平成6(行ウ)46 建物取壊決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成6年10月17日 東京地方裁判所 公物・公企業など
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判決文本文5,932 文字)

○ 主文一本件訴えをいずれも却下する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実及び理由第一原告らの請求被告が平成五年一二月一五日にした別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の取壊決定処分(以下「本件決定」という。)を取り消す。 第二事案の概要本件は、かって、陸軍士官学校、陸軍省、極東国際軍事裁判法廷等の建物として用いられた本件建物につき、その保存を求める原告らが、被告がその取壊決定をしたとし、右取壊決定は原告らの史跡保存権を侵害するもので違法であるとして、その取消しを求めている事案である。 一当事者間に争いのない事実 1 本件建物は、陸上自衛隊東部方面総監部等の庁舎として使用されている被告所管に係る行政財産であり、かって、陸軍士官学校、陸軍省、極東国際軍事裁判法廷等の建物として用いられた。 2 防衛庁においては、昭和六二年八月ころ、その本庁庁舎を東京都港区赤坂から本件建物が所在する東京都新宿区市谷本村町(以下「市ケ谷地区」という。)に移転させる防衛庁本庁庁舎等移転計画(以下「本件移転計画」という。)を策定した。 3 平成五年一一月九日の参議院内閣委員会において、本件建物の保存問題が審議の対象となったが、被告は、同年一二月一五日、本件建物を取り壊し、その一部については移設復元する旨を公表した。 二原告適格及び本件決定の違法性についての原告らの主張 1 原告らの地位及び原告適格原告らは、それぞれ、研究者、旧陸軍の関係者、自衛隊の退官者、極東国際軍事裁判の被告となった者の遺族又は社会・文化活動を行う者として、「市ケ谷台一号館の保存を求める会」(以下「保存を求める会」という。)に参加し若しくはこれを支援し又は独立して本件建物の保存運動を行ってきた者である。 右のとおり、原告らは、いずれも本件建物の存続に関して密接な利 館の保存を求める会」(以下「保存を求める会」という。)に参加し若しくはこれを支援し又は独立して本件建物の保存運動を行ってきた者である。 右のとおり、原告らは、いずれも本件建物の存続に関して密接な利害関係を有しており、極東国際軍事裁判所が設置されるなどした歴史的、文化的遺構である本件建物の保存に関し、憲法前文一段、一三条から導かれる史跡保存権を享有している者であるから、本件決定の取消訴訟を提起する法律上の利益を有するものである。 2 本件決定の違法性防衛庁がその本庁庁舎の移転に伴い、本件建物を取り壊す計画を有していることを知った保存を求める会は、本件建物の保存に関する要望書の提出、請願等を行うなどしたが、被告は、本件決定をしたものである。 本件建物は、極東国際軍事裁判(いわゆる東京裁判)という戦勝国が敗戦国を裁く歴史上異例の裁判が行われた場所であり、こうした歴史的遺構は、物言わぬ生き証人として、その場に原型、原状のまま保存されるべきものであり、被告は、本件建物を史跡として保存すべき義務がある。それにもかかわらず、被告は、右義務に違反し、原告らの史跡保存権を侵害する本件決定をしたものであり、本件決定は違法である。 三争点被告は、原告らの主張する本件決定なるものは、被告が単に本件移転計画を確認、公表した行為にすぎず、また、被告の管理処分権に基づく本件建物の取壊しは、取消訴訟の対象となる処分その他の公権力の行使に当たらない旨の本案前の主張をしており、本件においては、取消訴訟の対象となる処分の存否ないしその処分性が争点とされている。この点に関する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。 1 被告の主張(一) 防衛庁は、その本庁庁舎が所在する東京都港区赤坂周辺の商業地化が著しく進展し、警備、通信面等において防衛庁の中央組織の所在場所として適 者双方の主張の要旨は、次のとおりである。 1 被告の主張(一) 防衛庁は、その本庁庁舎が所在する東京都港区赤坂周辺の商業地化が著しく進展し、警備、通信面等において防衛庁の中央組織の所在場所として適切でなくなってきている現状を踏まえ、昭和六二年八月二八日に、本件移転計画を策定したものである。本件移転計画を策定する過程において、移転先である市ケ谷地区の一号館である本件建物については、過去に、陸軍士官学校、陸軍省、極東国際軍事裁判法廷等の建物として用いられたことも考慮し、その取扱いにつき種々検討が重ねられたが、市ケ谷地区の敷地の中央部に所在する大規模な本件建物を残置したままでは、本件移転計画を進めることはできないとの結論に至り、本件建物の取壊しを含む本件移転計画を策定したものである。