主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が平成16年1月26日付けで原告に対してした「平成11年9月以降の原告の陳情等に基づく又は原告に係る財団法人法律扶助協会に対する指導等調査報告書等(民事法律扶助法第14条規定外のものも含む)」を不開示とする旨の決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づき,「平成11年9月以降の原告の陳情等に基づく又は原告に係る財団法人法律扶助協会に対する指導等調査報告書等(民事法律扶助法第14条規定外のものも含む)」の行政文書の開示を求めたところ,不開示とする旨の決定を受けたため,同決定の取消しを求めている事案である。 1 法令の定め行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成15年法律第119号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)は,以下のとおり定めている。 (1) 情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とするものである(1条)。 (2) 情報公開法によれば,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるものとされている(3条)。 そして,同条の規定による開示の請求は,次に掲げる事項を記載した書面 より,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるものとされている(3条)。 そして,同条の規定による開示の請求は,次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を行政機関の長に提出してしなければならないものとされている(4条1項)。 「一開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名二行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」(3) 行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に同法5条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならないものとされている(5条)。 そして,同条1号は,個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものは,同号イないしハに掲げるものを除き,不開示情報に当たる旨定めている。 (4) 開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒むことができるものとされている(8条)。 2 前提となる事実(これらの事実は,いずれも当事者間に争いがない。)(1) 原告は,平成16 政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒むことができるものとされている(8条)。 2 前提となる事実(これらの事実は,いずれも当事者間に争いがない。)(1) 原告は,平成16年1月13日,被告に対し,情報公開法4条1項の規定に基づき,行政文書の名称を「平成11年9月以降の原告の陳情等に基づく又は原告に係る財団法人法律扶助協会に対する指導等調査報告書等(民事法律扶助法第14条規定外のものも含む)」(以下「本件行政文書」という。)とする開示請求をした(以下「本件開示請求」という。)。 (2) 被告は,平成16年1月26日,原告に対し,開示請求のあった行政文書の存否を答えることにより,情報公開法5条1号の不開示情報が開示されるのと同様の結果が生ずるとして,同法8条の規定に基づき,本件行政文書を不開示とする旨の決定をした(以下「本件不開示決定」という。)。 (3) 原告は,平成16年2月6日,被告に対し,本件不開示決定に対する異議の申立てをした。 (4) 被告は,平成16年2月19日,上記異議の申立てについて,情報公開法18条の規定に基づき,情報公開審査会に諮問したところ,同審査会は,同年3月31日,本件不開示決定は妥当である旨の答申をした。 (5) 被告は,平成16年4月12日,上記答申を受け,原告の異議の申立てを棄却する旨の決定をした。 