令和4年4月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和2年(ワ)第32414号発信者情報開示請求事件口頭弁論終結日令和4年3月1日判決 原 告 X原告訴訟代理人弁護士神田知宏 被告医療法人社団SEC 被告訴訟代理人弁護士浅野英之同鰺坂和浩 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、被告の評判、評価に関する投稿に対してされた投稿が、原告の営業上の信用を害する虚偽の投稿であり、不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たり、また、原告の名誉権の侵害に当たるところ、原告は、同投稿者に対して損害賠償の請求を予定しており、被告が同投稿者の情報を保有していると主張して、被告に対して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び 発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づく発信者情 報の開示を請求する事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) ア原告は、Aクリニックという名称の診療所を営む医療社団法人の理事長である。(甲5) イ被告は、医療法人社団であり、Bクリニックという名称の診療所(以下「本件クリニック」という。)を営んでいる。(甲1、弁論の全趣旨)GoogleLLC(以下「グーグル社」という 5) イ被告は、医療法人社団であり、Bクリニックという名称の診療所(以下「本件クリニック」という。)を営んでいる。(甲1、弁論の全趣旨)GoogleLLC(以下「グーグル社」という。)は、Googleマップという名称の地図サービスにおいて、その提供する地図上に表示される営業主体について、その評判、評価等を投稿できる、「Googleの口コミ」とい う名称のサービスを提供している(以下、このサービスを「本件サービス」という。)。グーグル社は、上記の営業主体に対して、「Googleマイビジネス」のアカウントを発行することがある。営業主体は、同アカウントを用いると、本件サービスにおいて、営業主体を意味する「オーナー」として、一般の投稿者の投稿に対して返信という形式で投稿することができるようになる。被 告は、本件クリニックについての「Googleマイビジネス」のアカウント(以下「本件アカウント」という。)を取得していたところ、氏名不詳者は、令和2年10月から11月頃、本件サービスにおいて、本件アカウントを用いて、「オーナー」として、本件クリニックについての別紙投稿記事目録の「Googleのクチコミ」欄記載の書き込み(以下「本件投稿」という。)に返信する 形式で、同目録の「オーナーからの返信」欄記載の投稿(以下「本件返信」という。)をした(以下、本件返信をした者を「本件返信者」という。)。(甲1、弁論の全趣旨) 3 争点に対する当事者の主張 被告が特定電気通信役務提供者に当たるか(争点1) (原告の主張) ア本件返信は本件アカウントの「オーナー」からの返信であるから、本件返信には、被告が電気通信会社と契約する電気通信回線、通信端末、被告に貸与されたIPアドレス、当該IPアドレスの割 ) ア本件返信は本件アカウントの「オーナー」からの返信であるから、本件返信には、被告が電気通信会社と契約する電気通信回線、通信端末、被告に貸与されたIPアドレス、当該IPアドレスの割り当てられたルータが使用された。したがって、被告は特定電気通信役務提供者に当たる。 イグーグル社が本件サービスを提供するに当たって使用しているサーバー のサーバー領域は、本件における「特定電気通信設備」(法2条2号)に当たり、被告は、これについてグーグル社との利用契約に基づいて管理権(アカウント)を取得して管理しているのであるから、被告は「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)に当たる。法の規定上も、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し」と記載されていて、それを所有するのがだれであ るかは問題となっていない。本件は、ブログに何者かが投稿した場合に、ブログの運営者が特定電気通信役務提供者であり、開示関係役務提供者に当たることと同様である。 