令和5(ネ)86 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月14日 札幌高等裁判所 棄却 札幌地方裁判所 令和2(ワ)2916
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判決文本文19,522 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 炭鉱構内において粉じん作業に従事していた亡A(以下「A」という。)は、平成19年、控訴人を被告として、控訴人が鉱山保安法に基づく規制権限の行 使を怠ったことが違法であり、これによりじん肺にり患して損害を被ったと主張して、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償を求める訴えを札幌地方裁判所に提起した。Aと控訴人は、平成21年5月29日、同裁判所において、控訴人がAに対して806万6666円及びこれに対する平成19年5月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う 旨の裁判上の和解を成立させた。Aは、令和2年1月3日じん肺を原因として死亡した。 本件は、Aの相続人である被控訴人が、控訴人に対し、控訴人が粉じん発生防止策の速やかな普及及び実施を図るために鉱山保安法に基づく規制権限を行使することを怠ったことが違法であり、これによりAがじん肺を原因として死 亡し、控訴人に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権(死亡慰謝料)を取得し、被控訴人がこの債権を相続したと主張して、Aの控訴人に対する慰謝料1000万円及び弁護士費用相当損害金150万円の合計額1150万円のうち慰謝料100万円及び弁護士費用相当損害金10万円の合計額110万円並びにこれに対するAの死亡日である令和2年1月3日から支払済みまで民 法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 円並びにこれに対するAの死亡日である令和2年1月3日から支払済みまで民 法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、被控訴人の請求を全部認容したので、これに不服の控訴人が控訴をした。 2 前提事実は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおりであるからこれを引用する(以下、原判決の引用部分につい て「原告」を「被控訴人」と、「被告」を「控訴人」と、「当庁」を「札幌地方裁判所」とそれぞれ読み替える。略称は原判決の例による。)。 ⑴ 原判決3頁11行目末尾に改行の上次を加える。 「⑵ 石炭じん肺訴訟についてア九州の筑豊地区の石炭鉱山において各種粉じん作業に従事したこと によりじん肺にり患したとする元労働者らは、昭和60年、炭鉱経営企業に対し、安全配慮義務違反を主張し、また、控訴人(国)に対し、規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であるなどと主張し、損害賠償を求める集団訴訟を提起した(以下、この訴訟を「筑豊じん肺訴訟」という。)。 第一審の福岡地方裁判所飯塚支部は、平成7年、控訴人(国)の責任を否定する判決をしたが、第二審の福岡高等裁判所は、平成13年7月19日、通商産業大臣(当時)が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法であるとして控訴人(国)の責任を認める 判決をした(判例タイムズ1077号72頁以下。以下、同判決を「筑豊じん肺控訴審判決」という。)。控訴人(国)は上告受理の申立てをしたが、最高裁判所は、平成16年4月27日、上告を棄却する判決をした(国関係、最高裁平成13年(受)第1760号同1 、同判決を「筑豊じん肺控訴審判決」という。)。控訴人(国)は上告受理の申立てをしたが、最高裁判所は、平成16年4月27日、上告を棄却する判決をした(国関係、最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁。以下、同判決を 「筑豊じん肺最高裁判決」という。)。 イ北海道においても、北海道の石炭鉱山において各種粉じん作業に従事したことによりじん肺にり患したとする元労働者らが、昭和61年、炭鉱経営企業に対し、安全保護義務違反を主張するとともに、控訴人(国)に対し、規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であるなどと主張し、損害賠償を求める集団訴訟を提起した(以下、同訴 訟を「旧・北海道じん肺訴訟」という。)。同訴訟の訴訟代理人は、判決時点で90名余おり、この中には、筑豊じん肺訴訟において原告ら訴訟代理人を務めた弁護士も含まれていた。 第一審の札幌地方裁判所は、平成11年5月28日、控訴人(国)の責任を否定する判決(以下「旧・北海道じん肺第一審判決」という。) をしたため、旧北海道じん肺訴訟の原告らはこれを不服として控訴した。 控訴審係属中に筑豊じん肺控訴審判決及び同最高裁判決がされたことを契機として、控訴人(国)は、一定の場合に、旧・北海道じん肺訴訟の原告らとの間で、控訴人(国)に責任があることを前提とする 和解に応じる方針に転じ、平成16年12月15日、旧・北海道じん肺訴訟において、控訴人(国)と一部の一審原告らとの間で裁判上の和解が成立した。 (乙8、11ないし13、32)ウ北海道の石炭鉱山において各種粉じん作業に従事したことによりじ ん肺にり患したとする新たな元労働者らは、平成17年、炭鉱経営企業に対し、安全保護義務違反を主張すると 1ないし13、32)ウ北海道の石炭鉱山において各種粉じん作業に従事したことによりじ ん肺にり患したとする新たな元労働者らは、平成17年、炭鉱経営企業に対し、安全保護義務違反を主張するとともに、控訴人(国)に対し、じん肺防止義務違反が国賠法1条1項の適用上違法であるなどと主張し、損害賠償を求める集団訴訟を提起した(以下、同訴訟を「新・北海道じん肺訴訟」といい、旧・北海道じん肺訴訟と併せて「北海道 じん肺訴訟」という。)