平成29(ワ)31898 不当利得返還等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年1月27日 東京地方裁判所
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判決文本文15,349 文字)

令和2年1月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 不当利得返還等請求事件(以下「第1事件」という。)不当利得返還等請求事件(以下「第2事件」という。) 口頭弁論終結日令和元年6月24日判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求(第1事件)被告は,原告1から42に対し,各原告に対応した別表1の1の「請求額」欄記載の金員及びこれに対する平成29年10月25日から各 支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (第2事件)被告は,原告43に対し,195万6712円及びこれに対する平成30年8月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,建物の賃貸人である原告らが,各自,建物を一括して賃借し,入居者に転貸している被告との間で締結した建物メンテナンス契約(下記1⑷の本件契約)は錯誤又は公序良俗違反により無効であることから,法律上の原因なく,原告らに同契約に基づき支払った金 員相当額の損失,被告に同額の利得が生じ,その利得を被告は悪意 で受益したとして,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,別表1の1・2「請求額」欄記載の不当利得金及びこれに対する被告に利得が生じた後の日である第1事件については平成29年10月25日,第2事件については平成30年8月28日から各支払済みまで商法所定年6分の割合による利息の支払を求める事案である。 1 前提事実当事者に争いがない事実並びに括弧内に掲げた証拠(枝番は適宜省略する。)及び弁論の全趣旨により認定できる事実は,次のとおりである。 払を求める事案である。 1 前提事実当事者に争いがない事実並びに括弧内に掲げた証拠(枝番は適宜省略する。)及び弁論の全趣旨により認定できる事実は,次のとおりである。 当事者等 原告らは,それぞれ,別表1の1・2の「賃貸借契約の目的物である原告所有の建物の名称」欄記載の集合住宅である建物(以下「原告ら所有建物」という。)を所有する者である。 被告は,不動産の売買,仲介,斡旋,賃貸,管理等を目的とする株式会社である。 本件賃貸借契約の締結原告らは,平成23年頃までに,被告との間で,それぞれ,原告ら所有建物について,賃貸借契約を締結した(各契約をまとめて,以下「本件賃貸借契約」という。)。 (甲2) 本件賃貸借契約は,いずれも,①原告らが必要に応じて金融機関から融資を受けた上で,集合住宅用の建物の建築を被告に請け負わせること,②被告がその建物を一括して借り上げた上で,原告らはその賃料を上記融資の返済等に充てること,③被告がその集合住宅への入居者の募集,管理等を行うことなどを内容とする不動産サブ リース取引の一部として締結された。なお,被告は,原告ら以外の 者との間でも,上記不動産サブリース取引を多数行っていた(原告らも含め,被告が上記不動産サブリース取引を行っていた相手方(建物の所有者)を,以下「オーナー」という。)。 (弁論の全趣旨)⑶ 旧TSS契約の締結 ア原告らは,平成23年頃までに,被告との間で,それぞれ,本件賃貸借契約に関連する契約として,「メンテナンス・リフォーム・トータルサポートシステム利用契約」(以下「旧TSS契約」という。)を締 ア原告らは,平成23年頃までに,被告との間で,それぞれ,本件賃貸借契約に関連する契約として,「メンテナンス・リフォーム・トータルサポートシステム利用契約」(以下「旧TSS契約」という。)を締結していた。旧TSS契約は,被告が原告ら所有建物を第三者に転貸するために,同建物や附属機械等の修繕等に 係る費用の取扱いについて定めた契約である。 イ旧TSS契約の主な内容は以下のとおりであった。 原告らは,被告に対し,あらかじめ原告ら所有建物の修繕のために使用する目的で長期修繕保証金を預託しておき,本件賃貸借契約終了時に残額がある場合にはその返還を受ける(契約 書第5条1項,同2項)。 