3 当事者の主張(被告の主張)(1) 本件行政文書を不開示としたことの適法性ア情報公開法5条1号の規定する「個人に関する情報」とは,個人の内心,身体,身分,地位その他個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等のすべての情報が含まれ,個人に関連する情報全般を意味するものであり,「特定の個人を識別することができるもの」と 個人の内心,身体,身分,地位その他個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等のすべての情報が含まれ,個人に関連する情報全般を意味するものであり,「特定の個人を識別することができるもの」とは,当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることとなる氏名その他の記述部分(氏名,生年月日のほか,住所,個人別に付された記号等)だけでなく,これらの記述等により識別される特定の個人情報の全体をいう。 イ本件行政文書は,原告が法務省に対して財団法人法律扶助協会(以下「法律扶助協会」という。)に関して陳情等を行ったという事実,及び原告が法律扶助協会に対して援助の申込みをするなどして法律扶助協会にかかわったという事実を前提として作成される文書であるから,本件行政文書の存否について応答することは,原告についての上記事実の有無に関する情報を公にすることになる。 そして,上記各情報は,特定の個人を識別し得る情報であって,情報公開法5条1号本文の不開示情報に当たるものであるから,本件行政文書の存否について応答すれば,情報公開法5条1号本文に該当する情報を公開することとなる。 ウしたがって,被告が,本件開示請求に対し,情報公開法8条の規定に基づいて本件行政文書の存否を明らかにせずに本件不開示決定を行ったことは適法である。 (2) 原告の主張に対する反論原告は,最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決・民集55巻7号1603頁を引用し,我が国においては,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)が未施行であるから,情報公開法においては,個人識別情報について,本人からの開示請求は認められるべきであると主張する。 平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)が未施行であるから,情報公開法においては,個人識別情報について,本人からの開示請求は認められるべきであると主張する。 しかしながら,以下のとおり,いかなる情報の開示請求権を認めるかは立法政策の問題であり,情報公開法は,本人情報の開示請求を認める立法政策を採用していないことは明らかであって,原告の主張は,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決及び情報公開法の趣旨を正解しないものであるから,失当である。 ア前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決の判示について上記最高裁判決は,個人情報保護条例が制定される前の兵庫県の公文書の公開等に関する条例(以下「兵庫県公文書公開条例」という。)に基づく本人情報の開示請求が認められるか否かが問題とされた事案に関し,情報公開条例において本人情報を開示するか否かは,当該地方公共団体の立法政策にゆだねられているが,当該情報公開条例が,本人情報の開示請求を認めるか否かがその文言上明らかでなく,かつ,本人情報の開示を認める個人情報保護条例が制定されていない場合には,形式的に不開示情報に該当することをもって,本人情報の開示請求に対して不開示決定をすることは許されないと判示したものである。 イ情報公開法の開示請求権の性質等について憲法21条は,国民が国家機関等に情報の提供を求め得る具体的な権利まで保障したものではなく,公的情報に対する国民ないし住民の公開請求権については,実定法の定めがなければ根拠付けることができないと解されるから,国民に対して情報公開請求権を付与するか否か,いかなる限度で,どのような要件の下で付与するかは,挙げて立法政策の問題であり,開示請求 は,実定法の定めがなければ根拠付けることができないと解されるから,国民に対して情報公開請求権を付与するか否か,いかなる限度で,どのような要件の下で付与するかは,挙げて立法政策の問題であり,開示請求権は,情報公開法によって創設された権利であって,開示請求権の具体的な内容,範囲等は,その創設の根拠法規である情報公開法の定めるところによるものである。前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決は,上記アのとおり,情報公開条例に基づく開示請求権についても同様に解される旨を判示している。 そうであるならば,国の行政機関に対する具体的な情報公開請求権の有無,範囲は情報公開法によって決定されているのであるから,不開示情報の解釈についても,情報公開法の具体的な条文の規定が,いかなる立法政策上の考慮の下に制定されたものであるかを踏まえて解釈されるべきものであり,同法の規定を離れて一般的な解釈手法,解釈基準を定立するようなことは相当でない。 