令和6(わ)70 建造物侵入、強盗致傷、窃盗未遂

裁判年月日・裁判所
令和7年2月4日 山口地方裁判所
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判決文本文7,824 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 事件関係者の氏名を別紙のとおり呼称する(省略)。 (犯罪事実)被告人は、第1 分離前相被告人A、B、C及び氏名不詳者が共謀の上、金品を強取する目的で、令和6年3月12日午前4時50分頃から同日午前4時55分頃までの間、山口県下松市ab番地c所在のD株式会社代表取締役Eが看守する同会社事務所内に、同事務所北側出入口戸のガラスを割って侵入し、その頃、同所において、F(当時60歳)に対し、その頭部をバールで殴打するなどの暴行を加え、その反抗を抑圧した上、E管理の現金約473万7000円及び鞄1個等21点(時価合計約17万0100円相当)を強取し、その際、前記暴行により、Fに全治約1か月間を要する頭部打撲・挫創、右肋骨骨折等の傷害を負わせるに当たり、その情を知りながら、同日、その犯行に先立ち、Bを被告人が運転する自動車に乗せて前記犯行現場付近まで送り届け、同所で待機し、前記犯行を終えたBを同車に乗せるとともに、強取した前記金品を運搬するなどし、もって、A、B、C及び氏名不詳者の前記犯行を容易にさせてこれを幇助し、第2 A、B、G、C及び氏名不詳者と共謀の上、金品を窃取する目的で、 1 同月17日午前1時37分頃から同日午前1時39分頃までの間、Hが看守する大阪府吹田市d町e丁目f番g号所在の株式会社I事務所内に、同事務所2階南東側窓ガラスを割って侵入し、 2 同月18日午前5時4分頃から同日午前5時7分頃までの間、同事務所内に前記窓から侵入し、その頃、同所において、棚の扉を開けるなどして物色 事務所内に、同事務所2階南東側窓ガラスを割って侵入し、 2 同月18日午前5時4分頃から同日午前5時7分頃までの間、同事務所内に前記窓から侵入し、その頃、同所において、棚の扉を開けるなどして物色したが、金品の発見に至らず、その目的を遂げなかった。 (証拠) 省略(争点に対する判断)第1 本件の争点本件の争点は、①判示の各事実(以下、第1を「D事件」、第2を併せて「I事件」ということがある。)につき、被告人には共同正犯が成立するのか、幇助犯が成立するにとどまるのか(争点1)、②D事件における財産上の被害額はいくらか(争点2)である。 第2 争点1について検察官は、D事件及びI事件のいずれにおいても、被告人は共同正犯に該当すると主張するのに対し、弁護人は、幇助犯が成立するにとどまる旨主張するので、以下、両事件について被告人に共同正犯が成立するか、すなわち、被告人が自己の犯罪といえる程度に犯行に関与したと評価できるかについて検討する。 1 まず、D事件についてみる。 (1)関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 被告人は、令和6年3月上旬頃(以下「令和6年」は省略する。)、Cから20万円を支払うから広島から大阪、大阪から広島の車の送迎をしてもらいたい旨頼まれ、何度か断ったが最終的には応じ、同月8日、大阪市内でAやBと会い、Cから仮装通貨の取引の際に相手方から現金2億円の入ったキャリーケースを持ち去るとの計画(以下「2億円事件」という。)を聞かされた上で、仮装通貨と現金を交換する場所までAとBを送迎して欲しいと言われた。 被告人は、3月11日、AとBを自動車に乗せて仮装通貨の取引が行われるとする場所まで運転したが、結局、計画は失敗に終わった。すると、被告人は、Cから、2億円事件の穴埋めとして違う案件に 言われた。 被告人は、3月11日、AとBを自動車に乗せて仮装通貨の取引が行われるとする場所まで運転したが、結局、計画は失敗に終わった。すると、被告人は、Cから、2億円事件の穴埋めとして違う案件に行ってもらうと言われ、断ると、被告人やその家族をさらう、自宅を燃やすなどと脅された。被告人は、A及びBと兵庫県まで移動すると、Aから違う案件で山口県に「ルパン」に行ってもらうと言われた。被告人は、Aに帰らせて欲しいと言ったが、本名を知らないはずのAから、被告人やその交際相手の本名を告げられた上で、断ったら被告人や家族がさらわれるし、家も燃やされるなどと言われた。 被告人は、Bを自動車に乗せて高速道路で山口県方面に向かうと、3月12日未明、徳山東料金所付近において、Cらから、建物に侵入して金庫から現金をとる、人がいたらバールで殴るなどと犯行計画を告げられた。