なお、本件移転計画は、国の庁舎等の使用調整等に関する特別措置法及び関係法令に基づき、特定国有財産整備特別会計による事業として昭和六三年度に着手され、以後遂年事業が進められてきている。 防衛庁は、平成五年一一月九日の参議院内閣委員会における本件建物の保存問題に関する件の審議を踏まえ、その保存の方法について再検討を行い、同年一二月一五日、本件建物の象徴的部分である大講堂等を可能な限り現部材を再利用しつつ、市ケ谷地区内において移設、復元を図ることが最も適当であるとの結論に至り、同日、その旨を公表したものである。 (二) 原告らは、右計画内容の公表をもって、本件決定と主張するが、右公表は、本件建物については取り壊さざるを得ないとの本件移転計画を確認し、その内容を明らかにしたにすぎないものである。 いずれにせよ、取消訴訟の対象となるのは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に限られ(行政事件訴訟法三条二項)、公権力の行使に当たる行為とは、公権力の主体たる国又は公共団体 ないものである。 いずれにせよ、取消訴訟の対象となるのは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に限られ(行政事件訴訟法三条二項)、公権力の行使に当たる行為とは、公権力の主体たる国又は公共団体が、法令の規定に基づき、優越的な意思の発動として、直接一方的に国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為をいうものであるところ、本件建物は、被告の管理処分権に基づき、用途廃止を経て取り壊されることになるものであるが、そうした被告の行為は、防衛庁が陸上自衛隊東部方面総監部等の庁舎として使用している公用財産の管理処分に関するものにすぎず、これにより直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するような性質の行為でないことは明らかであるから、取消訴訟の対象たる処分その他公権力の行使に当たる行為ではない。 なお、原告らは、憲法前文一段及び一三条に由来する史跡保存権を有する旨主張するところ、史跡保存権なるものは、具体的にこれを保障した実定法規が存しないことはもとより、その概念そのものが抽象的かつ不明確であるばかりでなく、具体的な権利内容、権利の主体、客体等どの点をとってみても一義性に欠け、その外延を画することさえできない極めて曖昧なものであり、憲法で保障された基本権として致底認められるものではない。 2 原告らの主張(一) 被告は、昭和六二年に策定された本件移転計画には本件建物の取壊しがその一内容として含まれているというようであるが、本件移転計画は、本来論理必然的に本件建物の取壊しを帰結するものではなく、本件移転計画自体がどのように具体化現実化するかは、計画立案後の課題であったものであり、本件決定により青写真にすぎなかった行政計画が初めて個別具体的行政決定となり、本件建物の取壊しが決定されたものである。 (二) 取消訴訟の目的が基本的に行政活動よ 計画立案後の課題であったものであり、本件決定により青写真にすぎなかった行政計画が初めて個別具体的行政決定となり、本件建物の取壊しが決定されたものである。 (二) 取消訴訟の目的が基本的に行政活動より生じた違法状態の排除と国民の不利益の救済にある以上、権利利益の保護を必要とする違法な行政活動が処分性を具えているかどうかは、まず、他の救済手段(訴訟形態)が存在しているか否かを議論すべき必要がある。そして、本件決定を取消訴訟以外の他の行政事件訴訟法上の訴訟形態による訴えの対象とすることは文理上困難であるから、本件決定を取消訴訟の対象たる行政処分に該当することを認めるべきである。 (三) 本件決定が公用財産の管理処分に関するものであるとしても、管理処分権の行使自体が国民の基本権との関係で適正なものでなければならない以上、これをもって処分性を否定する根拠とはならない。 また、被告の主張する処分概念の中心となるのは、一定の行政活動が国民の権利利益に影響を及ぼすか否かという点であるところ、原告らは、前記のとおり、史跡保存権を有しており、本件決定によりこれが侵害される以上、本件決定には処分性があるというべきである。 第三争点に対する判断一原告らは、本件決定をもって取消訴訟の対象となる行政処分である旨主張するが、それ以上に、本件決定なるものがいかなる法令に基づくいかなる効力を有するものであるかについては何らの主張をしない。また、原告らは、本件決定があったとする平成五年一二月一五日あるいはそれ以前に、被告が本件建物を取り壊した上その一部につき移設復元を図る旨を公表した行為以外に具体的にいかなる内容の意思決定行為をしたかについても、必ずしも明確に主張しないし、原告ら提出に係る証拠によっても必ずしも明らかにされていないところである。 