平成15(ワ)1170 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年2月17日 仙台地方裁判所
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判決文本文7,927 文字)

主文 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,3033万8921円及びこれに対する平成14年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,3033万8921円及びこれに対する平成14年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 この判決は,第1項,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,3127万6567円及びこれに対する平成14年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,3127万6567円及びこれに対する平成14年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡Gの両親である原告らが,小学生のHとIがキャッチボールをしていた際に,誤ってボールをGの心臓部に当てたためGが死亡したとして,H及びIの各両親である被告らに対し,民法712条,714条1項(監督者責任)に基づき,損害賠償金(及びその遅延損害金)を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 原告A及び同Bは,Gの父及び母である。 被告C及び同Dは,Hの共同親権者たる父及び母である。 被告E及び同Fは,Iの共同親権者たる父及び母である。 (2) 平成14年4月15日午後4時前ころ,Gは,宮城県柴田郡a町字b町所在のc公園内で,HとI(以下,この両名を「Hら」という。)がキャッチボールをする付近に立っていたところ,突然その場に倒れ込み,救急車で病院に搬送されたが,同日午 ころ,Gは,宮城県柴田郡a町字b町所在のc公園内で,HとI(以下,この両名を「Hら」という。)がキャッチボールをする付近に立っていたところ,突然その場に倒れ込み,救急車で病院に搬送されたが,同日午後7時45分ころ死亡した(以下「本件事故」という。)。 (3) 本件事故当時,Hは9歳10か月,Iは9歳8か月で,いずれも責任無能力者であった。 2 争点(1) 本件事故の際,Hの投げたボールがGに当たったか(2) Gの死因(3) Hらの過失及びGの死亡に対する責任の有無(4) 原告らの損害額 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(本件事故の際,Hの投げたボールがGに当たったか)について(原告らの主張)Hがピッチャー,Iがキャッチャーをして,野球のキャッチボールをしていた際,HがIに向けて投げた野球ボールがそれ,Iの右後方約1.5メートルの地点にいたGの心臓部に当たって,本件事故となった。 (被告らの主張)Hの投げたボールがGに当たったことを認める証拠はない。 (2) 争点(2)(Gの死因)について(原告らの主張)Hの投げたボールがGの心臓部に当たった結果,Gに心臓振盪が生じて死亡した。 (被告らの主張)Gの死因は,心臓振盪以外の可能性もあって不明であり,心臓振盪によって死亡したことが証明されているとはいえない。 (3) 争点(3)(Hらの過失及びGの死亡に対する責任の有無)について(原告らの主張)ア Hらがキャッチボールをしていた際のc公園内の状況からして,投げたボールが付近にいた子供たちに当たることは十分に予見され,ボールが る責任の有無)について(原告らの主張)ア Hらがキャッチボールをしていた際のc公園内の状況からして,投げたボールが付近にいた子供たちに当たることは十分に予見され,ボールが当たった場合にはその者に傷害や死亡の結果が生じることも予見しえたのであるから,Hらはそのような危険な場所でのキャッチボールをすべきでなかったのに,これを行った過失がある。 イ Hら及び被告らに,ボールが人の身体に当たって心臓振盪を生じることの予見可能性がなかったとしても,ボールが当たって人を死亡させることの予見は可能であったから,Gの死亡についても被告らの責任が及ぶ。 (被告らの主張)ア Hら及び被告らには,小学生の投げたボールが人の身体に当たることによって心臓振盪を生じさせることは予見不可能であった。 イそもそも,小学4年生が投げた軟式野球ボール(C球)が約20メートルも離れた人に当たった場合に死亡すること自体,予見不可能であった。 (4) 争点(4)(原告らの損害額)について(原告らの主張)原告らの損害は次のとおりである。 