主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,1890万円及びこれに対する平成17年8月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 事案の要旨本件は,軽四路線便業務(以下「軽四便業務」という。)の受託を前提として被告を退職した原告が,その後の軽四便業務の廃止に伴い,収入を失ったことに関し,原告が被告を退職した際に被告から支給された退職金は,原告が軽四便業務を受託することによって得られる収入が控除されていたから,原告が喪失した収入分は,法律上の原因なく被告の利得となっている旨主張し,不当利得による利得金返還請求権に基づき,被告に対し,原告が失った収入相当額の支払を求める事案である。 前提となる事実(各項目掲記の証拠により認められる事実以外は,争いがない。)(1)被告は,郵便物並びに逓信事業に関連する物品の運送事業等を目的とする会社であり,原告は,平成元年10月末日まで被告に雇用されていた。 (2)被告は,平成元年,軽四便業務の受託を前提とする希望退職者を募り,原告は,これを受けて平成元年10月31日希望退職した。 (3)希望退職者の取扱いについては,被告と全逓信労働組合との間で,「関東統轄支店甲府営業所所属社員の軽四便受託を前提とする希望退職者の取扱いに関する覚書」(甲1。以下「本件覚書」という。)が結ばれており, 具体的な退職金の支給については,本件覚書添付の別紙「軽四路線便受託を前提とする希望退職者の退職金支給要領」(甲1。以下「本件要領」という。)が確認された。上記希望退職における退職金の算出においては,勧奨退職金のほか,特別加算額,特別一時金による加算などが設けられてい とする希望退職者の退職金支給要領」(甲1。以下「本件要領」という。)が確認された。上記希望退職における退職金の算出においては,勧奨退職金のほか,特別加算額,特別一時金による加算などが設けられていた。 (4)原告には,本件要領に基づき,下記アないしオのとおり退職金が算出され,その合計は4591万8554円であった。 ア勧奨退職金587万4900円(退職金基礎額(22万0650円)×所定支給率(17.75)×増支給率(1.5))私傷病等による退職の場合の支給率に,定年までの残余年数1年につき5パーセントあて加算して増額支給されたものであり,原告の場合,算出の基礎額は,退職金規程により,退職時の本給と職能給及び現業関係調整額を合算した22万0650円であり,所定支給率は17.75か月であった。また,原告は,退職時の年齢が41歳7か月,定年である59歳12か月までの残余年数は18年余であったため,増支給率は上限の50パーセントとされた。 イ特別加算額2133万1400円下記{(①+②)-(③+④)}を,⑤で除したもの。 ①会社に定年まで継続勤務した場合の給与収入1億1913万3458円基準賃金,基準外賃金及び臨時賃金(賞与)について,原告の退職時の被告賃金表による定期昇給を勘案して,原告の生涯賃金を算出した金額。 ②会社に定年まで継続勤務した場合の定年退職金1630万2100円 原告の定年予定日時点の退職金基礎額は,26万9500円であるところ,原告が定年まで勤務した場合の勤続年数34年11か月に対する所定支給率60.49か月を乗じた金額(100円未満切り上げ)。 ③希望退職金を年6パーセントの複利で平成元年11月から原告の定年まで運用した場合の元利合計1676万8957円勧奨退職金587万4900円に,年率を か月を乗じた金額(100円未満切り上げ)。 ③希望退職金を年6パーセントの複利で平成元年11月から原告の定年まで運用した場合の元利合計1676万8957円勧奨退職金587万4900円に,年率を6パーセントとして18年間運用した場合の実効利率2.854339倍を乗じた金額。 ④65歳満了月までの軽四便業務収入5777万9600円平成元年11月時点の原告の軽四便業務委託料は19万7200円であり,この金額に65歳満了月までの延べ月数293か月を乗じた金額。 ⑤平成元年11月から原告の定年までの年数に対応する元利合計算出の倍率③の実効利率と同義であり,その数値は2.854339倍である。 ウ特別一時金として下記①ないし③のとおり。 ①特別一時金A209万7810円原告の退職時の基準賃金23万3090円の9か月分に相当する額。 ②特別一時金B1200万円③特別一時金C186万4720円原告の退職時の基準賃金23万3090円の8か月分に相当する額。 エ通勤費加算金274万400円原告の退職時から定年退職予定時までの通勤費等相当額。 オ年休報労金9324円原告の退職日現在の年次有給休暇残日数1日につき,基準賃金日額の50パーセントに相当する額。 (5)原告は,被告を退職後,平成元年11月から軽四便業務に従事してきたところ,軽四便業務は,日本郵政公社関東支社の方針により平成16年度 以降廃止され,原告ら受託者との契約も解除されることとなり,実際に同業務は同年6月1日に廃止された。 