原告らは,修繕費用積立金(修繕費用に充当するために被告が原告らに対し本件賃貸借契約の賃料の一部として支払う金銭)として,以下の計算式により算出される一定額を毎月原告ら名義の特定積立口座に積み立て(「一括借上賃料×規定割合表記 載の割合」の金額を,以下「TSS制度修繕積立金等相当額」という。)(契約書第6条1項,10条1項),賃貸借契約終了時に残額がある場合には,それを受け取ることができる。なお,ここにいう修繕費用とは,原告ら所有建物の外部・外構・内部等のメンテナンス・リフォーム及び附属機械等の修繕のた 。 「毎月の修繕費用積立金=一括借上賃料×規定割合表記載の割合(ただし,借上室数で割った金額が2000円以上である場合には,2000円×借上室数とする。)」原告らが負担する修繕費用の上限額は,長期修繕保証金と修繕費用積立金の合計額であり,その上限額を超え修繕等が必要 となった場合は,被告の負担で修繕等を実施する(契約書第11条1項)。 (甲3,弁論の全趣旨)⑷ 原告 ,長期修繕保証金と修繕費用積立金の合計額であり,その上限額を超え修繕等が必要 となった場合は,被告の負担で修繕等を実施する(契約書第11条1項)。 (甲3,弁論の全趣旨)⑷ 原告らによる建物メンテナンス契約の締結ア旧TSS契約からBM契約への移行 被告は,平成23年10月から「建物メンテナンス契約」(以下「BM契約」という。)によるサービスを開始し,旧TSS契約からBM契約に変更することに同意したオーナーとの間で,順次旧TSS契約を合意解除し,BM契約を締結した。 原告らは,被告からの勧誘に応じて,被告との間で,それぞれ, 別表1の1・2「建物メンテナンス契約の締結日」欄記載の日に,旧TSS契約を合意解除し,「建物メンテナンス契約書」と題する契約書(以下「本件契約書」という。)を交わして,BM契約を締結した(原告らが被告と締結した各BM契約を併せて,以下「本件契約」という。)。 なお,現時点においても,旧TSS契約を締結したままで,BM契約を締結していないオーナーもいる。 イ制度説明書面の送付被告は,本件契約締結に先立ち,原告らに対し,それぞれ,BM契約の制度内容について説明するために作成した「『建物メン テナンス制度』説明資料」と題する書面(以下「制度説明書面」 という。)を送付した。同書面では,「新旧制度比較表」において,旧TSS契約(旧制度)とBM契約(新制度)の制度内容が比較されている。同表の「①制度の基本的変更内容」欄には,旧制度として「修繕費用を事前に積み立て,修繕の実施額を取り崩す」,新制度として「修繕実施に関わらず,月々のメ ンテナンス費用をお支払いいただく」,「②特定積立口座」欄には,旧制度として「要」,新制度として「不要」, 事前に積み立て,修繕の実施額を取り崩す」,新制度として「修繕実施に関わらず,月々のメ ンテナンス費用をお支払いいただく」,「②特定積立口座」欄には,旧制度として「要」,新制度として「不要」,備考として新制度において特定積立口座は使用せずオーナー自身の普通預金口座として利用可能であること,「③建物賃貸借契約期間における修繕のための費用負担上限額(オーナー様のご負担 総額)」欄には,旧制度として「長期修繕保証金と契約期間中における修繕費用積立金の合計額」,新制度として「新制度開始までの修繕実施済額+新制度開始以降支払われるメンテナンス費用の総額」,備考として「新制度においても,旧制度上の積立予定総額と管理料の総額をベースに月々のメンテナン ス費用を設定しているため,トータルでのお支払い上限額に変更はありません」,「⑥修繕実施」欄には,旧制度として「書面または口頭によるオーナー様承諾の上実施」,新制度として「対象項目の修繕については,当社判断にて実施」,備考として「業務実施内容については,従来どおり定期的に報告いたし ます」,「⑦契約満了時の取り扱い」欄には,旧制度として「長期修繕保証金の残額をオーナー様へ返還」,新制度として「一定額のメンテナンス費用のお支払いとなるため,契約満了時において残額は発生いたしません」,備考として「新制度において,旧制度上の長期修繕保証金は月々のメンテナンス費用に充 当されるため,契約満了時において残額は発生いたしません」, 「⑨長期修繕保証金の取り扱い」欄には,旧制度として「発生の都度修繕費用に充当」,新制度として「月々のメンテナンス費用に長期分割充当」,「⑩特定積立口座に積み立て済み資金の取り扱い」欄には,旧制度として「発生の都度修繕費用に充当(長期修繕保証 て「発生の都度修繕費用に充当」,新制度として「月々のメンテナンス費用に長期分割充当」,「⑩特定積立口座に積み立て済み資金の取り扱い」欄には,旧制度として「発生の都度修繕費用に充当(長期修繕保証金全額取り崩し後)」,新制度として「積立 金相当額を契約残存期間で均等に按分し,月々のメンテナンス費用に加算いたします」などと記載されている。 (乙1の3,弁論の全趣旨)ウ計算説明書面の送付被告は,本件契約締結に先立ち,原告らに対し,それぞれ,B M契約においてオーナーが負担するメンテナンス費用の計算方法について説明するために作成した「『建物メンテナンス契約』メンテナンス費用について」と題する書面(以下「計算説明書面」という。)を送付した。同書面には,新制度のメンテナンス費用は旧制度(旧TSS契約)におけるオーナーの負担額を基礎 に,従来どおりの月々の修繕積立金等に制度改定時点(平成23年9月30日現在)の長期修繕保証金残高及び特定口座積立金残高の合計を本件賃貸借契約の残存月数により均等按分した額(以下「本件加算額」という。)を加えたものであるとして,メンテナンス費用は以下の計算式により算出される旨が記 載されている。 メンテナンス費用=TSS制度修繕積立金等相当額+本件加算額TSS制度修繕積立金等相当額=一括賃貸料× 規定割合表記載の割合( 本件加算額=(長期修繕保証金残高+特定口座積立金残高)÷ 契約残存月数さらに,計算説明書面には,「長期修繕保証金残高は,TSS制度契約開始時に既に受領済みのため月々のお支払いから契約残存月数で按分した額を控除させていただきます」として,オーナーの月々の支払額は,上記で算出されたメンテナンス費 用から, 高は,TSS制度契約開始時に既に受領済みのため月々のお支払いから契約残存月数で按分した額を控除させていただきます」として,オーナーの月々の支払額は,上記で算出されたメンテナンス費 用から,長期修繕保証金残高を本件賃貸借契約の残存月数で按分した額(以下「長期按分額」という。)を控除した金額であると記載されている。 (乙1の3,同1の6,弁論の全趣旨)エ本件算出書面の送付 被告は,本件契約を締結するに先立ち,原告らに対し,それぞれ,計算説明書面の空欄を,各原告に係る本件賃貸借契約及びTSS契約の状況に即した具体的な金額や契約残存月数で埋めて,本件加算額,長期按分額,月々の支払額を具体的な数値として算出した書面(以下「本件算出書面」という。)を送付した。 (乙5,弁論の全趣旨)オ本件契約の内容本件契約の主な内容は,以下のとおりである。 各原告は,被告に対し,本件賃貸借契約の目的物である建物及びその付属設備についてメンテナンス業務(保守,修理, 修繕等)を委託し,毎月,被告に対し,以下の計算式で算出されたメンテナンス費用を支払う(本件契約書2条,4条,7条)。 毎月のメンテナンス費用=TSS制度修繕積立金等相当額+契約書に記載された一定額 なお,上記の契約書に記載された一定額は,各原告の本件 算出書面に記載された本件加算額と同じである。 旧TSS契約締結時に各原告から被告に預託されていた長期修繕保証金残高をメンテナンス費用の前払金として充てることとし,具体的には,同残高を本件賃貸借契約の残存月数で割った金額であるとして契約書に記載された一定額 を,月々のメンテナンス費用の支払にあてる(本件契約書第5条)。 なお, 充てることとし,具体的には,同残高を本件賃貸借契約の残存月数で割った金額であるとして契約書に記載された一定額 を,月々のメンテナンス費用の支払にあてる(本件契約書第5条)。 なお,この契約書に記載された一定額についても,各原告の本件算出書面に記載された長期按分額と同じである。 本件賃貸借契約の目的物である建物の修繕等は被告の業 務とする(本件契約書第3条)が,被告において客観的な必要がないと判断した場合には,各原告は,自己の負担により,修繕等を実施しなければならない(本件契約書第6条⑸。以下「本件規定」という。)。 (甲5) カ特定積立口座の扱い原告らは,旧TSS契約の合意解除及び本件契約の締結後,それぞれ,旧TSS契約における修繕費用積立金の積立先となっていた特定積立口座を自由に使用できるようになった。 (弁論の全趣旨) キメンテナンス費用の支払原告らは,本件契約締結後,平成23年頃から平成29年頃にかけて,それぞれ,被告に対し,同契約に基づき,被告からの本件賃貸借契約の賃料支払から差し引く形で,少なくとも別表2の1・2の「①【合計】」欄記載のとおり,長期按分額を控除した 後のメンテナンス費用を支払った。 (弁論の全趣旨)⑸ 修繕目安表の交付ア被告は,原告らに対し,それぞれの本件賃貸借契約締結の際,別表3の内容の修繕目安表(以下「本件修繕目安表」という。)が添付されている賃貸管理業務仕様書を交付した。本件賃貸借契 約には,原告は賃貸管理業務仕様書の内容を承諾し,被告は賃貸 修繕目安表(以下「本件修繕目安表」という。)が添付されている賃貸管理業務仕様書を交付した。