「Googleマイビジネス」のアカウントを有する者は、誰でも、「返信」欄に投稿することができ、その「返信」欄がアカウント保持者にとっての自 由に投稿できる掲示板で、そこに被告の従業員らが書き込みをしたといえる。 「返信」欄に投稿されたものは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信であるから、特定電気通信(法2条1号)に当たり、「返信」欄の蔵置されたグーグル社のサーバーは特定電気通信の用に供される電気通信設備である。 (法2条2号)。本件返信は本件アカウントを用いて「返信」 欄に投稿されたところ、被告は、本件サービスの「返信」欄を管理・運用して他人の通信を媒介しているから、特定電気通信役務提供者である。 (被告の主張)ア本件返信が、被告が管理する通信端末 欄に投稿されたところ、被告は、本件サービスの「返信」欄を管理・運用して他人の通信を媒介しているから、特定電気通信役務提供者である。 (被告の主張)ア本件返信が、被告が管理する通信端末等によって行われたことは否認する。 原告はこの点について何ら立証していない。 イ本件返信が本件アカウントを利用して行われた点について、本件サービス において特定電気通信設備を他人の通信の用に供しているのは、グーグル社であり、特定電気通信役務提供者に当たるのはグーグル社である。被告は単に本件アカウントを有することによって自らを対象とする評判、評価等に対して店舗等のオーナーとして返信する権限を付与されているにすぎない。本件アカウントによって有する権限は、電子掲示板において一般の投稿者に与 えられている権限と大差はなく、これらの者が特定電気通信役務提供者に当たらないのと同様に、被告も特定電気通信役務提供者に当たらない。投稿された内容について、その正確性やポリシー違反の有無を判断し、違反があったときにその投稿を削除したりアカウントを無効にしたりする権限は、グーグル社が有している。被告には、それらの権限がなく、被告は特定電気通信 役務提供者に当たらない。原告の主張は、特定電気通信役務提供者の概念を不当に拡張するものである。 権利侵害の明白性(争点2)(原告の主張)ア本件返信は、誹謗中傷を内容とする本件投稿を原告がしたという事実を流 布しているところ、原告は本件投稿をしていないため、本件返信は虚偽の事実の流布に当たる。本件返信者は被告の従業員であることが推認できるところ、原告と被告とは医業において競争関係にある。そして、従業員のように、行為の外形上、営業者のためにすると認められる場合には競争関係が認められ る。本件返信者は被告の従業員であることが推認できるところ、原告と被告とは医業において競争関係にある。そして、従業員のように、行為の外形上、営業者のためにすると認められる場合には競争関係が認められる。よって、本件返信は、不正競争防止法2条1項21号所定の不正競争 行為に当たり、原告の権利を侵害することが明らかであるといえる。 イまた、本件返信は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が本件クリニックを受診したこともないのに患者だと装って被告を誹謗中傷する内容の投稿をしたと受け取れる内容である。本件返信は、原告が不正競争行為を行ったとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価が低下す る。しかし、原告は本件返信をしておらず、摘示事実は虚偽であって、違法 性阻却事由はない。よって、本件投稿は原告の名誉権を侵害することが明らかである。 (被告の主張)ア不正競争行為該当性について、本件返信中の「医療法人社団慶友 AクリニックX先生」が原告を指すことは認めるが、その余は否認ないし争う。 イ名誉権侵害については争う。 被告が発信者情報を保有しているか(争点3)(原告の主張)被告がどの従業員が投稿していたのかを知っていれば被告は発信者情報を保有していることになる。被告が「書き込みを行ったか明らかではない個人の情 報や要保護情報であって部外者に安易に提供すべきものではない」と本件訴訟の準備書面に記載していることから、被告はすでに投稿者を特定している。 (被告の主張)被告は、本件返信を行った者を特定していない。被告は、インターネット接続に際して、IPアドレス等を保存する機器を保有していない。原告が指摘す る準備書面の記載は、投稿者が特定できない以上、それ以外の従業員等の個人情 者を特定していない。被告は、インターネット接続に際して、IPアドレス等を保存する機器を保有していない。