令和3(行コ)43 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和6年5月30日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 令和1(行ウ)49
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判決文本文20,261 文字)

令和3年(行コ)第43号損害賠償請求控訴事件令和6年5月30日名古屋高等裁判所民事第2部判決 主文 1 原判決主文第2項を次のとおり変更する。 ⑴ 被控訴人は、控訴人に対し、5万円及びこれに対する令和元年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を 支払え。 ⑵ 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 控訴人のその余の本件控訴を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを36分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨1 1 原判決を取り消す。 2 本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。 第2 控訴の趣旨2(差戻しがされない場合) 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、160万円及びこれに対する令和元年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人又は検察庁は、控訴人を被疑者とする暴行被疑事件について平成29年7月5日付けでされた不起訴処分を撤回せよ。 4 被控訴人又は検察庁は、控訴人を被疑者とする暴行被疑事件について平成29年7月5日付けでされた不起訴処分の理由を、起訴猶予から、嫌疑なし又は罪とならずに変更せよ。 第3 事案の概要(以下、特に断りのない限り、略称は原判決の表記に従う。) 1 本件訴訟に至る事実関係控訴人は、平成29年1月16日に勤務先である愛知県教育委員会(以下「県教委」ということがある。)尾張教育事務所の上司に対して暴行を加えたもの(本件暴行)とされる暴行被疑事件(本件暴行被疑事件)につき、名古屋地方検察庁検察官から、同年7月5日付けで起訴猶予を理由とする不起訴処分を受けた(本 件不起訴処分)。 県教委(管理部総務課長) 件暴行)とされる暴行被疑事件(本件暴行被疑事件)につき、名古屋地方検察庁検察官から、同年7月5日付けで起訴猶予を理由とする不起訴処分を受けた(本 件不起訴処分)。 県教委(管理部総務課長)は、同月7日頃、名古屋地方検察庁検察官に対し、本件暴行被疑事件についての処分結果及び処分理由について書面で照会したところ、名古屋地方検察庁次席検事は、同月13日、県教委(管理部総務課長)に対し、本件暴行被疑事件について控訴人を起訴猶予を理由として不起訴処分とし た旨を書面で回答した(本件回答)。 控訴人は、同年10月12日付けで、県教委から、本件暴行に及んだことなどを理由とする戒告処分を受けた(本件戒告処分)。 控訴人は、その後、本件不起訴処分を不服として名古屋高等検察庁検察官に対して不服申立てをし、平成31年3月27日付け不服申立事件審査結果通知書 (本件通知書)により、上記不服申立てに対する裁定を受けたが、本件通知書には、「貴殿からの不服申立てについて、その内容をよく検討した結果、名古屋地方検察庁が行った処理(不起訴処分)は、適正に行われたものと判断いたしました。」と記載されていた。 2 控訴人の請求等 本件は、控訴人が、名古屋高等検察庁検察官が本件通知書に本件不起訴処分の理由の根拠について何ら記載しなかったこと、名古屋地方検察庁検察官が本件不起訴処分の理由を起訴猶予としたこと、名古屋地方検察庁次席検事が県教委に対して本件不起訴処分が起訴猶予を理由とするものであることを書面で知らせたこと(本件回答)、検察庁が本件不起訴処分を撤回せず、又は本件不起訴処分の 理由を起訴猶予から嫌疑なし若しくは罪とならずに変更しなかったことがいず れも違法であるなどと主張して、①国家賠償法(国賠法)1条1項に基づく損害 分を撤回せず、又は本件不起訴処分の 理由を起訴猶予から嫌疑なし若しくは罪とならずに変更しなかったことがいず れも違法であるなどと主張して、①国家賠償法(国賠法)1条1項に基づく損害賠償金4020万円の一部である160万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和元年9月6日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、行政事件訴訟法(行訴法)3条6項1号のいわゆる 非申請型の義務付けの訴えとして、②本件不起訴処分を撤回し、又は③本件不起訴処分の理由を起訴猶予から嫌疑なし若しくは罪とならずに変更するよう求めた(本件不起訴処分の撤回等の訴え。②と③は選択的併合と解される。)事案である(なお、控訴人は、「被控訴人又は検察庁」に対して、本件不起訴処分の撤回等を求めているが、控訴人のいう「検察庁」とは、本件不起訴処分を行った名 古屋地方検察庁検察官のことを意味するものと解される。)。 原判決は、本件不起訴処分の撤回等の訴えを不適法としていずれも却下し、その余の請求(損害賠償請求)を棄却したところ、控訴人が、これを不服として、原審への差戻し又は上記控訴人の請求の認容を求めて控訴した。 3 前提事実、主たる争点及び主たる争点に関する当事者の主張の要旨は、原判決 を次項のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第2の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 原判決の補正⑴ 原判決3頁15行目の「送致され,」の次に、「事実関係についてAやBとは異なった供述をしており、正当防衛も主張していたが、」を付加する。 ⑵ 原判決4頁11行目の「についての」を「について、下記のとおりの被疑事実を記載して の次に、「事実関係についてAやBとは異なった供述をしており、正当防衛も主張していたが、」を付加する。 ⑵ 原判決4頁11行目の「についての」を「について、下記のとおりの被疑事実を記載して、その」と改め、12行目の「甲74」の次に、「、甲113の4。 以下、この照会を「本件照会」といい、照会書を「本件照会書」ということがある。」を付加する。 ⑶ 原判決4頁12行目末尾を改行して、次のとおり付加する。 「 記 被疑者は、名古屋市中区三の丸二丁目6番1号愛知県三の丸庁舎尾張教育事務所に勤務する地方公務員Cであるが、平成29年1月16日午前8時50分頃、前記尾張教育事務所において、上司のA『51歳(当時)』に対し、その左肩付近を紙製の箱で1回叩く暴行を加えたものである。」⑷ 原判決4頁15行目冒頭の「り,」の次に、「『罪名暴行』、『処分年月日 H2 9.7.5』、『処分区分不起訴(起訴猶予)』として、」を、16行目の「をした。」の次に、「なお、不起訴処分の理由を検察庁の外部に明らかにすることについて、控訴人の承諾はなかった。」をそれぞれ付加する。 ⑸ 原判決4頁16行目から17行目にかけての括弧書を「(甲74、甲112の27枚目、28枚目、32枚目、甲124、甲128。以下、本件回答にか かる回答書を「本件回答書」ということがある。)」と改める。 ⑹ 原判決4頁17行目末尾を改行して、次のとおり付加する。 「 なお、名古屋地方検察庁において、その取り扱った事件に関する外部からの結果等の照会に対して回答を行うことは、法律(令和元年法律第44号による改正前検察庁法11条、9条2項(現行は9条4項))及び検事正通達 により、検事正から次席検事に委任されていた。」⑺ の結果等の照会に対して回答を行うことは、法律(令和元年法律第44号による改正前検察庁法11条、9条2項(現行は9条4項))及び検事正通達 により、検事正から次席検事に委任されていた。」⑺ 原判決12頁15行目から16行目にかけての括弧書を「(令和3年法律第37号により『個人情報に関する法律』に統合されて廃止(令和4年4月1日)される前のもの。以下『行政機関個人情報保護法』という。)」と改める。 ⑻ 原判決12頁16行目末尾を改行して、次のとおり付加する。 「 刑事訴訟法47条は『訴訟に関する書類』を公にすることを禁じているのであり、次席検事が本件回答をしたことは、これにも違反する。被控訴人は、同条ただし書の例外に当たる場合である旨主張するが、否認し争う。 また、次席検事が本件回答をしたことは、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない旨規定する国家公務員法100条にも違反する。 被控訴人は、検察官の不起訴処分における不起訴理由である嫌疑なし、嫌 疑不十分、起訴猶予等の区分は、検察庁における内部的処理にすぎず、対外的な法的効果の生じるものではなく、国民に対する権利義務に直接効力を生じないなどと主張しているが、もしそうであるならば、検察庁は、そのような内部処理の内容を対外的機関へ公文書によって提供すべきではないのであり、次席検事が県教委に対し、本件回答をしたことは、捜査情報や個人情 報の漏洩ともいうことができ、無責任で許されないものというべきである。 被控訴人は、県教委が控訴人に対する懲戒処分を適切に行うために不起訴理由の開示を求めたので、これに応じて次席検事が本件回答をした旨主張するが、そのような目的は、県教委からの本件照会書にも、これに対する本件回答書にも記載されていない。 控 行うために不起訴理由の開示を求めたので、これに応じて次席検事が本件回答をした旨主張するが、そのような目的は、県教委からの本件照会書にも、これに対する本件回答書にも記載されていない。 控訴人は、本件回答により、これを是正する方法もないままに、職場において不当に加害者扱いされることとなり、かつ、県教委が不起訴理由は起訴猶予であった旨を記者発表したため、全世界からも不当に加害者扱いされることとなり、名誉やプライバシーが侵害されたものであって、多大な損害を被っている。」 ⑼ 原判決13頁15行目末尾を改行して、次のとおり付加する。 「 すなわち、行政機関個人情報保護法8条2項3号によれば、行政機関の長は、他の行政機関や地方公共団体等に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用すること について相当な理由のあるときには、利用目的以外の目的のために保有情報を提供することができるとされている。 しかるところ、公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するものであり、公務員が職務の内外において非行を行い、職自体の信用を傷つけたときは、その職員を一員とする公務全体の信用を損ない、かつ、公務 全体の不名誉ともなるものであるから、公務員に対する懲戒権者は、懲戒処 分の際、公務員関係の秩序維持並びに公務全体の信用及び名誉を確保するとともに、職員に対する不当な制裁を行わないために、懲戒事由該当行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否 の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒 処分とする場合にいかなる処分をするかを決定する裁量権を有しているとされているのであり、上記諸般の事情を考慮する前提として、各種調査を行い、様々な資料を広く入手する必要がある。また、特に地方公務員の場合、刑事事件に関し起訴された場合には、休職(地方公務員法28条2項2号、3項)や失職(同条4項)もあり得る。 そうすると、公務員に対する懲戒権者等は、当該公務員が非行により被疑者となった場合、その終局処分の起訴又は不起訴を知ることが必要であり、不起訴であればその理由はいかなるものかなどの情報提供を受け、それらを判断資料としなければ、適切に懲戒等の処分をすることができないというべきである。 