平成29年2月13日宣告平成28年(わ)第25号判決 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,母A(当時56歳)及び妹B(当時26歳)の死亡保険金を取得する目的で,同人らが現に住居に使用し,かつ,現にいる大分県豊後高田市ab番地c所在の木造スレート葺2階建居宅(延べ床面積約152平方メートル。以下「本件居宅」という。)に放火して,同居宅2階で就寝中の同人らを殺害しようと考え,平成26年12月19日午前4時頃,同居宅1階東側居間において,殺意をもって,何らかの方法により,火を放ち,その火を同居宅の床,壁,天井等に燃え移らせ,よって,同居宅を全焼させて焼損するとともに,その頃,同居宅内において,前記A及び前記Bを焼死させて殺害したものである。 (証拠の標目)括弧内の甲乙の数字は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。 ・被告人の公判供述・証人C,同D,同E,同F,同G,同H,同Iの各公判供述・ J(甲89),K(甲90),L(甲91),M(甲93),N(甲94)の各検察官調書抄本・捜査報告書(甲73ないし78,80ないし86,88)・写真撮影報告書(甲79)・電磁的記録媒体複写報告書(甲87)・戸籍全部事項証明書(乙25) (争点に対する判断)第1 弁護人は,本件火災は電気火災など放火以外の原因によって発生した可能性が排斥できないから,放火とは認められないと主張する。また,被告人は本件居宅に放火しておらず,被害者らを殺害した犯人ではないと主張する。 そ 件火災は電気火災など放火以外の原因によって発生した可能性が排斥できないから,放火とは認められないと主張する。また,被告人は本件居宅に放火しておらず,被害者らを殺害した犯人ではないと主張する。 そこで,本件の主たる争点は,①本件火災の原因が放火であるか(事件性)及び②被告人が放火の犯人であるか(犯人性)である。 第2 本件火災の原因が放火であるか(事件性) 1 前提事実関係証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件火災は,遅くとも平成26年12月19日午前4時10分頃(以下,年の記載を省略した月日は,平成26年のことであり,また,時刻のみを記載した場合は,同日のことである。)には,本件居宅の居間東側の出窓から炎が出る状態になっており,午前4時15分に119番通報があり,消防隊の消火活動により本件火災は午前5時5分頃に鎮圧,午前6時10分頃に鎮火した。 (2) 本件火災により,本件居宅は全焼したほか,北側隣家の雨樋が溶けるなどした。本件火災当時,A及びBは本件居宅2階で就寝中であり,本件火災により焼死した。 (3) 本件火災の出火場所について,大分県警察科学捜査研究所職員Gは,焼損状況等から,本件居宅1階居間東側のこたつとソファーの間であると判断した。Gは,火災事件について十分な知識経験を有し,本件火災発生の当日及び翌日に現場を直接確認した上で意見を述べており,その判断に疑問の余地がない。 (4) 出火場所付近には,こたつと電気カーペットがあった。Aらは電気製品としてこたつを使っておらず,電気カーペットを使っており,東の壁側のコンセントにつながったテーブルタップから電源を取っていた。また,Aらが携帯電話機の充電器やノートパソコンを使用するときは,それぞれテーブルタップから電源を取っていた。 2 電気火災の可能 セントにつながったテーブルタップから電源を取っていた。また,Aらが携帯電話機の充電器やノートパソコンを使用するときは,それぞれテーブルタップから電源を取っていた。 2 電気火災の可能性について(1) 科学警察研究所火災研究室の元職員であるEは,本件出火場所付近に存在した電気製品であるこたつ,電気カーペット,テーブルタップ,携帯電話機の充電器及びノートパソコン並びにプラグ,コンセント,延長コード等の配線器具が出火原因になった可能性はないと判断した。具体的には,次のとおりである。 ア電気製品の本体部分から出火した可能性こたつの燃え残ったヒーター部分に異常はなく,そこから出火した可能性はない。 また,電気カーペットは,構造上,異常発熱を検知するとヒーターが切れるため,そこからの出火もないと考えられる。仮にコントローラーが発熱し,その下が焦げても,本件居宅居間の電気カーペットの下にはい草のカーペットも敷かれていたため,空気の供給が足りず,燃え広がる事態になるとは考えられない。