平成17年9月9日判決言渡平成16年(ワ)第29号損害賠償請求事件(口頭弁論の終結の日平成17年7月27日)判決 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実および理由第1 請求被告は原告に対し1000万円とこれに対する平成16年2月14日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,有限会社である原告が,その事業の執行を担当していた取締役である被告(ただし代表者ではない)に対し,会社の資金1000万円を被告が個人的な目的で費消したと主張して,不法行為に基づき,損害額1000万円とこれに対する不法行為の後である平成16年2月14日(訴状送達の日の翌日)から支払いずみまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか,かっこ内の証拠により認める)(注。証拠の引用はすべて割愛する)(1) 原告は,楽器の買取り,修理,販売を主な目的とする有限会社であり,Aがその代表取締役である(以下「A社長」という)。被告は原告の取締役である。A社長と被告は古くからの知りあいである。 (2) A社長は,B社の代表取締役でもある。原告の本店所在地とB社の本店所在地は,平成8年から平成15年まで同じであった。 原告とB社は,当初,次のようにして営業を分担していた。すなわち,どちらも中古ピアノ関係の業務を行うが,原告は中古ピアノの買取り,修理,販売を担当し,B社はその輸送を担当した。被告はB社の取締役でもあり,A社長は,両社の経営 にして営業を分担していた。すなわち,どちらも中古ピアノ関係の業務を行うが,原告は中古ピアノの買取り,修理,販売を担当し,B社はその輸送を担当した。被告はB社の取締役でもあり,A社長は,両社の経営を全面的に被告に委託し,社印,銀行印,印鑑証明カード等を被告に渡して,必要に応じて自由にこれらを使用することを認め,被告もこれを了解して社印等を保管していた。 (3) 被告は,平成13年6月中旬頃,A社長に対し,下記のとおりの事業(以下「本件事業」という)をするために1000万円が必要であるとしてその資金の準備を求めた。 a 中古グランドピアノ10台を1台25万円で仕入れ,1台40万円をかけて修繕し,1台85万円で売る。 b アップライトピアノ10台を1台25万円から30万円で仕入れ,1台3万円をかけて修理し,1台46万円で売る。 A社長はこれに応じ,同年6月25日,被告が自由に払戻しができる山梨中央銀行○○支店の原告名義の預金口座に1000万円を振り込んだ(以下「本件1000万円」という)。 (4) 本件1000万円は,A社長に対する年12%の利息の支払いを義務づけられた貸付金であった。A社長は,被告に対し,A社長の子の「C」名義の普通預金口座に利息・返済金を入金するよう指示し,被告はこの指示に従って毎月の利息の支払いはある程度の期間続けたが,元本は返済されなかった。 2 争点(1) A社長の代表権の有無【原告の主張】本件訴訟は有限会社とその取締役との間の訴訟であり,有限会社法27条ノ2が適用されるが,平成16年3月23日開催の原告の社員総会は本件訴訟につきA社長が原告を代表すると定め,これに基づきA社長が原告のために訴訟行為をしているから,本件訴えは適法である。 【被告の主張】原告の社員総会によるA社長を原告の代表者 告の社員総会は本件訴訟につきA社長が原告を代表すると定め,これに基づきA社長が原告のために訴訟行為をしているから,本件訴えは適法である。 【被告の主張】原告の社員総会によるA社長を原告の代表者と定める手続はまったく行われていないから,A社長は本件訴訟について原告を代表する権限がない。本件訴えは却下すべきである。 (2) 本件1000万円は原告のものか,それともB社のものか。 【原告の主張】本件1000万円はA社長が原告に貸し付けたものであり,原告の資金である。 【被告の主張】平成11年8月に原告の電話加入権が滞納処分により差し押さえられるなどしたため,原告は平成13年6月頃までには営業ができない状態になっていた。そのため,当初の方針とは異なり,中古ピアノに関する営業はすべてB社が行っており,A社長もこのことを熟知していた。 本件1000万円が振り込まれた預金口座の名義は原告であるが,A社長は,原告の運転資金ではなくB社の運転資金としてこれが使用されることを承知していた。 (3) 本件1000万円の使途は限定されていたか。 【原告の主張】本件1000万円は本件事業のためだけに使用することとなっていた。 【被告の主張】被告がB社の運転資金として1000万円の融通をA社長に依頼したところ,A社長から「出してやるけど,銀行に出すので簡単でいいから原告名義の見積書を作ってくれ」との指示があったため,被告は本件事業を記載した見積書を作成したにすぎない。 (4) 本件1000万円はいつ何に使われたか。被告はこれを個人的に費消したか。 【原告の主張】被告は,本件1000万円を,本件事業には使わずに消費した。その使途につきいっさい説明がないので,被告の個人的な費消であると考える。 