平成18年(ワ)第503号損害賠償請求事件判決主文 被告らは,原告に対し,連帯して5704万4180円並びにこれに対する被告県につき平成18年2月18日から,被告総研及び被告Aにつき同月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告の被告県及び被告Aに対するその余の請求並びに被告総研に対するその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告県の,その1を被告総研及び被告Aの,その余を原告の各負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告県が3000万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1請求 主位的請求被告らは,原告に対し,連帯して5億1575万1706円及びこれに対する被告県につき平成18年2月18日から,被告総研及び被告Aにつき同月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 予備的請求被告総研は,原告に対し,5億1575万1706円及びこれに対する平成18年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 事案の概要原告は,建設業者及びビジネスホテル業者の経営指導に特化した経営コンサルタントを標榜していた被告総研と経営指導契約を締結し,その経営指導により立案された建築計画に基づき,同被告の選定した設計業者と業務委託契約を締結して設計を行わせ,被告県の建築主事より建築確認を受けた上で,被告総研より経営指導を受けている建設業者との請負契約によってビジネスホテルを新築し,営業を行っていたところ,上記設計のうち構造設計を担当した一級建築士が不正な手段により耐震強度を偽装していたこと,及び上記建築物の耐震強度が法令で定められた基 負契約によってビジネスホテルを新築し,営業を行っていたところ,上記設計のうち構造設計を担当した一級建築士が不正な手段により耐震強度を偽装していたこと,及び上記建築物の耐震強度が法令で定められた基準を満たしていないことが発覚したため,休業し,上記建築物を建て替えた。 本件は,①被告県の建築主事において,建築確認に関する事務を適正に遂行し,違法建築物の出現を未然に防いで建築主に不測の損害を被らせないようにすべき注意義務があるのにこれを怠り,重大な法令違反がある建築確認申請に対して建築確認をしたこと,②被告総研において,経営コンサルタントとして設計業者及び建設業者を適切に指導監督し,違法建築物の設計及び施工を防止すべき注意義務があったにもかかわらずこれを怠ったこと,③被告総研の代表取締役である被告A(以下,被告総研と併せて「被告総研ら」ともいう。)において,違法建築物の設計及び施工を認識しながらこれを許容,黙認し,又は,被告総研の代表者として違法建築物の設計及び建築を防止する注意義務を怠ったことなど,各被告の国家賠償法上の違法行為又は不法行為により,原告が,上記のとおりホテル休業及び建て替えを余儀なくされたとして,被告らに対し,国家賠償法1条1項又は民法上の不法行為に基づく損害賠償として,連帯して5億1575万1706円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告総研らに対しては,選択的に,使用者責任(民法715条1項)に基づく同額の損害賠償金の支払を,被告総研に対しては,予備的に,上記経営指導契約の債務不履行に基づく同額の損害賠償金の支払をそれぞれ求める事案である。 前提事実(争いのない事実,及び後掲各証拠による認定事実)(1) 当事者等原告は,ビジネスホテル 備的に,上記経営指導契約の債務不履行に基づく同額の損害賠償金の支払をそれぞれ求める事案である。 前提事実(争いのない事実,及び後掲各証拠による認定事実)(1) 当事者等原告は,ビジネスホテルの経営等を目的とし,後記(7)の取壊しに至るまで,愛知県半田市a町b丁目c番地(知多半田駅前土地区画整理事業による換地後の予定地番はe街区f番)にて鉄筋コンクリート造10階建,高さ28.70m,延べ面積2484.15㎡の建築物(以下「本件建築物」という。)を所有し,これにより客室126室のビジネスホテル「センターワンホテル半田」(以下「本件ホテル」という。)を経営していた株式会社である。なお,本件建築物は,後記(3)のとおり多数の建築物について不正な構造計算により耐震強度を偽装していたことが発覚して社会問題となったB元一級建築士(以下「B建築士」という。)が構造設計を担当した建築物である。 被告県は,原告による本件建築物の建築計画(以下「本件建築計画」という。)についての建築確認申請に対して建築基準法(平成14年法律第22号による改正前のもの。以下同様。なお,括弧内で建築基準法の条文を引用する場合には単に「法」という。)6条4項の建築確認事務を行った建築主事が属する地方公共団体である。 被告総研は,企業診断,経営指導,教育訓練,市場調査等を目的とし,原告に対し,後記契約関係に基づいて本件ホテルの経営指導に携わっていた株式会社であり,被告Aはその代表取締役として業務全般を統括していた者である。 (2) 本件建築物の完成までの経緯ア原告は,地元金融機関関係者に紹介された建設業者である沢田工務店株式会社(以下「沢田工務店」という。)から,名古屋鉄道知多半田駅前の土地区画整理事業に関連して遊休地となった自社所有のメッキ工場跡地の有効活用策として 関関係者に紹介された建設業者である沢田工務店株式会社(以下「沢田工務店」という。)から,名古屋鉄道知多半田駅前の土地区画整理事業に関連して遊休地となった自社所有のメッキ工場跡地の有効活用策としてビジネスホテルの経営を勧められ,平成13年10月14日,沢田工務店の経営コンサルタントである被告総研との間で,経営指導料3500万円(消費税別)にてビジネスホテルの事業化のための経営指導契約(以下「本件経営指導契約」という。)を締結するとともに(甲5),同被告が選定した設計業者である平成設計株式会社(以下「平成設計」という。)との間で,報酬1652万7000円(消費税78万7000円を含む。)にて本件建築物の設計・監理業務委託契約(以下「本件設計等契約」という。)を締結し(甲6),沢田工務店との間で請負代金4億0268万4450円(消費税1917万5450円を含む。)にて本件建築物の建築請負契約(以下「本件建築請負契約」という。)を締結した(甲7の1~7)。 イ平成設計所属の一級建築士であるC(以下「C建築士」という。)は,平成13年11月16日,本件建築計画につき,原告の代理人として,建築基準法施行細則(昭和46年愛知県規則第55号。以下「施行細則」という。)23条に基づき愛知県半田市長あてに建築確認申請書(以下「本件建築確認申請書」という。甲1)を提出し,被告県に対して建築基準法6条1項の建築確認申請(以下「本件建築確認申請」という。)をした。 ウ本件建築確認申請書は半田市長から被告県知多事務所に送付されて,平成13年12月3日に同事務所建設課にて受け付けられ,同課に所属するD建築主事(以下「本件建築主事」という。)は,同月27日,建築基準法6条4項に基づき,本件建築計画が建築基準関係規定(建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の 課にて受け付けられ,同課に所属するD建築主事(以下「本件建築主事」という。)は,同月27日,建築基準法6条4項に基づき,本件建築計画が建築基準関係規定(建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定,その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。法6条1項)に適合することを確認したとし(以下「本件建築確認」という。),確認済証(甲2)が原告に交付された。 エ本件建築確認を待って本件建築物の建築工事が開始された後,原告の申請により建築基準法7条の3第4項に基づく中間検査が実施され,平成14年2月26日,本件建築主事は本件建築物が建築基準関係法令に適合しているとし,中間検査合格証(甲3)が原告に交付された。 オ本件建築物の完成後,原告の申請により建築基準法7条4項に基づく完了検査が実施され,平成14年6月25日,被告県知多事務所のE建築主事は本件建築物が建築基準関係規定に適合しているとし,検査済証(甲4)が原告に交付された。 (3) B建築士による耐震強度偽装事件の発覚ア国土交通省は,平成17年11月17日,B建築士が構造設計に関与した建築物の建築確認申請書に添付された構造計算書につき,不正な構造計算によって建築物の地震力に耐え得る強さ(耐震強度)が実際よりも強いものと偽装されており,これにより耐震強度が法令の基準を満たさないにもかかわらず建築確認がされていたことを公表した(乙12,16頁)。 イ上記アの公表を受けて,原告の代表取締役Fは,保管していた本件建築確認申請に関する書類により,本件建築物についてもB建築士が構造設計を担当していたことを知り,平成17年11月21日,上記書類一式を被告県知多建設事務所(以下,組織再編前の前記知多事務所と併せて,単に「知多事務所 書類により,本件建築物についてもB建築士が構造設計を担当していたことを知り,平成17年11月21日,上記書類一式を被告県知多建設事務所(以下,組織再編前の前記知多事務所と併せて,単に「知多事務所」ということがある。)に提出して,上記構造設計(以下「本件構造設計」という。)の問題性,とりわけ構造計算(以下「本件構造計算」という。)における耐震強度の偽装の有無の調査を依頼した。 (4) 被告県による本件構造計算の検証前記(3)イの依頼を受けた被告県は,①本件建築確認申請書の添付書類の一つである構造計算書(以下「本件構造計算書」という。甲1の5)の耐震強度の偽装の有無の検証(以下「検証①」という。),及び②偽装が存在したとして,本件建築物がなお法令上求められている耐震強度を有しているのか否かの検証(以下「検証②」という。)を行った。 上記各検証(以下「本件各検証」という。)を担当したのは被告県の建設部建築担当局建築指導課であり,まず,本件構造計算書の目視により調査したが,頁の脱落及び差し替え等の偽装は見当たらなかったので,次に,本件構造計算が構造計算プログラムにより正しく計算されているか否かを確認することとした。 検証の対象とされた本件構造計算書は,構造設計概要書(甲1の5の1)のほか,構造計算としての手計算部分(甲1の5の2~甲1の5の5)及び電算出力部分(甲1の5の6)により構成されているところ,建設省令である建築基準法施行規則(以下「施行規則」という。)及び愛知県規則である施行細則(乙8)によれば,国土交通大臣の指定を受けた構造計算プログラム(以下「大臣認定プログラム」という。)を使用して構造計算を行った場合には電算出力部分を建築確認申請書へ添付することは要しないものであったが(平成15年国土交通省令第16号による改正前の施行規則1 ム(以下「大臣認定プログラム」という。)を使用して構造計算を行った場合には電算出力部分を建築確認申請書へ添付することは要しないものであったが(平成15年国土交通省令第16号による改正前の施行規則1条の3第14項,施行細則2条2項),本件建築確認申請書には,上記のとおり電算出力部分(以下「本件電算出力部分」という。)も添付されていた。なお,本件電算出力部分は,大臣認定プログラムの一つであるユニオンシステム株式会社製の「SuperBuild/SS1-改訂版」(以下「本件プログラム」という。)を使用して出力されたものであったが(甲1の5の2,6頁以下),被告県は,本件各検証当時,本件プログラムその他の大臣認定プログラムを有していなかったため,建築構造関係の専門家団体である社団法人日本建築構造技術者協会中部支部の協力を得て上記各検証を行った。 ア検証①検証①では,本件プログラムの後継バージョンである「SuperBuild/SS2」に,B建築士が入力した入力条件(本件電算出力部分の1頁から16頁までの入力データLIST等に記載されている数値など)をそのまま入力したところ,本件構造計算書に表示されているものと異なる計算結果となった。すなわち,本件構造計算書の計算結果は,ワーニングメッセージが1個表出されているものの,エラーメッセージは表出されていなかったが(甲1の5の6の2,65頁,66頁),検証①による計算の結果,「設計応力が許容耐力を超えているRC部材(柱)がある。」など5個のエラーメッセージが表出された(乙26)。 後記のとおり,法令上,鉄筋コンクリート造の建築物の構造計算に関して複数の選択的計算手法(設計ルート)が設けられているところ,本件構造計算が採用している設計ルートは別紙1「鉄筋コンクリート造建築物の構造計算フロー」のルート2 ンクリート造の建築物の構造計算に関して複数の選択的計算手法(設計ルート)が設けられているところ,本件構造計算が採用している設計ルートは別紙1「鉄筋コンクリート造建築物の構造計算フロー」のルート2-3(以下「本件設計ルート」という。)であり,本件設計ルートにおいては,柱等のせん断耐力が不足しないことを計算により確認しなければならないが,上記エラーメッセージはRC部材(柱)のせん断耐力が不足していることを意味し,これはまさに本件構造計算書において耐震強度が偽装されていることを表わすものである。 イ検証②検証②は,検証①の結果,本件構造計算においては本件設計ルートを採用できないことが明らかとなったため,本来採用すべき設計ルートである別紙1のルート3を採用し,設計者と同様の立場で,入力条件を設定し,工学的判断を行い,技術的慣行を選択するなどし,改めて構造計算を行ったものである。 その結果,本件構造設計は,上記条件設定・判断・選択がいかなる場合であっても,建築基準法施行令(平成14年政令第191号による改正前のもの。以下同様。なお,括弧内で同施行令の条文を引用する場合には単に「施行令」という。)81条1項1号の許容応力度等計算に関して法令(施行令82条及び下部法令)で定める数値に達しないものであり,建築物の材料強度によって算出される各階の有している水平耐力(保有水平耐力,以下「Qu」ともいう。)が同施行令82条の4により必要とされる水平耐力(必要保有水平耐力,以下「Qun」ともいう。)に足りず,結局のところ,本件建築物が構造耐力の点で建築基準法20条の規制に反するものであることが判明した。 なお,建築基準法施行令82条の4は,保有水平耐力を必要保有水平耐力で除した数値(Qu/Qun)が1以上であることを要求しており,この数値が一般的に「 0条の規制に反するものであることが判明した。 なお,建築基準法施行令82条の4は,保有水平耐力を必要保有水平耐力で除した数値(Qu/Qun)が1以上であることを要求しており,この数値が一般的に「耐震強度」と呼称されている。 (5) 被告県による検証結果の公表ア被告県は,平成17年12月4日,被告県の建築主事が建築確認を行った本件建築物を含む3棟のホテルにつき,「これらの構造計算書を検証した結果,いずれも大臣認定プログラムが不正に使用され,計算途中で入力データがすり替えられており,結果として構造計算書の一部が偽造されたとしか考えられない計算結果になっていることを確認した。」,「この結果,これらのホテルについては,いずれも必要な建物の耐力が確保されていないことが明らかとなった。」とし(甲9の2),とりわけ本件建築物ほか1棟について,「これら二つの建物は,直接保有水平耐力を求める手法ではなく,告示に定められた,部材のねばり強さに期待する靱性指向型の計算手法を採用している。しかし,この計算手法を採用できるかどうかを判定する過程において入力データが改ざんされており,この手法が採用できないことが判明した。このため,この建物に本来採用すべき計算手法である保有水平耐力の計算を行った結果,必要な耐力がないことが確認された。」(甲9の3)などと公表した。 イ被告県は,平成17年12月8日,先に構造計算書の偽装の疑いがあると公表していた,B建築士が構造設計に関与した本件建築物を含む4棟の建築物について耐震強度(Qu/Qun)の調査結果を公表し,本件建築物については,「桁行方向0.64(2F壁)」,「梁間方向1.14(1F柱)(0.42(6F梁))」とし,梁間方向の括弧内の数値について「耐震壁の構造的な評価の考え方の違いによるもの」と注記した文書( ついては,「桁行方向0.64(2F壁)」,「梁間方向1.14(1F柱)(0.42(6F梁))」とし,梁間方向の括弧内の数値について「耐震壁の構造的な評価の考え方の違いによるもの」と注記した文書(甲10)を配布した。なお,桁行方向とは,建築物のうち柱と柱の間の数(スパン)が多い方の辺方向を,梁間方向とは,スパンが少ない方の辺方向のことをいい,梁間方向の「1.14」は,本件建築物の2階から10階までの耐震壁(以下,併せて「本件耐震壁」という。)を1枚と評価した場合に最小値となる1階柱の数値であり,「0.42」は,本件耐震壁を2枚と評価した場合に最小値となる6階梁の数値である。 その後,被告県は,原告(F)にあてて,上記公表結果に沿って本件建築物につき,「構造計算書の偽装の疑いのあった下記の建築物の耐震強度について,県として再計算を行い,平成17年12月8日に公表しました。 その結果,下記の建築物は建築基準法の構造規定で必要とされている耐震強度(Qu/Qun=1.0)を満たしていないため,安全性が確保されていないと考えられ,すでに自主的に営業中止されているところですが,今後,改修工事等により,耐震強度が確保できるまで,引き続き使用されないよう要請します。」とする同月14日付け文書(甲11)を知多建設事務所長名で発出している。 (6) 本件建築物の改修に関する被告県の意見ア被告県は,前記(5)の検証結果公表に先立ち,その内容をファクシミリで原告に伝えていたが(甲9の1),平成17年12月9日に知多事務所建築住宅課のGが,同月28日に被告県建設部建築担当局建築指導課のH及びIが,それぞれFのもとを訪れて,前記(4)の被告県の検証結果を説明した。 イHは,平成18年1月6日,Fのもとへ「構造計算書偽装にかかるホテルの改修にあたっての建築基準 担当局建築指導課のH及びIが,それぞれFのもとを訪れて,前記(4)の被告県の検証結果を説明した。 イHは,平成18年1月6日,Fのもとへ「構造計算書偽装にかかるホテルの改修にあたっての建築基準法の取り扱いについて(案)」と題する平成17年12月21日付け書面(以下「本件改修取扱案」という。甲55)を持参して,内容を説明した上で,平成18年2月1日,本件改修取扱案につき主要な修正箇所が2か所あり,上記題名から「(案)」が除かれた同年1月30日付け文書(以下「本件改修取扱文書」という。甲56の2)をファクシミリで原告に送信した(甲56の1)。 (7) 本件建築物の取壊し等ア原告は,平成17年12月2日から本件ホテルの営業を自主休業していたが,遅くとも同月31日には,本件建築物を取り壊すことを決断して(原告代表者18頁),その旨公表し,平成18年1月31日をもって全従業員をいったん解雇して(甲57,21頁),同年2月21日,本件建築物の解体工事に着手した。 イ本件建築物の取壊し後,原告は,同じ敷地内に客室150室のビジネスホテル向け建築物を新築し,平成19年4月16日に本件ホテルの営業を再開した。 ウ原告は,本件建築物の取壊し等に当たり,約束手形を振り出して知多信用金庫及び半田信用金庫から金員を借り入れ(甲97の2~5,甲98の2~5),平成19年5月24日付けで,それらの債務につき上記各信用金庫に対してそれぞれ借入金額3億5000万円の各金銭消費貸借契約書(甲97の1,甲98の1)を差し入れている。 (8) 沢田工務店の弁償及び平成設計の破産手続による配当ア本件ホテルの休業により原告の運転資金が不足する中で,地元金融機関によるあっせんの結果,平成18年3月31日,沢田工務店が,原告に対し,本件建築物の解体及びホテル再築を沢田 の破産手続による配当ア本件ホテルの休業により原告の運転資金が不足する中で,地元金融機関によるあっせんの結果,平成18年3月31日,沢田工務店が,原告に対し,本件建築物の解体及びホテル再築を沢田工務店に発注することを条件として,損害賠償金として2億円を支払った(甲94の1)。 原告は,自社の会計において,上記金員をいったん仮受金として計上したが(甲94の2,3),平成19年4月期の決算期を迎えるに当たって,沢田工務店が同金員を既に損金として取り扱っていることを聞き,平成19年6月5日,同年4月30日付けで損害賠償金に振り替える会計処理を行った(甲94の4~6,原告代表者46頁)。 イ平成設計は平成17年に破産手続開始決定を受け,その破産手続(東京地方裁判所平成17年(フ)第23996号)が進行する中で,原告が同社に対する損害賠償請求権を破産債権として届け出ていたところ,平成19年7月3日ころ,破産管財人より配当額が確定した旨の通知書(甲95)が原告に送付され,同月20日,原告に対して最後配当金141万2820円が支払われた。 本件構造設計の問題点(1) 本件構造設計の概要(後掲証拠のほか,乙21)ア一般的な構造設計の手順構造設計は,一般に,構造計画(建築しようとしている建築物の規模やプランなどに応じて,構造種別,使用材料,工法などを決定すること)を出発点として,①荷重・外力計算(施行令82条1号),②応力計算(同条2号),③部材断面計算などの構造計算を経て設計図書の作成という流れによって行われる。なお,本件建築確認当時の建築基準法及びその下部法令(以下,併せて「建築基準関係法令」という。)は,上記①及び③について後記のとおり規定しているが,上記②については規定が乏しいため,設計者は,日本建築学会の各規準書などを参考として 及びその下部法令(以下,併せて「建築基準関係法令」という。)は,上記①及び③について後記のとおり規定しているが,上記②については規定が乏しいため,設計者は,日本建築学会の各規準書などを参考として構造計算を行うものとされており,構造計算の出発点である応力計算を行うための建築物のモデル化(建築物の形状を線状に置き換えること)の作業についても,その具体的方法は建築基準関係法令には何も明示されていない。 イ本件構造計算建築基準関係法令は,建築物の構造や規模により構造計算の要否及び内容について異なる規制をしており,また,一定の要件を定めて,異なる構造計算の手法を定め,設計者が選択し得るものとしている。 本件建築物は,鉄筋コンクリート造,高さ28.70mの建築物であり,法令上,いわゆる許容応力度等計算(施行令82条,同条の2~4)による構造計算が必要とされているところ,本件構造計算が複数の設計ルートのうち本件設計ルート(別紙1のルート2-3)を採っていることは前記のとおりである。 本件設計ルートは,柱より梁の降伏を先行させ,層崩壊を防止し,柱及び梁等に十分な変形能力を持たせることによって,建築物の耐震安全性を確保することを特徴とし(甲18,180頁),部材の粘り強さに期待するじん性指向型の計算手法である(甲15)。 そして,本件設計ルートの構造計算の手順は,一次設計と二次設計に分けられ,一次設計は,中地震程度に対して部材の応力度を許容応力度以内に設計するものであり,二次設計は,一定の建築物についての付加的な規制として,まれにみる大地震の場合に,部材が降伏しても建築物全体としては倒壊しないように必要な強度と粘りをもたせて設計するものであるが,それぞれの具体的な内容は以下のとおりである。 (ア) 一次設計(施行令82,83~88条)建築物に作用 降伏しても建築物全体としては倒壊しないように必要な強度と粘りをもたせて設計するものであるが,それぞれの具体的な内容は以下のとおりである。 (ア) 一次設計(施行令82,83~88条)建築物に作用する荷重(固定荷重,積載荷重,積雪荷重)及び外力(風圧力,地震力)によって,建築物の構造耐力上主要な部分に生じる力を計算し(荷重・外力計算),同部分の断面に生じる長期及び短期の応力度(荷重及び外力が作用する物体(柱,梁など)内部に生じる力の総称)を計算する(応力計算)。なお,長期に生じる力は,固定加重及び積載荷重によって生じる力であり,短期に生じる力は,長期に生じる力に,積雪加重,風圧力及び地震力によって生じる力を加算して計算される。 次に,応力計算によって求めた応力度のうち,各部材の断面の種類ごとに最も不利な応力度がすべて許容応力度(構造物の加重及び外力に対する安全性を確保するために定められた,各部材の許容できる応力度の限界値)以下となるように,各部材の断面の大きさや鉄筋量等が決定される(部材断面計算)。 なお,応力度が許容応力度以下になるように,部材を構成する材料,部材の断面の大きさ,鉄筋量等を組み合わせる作業を行うことまでを許容応力度設計という。 (イ) 二次設計一次設計が完了すると,本件建築物のような特定建築物(施行令82条の2,建設省告示第1790号)に関しては,二次設計を行うこととなるが,本件設計ルートにおける二次設計の内容は以下のとおりである。 まず,層間変形角(施行令82条の2,建築物の揺れの具合を検討する目安となる数値)が200分の1以下であることを確認する。 次に,剛性率(施行令82条の3第1号,建築物を立面的に見たときの層ごとの変形の具合を検討する目安となる数値)が10分の6以上であること,及び偏心率(同条2号,建築物 の1以下であることを確認する。 次に,剛性率(施行令82条の3第1号,建築物を立面的に見たときの層ごとの変形の具合を検討する目安となる数値)が10分の6以上であること,及び偏心率(同条2号,建築物を平面的に見たときの変形の具合を検討する目安となる数値)が100分の15以下であることをそれぞれ確認する。 その上で,建築物の全体崩壊メカニズムを確保するために,柱の曲げ耐力が梁の曲げ耐力に対して十分な余裕を持つように曲げ設計し,また,部材の変形能力を確保するために,部材の終局時に生じるせん断力に対して十分な余裕を持つように設計をする必要があり(建設省告示第1791号第3の三,甲18,180頁),その設計を行うことにより本件設計ルートによる構造計算は終了する。 ウ本件構造計算書(甲1の5)によれば,本件構造設計は一応,前記イの構造設計手順に従って行われたものと見受けられる。 エなお,被告県の検証により本来採るべきとされた設計ルート(ルート3)においても,構造計算の手順は一次設計と二次設計に分けられ,一次設計の計算及び二次設計の層間変形角の計算(前記イ)を行うことは本件設計ルートと同じである。ルート3と本件設計ルートとの差異は,ルート3が,本件設計ルートに比べて「より詳細な検討を行う設計法」であって,本件設計ルートの二次設計(前記イ(イ))のうち,剛性率及び偏心率の計算に代えて,建築物の保有水平耐力が必要保有水平耐力以上であることを計算により確認することにある(施行令82条の3柱書ただし書,82条の4)。 (2) 本件構造設計の法令等適合性ア建築基準関係規定(法6条1項柱書)本件建築物は,「木造以外の建築物で二以上の階数を有し,又は延べ面積が二百平方メートルを超える」(法6条1項3号)建築物であり,その構造耐力として,自重,積載荷重, 築基準関係規定(法6条1項柱書)本件建築物は,「木造以外の建築物で二以上の階数を有し,又は延べ面積が二百平方メートルを超える」(法6条1項3号)建築物であり,その構造耐力として,自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の振動及び衝撃に対して安全な構造(法20条柱書)のものとして,建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するとともに(同条1号),政令で定める基準に従った構造計算によって確かめられる安全性を有すること(同条2号)が必要とされる。 そして,本件建築物の建築に当たっては,建築基準法20条の委任を受けた政令である,建築基準法施行令第3章(構造強度)の第1節(総則),第6節(鉄筋コンクリート造)及び第8節(構造計算)の各規定が適用される。 建築基準法施行令(昭和55年建設省告示第1791号制定当時のもの)82条の3第3号に基づく構造計算の基準として,「特定建築物の地震に対する安全上必要な構造計算の基準を定める件」と題する建設省告示(昭和55年建設省告示第1791号)が定められている(甲15,平成13年8月21日国土交通省告示第1370号最終改正)。 イ関係資料建築物の構造耐力に関して,前記アの建築基準関係法令の内容を補完し,建築士による構造設計及び建築主事による建築確認審査などに役立てるという目的の下に,以下のとおり各種の文献が刊行されている。 (ア) 「建築物の構造規定」建設省住宅局建築指導課及び日本建築主事会議が監修,建設省建築研究所が協力し,財団法人日本建築センターが編集・発行した「建築物の構造規定-建築基準法施行令第3章の解説と運用-1997年版」と題する図書(以下「建築物の構造規定」という。)の抜粋が本件証拠(甲18,65,乙10)として提出されている。 「建築物の構造規定」 の構造規定-建築基準法施行令第3章の解説と運用-1997年版」と題する図書(以下「建築物の構造規定」という。)の抜粋が本件証拠(甲18,65,乙10)として提出されている。 「建築物の構造規定」の取扱いに関して,愛知県特定行政庁連絡会会長と愛知県建築部建築指導課長が連名で,「建築確認審査において,平成11年1月1日より運用を開始します。」とし,主な改正点を列挙し,「問い合わせは,県事務所又は各特定行政庁へお願いします。」とする文書(以下「本件運用開始文書」という。甲64)を作成し,これは一時期,被告県の事務所(出先機関)及び各特定行政庁の窓口に備え置かれていた。 なお,愛知県特定行政庁連絡会とは,その規約(乙14)によれば,「建築基準法,同施行令およびこれらに関する法令の事務を執行する愛知県内の特定行政庁が,相互に連絡をとることにより,建築行政の円滑な運営を図るため」に設置され(1条),愛知県内における特定行政庁(県事務所を含む。)で構成され(2条),事務局を愛知県建築部建築指導課に置き(3条),同課の課長が会長を務めている(4条1項(1),2項)組織である。 (イ) 「Q&A集」建設省住宅局建築指導課が監修し,社団法人日本建築士事務所協会連合会が編集・発行した「耐震設計法Q&A集」と題する図書(以下「Q&A集」という。)の抜粋が本件証拠(甲19)として提出されている。 (ウ) 「チェックリスト」,「設計指針」愛知県建築部建築指導課が監修し,社団法人愛知県建築士事務所協会が発行した「構造計算チェックリスト」「愛知県高層建築物設計指針」「同解説」「平成5年(1993)版」と題する図書(以下,引用する部分に応じて「チェックリスト」,「設計指針」などという。)の抜粋が本件証拠(甲17の1・2。なお,甲17の2は平成6年7月6日の改正 同解説」「平成5年(1993)版」と題する図書(以下,引用する部分に応じて「チェックリスト」,「設計指針」などという。)の抜粋が本件証拠(甲17の1・2。なお,甲17の2は平成6年7月6日の改正箇所を記載したもの。)として提出されている。 (エ) 「審査要領」建設省住宅局建築指導課が監修し,日本建築主事会議構造研究部会が編集した「建築構造審査要領〈付〉中間検査実施マニュアル」と題する図書(以下「審査要領」という。)が平成11年11月30日に株式会社ぎょうせいより発行され,財団法人日本建築センターにより頒布されており,その抜粋が本件証拠(甲49)として提出されている。 「審査要領」の発行当時の建設省住宅局建築指導課長は,その「監修のことば」において,平成10年6月の建築基準法改正の趣旨は,建築物の安全性に関する社会的信頼の回復にあり,改正法を的確に執行し,建築物の安全性を確保するためには,建築主事等の果たすべき役割はますます重要になるところ,審査要領は全国の建築主事等が建築確認等を行うに当たり,構造耐力上の安全性を審査する際の参照すべき標準的な取扱いを示したものである旨述べる。 また,「審査要領」は,建築主事等の建築確認審査における建築基準法等の適用に関し,適切かつ統一的な運用のための標準的な取扱事項をまとめるとともに,法令に具体的記述がない部分に関する運用のための必要な解釈と考え方を示し,実務で利用する上で信頼できる技術的規準等を挙げたものとの留意点が示されている(甲49,3頁)。 (オ) 「構造計算規準」社団法人日本建築学会が編集し,発行している「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説-許容応力度設計法-」という図書(以下「構造計算基準」という。)の抜粋が本件証拠(甲75)として提出されている。 (カ) 「例規集」愛知県特定行政庁 している「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説-許容応力度設計法-」という図書(以下「構造計算基準」という。)の抜粋が本件証拠(甲75)として提出されている。 (カ) 「例規集」愛知県特定行政庁連絡会が監修し,社団法人愛知県建築士事務所協会が発行した「愛知県建築基準法関係例規集(平成10年版)」(以下「例規集」という。)の抜粋が本件証拠(甲16)として提出されており,当時の愛知県建築部建築指導課長で愛知県特定行政庁連絡会会長を務めるJが,監修に当たっての巻頭言の中で,今回の例規集の改正では,日本建築主事会議でとりまとめた建築基準法の運用指針や,実務上,特に重要とされる建設省通達等を数多く取り上げたこと,建築基準法改正による性能規定化等により,建築行政に携わる建築技術者はより多くの判断が求められることとなるため,責務も重大であり,例規集が判断指標として活用されることを希望する旨述べており,本文で「建築物の構造規定」及び「Q&A集」が引用されている。 ウ適合性(ア) 本件耐震壁のモデル化及び境界梁の設計本件建築物の構造設計上の特徴として,2階から10階までのいずれの階も梁間方向に耐震壁(本件耐震壁)が存在するが,それら耐震壁はいずれも,開口部として,本件建築物内部(内壁)に廊下,同外部(外壁)に非常口がそれぞれ存在する(甲1の4の伏図及び軸組図,甲1の5の3,20頁など)。 本件構造設計は,本件構造計算に際して,本件耐震壁を上記開口部の存在にもかかわらず1枚の壁としてモデル化しており,また,耐震壁に接続する梁(境界梁)を配置しない設計としている。 他方,「構造計算規準」(甲75)では,開口部のある耐震壁について,開口比率が0.4以下であれば,耐震壁としてみなすことができる旨とその部分の壁の持つ耐力低下の計算式を採用しておればよい旨 ている。 他方,「構造計算規準」(甲75)では,開口部のある耐震壁について,開口比率が0.4以下であれば,耐震壁としてみなすことができる旨とその部分の壁の持つ耐力低下の計算式を採用しておればよい旨記載されているところ,本件耐震壁も開口比率が0.4以下であるため,本件構造設計も上記記載には反しない。 (イ) 1階の型式に関する耐震設計上の留意「建築物の構造規定」(甲65)では,「共同住宅の用途に供する建築物の張り間方向のように連層耐力壁が主たる構造において,特定階を駐車場,店舗等の広い空間が要求される用途に併用するため,耐力壁のすべてもしくは一部が当該階でなくなり,その階の水平剛性,水平耐力が急減する可能性が高い階を有する建築物」をピロティ型建築物,「当該階において,耐力壁,そで壁,腰壁,たれ壁,方立て壁等の量が上階と比較して急激に少なくなっている階」をピロティ階と呼んで,「ピロティ形式の建築物に対する耐震設計上の留意点」(付録1-11)を記載している。すなわち,「ピロティ階を有する建築物は層崩壊を防止する条件でその設計を許容する。」