被告人は、行きたくないと言ったが、Cから、行かなかったら被告人や家族をさらうなどと脅されたため、報酬はいらないから建物には入りたくない、自動車の運転だけ行う旨言い、Cらの了承を得て、B1人がDの事務所に侵入することとなった。被告人は、Bを自動車でD付近まで送り届けてその場で待機し、犯行を終えたBを自動車に乗せると、Bが奪ってきた金品を広島県内のCから指示された場所まで運搬した。被告人は、Cの指示を受けたBから5万円を渡されたが受け取らず、その後もD事件の報酬を得ることはなかった。 (2)以上の事実を踏まえて検討する。 被告人は、2億円事件の失敗の穴埋めとして、Aから山口県に「ルパン」に行くようにと指示されているが、「ルパン」が何を意味するのかわからなかったとの被告人の供述は必ずしも不合理とはいえず、この指示を受けた直後より自らが侵入強盗の犯行に加担する可能性を認識していたと断ずるこ うにと指示されているが、「ルパン」が何を意味するのかわからなかったとの被告人の供述は必ずしも不合理とはいえず、この指示を受けた直後より自らが侵入強盗の犯行に加担する可能性を認識していたと断ずることまではできない。もっとも、自動車を運転して徳山東料金所付近においてCらから前記の計画を知らされた頃には、被告人は、侵入強盗の犯行に加担する可能性を認識したことは明らかであり、その上で、自動車を運転してBを現場付近まで送り届け、そこで待機し、犯行を終えて戻ってきたBを自動車に乗せ、強取した金品を上位共犯者が指定する場所まで運搬したことになる。 この点、実行役であるBが自動車を運転できないことに照らすと、D事件を円滑に遂行するにあたり、Bを現場まで送迎するための運転手が必要であったことは明らかであるから、被告人が犯行の実現のために寄与した程度は、相応に大きなものがあったということができる。もっとも、D事件においては、他にも複数の共犯者が関与していて、当時、被告人以外に運転手となり得る者が全くいなかったわけではない。そもそも、本件は、上位の共犯者となる者がSNS等を介して人を募り、これらの者に犯罪を実行させていくという、いわゆる匿名・流動型犯罪グループによる犯行であるから、仮に被告人がこのグループから離脱しても、自動車を目的地まで運転するといった定型的な役割を果たす者を調達 して犯行を継続することが困難であったとは考え難い。D事件に関わったグループの中で、被告人は、もっぱら上位共犯者からの指示を受けて動くだけの末端の地位にあったといえることも併せ考えると、被告人の果たした役割は、そのことのみから共同正犯といえるほど重要なものとはいい難い。 また、前記認定の経過に照らせば、被告人がD事件に加担した直接の理由は、CやAから脅されたためというほ えると、被告人の果たした役割は、そのことのみから共同正犯といえるほど重要なものとはいい難い。 また、前記認定の経過に照らせば、被告人がD事件に加担した直接の理由は、CやAから脅されたためというほかなく、脅された際の状況や内容に照らし、当時20歳の被告人が、自身や家族の身体や生命が危険にさらされていると感じ、相当な恐怖心をもったことは想像に難くないというべきである。もとより、このような場合でも本来は警察に助けを求めるなどの適切な対応が求められるのであって、被告人の行動からは、当初より上位共犯者から求められていた運転手役のみを果たすことでその場をやり過ごし、この状況を切り抜けたいとの自己本位の考えが透けて見えるものといえる。しかし、このことをもって、被告人がD事件を自らの犯罪として行う意思があったといえるものではなく、Bが多額の金品の強取に成功した後であっても、報酬を全く受け取っていないことも併せ考慮すれば、被告人が本件犯行の関与に積極的でなかったことは明らかといえる。 (3)このように、被告人がD事件において果たした役割は相応に重要であるが、あくまで犯行グループの末端として、取り換えのできる立場にあったことに加え、上位共犯者から相当の恐怖感を覚える内容の脅しを受ける中、自らの関与を運転手役のみとすることを共犯者らに伝えて了承を得、報酬を受けとらなかったこと等に照らすと、D事件に関し、被告人が自己の犯罪といえる程度に犯行に関与したと評価することはできず、幇助犯が成立するにとどまるというべきである。 2 次にI事件について検討する。 関係証拠によれば、被告人は、Cらから次の案件があると言われて3月13日にA、B及びGと会うと、複数回にわたって犯行現場周辺の下見に同行したこと、3月17日及び18日の両日とも、被告人はGの運転する自動車に乗 よれば、被告人は、Cらから次の案件があると言われて3月13日にA、B及びGと会うと、複数回にわたって犯行現場周辺の下見に同行したこと、3月17日及び18日の両日とも、被告人はGの運転する自動車に乗ってB及びAと共にI事務所前まで行き、犯行の際には、同所でAと一緒にBを担ぎ上げ、判示第2のとおりBを2階窓からIの事務所内に侵入させたこと、3月17日の犯行の際には被告人も事務所に入るとの話 であったこと、以上の事実が認められる。 