【被告の主張】本件1000万円は,A社長からの借 告の主張】被告は,本件1000万円を,本件事業には使わずに消費した。その使途につきいっさい説明がないので,被告の個人的な費消であると考える。 【被告の主張】本件1000万円は,A社長からの借入金の利息の返済,B社の名前による中古ピアノ代金等の運転資金の支払い,B社の役員報酬・従業員給与の支払いなどにあてられており,被告の個人的な費消はない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(A社長の代表権)について原告は,本件訴訟につきA社長には有限会社法27条ノ2の授権があると主張し,その証拠として平成16年3月23日付けの社員総会議事録を提出する。そこには,たしかに,平成16年3月23日に原告主張どおりの社員総会決議があったとの記載がある。 一方,上記議事録には次のような記載もある。 「総社員2名総社員の議決権60口出席社員1名この議決権40口定刻取締役Aは議長席に着き,出席社員が法定数に達した旨を告げ,開会を宣し下記議案を満場一致をもって原案通り可決確定した」証拠によれば,原告の社員はA社長とDの2名であり,A社長の出資口数が40口,Dの出資口数が20口であることが認められる。したがって,上記社員総会は,社員2名のうちA社長のみが出席し,Dは欠席して開催されたということになる。これは,原告訴訟代理人が当裁判所に対してした説明とも合致する(同訴訟代理人作成の平成16年4月23日付け上申書)。 ところが,A社長は,本件訴訟の代表者尋問において,被告訴訟代理人からの質問に対し,原告の社員について次のように供述した。 「(原告の)資本金は300万円のようなんですが,いくら分譲り受けたんですか。 全部です。 (中略)あなたが譲り受けた以降は出資者はあなた一人ということなんですね。 はい。 (上記社員総会議事録を 「(原告の)資本金は300万円のようなんですが,いくら分譲り受けたんですか。 全部です。 (中略)あなたが譲り受けた以降は出資者はあなた一人ということなんですね。 はい。 (上記社員総会議事録を示しながら)そうするとこの中には総社員2名となっているんですが,これはどうしてなんですか。 60口についてはEからもらっています。 E分ともう一人分あるということなんですか。 何しろEからもらったことは間違いありません。 総社員が二人という認識があったからそう書いたんじゃないんですか。 そうかもしれないですね。 もう一人には総会を開くことは連絡してないと思いますが,どこに住んでいるか知っているんですか。 (答えない)もう一人が平成16年3月当時にどこに住んでいたかは知っているんですか。 わからないです」また,裁判官からの質問に対しては次のように供述した。 「原告会社の持ち分を持っている社員について,あなたとしては誰が何口持っているという認識なんですか。 私は60口ほどEから譲り受けました。 ほかにはどうなんですか。 Dという人が持っていたようなんですが,それについてはEから話をつけた後で渡すよとは言われていました」原告の社員は実際には2名であるにもかかわらず,A社長は,あたかも社員は自分のみであるかのように語っており,もうひとりの社員であるDに対する顧慮はまったくみられない。このようなA社長の態度からすると,上記社員総会については,総出資口数60口中20口の持分を有するDに対する招集手続はまったく行われていないこと,上記社員総会議事録はA社長が書類の上の形を整えるためだけに作成したことが認められる。これでは社員総会決議があったと法的に評価することはとうていできないから,上記社員総会決議は不存在であるといわざるをえない。 そうすると, 長が書類の上の形を整えるためだけに作成したことが認められる。これでは社員総会決議があったと法的に評価することはとうていできないから,上記社員総会決議は不存在であるといわざるをえない。 そうすると,A社長には有限会社法27条ノ2の授権がなく,本件訴訟において原告を代表する権限がないということになるから,A社長が原告のために訴訟行為をしている本件訴えは訴訟要件を欠き不適法である。本件訴えは却下をまぬがれない。 2 そのほかの争点について上で述べたとおり,本件訴えは不適法として却下すべきであるが,念のため,これがかりに適法であったとした場合にどのような結論になるかを検討する。 (1) 基本的事実関係として摘示した事実と証拠により以下の事実を認める。 ア A社長は金融業や不動産業の知識があり,その知識を駆使し,原告やB社など自分の意のままになる会社や自分の子の名義を使うなどしてみずからの利益を追求する人物である。 イ A社長と被告は古くからのつきあいがあり,また被告は運送業や中古ピアノの取引に明るかったので,A社長は,自分の資金を原告とB社につぎこむ一方,両社の営業は被告に全面的にまかせていた。 すなわち,A社長は,1000万円単位で自分の金を原告やB社に貸し付けた形にし,これに対して両社から毎月一定の利息の支払いを受けることとして,被告に指示して,その利息を自分の子の名義の銀行預金口座に振り込ませていた。