とし,層崩壊防止の具体的方法として,「建築物の特定部分に過度の変形が生じないよう耐力壁等を適切に配置すること。また,変形が集中しやすい階を有する場合には,荷重増分解析等の方法により,建築物の塑性化後の挙動を確認するとともに,当該階の構造部材に十分な強度及び靱性を確保すること」とされ,また「ピロティ階を有する建築物の場合は,原則としてピロティ階の層崩壊に結びつく・・・架構形式を避ける」として,避けるべき架構形式が図示され,「ピロティ階を有する建築物の場合は,原則として・・・ピロティ階で層崩壊しないような架構形式を用いるとして」として,推奨する架構形式が図示されている。 本件運用開始文書(甲64)には,「 図示され,「ピロティ階を有する建築物の場合は,原則として・・・ピロティ階で層崩壊しないような架構形式を用いるとして」として,推奨する架構形式が図示されている。 本件運用開始文書(甲64)には,「ピロティ型式の建築物に対する耐震設計上の留意点の取扱い(RC,SRC)」として,「層崩壊型式に結びつく架構型式は原則として認められないことになります。」と記載されている。 「設計指針」においても,「ピロティなど壁の全くない階は鉄筋コンクリート造とすることはできない」とされている(甲17の1,124頁)。 本件建築物は,上記のピロティ型建築物に該当し,1階がピロティ階となっている(甲1の5の1,7頁)。 (ウ) 一次設計での層せん断力係数の割増し「設計指針」は,「次の1から3に掲げるいずれかの条件に適合する建築物は,全層にわたり鉄筋コンクリート造とすることができる」とし,「2高さが25mを超え31m以下の建築物(Ⅰ)」の満たすべき一条件として,「一次設計で層せん断力係数(Ci)を1.25倍以上とすること。ただし,引抜き耐力の検討の場合はこの限りでない。」等の要件を満たすべきものと定めている(甲17の1,120頁)。 本件構造計算においては,上記条件以外に,全層を鉄筋コンクリート造とするために「設計指針」が定めた条件を満たしたものはないところ,構造計算概要書によれば,水平力の構造諸元欄のうち,地震力の標準せん断力係数について,「Co=0.2×1.25倍」と,1.25倍に割増しする旨表示されているが,地震層せん断力係数(一次設計用)(Cil)については,1階の数値が「0.200」のままとなっており(上記標準せん断力係数に従えば,0.200×1.25倍=0.250となる。),上記割増し方法によっては,上記「設計指針」で定められた一次設計での層せ ,1階の数値が「0.200」のままとなっており(上記標準せん断力係数に従えば,0.200×1.25倍=0.250となる。),上記割増し方法によっては,上記「設計指針」で定められた一次設計での層せん断力についての割増しがなされていないこととなる(甲1の5の1,5頁)。 すなわち,地震層せん断力係数は,Z(地震地域係数)×Rt(振動特性係数)×Ai(i階の地震層せん断力係数の分布係数)×Co(標準せん断力係数)によって求められる数値であり(施行令88条),本件構造計算における1階の層せん断力係数(Ci)は「0.200」であるところ,その算定の基礎となる数値である地震地域係数,振動特性係数及び1階の地震層せん断力係数の分布係数は「1.00」であるから,本件構造計算においては,標準層せん断力係数を「0.200」として計算されていることとなる(甲1の5の1,5頁)。そうすると,本件構造計算書で標準層せん断力係数を「0.2×1.25倍」と表示しているものの,かかる標準層せん断力係数の割増しは,具体的に層せん断力係数を算定する過程において反映されていない。 また,本件構造計算においては,設計用応力の割増しとして,地震荷重による応力をX方向及びY方向のいずれも1.25倍としており(甲1の5の6の1,15頁),また,1階の柱と梁については,本件プログラムによる一貫計算の中で部材断面計算がなされているため,別紙7(緑色マーカー部分)のとおり一次設計の層せん断力の1.25倍の割増しがなされている(甲1の5の6の2,61頁)ものの,設計用応力の割増し前の応力計算により求められた数値を基として,手計算でされた1階の柱と梁以外の部材の断面計算,とりわけ,耐震壁の設計(甲1の5の3,20頁)及び杭基礎の設計(甲1の5の5,31頁)においては,地震荷重による割 により求められた数値を基として,手計算でされた1階の柱と梁以外の部材の断面計算,とりわけ,耐震壁の設計(甲1の5の3,20頁)及び杭基礎の設計(甲1の5の5,31頁)においては,地震荷重による割増しという方法によっては一次設計の層せん断力係数を1.25倍以上とするという割増し処理がなされていないこととなる(甲74,6頁,7頁,K29頁)。 (エ) 耐震壁の設計用せん断力(水平力)の割増し建設省告示第1791号(甲15)第3の三は,「構造耐力上主要な部分である鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のはり・・・の材端に生ずる曲げモーメントが,当該部分に生じ得るものとして計算した最大の曲げモーメントと等しくなる場合において,構造耐力上主要な部分である鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の柱及び壁の材端・・・に生ずる曲げモーメントが当該部分に生じ得るものとして計算した最大の曲げモーメントを超えず,かつ,当該はり,柱及び壁にせん断破壊が生じないことを確かめること」とし,これを受けた通達(昭56住指発第96号)では,「各部材は,必要に応じて十分な靱性を有するように留意すること。」としており(甲18,177頁以下),「耐力壁のせん断設計用せん断力は十分大きくするとともに,ある程度のせん断補強筋を確保するなどに留意する必要がある。」と記述している(同181頁)。 その具体化として,「Q&A集」では,本件設計ルートを含むルート2の設計においては設計用せん断力に割増係数2.0以上を乗じることとされている(甲19,139頁)。 他方,「建築物の構造規定」の「付録1-7鉄筋コンクリート造に関する技術慣行」(乙10の4)では,耐震壁のせん断設計について,耐震壁のせん断強度を全体崩壊メカニズム時の耐震壁のせん断力に割増し係数1.5以上の値を乗 造規定」の「付録1-7鉄筋コンクリート造に関する技術慣行」(乙10の4)では,耐震壁のせん断設計について,耐震壁のせん断強度を全体崩壊メカニズム時の耐震壁のせん断力に割増し係数1.5以上の値を乗じて得られた値とする手法が紹介されている。 本件構造計算では,別紙2(緑色マーカー部分)のとおり本件耐震壁の設計用せん断力に割増係数1.5を乗じている(甲1の5の3,20頁,K15頁,16頁,L47頁)(オ) 枠柱のHOOP筋本件構造設計における枠柱(耐震壁に接合する柱)のHOOP筋の規格は,構造図では,別紙3(ピンクマーカー部分)のとおり「D10」(甲1の4,S-14(柱リスト))であるのに対し,本件構造計算書では,別紙2(ピンクマーカー部分)のとおり「D13」(甲1の5の3,20頁)となっている。すなわち,本件構造計算においては,枠柱について実際に用いる部材(D10)よりも強度の高い部材(D13)であるとして強度の計算がなされていることとなる。 「チェックリスト」には,「図面チェック上の留意事項」として,図面種類「概要書」につき「各図面の内容が計算書と矛盾ないか。」と記載されている(甲17の1,85頁)。 (カ) 枠柱の鉄筋の本数構造耐力上主要な部分である柱の構造については,建築基準法施行令77条で細部にわたって規制されており,主筋の断面積の和を0.8%以上としなければならないこと(同条5号)もその一つである。 「チェックリスト」では,「図面チェック上の留意事項」の一つとして,図面の種類「柱リスト」については,「主筋のコンクリート全断面積に対する割合は0.8%以上」との記載がある(甲17の1,85頁)。 本件建築確認申請書の添付図書(甲1の4,S-14)である別紙3「柱リスト」(青マーカー部分)によれば,本件耐震壁の枠柱の規格は各辺が る割合は0.8%以上」との記載がある(甲17の1,85頁)。 本件建築確認申請書の添付図書(甲1の4,S-14)である別紙3「柱リスト」(青マーカー部分)によれば,本件耐震壁の枠柱の規格は各辺が450㎜と650㎜の長方形であり,その断面積は2925c㎡(450㎜×650㎜)であるから,上記法令に適合させるためには主筋の断面積の和を23.4c㎡(2925c㎡×0.8%)としなければならないところ,本件構造設計で採用されている主筋の規格は「D19」で,その断面積は別紙4「鉄筋断面積表」(青マーカー部分)のとおり2.865c㎡であるから,主筋の本数は9本以上とする必要がある。 しかしながら,本件耐震壁の枠柱の主筋は,別紙3「柱リスト」(青マーカー部分)のとおり8本であるため,主筋の規格が上記のとおりであることを前提とすると,少なくとも1本不足していることとなる。 (キ) 耐震壁の応力計算において採用する応力許容応力度計算においては,応力計算によって求められた応力のうち,各断面の種類ごとに最も不利な応力(最大応力)を代表させて断面を検討し,これらの応力がすべて許容応力度以下となるように断面の大きさや鉄筋量等を決めなければならない(甲60,6頁,甲74,8頁)。 しかしながら,本件耐震壁のうち「EW18」については,2階の断面について計算された最大応力は別紙5(青マーカー部分)のとおり「96.40」であるが(甲1の5の6の2,28頁,41頁),本件構造計算において実際に採用された数値は,別紙2(青マーカー部分)のとおりせん断応力の最大値から2番目となる「79.09」であった(甲1の5の3,20頁,甲1の5の6の2,30頁,41頁,甲74,8頁)。 また,本件耐震壁のうち「EW18A」については,最大応力が別紙6(黄色マーカー部分)のとおり「 る「79.09」であった(甲1の5の3,20頁,甲1の5の6の2,30頁,41頁,甲74,8頁)。 また,本件耐震壁のうち「EW18A」については,最大応力が別紙6(黄色マーカー部分)のとおり「128.14」であるが(甲1の5の6の2,31頁,45頁),本件構造計算において実際に採用された数値は,別紙2(黄色マーカー部分)のとおり「110.79」であった(甲1の5の3,20頁,甲1の5の6の2,35頁,45頁,甲74,8頁)。 (ク) 耐震壁の周囲の枠フレームの設計「設計指針」には,ラーメン架構の分担率に関連して,「耐震壁の周囲の柱及び梁等のいわゆる枠フレームの設計にあたっては,長期軸力の5%程度を柱の設計用剪断力とする。」と記載されている(甲17の1,119頁)。 しかし,本件構造設計では,本件耐震壁に枠フレームの設計がされていない(甲59,7頁)。 (ケ) 1階の柱のせん断耐力建設省告示第1791号(甲15)第3の三は,構造耐力上主要な部分である柱のせん断耐力について前記(エ)のとおり定めている。 本件構造計算書の電算出力部分によると,1階の一部の柱(1C1)について,設計上要求されるせん断力の数値(設計用せん断力,以下「QD」ともいう。)が別紙7(緑マーカー部分)のとおり「161. 2」,「151.6」とされているが(甲1の5の6の2,61頁),本件プログラムにより正しく計算すれば,別紙8「正RC柱断面算定」(緑マーカー部分)のとおり「334.4」,「313.6」とされなければならない。 以上のとおり,1階の上記柱は法令上求められているせん断耐力が不足していることとなる。これは,被告県の本件各検証において発見された問題点である。 (コ) 2階の接合部のせん断耐力構造計算のうち部材断面計算において,終局状態の許容せん断力を問 るせん断耐力が不足していることとなる。これは,被告県の本件各検証において発見された問題点である。 (コ) 2階の接合部のせん断耐力構造計算のうち部材断面計算において,終局状態の許容せん断力を問題とする項目である「Vju/Qdn」の数値は1.0以上でなければならない。 本件構造計算書の電算出力部分によると,2階部分の柱と梁の接合部について,「Vju/Qdn」の数値は別紙9(緑マーカー部分)のとおりいずれも1.0以上とされているが(甲1の5の6の2,63頁),本件プログラムにより正しく計算すると,別紙10「正RC接合部断面算定」(緑マーカー部分)のとおり2か所で1.0を下回っている。 以上のとおり,2階の接合部の一部について,法令上求められているせん断耐力が不足していることとなる。これは,被告県の本件各検証において発見された問題点である。 争点 (1) 建築確認審査における建築主事の建築主に対する注意義務(原告の主張)ア建築主事の過失により,本来されてはならない建築確認がされ,安全性が確保されていない建築物が建築された場合,その建築物の建築主が被る損害は,直接的かつ重大である。適切に建築確認審査がされていれば,こうした建築主の損害を防止できたという関係にあることからすれば,建築主事は,適正に建築確認審査を行い,建築主に不測の損害を被らせないようにする注意義務を負うというべきである。 イ被告県は,建築基準法上,建築主の財産上の利益は保護の対象とされていないとし,建築確認審査を法に基づき適正に行うことは,その建築確認申請をした建築主に対する法的義務ではないとする。 しかしながら,建築基準法1条の文言,構造強度に関する規定を含む単体規定の存在,大地震を経験するたび人命,財産保護が意識されて耐震性について法改正が行われてきた経緯等に照 る法的義務ではないとする。 しかしながら,建築基準法1条の文言,構造強度に関する規定を含む単体規定の存在,大地震を経験するたび人命,財産保護が意識されて耐震性について法改正が行われてきた経緯等に照らすと,建築主には安全性が確保された建築物が提供されるべきであり,建築基準法上,個々の建築主の財産的利益も保護されるというべきである。 また,国家賠償法の解釈上,法律の目的を抽象的に論じ,演えき的に結論を導くべきではなく,その根拠となる法令に違反してされた当該処分又は裁決により害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案して,同法1条1項の適用の可否を判断すべきである。そして,上記アのとおり,建築主事の適切な建築確認審査により,建築主の直接的かつ重大な損害を防止できたのであるから,建築主は同法1条1項により保護されるべきである。 ウなお,被告県は,本件建築確認申請をした原告が本件建築確認をした本件建築主事の責任を追及する原告の本件請求は信義則に反すると主張するが,建築士制度と建築確認制度が協働して,建築基準関係規定に適合し,安全性が確保された建築物を建築主に提供することが建築行政における法の構造及び目的であるから,原告の本件請求は信義則に反しない。 (被告県の主張)ア公務員の公権力の行使が国家賠償法1条1項にいう違法と評価されるためには,当該公務員が国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して,当該国民に損害を与えたと認められることが必要であるが(最高裁判所昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁),建築基準法上,建築主の財産権は建築確認制度による法的保護の対象に含まれないから,建築主事が建築主個人に対して直接何らかの義務を負うことはなく,国家賠償法上,建築 判決・民集39巻7号1512頁),建築基準法上,建築主の財産権は建築確認制度による法的保護の対象に含まれないから,建築主事が建築主個人に対して直接何らかの義務を負うことはなく,国家賠償法上,建築主事の建築確認行為が違法と評価される余地はない。 建築基準法の目的は,建築物の規制を通じて国民全体の利益を保護すること,すなわち,公共の福祉の増進にあり,国民個人の利益の保護を直接目的としたものではないことから,国民個人,ひいては建築主個人に対して,建築主事が職務上の法的義務を負担することはない。 仮に,建築基準法の目的が,国民個人の利益を保護することにあるとしても,保護されるべき個人は,公権力が当該建築物の出現を阻止するという後見的役割を果たさなければ,その生命,健康及び財産が十分に保護されないようになる者,換言すれば,公益を侵害するおそれがあるような有害建築物の出現を阻止する手段を有しない者に限られ,建築主の個別的利益に属する財産権は,建築確認制度による保護の対象に含まれないというべきである。 すなわち,建築主は,建築確認(法6条1項),中間検査(同条の3第2項)及び完了検査(法7条1項)の各申請をなす義務を負い,建築物の安全性を確保する第一義的な義務を課されている。他方,建築士は,こうした建築主の依頼により設計及び工事監理などを行う者であるが,建築に関する国家資格を与えられた者として,法律に従って業務を誠実に行い,建築物の質の向上に努めなければならない責務を負うと同時に,法令又は条例の定めに適合するように設計すべき責務も負うこととされている(建築士法1条,2条1項,5項,6項,18条1項~4項など)。そうすると,国が建築士制度を定め,国家資格として建築士免許を付与するのは,建築物の安全性が,第一義的に建築主及び建築士において確保される 築士法1条,2条1項,5項,6項,18条1項~4項など)。そうすると,国が建築士制度を定め,国家資格として建築士免許を付与するのは,建築物の安全性が,第一義的に建築主及び建築士において確保されることを当然の前提としており,建築主は,設計者・工事監理者の選任に当たって,建築基準関係規定に適合した設計などを行うことができる十分な資質と能力を備えた建築士を選任する責任を負うというべきである。 建築主である原告は,かかる責任を負い,かつ,本件建築確認申請をしないことにより倒壊のおそれがある危険な建築物の出現を自力で防止できたにもかかわらず,自ら危険と称する本件建築物の建築確認申請をしたのであるから,原告の財産上の利益は建築基準法による保護の対象に含まれないことが明らかである。 イ原告の請求の信義則違反本件構造設計は,平成設計との契約関係に基づいてB建築士が行ったものであるが,原告は平成設計に本件建築物の設計・監理を委託したのであるから,B建築士による耐震強度の偽装行為は,原告と一体関係にある者の行為として,法的には原告の行為と同様に評価されるべきである。そうすると,原告自らが,公益の実現を目的とする行政権の行使を妨げ,又は少なくともその負担を増加させるおそれがある行為をしたものと評価できるのであり,こうした原告の個人的利益が保護されないことは信義則(クリーン・ハンズの原則)上明らかである。 (2) 本件建築主事の注意義務違反及び過失(原告の主張)ア建築主事の審査義務の具体的内容(ア) 建築主事は,建築確認審査を行うに当たって,構造計算が,構造設計(構造計画,計算方法の選択,適切なモデル化,計算結果についての考察と検討等を行うという一連の行為)の一部分であることを認識しつつ,構造計算を道具としながら,構造計画及びモデル化などに関する 造設計(構造計画,計算方法の選択,適切なモデル化,計算結果についての考察と検討等を行うという一連の行為)の一部分であることを認識しつつ,構造計算を道具としながら,構造計画及びモデル化などに関する構造設計者の考え方を把握しなければならない。その上で,構造設計が,構造計画及びモデル化などに対応した必要な検討(計算と考察)が加えられており,構造設計全体について,法令が求める安全性が確保されているか否かを確認することとなる。 そして,建築確認審査を行う際には,建築確認申請書に添付すべきとされる図書を手掛かりにし,状況に応じて,それ以外の資料の提出を求めたり,設計者と質疑応答をしたりし,また,建築基準関係規定に具体的に記述されていない部分については,その同規定の条項の趣旨を踏まえつつ,社会的常識や信頼できる技術基準を参考にして,建築基準関係規定適合性を判断することとなるが,「設計指針」(甲17の1)などの技術基準は,建築基準関係規定を補完し,具体化するものであって,建築基準関係規定の内容をなすものであるから,それらの技術的基準適合性の審査も必要となる。 (イ) 建築確認審査を行うに当たり,構造計算書の内容に関しては,構造設計者の設計方針が貫徹されているか否かを確認するために構造設計の要所をチェックすれば足りるが,構造計算については,ワーニングメッセージの有無を確認するのみならず,その要所について問題点を発見し,必要に応じて検算しなければならないものである。 なお,被告県は,構造計算書のうち大臣認定プログラムによる計算結果の部分(本件電算出力部分)は,建築確認申請に当たって添付を要しない図書であるから審査義務はないとするが,添付されている以上,添付を要する図書と一体をなすものとして,少なくとも併せて検討する必要があるというべきである。 イ ,建築確認申請に当たって添付を要しない図書であるから審査義務はないとするが,添付されている以上,添付を要する図書と一体をなすものとして,少なくとも併せて検討する必要があるというべきである。 イ本件建築主事の注意義務違反(過失)(ア) 梁間方向の耐震壁の評価の誤り及び境界梁の設計がされていないこと本件建築物は,2階以上を耐震壁のみで耐力を持たせようという構造上の特徴を有し,本件耐震壁のあり方は本件建築物の構造強度に重大かつ直接関わる重要項目であるが,本件耐震壁につき,開口部分の左右の壁が一体として挙動し,地震力に対抗する1枚の耐震壁として評価し,モデル化することは,構造設計,構造審査の上では,非常識とされている。 そして,本件耐震壁が1枚の耐震壁と評価して構造設計がされていることは,本件確認審査に法令上添付が要求されている図書(甲1の4のうち伏図・軸組図,甲1の5の3,20頁など)からも容易に把握できるから,建築主事は,これを設計者に問い質し(L43頁),構造設計のやり直しを命じた上で,それに従わなければ建築確認をしてはならなかったものであって,それを怠って本件建築確認をした本件建築主事には重大な過失がある。 (イ) 1階部分がピロティ型式であるにもかかわらず,その階での層崩壊を防止する設計上の留意がないこと本件取扱開始文書(甲64)に記載のとおり,ピロティ型式に関して層崩壊を防止する設計上の留意がされているか否かは重要な審査項目である。 そして,本件建築物の1階がピロティ型式であることは,1階と2階以降の応力の分担率(甲1の5の1,7頁)などから容易に把握できることである上,ピロティ型式の建築物を本件設計ルートで設計することは困難であって,一般的にはルート3により対応することとなること(甲76)からすると,建築主事としては 7頁)などから容易に把握できることである上,ピロティ型式の建築物を本件設計ルートで設計することは困難であって,一般的にはルート3により対応することとなること(甲76)からすると,建築主事としては,ピロティ型式の建築物で本件設計ルートの構造計算がされている本件構造設計に関して,その安全性に疑問の目を向け,設計者に対し質疑応答を行った上で,設計者ないし申請者に対して層崩壊を防止する設計上の留意を求めるべきであったにもかかわらず,この点を見逃して本件建築確認を行った本件建築主事には重大な過失がある。 (ウ) 1階の柱と梁以外について一次設計での層せん断力係数を1.25倍していないこと標準せん断力係数を1.25倍するとされていることと,1階の地震層せん断力係数が「0.200」のままとされていることは,本件構造計算書の同じ頁(甲1の5の1,5頁)に記載されていることであるから,本件建築主事は実際の入力条件を容易に確認し,上記問題点を発見できたはずであり,これを見落としたことには重過失がある。 (エ) 耐震壁の設計用せん断力(水平力)の割増係数不足本件耐震壁のせん断耐力は重要項目であるが,本件構造計算書のいわゆる手計算部分である本件耐震壁の設計部分(甲1の5の3,20頁)を見れば,前記第2の3(2)ウ(エ)のとおり設計用せん断力の割増係数が1.5であり,「Q&A集」(甲19)が定める割増係数2.0に満たず,割増係数が不足していることは一目瞭然であるから,この問題点を見逃した本件建築主事には重大な過失がある。 (オ) 構造図と構造計算書とで枠柱のHOOP筋の規格が異なること「チェックリスト」では,構造計算概要書の各図面の内容と構造計算書の内容との同一性が図面チェック上での留意事項とされており(甲17の1,85頁),本件構造計算の結果と構造図と P筋の規格が異なること「チェックリスト」では,構造計算概要書の各図面の内容と構造計算書の内容との同一性が図面チェック上での留意事項とされており(甲17の1,85頁),本件構造計算の結果と構造図との整合性は重大な確認事項であるから,本件建築主事としては,その整合性をことごとく確認すべきものである。 仮に,建築確認審査においては構造計算書のうち重要な部分のみをピックアップして確認すれば足りるとしても,本件耐震壁の確認は重要項目であり,かつ枠柱は1種類しかないのであるから,本件建築主事としても容易に確認できることである。 したがって,上記問題点を見逃した本件建築主事には重大な過失がある。 (カ) 枠柱の主筋が不足していること本件構造設計については本件耐震壁の審査が重要であることからすれば,それを構成する枠柱の確認も重要事項となるのであって,その点は「チェックリスト」においてもチェックすべき項目として掲げられている。 そして,本件構造設計については,確認すべき枠柱が1種類しかなく,構造図(甲1の4)中の「柱リスト」(別紙3)を一目すれば,それが法令の鉄筋量を充足しているかどうかに関して疑問を抱くはずであるから,建築主事としては枠柱の鉄筋量を手計算で確認すべきであったといえ,この問題点を見逃した本件建築主事には重大な過失がある。 (キ) 耐震壁の設計につき,せん断力として最大値から2番目の数値を採用していること許容応力度計算において最大のせん断応力の数値を採用すべきことは構造計算の基本である上,この部分は,もともと大臣認定プログラムでの計算結果を拾い出して手計算に移る部分であり,人為的ミスが介在しやすい箇所である。特に,本件構造設計においては,本件耐震壁の設計は重要項目であり,その審査方法としても,大臣認定プログラムでの計算結果から最大 拾い出して手計算に移る部分であり,人為的ミスが介在しやすい箇所である。特に,本件構造設計においては,本件耐震壁の設計は重要項目であり,その審査方法としても,大臣認定プログラムでの計算結果から最大値をざっと拾い出して照合すれば足りるのであるから,最大値を採用していないことは容易に確認できた部分でもある。 したがって,この問題点を見逃した本件建築主事には過失がある。 (ク) 耐震壁の周囲に枠フレームの設計がしていないこと耐震壁の設計に関する枠フレームの設計は,「設計指針」において要求された重要事項であり(甲17の1,119頁),同文献に従った枠フレームの設計がされていれば,構造計算書の手計算部分において,別セクションとして表出されているはずであるが,本件構造計算書にその部分はなく,枠フレームの設計がされていないことが明らかである。 本件建築主事としては,設計者に対し,枠フレームの設計がされていないことを指摘して本件構造計算を補正させるべきであったのに,それをすることなく本件建築確認をしたのであり,この問題点を見逃した本件建築主事には過失がある。 (ケ) 1階柱(1C1)のせん断耐力不足上記問題点は,本件電算出力部分に関するものであり,本来的には建築確認審査において何らかの計算がなされている部分のすべてを検算するまでの必要はないが,本件設計ルートではせん断耐力の確認が重要事項であり,かつ,本件構造設計において,柱と梁で耐力を持たせているのは本件建築物の1階部分のみであり,しかも,構造計算の結果が出力された頁は別紙7のとおり1頁のみであり(甲1の5の6の2,61頁),その頁のみで上記の点の検算が可能である。 そうすると,本件建築主事としては,上記問題点の部分も確認すべきであったのであるから,これを見逃したことに過失があるというべきである。 6の2,61頁),その頁のみで上記の点の検算が可能である。 そうすると,本件建築主事としては,上記問題点の部分も確認すべきであったのであるから,これを見逃したことに過失があるというべきである。 (コ) 2階接合部のせん断力不足上記問題点も,本件電算出力部分に関するものであるが,前記(ケ)と同様,本件設計ルートではせん断耐力の確認が重要であり,実際に確認すべき箇所も少ないこと,加えて,「審査要領」において,鉄筋コンクリート造の建築物においては,柱と梁の接合部のせん断強度のチェックが必要であることが明記されていること(甲49,11頁)からすれば,建築主事の審査義務として,本件建築物の2階の接合部のせん断耐力も確認すべきであったのであり,これを見逃した本件建築主事には過失がある。 (被告県の主張)本件建築確認について,本件建築主事には建築基準法上の義務違反及び国家賠償法上の過失はない。 ア建築主事の審査義務の具体的内容(ア) 建築確認は,法令等によって提出義務のある書面に基づき(したがって,本件電算出力部分は除かれる。),建築物が建築基準関係規定に適合するかどうかにつき(法6条4項),基本的に裁量の余地のない確認的行為として行われるものである。建築主事は,建築計画が建築基準関係規定に適合すると判断した以上,確認するか否かについての裁量権は有せず,建築基準関係規定に定めのない事項については建築士の責任と工学的判断において決定されるべきものである。すなわち,建築確認が羈束行為であることを考慮すれば,審査すべき部分は法令がそれを明確に求めている内容に限られるというべきところ,建築基準関係規定は,荷重や外力などの設計条件,材料強度などの計算の前提条件,計算上確認しておくべき内容等,最小限の内容を定めているにすぎない。建築主事による審査内 内容に限られるというべきところ,建築基準関係規定は,荷重や外力などの設計条件,材料強度などの計算の前提条件,計算上確認しておくべき内容等,最小限の内容を定めているにすぎない。建築主事による審査内容は,構造計算の前提条件に間違いがなく,法律上必要な計算・検討がされているかどうかに限られるのであって,設計者の判断に委ねられる計算過程の一つ一つが審査対象となることはない。 このことは,建築基準法施行令81条以下の構造計算に関する各規定が「確かめること」(施行令82条3号,4号など),「計算したこと」などと,設計者において適合させるべき基準を定めており,建築主事が行うことは,設計者により「確かめられたこと」又は「計算されていること」を確認するにすぎないとされていることからも明らかである。 この点において,原告が指摘する各種図書(甲16,17,18,49,65等)は,各種団体が,必ずしも見解の一致しない分野において,自らが相当と考える内容を記載したものであって,記載内容と異なる考え方も存在することを前提としており,その内容を遵守しなければならない法令上の基準を定めたものではないことからすれば,上記図書等が建築基準関係規定の適合性を判断する際の基準になるものではない。 また,モデル化については,建築工学において,多くの方法が提案され,定説が存在するわけではなく,計算式や計算方法を法律で規定することは不可能であり,建築に関する業務を独占して行う建築士の工学的判断に委ねることがふさわしいということから,建築基準関係規定にその方法を定めていないのであり,モデル化の適切性については建築確認審査の対象とはならない。 (イ) そして,建築確認の方法に関しても,前記のとおり,第一義的には,建築主及び建築士の責任において建築物の安全性が確保されるべきという立場 化の適切性については建築確認審査の対象とはならない。 (イ) そして,建築確認の方法に関しても,前記のとおり,第一義的には,建築主及び建築士の責任において建築物の安全性が確保されるべきという立場に立脚した上で,建築主事は,原則として法定審査期間21日以内に確認審査をする旨定められていること(法6条4項)からすれば,建築主事が建築確認申請書及びその添付図書の細部まで審査すべきことを建築基準法が予定しているとはいえず,建築主事において,設計者が行うような検算や引用元と引用先の照合など,上記関係図書をすべて確認する義務を負担するものではないことは明らかである。 イ本件建築主事の注意義務違反(過失)(ア) 梁間方向の耐震壁の評価の誤り及び境界梁の設計がされていないこと本件耐震壁を1枚又は2枚のいずれで評価するか及び境界梁を設計するかどうかは,建築基準関係規定に定められておらず,モデル化における設計者の判断に委ねられるものであるから,その点につき建築主事が審査義務を負うものではない。 (イ) 1階部分がピロティ型式であるにもかかわらず,その階での層崩壊を防止する設計上の留意がないこと本件構造設計において,ピロティ型式に関する設計上の留意が一切されていないということはない。 また,ピロティ型式に関しては,建築基準関係規定に定めはなく,本件運用開始文書(甲64),「建築物の構造規定」(甲65)及び「設計指針」(甲17の1)に記載されているとしても,それらの記載は建築確認審査における基準とはならないから,建築主事はピロティ型式に関する設計上の留意の有無を審査する義務を負わない。 (ウ) 1階の柱と梁以外について一次設計での層せん断力係数を1.25倍していないこと一次設計で層せん断力係数を1.25倍以上とすることについては,建築基準関係規定に 無を審査する義務を負わない。 (ウ) 1階の柱と梁以外について一次設計での層せん断力係数を1.25倍していないこと一次設計で層せん断力係数を1.25倍以上とすることについては,建築基準関係規定に定めはなく,「設計指針」(甲17の1)に記載されているにとどまるのであって,「設計指針」に従うか否かは設計者の判断に委ねられた事項であるから,上記記載は建築確認審査における基準とはならず,建築主事は上記の点について審査義務を負わない。 (エ) 耐震壁の設計用せん断力(水平力)の割増係数不足耐震壁の設計に当たって設計用せん断力に2倍以上の割増係数を乗じるということは,建築基準関係規定に定めがなく,「Q&A集」(甲19)に記載があるとしても,耐震壁の設計用せん断力を割増しするか否かについては設計者において判断すべき事項である。上記記載に従わない設計がされていても建築基準関係規定に適合しないと判断することはできないのであり,建築主事はその点の審査義務を負わない。 (オ) 構造計算書と構造図とで枠柱のHOOP筋の規格が異なること建築主事は,申請に係る設計が建築基準関係規定に適合したものであることを設計者により確認されているかどうかを審査すれば足り,書類と図面とを照合し,その整合性を審査することまで,その責務として求められてはいないのであって,上記の点の審査義務を負わない。 (カ) 枠柱の主筋が不足していること建築主事としては,枠柱の主筋比につき,大臣認定プログラムによる計算結果で0.8%を下回る旨のワーニングメッセージ等が表出されていないか,又は設計者が手計算によるチェックが行っているかのいずれかを審査すれば足り,枠柱の主筋比の検算等を行うべき義務はない。 本件構造計算書においては,本件電算出力部分にワーニングメッセージが表出されておらず,また構造設 算によるチェックが行っているかのいずれかを審査すれば足り,枠柱の主筋比の検算等を行うべき義務はない。 本件構造計算書においては,本件電算出力部分にワーニングメッセージが表出されておらず,また構造設計概要書及び手計算部分には,上記計算を大臣認定プログラムでは行っていない旨の記載はなく,同プログラムでの計算に代わる手計算の結果も記載されていなかったのであるから,建築主事が上記各記載により本件構造設計が柱の主筋比に関する法令の基準を満たしていると判断しても,審査義務を尽くしており,建築基準法上の義務違反はない。 (キ) 耐震壁の設計につき,せん断力として最大値から2番目の数値を採用していること建築主事は,建築基準関係規定に適合した設計をしていることを設計者が確認しているかどうか,すなわち,手計算部分については,法令上「確かめること」とされている項目についてのみ,また,設計者が計算の中で必要な確認等をしていること(計算上「OK」となっていること)を構造計算書上で確かめれば足り,本件建築主事としても,この点の確認は行っている。 また,せん断力の採用値の引用元である本件電算出力部分は,本件建築確認申請書への添付が不要とされており,建築主事はその部分について審査義務を負わないから,原告の主張は失当である。 (ク) 耐震壁の周囲に枠フレームの設計がされていないこと枠フレームの設計については,建築基準関係規定に定めのない事項である。「設計指針」においても,枠フレームに関する解説部分は,本文の記述ではなく,「ラーメン架構の分担率」について解説した部分のなお書きで記載されているにすぎず(甲17の1,119頁),「建築物の構造規定」(甲18)や「審査要領」(甲49)には,枠フレームに関する記載はない。 以上のとおり,枠フレームの設計は「設計指針」が採用し きで記載されているにすぎず(甲17の1,119頁),「建築物の構造規定」(甲18)や「審査要領」(甲49)には,枠フレームに関する記載はない。 以上のとおり,枠フレームの設計は「設計指針」が採用している考え方の一つにすぎず,そのような設計を行うか否かは設計者の判断に委ねられているものであって,建築主事は枠フレームの設計の有無につき審査する義務を負わない。 (ケ) 1階柱(1C1の柱)のせん断耐力不足建築主事は,建築基準関係規定に適合した設計をしていることが設計者により確認されているかどうかを審査すれば足り,設計者による計算結果について検算する義務を負うものではない。 また,本件構造計算書において上記の点が記載されている箇所は,本件電算出力部分であり,法令上,本件建築確認申請書への添付の必要はなく,そもそも建築主事が審査義務を負うべき部分ではないから,原告の主張は失当である。 (コ) 2階の接合部のせん断耐力不足「Vju/Qdn」という数値は,建築基準関係規定に定めのない基準であるから,建築主事はその点につき審査義務を負わない。 また,上記の数値は,本件建築確認申請書への添付を要しない,本件電算出力部分にのみ記載されているものであるから,建築主事はその点につき審査義務を負わない。 (3) 被告総研らの不法行為責任(原告の主張)ア被告総研の不法行為責任被告総研は,その業務として顧問先の建設業者に建築物の経済設計を指導し,構造設計担当者に直接指図するなどして構造設計に関与し,いわゆる総研仕様のビジネスホテルの構造設計を作り上げてきた。本件構造設計は総研仕様のビジネスホテルの特徴を備えており,被告総研が本件経営指導契約に基づき,ビジネスホテルの建築も一括して請け負い(フルターンキーシステム),平成設計に対する指導により本件構造設計を決 設計は総研仕様のビジネスホテルの特徴を備えており,被告総研が本件経営指導契約に基づき,ビジネスホテルの建築も一括して請け負い(フルターンキーシステム),平成設計に対する指導により本件構造設計を決定した上で,沢田工務店をして同設計に従った本件建築物を建てさせたものである。 加えて,被告総研は,従前の総研仕様のホテルの構造設計が建築基準関係規定に適合する限界の構造と認識されていたにもかかわらず,自らの業務の発展のため,その構造を一層簡素化させることによって更なる経済設計を追求するなどし,建築基準法に抵触する本件構造設計を命じたものである。被告総研は,建設業者に対し,かかる経済設計の指導等を行うことで莫大な利益を得ており,本件建築物に関しても,本件経営指導契約の締結により相当な利益(3500万円)を得ている。 こうしたことに照らせば,被告総研は,本件建築物の建築について全責任を負う立場にある者として,建築基準関係規定に適合しない違法な構造設計がされ,その結果,耐震強度が不足し,ホテルとしての効用を全うできない建築物が建築されることを防止する高度の注意義務を負うというべきである。 そして,本件構造設計における耐震強度の偽装はB建築士の故意又は過失によるものであるが,その偽装方法は稚拙なものであることから,構造設計に関する一般的な技術者が有する通常の注意力があれば容易に発見可能であったにもかかわらず,被告総研は,B建築士の違法な構造設計を看過し,耐震強度が不足する本件建築物を建築させることとなったのであって,上記注意義務に違反したことは明らかである。 イ被告Aの不法行為責任被告総研の代表取締役所長であった被告Aは,上記アの被告総研の業務を統括しており,被告総研と同様,本件建築物の建築について全責任を負う立場にある者として,建築基準関係規定 イ被告Aの不法行為責任被告総研の代表取締役所長であった被告Aは,上記アの被告総研の業務を統括しており,被告総研と同様,本件建築物の建築について全責任を負う立場にある者として,建築基準関係規定に適合しない違法な構造設計がされ,その結果,耐震強度不足でその効用を全うできない建築物が建築されることを防止すべき高度の注意義務が存在するにもかかわらず,違法建築物である本件建築物の建築を許容ないし黙認したものである。 仮に,被告Aに違法な建築物であるという認識がなかったとしても,本件建築物の問題点の発見が容易であったにもかかわらず,B建築士の違法な構造設計による建築工事を施工させるなどして耐震強度が不足する本件建築物を建築させることとなったのであって,被告Aが上記注意義務に違反したことは明らかである。 (被告総研らの主張)被告総研らは,原告に対して,耐震強度不足で効用を全うできないような建築物を建築させないようにする高度の注意義務を負うものではない。 ア被告総研が,構造設計担当者に指図するなどして構造設計に深く関与してきたという事実はなく,その指導性を発揮して総研仕様のホテルの構造設計を作り上げたという事実もない。 被告総研の経営指導先の建設業者に対する経営指導の一内容である経済設計は,法令を遵守することを前提とするものであり,法令を度外視してまでコストダウンを図るというようなものではないし,システム型枠についても,従来の型枠とは使用されている材料が異なるにすぎず,システム型枠を使用することと建築物の構造体とは無関係である。また,被告総研が,総研仕様のホテルの構造体の変遷に対して,深く関与したという事実はなく,建築物の鉄筋量を減らすことにしても,法令の範囲内でコストダウンを意識すべきであると提唱したものにすぎず,直接的な指導を行ったとい 仕様のホテルの構造体の変遷に対して,深く関与したという事実はなく,建築物の鉄筋量を減らすことにしても,法令の範囲内でコストダウンを意識すべきであると提唱したものにすぎず,直接的な指導を行ったということもない。 このことは,被告総研らが,ホテルオーナーの信頼を得ながら業績を上げてきたことからも明らかである。すなわち,被告総研らが,耐震強度を偽装する違法行為を指示し,その結果,信頼を失い休業に追い込まれる可能性のあるホテルを建築するような指導をすることは,被告総研にとってデメリットしかない。実際にも,鉄筋量を減らしたりすることにより,被告総研が受領する経営指導料に変化があるわけでもなく,被告総研らが耐震強度の偽装を指示したりする理由はないのである。 結局,本件建築物の耐震偽装は,B建築士が単独で行ったことであり,被告総研らの指導とは何ら関係がないものである。 イ被告総研が,原告から本件建築物の建築を一括して請け負った事実はない。 本件経営指導契約は,事業計画の策定,ホテル仕様を基本とした設計・仕様の指導,ホテル仕様にあった工事施工の助言・指導,ホテルの什器・備品の調達に関する指導,ホテル経営のシステム全般に関する指導等,ホテル開業運営のために必要なソフト面に関する経営指導を行うことを内容とする契約であって,構造体などのハード面の指導を行うことを目的とした契約ではない。 なお,被告総研作成の講座テキスト(甲20)記載のフルターンキーシステムについても,同テキストは経営指導先の建設業者に向けたものであり,その記載をもって,被告総研が,原告に対して,設計・施工を含めた本件建築物の建築を一括して請け負ったことにはならない。 ウ被告総研が,平成設計や沢田工務店をその指揮監督下に置いて,本件建築物の構造設計の内容を決定したり,同設計に従った建築工 設計・施工を含めた本件建築物の建築を一括して請け負ったことにはならない。 ウ被告総研が,平成設計や沢田工務店をその指揮監督下に置いて,本件建築物の構造設計の内容を決定したり,同設計に従った建築工事をさせたという事実はない。 本件建築物の設計業務を行うのはあくまで設計・監理業者の平成設計であることから,設計業務については平成設計の独自の判断と責任において業務を遂行しているのである。被告総研らは,平成設計が構造設計を誰に発注しているのかを把握しておらず,本件建築物の構造設計に関与することは不可能であった。また,平成設計は,木村建設株式会社(以下「木村建設」という。)の子会社であり,被告総研とは人事交流もなく,被告総研が,平成設計の経営や経理,その他人事等に関与したということもないのであり,平成設計が一般的にも本件構造設計に関しても,被告総研の指揮監督下にあったという事実はない。 同様に,沢田工務店が被告総研の指揮監督下にあったという事実はなく,被告総研としては,法令上許容される範囲内でコンクリート量や鉄筋量についての一般的指導を行っていたにすぎず,被告総研が沢田工務店の現場の予算管理等を行っていたという事実もない。 エ被告総研は,平成設計からバックマージン的な利益など得てはいない。 確かに,平成設計は,被告総研から紹介された設計案件について,設計料の20~25%を株式会社栄光企画(以下「栄光企画」という。)に企画料として支払っていた事実はあるが,それは自ら営業活動を行わない平成設計の業務獲得につなげるため,同社の代表取締役社長であったM(以下「M」という。)の依頼により,栄光企画がビジネスホテルの建設候補地につき情報収集ないし調査を行うこととなったが,実際にホテル建設に至らなかったとしても,栄光企画に対しては現に行った調査等に関する費 「M」という。)の依頼により,栄光企画がビジネスホテルの建設候補地につき情報収集ないし調査を行うこととなったが,実際にホテル建設に至らなかったとしても,栄光企画に対しては現に行った調査等に関する費用や報酬を支払わなければならず,そのような費用等に充てるため栄光企画に上記支払がされていたにすぎない。 オなお,被告Aが,本件建築物について必要とされる耐震強度を満たさない違法な建築物であることを認識していた事実も,それを知った上で本件建築物の建築を許容・黙認したという事実も一切ない。 (4) 被告総研らの使用者責任(原告の主張)ア被告総研らは,平成設計を完全にコントロールし,実質的には被告総研の一部署(設計部)として,一般的に指揮監督をしていた(甲36,16頁の4段目,17頁の1段目)。本件建築物の建築においても,被告総研は,その指揮監督の下,総研仕様のホテルの構造体を更に簡素化させることなどを平成設計に指図したものであり,被告総研と平成設計の関係は,使用者と被用者の関係又はこれと同視できるものである。 イ平成設計は,本件建築物の構造設計業務をB建築士に下請けさせたが,本件経営指導契約の内容からすれば,B建築士による本件構造設計は,その外形上,被告総研の事業の範囲内に含まれるというべきであり,少なくとも平成設計の事業の範囲内に含まれる。 ウそして,本件構造設計を行ったB建築士は,被告総研が総研仕様のホテルの構造体を簡素化する設計を追求し,建築士を選別する中で選択した建築士であるが,平成設計は,被告総研らの指揮監督の下,被告総研の指図ないし慣例により,本件建築物の構造設計をB建築士に依頼し,B建築士自身も,被告総研らから本件建築物の建築計画に関する計画設計概要書(甲29)の変更指示を受けていたことがうかがわれることなどからすれば, 慣例により,本件建築物の構造設計をB建築士に依頼し,B建築士自身も,被告総研らから本件建築物の建築計画に関する計画設計概要書(甲29)の変更指示を受けていたことがうかがわれることなどからすれば,本件構造設計に関し,被告総研のB建築士に対する直接,又は平成設計を介した間接的な指揮監督関係が存在したことは明らかである。 エしたがって,被告総研らは,B建築士が行った構造計算書の偽装行為(不法行為)に関して使用者責任を負う。 (被告総研らの主張)被告総研らが,平成設計及びB建築士を指揮監督していたというような事実は存在しない。 ア前記(3)の被告総研らの主張のとおり,被告総研らが平成設計を一般的に指揮監督していたり,設計上の指図をしたりしていた事実はなく,構造設計についてはB建築士を使用するという慣例も存在しない。 また,本件経営指導契約に関して原告と被告総研間で取り交わされた覚書(甲5)には被告総研が構造設計を行う旨の記載はなく,B建築士による本件建築物の構造設計が被告総研の事業の範囲内に含まれることはないし,平成設計の事業の範囲内には含まれるとしても,平成設計が被告総研の指揮監督下にあったわけではないから,これについて被告総研が責任を負うこともない。 イ同様に,被告Aが平成設計の行う設計業務の一内容である構造設計に関与していたという事実はなく,被告Aは,平成設計が誰に構造設計をさせているかを知る機会すらなかったのであり,B建築士に対して指揮監督を及ぼしていたという事実もない。 (5) 被告総研の債務不履行責任(原告の主張)ア被告総研は,本件経営指導契約上,原告に対し,本件建築物の建築に関し,その設計・施工すべてに責任を負い,平成設計及び沢田工務店をして安全性が確保された適法な建築物を建築させるべき義務を負っていた。 また,被告総 本件経営指導契約上,原告に対し,本件建築物の建築に関し,その設計・施工すべてに責任を負い,平成設計及び沢田工務店をして安全性が確保された適法な建築物を建築させるべき義務を負っていた。 また,被告総研は,本件経営指導契約の締結に先立ち,原告に対し,計画設計概要書(甲29)を示した上で同契約を誘引し,その締結に至らせているのであるから,本件建築物を同概要書に示された構造体により建築させる義務を負っていた。 それにもかかわらず,被告総研は,同概要書の構造体をより簡素化させ,建築基準関係法令に抵触し得る構造体によって本件建築物を建築させ,違法な建築物を建築させたのであるから,本件経営指導契約上の債務不履行責任を負う。 イ仮に,被告総研に上記義務違反がないとしても,本件経営指導契約に関する覚書(甲5)の文言,前記(4)の原告の主張のとおりの被告総研と平成設計間の指揮監督関係,被告総研の指示が優先するとされる本件建築物の建築計画に関する「ホテル建築仕様書」(丙1)及び「SGホテル注意事項(仕様)説明書」(丙2),並びに本件建築物の建築のための定例会議において平成設計が被告総研より指導を受けている状況などからすれば,平成設計は本件経営指導契約における被告総研の履行補助者というべきであり,平成設計の履行補助者であるB建築士も被告総研の履行補助者というべきであるから,B建築士の故意過失は,信義則上,被告総研の責めに帰すべき事由と評価され,このことからしても被告総研は債務不履行責任を負う。 (被告総研らの主張)被告総研が,本件経営指導契約により,本件建築物の設計・施工のすべてに責任を負うものではなく,債務不履行責任を負うことはない。 ア本件経営指導契約による経営指導はソフト面に関するものであって,設計・施工といったハード面については,それらを請け負 設計・施工のすべてに責任を負うものではなく,債務不履行責任を負うことはない。 ア本件経営指導契約による経営指導はソフト面に関するものであって,設計・施工といったハード面については,それらを請け負った平成設計ないし沢田工務店において責任を負うべきことであるから,それ以上に被告総研が,安全性の確保された適法な建築物を平成設計及び沢田工務店に設計・施工させる義務を負うものではない。 イまた,本件建築物の構造設計を誰が行うかは被告総研の関知しないところであって,B建築士が被告総研の履行補助者であるとはいえない。 (6) 損害(原告の主張)ア国土交通省内で開催されている構造計算書偽造問題対策連絡協議会の第3回議事録(甲70)によれば,耐震強度0.5未満の建築物については原則として解体する方針とされており,かかる方針からすれば,本件建築物も原則として解体すべきこととなる。 また,本件建築物については,具体的に可能な耐震補強工事も見当たらない。すなわち,本件建築物の内側(客室内側)から壁を増強し,かつ枠柱を増強する方法によれば,客室が狭くなり,ビジネスホテルとしての機能を喪失する。本件建築物の外側から補強する方法,例えば,鉄骨のブレス付きフレームを貼り付ける方法によると,客室の窓がふさがる可能性があり,見栄えも悪く,ビジネスホテルとしての効用を全うできない。梁間方向の耐震壁の増設という方法も考えられなくはないが,本件建築物については,既存壁に張り合わせるようにして上階と下階の梁に連絡して接合させる方法は,既存壁の幅と梁の幅が同一で余分な幅が存在しない(補強壁を接合するスペースがない)ため不可能である。代替的な柱を強じんにする方法もスペースの関係で問題がある。 イ仮に,本件建築物につき耐震補強工事が可能としても,解体すべきか否かについては い(補強壁を接合するスペースがない)ため不可能である。代替的な柱を強じんにする方法もスペースの関係で問題がある。 イ仮に,本件建築物につき耐震補強工事が可能としても,解体すべきか否かについては,物理的要素のみならず社会経済的要素を加味して判断すべきであるところ,本件建築物はB建築士による耐震偽装事件の対象物件であるという悪印象を持たれているとともに,外付けブレス等を貼り付けた際の美観上の欠点や部屋が狭まることなどにより,ビジネスホテルとしての商品価値が著しく低下するなど,耐震補強工事によっては十分な損害回復を図ることができない。その上,原告において本件建築物につき解体又は改修工事のいずれを選択するかの早期決断を迫られたことを併せ考慮すれば,本件建築物の解体は,通常生じ得る損害に当たるというべきである。 ウ本件建築物を解体することによる損害の内訳は,別紙12「変更後損害額一覧表」のとおりであり,被告総研との関係においては,本件経営指導契約に基づいて支払った3500万円も相当因果関係ある損害となる。 (被告県の主張)ア建築物につき建て替え費用相当額を損害とすることは,建築物に重大な瑕疵があるためこれを建て替えざるを得ないという場合にのみ認められている。 イしかし,本件建築物には,全体として極めて重大な欠陥箇所があるとか,主要な構造部分について安全性及び耐久性に重大な影響を及ぼす欠陥があり,地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するというような事情はない。実際に,本件建築物と同様に耐震偽装によって耐震強度が不足していたとされる他のホテル等においても,耐震補強工事によって,耐震強度を建築基準関係規定に適合させるという目的を達しており,例えば,「岡崎第一ホテルイースト」は約2000万円,「岡崎サンホテル」は約 いたとされる他のホテル等においても,耐震補強工事によって,耐震強度を建築基準関係規定に適合させるという目的を達しており,例えば,「岡崎第一ホテルイースト」は約2000万円,「岡崎サンホテル」は約1億2000万円で耐震補強工事を行ったとされている。 ウまた,原告が不可能と主張する耐震補強工事についても,実行不可能と判断するに足る事情はない。 すなわち,本件建築物の内側からの壁の増強,及び枠柱の増し打ち等により,客室の容積が多少減少するとしても,直ちに客室の機能が喪失するものではない。外側からの補強に関し,鉄骨のブレス付きフレームによる補強以外にも,柱・梁を外側から張り付ける補強方法等も存在し,加えて,建築物のデザインとして,外側の構造フレームを強調した建築物も存在するのであるから,工夫次第で見栄えの問題も解決可能である。また,梁間方向の補強についても,梁を打ち増し,その幅を広げた上で,耐震壁を打ち増すことなどにより十分対応可能である。 以上のとおり,本件建築物は,耐震補強工事により耐震強度を確保できる。 (被告総研らの主張)ア本件建築物の解体に伴う損害本件建築物の瑕疵について,解体が必要であったことについては立証がされておらず,解体に伴う損害が認められるべきではない。 イ休業損害(ア) 利益喪失による損害のうち役員報酬が得られなかったことは,原告の損害ではない。 (イ) 固定的経費に関し,従業員給与はこれを支払うことによって従業員を使用していたものであるから損害とはいえず,また,固定資産税及び都市計画税は,原告が不動産(本件建築物)を所有することによって課される税金であることから,本件ホテルの休業に伴う損害とはいえない。 その他の固定的経費についても同様であり,その支払により原告は何らかの利益を得ているのであり,本件ホテルの休 所有することによって課される税金であることから,本件ホテルの休業に伴う損害とはいえない。 その他の固定的経費についても同様であり,その支払により原告は何らかの利益を得ているのであり,本件ホテルの休業に伴う損害とはいえない。 (ウ) 得意先喪失の損害については,因果関係の立証が全くなされていないのであって,不法行為又は債務不履行と因果関係ある損害とはいえない。 ウ再築・再開業に伴う損害について借入金利息について,原告が本件建築物の改築費用を借り入れた証拠はない。 第3当裁判所の判断 建築確認審査における建築主事の建築主に対する注意義務(争点(1))(1) 建築確認制度の概要建築確認制度は,一部の例外(法3条1項,6条2項等)を除き,建築物の建築等の工事着手前に,その建築計画が建築基準関係規定に適合するものであることを公の立場において確認することを骨子とする制度であり,その概要は以下のとおりである。 建築主は,法6条1項所定の建築物の建築等の工事をしようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,建築確認の申請書を提出して,建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならず(法6条1項),確認済証の交付を受けた後でなければ,当該建築物の建築等の工事をすることができない(同条6項)。 建築主事は,申請に係る計画が建築基準関係規定に適合しないことを認めたとき,又は申請書の記載によっては建築基準関係規定に適合するかどうかを決定することができない正当な理由があるときは,その旨及びその理由を記載した通知書を所定の期限内に申請者に交付する(同条5項)。 (2) 建築確認制度における建築主,建築士及び建築主事の役割建築基準法は,建築確認制度において前記(1)のとおり,建築主に びその理由を記載した通知書を所定の期限内に申請者に交付する(同条5項)。 (2) 建築確認制度における建築主,建築士及び建築主事の役割建築基準法は,建築確認制度において前記(1)のとおり,建築主に対して建築確認申請義務を負わせるとともに,建築主事をして建築確認審査事務を担当させるものとする(法6条1項)。 他方,建築物の構造・規模・階数によっては,専門の技術を持っていない者が設計や工事監理を行うと,安全な建築物が建てられない場合がある。そのため建築士法では,建築士にしか設計と工事監理が行えない建築物を定め(建築士法3条~3条の3),建築基準法では,建築物のうち構造が複雑であったり,大規模であったりするものについては,建築士の資格を有する者が設計し,工事監理者とならなければならず(法5条の4第1項,2項),建築確認申請に際しても,その作成した設計図書を申請書に添付させるものとし,その要件を欠く建築確認申請は受理することができないと定める(法6条3項)。 もとより建築主は,通常,建築の専門家でないから,大規模又は複雑な建築物については建築の専門家である建築士の関与を必然のものとし,その上で,同じく建築の専門家である建築主事においても建築基準関係規定適合性を確認するものとしているのであって,建築士が関与すべきとされる建築物については,建築基準関係規定適合性に関していわば二重のチェックを行うものと言っても過言ではない。 これら建築確認制度に関わる関係者である建築主,建築士及び建築主事はそれぞれ建築物の建築に対する関わり方が異なり,その役割についても異なるものであるが,その概要は以下のとおりである。 ア建築主の役割建築主は,建築物の建築計画の主体であり,その計画を実行するか否かを決定する立場にあり,建築基準法により建築確認申請のほか,中間検 なるものであるが,その概要は以下のとおりである。 ア建築主の役割建築主は,建築物の建築計画の主体であり,その計画を実行するか否かを決定する立場にあり,建築基準法により建築確認申請のほか,中間検査・完了検査の各申請義務を負わされていることから,その限りでは,建築主が安全性を欠く建築物を出現させないことについて第一次的な責任を負うことを否定できない。 しかしながら,建築主は,通常,建築の専門家ではないから,一定の建築物の建築に当たっては,専門家である建築士に設計及び工事監理を依頼する必要があり,建築基準法も,そのような場合に建築士の関与を不可欠のものとしている。 したがって,上記のような建築物の建築に際しては,建築主において,建設業者との間で請負契約を締結するとともに,建築士との間でも何らかの契約関係に基づいて設計及び工事監理を依頼することは法の予定するところであるが,現実には,建築主には設計及び工事監理を依頼できる建築士の知人などを有しないことが多く,建設業者が,建築主に,建築士又はその所属する建築士事務所を紹介することも珍しくはない。 建築確認申請についても,建築計画の主体である建築主が行うべきものではあるが,建築基準法令上,設計者である建築士が建築主を代理して建築確認申請をすること(いわゆる代願)も認められており,実際にも,そのような形で建築確認申請がなされる場合が少なくない。 イ建築士の役割建築士とは,建築士法に基づいて国土交通大臣又は都道府県知事が付与する,建築に関する専門家としての国家資格であり,上記行政庁は毎年,建築士の国家試験を実施し(同法13条),その合格者には免許を与え,建築士事務所の登録制度(同法23条)により上記資格を管理している。 建築士法の目的は,「建築物の設計,工事監理等を行う技術者の資格を定めて,そ 試験を実施し(同法13条),その合格者には免許を与え,建築士事務所の登録制度(同法23条)により上記資格を管理している。 建築士法の目的は,「建築物の設計,工事監理等を行う技術者の資格を定めて,その業務の適正をはかり,もって建築物の質の向上に寄与させること」であるが(同法1条),「ここで建築物の質とは,建築基準法で定められている事項に関するものだけではなく,建築主や使用者にとっての使いやすさや住み心地のよさ,また,周辺地域の環境との良好な関係なども含まれる」から,「建築士に期待される役割はきわめて重要」とされる(乙21,176頁)。 建築士の種別として,木造建築士,二級建築士,一級建築士という3種が定められ(同法2条),それぞれ設計,工事監理等を行える建築物の範囲が異なり(同法3条~3条の3),試験及び受験資格も異なるが(同法14条,15条),いずれの建築士も,その責務として,「常に品位を保持し,業務に関する法令及び実務に精通して,建築物の質の向上に寄与するように,公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。」などと定められている(同法2条の2)。 ただし,建築士は通常,建築主との契約関係に基づいて,対価としての報酬の約束の下に設計事務を業として行うという立場にあり,建築計画における建築主の目的をできる限り実現するために建築物を設計するという役割を担っており,建築基準関係規定適合性は,建築士がその設計業務において考慮する諸要素の一つにすぎない。 ウ建築主事の役割建築主事とは,「国土交通大臣または指定資格検定機関が行う建築基準適合判定資格者検定に合格して登録を受けた市町村または都道府県の吏員のうちから,市町村長または都道府県知事により任命され,建築などに関する確認・検査などを行う担当者」(乙21,158頁)である(法4条6項等) 者検定に合格して登録を受けた市町村または都道府県の吏員のうちから,市町村長または都道府県知事により任命され,建築などに関する確認・検査などを行う担当者」(乙21,158頁)である(法4条6項等)。 建築主事は,上記のとおり建築基準適合判定資格者検定に合格し,国土交通大臣の登録を受けた者であるが,上記検定の受験資格として,「一級建築士試験に合格した者で,建築行政又は第七十七条の十八第一項の確認検査の業務その他これに類する業務で政令で定めるものに関して,二年以上の実務の経験を有するもの」(法5条3項)とされており,建築士の区分の中でも最も専門性の高い一級建築士の資格に付加する条件が定められている。 建築主事の行う建築確認審査は,建築主が建築確認申請をした建築計画について建築基準関係規定に適合しているか否かを判断することのみであって,たとえ公益に関する事情であっても,建築基準関係規定と無関係の事柄を考慮して建築確認をするかどうかを判断してはならないとされている(覊束裁量)。 他方,建築主事は,公的な立場で建築確認審査事務を行うものであって,建築確認申請をする建築主とは国民全体の奉仕者である公務員という関係にとどまり,建築計画の目的の実現その他建築主の特定の利益に配慮する必要はない。 (3) 建築主事の職務上の注意義務前記(2)の建築確認制度に関わる関係者の役割を踏まえると,建築主とその他の者とは,建築の専門家であるか否かという点で明らかな差異があり,法令上,建築士の関与が義務づけられている建築物に関する限り,法は建築基準関係規定適合性の確保について,第一次的責任を負う建築主のみならず,建築士及び建築主事に相当の期待を寄せていることを十分に看取し得る。 また,建築士と建築主事の各役割を比較すると,建築士は,敷地,周囲の環境その他種々の条件 いて,第一次的責任を負う建築主のみならず,建築士及び建築主事に相当の期待を寄せていることを十分に看取し得る。 また,建築士と建築主事の各役割を比較すると,建築士は,敷地,周囲の環境その他種々の条件的制約を受けつつ,建築計画に込められた建築主の要望をできる限り実現し,併せて建築基準関係規定適合性を満たすという諸要素の衡量の中で,時には困難な選択的判断を迫られるのに対し,建築主事は,申請に係る建築計画について,専ら建築基準関係規定適合性という観点のみから検討を加えることで足りるのであって,加えて,自ら設計事務を行うのではなく,専らその審査事務を行うことにより,職務上,多数の設計についての経験を蓄積することができる立場にあることを踏まえると,建築基準関係規定適合性に関しては,建築主事が建築士よりも,より深く検討し,より適切な判断をなし得る立場にあることは明白であって,建築主事及びそのつかさどる建築確認審査事務は,申請に係る建築計画について建築基準関係規定適合性を確保し,危険な建築物を出現させないための最後の砦と言っても過言ではない。 建築主事の検定の受験資格について,一級建築士の試験の受験資格よりも厳しい条件を設けていることは,上記のような観点からも理解し得るものである。 したがって,違法な建築物の出現によって被害を被るおそれのある近隣住民だけでなく,建築確認申請の主体である建築主においても,自身の建築計画について,建築基準関係規定適合性に関する限りは,自身が設計を依頼した建築士よりも建築主事に対して,より高い信頼(建築主事が建築確認をした建築計画又は建築物は構造設計上安全であるとの信頼)を寄せたとしても何ら不合理ではなく,そのような信頼は法的にも正当なものと評価すべきである。 以上からすると,建築主事は,そのつかさどる建築確認審査事務に 画又は建築物は構造設計上安全であるとの信頼)を寄せたとしても何ら不合理ではなく,そのような信頼は法的にも正当なものと評価すべきである。 以上からすると,建築主事は,そのつかさどる建築確認審査事務に関し,これに高い信頼を寄せて建築確認を申請する個々の建築主に対して,その信頼に応えるべく,専門家としての一定の注意義務を負うことがあるものというべきである。 (4) 建築基準法の保護法益との関係ア建築基準法の目的は,「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資すること」(法1条)であるところ,被告県は,①建築確認制度は国民個人の利益の保護を目的としたものではない,②仮に,個人の利益が保護されるとしても,保護の対象は,生命,健康又は生活環境上の利益に限られ,財産的利益は含まれず,③また,建築主は違法な建築物の建築確認申請をしないことにより当該建築物の出現を自力で阻止する手段を有することなどから,建築主の財産的利益は建築確認制度における保護の対象ではなく,建築主事の職務上の法的義務は少なくとも建築主に対して負うものではないなどと主張する。 イしかしながら,以下のとおり被告県の主張は採用することができない。 (ア) 建築基準法及び建築士法のうち,建築物の建築の設計及び工事監理に係る業務を建築物の規模,構造等に応じて建築士法に定める各資格を有する建築士に行わせるべきこととする前記(2)の各規定の趣旨は,「建築物を建築し,又は購入しようとするに対し,建築基準関係規定㨯に適合し,安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするもの」とされており(最高裁判所平成12年(受)第1711号同15年11月14日第二小法廷判決・民集57巻10号1561頁参 適合し,安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするもの」とされており(最高裁判所平成12年(受)第1711号同15年11月14日第二小法廷判決・民集57巻10号1561頁参照),また,建築基準法の規定のうち容積率等の制限(法52条,55条,56条)に関しては,「当該建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである(最高裁判所平成9年(行ツ)第7号同14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号46頁等参照)ところ,荷重・外力などの衝撃に対する安全性を欠いた建築物の崩壊等により,周辺の他の建築物についてその居住者の生命,身体及び財産としてのその建築物に被害が直接的に及び得ることからすれば,上記各判例の趣旨は構造耐力に関する規定(法20条)の保護法益の解釈に当たっても同様に当てはまるものと解し得る。 したがって,建築基準法が個人の個別的利益を一切保護しないとする前記①の主張,及び個人の財産的利益が保護の対象とならないとする前記②の主張は,いずれも被告県の独自の見解というべきであって採用することができない。 (イ) 建築基準法は,荷重及び外力等の衝撃に対して安全な構造の建築物が建築されることを当然の前提とし(法20条),建築確認審査においては,構造耐力に関する建築基準関係規定の適合性も確かめるべきものである。 このように,建築基準法が,建築物について,その構造上の安全性の確保を要請するのは,建築物が居住する者等によって利用され,また,周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建築物利用者や隣人,通行人等の生命,身体又は財 が,建築物について,その構造上の安全性の確保を要請するのは,建築物が居住する者等によって利用され,また,周辺には他の建物や道路等が存在しているから,建築物利用者や隣人,通行人等の生命,身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならない(最高裁判所平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁参照)という建築物のもって有すべき性質に由来するものと解されるところ,そのような居住者等に係る安全性の確保の観点からみれば,建築主自身の利益であっても,直ちに建築基準法の保護の対象から除外されるということはできない。 