このように、被告人がAとともにBを担ぎ上げて侵入させた行為は、BがIの事務所内に侵入するという建造物侵入の実行行為の一部に該当するものといえる。これに加え、被告人が犯行に先立ち現場の下見に同行していること、当初、被告人も事務所内に侵入する計画になっていたことも踏まえれば、被告人がD事件と同様、Cらから脅されたことを受けて犯行に加担し、報酬の約束もなかったこと等を考慮しても、その果たした役割に照らし、被告人は、自己の犯罪といえる程度に犯行に関与したと評価すべきである。 したがって、I事件に関しては、被告人には共同正犯が成立する。 第3 争点2について 1 検察官は、D事件において強取された現金総額は約543万7910円であると主張するのに対し、弁護人は、証拠から認定できるのは285万7910円にとどまると主張する。 この点、Eは、D事件において奪われた現金に関し、骨子、次のとおり供述する。すなわち、「Dの事務所のキャビネット最上部には会社のための資金が入っており、これが奪われた。会社の資金の内訳は、少なくとも100万円以上あった常備金と、3月11日にJ銀行から引き出した現金400万円から、同日、事業である金属の買取費用として支出した154万2090円を控除した残額である。また、鞄の中には私個人の現金とし 00万円以上あった常備金と、3月11日にJ銀行から引き出した現金400万円から、同日、事業である金属の買取費用として支出した154万2090円を控除した残額である。また、鞄の中には私個人の現金として少なくとも現金198万円が入っており、これも奪われた。その内訳は、財布の中にあった110万円以上の現金、封筒内に保管していた80万円以上の現金、お年玉として受領した8万円である。」というのである。 2 Eが3月11日にJ銀行にあるDの預金口座から400万円を引き出したこと及び同日買取費用として154万2090円を支出したことは、客観的な証拠によって裏付けられている。これに対し、常備金については、会社の金銭管理にあたって一般に存在するはずの会計帳簿上の記録がなく、供述の正確性に疑いを差し挟む余地がある。もっとも、金属の買取を行っているDにおいて、買取金額の支払に充てるため、一定の現金が事務所に用意されていたこと自体に不自然な点はない。そして、Eは、常備金に関し、100万 円を1000円札の束に両替したことがある旨述べているところ、Bが本件で強取した現金を撮影したものと認められる画像には、K銀行の帯封がされた1000円札4束が映っており、この限度でEの供述が裏付けられている。そうすると、常備金として少なくとも40万円が保管されていたことは間違いないというべきである。一方、Bが強取した現金として撮影した前記画像からは硬貨の存在がうかがわれない上、Eは、事務所内に設置された金庫の中にも買取資金を保管していた旨供述することも踏まえれば、硬貨はこの金庫に入れた可能性も否定しがたく、会社の資金である硬貨がキャビネット最上部に保管されていたと認定するには合理的な疑いが残る。 そこで、本件によって奪われた会社の資金は、285万7000円の限度で認めら に入れた可能性も否定しがたく、会社の資金である硬貨がキャビネット最上部に保管されていたと認定するには合理的な疑いが残る。 そこで、本件によって奪われた会社の資金は、285万7000円の限度で認められるというべきである。 3 次にEの鞄の中に入っていた現金についてみると、財布に在中する現金、封筒に入っていた現金、お年玉のいずれに関しても、Eの供述は、具体的なエピソードに基づくものであり、基本的には信用することができる。もっとも、財布内の現金に関する供述は、20万円ごとにまとめて財布に入れており、犯行当日までに、このうちの1つのかたまりから出して日用品の購入をしていたが、その額は10万円を超えることはない旨の内容であり、20万円のかたまりから支出した金額が10万円未満であったことを裏付けるような具体的な話はない上、経験則上、支出額が自身の想定を上回ることもある。そうすると、財布に在中する現金は、100万円の限度で認定するのが相当である。 4 以上によれば、会社の資金である285万7000円にEの鞄の中にあった現金188万円を加えた473万7000円が本件で強取されたものと認められるから、判示第1のとおりの財産上の被害を認定した。 (法令の適用)罰条第1の行為中建造物侵入幇助の点刑法62条1項、130条前段強盗致傷幇助の点刑法62条1項、240条前段 第2の1の行為刑法60条、130条前段第2の2の行為中建造物侵入の点刑法60条、130条前段窃盗未遂の点刑法60条、243条、235条科刑上一罪の処理第1 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、1罪として重い強盗致傷幇助罪の刑で処断) 条、243条、235条科刑上一罪の処理第1 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、1罪として重い強盗致傷幇助罪の刑で処断)第2の2 刑法54条1項後段、10条(建造物侵入と窃盗未遂との間には手段結果の関係があるので、1罪として重い窃盗未遂罪の刑で処断)刑種の選択第1の罪有期懲役刑第2の1及び2の罪いずれも懲役刑法律上の減軽第1の罪刑法63条、68条3号(従犯)併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い第1の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項保護観察刑法25条の2第1項前段訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は、建造物侵入幇助・強盗致傷幇助(第1)、建造物侵入(第2の1)及び建造物侵入・窃盗未遂(第2の2)からなる事案である。 本件各犯行は、背後の共犯者が計画を立案し、SNS等を通じて実行役を募り、犯行に及ぶという組織的なものであり、実行役に与えられた指示や犯行計画には杜撰な面が見ら れるものの、全体としては計画性の高いものである。 その上で、量刑判断の中心となる建造物侵入幇助・強盗致傷幇助についてみると、被害者の頭部をバールで殴打するなどした暴行の態様の危険性は高く、傷害結果も骨折を伴う重いものである。財産的被害も470万円余りとこの種の事案の中でも多額にのぼっている。被害者らに与えた精神的な苦痛を含め、本件による被害は大きく、厳しい処罰感情を有するのは当然のことである。被告人は、犯行グループにおける末端の地位にあり、本件にお の事案の中でも多額にのぼっている。被害者らに与えた精神的な苦痛を含め、本件による被害は大きく、厳しい処罰感情を有するのは当然のことである。被告人は、犯行グループにおける末端の地位にあり、本件において運転手として関与したものであるが、被告人の行為が犯行の実現に寄与した程度は相応に重要なものというべきである。 もっとも、既に述べたとおり、被告人は、他の共犯者らから相当強度な脅迫を受けたために自動車の運転の限度で犯行に加担したものであって、自らの意思で報酬の受け取りを拒んでいる。もとより、これらの事情をもって被告人が強盗致傷という重い犯罪に関与することが正当化される余地はなく、安易に共犯者らとの関係を持ち続け、強盗致傷という重大な犯罪に加担したことに対しては厳しい非難を免れないというべきであるが、それを踏まえても、かかる事情は、被告人の量刑にあたって無視はできないものというべきである。 以上の犯情を踏まえた上で、これまでの強盗致傷幇助の事案における量刑をみると、被告人が判示第2の窃盗未遂等に共同正犯として関与していることを考慮しても、実刑を選択するほかないとまではいえない。 その上で、被告人が強盗致傷の被害者らに対し、被害弁償金の一部として50万円を準備したこと、被告人に前科前歴はなく、被告人が罪を認めて反省の態度を示していること、実母や雇用主による一定の監督が期待できることといった事情も考慮し、主文のとおりの刑を量定した上で、法律の定める最長の期間、その刑の執行を猶予することとした。 なお、被告人が本件各犯行に加担した経緯や一連の犯行後も一部の共犯者との間でしばらく連絡を取っていたこと等に照らすと、被告人の判断力はその年齢を踏まえても未熟というほかない。そうすると、被告人に対しては、雇用主や実母による監督に加え、公的な機関によ も一部の共犯者との間でしばらく連絡を取っていたこと等に照らすと、被告人の判断力はその年齢を踏まえても未熟というほかない。そうすると、被告人に対しては、雇用主や実母による監督に加え、公的な機関による指導を受けさせることがその更生のために必要かつ相当というべきであるから、 その猶予の期間中、被告人を保護観察に付することとした。 (求刑-懲役6年弁護人の科刑意見-懲役3年・執行猶予5年)(検察官田邊哲寛、同児玉七海国選弁護人前田浩志(主任)、同山口泰資各出席)令和7年2月5日山口地方裁判所第3部 裁判長裁判官安達拓 裁判官諸井雄佑 裁判官小西大地

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