さらに,携帯電話機の充電器は発熱するほどの消費電力がないし,ノートパソコンや携帯電話機の充電池の発火事例は特殊な事案であるから,これらから出火した可能性もない。 イ配線器具から出火した可能性プラグ,コンセント,コードといった配線器具から火災が発生する場合,火災原因としては,電流の経路によって,①漏電,②直列故障,③並列故障のいずれかに分類されるが,以下のとおり,本件においてはいずれの可能性もない。 (ア)漏電について漏電は,建物の外壁や屋根等に金属の造営材を使用する場合に,電線と接触して電線の被覆が損傷すると,電流が造営材を伝って地面に漏れてしまい,その際に発熱する現象である。しかし,本件居宅の1階居間には,そのように電流が地面に流れるよ の造営材を使用する場合に,電線と接触して電線の被覆が損傷すると,電流が造営材を伝って地面に漏れてしまい,その際に発熱する現象である。しかし,本件居宅の1階居間には,そのように電流が地面に流れるような金属製のものはなく,漏電の可能性はない。 (イ)直列故障について直列故障は,電気製品の使用中に,電流が流れる経路上で発熱が生じる現象である。その原因については,接触不良箇所の発熱,半断線箇所の発熱,亜酸化銅による発熱に分類される。 a 接触不良箇所の発熱は,コンセントとプラグの接触具合が悪くなった場合に生じるが,この場合,ぐらぐらになるまで精一杯緩めた状態で,15アンペアを超える電流を流さなければ,このような発熱は生じない。そして,本件居宅の居間に存在した電気製品は,いずれも10アンペアを超える電流が流れることはないため,接触不良箇所から発熱した可能性はない。 なお,いわゆるたこ足配線を行っていれば大きな電流が流れるが,そのような電流は壁面のコンセント部分にしか流れないため,本件火災の出火場所とは整合しない。 b 半断線箇所からの発熱は,電気コードの素線の一部だけがつながった状態であったり,全ての素線が断線したものの,コードが動かされて一時的につながる状態になったりした場合に,その箇所に電流が流れて高温になり,コードが焼き切れる際に発火するというものである。しかし,そもそも素線が完全に断線していれば,電気製品自体が動作しないところ,本件居宅の居間にそのような電気製品があったとはうかがわれない。また,本件火災発生は深夜ないし未明であり,その頃にコードが動かされたとは考え難い。さらに,素線の一部がつながった状態で発火するためには,素線の1本だけが残っている状態でも10アンペア以上の電流が流れる必要があり,しかも電流が流れ であり,その頃にコードが動かされたとは考え難い。さらに,素線の一部がつながった状態で発火するためには,素線の1本だけが残っている状態でも10アンペア以上の電流が流れる必要があり,しかも電流が流れた瞬間に発火に至るとされるが,本件火災発生の直前に電気製品の通電が開始されたことをうかがわせる事情はない。したがって,半断線箇所から発熱した可能性はない。 c 亜酸化銅による発熱は,ごく限られた条件でしか発生しないため,本件出火場所付近で発生した可能性はない。 (ウ)並列故障について並列故障は,電気製品と電源をつなぐ回路中に短絡が起きてその箇所に電流が流れ,発熱が生じる現象である。その原因については,本来,電気コード内で絶縁体の被覆により2本に分かれている銅線のたばが,被覆を越えて直接接触してしまい,短絡が起きる接触短絡と,被覆が炭化して電気を通す状態に変化する絶縁破壊が生 じ,短絡が起きて大きな電流が流れることで,火花や高熱が生じるアーク短絡(いわゆるトラッキング現象が一例)に分類される。 a 接触短絡の可能性について接触短絡は電気コードの部分で生じるが,その原因として,電気コードが重い家具の下敷きになったり,ドアに挟まるなど強い力で引っ張られたりして被覆が損傷し,中の銅線が露出することが想定される。しかし,本件出火場所付近に存在した電気コードがそのような状態にあったことをうかがわせる事情はない。 また,ほかに想定される原因として,絶縁物である塩化ビニールでできた被覆が高温で溶融し,銅線が露出するということもあるが,被覆が溶融するためには最低でも170度を超える高温が必要であり,本件居宅1階の居間において,そのような高温が発生することはまず考えられない。 なお,電気コードを固く束ねて15アンペア以上の電流を流した場合で るためには最低でも170度を超える高温が必要であり,本件居宅1階の居間において,そのような高温が発生することはまず考えられない。 なお,電気コードを固く束ねて15アンペア以上の電流を流した場合であれば,被覆が溶けるような発熱に至ると考えられる。