そして,既に建築済みの建築物が構造上の安全性を欠く場合に,建築主が安全性確保のための対策を余儀なくされて財産的損失を被るのは,単に建築主のためのみならず,建築主以外の建築物利用者や隣人,通行人等の生命,身体又は財産の安全性確保のためでもあるのであって,建築主の上記財産的損失は,単純な個人の財産的損失にとどまらず,建築主以外の関係者に係る安全性確保のために建築主が負担する財産的損失という側面があることを看過すべきではない。 確かに建築主は,前記のとおり,安全性を欠く建築物を出現させないことについて第一次的な責任を負い,通常は,構造上の安全性を欠く建築物の出現を自力で阻止し得る立場にあるといえるが,上記の各点に照らすと,建築物が構造上の安全性を有することに係る建築主自身の財産上の利益について,これがおよそ建築基準法の保護の対象ではないとまでいうことはできない。したがって,被告県の前記③の主張も採用することができない。 (5) 建築主の建築主事に対する責任追及と信義則との関係ア被告県は,本件構造計算書における本件建築物の耐震強度の偽装は,原告が設計・工事監理を依頼した平成設 ③の主張も採用することができない。 (5) 建築主の建築主事に対する責任追及と信義則との関係ア被告県は,本件構造計算書における本件建築物の耐震強度の偽装は,原告が設計・工事監理を依頼した平成設計が下請けとして使用したB建築士が行ったものであるから,B建築士の上記行為は,設計業務に関して同人と一体的関係にある原告側の者の行為であり,法的には原告の行為と同様に評価されるべきであって,こうした事情のもとでは,信義則上,原告の個人的利益は保護すべきではなく,原告の本件請求は認められるべきではないなどと主張する。 イしかしながら,前記(2)のとおり,一定規模以上の建築物の建築工事は,相当程度の知識及び実務経験を有し,かつ試験に合格した一級建築士による設計が要求されるところ(法5条の4第1項,建築士法3条1項3号,4号),本件建築物もこれに該当し,一級建築士以外の者による設計が認められていない。 建築,とりわけ建築物の構造耐力(法20条)は,構造力学も関連する専門性の高い分野であり,高度の知識経験を有する者でなければ,建築物の安全性が確保された設計を行うことは困難を伴うため,前記(4)イ(ア)のとおり,知識経験を有すると認められる専門家に建築物の設計作業を独占させ,建築物の安全性を確保することとしたものと解される。そうすると,建築物の構造耐力についての専門的知識等を有しない通常の建築主が上記の建築物を設計し,建築主自身において建築物の安全性を確保することを法は予定していないというべきである。そして,建築主は,多数の一級建築士の中から建築士を選択し,建築物の設計及び工事監理を依頼することができるのであるが,前記(2)のとおり,通常の建築主にとって一級建築士の知人等を有しないことが少なくなく,また,建築に関する専門家の国家資格として一級建築 ,建築物の設計及び工事監理を依頼することができるのであるが,前記(2)のとおり,通常の建築主にとって一級建築士の知人等を有しないことが少なくなく,また,建築に関する専門家の国家資格として一級建築士制度が設けられ,試験,免許付与及び登録という形でその資格が管理されていることからすると,基本的には建築主においていかなる建築士を選択したとしても,安全性の確保された建築物が建築されることを期待するのが当然であって,その期待は正当なものとして保護されるべきである。そうすると,建築主自身が建築物の構造耐力に関して専門的知識を有し,又は,建築物の構造設計に積極的に関与したというような特段の事情がない限り,設計者である建築士の行為を建築主の行為と同視することはできないというべきである。 ウ本件建築物は前記イのとおり一級建築士による設計が義務づけられた建築物であるが,原告の経営者であるFは建築に関しては専門家ではなく,自ら建築物の安全性を確保するに足りる専門的知見等を有していたとする事情はうかがわれず,また,本件建築物の構造設計に積極的に関与したような事実も認められない。 したがって,原告が建築主であり,本件建築確認申請の主体であることの一事をもって,信義則上,原告の損害賠償請求が禁じられるべきものとする理由はなく,本件請求が信義則違反であるとする被告県の主張は採用することができない。 建築主事の審査義務の具体的内容(争点(2))(1) 構造耐力に関する建築確認審査の内容ア法令等建築確認審査とは,建築計画に係る建築物について建築基準関係規定適合性を審査するものであるが(法6条1項),建築物の構造耐力,すなわち,「自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝動に対して安全な構造」(法20条)に関しては,「建築物の安 を審査するものであるが(法6条1項),建築物の構造耐力,すなわち,「自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝動に対して安全な構造」(法20条)に関しては,「建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること」(同条1号)を審査し,一定の建築物についてはさらに,「政令で定める基準に従った構造計算によって確かめられる安全性を有すること」(同条2号)を審査するものとされている。 建築基準法施行令は,上記「政令で定める技術的基準」(法20条1号)について第3章の第1節から第7節の2までにて(施行令36条1項),上記「政令で定める構造計算」(法20条2号)について同章の第8節にて(施行令81条1項)それぞれ定めるとともに,構造設計の原則として,「建築物の構造設計に当たっては,その用途,規模及び構造の種別並びに土地の状況に応じて柱,はり,床,壁等を有効に配置して,建築物全体が,これに作用する自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して,一様に構造耐力上安全であるようにすべきものとする」(施行令36条の2第1項)こと,「構造耐力上主要な部分は,建築物に作用する水平力に耐えるように,つりあいよく配置すべきものとする」(同条2項)こと,「建築物の構造耐力上主要な部分には,使用上の支障となる変形又は振動が生じないような剛性及び瞬間的破壊が生じないような靱性をもたすべきものとする」(同条3項)ことなどを示した上で,構造部材等(施行令第3章第2節)のほか,構造の種別に応じた具体的規定(同第3節から第7節の2まで)を置いている。 構造耐力に関する上記法令及びその下部法令(建築基準関係規定)の適合性を審査するに当たっては,構造設計の手順を踏まえて,建築計画や構造計算に際しての 規定(同第3節から第7節の2まで)を置いている。 構造耐力に関する上記法令及びその下部法令(建築基準関係規定)の適合性を審査するに当たっては,構造設計の手順を踏まえて,建築計画や構造計算に際してのモデル化等について,設計者の考え方を把握する必要があり(甲49,13頁,L43頁,N38頁,39頁),また,建築基準関係規定に記述される内容のみでは適合性の判断が困難な場合には,建築基準関係規定の趣旨を踏まえつつ,社会的常識や信頼できる技術基準等を参考にして,建築基準関係規定適合性を判断することとなる(甲49,2頁,L36頁,37頁)。 上記の点につき,前記第2の3(2)イの関係資料の一つである「建築物の構造規定」(乙10)には「法令の定める規定の精神や背景となっている要求性能を解説」した部分(第2章)があり,「法令の解釈等はこの要求性能を踏まえて行われることが望ましい」とされているほか,「法律においては,構造強度について,法第20条及び第21条の2つの条文がある。具体的な技術的規定は,法第36条に基づいて施行令の規定に委任されている。さらに,その一部は建設大臣告示に委任されている。加えて,各規定の運用,解釈等について建設省通達がある。また,構造解析法等は,(財)日本建築センターの諸指針や(社)日本建築学会の諸基準類が法令としての拘束力はないものの,その技術的妥当性から建築確認等において参考にされる場合がある。」との記述がある。 イ審査の実情本件建築主事その他被告県及び東京都の建築主事として建築確認審査事務を担当した経歴のある者ら(証人L,同N,同D)は,構造耐力に関する建築確認審査の実情について,以下のとおり述べている。 (ア) 建築確認審査は,一級建築士が構造設計を行った複雑な構造の建築物についても,基本的には最長でも21日以内に審査 同D)は,構造耐力に関する建築確認審査の実情について,以下のとおり述べている。 (ア) 建築確認審査は,一級建築士が構造設計を行った複雑な構造の建築物についても,基本的には最長でも21日以内に審査を終えることが予定されるなど(法6条4項),迅速な審査が要求されており,審査事務を担当する建築主事が,申請に係る建築計画の中の構造設計をことごとく検討することは困難である。 建築確認審査は,設計者の設計作業を補完する審査を行うものであって,構造耐力(法20条)に関する部分に限定すれば,基本的には,建築確認申請がされた内容が建築基準関係規定に適合していることを前提とし,構造計算書について,電算出力部分が添付される場合には,ワーニングメッセージ等の表出がないことを確認した上で,荷重・外力などの条件と断面算定等の結果などにつき部分的な抜き取り審査を行い,抜き取った部分について設計者により適切にチェックされていることを確認する作業を行うものである(乙13,19頁,24頁,N6頁)。 (イ) 他方で,建築確認審査は,基本的には,建築基準関係規定適合性を判断するものであるから,「設計指針」(甲17の1)等に従わない構造設計であったとしても,中身が妥当であり,建築基準関係規定に適合している限り,そのとおり認めることとなるが(L19頁),少なくとも素人判断においても疑問を抱くような部分については,「例規集」その他の関係資料を参考にしつつ,場合によっては設計者に質問するなどの手段で疑問点の解消に努めている(乙19,14頁,15頁,L43頁,N38頁,39頁,D9頁など)。 なお,本件建築主事は,設計者に対して質問を投げかけた後,その回答を待つまでの期間は,上記建築確認審査の法定の期間に算入しないという考えで審査事務を行っていた(D10頁)。 もっとも,建築主 ど)。 なお,本件建築主事は,設計者に対して質問を投げかけた後,その回答を待つまでの期間は,上記建築確認審査の法定の期間に算入しないという考えで審査事務を行っていた(D10頁)。 もっとも,建築主事の設計者に対する設計内容の訂正等の求めには強制力はなく,訂正を求めた箇所が建築基準関係規定に違反するものでない限り,その求めに応じるか否かは最終的には設計者の任意に委ねられている。 ウ前記イのような建築確認審査の実情に対して,原告は,建築主事としては,①「設計指針」その他の関係資料に記述された技術的基準への適合性,及びモデル化の適切性についても審査すべきであり,②構造計算書のうち,大臣認定プログラムでの計算結果部分(電算出力部分)についても,添付されている以上は併せて検討する必要があり,③電算出力部分について,ワーニングメッセージの有無のみならず,要所について疑問点を発見し,必要に応じて検算しなければならないなどと主張する。 しかしながら,「設計指針」等に記述されている技術的基準としては,設計方法として考えられる多種多様な事項があり,建築確認行為の性質,審査期間の制限等にかんがみれば,これらすべての技術的基準を満足するか否かの審査を要求することなどは非現実的というべきであるし,建築物の構造すべてについてそのモデル化の適切さを審査することも,構造の要所について検算等を行うことも困難である。また,大臣認定プログラムでの計算結果(電算出力部分)については建築確認申請書への添付を要しないとした法令(前記第2の2(4))の趣旨からすると,添付されているか否かによって建築主事の審査対象を異なるものとすることを想定しているとは到底いえず,これらの点に関する原告の主張は採用することができない。 (2) 構造計算の前提となるモデル化についてア建築工学 否かによって建築主事の審査対象を異なるものとすることを想定しているとは到底いえず,これらの点に関する原告の主張は採用することができない。 (2) 構造計算の前提となるモデル化についてア建築工学は,技術的進歩の比較的早い学問分野であり,そのため建築行政としても,建築工学に裏付けられた技術的進歩を積極的に取り入れて柔軟に対処することを予定しており,建築基準法がその内容の定めの多くを政令以下の下部法令に委任していることは,そのことを端的に表すものである。「審査要領」(甲49)のまえがきにおいても,「建築物の構造計算方法,使用材料及び施工方法に関する技術の発展はめざましく,建築基準関係規定のうち構造耐力に関する規定の適用にあたっては,とくにこのようなケースが多」いとされている。 建築物の構造のモデル化については,法令上,その方法について特段の規定が設けられているわけではない。しかしながら,構造計算によって建築物の安全性を確かめるためには,建築物の構造を適切にモデル化した上で構造計算を行うことが必要であり,設計者の独自の判断により実態に合わない危険なモデル化を行えば,一見すると構造耐力に関する建築基準関係規定に適合しているように思われても,実際には,建築物の構造が危険なものとなってしまうのであり,そのような危険なモデル化を放置することは,結局のところ,構造耐力の規制方法として,一定の建築物につき安全性を確保するために構造計算を要求したこと自体を無意味とするものである。 したがって,建築基準法は,モデル化について,それを完全に設計者の自由に委ねる考えではなく,一定の建築物につき構造計算により構造の安全性を確かめることを定めた趣旨に照らし,建築の専門家としての国家資格を有する建築士が備えているはずの建築工学に関する専門的知見を踏まえて,適切 えではなく,一定の建築物につき構造計算により構造の安全性を確かめることを定めた趣旨に照らし,建築の専門家としての国家資格を有する建築士が備えているはずの建築工学に関する専門的知見を踏まえて,適切にモデル化をなすべきことを期待しているのであって,建築士の行ったモデル化が明らかに不適切であり,それが構造計算に重大な影響を及ぼす危険なものである場合には,そのようなモデル化に基づいてなされた構造設計は実質的に構造耐力に関する建築基準関係規定に適合しないものと判断すべきである。 イ被告県は,構造計算の一過程である応力計算に関して建築基準関係規定で定められているのは,「荷重・外力計算」の「荷重・外力」そのものと「荷重・外力の組み合わせ」及び「部材断面算定」に用いる「許容応力度」のみであり,その他の応力計算の方法やモデル化については法令に定めがなかったことから,それらの点について建築主事の建築確認審査の内容には含まれないなどと主張する。 しかしながら,前記アのとおり,建築の専門家としての常識的判断に照らして明らかに不適切なモデル化によって,建築物の構造が危険なものとなるような構造設計上の問題点が生じており,建築の専門家である建築主事が,通常の審査過程の中で上記問題点を認識し得るにもかかわらず,それを放置することが建築確認審査として許容されるとは到底解されず,被告県の上記主張は採用することができない。 (3) 建築基準関係規定適合性の判断基準ア前記(1)のとおり,建築確認審査が原則として建築基準関係規定適合性を審査するものであるとしても,建築主事が建築確認審査をなすに当たっては,建築基準関係規定に明示された技術的基準のみならず,一般的に通用する技術的基準についても,建築基準関係規定適合性を判断するための一要素として考慮すべきものと解される。 確認審査をなすに当たっては,建築基準関係規定に明示された技術的基準のみならず,一般的に通用する技術的基準についても,建築基準関係規定適合性を判断するための一要素として考慮すべきものと解される。 すなわち,建築物の構造設計に関して,その当否が解明されていない技術的見解等が数多く存在すること自体は否定できないが,建築物の安全性を確保するという観点から広く認められる一般的な技術的基準が存在する場合には,特段の事情がない限り,それに従って構造設計をなすべきであり,構造耐力に関する建築基準関係規定(法20条以下)もそのことを当然の前提としているというべきである。 被告県は,建築基準関係規定に明示的な定めのない事項については,一般的な技術的基準が存在したとしても,それに従う必要がなく,また,それに従わないで構造設計を行ったとしても何ら問題がないかのように主張するが,建築基準法が構造耐力に関する定めのほとんどを下部法令に委ねている趣旨に照らしても,建築士が一般的な技術的基準を無視して明らかに構造上の安全性を欠く建築物を設計することまで法令上許容されているなどと解することはできず,被告県の上記主張は採用することができない。 イ関係資料前記第2の3(2)イの関係資料のうち,「建築物の構造規定」,「Q&A集」及び「審査要領」はいずれも,各種団体が刊行する文献ではあるが,その内容は,所轄官庁(国土交通省(旧建設省)住宅局建築指導課)や建築主事の団体(日本建築主事会議)が監修しており,建築主事の審査事務としての適切かつ統一的な運用を図るために必要な標準的取扱事項をまとめたものである(甲49)。とりわけ,「建築物の構造規定」については,問い合わせ先を愛知県建築部建築指導課とする本件取扱開始文書により,愛知県内の特定行政庁で構成される団体において,その運用 をまとめたものである(甲49)。とりわけ,「建築物の構造規定」については,問い合わせ先を愛知県建築部建築指導課とする本件取扱開始文書により,愛知県内の特定行政庁で構成される団体において,その運用を開始する旨を広く公表しているのであって,いずれの文献も前記アの一般的に通用する技術的基準を記述したものとして位置づけられるものである。 同様に,「チェックリスト」・「設計指針」(甲17の1)は,社団法人愛知県建築士事務所協会が発行した文献ではあるが,愛知県建築部建築指導課が監修し,これにより適切な構造設計を推進するなど,実質的には被告県としての公式の運用指針を明らかにしたものであり(N41頁),少なくとも愛知県内で建築される建築物に関しては,一般的な技術的基準としての通用性を有するものである。 ウ被告県は,前記イの各文献は,各種団体が建築工学に関する自らの専門的知見を発表し,構造計画の策定や構造設計,さらには構造計算の方法について具体的に提案しているものにすぎず,建築主事が建築確認審査において上記各文献に記載された内容を建築基準関係規定適合性の判断に用いなければならないわけではないなどと主張する。 しかしながら,前記イのとおり,各文献は,建築物の構造設計について安全性を審査する側(建築主事)の視点で編集されたものであり,また,その記述に含まれる技術的基準は一般的通用性を持つものであること,実際に,被告県の建築主事において設計者に対して上記各文献に基づき建築確認申請に係る設計の訂正を指示していること(乙29,17頁),建築確認審査において設計に関する新しい考え方に対する疑問を解決する際にも使用されていること(D1頁)などに照らすと,上記各文献が建築確認審査において建築基準関係規定適合性を判断する際の資料となり得ることは否定できず,とりわけ る新しい考え方に対する疑問を解決する際にも使用されていること(D1頁)などに照らすと,上記各文献が建築確認審査において建築基準関係規定適合性を判断する際の資料となり得ることは否定できず,とりわけ,「設計指針」は,被告県として推奨する構造設計の指針であるから,被告県において建築確認審査事務を担当する建築主事としては,上記各文献の記述内容に抵触する構造設計がされていることが明らかである場合には,その設計について,設計者の真意(設計意図)を確認するなど,「設計指針」に記述された構造設計の指針を活かすために,何らかの措置を講じることが求められているというべきである。 (4) 建築主事の調査の義務ア以上からすると,建築主事としては,モデル化の当否についても一応審査の対象とし,建築に関する専門家の常識に反するようなモデル化がされている場合には,少なくともその真意を設計者に確かめるべきであり,また,建築の専門家の間で一般的に通用する技術的基準に反するような構造設計がされている場合も同様であって,そのような調査確認も建築確認審査の一内容をなすものというべきである。 イこれに対して,被告県は,建築主事が行う建築確認が裁量の余地のない確認的行為であることから,建築主事において建築計画が建築基準関係規定に適合すると判断した以上,確認するか否かについて裁量権を有しておらず,建築主事に何ら義務違反はないとも主張する。 しかしながら,判例(最高裁判所昭和55年(オ)第309号,第310号同60年7月16日第三小法廷判決・民集39巻5号989頁)は,「建築主事が当該確認申請について行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものと解するのが相当であるから,審査の結果,適合又は不適合の確認が得られ,法93条所定の消防長等の同意も得られる 確認申請について行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものと解するのが相当であるから,審査の結果,適合又は不適合の確認が得られ,法93条所定の消防長等の同意も得られるなど処分要件を具備するに至つた場合には,建築主事としては速やかに確認処分を行う義務がある」としつつも,「建築主事の右義務は,いかなる場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができないというべきであつて,建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合のほか,必ずしも右の同意のあることが明確であるとはいえない場合であつても,諸般の事情から直ちに確認処分をしないで応答を留保することが法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは,その間確認申請に対する応答を留保することをもつて,確認処分を違法に遅滞するものということはできない」として,一定の限度で建築確認審査において建築主事が判断を留保することを許容する。 これを前提とすれば,前記アのように建築に関する専門家の常識に反するようなモデル化がされている場合や,建築の専門家の間で一般的に通用する技術的基準に反するような構造設計がされている場合においては,建築主事が,その疑問点を設計者に質問し,それに対する応答を待ち,その間は確認処分を留保したとしても,社会通念上合理的と認められるものである。そうすると,上記のような特段の事情がある場合には,建築計画が形式的に建築基準関係規定に適合するとしても,建築主事が直ちに建築確認をしなければならないというものではなく,建築確認が確認的行為であることをもって,前記アの調査義務が否定されることにはならない。 したがって,被告県の上記主張は採用することができない。 本件建築主事の義務違反及び過失(争点(2))前記1及び 認が確認的行為であることをもって,前記アの調査義務が否定されることにはならない。 したがって,被告県の上記主張は採用することができない。 本件建築主事の義務違反及び過失(争点(2))前記1及び2を前提に,後記(1)の本件建築確認に関する審査状況を踏まえて,後記(2)以下において本件建築確認における本件建築主事の過失の有無を判断する。 (1) 本件建築確認申請等ア本件建築確認申請前記第2の2(2)のとおり,本件建築確認申請は,建築主を原告,設計者をC建築士,設計事務所を一級建築士事務所である平成設計として平成13年11月16日になされている。 建築主である原告は,Fその他役員及び従業員の中に建築の専門家がおらず(原告代表者11頁),本件建築確認申請に先立って平成設計との間で本件設計等契約を締結するとともに,本件建築確認申請,確認済証受取,建築工事届提出,中間検査申請手続,中間検査合格証受取,完了検査申請手続,検査済証受取,取止・取下届提出,現場検査立会の各行為について同日付けでC建築士に委任している(甲1の1の2)。 本件建築確認申請書に添付されたC建築士作成名義の設計図書のうち,構造図は18枚であり,本件建築物の規模からすると,比較的構造図が少なく(K3頁),耐震壁の枠柱が1種類しか存在しない(甲1の5の3,20頁,N27頁)など,柱,梁等の種類も多くはない(甲1の4)。また,その構造も1階が完全なピロティ型式であり,2階から10階までが耐震壁のみで耐力を持たせる構造であり,建築物としては単純な構造体であった(K4頁)。 イ本件建築主事前記第2の2(2)のとおり,本件建築確認は,本件建築主事により平成13年12月27日付けでなされている。 本件建築主事は,昭和45年4月に愛知県庁に入庁し,昭和48年1月に一級建築士免許を取 主事前記第2の2(2)のとおり,本件建築確認は,本件建築主事により平成13年12月27日付けでなされている。 本件建築主事は,昭和45年4月に愛知県庁に入庁し,昭和48年1月に一級建築士免許を取得し,翌昭和49年12月に建築主事資格を取得した後,平成18年3月に愛知県職員を退職するまでの間,公共建築物の設計,工事監理等に関する事務を所掌する営繕計画課及び営繕課に通算して8年間在籍したほか,建築確認審査事務にも8年間携わっており,本件建築確認をした当時の役職は知多事務所の建築課長であった。 本件建築確認当時,知多事務所においては,本件建築主事を含めて5人の建築主事が建築確認審査事務を担当しており,その構成で平成13年度には2000件以上の建築確認審査事務を行っていた(乙19,3頁)。 ウ本件建築主事による建築確認審査本件建築主事は,自身が建築確認審査を担当する建築確認申請書一式には審査事務に関する備忘録としてメモ書きをすることが一般的であり,そのようなメモ書きを見ればその申請書に対する審査内容について記憶を喚起することができ,又はある程度推測できるが,本件建築確認申請については,被告県が保存期間が経過した本件建築確認申請書一式を既に廃棄しており,また,本件建築確認後に担当した建築確認審査の件数も相当数に上るため,審査内容の詳細は覚えていないとしつつ,通常の審査手順を踏まえて,本件建築確認申請に対する審査状況を以下のとおり述べている。 (ア) 本件建築確認申請書添付の各種図面(甲1の2~甲1の4)及び本件構造計算書(甲1の5)を綴りから取り外した上で,建築確認申請書の様式(第一面から第五面まで(甲1の1の1))の全体を眺め,申請された建築物の建築計画をイメージした上で,内容の審査に進んだ。 建築確認申請書の様式に関しては,第一面において た上で,建築確認申請書の様式(第一面から第五面まで(甲1の1の1))の全体を眺め,申請された建築物の建築計画をイメージした上で,内容の審査に進んだ。 建築確認申請書の様式に関しては,第一面において地番の誤りがあり,また,第三面から第五面にかけて集団規定に関する事項(容積率,建築面積,延べ面積など)の誤りが存在することが判明したため,設計者にその旨伝え,意匠関係の正しい図面の提出を求めるとともに,関係箇所の修正を求め,設計者により修正等がなされた(乙19,9~11頁)。 (イ) 次に,構造耐力以外の単体規定に関する事項の審査を行ったが,まず建築物のイメージをもとに,建築基準関係規定のうち適用される規定を確認した上で,申請書の第四面(甲1の1の1,5頁,6頁)の建築物概要及び第五面(同7~12頁)の「建築物の階別概要」を見ながら,広げておいた各種図面の記載内容(一般構造,防火・避難,各種設備等)について,建築基準関係規定適合性を審査した(乙19,11頁,12頁)。 (ウ) その後,構造耐力に関する審査を行ったが,まず,広げておいた意匠関係の図面に続いて,構造関係の図面をあらかじめ一通り目を通した上で,それによって把握した建築物のイメージをもとに,構造設計概要書(甲1の5の1,1頁,2頁)の内容等から,構造計算を試みた建築物と申請書の様式や各種図面等に記載された建築物との同一性(建築物の用途,工事種別,規模,階数,軒の高さ,構造型式など)を確認した(乙19,12頁,13頁)。 次に,構造計算に使用されたプログラムの種類,設計者が荷重・外力等の計算上仮定した条件が建築基準関係規定で定められた数値等を使用してなされているかどうか,採用された設計ルート及びそれにより求められた計算結果が建築基準関係規定に適合しているかどうかを順次審査した(乙1 上仮定した条件が建築基準関係規定で定められた数値等を使用してなされているかどうか,採用された設計ルート及びそれにより求められた計算結果が建築基準関係規定に適合しているかどうかを順次審査した(乙19,13頁,D5頁)。 具体的には,構造設計概要書(甲1の5の1)及び構造計算書(甲1の5の2)により設計者が仮定した荷重及び外力が建築基準関係規定に適合するかどうかを,構造計算書(甲1の5の2)により本件構造計算が大臣認定プログラムの一つである本件プログラムで計算されたことを,構造設計概要書(甲1の5の1)により本件設計ルートを採用したことを,二次設計の構造計算書(甲1の5の4,22~25頁)により同設計ルートの採用が可能であることを,それぞれ確認した(乙19,13頁,D5~7頁)。 その上で,与えられた条件に基づいた計算結果が建築基準関係規定に適合するかどうかを確認した(D7頁)。その際,構造耐力上主要な部分である柱,梁及び耐震壁などについて,構造計算書上で計算された計算結果として算出された断面形状が建築基準関係規定に適合するか,構造関係の図面と整合しているかを確認したが,柱,梁,及び耐震壁等について隅々まで構造関係図と照合することは行わず,いくつかの箇所を部分的に照合することにより確認を行った。部材断面計算結果の確認は,断面設計部分(甲1の5の3)により行ったが,「柱の設計」,「柱,大梁接合部の設計」,「大梁の設計」については,大臣認定プログラムである本件プログラムにより計算したものとされていたため,審査を行っていない(乙19,14頁)。 なお,電算出力部分に関しては,最後に表出されるワーニングメッセージ等が表出されているかどうかのみ確認した(D9頁)。 (エ) 結局,本件建築確認申請書(副本)を見る限り,構造設計部分については,本件 お,電算出力部分に関しては,最後に表出されるワーニングメッセージ等が表出されているかどうかのみ確認した(D9頁)。 (エ) 結局,本件建築確認申請書(副本)を見る限り,構造設計部分については,本件建築確認審査の過程において訂正された点はない(D23頁)。 (2) 本件耐震壁のモデル化及び境界梁の設計本件構造計算に当たって本件耐震壁が1枚としてモデル化されており,かつ,本件構造設計において,境界梁が配置されない設計となっていること(以下まとめて「本件モデル化等」という。)は,前記第2の3(2)ウ(ア)のとおりである。 また,設計者が構造計算に先立って行う建築物のモデル化が,一定の範囲で建築確認審査の対象となることは,前記2(2)において説示したとおりである。 本件モデル化等は,本件耐震壁の設計状況(後記ア)からみて,建築の専門家としての常識的判断に明らかに反するものであり(後記イ),かつ,本件構造計算への影響の大きさ,すなわち,本件構造設計に係る本件建築物の危険性にかんがみれば,実質的に本件構造設計が構造耐力に関する建築基準関係規定に適合しないものと判断すべきであり(後記ウ),また,建築主事が通常の審査事務において容易に発見し得べきものであり,それにもかかわらず,本件建築主事が本件モデル化等を放置又は看過して,調査確認をしないまま本件構造設計が構造耐力に関する建築基準関係規定に適合するものと判断したことは,建築主事としての注意義務に違反するものというべきである(後記エ)。 ア本件耐震壁の設計状況本件構造設計においては,本件耐震壁の存在,すなわち2階から10階までの梁間方向の内壁の一部及び外壁を耐震壁としていることは前記のとおりであるが,その具体的構造は以下のとおりである。 (ア) 耐震壁本件耐震壁のうち,内壁の耐震壁(EW20,壁厚 ち2階から10階までの梁間方向の内壁の一部及び外壁を耐震壁としていることは前記のとおりであるが,その具体的構造は以下のとおりである。 (ア) 耐震壁本件耐震壁のうち,内壁の耐震壁(EW20,壁厚20㎝(甲1の4,S-17))の中央にはそれぞれ幅180㎝(有効巾は168㎝(甲1の3の1,A-10~13))の廊下通りが存在し(甲1の4,S-10),廊下通りの左右の耐震壁(幅(厚さ)は各480㎝)を廊下通りの上部に位置する梁(G3)が繋いでいる(甲1の4,S-15)。 東側(バルコニー側)外壁の耐震壁(EW18A,壁厚18㎝)は,その中央に間口180㎝の非常口(甲1の4,S-10)が存在し,非常口の左右の耐震壁を,非常口の上部に位置する梁(G2)が繋ぐ設計である。 西側(階段側)の耐震壁は,その中央に間口約80㎝の非常口(甲1の3の2,A25の屋外避難階段側片開きスチールドア部分参照)が存在し,非常口の上部に位置する梁については,上記東側外壁の耐震壁と同様の設計である(以下,耐震壁の開口部の上部に位置する梁をすべて併せて「本件境界梁」という。)。 以上のとおり,本件耐震壁は,中央部分において,下部が掃き出し(床と同じ高さにあること)で,上部が本件境界梁のみで繋がれているという状態の開口部が2階から10階まで連続しており,廊下通り及び非常口の左右の耐震壁は壁自体での繋がりがない状態である。 (イ) 境界梁(甲1の4,S-15)本件耐震壁を繋ぐ本件境界梁の配筋状況等をみると,内壁の境界梁につき,2階の境界梁(G3)は,断面が横45㎝×縦65㎝であり,上端筋及び下端筋として「D25」(断面積は5.067c㎡)が各3本,腹筋として「D10」(断面積0.7133c㎡)が2本,帯筋として「D13」(断面積1.267c㎡)が20㎝間隔で,それぞれ配筋 上端筋及び下端筋として「D25」(断面積は5.067c㎡)が各3本,腹筋として「D10」(断面積0.7133c㎡)が2本,帯筋として「D13」(断面積1.267c㎡)が20㎝間隔で,それぞれ配筋されている。3階から10階の内壁の境界梁(G3)は,断面が横20㎝×縦60㎝であり,上端筋及び下端筋として「D19」(断面積2.865c㎡)が各3本,腹筋として「D10」が2本,帯筋として「D10」が20㎝間隔で,それぞれ配筋されている。 東西の耐震壁の境界梁については,3階から10階の境界梁(G2)の断面が横35㎝×縦60㎝であるほかは,それぞれの階の内壁の境界梁と同様である。 (ウ) 耐震壁のモデル化以上のとおり設計されている本件耐震壁につき,本件構造計算上は,すべて1枚の耐震壁と評価するモデル化がなされている(甲1の5の3,20頁,H39頁など)。 イ本件モデル化等の問題性本件構造計算において耐震壁を1枚と評価するモデル化は,開口部分の左右の耐震壁が一体として挙動し,地震力に抵抗するものと把握することを意味するが(甲59,3頁),現実の本件耐震壁は,上記のとおり,廊下通り又は非常口により,外形的には壁自体の繋がりがなく,いわば分断されている壁でしかない状態であって,同様の構造が2階から10階まで連続しているのである。また,本件境界梁,とりわけ3階から10階までの内壁の耐震壁を繋ぐ梁は,断面が小さく(D26頁),その配筋も少ない相当脆弱な梁であることからすれば,左右の2枚の耐震壁を一体化させるような境界梁と評価することは到底できない(甲59,3頁,7頁,甲60,7頁,甲61)。 