したがって,本人情報の開示請求が情報公開法の解釈として許されるものであるか否かは,情報公開法の文言,趣旨,立法者意思等を検討し,情報公開法が本人情報の開示請求についていかなる立法政策を採っているかを踏まえたうえで解釈されるべきものである。 ウ情報公開法の採用した立法政策についてa 情報公開法の趣旨・目的情報公開法1条の規定するとおり,情報公開法の制度趣旨が国民の理解と批判の下にある行政の推進にあることからすれば,情報公開法は,同一の行政情報を不特定多数者に公開することを制度の前提としており,開示請求者は,そのような不特定多数者の一人としての地位を有するにすぎないと解すべきであって,個人の権利利益の保護のために,特定の個人の個 政情報を不特定多数者に公開することを制度の前提としており,開示請求者は,そのような不特定多数者の一人としての地位を有するにすぎないと解すべきであって,個人の権利利益の保護のために,特定の個人の個人情報をその者だけに開示することは,情報公開制度の予定するところではないというべきである。 b 開示請求権の一般的性格前記「法令の定め」のとおり,開示請求権について規定している情報公開法3条は,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるとし,開示請求権の一般的性格を規定している。また,開示請求の手続について規定している同法4条は,開示請求書の記載事項として,①開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名,②行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項のみを求め,当該文書の開示を求める目的や,開示請求文書と開示請求者との関係に関する記載は一切求めていない。 このように,情報公開法は,何人に対しても等しく開示請求権を認めており,開示請求の理由や利用の目的,開示請求者が誰かといった個別的事情は,当該開示請求に対する決定に影響を及ぼさないとの立法政策を採っている。 c 情報公開法5条各号の不開示情報の定め方情報公開法5条各号の不開示情報(5条1号本文前段及び2号ロを除く。)は,いずれも,当該情報を「公にすることにより」一定の支障が生じるおそれがあることを要件としているところ,ここでいう「公にする」とは,秘密にせず,何人にも知り得る状態におくことを意味すると解されている。 このように,情報公開 の支障が生じるおそれがあることを要件としているところ,ここでいう「公にする」とは,秘密にせず,何人にも知り得る状態におくことを意味すると解されている。 このように,情報公開法5条各号の不開示情報の該当性判断に当たっては,「当該開示請求者に開示することにより」一定の支障が生じるおそれがあるか否かではなく,「公にすることにより」一定の支障が生じるおそれがあるか否かを判断することが予定されているものであるから,仮に当該請求者に対して開示した場合に支障が生じなくても,何人も知り得る状態においた場合に(すなわち,公にした場合に),支障が生じるおそれがある情報については,情報公開法5条各号の不開示情報に該当するのである。このことは,情報公開法のもととなった情報公開法要綱案では,この部分が「開示することにより」との文言であったのを,何人にも当該情報を明らかにできない趣旨であることを明確にするために,「公にすることにより」の文言に改められたという経緯からも裏付けられる。 したがって,情報公開法5条各号の不開示情報の定め方からしても,情報公開法が,開示請求者が誰であるかを問わずに,客観的に不開示情報該当性を判断するとの立法政策を採っていることは明白である。 d 本人確認等の手続の規定の不存在情報公開法が行政文書に個人情報を記録されている特定の者である本人がした開示請求につき,それ以外の開示請求とは何らかの点で異なった措置を採ることを予定しているのであれば,本人情報の開示に関する規定(例えば,本人確認についての方法,行政機関の長が本人でないと判断した場合にその決定を争い得るのか,プライバシー放棄の意思確認の必要性いかん,本人への開示方法,当該公文書のうちの自己情報部分 る規定(例えば,本人確認についての方法,行政機関の長が本人でないと判断した場合にその決定を争い得るのか,プライバシー放棄の意思確認の必要性いかん,本人への開示方法,当該公文書のうちの自己情報部分の限定方法等)や,個人情報で,当該個人本人からの開示請求であってもなお開示を慎重にすべき機微に触れるものはないか(いわゆるセンシティブ情報の開示の問題)といったことに関する規定等をあらかじめ設けておく必要があるはずであるが,情報公開法にも同法施行令にもこのような規定は一切設けられていない。したがって,このような規定が存在していないことからすれば,情報公開法は,本人情報の開示をそもそも予定していないと解すべきである。 