もっとも,その場合には銅線が束になった状態で焼け残るが,本件出火場所にはそのような残焼物は存在していない。 したがって,接触短絡により火災が発生した可能性はない。 b アーク短絡の可能性についてアーク短絡が生じる原因として,差し込みプラグのコンセントの刃の表面に塩水等の導電性の液体が付着し,そこに電気が流れて乾燥する際に火花が発生することを繰り返すことで,絶縁物が炭化して導電状態になり,発熱するという要因が想定される。しかし,そもそも本件出火場所付近から発見されたテーブルタップは,プラグの差し込み口がユリア樹脂という絶縁破壊が生じにくい素材で製造されている。 しかも,トラッキングが発生するような絶縁破壊が生じるためには,液体の付着と乾燥を数十回以上繰り返すことが必要であるが,居間のテーブルタップ等のプラグ差し込み口から数十回以上も水分が入り込むような状況であったとは考えにくい。 さらに,絶縁破壊が生じる過程で,プラグが焦げたように変色したり,発熱によってユリア樹脂が熱分解され,刺激性のある異臭がしたりするが,被告人を含む関係 者全員がそのような異変を全く感じていない。 また,その他の要因として,プラグの接触不良箇所の発熱により吸湿性の物質が発生し,同様の経過で絶縁破壊が生じることも考えられる。しかし,吸湿性の物質が発生するためには,20アンペアに近い電流を流して発熱させることが必要であるが,前記のとおり,そのような電流が本件出火場所付近のテーブルタップに流れる可能性はない。 したが しかし,吸湿性の物質が発生するためには,20アンペアに近い電流を流して発熱させることが必要であるが,前記のとおり,そのような電流が本件出火場所付近のテーブルタップに流れる可能性はない。 したがって,アーク短絡により火災が発生した可能性はない。 (2) Eは,科学警察研究所に長年勤務し,火災原因や電気事故関係の鑑定研究を担当し,退職後も自身で研究所を開設して火災に関する鑑定や研究を行うなど,電気火災に関し十分な専門的知識を有している。また,現場の図面や写真,電気製品関係の残焼物を直接確認した上,合理的な根拠を挙げて専門家としての意見を述べており,その判断過程や内容に不合理な点はなく,十分に信用できる。 (3) これに対し,弁護人は,次のとおり,Eの意見に疑問を生じさせる事情がある旨主張する。 ア弁護人は,Eは,報酬を得て,捜査機関に寄り添う立場の民間人にすぎない上,その意見には実験データ等の客観的資料がないと主張する。 しかし,Eは高い専門性と長年の経験を有しており,多数の研究結果に基づいて,具体的な根拠,数字を挙げて,本件において電気火災の可能性がないことを合理的に説明している。弁護人主張のように,Eが捜査機関の依頼を受けて民間人として鑑定をしたことや,法廷での証言に際し客観的資料が提出されていないことから,直ちに信用できないとはいえない。 イ弁護人は,Eが「電気火災と証明できるものがないからその可能性はない」と述べているのは,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則とは全く逆の考え方で鑑定していることを表していると主張する。 しかし,Eは,現場の図面,写真及び残焼物等の資料や,C及びDの証言,被告人の供述から得られた情報を前提に,科学的根拠に基づいて,電気火災の可能性が ないと判断しているのであって,何ら 。 しかし,Eは,現場の図面,写真及び残焼物等の資料や,C及びDの証言,被告人の供述から得られた情報を前提に,科学的根拠に基づいて,電気火災の可能性が ないと判断しているのであって,何ら立証責任に反する意見を述べているわけではない。弁護人の主張は採用できない。 ウ弁護人は,実際に電気カーペットのコントローラー発火事例やリコール事例が存在すると主張する。しかし,Eによれば,発火事例は,抵抗器が断線するという通常では起こらない原因によるものである。また,リコール事例は,コントローラー内でいずれもショートした部品が発熱したものであるが,部品は通常難燃性のものが使用されているから,コントローラーの底に穴が開いて焦げるというもので,炎にはならず,せいぜい下の床が焦げる程度にとどまるというのである。また,電気カーペットがくすぶれば異臭がするが,本件火災前日の夜に訪れたDや,本件火災発生時刻に間近い時間帯に本件居宅に立ち入った被告人は,いずれも特に異臭はしなかったと述べている。したがって,弁護人指摘の電気カーペットの発火事例やリコール事例があるからといって,本件において電気火災の可能性がないとのEの意見の信用性は揺るがない。 