本件耐震壁については,本件各検証の結果を踏まえた上で,被告県の建設部建築指導課の立場から,Gにおいて,本件耐震壁を1枚とは常識として見られないと述べ(甲4 ,3頁,7頁,甲60,7頁,甲61)。 本件耐震壁については,本件各検証の結果を踏まえた上で,被告県の建設部建築指導課の立場から,Gにおいて,本件耐震壁を1枚とは常識として見られないと述べ(甲43,10頁),H及びIにおいて,本件耐震壁は,壁が切れて梁しか残っていない状態であり(乙29,24頁),本件境界梁に関して,「現実問題として,中廊下の部分については構造的な弱点になるおそれが高い」(乙29,20頁,22頁),すなわち震度6強,震度7のような大地震により廊下の梁部分がせん断破壊を起こすことが確実であるとした上,本件耐震壁を分けて計算することが本来の方法で(同24頁),2枚で検討してもらいたいとし(同36頁),本件耐震壁を1枚と評価するモデル化により構造計算がなされたものについては,耐震強度が1.0を超えていても指導することが正しいとも述べていること(同23頁)なども併せ考慮すると,建築の専門家の常識的判断として,本件耐震壁を1枚と評価するモデル化が不適切であることは明らかである。 そして,本件耐震壁を2枚と評価することで,本件建築物の梁間方向の耐震強度は,「1.14」から「0.42」と大幅に減少して,法令の基準(1.0)をはるかに下回るのであり,本件耐震壁を1枚の壁と評価したことは,構造計算に重大な影響を及ぼし,本件建築物の構造設計において致命的な欠陥をもたらすものであるから,実質的にみて構造耐力に関する建築基準関係規定に適合しないものというべきである。 ウ被告県は,本件耐震壁を1枚と評価するか,2枚と評価するかに関する基準は存在せず,どちらも採用し得る考え方であるし,境界梁についても統一的見解は存在せず,設計者の工学的な判断に委ねられる事項であったから,本件耐震壁を1枚と評価し,かつ境界梁の設計をしていないことをもって構造 ,どちらも採用し得る考え方であるし,境界梁についても統一的見解は存在せず,設計者の工学的な判断に委ねられる事項であったから,本件耐震壁を1枚と評価し,かつ境界梁の設計をしていないことをもって構造耐力に関する建築基準関係規定に適合しないと判断することはできないと主張し,建築主事資格者ら(L,H,N及びD)も同旨を述べる。 (ア) しかしながら,Hは,前記第2の2(6)アのFとの話合いの場において,梁間方向の補強は必要ないのではないかというFの質問に対しては,本件耐震壁を1枚壁と見ることも可能と留保を付しながら,2枚と評価すると強度が弱くなることが想定されることから,補強されるのであれば,梁間方向についても補強をしたらどうかと話した旨証言するものの(H17頁,26頁),実際は補強を勧めるに際し,本件耐震壁は,壁が切れており,梁しか存在しないことなどから,分けて計画する方を推奨する趣旨の発言もしていることからすれば(乙29,24頁,36頁),H自身,本件耐震壁を1枚と見ることは容易ではないと考えていたことがうかがわれ,同証言は信用することができない。 また,Lは,本件耐震壁のような場合,梁間方向の耐震壁を1枚として設計していた設計者が多数派であったことなどが「指定確認検査機関の確認物件から抽出したマンション等103件の調査」の結果などから明らかなどとも陳述するが(乙13,32頁),当該建築物の具体的な構造,抽出方法,建築確認の経緯など,その調査の詳細等は明らかとされていない。加えて,本件耐震壁の評価方法による耐震強度への影響が強く(0.72の差異が生まれる),Hらが,本件耐震壁を1枚と評価する考えもあるとしながら,構造的な弱点になるとし,本件耐震壁の部分につき補強をひたすら勧めている状況などからすれば(乙29,20~26頁),倒壊を含 異が生まれる),Hらが,本件耐震壁を1枚と評価する考えもあるとしながら,構造的な弱点になるとし,本件耐震壁の部分につき補強をひたすら勧めている状況などからすれば(乙29,20~26頁),倒壊を含め,建築物に与える危険性が非常に高い耐震壁の評価方法について,その危険性をあえて無視して,耐震壁を1枚の壁と評価することが多数派であることを首肯し得るほどの十分な根拠は見当たらず,同陳述を直ちに信用することはできない。 (イ) 以上のとおり,構造計算に先立つ建築物のモデル化が一般的には設計者の工学的判断に委ねられているとしても,本件耐震壁を1枚と評価してモデル化することは建築の専門家としての常識的判断に反する明らかに不適切なモデル化であって,かつ,これにより本件構造計算に重大な影響を及ぼし,法令が求める耐震強度が確保されない危険な構造体である本件建築物が設計されているのであるから,このようなモデル化の当否は,それが通常の建築確認審査事務の過程で把握され得るものである限り,建築確認審査の対象となると認められるものである。したがって,被告県の前記主張は採用することができない。 エ本件建築主事の過失(ア) 鉄筋コンクリート造の建築物について,耐震壁の評価方法は,本件建築物の地震による倒壊の危険性を基礎付ける重要部分である(甲59,1頁)。本来建築物が有すべき耐震強度は「1.00」以上であるが,本件耐震壁の評価によって,本件建築物の耐震強度は,梁間方向において「1.14」(1階柱)から「0.42」(6階梁)となるところ,本件耐震壁の評価が重要であることは,本件建築物が,2階から10階までを耐震壁によりすべての耐力を支える構造であることから直ちに認識でき(甲59,2頁),かかる特徴的な構造は,意匠図の平面図(甲1の3の1,A-10~13),立面図 ,本件建築物が,2階から10階までを耐震壁によりすべての耐力を支える構造であることから直ちに認識でき(甲59,2頁),かかる特徴的な構造は,意匠図の平面図(甲1の3の1,A-10~13),立面図(同A-15,A-16),及び確認審査においても披見する構造図(伏図及び軸組図など(甲1の4,S-6,S-7,S-10))から容易に把握できる(K3頁,4頁,D23頁)。 (イ) ところで,本件耐震壁を1枚と評価して構造設計がされていることは,耐震壁の設計に関し,「EW20」及び「EW18A」のスパン長が「11.40m」とされていることから読み取ることができるが(甲1の5の3,20頁),同設計部分は建築確認審査の対象となり(D32頁),通常の審査をもってしても,本件耐震壁が1枚と評価されていることを理解できるものである(H39頁)。他方で,本件耐震壁には非常口又は廊下通りが存在することは,上記伏図ないし軸組図から確認することができ,同伏図や軸組図からは少なくとも絵の上で壁が切れているように見える上(D25頁,26頁),意匠図,軸組図などから境界梁が細いことも明らかである(甲59,3頁)。そして,本件耐震壁を繋ぐ梁の幅や断面が小さく本件耐震壁を1枚の壁として評価することが常識的な判断とはいえないことは,前記イのとおりである。 (ウ) 以上の事実関係のとおり,本件建築物の構造上,本件耐震壁の在り方が耐震強度に与える影響は極めて重大である。すなわち,本件構造設計上,1枚と評価されている本件耐震壁が2枚と評価されることにより,本件建築物は,耐震強度の数値上,本来必要とされる数値(1.0)の半分以下(0.42)の建築物となるのであって,本件構造設計において,本件耐震壁について適切な設計をなすよう特段の配慮が要求される。 そして,上記のような本件構造設 ,本来必要とされる数値(1.0)の半分以下(0.42)の建築物となるのであって,本件構造設計において,本件耐震壁について適切な設計をなすよう特段の配慮が要求される。 そして,上記のような本件構造設計における本件建築物の構造の特徴,本件耐震壁の間の廊下通り等の存在及び本件耐震壁の評価方法は,伏図ないし軸組図などの構造図から明らかであって,このことは建築主事の通常の確認審査事務においても当然に把握されるはずの事柄である。 構造設計に関する建築確認審査は,基本的には申請された建築計画につき構造耐力に関する建築基準関係規定適合性を審査するものであるとしても,一級建築士の国家資格を取得して建築基準適合判定資格者検定に合格した,相応の専門的知見を有する建築主事が行う審査であるから,本件建築確認申請書に添付された設計図書のうち,適切な境界梁の設計がなく,本件耐震壁が分断されていることをうかがわせる本件構造図などの所見により,本件耐震壁を1枚と評価することに対する重大な疑義が当然に生じるはずであり,本件耐震壁を1枚と評価することが建築の専門家としての常識的判断に明らかに反するものといえることからすれば,少なくとも本件建築主事としては,設計者に対し,本件耐震壁の設計その他本件モデル化等に関して,そのような構造設計により本件建築物の安全性を保つことが可能であるとする根拠等を問い合わせるなど,一定の調査をなす注意義務があったというべきである。 (エ) しかるに,証拠上,本件建築主事が,本件モデル化等に関して,設計者に対する問い合わせやその他何らかの調査をしたことをうかがわせる事情は存在せず,結局のところ,かかる調査をしなかったものと認められるから,本件建築主事は前記注意義務に違反したものと認めることができる。 (3) 1階部分がピロティ型式であること本 うかがわせる事情は存在せず,結局のところ,かかる調査をしなかったものと認められるから,本件建築主事は前記注意義務に違反したものと認めることができる。 (3) 1階部分がピロティ型式であること本件建築物がピロティ型建築物で,1階部分がピロティ階であること,「建築物の構造規定」(甲65),本件取扱開始文書(甲64),「設計指針」(甲17の1)などにピロティ型建築物の構造設計に関して一定の記述がなされていることは,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおりである。 また,上記関係資料のうち「建築物の構造規定」が,建築の専門家間で一般的に通用する技術的基準を明らかにしていること,本件取扱開始文書が,被告県内の特定行政庁において「建築物の構造規定」の運用を開始することを公表する趣旨の文書であること,「設計指針」が,被告県においてなす建築確認審査のうち,建築物の構造設計に関して公式の運用指針を明らかにするものであって,愛知県内で建築される建築物に関し一般的に通用する技術的基準を示すものであることは,前記第3の2(3)イのとおりである。 そして,以下のとおり,本件建築物の1階部分をピロティ階とする設計は,一般的に危険な構造と理解されているにもかかわらず,設計上の留意が十分になされておらず,上記関係資料に記述された技術的基準に反するものであり(後記ア~エ),被告県において建築確認審査事務を担当する建築主事としては,本件建築物の構造設計の上記特徴及び上記技術的基準も当然に把握すべきであるから,本件建築主事が上記設計を放置又は看過して,調査確認をしないまま本件構造設計が構造耐力に関する建築基準関係規定に適合するものと判断したことは,建築主事としての注意義務に違反するものというべきである(後記オ)。 ア本件建築物は,2階から10階までの梁間方向の外壁(EW18 が構造耐力に関する建築基準関係規定に適合するものと判断したことは,建築主事としての注意義務に違反するものというべきである(後記オ)。 ア本件建築物は,2階から10階までの梁間方向の外壁(EW18A)及び間仕切り壁を除く内壁(EW18),並びに桁行方向の外壁(EW18)が耐震壁として設計されるなど(甲1の4,S-9,S-10),2階から10階まで耐震壁が連続して配置され,他方,1階部分は,耐震壁が一切存在せず,柱と梁のみによって耐力を持たせる構造となっている(甲1の4,S-5)。すなわち,本件建築物は,2階から10階まで連層耐震壁(1構面において全階のおおむね8割以上の階に連続して存在する耐震壁の部分(甲17の1,124頁))が設計されている一方,1階は,耐震壁が全く存在しない構造(ピロティ階)であって,ピロティ型式の建築物である。 「ピロティ型建築物の中でもピロティ型共同住宅建築物の被害は,1995年兵庫県南部地震における特徴的被害のひとつ」であり,それら被害建築物の多くは,「ピロティ階において,直上の耐力壁を支持する単独柱(以下,これを「ピロティ柱」という)の軸力変動が非常に大きくなる1スパンの建築物で,ピロティ柱の曲げ降伏またはせん断破壊によるピロティ階への過度の変形集中を生じる層崩壊メカニズムにより崩壊に至った」とされている。ここで,軸力変動とは,構造部材の材軸(構造物を形成する柱,梁などのように断面の大きさに比べ長さの長い部材に対して断面の図心を通るように設定した軸)方向に作用する力が変動することであり,これによる水平変形の程度は,「3層建築物の1階で2.3倍以上」である(以上につき甲65,389頁)。 イ(ア) 「建築物の構造規定」は,上記大震災の被害の実態調査を踏まえて,「剛性が他の階に比較して相対的に小さい階を有す は,「3層建築物の1階で2.3倍以上」である(以上につき甲65,389頁)。 イ(ア) 「建築物の構造規定」は,上記大震災の被害の実態調査を踏まえて,「剛性が他の階に比較して相対的に小さい階を有するような建築物の設計は,①「入力エネルギーをすべてその階で吸収する」,②「ピロティ柱の変形能を十分に確保する」,ことで可能であろうが,これらを現行の規定ではカバーしきれないため特別の検討を行い安全性を確認せざるを得ない。現行規定の枠内でピロティ階を有する建築物を設計するためには,その階での層崩壊を防止する。」として(甲65,389頁),現行の建築基準関係規定の下で安全性を確認するため,ピロティ階での層崩壊を防止するための「特別の検討」を求めている。 第1に,層崩壊防止の方策として,「建築物の特定部分に過度の変形が生じないよう耐力壁等を適切に配置すること。また,変形が集中しやすい階を有する場合には,荷重増分解析等の方法により,建築物の塑性化後の挙動を確認するとともに,当該階の構造部材に十分な強度及び靱性を確保すること。」が示され,その解説として,「構造設計においては,場合に応じて常に設計上安全側となるような工学的判断が要求されるが,このような建築物においては,壁の剛性の評価,崩壊形の判定,想定するメカニズムを保証するための部材設計等において非常に高度な判断が要求される場合が多分にある。従って,これらの建築物では,崩壊等に結びつく過度の変形が特定の階に生じないことを荷重増分解析等の方法により確認しておくことが望ましい。」と説かれ,ピロティ階の層崩壊に結びつく避けるべき架構方式と,ピロティ階で層崩壊しない推奨する架構方式とがそれぞれ図で例示されている。 第2に,ピロティ階におけるピロティ柱及び耐震壁の設計につき,「ピロティ柱の設計は,柱上下端で 結びつく避けるべき架構方式と,ピロティ階で層崩壊しない推奨する架構方式とがそれぞれ図で例示されている。 第2に,ピロティ階におけるピロティ柱及び耐震壁の設計につき,「ピロティ柱の設計は,柱上下端で曲げ降伏となるように設計する。これらの曲げ強度算定用の軸力はメカニズム時のものとする。また,これらのせん断設計はメカニズム形成までに生じうる最大のせん断力に対して余裕をもって行う。」とし,その解説の中で,「余裕をもって」設計することにつき具体的方法及び数値を挙げて説明されている。 第3に,ピロティ階の直上直下の床版の設計について,「ピロティ階の直上,直下の床スラブは,十分な剛性及び強度を確保する。」としている。 (イ) 「審査要領」は,前記アの震災を受けて,平成7年建設省告示第1996号により改正された建設省告示(昭和55年建設省告示第1791号)第3により,ピロティ型式の建築物の構造設計について,本件設計ルートである「ルート2-3では設計は困難となり,一般的にはルート3で対応することになる。」とし,「建築物の構造規定」で次の点を留意する必要があるとされているとして,「審査においてこれらを参考にする。」ことを求めている(甲65,76,L55頁,56頁)。 ①変形が集中しやすい階を有する場合は,適切な解析方法により,塑性化後(部材などに外力を作用させたときに生じる変形が,外力を取り除いた後に,もとの状態に完全に戻らない状態)の挙動を確認する。 ②当該階の部材には十分な強度とじん性を確保する。 ③当該階で層崩壊しないような架構形式とする。 ④架構形式に応じて必要な検討を行う。 ⑤ピロティ柱は,メカニズム形成までに生じ得る最大のせん断力に対してせん断破壊しないようにし,柱上下端で曲げ降伏するように設計する。 ⑥ピロティ柱の軸方向力は,原則と に応じて必要な検討を行う。 ⑤ピロティ柱は,メカニズム形成までに生じ得る最大のせん断力に対してせん断破壊しないようにし,柱上下端で曲げ降伏するように設計する。 ⑥ピロティ柱の軸方向力は,原則として,当該柱の引張耐力の0.75以下,圧縮耐力の0.55以下とする。 ⑦ピロティ柱の構造は,中子筋を配筋するなど,変動軸力や曲げ降伏後の変形等に対応する構造詳細とする。 ⑧ピロティ階の直上,直下の床スラブは,十分な剛性と強度を確保する。 (ウ) 「設計指針」は,連層耐震壁を有する建築物について,「ピロティなど壁の全くない階は鉄筋コンクリート造とすることはできない。」とする(甲17の1,124頁)。 (エ) 前記(ア)及び(イ)の関係資料(抜粋部分)は,大震災の被害実態にかんがみて定められた,建築物の構造の安全性を確保するための設計に関する一定の技術的基準であって,建築物の崩壊メカニズムも分析,解明されているなど建築工学上の根拠を十分に有し,一般的に通用する内容のものといえる。 また,前記(ウ)の定めは,被告県において,前記(ア)の「構造設計においては,場合に応じて常に設計上安全側となるような工学的判断が要求されるが,このような建築物においては,壁の剛性の評価,崩壊形の判定,想定するメカニズムを保証するための部材設計等において非常に高度な判断が要求される場合が多分にある。」という点を踏まえた現実的な結論として,鉄筋コンクリート造の建築物の構造設計について,より具体的に指針を示したものと理解される。 ウしかしながら,本件建築物は前記のとおり2階から10階まで連層耐震壁を有する建築物であるが,耐震壁を一切有しないピロティ階である1階を含めて鉄筋コンクリート造の構造であり,この点において「設計指針」に明らかに反するものである。 また,本件建築物 0階まで連層耐震壁を有する建築物であるが,耐震壁を一切有しないピロティ階である1階を含めて鉄筋コンクリート造の構造であり,この点において「設計指針」に明らかに反するものである。 また,本件建築物は,ピロティ階である1階の層崩壊を防ぐため,ピロティ柱である1階の柱の補強が必要とされ(K18頁,19頁),当該柱が十分な剛性及び強度を有していないことがうかがわれ,ピロティ階が層崩壊しないような架構形式となっているとはいえず,部材に十分な強度があるともいえないなど,「建築物の構造規定」が定め,「審査要領」においても建築確認審査において参考にするよう求めている設計上の留意点を満たすものとは到底認められず,この点において上記技術的基準に反するものである。 エ被告県は,本件建築物の1階柱は,他の階の柱と比較して,その断面,主筋の規格が大きく,せん断補強筋についても,帯筋の間隔が狭く,中子筋が配筋されるなど,一定の設計上の留意がされている旨主張するが,それらは前記各関係資料が求める設計上の留意として十分とはいえない。 すなわち,本件建築物がピロティ型建築物で,1階については耐震壁を一切有しないピロティ階であるという構造上の特徴を有することは前記アのとおりであるが,ピロティ型建築物の危険性が認識され,前記イの各関係資料においてピロティ階の設計に当たっての留意事項が記載されるに至ったのは,建築物に対して甚大な被害を及ぼした前記アの大震災の被害実態調査の成果を踏まえてのものである。 そうすると,上記各関係資料が記述する設計上の留意事項は,ピロティ型建築物を現行法規において例外的に許容するため,安全側への設計上の配慮として相当高度なものを求める趣旨に解するべきであり,「設計指針」が,連層耐震壁を有する建築物につき,ピロティ階を鉄筋コンクリート造の構造と 法規において例外的に許容するため,安全側への設計上の配慮として相当高度なものを求める趣旨に解するべきであり,「設計指針」が,連層耐震壁を有する建築物につき,ピロティ階を鉄筋コンクリート造の構造とすることを例外なく禁じているのも,その設計思想を同じくするものであって,被告県が指摘する程度の設計上の配慮をもって「設計指針」の明示的な定めに反することが許容されるとは到底解し得ないところである。 したがって,被告県の上記主張は採用することができない。 オ本件建築主事の過失(ア) 本件建築物の1階部分が耐震壁を全く有しない完全なピロティ階であることは,確認審査においても審査の対象とする構造図によって容易に把握できることであり(K3頁,4頁),ピロティ階である1階が鉄筋コンクリート造であること(甲1の1の1),本件設計ルートによって設計がされていること(建設省告示第1791号第3の三)は,本件建築確認審査において当然の前提として認識すべき事項である。 「建築物の構造規定」は,その本来の性質はともかく,本件運用開始文書によって,愛知県内の特定行政庁における建築確認審査事務において運用を開始する旨公表されていることからすると,その内容は,前記イ(ア)の部分を含めて,本件建築確認申請の審査を担当する建築主事においても,その職務を遂行するに当たって当然に把握しておくべきものである。 「審査要領」は,建築行政の所轄省庁の建築確認関係担当部署において監修された,建築主事による建築確認審査事務のためのいわゆるマニュアルであり,その内容は,前記ア(イ)で引用されている「建築物の構造規定」の内容を含めて,本件建築確認申請の審査を担当する建築主事においても,その職務を遂行するに当たって当然に把握しておくべきものである。 「設計指針」は,前記2(3)イのとおり, る「建築物の構造規定」の内容を含めて,本件建築確認申請の審査を担当する建築主事においても,その職務を遂行するに当たって当然に把握しておくべきものである。 「設計指針」は,前記2(3)イのとおり,愛知県内で建築される建築物の設計に関して,被告県が公式の運用指針として示したもので,上記の限りでは一般的に通用する技術的基準であるから,被告県の建築主事としては,その職務を行うに当たって当然に内容を認識,把握しておくべきものである。 (イ) 前記(ア)によれば,本件建築物の構造設計のうちピロティ型建築物としての問題点については,本件建築確認審査の中で,構造耐力に関する建築基準関係規定適合性を判断するに当たって当然に審査対象とされなければならず,建築主事の職務上の注意義務の内容をなすものである。 そして,ピロティ階の設計上の留意の有無は,実際に起きた大災害の貴重な教訓として建築物の倒壊の危険性が確認されたことによる設計上の重要な注意事項というべきものであり,本件建築物は,耐震壁が一切ないピロティ階を有する建築物であるから,とりわけ設計上の留意が必要となる特徴的な構造の建築物である。 したがって,建築に関する専門的知見を有する建築主事としては,本件建築物の構造設計の特徴を構造図等により的確に把握し,それが前記各関係資料に反する設計であることを認識した上で,構造上の危険を回避する設計上の留意がなされているか否かを調査確認することはもちろん,被告県の運用指針として連層耐震壁を有する建築物のピロティ階は例外なく鉄筋コンクリート造の構造とすることを禁じていることを適切に理解し,設計者に対して,上記設計の真意,すなわち,安全性確保のための設計上の留意の有無及びその内容を問い質すなどの調査をなすべき具体的注意義務を負っていたものというべきである。 (ウ) を適切に理解し,設計者に対して,上記設計の真意,すなわち,安全性確保のための設計上の留意の有無及びその内容を問い質すなどの調査をなすべき具体的注意義務を負っていたものというべきである。 (ウ) しかるに,証拠上,本件建築主事が,本件構造設計におけるピロティ型建築物に関する問題点に関して,設計者に対する問い合わせやその他何らかの調査をしたことをうかがわせる事情は存在せず,結局のところ,かかる調査をしなかったものと認められるから,本件建築主事は前記注意義務に違反したものと認めることができる。 (4) 1階の柱と梁以外の一次設計での層せん断力の割増し本件建築物が,その構造の種別及び高さにより,「設計指針」で一次設計の層せん断力を1.25倍以上とするよう求められていること,本件構造計算において,1階の柱と梁以外の部材の断面計算につき上記処理がなされておらず,とりわけ耐震壁の設計及び杭基礎の設計において同様であることは,前記第2の3(2)ウ(ウ)のとおりである。 また,「設計指針」が愛知県内で建築される建築物に関する限り,一般的に通用する技術的基準を記述したものであり,一般的には「設計指針」の内容が被告県において建築主事がなす建築確認審査における判断基準として用いられるべきであることは,前記2(3)イのとおりである。 本件構造計算は,耐震壁の設計に関して「設計指針」の上記の定めに反するものであり(後記ア及びイ),本件構造計算書につき具体的発見がさほど困難ではないが,前記2(1)イのように迅速な審査を要請する法令の趣旨を踏まえると,上記の点について本件建築主事に具体的注意義務違反があったものということはできない(後記ウ)。 ア構造設計の一次設計の手順は前記第2の3(1)イ(ア)のとおりであり,本件構造設計が採用する本件設計ルート,又は本来採用す 築主事に具体的注意義務違反があったものということはできない(後記ウ)。 ア構造設計の一次設計の手順は前記第2の3(1)イ(ア)のとおりであり,本件構造設計が採用する本件設計ルート,又は本来採用すべきであったルート3のいずれであっても,構造計算は,①対象建築物のモデル化による架構の認識,②剛性計算,③鉛直荷重(固定荷重,積載荷重等)の計算,④地震力の計算,⑤風圧力の計算,⑥応力計算,⑦設計ルートの判定,⑧設計用応力(代表的な断面に発生している応力を設計に統一的に採用すること。),⑨断面算定(部材算定)の段階を経るのであり,耐震壁の設計及び杭基礎の設計は⑥で計算された応力の数値を基になされる。 本件構造計算書では,電算出力部分の「(7)設計用応力の割増し」の「4)地震荷重による応力」の項目において,層せん断力係数1.25倍を乗じた数値を別途入力して計算するものとされているが(甲1の5の6の1,15頁),これは,上記⑧から⑨に至る時点で割増しをすることを意味するものであり,手計算によって設計されている耐震壁の設計及び杭基礎の設計については,1.25倍の割増しが反映されていないことは,前記第2の3(2)ウ(ウ)のとおりである。 なお,「設計指針」は,一次設計で層せん断力係数(Ci)を1.25倍以上とすることを要求するところ(甲17の1,120頁),かかる層せん断力の割増しを一次設計のどの過程ですべきかは明示していないが(K28頁),そもそも「設計指針」が上記の処理を求める趣旨は,建築物の耐震強度につき安全側に余裕を持たせるためであるから,構造設計において,一部の部材のみに上記処理をすれば足りるものとは到底解されない。 したがって,少なくとも耐震壁の設計において層せん断力係数につき1. 25倍とする処理がされていないことは,「設計指針」に反す おいて,一部の部材のみに上記処理をすれば足りるものとは到底解されない。 したがって,少なくとも耐震壁の設計において層せん断力係数につき1. 25倍とする処理がされていないことは,「設計指針」に反するものである。 イ他方,「設計指針」が一次設計における層せん断力係数を1.25倍することを要求するのは地上部分だけであって,杭基礎については層せん断力を1.25倍とすることまで要求していないと解されるから,本件構造設計のうち杭基礎部分について層せん断力を割増ししていないことは「設計指針」に反するものではない。 これに対して,原告は,杭基礎の設計においても層せん断力係数を1.25倍しなければならないと主張するが,建築基準法施行令88条は建築物の地上部分の層せん断力係数に関してのみ規定しており,「設計指針」の構成を見ると,「第2構造計画の基本的事項」として具体的に掲げる「4構造形式」の項目においては,「地上階の構造形式」をいかなる構造とするかという点に関し,「第3構造設計要領」の各項の条件(層せん断力係数を1.25倍とするという項目も含まれる。)を満足させるか否かということと関連させて記述されていることなどからすると,層せん断力係数を1.25倍するという点も建築物の地上部分のみを対象とするものと解されるところである。 したがって,杭基礎の設計においても,層せん断力係数の割増しを要するという原告の上記主張は採用することができない。 ウ(ア) 前記アのとおり,本件構造設計においては,耐震壁の設計において層せん断力係数を1.25倍していないのであるが,このことは本件構造計算書においても,本件構造設計の水平力に関する書面(甲1の5の1)の標準層せん断力係数(Co)が「0.2×1.25倍」,1階の層せん断力係数(Ci)が「0.2」と記載されている このことは本件構造計算書においても,本件構造設計の水平力に関する書面(甲1の5の1)の標準層せん断力係数(Co)が「0.2×1.25倍」,1階の層せん断力係数(Ci)が「0.2」と記載されていることのほか,地震地域係数(Z),振動特性係数(Rt)及び1階の地震層せん断力係数の分布係数(Ai)の所見から,同一の頁に記載されている内容が矛盾するものであるという意味では,発見がさほど困難であるとはいい難い。 (イ) しかしながら,本件構造計算書においては,形式的にではあるが,標準層せん断力係数を1.25倍する旨が表示されており,前記2(1)イのとおり,迅速な審査を要請する法令の趣旨に照らし,通常の建築確認審査における限られた時間の中で,確認申請書類をことごとく審査することは困難であることなどを考慮すれば,耐震壁の設計において層せん断力が実質的に1.25倍されていないことを看過したことをもって,本件建築主事に具体的注意義務違反があったと断ずることはできない。 (5) 耐震壁の設計用せん断力(水平力)の割増し建設省告示第1791号及び通達に基づき,「建築物の構造規定」では鉄筋コンクリート造の建築物についてルート2で設計する場合には耐震壁の設計用せん断力を大きくとることを求めており,その具体的数値として,「Q&A集」では割増係数2.0以上という具体的数値が記述されていること,本件構造計算においては,本件耐震壁の設計用せん断力の割増係数が1.5とされていることは,前記第2の3(2)ウ(エ)のとおりである。 また,「Q&A集」が,建築の専門家の間で一般的に通用する技術的基準を記述したものであり,一般的にはその内容が被告県の建築主事がなす建築確認審査における判断基準として用いられるべきであることは,前記2(1)イのとおりである。 本件構造計算は,本件 用する技術的基準を記述したものであり,一般的にはその内容が被告県の建築主事がなす建築確認審査における判断基準として用いられるべきであることは,前記2(1)イのとおりである。 本件構造計算は,本件耐震壁の一次設計において割増係数1.50が乗じられているにすぎないから,「Q&A集」の上記定めに反するものであるが(後記ア),通常の建築確認審査の過程で,本件構造計算書につき上記の問題性を発見することが容易ではなく,上記の点について本件建築主事に具体的注意義務違反を認定することはできない(後記イ)。 ア被告県は,「建築物の構造規定」において,全体崩壊メカニズム時の耐震壁のせん断力に割増係数1.5以上の値を乗じることとされていることから(乙10の4),必ずしも割増係数を2.0以上とする必要はないと主張する。 しかし,「建築物の構造規定」の上記記載は,二次設計の性能を担保させる趣旨のものであり(L47頁),一次設計である本件耐震壁の設計とは,その場面を異にする。「建築物の構造規定」の上記記載に従う場合には,全体崩壊メカニズム時の耐震壁のせん断力に1.5以上の割増係数を乗じることとされており,本件構造計算のように,終局時ではなく短期の数値(常時の固定荷重,積載荷重による応力に,地震,暴風,積雪などの非常時の荷重による応力を組み合わせた応力の数値。施行令82条)によりせん断耐力を計算する場合には,慣例的に2.0を使用することとなるのである(乙29,35頁,K16頁)。 そうすると,「建築物の構造規定」に上記記載があることをもって,「Q&A集」の上記定めを排除し得るものではなく,被告県の上記主張は採用することができない。 イ前記アのとおり,本件耐震壁の設計に関して,「79.1」,「110. 8」等の数値が用いられ,一次設計用のせん断力として割増係数1 除し得るものではなく,被告県の上記主張は採用することができない。 イ前記アのとおり,本件耐震壁の設計に関して,「79.1」,「110. 8」等の数値が用いられ,一次設計用のせん断力として割増係数1.5が適用されていることは,相応の注意力をもって本件構造計算書を審査すれば把握できるはずであり,「Q&A集」を参照し,上記問題点を発見することは可能ということができる。 しかしながら,そのためには本件電算出力部分から転記元(甲1の5の6の2,30頁,41頁など)を探し出す必要があるが,そのような転記元の確認は通常の建築確認審査における時間的制限の下では決して容易であるとはいえない。また,本件構造計算書には本件電算出力部分が添付されているが,本件構造計算においては大臣認定プログラムである本件プログラムを用いているため,本来は本件電算出力部分の建築確認申請書への添付を要しなかったのであり,たまたま本件電算出力部分が添付されていても建築主事の審査の対象とはならないことは,前記2(1)ウのとおりである。加えて,前記2(1)イのとおり,建築確認審査が構造計算に関しては基本的にサンプルチェックの方法により行われていることなどを考慮すれば,設計用せん断力の割増係数の問題を看過したことをもって,本件建築主事に具体的注意義務違反があったものと判断することはできない。 (6) 枠柱のHOOP筋の規格枠柱のHOOP筋の規格が,本件建築確認申請書の添付書類のうち構造図と本件構造計算書とでそごしており,本件構造計算が,実際に用いられたHOOP筋よりも強度の強い規格のHOOP筋であることを前提に計算されていることは,前記第2の3(2)ウ(オ)のとおりである。 また,「チェックリスト」が,建築確認審査に関する被告県の公式の運用方針を明らかにした図書であり,その中に「図面 筋であることを前提に計算されていることは,前記第2の3(2)ウ(オ)のとおりである。 また,「チェックリスト」が,建築確認審査に関する被告県の公式の運用方針を明らかにした図書であり,その中に「図面チェック上での留意事項」として,構造計算概要書の内容と構造計算書の内容の矛盾の有無が挙げられていることは,前記第2の4(2)イ(オ)にて原告が指摘するとおりである。 しかしながら,構造計算概要書の各図面の内容と構造計算書の内容の整合性を網羅的にチェックすることは困難であって,そもそも建築確認審査において建築確認申請書及び添付書類のすべての内容を確認すべきものとは到底いえないことからしても,上記のような網羅的なチェックを建築主事の審査義務の内容と解することはできない。 したがって,上記問題点を看過したことをもって,本件建築主事に具体的注意義務違反があったものと判断することはできない。 (7) 枠柱の主筋の本数建築基準関係規定(施行令77条5号)によれば,柱の主筋は,その断面積の和が柱の断面積の0.8%以上でなければならないこと,本件耐震壁の枠柱の主筋の断面積の和は23.4c㎡でなければならないが,本件構造設計では,22.92c㎡(主筋の断面積の0.078%)であって,上記規定に反していることは,前記第2の3(2)ウ(カ)のとおりである。 