なお,本件覚書には,受託した軽四便業務が荷主の施設調整等により廃止又は減便等契約内容に変更があった場合は,中央で協議し,責任ある対応をする(5項)との条項がある。 軽四便業務の廃止に関し,原告ら受託者であった者に関する廃止後の取り扱いにつ の施設調整等により廃止又は減便等契約内容に変更があった場合は,中央で協議し,責任ある対応をする(5項)との条項がある。 軽四便業務の廃止に関し,原告ら受託者であった者に関する廃止後の取り扱いについては,各郵便局単位で非常勤契約をすることなどの方策が検討され,これについての説明会が行われるなどした(乙1ないし3)。 (6)原告は,平成16年6月1日時点で56歳3か月(昭和○○年○月○日生)であり,被告の定年である満65歳までに8年9か月を余している。 争点 軽四便業務が廃止されたことによって,被告に不当利得があるといえるか。 (1)原告の主張原告に支給された退職金のうち,特別加算額は,上記前提となる事実(4)イのとおり算出されたが,その内容は,原告が定年まで勤務した場合に得られる収入及び定年時に支払われる退職金の合計額から,現実に退職に伴って支払われる希望退職金を年6パーセントの割合により定年まで運用した場合の元利金と65歳までに得られる軽四便業務収入を差し引いたものであって,有意の計算式である。 上記のような特別加算額の計算方法において,原告が65歳までに得られる軽四便業務の報酬が控除されている以上,軽四便業務の廃止によりこれが失われた場合,被告が原告に対し支払うべき退職金の金額は変動(増加)するはずであり,被告は原告が失った収入分に相当する利益を利得(いわゆる消極的利得)したことになる。 すなわち,特別加算額の計算上の収入月額は18万円であり,軽四便業務が廃止された平成16年6月1日から65歳までは8年9か月であるこ とにかんがみると,原告は,軽四便業務が廃止されたことによって,1890万円の損害(18万円×105か月)を被ったというべきであるし,被告は,不当に同額を利得したというべきである。 なお,本件覚書に補填条項が存在 と,原告は,軽四便業務が廃止されたことによって,1890万円の損害(18万円×105か月)を被ったというべきであるし,被告は,不当に同額を利得したというべきである。 なお,本件覚書に補填条項が存在しないことは認めるが,不当利得返還請求と補填条項の有無は関係がないし,原告が喪失した収入を控除分として支払を免れた被告には,財産的価値の移動があるところ,これは,公平の理念に基づき,実質的,相対的に正当視されないものというべきである。 (2)被告の主張ア被告は,原告の退職に際し,原告の退職が会社の業務上都合によるものであることを勘案し,通常の退職の場合の「支給率の100パーセント以内を加算する」とする退職金規程に基づき,その範囲内である50パーセントを増支給率の限度とし,本件覚書のとおり,労使の最終合意を得た。 イさらに原告には,特別加算額が支給されたところ,これは,生涯賃金(上記前提となる事実(4)イ記載の①)に加え,定年退職時に受ける退職金の満額(同②)の合計を大前提に据え,定期昇給をも加味して算出されたものである。ただし,中途退職者が退職後に被告への労働を提供することは不可能であるから,労働の対価である賃金や退職金から,何かしらの減額を行うことは当然である。 特別加算額は,上記の観点から,本来,定年退職時に支給される退職金を,それよりも前に先取りし,退職時から定年までの18年間は純粋に運用が可能であることから,定年までの年6パーセントの複利利率で現在価値に割り戻すこととし,また,本件については,軽四便業務の受託という再就職の斡旋を行っていることから,65歳満了月までの複利利率(同③及び④)を,定年までの年6パーセントの複利利率(同⑤)で割り戻した金額を定年退職時の退職金から控除するという計算方法を 採ったものである。 ウこ いることから,65歳満了月までの複利利率(同③及び④)を,定年までの年6パーセントの複利利率(同⑤)で割り戻した金額を定年退職時の退職金から控除するという計算方法を 採ったものである。 ウこの控除について,原告は,本来支払わねばならないものを,一方的に被告が留保しているのであるから,その後の事情変更に応じた返還義務が会社にあると主張する。 しかし,特別加算額の控除対象として支払モデルが設定したのは,退職者本人の生涯賃金であり,本来その全額を受領することのできない性質の金額であることは明らかである。そこから何を引くのかが,労使の団体交渉で議論されるべき主題であったのであり,本件のように再就職の斡旋による収入の機会が与えられた以上,そこで見込まれる収入も生涯賃金から差し引く合意が形成されたものである。 原告が,被告において留保したと主張する金員の性質は,上記のとおり,単なる減額のための一要素にすぎず,本来支給すべきものを諸般の事情を考慮して留保するなどという性質を有しないものである。 エ上記のように,特別加算額は,被告と全逓信労働組合との合意に基づき,本件覚書及び本件要領によって計算方法を定めたものであり,合意内容はこれがすべてであって,原告の場合も,計算式に当てはめて金額の算定がなされた。 