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昭和43(オ)813 約束手形金請求

裁判所

昭和47年4月4日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 昭和40(ネ)1265

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6,764 文字

主文 原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。理由 上告代理人岡田錫淵の上告理由第一点ないし第三点について。原審は、つぎの事実、すなわち、被上告会社の代表取締役であつたDは、昭和三九年三月二〇日、訴外E開発株式会社(以下「E開発」という。)の代表取締役であるFとの間に、DはE開発に対し同人およびその他の株主の所有する被上告会社の株式合計一二万余株を代金一億八〇〇〇万円で譲渡することを約し、これに伴い、同年四月七日に開催される予定の被上告会社株主総会においてDが代表取締役を辞任するとともに、右Fのほか、E開発の取締役であるGおよびHが取締役に就任する旨の合意をしたこと、そして、同年三月二〇日以降は右Fら新経営者側において被上告会社の業務運営の一切を行ない、その間に右GおよびHにおいて銀行その他より融資を受けて被上告会社につき増資をし、これをもつて株式譲渡代金の支払いにあてることとし、そのため、同年三月二〇日、被上告会社の取締役会において、右増資先に対する交渉の便宜上、Gを総支配人に、Hを副支配人に選任し、同人らに会社業務運営の責任を一任する旨の決議をしたこと、しかし、Dら旧経営者側としては、正式に代表取締役が交替し株式譲渡代金の支払が完了するまでは、会社の業務全般にわたつてすべてこれをF側に委譲することになお不安を残していたので、手形小切手の振出などの負担行為については両者の合意によつて決すべく申合せをし、その趣旨において、特に旧経営者側の常務取締役I、総務部長JをしてG、Hらの業務運営に協力関与せしめることとしたこと、他方、Hは当時訴外E開発の代表取締役として、事実上、同会社を主宰していたが、同人は、被上告会社の副支配人の地位にあつた同年三月二八日ごろ、右の旧経営者側に何らの相談 協力関与せしめることとしたこと、他方、Hは当時訴外E開発の代表取締役として、事実上、同会社を主宰していたが、同人は、被上告会社の副支配人の地位にあつた同年三月二八日ごろ、右の旧経営者側に何らの相談もせず独断で、E開発が訴外K工業株式会社に対して負担していた債務の支払のため、被上告会社- 1 -社長Dの記名印および社長印を使用して、同社長振出名義でE開発を受取人とする本件約束手形を作成し、同年四月一〇日、この手形にE開発の代表取締役Fの名義で裏書をしてK工業株式会社の代表取締役Lに交付したところ、同人は即日これを上告人に裏書交付したので、上告人は本件手形の所持人となつたこと、本件手形の受取人および第一裏書人としてのE開発の代表行為および代理行為はすべてHがこれを行なつたものであること、同年四月七日の被上告会社の株主総会において、Hは取締役に選任されるとともに、同日の取締役会において代表取締役に選任され、翌八日その旨の登記をおえたこと、以上の事実を確定したうえ、「Hは、本件手形を作成した当時においては、これについて被上告会社を代理又は代表する権限をもたなかつたが、これをK工業株式会社に交付した時には被上告会社の代表権をもつていたわけである。 すべてHがこれを行なつたものであること、同年四月七日の被上告会社の株主総会において、Hは取締役に選任されるとともに、同日の取締役会において代表取締役に選任され、翌八日その旨の登記をおえたこと、以上の事実を確定したうえ、「Hは、本件手形を作成した当時においては、これについて被上告会社を代理又は代表する権限をもたなかつたが、これをK工業株式会社に交付した時には被上告会社の代表権をもつていたわけである。しかし、本件手形の振出がそこに振出日として記載され、かつ、振出人としての署名がなされた昭和三九年三月二八日頃以降、右手形に第一裏書人の署名がされた同年四月一〇日までの間のどの時点においてされたと見るにしても、右振出行為は、Hが、一方振出人たる被上告会社の代理人として、他方受取人たるE開発の代表者としてしたのであるから、商法二六五条の規定により被上告会社の取締役会の承認をえない限り無効といわなければならない。そして、本件手形振出につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては主張も立証もない。」 あるから、商法二六五条の規定により被上告会社の取締役会の承認をえない限り無効といわなければならない。そして、本件手形振出につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては主張も立証もない。」「上告人は、本件手形の振出につき、Hが振出人および受取人の双方を代理又は代表した事実を知らなかつたというが、右の無効は善意の手形取得者に対しても主張しうると解すべきであるから、上告人のこの主張も理由がない。」と判示して、上告人の被上告会社に対する本件手形金の請求を排斥したのである。しかしながら、原審の示した右判断は、つぎに述べるとおり、これを是認することができない。