本件において、県教委としては、本件暴行被疑事件で送致された控訴人につき、懲戒等の処分を適切に行うために本件照会をしたものであって、次席検事による本件回答の目的は、県教委による懲戒権の適切な行使を実現することにあり、しかも、控訴人の処分結果を知る方法として、この回答を得ることが最も正確な情報入手の手段であったといえる。 そして、本件暴行被疑事件については、その当日である平成29年1月16日に被害者から県教委に報告されており、本件回答書には、暴行罪について控訴人を不起訴処分(起訴猶予)としたことのみが記載されていたにすぎないから、控訴人及び関係人の名誉やプライバシーを侵害する弊害が発生するおそれも低かったものである。 したがって、本件回答をしたことは、行政機関個人情報保護法8条2項柱 いたにすぎないから、控訴人及び関係人の名誉やプライバシーを侵害する弊害が発生するおそれも低かったものである。 したがって、本件回答をしたことは、行政機関個人情報保護法8条2項柱 書のただし書にある『本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるとき』に該当するものではなく、本件回答をしたことが同条に違反するものではない。 また、次席検事が本件回答をしたことは、刑事訴訟法47条ただし書の場合に該当するし、上記のとおり、行政機関個人情報保護法8条2項3号によ って許容されたことであり、法令の根拠に基づくものであって、国家公務員法100条に違反するものではない。」第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、本件不起訴処分の撤回等の訴えについては、原判決と同じく、これらはいずれも不適法であるから却下すべきものと判断するが、控訴人の損害賠 償請求については、5万円及びこれに対する令和元年9月6日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余を棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 争点1(本件不起訴処分の撤回等の訴えの適法性)及び争点2(D検察官が本 件通知書に本件不起訴処分の理由の根拠について何ら記載しなかったことの国賠法上の違法性)について原判決16頁24行目末尾に「なお、公権的に確定されたものではない本件不起訴処分の理由が起訴猶予とされていることについて、これが検察庁の外部に明らかにされることの是非等については、後記のとおり別途検討されるべきもので ある。」を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点3(E検察官が本件不起訴 等については、後記のとおり別途検討されるべきもので ある。」を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点3(E検察官が本件不起訴処分の理由を起訴猶予としたことの国賠法上の違法性)について原判決18頁21行目から25頁11行目までを、次のとおり改め、25頁1 2行目の「⑷」を「⑶」と改めるほか、原判決「事実及び理由」第3の3に記載 のとおりであるから、これを引用する。 「 また、いわゆる不起訴記録は、原則として公開されないところ(刑事訴訟法47条)、これを入手して、検討することなしに、検察官による不起訴処分(その理由を含む。)の当否を判断することは相当でなく、検察官の公訴を提起しない処分の当否について検察審査会が審査する(この場合、検察官には資料の 提出義務がある(検察審査会法35条)。)ほかは、外部の機関によるこのような審査等は予定されていないというべきであり、不起訴処分の理由の当否についても同様と解される。 そうすると、特段の事情のない限り、不起訴処分の理由をどのようなものとしたかによって、検察官の不起訴処分が国賠法上違法とされるものではないと いうべきであり、本件において、これを問題とすべき特段の事情は認められない(なお、被控訴人は、本件暴行について、不起訴記録(控訴人にとって有利なものが含まれている可能性も否定できない。)を提出することなく、『控訴人が本件暴行に及んだとの嫌疑が認められることは明らか』であるなどと主張するが、そもそも検察官が不起訴記録に基づいて行った『起訴猶予(被疑事実が 明白)』という処分の当否を、これを一切参照することなしに、その他の証拠等から判断することが相当でないことは上記のとおりであるから、被控 察官が不起訴記録に基づいて行った『起訴猶予(被疑事実が 明白)』という処分の当否を、これを一切参照することなしに、その他の証拠等から判断することが相当でないことは上記のとおりであるから、被控訴人の上記主張は理由のないものであるし、他方、『嫌疑なし又は罪とならずとして不起訴処分とすべきであった』などとする控訴人の主張も理由のないものである。)。 以下では、以上の認定及び判断を前提に、その他の各争点についての判断を行うこととする。」 4 争点4(次席検事が愛知県教育委員会に対して本件回答をしたことの国賠法上の違法性)について⑴ 行政機関個人情報保護法(当時)は、行政機関において個人情報の利用が拡 大していることに鑑み、行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事 項等を定め、行政の適正かつ円滑な運営を図り、個人情報の適正かつ効果的な活用等の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする法律であり(同法1条)、行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない旨規定していた(同法8条1項)。そして、特に、個人情報の中でも、「本人の人種、 信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」を「要配慮個人情報」として定義し(同法2条4項)、同法の委任を受けた同法施行令(当時)においては、「要配慮個人情報」として、「本人を被疑者又は被告人として、 逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと」を内容とする記述等を含むものとされており(同 、「要配慮個人情報」として、「本人を被疑者又は被告人として、 逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと」を内容とする記述等を含むものとされており(同施行令4条4号)、ここにいう「その他の刑事事件に関する手続」には、不起訴処分(その理由も含む。)