- 1 - 主文 本件抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。 所論にかんがみ,職権をもって判断すると,所論引用の各証拠が同法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらず,本件再審請求を棄却すべきものとした原判断は,正当として是認することができる。 その理由は以下のとおりである。 1 本件再審請求の対象は,殺人,窃盗の事実を認定して申立人に懲役16年を言い渡した第1審判決(以下「確定判決」という。)である。この判決に対しては,申立人が控訴,上告を申し立てたが,いずれも棄却されて確定したものである。 (1) 確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨は次のとおりである。 申立人は,第1 昭和52年4月ころから千葉県山武郡においてスナックa店を経営し,カラオケスナックとして盛況であったところ,同店に客として来ていたAと知り合い,昭和54年8月ころ同人から千葉市にある同人が営業権を持つ喫茶店の経営をもやってみないかと持ち掛けられ,いったんは乗り気になったが,その後同人が暴力団関係者であると聞き知って渋る態度を見せたことから,同人との間でもん着を生じ,結局は仲に入る者があって,同年12月ころb店としてその経営を引き受けることにしたものの,その営業は間もなく赤字状態になり,そのうちa店の方の経営も思うに任せない状態に陥ったことで,銀行からの借入金についての返- 2 -済も滞りがちになってきたため,昭和56年に入ってからはb店から手を引くことを考え出していたのに,かえってAの方から,b店を800万円くらいでほ ったことで,銀行からの借入金についての返- 2 -済も滞りがちになってきたため,昭和56年に入ってからはb店から手を引くことを考え出していたのに,かえってAの方から,b店を800万円くらいでほかに売れればよいが,そのあてがつかなければ申立人が同金額で買い取れとばかりに言われた上,さらに,銃の取得に執心していた同人から申立人が所持免許を得て所有していた銃を譲ってくれとも言われるに至って,そのいずれにも応じることができず,さりとて,これらを断れば,同人が暴力団関係者でもあるので,どのような態度をとられるかもしれないと思い,これが対処に苦慮し続けていた中で,同人とそれまで延び延びになっていた話を同年11月25日午後8時ころに会ってする旨打ち合わせていたのに従い,そのころ単身自動散弾銃及び散弾実包を所持して出掛け,同人とともに千葉県市原市c内にまで至った際,同日午後8時15分ないしその前後ころ,上記cd番地内において,上記A(当時35歳)に対し,いっそのこと,この際に同人を殺害してしまおうとの意図のもとに,所携の上記単身自動散弾銃で同人目掛け3発の散弾実包を次々に発射して,同人の左肩部,左背部及び左腹部に各命中させ,よって同人をして即時同所の麦畑内において左上腹部銃創による外傷性ショックにより死亡させて殺害し,第2 同日時ころ,上記麦畑内において,同人所有の現金40万円及びこの現金の入っていた財布1個を窃取したものである。 (2) 申立人は,公判において,自分は上記各事件の犯人ではない旨主張したが,確定判決は,申立人が犯人であることを認めた。確定判決がその根拠とした証拠関係の要点は,次のアないしオである。 ア被害者の死体内に3発の散弾が打ち込まれており,また,被害者の死体が発見された場所において,3個の散弾の空薬きょう(以下「現 確定判決がその根拠とした証拠関係の要点は,次のアないしオである。 ア被害者の死体内に3発の散弾が打ち込まれており,また,被害者の死体が発見された場所において,3個の散弾の空薬きょう(以下「現場空薬きょう」とい- 3 -う。)が発見された。他方,申立人は,KFC単身散弾銃(以下「本件散弾銃」という。)を所持していた。警察庁技官Bが,本件散弾銃によって試射した空薬きょう(以下「B試射空薬きょう」という。)