平成29年11月2日判決言渡平成29年(行ウ)第14号損失補償裁決取消請求事件主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求愛知県収用委員会が,27愛収第2-2号事件につき平成28年11月15日付けで原告に対してした裁決を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,愛知県α市(以下「α市」という。)による土地区画整理事業の施行地区内の宅地を所有する原告が,同地区内の宅地につき仮換地の指定を受けたところ,上記事業により上記宅地の東側,西側及び北側のいずれにも道路が新設され,これらの道路と上記宅地との間に高低差が生ずるなどしたため,愛知県収用委員会に対し,α市を相手方として道路法70条1項等に基づく損失補償の裁決を申請したが,土地区画整理事業によって道路の新設がされる場合には同項の適用はないこと等を理由として,これを却下する旨の裁決を受けたことから,土地収用法133条1項に基づき,上記裁決の取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め別紙「関係法令の定め」のとおりである。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)(1) 事業計画の決定等α市が施行者である東三河都市計画事業β土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)につき,平成6年2月16日に都市計画決定の告示がされ,平成7年8月23日,本件事業に係る事業計画(以下「本件事業計画」という。)の決定が公 告された。(甲9,乙2,弁論の全趣旨)(2) 仮換地の指定ア原告は,本件事業の施行地区内に宅地(以下「旧宅地」という。)を所有していたところ,平成11年2月10日,本件事業に伴う仮換地として,(住所省略)の宅地 弁論の全趣旨)(2) 仮換地の指定ア原告は,本件事業の施行地区内に宅地(以下「旧宅地」という。)を所有していたところ,平成11年2月10日,本件事業に伴う仮換地として,(住所省略)の宅地(以下「本件宅地」という。)の指定を受けた(以下「本件仮換地指定」という。)。 なお,本件事業に伴う換地処分はいまだされていない。(甲1,9,乙7ないし9,弁論の全趣旨)イ旧宅地と本件宅地の範囲はおおむね重なっているが,旧宅地上にあった3棟の建物(木造2階建ての居宅,木造中2階建ての物置,重量鉄骨造2階建ての倉庫。 以下,それぞれを「本件居宅」,「本件物置」,「本件倉庫」という。)のうち,本件倉庫については,本件宅地の中に収まらないため,本件宅地内に収まるように移転することとされた。他方,本件居宅及び本件物置は,移転の対象外とされた。 (甲1,2,14,乙7ないし9)(3) 本件宅地の北側への道路の新設等ア本件事業計画により,本件宅地の東側,西側及び北側にいずれも道路が新設されることとなった(なお,これらの道路については,いずれも平成13年12月14日付けの議会の議決を経た上で,道路法8条1項に基づき,市道としての認定がされている。)。従前,旧宅地の北側は,雑木林であって全く道路はなかったが,通行(旧宅地への北側からの出入り)に支障はなかった。(甲3,4,9,乙2,弁論の全趣旨)イ本件宅地の北側に新設される道路(以下「本件北側道路」という。なお,この道路の供用は開始されていない。)と本件宅地との間には,本件物置の北面中央部の境界付近で0.29m,本件居宅の北面中央部の境界付近で0.5mの高低差が生じており,最も高低差があるところ(本件宅地の西端付近)では,その差は1. 76mである。(甲2,5,9,乙2,弁論の全趣旨) 0.29m,本件居宅の北面中央部の境界付近で0.5mの高低差が生じており,最も高低差があるところ(本件宅地の西端付近)では,その差は1. 76mである。(甲2,5,9,乙2,弁論の全趣旨) こうした高低差のうち1m以上と認められたものについては,仮換地の指定に際し,割り当てるべき面積を増やす方向で評価指数の修正を行う形での考慮がされている。(乙1ないし4,弁論の全趣旨)ウ本件北側道路と本件宅地との境界から本件居宅までの距離は,本件居宅の北東角で0.75mであり,また,上記境界から本件物置までの距離は,本件物置の北東角で1.5mである。(甲2,9,弁論の全趣旨)(4) 裁決の申請等ア原告は,平成27年11月27日,愛知県収用委員会に対し,α市を相手方として,前記(3)イの高低差等に関し,道路法70条1項等に基づく損失補償の裁決を申請したところ,愛知県収用委員会は,原告に対し,平成28年11月15日付けで,上記申請を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。(甲9)イ原告は,平成29年2月1日,本件裁決の取消しを求める本件訴えを提起した。