も含まれるものと解される。また、そもそも前科等の犯罪の経歴は、人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公 開されないという法律上の保護に値する利益を有するものである(最高裁判所昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集35巻3号620頁、同裁判所平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集48巻2号149頁参照)。 他方、行政機関個人情報保護法8条2項は、同条1項の規定にかかわらず、 行政機関の長は、同条2項1号から4号までのいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる旨規定しており、同項3号は、公共性の高い事務を遂行する地方公共団体等が当該事務を執行するに当たり行政運営の効率化等を図る観点から行政機関が保有する処理情報を使用することを可能にするという観点から、 地方公共団体等に保有個人情報を提供する場合で、保有個人情報の提供を受け る者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるときを掲げていた。もっとも、同条2項ただし書において、「本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。」と規定していた。 そこで、これらの規 あるときを掲げていた。もっとも、同条2項ただし書において、「本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。」と規定していた。 そこで、これらの規定やその趣旨等も踏まえて、以下検討する。 ⑵ 次席検事の本件回答は、「罪名暴行」、「処分区分不起訴(起訴猶予)」というもので、これは、担当検察官(E検察官)が、本件暴行被疑事件について、「被疑事実が明白な場合において、被疑者の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないとき」(事件事務規定)に 該当するとの判断をしたということを意味するものである。そうすると、不起訴処分の理由が、「起訴猶予」であるということが検察庁の外部に明らかにされることは、検察官が「被疑事実が明白」であると判断したことが明らかにされるということであり、これは被疑者の名誉、信用を毀損し、その名誉感情を大きく害するものである。 しかし、検察官によって公訴提起された事件であっても、無罪とされるものがあるように、検察官の「被疑事実が明白」という「起訴猶予」の判断が正しいとは限らないし、さらに、公訴提起(刑事訴訟法の定める厳格な手続の下で犯罪の証明を要することとなる。)をするか否かが慎重に判断されていることと比べると、公訴提起をしないことを前提とした「被疑事実が明白」との判断 が誤っている場合も十分あり得るものといわざるを得ない。ところが、前記2及び3で原判決を引用するなどして説示したとおり、検察官の不起訴処分や不起訴処分の理由について、その当否を、被疑者が民事訴訟ないし行政訴訟を提起するなどして直接争う手段はない(本件においても、被控訴人は、これを前提として、控訴人の各請求を争っている。)。また、その他の訴訟に 分の理由について、その当否を、被疑者が民事訴訟ないし行政訴訟を提起するなどして直接争う手段はない(本件においても、被控訴人は、これを前提として、控訴人の各請求を争っている。)。また、その他の訴訟において、間 接事実として被疑事実が検察官によって「起訴猶予」とされたこと(すなわち、 検察官が「被疑事実が明白」と判断したこと)が主張立証された場合などにも、その当否を判断するためには、検察官が上記判断の資料とした不起訴記録を検討することが最低限必要で、不可欠なものである(被疑者にとって不利なものであっても、有利なものであっても、捜査機関が入手できる資料と、私人が入手できる資料とでは雲泥の差がある。)が、私人である被疑者がこれを入手し、 証拠として提出することは極めて困難である(刑事訴訟法47条)。そうすると、被疑者は、検察官が、被疑事実が明白であるとして起訴猶予とした判断が正当なものであったか否かを正当に争う手段は、事実上ないものといってよい(起訴された場合には、被告人として、これを争うことができる。)。なお、上級庁に対する不服申立ては可能であり、本件においても控訴人はこれを行って いるが(前提事実⑶)、検察庁における内部的なものにすぎず、これに対する訴訟等は認められていないのであるから、これをもって正当に争う手段があるものとはいえない。 以上のとおり、「起訴猶予」という不起訴処分の理由は、検察官が「被疑事実が明白」であると判断したということであり、これが明らかにされることは、 被疑者にとって重大な不利益が生じるもので、検察官の判断が誤っている可能性があるのに、被疑者にとってこれを争う手段がないものであるから、法律の規定(刑事訴訟法261条。なお、この規定は、検察官の不起訴処分に対し、告訴人、告発 生じるもので、検察官の判断が誤っている可能性があるのに、被疑者にとってこれを争う手段がないものであるから、法律の規定(刑事訴訟法261条。なお、この規定は、検察官の不起訴処分に対し、告訴人、告発人又は請求人が検察審査会への審査の申立てや付審判の請求を行うための前提として、不起訴処分の理由を知らせる趣旨のものであると解され る。)に基づくことなく、被疑者の承諾なしに、これを検察庁の外部に明らかにしてはならない性質のものというべきである。 ⑶ 本件において、県教委(管理部総務課長)は、処分結果だけでなく、処分理由についても照会しているところ、休職(地方公務員法28条2項2号)についての判断を行うには、処分結果(起訴されたか否か)が明らかになれば足りるの であり、処分理由についても照会しているのは、休職についての判断を超えて、 起訴猶予、嫌疑不十分、嫌疑なし等の検察官の判断を知って、これを事実認定の参考としたり、どのような処分とするかなどの懲戒等の処分を行うための判断資料としたりする目的であったものと認められる(県教委は、控訴人による本件戒告処分の審査請求に対する答弁書(甲6)で、検察官の処分理由が「起訴猶予」であったことを主張しているし、さらに、準備書面(1)(甲78)では、 「刑事処分の結果も『起訴猶予』とされており、暴行の事実が認定されている。」などと主張している。また、県教委の代理人弁護士らは、別件訴訟(名古屋地方裁判所令和4年(ワ)第1740号)において、本件回答書を書証として提出した上、準備書面(1)で、「刑事処分の内容も含めて、非違行為について総合的に検討し、懲戒処分を行うか否かを判断している。」、「原告に対する懲戒 処分の妥当性を裏付けるため、不起訴理由も含めた当該文書の内容を、準備書面に 事処分の内容も含めて、非違行為について総合的に検討し、懲戒処分を行うか否かを判断している。」、「原告に対する懲戒 処分の妥当性を裏付けるため、不起訴理由も含めた当該文書の内容を、準備書面において明らかにしたものである。」などと主張している(甲112)。)。しかし、不起訴処分の理由については、前記⑵のとおり、検察官の判断が誤っている可能性があるにもかかわらず、被疑者(控訴人)がこれを争う手段はないものであるし、検察官の判断の基礎とされている不起訴記録についても、被疑 者(控訴人)も、懲戒権者(県教委)も、これを参照することが事実上できないものであり、いわばブラックボックスに入れられていて、その中でどのようにして検察官の判断結果(不起訴処分の理由)に至ったのか、外部からは全く分からないのである。このように、検察官の「起訴猶予」(被疑事実が明白)等の不起訴処分の理由は、これを実質的に争える手段のない被疑者の意に反して、 懲戒等の処分のための資料として独り歩きしてしまう可能性が高いものであるから、懲戒権者は、少なくとも被疑者が被疑事実(非違行為)を争っている場合(正当防衛等の違法性阻却事由を主張している場合を含む。以下、同様である。)には、検察官による「起訴猶予」(被疑事実が明白)との判断があったことを、非違行為が認められるか否かという処分事由の判断等に用いてはならな いというべきである。したがって、検察官の判断が誤っていた場合に職員に対 する不当な制裁が行われる可能性があり、処分事由の判断等に用いてはならない不起訴処分の理由は、その判断等のために照会する必要性は認められないものであり、本件において、他にこれを知らなければならないような特段の事情等も認められないから、これを照会する公益上の必要性等はないもの 訴処分の理由は、その判断等のために照会する必要性は認められないものであり、本件において、他にこれを知らなければならないような特段の事情等も認められないから、これを照会する公益上の必要性等はないものといわざるを得ない(仮に、処分理由の照会が従前からの取扱いないし慣行に従って行 われているものであったとしても、非違行為の事実の存否等が争われている場合に、これを求めることが相当でないことは、上記のとおりである。)。 また、前記⑴のとおり、そもそも「不起訴処分」を内容とする記述等を含む個人情報それ自体、行政機関個人情報保護法がその取扱いに特段の配慮を求めている「要配慮個人情報」に該当するものである上、ましてや「不起訴処分の 理由」については、前記⑵のとおり、それが「起訴猶予」であるということが検察庁の外部に明らかにされることは、検察官が「被疑事実が明白」であると判断したことが外部に明らかにされるということで、被疑者の名誉、信用等を毀損し、その名誉感情を大きく害するものであるし、被疑者が不起訴処分の理由が「起訴猶予」である(検察官が「被疑事実が明白」であると判断した)こ とを有効に争う手段がないことからすれば、被疑者の無罪と推定される権利(刑事訴訟法336条、国際人権規約B規約14条2項等参照)を実質的に侵害するものともいえるのである。 上記の点についてさらに検討すると、①懲戒権者が、「検察官による不起訴処分の理由」を除いた資料によって、非違行為の事実を認めることができると 判断している場合は、これに加えて「検察官による不起訴処分の理由」を知る必要はない。これに対し、②懲戒権者が、「検察官による不起訴処分の理由」を除いた資料によっては、非違行為の事実を認めることができないと判断している場合、又は③懲戒権者が よる不起訴処分の理由」を知る必要はない。これに対し、②懲戒権者が、「検察官による不起訴処分の理由」を除いた資料によっては、非違行為の事実を認めることができないと判断している場合、又は③懲戒権者が、「検察官による不起訴処分の理由」を除いた資料によって、非違行為の事実を認めることができるかどうか判断がつかないでいる 場合(特に、後者の場合)は、懲戒権者は、「検察官による不起訴処分の理由」 を知りたいと考えるであろう。これらの場合に、処分権者が、「検察官による不起訴処分の理由」が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であったことを知って、非違行為の事実が認められるとしたとすると、「検察官による不起訴処分の理由」が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であったことが、決定的な影響を及ぼしていることになる。しかし、検察官の判断が誤っている可能性はあるのであり、そ の場合にも、被疑者が検察官の判断を実質的に争う手段はないのである。そうすると、例えば、検察官の判断が9割は正しいと仮定しても、残りの1割は検察官の誤った判断が事実上独り歩きしてしまったことになる。また、懲戒処分がされたことに対して、被疑者が取消訴訟等を提起したとしても、検察庁が不起訴記録(ここには、被疑者にとって有利な証拠ないし他の証拠との対比等に よって被疑者に有利となり得るような証拠が含まれている可能性がある。)