本件賃貸借契 約には,原告は賃貸管理業務仕様書の内容を承諾し,被告は賃貸 (甲2,6,7,弁論の全趣旨)イ被告は,原告らに対し,平成23年9月,旧TSS契約からBM契約に変更することに関する説明資料一式を送付した。そ の説明資料の中に,賃貸管理業務仕様書があり,同書面には本件修繕目安表が添付されていた。 (甲6,乙1の1から1の9,弁論の全趣旨)ウ本件修繕目安表には,被告が行うべき修繕の内容が記載されている。本件修繕目安表の上部には,5年間隔の表が設けられ,建 物本体まわりや建物内部の場所ごとに「再塗装」,「交換」等の工事内容が横長の楕円形で囲まれ記載されている。下部には,外壁・外部廊下(階段)についてはサイディングの塗り替えが8年から12年,防水の再施工が10年,内装についてはクロスやクッションフロアーの張り替えが4年から5年,カーペットの張り 替えが3年から4年などと記載されている。また,本件修繕目安表の右上には「参考」との記載があり,上部の表の右下には「メンテナンス項目は主なものを掲載しています。また補修,交換等の時期は,気候,地理的条件により異なります。」との記載がされている。 (甲6) 2 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 原告らによる本件契約締結の意思表示は錯誤により無効か(争点1)(原告らの主張)ア長期修繕保証金残高の取扱いに関する錯誤 原告らは,被告との間で本件契約を締結するにあたって,被告から,旧TSS契約時に預託した長期修繕保証金残高はメンテナンス費用の前払金として扱い,毎月のメンテナンス費用から控除 に関する錯誤 原告らは,被告との間で本件契約を締結するにあたって,被告から,旧TSS契約時に預託した長期修繕保証金残高はメンテナンス費用の前払金として扱い,毎月のメンテナンス費用から控除するという説明を受け,長期修繕保証金残高が毎月のメンテナンス費用から控除されることで,毎月の支払額が減額されると誤信 して,本件契約締結の意思表示をした。 しかし,実際には,長期修繕保証金残高は毎月のメンテナンス費用から控除されておらず,毎月の支払額が減額されることはなかった。すなわち,本件契約では,毎月のTSS制度修繕積立金等相当額に長期修繕保証金残高を契約残存月数で割った額を加算 する方法でメンテナンス費用を算出した上で,そのメンテナンス費用の金額から長期修繕保証金残高を契約残存月数で割った額を控除して,毎月の支払額が決められているため,実質的にはメンテナンス費用から長期修繕保証金残高を契約残存月数で割った額が控除されていたとはいえない。 長期修繕保証金が前払金としてメンテナンス費用から控除されるか否かは,本件契約において重要な要素であるから,原告らによる本件契約締結の意思表示は錯誤により無効である。 イ修繕費用積立金の性質に関する錯誤旧TSS契約では,原告らが,修繕費用積立金として毎月一定 額を原告ら名義の特定積立口座に積み立て,本件賃貸借契約終了 時に残額がある場合には,その残額を原告らのものとすることになっていたところ,原告らは,被告との間で本件契約を締結するにあたって,被告から,修繕費用積立金残高の取扱いについて特に説明されなかったため,本件契約においても同様に,修繕費用積立金残高は原告らのものとなると誤信して,本件契約締結の意 思表示をした。しかし,実際には,本件契約は,修繕 金残高の取扱いについて特に説明されなかったため,本件契約においても同様に,修繕費用積立金残高は原告らのものとなると誤信して,本件契約締結の意 思表示をした。しかし,実際には,本件契約は,修繕費用積立金残高を本件賃貸借契約の残存月数により均等按分した額を,メンテナンス費用の一部として,原告らが被告に支払うという内容のものであった。 旧TSS契約の解除と本件契約の締結によって修繕費用積立金 残高が実質的に原告らのものとなるか否かは,本件契約において重要な要素であるから,原告らによる本件契約締結の意思表示は錯誤により無効である。 ウ修繕業務の履行時期に関する錯誤原告らは,被告との間で本件契約を締結するにあたって,被告 から,本件修繕目安表に記載された時期に修繕業務を行うと説明を受け,又は本件契約の締結によって修繕時期が変更されると説明されなかったため,本件契約においても,本件修繕目安表に基づいて修繕業務が行われるものと誤信して,本件契約締結の意思表示をした。しかし,実際には,本件修繕目安表に記載された時 期までに修繕業務を行うことは,本件契約の内容にはなっていなかった。 修繕業務の履行時期は,本件契約において重要な要素であるから,原告らによる本件契約締結の意思表示は錯誤により無効である。 (被告の主張) ア長期修繕保証金の取り扱いに関する錯誤長期修繕保証金及び修繕費用積立金は,旧TSS契約において,原告らが将来に発生する修繕費用への備えとして積み立てていた金員であって,本件契約への移行がなければ近いうちに修繕費用として使用されていたものであるから,メンテナンス業務が原告 らから被告に移行するのに伴って,被告が上記の金員を引き継ぐことは極めて合理的である。 被告は,原 移行がなければ近いうちに修繕費用として使用されていたものであるから,メンテナンス業務が原告 らから被告に移行するのに伴って,被告が上記の金員を引き継ぐことは極めて合理的である。 被告は,原告らに対し,制度説明書面及び計算説明書面において,月額メンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に,長期修繕保証金残高及び特定積立口座の残高の合計額を本件賃貸 借契約の残存月数により均等按分した額(本件加算額)を加算したものであることを説明し,また,原告らに対し,原告ら各自が支払うべき具体的な金額を記載した本件算出書面を交付している上,同書面に記載された金額は本件契約書にも明記されているのだから,原告らが上記主張のような錯誤に陥ることはない。 イ修繕費用積立金の性質に関する錯誤被告は,原告らに対し,制度説明書面において,BM契約では,月々の修繕費用の支払方法が旧TSS契約の積立方式から,定額費用支払方式に変更されること,BM契約移行時に存在する修繕費用積立金残額がメンテナンス費用の一部を構成することを説明 している上に,本件契約書において,BM契約が終了しても被告は原告らに受領済みのメンテナンス費用を返還しないことを明記している。したがって,原告らが上記主張のような錯誤に陥ることはない。 ウ修繕業務の履行時期に関する錯誤 被告は,制度説明書面において,BM契約では,対象項目の修 繕は被告の判断にて実施すると明記しており,原告らに対し,本件修繕目安表に基づいて修繕業務を行う旨の説明をしていない。 本件修繕目安表はあくまで建物管理の修繕の目安を示したものにすぎず,このことは本件修繕目安表記載の項目とBM契約の修繕対象項目が異なること,本件修繕目安表が旧TSS契約やBM契 約を締結して 本件修繕目安表はあくまで建物管理の修繕の目安を示したものにすぎず,このことは本件修繕目安表記載の項目とBM契約の修繕対象項目が異なること,本件修繕目安表が旧TSS契約やBM契 約を締結していないオーナーにも配布されていたことから明らかである。 ⑵ 本件契約は公序良俗に反し無効か(争点2)(原告の主張)本件規定は,被告が客観的な必要性がないと判断した場合は,原 告らは自己の負担でメンテナンス業務を行わなければならないというものであり,原告らが毎月一定のメンテナンス費用を支払うことになるにもかかわらず,これと対価関係にある被告の修繕業務は,被告が客観的に必要性がないと判断した場合には行わなくても良いため,原告らにとって著しく不利益な規定である。旧TSS契約に おいても,同様の規定はあったが,旧TSS契約では,修繕費用積立金や長期修繕保証金の残額が原告らのものとなったため,原告らの利益が考慮されていたのに対して,本件契約では,メンテナンス費用が原告らに返還されないため,原告らの不利益になっている。 また,前払いしたはずの長期修繕保証金がメンテナンス費用から 実質的には控除されていないため,本件契約におけるメンテナンス費用は相当性を欠く。 したがって,本件契約は公序良俗違反により無効である。 (被告の主張)原告主張のように,被告がメンテナンス費用を受け取ったにもか かわらず,適切なメンテナンスを行わなければ,被告のブランドイ メージが毀損し,その事業に多大な影響を与えるため,被告が適切なメンテナンスを怠るような事態は想定しがたい。 また,長期修繕保証金は,旧TSS契約において,将来に発生する修繕費用に充てる予定の資金であったのだから,それが本件契約においてメンテナンス 適切なメンテナンスを怠るような事態は想定しがたい。 また,長期修繕保証金は,旧TSS契約において,将来に発生する修繕費用に充てる予定の資金であったのだから,それが本件契約においてメンテナンス費用の一部を構成することは合理的である。 したがって,本件契約は公序良俗に反しない。 第3 争点に対する判断 1 争点1(錯誤の有無)について⑴ 長期修繕保証金の取扱いに関する錯誤原告らは,実質的にみると,本件契約で支払うこととされた毎月 のメンテナンス費用から長期修繕保証金残高を本件賃貸借契約の残存月数により均等按分した額が控除されておらず,すなわち,メンテナンス費用に係る毎月の支払額は減額になっていなかったにもかかわらず,これが控除され,毎月の支払額が減額されると誤信して,本件契約締結の意思表示をした旨を主張する。 