平成14(わ)43 強盗殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成15年1月22日 福岡地方裁判所
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判決文本文6,616 文字)

平成15年1月22日宣告平成14年(わ)第43号強盗殺人被告事件判決 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,福岡県内の中学校を卒業し職業訓練校を半年ほどで中退した後,職を転々とし,昭和63年ころ婚姻し1子をもうけたが,離婚し,平成3年9月ころ,転職した先でAと知り合い,同人に対して自己が所属する宗教団体への入会を勧めたところ,同人も入会し,被告人が同年12月ころ,転職先の会社を辞めた後も,宗教団体の活動を通じて,被告人とAのつき合いは続いた。被告人は,スナック,キャバレー,パチンコなどで遊び歩き,自己の収入では賄えなくなると,サラ金等から借り入れを行う生活を送り,平成9年末ころには,サラ金等からの借り入れ総額は500万円ほどにもなり,自己の名義では,新たな融資を受けられない状態に陥った。 そこで,被告人は,知人に頼んでサラ金から借金をしてもらい,その融資金を自己に又貸ししてもらうなどして金策し,Aからも,平成9年12月ころ,同人名義でサラ金から借金してもらうなどして30万円程度を貸してもらったものの,その後返済せず,連絡も取らなかった。 被告人は,平成9年9月ころ,福岡市内のキャバレーで遊興した際,ホステスをしていたBと知り合い,平成10年1月ころには,母親と住んでいた福岡県糟屋郡a町から消息を絶って,Bが住んでいた福岡市南区のマンションで同女と同棲生活を始めるに至り,サラ金や知人からの借金の取り立てから逃れた。被告人同様,Bもサラ金等に ろには,母親と住んでいた福岡県糟屋郡a町から消息を絶って,Bが住んでいた福岡市南区のマンションで同女と同棲生活を始めるに至り,サラ金や知人からの借金の取り立てから逃れた。被告人同様,Bもサラ金等に多額の負債を抱えていたが,平成11年1月ころ,健康上の理由により,ホステスの仕事をやめた。被告人とBは,平成11年4月ころ,Bの母親方に近い福岡市西区に転居した。被告人は,土木作業員として働くなどしたが,自分だけの収入では,Bの借金を払いながらの生活は苦しいので,職場から給料を前借りするなどした。しかし,それでも,Bの借金の返済と2人の生活費を支出することが困難であったので,平成12年1月か2月ころ,B名義のサラ金からの借金につき,月6万円ずつ返済する旨の民事調停が成立した。Bは,母親に対する借金も数百万円あったので,これについても,被告人の給料から,月6万円を返すことにしていたが,返済は滞りがちであった。被告人はその後も職場から前借りをし続けるという生活をしていたが,平成13年の春ころには,前借りもできなくなり,サラ金からの借り入れもできない状況下で闇金融に頼るしか手がなくなり,闇金融から,3万円から5万円の小口の融資を受けるようになった。その結果,被告人は,闇金融への返済に充てるため,新たに別の闇金融から借り入れをするなどし,平成13年12月には,闇金融からの借り入れは合計10数社にも及んだ。被告人は,独力で窮状を打開することが困難となり,同年12月中旬,Bを通じて同女の母親に金策を依頼して合計30万円を借り入れ,これを闇金融の返済に回したりしたが,窮状は好転せず,しばらく連絡を取っていなかった兄姉などに金の無心をしても,Aと同じ会社に勤める兄からは,Aに対する借金の返済をしていないことについて責められることとなった。このころ,闇金融から返 ,窮状は好転せず,しばらく連絡を取っていなかった兄姉などに金の無心をしても,Aと同じ会社に勤める兄からは,Aに対する借金の返済をしていないことについて責められることとなった。