また,「チェックリスト」が,建築確認審査に関する被告県の公式の運用方針を明らかにした図書であり,その中に「図面チェック上の留意事項」として「柱リスト」につき主筋のコンクリート全断面積比が挙げられていることは,前記第2の4(2)における原告の指摘のとおりである。 上記の問題点は,本件建築確認申請書の添付書類の一つである「柱リスト」(甲1の4,S-14)等を確認した上で,上記柱の断面積及び鉄筋の断面積の和を計算するこ (2)における原告の指摘のとおりである。 上記の問題点は,本件建築確認申請書の添付書類の一つである「柱リスト」(甲1の4,S-14)等を確認した上で,上記柱の断面積及び鉄筋の断面積の和を計算することにより発見することが可能である。 しかしながら,本件耐震壁の枠柱の断面積及び主筋の断面積の和はいずれも,本件構造計算書その他本件建築確認申請書(添付書類を含む。)に直接記載されているわけではないから,建築主事においていわゆる検算をしない限り,上記問題点は明らかとならない。建築確認審査において,構造計算に関して何らかの計算がなされている箇所は,手計算部分に限っても多岐にわたるから,通常の建築確認審査の過程(前記2(1)イ)で,そのすべての箇所を検算することは不可能ないし非現実的であり,上記のような網羅的なチェックを建築主事の審査義務の内容と解することはできない。 原告は,主筋の断面積比を確認すべき枠柱は1種類しかなく,そもそも枠柱の断面積比は重要事項であるから,いわゆる抜き取り検査の対象にすべきである旨主張するが,記載上一見して何らかの疑問が生じる箇所でない限り,上記のような検算を建築主事に要求することは不適切というべきであって,原告の上記主張は採用し得ない。 したがって,上記問題点を看過したことをもって,本件建築主事に具体的注意義務違反があったものと判断することはできない。 (8) 耐震壁の設計につき,採用しているせん断力の数値本件耐震壁の設計に当たって,せん断力として最大値(最大応力度)を採用すべきところ,2か所で2番目の数値を採用していること,これが構造計算の基本的考え方に反するものであることは,前記第2の3(2)ウ(キ)のとおりである。 上記問題点は,本件構造計算書のうち耐震壁の設計部分(甲1の5の3,20頁)と本件電算出力部分(甲1の が構造計算の基本的考え方に反するものであることは,前記第2の3(2)ウ(キ)のとおりである。 上記問題点は,本件構造計算書のうち耐震壁の設計部分(甲1の5の3,20頁)と本件電算出力部分(甲1の5の6の2,28頁,30頁,31頁,35頁,41頁,45頁)とを比較することにより発見することが可能である。 しかしながら,そもそも本件建築確認申請には電算出力部分の添付を要しないから,本件建築確認申請書の添付書類の中に電算出力部分が含まれていても,これを建築主事において審査すべき義務はなく,原告の主張するとおり,本件構造設計の審査における重要事項であるとしても,上記のとおり本件電算出力部分との対照比較を要する上記問題点を当然に確認すべきものとはいえないし,通常の建築確認審査の過程(前記2(1)イ)において,手計算部分のすべてについて最大値の洗い出し等の作業を要求することも不適切である。 したがって,上記問題点を看過したことをもって,本件建築主事に具体的注意義務違反があったものと判断することはできない。 (9) 耐震壁の周囲の枠フレームの設計「設計指針」においては,耐震壁の周囲の柱及び梁等のいわゆる枠フレームの設計に当たって,長期軸力の5%程度を柱の設計用せん断力とすることが要求されていること(甲17の1,119頁),本件構造設計においては,本件耐震壁につき枠フレームの設計がなされていないことは,前記第2の3(2)ウ(ク)のとおりである。 また,「設計指針」が,建築確認審査に関する被告県の公式の運用方針を明らかにした図書であり,被告県の建築主事としては,建築確認審査をなすにあたって建築基準関係規定に適合するか否かの判断基準として用いるべきであることは,前記2(3)イのとおりである。 上記問題点は,本件構造計算書に枠フレームの設計に該当する箇所 は,建築確認審査をなすにあたって建築基準関係規定に適合するか否かの判断基準として用いるべきであることは,前記2(3)イのとおりである。 上記問題点は,本件構造計算書に枠フレームの設計に該当する箇所がないことから,発見することが可能であるといえなくもない(甲59,7頁)。 しかしながら一般的に,提出された書面の積極的な記載から疑義が生じる場合と異なり,記載がないことを疑問視するのは必ずしも容易ではない。 なお,上記問題点は,本件耐震壁の評価につき常識的な設計がされてないなどから容易に分かることであるという意見もあるが(甲59,7頁),本件耐震壁の在り方と枠フレームの設計とは直接的に結び付く問題ではないことからすれば,上記意見は採用することができない。 以上によれば,上記問題点を看過したことにつき,本件建築主事に具体的注意義務違反があったものと判断することはできない。 (10) 1階柱(1C1)のせん断力本件構造設計において,本件プログラムの計算結果が偽装されており,本件構造計算書では,1階柱(1C1の柱)の設計用せん断力が「161. 2」,「151.6」とされているが,正しく計算すれば「334.4」,「313.6」となって,その結果,上記柱が法令上要求されるせん断耐力を有していないことは,前記第2の3(2)ウ(ケ)のとおりである。 しかしながら,上記問題点は,被告県の本件各検証と同様に,本件プログラムにおいて正しく数値を入力して改めて計算することによって判明するものであり,建築確認審査の性質上,本件構造計算書のうち本件電算出力部分につき,使用されている大臣認定プログラムにより検算することを要求することは明らかに不適切であるから,上記問題点に関して,本件建築主事の具体的注意義務違反を見出すことはできない。 (11) 2階接合部のせん断耐力本件 る大臣認定プログラムにより検算することを要求することは明らかに不適切であるから,上記問題点に関して,本件建築主事の具体的注意義務違反を見出すことはできない。 (11) 2階接合部のせん断耐力本件構造設計において,本件プログラムの計算結果が偽装されており,本件構造計算書では,2階の柱と梁の接合部のせん断耐力につき,終局状態の許容せん断力を問題とする項目である「Vju/Qdn」の数値がいずれも1.0以上となっているが,正しく計算すれば,2か所で1.0を下回る部分があり,その結果,2階の上記接合部が法令上要求されるせん断力を有していないことは,前記第2の3(2)ウ(コ)のとおりである。 しかしながら,上記問題点は,被告県の本件各検証と同様に,本件プログラムにおいて正しく数値を入力して改めて計算することによって判明するものであり,建築確認審査の性質上,構造計算書のうち電算出力部分につき,使用されている大臣認定プログラムにより検算することを要求することは明らかに不適切であるから,上記問題点に関して,本件建築主事の具体的注意義務違反を見出すことはできない。 (12) 小括前記(2)ないし(11)によれば,本件建築主事は,本件建築確認審査に当たり,本件耐震壁の評価を含む本件モデル化等の問題(前記(2))及び本件建築物がピロティ型建築物であることによる設計上の問題(前記(3))に関して,設計者に問い合わせてその真意(設計意図)を確認するなどの調査をなすべき職務上の注意義務があるのにこれを怠ったものであり,この点につき国家賠償法上の違法性及び過失が認められる。 被告総研らの責任の存否(1) 前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる(なお,認定事実につき,必要な範囲で証拠判断(補足説明)も示す。)。 ア被告総研の組織及 。 被告総研らの責任の存否(1) 前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる(なお,認定事実につき,必要な範囲で証拠判断(補足説明)も示す。)。 ア被告総研の組織及び業務内容等(ア) 被告総研の組織及び業務内容被告総研は,昭和46年1月30日付けで設立登記された株式会社であり,商業登記簿上の目的として,「企業診断.経営指導.教育訓練. 市場調査」,「経営関係の講習会の開催」,「経営関係書籍の発行」,「教育機材.教育資料の販売」,「ビジネスホテルの経営」,「前各号に附帯する一切の業務」を挙げているところ,本件当時,社内の組織として建設業経営指導部及びホテル指導部という2つの部門が存在した。 建設業経営指導部は,中小の建設業者に対し,営業の手法,現場管理の方法・考え方,積算の方法等の面で経営指導を行うことを業務内容とする(丙8,1頁)。 ホテル指導部は,ビジネスホテル事業を行おうとする者に対して,市場調査や事業計画の策定から,予定された時期にビジネスホテルを開業させるため,ホテル運営面,すなわち,客室・ロビーのレイアウト,設備機器や什器の選定,従業員の教育等,適時適切にホテル開業に必要な指導をすることを主な業務とする(丙9,2頁)。 日本国内において一般に,経営コンサルタント業者の中で,建設業者に対する経営指導を専門とする業者は少なく,その中で,ビジネスホテルの開業指導を行う業者は極めて珍しく,被告総研は,その両者を兼ね備えているという点で,被告Aによれば唯一といってもよい程の特色を有する存在であった(被告A69頁,70頁)。 (イ) 被告Aの立場被告Aは,被告総研の設立に先立つ昭和31年ころ,「A経営コンサルタント事務所」の名称で経営コンサルタント業務を開始し,ビジネスホテルの経営指導については昭和44 ,70頁)。 (イ) 被告Aの立場被告Aは,被告総研の設立に先立つ昭和31年ころ,「A経営コンサルタント事務所」の名称で経営コンサルタント業務を開始し,ビジネスホテルの経営指導については昭和44年ころから業務を開始する中で,被告総研の設立に至った。 被告総研設立後の被告Aは,その発行済み株式の3分の2又は3分の2強を保有し,代表取締役所長として被告総研の業務全体を統括する中で,昭和49ないし50年ころから建設業者に対する経営コンサルタント業務に特化し,昭和50年半ばころからビジネスホテルの建築指導も開始するという形で,被告総研の事業の方向性を定めた(被告A17頁,44頁)。 被告Aは,本件経営指導契約締結当時も,ゼネラル・マネージメント・コンサルタントという肩書を用いて(甲37の1),ビジネスホテル開業指導の見込み客に対する営業活動の大部分を率先して行っていた(O9頁)。 (ウ) 被告A以外の人員被告総研に所属する各コンサルタントは,それぞれが担当する経営指導先を割り当てられており,基本的に上下関係がなく(P38頁),それぞれ直接,被告Aの指揮監督を受けていた。 本件経営指導契約締結当時,建設業経営指導部には約15名,ホテル指導部には4,5名のコンサルタントがそれぞれ正社員として在籍していた(Q13頁)。 本件経営指導契約の担当コンサルタントは,いずれもホテル指導部に所属するR(甲37の2)及びQ(甲37の3)であった。なお,Rは,被告Aの長男である。 本件経営指導契約締結当時,被告総研の経営指導先である沢田工務店の担当コンサルタントはPであったところ,同人は被告総研の取締役であるとともに,チーフコンサルタントという肩書を与えられていた(甲20)。 Pは,昭和41年1月に一級建築士として登録し,大手建設会社で設計業務を行い,中小 であったところ,同人は被告総研の取締役であるとともに,チーフコンサルタントという肩書を与えられていた(甲20)。 Pは,昭和41年1月に一級建築士として登録し,大手建設会社で設計業務を行い,中小建設会社で役員として業務を行うという経歴を経て(甲36,15頁の3段目,丙8),平成2年3月ころ被告総研に入社し,平成7年ころからホテル指導部に所属していたが(P27頁),被告総研が経営指導先の建設業者のためのテキストとして発行した「営業なくして企業なし-営工は車の両輪-」と題する書籍(甲20)では,被告総研の主要スタッフとして,「大手ゼネコンを経て,長年複数の会社の役員として経営に参画し,優れた技術手法で優秀な企業に育て上げた実績を持つ。実施工に極めて強く,構造にも識見の高いものを持っている。指導企業では素人を型枠大工・躯体工に仕立て上げるなど地道な活動も目立つ。設計企画面も強く,特に近年は開発新技術等について国内業界の第一人者と目されている。」などと紹介されている。 Pは,平成12年には,日本免震構造協会免震部が行う免震装置を伴う建築物の施工監理技術に関する試験(建築施工監理技術者制度)に合格した(P28頁)。もっとも,Pは,昭和56年の建築基準法改正により導入された耐震性能に関する二次設計については一級建築士の資格取得に際し勉強しておらず(P3頁,4頁),構造の基本的理論や構造図面の理解,及び手計算で行える範囲の可能な簡単な構造計算は出来るが,コンピューター解析を伴う構造計算はできないとし,また,コンピュータ解析を要するような建築物全体のバランスの計算等についてもできないなどと述べている(丙8,2頁)。 Pは,本件建築確認申請当時,申請書の添付図面である本件建築物の意匠図,構造図,設備図については確認した上で沢田工務店に対する経営指 ンスの計算等についてもできないなどと述べている(丙8,2頁)。 Pは,本件建築確認申請当時,申請書の添付図面である本件建築物の意匠図,構造図,設備図については確認した上で沢田工務店に対する経営指導を行っており(P50頁,51頁),本件建築物の1階がピロティ型式であること,本件耐震壁の外壁の開口部である非常口が幅180㎝の観音開きで,開口部が比較的広く取られていることを把握していた(同54頁,56頁)。 イ被告総研と平成設計,B建築士及び沢田工務店との関係等(ア) 被告総研の営業活動被告総研が前記ア(ア)の特色を有するに至った経緯は,建設業者に対する経営指導を行う中で,建設業者側から日ごろの営業活動についての支援も求められたことから,ビジネスホテル事業に関して,立地条件の良好な土地を所有し又は確保可能な見込み客に対する営業活動に関与するようになったというものである(被告A70頁)。 被告総研の上記見込み客に対する営業活動の具体的方法としては,Qの知る限り,ほぼ毎回,平成設計に対し,ビジネスホテル建設候補地である敷地の情報(面積,容積率など)を伝えるとともに,部屋数,入り口の位置,駐車場の駐車可能台数,家具の配置などの具体的要求を出すなどして,設計に関する計画概要を記載した文書を作成させており,そのような文書を上記見込み客に交付するなどして,ビジネスホテル事業に関する開業指導契約の締結に結びつけており(Q2頁,3頁),上記情報及び具体的要求は被告Aが直接,平成設計に伝えていた(O10頁)。 (イ) 被告総研と平成設計の関係a平成設計の設立平成設計は,被告Aの口添えにより(丙7,3頁,O1頁),平成元年10月2日,被告総研の古くからの経営指導先である木村建設の100%子会社として設立された。 設立当初の代表取締役は,S(木村建設 立平成設計は,被告Aの口添えにより(丙7,3頁,O1頁),平成元年10月2日,被告総研の古くからの経営指導先である木村建設の100%子会社として設立された。 設立当初の代表取締役は,S(木村建設の代表取締役であるTの妻)及びM(木村建設の元専務取締役,Tの甥)の2名であり,Mが平成15年5月4日に死亡すると,本件設計等契約に基づく設計業務を担当したUが,同年9月4日付けで,当時,契約社員であるにもかかわらず正社員を差し置いて,Vと共に代表取締役に就いている。昭和53年に木村建設に入社し,平成設計設立の約1年後に同社に移籍して,取締役を務めていたOは,Uから,被告Aに同社の代表取締役に就任するよう指名された旨聞いている(O6頁)。 b平成設計の本店は,設立当初はTの自宅所在地に置かれていた。 平成7年1月24日,東京支店が木村建設の東京支店所在地でもある被告総研の研修センター(通称「総研gビル」)内に設置され,平成10年11月16日,被告Aの自宅でもある(P16頁)被告総研の本社所在地(通称「総研hビル」)に移転した。 平成12年8月4日には,平成設計の本店が総研hビルに移転し,その12日後(同月16日)には,被告総研の本店所在地(通称「総研iビル」)に再度移転した(甲34)が,それにより,同ビルの1階が海外資材のショールーム,2階が平成設計,3階がエス・ジー通商株式会社(以下「エス・ジー通商」という。),4階が株式会社総研ビー・エイチ企画(以下「ビー・エイチ企画」という。エス・ジー通商及びビー・エイチ企画は後記eのとおり総研グループ企業である。)が入ることとなった(O3頁,4頁)。なお,同月3日には,Mが,その住所を総研iビルに移転している。 さらに,平成17年3月15日,平成設計は本店を被告総研の関連企業が入居するjのビル(通 ある。)が入ることとなった(O3頁,4頁)。なお,同月3日には,Mが,その住所を総研iビルに移転している。 さらに,平成17年3月15日,平成設計は本店を被告総研の関連企業が入居するjのビル(通称「総研jビル」)に移転したが,この移転に際しては,総研iビルに入っていた後記eの総研グループ企業も同時に同ビルに移転している(甲36,16頁の3段目,4段目)。 以上の平成設計の本支店の各移転はいずれも,被告Aの意向に沿って実施されたものとうかがわれる(甲36,16頁の3段目,4段目,O2~5頁)(被告Aは,移転について指示したことはないとするが,上記移転状況などにかんがみると,信用することができない。)。 c平成設計は,いわゆる営業部門を持たず,その業務はほとんどすべて,木村建設及び被告総研が受注した契約案件につき設計業務を担当するという形態で行っていた。被告総研の発注は平成設計が請け負う案件の大部分(O39頁によれば9割)を占めており,被告総研が,ビジネスホテル事業関係の見込み客に対して,営業活動を行う際には,被告総研の指示により,予め資料を作成,提供するなどして協力していた。 d平成設計は,被告総研関係で締結した設計・施工監理契約については,設計料の20~25%に相当する金員を企画指導料として,栄光企画名義その他被告Aの指定する銀行預金口座に振り込んでおり(丙7,5頁,O20頁),本件設計等契約に関しても,上記割合の金員を栄光企画に支払っている(被告A38頁)。 上記金員は,ビジネスホテル候補地等の情報が持ち込まれた際に,立地条件などからビジネスホテル事業として成り立ち得る可能性を見極めるための情報収集や下調べを行う際に要する費用に充てられている(丙7,5頁,被告A10頁,11頁,38頁)。すなわち,上記調査をした中でホテル建築 ビジネスホテル事業として成り立ち得る可能性を見極めるための情報収集や下調べを行う際に要する費用に充てられている(丙7,5頁,被告A10頁,11頁,38頁)。すなわち,上記調査をした中でホテル建築にまで至るのは約1割程度であり,それに至らない場合でも協力者に対して実費を支払う必要があるとされているが,上記金員が上記情報収集及び調査費用として使用される限り,被告総研に対しても間接的に利益をもたらすものである。 e被告総研の関連企業群(総研グループ)被告A(甲37の1),R(甲37の2),Q(甲37の3)及びホテル指導部所属のW(甲37の4)の各名刺の裏面には,関連会社として,株式会社総研ホテル経営研究所,ビー・エイチ企画,エス・ジー通商と並んで平成設計が記載されている。上記のような被告総研の関連会社は,「総研グループ」と呼ばれ,「SG」と略称されていた(甲58,5頁)。 ビー・エイチ企画は,ビジネスホテルの企画会社であり(甲36,17頁の1段目,O3頁),エス・ジー通商は,海外資材等の販売会社である(甲36,17頁の1段目,O3頁,Q9頁など)。 平成設計は,上記のとおり総研グループに所属する一企業であり(甲36,16頁の4段目),被告総研がビジネスホテル開業指導を行う際のホテル建築に際しては,設計業者として平成設計が関与することがほとんどであった(被告A5頁,Q3頁)。 被告総研は,エス・ジー通商のXに対して,被告総研がビジネスホテル用に推奨している建築資材の一つであるフルトンサッシュ(カナダ製)を安く仕入れるよう指示するなど(甲27の9枚目),建設業経営指導及びビジネスホテル経営指導の各事業に関して総研グループに所属する上記各企業を統括する立場にあった(O8頁など)。 (ウ) 被告総研及び平成設計とB建築士との関係平成設計は,設 目),建設業経営指導及びビジネスホテル経営指導の各事業に関して総研グループに所属する上記各企業を統括する立場にあった(O8頁など)。 (ウ) 被告総研及び平成設計とB建築士との関係平成設計は,設計業務の3要素(意匠設計,構造設計,設備設計)のうち,構造設計及び設備設計(以下,併せて「構造設計等」という。)については社内に専門家がおらず,平成設計において構造設計等を含む設計業務を受注した場合,基本的にはこれを構造設計等を専門とする建築士事務所に外注することとしていた。 B建築士は,大分のY建築士(Y建築設計事務所),熊本のZ一級建築士(Z構造研究所。以下「Z建築士」という。),埼玉の甲建築士(甲設計。以下「甲建築士」という。P37頁),宮崎の乙建築士,丙建築士(丙設計)などと共に,平成設計が外注する構造設計業務を担当していた建築士の一人であり,被告総研が開業指導を行ってきたビジネスホテル建築の構造設計に関しても平成12年ころから担当するようになり(丙5),平成設計の許諾の下で,B建築士が同社の社員であることを示す名刺(甲38)も使用していた。 (エ) 被告総研と沢田工務店の関係被告総研は,前記第2の2(2)アのとおり,沢田工務店に対する経営指導を行っており,平成13年1月ころからの担当者はPであった(丙8,1頁)。 被告総研の沢田工務店に対する指導は,SG会員に月に一度発行される会報「SG会特別情報」(甲21など。以下,被告総研からSG会員に配布される会報誌をすべて併せて「SG会報」という。)及び定例会(沢田工務店の本社に被告総研の担当者が月1回程度訪れ,1日ないし2日程度の日程で,沢田工務店の年度ごとの営業契約や受注獲得目標の策定も含め,一般的な経営指導,施工方法,現場管理の方法,積算の方法等の指導など,建設業経営全般にわたる総 月1回程度訪れ,1日ないし2日程度の日程で,沢田工務店の年度ごとの営業契約や受注獲得目標の策定も含め,一般的な経営指導,施工方法,現場管理の方法,積算の方法等の指導など,建設業経営全般にわたる総合的なセミナーを実施するもの。甲22)の開催により行われ(丙8,1頁,甲24~27),その指導料は,Pが講師を務めた場合は1日当たり25万3050円(指導料21万円,出張費3万1000円,消費税1万2050円)であった(甲23)。 沢田工務店が初めて関与したビジネスホテルの建築工事は,平成12年6月開業のビジネスホテル「三交イン名古屋」の案件である。被告総研の指導の下に,システム型枠の使用経験のない沢田工務店が,同じく被告総研の経営指導先で,既にシステム型枠を購入して活用している株式会社浅井工務店から経験を得ることを目的として,あえて同社とのJV(共同企業体)を契約当事者とする請負という契約形態が選択された。 本件建築物は,沢田工務店にとって2棟目のビジネスホテル建築案件であり,自社で購入したシステム型枠を用いた施工としては初めてであった(丁5頁)。 本件建築請負契約に基づく建築工事につき,沢田工務店の現場代理人を務めたのは,工務部部長で一級建築士の資格を有する丁であった(甲58,1頁)。 ウ被告総研の指導方針(ア) 経済設計被告総研は,前記(1)ア(イ)のとおり,昭和49ないし50年ころから建設業の経営指導に特化し,同年半ばころからビジネスホテルの建築指導をするようになったが(被告A17頁),被告Aとしても,平成12ないし13年ころまでは,平成設計が設立される以前から親交のあった前記Z建築士などの建築士から構造設計の基礎を勉強してきた(甲33の2のNo1,被告A32頁,33頁,49頁)。 平成2年ころからは,海外資材の直輸入及び型枠工 成設計が設立される以前から親交のあった前記Z建築士などの建築士から構造設計の基礎を勉強してきた(甲33の2のNo1,被告A32頁,33頁,49頁)。 平成2年ころからは,海外資材の直輸入及び型枠工事の合理化,建築基準法に抵触しない限界までの鉄筋量の調整などによってホテルの建築費用のコストダウンを徹底的に図るとともに,建築の工期を短縮するという,「経済設計」の考え方に基づいてビジネスホテル建築の指導を行ってきた(甲33の2のNo2,甲21のNo14,甲31の1,1頁,O12頁,被告A19頁)。また,同時に品質が良く,コストが低額な建築物を生み出すことにも力を注いできた(甲22,被告A31頁)。 具体的には,被告総研は,被告Aの企画で,約20年間にわたり年1回から4回程度,被告総研の経営指導先の建設業者を連れて,被告総研と交流がある海外の資材メーカーの視察旅行を実施したり(被告A23~25頁),「売値は法坪当たり25万円,粗利30%」を意味する「3025シリーズ」を新たな目標として,被告A自ら,木村建設等被告総研の経営指導先の建設業者の中から7社を指名し,1年掛で上記目標を達成する計画を立てるなど,良質かつ低額な建築物又はその工法を生み出したりしてきたとする(甲22,P33頁)。 (イ) システム型枠被告総研は,前記(ア)のような経済設計の考え方のもと,鉄筋コンクリート造の建築物の建築工事費用のうち,少なくない割合を占めている型枠工事の合理化を勧め,特に海外メーカーのスチール製型枠を使用することにより,工事費を低減し,かつ,工期の短縮を図ることを推奨してきた(甲20,94~97頁)。 上記スチール製型枠は,日本で一般的に用いられている木製の型枠に比べて高価ではあるが,耐用回数が格段に多いことから,被告総研ではこれを「システム型枠」と呼 を推奨してきた(甲20,94~97頁)。 上記スチール製型枠は,日本で一般的に用いられている木製の型枠に比べて高価ではあるが,耐用回数が格段に多いことから,被告総研ではこれを「システム型枠」と呼んで,ビジネスホテルの建築費削減の主要な手段として位置付けていた。 被告Aは,平成8年ころから,交流のあったシステム型枠の海外メーカーへの海外視察を行っており,平成12年7月に行われたドイツのPERI社への海外視察には,沢田工務店の丁ほか1名も同行していた(丁1頁)。 なお,沢田工務店は,上記視察後,前記イのエス・ジー通商からシステム型枠を購入している。 (ウ) フルターンキーシステムa認定事実被告総研が平成11年3月1日付けで発行した前記「営業なくして企業なし-営工は車の両輪-」と題する書籍(甲20,112頁)には,「フルターンキーサービス」という項目名下に「㈱総合経営研究所において展開中のフルターンキー方式とは,事業企画,設計,施工,運営まで,総合的にすべて引き受ける方式で,下図のような運営までの流れを行っている。」と説明されており,その下方には図式的に,「オープンまでのすべてをお手伝いします。」,「〔フルターンキー・システム〕」という文言の下に,「必要なすべての市場調査」,「安心確実な事業計画」,「借入金融機関への説明・交渉」,「設計依頼はすべて総研で打合せ」,「テナントの交渉,建築工事の発注折衝」,「建築工事打合せから,コストダウン。ホテル仕様にあった指導」,「ホテル印刷物(30種以上)のデザインから,発注」,「リネンサプライ,メンテナンス,その他の協力業者との交渉・契約」,「什器・備品の設計から,買付交渉」,「支配人候補者をお預かりして,直営ホテルでの教育」,「ホテル運営システムの設計から,パソコンのプログラム」,「一般社 ナンス,その他の協力業者との交渉・契約」,「什器・備品の設計から,買付交渉」,「支配人候補者をお預かりして,直営ホテルでの教育」,「ホテル運営システムの設計から,パソコンのプログラム」,「一般社員の募集・教育」,「消耗品等(230~270種類)全ての調達業務」が列挙されており,最下部には,左から順に「あなた」,「総合経営研究所ホテル指導部」,「あなたは新規事業としてビジネスホテルの経営が始められます。」と記載されて,矢印で繋がっている。 フルターンキーシステムは被告総研のホテル指導部がビジネスホテルの新規事業者に対して提供するものである。 b補足説明被告Aは,フルターンキーシステムとは,被告総研が行うものではなく,経営指導先の建設業者に対し,そのように行うよう指導しているなどと供述するが(被告A26頁,27頁),前記aのとおり,フルターンキーシステムの内容として,およそ建設業とは無関係と思われる一般社員の募集・教育など多岐にわたる項目が掲げられていること,被告総研において展開中の方式とされ,被告総研が主体となるものであることが明示されていることからすると,上記供述を信用することはできない。 エホテル仕様の標準化,ホテルの構造体及び構造設計担当者の変遷等(ア) ホテル仕様の標準化被告総研は,同社が建築指導するビジネスホテルの仕様を標準化することを目的として,多数回にわたって「ホテル標準化会議」を開催し,これにより建築されるホテルの企画,内装,構造体等が標準化されるようになった(O13頁,23頁)。 上記会議の成果をまとめたものとして,「SGホテル注意事項(仕様)説明書」(丙2,以下「SGホテル説明書」という。)が作成されるに至った。これによれば,施工優先順序として,1番目が各ホテルごとに個別に作成される総研・ホテル基本仕様書 「SGホテル注意事項(仕様)説明書」(丙2,以下「SGホテル説明書」という。)が作成されるに至った。これによれば,施工優先順序として,1番目が各ホテルごとに個別に作成される総研・ホテル基本仕様書(丙1),2番目がビジネスホテルの一般的な仕様書であるSGホテル説明書,3番目が設計図書,4番目がその他参考資料とされているところ(丙2,O45頁),被告総研及びその経営指導先でビジネスホテルの建築に関係する建設業者の間では,上記のとおり標準化されたビジネスホテルの仕様ないし被告総研が関与するビジネスホテルを「総研仕様のホテル」と呼ぶようになった。 (イ) 構造体の変遷沢田工務店の下請業者として本件建築物の型枠工事を施工した株式会社新樹(愛知県日進市)の代表取締役を務める戊は,平成9年12月ころから継続的に被告総研の関係するビジネスホテル十数棟の建築工事のうち型枠工事を施工してきたという経験に基づき,建築物の構造体が別紙11の①から⑤のとおり変遷してきた旨,本件建築物は④に該当する旨述べ(甲63),Pも総研仕様のホテルがおおむね上記①から⑤へとその構造体を変遷させていることは認めている(P22~24頁。ただし,これに被告総研がどの程度関与したかについては争いがある。)a当初の構造体は,別紙11の①のとおり,外壁部分と間仕切り壁部分ともに梁が存在し,廊下通りにも2本梁が存在する。また,間仕切りの梁下には2本の間柱があり,間仕切り壁を補強するために壁の中に3本の斜筋が入った構造体である(以下「構造体①」という。)。 次の構造体は,別紙11の②のとおり,よりシステム型枠を使いやすくするため,構造体①の間柱の柱筋を残し,柱の幅を耐震壁と同一にして柱型(柱による壁からの出っ張り)をなくした構造体である(以下「構造体②」という。)。 その後,別紙 り,よりシステム型枠を使いやすくするため,構造体①の間柱の柱筋を残し,柱の幅を耐震壁と同一にして柱型(柱による壁からの出っ張り)をなくした構造体である(以下「構造体②」という。)。 その後,別紙11の③から⑤のとおり,構造体②から廊下通りの梁型(梁による壁からの出っ張り)をなくした構造体(以下「構造体③」という。)となり,さらに,構造体③の耐震壁の梁型をなくした構造体となり(耐震壁の梁幅を同壁と同じにした構造体。以下「構造体④」という。),最終的には,構造体④の外周の梁幅を壁と同じ幅とした構造体(オール壁梁型式,以下「構造体⑤」という。)となった(甲63,4頁,5頁)。 もっとも,ビジネスホテル「エースイン刈谷」(平成12年12月14日建築確認(甲10),構造設計担当者はB建築士)の構造体は,構造体②から耐震壁の梁型をなくしたものであり,構造体④とも異なるため,構造体①から⑤への変遷は厳密なものではない。 b前記aの構造体の変遷のうち,構造体②から同③への変化が実質的に大きな変化である(戊15頁,P23頁)。 本件建築物の構造は構造体④に該当するものであり(甲63,5頁),耐震壁の梁型及び廊下通りの梁型(以下,併せて「本件梁型」という。)がないものであった(戊10頁,11頁)。 cこうした構造体の変遷は,前記ウ(ア)の経済設計及び同(イ)のシステム型枠の効率的使用という被告総研の基本的姿勢に適うものであり,特に構造体⑤のように柱型及び梁型のない構造体は,いわば壁から出っ張る部分がないことから,スチール型枠のみで壁からスラブ(構造床)までを一度で施工することが可能となり,型枠工事による作業工程が削減される上(丁6頁),型枠工事のコストダウンを図ることもでき,生産性が相当上がることとなる(甲31の2)。 (ウ) 構造設計担当者の変遷 を一度で施工することが可能となり,型枠工事による作業工程が削減される上(丁6頁),型枠工事のコストダウンを図ることもでき,生産性が相当上がることとなる(甲31の2)。 (ウ) 構造設計担当者の変遷等a構造体①被告総研は当初,総研仕様のホテルの標準的な構造体として,Z建築士が考案した構造体である構造体①を用いており(P22頁),平成設計及びその外注先は,Z建築士を中心に設計された構造体①による構造設計を行っていた。 b構造体②ないし④その後,構造体④まで変化する途中の平成11ないし12年ころ,平成設計は,Z建築士に対する構造設計の依頼を中止し,代わってB建築士に構造設計を多く依頼するようになった(甲33の2,1頁,O27頁)。具体的には,被告総研が建築指導を行っていたビジネスホテル案件のうち,平成12年開業のホテルで10件中2件,平成13年開業のホテルで10件中7件,平成14年開業のホテルで13件中8件,平成15年開業のホテルで10件中4件,平成16年開業のホテルで8件中4件につきB建築士が構造設計を担当した(丙5)。 そして,構造体②までは,Z建築士の構造計算においても成り立つ構造体であったが,上記のようなB建築士の構造設計への関与の開始後に建築されたビジネスホテル「エースイン刈谷」は,Z建築士の構造計算においては成り立たない構造体であった(戊14~16頁)。 ただし,平成17年開業のホテルでB建築士が構造設計を担当したのは11件中2件であり,平成16年度までと比べて設計依頼が減少している(丙5)。 c構造体⑤オール壁梁型式ともいうべき構造体⑤を採用したビジネスホテルとしては,B建築士が構造設計を担当した「エクセルイン渋川」(平成15年4月22日建築確認)があり(甲47,5頁),同建築士は,これについて構造体として問題で うべき構造体⑤を採用したビジネスホテルとしては,B建築士が構造設計を担当した「エクセルイン渋川」(平成15年4月22日建築確認)があり(甲47,5頁),同建築士は,これについて構造体として問題であると建築確認審査の際指摘されたが,やむを得ず建築確認をしてもらったと説明していた(甲53,P24頁,37頁)。 また,同じく構造体⑤のビジネスホテル「サンホテル豊川」(確認通知書の受理は平成17年4月20日。甲31の2)は,甲建築士の構造設計によるものである。 上記ホテルの建築計画検討段階であった平成16年3月22日,B建築士が,関東エリアの場合「壁梁方式の方法はNGとなります」と記載した文書(甲53。以下「本件B送付文書」という。)を平成設計に送付したことから,Pの招集により,被告総研の会議室(総研hビル)において,上記ホテルの構造設計に関する会議が開催された。 なお,同会議にはPも参加していたが,B建築士は参加しておらず,本件B送付文書を見たPが甲建築士と乙建築士を同会議に連れてきていた。Pは,同会議を経て,「サンホテル豊川」の設計を甲建築士に依頼することを決定した(O24頁,25頁,47~50頁)。 