エ弁護人は,本件火災現場から発見された短絡痕は,電気火災の原因になった一次痕の可能性があるし,これが二次痕であったとしても,焼失したコード部分に一次痕が存在する可能性があると主張する。 しかし,G及びEは,一致して,当該短絡痕が発見された場所は焼損の程度が弱く,これが出火原因になった一次痕とはいえないと合理的に説明している。そして,これまで検討したところによれば,弁護人主張のように,電気コード上で短絡が起きていた可能性はないと考えられる。 (4) 以上のとおり,本件出火場所付近に存在した電気製品の本体部分から いる。そして,これまで検討したところによれば,弁護人主張のように,電気コード上で短絡が起きていた可能性はないと考えられる。 (4) 以上のとおり,本件出火場所付近に存在した電気製品の本体部分から出火した可能性及び配線器具から出火した可能性のいずれもないと認められるから,本件火災の原因が電気火災である可能性はないと認められる。 3 失火の可能性について(1) 被害者ら及び被告人による失火の可能性について関係証拠によれば,本件出火場所付近には失火につながるものはなかったと認め られる。また,本件火災当時,A及びBは就寝中であり,本件火災発生前に本件居宅に立ち入った被告人が失火につながる行動をしたこともうかがわれない。同人らによる失火の可能性はないと認められる。 (2) 第三者による失火の可能性についてア第三者の侵入が容易でないこと(ア) 関係証拠によれば,本件居宅の玄関,勝手口及び屋内倉庫の出入口はいずれも施錠されていたと認められる。窓については施錠されていたか分からない箇所もあるが,Aは常日頃から戸締まりをきちんと行っていたと認められ,施錠されていなかったとは考え難い。 (イ) 本件居宅の鍵について,玄関の鍵は,A,B,被告人のみが所持していたと認められる。 次に,玄関以外の鍵について,Cは,勝手口の鍵は本件居宅の玄関内に,屋内倉庫と脱衣所の鍵は束ねて洗面台の上に置いてあったと証言している。Cの証言は,鍵の保管場所について,過去に変更した理由を含めて具体的に述べるもので,信用できる。この点について被告人は,屋内倉庫の鍵は屋外の電気メーターの上にあったと供述するが,被告人が中学生の頃にそこにあったというにすぎず,Cの証言の信用性を揺るがすものではない。 (ウ) そうすると,本件居宅に容易に立ち入ることができた 鍵は屋外の電気メーターの上にあったと供述するが,被告人が中学生の頃にそこにあったというにすぎず,Cの証言の信用性を揺るがすものではない。 (ウ) そうすると,本件居宅に容易に立ち入ることができたのは,被害者らと被告人の3名のみに限られる。 イ第三者が侵入する時間的余裕がないこと(ア) 被告人が本件居宅に立ち入る前についてa 関係証拠によれば,被告人は,本件火災発生日である12月19日,当時居住していた福岡県京都郡d町の寮を車で出発し,午前2時34分に寮の近くのO給油所で給油した後,福岡県豊前市内のP店,大分県宇佐市内のQ店,大分県豊後高田市内のR店の前を通過して,本件居宅周辺のパチンコ店「S」の駐車場に車を停め,そこから徒歩で本件居宅に向かって,本件火災が発生する前に本件居宅内に立 ち入ったことが認められ,この限度では弁護人も争っていない。 bEの証言によれば,出火場所から炎が出て,午前4時10分頃に本件居宅の居間東側の出窓から炎が出る状態になるまで,普通に燃えた場合で5分から10分というのであり,本件の出火時刻は,概ね午前4時頃から午前4時5分頃までの間と認められる。 c 防犯カメラの解析結果(a) 大分県警本部の捜査支援室に所属するH警察官が,上記各店舗に設置された防犯カメラを解析したところ,その結果は,次のとおりである。 ① P店については,午前2時49分から午前3時10分までの間に,26台の車両が西から東に通過したが,被告人車両に形状や塗色が見合うのは,午前3時5分に通過した1台のみであった。 ② Q店については,午前3時14分から午前4時までの間に,16台の車両が西から東に通過したが,被告人車両に形状や塗色が見合うのは,午前3時41分に通過した1台のみであった。 ③ R店については,午前3時30 いては,午前3時14分から午前4時までの間に,16台の車両が西から東に通過したが,被告人車両に形状や塗色が見合うのは,午前3時41分に通過した1台のみであった。 ③ R店については,午前3時30分から午前4時までの間に,8台の車両が西から東又は北に通過したが,午前3時45分に通過した1台の車両以外は,被告人車両と明らかに形状等が異なっていた。そして,O給油所,P店,Q店との距離関係や所要移動時間の関係も矛盾がないことから,午前3時45分に通過した車両が被告人車両の可能性が高い。 (b) Hは,防犯カメラ画像等の解析について十分な経験を有し,合理的な根拠を挙げて被告人車両を特定しており,その解析結果は十分に信用できる。 なお,Hが解析の対象とした時間帯以外の時間に,被告人が各地点を通過した可能性も考えられなくはない。しかし,関係証拠によれば,被告人が午前2時34分に給油したO給油所からP店までの距離は約20.6kmであるから,解析対象外の午前2時49分以前に同店の前を通過するためには,平均時速90km近い速度で走行しなければならず,その時間帯に被告人が通過したとは考えられない。逆に, 午前3時10分より後に同店の前を通過したとしても,そこから約27.9km離れたQ店の前を午前3時14分より前に通過することも考えられない。したがって,Hが解析した時間帯以外に被告人車両が通過した可能性は考えられない。 d 以上によれば,被告人は,午前3時5分にP店の前を,午前3時41分にQ店の前を,午前3時45分にR店の前を,それぞれ車で通過したと認められる。そこからSの駐車場までは車で約2分,同駐車場から本件居宅までは徒歩で約五,六分というのであるから,被告人が本件居宅に立ち入ったのは,早くとも午前3時52分頃であると認められる。 そして られる。そこからSの駐車場までは車で約2分,同駐車場から本件居宅までは徒歩で約五,六分というのであるから,被告人が本件居宅に立ち入ったのは,早くとも午前3時52分頃であると認められる。 そして,被告人は,本件居宅1階居間に立ち入った際,何ら異常を感じなかったというのであるから,その前後頃に第三者が立ち入り,居間で失火につながる行動をしたとは考えられない。 (イ) 被告人が本件居宅を離れた後についてa 関係証拠によれば,被告人は,本件居宅を出た後,そのままS駐車場に戻り,すぐ車に乗って出発し,T銀行U支店の前を通過してV交差点に向かったこと,Sの駐車場からT銀行U支店まで車で約1分弱を要することが認められる。 b 大分県警察本部科学捜査研究所の工学研究員であるIは,V交差点に設置された防犯カメラの映像を解析した結果,午前4時15分に同交差点を通過した車両と被告人車両とは,同種同型である上,被告人車両に存する左フロントフェンダーのへこみ部分の光の反射の形状から見て,同一の可能性が高いと判断した。Iは,長年科捜研の工学研究員として勤務し,画像解析について十分な知識経験を有し,合理的な手法により解析しており,その信用性は高い。前記の日時場所を通過した車両が被告人車両であることについて,被告人も概ね認めており,被告人の運転する車両が午前4時15分にV交差点を通過したと認められる。 cHは,T銀行U支店に設置された防犯カメラを解析した結果,午前4時から午前4時15分までの間に,5台の車両が北から南に,1台の車両が西から東に通過したが,被告人車両に形状や塗色が見合うのは,午前4時14分に北から南に通 過した1台のみであり,同車両が被告人車両と類似しているというのである。Hの解析結果が信用できることは,前記と同様である。 d 以 に形状や塗色が見合うのは,午前4時14分に北から南に通 過した1台のみであり,同車両が被告人車両と類似しているというのである。Hの解析結果が信用できることは,前記と同様である。 d 以上によれば,被告人は,午前4時13分頃にSの駐車場を出発したと考えられ,本件居宅から同駐車場まで徒歩で五,六分かかることからすると,概ね午前4時7,8分前後まで本件居宅内にいたことが認められる。そして,遅くとも午前4時10分頃には,本件居宅の居間東側の出窓から炎が出る状態になっていたのであるから,被告人が本件居宅を出た後に,第三者が立ち入って失火につながる行動をする時間的余裕はほとんどなかったと認められる。 ウ以上によれば,被害者以外で本件居宅に容易に立ち入ることができたのは被告人に限られる上,被告人が本件居宅に立ち入る前後に,第三者が侵入して失火につながる行動をしていた可能性は考え難いから,第三者による失火の可能性もないと認められる。 4 被告人が放火をしたことについて(1) 被告人が被害者らの死亡保険金を得る目的を有していたことア関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告人は,10月頃,職場の同僚であったJ及びLの金を盗み,高額な遅延利息を含めた支払を約束させられたが,支払うことができず,2度にわたり返済期限を延長してもらい,Jらからは,12月15日までに返済しなければ,被告人の実家に行くか,警察に行くと言われるなど,厳しく支払を求められていた。