そして,仮に,上記のような本人情報の開示に関する規定が存在しない状況で,本人からの自己情報の開示請求については開示決定をしなければならないとすると,行政機関は,どのような手続でどの程度の調査をして,当該請求者が本人であるか否かを確認すればよいのかの基準がないままに個別に対応しなければならなくなるのであり,開示請求者のプライバシー保護の問題も関連して,行政機関は極めて困難な対応を迫られることになる。 このように,本人情報の開示を特別に扱うのであれば,本人であることを確認するための手続規定を併せて設けなければ,不当な混乱や権利侵害を引き起こすことが容易に予想されるにもかかわらず,情報公開法があえてこうした手続規定等を設けなかったということは,情報公開法は,本人に対する自己情報の開示につき他と異なった取扱いをする余地を認めない趣旨であるというべきである。 e 情報公開法制定の経緯(a) 行政改革委員会における検討と情報公開法要綱案に示された考え方 た取扱いをする余地を認めない趣旨であるというべきである。 e 情報公開法制定の経緯(a) 行政改革委員会における検討と情報公開法要綱案に示された考え方情報公開法が本人に対しても個人情報の開示を認めない趣旨であることは,立法者意思からも明らかである。 すなわち,情報公開法は,平成8年12月16日に行政改革委員会から内閣総理大臣に対して意見具申された「情報公開法制の確立に関する意見」を最大限尊重して立案,制定されたものであるが,同意見は情報公開法要綱案には,個人情報の本人情報開示を認める制度を盛り込まないこととしたものであって,同要綱案は,行政情報を広く一般に公開することによって,公正で民主的な行政運営を確保することを目的とする情報公開制度(情報公開法1条参照)と,個人情報の開示を求める権利を認めることにより,個人の権利利益の保護を図ることを目的とする個人情報保護制度(行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(昭和63年法律第95号)1条参照。以下「行政機関保有電子個人情報保護法」という。)とは,異なる趣旨,目的を有する別個の制度であることを前提として,本人情報の開示を否定する立場から立案されたものであることは明らかである。したがって,同要綱案を受けて制定された情報公開法についても,同様に本人情報の開示を否定する立場であることは明白であるといわなければならない。 (b) 情報公開法案についての国会での審議平成10年5月15日に開催された衆議院内閣委員会において,政府委員は,情報公開制度には本人情報の開示制度を盛り込まないこととした旨答弁し,また,平成11年3月24日に開催された 平成10年5月15日に開催された衆議院内閣委員会において,政府委員は,情報公開制度には本人情報の開示制度を盛り込まないこととした旨答弁し,また,平成11年3月24日に開催された参議院総務委員会において,参考人である宇賀克也東京大学大学院法学政治学研究科教授は,情報公開法案では本人情報の開示の問題は別途個人情報保護制度の問題として処理することになっている旨の意見を述べた。 このような情報公開法案の国会における審議の経過を踏まえても,本人情報の開示請求の問題は,個人情報保護制度において対応されるべき問題であるとされ,情報公開法においては本人情報の開示請求に対処しないこととする立法政策が採られたことが明らかである。 f 行政機関個人情報保護法の制定昭和63年に行政機関保有電子個人情報保護法が制定されていたが,同法は電子計算機の処理に係る個人情報のみをその対象としていたため,情報公開法の制定過程において,本人情報の開示の問題については,情報公開法とは別途に慎重な議論を踏まえるべきものとされていたが,平成15年5月30日,行政機関保有電子個人情報保護法の全部を改正して,行政機関個人情報保護法が制定,公布され,同法は,平成17年4月1日から施行されることとなった(平成16年政令第547号)。 そして,行政機関個人情報保護法において,保有個人情報(同法2条3項参照)の開示請求権を設けるとともに(12条),その手続等を規定するに至った(13条以下)。 以上のように,行政機関個人情報保護法が制定され,同法において,保有個人情報の本人情報開示請求権及び本人情報開示の請求手続が定められていることに照らせば,前掲最高裁平成13年 以上のように,行政機関個人情報保護法が制定され,同法において,保有個人情報の本人情報開示請求権及び本人情報開示の請求手続が定められていることに照らせば,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決の趣旨を踏まえても,情報公開法において個人情報の本人情報開示の請求権を認めていないことは明らかであるというべきである。 