(1) 原判決は、株式会社が商法二六五条に違反して約束手形を振り出した場合- 2 -に、右手形の振出につき取締役会の承認を受けなかつたことによる無効は、受取人である会社の当該取締役に対してのみならず、手形をその取締役から裏書により取得した第三者に対しても主張しうるとの見解を前提として、本件手形の第三取得者である上告人の請求を排斥しているが、かかる場合において、会社の手形行為の直接の相手方である取締役に対する関係において無効の主張が許されることは格別、右手形がいつたんその取締役から第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、振出人である会社において、右手形が会社から取締役である者にあてて振り出され、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかつたことについて、右第三者が悪意であつたことを主張、立証しないかぎり、その振出の無効を主張して手形上の責任を免れることができないものであることは、当裁判所大法廷の判例とするところであつて(昭和四二年(オ)第一四六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判決参照)、これと異なる原審の見解は、当裁判所の採らないところである。 形が会社から取締役である者にあてて振り出され、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかつたことについて、右第三者が悪意であつたことを主張、立証しないかぎり、その振出の無効を主張して手形上の責任を免れることができないものであることは、当裁判所大法廷の判例とするところであつて(昭和四二年(オ)第一四六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判決参照)、これと異なる原審の見解は、当裁判所の採らないところである。してみれば、原判決は、 は、当裁判所大法廷の判例とするところであつて(昭和四二年(オ)第一四六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判決参照)、これと異なる原審の見解は、当裁判所の採らないところである。してみれば、原判決は、商法二六五条の解釈適用について誤りをおかしたものといわなければならない。(2) のみならず、原判決は、本件の事実関係のもとにおいても商法二六五条の適用があるものとするが、前記事実関係によれば、Hが被上告会社代表取締役Dの振出名義でE開発を受取人とする本件手形を作成したのは、同人がなお被上告会社の副支配人の地位にあつた昭和三九年三月二八日ごろのことであつて、当時同人は受取人であるE開発の代表取締役の地位にあつたというにあるところ、右のように約束手形の振出人の代理人ないし代表者と受取人の代表者とが同一人であつて、その間に双方代理ないし双方代表行為が成立する場合においては、振出行為の完成を留保すべき特段の事情のないかぎり、振出人の代理人ないし代表者として法定の形式に従つて手形の作成をおえた以上、その時点において手形の振出行為が完成し、その後は受取人の代表者の資格において右手形を所持するにいたるものと解するの- 3 -が相当である。したがつて、本件手形は、特段の事情のないかぎり、Hが被上告会社の副支配人の地位にある時に被上告会社を代理して振り出したものであつて、その代表取締役に就任してのちにその地位において振り出したものではないというべきである。そして、商法二六五条の規定は、株式会社の業務執行上の意思決定機関たる取締役会の構成員としての取締役に課せられた忠実義務に由来して設けられたものであるから、会社に対し代理権を有するにとどまる支配人(Hは、被上告会社取締役会の決議によつて副支配人に選任され、被上告会社の業務運営を一任されたというのであり、前 忠実義務に由来して設けられたものであるから、会社に対し代理権を有するにとどまる支配人(Hは、被上告会社取締役会の決議によつて副支配人に選任され、被上告会社の業務運営を一任されたというのであり、前示事実関係のもとにおいては、同人は商法三八条にいう支配人としての地位を与えられたものというべきである。 被上告会社取締役会の決議によつて副支配人に選任され、被上告会社の業務運営を一任されたというのであり、前 忠実義務に由来して設けられたものであるから、会社に対し代理権を有するにとどまる支配人(Hは、被上告会社取締役会の決議によつて副支配人に選任され、被上告会社の業務運営を一任されたというのであり、前示事実関係のもとにおいては、同人は商法三八条にいう支配人としての地位を与えられたものというべきである。)に対してまで同条を拡張して適用するのは相当でないと解すべきである。そして、このことは、Hが近い将来被上告会社の取締役に就任することが、Dら旧経営者との間で予定されていたという事情によつても左右されるものではない。してみれば、Hが代表取締役に就任してのち本件手形を振り出したものと認めるべき特段の事情を明らかにすることなく、同人によつてなされた被上告会社の手形振出行為につき商法二六五条を適用した原判決には、この点においても同条の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。(3) 上来説示するところによれば、Hは、特段の事情のないかぎり、被上告会社の副支配人たる地位において被上告会社を代理して、みずから代表者の地位にあるE開発に対し本件手形を振り出したものであるから、その手形行為は、商法二六五条所定の場合には当たらないが、民法一〇八条本文所定の双方代理行為に当たることが明らかである。ところで、同条に違反してなされた代理行為は、本人による事前の承認または追認を得ないかぎり、無権代理行為として無効であるから、手形振出行為が双方代理となる場合においても、本人は、当該行為の相手方に対しては右手形の振出の無効を主張することができるが、商法二六五条の解釈適用に関する- 4 -前記大法廷判決が述べるように、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、右手形が相手方から第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者 適用に関する- 4 -前記大法廷判決が述べるように、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、右手形が相手方から第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、その手形が双方代理行為によつて振り出されたものであることにつき第三者が悪意であつたことを主張し立証するのでなければ、本人はその振出の無効を主張し手形上の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。 