そして,本件契約で支払うこととされた毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に,長期修繕保証金残高及び特定積立口座残高を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(本件加算額)を加えた金額であることから,その支払の一部に長期修繕保証金を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(長期按分額) を充てることとしても,実質的には,原告らのメンテナンス費用に係る毎月の支払額は,TSS制度修繕積立金等相当額から減額されていなかったといえる(上記第2の1⑷ウ,エ,オ)。 しかしながら,本件契約書には,毎月のメンテナンス費用が,TSS制度修繕積立金等相当額だけでなく,これに具体的に示されて いる一定金額を加えた金額であることが明記されている上に(上記 第2の1⑷オ),あらかじめ被告が原告らに送付していた計算説明書面及び本件算出書面には,本件契約で取り決めた内容に沿うメ いる一定金額を加えた金額であることが明記されている上に(上記 第2の1⑷オ),あらかじめ被告が原告らに送付していた計算説明書面及び本件算出書面には,本件契約で取り決めた内容に沿うメンテナンス費用の計算式及び各原告の状況を当てはめた計算結果の記載がされているから(上記第2の1⑷ウ,エ),これらを見れば,毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当金に加え て,長期修繕保証金残高及び特定積立口座残高を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(本件加算額)により構成されていること,そうすると,そのメンテナンス費用から長期修繕保証金残高を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(長期按分額)を控除した毎月の支払額が,実質的にはTSS制度修繕積立金等相当金から減額 されないものになることは,比較的容易に理解できるというべきである。加えて,原告らは,被告から制度説明書面の送付を受けて,旧TSS契約からBM契約への移行に関する趣旨やその概要の説明を受けている(上記第2の1⑷イ)。 以上の諸点に鑑みると,原告らが,本件契約締結当時,原告ら主 張に係る誤信をしていたとは認め難い。したがって,原告らが主張する長期修繕保証金の取扱いに関する錯誤の事実は認められない。 ⑵ 修繕費用積立金の性質に関する錯誤原告らは,本件契約は,修繕費用積立金残高を本件賃貸借契約の残存月数により均等按分した金額をメンテナンス費用の一部として 被告に支払う内容のものであったにもかかわらず,修繕費用積立金の残高は原告らのものになると誤信して,本件契約締結の意思表示をしたと主張する。 そして,本件契約によって定められた毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に,長期修繕保証金残高及び特定積 立口座残 と誤信して,本件契約締結の意思表示をしたと主張する。 そして,本件契約によって定められた毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に,長期修繕保証金残高及び特定積 立口座残高を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(本件加算 額)を加えた金額であることから,旧TSS契約の合意解除と本件契約の締結により,特定積立口座を自由に使用できるようになり,すなわち,修繕費用積立金の残高を原告らが取得したものの(上記第2の1⑷カ),結局,毎月のメンテナンス費用の一部として,その残高と同額を分割して被告に支払うことになったものということ ができる(上記第2の1⑷ウ,エ,オ)。 