二ところで、行政事件 公表した行為以外に具体的にいかなる内容の意思決定行為をしたかについても、必ずしも明確に主張しないし、原告ら提出に係る証拠によっても必ずしも明らかにされていないところである。 二ところで、行政事件訴訟法三条二項所定の取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、行政庁がする行為のうち、行政庁がその優越的地位に基づき権力的な意思活動としてするような行為であり、当該行為によって直接に国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解すべきである。 原告らの主張する本件決定が、前記のような公表行為にすぎないとすれば、そうした公表行為自体は、原告らの権利義務に何らの影響を及ぼすものでなく、処分その他公権力の行使に当たる行為といえないことは明らかである。 次に、仮に、原告らの主張する本件決定が、前記のような公表内容に係る本件建物の取壊しに関する何らかの被告の行為を意味するものであるとしても、それが取消訴訟の対象となる行政処分に当たるかどうかという観点から検討することとする。 本件建物は、専ら防衛庁の庁舎として使用されている公用物であるところ、一般に公用物の消滅については、道路、公共用建物等の公共の利用に供される公共用物の場合と異なり、供用廃止等の特段の意思的行為を必要とせず、事実上その使用を廃止することにより、公用物としての性質を失うのであって、その過程において、右のような事実上の措置以外の何らかの法的効力を伴う行為は観念し得ないものというべきである。本件建物についても、被告の管理処分権に基づき、事実上の措置としての用途廃止を経て、取り壊されることとなるものであって(国有財産法五条、八条、同法施行令五条一項三号)、関係法令を精査しても、その過程において、公権力の発動として直接に国民の権利義 実上の措置としての用途廃止を経て、取り壊されることとなるものであって(国有財産法五条、八条、同法施行令五条一項三号)、関係法令を精査しても、その過程において、公権力の発動として直接に国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するとの法的効果を伴う意思的行為を予定し、その要件、効果を定める根拠法規は何ら見当たらないところである。 そうすると、本件建物の取壊しに関し、仮に原告らの主張する本件決定なるものに相当するような何らかの被告の行為が存するとしても、結局、それは公用物たる本件建物を取り壊す旨の被告の内部的な政策決定ともいうべき事実上の措置にすぎないというべきであって、専ら防衛庁の庁舎として使用されている本件建物の取壊しという事柄の性質上、直接に国民の権利義務に変動をもたらすような類のものでないことは明らかである。 原告らは、本件決定が原告らの有する史跡保存権なる権利を侵害するものであり、国民の権利義務に影響を及ぼすものであるから、本件決定に処分性がある旨主張するようであるが、史跡保存権なる権利を肯認できるかどうかはともかく、前示のとおり、公用物たる本件建物の取壊しという事柄の性質及び本件建物の取壊しに至る過程において国民の権利義務に何らかの影響を及ぼすべき処分その他公権力の行使に当たる行為を予定した法規が存しないことに照せば、本件決定が史跡保存権なる権利に何らかの影響を及ぼすとしても、それは単に事実上のものにすぎないから、原告らの右主張を採用することはできないといわざるを得ない。 また、原告らは、権利救済手段として他に適当な行政事件訴訟の形態がないことが本件決定の処分性の根拠となる旨主張するかのようである。しかし、三権分立等の制度を前提とし、行政事件訴訟法に定められた訴訟類型及び要件を満たすと認められる場合に限り、公権力の行使等に関する いことが本件決定の処分性の根拠となる旨主張するかのようである。しかし、三権分立等の制度を前提とし、行政事件訴訟法に定められた訴訟類型及び要件を満たすと認められる場合に限り、公権力の行使等に関する不服をそれぞれの行政事件訴訟によって争わせるとの同法の趣旨に照らせば、本件建物の取壊しに関する争訟方法として取消訴訟以外に他の適切な行政事件訴訟があるかどうか、また、行政事件訴訟以外に適切な訴訟形態があるかどうかは、それぞれの訴訟法規等に照らして考えるべき問題であって、取消訴訟以外の行政事件訴訟では争い得ないことをもって、取消訴訟の要件を満たすとする原告らの主張は到底採用することはできない。 三以上のとおり、いずれにしても、原告らの本件訴えは、取消訴訟の対象たり得ないものの取消しを求めるものであり、不適法なものであるから、これをいずれも却下することとする。 (裁判官秋山壽延竹田光広森田浩美)(別紙)物件目録所在東京都新宿区市谷本村町四二番種類防衛庁庁舎構造鉄筋コンクリート造地上三階地下一階建床面積延約二万五六六六坪(未登記)

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