【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 被告人提出の上告趣意書は「私ハ昭和二十年マデ土工ヲ致シテ居リマシタ私ハ梅 毒神経痛デ子供ノ時ヨリ苦労致シマシタ私ハ此ノ犯
主文 本件上告を棄却する。 理由 被告人提出の上告趣意書は「私ハ昭和二十年マデ土工ヲ致シテ居リマシタ私ハ梅毒神経痛デ子供ノ時ヨリ苦労致シマシタ私ハ此ノ犯罪ヲ致シマシタノモ本当ニ金ガ欲シカツタノデアリマスデモ私ハ強盗致シテ金ヲ儲ケル気持ハ有リマセン私ハ檜山郡a村字A温泉ニ病気デ居ル時ニBト言ウ人ニ知合ニ成リマシタBノ父母様ニオ願致シテ私ノ妻ト致シマシタ。私ハ幸福ナ気持デ商売デモ致シテ金ヲタクサンモウケテ妻ヲ幸福ニ致ス気持ヲ強クモツテ品物ヲ売リナガラ二人デ幸福ニ暮シテ居ル時ニ私ハ梅毒ト言フ病気ニ成リ又妻ニモウツリマシタノデ父母様達ノ所ニハ気ノ毒デ居ラレナイノデ病気ヲ治ス又金ヲタクサンモウケテ親ノ前ニ来テ暮スツモリデ旅ニ出マシタ其レデ炭山ヤ鉱山ニ働キニ行キマシタが朝鮮人ハ使用出来ナイト言フノデ致仕方ナク私ハ妻ヲ連レテ紋別郡b村字c町Cト言フ人ノ所ニ妻ヲ置イテ又商売致スツモリデ居リマシタ私モ妻モ病気ノ方ハ大分悪クナリ歩クコトモ出来ナクナリマシタノデス私ハ其ノ時金ハ一銭モ無カツタノデ有リマス其レデ私ハ自分ノ着物デモ売ツテ商売ノ元金ヲツクリ旭川へ行キマシタガ旭川デDト言フ人ニ知合ニ成リマシテ色々ノ話ヲキキマスト私ハ其ノ時金ガホシカツタノデDノ言フ事ヲキキマシタガ今ニ成ツテ見ルト強盗ニ成リマシタが強盗傷人ト言フ事ハ私ハワカリマセン私ハ強盗ハ致シマシタガ傷人ハ致シマセン私ノ体モハツキリ致シマセン妻モ私ノタメニ面会ニ来ル事モ出来ナク成リマシタ私ハ此レデ真面目ナ人間ニ成ツテ私ノタメニ不幸ニ成リマシタ妻ヲ幸福ニ致シテヤル気持ヲ強ク持ツテ刑務所ニ務メマスカラ裁判長様御寛大ナル御処分ヲ御願致シマス」と謂うのである。 被告人がE外三名と共に、判示第二の(二)記載のF方で強盗をしょうとした際、現実に右Fに対し日本刀で斬 気持ヲ強ク持ツテ刑務所ニ務メマスカラ裁判長様御寛大ナル御処分ヲ御願致シマス」と謂うのである。 被告人がE外三名と共に、判示第二の(二)記載のF方で強盗をしょうとした際、現実に右Fに対し日本刀で斬りつけて切創を負わせた者が被告人でないことは、原- 1 -判決認定の事実により明白なところであるが、刑法第二百四十条前段の強盗傷人罪は所謂結果犯の一種であつて、即ち強盗が数名の共謀に基づく場合たまたまその数名の一名が暴行の結果傷害の結果を発生せしめた場合でも、強盗を共謀した者の全員が強盗傷人罪の責を免がれないものと解するのが相当である。而して判示Fに対し暴行脅迫を加えて金品を強取しようということが、被告人とE外四名との共謀に基づくものであることは、原判決の確定した事実であるから、被告人はFに対し傷害の結果を発生せしめた実際の行為者でないとしても、到底強盗傷人罪の責を免がれる訳にはゆかない。次に被告人は寛大な処分にして欲しいと述べているけれども、このような理由は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急措置に関する法律第十三条第二項により、適法な上告理由とならないのである。被告人の論旨はすべて理由がない。 弁護人本吉加岐磐提出の上告趣意書第一点は「被告人に対する昭和二十二年九月二十三日札幌高等裁判所で開廷された公判は法律に従つて裁判所を構成してゐないものであります。