しかしながら,本件契約書には,毎月のメンテナンス費用が,TSS制度修繕積立金等相当額だけでなく,これに具体的に示されている一定金額を加えた金額であることが明記されている上に(上記第2の1⑷オ),あらかじめ被告が原告ら に送付していた計算説明書面及び本件算出書面には,本件契約で取り決めた内容に沿うメンテナンス費用の計算式及び各原告の状況を当てはめた計算結果の記載がされているから(上記第2の1⑷ウ,エ),これらを見れば,メンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当金に加えて,長期修繕保証金残高及び特定積立口座残高を 本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額(本件加算額)により構成されていること,そうすると,毎月のメンテナンス費用の支払において修繕費用積立金残高を含む特定積立口座残高と同額を本件賃貸借契約の残存月数で按分した金額をTSS制度修繕積立金等相当金に加えて支払うこととなり,本件契約により原告らが一旦取得す ることとなる修繕費用積立金残高に相当する額を最終的には被告に支払うようになることは,比較的容易に理解で SS制度修繕積立金等相当金に加えて支払うこととなり,本件契約により原告らが一旦取得す ることとなる修繕費用積立金残高に相当する額を最終的には被告に支払うようになることは,比較的容易に理解できるというべきである。加えて,原告らは,被告から制度説明書面の送付を受けて,旧TSS契約からBM契約への移行に関する趣旨やその概要の説明を受けている(上記第2の1⑷イ)。 以上の諸点に鑑みると,原告らが,本件契約締結当時,原告ら主 張に係る誤信をしていたとは認めがたい。したがって,原告らが主張する修繕費用積立金の性質に関する錯誤の事実は認められない。 ⑶ 修繕業務の履行時期に関する錯誤本件修繕目安表は,本件賃貸借契約締結時に原告らに交付された賃貸管理業務仕様書に添付されており,本件賃貸借契約には, 原告は賃貸管理業務仕様書の内容を承諾し,被告は賃貸管理業務仕様書の内容を遵守する旨の規定がある。さらに,平成23年9月に原告らに送付された賃貸管理業務仕様書にも添付されているところ(上記第2の1⑸),原告らは,被告から本件修繕目安表に記載された時期に修繕業務を行うと説明を受け,本件契約締結に よりその点が変更される旨の説明を受けなかったために,本件修繕目安表に基づいて修繕業務が行われるものと考えて,本件契約締結の意思表示をしたが,実際には,本件修繕目安表に基づいて修繕業務が行われなかったと主張する。 しかしながら,本件修繕目安表は,その表題自体が「目安」で あることを明らかにしており,被告が負うべき修繕義務の履行期を明示したものとはいえない。本件修繕目安表の内容を見ても,上部の表は,5年間隔の目盛が設けられ,「再塗装」,「交換」等の工事内容が横長の楕円形で囲まれ記載されており,当該工事内 き修繕義務の履行期を明示したものとはいえない。本件修繕目安表の内容を見ても,上部の表は,5年間隔の目盛が設けられ,「再塗装」,「交換」等の工事内容が横長の楕円形で囲まれ記載されており,当該工事内容を実施する時期は数年の幅があることを示唆するものといえる。ま た,下部に記載された項目も,その多くが,「8~12年」,「5~8年」など数年単位の幅をもって表示されている。さらに,本件修繕目安表には,「参考」との記載があり,補修,交換等の時期は気候,地理的条件により異なる旨記載されていること(上記第2の1⑸)も合わせて考慮すれば,本件修繕目安表に記載され た年数は,修繕業務等を実施する時期のおおよその目安とみるの が通常の読み方であり,これを被告が原告らに負う修繕等の義務の履行期であると解することは困難である。そして,本件賃貸借契約締結時においても本件契約締結時においても,被告が原告らに対し本件修繕目安表に記載された時期に修繕業務を行うとの説明をした事実を認めるに足りる証拠はない。この点,原告Aは, 本件契約を締結した頃に,被告の担当者が,ある時期が来たら,原告Aが所有する建物(別表1の1の「賃貸借契約の目的物である原告所有の建物の名称」欄の40記載の「あずま」)の各部屋のエアコン全てを一気に取り替えると言った旨を供述するが(甲19,原告A本人),この供述を前提としても,被告の担当者が 被告の契約上の義務の履行として行う趣旨で一定の時期におけるエアコンの取り替えに言及したものとは認められない。 したがって,原告らは,修繕義務の履行時期について,本件修繕目安表に記載された時期は飽くまでもおおよその目安であると認識して本件契約を締結したと認められ,その時期に被告が必 ず修繕業務を実施すると誤信して 告らは,修繕義務の履行時期について,本件修繕目安表に記載された時期は飽くまでもおおよその目安であると認識して本件契約を締結したと認められ,その時期に被告が必 ず修繕業務を実施すると誤信して本件契約を締結したとは認められない。原告らが主張する修繕業務の履行時期に関する錯誤の事実は認められない。 