g 前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決との関係前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決は,情報公開条例が制定されていながら,個人情報保護条例が制定されていないという跛行状態の下において,情報公開条例の不開示事由の形式的な解釈により,当該情報公開条例において本人情報の開示請求を否定することは相当でないとの判断を示したものであり,情報公開法制と個人情報保護法制とがそのような跛行状態にない場合には,その判断は及ばないというべきである。 したがって,平成15年5月30日の行政機関個人情報保護法の制定,公布により,上記最高裁判決が前提とした情報公開法制と個人情報保護法制との跛行状態も解消されたのであるから,上記最高裁判決は,本件における情報公開法の解釈として妥当するものではない。 なお,本件不開示決定がされたのは平成16年1月26日であり,本件不開示決定時には,上記最高裁判決が前提とした上記跛行状態が解消されており,本件において,同判決の判断が妥当しないことも明らかである。 h 以上のとおり,情報公開法は,個人識別情報について,本人からの開示請求を認めるものではなく,また,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決が示した判断は,そもそも情報公開法に妥当するものではないうえ,本件不開示決定 は,個人識別情報について,本人からの開示請求を認めるものではなく,また,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決が示した判断は,そもそも情報公開法に妥当するものではないうえ,本件不開示決定時には行政機関個人情報保護法が制定されていることからしても,本件不開示決定について,同判決の示した解釈が妥当するものではない。 (原告の主張)(1) 個人情報の本人が,公文書公開条例に基づいて,個人情報の記載された公文書の公開請求をした場合に,非公開事由を定めた同条例の条文に該当するとして,当該請求に係る情報を非公開とすることが違法であることは,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決の説示するところである。同判決は,兵庫県公文書公開条例の解釈,運用について判断したものであるが,当該条例の趣旨は情報公開法のそれと全く同じであるから,情報公開法においても,行政機関個人情報保護法が施行される前にあっては,上記最高裁判決の趣旨が妥当するものである。 (2) 情報公開法が個人情報を不開示情報と規定しているのは,個人のプライバシーが侵害されることを防ぐためであるが,被告は,本件不開示決定の決定書において,本件行政文書を開示することによる不利益,すなわち,原告ら特定個人のプライバシーがどのように侵害されるのかを具体的に付記していないから,本件不開示決定は理由不備のそしりを免れない。なお,本件行政文書の存在については,原告の通告に対する被告の回答により明らかであるから,存否応答拒否をしたことの理由も不備である。 4 争点以上によれば,本件の争点は,以下のとおりである。 (1) 行政機関個人情報保護法の施行前における情報公開法に基づく開示請求について,同法5条1号本文の規定する個人に関する情報を本人が開示請求し 上によれば,本件の争点は,以下のとおりである。 (1) 行政機関個人情報保護法の施行前における情報公開法に基づく開示請求について,同法5条1号本文の規定する個人に関する情報を本人が開示請求した場合,同号に該当することを理由として不開示とすることが許されるか否か。 (争点1)(2) 仮に上記の本人からの開示請求が認められないと解した場合,本件行政文書は,その存否について応答するだけで,情報公開法5条1号本文の規定する個人に関する情報を公開することとなる文書に当たるか否か。また,本件不開示決定には,理由付記の不備の違法があるか否か。 (争点2)第3 争点に対する判断 1 争点1について(1) 情報公開制度は,国民の有する知る権利を実効あらしめるための制度であるが,知る権利は,それ自体としては抽象的な権利にすぎず,法律による制度化を待って初めて具体的な権利となるものと解されるから,国が情報公開制度を設けるか否か,これを設けるとして,国民にどのような請求権を認め,その要件や手続をどのようなものとするかは,国の立法政策にゆだねられていると解するのが相当であり(前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決参照),情報公開法5条1号本文の規定する個人に関する情報について,本人からの開示請求が認められるか否かは,情報公開法がかかる開示請求を許容する立法政策を採っているか否かによって決せられると解すべきである。 (2) そこで,情報公開法が上記のような本人からの開示請求を許容する立法政策を採っているか否かについて検討する。 