の送付嘱託に応じるなどしてこれが当該訴訟の証拠として提出される可能性は非常に低く、検察官の判断が誤りである場合にも、結果としてそれが独り歩きしてしまう可能性が高い。当該訴訟の受訴裁判所が、検察官の判断を考慮しなければよいものともいい得るが、自由心証主義の中で、直ちにこれを考慮して はならないということはできないし、そもそも訴訟において受訴裁判所が考慮した 訴訟の受訴裁判所が、検察官の判断を考慮しなければよいものともいい得るが、自由心証主義の中で、直ちにこれを考慮して はならないということはできないし、そもそも訴訟において受訴裁判所が考慮したり、重視したりするのが相当ではないような事実は、明らかにされる必要性はなく、懲戒権者が知るべき必要性もないというべきである。 逆に、検察官の判断が、「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」であった場合、懲戒権者が、上記①のその他の資料では非違行為の事実を認めることができると判断 している場合に、検察官のこのような判断を知って、非違行為の事実が認められないとしたとすると、やはり「検察官による不起訴処分の理由」が「嫌疑なし」又は「嫌疑不十分」であったことが、決定的な影響を及ぼしていることになる(懲戒権者は、不起訴記録を入手することができないのが通常であるから、不起訴記録とその他の資料との比較対照をしたりして、さらに厳密な検討を行 うこともできず、検察官の判断結果のみが影響していることになる。)。しかし、 この場合にも、検察官の判断が誤っている可能性はあるのであって、これが誤りであった場合には、懲戒権者による懲戒権の適切な行使が害されることになるのである。そして、上記③の懲戒権者が「検察官による不起訴処分の理由」を除いた資料によって、非違行為の事実を認めることができるかどうか判断がつかないでいる場合も、懲戒権者が、検察官の判断が「嫌疑なし」や「嫌疑不 十分」であったことを知って、非違行為の事実が認められないとしたとすると、「検察官による不起訴処分の理由」が「嫌疑なし」又は「嫌疑不十分」であったことが決定的な影響を及ぼしていることになり(この場合も、懲戒権者は、不起訴記録を入手することができないことが通常であるから、不起訴記録とその他 処分の理由」が「嫌疑なし」又は「嫌疑不十分」であったことが決定的な影響を及ぼしていることになり(この場合も、懲戒権者は、不起訴記録を入手することができないことが通常であるから、不起訴記録とその他の資料との比較対照をしたりして、さらに厳密な検討を行うこともできず、 検察官の判断結果のみが影響していることになる。)、検察官の判断が誤りであった場合には、懲戒権者による懲戒権の適切な行使が害されることになるのである。 このように、検察官の判断が常に正しいといえるか、又は不起訴記録を入手してこれを含めた検討を行うという手続を経るかしない限り、被控訴人の主張 している懲戒権者による懲戒権の適切な行使が実現されるということはできないのであるが、検察官の判断が常に正しいとはいえないし、不起訴記録を入手してこれを検討することも事実上できないものである。なお、懲戒処分を行う方向であっても、行わない方向であっても、懲戒権者のその他の資料による判断が、検察官の判断と一致している場合、懲戒権者が最終的な結論を決めや すくなるとは考えられるが、このような場合、「検察官による不起訴処分の理由」は、いわば気休めとして用いられるに過ぎないから、被疑者にとって不利益な内容である場合に、その名誉、信用、プライバシー等の権利利益を害してまでこれを明らかにすることが正当化され得るものではない。 以上のとおりであって、E検察官が行った「起訴猶予」(被疑事実が明白)と いう不起訴処分の理由は、これが提供されることによって、これを争う手段の ない被疑者である控訴人の上記のような権利利益が侵害されるものであるから、行政機関個人情報保護法8条2項ただし書の本人(控訴人)の「権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるとき」に該当するものといわざ である控訴人の上記のような権利利益が侵害されるものであるから、行政機関個人情報保護法8条2項ただし書の本人(控訴人)の「権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるとき」に該当するものといわざるを得ない。また、このような情報の提供は、上記のとおり、公益上の必要等によって相当と認められるものではないから、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを 濫用するものであって、被疑者(控訴人)の名誉、信用、プライバシー等の権利利益も保護している刑事訴訟法47条にも違反するものといわざるを得ない。 ⑷ 被控訴人は、本件において、県教委としては、本件暴行被疑事件が送致された控訴人につき、懲戒等の処分を適切に行うために本件照会をしたもので、次 席検事による本件回答の目的は、県教委による懲戒権の適切な行使を実現することにあり、控訴人の処分結果を知る方法として、この回答を得ることが最も正確な情報入手の手段であったなどとして、このような県教委の利用目的には相当な理由があり、次席検事がこれに応じて不起訴処分の理由を回答することは、行政機関個人情報保護法8条2項3号により許容される旨主張する。 確かに、県教委が本件暴行被疑事件につき、検察庁に対し、起訴か不起訴かという処分結果の回答を求めることは、休職等の判断を行うのに必要であるし、仮に控訴人が起訴された場合には、これによって被告人とされた控訴人は、これを刑事裁判で争うことが可能であるから、その限度では公務の遂行に必要であるし、正当なものと認められる。 