また,被告人は,12月13日か14日,Jらの返済資金を得るために,Bから5万円を盗んだが,BやAに発覚して厳しく怒られ,返済を強く求められていた。しかし,Bから盗んだ金やサラ金から借りることができた5万円も,パチスロで使ってしまい,本件火災当時,金策が尽きていた。 (イ を盗んだが,BやAに発覚して厳しく怒られ,返済を強く求められていた。しかし,Bから盗んだ金やサラ金から借りることができた5万円も,パチスロで使ってしまい,本件火災当時,金策が尽きていた。 (イ) 被告人は,本件火災当日,寮や本件居宅に向かう車の中で,「深夜の火災発見確率」「火事死亡保険」「生命保険に火災死亡は含まれる?」等の語句をインターネットで検索し,火災や死亡保険金に関する情報を調べていた。 イまた,Cは,本件火災の現場で消火活動が行われている中,まだA及びBの安否もわからない時点で,被告人から,「保険の取り分は6対4やな」と提案された旨証言する。Cは,被告人がそのような発言をしたことで怒りを覚え,被告人をとがめたというのであり,印象に強く残る場面と考えられるから,聞き違いや勘違いの可能性は考え難い。Cの証言は信用できる。 ウさらに,被告人が,Aらが就寝中の午前4時前後に,わざわざ長距離を運転して本件居宅に赴く合理的な理由は考え難い。この点,弁護人は,被告人の供述に基づいて,被告人は金銭トラブルをAに相談するために本件居宅に立ち入っただけであると主張する。しかし,午前4時頃に実家に帰り,就寝中の母親をわざわざ起こして金銭トラブルの相談をするというのはあまりにも不自然であるし,いつもなら本件居宅の敷地内に車を停めるのに,相談内容をまとめるために本件居宅から少し離れた場所に車を停めて実家に向かうというのも不自然である。被告人の供述は信用できない。 エ以上のとおり,被告人は,元同僚やBから盗んだ金の返済を強く求められ,金策が尽きていた上,寮にいる間や本件居宅に向かう途中で,火災や死亡保険金に関する情報を調べ,消火活動中から保険金の取り分を提案するなど,これを取得することに強い関心を示しており,ほかに午前4時前後に 策が尽きていた上,寮にいる間や本件居宅に向かう途中で,火災や死亡保険金に関する情報を調べ,消火活動中から保険金の取り分を提案するなど,これを取得することに強い関心を示しており,ほかに午前4時前後にわざわざ長距離を運転して本件居宅に赴く合理的な理由も考え難いから,被告人は,A及びBの死亡保険金を得る目的を有していたと認められる。 オ弁護人は,①被告人は被害者らの生命保険,火災保険について詳しい情報を得ておらず,②放火の具体的な方法や電気火災についてはインターネットで検索していないし,③ゲームについても頻繁に検索しているから,放火については漠然と考えていたにすぎないと主張する。しかし,①の点について,被告人は,被害者らが何らかの保険に加入していたことは知っていたし,前記のとおり,保険金の取り分があることを前提にした発言をしているから,生命保険,火災保険について詳しい情報を得ていないとしても,死亡保険金取得目的の放火を考えていたこととは矛 盾しない。また,②の点について,被告人は,電気器具を原因とする火災やトラッキング現象について本件火災前から知っており,これまでの知識から放火方法を思いついたと考えられるから,そのような方法を検索していないからといって不自然とはいえない。さらに,③の点について,被告人は,寮でも火災についての検索・閲覧をしていたし,まさに本件居宅に向かう途中で火災や生命保険について調べているから,その間ゲームについても短時間調べたとしても,放火の具体的な意図があったことには変わらない。 弁護人は,また,被告人は本件火災のわずか1週間後に念書を書いており,保険金目的とは矛盾する行動をしていると主張する。しかし,その念書の内容は,Cに被告人が取得する保険金の管理を任せるというにすぎず,保険金の放棄ではない。 また, のわずか1週間後に念書を書いており,保険金目的とは矛盾する行動をしていると主張する。しかし,その念書の内容は,Cに被告人が取得する保険金の管理を任せるというにすぎず,保険金の放棄ではない。 また,当時は被告人が親戚から放火の犯人ではないかと疑われていた状況であって,その疑いをそらすために同人らの求めに応じて念書を書いたとしても,何ら不自然ではない。 弁護人の主張は,いずれも採用することができない。 (2) 被告人が放火の意図を持っていたことア被告人の供述によれば,捜査段階である平成28年1月28日付けで,「本件居宅に向かう途中の車の中で,ショートが原因で火事になったと思わせるため,テーブルタップの近くに燃える物を置いて火をつけるという方法を考えていた」旨の検察官調書が作成されている。その内容は,無数にある放火方法の中から電気火災に見せかける方法を説明しており,全くの作り話とは思えないほど具体的である上,平成27年3月20日にも警察官に対して同内容の説明をしている。上記検察官の取調べにおける被告人の供述は信用できる。 イこれに対し,弁護人は,被告人の公判供述に基づき,車の中で放火の具体的な方法を考えたことはなく,このような調書が作成されたのは,警察官の取調べの際,「仮に火をつけるとすれば,どんな方法でつけるのか」という質問をされたため,検察官の取調べにおいても,仮に火をつけるのであればという前提で説明した ためであると主張する。 しかし,被告人が,放火を否認しているにもかかわらず,警察官に対し,仮定の話として,電気火災に見せかける方法を具体的に説明することは考えにくい。また,この検察官調書の「実家に向かう途中で放火方法を考えた」という内容は,否認している被告人にとって重要な点であると考えられるから,検察官から調書の内 かける方法を具体的に説明することは考えにくい。また,この検察官調書の「実家に向かう途中で放火方法を考えた」という内容は,否認している被告人にとって重要な点であると考えられるから,検察官から調書の内容を読んで聞かされたにも関わらず,仮定の話であるとの勘違いが続くとも考えにくい。 被告人の説明は不自然,不合理であって,弁護人の主張は採用することができない。 ウ以上のとおり,上記被告人の検察官取調べにおける供述によれば,被告人は,遅くとも本件居宅に立ち入るまでに,電気火災に見せかけるため,テーブルタップの付近に火をつけるなどの放火方法を考えていたと認められる。 そして,実際に本件出火場所が本件居宅1階居間のこたつとソファーの間であり,テーブルタップの付近であることからすると,現に被告人が思い描いた態様で出火していることが認められる。 (3) 以上によれば,被告人が,被害者らの死亡保険金を取得する目的で,テーブルタップの付近に火をつけるなどの放火方法を考えて本件居宅に立ち入ったところ,その直後に,被告人の考えた放火方法と矛盾しない火災が発生したというのであって,この時偶然にもほかの原因で火災が発生したとは考え難いから,被告人がその目的や意図どおり本件居宅内で火をつけたと推認できる。 5 以上のとおり,本件火災について電気火災の可能性はなく,被害者ら,被告人,第三者による失火の可能性もないこと,被告人が本件居宅内で火をつけたと推認できることからすると,本件火災の原因は放火であると認められる。 この点,弁護人は,本件居宅には油類反応等の放火の痕跡がなく,放火方法も特定されていないから,本件火災の原因が放火であるとは断定できないと主張する。 しかし,G及びEによれば,油類が使用されていないとしても,焼損状況とは矛盾しないから,放火であることが否定 ,放火方法も特定されていないから,本件火災の原因が放火であるとは断定できないと主張する。 しかし,G及びEによれば,油類が使用されていないとしても,焼損状況とは矛盾しないから,放火であることが否定されるものではない。放火の方法が特定されていないとしても,前記2及び3のとおり,他に出火原因として考えられる可能性は ないと認められ,何ら本件火災の原因が放火であることに疑いを差し挟むことにはならない。 第3 被告人が放火の犯人であるか(犯人性)前記のとおり,被告人が本件居宅内で火をつけたと推認できることに加え,被告人は,本件火災発生時刻に極めて近いと考えられる時間帯に本件居宅内に立ち入っており,第三者が侵入して放火した可能性もないと認められる。また,AやBがお互いを巻き込んで自殺するような状況にあったことも認められない。 そうすると,被告人以外の者が犯人であるとはおよそ考え難く,被告人が本件居宅に放火した犯人であると認められる。 第4 殺意について 1 前記のとおり,被告人は,A及びBの死亡保険金を取得する目的で本件居宅に放火したものであるが,当然被害者らが死亡しなければ目的を達することができない。また,被告人が放火したのは平日の午前4時頃であり,本件居宅の敷地内にAとBの車が停められていたから,二人が就寝中であることを認識していたと認められ,本件居宅1階の居間に火をつければ,二人の寝ている2階に火が向かい,ほぼ確実に死亡に至ることがわかっていたといえる。現に,被告人は,寮や本件居宅に向かう車の中でインターネット検索をした結果,深夜の火災では就寝中のためほとんど助からないとの情報を得た上で,二人が火災で死亡することを前提として,生命保険に火災死亡が含まれるか否かについても調べている。 