同日の公判調書は裁判長伏見正保判事黒田俊一同西田賢次郎裁判所書記Gの各氏列席検事伊藤勝氏立会弁護人園田国彦氏出頭の上被告人の公判が開廷された旨記載されてあります(五三七丁)。然し同検察庁には「伊藤勝」といふ検事は任官されて居りません。 同年九月三十日の公判期日(判決言渡)に検事伊東勝氏の立会して居ること同判決書に検事伊東勝関与の上審理した旨の記載あることによつて伊藤勝が伊東勝氏で は「伊藤勝」といふ検事は任官されて居りません。 同年九月三十日の公判期日(判決言渡)に検事伊東勝氏の立会して居ること同判決書に検事伊東勝関与の上審理した旨の記載あることによつて伊藤勝が伊東勝氏であり「藤」と「東」の誤であつたかも知れませんが証明されない許でなく公判期日に於ける手続は公判調書によつてのみ証明されるものであれば被告人に対する昭和二十二年九月二十三日の原審第一回公判は法律に従つて裁判所を構成してゐないことは前記公判調書によつて明である以上原審判決は刑事訴訟法第四百十条一に該当するもので破毀さるべきものであります」- 2 -と謂うにある。 原審第一回公判調書を看るに、検事伊藤勝立会と記載されてあること論旨主張の通りである。然し原審第一回公判の行われた昭和二十二年九月二十三日当時、札幌高等検察庁には検事伊東勝が在職したが、伊藤勝なる検事は在職しなかつたこと、当時全国の検察庁に在職した検事で伊東勝は右の一名であり、伊藤勝という検事は一名も居なかつたことはいづれも公知の事実であり、原審第二回公判調書には検事伊東勝(而して一旦伊藤と書いた上、伊東と訂正してある)立会と記載され、判決書にも検事伊藤勝関与の上云々と記載されているから、原審第一回公判調書に検事伊藤勝立会とあるのは、同伊東勝の誤記であること極めて明白である。従つて原審第一回公判廷は裁判長判事伏見正保外判事二名及び裁判所書記G列席の上、検事伊東勝立会の下に開かれたこと、即ち論旨謂うところの刑事訴訟法第四百十条第一号の判決裁判所としての構成に何等欠けるところがなかつたことは明確である。 論旨は理由がない。 同第二点は「原審は法律によつて公判手続を停止しなければならないのに之を停止しなかつた違法があります。被告人の予審手続中被告人に対する鑑定人H氏の鑑定主文は「被告人ハ現在 。 論旨は理由がない。 同第二点は「原審は法律によつて公判手続を停止しなければならないのに之を停止しなかつた違法があります。被告人の予審手続中被告人に対する鑑定人H氏の鑑定主文は「被告人ハ現在拘禁性精神病ノ一種ニ罹リ居リ精神異常存スソノ精神状態ハ精神耗弱者トスルヲ適当ト考フ」と鑑定されてゐますその診断は「被告人ノ精神状態ハ尋常ナラス入檻後ヨリ発病シ奇妙ナ動作及ヒソノ他ヒステリー病状軽キ朦朧状態及ヒ妄想様恐怖感ヲ主徴候トスル精神異常ニシテ之ヲ吾人ハ拘禁性精神病ノ一種ナリト比較的容易ニ診断ヲナシ得ルノデアル」と検診されて居ますが性病及指南力については「右鼠蹊部ニ横痃手術痕ヲ有ス但シ現在性病ノ自覚的症状ナク」と否定的であり指南力については「存」と診断されてゐます(三八五丁ー三九八丁)。 然るに原審に至つて大通刑務支所司法技官I氏の診断報告書は被告人の衰弱を認め「被告人は「ロンベルグ」氏徴候著明ニシテ指南力全ク障碍セラル」とし「被告人- 3 -は第三期黴毒ニシテ所内治療ニ不適ナルモノ」と報告されて居ります(五三二丁)右により綜合すれば予審当時被告人は精神異常であるが指南力も存じ性病的自覚症状なく原審当時は「指南力全ク障碍セラレ」て「所内治療ノ不適ナルモノ」に亢進したことは記録上推断ぜらるゝものであります。