。新・北海道石炭じん肺訴訟においては、その 後も、4回にわたって、新たな元労働者らが同旨の主張をして提訴し、Aも、平成19年に訴えを提起して新・北海道石炭じん肺訴訟の原告となった。同訴訟の平成17年の訴え提起当初、原告らの訴訟代理人は63名であり、このうち33名は、旧・北海道じん肺訴訟において原告らの訴訟代理人を務めていた。 (乙2、8、14、32)」⑵ 原判決3頁12行目「⑵」を「⑶」と改める。 ⑶ 原判決3頁20行目「⑶」を「⑷」と改める。 ⑷ 原判決4頁6行目末尾に改行の上次を加える。 「 前件和解が成立した前訴の第13回弁論準備手続調書に記載された和解 条項(以下「前件和解条項」という。)は、引用された原告目録及び別表を除き、原判決別紙「和解条項」記載のとおりであり、上記原告目録には他の原告らとともにAが表示され、上記別表中のAに係る記載は、「総額」欄が「8,066,666円」、「遅延損害金起算日」欄が「平成19年5月8日」とされている。 前件和解条項の第2項において、控訴人(国)が支払うこととされた損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用相当損害金)のうち、管理四に該当する者及びじん肺死した者に対する慰謝料額は、以下の基準に従って定められていた。 において、控訴人(国)が支払うこととされた損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用相当損害金)のうち、管理四に該当する者及びじん肺死した者に対する慰謝料額は、以下の基準に従って定められていた。 管理四の場合 733万3333円 管理四によるじん肺死の場合 833万3333円これらは、筑豊じん肺控訴審判決が示した基準慰謝料額に一致していた。 また、前件和解条項の第5項には、「原告らは、その余の請求を放棄する。」と記載され、同6項には、「原告ら及び被告は、原告らと被告との間には、本件に関し、本和解条項に定めるほか、他に何らの債権債務がないことを 相互に確認する。」と記載されている。」 ⑸ 原判決4頁7行目「上記損害賠償金」を「Aに対する上記損害賠償金」と改める。 ⑹ 原判決4頁9行目「⑷」を「⑸」と改める。 ⑺ 原判決4頁10行目末尾に次を加える。 「 被控訴人は、当初、他の原告らと同様、被災者1名について慰謝料10 00万円及び弁護士費用相当損害金150万円の合計1150万円の損害が生じている旨主張し、その一部として5万円及び遅延損害金を請求していたが、令和3年11月17日付訴えの変更申立書により、じん肺死に係る慰謝料833万3333円と前件和解において受領した和解金中慰謝料733万3333円との差額100万円及び弁護士費用相当損害金10万 円の合計110万円及び遅延損害金の請求に変更した。」 3 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ Aがじん肺を原因として死亡したこと及び前件和解が有効に成立していることは、当事者間に争いがない。控訴人は、前件和解はその成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものであった旨主張している。本件の争 点は、前件和解条項第6項 件和解が有効に成立していることは、当事者間に争いがない。控訴人は、前件和解はその成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものであった旨主張している。本件の争 点は、前件和解条項第6項の「本件に関し」に、前件和解後Aがじん肺死した場合の、前件和解に基づき受領済みの和解金と、じん肺死に係る基準慰謝料額に基づく損害賠償金との差額を請求する権利が含まれているか否か(争点1)及び損害額(争点2)である。以下、控訴人(国)と和解した石炭じん肺訴訟の原告ら又はその承継人が、和解後の管理区分変更による進展後の 病態に基づく基準慰謝料額又はじん肺死に基づく基準慰謝料額と控訴人(国)から受領した和解金との差額を請求することを「差額請求」といい、Aが控訴人(国)に対して差額の支払を求めることができる権利を便宜上「差額請求権」という。 ⑵ 前件和解条項第6項の「本件に関し」に、前件和解後のAのじん肺死に係 る差額請求権が含まれているか否か(争点1)に関する当事者の主張は、次 のとおりである。 (控訴人の主張)以下の事情を踏まえて、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」について、当事者が合理的に考えるならば理解したであろう意味に従って解釈すれば、「本件に関し」には、差額請求権を含め、Aのじん肺死に係 る損害賠償請求権も含まれると解すべきである。 ア旧・北海道石炭じん肺訴訟の原告らは、一部請求かつ包括一律請求として3000万円の慰謝料を請求しているところ、同訴訟において原告の訴訟代理人を務めた伊藤誠一弁護士の著書(乙24)によれば、同訴訟の原告らは、被告側及び裁判所に対して、将来別訴を提起してその余の損害を 賠償請求する意思がないことを宣明していたから、これに拘束され、病態がその後に進展してじん 書(乙24)によれば、同訴訟の原告らは、被告側及び裁判所に対して、将来別訴を提起してその余の損害を 賠償請求する意思がないことを宣明していたから、これに拘束され、病態がその後に進展してじん肺管理区分が変更され又はじん肺死したとしても、これに係る損害を賠償請求することはできないこととなる。そして、その後、控訴人(国)がその責任を前提とした和解に応じる方針に転換し、北海道じん肺訴訟において原告らと控訴人(国)との間で裁判上の和解が成 立したが、弁護団から、差額請求を含め、当該和解成立後に発生し得る損害について将来別訴で請求することを留保する旨述べられた形跡はない。 