以上によれば,被告人は,就寝中のA及 夜の火災では就寝中のためほとんど助からないとの情報を得た上で,二人が火災で死亡することを前提として,生命保険に火災死亡が含まれるか否かについても調べている。 以上によれば,被告人は,就寝中のA及びBが死亡することを意図して本件居宅に放火したと認められ,二人に対する確定的な殺意が認められる。 2 弁護人は,被告人がJらから盗んだ金額はわずかで,そこまで危機感を抱いていなかった上,これまでもお金に困ったときはAが助けてくれたし,そもそも被告人は被害者らを殺害するほど憎んでおらず,動機が薄弱であると主張する。 しかし,被告人がJらから返済を求められていた元本は3万3000円程度とはいえ,1日1000円の利息もあり,わずかな金額とはいえない。また,Bの5万 円を盗んだことが発覚してから間もない時期であるのに,それに加えて他人の金銭を盗んだことが発覚すれば,最終的にAが今回も助けてくれるとしても,被告人にとってはかなり高いハードルがあったと考えられ,現に被告人は,「実家に行くか,警察に行くぞ」と言うLに対し,「警察には行ってもいいけど,実家は勘弁して」と言っているのである。しかも,本件居宅が火災により焼失すれば,ローンの負担がなくなるし,Aがいなくなれば,金銭を厳しく管理されている状態も解消される。 その上で,二人を殺害すれば多額の死亡保険金が入ることが予想できるのであるから,金策も尽き,Jらから実家に行くとまで言われて切羽詰まっていた被告人について,動機が薄弱であるとはいえない。 3 したがって,被告人については,現住建造物等放火罪とともに,A及びBに対する殺人罪も成立する。 (法令の適用) 1 罰条現住建造物等放火の点刑法108条各殺人の点いずれも刑法199条 2 科刑上一罪の処理 ,A及びBに対する殺人罪も成立する。 (法令の適用) 1 罰条現住建造物等放火の点刑法108条各殺人の点いずれも刑法199条 2 科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いAに対する殺人罪の刑で処断) 3 刑種選択無期懲役刑を選択 4 未決勾留日数の算入刑法21条 5 訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)被告人は,深夜,被害者らが本件居宅2階で就寝中,1階の居間に放火したものであるが,二人が火災に気付かないか,気付いても逃げることができないまま焼死する危険が高く,非常に残酷な殺害方法である。火が回って隣家等へ延焼するおそれも高かったといえる。 また,被告人は本件居宅へ向かう途中,「ショートが原因で火事になったと思わせるため,テーブルタップ付近に火をつける」という方法を考えており,実際にその付近から出火していることからすると,電気火災を装うためにテーブルタップ付近に放火したものと認められ,周到とまではいえないものの,一定の計画性を伴う悪質な犯行である。 さらに,被害者は2名であり,炎から逃げ切れずに焼死しており,被害者らが絶命までに感じた恐怖や苦痛は想像するに余りある。遺族である被告人の弟は,「一生刑務所に入って償い続けてほしい」と述べ,その処罰感情が厳しいのも当然である。しかも,本件居宅は全焼しており,近隣にも被害が及ぶなど,財産的被害も大きい。 そして,被告人は,何ら落ち度のない肉親の命よりも,保険金取得を優先して犯行に及んでおり,動機は極めて身勝手である。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重く,被告人に前科がな 被害も大きい。 そして,被告人は,何ら落ち度のない肉親の命よりも,保険金取得を優先して犯行に及んでおり,動機は極めて身勝手である。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重く,被告人に前科がないことなど有利な事情を最大限考慮しても,本件が有期懲役刑に処するのが相当な事案であるとはいえない。そこで,裁判員と評議の上で,被告人に対しては,主文の無期懲役に処するのが相当と判断した。 (求刑・無期懲役)平成29年2月13日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官今泉裕登 裁判官家入美香 裁判官藤丸貴久
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