(顕著な事実) 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件北側道路の新設に伴って必要になると原告の主張する本件宅地のかさ上げ工事等につき,道路法70条1項の適用があるか否かであり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 原告の主張ア本件仮換地指定がされる前,旧宅地の北側に道路は設置されておらず,雑木が生えたりしていたが,旧宅地への北側からの出入りは支障なくできていた。 ところが,本件事業により本件北側道路が新設されると,本件宅地と本件北側道路との間に最大で1.76m(本件宅地の西端付近)の高低差が生じ,本件宅地の北側の通行が極めて困難 りは支障なくできていた。 ところが,本件事業により本件北側道路が新設されると,本件宅地と本件北側道路との間に最大で1.76m(本件宅地の西端付近)の高低差が生じ,本件宅地の北側の通行が極めて困難となるから,従前の利用価値を維持するためには,本件宅地のかさ上げ工事の実施が必要不可欠である。 また,本件宅地内にある本件居宅や本件物置についても,それらと本件北側道 路との距離が北東角でそれぞれ0.75m,1.5mしかない状況であるため,生活環境への影響は甚大であって,塀や垣根の設置が必要である。 このように,道路の新設によりかさ上げ工事等が必要となったことから,道路法70条1項の要件が満たされることは明白である(なお,α市は,本件宅地のかさ上げ工事を実施することを一旦は約していたものである。)。 イ被告は,本件において道路法70条1項の適用がない旨を主張するが,土地区画整理事業に伴って道路が新設された場合に同項の適用が除外される旨の文言は何ら存しない上,他にそのように解すべき根拠もない。むしろ,仮換地の指定を受けた者は,当該宅地につき,排他的な使用収益権や処分権を有しており,所有者と実質的に変わらないだけの地位を有する上,土地区画整理法に道路の新設時における損失補償に関する規定が設けられていないことからすれば,道路法70条1項に基づく損失補償の請求が当然に認められると解するのが合理的である。 また,被告は,本件で原告が問題としている事項は,仮換地の指定又は換地処分における照応の原則の問題であると主張するが,道路の新設に伴う損失及びそれに対応した工事の必要性の問題を照応の原則の考慮の中で取り上げることができるのかにつき,明確な根拠は見当たらない(現に,被告は,照応の原則の中で具体的にどのような考慮がされるのかを示すことがで それに対応した工事の必要性の問題を照応の原則の考慮の中で取り上げることができるのかにつき,明確な根拠は見当たらない(現に,被告は,照応の原則の中で具体的にどのような考慮がされるのかを示すことができていない。)。むしろ,照応の原則と損失補償とは別の問題である(そうであるからこそ,土地区画整理法73条,78条といった損失補償に関する規定が,照応の原則に関する規定とは別途設けられている。)し,照応の原則に関する考慮の中では,宅地のかさ上げ工事を行うなどといった措置は想定されていないと解される。そうすると,被告の主張を前提にすれば,本件仮換地指定を受けた原告に生じた上記アの支障は,道路法70条1項の問題でもなく,照応の原則の中でも考慮されないということになるが,そうした事態は憲法29条3項に違反するものといわざるを得ない。 なお,道路として認定された後であれば,供用が開始される前の段階において も,土地区画整理事業の施行者に道路の管理者としての責任があることは自明である(土地区画整理法100条の2参照)。 (2) 被告の主張ア(ア) 土地区画整理事業においては,土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更が一体として行われるものであるから,こうした変更等によって従前の土地所有者等の権利につき調整が必要となる場合には,そうした調整は,全体として,土地区画整理法の規定に基づき行われることが想定されている。具体的には,道路の新設や改築に伴う土地の利用状況や環境等の変化は,換地処分や仮換地の指定における照応の原則の中で考慮されるべきものである。そして,このような考慮が予定されている以上,別途損失補償の手段がないからといって,憲法29条3項の違反の問題が生ずる余地はない。 (イ) 他方,道路法70条1項は,飽くまでも既存の,道路事 ある。そして,このような考慮が予定されている以上,別途損失補償の手段がないからといって,憲法29条3項の違反の問題が生ずる余地はない。 (イ) 他方,道路法70条1項は,飽くまでも既存の,道路事業の対象外の土地に面する形で道路が新設又は改築された場合についての規定であり,土地区画整理法におけるように,換地処分等による施行地区内の土地の区画形質の変更と一体として道路の新設等がされる場合には,同項は適用されないと解すべきである。もとより,従前所有していた宅地に仮換地の指定がされる,いわゆる現地換地の場合であっても,仮換地の指定の効果は同じである以上,この理は等しく妥当する。上述した照応の原則による考慮がされた上に損失補償を求めることができるというのでは二重取りとなってしまうことからしても,上記の帰結は自明である。 