イ筑豊じん肺訴訟の原告らは、被災者らが、多岐にわたり、かつ相互に関連する損害を被っており、これらの損害を包括的に把握する必要があると主張し、一部請求かつ包括一律請求という形式で3000万円の慰謝料を 請求したところ、筑豊じん肺控訴審判決は、同訴訟の原告らが、じん肺に係る病態がその後に進展してじん肺管理区分が変更され又はじん肺死したとしても、将来別訴を提起して、その余の損害を同訴訟の被告らに請求する意思はないことを訴訟上明確に宣明し、これに拘束されてそのような損害賠償請求をすることができないことを前提として基準慰謝料額を算定し た。そして、北海道じん肺訴訟の原告らは、筑豊じん肺控訴審判決が算定 した基準慰謝料額と同一の金額で控訴人(国)と和解した。 ウ控訴人(国)は、筑豊じん肺最高裁判決において控訴人(国)の責任が認められたことを契機に、同判決及び同判決により是認された筑豊じん肺控訴審判決を踏まえた統一的和解方針に基づき、北海道じん肺訴訟の原告らと和解するに至っており、和解の内容や基準についても筑豊じん肺最高 裁判決及び同控訴審判決に従 判決により是認された筑豊じん肺控訴審判決を踏まえた統一的和解方針に基づき、北海道じん肺訴訟の原告らと和解するに至っており、和解の内容や基準についても筑豊じん肺最高 裁判決及び同控訴審判決に従う方針を明らかにしていた。新・北海道じん肺訴訟の原告らは、平成18年5月、弁護団の要望を踏まえて、筑豊じん肺控訴審判決等において到達した司法判断の枠組みで和解した西日本じん肺訴訟の和解条項と同内容の和解条項を用いて和解をすることとなったから、新・北海道石炭じん肺訴訟の原告らは、和解の内容や基準について筑 豊じん肺控訴審判決に従うことを改めて自ら表明したといえる。 エ控訴人(国)を被告とするじん肺訴訟は、控訴人(国)による違法な規制権限不行使という一つの行為から被災者らに生じたじん肺という損害の賠償請求に係る紛争である。そして、じん肺の病変は、進行性及び不可逆性という病理の特質から、進行すると予後が不良で、じん肺にり患するこ とによってじん肺死に至る蓋然性が相当程度あるというのが医学的知見であるから、じん肺を原因とする身体・生命に係る各損害は、訴訟物は異なるものの社会的事実としてみれば連続性を持った損害であり、管理四に相当するじん肺からじん肺死に至ることによって生じる損害は将来生じることが予測可能な損害といえ、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権は、前訴 の訴訟物と社会的・経済的に密接に関連していたといえる。 オ次のような北海道じん肺訴訟の弁護団や全国の被災者らの態度からしても、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解すべきである。 (ア) 筑豊じん肺最高裁判決以降、石炭じん肺訴訟に 、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解すべきである。 (ア) 筑豊じん肺最高裁判決以降、石炭じん肺訴訟において控訴人(国)と 和解した原告患者数は約2300人に上るが、本件訴訟において被控訴人が差額請求をするに至るまで、和解が成立した被災者らが差額請求に係る訴えを提起した事案は存在しない。 (イ) 被控訴人が本件訴訟を提起した後、控訴人(国)が被控訴人の弁護団に対して前件和解の存在による重複提訴である旨指摘した際、同弁護団 は、後訴の提起が可能であるなどと直ちに反論しなかった。 (ウ) 石炭じん肺訴訟の原告が、じん肺管理区分管理四に相当する病状に係る損害について控訴人(国)と裁判上の和解をし、同原告の死亡後その相続人が誤ってじん肺死に係る損害について控訴人(国)と裁判上の和解をした事案があり、同事案では、2回目の和解に基づき支払われた和 解金が、1回目の和解金との差額分も含めて全額返還された。 (被控訴人の主張)否認ないし争う。 アじん肺法所定の管理区分管理二ないし四の各損害及びじん肺死による損害は質的に異なる別個のものであり(最高裁平成元年(オ)第1667号 同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁(以下、同判決を「長崎じん肺最高裁判決」という。)、最高裁平成13年(受)第1759号同16年4月27日第三小法廷判決・集民214号119頁(以下、同判決を「筑豊じん肺企業関係最高裁判決」という。)参照)、管理四に係る損害賠償請求権とじん肺死に係る損害賠償請求権は別個の請求権であっ て、管理四に係る損害賠償請求権について訴訟上の和解をしても、特段の事情がない限り、その後じん肺死した場合にじん肺死 四に係る損害賠償請求権とじん肺死に係る損害賠償請求権は別個の請求権であっ て、管理四に係る損害賠償請求権について訴訟上の和解をしても、特段の事情がない限り、その後じん肺死した場合にじん肺死に係る損害賠償請求が可能である。 イ Aも、北海道石炭じん肺訴訟の弁護団も、筑豊じん肺訴訟の原告らとは異なり、和解後に発生する可能性のあるじん肺死に係る損害賠償請求権を 放棄する旨を宣明したことはなく、Aと控訴人(国)との間で、和解後に 発生し得る損害に係る損害賠償請求権について協議をしたこともなかった。 ウ Aは、控訴人(国)との前件和解に先立って、炭鉱経営企業3社と訴外で和解をしているところ、その和解においては、「本件和解を以てすべての賠償を完了したことを認め、今後、じん肺死、管理区分の進行ないしは合併症発症などがあっても、さらなる請求は行わない。」と将来発生し得る請 求権についても放棄する旨を明示している。控訴人(国)は、Aが炭鉱経営企業3社とこのような条項の和解をしていることを認識しながら、前件和解においては、Aが将来発生し得る請求権についても放棄する旨明示する条項を入れていない。 