上記計算式は,退職者毎に固定的かつ一時的に定まる構成要素(金額と期間の積)によって一定額を算出するという構造になっており,その結果,退職者個々人によってその金額や期間は様々であるが,一人の退職者についてみれば,金額も一義的に定まるものであって,退職後の実収入や軽四便業務への従事期間がいかに変動しようと,それによって計算結果が左右されることを全く予定しておらず,再計算すべきとする規定もない。 オすなわち,原告が65歳前に軽四便業務を辞したから 実収入や軽四便業務への従事期間がいかに変動しようと,それによって計算結果が左右されることを全く予定しておらず,再計算すべきとする規定もない。 オすなわち,原告が65歳前に軽四便業務を辞したからといって,それによって上記の「計算」が変わり,原告に「損失」が発生したり,被告 に「利得」が生じる余地はない。 また,そもそも原告に支給された特別加算額は,本件要領による合意に基づくものであるから,原告が主張する損失,利得相当分も,すべて法律上の原因に基づくものである。 カまた,原告は,上記計算式について,単に期間のみを捉えて計算が変わるものと主張するが,上記計算式は,金額に月数を乗じる形で定められているのであるから,期間のみでなく,金額をも問題にすべきところ,原告は,退職後の実収入や定年までの定期昇給,定年退職金が実際にどうなっているかなど,金額については無視するものであり,主張の根拠が不明である。 第3当裁判所の判断 原告の主張は,要するに,原告に支払われた退職金のうち,特別加算額は,その算定の過程で,原告が65歳までに得られる軽四便業務の報酬が控除されているのであるから,軽四便業務が廃止され,これに付随する原告の報酬が失われた場合は,被告が原告に対して支払うべきとされた退職金の金額も変動するはずであり,被告は,原告が失った収入分に相当する利益を受けているといえるから,公平の理念に基づき,被告は原告に上記利益を不当利得として返還すべきというものである。 そこで検討するに,原告に支給された特別加算額は,上記前提となる事実(4)イのとおり,原告が被告に定年まで継続して勤務した場合に見込まれる給与収入や定年退職金から,希望退職の条件とされた軽四便業務の受託により将来得られる見込みの収入などを控除するという計算方法で算出されている。 り,原告が被告に定年まで継続して勤務した場合に見込まれる給与収入や定年退職金から,希望退職の条件とされた軽四便業務の受託により将来得られる見込みの収入などを控除するという計算方法で算出されている。 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によると,特別加算額は,そもそも,被告の業務変更に伴う人員削減の必要性から募集された希望退職者に対し,被告と全逓信労働組合との労使間の合意により退職金を加算するものとして支給されたと認められるところ,本件覚書及び本件要領によって定められた計算式は,希 望退職者の退職時を基準とした一定の構成要素に基づき,退職者毎に一義的な金額を導こうとするものである。ここで構成要素とされた各事項は,将来にわたって変動が予定されないものではなく,状況や事情に応じて当然に変動の生じ得る性質のものであったことは明らかであり,これは原告がその控除を問題とする将来にわたる軽四便業務収入のみでなく,原告が退職後も被告において勤務したと想定した場合の給与収入見込額や定年退職金見込額についても同様である。実際にも,原告が合意成立以降に受け取った軽四便業務委託料は,合意当時に基準とされた19万7200円よりも増額されていたことが認められるし(乙2の4頁によれば,31万0300円。),一方,原告の退職後,被告における被雇用者の給料体系や退職金支給規程には変更があったことが認められる(弁論の全趣旨)。 上記のような特別加算額の性質や当時の合意内容に照らせば,特別加算額算出のための計算式は,退職時を基準とした一定の構成要素に基づいて,妥当な退職金の加算を算出しようとしたものにすぎず,退職後の実収入や軽四便業務への従事期間の変動に応じて,計算のやり直しを行うことが予定されていたものとは認め難い。 原告は,軽四便業務の廃止によって失った原告の収入分について ようとしたものにすぎず,退職後の実収入や軽四便業務への従事期間の変動に応じて,計算のやり直しを行うことが予定されていたものとは認め難い。 原告は,軽四便業務の廃止によって失った原告の収入分について,被告が法律上の原因なく利益を受けた旨主張するが,これは特別加算額の計算式を自らに有利に曲解したものといわざるを得ず,軽四便業務の廃止によって,原告の収入喪失分につき被告が利益を受けたとか,財産的価値の移動があったとは到底認められない。 以上のとおり,原告の主張は理由がないから棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一 裁判官岩井一真裁判官青木美佳
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