また,そもそも,本件北側道路は土地区画整理事業の一環で設けられている以上,換地処分の公告の日までは,本件事業の施行者に,仮換地として指定されていない本件北側道路の維持管理の責任があり,その翌日に道路管理者等の公共施設管理者に移管がされるのであって,その意味で,本件北側道路は,道路法に基づく管理の対象とすらなっていない(土地区画整理法100条の2,106条)。 (ウ) 以上より,本件において,道路法70条1項の適用の余地はない。 イなお,念のため付言すると,本件仮換地指定に際しても,本件北側道路と本 件宅地との間の高低差については考慮がされている。また,本件宅地とその東側に新設される道路との間での出入りについては支障がない。 したがって,原告に,補償すべき何らかの損失があるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(道路法70条1項の適用の有無)に対する判断(1) 土地区画整理法2条の定義規定から明ら い。 したがって,原告に,補償すべき何らかの損失があるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(道路法70条1項の適用の有無)に対する判断(1) 土地区画整理法2条の定義規定から明らかなとおり,土地区画整理事業においては,施行地区内の土地の区画形質の変更と,道路を含む公共施設の新設等の双方を一体として行うことが予定されている。 そして,土地区画整理事業によって土地の区画形質が変更されることに関しては,換地処分という形で従前の宅地に代わる宅地が割り当てられ,あるいは清算金(換地計画において定められるもの)が支払われるなどすることによって権利関係の調整が図られることが予定されており,換地処分に先立って仮換地の指定が行われたり,仮清算金が支払われたりする場合もある(土地区画整理法86条1項,94条,98条,102条)。この換地処分又は仮換地の指定(以下「換地処分等」ということがある。)に際しては,換地又は仮換地と従前の宅地との間で,位置,地積,土質,水利,利用状況,環境等が「照応」する,すなわちおおむね同一条件となるような指定がされることが求められる(いわゆる照応の原則)(同法89条1項,98条2項)し,換地処分等によってもなお生ずる不均衡を是正するための清算金又は仮清算金(以下「清算金等」ということがある。)の算定に当たっても,位置,地積,土質,水利,利用状況,環境等を総合的に考慮することが求められる(同法94条,102条)。そして,ここにいう「環境等」とは,生活を取り巻く有形無形のあらゆる外部的条件を意味しており,自然的条件のみならず,人為的条件としての物的条件(施設等)や社会的条件(行政,住民組織,人間関係等)も含むと解されるから,本件で原告が指摘しているような,土地区画整理事業の一環としての道路の新設に伴って生ずる ならず,人為的条件としての物的条件(施設等)や社会的条件(行政,住民組織,人間関係等)も含むと解されるから,本件で原告が指摘しているような,土地区画整理事業の一環としての道路の新設に伴って生ずる高低差や,道路と宅地上の建物との距離及びそれに伴うプライバシーの問題も含まれるものと解される。 (2) そうすると,仮に,道路の新設に伴い道路部分と宅地との間に高低差が生じたことで宅地のかさ上げ工事が必要となったり,道路部分と宅地上の建物との距離が近すぎることで塀や垣根を設置するなどの工事が必要となったりした場合においては,その点に関して,当該工事の必要性の程度や工事費用相当額に応じて宅地の利用価値が下落し得るといったことを,換地処分等の際の照応の原則の適用の中で,あるいはなお不均衡が生ずる場合にそれを是正するための清算金等の算定の中で考慮することが予定されているものと解される。すなわち,本件で原告が損失補償を求める理由としている事項は,いずれも,換地処分等における照応の原則の適用の中で,あるいは清算金等の算定の中で考慮されることが予定されている事項であるといえる。 そして,仮に,権利者がその考慮を不服とする場合には,換地処分等に対する抗告訴訟の手段により争うことが可能である。 (3) このように,土地区画整理法上,原告が指摘するような環境面の条件を含めて,換地処分等における照応の原則によって従前の状態と仮換地の指定ないし換地処分後の状態との均衡が確保されることが予定され,それだけではなお経済的に不均衡がある場合であっても,清算金等によって調整がされることが予定されていて,さらに,仮に換地処分等に違法な点があったとしても,最終的には抗告訴訟によって是正されることが予定されている以上,換地処分等の前後における均衡は,土地区 等によって調整がされることが予定されていて,さらに,仮に換地処分等に違法な点があったとしても,最終的には抗告訴訟によって是正されることが予定されている以上,換地処分等の前後における均衡は,土地区画整理法において定められた枠組みの中で実現されていくことになるのであるから,別途,道路法によって補償すべき損失が生ずることは観念できないものと解するのが相当である(したがって,道路法に基づく損失補償を認めないことが憲法29条3項の違反の問題を生じさせることになるとも解されない。)