炭鉱経営企業との間では、将来発生し得る請求権について放棄すること によって炭鉱経営企業が早期に和解に応じるという利点があるが、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)との関係では、個別の争点がある場合は、原告がこれを立証するか、あるいは裁判所の所見により原告の主張が認められない限り、控訴人(国)は和解に応じず、解決に至るプロセスや解決までの期間は判決による解決とさして変わりがないから、Aを含む原告に おいて、将来発生し得る請求権をあえて放棄する旨の和解をする動機がない。 エ控訴人(国)は、石炭じん肺訴訟と類似の泉南アスベスト 間は判決による解決とさして変わりがないから、Aを含む原告に おいて、将来発生し得る請求権をあえて放棄する旨の和解をする動機がない。 エ控訴人(国)は、石炭じん肺訴訟と類似の泉南アスベスト訴訟や建設アスベスト訴訟では差額請求を認めている。 ⑶ 損害(争点2)に係る当事者の主張は、原判決7頁16行目冒頭から8頁 1行目末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人の請求を全部認容するのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。 2 前件和解条項第6項の「本件に関し」に、前件和解後のAのじん肺死に係る 差額請求権が含まれているか否か(争点1) ⑴ 前件和解条項には、「原告ら及び被告は、原告らと被告との間には、本件に関し、本和解条項に定めるほか、他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」という文言はあるものの、この文言からは、債権債務関係の不存在を確定する効力の範囲が必ずしも明らかであるとはいえないから、上記清算条項がいかなる債権債務関係の不存在を確定する効力を有するかどうかは、 訴訟の経緯、紛争の実態、当該和解をするに至った経緯等を踏まえ、当事者の合理的意思解釈によりこれを判断するほかない。 そして、前件訴訟は、集団訴訟である新・北海道じん肺訴訟として提起されたものであり、新・北海道じん肺訴訟は、旧・北海道じん肺訴訟等先行する石炭じん肺訴訟の結果を踏まえて提起されたものであり(乙14)、旧・北 海道じん肺訴訟と筑豊じん肺訴訟、旧・北海道じん肺訴訟と新・北海道じん肺訴訟との間では、訴訟代理人が重複していることなどを踏まえると、先行する石炭じん肺訴訟の経緯をも踏まえて、前件和解条項を解釈するべきであるし、また、石炭じん肺訴 ・北海道じん肺訴訟と新・北海道じん肺訴訟との間では、訴訟代理人が重複していることなどを踏まえると、先行する石炭じん肺訴訟の経緯をも踏まえて、前件和解条項を解釈するべきであるし、また、石炭じん肺訴訟は、多数の原告らによって提起され、多数の訴訟代理人が弁護団として統一的な方針をもって進めていたことを踏まえると、 Aのみならず他の原告ら及び弁護団の行動や認識を踏まえて、前件和解条項を解釈することを要するというべきである。 以下では、控訴人が指摘する訴訟の経緯、紛争の実態、当該和解をするに至った経緯等に係る事情に基づいて、前件和解の清算条項の「本件に関し」に、差額請求権を含め、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権も含まれると解 されるかどうかを検討する。 ⑵ 控訴人は、旧・北海道石炭じん肺訴訟において原告訴訟代理人を務めた伊藤誠一弁護士の著書(乙24)によれば、同訴訟の原告らは、被告側及び裁判所に対して、将来別訴を提起してその余の損害を賠償請求する意思がないことを宣明していたから、これに拘束され、病態がその後に進展してじん肺 管理区分が変更され又はじん肺死したとしても、これに係る損害を賠償請求 することはできないこととなる旨指摘して、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」には、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権も含まれると解すべきであると主張する。 しかしながら、旧・北海道石炭じん肺訴訟の原告らが、差額請求をも含めて、将来別訴を提起してその余の損害を賠償請求する意思がないことを宣明 したことを認めるに足りる的確な証拠はない。 旧・北海道じん肺訴訟の原告らは、じん肺にり患した者は現在の症状いかんにかかわらずいずれ重篤な症状に陥り、悲惨な死を迎えることが確実に予定されているから、これらを損害に含めて考慮 確な証拠はない。 旧・北海道じん肺訴訟の原告らは、じん肺にり患した者は現在の症状いかんにかかわらずいずれ重篤な症状に陥り、悲惨な死を迎えることが確実に予定されているから、これらを損害に含めて考慮すべきであり、被災者らに生じた損害は、各人の現在の病状の程度によらず同一であるとして、被災者一 名につき一律3000万円の慰謝料を請求しており(乙12〔57頁以下〕、乙25)、生存中の被災者らについても将来のじん肺死を考慮した慰謝料が認容されるべきとの主張をしていたことが認められる。このような原告らの主張は、財産的損害に係る損害賠償請求を、将来発生し得る分も含めて放棄し、また、生存中の被災者らについてもいずれじん肺死することを考慮して、 既にじん肺死した被災者らと同額の慰謝料が認容された場合には、事実審の口頭弁論終結後に病態が進展しじん肺管理区分が変更され、又はじん肺死したとしても、新たな管理区分及びじん肺死による精神的損害に係る損害賠償請求を放棄することを前提としていると解する余地があるものの、原告らの主張が採用されず、事実審の口頭弁論終結時に存する病状に応じて異なる損 害額が認定された場合にまで、将来発生する可能性があるじん肺管理区分変更又はじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権を一律に放棄したとは解されない。 したがって、控訴人の上記主張は、この限りにおいて採用することができない。 ⑶ 控訴人は、筑豊じん肺控訴審判決が、同訴訟の原告らが、じん肺にかかる 病態がその後に進展してじん肺管理区分が変更され又はじん肺死したとしても、将来別訴を提起して、その余の損害を同訴訟の被告らに請求する意思はないことを訴訟上明確に宣明し、これに拘束されてそのような損害賠償請求をすることができないことを前提として基準慰 ん肺死したとしても、将来別訴を提起して、その余の損害を同訴訟の被告らに請求する意思はないことを訴訟上明確に宣明し、これに拘束されてそのような損害賠償請求をすることができないことを前提として基準慰謝料額を算定し、北海道じん肺訴訟の原告らは、筑豊じん肺控訴審判決が算定した基準慰謝料額と同一の 金額で控訴人(国)と和解したことを指摘して、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」には、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権も含まれると解すべきであると主張する。 しかしながら、筑豊じん肺訴訟の弁護団と旧・北海道じん肺訴訟の弁護団が互いに連携しており(前提事実⑵イ、乙27ないし32)、旧・北海道じん 肺訴訟の訴状が筑豊じん肺訴訟の訴状をも参考にして作成されたこと(乙24〔327頁〕)、控訴人が指摘する「一審原告らの請求は、個別の財産的損害の請求を含まず、基本的には従来の慰謝料を主とした請求であるが、一審原告らにおいて、将来別訴を提起してその余の損害(本訴で請求している慰謝料以外の財産上の損害のみならず、管理区分の変更による損害及びじん肺 に起因する死亡による損害も含む。)を一審被告らに対し請求する意思はないことを訴訟上明確に宣命し、一審原告らはこれに拘束されるから、一審原告らは、一審被告らの行為に起因するところの、財産上のそれを含めた全損害につき、本訴において請求し、かつ、認容される以外の賠償を受けることはできないことになる」との筑豊じん肺控訴審判決(判例タイムズ1077 号143頁)の説示は、いわゆる判決釈明であると解されることなどを考慮すると、筑豊じん肺訴訟の原告らの主張も、旧・北海道じん肺訴訟の原告らの主張と同様、原告らについて事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合にま れることなどを考慮すると、筑豊じん肺訴訟の原告らの主張も、旧・北海道じん肺訴訟の原告らの主張と同様、原告らについて事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合にまで、将来発生する可能性があるじん肺管理区分変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料を一律に放 棄するものではなかった可能性を否定することはできない。また、筑豊じん 肺控訴審判決は、消滅時効に係る争点についての判断においては、「じん肺の場合(中略)ある段階での損害賠償請求によって、その時点の損害を超える損害を請求することはできないのであって、新たな損害の発生に対し、再度の提訴が必要となったとしてもやむをえない」(判例タイムズ1077号150頁)旨、事実審の口頭弁論終結後の管理区分の変更による新たな損害に ついて再訴の余地があることを前提とした説示をしていることなどを考慮すると、筑豊じん肺控訴審判決も、筑豊じん肺訴訟の原告らが、事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合の、将来生じる可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権をも一律に放棄しているとまで解していたかは疑問の余地が ある。また、仮に、筑豊じん肺訴訟の原告らが、事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合の、将来生じる可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権をも一律に放棄しており、筑豊じん肺控訴審判決がこれを前提としていたとしても、旧・北海道じん肺訴訟の原告らがこのような慰謝料請求権を一律 に放棄したとは解されないことは前記⑵で説示したとおりである。このように、旧・北海道じん肺訴訟の原告らが、将来発生する可能性がある管理区分 道じん肺訴訟の原告らがこのような慰謝料請求権を一律 に放棄したとは解されないことは前記⑵で説示したとおりである。このように、旧・北海道じん肺訴訟の原告らが、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権を一律に放棄していない中で、控訴人(国)が、同訴訟の原告らと、同原告らが、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料 請求権を放棄することを内容とする和解をするのであれば、その旨明示的に協議してしかるべきところ、そのような協議がされた事実は認められない。 旧・北海道じん肺第一審判決は、原告らの主張を、財産的損害に係る請求を実質的に放棄し、生命、身体、人格等に対する法益侵害により生じた精神的損害の請求のみをしているものと解した上で(乙12〔704頁以下〕)、基 準慰謝料額を算定しており、その数額は、原告らが、少なくとも、将来発生 する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権は放棄していないにもかかわらず、筑豊じん肺控訴審判決が算定した基準慰謝料額とさほど変わらず、管理区分ごと及びじん肺死したか否かによって基準慰謝料額に相応の差が設けられているから、北海道じん肺訴訟の原告らが、筑豊じん肺控訴審判決が算定した基準慰謝料額と同一の金額で和 解をしたとしても、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権を一律に放棄したとは解されない。 したがって、控訴人の上記主張は、この限りにおいて採用することができない。 ⑷ 控訴人は、筑豊じん肺最高裁判決において控訴人(国)の責任が認められ たことを契機に、同判決及び同判決により是認された筑豊じん肺控訴審判決を踏まえた統一的和 て採用することができない。 ⑷ 控訴人は、筑豊じん肺最高裁判決において控訴人(国)の責任が認められ たことを契機に、同判決及び同判決により是認された筑豊じん肺控訴審判決を踏まえた統一的和解方針に基づき、北海道じん肺訴訟の原告らと和解するに至っており、和解の内容や基準についても筑豊じん肺最高裁判決及び同控訴審判決に従う方針を明らかにしていた旨指摘して、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」には、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権 も含まれると解すべきである旨主張する。 確かに、控訴人(国)は、筑豊じん肺最高裁判決の直後である平成16年6月4日、旧・北海道じん肺訴訟の控訴審が係属していた札幌高等裁判所に対し、同最高裁判決が旧・北海道じん肺訴訟の解決基準を示すものと理解しているとして和解勧告を求める上申書を提出し(乙7)、新・北海道じん肺訴 訟の期日において「筑豊じん肺訴訟の最高裁判決の範囲においては和解に応じる用意がある。」「被告としては、筑豊じん肺最高裁判決において示された範囲を超えて国の責任を認めることはできない。」「被告は、筑豊じん肺訴訟最高裁判決を基準とする和解には応じる方針である。」と述べていたこと(乙15、16)は認められる。しかしながら、控訴人(国)は、筑豊じん肺最 高裁判決を契機に、石炭じん肺訴訟の原告らと一定の場合に和解に応じる方 針に転じたものの、筑豊じん肺最高裁判決自体は包括一律請求については判断していない。また、北海道じん肺訴訟における和解が成立するに至るまでに、控訴人(国)及び同訴訟の原告らが、筑豊じん肺訴訟の原告らが、事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合も含め、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による 精 び同訴訟の原告らが、筑豊じん肺訴訟の原告らが、事実審の口頭弁論終結時において存する症状に応じて異なる損害額が認定された場合も含め、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による 精神的損害に係る慰謝料請求権を放棄し、筑豊じん肺控訴審判決がこれを前提としていたことに明示的に触れた形跡はない。そうすると、控訴人が指摘する点を踏まえても、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」には、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権も含まれると解すべきであるとはいえない。 控訴人は、新・北海道じん肺訴訟の原告らは、平成18年5月、弁護団の要望を踏まえて、筑豊じん肺控訴審判決等において到達した司法判断の枠組みで和解した西日本じん肺訴訟の和解条項と同内容の和解条項を用いて和解をすることとなったことも指摘する。 しかしながら、旧・北海道じん肺訴訟において平成16年12月15日に 成立した和解調書には清算条項はなく(乙13)、同和解において、一審原告らが、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権を一律に放棄したとは解されない。旧・北海道じん肺訴訟と新・北海道じん肺訴訟とは、その弁護団の構成員が重複していること(前提事実⑵ウ)などにかんがみれば、連続性を持つものとみるべきであ るところ、新・北海道じん肺訴訟において、将来発生する可能性がある管理区分の変更及びじん肺死による精神的損害に係る慰謝料請求権を一律に放棄するという、旧・北海道じん肺訴訟における和解より原告らに不利な内容で和解をするのであれば、その旨明示的に協議してしかるべきであるのに、そのような協議がされた形跡はない。しかも、控訴人の主張によれば、弁護団 の要望により西日本じん肺訴訟の和解条項と同内容の和解条項を するのであれば、その旨明示的に協議してしかるべきであるのに、そのような協議がされた形跡はない。しかも、控訴人の主張によれば、弁護団 の要望により西日本じん肺訴訟の和解条項と同内容の和解条項を用いること となり、清算条項が設けられるに至ったというのであるが、弁護団が、あえて原告らに不利な和解条項を希望するとは考え難い。 したがって、控訴人の上記主張は、この限りにおいて採用することができない。 ⑸ 控訴人は、控訴人(国)を被告とするじん肺訴訟は、控訴人(国)による 違法な規制権限不行使という一つの行為から被災者らに生じたじん肺という損害の賠償請求に係る紛争であり、また、じん肺の病変は、進行性及び不可逆性という病理の特質から、進行すると予後が不良で、じん肺にり患することによってじん肺死に至る蓋然性が相当程度あるというのが医学的知見であるから、じん肺を原因とする身体・生命に係る各損害は、訴訟物は異なるも のの社会的事実としてみれば連続性を持った損害であり、管理四に相当するじん肺からじん肺死に至ることも将来生じることが予測可能な損害といえ、Aのじん肺死に係る損害賠償請求権は、前訴の訴訟物と社会的・経済的に密接に関連していたといえると指摘して、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」には、差額請求権を含め、Aのじん肺死に係る損害賠償 請求権も含まれると解すべきである旨主張する。 確かに、じん肺を原因とする身体・生命に係る各損害は、訴訟物は異なるものの社会的事実としてみれば連続性を持った損害である。