このころ,闇金融から返済の催促の連絡が頻繁にあり,自宅に返済を催促するはり紙がされるなど,特に,年末の取り立ては被告人にとっては脅威であり,Bの身に危険が及ぶなどして被告人とBの幸せな生活が破壊されることに,危機感を募らせていた。 被告人は,前記のように,兄の口からAの名前を聞かされていたところ,切羽詰まった状況になっていたことから,わらをもつかむ気持で,頼み事を断れない同人の人柄を思い出し,同人からの借金を返済しないまま長期間連絡をとっていなかったが,お人好しの同人ならば,被告人からの新たな借金の申し出も受け入れてくれるのではないかという一縷の望みをもった。 被告人は,Bとの生活を守り,闇金融からの返済の催促をやめさせるためには,まとまった金が必要であり,なんとしてもAから,金を借りる必要があると考え,平成13年12月22日ころの夜,借金申し込みのため,福岡県糟屋郡a町bc番地dのA方を訪れたが留守だったので,同月25日にAに電話をかけて,同月27日午後9時過ぎ同人方で会う約束を強引に取り付けた。 被告人は,同日夜,A宅へ向かう自動車の中で,もし,Aが金を貸してくれなければ,Aを殴るようなことをしてでも,金を奪おうと思っていたが,同日午後9時30分ころ,A宅近くの駐車場に到着したところ,以前,被告人がAからの借金を踏み倒し,その後一切連絡を取っていない経緯を考えると,新たな借金の申し出は,ほぼ受け入れられる可能性はなく,無理矢理Aから金を奪ったとしても,警察に届けられれば,すぐに自分の犯行だと分かってしまい,Bとの生活を続けることはできないと考え,かくなる上は 新たな借金の申し出は,ほぼ受け入れられる可能性はなく,無理矢理Aから金を奪ったとしても,警察に届けられれば,すぐに自分の犯行だと分かってしまい,Bとの生活を続けることはできないと考え,かくなる上は,Bとの幸せな生活を維持するため,自己の犯行であることが分からないようにするために,Aを殺害し,同人から金員を強取するのもやむを得ないと考えるに至った。Aを殺す方法を考えた結果,犬の散歩用の紐が,被告人車両の後部座席に置いたままにしてあることに気づいた。被告人は,年末であれば,Aの手元に最低10万円くらいは現金があるだろうという期待のもと,Aの首を絞め殺害する凶器として,犬の散歩用の紐を,着ていた作業服の上着の左ポケットに入れて隠し持ち,人から顔を見られないように帽子をかぶり,同日午後9時30分過ぎころ,A方に入った。 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年12月27日午後9時40分ころ,前記A方4畳半の間で炬燵台を囲んで座って同人と話し,A(当時35歳)に対し,10万円貸してくれるように頼んだが,予想どおり,拒絶され,目の前の炬燵台上に同人の財布が置かれていたことから,この財布を奪うしかないと考え,Aが立ち上がり,被告人に背を向けて隣の6畳間へ向かったところで,Aを殺害して金品を強取しようという決意のもとで,あらかじめ上着の左ポケットに入れていた犬の散歩用の紐を取り出し,同人の背後からその紐を同人の頚部に1回巻き付け,両手に持った紐の両端を力一杯外側へ引っ張って同人の首を強く締め付け,同人が「何をするんですか。」と言いながら紐をほどこうと抵抗するにもかかわらず,締め付け続け,同人が気を失って前のめりに倒れるや,同人の頭の横に回り込み,ひざまずくような体勢で,そのまま締め続け,よって,そのころ,同所において,同人を頚部圧迫による窒息により にもかかわらず,締め付け続け,同人が気を失って前のめりに倒れるや,同人の頭の横に回り込み,ひざまずくような体勢で,そのまま締め続け,よって,そのころ,同所において,同人を頚部圧迫による窒息により死亡させて殺害したうえ,同人の所有又は管理に係る現金約21万5,000円,財布及び携帯電話機等4点を強取した。 (証拠の標目)-省略-(法令の適用)被告人の判示所為は,刑法240条後段に該当するところ,所定刑中無期懲役刑を選択して被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入し,訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書にしたがい被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,遊興費に多額の金員を費やした被告人が,サラ金などからの借り入れをしたあげく,闇金融からの借り入れを繰り返して返済不能に陥り,闇金融の追及を逃れて内妻との生活を守るため,被害者を殺害してその金員を強取することを計画し,被害者の生命を奪った上,金品を強取した強盗殺人の事案である。 本件において,まず指摘すべきは結果の重大性である。犯行により,35歳という若さの,働き盛りの被害者が殺害され,金品が奪われた。被告人からは以前にも借金を踏み倒された上,今回,突然被告人から連絡がきて自宅に押し掛けられた上,必死で抵抗したにもかかわらず,無惨にも殺害された被害者の被った苦痛,無念さはまことに大きかったものと思われる。 被害者は,佐賀県内の高校を卒業後,まじめに働き,人が嫌がる仕事でもやりがいを見つけ,懸命かつ誠実に生きてきたものであって,勤め先での信頼も厚く,また,所属していた宗教団体において活発に活動するとともに,ボランティア活動も行い,地道に周囲から信頼を得るなど,人望も厚く,その生活ぶりにおいて,人の恨みを買うなどというこ ,勤め先での信頼も厚く,また,所属していた宗教団体において活発に活動するとともに,ボランティア活動も行い,地道に周囲から信頼を得るなど,人望も厚く,その生活ぶりにおいて,人の恨みを買うなどということもなく,優しい人柄だったことが窺われる。また,被害者は,高齢で1人暮らしの母親を思いやり,毎月1回は,母親のもとを訪れて障害をもつ母親の健康状態を気にかけ,優しい言葉をかけたりしていたのである。もとより,被害者には露いささかの落度もない。 被害者の母親にとって,被害者は血のつながったただ1人の息子であって,頼り頼られるべき息子を失った母親の悲しみは深く,被告人に対する怒りはまことに強く,被告人の極刑を望んでいる。 犯行の動機,経緯は,前記認定の通りであるが,多額の借金を抱えて苦境を打開する方策が見出しがたい状況下で,闇金融に手を出せばその追い込みがかかることは容易に推測できるにもかかわらず,目先のことのみを考え,しかも,被告人と内妻との生活を守ることのみを考え,安易に闇金融からの借金を続けてその返済に窮するや,本件犯行に及んだのであり,その利欲的,短絡的,かつ,自己中心的な動機になんら酌量の余地はなく,被告人がお人好しと目する被害者の人柄につけ込んだ点も非難される。 被告人の殺意は強固であり,犯行態様は残忍極まりない。すなわち,被告人は,被害者方を訪れて,被害者から,金員借用の申し入れを拒絶されるや,確定的殺意をもって,被害者の背後から,被害者の頚部を紐で締め付け,被害者が気を失って倒れ込むや,確実に被害者を殺害するため,絶命するまで紐を締め続けている。このような殺害の態様や,被害者の頸部には1条の索条痕が残っており,陥凹底が黒褐色に変色し,被告人が殺害直後に被害者の頚部から紐を引き抜こうとした際,紐が被害者の首に食い込んですぐには引き抜 いる。このような殺害の態様や,被害者の頸部には1条の索条痕が残っており,陥凹底が黒褐色に変色し,被告人が殺害直後に被害者の頚部から紐を引き抜こうとした際,紐が被害者の首に食い込んですぐには引き抜けなかったことからも,被告人が強力かつ執拗に被害者の頚部を紐で絞め続けたことが明らかである。 また,被告人が被害者に対する強盗殺人を決意したのは,犯行直前の被害者方近くの駐車場に至ってからであり,被害者の首を絞める凶器として,犬の散歩用の紐を自動車内から発見してこれを凶器に使うことに決めたのもそのときであり,引き続き被害者方へ入って犯行に及んでいることからすれば,犯行はかなり場当たり的な側面があり,用意周到とはいいがたいが,被告人は,一旦犯行を決意するや,格別の躊躇もなく犯行に突き進んでいるのであるから,場当たり的な犯行であることは,むしろ被告人の犯行遂行の意思が極めて強かったことを示すものであって,被告人に対する非難を弱めるものではない。 