことの意味合い被告人の本件補助金申請の関与については,次のとおりであったと認められる。 ア被告人らは,前記のとおり,平成26年4月頃以降,石狩振興局の担当者から,補助金の申請手続や交付要件等の詳細な情報の提供を受けるとともに事務的な打合せを進め,Bに報告するなどしていた。 イ Cは,平成27年1月29日,石狩振興局の担当者から,本件交付要件の一つである関係市町村の支援が得られているか否かについての確認を受け,被告人らは,Bの依頼を受けて,a 町等の担当者との交渉に当たった。 ウ本件補助金申請において,平成27年3月23日以降,Bが,工事着手及び完成に関する所要の届出をし,その後申請書の作成,提出手続そのものに当たっており,石狩振興局の担当者との対応もBが行うようになっており,石狩振興局の担当者が,C及びBの両名に対し,問合せの電子メールを送信しても,Bが同担当者に対して回答を送信していた。 被告人は,E公庫との交渉や,本件補助金申請に及ぶ前段階での行政機関に対する照会,調整等に携わっていたもの の,a 町施設の帰属やその運営に関して 当者に対して回答を送信していた。 被告人は,E公庫との交渉や,本件補助金申請に及ぶ前段階での行政機関に対する照会,調整等に携わっていたもの の,a 町施設の帰属やその運営に関してはほとんど関与しておらず,これらを前提とする資料の作成,提出に関与したものでもない。 よって,被告人が本件補助金申請に関与していたのも,Bが申請時には本件交付要件が満たされるよう調整をつけることを前提としたものであった可能性が残る。したがって,被告人とBとの間で虚偽の内容を申告して本件補助金を不正に受給することまで意思の連絡があったことを推認させるものではない。 3 折半の合意の存在が,本件詐欺の意思連絡との関係でどのような意味合いを有しているのかについて関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 ア被告人らは,平成26年11月5日,農業生産法人として,Cを代表取締役とする株式会社L(以下「L」という。)の設立登記手続を行った。 被告人らは,平成27年2月10日頃,Lのため,北海道石狩郡d町所在の土地を購入する契約を締結し,同月18日までに内金を支払ったものの,その残代金の支払に充てる原資として目ぼしいものは,本件に係る報酬以外になかった。 イ被告人らは,平成27年3月頃までに,Bとの間で,被告人らが取締役を務める株式会社M(以下「M」という。)が補助金額の約半分相当の報酬を受け取ることを合意した(折半の合意)。被告人らは,同年3月頃,折半の合意を前提に,購入を予定していた土地の売主等に示す目的で,MがAに対し3150万円の請負代金債権を有するとの虚偽の契約書(以下「本件虚偽契約書」という。)を作成した。 検察官は,当審において,意思連絡を認定するための重要な間接事実として,折半の合意に加え,本件補助金を土地購入資金の一部 権を有するとの虚偽の契約書(以下「本件虚偽契約書」という。)を作成した。 検察官は,当審において,意思連絡を認定するための重要な間接事実として,折半の合意に加え,本件補助金を土地購入資金の一部に充てるに至った経緯を指摘し,このような経緯が意思連絡の動機になるとして,その意思連絡を推認させる旨主張する。 これらの事情は,被告人において,本件補助金のうち一部を取得する動機やその必要があったことを一応推認させ得るものではある。しかしながら,折半の合意は,もともと,a 町施設を開設,稼働させることによる正当な補助金の受給を前提とするものであるとも考えられるところである。被告人にとって報酬の取得が重要なものであった(検察官は最重要関心事項かつ死活問題であったという。)とすれば,本件交付要件を満たさないまま不正な申請に及ぶ動機,誘因となり得るところではあるが,そのような動機,誘因としての推認力は必ずしも強くない。また,前記のとおり,被告人はBに対して本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことに反対する意思を繰り返し表明していたところである。 そうすると,折半の合意は,本件補助金が正当に支払われるものであることを前提としたものであったのではないかとの合理的な疑いがなお残るから,被告人とBとの間で虚偽の内容を申告して本件補助金を不正に受給することまで意思の連絡があったことを推認させるものではない。検察官のこの点に関する主張は,仮に意思連絡が認められた場合には正犯意思を推認させるものであるとはいえ,当審で問題となっている被告人とBとの意思連絡を推認させるものとはいえない。 4 半額の送金の存在が,本件詐欺の意思連絡との関係でどのような意味合いを有しているのかについて関係証拠によれば,次の事実が認められる。 ア B との意思連絡を推認させるものとはいえない。 4 半額の送金の存在が,本件詐欺の意思連絡との関係でどのような意味合いを有しているのかについて関係証拠によれば,次の事実が認められる。 ア Bは,平成27年10月29日,本件補助金が支給される見通しとなったことから,折半の合意を受け,Cに対し,請求書(もっとも,MがDに対して工事代金として請求する内容とされている。)の案文を送付した。 Cは,その内容を被告人に報告した上で,請求書に捺印し,Dに送付した。 