2 争点2(公序良俗違反の成否)について⑴ 原告らは,本件契約が公序良俗に反する理由として,第一に,被 告が客観的な必要性がないと判断した場合は,原告が自己の負担によりメンテナンス業務を行うとする本件契約書第6条5項の本件規定は,被告が毎月定額のメンテナンス費用を受け取りながら,被告の一方的な都合により,修繕業務を行わないことを可能とすることから,原告に著しく不利益である点を挙げる。 しかしながら,本件契約は,被告において修繕業務を行う原則(第 3条)を定めた上で,例外として,本件規定により,被告が客観的な必要性がないと判断するものについては,原告において修繕等を行うべきことを定めたものにすぎず,被告が主観的ないし恣意的に修繕等の要否を判断できるという趣旨には読み取れない。被告の負担で修繕を行う以上,被告がオーナーからの客観的な必要性を欠く 修繕要求に全て応じることは不可能であり,このような要求を拒絶するための根拠として本件規定を置くことには,一定の合理性があるというべきである。 確かに,被告において客観的な必要性の判断を行うこととされ,かつ,残余のメンテナンス費用を原告らに返還することは予定され ていないことから,抽象的には,被告が主観的ないし恣意的な運用を行うおそれがないわけではないが,本件契約締結後,実際に,被告は,原告らに対して物件近況報告書を作成して,建物のメンテナンス状況 ていないことから,抽象的には,被告が主観的ないし恣意的な運用を行うおそれがないわけではないが,本件契約締結後,実際に,被告は,原告らに対して物件近況報告書を作成して,建物のメンテナンス状況を報告したり,原告らに対し,その本件賃貸借契約の目的の建物について外壁工事や鉄部工事を行っており(乙4,証人B, 弁論の全趣旨),本件において提出された全証拠に照らしても被告が本件規定を主観的ないし恣意的に運用していたとまでは認められないこと,客観的に必要性がある修繕がされず原告ら所有建物の損傷が目立つようになれば,これに入居する者が減少し,原告らのみならず,これを一括賃借している被告も損失を被ることが予測され ることなどに照らすと,本件規定につき主観的ないし恣意的な運用がされる具体的なおそれがあるとまでは認められない。 そうすると,本件契約の締結により実質的に旧TSS契約時の修繕費用積立金や長期修繕保証金の残高が原告らに返還されないこととなる点を考慮しても,本件規定が,原告らにとって著しく不利益 であり,公序良俗に反するものとまではいえない。 ⑵ 原告らは,本件契約が公序良俗に反する理由として,第二に,本件契約におけるメンテナンス費用では,原告らが前払いしたはずの長期修繕保証金が実質的に控除されていないため,相当性を欠く点を挙げる。 本件契約においては,旧TSS契約終了時の長期修繕保証金残高 を本件賃貸借契約の残存月数で按分した額(長期按分額)を毎月のメンテナンス費用から控除して月々の支払額が決められるとしながらも,毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に上記長期按分額を含む本件加算額を加えた算式で定められており(上記第2の1⑷ウ,エ,オ),その結果,旧TSS契約終了時の としながらも,毎月のメンテナンス費用は,TSS制度修繕積立金等相当額に上記長期按分額を含む本件加算額を加えた算式で定められており(上記第2の1⑷ウ,エ,オ),その結果,旧TSS契約終了時の 長期修繕保証金残高に相当する利益を最終的には原告が取得できない内容となっている。 しかしながら,旧TSS契約においても,長期修繕保証金は,修繕費用積立金による支払いに先んじて修繕費用として用いられるものであり(甲3。旧TSS契約の契約書第6条4項),原告らが取 得することが予定されていたとはいえないことに照らせば,本件契約における長期修繕保証金残高がメンテナンス費用から実質的に控除されないという扱いは,旧TSS契約と比較して原告らに著しい不利益を与えるものではなく,必ずしも不合理とはいえない。 そうすると,原告らが指摘する本件契約の第一及び第二の問題点 は,いずれも合理性を欠くとか,原告らに対して一方的に著しい不利益を与えるものであるとまでは評価できず,本件契約が公序良俗に反し無効であるということはできない。 第4 結論以上のとおり,原告らの請求にはいずれも理由がないからこれを棄却 することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第13部 裁判長裁判官中村心 裁判官大寄久 裁判官吉田怜未

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