犯行後の被告人の行動をみると,被告人が,殺害直後に被害者の上半身に毛布を掛けたのも,後悔,慈悲という感情からではなく,単に被害者と目があって気持ち悪いという感情からに過ぎないし,殺害に続いて直ちに,現金,財布,携帯電話機等を奪取している。さらに,自己の犯行の痕跡を残さないため,殺害に使った紐や,自己の指紋が残っている可能性のあるペットボトルやコップ,灰皿をレジ袋に入れ,犯行の発覚を遅らせるため,被害者方玄関に施錠をした上,自己の車両まで逃走している。被告人は,自己の自動車の中で,奪取品の中身を確認した上,被害者方に残ったと思われる自己の指紋を消すため,自動車内にあった軍手をはめて,被害者方台所の窓から入り込むと,足跡がこれ以上残らないように靴を脱いで,屋内で指紋が付いたと思われる箇所を拭くとともに,被害 に残ったと思われる自己の指紋を消すため,自動車内にあった軍手をはめて,被害者方台所の窓から入り込むと,足跡がこれ以上残らないように靴を脱いで,屋内で指紋が付いたと思われる箇所を拭くとともに,被害者方に金目のものがないか改めて探し,被害者が死亡していることを確認するため,毛布の上から,足のつま先で,被害者の背中辺りをつついたりしている。被害者の死亡を確認すると,被告人は自己が触れた箇所を,所携の軍手で拭き,指紋を消し,再び鍵をかけて,被害者宅を出た。その後被告人は,すぐに,闇金融各社に連絡をとり,待ち合わせ場所等を決めた後,強取金で,闇金融に対する借金の返済を行った。しかし,借金の返済にはまだ,金員が不足していたので,再び,被害者宅に戻り,12月28日午前1時40分ころ,両手に軍手をはめた上で,台所の窓から被害者宅に入り込んだ。玄関で,靴を脱ぎ,置いてあったスリッパに履き替え,被害者宅で金員の捜索を行い,金目のものがなかったので,被害者宅に鍵をした上,被害者宅を後にした。被告人の金員獲得の意思はこれでも減退せず,被告人は,被害者の自動車のキーを使い,同車を人目につかないところまで移動させた上,被害者の自動車の中を捜している。被告人は,同車内に金目のものがなかったので,被害者宅近くの駐車場に戻り,被告人の自動車に乗り換えて,帰宅途中,コンビニエンスストアで,内妻の使いを済ませた上,携帯電話機,財布等を,ゴミ箱に捨てるなど,証拠を隠滅している。このように,犯行後の被告人の行動は,被害者の尊い生命を奪ったものの行動としては,理解しにくいほど冷静なものであり,人間性を見出しがたい。 本件は住宅街で発生したが,犯行が地域住民に大きな衝撃を与えたであろうことは容易に推認でき,地域社会に大きな不安感を生じさせたものと思われる。 被告人は,被害者の母 あり,人間性を見出しがたい。 本件は住宅街で発生したが,犯行が地域住民に大きな衝撃を与えたであろうことは容易に推認でき,地域社会に大きな不安感を生じさせたものと思われる。 被告人は,被害者の母親に対し,謝罪の手紙を書いた以外は慰謝の措置をとっていない。 以上の諸点に照らすと,被告人の刑事責任は極めて重いと言うべきである。 他方,被告人は,逮捕直後は虚偽を交えて述べていたが,その後は,捜査の比較的初期段階から,犯罪事実を全面的に認め,公判においても,反省の色が窺えること,前科がないこと,以前の勤務先の上司が被告人の更生に協力する旨証言し,被告人の内妻も被告人の社会復帰を待つ旨証言していることなど,被告人に有利な事情もある。 しかし,これらの被告人に有利な事情を最大限に考慮しても,無期懲役刑を選択すべき本件について,更に酌量減軽をするまでの事情があるとは言い難く,被告人に対しては,無期懲役の刑をもって臨むほかない。 よって,主文とおり判決する。 (求刑無期懲役)平成15年1月22日福岡地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官林秀文裁判官一木泰造裁判官永井美奈

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