イ翌30日,AからD名義の口座を介してM名義の口座に2978万8500円が振込送金された(半額の送金)。被告人らは,同年11月4日, これを原資として,前記売主に対し,前記の残代金を支払った。 検察官は,被告人らによる本件補助金の受領状況及びその一部を土地購入資金に充てた状況を指摘した上,半額の送金には,共に内容虚偽の本件補助金申請をしたことに対する報酬の意味合いがあり,被告人とBとの意思連絡を推認させると主張するものと解される。そこで,半額の送金の事実が,本件詐欺の意思連絡との関係でどのような意味合いを有しているのか検討する。 この点,被告人は,Aから,本件両太陽光発電施設の建設に関する概算費用の12億円の4パーセントに当たる4800万円を報酬として受領することになっていたところ,それまでに受領していた報酬の残額について,イのとおり本件虚偽契約書により明らかにしていた旨供述する。 一般に,不正な行為で得た金額の半額を実行者から受け取ったという事実は,不正行為の報酬又は分け前を受け取ったと考えられるという意味で,実行者と意思連絡があったことを推認させ得るものではある。しかし,被告人は,Bから依頼を受けていた資金繰りについて前記第4の1のとおり一定の成果を 酬又は分け前を受け取ったと考えられるという意味で,実行者と意思連絡があったことを推認させ得るものではある。しかし,被告人は,Bから依頼を受けていた資金繰りについて前記第4の1のとおり一定の成果を上げていた。被告人の述べる報酬は高額とも思えるが,融資を受けるための交渉をとってみても,その方法には様々なものがあり得,被告人によってこそ可能な仕事も想定できるところであるし,本件補助金申請に先立つ石狩振興局との事前折衝及び市町村支援の取付け並びに国有地の払下げ等における被告人らの労力も無視できない。よって,実現すべき事業規模の約4パーセントという報酬も,高額に過ぎてあり得ない金額とまではいえない。また,被告人がAから半額の送金の前に1450万円(これは,実際に融資を受けた3億6000万円の約4パーセントに相当する。)を受領していることも,被告人の述べるような報酬の支払合意があったことを推認させる。そうすると,被告人には,Aから,本件補助 金申請が不正なものであるかとは無関係に,報酬の残額(3350万円)として,折半の合意により本件補助金の半額に近い金額を受け取る理由があった可能性がある。 また,半額の送金の前後の連絡状況を見ても,詐欺行為による報酬であることをうかがわせる事実は見当たらない。この点,本件虚偽契約書が作成されていることから,被告人に本件補助金申請に関連してAから送金を受けた事実を隠蔽したいという心情があったのではないかが問題にはなる。 しかし,被告人は,本件虚偽契約書を作成したのは農業生産法人としての承認を受ける過程で農業委員会にAに対し債権を有していることを示すために作成されたものであると述べるところ,実際に本件虚偽契約書が農業委員会に提出されたことからすると,これを否定する理由はない。そして,そのような目的で 委員会にAに対し債権を有していることを示すために作成されたものであると述べるところ,実際に本件虚偽契約書が農業委員会に提出されたことからすると,これを否定する理由はない。そして,そのような目的で作成されたのであれば,実際には報酬であるが,Aの頼みもあり名目は工事代金としたという被告人の説明も,不合理とはいえない。 よって,半額の送金の事実について検討しても,本件補助金が正当に支払われることを前提に合意された報酬が支払われたにすぎないものではないかとの合理的な疑いがなお残る。 5 小括これまでの検討によれば,検察官が主張する事実を踏まえても,これらは,被告人が本件交付要件を満たさないまま本件補助金申請に及ぶことに反対する趣旨の発言をしていながら,Bとの間で,そのような申請に及ぶことについて,犯意を相互に認識していた,すなわち意思連絡が存在したことが推認されるものではなく,他にそのような推認を基礎付ける事情が十分には見当たらない。 第6 結論以上によれば,当審において,控訴審判決の指摘に基づいて証拠調べを 行ったものの,控訴審判決が指摘する「被告人が本件補助金申請に反対する趣旨の発言をしていながら,Bとの間で詐欺の意思連絡がされたことを認定するための重要な事実」について検察官の立証がされたとはいえず,差戻し前の第一審及び当審において取り調べた証拠を総合しても,被告人とBとの間で詐欺行為に及ぶ意思連絡がされたこと及びそれを前提に被告人において詐欺の故意があったことを認めるにはなお合理的疑いが残るといえる。 よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑懲役4年)令和2年5月18日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判官 訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。(求刑懲役4年) 令和2年5月18日 札幌地方裁判所刑事第1部 裁判官 宮原翔子 裁判長 裁判官島戸純及び裁判官平手健太郎は,いずれも差支えのため署名押印できない。 裁判官 宮原翔子
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