と現場空薬きょうとを比較したところ,撃針痕以外の痕跡(遊底頭痕,抽筒痕,蹴子痕等)については特徴の一致が見られることから,現場空薬きょう3個は,うち2個については本件散弾銃で撃発使用されたと認められ,その余の1個についてはその可能性が極めて大きいといえるものであったが,撃針痕のみは,いずれについても特徴の一致が確認されず,B試射空薬きょうの撃針痕には,現場空薬きょうの撃針痕にはない擦削痕が認められた。この結果等からすれば,現場空薬きょうは本件散弾銃から撃発使用されたものと認められるところ,B試射空薬きょうの撃針痕にある擦削痕は,現場空薬きょうが本件散弾銃から撃発使用された後に,本件散弾銃の撃針に加工が施されたために生じたと認められ,関係証拠によれば,上記擦削痕は申立人によって作り出された撃針の加工に基づくものといわざるを得ない。 イ被害者が経営するスナックであるeの従業員の供述,被害者の胃の内容物,死体発見現場近隣の住人がドドンという大きな音を二,三回聞いたとの供述,被害者の死体の発見状況等から,被害者の死亡時期は,昭和56年11月25日午後8時15分ころと認められる。 ウ本件散弾銃は,申立人が施錠して保管していたものであり,申立人以外の者が本件散弾銃を同月25日に持ち出して使用した形跡はない。 エ申立人の経営す 25日午後8時15分ころと認められる。 ウ本件散弾銃は,申立人が施錠して保管していたものであり,申立人以外の者が本件散弾銃を同月25日に持ち出して使用した形跡はない。 エ申立人の経営するa店の客や従業員等の供述を総合すれば,申立人は,同月25日午後7時50分過ぎないし55分前後ころに同店から出て同日午後8時30分ないしその少し前ころまでに同店に帰ってきたと認められる。本件殺害現場と見- 4 -られるc内で相応の時間滞在するとしても,上記時間内にa店と本件殺害現場とを往復することは可能である。 オ被害者の妻やeの従業員等の供述等によれば,被害者は,同月25日午後8時に人と会うために,同日午後7時45分ころeを出たが,その際,少なくとも40万円の現金を所持していた。この現金は,死体発見現場で発見されておらず,同現場の状況等に照らせば,殺害犯人によって持ち去られたものと認められる。他方,申立人は,当時銀行から残額約600万円その他の借財があり,昭和56年4月分からは支払が遅延しがちで,同年9月及び10月分については,申立人の妻が支払の督促を受け,同女が支払に苦慮していたところ,同年11月28日に,申立人によって両月分の支払がなされている(なお,記録によれば,同日,申立人の銀行口座に金53万円が入金され,その中から両月分の合計42万9993円の支払がなされている。)が,この現金を申立人がどのように工面したかについては,合理的に明らかにする事情は見いだせない。 2 所論は,再審請求審において提出した7点の新証拠と確定審における旧証拠とを総合評価すれば,申立人の犯人性を認定した確定判決の判断には合理的な疑いが生ずるとして,原決定がこれらの証拠につき「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした判断は誤りであるという。 拠とを総合評価すれば,申立人の犯人性を認定した確定判決の判断には合理的な疑いが生ずるとして,原決定がこれらの証拠につき「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした判断は誤りであるという。 すなわち,申立人は,(1) ①C及びD作成の鑑定書(以下「C・D鑑定」という。),②E作成の「撃針痕」と題する書面(以下「E鑑定」という。),③F作成の鑑定書(以下「F鑑定」という。)によれば,申立人が捜査段階の供述調書で自白するような方法,すなわち,普通分解の状態(銃身の外側を外したのみの状態のことをいう。)で,本件散弾銃の撃針先端を遊底頭面から突出させ,甲丸ヤスリ- 5 -や紙ヤスリを使って削るとの方法によっては,本件散弾銃にあるような撃針の加工は不可能であることが明らかになった(あるいは,そもそも撃針の加工はなされていないことが明らかになった,自白調書にある方法を離れても普通分解の状態では本件散弾銃にあるような撃針の加工は不可能であることが明らかになった),(2)④G作成の鑑定書(以下「G鑑定」という。)によれば,現場空薬きょうが放置されていたのと同じ条件の下では,必ず指紋が残るから,現場空薬きょうに申立人の指紋が検出されていないことによって,現場空薬きょうと申立人とのつながりがないことが明らかになった,(3) ⑤H作成の鑑定書(以下「H鑑定」という。)