。土地区画整理法101条において,仮換地を使用収益することができない場合については損失補償の手段が設けられていながら,仮換地の使用収益が可能な場合に損失補償請求が可能であることを前提とした別途の定めがされていないのも,仮換地の指定に伴う価値の均衡の実現自体は,そうした別途の定めによるまでもなく図られることが予 定されているためと理解することができ,このような理解は上記の解釈と整合する。 なお,仮に,土地区画整理法94条に基づく清算金が,その実質において損失補償の性格をも有すると理解したとしても,換地処分等に伴う不均衡の是正手段に関しては,土地区画整理法に清算金に関する規定が特に設けられている以上,当該規定から離れて,道路法の規定が優先的に適用されたり,選択的に適用されたりすることは予定されていないと解するのが相当である。 (4) 以上によれば,土地区画整理事業における道路の新設に伴う仮換地の環境面の条件の問題について,土地区画整理法から離れて,道路法70条1項に基づいて損失補償を請求することは認められないと解するのが相当である。 したがって,上記の結論と同旨の理解に基づく本件裁決は,その余の点につき判断するまでもなく,適法である。 2 原告の主張 基づいて損失補償を請求することは認められないと解するのが相当である。 したがって,上記の結論と同旨の理解に基づく本件裁決は,その余の点につき判断するまでもなく,適法である。 2 原告の主張について(1) 原告は,道路法70条1項の文言は,土地区画整理事業に伴う道路の新設の場合を排除していない旨を主張する。しかし,上述のように,本件における道路の新設に伴う問題は,換地処分等の内容あるいは清算金等の定め方によって解決されることが予定されているために,それとは別に損失が生ずることにはならないので,損失が生ずることを前提とする道路法の規定が別途適用されることはないというのが,当裁判所の依拠する解釈である。すなわち,本件において問題となっているのは,道路法の規定により補償されるべき損失の有無であるところ,そのような損失は生じないと解されるから,単に土地区画整理事業による道路の新設が文言上排除されていないからといって,道路法70条1項が適用されるということにはならない。 (2) また,原告は,α市において,土地区画整理事業で生じた道路部分と宅地との間の高低差を是正するためのかさ上げ工事を行った実績があることを指摘し,これは道路法70条1項に基づくなどと主張するが,土地区画整理事業の一環である区画形質の変更として,宅地のかさ上げが行われることもあり得るのであって,原 告の主張は採用できない。 なお,原告は,本件宅地に関し,当初かさ上げ工事を行うことが予定されていたことも問題としているが,この点も,前述した道路法の適用に関する法的判断を左右する事情とはならない。 (3) さらに,道路法70条1項は,工事費用の補償に代えて工事そのものの請求ができる旨も規定するところ,原告は,工事そのもの(特に,塀の設置工事)の実施を,具 判断を左右する事情とはならない。 (3) さらに,道路法70条1項は,工事費用の補償に代えて工事そのものの請求ができる旨も規定するところ,原告は,工事そのもの(特に,塀の設置工事)の実施を,具体的な損失の発生を待たずに補償として受けるのが最も実効的であることを前提に,その要求ができる根拠が道路法70条1項以外にないことを問題としているようにも解される。しかし,前述のとおり,補償すべき損失が想定されない場面において,道路法70条1項を適用することはできないことからすれば,工事を求めることが救済手段として最善であることを根拠に,道路法上の損失がないにもかかわらず同法の適用を認めるべきことにはならないから,原告の主張は,採用の余地がない。 (4) 最後に,原告が書証として提出した甲第11号証については,仮に原告の主張するように,原告訴訟代理人が愛知県収用委員会の委員を務めていた際に入手した資料であったとしても,そもそも出典等が全く判然としないものである。また,この点をおくとしても,上記の資料が述べているのは,土地区画整理事業の施行に伴って支障となる物件を移転又は除却することにより土地区画整理法78条所定の損失が生じ,損失補償の問題となる場合についてであると解され,本件で問題となっている局面とは異なる場面を念頭に置いた記述がされていると解されるから,当裁判所の判断を左右するに足りるものではない。 第4 結論以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官市原義孝 裁判官平田晃史 裁判官佐藤政達 のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官市原義孝 裁判官平田晃史 裁判官佐藤政達
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