ア Gの損害(ア) 逸失利益  3447万1294円(イ) 慰謝料 2200万円(ウ) 原告らの相続原告らは,Gの上記計5647万1294円の損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した(各2823万5647円)。 イ原告ら固有の損害(ア) 治療費 8万1840円(イ) 葬儀費用 200万円(ウ) 弁護士費用 400万円(エ) 原告らの (ア) 治療費 8万1840円(イ) 葬儀費用 200万円(ウ) 弁護士費用 400万円(エ) 原告らの各損害原告らは,上記費用計608万1840円を2分の1ずつ負担した(各304万0920円)。 (被告らの主張)原告らの損害額は争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件事故の際,Hの投げたボールがGに当たったか)について(1) 前記争いのない事実に,証拠(甲4,19,20,25,28,原告B,被告C各本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。 ア Hらがキャッチボールをしていた際,キャッチャーをしていたIの右後方約1.5メートルの地点にGが立っていたところ,Hが投げたボールがGの方向にそれ,その直後に,Gがうずくまるようにしてその場に倒れ込んだ。 イ本件事故の後,事故現場に駆けつけた原告Bに対し,Hが「僕が投げたボールが当たって倒れた」旨話している。 ウ原告Bは,本件事故直後に現場に駆けつけたGの友人の祖母からも,「男の子が『僕が投げたボールが当たった』旨言っていた」と聞いている。 エ Gが搬送された病院内で,被告CもGの祖母に対し,「うちの息子が投げたボールが当たったそうで」と言っている。 オ本件事故当日の午後5時から始められた警察官による本件事故現場の実況見分の際,Hは警察官に対し,「キャッチャーをめがけてボールを投げたところ,間違って,立っていたGにぶつかった」「Gは両手で胸を押さえ,苦しがりながら倒れた」旨の説明をしている(この実況見分の際にはHらの通う学校の先生やIの祖父も立ち会ってい がけてボールを投げたところ,間違って,立っていたGにぶつかった」「Gは両手で胸を押さえ,苦しがりながら倒れた」旨の説明をしている(この実況見分の際にはHらの通う学校の先生やIの祖父も立ち会っている。)。 カ Gの通学していたa町立d小学校長がa町教育委員会教育長に宛てた本件事故の報告書においても,「H児のI児に向かって投げたボールが左にそれ,近くで遊んでいたG児の腹部に当たった」「G児は「痛い」と言ってしゃがみ込み,崩れるようにその場に倒れた」旨の記述がされている。 キ本件事故現場に臨場した救急隊員が搬送先の病院へ,「公園で野球をしていて,ボールが胸に当たったもの」と連絡している。 ク本件事故後にGが搬送された病院の診療録にも,「軟球が前胸部/腹部に」と記載されている。 (2) 上記事実によれば,本件事故の際,Hの投げたボールがGの胸腹部に当たったと認めるのが相当である。 これに対し,被告らは,ボールがGに当たったことを目撃した者はいないことや,Gの死体解剖においてボール打撲痕が確認できなかったことなどから,Gにボールが当たったとはいえない旨主張し,被告Cや同Eの供述及び陳述(乙4,5,14)もこれに沿うが,被告Cや同Eの供述及び陳述によっても,HやIが「Gにボールが当たらなかったのを見た」と述べているわけではないことや,ボールが胸腹部に当たっても明らかな打撲痕を残さないことがあること(甲24)などに照らすと,上記認定を覆すことはできない。 2 争点(2)(Gの死因)について(1) 証拠(甲4,11の1,14,16,17の2及び3,19ないし26,28,29,証人J,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア Gは,本件事故当日ま (1) 証拠(甲4,11の1,14,16,17の2及び3,19ないし26,28,29,証人J,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア Gは,本件事故当日まで,普通の健康な小学生で,学校の健康診断でも特段の問題が指摘されることはなかった。また,日常生活において失神発作を起こすとか,動悸を訴えることはなく,死亡につながりうる程度の危険性の高い不整脈の症状や既往歴はなかった。 イ本件事故当日も,Gが特に健康状態を悪化させていた事情はなく,Hの投球の打撃を受けるまでは,いつものように友人らと元気に遊んでいた。 ウ Gは,Hの投球を胸腹部に受けた直後,全身虚脱の状態となり,救急隊が到着した時点では既に心肺停止の状態となっていた。 エ医師JによるGの死体解剖の結果は,次のとおりであった。 (ア) 胸郭を含めた胸腹部諸臓器や頭蓋内に損傷はなく,外部からの打撲エネルギーが諸臓器の挫滅や挫傷といった明らかな損傷を引き起こした所見はなかった。 (イ) 諸臓器には急死を引き起こすような器質的疾患の存在は認められなかった。 (ウ) 不整脈の原因となる器質的なものはなかった。 (エ) やや高度な肺の炎症はあったものの,それも含めて死因に直接つながる異変は確認できなかった。 オ心臓振盪は,心臓上の胸壁に打撃が加わって心臓が停止する状態で,心臓一周期のうちの限局された時間帯に打撃を受けたときに生じる。打撲痕がない程度の弱い衝撃でも発生することがあって,下手投げでゆっくり投げた柔らかい野球ボールが6歳の子供のグローブをはねて胸部に当たったことによって心臓振盪が生じた例も報告されており,胸壁上の打撃が直接心臓に影響を及ぼしやすい若年者に好発するとされて げでゆっくり投げた柔らかい野球ボールが6歳の子供のグローブをはねて胸部に当たったことによって心臓振盪が生じた例も報告されており,胸壁上の打撃が直接心臓に影響を及ぼしやすい若年者に好発するとされている。 これまでの研究において,心臓振盪の診断基準は,①心肺停止の直前に前胸部に非穿通性の衝撃を受けたこと,②詳細な発生状況(衝撃の手段や衝撃後の状態等)が判明していること,③胸骨,肋骨及び心臓に構造的損傷がないこと,④心血管系に奇形が存しないこと,であるとされている。 (2) Gの死体を解剖したJ医師は,その鑑定書(甲24)において,解剖の結果やGの本件事故前後の状況をふまえ,Gの死因を原因不明の急性循環不全とした上で,「ボール打撲後の突然死」が引き起こされた可能性があるとし,さらに,同医師は,証人尋問において,「心臓振盪という判断ができるというのが鑑定書の結論である」旨の証言をしている。 (3) K医師は,その意見書(甲11の1)において,心臓振盪に関する研究結果や臨床例を紹介した上で,Gの死因を考察し,Gの本件事故前後の状況をもふまえて,「心臓振盪が生じた可能性は充分にあり得る」としている。 (4) L医師も,その意見書(甲26)において,上記(1)オの診断基準が妥当であるとした上で,この診断基準に基づいてGの死因を検討した結果,心臓振盪と診断するのが妥当であるとしている。 (5) 他方,被告らは,Gの死因は心臓振盪以外の可能性もあって不明である旨主張し,被告Eの陳述書(乙14)にも同旨の記載がみられるが,被告らが可能性があるとして指摘する死因はいずれも具体的根拠に乏しく,かえって,被告らが指摘する肺の炎症,花粉症治療薬の副作用,熱射病については,J医師が,Gの解剖所見に基づいて,医学的見地 るが,被告らが可能性があるとして指摘する死因はいずれも具体的根拠に乏しく,かえって,被告らが指摘する肺の炎症,花粉症治療薬の副作用,熱射病については,J医師が,Gの解剖所見に基づいて,医学的見地から,それらを死因とみることに否定的見解を示している(甲24,証人J)。 他に,心臓振盪以外のGの死因を窺わせる証拠はない。 (6) 以上によれば,GはHの投球を胸腹部に受けて心臓振盪を引き起こし,死亡したことが高度の蓋然性をもって証明されたというべきであり,Gの死因を心臓振盪と認定するのが相当である。 3 争点(3)(Hらの過失及びGの死亡に対する責任の有無)について(1) 証拠(甲4,5,19,20,乙4,5,原告B,被告C各本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当日にHらがキャッチボールをしていた状況等について,次の各事実が認められる。 ア Hらがキャッチボールをしていたc公園は,東西に43.5メートル,南北に51.3メートルの長方形にかたどられた公園で,その南側半分はグラウンドとなっており,北半分には,通路の東側に砂場,ブランコ,シーソー,滑り台,グローブジャングルなどの遊具が設けられ,通路の西側には木製樹木棚等が設けられていた。 イ Hらは,友人のMとともに,c公園内南側のグラウンドで軟式野球ボール(C球)を用いてキャッチボールをしていたが,同グラウンドで中学生がサッカーを始めたので,Hらは同公園内北側に移動してキャッチボールを続けた。 ウ本件事故が発生した当時は,Hがピッチャーとなり,東方に約17メートル離れたキャッチャーのIを目がけて投球していたが,Iの近くにはグローブジャングル,滑り台などの遊具があり,Gの妹ほか数名の小学生が滑り台などで遊んでいた。Gは,Iの右後 となり,東方に約17メートル離れたキャッチャーのIを目がけて投球していたが,Iの近くにはグローブジャングル,滑り台などの遊具があり,Gの妹ほか数名の小学生が滑り台などで遊んでいた。Gは,Iの右後方約1.5メートルの地点に立って妹らの遊ぶ滑り台を見るなどしていたが,そのとき,Hの投げたボールがそれてGに当たった。 エ Hは,本件事故当時,スポーツ少年団の軟式野球チームに所属し,本件事故以前から,友人や父親の被告Cとしばしばキャッチボールをしていた。 (2) 上記認定事実によれば,Hらは,本件事故当時の公園の状況でキャッチボールをすれば,ボールがそれてGら他人にあたることが十分に予見でき,軟式野球ボール(C球)が他人に当たった場合に,その打撃部位によっては他人に傷害を与え,さらには死亡するに至らせることがあることも予見しえたというべきであるから,Hらは,かかる危険な状況でのキャッチボールを避けるべき注意義務があったのに,漫然とこれを行った過失があるといわざるをえない。 被告らは,心臓振盪による死亡を予見することは不可能であった旨主張するが,心臓振盪等の具体的死亡経過について予見できなかったとしても,ボールがそれて他人に当たること,それによって死亡することもあることの予見可能性があった以上は,死亡の結果に対する責任も免れないというべきである。 また,被告らは,小学4年生が投げた軟式野球ボール(C球)が約20メートルも離れた人に当たった場合に死亡すること自体予見不可能であった旨主張するが,小学4年生といえども,ピッチング練習として力を込めて投げたボールが無防備の人の頭部や心臓部等の枢要部に当たった場合に,その人が死亡することもありうることは,一般人にとっても十分に予見でき,その予見可能性がなかっ えども,ピッチング練習として力を込めて投げたボールが無防備の人の頭部や心臓部等の枢要部に当たった場合に,その人が死亡することもありうることは,一般人にとっても十分に予見でき,その予見可能性がなかったとはいえない。 (3) 被告らは,キャッチボールのボールが当たって他人を死亡させる結果が生じることは予見しえないから,親として子にこれを指導監督する義務はないとも主張するが,これが採用しえないことは前記のとおりである。 4 争点(4)(原告らの損害額)について(1) Gの損害賠償請求権の相続ア Gの損害(ア) 逸失利益 3415万3291円前記争いのない事実によれば,Gは死亡当時10歳の男子であり,その逸失利益は次のとおり3415万3291円と認めるのが相当である。 a 年収額(平成14年度賃金センサス産業計・企業規模計・男子学歴計・全年齢平均)555万4600円b 生活費控除 50パーセントc 中間利息控除就労終期(67歳)までのライプニッツ係数 18.7605就労始期(18歳)までのライプニッツ係数 6.4632d 計算式5,554,600×(1-0.5)×(18.7605-6.4632)=34,153,291(イ) 慰謝料 2100万円本件に顕れた諸般の事情を勘案すると,Gの死亡慰謝料としては,2100万円が相当である。 イ相続前記争 謝料 2100万円本件に顕れた諸般の事情を勘案すると,Gの死亡慰謝料としては,2100万円が相当である。 イ相続前記争いのない事実によれば,原告らは,Gの上記計5515万3291円の損害賠償請求権を2分の1ずつ相続したことが認められる(各2757万6645円)。 (2) 原告ら固有の損害ア治療費 2万4552円証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,原告らはGの治療費として,2万4552円を支払ったことが認められる。 イ葬儀費用 150万円弁論の全趣旨によれば,葬儀費用として150万円の限度で認めるのが相当である。 ウ弁護士費用 400万円弁論の全趣旨によれば,本件訴訟の弁護士費用として,原告らの請求する範囲で400万円を認めるのが相当である。 エ原告らの負担弁論の全趣旨によれば,原告らは,上記費用計552万4552円を2分の1ずつ負担したものと認められる(各276万2276円)。 (3) 合計上記(1)及び(2)の合計金額は,原告ら各3033万8921円となる。 5 結論以上によれば,Gは責任無能力者であるHらの共同不法行為によって死亡するに至ったことが認められ,被告らに監督義務懈怠がないことが認められない本件においては,被告らは,民法712条,714条1項に基づき,原告らの上記損害について賠償義務を負うというべきである。 よって,原告らの請求は,各3033万8921円及びこれに対する不法行為の日である平成14年4月15日から支払済みまで に基づき,原告らの上記損害について賠償義務を負うというべきである。 よって,原告らの請求は,各3033万8921円及びこれに対する不法行為の日である平成14年4月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し(弁護士費用の認容額(請求額)が認容損害額の1割を大きく下回ることなどに鑑み,その中間利息は控除しない。),その余は理由がないから棄却する。 なお,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから,これを却下する。 仙台地方裁判所第二民事部裁判官田村幸一

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