しかし、不起訴処分の理由については、これまで述べたとおり、「起訴猶予」(被疑事実が明白)とされても、控訴人が争う手段がなく、検察官の判断が事実上独り歩きしてしまう性質のものであるから、検察官の判断が誤っていた場合、懲戒等の処分がこれに まで述べたとおり、「起訴猶予」(被疑事実が明白)とされても、控訴人が争う手段がなく、検察官の判断が事実上独り歩きしてしまう性質のものであるから、検察官の判断が誤っていた場合、懲戒等の処分がこれに引きずられて、誤って行われる可能性が高いのであって、むしろ懲戒権の適切な行使が妨げられる可能性が高いのである(捜査機 関によって広く収集された資料を基に起訴するか否かの判断を独占する検察 官の判断は、不起訴処分の理由についても、これが明らかにされれば、事実上絶大な影響力を及ぼすことが容易に想定できる。現に、本件戒告処分においても、前記⑶のとおり、県教委の代理人弁護士らが、「刑事処分の内容も含めて、非違行為について総合的に検討し、懲戒処分を行うか否かを判断している。」と主張し、本件回答について、「原告に対する懲戒処分の妥当性を裏付けるた め、不起訴理由も含めた当該文書の内容を、準備書面において明らかにしたものである。」などと主張しているように、本件回答が事実上本件戒告処分に大きく影響していることは明らかである。)。そして、被疑者である控訴人は、無罪の推定を受ける権利を有しているのであり、懲戒等の処分についても、少なくとも犯罪行為に該当する重大な非違行為については、同様の権利利益を有し ているというべきである。したがって、本件回答によって、起訴か不起訴かという処分結果だけではなく、不起訴処分の理由が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であることまで明らかにしてしまったことについては、被控訴人の上記主張は理由がない。しかも、不起訴処分の理由は、控訴人も主張しているように、そもそも検察庁の内部的な事務処理にすぎず、検察官が被疑者に対して、職務 上何らかの法的義務を負うものではなく、その他の第三者に対して何らかの法的義務を負 理由は、控訴人も主張しているように、そもそも検察庁の内部的な事務処理にすぎず、検察官が被疑者に対して、職務 上何らかの法的義務を負うものではなく、その他の第三者に対して何らかの法的義務を負うものとも解されないから、このような外部に対して責任を持たない内部的な事務処理の結果を、法的な権利義務に係わる懲戒等の重大な処分のための情報として提供すること自体、それだけでも非常に無責任な行為といわざるを得ない。被控訴人は、県教委が不起訴処分の理由の回答を得ることが「最 も正確な情報入手の手段であった」などと主張するが、外部に対して責任を持たない検察庁の内部的な事務処理の結果が懲戒等の処分を適切に行うための「最も正確な情報」であったなどといえないことは明らかである(懲戒等の処分を適切に行うための「最も正確な情報」を得るためには、検察庁の内部的な事務処理の結果ではなく、それに用いられた具体的な資料である不起訴記録を 得ることが必要であるところ、検察庁の取扱いとしてこれを提供することがで きないとしても、その代替として、被疑者や懲戒権者も含めた外部に対して責任を持たない内部的な事務処理の結果のみを提供することは、到底正当化することができないというべきである。また、公務員が、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するものであること等を考慮しても、これを正当化することはできないといわざるを得ない。)。 なお、被控訴人の、次席検事による本件回答の目的は県教委による懲戒権の適切な行使を実現することにある旨の主張や、公務員に対する懲戒権者は、職員に対する不当な制裁を行わないために、様々な資料を広く入手する必要があるから、不起訴の理由の情報提供を受け、これを判断資料としなければ適切に懲戒等の処分をすることができないなどとする 戒権者は、職員に対する不当な制裁を行わないために、様々な資料を広く入手する必要があるから、不起訴の理由の情報提供を受け、これを判断資料としなければ適切に懲戒等の処分をすることができないなどとする主張は、検察官の「起訴猶予」 すなわち「被疑事実が明白」との判断が正しいことを前提とした主張であるとも解される。しかし、検察官の「被疑事実が明白」との判断が正しいとは限らないことは、前記⑵のとおりである。そして、以上のとおり、検察官の判断が誤っていた場合には、懲戒権者も非違行為を行ったとされる者(被疑者)も、捜査機関がその権限に基づいて広く収集した不起訴記録を検討することがで きないまま、検察官の判断だけが独り歩きすることになり、かえって懲戒権の適切な行使が妨げられることになるのである。仮に、被控訴人の主張が、検察官の「被疑事実が明白」との判断が正しいとは限らないことを前提としているのであれば、これが誤りである場合に上記のような弊害が生じても構わないということになるが、このような主張が正当といえないことは明らかであろう (このような前提であれば、被疑者が実質的に検察官の判断を争うことができるように、少なくとも不起訴記録の全部を被疑者に開示すべきである(不起訴記録を検討することなしに、その他の手段で検察官の判断を覆すことは容易ではない。)が、このような取扱いはされていない。)。逆に、不起訴処分の理由が「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」であった場合には、その情報提供によって、懲 戒権者が、懲戒処分を行わない可能性があることは、前記⑶のとおりである。 しかし、そもそも制度が異なるものである以上、検察官の判断と懲戒権者の判断とが異なる場合があることは当然のことであり、検察官の判断と懲戒権者の判断とが一致することは、制度上 おりである。 しかし、そもそも制度が異なるものである以上、検察官の判断と懲戒権者の判断とが異なる場合があることは当然のことであり、検察官の判断と懲戒権者の判断とが一致することは、制度上予定されているものではない。そして、検察官の「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」の判断が情報提供されることなく、懲戒処分が行われた場合、懲戒処分を受けた者(被疑者)は、非違行為の事実を否定す るために、不起訴処分の理由が「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」であったこと(ただし、「起訴猶予」の場合と同様に、それ自体正しいとは限らない。)