d補足説明Pは,前記会議の目的は経済設計を基本に考えた構造の一般論についての打ち合わせにすぎず,本件B送付文書のような壁梁型式に関する書面を見たこともなく,自身が甲建築士及び乙建築士を呼んだわけではないなどと証言する(P24頁,26頁,37頁)。しかし,本件B送付文書においては,「エクセルイン渋川」の実績報告としてSG会報(甲47)においても掲載され,既に設計可能とされていた構造体⑤につき,同ホテルを設計したB建築士から採用できないとされたのであり,他方で,同会議において,甲建築士より壁梁型式の設計が可能である旨回答され,壁梁の構造 掲載され,既に設計可能とされていた構造体⑤につき,同ホテルを設計したB建築士から採用できないとされたのであり,他方で,同会議において,甲建築士より壁梁型式の設計が可能である旨回答され,壁梁の構造が話題に上がったこと自体はPも認めている(P36頁)。甲建築士が可能とした壁梁型式の構造体⑤の建築の可否は,被告総研にとって今後のビジネスホテル建築の経済設計に関わる重要事項であり,本件B送付文書が上記会議において話題にならなかったというのは極めて不自然である。加えて,甲建築士及び乙建築士は,Pの古い仲間であり(P15頁,35頁,36頁),その人的関係からしてP以外の者が呼んだとは考え難いことなどにかんがみると,Pの上記証言は信用することができない。 オ本件経営指導契約締結までの経緯(甲57,丙7,原告代表者,被告A等)(ア) Fは,原告において営んでいた事業の業績が低迷し,平成12年ころから,工場の敷地であった本件土地を活用した事業転換を考えていたところ,平成13年3月ころ,沢田工務店からビジネスホテル経営を提案され,これに関心を持つようになった。 他方,被告Aは,上記提案に先立つ平成13年2月ころ,沢田工務店の己代表取締役(以下「己」という。)から,担当コンサルタントであったPを通じて,本件土地のビジネスホテルとしての適否などの問い合わせを受けたためその検討を開始し,ビジネスホテルとしては120室くらいを推奨することなどを己に伝えた。 Fは,己からビジネスホテル開業のコンサルタント業者として被告総研を紹介され,その代表取締役である被告Aと会うこととなった。 (イ) 平成13年4月1日,沢田工務店の事務所において,Fと被告Aが初めて顔を合わせた。 被告Aは,Fに対し,被告総研作成名義の半田市市場調査報告書(甲54),被告総研及びビー・エ こととなった。 (イ) 平成13年4月1日,沢田工務店の事務所において,Fと被告Aが初めて顔を合わせた。 被告Aは,Fに対し,被告総研作成名義の半田市市場調査報告書(甲54),被告総研及びビー・エイチ企画作成名義のホテル事業概算計画書3通(甲28の1~3)並びに平成設計作成名義の計画設計概算書(甲29)などを交付して,これらの資料に基づき,本件土地においてビジネスホテル需要を把握する材料としての市場調査結果,ビジネスホテル開業に必要とされる資金額を含めた事業計画の概要,建築するホテルの設計の概要を説明した。 上記ホテル事業概算計画書は,自らホテルを建設し運営する方法(甲28の1),自らホテルを建設するが他人に貸して運営させる方法(甲28の2),他人にホテルを建てさせ自ら運営する方法(甲28の3)の3種類について用意されており,それぞれ,ホテルの階数,床面積,室数につき具体的数値が記載され,開業時に要する資金について,建築費,設計管理費その他すべての費目ごとに具体的金額が計上され,資金調達計画及び借入金の返済計画表まで記載されて,収入額算出の根拠が示されており,開業前数か月間の収支計算書,開業後20年間の長期損益計画書及び長期収支計画書が添付されていて,Fは上記各資料の大量さに驚き,また,上記資料の中で,被告総研が原告に対して行うビジネスホテル開業指導の対価が3500万円であるとされていて,その高額さにも驚いた。 被告Aは,前記ウ(ウ)のフルターンキーシステムの内容に沿って,「私ども総研は,このような市場調査から設計,工事施工,備品,そして従業員教育まですべて指導管理いたします。そして,実績数として約200棟のホテルを成功させております。」などと説明し(甲57),本件土地におけるビジネスホテル事業につき成功の見通しが高いことを熱心 従業員教育まですべて指導管理いたします。そして,実績数として約200棟のホテルを成功させております。」などと説明し(甲57),本件土地におけるビジネスホテル事業につき成功の見通しが高いことを熱心に説き,また,ホテル建築に関して建築代金の安さと工期の短さを強調し,Fは,しだいに,その説明等に厚い信頼を寄せるようになった。 (ウ) 平成13年5月26日及び27日,被告Aは,己と共に,被告総研の指導によりビジネスホテルを建築し,オーナー自らが運営している「岡崎第一ホテル」及び「サンホテル和歌山」にFを案内した。 Fは,上記各ホテルの経営者と会談の機会を持ち,ビジネスホテル経営に関する不安を打ち明けて,実情を尋ねた。上記経営者らは,もともとホテル事業を営んでいたわけではなかったが,被告総研に任せれば間違いないなどと言い,Fを安心させた。 (エ) Fは,前記(ウ)の施設見学のほか,自らも他のホテルチェーンの話を聞くなどした末,平成13年6月1日,己に対し,自分でホテルを建築し,運営するという方針であることを伝え,さらに,同月6日に名古屋市内で開催された被告Aのセミナーを聴講した上で,同月13日,被告Aと再度面談し,被告総研のビジネスホテル開業指導を受けて,原告自らホテルを建築し,運営するという形でビジネスホテル事業を行う意思などを伝えた。 (オ) 前記(エ)のFと被告A間の面談後,平成13年6月22日を第1回として本件建築物の建築に関する定例会議が沢田工務店の会議室等で定期的に開催されるようになり,Fも詳しい事情説明のないまま出席を求められ,出席していた。 (カ) 前記(オ)の定例会議を何度か経る中で,Fは,Rから何度となく資金調達の準備状況を聴かれ,金融機関の預金残高証明書を見せて準備が整っていることを明らかにしたところ,Rはそろそろ正式契約 た。 (カ) 前記(オ)の定例会議を何度か経る中で,Fは,Rから何度となく資金調達の準備状況を聴かれ,金融機関の預金残高証明書を見せて準備が整っていることを明らかにしたところ,Rはそろそろ正式契約を締結する旨Fに伝え,平成13年10月14日,沢田工務店において,予め用意されていた前記第2の2(2)アの3件の各契約の契約書類にFが順次署名押印し,各契約の締結に至った。 被告総研との間の本件経営指導契約は,原告の役割として,本件土地におけるビジネスホテル事業の達成のため,被告総研の経営指導の下で事業化の努力をすること(第2項),被告総研の役割として,具体的には,上記事業達成のために総合的経営指導を請け負うこと(第3項)とされており,被告総研の経営指導の内容は,以下の内容を含む包括契約と定められている(甲5)。 ①企業化調査②事業計画の策定③金融機関に対する事業化の説明援助④ホテル仕様を基本とした設計・仕様の指導⑤ホテル仕様にあった工事施工の助言・指導⑥ホテルの什器・備品の調達に関する指導⑦ホテル経営のシステム全般に関する指導⑧ホテルの要員確保ならびに教育に関する指導⑨客室の販売促進に関する援助指導⑩その他ビジネスホテルの事業化に必要な助言指導沢田工務店との間の本件建築請負契約の請負代金額は,3億8350万9000円(消費税別)であった(甲7。なお,同代金額は,前記(イ)のホテル事業概算計画書3通(甲28の1~3)及び計画設計概算書(甲29)に記載された請負代金額(3億9350万9000円)より1000万円少ないが,これは解体費用の工事区分を変更したためで,実質的な請負代金額は変更されていない。)。 平成設計との間の本件設計等契約の請負代金額は,1574万円(消費税別)であり(甲6),前記(イ)の各文書に記載 これは解体費用の工事区分を変更したためで,実質的な請負代金額は変更されていない。)。 平成設計との間の本件設計等契約の請負代金額は,1574万円(消費税別)であり(甲6),前記(イ)の各文書に記載された請負代金額と同額であった。 なお,Fとしては,そもそも設計業者の知り合いはいなかった上(原告代表者29頁),被告Aと初めて会ってビジネスホテル事業の勧誘を受けた当初から,平成設計は被告総研の設計部門という位置付けで理解しており,上記各契約締結までの間に,被告総研との間で,設計・施工監理業務についてどの設計業者に依頼するかについての話が全く出ておらず,被告総研より平成設計以外の設計業者に発注することが明示的に禁じられたわけではなかったものの(被告A4頁),平成設計に設計・施工監理業務を行わせることがいわば当然の前提であると感じていたため(原告代表者29頁,被告A4頁),他の設計業者に設計・施工監理業務を行わせたいと申し出たことはなく(原告代表者29頁),また,そのようなことが可能かどうかを問うこともなかった。 カ被告総研の沢田工務店に対する指示及び指導(ア) 仕様書等の交付沢田工務店の丁及び部下の庚は,被告総研のQから,2階に平成設計が事務所を構える総研iビル1階において,本件建築物の設計図書と共に,ホテル建築仕様書(丙1)及びSGホテル説明書(丙2)を渡された(甲58,11頁,丁13頁,14頁)。 前記のとおり,上記各文書の優先順位は,第1にホテル建築仕様書,第2にSGホテル説明書,第3に設計図書の順とされている。 (イ) 本件建築物の建築に向けた定例会議での指導本件建築物の建築に向けた定例会議は,前記オ(オ)のとおり平成13年6月22日から定期的に開かれており,本件建築確認前は前同日,8月某日,9月8日,同月19日,10月12日 に向けた定例会議での指導本件建築物の建築に向けた定例会議は,前記オ(オ)のとおり平成13年6月22日から定期的に開かれており,本件建築確認前は前同日,8月某日,9月8日,同月19日,10月12日,同月14日,12月10日に実施され,本件建築確認後はおおむね2週間に1度の頻度で開催されていた。その出席者は,おおむね建築主として原告のF,総合監理として被告総研のR及びQ,設計監理として平成設計のU,施工業者として沢田工務店の丁,その他各回における課題事項に関係する下請業者であった(甲71,72)。上記定例会議の司会はおおむねUが務めたが,Rが発言することも多く,平成設計ないし沢田工務店の担当者に対して指導する中で,時には大声を出すこともあった(Q7頁)。 上記定例会議においては,特に工程管理についてRが厳しく指導しており,沢田工務店の丁がワンフロアを5日間で仕上げる工程を組んで資料を作成した際,Rから「4日であがるコンサルを受けているんでしょ。」,「コンサルは誰なんだ。」,「何故できないんだ。」,「できない理由を言え。」,「できないならできない理由を己からA所長に釈明してもらいなさい。」などと言われ続けた(甲58,12頁,13頁,甲73,丁16頁,17頁,Q21頁)。もっとも,本件建築物はワンフロア4日ではなく,5日で仕上げられた(丁21頁)。 なお,定例会議における工事旬報は前もって被告A,R,F,平成設計に送付されており(甲73),被告Aも報告を受けていた。 (ウ) 定例会での指導aPによる沢田工務店に対する定例会においても本件建築物建築の指導がされ,Pは,本件建築物の実行予算につき直接工事原価目標2億9334万2000円,41万円/坪として被告総研には伝えていたが,定例会に係るメモには「丁次長目標原価」として,「2億861 の指導がされ,Pは,本件建築物の実行予算につき直接工事原価目標2億9334万2000円,41万円/坪として被告総研には伝えていたが,定例会に係るメモには「丁次長目標原価」として,「2億8618万8000円,40万円/坪」と赤マジックで書き込み及び囲みをし,坪当たり40万円とする旨を強調していた(甲25の②,丁9頁)。 そして,Pは,型枠工事及び鉄筋工事についても具体的な工事原価目標を「工事原価配布(案)」(甲25の③)として掲げ,実行予算が40万円となるように指導を行った(甲58,6頁)。 bそのほか,Pは,杭工事のコンクリート及び鉄筋量を算出して,その予算組み(甲27の2枚目,9枚目,甲58,8頁)を指示したり,階段取付工事に関し,コンクリート及び鉄筋量を算出するなどの積算根拠を説明するなどした上で,現場PC(プレキャストコンクリート,工場や現場構内で製造した鉄筋コンクリート部材)加工による施工を要求するなど,階段取付工事の施工方法(甲25の⑦~⑨,甲27の7枚目,9枚目,甲58,7頁,9頁)についても詳細に指導した。 cなお,Pは,前記ア(ウ)のとおり,本件建築物建築の指導に当たっては,作成された図面(意匠図,設備図,構造図)も見た上で沢田工務店に対する指導を行っており,少なくとも,耐震壁の評価の問題点,及び,本件建築物が完全なピロティ階を有する建築物であり,ピロティ型式の建築物については指導事項が厳格化されたということは認識していた(P50頁,51頁,55頁,56頁)。 d補足説明Pは,坪当たり40万円という数字は丁が自主的に出した旨証言するが(P53頁),前記赤マジックによる強調(甲25の②)に加え,本件建築物建築に当たって,再度坪当たり40万円とすることを赤マジックで強調していること(甲27の①,甲58,7頁)な 出した旨証言するが(P53頁),前記赤マジックによる強調(甲25の②)に加え,本件建築物建築に当たって,再度坪当たり40万円とすることを赤マジックで強調していること(甲27の①,甲58,7頁)などからすると,坪当たり40万円とすることは,Pの強固な意思の表れと見るのが自然であって,丁の任意で自発的な発言によるものというには疑問が残り,Pの上記証言は信用することができない。 キ計画設計概要書と本件建築確認申請書添付書類間の構造の相違前記オ(イ)のとおり,被告Aは,Fに対し,平成設計が作成した計画設計概要書(甲29)等を用いてビジネスホテルの事業計画を説明しているが,上記文書に添付されている図面(6枚目の断面図等)によれば,建築するビジネスホテルの構造はおおむね構造体①であることがうかがわれる。 しかし,本件建築確認申請までの間に構造体の変更がなされ,本件建築確認申請書に添付された構造図によれば,前記エ(イ)bのとおり,本件梁型がなく,本件建築物の構造は構造体④となっている。 ク本件建築物以外のホテルに関する被告総研の指導等(ア) サンホテル豊川被告総研の建設業経営指導部所属コンサルタントである辛は,SG会報(平成17年5月3日付け)の中で,システム型枠を使用しコストダウンを目指した設計としてビジネスホテル「サンホテル豊川」を紹介しており,同ホテルについては,「システム型枠を効率よく使え,生産性が上がるよう,梁型のない設計を指示」したとし,その構造体は,行政の考え方や構造設計者の口説き方,考え方にもよるが,おおよそ全国で適用できる構造体となっていると報告している(甲31の2)。 そして,被告Aは,上記ホテルにつき梁型のない設計を指示したことについての報告は受けた上で(被告A50頁),自身もSG会報において,「構造設計・設計屋さんの なっていると報告している(甲31の2)。 そして,被告Aは,上記ホテルにつき梁型のない設計を指示したことについての報告は受けた上で(被告A50頁),自身もSG会報において,「構造設計・設計屋さんの考え方で大へんな差がある現実の話」として,上記ホテルに言及しており,同ホテル(Sホテル)と「Pホテル」を比較すると,「鉄筋が大幅に違っているのである。これは構造計算の問題であろうと云っていた。」,「構造計算屋さんを変えるだけで2.6%」の原価の違いが生じるとして報告している(甲31の1,被告A48頁)。 このように,被告Aは,「サンホテル豊川」がその構造設計において構造体⑤を採用し,また,構造計算を行う建築士が他のホテルの建築士とは別人であることを認識していた。 (イ) センターホテル豊田a認定事実Pは,平成17年9月7日付けで,平成設計(社長はU)あてに,ビジネスホテル「センターホテル豊田」に関し,経済設計の観点から,鉄筋量が多いことを採り上げて,「多くても75~80㎏/㎡で納めてほしい」と削減を求める内容のメモ(甲32)を作成している(O17頁)。 b補足説明Pは,前記メモは建築確認を提出後ないしは直前に作成されたものであって,その時点で構造設計のやり直しを指示しても意味はなく,今後の構造設計のための参考とする趣旨にすぎないと証言するが(P14頁),上記時点は,実際には工事原価の打合せがされるなど,実行予算の確定前であるとされ(甲36,17頁の3段目,4段目),時期的に見て,やり直しの指示が反映されないことが明らかな時点であったとはいえず,前記のとおり,Pにおいて経済設計の観点から建築費の予算について強い関心を持っていたことがうかがわれることなどからすると,Pの上記証言は到底信用することができない。 (ウ) 三田マンションP えず,前記のとおり,Pにおいて経済設計の観点から建築費の予算について強い関心を持っていたことがうかがわれることなどからすると,Pの上記証言は到底信用することができない。 (ウ) 三田マンションPは,平成設計が構造設計のみを請け負い,B建築士の設計事務所に下請けさせた東京都港区三田のマンション(以下「三田マンション」という。)の案件につき,B建築士の同席のもと,平成設計を「指導先」として,「RC壁式ラーメンにて構造設計を進める指導」を行っている。 そして,このことは被告Aに対して報告された上,その指導を受け進められていた(甲30)。 (エ) エクセルイン渋川a認定事実被告総研の辛は,ビジネスホテル「エクセルイン渋川」の担当であったが,設計時点で構造躯体を検討し,構造体⑤を採用することにより,ワンフロア4日の工程で施工した旨SG会報(平成16年1月24日付け)に掲載した(甲47)。このように,上記ホテルにおいて構造体⑤を採用し,建築費の削減と工期の短縮を実現したという事実は被告Aにも報告された。 b補足説明被告Aは,「エクセルイン渋川」の構造の件について知らなかったと供述するが,前記のとおり被告総研の業務を統括する立場にあり,被告Aにとってビジネスホテルの構造として構造体⑤を採用できるか否かは重要な関心事であるはずであって,前記(ア)のとおり,「サンホテル豊川」について構造体⑤を採用したことについての報告も受けていることからすると,同供述は信用することができない。 (2) 被告総研らの注意義務違反についてア被告総研の注意義務の発生根拠(ア) 被告総研の事業の特色被告総研は,商業登記された目的により分類すれば,一般的には経営コンサルタント業者ということができ,社内の組織及び人員体制からみても,設計業務自体を行うものとは認めら (ア) 被告総研の事業の特色被告総研は,商業登記された目的により分類すれば,一般的には経営コンサルタント業者ということができ,社内の組織及び人員体制からみても,設計業務自体を行うものとは認められないが,その唯一の存在ともいうべき特色として,建設業及びビジネスホテルの開業指導に特化した経営指導を行っており(前記(1)ア(ア)),また,一級建築士の資格を有し,「構造にも識見の高い」スタッフ(P)を抱え(前記(1)ア(ウ)),経営指導先の建設業者に対する指導方針として,経済設計を説き(前記(1)ウ(ア)),ビジネスホテル開業指導の方式としてフルターンキーシステムを展開し(前記(1)ウ(ウ)),新規事業者に対しても積極的にビジネスホテル事業を勧誘するという営業活動を日常的に行っていた。 上記ビジネスホテル開業指導に関する営業活動においては,経営指導先の建設業者等と情報交換して,その見込み客に対しては,被告総研においては経営指導契約の締結,建設業者においてはビジネスホテルの建築請負契約締結という共通の目的の下に一体となって勧誘行為を行っており,その際には,経営指導先の建設業者(木村建設)の子会社で,上記建築請負契約に付随する設計・施工監理契約締結という共通の目的を有する設計業者(平成設計)の協力を得ている。 したがって,一般的に,被告総研がビジネスホテルの新規事業者との間でビジネスホテルの開業指導契約を締結する場合には,フルターンキーシステムの一内容である前記(1)ウ(ウ)の各項目,とりわけ「設計依頼はすべて総研で打合せ」とあるように,ビジネスホテル用に新築する建築物の設計に関しても,被告総研が,適切な設計業者を選定し,かつ,その設計・施工監理業務を適切に指導監督することを,上記新規事業者に対する契約上の責務として当然に含むものと理解し テル用に新築する建築物の設計に関しても,被告総研が,適切な設計業者を選定し,かつ,その設計・施工監理業務を適切に指導監督することを,上記新規事業者に対する契約上の責務として当然に含むものと理解し得るところである。 なお,被告総研,その経営指導先の建設業者等及び平成設計が一体となって,ビジネスホテルの新規事業者としての見込み客に対して営業活動を行う場合には,上記新規事業者がこれに応じて,被告総研の開業指導によりビジネスホテル事業を行うにつき,上記建設業者がビジネスホテルの建築を請け負い,また,平成設計が設計・施工監理業務を担当することはむしろ当然ともいうべきであるが,それが故に被告総研において,設計業者及び建設業者の選定自体についての責任を免れるものではないことは,フルターンキーシステムの趣旨からしても明らかである。 (イ) 本件経営指導契約の締結に関する事情Fは,被告総研の経営指導先である建設業者(沢田工務店)が被告総研に提供した情報に基づき,被告総研及び建設業者,さらには平成設計が一体となって行う前記(ア)のような営業活動の結果,本件経営指導契約の締結を決断した。 また,Fは,被告Aより,フルターンキーシステムの内容に相当する開業指導内容の説明を受け,被告総研の前記(ア)の特色による有利さ,すなわち,被告総研が建設業の経営指導に特化し,経営指導先の建設業者に対して経済設計を指導している結果,その建設業者にビジネスホテル建築を請け負わせれば,建築費が安価で,工期が短いこと等にも魅力を感じて,上記決断に至っている。 原告と被告総研間で最終的に締結された本件経営指導契約についての契約文書(甲5)にも,被告総研の役割として,おおむね前記フルターンキーシステムの内容が踏襲されており,被告総研は原告に対してビジネスホテル事業達成のため総合的 締結された本件経営指導契約についての契約文書(甲5)にも,被告総研の役割として,おおむね前記フルターンキーシステムの内容が踏襲されており,被告総研は原告に対してビジネスホテル事業達成のため総合的経営指導を請け負うもので,被告総研の経営指導の内容は「ホテル仕様を基本とした設計・仕様の指導」を含む包括契約であるとされている。 しかも,Fは,契約書への署名押印という正式な契約締結手続をする前から,被告総研の指示により,被告総研,平成設計及び沢田工務店の関係者等が出席して定期的に行う打合せ会議に出席させられ,被告総研の担当コンサルタント(R)が平成設計及び沢田工務店の各担当者を厳しく指導する様子を目の当たりにしており,Fにおいて,被告総研が,ビジネスホテルの新規事業者である原告のために,前記(ア)のとおりフルターンキーシステムの一内容として,平成設計及び沢田工務店を適切に指導監督するものと強く信じたとしても何ら不思議ではない。 (ウ) ところで,原告は,平成設計との間で本件設計等契約を締結し,また,沢田工務店との間で本件建築請負契約を締結していることは前記第2の2(2)アのとおりであるが,前記(1)オで認定した契約締結過程を踏まえると,原告が上記各個別契約の当事者となっているのは,フルターンキーシステムに基づく被告総研の指示に従ったものであることは明らかであって,上記各個別契約の締結が,前記(イ)の被告総研の原告に対する注意義務の内容に影響を与えるものではない。 (エ) 以上のとおり,被告総研は,「構造にも識見の高い」建築の専門家をスタッフとして抱え,建設業者に対する経営指導とビジネスホテルの開業指導に特化した経営コンサルタント業者であるという特色を前面に出し,かつ,被告総研のビジネスホテル開業指導方式(フルターンキーシステム)は,ビジネ え,建設業者に対する経営指導とビジネスホテルの開業指導に特化した経営コンサルタント業者であるという特色を前面に出し,かつ,被告総研のビジネスホテル開業指導方式(フルターンキーシステム)は,ビジネスホテルの新規事業者であっても安心してビジネスホテル事業を行えるシステムであって,これから建築するビジネスホテルについて設計面でも適切に指導し,建設業者の建築コストを低下させ,工期を短縮させることにより,他の経営コンサルタント業者では得られない利益を建築主にもたらすことを売り物として,ビジネスホテル事業の見込み客に対して,施工業者及び設計業者と一体となって営業活動を行い,原告との間で本件経営指導契約,本件建築請負契約,本件設計等契約の同時締結に至っているのである。こうした事実関係の下では,被告総研は,原告に対し,建設業者及び設計業者の選定並びに各業者に対する指導監督について責任を負うべきであり,とりわけ設計に関しては,それが原告による今後のビジネスホテル経営の大前提となるものであるから,本件建築物の基本的安全性を確保するため,設計業者を適切に選定し,かつ,選定した業者を適切に指導監督し,これから建築するビジネスホテルが設計上の瑕疵によって基本的安全性を欠き,その結果,補修工事等に多大な費用を要するなど,原告に不測の損害を被らせないようにすべき注意義務を負担するものということができる。 イ被告総研の注意義務違反(ア) 被告総研の平成設計等に対する影響力等前記(1)イ(イ)のとおり,平成設計は,被告総研が統括する総研グループの一員であり,被告Aの意向に従って本店等の所在地を他の総研グループ企業と共に移転させられていること,被告総研と一体となって営業活動を行い,被告総研が建築指導するビジネスホテルに関しては相当高い割合で設計・施工監理業務を 向に従って本店等の所在地を他の総研グループ企業と共に移転させられていること,被告総研と一体となって営業活動を行い,被告総研が建築指導するビジネスホテルに関しては相当高い割合で設計・施工監理業務を受注していること,上記のとおり営業活動を被告総研等に全面的に依存しており,その関係もあってか設計料の一定割合を企画指導料という名目で被告総研に支払っていること,被告総研が開業指導するビジネスホテルの建築に際しては,被告総研が作成するホテル基本仕様書(丙1)を,SGホテル説明書(丙2)や設計図書など平成設計が作成するものよりも優先させて施工することを要求されており(前記(1)カ(ア)),一級建築士の資格を有し,「構造にも識見の高い」Pから鉄筋量の削減を指示されたり(前記(1)ク(イ)),構造体の指導を受け(前記(1)エ(イ)),その他構造設計の実務指導(甲30)を受けたりしていたことなどに照らすと,被告総研は,平成設計に対して,単に経営面のみならず,設計業務そのものについても少なからず影響を及ぼしていたと認めることができる。 また,被告総研は,沢田工務店に対しても,定期的な一般的指導のみならず,本件建築物建築に関しても,被告Aへの釈明を求めるなどして工期について強い指導を行うとともに,実行予算の作成,施工方法の指導を具体的に行うなどして,沢田工務店の建築施工に対する影響力を及ぼしていた。 そして,被告総研は,ビジネスホテルの開業指導に当たっては,平成設計及び経営指導先の建設業者に対する上記のような影響力の下,一級建築士の資格を有するスタッフによる積極的指導を行うなどして,システム型枠の使用を容易にし,工期を短縮して,建築費を低減させるために,総研仕様のホテルの構造体の簡素化に関与するとともに,鉄筋量の調節等,経済設計という基本方針に基づく全 的指導を行うなどして,システム型枠の使用を容易にし,工期を短縮して,建築費を低減させるために,総研仕様のホテルの構造体の簡素化に関与するとともに,鉄筋量の調節等,経済設計という基本方針に基づく全般的な経営指導を推し進めてきた。 本件建築物建築に当たっても,被告総研は設計業者を平成設計とし,フルターンキーシステムによるビジネスホテル事業化のための本件経営指導契約を締結した上で,その契約締結の前後にわたって,本件建築物の設計施工に対する指導をするなどし,上記経済設計という考えを反映させた本件建築物の建築に至ったものである。 (イ) 被告総研の本件建築物の構造設計への関与の程度a前記(1)エ(イ)のとおり,総研仕様のホテルは構造体①から構造体⑤へと変化してきたが,その経緯については,辛が,「エクセルイン渋川」(構造体⑤)において,設計時点での構造躯体の検討等を行っていることがうかがわれるほか(甲47),「サンホテル豊川」(構造体⑤)においても,梁型のない設計を指示するなど,被告総研として,総研仕様のホテルの構造体の変遷について高い関心を有するとともに,Pが,本件B送付文書を見た上で,同ホテルの会議に自らの知人である甲建築士等を出席させるなどし,甲建築士に構造設計を担当させることを決定していること,それに相反して,そのころからB建築士の設計によるホテル建築が減少し,B建築士設計による平成17年開業のホテルが少なくなっていることなどからすれば,被告総研としては,構造設計担当者の変更を通じて,上記のような構造体の変化を進めてきたということができ,被告Aも構造設計担当者の変更による構造体の変化を積極的に容認し,関心を抱いていたことが認められる(甲31の1)。 b本件建築物に関しても,前記(1)キのとおり,当初の設計である計画設計概要書( 被告Aも構造設計担当者の変更による構造体の変化を積極的に容認し,関心を抱いていたことが認められる(甲31の1)。 b本件建築物に関しても,前記(1)キのとおり,当初の設計である計画設計概要書(甲29)においては本件梁型は存在しており,同概要書が作成されてから本件建築確認申請に至るまでの約半年の間に本件梁型のない設計に変更され,構造体④の構造となっている。 本件建築物の建築等に関わった関係者はおおむね,被告総研,平成設計,沢田工務店,B建築士に限られる。沢田工務店は建設業者であって,本件建築物については単に施工を請け負ったにすぎず,同社の立場で本件梁型をなくすことはできない。平成設計としては,当初,本件梁型のある設計を予定しており,原告とは設計・監理業務を委託された関係にすぎないし,B建築士においても,計画設計概要書の段階で決まっていた構造設計を,わずか半年で自ら積極的に変更する必要性に乏しく,変更内容が本件梁型をなくすという大幅な変更を伴うものであることなどにかんがみると,平成設計やB建築士が本件梁型をなくすことに対する利益は少ないと認められる。このことに上記構造体の変化の経緯に照らすと,本件建築物の構造が構造体④に至ったことについても,被告総研の強い関与が存するものと推認される。 そして,構造体の変化についての上記事情に加えて,そのころからZ建築士への設計依頼がされなくなったこと,構造体③以降の構造体はZ建築士の計算では不可能とされていたことなどを併せ考慮すると,Z建築士が困難とした構造体を採用するため,構造設計担当者がB建築士に変更されたものと考えられ(戊15頁,16頁参照),その点についても被告総研の強い関与があったものと推認される。 c構造設計担当建築士の変更による構造体の変更等については,建築可能性につき,十分な検討 されたものと考えられ(戊15頁,16頁参照),その点についても被告総研の強い関与があったものと推認される。 c構造設計担当建築士の変更による構造体の変更等については,建築可能性につき,十分な検討の上,合理的根拠を得るに至らない限り,新たな構造設計による建築物が十分な耐震強度等を保有せず,地震等による倒壊する高度の危険性を内在する蓋然性が高いということは見やすい道理である。しかるに,建築士の変更により従前と異なる構造体の建築物の建築が可能とされたこと自体は被告総研代表者でもある被告Aやその他総研関係者(P及びQなど)は認識していたものであるし,Pに至っては,建築の専門家として,本件建築物の安全性に関して,本件耐震壁の評価及びピロティ型式という主要な問題性については十分な認識を有していた。 (ウ) 前記(ア)(イ)によれば,被告総研は,前記注意義務が存するにもかかわらず,原告に対し,本件建築物を建築してビジネスホテル事業を営むよう沢田工務店及び平成設計と協力し合って勧誘し,本件経営指導契約,本件建築請負契約及び本件設計等契約を同時に締結させ,平成設計をして,本件建築確認申請までの間に,本件建築物の構造につき,勧誘当初に示した構造体よりも更に構造耐力上の危険性を増大させる構造体へと変更した設計図書を作成させ,これを被告総研における建築の専門家であるPにおいて確認しながら,特段問題視することなく本件建築確認申請から本件建築物の完成に至るまでの一連の事実経過に至らせているのであって,その結果,前記3のとおり本件建築物が法令上必要とされる耐震強度を有しない構造耐力上危険な建築物として建築されるに至ったものということができる。したがって,被告総研が上記注意義務に違反したことは明らかである。 ウ被告Aの注意義務違反(ア) 前記(1)ア(イ) 有しない構造耐力上危険な建築物として建築されるに至ったものということができる。したがって,被告総研が上記注意義務に違反したことは明らかである。 ウ被告Aの注意義務違反(ア) 前記(1)ア(イ)のとおり,被告Aは,被告総研の設立前から,その前身となる事業を個人で営んでおり,被告総研の設立後も,その特色あるビジネスモデルの方向性を自ら決定し,被告総研の経営指導先である建設業者や各地の不動産業者と情報交換しつつ,ビジネスホテル事業に興味関心を持っている見込み客には自ら率先してビジネスホテル経営を勧誘するなどの営業活動(いわゆるトップセールス)に携わり,上記見込み客に対して,営業面で被告総研への依存関係にある設計業者の協力を得て,被告総研の長年の経験に基づく分析結果を含んだ具体性に富む関係資料を予め用意した上で,被告総研の指導の下でビジネスホテルを開業すること,及び,被告総研の経営指導先である建設業者にビジネスホテル用建築物の建築を請け負わせることの有利性を熱心に説き,上記見込み客に被告総研,その経営指導先及び上記設計業者との契約締結を決断させている。 本件経営指導契約の締結過程(前記(1)オ)においても,被告Aは,Pを通じて沢田工務店から本件土地及び原告の情報を得るや,平成設計に指示してビジネスホテルの事業計画に関する説明用の資料を作成させ,自らFに会ってビジネスホテルの事業計画を説明し,同様に被告総研が開業指導したビジネスホテルへ自ら案内し,Fが出席したセミナーで熱く語り,そのようなトップセールスにより,その説明等に厚い信頼を寄せたFをして上記事業計画に従って被告総研の経営指導によりビジネスホテル事業を行うことを決断させ,本件経営指導契約の締結に至らせている。 加えて被告Aは,前記イ(イ)のとおり,構造設計担当建築士の変更による て上記事業計画に従って被告総研の経営指導によりビジネスホテル事業を行うことを決断させ,本件経営指導契約の締結に至らせている。 加えて被告Aは,前記イ(イ)のとおり,構造設計担当建築士の変更による構造体の変化を積極的に認容していたものといえるが,これにより建築物の基本的安全性が脅かされる蓋然性が高いことは容易に予見し得たものということができる。 これらの事情からすると,被告Aは,原告に対し,自らの積極的な営業活動によりFの厚い信頼を得た結果として本件経営指導契約の成約に至った以上,同契約を踏まえて建築される本件建築物につき,自ら積極的に認容する構造設計担当建築士の変更による構造体の変化が予見されるときには,原告に対する関係においても,これによって本件建築物の基本的安全性が損なわれて原告に不測の損害が生ずることなどのないように,被告総研の業務を統括する代表取締役として,Pなどの各コンサルタントを指導監督すべき注意義務を負っていたものというべきである。 (イ) 前記事実関係によれば,被告Aは,Z建築士が計算困難とした構造体を採用するために総研仕様のホテルの構造設計担当者がB建築士に変更されたという過去の経緯(前記(1)イ(ウ),(2)イ(イ))のもとで,Fに対する自らの積極的な営業活動により本件経営指導契約を締結させ,本件建築物の構造設計担当者がB建築士となり,被告A自ら積極的に認容する構造体(Z建築士が計算困難とした構造体ないしその発展型)が採用されるであろうことを予見しながら,部下であるPに対する本件建築物の基本的安全性確保のための指導監督をしなかったものということができるから,原告に対して負う前記注意義務に違反したものと認めることができる。 (3) 小括以上のとおり,被告総研は,原告に対し,本件ホテルの開業指導に当たり,本件建築物 しなかったものということができるから,原告に対して負う前記注意義務に違反したものと認めることができる。 (3) 小括以上のとおり,被告総研は,原告に対し,本件ホテルの開業指導に当たり,本件建築物の安全性を確保するため,設計業者を適切に選定し,かつ,その設計・施工監理業務を適切に指導監督すべき注意義務を負うにもかかわらず,漫然と一体的に営業活動を行っている平成設計を設計業者として選定して,原告に平成設計との間で本件設計等契約を締結させ,かつ,平成設計に対する指導監督を怠って,平成設計及びその下請業者であるB建築士に本件建築物の安全性が確保されていない本件構造設計を行わせたことによって,上記注意義務に違反したものであり,被告Aは,原告に対し,本件建築物の基本的安全性が損なわれて原告に不測の損害が生ずることなどのないように,Pなどを指導監督すべき注意義務を負うにもかかわらず,これを怠って上記注意義務に違反したものであって,これにより,被告総研らの原告に対する不法行為が成立することとなる。 したがって,被告総研らは原告に対して不法行為責任に基づく損害賠償を負う。 原告の損害(争点(6))(1) 前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア本件建築物の再築に至る経緯Fは,平成17年12月1日,シグマ設計事務所(原告代表者54頁)の建築士から,本件建築物の構造設計の検証の結果,構造計算書が偽装されており,耐震強度が足りない旨の説明を受けたため,翌2日から本件ホテルを自主的に休業した。 その後,Fは,前記第2の2(5)のとおり,被告県より本件各検証の結果が公表されるとともに,同(6)アのとおり,GやHらとの話し合いを経て,同月31日,本件建築物の解体を決断し(原告代表者17~21頁),その旨公表した。 F 5)のとおり,被告県より本件各検証の結果が公表されるとともに,同(6)アのとおり,GやHらとの話し合いを経て,同月31日,本件建築物の解体を決断し(原告代表者17~21頁),その旨公表した。 Fは,解体を決めた理由として,本件建築物をそのままにしておくと近隣住民に不安感を与えて迷惑を掛けること,本件建築物については建築物の耐震改修の促進に関する法律が利用できないこと,耐震補強工事を行う場合,その方法についての被告県の基本方針が決定されてから設計図を作成するのに約3か月を要する見込みであったところ,上記時点では被告県より基本方針が示されていなかったこと,耐震補強工事の費用確保の見通しが全く立っていなかったこと,耐震補強工事を行うと,客室が狭くなって,既存のベッドもその大きさから使用不能となり,また,補強材のために窓がふさがり,ホテルの外観も鉄板で覆われるなど,利用者に大して,安全な建築物に,かつ安全だという信頼感,安心感のもとで宿泊してもらうという,ホテルとしての機能を満足させるものとはならず,商品価値が著しく損なわれ,当時,耐震強度が0.5未満では耐震補強工事が不可能であるとマスコミ報道されていたことと相まって,近隣のビジネスホテルとの競争に太刀打ちできないと判断したことを挙げており,本件ホテルの近距離にビジネスホテル「アズイン半田インター」(128室)が開業予定であり(甲57,20頁,原告代表者19頁,20頁),既に同ホテルの建築工事が始まっていたことも,上記判断に至る要素の一つであった(以上につき,甲57,原告代表者)。 被告県は,前記第2の2(6)イのとおり,本件建物解体の公表後間もない平成18年1月6日,本件建築物その他耐震偽装が発覚したホテルの改修に関する被告県の基本方針として検討中の案である本件改修取扱案を原告のもと 記第2の2(6)イのとおり,本件建物解体の公表後間もない平成18年1月6日,本件建築物その他耐震偽装が発覚したホテルの改修に関する被告県の基本方針として検討中の案である本件改修取扱案を原告のもとへ持参して,内容を説明し,同年2月1日,最終的な被告県の基本方針を記載した本件改修取扱文書を原告に送付した。 原告は,同月20日に地鎮祭を行い,翌21日には本件建築物の解体工事が始まる中で,上記解体後の本件土地の利用方法について,売却処分により借入金債務を清算することも含めて検討した末,前記第2の2(8)アのとおり,同年3月末ころに沢田工務店から2億円を受領するに当たって,ビジネスホテル再築の建築工事を同社に請け負わせることが条件とされていたこともあって(原告代表者71頁),再築を決断した上で,沢田工務店に建築代金の見積りをさせ,その見積額(原告代表者によれば,消費税を含めて約6億8000万円)をもって同社に建築工事を発注した(原告代表者71頁,72頁)。 本件ホテルの従業員の雇用問題については,当分の間休業状態が続くことが見込まれ,運転資金不足もあって,F自ら,平成17年12月20日に解雇予告をした上で,前記第2の2(7)アのとおり,平成18年1月31日をもっていったん解雇し,その後,建て替え工事と並行してホテル営業再開に向けての準備を進める中で,平成19年1月ころから再び従業員を雇用した(甲82の3)。 原告は,同年4月16日には,建て替えたビジネスホテルにおいて営業を再開した。 イB建築士が構造設計を担当した他のビジネスホテルの動向被告県建設部建築担当局建築指導課がインターネット等での情報をとりまとめた文書等(乙27の1~3),及び被告総研らが証拠提出する新聞記事(丙3の13)によれば,本件建築物と同様にB建築士が構造設計に関与して 部建築担当局建築指導課がインターネット等での情報をとりまとめた文書等(乙27の1~3),及び被告総研らが証拠提出する新聞記事(丙3の13)によれば,本件建築物と同様にB建築士が構造設計に関与して耐震強度を偽装した全国各地のビジネスホテルのうち,「名鉄イン刈谷」(耐震強度0.35(ただし,耐震壁を2枚と評価した場合)),「京王プレッソイン茅場町」(耐震強度0.26)及び「京王プレッソイン五反田」(耐震強度0.45)は,本件建築物と同様に解体されたが,「サンホテル奈良」(耐震強度0.44),「サンホテル大和郡山」(耐震強度0.47),「シティホテル峰山」(耐震強度0.37),「エースイン松本」(耐震強度0.31,免震化耐震補強工事により対応),「プラザホテル三田」(耐震強度0.49),「プラザホテル舞鶴」(耐震強度0.36)及び「カントリーホテル高山」(耐震強度0.23)は,耐震補強工事を経て,営業再開に至っている。 ウ国土交通省内の協議会の協議結果前記第2の2(3)アの耐震偽装事件発覚後,その対策を協議するため国土交通省に構造計算書偽造問題対策連絡協議会が設置され,平成17年11月25日に実施された第3回会議の議事概要(甲70)によると,今後の取組みの一つとして特定行政庁による命令手順と危険度の線引きについて協議がなされ,「使用制限,除去等の命令を行う際の手順とそのトリガーとなる危険度(保有水平耐力と必要保有水平耐力の比(Qu/Qun)について,平成16年の建築基準法改正で定められた「既存不適格建築物に係る勧告・是正命令制度のガイドライン」において建築基準法第10条の勧告の基準とされているとともに耐震改修促進法における基本方針(告示)に盛りむことを予定している構造耐力指標(Is)0.3に相当す㨯るものとして,Qu/Qun0. 」において建築基準法第10条の勧告の基準とされているとともに耐震改修促進法における基本方針(告示)に盛りむことを予定している構造耐力指標(Is)0.3に相当す㨯るものとして,Qu/Qun0.5を目安とすること」が確認された。 エ被告県の一般県有施設の動向被告県建設部建築担当局建築指導課の調査によれば,平成20年4月1日現在,被告県の一般県有施設の中,「Is」の値が0.3以下である愛知県西庁舎ほか25棟が,耐震補強工事を経て使用継続に至っている(乙28)。 (2) 本件建築物の建て替えの要否原告は,本件建築物の耐震強度不足に関する問題が耐震補強工事によっては解消されないとして,本件建築物の建て替え費用が被告らの不法行為と相当因果関係を有する損害であると主張するのに対し,被告らは,耐震補強工事によって十分に対処し得るものと主張するところ,以下のとおり,法令又は社会通念上,建築物の耐震強度が0.5未満の場合には解体が相当であると考えられているとは到底いえず(後記ア),施工上の技術的問題としても,耐震補強工事により本件建築物の耐震強度を法令の基準(1.0)以上に高めることが十分に可能であり(後記イ),費用面でも,建て替えより耐震補強工事を実施する方が安価であるといえるのであって(後記ウ),原告が指摘するホテル営業上の悪影響等を考慮しても(後記エ及びオ),建て替え費用が被告らの不法行為等と相当因果関係を有する損害であるということはできない。 アまず,原告は,本件建築物の耐震強度は,前記第2の2(5)イのとおり本件耐震壁を2枚と評価することを前提とすると,梁間方向の6階梁の数値(0.42)が最も低いものであるところ,前記(1)ウの協議内容などから,一般的には,耐震強度0.5を目安として,それ以下の建築物については原則として解体するこ 前提とすると,梁間方向の6階梁の数値(0.42)が最も低いものであるところ,前記(1)ウの協議内容などから,一般的には,耐震強度0.5を目安として,それ以下の建築物については原則として解体することとされている旨主張する。 しかしながら,前記ウの協議内容は,そもそも行政庁が,前記第2の2(3)の耐震強度偽装事件の被害物件のうちマンション等について,入居者に退去を求めることを念頭に置いて,使用制限等の命令を発するための耐震強度の目安を論じるものであって,いわば耐震補強工事の期間中を含めて建築物を使用し続けることの当否を問題にするものであり,耐震強度が0.5未満であることが直ちに耐震補強工事の不適合を意味するものではないから,耐震補強工事での対応の可否を画一的に示したものではないと解される。また,前記(1)エのとおり,耐震強度0.5に相当する構造耐力指標(Is)0.3未満の建築物が多数,耐震補強工事により使用継続が可能となっており,耐震強度0.5未満という数値は建て替えを相当とするなどという社会通念が確立しているともいい難い。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ次に,原告は,本件建築物の用途等の具体的事情に照らして検討しても,本件建築物の耐震強度不足につき耐震補強工事によって対処することは不可能であると主張する。 しかしながら,後記(ア)ないし(エ)のとおり,少なくとも施工上の技術的問題に関する限り,耐震補強工事が不可能であるとまでは認められない。 (ア) 原告は,本件建築物の内側からの補強として,壁及び枠柱を補強する方法については,壁が厚くなり,柱も太くなるから,補強によって客室が狭くなるため,客室としての効用を喪失するとするが,補強により客室面積が減少する程度及び具体的範囲などは本件証拠上明らかではなく,客室とし いては,壁が厚くなり,柱も太くなるから,補強によって客室が狭くなるため,客室としての効用を喪失するとするが,補強により客室面積が減少する程度及び具体的範囲などは本件証拠上明らかではなく,客室として機能しなくなる程度まで客室面積が減少するものと認定することはできない。 (イ) 原告は,本件建築物の外側からの補強のうち,鉄骨のブレス付きフレームを貼り付けるという方法については,客室の窓がふさがる可能性があるとするが,どの程度の大きさのフレームを貼り付けるかなどは一義的には定まらず,本件建築物に関して必要なフレームの大きさなどは本件証拠上不明であって,耐震補強工事によって客室の窓がふさがる可能性は否定できないとしても,上記方法による補強が不可能であると判断することまではできない。 (ウ) 原告は,本件耐震壁の補強についても,既存壁の幅と梁幅が同一であり,補強材を貼り付けるための十分な幅がないため不可能であると主張するが,梁の打ち増しによって梁の幅を広げた上で,耐震壁の打ち増しをするという方法も考えられるのであり(乙12,26頁),その際,梁が柱の幅を超えることとなれば,柱の打ち増しも要し,内装工事のやり直しが必要となる可能性もあるが(N54頁,55頁),そもそもどの程度耐震壁の打ち増しが必要であるかは本件証拠上明らかとはいえず,本件建築物の柱の幅は2階から10階までが65㎝であるのに対し(甲1の4,S-14),同階の梁及び壁の幅は各20㎝(G3,EW20)ないし35㎝(G2)と18㎝(EW18A)であり(同S-15,S-17),梁及び耐震壁の打ち増しによる柱の打ち増しの必要性の有無も本件証拠上一義的に判断し得るものではないことからすれば,上記補強方法が不可能であるとすることはできない。 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)に加え,前記(1)イ ち増しによる柱の打ち増しの必要性の有無も本件証拠上一義的に判断し得るものではないことからすれば,上記補強方法が不可能であるとすることはできない。 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)に加え,前記(1)イのとおり,本件建築物よりも耐震強度の低いビジネスホテルが耐震補強工事を経て営業を再開した事例も少なからず存することを併せかんがみると,本件建築物に関しても耐震補強工事により法令上必要な耐震強度を確保できないものとすることはできない。 ウ費用面からも検討を加えるに,一般的には,耐震補強工事の費用が建て替え費用よりも安価であることは明らかであり,Fも同様の認識を表明している(原告代表者62頁)。 エ原告は,本件建築物が前記第2の2(3)の耐震偽装事件の被害物件であるとの印象を持たれていること,美観上の欠点,部屋が狭くなる等の機能上の欠点などから,本件ホテルの商品価値が低下し,耐震補強工事によっては十分な損害回復とはならないとも主張する。 しかしながら,上記のとおり耐震強度0.5未満の耐震強度不足につき耐震補強工事により対処したビジネスホテルが少なからず存在し,かつ,これらについて美観上,機能上の欠点により営業上重大な支障が生じているという事情も見受けられない。 そもそも,原告においては,耐震補強工事の内容を具体的に検討することなく,迅速に解体を決断し,解体工事を始めていることは前記(1)アのとおりであり,むしろ,地元金融機関のあっせんによるとはいえ,本件建築物の施工業者である沢田工務店との間で,運転資金の提供と引換えに,本件建築物の建て替えを同社に請け負わせることを約束しているのであって,そのような経緯をも踏まえると,原告の損害が耐震補強工事によっては回復できないものと判断することはできない。 オ原告は,本件建築物の近隣住民及び通行人の安全 け負わせることを約束しているのであって,そのような経緯をも踏まえると,原告の損害が耐震補強工事によっては回復できないものと判断することはできない。 オ原告は,本件建築物の近隣住民及び通行人の安全を考えると,一刻も早く耐震強度不足に対処しなければならず,そのような時間的制約の中で解体という決断がやむ得ないものであったかのようにも主張するが,地震の発生頻度その他法令で定める耐震強度の基準の意味合いを考慮すれば,上記主張は採用することができないものである。 (3) 損害額の算定前記(2)によれば,本件建築物の耐震強度不足につき建て替えを要するとする原告の主張は採用することができず,以下において,耐震補強工事により対処し得ることを前提として損害額を算定することとする。 ア本件建築物の耐震補強工事に伴う損害(ア) 耐震補強工事費用原告は,本件建築物が平成17年11月末以降建物としての効用を喪失し,解体せざるを得ないので,この時点での建物残価相当額の損害を被ったとし,建物取得価額(建物本体の建築費)に法定の減価償却をして算出した金額(3億5400万8308円)を損害額に計上しているが,これが認められず,より低額である耐震補強工事費用の限度で損害として認めるべきことは前記のとおりである。 耐震補強工事費用相当額を算定するに当たっては,本件建築物の耐震強度を高めるために必要かつ十分な耐震補強工事の具体的内容を検討した上で,その工事費用を見積もるべきであるが,本件証拠上,これを的確に判断するに足る資料は見当たらない。 加えて,本件建築物は前記(1)のとおり既に解体・収去され,現存していないから,必要とされる耐震補強工事の具体的内容を詳細に確定し,それに要する工事費用の正確な額を算定することは極めて困難である。 このように,損害が発生したことは明ら り既に解体・収去され,現存していないから,必要とされる耐震補強工事の具体的内容を詳細に確定し,それに要する工事費用の正確な額を算定することは極めて困難である。 このように,損害が発生したことは明らかであるが,その金額の算定が極めて困難な場合には,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならない。 本件建築物の耐震強度が前記第2の2(5)イのとおりであること,B建築士が構造設計に関与した他のビジネスホテルの動向が前記(1)イのとおりであることからすれば,本件建築物の耐震補強工事についても上記ホテルと同様に相当の費用を要するものと見込まれること,例えば,被告県を相手とする別件訴訟において,本件建築物より延べ床面積や客室数が若干少ないものの,全体としては近似するビジネスホテル「アズイン大府」の改修工事費が約1億4268万円であると主張されていること(当庁平成20年(ワ)第3887号損害賠償請求事件。当裁判所に職務上顕著な事実),その他補修した場合の損害額に関する当事者の主張立証の状況,弁論の全趣旨にかんがみると,本件建築物の耐震補強工事費用の損害額は,後記(ウ)bの引越費用等の損害額も含めて1億5000万円と認定するのが相当である。 (イ) 本件建築物建築に付随し,解体により無駄となった諸費用原告は,上記諸費用として,別紙12のとおり,建物登録免許税175万4200円,担保登録免許税201万4000円,司法書士報酬40万1483円,不動産取得税1212万1800円,確認申請証紙代27万円,設計管理費1574万円,収入印紙2万円の合計3232万1483円を損害額として計上している。 しかしながら,上記諸費用の計上は本件建築物の解体を損害とすることを前提するものであって,そもそも本件 ,設計管理費1574万円,収入印紙2万円の合計3232万1483円を損害額として計上している。 しかしながら,上記諸費用の計上は本件建築物の解体を損害とすることを前提するものであって,そもそも本件建築物の解体自体が本件不法行為と相当因果関係のある損害と認められないことは前記のとおりである。 ただし,本件設計等契約(甲6)に基づいて平成設計に支払済みの設計管理費1652万7000円(消費税を含む。)については,本件経営指導契約(甲5)に基づいて被告総研に支払済みの経営指導料3675万円(消費税を含む。)と共に,必ずしも本件建築物の解体を前提としない損害として評価し得るものであるから,本件不法行為と相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。 (ウ) 解体工事・引越費用・備品保管費用等a解体工事費用原告は,別紙12のとおり,本件建築物の解体工事費用3468万1965円を損害額に計上しているが,前記(イ)と同様,損害とは認められない。 b引越費用及び備品保管費用原告は,別紙12のとおり,引越費用及び備品保管費用(以下併せて「引越費用等」ともいう。)として合計1031万8035円を損害額に計上しているところ,本件建築物の耐震補強工事の内容として,本件耐震壁の補強工事のみを取り出しても,本件建築物の2階から10階までにおける作業が必要となる可能性が高く,併せてピロティ型式に対する補強など,1階部分においても作業が必要となることからすれば,耐震補強工事の期間中に,本件建築物内部の備品等の全部又は一部を本件建築物内部で移動し,又は本件建築物から持ち出して,一定期間保管するなどの必要が生ずることは否定できない。 しかしながら,耐震補強工事の具体的内容が特定されない限り,必要な引越費用等の具体的金額を算定することは極めて困難というほか から持ち出して,一定期間保管するなどの必要が生ずることは否定できない。 しかしながら,耐震補強工事の具体的内容が特定されない限り,必要な引越費用等の具体的金額を算定することは極めて困難というほかないから,民訴法248条により,耐震補強工事費用の損害と併せて前記(ア)のとおり算定することとする。 (エ) 仮設事務所原告は,別紙12のとおり,仮設事務所の設置に関する費用として150万円を損害額に計上している。 しかしながら,仮設事務所は本件建築物の建て替え工事に伴って設置を要したものとうかがわれ,耐震補強工事で対処する場合にも必要であるとは通常考えられないから,前記(イ)と同様,損害とは認められない。 イホテル休業に伴う損害原告は,本件ホテルの休業開始(平成17年12月2日)から,本件建築物の建て替えを経て,営業再開(平成19年4月16日)に至るまでの休業期間(500日間)を前提として,別紙12のとおり,ホテル休業に伴う利益喪失による損害1億0698万6208円,固定的経費2715万9508円,得意先喪失による損害1370万8670円,合計1億4785万4386円を損害額に計上している。 上記各項目の損害は,本件建築物の耐震強度不足につき耐震補強工事により対処する場合においても,一定期間は本件ホテルの営業を休止せざるを得ないため,その発生の可能性を一律に否定することはできない。 ただし,原告が,耐震補強工事について具体的検討を経ることなく,本件建築物の解体に至っていることは前記のとおりであり,本件証拠上も耐震補強工事により対処する場合に本件ホテルの休業を要する期間を的確に示す資料はない。本件建築物と同様に前記第2の2(3)の耐震偽装事件の被害物件で,耐震補強工事によって対応した「シティーホテル峰山」は,約9か月の休業状態であったとされ ルの休業を要する期間を的確に示す資料はない。本件建築物と同様に前記第2の2(3)の耐震偽装事件の被害物件で,耐震補強工事によって対応した「シティーホテル峰山」は,約9か月の休業状態であったとされていること(乙34)からみて,本件ホテルの休業を要する期間も,上記と同じ9か月程度であると一応考え得なくはないが,耐震補強工事の具体的内容が特定されない限り,休業期間を具体的に認定することは極めて困難というほかない。 そして,原告の主張するホテル休業に伴う上記損害については,①休業期間中の原告役員であるFほか3名の得べかりし役員報酬相当額5607万2661円は,そもそも上記各個人の経済的損失をいうものであって,原告の損害ではないことが明らかな上,会社の役員報酬の法的性質からしても,本件不法行為と相当因果関係を有する損害とは認められないものであること,②得意先喪失による損害1370万8670円は,本件ホテルが良好な立地条件を満たすビジネスホテルであり(甲54),休業・再開後に利用客が恒常的に減少するといった事態は生じにくいとみられるため(被告A13頁は,ビジネスホテルが成功する最大の要素は立地であるという。),長期間の休業により同主張額のような多額の損害が生ずるとは認め難いこと,③原告主張の休業損害額は,建て替えのための休業期間500日(約17か月)を基礎に算定されているが,補強を前提とすれば,500日は長きに過ぎるとみられることなどの問題がある。 以上の点に加え,弁論の全趣旨にかんがみると,ホテル休業に伴う損害の額は,民訴法248条により,5000万円と認定するのが相当である。 ウ再築・再開業に伴う損害(ア) 借入金利息原告は,別紙12のとおり,本件建築物の建て替えを前提として,そのために本件建築物の建築費用相当額(4億0268万4450 円と認定するのが相当である。 ウ再築・再開業に伴う損害(ア) 借入金利息原告は,別紙12のとおり,本件建築物の建て替えを前提として,そのために本件建築物の建築費用相当額(4億0268万4450円)を借り入れる必要があるとし,その借入金利息4530万2002円を損害額に計上している。 しかしながら,本件建築物の耐震強度不足への対処としては耐震補強工事で足り,解体を要しないことは前記のとおりであり,上記主張はその前提を誤るものであって採用し得ない。 (イ) オープン用垂幕,広告費,パンフレット等作成,オープンセレモニー費上記各費用についても,本件建築物の建て替えを前提とするものであり,耐震補強工事により対処する場合の必要性を十分に認めることができないから,本件不法行為と相当因果関係を有する損害とは認められない。 エ小括前記アないしウで認定した損害額のうち,本件建築物の耐震補強工事費用等の損害と休業損害の合計2億円は,被告県の国家賠償法上の違法行為又は被告総研らの不法行為により生じた損害と認められる。 また,被告総研が平成設計等と一体となって原告に対する営業活動を行い,受注に至っていること,その他本件経営指導契約及び本件設計等契約の締結に至る経緯(前記4(1)オ)を踏まえると,原告が被告総研に支払った経営指導料3675万円(消費税を含む。)及び平成設計に支払った設計・施工監理料1652万7000円(同)の合計5327万7000円は被告総研らの不法行為により生じた損害と認めることができる。 過失相殺(1) 平成設計の過失被告県は,原告が本件建築物の設計・施工監理業務を委託した設計業者である平成設計が原告と身分上又は生活関係上一体をなす者であるとした上で,同社の過失も原告の落ち度として過失相殺の対象となるとし,本件建築確認申請 が本件建築物の設計・施工監理業務を委託した設計業者である平成設計が原告と身分上又は生活関係上一体をなす者であるとした上で,同社の過失も原告の落ち度として過失相殺の対象となるとし,本件建築確認申請書の添付書類である構造計算書を偽装したB建築士は平成設計から本件建築物の構造設計業務を委託された者であり,同建築士の不正行為を見過ごした原告及び平成設計の過失は重大であるとして,9割以上の過失相殺がされるべきであると主張する。 しかしながら,建築基準法及び建築士法が,建築物の規模,構造に応じて,建築物の設計及び建築確認申請に際して建築士の関与を義務づけている趣旨は前記1(5)のとおりであり,建築主が建築の専門家であるとか,不正な建築確認申請に積極的に関与したというような特段の事情がない限り,所定の国家資格を有する建築士が所属するとして,正規に登録された建築士事務所に設計業務を委託した建築主には基本的に落ち度はないものと考えられるのであり,建築主と設計業者との契約関係の存在をもって,建築主事の国家賠償法上違法な職務執行につき建築主に責任を負わせる根拠とすることは不適切であって,このことは過失相殺の規定の適用又は類推適用に関しても同様である。 加えて,原告が,被告総研との間で本件経営指導契約を締結し,平成設計との間で本件設計等契約を締結するに至った経緯は前記4オのとおりであって,本件建築物の設計・施工監理業務を平成設計に担当させることも,被告総研によるビジネスホテル開業指導の一内容として,いわば当然の前提とされており,原告と平成設計とが緊密な関係にあったとは到底いえないこと,Fその他原告の役員・従業員の中に建築の専門家はおらず,本件建築物の設計に関与した様子は全く見受けられないことなどに照らすと,過失相殺の規定の適用又は類推適用に関して原告と平 とは到底いえないこと,Fその他原告の役員・従業員の中に建築の専門家はおらず,本件建築物の設計に関与した様子は全く見受けられないことなどに照らすと,過失相殺の規定の適用又は類推適用に関して原告と平成設計とを一体的に捉える余地はなく,公平の観点からも,平成設計の過失を原告側(被害者側)の過失と評価することはできない。 (2) 本件建築確認申請書における誓約被告県は,原告が本件建築確認申請書に「事実に相違ない」として署名していることも,過失相殺を適用又は類推適用すべき根拠として主張するかのようにみられる。 しかしながら,原告が建築の専門家とはいえず,本件建築物の設計に積極的に関与した様子も存しないことは前記のとおりであり,そもそも建築主の知識・能力をもって建築物の安全性を確保することを法が予定しているとはいえないことからすれば,本件建築物の構造設計上の問題点を原告が見過ごしたことにつき,責任を負担させるのは不適切である。 したがって,原告が,事実に相違ない旨記載された本件建築確認申請書に署名押印し,被告県に提出されたことをもって,過失相殺の規定の適用又は類推適用を認めることはできず,被告県の主張は採用し得ない。 損益相殺被告県は,損害の公平な分担という見地から,平成17年5月から同年11月まで本件ホテルを営業することにより得た原告の利益(2168万0686円)は原告の損害から控除されるべきであると主張する。 しかしながら,被告県が上記主張の根拠として引用する裁判例は,重大な瑕疵のある建築物の建て替え費用につき,その全部を損害賠償として認めると,建築主に損害の回復以上の利益を与えることになるとして,一部を控除すべきであるとの見解を明らかにしたものである。 これを本件についてみると,前記のとおり,本件建築物の建て替え費用は原告の損害として ,建築主に損害の回復以上の利益を与えることになるとして,一部を控除すべきであるとの見解を明らかにしたものである。 これを本件についてみると,前記のとおり,本件建築物の建て替え費用は原告の損害として認めていないから,被告県の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用の限りではない。 寄与率による減額(1) 被告県は,不法行為事案に関する近時の裁判例において,結果(損害)発生の原因的事実が複数存在する場合には,公平の観点から,当該結果(損害)発生に対する寄与度又は寄与率に応じた限定責任(割合責任)を負担させることを肯定するものがあるとした上で,本件においては,原告,平成設計及び沢田工務店の責任が重大であるのに対し,本件建築主事による本件建築確認審査は,当時の建築確認審査の方法としては妥当なものであって,仮に過失が認められるにしても極めて軽度であり,本件結果(損害)に対する寄与度は極く僅かであるとして,被告県の損害賠償責任は,寄与率減額の法理により,全損害の1割を超えない範囲に限定されるべきであると主張する。 (2) しかし,原告について,本件建築物の構造設計上の問題に関する責任を負わせるのが不適切であることは前記6のとおりであり,そもそも原告の行動が本件不法行為による損害発生の一原因であったと解すること自体,不相当というべきである。 また,本件建築主事は,本件建築確認申請に対し,本件建築物の構造設計上の問題を認識して問い合わせるなど,適切に対処していれば,本件建築確認申請は取り下げられるか,あるいは,構造設計及び構造計算を,建築士を変更するなどして一からやり直さざるを得なくなるなどにより,本件結果(損害)の全部についてその発生を防止することが十分に可能であったといえる。 そうすると,他に共同不法行為者がいるとしても,少なくとも本件建 などして一からやり直さざるを得なくなるなどにより,本件結果(損害)の全部についてその発生を防止することが十分に可能であったといえる。 そうすると,他に共同不法行為者がいるとしても,少なくとも本件建築確認行為の責任主体である被告県が,原告との関係において,結果発生に対する寄与の程度又は割合をもって原告の被った損害を按分し,責任を負うべき範囲を限定するよう求めることは許されないものと解される(最高裁判所平成10年(受)第168号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁参照)。 (3) したがって,寄与率減額の法理なるものによる責任の限定をいう,被告県の上記主張は採用し得ない。 沢田工務店の弁済金の充当方法(1) 前記第2の2(8)アのとおり,原告は平成18年3月末ころに沢田工務店から2億円を受領しているところ,その経緯は前記5(1)アのとおりであって,最終的に,原告の会計上,損害賠償金として処理されている。 (2) 原告の損害のうち被告総研に支払った経営指導料3675万円(消費税を含む。)及び平成設計に支払った設計・施工監理料1652万7000円(同)の損害については,被告県が賠償責任を負わないものであること,及び,沢田工務店の弁済金が原告の損害全部をてん補するものではないことからすると,原告としては,沢田工務店の弁済金をまず上記各金員の損害に充当するのが合理的であり,原告の会計処理上,沢田工務店の弁済金を仮受金から損害賠償金へと振り替えた時点で,そのような充当指定の意思を黙示的に表示したものと解するのが相当である(民法488条2項本文)。 したがって,沢田工務店の弁済金は,まず,上記経営指導料及び設計・施工監理料(合計5327万7000円)に充当され,次に,その残額(1億4672万3000円)が被告らの損害賠償残債 条2項本文)。 したがって,沢田工務店の弁済金は,まず,上記経営指導料及び設計・施工監理料(合計5327万7000円)に充当され,次に,その残額(1億4672万3000円)が被告らの損害賠償残債務(いずれの被告についても2億円)に充当される結果,被告らはいずれも原告に対し損害賠償残債務5327万7000円を負うこととなる。 (3) なお,平成設計の破産手続による配当金(141万2820円)の充当についても同様であり,沢田工務店の弁済金充当と相まって,被告ら全員の損害賠償債務が上記配当金額だけ減少する結果,被告らの原告に対する損害賠償残債務は5186万4180円となる。 弁護士費用本件事案の内容及び認容額等に照らし,被告らの行為と相当因果関係ある弁護士費用は518万円と認める。 まとめ以上によれば,被告らは,原告に対し,連帯して国家賠償法1条1項又は民法709条に基づく損害賠償金5704万4180円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告県につき平成18年2月18日,被告総研らにつき同月19日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うこととなる。なお,原告のその余の選択的請求ないし予備的請求(被告総研らに対する使用者責任に基づく損害賠償請求,被告総研に対する債務不履行に基づく損害賠償請求)によっても,認容額が上記金額を上回るものではない。 第4 結論 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求(選択的請求及び予備的請求を含む。)を棄却することとし,被告県の申立てにより同被告に担保を立てさせて仮執行免脱の宣言をすることとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部裁判長裁判官戸田久裁判官河村隆司裁判官坂野好英 申立てにより同被告に担保を立てさせて仮執行免脱の宣言をすることとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部裁判長裁判官戸田久裁判官河村隆司裁判官坂野好英(別紙1から別紙12省略)
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