被告は,「F」の名義で,原告の子の名義の銀行預金口座に対する利息の支払いを定期的に行っていた。A社長は,このようにして利息の支払いが行われれば,それで満足し,原告とB社の営業の実際には関心を抱かず,被告にまかせっぱなしにしていた。 被告は,A社長から両社に対して貸し付けられた金を,両社の運転資金や,店舗の改装,みずからや他の従業員 ば,それで満足し,原告とB社の営業の実際には関心を抱かず,被告にまかせっぱなしにしていた。 被告は,A社長から両社に対して貸し付けられた金を,両社の運転資金や,店舗の改装,みずからや他の従業員の給与の支払いなどにあてていた。 ウ原告名義,B社名義の銀行普通預金口座の通帳を見ると,A社長からの振込みであることが明らかなものとして以下のものがある。 【原告名義の口座】平成9年6月6日295万4265円9月11日169万9265円11月6日200万円平成12年12月14日125万5600円平成13年6月25日1000万円(本件1000万円)7月31日550万円10月24日700万円【B社名義の口座】平成・年3月19日600万円5月30日249万9580円エ被告は,A社長と相談のうえ,B社については税金の申告をしていたが,原告については税金の申告をしていなかった。 A社長が平成10年に原告名義を使って行った不動産取引について,A社長はこれを被告に報告せず,納税のための資金手当もしなかったため,原告は不動産取得税等の税金が未納となった。A社長も被告もこれを放置したので,東京都品川都税事務所は,平成11年8月19日,滞納処分により原告名義の電話加入権を差し押さえ,売却した。 このようなことがあったので,被告は,以後,中古ピアノの取引は主にB社の名義を使って行うこととした。なお,銀行預金口座については,もともと,原告名義の口座は,A社長からの振込みの入金を受けその払戻しをするのが主な利用方法となっており,取引先との金のやりとりはおもにB社名義の口座を使って行っていた。 オ A社長が本件1000万円を原告名義の口座に振り込むに先立ち,被告は,原告名義で の払戻しをするのが主な利用方法となっており,取引先との金のやりとりはおもにB社名義の口座を使って行っていた。 オ A社長が本件1000万円を原告名義の口座に振り込むに先立ち,被告は,原告名義でA社長宛てに作成した「ピアノ仕入金申し込み」と題する書面を作成し,これを平成13年6月23日,A社長にファクシミリ送信した。この書面には,本件事業のために1000万円が必要であるという趣旨のことが書かれている。被告がここに原告名義を使ったのは,A社長から指示があったためであり,被告自身は,本件1000万円は,本件事業にかぎらず,B社の運転資金や給与支払いなどのために使うつもりであった。実際に本件1000万円の一部はB社の取引のために使われている。 (2) 本件1000万円は原告名義の銀行口座に振り込まれている。しかし,当時,原告とB社はいずれもA社長が代表取締役で被告が取締役となっていた会社であり,本店所在地も同じであったこと,原告名義の電話加入権が差し押さえられたことなどから被告は主にB社の名義で中古ピアノの取引を行っていたこと,A社長は原告とB社の営業の実際には関心を抱かず,貸付金の利息の支払いについてのみ関心を抱いていたこと,被告自身は本件1000万円はB社の運転資金や給与支払いなどのために使うつもりであり,実際にその一部はB社の取引のために使われていることといった上記認定事実を前提にすれば,本件1000万円は原告の営業のためではなくB社の営業のための資金であると認めるのが素直である。少なくとも,これが原告の営業のための資金であると断定するのは困難である。したがってこれが原告の資金であることを前提とする原告の主張は理由がない(争点(2))。 次に,上記の事実に加え,本件1000万円の振込みに先立ちA社長にファクシミリ送信された「ピア は困難である。したがってこれが原告の資金であることを前提とする原告の主張は理由がない(争点(2))。 次に,上記の事実に加え,本件1000万円の振込みに先立ちA社長にファクシミリ送信された「ピアノ仕入金申し込み」と題する書面について,被告は,これはあくまでもA社長の資金調達の便宜のために作成したものにすぎず,本件1000万円の使途が本件事業に限定されていたわけではないという趣旨の供述をし,これを否定するだけの材料がみあたらないことを考慮すれば,本件1000万円の使途が本件事業のみに限定されていたと認めることもできない(争点(3))。 さらに,本件1000万円は,その一部がB社の取引のために使われていることは明らかである一方,被告がこれを個人的な目的のために費消したことを認めるだけの証拠はない(争点・)。 以上のとおり,本件の事実関係を前提にすれば,争点(2)~(4)のいずれについても,原告の主張を採用することは困難であるといわざるをえない。したがって,かりに本件訴えが適法であるとしても,原告の請求は棄却をまぬがれない。 甲府地方裁判所民事部裁判官倉地康弘
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