原告が指摘す る準備書面の記載は、投稿者が特定できない以上、それ以外の従業員等の個人情報を開示することはできない旨主張したにすぎない。 第3 当裁判所の判断争点1(被告が特定電気通信役務提供者に当たるか)について 1 原告は、前記第2の3原告の主張アのとおり主張し、本件返信につき被告が 電気通信会社と契約する電気通信回線、通信端末、被告に貸与されたIPアドレス、当該IPアドレスの割り当てられたルータが使用されたため、被告が本件返信に係る特定電気通信役務提供者に当たると主張する。しかし、本件返信につき上記設備等が使用されたことを認めるに足りる証拠はないため、原告の主張はその前提を欠く。 2 原告は、前記第2の3原告の主張イのとおり主張し、本件返信が本件アカウ ントを利用してされたことをもって、被告が本件返信につき「他人の通信の媒介」を行っているとして、被告が特定電気通信役務提供者に当たるといえると主張する。 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう(法2条3号)とこ ろ、「他人の通信の媒介」とは、他人の依頼を受けて、具体的な情報について、その内容を変更することなく、伝送、交換し、隔地者間の通信を取り次ぎ、または仲介してそれを完成させるものと解される。 「Googleマイビジネス」のアカウントは、グーグル社からそれを与えられた者(以下「アカウント保持者」ともいう。)が本件サービスにおいて「オーナ ー」名義で一般投稿者への返信という形で投稿できるというものであり、グーグル社が、本件サービスのうちの一部のサ えられた者(以下「アカウント保持者」ともいう。)が本件サービスにおいて「オーナ ー」名義で一般投稿者への返信という形で投稿できるというものであり、グーグル社が、本件サービスのうちの一部のサービスについて、それを利用できる者を限定するための仕組みといえる。アカウント保持者は、グーグル社からアカウントに対応するサービスを受けることができるところ、そのアカウント保持者が、アカウント保持者として行うことができる権限を第三者に提供して当該第三者 がそのアカウントを利用して投稿(返信)をした場合、当該第三者は、グーグル社から直接本件サービスの提供を受けて、具体的な投稿(返信)をアップロードするなどして具体的な特定電気通信が行われる。その具体的な特定電気通信に係る情報は、当該第三者がグーグル社の管理するサーバーに直接提供して、送信されるものであり、アカウント保持者が当該情報をグーグル社の管理するサーバーに 提供、送信するというものではなく、アカウント保持者は当該具体的な特定電気通信における情報の流通に関与することはない。これらに照らせば、アカウント保持者は、当該アカウントを利用して当該第三者が通信をした場合、「他人の通信を媒介」したとはいえない。 原告は、本件サービスの「返信」欄がアカウント保持者にとっての自由に投稿 できる掲示板に当たり、対応するグーグル社のサーバーが特定電気通信設備に当 たると主張する。しかし、電子掲示板においては電子掲示板運営者が管理しているといえる特定電気通信設備において特定電気通信に係る情報の伝送等がされるの対し、アカウント保持者は、第三者がそのアカウントを利用して返信をした場合、当該具体的な通信には一切関与しないのであり、本件サービスにおけるアカウント保持者と電子掲示板運営者とを発信者 等がされるの対し、アカウント保持者は、第三者がそのアカウントを利用して返信をした場合、当該具体的な通信には一切関与しないのであり、本件サービスにおけるアカウント保持者と電子掲示板運営者とを発信者情報開示の場面において同視す ることはできない。 以上によれば、前記第2の3原告の主張イについて、被告は本件返信について「他人の通信」を媒介したとはいえず、特定電気通信役務提供者に当たるとは認められない。 第4 結論 以上のとおりであって、被告が本件返信に係る特定電気通信役務提供者に当たるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官仲田憲史 裁判官棚井啓は、転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官柴田義明 (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載の「オーナーからの返信」欄記載の投稿をした者に関する下記発信者情報記 ⑴ 氏名または名称⑵ 住所⑶ 電話番号⑷ メールアドレス (別紙)投稿記事目録 (記載省略)
▼ クリックして全文を表示