によれば,確定判決が説示する殺害状況と被害者の遺体に残された銃創等は相いれないものであることが明らかになった,(4) ⑥Iの供述録取書(以下「I供述」という。)及び⑦Jの供述書(以下「J供述」という。)によれば,申立人が,b店の経営をやめるに際し,被害者から800万円を要求されていたことや,被害者から銃を譲るよう要求されていたことはなかったと認められるから,申立人に犯行の動機 J供述」という。)によれば,申立人が,b店の経営をやめるに際し,被害者から800万円を要求されていたことや,被害者から銃を譲るよう要求されていたことはなかったと認められるから,申立人に犯行の動機がないことが明らかになった旨主張した。これに対し,原決定は,上記各証拠のうち,③,⑤,⑦の証拠については新規性を認め,他方,①,②,④,⑥の証拠については「あらたに発見」されたものであるかには問題があるとしつつ,その判断を留保した上,上記①ないし⑦の証拠について,「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるかを検討し,いずれもこれに当たらないと判断した。所論は,原決定の上記判断を争うものである。 3 そこで,当審において,所論の引用する新証拠及びこれに関連する旧証拠を検討したが,以下に述べるとおり,原決定の判断に誤りがあるとはいえない。 (1) C・D鑑定,E鑑定及びF鑑定について- 6 -申立人は,捜査段階において本件各犯行を行ったこと及びその後本件散弾銃の撃針を加工することによる罪証隠滅工作(本件散弾銃を普通分解の状態にして甲丸ヤスリ及び紙ヤスリで撃針を切削研磨したというもの)を行ったことを認める内容の供述をしており,その旨の自白調書が存在する。しかし,確定判決は,これらの自白調書を除外した証拠のみによって,前記アないしオ記載の事実を認定し,これによって申立人が犯人であることを認定しているのであり,他方,申立人がその自白調書にある方法によって撃針を加工したと認定しているものでないことは,その判文上も明らかである。そして,確定判決は,撃針痕の不一致については,事後に普通分解(申立人がそのような操作をすることが可能であったことは明らかである。)の状態で本件散弾銃にあるような撃針の加工をすることが可能であると認められ,かつ,その加工 痕の不一致については,事後に普通分解(申立人がそのような操作をすることが可能であったことは明らかである。)の状態で本件散弾銃にあるような撃針の加工をすることが可能であると認められ,かつ,その加工をする機会があったのは申立人のみであるから,これをもって上記認定を揺るがすものではないとしているものである。 そうすると,C・D鑑定,E鑑定及びF鑑定によれば,申立人の自白調書にある方法によっては本件散弾銃にあるような撃針の加工が不可能であることが明らかになったとする所論は,そもそも確定判決の認定に影響を及ぼすものとはいえない。 また,関係証拠によれば,本件散弾銃の撃針先端には加工痕が存することが明らかであるところ(申立人は,本件散弾銃の撃針先端に加工がなかったことを証明するためにE鑑定を提出しているが,同鑑定はそのような事実を証明するものとはいえない。),C・D鑑定及びF鑑定は,本件散弾銃と同型の散弾銃について普通分解の状態で撃針を加工してみたところ,本件散弾銃の撃針に見られるような加工痕を付けることはできなかったというのであるが,撃針を突出させられる程度や加工によってそこに傷が付けられる程度は,銃の個性や実験者の力の入れ具合,銃の取扱- 7 -い経験の深浅等によって大きく影響を受けることは,散弾銃の実包の寸法や撃針先端の硬度について規格が定められていること,F鑑定における加工実験者が銃器について技術経験が豊富な者であること等所論の指摘を踏まえて検討しても,明らかといわざるを得ないから,上記各鑑定におけるそれぞれ1丁の銃での撃針加工実験の結果をもって,申立人の自白調書に記載された方法を離れても,およそ申立人が本件散弾銃の撃針にあるような加工痕を生じさせることが不可能であったことを証明するものとはいえない。