指南力は意識清明で自身の精神及外囲に行はれる事柄を判然明識し得る者即自己と周囲の関係(周囲の指南)自己の居る場所(場所の指南)自己の経験せる時日現在の時日(時の指南)を正当に答へ得る能力でその能力のないものを指南力の喪失といふのであります。即ち被告人は原審当時その指南力全く障碍せられ第三期梅毒でロンベルク氏徴候著明所内治療に不適であることが診断報告されてゐるもので被告人が心神喪失の域にあつたことは右報告書に徴して容易に推断せらるゝ所で刑事 人は原審当時その指南力全く障碍せられ第三期梅毒でロンベルク氏徴候著明所内治療に不適であることが診断報告されてゐるもので被告人が心神喪失の域にあつたことは右報告書に徴して容易に推断せらるゝ所で刑事訴訟法第三百五十二条によつて公判手続は停止されなければならなかつたと信じます。指南力全く障碍された被告人に対し公判を進行した事は明に違法で刑事訴訟法第四百十条十六に依り「公判手続ヲ停止スベキ場合「停止シナイ」違法があり原判決は破毀されなければならぬと信じます」と謂い、同第三点は「原判決は理由に齟齬ある違法のものであります元より事実の認定は証拠により証拠の証明力は判事の自由なる判断に任されて居る処でありますがその判断は論理上並に経験上の法則に従つて為されることを要することは元より当然であります。指南力の喪失したものの供述の如きは証拠となすに由なきものと信じます本上告趣意書第二点に於て述べた様に予審当時に於けるH鑑定人の鑑定書に於て巳に被告人に精神異常のあることが鑑定せられ尚原審に於て司法技官I氏の診断報告書は被告人に「指南力の全く障碍せられてゐる」ことを報告されてゐる所であります指南力の全く障碍されてゐる精神異常者の供述を証拠として採用するは採証の原則を無視したものであります。然るに原判決は「冒頭掲記並に判示事実第一第二の事実について判旨同旨の供述を以つて証拠として採用してゐるものであります此は指南力を全く障碍された精神異常者の供述を以て証拠として採用し- 4 -てゐるもので之は理由に齟齬あるものといふべきで此の点に於ても原判決は破毀を免れないと信じます」と謂うにある。 然し論旨の引用している、昭和二十二年八月一目附司法技官I作成の診断書、其の他記録にあらわれた一切の資料によつても、被告人が原審公判の行なわれた昭和二十二年九月当時心神喪失の ます」と謂うにある。 然し論旨の引用している、昭和二十二年八月一目附司法技官I作成の診断書、其の他記録にあらわれた一切の資料によつても、被告人が原審公判の行なわれた昭和二十二年九月当時心神喪失の状態にあつたと云ふことは認められないから、原審裁判所が被告人を心神喪失者と認めて公判手続を停止しなかつたこと、及び原審裁判所がその自由な心証に基づいて被告人の原審公判廷における供述を証拠の一として採用したことは素より適法である。論旨は理由がない。 以上の次第であるから、刑事訴訟法第四百四十六条に則り主文の通り判決する。 此の判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。 検察官松岡佐一関与。 昭和二十三年四月十七日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官塚崎直義裁判官霜山精一裁判官栗山茂裁判官小谷勝重裁判官藤田八郎- 5 -
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