しかしながら、じん肺は進行性の疾患であり、じん肺法所定の管理区分について行政上の決定を受けている場合であっても、その後、病態が進展して管理区分が変更さ れるか、又はじん肺死するか否か、その蓋然性は医学的 じん肺は進行性の疾患であり、じん肺法所定の管理区分について行政上の決定を受けている場合であっても、その後、病態が進展して管理区分が変更さ れるか、又はじん肺死するか否か、その蓋然性は医学的にみて不明であり、じん肺り患による損害は、各管理区分に相当する病状に基づく各損害又はじん肺死に基づく各損害ごとに質的に異なるものと解されるから、管理二ないし四に相当する病状に基づく各損害の賠償請求権とじん肺死による損害の賠償請求権とは別個のものであると解される(最高裁平成元年(オ)第166 7号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁(長崎じん 肺最高裁判決)、最高裁平成13年(受)第1759号同16年4月27日第三小法廷判決・集民214号119頁(筑豊じん肺企業関係最高裁判決)参照)。そして、石炭じん肺訴訟の和解における基準慰謝料額は、長崎じん肺最高裁判決より後に算定されたものであり、上記の理解を前提として、和解後の病態の進展やじん肺死自体を考慮に入れずに算定されたものと解され、こ のことは、各管理区分ごと及びじん肺死したかどうかによって基準慰謝料額に相応の差が設けられていることによって裏付けられている。このような基準慰謝料額に基づいて裁判上の和解をしたAが、和解後に病態が進展して管理区分が変更され、又はじん肺死した場合の、変更後の管理区分及びじん肺死に係る損害賠償請求権をも放棄するとは考え難い。そうすると、ある時点 でじん肺にり患している者が将来じん肺死に至る蓋然性がじん肺にり患していない者に比して高いことを考慮しても、控訴人が指摘する点から、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」に、差額請求権が含まれると解することは、当事者の合理的意思解釈として相当でないというべきである。 考慮しても、控訴人が指摘する点から、前件和解条項第6項の包括的清算条項の「本件に関し」に、差額請求権が含まれると解することは、当事者の合理的意思解釈として相当でないというべきである。 したがって、控訴人の上記主張は、この限りにおいて採用することができない。 ⑹ア控訴人は、筑豊じん肺最高裁判決以降、石炭じん肺訴訟において控訴人(国)と和解した原告患者数は約2300人に上るが、本件訴訟において被控訴人が差額請求をするに至るまで、和解が成立した被災者らが差額請 求に係る訴えを提起した事案は存在しないことを指摘して、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解すべきである旨主張する。 しかしながら、石炭じん肺訴訟の提訴者は平成27年までに2453名 と多数であり、その後も令和2年まで毎年数十人の新規提訴者がいたので あって(乙9)、被災者らが高齢化する中、弁護団は、控訴人(国)に対して提訴したことがなく、何ら救済を受けていない被災者らを早期に救済することに力を割いていたと認められるから、本件訴訟において被控訴人が差額請求をするに至るまで、和解が成立した被災者らが差額請求に係る訴えを提起した事案は存在しなかったとしても、このことから直ちに、石炭 じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解することはできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は、被控訴人が本件訴訟を提起した後、控訴人(国)が被控訴人 の弁護団 きないことを前提としていたと解することはできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は、被控訴人が本件訴訟を提起した後、控訴人(国)が被控訴人 の弁護団に対して前件和解の存在による重複提訴である旨指摘した際、同弁護団は、後訴の提起が可能であるなどと直ちに反論しなかったことを指摘して、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解すべきである旨主 張する。 確かに、控訴人(国)指定代理人が作成した報告書(乙6)には、控訴人(国)指定代理人が、本件訴え提起後の令和3年1月中旬、被控訴人訴訟代理人に対し、Aと控訴人との間には前件和解が成立しており、控訴人(国)は既に和解金を支払済みであることから、被控訴人の請求は認めら れない旨を申し入れたところ、同年2月17日、被控訴人訴訟代理人は、被控訴人の取扱いを弁護団で協議中であること、石炭じん肺訴訟においては、これまで差額和解は考えていなかったこと、今回は弁護団側のミスで二重提訴してしまったことを述べた旨の記載がある。しかしながら、上記記載のとおりの控訴人(国)指定代理人と被控訴人訴訟代理人とのやり取 りがあったとしても、弁護団においてなお被控訴人の取扱いについて協議 中であったことを踏まえると、被控訴人訴訟代理人の上記発言は、弁護団として、石炭じん肺訴訟において控訴人(国)と和解した後、当該原告がじん肺死した後、差額請求を含め損害賠償請求が法律上一切できなくなることを認める趣旨とは解されない。筑豊じん肺控訴審判決も、旧・北海道じん肺第一審判決も、原告らによる包括一律請求がどの範囲の権利の放棄 た後、差額請求を含め損害賠償請求が法律上一切できなくなることを認める趣旨とは解されない。筑豊じん肺控訴審判決も、旧・北海道じん肺第一審判決も、原告らによる包括一律請求がどの範囲の権利の放棄 を前提としたものかを判決釈明によって明らかにしているとおり(前記⑶、乙12〔704頁以下〕)、石炭じん肺訴訟の原告らにとって、最初に提起した訴訟において包括一律請求をすることによって、後訴がどの範囲で制限されるのか一義的に明らかではなく、差額請求が制限されるとの見解も制限されないとの見解も成り立ち得ないものではなかったから、被控訴人 訴訟代理人が、控訴人(国)指定代理人に対して後訴の提起が可能であるなどと直ちに反論しなかったとしても、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解が和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解することはできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ控訴人は、現に重複して和解が成立した事案において、2回目の和解に基づき支払われた和解金が、1回目の和解金との差額分も含めて全額返還されたことを指摘して、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害に ついては将来別訴で請求することができないことを前提としていたと解すべきである旨主張する。 