ア情報公開法1条の目的規定にあるとおり,同法の趣旨は,行政機関の保有する情報の一層の公開を図ることにより,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるよう ついて検討する。 ア情報公開法1条の目的規定にあるとおり,同法の趣旨は,行政機関の保有する情報の一層の公開を図ることにより,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することにあり,行政機関個人情報保護法のように,個人の権利利益の保護を直接の目的とする(同法1条)ものではない。 イ情報公開法3条は,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨規定し,また,同法4条1項は,開示請求書の記載事項として,①開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名,②行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項の2点を掲げるのみで(情報公開法施行令5条も,開示請求書に,開示の実施方法に関する記載を要求しているにすぎない。),当該文書の開示を求める理由ないし当該文書の利用目的あるいは開示請求文書と開示請求者との関係に関する記載は一切求めていない。 このように,情報公開法は,何人に対しても等しく開示請求権を認めることとし,その際,開示請求の理由や当該文書の利用目的,開示請求者が誰であるかといった個別的事情は,当該文書を開示するか否かの判断に影響を及ぼさないとの立場を採っているものと解される。 ウ情報公開法5条各号(1号本文前段及び2号ロを除く。)は,いずれも,当該情報を「公にすることにより」一定の支障が生じるおそれがある場合に当該情報を不開示情報とすることとしている。そして,上記の「公にする」とは,秘密にせず,何人にも知り得る状態におくことを意味するものと解されるところ, ことにより」一定の支障が生じるおそれがある場合に当該情報を不開示情報とすることとしている。そして,上記の「公にする」とは,秘密にせず,何人にも知り得る状態におくことを意味するものと解されるところ,同法において,このように,情報公開法5条各号の不開示情報の該当性判断に当たって,「当該開示請求者に開示することにより」一定の支障が生じるおそれがあるか否かではなく,「公にすることにより」一定の支障が生じるおそれがあるか否かを判断することを予定しており,同法は開示請求者が誰であるかといった個別的事情を考慮して判断することは予定しておらず,同法や同法施行令においても,本人確認についての方法,本人からの開示請求であっても不開示とすべき場合の定めなど,本人からの開示請求を想定した規定は存しない。 エさらに,情報公開法要綱案にも,あえて個人情報の本人情報開示を認める制度を盛り込まないこととされ,また,情報公開法案についての国会審議において,情報公開制度には本人情報の開示制度を盛り込まないこととした旨の政府委員の答弁や,情報公開法案においては,本人情報の開示の問題は別途個人情報保護制度の問題として処理することになっている旨の参考人の意見陳述がされている(乙1,2,弁論の全趣旨)。 オ以上の点からすると,情報公開法は,情報公開法5条1号本文の規定する個人に関する情報について,本人からの開示請求であっても,これを認めない立法政策を採っているものと解するのが相当である。 これに対し,原告は,行政機関個人情報保護法が施行される前にあっては,情報公開法の下における個人情報の本人開示についても,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決の趣旨が妥当する旨主張する。しかし,同最高裁判決は,地方公共団体が公文書の公開に る前にあっては,情報公開法の下における個人情報の本人開示についても,前掲最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決の趣旨が妥当する旨主張する。しかし,同最高裁判決は,地方公共団体が公文書の公開に関する条例を制定するに当たり,どのような請求権を認め,その要件や手続をどのようなものとするかは,基本的には当該地方公共団体の立法政策にゆだねられている旨判示しており,上記(1)のとおり,同判決の趣旨は,国が情報公開制度を設ける場合にも当てはまるものと解されるところ,情報公開法は個人に関する情報について,本人からの開示請求を認めない立法政策を採っているものと解されるのであるから,原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。 