る- 4 -前記大法廷判決が述べるように、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、右手形が相手方から第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、その手形が双方代理行為によつて振り出されたものであることにつき第三者が悪意であつたことを主張し立証するのでなければ、本人はその振出の無効を主張し手形上の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。もつとも、前記事実関係によれば、Hによつて本件手形が振り出された当時、被上告会社においては、同人の業務執行上の権限に関し、手形小切手の振出などの債務負担行為についてはDら旧経営者とFら新経営者側との合意によつて決する旨の申合せがあつたというのであるが、かかる申合せがHの副支配人としての代理権を右の限度で制限するものであるとしても、かかる制限については、商法三八条三項の規定により、被上告会社は上告人の悪意を主張し、立証しないかぎり、本件手形上の責任を免れえないものと解すべきであるから、Hが被上告会社を代理してした本件手形の振出行為は、たんなる無権代理の行為ではないというべきである。してみれば、本件手形の振出がその振出人および受取人につき、Hの双方代理または双方代表行為に当たるとしても、上告人はその事実を知らずにこれを譲り受けたから、被上告会社は善意の上告人に対して振出の無効を主張しえない旨の上告人の主張につき、上告人の悪意の有無を審理しないまま本訴請求を排斥した原判決は、結局、民法一〇八条、商法三八条等代理に関する法令の解釈適用をも誤つたことに帰する。そして、原判決の叙上の違法はその結論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は、結局、理由があるから、原判決は破棄を免れないものというべく、本件は、叙上の点についてなお審理を要する たことに帰する。そして、原判決の叙上の違法はその結論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は、結局、理由があるから、原判決は破棄を免れないものというべく、本件は、叙上の点についてなお審理を要するので、民訴法四〇七条に従い、これを原審に差し戻すこととする。よつて、裁判官関根小郷の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり- 5 -判決する。裁判官関根小郷の意見は、次のとおりである。原判決は、Hのした本件手形の振出行為は、同人が、一方振出人たる被上告会社の代理人として、他方受取人たるE開発の代表者としてしたものであつて、商法二六五条の規定により、被上告会社の取締役会の承認を得ないかぎり無効であるところ、右振出につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては、主張も立証もなく、しかも、右の無効は善意の手形取得者に対しても主張しうるものと解すべきであるから、上告人の本訴請求は失当であると判示している。 振出行為は、同人が、一方振出人たる被上告会社の代理人として、他方受取人たるE開発の代表者としてしたものであつて、商法二六五条の規定により、被上告会社の取締役会の承認を得ないかぎり無効であるところ、右振出につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては、主張も立証もなく、しかも、右の無効は善意の手形取得者に対しても主張しうるものと解すべきであるから、上告人の本訴請求は失当であると判示している。しかし、約束手形の振出は、取引の決済または信用授受などの原因関係の手段としてされる行為であり、それ自体としては、取締役個人またはその代理もしくは代表する第三者に新たな利益を与え、会社に不利益をもたらす行為とはいえず、したがつて、約束手形の振出は、金銭の支払と同様、商法二六五条にいう取引に包含されるべきものではないと解する。その理由は、最高裁判所昭和四二年(オ)第一四六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判決における私の意見と同様であるから、それを引用する。なお、約束手形の振出は、民法一〇八条但書所定の債務の履行にあたるので、同条本文の適用はないものと解すべきである。その理由も、右に引用した大法廷判決における私の意見において述べたとおりである。しかるところ、Hは、本件手形の振出当時は、被上告会社において商法三八条所定 条本文の適用はないものと解すべきである。その理由も、右に引用した大法廷判決における私の意見において述べたとおりである。しかるところ、Hは、本件手形の振出当時は、被上告会社において商法三八条所定の支配人の地位にあつたものであり、同人の手形行為等に関する代理権についてされた被上告会社における申合せには同条三項の規定が適用されて、被上告会社は、上告人の悪意を主張、立証しないかぎり、本件手形上の責任を免れえない旨の多数意見の見解には、私も賛成である。よつて、論旨は、理由があるので、原判決を破棄し、本件について、さらに審理- 6 -を尽くさせるため、これを原審に差し戻すべきである。最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官下村三郎裁判官田中二郎裁判官関根小郷裁判官天野武一裁判官坂本吉勝- 7 -

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