証拠(乙3ないし5)によれば、新・北海道じん肺訴訟において、Aとは別の原告と控訴人(国)との間で、平成18年7月21日、控訴人(国)が同原告に対して管理四の症状に相当する損害賠償金806万6666円 及びこれに対する遅延損害金を支払う旨の和解が成立し、控訴人(国)が 全額を支払 、平成18年7月21日、控訴人(国)が同原告に対して管理四の症状に相当する損害賠償金806万6666円 及びこれに対する遅延損害金を支払う旨の和解が成立し、控訴人(国)が 全額を支払ったところ、同原告がじん肺死し、その後、同原告の相続人と控訴人(国)の間で、平成25年1月18日、新・北海道じん肺訴訟の弁護団構成員が訴訟代理人となって、じん肺死に相当する損害賠償金916万6666円及びこれに対する遅延損害金を控訴人(国)が支払う旨の和解が成立し、控訴人(国)が全額を支払った後、同相続人から控訴人(国) に対して916万6666円及びこれに対する遅延損害金の全額が返還された例があることが認められる。 しかしながら、上記事案は、後訴が和解成立によって一応訴訟手続が終了した後、重複して和解が成立していたことが判明していたため、差額請求をするための手続が通常用いられることがないものであったことなど、 差額請求の法律的な可否とは別に、差額請求をし難い事情があったことを考慮すると、上記事案をもって、石炭じん肺訴訟における控訴人(国)を当事者とする和解は、和解成立後のじん肺の病状の進展に伴って発生し得る損害については将来別訴で請求することが一切できないことを前提としていたと解することはできない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑺ かえって、Aと就労していた企業との間の和解契約において作成された合意書には、和解後のじん肺死、管理区分の進行ないしは合併症発症があったとしても、Aは企業に対して何ら請求をしないことを明示した条項が設けられていた(乙1)にもかかわらず、控訴人(国)との前件和解にはこのよう な条項が設けられていないこと、前件和解において、控訴人(国)が支払うこととされた損害 をしないことを明示した条項が設けられていた(乙1)にもかかわらず、控訴人(国)との前件和解にはこのよう な条項が設けられていないこと、前件和解において、控訴人(国)が支払うこととされた損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用相当損害金)のうち、管理四に該当する者及びじん肺死した者に対する慰謝料額は、管理四の場合が733万3333円、管理四によるじん肺死の場合が833万3333円とされ、前件和解成立前にじん肺死したり、前件和解成立後にじん肺死した被災 者(その相続人)に対しては833万3333円の和解金が支払われること が確実であり、あえて将来発生する差額請求権の行使を妨げる和解をする動機も見当たらないことからすれば、前件和解は、Aが差額請求権を行使しない趣旨を含んでいなかったと解するのが当事者の合理的意思解釈として相当である。 ⑻ 以上によれば、前件和解条項第6項の「本件に関し」には、少なくとも差 額請求権は含まれていないから、前件和解はその成立後に発生した差額請求権の行使を妨げる趣旨のものでないと解するのが相当である。 3 損害額(争点2)についてA及び被控訴人の損害額は、以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第3の2に記載のとおりであるからこれを引用する。 ⑴ 原判決13頁20行目から21行目にかけての「前記1⑺ウのとおり」を「乙第1号証によれば、」と改める。 ⑵ 原判決13頁26行目から14頁1行目にかけての「Aの相続人である原告に対して」を「Aが取得し、被控訴人が相続した」と改める。 ⑶ 原判決14頁5行目末尾に改行の上次を加える。 「 なお、北海道じん肺訴訟において、被災者らと控訴人(国)との間に成立した、控訴人(国)に責任があることを前提とする和解は、当事者 る。 ⑶ 原判決14頁5行目末尾に改行の上次を加える。 「 なお、北海道じん肺訴訟において、被災者らと控訴人(国)との間に成立した、控訴人(国)に責任があることを前提とする和解は、当事者が、基準慰謝料額について管理四の場合は733万3333円、管理四によるじん肺死の場合は833万3333円とすることなど、じん肺に係る紛争解決の枠組み自体を受け入れたものであり、和解した当事者は、差額請求 に係る後訴において基準慰謝料額などじん肺に係る紛争解決の枠組みについてこれと異なる主張をすることが封じられると解する余地があり、被控訴人の本件訴訟における訴訟活動の経緯(補正の上引用した原判決第2の1の前提事実⑸)は、このような解釈に整合するものであるが、控訴人も被控訴人もそのような主張はしていないため、本判決においてこの点に関 する判断はしない。」 4 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 札幌高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官 小河原寧 裁判官 片山信 裁判官 髙木寿美子

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