を主張立証することはできないことになる。しかし、懲戒処分を受けた者(被疑者)は、取消訴訟等において懲戒権者の処分の当否を争うことができ、これを争った場合には、懲戒権者は懲戒処分が正当である根拠を具体的に主張立証しなければ ならないのであるから、被疑者が不起訴処分の理由が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であることを争うことができず、その具体的な根拠(不起訴記録)も明らかにされないのとは全く異なるのである。 また、被控訴人は、本件回答書には、暴行罪について控訴人を不起訴処分(起訴猶予)としたことのみが記載されていたにすぎないから、控訴人及び関係者 の名誉やプライバシーを侵害する弊害が発生するおそれも低かったなどと主張する。しかし、「起訴猶予」の判断は、検察官による「被疑事実が明白」という判断であるから、これを明らかにすることが控訴人の名誉、信用、プライバシー等を侵害するものであることは明らかであり、弊害が発生するおそれが低いなどといえるものではなく、被控訴人の上記主張は、失当である(控訴人に とってこれを実質的に争う手段がないのであるから、むしろ弊害が発生するおそれが非常に高いといわざるを得ない。)。 ⑸ 以 などといえるものではなく、被控訴人の上記主張は、失当である(控訴人に とってこれを実質的に争う手段がないのであるから、むしろ弊害が発生するおそれが非常に高いといわざるを得ない。)。 ⑸ 以上によれば、次席検事が、本件回答により、控訴人の承諾なく、本件不起訴処分の理由(「起訴猶予」であること)を明らかにしたことは、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといわざるを得ず、控訴人の前記⑶の権利利 益を不当に侵害するものである。 そして、次席検事は、以上の検討からも明らかなように、また、その立場上からいっても、不起訴処分の理由は、被控訴人も主張しているように検察庁における内部処理にすぎないものであること、「起訴猶予」(被疑事実が明白)としたことが誤りである可能性があること、これについて、被疑者は不起訴記録を閲覧したり入手したりすることができず、実質的に争う手段がないこと、不 起訴処分の理由が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であることが検察庁の外部に明らかにされると、被疑者の名誉、信用、プライバシー等の権利利益が侵害されるおそれがあることを熟知しており、本件においても、本件暴行について、控訴人が被疑事実を争っていること、本件回答によって控訴人の不起訴処分の理由が「起訴猶予」であることが明らかにされれば、控訴人の上記権利利益を 侵害するおそれがあることを十分認識していたものと認められる。 そうすると、次席検事には、本件回答により、控訴人の承諾なく、本件不起訴処分の理由(「起訴猶予」であること)まで明らかにしてしまったことについて、注意義務を尽くしておらず、過失があったと認められる。なお、仮に本件回答が従前からの取扱いないし慣行に従って行われたものであったとしても、 不起訴記録の提供と併 かにしてしまったことについて、注意義務を尽くしておらず、過失があったと認められる。なお、仮に本件回答が従前からの取扱いないし慣行に従って行われたものであったとしても、 不起訴記録の提供と併せて行うわけではなく、公権的に確定されたものでもない、内部的な事務処理にすぎない不起訴処分の理由を明らかにすることが相当でないことは明らかで、起訴か不起訴かという処分結果だけを回答して、その理由は明らかにしないことに改めることは容易であったといえるから、いささかも注意義務が軽減されるものではなく、過失があることを免れるものではな いというべきである。 したがって、次席検事は、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と不起訴処分の理由が「起訴猶予」(被疑事実が明白)であることを明らかにする本件回答を行ったものと認められ、これは、国賠法1条1項の適用上違法なものといわざるを得ない。 5 争点5(検察官が本件不起訴処分を撤回せず、又は本件不起訴処分の理由を変 更しなかったことの国賠法上の違法性)について原判決28頁3行目の「ないし,」から5行目の「ない。」までを、「ないのであり、特段の事情のない限り、不起訴処分の理由をどのようなものとしたかによって、検察官の不起訴処分が国賠法上違法とされるものではなく、本件において、これを問題とすべき特段の事情は認められないのである。」と改めるほか、原判 決「事実及び理由」第3の5に記載のとおりであるから、これを引用する。 6 以上のとおりであるから、本件においては、控訴人が主張する事実のうち、次席検事が本件回答によって、控訴人の不起訴処分の理由が「起訴猶予」であることを明らかにした点に限り国賠法上の違法性が認められるところ、これによって控訴人は、精神的苦痛を被ったも 張する事実のうち、次席検事が本件回答によって、控訴人の不起訴処分の理由が「起訴猶予」であることを明らかにした点に限り国賠法上の違法性が認められるところ、これによって控訴人は、精神的苦痛を被ったものと認められ、本件に顕れた諸事情を考慮すれ ば、これに対する慰謝料としては5万円が相当である。 7 控訴人は、そのほか種々主張するが、損害賠償請求に関する部分について一部理由があるものとして改めた点以外、当裁判所の以上の認定及び判断を左右するものではなく、いずれも理由がない。また、以上によれば、本件を原審(名古屋地方裁判所)に差し戻すのが相当とは認められない。 第4 結論よって、控訴人の本件控訴に対し、損害賠償請求に関する部分については一部理由があるから原判決を変更し、その余の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官長谷川恭弘 裁判官上杉英司 裁判官寺本明広

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