2 争点2について(1) 情報公開法5条1号の規定する「個人に関する情報」とは,個人の内心,身体,身分,地位その他個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等,個人に関連する情報全般を意味し,また,「当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」とは,当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることとなる氏名その他の記述部分だけでなく,これらの記述等により識別される特定の個人情報の全体を指すものと解するのが相当である。 (2)アところで,本件行政文書は,「平成11年9月以降の原告の陳情等に基づく又は原告に係る財団法人法律扶助協会に対する指導等調査報告書等(民事法律扶助法第14条規定外のものも含む)」であって,ここでいう「財団法人法律扶助協会に対する指導等調査報告書等」の文書は,平成11年9月以降に原告が被告ないし法務省に対して法律扶助協会に関して陳情等を行ったという事実,又は同時期に原告が法律扶助協会に対して援助の申込みをするなどして同協会にかかわったと 書等」の文書は,平成11年9月以降に原告が被告ないし法務省に対して法律扶助協会に関して陳情等を行ったという事実,又は同時期に原告が法律扶助協会に対して援助の申込みをするなどして同協会にかかわったという事実を前提として作成されるものと認められる。 そうであるとすれば,本件行政文書の存否について応答することは,平成11年9月以降に原告が被告ないし法務省に対して法律扶助協会に関して陳情等を行ったか否か,又は同時期に原告が法律扶助協会に対して援助の申込みをするなどして同協会にかかわったか否かという情報を開示することになる。 そして,上記の情報は,原告個人に関連する情報であって,原告を識別することができるものであるから,情報公開法5条1号本文の規定する不開示情報に該当すると認められるので,結局,本件行政文書の存否について答えるだけで,上記不開示情報を開示することになるというべきである。 イなお,原告は,本件不開示決定の決定書に,原告ら特定個人のプライバシーがどのように侵害されるのかが具体的に付記されていない点において,また,本件行政文書の存在は,原告の通告に対する被告の回答により明らかであるにもかかわらず,文書存否の応答拒否をした点において,理由の不備がある旨主張する。 しかし,情報公開法5条1号本文の規定により行政文書を不開示とするためには,当該文書に記録されている情報が個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)であれば足り,当該情報を開示することにより,特定個人のプライ 記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)であれば足り,当該情報を開示することにより,特定個人のプライバシーが具体的に侵害されることまで要するものではないから,本件不開示決定の決定書にこの点の理由が記載されていないとしても,理由に不備があるということはできない。 また,証拠(甲12の1・2)によると,原告は,本件開示請求に先立ち,平成15年7月23日付けで,被告に対し,法律扶助協会による民事法律扶助法に基づく事業の改善を求めたところ,法務省人権擁護局の担当係から原告に対し,同年9月11日付けで,「貴殿を被援助者とする法律扶助事件(不動産仮差押事件等)に関する(財)法律扶助協会の対応について,当方で調査しましたが,不適切な点は認められませんでしたので,同協会を指導する必要はないと考えております。」との回答があったことが認められ,これによれば,原告が法律扶助協会に対して援助の申込みをした事実が存することが認められるとともに,上記調査に係る報告書等の文書が存することが推測されるが,上記1のとおり,情報公開法は,個人に関する情報について,本人からの開示請求を認めず,逆に,何人に対しても等しく開示請求権を認め,開示請求者が誰であるかといった個別的事情は,不開示情報該当性の判断に影響を及ぼさないとの立場を採っているものと解されるから,仮に上記の事実や文書の存在が原告にとって明らかであったとしても,これにより,被告において情報公開法8条の規定に基づき行政文書の存否を明らかにしないで不開示決定をすることが許されなくなるものではない。 以上のとおりであるから,原告の主張は理由がない。 (3) したがって,被告が,本 づき行政文書の存否を明らかにしないで不開示決定をすることが許されなくなるものではない。 以上のとおりであるから,原告の主張は理由がない。 (3) したがって,被告が,本件開示請求に対し,情報公開法8条の規定に基づいて,本件行政文書の存否を明らかにしないまま本件不開示決定を行ったことは適法である。 第4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官石井浩裁判官矢口俊哉
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