以上によれば,上記各鑑定は,撃針 もって,申立人の自白調書に記載された方法を離れても,およそ申立人が本件散弾銃の撃針にあるような加工痕を生じさせることが不可能であったことを証明するものとはいえない。以上によれば,上記各鑑定は,撃針痕以外の痕跡の特徴の一致から現場空薬きょうは本件散弾銃により撃発使用されたものであるとし,本件散弾銃の撃針にある加工痕は申立人によって事後に作り出されたものといわざるを得ないとした確定判決の認定を左右するものとはいえない。 (2) G鑑定についてG鑑定は,Gが実験の試料として撃発した実包の空薬きょうには,その指紋残存程度は様々であるものの,全く指紋検出が不可能であるものはなかったというものであるが,その空薬きょうのすべてについて指紋対照が可能であったかは明らかでない上,その実験方法も,散弾実包に手指が接触した時の状況や,撃発から空薬きょうが発見されるまでの状況等には様々な条件があり得るのに,これが十分に考慮されているとはいえない。そうすると,同鑑定によっても,本件の現場空薬きょうから指紋が検出されないことが格別不自然であるとはいえないから,同鑑定は,現場空薬きょうが申立人により撃発使用されたとする確定判決の認定を左右するものではない。 (3) H鑑定についてH鑑定は,確定判決が説示する銃発射の際における犯人と被害者との位置関係,- 8 -行動,姿勢等,被害者の各部位に散弾実包を命中させた順序等は,被害者の遺体に残された銃創等と相いれないとするものであるが,前記のとおり,確定判決は,前記アないしオの証拠関係に基づき申立人が犯人であることを認めたのであり,確定判決説示中にある上記のような意味での殺害状況は,申立人が犯人であることの認定に直接関係するものではない(最高裁平成7年(し)第49号同10年10月27日第三小法廷決定・ ことを認めたのであり,確定判決説示中にある上記のような意味での殺害状況は,申立人が犯人であることの認定に直接関係するものではない(最高裁平成7年(し)第49号同10年10月27日第三小法廷決定・刑集52巻7号363頁参照)。また,確定判決中の上記のような意味での殺害状況に関する説示は,控訴審判決がこれをそのまま肯認していないことが明らかである上,申立人が被害者に対し,近距離ないし至近距離から,本件散弾銃で散弾実包3発を連続的に発射して,被害者の左肩部,左背部及び左腹部に命中させたという事実に変わりがない限りは,そもそも確定的に認定する必要があったともいえないものである。したがって,H鑑定を根拠に確定判決の殺害状況に関する説示部分を論難する所論は,確定判決が申立人が犯人であると認定したことに影響を及ぼすものではない。 (4) I供述及びJ供述について所論は,確定判決が,申立人と被害者との間にb店の経営を手放すことに関してトラブルがあったことや,被害者が申立人に対して銃を譲渡するように執ように要求していたことを申立人の本件犯行の動機として認定していることについて,I供述及びJ供述によれば上記のような動機に関する各事実は認められないという。しかしながら,確定判決においては,申立人の犯行の動機は,申立人が犯人であることの根拠とはされておらず,申立人に被害者殺害の動機がないとの主張に対し,上記のような各事実を指摘して,殺害に至るそれなりの動機が存しないというものではない旨判示しているにすぎない上,上記のような各事実については,他の関係者- 9 -の供述等により優に認定できるところであって,I供述及びJ供述がこれを左右する内容とはいえない。 以上によれば,申立人が本件殺人,窃盗の犯人であるとした確定判決の事実認定に合理的な疑いを -の供述等により優に認定できるところであって,I供述及びJ供述がこれを左右する内容とはいえない。 以上によれば,申立人が本件殺人,窃盗の犯人であるとした確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせる余地はなく,本件につき刑訴法435条6号所定の再審事由は認められないとした原決定は相当である。 よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁判官白木勇)
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